(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】レーダシステム及びレーダ信号処理方法
(51)【国際特許分類】
G01S 13/46 20060101AFI20240909BHJP
G01S 13/28 20060101ALI20240909BHJP
G01S 7/292 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
G01S13/46
G01S13/28 210
G01S7/292 210
(21)【出願番号】P 2020199502
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 晋一
(72)【発明者】
【氏名】和田 泰明
(72)【発明者】
【氏名】藤田 浩司
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-095391(JP,A)
【文献】特開2019-105601(JP,A)
【文献】特表2016-524704(JP,A)
【文献】特開2016-042075(JP,A)
【文献】特開2015-087211(JP,A)
【文献】特開2017-003498(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128995(WO,A1)
【文献】特開2020-016474(JP,A)
【文献】特開2020-008440(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0115429(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S7/00-17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス列を送信するNt(Nt≧1)台の送信装置または送受信装置と、
到来波を受信するNr(Nr≧1)台の受信装置と
を備え、
前記送信装置または送受信装置は、
観測時間軸を通信期間とパルス列期間に分割し、
前記通信期間では、
前記パルス列の送信位置、送信周波数、送信時刻、送信ビーム方向を含む
送信情報を
送信し、
前記パルス列期間では、ドップラ観測用の第1パルス列P1とレンジング用の第2パルス列P2を重畳したパルス列を送信し、
前記受信装置は、
観測時間軸を前記送信装置または送受信装置と同期するように通信期間とパルス列期間に分割し、
前記到来波の受信信号を前記送信装置または送受信装置から受ける直接波の検出系統と目標からの反射波の検出系統に分岐し、
前記直接波の検出系統では、前記送信装置
または送受信装置から受ける直接波のうち前記第1パルス列P1の受信信号からドップラ成分を抽出して前記直接波の観測速度を算出し、前記直接波の観測速度により補正した参照信号を用いて、前記第2パルス列P2の受信信号をレンジ圧縮して前記送信装置
または送受信装置との間の距離Rdを出力する第1の処理
を行い、
前記反射波の検出系統では、前記目標からの反射波のうち前記第1パルス列P1の受信信号からドップラ成分を抽出して前記目標の速度を算出し、前記目標の速度により補正した参照信号を用いて、前記第2パルス列P2の受信信号を相関処理によりレンジ圧縮して前記目標までの距離Rtを出力する第2の処理と、前記目標の測角値θt(AZ、EL)を算出し、前記直接波の距離Rd、前記目標までの距離Rtから形成できる楕円体と目標測角値θtとの交点より、前記目標の3次元位置(x、y、z)を算出する第3の処理とを行う
レーダシステム。
【請求項2】
前記受信装置は、
主アンテナと補助アンテナとを備え、
前記通信期間では、前記主アンテナのサイドローブから入力される不要波を前記補助アンテナによりSLC(Sidelobe Canceller)処理して抑圧し、
前記パルス列期間では、前記第1パルス列P1の受信信号をレンジセル毎にFFT処理してドップラ軸でクラッタ成分を抑圧し、前記ドップラ軸でSLC処理して不要波を抑圧し、前記第2パルス列P2の受信信号を、前記目標のドップラ成分により補正した参照信号を用いて、相関処理によるレンジ圧縮を行い、レンジ軸でSLC処理して不要波を抑圧する
請求項1記載のレーダシステム。
【請求項3】
パルス列を送信するNt(Nt≧1)台の送信装置または送受信装置と、
到来波を受信するNr(Nr≧1)台の受信装置と
を備えるレーダシステムに用いられ、
前記送信装置または送受信装置、及び前記受信装置がそれぞれ相互に同期する観測時間軸を通信期間とパルス列期間に分割し、
前記通信期間では、
前記送信装置または送受信装置が前記パルス列の送信位置、送信周波数、送信時刻、送信ビーム方向を含む
送信情報を
送信し、
前記受信装置が前記送信情報を受信し、
前記パルス列期間では、
前記送信装置または送受信装置がドップラ観測用の第1パルス列P1とレンジング用の第2パルス列P2を重畳したパルス列を送信し、
前記受信装置が、受信信号を前記送信装置または送受信装置から受ける直接波の検出系統と目標からの反射波の検出系統に分岐し、
前記直接波の検出系統では、前記送信装置
または送受信装置から受ける直接波のうち前記第1パルス列P1の受信信号からドップラ成分を抽出して前記直接波の観測速度を算出し、前記直接波の観測速度により補正した参照信号を用いて、前記第2パルス列P2の受信信号をレンジ圧縮して前記送信装置
または送受信装置との間の距離Rdを出力する第1の処理
を行い、
前記反射波の検出系統では、前記目標からの反射波のうち前記第1パルス列P1の受信信号からドップラ成分を抽出して前記目標の速度を算出し、前記目標の速度により補正した参照信号を用いて、前記第2パルス列P2の受信信号を相関処理によりレンジ圧縮して前記目標までの距離Rtを出力する第2の処理と、前記目標の測角値θt(AZ、EL)を算出し、前記直接波の距離Rd、前記目標までの距離Rtから形成できる楕円体と目標測角値θtとの交点より、前記目標の3次元位置(x、y、z)を算出する第3の処理とを行う
レーダ信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、レーダシステム及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速飛翔体に搭載されるレーダシステムでは、クラッタを抑圧するためにHPRF(High Pulse Repetition Frequency)が用いられる。例えば、ドップラ抽出用のCW(Continuous Wave)パルス列とレンジング用のFMCW(Frequency modulated Continuous Wave)スイープ(非特許文献1参照)を時分割に配列した時分割パルス列が使われる。
【0003】
しかしながら、複数の送信装置、送受信レーダ装置、受信レーダ装置を組み合わせて目標の位置を検出するバイスタティック型またはマルチスタティック型のレーダシステムでは、時分割パルス列を用いると、パルス列の時間が長くなるため、捜索時間が長くなり、また速度及び距離を算出するための処理する範囲が広くなり、処理規模が増大する問題があった。また、クラッタと不要波の複雑環境下では、目標を検出することができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】FMレンジング、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.274-275 (1996)
【文献】SS変調、丸林、‘スペクトル拡散通信とその応用’、電子情報通信学会編、pp.1-18 (1998)
【文献】符号化レーダ、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.278-280 (1996)
【文献】符号コード(M系列)発生方式,M.I.Skolnik,‘Introduction to radar systems’,McGRAW-HILL,pp.429-430 (1980)
【文献】CFAR(Constant False Alarm Rate: 定誤警報率)、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.87-89 (1996)
【文献】テイラー分布、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.134-135 (1996)
【文献】レンジ圧縮、大内、‘リモートセンシングのための合成開口レーダの基礎’、東京電機大学出版局、pp.131-149 (2003)
【文献】位相モノパルス(位相比較モノパルス)方式、吉田、‘改訂レーダ技術’、電子情報通信学会、pp.262-264 (1996)
【文献】アダプティブアレイ、SLC(Sidelobe Cancellation: サイドローブ・キャンセラ)、菊間、‘アレーアンテナによる適応信号処理’、科学技術出版、pp.17-21 (1998)
【文献】LMS(Least Mean Squares)、SMI(Sample Matrix Inversion)、RLS(Recursive Least Squares)、菊間、‘アレーアンテナによる適応信号処理’、科学技術出版、pp.35-46 (1998)
【文献】STAP(Space Time Adaptive Processing: 時空間適用処理),Richard Klemm,’Applications of Space-Time Adaptive Processing’,IEE Radar, Sonar and Navigation series14,p.359-365 (2004)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以上述べたように、バイスタティック型またはマルチスタティック型のレーダシステムでは、時分割パルス列を用いると、パルス列の時間が長くなるため、捜索時間が長くなり、また速度及び距離を算出するための処理する範囲が広くなり、処理規模が増大する問題があった。また、クラッタと不要波の複雑環境下では、目標を検出することができなかった。
【0006】
本実施形態の課題は、バイスタティック型またはマルチスタティック型の場合でも、クラッタ及び不要波の複雑環境下で、処理規模を抑えて、目標の3次元位置等を出力することのできるレーダシステム及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本実施形態に係るレーダシステムは、パルス列を送信するNt(Nt≧1)台の送信装置または送受信装置と、到来波を受信するNr(Nr≧1)台の受信装置とを備え、前記送信装置または送受信装置は、観測時間軸を通信期間とパルス列期間に分割し、前記通信期間では、前記パルス列の送信位置、送信周波数、送信時刻、送信ビーム方向を含む送信情報を送信し、前記パルス列期間では、ドップラ観測用の第1パルス列P1とレンジング用の第2パルス列P2を重畳したパルス列を送信し、前記受信装置は、観測時間軸を前記送信装置または送受信装置と同期するように通信期間とパルス列期間に分割し、前記到来波の受信信号を前記送信装置または送受信装置から受ける直接波の検出系統と目標からの反射波の検出系統に分岐し、前記直接波の検出系統では、前記送信装置または送受信装置から受ける直接波のうち前記第1パルス列P1の受信信号からドップラ成分を抽出して前記直接波の観測速度を算出し、前記直接波の観測速度により補正した参照信号を用いて、前記第2パルス列P2の受信信号をレンジ圧縮して前記送信装置または送受信装置との間の距離Rdを出力する第1の処理を行い、前記反射波の検出系統では、前記目標からの反射波のうち前記第1パルス列P1の受信信号からドップラ成分を抽出して前記目標の速度を算出し、前記目標の速度により補正した参照信号を用いて、前記第2パルス列P2の受信信号を相関処理によりレンジ圧縮して前記目標までの距離Rtを出力する第2の処理と、前記目標の測角値θt(AZ、EL)を算出し、前記直接波の距離Rd、前記目標までの距離Rtから形成できる楕円体と目標測角値θtとの交点より、前記目標の3次元位置(x、y、z)を算出する第3の処理とを行う。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係るバイスタティック型のレーダシステムの送信系統の構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係るバイスタティック型のレーダシステムの受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態において、受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、第1の実施形態において、等間隔のレンジングパルス列を用いて送信パルス列を生成する例を示すタイミング図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態において、ランダムに配列したレンジングパルス列を用いて送信パルス列を生成する例を示すタイミング図である。
【
図6】
図6は、第1の実施形態において、送受信パルス列から目標のドップラ周波数を観測する例を示すタイミング図である。
【
図7】
図7は、第1の実施形態において、送受信パルス列から観測される目標の距離を算出する例を示すタイミング図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態において、処理距離範囲内の直接波と目標波との受信位置関係を例示するタイミング図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態において、送信ビームと受信ビームの関係を示す概念図である。
【
図10】
図10は、第1の実施形態において、送信、受信、目標の座標関係を示す概念図である。
【
図11】
図11は、第1の実施形態において、目標が存在する楕円体を算出し、測角値AZ及びELを観測して目標の3次元の位置を同定する様子を示す概念図である。
【
図12】
図12は、第1の実施形態において、目標の3次元位置の同定法として、目標が存在する測角値AZ、ELの直線上の点でRttgt+Rrtgtとなる位置をサーチ法で算出する様子を示す概念図である。
【
図13】
図13は、第2の実施形態に係るバイスタティック型のレーダシステムの受信系統の構成を示すブロック図である。
【
図14】
図14は、第2の実施形態において、クラッタや不要波がある場合に、目標の3次元位置を同定し、不要波を抑圧する様子を示す概念図である。
【
図15】
図15は、第2の実施形態において、受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、第2の実施形態において、主チャンネル信号に含まれる不要波信号を補助チャンネル信号のアダプティブウェイト(複素信号)を制御して抑圧するSLC処理を示す概念図である。
【
図17】
図17は、第2の実施形態において、SLC前にクラッタを抑圧する様子を示す概念図である。
【
図18】
図18は、第2の実施形態において、ドップラパルス列P1のSLC処理を示す概念図である。
【
図19】
図19は、第2の実施形態において、レンジングパルス列P2のSLC処理を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、マルチスタティック型のレーダシステムは、複数の送信装置、送受信レーダ装置、受信レーダ装置により目標の位置を検出する構成であり、そのシステムの中から、送信と受信の関係を抽出し、バイスタティック型のレーダシステムの仕組みを適用すれば、容易に拡張できる。そこで、ここでは送信装置と受信装置の関係で記述するため、バイスタティック型のレーダシステムで説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態に係るバイスタティック型のレーダシステムの送信系統の構成を示すブロック図、
図2はその受信系統の構成を示すブロック図である。
図3は、
図2に示す受信系統の処理の流れを示すフローチャート、
図4及び
図5は、それぞれ
図1に示す送信系統において、等間隔のレンジングパルス列を用いて送信パルス列を生成する場合、ランダムに配列したレンジングパルス列を用いて送信パルス列を生成する場合の例を示すタイミング図、
図6は送受信パルス列から目標のドップラ周波数を観測する例を示すタイミング図である。
【0011】
図1に示す送信系統では、信号生成器11で送信種信号を生成し、変調器12で送信種信号に伝送情報を変調多重し、周波数変換器13で変調信号を高周波信号に変換し、パルス変調器14で高周波信号をパルス変調して送信パルス列を生成し、送信アンテナ15でN(N≧2)ヒットのパルスを送信する。
【0012】
送信パルス列は、通信期間と合成パルス列期間で構成される。
【0013】
通信期間は、送信系統の装置と受信系統の装置との通信に用いられる期間で、送信位置、送信時刻、送信周波数、送信ビーム方向等の伝送情報を多重変調する。変調方式は種々あるが、秘匿性が必要な場合は、SS変調(非特許文献2参照)がある。
【0014】
合成パルス列期間は、ドップラ抽出用のドップラパルス列P1とレンジング用のレンジングパルス列P2とを混合した合成パルス列を生成する。ドップラパルス列P1は、ドップラ抽出のために等間隔であり、レンジングパルス列P2は、パルス間で符号変調(非特許文献3参照)を行う。符号変調方式としては、例えばM系列(非特許文献4参照)がある。レンジングパルス列P2のパルス間隔は、
図4に示すように等間隔の場合と、
図5に示すようにランダムな間隔にする場合がある。ここで、
図4、
図5において、(a)はドップラパルス列、(b)はレンジングパルス列、(c)はドップラパルス列とレンジングパルス列の合成パルス列、(d)は送信パルス列を示している。ランダムな間隔にすると、合成パルス列の秘匿性が向上する。FMレンジングの場合のように、ドップラパルス列P1とレンジングパルス列P2を時分割にすると、パルス列の時間が長くなり、捜索時間が長くなり、また速度及び距離を算出するための処理する時間範囲が長くなり、処理規模が増える問題があった。これに対して混合パルス列では、ドップラパルス列P1とレンジングパルス列P2を同じ時間に重畳しており、捜索時間及び処理範時間範囲も短くなり、処理規模を低減できるメリットがある。
【0015】
次に
図2に示す受信系統について説明する。受信系統では、受信アンテナ21で受信した信号は、周波数変換器22で周波数変換され、AD変換器23でディジタル信号に変換される。このディジタル信号を用いて、通信復調により、送信位置、送信時刻、送信周波数、送信ビーム方向等の情報を復調する。ビーム制御器25にて、受信アンテナ21の受信ビ-ム方向を制御し、周波数変換器22で、送信周波数に合わせた周波数変換を行う。
【0016】
上記ディジタル信号に変換された受信信号は、直接波検出系統と目標波検出系統に分岐される。直接波検出系統では、slow-time FFT処理器31でslow-time軸のFFT処理が施され、ドップラ抽出器32で直接波のドップラが抽出され、レンジング参照信号補正器33でレンジング用の参照信号が直接波のドップラに基づいて補正され、レンジ相関処理器34でレンジング用参照信号に基づいてレンジ軸の相関処理が施され、レンジ検出器35で相関処理結果から直接波のレンジが検出される。
【0017】
一方、上記目標波検出系統では、slow-time FFT処理器41でslow-time軸のFFT処理が施され、ドップラ抽出器42で目標のドップラが抽出され、レンジング参照信号補正器43でレンジング用の参照信号が目標のドップラに基づいて補正され、レンジ圧縮(非特許文献7参照)のためのレンジ相関処理器44でレンジング用参照信号に基づいてレンジ軸の相関処理が施され、レンジ検出器45で相関処理結果から目標波のレンジが検出され、測角処理器46で目標の測角が行われる。そして、直接波検出結果と目標波検出結果から3Dデータ算出器51で目標の3Dデータを取得する。
【0018】
すなわち、上記受信系統では、受信ディジタル信号のドップラパルス列を用いて、直接波と目標波のドップラ抽出を行う。受信パルス列は、ドップラパルス列P1とレンジングパルス列P2の混合パルス列であるが、パルス間隔が異なるため、slow-time FFT処理器31、41において、P1列のパルス間隔のデータに対して、レンジセル毎にslow-time軸のFFTを行う。この様子を
図6に示す。
図6において、(a)は処理距離範囲内で送信されるドップラパルス列P1とレンジングパルス列P2の混合パルス列、(b)は送信された混合パルス列の受信パルス列を示し、(c)はドップラパルス列P1をFFT処理し、ドップラ抽出器32で目標のドップラを抽出した様子を示している。slow-time軸のFFT処理は次式で表される。
【0019】
【数1】
このレンジセル毎のSIGp1に対して、ドップラ抽出器32、42では、CFAR(非特許文献5参照)処理により直接波、目標波を検出し、ドップラfd(m)(m=1~M、M:目標数)を抽出する。
【0020】
次に、レンジング用参照信号補正器33、43において、レンジング期間の信号を用いて相関処理をするための基準参照信号を生成する。基準参照信号としては、次式に示すように、ドップラパルス列で出力したドップラを用いる。
【0021】
【0022】
設定した基準参照信号パルス列長はMrngであり、受信距離セル長をRにするために、次式に示すように、ゼロ埋めしたものを参照信号とする。この様子を
図7に示す。
図7において、(a)は送信パルス列P1+P2、(b)は受信パルス列P1+P2で、目標距離による時間遅延があり、レンジング用信号長(Mセル)が得られる。(c)はP2列の相関処理により、処理距離範囲(Rセル)で距離を抽出する様子を示している。
【0023】
【数3】
この参照信号と入力信号との相関を算出するために、レンジ相関処理器34、44において、参照信号を次式のようにFFT処理する。
【0024】
【数4】
一方、レンジング期間の受信信号は次式で表すことができる。
【0025】
【0026】
【数6】
レンジ圧縮(非特許文献7参照)のための相関処理(34、44)は周波数軸の乗算を逆FFTして、次式となる。
【0027】
【0028】
【数8】
この様子を
図7に示す。目標距離は、srng(t)をCFAR等によりスレショルド検出して、時間軸を距離軸に変換すれば算出することができる。速度については、CW期間のデータにより算出した結果を出力する。
【0029】
以上の処理により、目標のドップラと距離を算出できる。
【0030】
次に、バイスタティックシステムの場合の3次元位置同定法について、
図9~
図12を用いて述べる。
図9は、送信ビームと受信ビームの関係を示す。通信情報により、送信ビーム方向が既知であるため、その送信ビームを覆うように、受信ビームを同時マルチビ-ムか、時分割マルチビームで形成する。
図10は、送信、受信、目標の座標関係を示す。目標の3次元位置を同定するには、送信~受信の距離Rrtと送信~目標~受信の距離Rttgt+Rrtgtを算出する。これにより、
図11に示すように、目標が存在する楕円体を算出することができ、受信からの測角値AZ及びELを観測すれば、目標の3次元の位置を同定できる。
【0031】
この距離のうち、送信~受信の距離Rrtは、通信情報の送信位置と受信の位置より算出できる。一方、送信~目標~受信の距離Rttgt+Rrtgtは、送信装置~受信装置の直接波の算出レンジを基準に算出する。これは、バイスタティックレーダシステムでは、送信装置と受信装置で時刻がずれていると、距離0が同じないための対策である。
【0032】
【0033】
このため、受信側では、直接波と目標からの反射波の距離の両者の観測が必要である。距離については、
図6のドップラ観測後、
図7の方法により算出できる。複数の観測値がある場合は、
図8に示すように、直接波は、振幅が大きく、近距離であるため抽出できる。それ以外は、目標からの反射波とみなし、目標が複数の場合でも、目標毎に(9)式により、目標反射距離Rttgt+Rrtgtを算出できる。
【0034】
目標の3次元位置の同定法としては、
図12に示すように、受信からの測角値AZ、ELの直線上に目標が存在するので、直線上の点でRttgt+Rrtgtとなる位置をサーチ法で算出すればよい。受信測角手法としては、位相モノパルス(非特許文献8参照)等がある。位相モノパルス測角のためには、検出ビームであるΣビームの他に、アンテナ開口をAZ軸(EL軸)で分割した差ビームであるΔAZ(ΔEL)ビームが必要である。
図1の系統の目標波抽出において、Σビ-ムで目標検出したドップラ抽出32か、レンジ抽出35の少なくともいずれかの一方の検出セル(ドップラまたはレンジセル)と同じΔAZ(ΔEL)のセルを抽出して、測角36を行う。この測角値を用いて
図12のサーチ範囲である直線上の点(xs,ys,zs)を算出できる。Rttgt+Rrtgtを用いて、次式により、最小化する目標の3次元位置(x,y,z)を算出することができる。
【0035】
【0036】
以上の受信系統における全体処理フローを
図3に示す。
図3において、まず通信復調を行い(ステップS11)、ビームの指向方向、周波数を制御し(ステップS12)、ビームを受信して(ステップS13)、2系統に分岐する。
【0037】
一方は、直接波のドップラ抽出を行い(ステップS14)、レンジング用参照信号を補正し(ステップS15)、レンジング相関処理を施す(ステップS16)。他方は、目標波のドップラ抽出を行い(ステップS17)、レンジング用参照信号を補正し(ステップS18)、レンジング相関処理を施し(ステップS19)、測角処理を行う(ステップS20)。ここで、目標数分の処理を完了した判断し(ステップS21)、完了していなければ、次の目標に変更し(ステップS22)、ステップS17の処理に戻る。目標数分の処理を完了した場合には、直接波のレンジング相関処理結果と目標の測角処理結果と合わせて3次元位置を同定し(ステップS23)、一連の処理を終了する。
【0038】
以上は、送信装置と受信装置のバイスタティックレーダシステムの場合について述べた。送信装置側に受信機能を持たせる送受信装置の場合は、送受信装置がモノスタティックレーダとして運用できる。この場合は、ドップラパルス列P1は1種であると、送信ブラインドがあり、目標を観測できない場合がある。この対策として、複数のドップラパルス列P1を用意して、レンジング用パルス列を組み合わせ、その混合パルス列を、順に繰り返す。これにより、いずれかの混合パルス列でドップラを抽出でき、レンジングも可能となり、送受信装置だけで、目標の3次元位置を同定することができる。
【0039】
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、クラッタや外部環境からの不要波が無い場合について述べた。本実施形態では、クラッタや不要波がある場合に、目標の3次元位置を同定する点に特徴がある。
【0040】
ここで、送信系統は
図1と同様であるので、説明を省略する。
図13は、本実施形態に係る受信系統の構成を示すブロック図、
図14はクラッタや不要波がある場合に、目標の3次元位置を同定し、不要波を抑圧する様子を示す概念図、
図15は、受信系統の処理の流れを示すフローチャートである。
図13及び
図15において、
図2及び
図3と同一部分には同一符号を付して示し、ここでは異なる部分について説明する。
【0041】
図13において、第1の実施形態と異なる点は、クラッタ抑圧処理とSLC処理がある点である。それぞれ、補助アンテナ26の受信信号を用いて、主アンテナ(Σ、ΔAZ、ΔEL)21の不要波を抑圧する。具体的には、補助アンテナ26の受信信号を周波数変換器27で周波数変換し、AD変換器28でディジタル信号に変換し、通信信号SLC29で通信信号のサイドローブを抑圧して通信復調器24に送る。また、直接波検出系統では、slow-time FFT処理器31の出力に含まれるクラッタ成分をクラッタ抑圧器36で抑圧したうえで、ドップラSLC36aで直接波のサイドローブを抑圧してドップラ抽出器32に送る。また、レンジ相関処理器34の出力をレンジSLC37に送り、レンジ相関処理結果のサイドローブを抑圧してレンジ抽出器35に送る。同様に、目標波検出系統では、slow-time FFT処理器41の出力に含まれるクラッタ成分をクラッタ抑圧器47で抑圧したうえで、ドップラSLC47aで目標波のサイドローブを抑圧してドップラ抽出器42に送る。また、レンジ相関処理器44の出力をレンジSLC48に送り、レンジ相関処理結果のサイドローブを抑圧してレンジ抽出器45に送る。
【0042】
一方、補助アンテナ26で得られた受信信号をslow-time FFT処理器61に入力してslow-time軸のFFT処理を施し、クラッタ抑圧器62でクラッタ成分を抑圧し、レンジング用参照信号補正器64で参照信号を補正した後、レンジ相関処理器65で相関処理して、上記レンジSLC37に送って、直接波検出結果と合わせてSLC処理される。
【0043】
全体の処理フローを
図15に示す。本実施形態は、
図15に示すように、
図3の処理に、通信信号SLC(ステップS24)、直接波側のドップラSLC(ステップS25)、レンジングSLC(ステップS26)、目標検出側のドップラSLC(クラッタ抑圧含む)(ステップS27)、レンジングSLC(クラッタ抑圧含む)(ステップS28)を追加したものである。通信変調、送信装置~受信装置の直接波、送信装置~目標~受信装置の各々について、SLCにより不要波を抑圧することができる。
【0044】
ここで、
図16乃至
図19を参照して、本実施形態の不要波抑圧処理を説明する。
図16は、主チャンネル信号に含まれる不要波信号を補助チャンネル信号のアダプティブウェイト(複素信号)を制御して抑圧するSLC処理を示し、
図17は、SLC前にクラッタを抑圧する様子を示し、
図18は、ドップラパルス列P1のSLC処理を示し、
図19は、レンジングパルス列P2のSLC処理を示している。
【0045】
不要波抑圧処理としては、一般的にアダプティブアレイ(非特許文献9参照)がある。これは、アンテナ素子またはサブアレイにより、出力電力最小化等により妨害抑圧するものである。アダプティブウェイトを算出する手法には、LMS(Least Mean Square)、SMI(Sample Matrix Inversion)、RLS(Recursive Least-Squares)等の種々の手法(非特許文献10参照)がある。ここでは簡単のため、主ビーム信号の主チャンネルと補助ビームを形成する補助チャンネルによる妨害抑圧処理としてSLC(Sidelobe Canceller、非特許文献9参照)を用いる手法について述べるが、他のアダプティブアレイ手法を適用できるのは言うまでもない。
【0046】
SLCは、
図16(a)に示すように、主アンテナからの主チャンネル信号に含まれる不要波信号を補助アンテナからの補助チャンネル信号のアダプティブウェイト(複素信号)を制御して不要波を抑圧するものである。
図15では、簡単のため、補助チャンネル(補助アンテナ)が1chの場合としているが、複数並列に備えることにより、複数の妨害を抑圧することができる。SLC後のアンテナパターンは、
図16(b)に示すように、妨害方向にヌルを形成していることに対応する。複数の不要波の場合は、
図16(c)に示すように、複数の補助チャンネルにより、それぞれの不要波方向にヌルを形成することができる。
【0047】
送信装置から受信装置で受信する通信変調信号や、直接波に対しては、クラッタ成分は小さいので、通常のSLCで不要波を抑圧することができる。一方、送信装置~目標~受信装置の目標波については、クラッタ成分があり、クラッタ成分を抑圧する必要がある。この場合、アダプティブウェイトが強大なメインローブクラッタ信号の影響を受け、正しい不要波抑圧用のウェイトに収束しないため、
図17(a)~(c)に示すように、SLC前にクラッタを抑圧する必要がある。このため、ドップラパルス列P1では、
図18(a)~(d)に示すように、slow-time軸のFFTをして、レンジ-ドップラ信号として、まずは、クラッタ抑圧26により、ドップラ軸でメインローブクラッタを抑圧する。メインローブクラッタは、搭載レーダの場合、自機速度とビーム指向方向がわかれば、算出できる。クラッタを抑圧した後、SLC処理26aするが、この際のアダプティブウェイトを算出するためのデータとしては、
図18(c)の破線に示すようにレンジセル毎のドップラ軸データを用いる。これにより、アダプティブウェイトが算出でき、不要信号を抑圧して、ドップラ抽出22できる。
【0048】
なお、ドップラパルスP1に対しては、クラッタ抑圧と不要波抑圧用のSLC処理を個別に行う手法として述べたが、クラッタ抑圧と妨害抑圧処理を同時に行うSTAP(Space-Time Adaptive Processing、非特許文献11参照)を適用してもよいのは言うまでもない。
【0049】
次に、
図19(a)~(d)を用いて、レンジングパルス列P2のSLC処理について述べる。ドップラパルス列では、slow-time軸FFTにより、ドップラ軸に変換できるため、メインローブクラッタ成分を抑圧できたが、レンジングパルス列では、パルス毎に符号変調されているため、slow-time軸FFTによるクラッタを抑圧できない。一方、目標ドップラ成分により補正したレンジ圧縮用の参照信号を用いて、レンジ圧縮すると、目標ドップラ成分とクラッタのドップラ成分は異なるため、クラッタを抑圧できる。このため、
図13において、直接波のΣ、目標波のΣ、ΔAZ、ΔELに対して、抽出したドップラ信号を用いて、レンジング用参照信号補正し、レンジ相関処理して、レンジ圧縮後のクラッタを抑圧したレンジ軸の信号に対してSLCを実施する。これにより、不要波を抑圧して、レンジを抽出することができる。
【0050】
以上の処理により、クラッタ及び不要波を抑圧できるため、第1の実施形態と同等の手法で、目標の3次元の位置を同定することができる。
【0051】
以上は、ドップラパルス列とレンジングパルス列は、パルス間の符号変調のみで、パルス内変調が無い場合について述べたが、LPI性を向上させ、ドップラパルス列とレンジングパルス列のアイソレーションをとるために、各々の別のパルス内変調を施してもよい。また、ドップラパルス列とレンジングパルス列のRF周波数を別にして、アイソレーションをとる手法でもよいのは言うまでもない。
【0052】
その他、本発明は上記実施形態をそのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0053】
11…信号生成器、12…変調器、13…周波数変換器、14…パルス変調器、15…送信アンテナ、
21…受信アンテナ、22…周波数変換器、23…AD変換器、24…通信復調器、25…ビーム制御器、26…補助アンテナ、27…周波数変換器、28…AD変換器、29…通信信号SLC、
31…slow-time FFT処理器、32…ドップラ抽出器、33…レンジング参照信号補正器、34…レンジ相関処理器、35…レンジ検出器、36…クラッタ抑圧器、36a…ドップラSLC、37…レンジSLC、
41…slow-time FFT処理器、42…ドップラ抽出器、43…レンジング参照信号補正器、44…レンジ相関処理器、45…レンジ検出器、46…測角処理器、47…クラッタ抑圧器、47a…ドップラSLC、48…レンジSLC、51…3Dデータ算出器、
61…slow-time FFT処理器、62…クラッタ抑圧器、64…レンジング用参照信号補正器、65…レンジ相関処理器。