(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】誘導装置および誘導方法
(51)【国際特許分類】
F42B 15/01 20060101AFI20240909BHJP
G01S 13/60 20060101ALI20240909BHJP
G01S 13/58 20060101ALI20240909BHJP
G05D 1/00 20240101ALI20240909BHJP
【FI】
F42B15/01
G01S13/60 214
G01S13/58 200
G05D1/00
(21)【出願番号】P 2020209537
(22)【出願日】2020-12-17
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】蜂須 裕之
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-338700(JP,A)
【文献】特開2000-065925(JP,A)
【文献】特開2019-056566(JP,A)
【文献】特開2016-090528(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0102956(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F42B 15/01
G01S 13/60
G01S 13/58
G05D 1/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面上の目標に対しスクイント飛しょうさせつつ飛しょう体を誘導する誘導装置において、
前記飛しょう体に搭載され電波を送受信するアンテナと、
前記アンテナから観測周期ごとにレーダパルスを繰り返し送信する送信処理部と、
前記レーダパルスに基づく受信信号に基づいて前記目標の2次元観測結果を得る観測処理部と、
複数の観測周期ごとに得られた前記2次元観測結果に基づいて前記目標に対応する2値化形状枠を得る2次元処理部と、
前記2値化形状枠の偏位量から前記目標の移動ベクトルを算出し、当該移動ベクトルに基づいて前記目標の目標諸元を推定する推定処理部と
、
前記目標の軸線を前記移動ベクトルに一致させるように前記2値化形状枠をクロスレンジ方向に拡大または縮小して、前記目標に対する擾乱の影響を補正する補正部とを具備し、
前記推定処理部は、前記補正された前記2値化形状枠から前記目標の目標諸元を推定する、誘導装置。
【請求項2】
前記推定処理部は、前記
目標の目標長、または当該目標の目標幅の少なくともいずれかを推定する、請求項1に記載の誘導装置。
【請求項3】
前記飛しょう体が操舵機構を備える場合に、
前記推定された目標諸元に基づいて前記操舵機構を制御する制御処理部をさらに具備する、請求項1に記載の誘導装置。
【請求項4】
さらに、前記飛しょう体の運動に関する情報を取得する計測部を具備し、
前記制御処理部は、前記目標諸元、および前記運動に関する情報に基づいて前記飛しょう体を目標に誘導するための操舵信号を生成する、請求項3に記載の誘導装置。
【請求項5】
誘導装置により、水面上の目標に対しスクイント飛しょうさせつつ飛しょう体を誘導する誘導方法において、
前記誘導装置が、前記飛しょう体に搭載され電波を送受信するアンテナから、観測周期ごとにレーダパルスを繰り返し送信する過程と、
前記誘導装置が、前記レーダパルスに基づく受信信号に基づいて前記目標の2次元観測結果を得る過程と、
前記誘導装置が、複数の観測周期ごとに得られた前記2次元観測結果に基づいて前記目標に対応する2値化形状枠を得る過程と、
前記誘導装置が、前記2値化形状枠の偏位量から前記目標の移動ベクトルを算出する過程と、
前記誘導装置が、前記目標の軸線を前記移動ベクトルに一致させるように前記2値化形状枠をクロスレンジ方向に拡大または縮小して、前記目標に対する擾乱の影響を補正する過程と、
前記誘導装置が、前記移動ベクトルに基づいて、前記補正された前記2値化形状枠から前記目標の目標諸元を推定する過程とを具備する、誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、誘導装置および誘導方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導装置は、例えば飛しょう体に搭載されて、飛しょう体の飛行経路を制御する。誘導装置の多くは、例えば海面上を移動する船舶等の目標に向けて、飛しょう体を誘導する。誘導装置は、電波を利用して、レーダの原理により目標を検出する。目標探索の段階で複数の目標が検出されると、次の目標選択の段階において誘導装置は、事前目標情報(船舶等)との照合により目標を選択し、選択した目標への誘導開始点を予想する。その結果に基づいて、誘導装置は、飛しょう体の飛しょう経路を設定する。
【0003】
事前目標情報との照合に際しては、目標長と目標幅(目標形状諸元)についての観測結果が必要となる。また、誘導開始点の予想に際しては、目標位置に加えて目標の移動速度、移動方向(目標航行諸元)の観測が必要となる。
【0004】
一般的に、誘導装置は、目標に関する2次元観測により目標長、目標幅、目標の移動速度、及び移動方向等を取得する。電波による2次元観測を実現するため、誘導装置は、スラントレンジ方向、およびクロスレンジ方向の距離観測を実施する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】RADAR HANDBOOK Third Edition McGraw Hill Merrill Skolnik
【文献】George W. Stimson, Introduction to Airborne RADAR, PART VI: Air-to-Air Operation, 28. Low PRF Operation, pp.389-405, Hughes Aircraft Conpany (1983)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
スラントレンジ方向に関しては、パルス圧縮変調技術等によりある程度、高い分解能を期待できる。しかしクロスレンジ方向に関しては、ドップラビームシャープニング(Doppler Beam Sharpening:DBS)技術で得られるドップラシフトに、複数の要因が混在する。つまり飛しょう体の飛しょう速度、飛しょう体に対する目標位置(方向)や、目標の移動速度及び移動方向、あるいは、船舶の動揺などもドップラシフトに影響を及ぼす。このため電波による目標の2次元観測において、目標の諸元を高精度に取得することが難しかった。
そこで、目的は、目標の諸元を高精度に取得可能な誘導装置および誘導方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係わる誘導装置は、水面上の目標に対しスクイント飛しょうさせつつ飛しょう体を誘導する。誘導装置は、飛しょう体に搭載され電波を送受信するアンテナと、送信処理部、観測処理部、2次元処理部、および、推定処理部を具備する。送信処理部は、アンテナから観測周期ごとにレーダパルスを繰り返し送信する。観測処理部は、レーダパルスに基づく受信信号に基づいて目標の2次元観測結果を得る。2次元処理部は、複数の観測周期ごとに得られた2次元観測結果に基づいて目標に対応する2値化形状枠を得る。推定処理部は、2値化形状枠の偏位量から目標の移動ベクトルを算出し、当該移動ベクトルに基づいて目標の目標諸元を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、目標選択の段階における、飛しょう体と目標との会合状況の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、目標観測のための電波の照射状況の一例を示す図である。
【
図3】
図3は、飛しょう体1の一例を示すブロック図である。。
【
図4】
図4は、プロセッサ8の一例を示す機能ブロック図である。
【
図5】
図5は、送受信周期21(T
PRI)における照射電波11、反射電波12、および観測毎受信信号13の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、レンジドップラ処理の一例を説明するための図である。
【
図7】
図7は、観測毎データ14の一例を示す図である。
【
図8】
図8は、レンジ毎周波数データ16の周波数特性の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、目標2の両端からのドップラ周波数の導出の一例について説明するための図である。
【
図10】
図10は、目標2の両端からのドップラ周波数の導出の他の例について説明するための図である。
【
図11A】
図11Aは、目標2の両端からのドップラ周波数の導出の他の例について説明するための図である。
【
図11B】
図11Bは、目標2の両端からのドップラ周波数の導出の他の例について説明するための図である。
【
図12】
図12は、レンジドップラ観測結果を2次元距離結果に変換する処理について説明するための図である。
【
図13】
図13は、2次元観測を実施するタイミングを説明するための図である。
【
図14】
図14は、観測範囲の偏位量について説明するための図である。
【
図15】
図15は、観測範囲の整合について説明するための図である。
【
図16】
図16は、目標の2値化形状枠41を算出する処理について説明するための図である。
【
図17】
図17は、2値化形状枠41から目標重心42を算出する処理について説明するための図である。
【
図18】
図18は、2値化形状枠41から目標の仮目標軸線46を算出する処理について説明するための図である。
【
図19】
図19は、選択した2次元観測結果jから導出された2値化形状枠41jの一例を示す図である。
【
図20】
図20は、移動ベクトル45の算出について説明するための図である。
【
図21】
図21は、目標形状諸元(目標長、目標幅)を算出する処理について説明するための図である。
【
図22】
図22は、プロセッサ8の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。以下の説明では、目標を選択する段階での飛しょう体が、目標に対して目標方向からオフセットした一定の角度(スクイント角)を成して、或る高度を飛しょうしていることを仮定する。すなわち実施形態に係わる誘導装置は、目標に対しスクイント飛しょうさせつつ飛しょう体を誘導する。目標としては、遠方の海面を移動する船舶を一例とする。なお実施形態において、目標の諸元とは、目標長、目標幅、目標の移動速度、または移動方向の少なくともいずれかを含む。
【0010】
スクイント飛しょうを行ないながら2次元観測を実施し、目標との相対速度から生じるドップラシフトを周波数領域で処理することで、いわゆるドップラビームシャープニング技術によりクロスレンジ方向の距離を観測することができる。しかしドップラシフトに複数の要因が混在することから、正確な観測値を得ることは難しい。以下では、これを解決し得る技術について説明する。
【0011】
[構成]
図1は、目標選択の段階における、飛しょう体と目標との会合状況の一例を示す図である。
図1(A)は側方の視点から見た様子を示し、
図1(B)は上方の視点から見た様子を示す。
図1(A)、および(B)において、飛しょう体1は、海面SLを移動する船舶などの目標2に向かって飛しょうする。飛しょう体1は、目標観測点OPにおいて或る高度を維持しつつ、目標2の方向に対して一定のオフセット角をとって飛しょうし、目標2を観測する。観測段階が終了すると、飛しょう体1は、目標2に対する誘導開始点SPに向けて飛しょうし、誘導開始点SPに到達した後は、目標2へ向けて誘導(ホーミング:homing)を行う。
【0012】
[電波照射と受信の状況]
図2は、目標観測のための電波の照射状況の一例を示す図である。
図2(A)は側方の視点から見た様子を示し、
図2(B)は上方の視点から見た様子を示す。
図2において、スラントレンジ方向、グランドレンジ方向、および、クロスレンジ方向の3とおりの方向がある。スラントレンジ方向63(ビーム中心・ボアサイト方向)は、飛しょう体1のアンテナ部の形成するビーム幅に基づく角度範囲への、上空からの電波の照射方向である。スラントレンジ方向63を海面上の水平面上に射影した方向を、グランドレンジ方向64とする。海面(SL:surface level)の水平面上で、グランドレンジ方向64と垂直な方向をクロスレンジ方向65する。
【0013】
図2において、目標選択段階では、その前の目標捜索段階で目標2のおおよその位置が既に取得されている。よって飛しょう体1は、
図2(A)に示されるように、海面SL上の目標2とその周辺を含む範囲に向けて、観測俯角61(σ
g)をとって照射電波11を照射する。ここで、観測俯角61(σ
g)は、海面と平行な水平面を基準とした角度である。
【0014】
図2(B)に示されるように、照射電波11は、飛しょう体1の飛しょう方向Fに対して観測方位角62をとって照射される。照射電波11はアンテナ部7の形成するビーム幅に基づく角度範囲、すなわちビームを形成する方向であるビーム中心(BC方向)を中心として、ビーム幅左端(BL方向)からビーム幅右端(BR方向)の角度範囲に照射される。
【0015】
図3は、飛しょう体1の一例を示すブロック図である。飛しょう体1は、誘導装置3、推進装置5、および操舵装置6を備える。誘導装置3は、目標2を検出し、目標2に飛しょう体1を誘導するための操舵信号を操舵装置6に出力する。推進装置5は、飛しょう体1を飛行させるための推進機構である。操舵機構としての操舵装置6は、誘導装置3から与えられる操舵信号に基づき飛しょう体1の飛行を制御して、飛しょう体1を目標2に誘導する。
【0016】
誘導装置3は、コンピュータとしてのプロセッサ8に加え、アンテナ部7、制御処理部9、および、慣性計測部10を備える。アンテナ部7は、例えば複数のアンテナ素子を備えるフェーズドアレイアンテナである。アンテナ部7は、送信ビームを走査しつつ目標2へ照射電波11を放射する。また、アンテナ部7は、受信ビームを走査しつつ目標2からの反射電波12を受信する。さらに、アンテナ部7は、受信した電波を、信号処理等を可能とすべく周波数変換してプロセッサ8へ出力する。
【0017】
プロセッサ8は、照射電波11の波形生成や制御、反射電波12に含まれる目標2の検出、および目標諸元の推定などの処理を実施する。これらの処理に基づき、プロセッサ8は、目標2に向けてホーミングするための誘導信号を生成して制御処理部9へ出力する。制御処理部9は、目標諸元、誘導信号に基づいて、飛しょう体1を安定に飛しょうさせるための操舵信号を算出し、操舵装置6へ出力する。慣性計測部10は、飛しょう体1の角速度、加速度等を観測して、所定の座標系における飛しょう体1の位置、速度、姿勢角などの、飛しょう体1の運動に関する情報を取得する。
【0018】
図4は、プロセッサ8の一例を示す機能ブロック図である。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)等の演算回路であり、メモリに記憶されたプログラムを実行して実施形態に係わる機能を実現する。プロセッサ8は、その処理機能として送信処理部8a、観測処理部8b、2次元処理部8c、推定処理部8d、および、補正処理部8eを備える。
【0019】
送信処理部8aは、アンテナ部7から、観測周期としての送受信期間(PRI:Pulse Repetition Interval)ごとに、レーダパルスの繰り返し送信を制御する。
観測処理部8bは、レーダパルスに基づく受信信号に基づいて目標の2次元観測結果を得る。2次元処理部8cは、複数の観測周期ごとに得られた2次元観測結果に基づいて、目標に対応する2値化形状枠を得る。推定処理部8dは、2値化形状枠の偏位量から目標の移動ベクトルを算出し、この移動ベクトルに基づいて、目標の目標諸元を推定する。補正処理部8eは、目標の軸線を目標の移動ベクトルに一致させるように、2値化形状枠をクロスレンジ方向に拡大または縮小することにより、目標に対する擾乱(波による動揺など)の影響を補正する。次に、上記構成における作用を説明する。
【0020】
[作用]
[2次元観測処理におけるレンジドップラ処理]
図5は、送受信周期21(T
PRI)における照射電波11、反射電波12、および観測毎受信信号13の関係を示す図である。目標2とその周辺の海面SLからの反射電波12は、飛しょう体1のアンテナ部7で受信され、周波数変換され、観測毎受信信号13としてプロセッサ8に出力される。
【0021】
複数の送受信周期21において照射電波11が繰り返し送信されることで、複数の観測結果が得られる。
図5に示されるように、照射電波11の送信と反射電波12の受信とが同じ送受信周期21内にある形態は、LPRF(Low Pulse Repetition Frequency)と称される。遠方から目標2を観測する場合には、一般にLPRF形態がとられる。LPRF技術に関しては、例えば非特許文献2に記載されている。
【0022】
図6は、レンジドップラ処理の一例を説明するための図である。レンジドップラ処理は、例えばプロセッサ8により実施される。複数回の送信で得られた観測毎受信信号13にレンジドップラ処理を施すことにより、2次元観測の結果を得ることができる。
【0023】
図6(A)に示されるように、プロセッサ8は、複数回にわたる送受信に基づく観測毎に、アンテナ部7から観測毎受信信号13を取得し、レンジウォーク補正、パルス圧縮復調の処理を実施して観測毎データ14を得る。観測毎データ14のデータ構造は、
図6(C)に示されるように、複数のスラントレンジと複数回の送受信観測の回数とに対応した2次元配列になる。
【0024】
図6(B)に示されるように、プロセッサ8は、複数回の送受信観測で得られた観測毎データ14から、スラントレンジ方向の単位(レンジセル)毎に複数の観測結果をレンジ毎データ15として取り出す。次にプロセッサ8は、レンジ毎データ15に、DFT(Discrete Fourier Transform:離散フーリエ変換)、あるいはFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)等の周波数変換処理を施し、周波数領域に変換して、レンジ毎周波数データ16を得る。このような処理を、目標2の存在するレンジ範囲を対象に、スラントレンジ方向の単位(レンジセル)毎に順次実施すると、
図6(D)に示されるように、目標2とその周辺に関する2次元観測の結果としてレンジドップラ観測結果17が得られる。
【0025】
図7は、観測毎データ14の一例を示す図である。照射電波11は、チャープ変調等のパルス圧縮変調を施されたパルスである。このため、観測毎受信信号13にパルス圧縮復調処理等の処理を施すことで、目標2についてレンジセル単位で、スラントレンジ方向の分解能を高めた観測毎データ14を得ることができる。
【0026】
図8は、レンジ毎周波数データ16の周波数特性の一例を示す図である。
図8(A)は、処理後の周波数特性全体を示す。
図8(B)は、
図8(A)中の観測帯域22(1/T
PRI)を示す。目標2からの反射電波11は、照射電波10に応じて、送受信周期21(T
PRI)で繰り返し受信される。このため、レンジ毎周波数データ16の帯域は、送受信周期21(T
PRI)の逆数となる観測帯域22(1/T
PRI)に限定される。よって、処理後のレンジ毎周波数データ16の周波数特性は、
図8から示されるように、元の周波数特性が観測帯域22で分割、折り返された特性となる。
【0027】
レンジ毎周波数データ16では、DFTまたはFFTにより、ビーム幅内の目標2の位置(方向)や移動速度、移動方向、さらに、目標2の広がりや動揺によって生じるドップラシフトが、それぞれ周波数特性の広がりとなってデータに現れる。例えば、目標2の広がりとなって現れるドップラ周波数としては、目標2の左端のドップラ周波数(f
TML)と、目標2の右端のドップラ周波数(f
TMR)がある。なお、参考に、ビーム中心(BC:beam center)方向のドップラ周波数(f
M0)も併せて示す。
図8に示される各周波数について以下に示す。
【0028】
【0029】
図8(A)の代表的なドップラ周波数の処理後のドップラ周波数を、以下に示す。
【0030】
【0031】
図9は、目標2の両端からのドップラ周波数の導出の一例について説明するための図である。
図9において、目標2の両端からのドップラ周波数は、飛しょう体1の飛しょう速度(V
M)、飛行方向(θ
M)、および目標両端の方向(θ
TL、θ
TR)により生じるとする。
図9の諸量は次式で表される。
【0032】
【0033】
なお、飛しょう速度(VM)等の速度は海面上の速度で定義されるが、飛しょう体1からの観測はスラントレンジ軸での観測となるので、ドップラシフト表現での速度にはcosσgが乗算される。
【0034】
図10は、目標2の両端からのドップラ周波数の導出の他の例について説明するための図である。
図10において、目標2の両端からのドップラ周波数は、目標の速度(V
T)、移動方向(Ψ
T)、目標長(L)、さらに目標両端の方向(θ
TL,θ
TR)により生じるとする。
図10の諸量は次式で表される。
【0035】
【0036】
なお、厳密には目標の前後端で観測俯角が異なるが、近似的に変化しないことを仮定した。
【0037】
図11A、
図11Bは、目標2の両端からのドップラ周波数の導出の他の例について説明するための図である。
図11Aに示されるように、目標2の両端からのドップラ周波数は、回頭時に生じる回転(ω)により生じるとする。回転は、目標2の動揺の一つの例である。
図11Bにおける目標両端の速度(δV
L,δV
R)は、次式で表される。
【0038】
【0039】
目標2の両端から生じるドップラ周波数は、
図9、
図10、および
図11Bにおける議論を総合的に適用し、照射電波10の波長λを用いて次式により求められる。
【0040】
【0041】
図12は、レンジドップラ観測結果17を2次元距離結果18に変換する処理について説明するための図である。2次元距離結果18は、海面上の平面における2次元の距離情報である。
図12(A)のレンジドップラ観測結果17は、スラントレンジ方向の距離観測とドップラ周波数による周波数観測との、2軸のデータである。このため、それぞれの軸上のデータ間隔を距離情報に変換する必要がある。
【0042】
スラントレンジ方向63のデータは、
図2に示されるように、上空からの観測俯角61(σ
g)を取った観測である。そこで、レンジセル分解能δ
S間隔で、観測対象範囲とするMg個について式(1)、式(2)によりデータ間隔を変換して、グランドレンジ方向64のデータ間隔とする。
【0043】
【0044】
クロスレンジ方向65のデータは、観測帯域22(1/TPRI)に対しDFT、またはFFTのポイント数Mrに応じた周波数分解能δfのデータとなっている。このため、式(3)、式(4)によりデータ間隔を変換して、クロスレンジ方向65のデータ間隔とする。
【0045】
【0046】
以上により、レンジドップラ処理の結果として、海面上の目標2である船舶を含む2次元距離結果18を得ることができる。
【0047】
[2次元観測の複数回実施]
図13は、2次元観測を実施するタイミングを説明するための図である。
図13において、2次元観測は目標選択段階の任意の時刻t
0から開始され、t
Δ間隔でNp回実施されるとする。ここで、Np回の2次元観測を、目標2(船舶)の運動状態が変化しないことを見込み、例えば数秒の観測期間内で完了させる必要がある。一回の観測に要する時間T
Mは、送受信周期21(T
PRI)と送受信回数(Mr)とを用いて式(5)で表される。
【0048】
【0049】
[2次元観測処理における座標変換処理]
複数回にわたって観測を繰り返すうち、飛しょう体1の移動に伴って観測範囲がシフトするため、各2次元距離結果18に偏位が生じる。そこで、空間内において観測結果の整合をとるための補正を実施する。
【0050】
図14は、観測範囲の偏位量について説明するための図である。
図14は、第1回目の観測と第i回目の観測との間での観測範囲の偏位量を示す。全観測時間が目標2の運動状態が変化しない程度の期間であれば、観測方位角(θ
M)および飛しょう速度(V
M)はほぼ一定と近似できる。このとき、グランドレンジ方向64の変位量ΔR
giは式(6)で表され、クロスレンジ方向65の偏位量ΔR
riは式(7)で表される。式(6)、式(7)は、偏位量を各軸の分解能単位の整数倍で表現するものである。
【0051】
【0052】
図15は、観測範囲の整合について説明するための図である。
図15は、第1回目と第i回目の観測範囲の整合を示す。式(6)、式(7)の偏位量を使用して、第i回目の2次元距離結果18iの各軸の距離数値をそれぞれ、グランドレンジ方向64にKg個、クロスレンジ方向にKr個ずらすことで整合を実施し、この整合後の結果を各観測での2次元観測結果19iとして保存する。
【0053】
以上の整合処理を、複数回(N
P回)の観測で得られた2次元距離結果18(i=1~N
P)に適用して(
図15(A))、複数回(N
P回)の2次元観測結果19(i=1~N
P)を得る(
図15(B))。
【0054】
[目標諸元推定処理]
次に、得られた2次元観測結果19から、目標2の目標諸元を推定する目標諸元推定処理37について説明する。目標諸元のうち、目標航行諸元(目標速度・目標移動方向)は、複数の2次元観測結果19を使用して推定することができる。まず、第i番目の2次元観測結果19iについて説明する。
【0055】
図16は、目標の2値化形状枠41を算出する処理について説明するための図である。
図16は、第i番目の2次元観測結果19iにおいて算出される目標の2値化形状枠41iを示す。
図16において、2次元観測結果19iの全てのセル(マス目)について、対応する受信電力レベルが目標と判定される閾値以上のセルを”1”とし、閾値未満のセルを”0”とする。このとき、”1”となる複数セルの連続する集合体(クラスタ)を目標2と判定し、このクラスタを一周する外枠を2値化形状枠41iとする。
【0056】
図17は、2値化形状枠41から目標重心42を算出する処理について説明するための図である。
図17における2値化形状枠41iの内部の全セルを対象とし、グランドレンジ方向の重心座標R
ig0を式(8)により、クロスレンジ方向の重心座標R
ir0を式(9)により計算して、目標重心42iを算出することができる。
【0057】
【0058】
図18は、2値化形状枠41から目標の仮目標軸線46を算出する処理について説明するための図である。2値化形状枠41iの内部の全セルを対象とする最小二乗法により、目標重心42iを通過する直線の式を算出できる。具体的には、仮目標軸線46iは式(10)で表される。
【0059】
【0060】
次に、任意の2次元観測結果19jを選択する。
図19は、選択した2次元観測結果jから導出された2値化形状枠41jの一例を示す図である。仮目標軸線46iが算出されると、第i回目の2次元観測結果19iと相関を取るために、任意の2次元観測結果19jを選択する。
【0061】
図20は、移動ベクトル45の算出について説明するための図である。
図20(A)、
図20(B)に示される2次元観測結果iと2次元観測結果jは、ともに観測範囲の整合をとっているので、
図20(A)に示されるように、両軸ともに数値を合わせて重ねることができ、2値化形状枠41iと2値化形状枠41jとを共通の2次元平面上に配置することができる。
【0062】
次に、
図20(B)に示されるように、2値化形状枠41iを座標上で移動させ、2値化形状枠41jに重ねる。このとき、重なる範囲が最大となる位置まで移動させ、これを移動後形状枠43iとする。ここで、重なる範囲を最大とする手法については、例えばテンプレートマッチング技術(SAD:Sum of Abusolute Difference、またはSSD:Sum of Squared Differenceなど)を適用することができる(非特許文献2)。
【0063】
次に、移動後形状枠43iの重心点を、前記と同様に算出して移動後重心44iとする。最後に、目標重心42iと移動後重心44iの位置変化から、移動ベクトル45iを算出する。具体的には、グランドレンジ方向64での移動距離、クロスレンジ方向65での移動距離をそれぞれベクトルとし、2次元観測結果19iと19jの観測時間差で除算することで、移動ベクトルが得られる。式(11)に、移動ベクトルの計算式を示す。
【0064】
【0065】
ここで、選択する2次元観測結果19の組み合わせは任意であり、例えば第i回目と第j回目とすることができる。複数回の観測があれば回数に応じた組み合わせを選定して、各観測で算出される移動ベクトルを平均するなどして精度を高めることが可能である。
【0066】
以上説明したように、移動速度、および空間内での移動方向を移動ベクトル45として算出することができる。なお、移動ベクトル45は2次元観測における座標系で表されるので、飛しょう体1の飛しょう方向等を決定する基準座標系への変換により最終的な移動速度、移動方向を求めることができる。基準座標系への変換は一般的な変換式によるもので構わない。
【0067】
図21は、目標形状諸元(目標長、目標幅)を算出する処理について説明するための図である。2値化形状枠41に示される形状のクロスレンジ方向65は、ドップラ周波数をもとにしている。このため、目標の動揺に伴うドップラシフト(
図11)が含まれる場合には、2値化形状枠41がクロスレンジ方向65に拡大、または縮小されることになる。この現象を修正し、2値化形状枠41を目標の形状へと補正することで、目標形状諸元(目標長、目標幅)を算出することができる。
【0068】
図21(A)に示されるように、任意に選択した2次元観測結果19iについて、仮目標軸線46iと移動ベクトル45iを重ねる。通常、目標2が船舶であれば、移動方向は目標の軸線方向と一致する。従って、仮目標軸線46iと移動ベクトル45iが一致していない場合には、目標2の動揺による成分(
図11)がクロスレンジ方向に影響していることになる。
【0069】
そこで、前記で得られた移動ベクトル45iを基準として、2値化形状枠41iから得られている仮目標軸線46iが移動ベクトル45iと一致するよう、2値化形状枠41iをクロスレンジ方向にだけ縮小、または拡大する。
【0070】
図21(B)に示されるように、仮目標軸線46iが移動ベクトル45iと一致したときの2値化形状枠を、修正2値化形状枠48iとし、これを正しい目標形状に対応するものとして採用する。この修正2値化形状枠48iの仮目標軸線、すなわち目標軸線47i方向に沿う目標範囲を目標長とし、目標長に直交する方向を目標幅として算出して、目標形状諸元とする。
【0071】
図22は、プロセッサ8の処理手順の一例を示すフローチャートである。
図22において、プロセッサ8は、二次元観測処理30が完了したのち、目標諸元推定処理(ステップS9)を行い、得られた目標諸元を出力する(ステップS10)。
【0072】
二次元観測処理30において、プロセッサ8は、先ず、観測のための基準座標系S1を設定したのち(ステップS1)、観測回数nに1を代入して観測カウンタをセットする(ステップS2)。次にプロセッサ8は、レンジドップラ処理(ステップS3)により、目標2とその周辺に関する2次元観測の結果としての観測結果を得る。
【0073】
次に、プロセッサ8は、自らの飛しょう諸元を演算プロセスに入力し(ステップS4)、座標変換処理を行って(ステップS5)、海面上の平面における2次元の距離情報としての2次元距離結果を得る。このようにして得られた2次元観測結果は、コンピュータのメモリに登録される(ステップS6)。ステップS3~ステップS6の過程は、観測回数が規定数に達するまで、カウンタをインクリメントしつつ(ステップS8)規定の観測回数にわたって繰り返される。
【0074】
[効果]
以上説明したようにこの実施形態では、スクイント飛しょうを行ないながら複数回にわたる2次元観測を実施し、2次元観測結果を得る。さらに、この2次元観測結果により目標の2値化形状枠を算出し、その偏位量から目標の移動ベクトルを得る。そして、この移動ベクトルに基づいて目標諸元を推定するようにした。
【0075】
このようにしたので、船舶の動揺などに起因するドップラシフトによりクロスレンジ方向の距離特性が変化しても、複数回の2次元観測結果によりその影響が平均化される。これにより、目標形状の歪みを抑え、目標諸元(目標長、目標幅)を高精度に得ることができる。従って、目標航行諸元(目標移動速度、目標移動方向)を高精度で抽出することも可能になる。
【0076】
これらのことから、実施形態によれば、目標の諸元を高精度に取得可能な誘導装置および誘導方法を提供することができる。
【0077】
実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示するものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1…飛しょう体、2…目標、3…誘導装置、5…推進装置、6…操舵装置、7…アンテナ部、8…プロセッサ、8a…送信処理部、8b…観測処理部、8c…次元処理部、8d…推定処理部、8e…補正処理部、9…制御処理部、10…慣性計測部。