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  • 特許-撥油性樹脂組成物及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】撥油性樹脂組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240909BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K9/06
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020211378
(22)【出願日】2020-12-21
(65)【公開番号】P2022098056
(43)【公開日】2022-07-01
【審査請求日】2023-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-118739(JP,A)
【文献】特開2001-152050(JP,A)
【文献】特開平06-200074(JP,A)
【文献】特開2014-237576(JP,A)
【文献】特開平09-255919(JP,A)
【文献】特開2020-122036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(19)から(27)のいずれか1つで示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有化合物(A)が結合した層状無機化合物(B)と、樹脂(C)とを含み、
全成分量を100質量%とするとき、前記フッ素含有化合物(A)と前記層状無機化合物(B)とを合計した含有割合が2.0質量%~20質量%であり、前記樹脂(C)の含有割合が80質量%~98質量%であり、
前記層状無機化合物(B)に対する前記フッ素含有化合物(A)の質量比(A/B)が0.05~0.8の範囲にあることを特徴とする撥油性樹脂組成物。
【化6】
【化7】
上記式(19)から式(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【請求項2】
前記層状無機化合物(B)が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト又はバーミキュライトである請求項1記載の撥油性樹脂組成物。
【請求項3】
前記樹脂(C)が、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、アミド系、エステル系又はポリ塩化ビニル系の樹脂である請求項1記載の撥油性樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1記載のフッ素含有化合物(A)と溶媒(D)を混合してフッ素含有液を調製する工程と、前記フッ素含有液と層状無機化合物(B)とを混合した混合物を乾燥してフッ素含有層状無機化合物を調製する工程と、前記フッ素含有層状無機化合物を樹脂(C)に混練する工程とを含む撥油性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の撥油性樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥油性のある成形体を作るのに適した層状無機化合物を含む撥油性樹脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の撥油性樹脂組成物として、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂100重量部、及びパーフルオロアルキル基含有ポリマー0.1~5重量部を含んでなる樹脂組成物、並びにこの樹脂組成物を成形した後、70~130℃で加熱処理する樹脂成形体の製造方法が開示されている(特許文献1(請求項1、請求項2、第5頁第12~31行])参照。)。
【0003】
特許文献1には、この樹脂組成物は、特定のパーフルオロ基含有ポリマーを含んでいるので、撥水撥油性に優れており、それから得られた成形体は、汚れ防止性、成形時の離型性等の性能に優れ、例えば、台所用品、浴室用品等の汚れの激しい成形品に応用することができ、また家庭の中で汚れの気になるサッシ等にも使用することができる旨が記載されている。
【0004】
一方、樹脂組成物から作られた成形体に難燃性を付与するために、樹脂組成物に層状無機化合物を含む難燃樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献2(請求項1)参照。)。この難燃樹脂組成物は、スチレン系樹脂(A)100質量部、ハロゲン系難燃剤(B)3~30質量部、アンチモン化合物(C)0.1~4.5質量部、層状無機化合物を含む粘土鉱物(D)0.1~30質量部、及び有機修飾剤(E)を含有し、該有機修飾剤(E)の配合量が、該粘土鉱物(D)100質量部に対して5~50質量部であり、該粘土鉱物(D)が、該スチレン系樹脂(A)樹脂100質量部に対して0.001質量部以上の量で、長径10μm以上の鉱物を含有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3779331号公報
【文献】特開2013-159757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示される樹脂組成物から作られた成形体に、難燃性を付与するために、特許文献2に示される層状無機化合物を含ませると、層状無機化合物は撥油性を有しないため、この樹脂組成物から作られた成形体の撥油性が低下する課題があった。
【0007】
本発明の目的は、撥油性のある成形体を作るのに適した層状無機化合物を含む撥油性樹脂組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、下記の一般式(19)から(27)のいずれか1つで示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有化合物(A)が結合した層状無機化合物(B)と、樹脂(C)とを含み、全成分量を100質量%とするとき、前記フッ素含有化合物(A)と前記層状無機化合物(B)とを合計した含有割合が2.0質量%~20質量%であり、前記樹脂(C)の含有割合が80質量%~98質量%であり、前記層状無機化合物(B)に対する前記フッ素含有化合物(A)の質量比(A/B)が0.05~0.8の範囲にあることを特徴とする撥油性樹脂組成物(以下、単に樹脂組成物ということもある。)である。
【0009】
【化6】
【化7】
上記式(19)から式(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0010】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記層状無機化合物(B)が、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト又はバーミキュライトである撥油性樹脂組成物である。
【0011】
本発明の第3の観点は、第1の観点に基づく発明であって、前記樹脂(C)が、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、アミド系、エステル系又はポリ塩化ビニル系の樹脂である撥油性樹脂組成物である
【0012】
本発明の第4の観点は、第1の観点のフッ素含有化合物(A)と溶媒(D)を混合してフッ素含有液を調製する工程と、前記フッ素含有液と層状無機化合物(B)とを混合した混合物を乾燥してフッ素含有層状無機化合物を調製する工程と、前記フッ素含有層状無機化合物を樹脂(C)に混練する工程とを含む撥油性樹脂組成物の製造方法である。
【0013】
本発明の第5の観点は、第1ないし第3のいずれかの観点の撥油性樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点の撥油性樹脂組成物では、樹脂組成物に単純に層状無機化合物が含まれる場合や、樹脂組成物に単純にフッ素系化合物が含まれる場合と比較して、上述した一般式(19)から(27)のいずれか1つで示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有化合物(A)が結合した層状無機化合物(B)が樹脂組成物に含まれるため、樹脂組成物から作られた成形体により一層撥油性の機能を付与することができる。また樹脂組成物に単純に層状無機化合物が含まれる場合と比較して、上記フッ素含有化合物(A)が結合した層状無機化合物(B)が樹脂組成物に含まれるため、樹脂組成物から作られた成形体に割れ、欠け、亀裂等が生じにくく成形性に優れる。
【0015】
本発明の第1の観点の撥油性樹脂組成物では、全成分量を100質量%とするとき、前記フッ素含有化合物(A)と前記層状無機化合物(B)を合計した含有割合が2.0質量%~20質量%であるため、成形性に優れ、かつ樹脂組成物から作られた成形体に優れた撥油性の機能を付与することができる。また樹脂(C)の含有割合が80質量%~98質量%であるため、樹脂組成物から作られた成形体に撥油性の機能を付与し、成形性に優れる。更に上記質量比(A/B)が0.05~0.8の範囲にあるため、樹脂組成物から作られた成形体が適度の撥油性を有するようになる。
【0016】
本発明の第2の観点の撥油性樹脂組成物では、前記層状無機化合物が、モンモリロナイト等であるため、モンモリロナイト等の有する多層構造及び大きな膨潤性により容量の大きな層間を有し、これにより、少量の添加量で樹脂への充填物としての効果が得ることができる。また、粒子径が極端に小さい無機ナノ粒子は樹脂への混錬が難しいのに対し、層状無機化合物は、適度な粒子サイズであるため、樹脂への混錬も比較的し易い。
【0017】
本発明の第3の観点の撥油性樹脂組成物では、前記樹脂(C)が、スチレン系、オレフィン系、ウレタン系、アミド系、エステル系又はポリ塩化ビニル系の樹脂であって、汎用樹脂であるため、入手し易い。
【0018】
本発明の第4の観点の製造方法では、フッ素系化合物(A)と溶媒(D)を混合してフッ素含有液を調製し、このフッ素含有液と層状無機化合物(B)とを混合した混合物を乾燥してフッ素含有層状無機化合物を調製してから、このフッ素含有層状無機化合物を樹脂(C)に混練するため、層状無機化合物のフッ素含有効果により、直接フッ素系化合物を樹脂に添加する場合に比較して、樹脂組成物から作られた成形体に、より撥油性を付与することができ、また樹脂組成物から成形体を作るときに成形性に優れる。
【0019】
本発明の第5の観点の製造方法では、第1ないし第3のいずれかの観点の撥油性樹脂組成物を用いて成形体を製造するため、成形性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の撥油性樹脂組成物の製造フロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0022】
〔撥油性樹脂組成物の製造方法〕
本実施形態の撥油性樹脂組成物の製造方法を説明する。この製造方法は、図1に示すように、先ず、フッ素含有官能基成分(A)を含むフッ素系化合物11と溶媒(D)12を混合してフッ素含有液13を調製する。このフッ素含有液13と層状無機化合物(B)14とを混合して混合物を調製し、この混合物を乾燥してフッ素含有層状無機化合物15を調製する。次に、このフッ素含有層状無機化合物15を樹脂(C)16に混練することにより、撥油性樹脂組成物17を製造する。
【0023】
上記フッ素含有官能基成分(A)を含むフッ素系化合物は、具体的には、下記一般式(3)及び式(4)で示される。式(3)及び式(4)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(5)~(13)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0024】
【化2】
【0025】
【化3】
【0026】
【化4】
【0027】
また、上記式(3)及び式(4)中のXとしては、下記式(14)~(18)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(14)はエーテル結合、下記式(15)はエステル結合、下記式(16)はアミド結合、下記式(17)はウレタン結合、下記式(18)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0028】
【化5】
【0029】
ここで、上記式(14)~(18)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子又は炭素数1から6の炭化水素基である。R2及びR3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基等も挙げられる。
【0030】
また、上記式(3)及び式(4)中、R1は、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0031】
また、上記式(3)及び式(4)中、Zは、加水分解されてSi-O-Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0032】
ここで、上記式(3)及び式(4)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素含有官能基成分を含むフッ素系化合物の具体例としては、例えば、下記式(19)~(27)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(19)~(27)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0033】
【化6】
【0034】
【化7】
【0035】
上述したように、本実施の形態の撥油性樹脂組成物に含まれるフッ素系化合物は、分子内に酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基とペルフルオロアルキレン基が複数結合したペルフルオロエーテル基を有しており、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0036】
上記溶媒(D)としては、炭素数1~4のアルコール又はこのアルコールと水との混合溶媒が挙げられる。この炭素数1~4の範囲にあるアルコールとしては、炭素数がこの範囲にある1種又は2種以上のアルコールが挙げられ、例えば、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点約78.3℃)、プロパノール(n-プロパノール(沸点97-98℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃))が挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、フッ素系化合物と混合し易いためである。上記水としては、不純物の混入防止のため、イオン交換水や純水等を使用するのが望ましい。
【0037】
上記層状無機化合物としては、モンモリロナイト、バイデライト、ノントロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、スティブンサイト等のスメクタイト系層状無機化合物又はバーミキュライトが、前述した効果を有するため、好ましい。
【0038】
上記樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂等のスチレン系樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、環状ポリオレフィン等のオレフィン系樹脂、ポリウレタン等のウレタン系樹脂、ポリアミド等のアミド系樹脂、ポリエステル等のエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリ塩化ビニル系樹脂である。これら以外にも、上記樹脂としては、ポリカーボネート、ポリ酢酸ビニル、ポリ乳酸、アクリル樹脂、ポリアセタール、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンエーテル等の樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、一般的に用いられる樹脂であるため、本実施形態の樹脂組成物の主成分として好ましい。オレフィン系の樹脂を選択すれば、この樹脂は耐薬品性や耐水性に優れているので、成形体に耐薬品性や耐水性の効果がある。ポリエステルの樹脂を選択すれば、この樹脂は透明性や強度に優れた樹脂であるので、透明でかつ強度に優れた成形体が得られる。ポリカーボネートの樹脂を選択すれば、この樹脂は透明で軽くて強靭な樹脂であるので、透明軽量でかつ強靭な成形体を得ることができる。
【0039】
上記フッ素系官能基成分(A)を含むフッ素系化合物と溶媒を混合するときには、液温を好ましくは10℃~50℃の温度に保持して好ましくは1分~24時間撹拌する。フッ素含有液は、フッ素含有液を100質量%とするとき、フッ素系化合物中のフッ素含有官能基成分を0.1質量%~50質量%の割合で、溶媒を50質量%~99.9質量%の割合でそれぞれ混合して調製することが、層状無機化合物とフッ素系化合物を均一に混合することができ、好ましい。フッ素含有液と層状無機化合物(B)とは、プラネタリミキサ等のミキサにより室温で混合することが好ましい。この混合物を100質量%とするとき、フッ素含有液を10質量%~70質量%の割合で、層状無機化合物(B)を30質量%~90質量%の割合で混合して調製することが、層状無機化合物とフッ素含有液を均一に混合することができ、好ましい。層状無機化合物(B)は平均粒径が0.1μm~20μmの粉末状であることが、樹脂への混錬が容易で、成形体の撥油性を発現し易いため、好ましい。平均粒径は画像解析法により測定される値である。
【0040】
フッ素含有液と層状無機化合物(B)とを混合した混合物は、5℃~30℃で真空乾燥することが好ましく、乾燥物は30℃~120℃で0.5時間~24時間熱処理することがフッ素系化合物と層状無機化合物の結合を促進する理由で好ましい。得られたフッ素含有層状無機化合物を樹脂(C)に添加混合し、この混合物を一軸押出機、二軸押出機、オープンロール、ニーダー、ミキサ等の混練機を用いて、120℃~320℃で混練することにより、撥油性樹脂組成物を製造する。この樹脂組成物は、樹脂組成物を100質量%とするとき、フッ素含有層状無機化合物を2.0質量%~20質量%の割合で、樹脂(C)を80質量%~98質量%の割合でそれぞれ含有する。
【0041】
〔撥油性樹脂組成物〕
本実施の形態の撥油性樹脂組成物は、上記製造方法で製造され、全成分量を100質量%とするとき、フッ素含有官能基成分(A)と層状無機化合物(B)とを合計した含有割合が2.0質量%~20質量%、好ましくは3質量%~15質量%であり、樹脂(C)の含有割合が80質量%~98質量%、好ましくは85質量%~95質量%である。また層状無機化合物(B)に対するフッ素含有官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.05~0.8、好ましくは0.1~0.6の範囲にある。
【0042】
フッ素含有官能基成分(A)と層状無機化合物(B)とを合計した含有割合が2.0質量%未満では、フッ素系官能基成分が少な過ぎ、樹脂組成物から作られた成形体の撥油性が低下する。また20質量%を超えると、樹脂組成物において層状無機化合物の含有割合が相対的に高くなり、樹脂組成物の成形性が低下する。
樹脂(C)の含有割合が80質量%未満では、樹脂組成物において層状無機化合物の含有割合が相対的に高くなり、樹脂組成物の成形性が低下する。98質量%を超えると、樹脂組成物においてフッ素系官能基成分が相対的に少なくなり、樹脂組成物から作られた成形体の撥油性が低下する。
層状無機化合物(B)に対するフッ素含有官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.05未満では、樹脂組成物から作られた成形体の撥油性が低下し、この質量比(A/B)が0.08を超えると、樹脂との混合が不十分になり、やはり樹脂組成物から作られた成形体の撥油性が低下する。
【0043】
〔成形体の製造方法〕
本実施形態の撥油性樹脂組成物を用いて成形体を製造する方法について説明する。混練機で混練して得られた樹脂組成物を射出成形、圧縮成形、フィルム化等、公知の方法により成形することにより、撥油性のある成形体を製造することができる。成形時の温度は、樹脂もしくは成型機により最適な温度を設定するが、例えば、熱プレス機でポリプロピレン樹脂を成形する場合、140℃~200℃の範囲が好ましい。成形体の撥油性を十分に発揮させるためには、成形後に成形体を更に加熱処理することが好ましい。加熱処理は、例えば、成形体を加熱オーブン中に、好ましくは70℃~130℃、より好ましくは80℃~120℃の温度で所定時間放置することにより行われる。
【実施例
【0044】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。先ず、実施例と比較例で用いられるフッ素含有層状無機化合物等を調製するための合成例1~8を説明し、次にこれらの合成例1~8を用いた撥油性樹脂組成物の製造に関する実施例1~5及び比較例1~5、並びに合成例1~8を用いない樹脂組成物の製造に関する比較例6~7を説明する。
【0045】
<合成例1>
合成例1では、上記式(19)で表されるフッ素系化合物(R:エチル基)5gと、溶媒としての工業用アルコール(日本アルコール産業社製、AP-7)95gとを25℃で10分撹拌混合してフッ素含有液を調製した。このフッ素含有液と層状無機化合物としてのスメクトン-SA(クニミネ工業社製、サポナイト)100gとをプラネタリミキサで室温にて混合した後、室温で真空乾燥させた。真空乾燥した乾燥物を100℃の温度で2時間熱処理して、フッ素含有官能基成分を付与したフッ素含有層状無機化合物を得た。このフッ素含有層状無機化合物の配合割合を以下の表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
<合成例2~7>
合成例2~7では、先ず、表1に示すように、合成例1と異なるフッ素含有官能基成分を含むフッ素系化合物を選定し、このフッ素系化合物と合成例1と同じ溶媒とを、表1に示す割合で合成例1と同様に撹拌混合してフッ素含有液を得た。次いで、得られたフッ素含有液と合成例1と異なる層状無機化合物とを合成例1と同様にして、表1に示す割合で混合した後、合成例1と同様に真空乾燥させた。真空乾燥した乾燥物を合成例1と同様に熱処理して、フッ素含有官能基成分を付与したフッ素含有層状無機化合物を得た。式(20)、式(24)、式(27)におけるRはエチル基であった。
【0048】
<合成例8>
合成例8では、表1に示すように、上記式(27)で表されるフッ素系化合物(R:エチル基)20gと、溶媒としての工業用アルコール(日本アルコール産業社製、AP-7)200gとを合成例1と同様に撹拌混合してフッ素含有液を調製した。層状無機化合物の代わりに、二酸化ケイ素粉末(日本アエロジル社製、アエロジル300)100gを秤量して用いた。得られたフッ素含有液とこの二酸化ケイ素粉末とを合成例1と同様に混合した後、合成例1と同様に真空乾燥させた。真空乾燥した乾燥物を合成例1と同様に熱処理して、フッ素含有官能基成分を付与したフッ素含有二酸化ケイ素粉末を得た。式(27)におけるRはエチル基であった。表1には、層状無機化合物(B)に対するフッ素含有官能基成分(A)の質量比である『(A/B)』を示す。
【0049】
<実施例1>
合成例1で得られたフッ素含有層状無機化合物50gと、樹脂(C)としてのポリプロピレン樹脂(三井化学社製、ノバテック)200gとを混合した後、二軸押出の混練機を用いて、220℃の温度で80rpmの回転速度で混錬し、撥油性樹脂組成物を得た。この撥油性樹脂組成物の配合割合を以下の表2に示す。
【0050】
【表2】
【0051】
<実施例2~5及び比較例1~4>
実施例2~5及び比較例1~4では、表2に示すように、実施例1と同じか、又は異なる樹脂を選定し、この樹脂と合成例2~8で得られたフッ素含有層状無機化合物とを、表2に示す割合で混合した後、実施例1と同様に混練して撥油性樹脂組成物を得た。
【0052】
<比較例5>
比較例5では、合成例8で得られたフッ素含有官能基成分を付与したフッ素含有二酸化ケイ素粉末22gと、実施例1と同じポリプロピレン樹脂200gとを混合した後、実施例1と同様に混練して撥油性樹脂組成物を得た。
【0053】
<比較例6>
比較例6では、層状無機化合物を用いずに、実施例1と同じポリプロピレン樹脂300gと、式(27)で表されるフッ素系化合物(R:エチル基)6gとを混合した後、実施例1と同様に混練して撥油性樹脂組成物を得た。
【0054】
<比較例7>
比較例7では、実施例1と同じポリプロピレン樹脂300gと、式(27)で表されるフッ素系化合物(R:エチル基)6gとを混合し、実施例1と同様に混練した後で、この混練物200gに層状無機化合物としてのラポライト-RD(BYK社製、ヘクトライト)5gを混合した。以下、実施例1と同様に混練して撥油性樹脂組成物を得た。
【0055】
表2には、全成分量を100質量%とするとき、フッ素含有官能基成分(A)と層状無機化合物(B)とを合計した含有割合である『(A+B)/全成分量』(質量%)と、樹脂(C)の含有割合である『C/全成分量』(質量%)と、層状無機化合物(B)に対するフッ素含有官能基成分(A)の質量比である『(A/B)』を、それぞれ示す。
【0056】
<比較試験及び評価>
実施例1~5及び比較例1~7で得られた12種類の撥油性樹脂組成物をそれぞれ2g採取して下型に入れ、170℃の温度で、上型に10MPaの圧力を加えて、90秒間それぞれ別々に熱圧成形し、たて50mm、よこ50mm、厚さ3mmの正方形の成形体をそれぞれ得た。これらの成形体から、樹脂組成物の成形性と、成形体表面の撥油性(n-ヘキサデカンの接触角とn-ヘキサデカンの転落角)を評価した。これらの結果を以下の表3に示す。
【0057】
(1) 成形性
樹脂組成物の成形性は、成形体を型から取り出すときに、成形体に割れ、欠け、亀裂等の欠陥が発生するか否かを目視で調べ、型から良好に剥離し、成形物を得られた場合を『良好』とし、一部の割れや欠けが発生した場合を『可』とし、割れ等が発生し、型から成形物を取り出せなかった場合を『不良』とした。
【0058】
(2) 成形体表面の撥油性(n-ヘキサデカンの接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn-ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価する成形体表面をこの液滴に近づけて成形体表面に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が成形体表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、成形体表面の撥油性を評価した。
【0059】
(3) 成形体表面の撥油性(n-ヘキサデカンの転落角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに25℃±1℃のn-ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、水平に置いた成形体上にシリンジからn-ヘキサデカンを9μLの液滴を滴下し、成形体を2度/分の速度で傾斜させ、n-ヘキサデカンの液滴が移動開始するときの成形体の傾けた角度を測定した。成形体を90度傾けても液滴が転落しない場合又は液滴が成形体に濡れ広がる場合を『転落せず』とした。場所によっては転落したりしなかったりした場合を『一部転落せず』とした。この転落角が小さい方が撥油性が高いことを意味する。
【0060】
【表3】
【0061】
表3から明らかなように、比較例1では、フッ素含有層状無機化合物が86gと多く、フッ素含有官能基成分(A)と層状無機化合物(B)とを合計した含有割合である『(A+B)/全成分量』が30質量%と高過ぎたため、樹脂組成物において層状無機化合物の含有割合が相対的に高くなり、樹脂組成物の成形性が『不良』であった。このため、成形体の撥油性を評価できなかった。
【0062】
比較例2では、フッ素含有層状無機化合物が2gと少なく、フッ素含有官能基成分(A)と層状無機化合物(B)とを合計した含有割合が1質量%と低過ぎたため、フッ素系官能基成分が少な過ぎ、成形性は『良好』であったが、n-ヘキサデカンの接触角は7度であり、その転落性試験では油が転落せず、成形体の撥油性が不良であった。
【0063】
比較例3では、層状無機化合物(B)に対するフッ素含有官能基成分(A)の質量比(A/B)が0.01と低過ぎたため、フッ素含有官能基成分が少な過ぎ、成形性は『良好』であったが、n-ヘキサデカンの接触角は8度であり、その転落性試験では油が転落せず、成形体の撥油性が不良であった。
【0064】
比較例4では、層状無機化合物(B)に対するフッ素含有官能基成分(A)の質量比(A/B)が1と高過ぎたため、フッ素含有官能基成分が多過ぎて、樹脂組成物中にフッ素系化合物が均一に混ざっておらず、油を弾く箇所と弾かない箇所が発生した。成形性は『可』であり、n-ヘキサデカンの接触角は33度であり、その転落性試験では油が一部転落せず、成形体の撥油性が不良であった。
【0065】
比較例5では、樹脂組成物に層状無機化合物の代わりに二酸化ケイ素粉末を含ませたため、成形性は『良好』であったが、n-ヘキサデカンの接触角は18度であり、その転落性試験では油が転落せず、成形体の撥油性が不良であった。
【0066】
比較例6では、樹脂組成物にフッ素系化合物以外に層状無機化合物等の添加物を含ませなかったため、成形性は『良好』であったが、n-ヘキサデカンの接触角は20度であり、その転落性試験では油が転落せず、成形体の撥油性が不良であった。
【0067】
比較例7では、ポリプロピレン樹脂と、フッ素含有官能基成分を含むフッ素系化合物とを混合した後で、層状無機化合物を添加したため、層状無機化合物のフッ素含有効果がなく、成形性は『良好』であったが、n-ヘキサデカンの接触角は13度であり、その転落性試験では油が転落せず、成形体の撥油性が不良であった。
【0068】
これに対して、表3から明らかなように、実施例1~5では、『(A+B)/全成分量』と、『C/全成分量』と、『(A/B)』の質量比が本発明の第1の観点に記載した要件を満たすため、樹脂組成物の成形性は『可』又は『良好』であり、n-ヘキサデカンの接触角は26度~35度であり、その転落角は19度~25度であり、撥油性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の撥油性樹脂組成物は、台所用品、浴室用品等の汚れの激しい成形体を作るのに利用することができる。
図1