IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧

特許7551492電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法
<>
  • 特許-電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法 図1
  • 特許-電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法 図2
  • 特許-電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法 図3
  • 特許-電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法 図4
  • 特許-電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法 図5
  • 特許-電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法 図6
  • 特許-電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法 図7
  • 特許-電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/42 20060101AFI20240909BHJP
   H01M 10/48 20060101ALI20240909BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240909BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240909BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20240909BHJP
   H01M 10/615 20140101ALI20240909BHJP
   H01M 10/647 20140101ALI20240909BHJP
   H01M 10/6571 20140101ALI20240909BHJP
   H01M 10/52 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
H01M10/42 P
H01M10/48 A
H01M10/052
H01M10/0562
H01M10/058
H01M10/615
H01M10/647
H01M10/48 301
H01M10/6571
H01M10/52
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020212399
(22)【出願日】2020-12-22
(65)【公開番号】P2022098799
(43)【公開日】2022-07-04
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 陽介
(72)【発明者】
【氏名】岡田 圭司
(72)【発明者】
【氏名】矢口 竜也
(72)【発明者】
【氏名】間野 忠樹
(72)【発明者】
【氏名】須賀 創平
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-193727(JP,A)
【文献】特開2019-053850(JP,A)
【文献】特開2018-063927(JP,A)
【文献】特開2009-117168(JP,A)
【文献】国際公開第2011/118799(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42
H01M 10/48
H01M 10/052
H01M 10/0562
H01M 10/058
H01M 10/615
H01M 10/647
H01M 10/6571
H01M 10/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、固体電解質と、負極活物質を含む負極とを有し、前記正極及び/又は前記固体電解質に硫黄系材料を使用したリチウムイオン二次電池と、
リチウムと結合してリチウム化合物を形成するためのリチウム化合物形成ガスを前記リチウムイオン二次電池に供給するガス供給手段と、
前記ガス供給手段を制御するコントローラと、を備え、
前記コントローラは、
前記リチウムイオン二次電池における硫化水素の発生を予測又は検知し、
前記リチウムイオン二次電池における前記硫化水素の発生が予測又は検知された場合に、前記ガス供給手段により前記リチウムイオン二次電池に前記リチウム化合物形成ガスを供給する電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電池システムであって、
前記リチウムイオン二次電池を収容するバッテリーケースをさらに備え、
前記ガス供給手段は、前記バッテリーケースの内部に前記リチウム化合物形成ガスを供給し、
前記コントローラは、前記バッテリーケースの内部に供給する前記リチウム化合物形成ガスの体積が前記バッテリーケースの内部における空隙の体積の0.1%以下となるように、前記ガス供給手段を制御する電池システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電池システムであって、
前記電池システムは、前記リチウムイオン二次電池を加熱する加熱手段をさらに備え、
前記コントローラは、
前記リチウムイオン二次電池の温度を測定し、
前記リチウムイオン二次電池の温度が所定の温度以下である場合に、前記加熱手段により前記リチウムイオン二次電池を加熱してから、前記ガス供給手段により前記リチウムイオン二次電池に前記リチウム化合物形成ガスを供給する電池システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の電池システムであって、
前記コントローラは、
前記リチウムイオン二次電池の温度を測定し、
前記リチウムイオン二次電池の温度が所定の温度以上である場合に、前記ガス供給手段により前記リチウムイオン二次電池に前記リチウム化合物形成ガスを供給する電池システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の電池システムであって、
前記リチウム化合物形成ガスは、空気、窒素ガス、又は炭酸ガスを含む電池システム。
【請求項6】
請求項5に記載の電池システムであって、
前記ガス供給手段は、
前記空気を除湿する除湿手段を有し、
前記除湿手段により除湿した前記空気を前記リチウムイオン二次電池に供給する電池システム。
【請求項7】
正極活物質を含む正極と、固体電解質と、負極活物質を含む負極とを有し、前記正極及び/又は前記固体電解質に硫黄系材料を使用したリチウムイオン二次電池を制御する方法であって、
センサを用いて、前記リチウムイオン二次電池の状態を検出し、
前記センサの検出値から、前記リチウムイオン二次電池における、硫化水素の発生を予測又は検知し、
前記リチウムイオン二次電池における前記硫化水素の発生が予測又は検知された場合には、ガス供給手段により、リチウムと結合してリチウム化合物を形成するためのリチウム化合物形成ガスを前記リチウムイオン二次電池に供給するリチウムイオン二次電池の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池の電池システム及びリチウムイオン二次電池の制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、異常を検出した場合に、電力供給素子を収納した電力供給素子収納空間内に消火剤を供給する電力機器が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2009/110200号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、硫黄系材料を含む固体型電池においては、異常時に硫黄系材料と水分とが反応してしまうことがあり、その反応により硫化水素が発生してしまうことがある。このような場合に、上記の電力機器のように、電力供給素子収納空間内の雰囲気を消火剤に置換する方法では雰囲気の置換に時間がかかり、硫化水素の発生の抑制に要する時間が増加してしまうという問題がある。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、硫化水素の発生の抑制に要する時間を低減できる電池システム及び電池の冷却方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、硫黄系材料を前記正極及び/又は前記固体電解質に使用したリチウムイオン二次電池における、硫化水素の発生を予測又は検知し、硫化水素の発生が予測又は検知された場合には、リチウムイオン二次電池にリチウムと結合してリチウム化合物を形成するリチウム化合物形成ガスを供給することにより、上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、硫化水素の発生の抑制に要する時間を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係る電池システムを示すブロック図である。
図2図2(a)は本実施形態に係る二次電池の平面図であり、図2(b)は図2(a)のIII-III線に沿った断面図である。
図3図3は、硫黄系材料で硫化水素反応が生じたときから、硫化水素の発生が止まるまでの推移を説明するための概念図である。
図4図4は、リチウムイオン二次電池の制御方法を示すフローチャートである。
図5図5(a)及び図5(b)は、本実施形態の変形例による、リチウムイオン二次電池の制御方法を示すフローチャートである。
図6図6は、実施例の評価結果を説明するための図であって、硫化水素の発生濃度の継時変化を示すグラフである。
図7図7(a)~図7(c)は、実施例の評価結果を説明するための図であって、X線電子分光(XPS)による表面分析の結果を示すグラフである。
図8図8は、実施例の評価結果を説明するための図であって、ガスクロマトグラフィーによる定量分析の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本実施形態に係る電池システムを示すブロック図である。本実施形態に係る電池システムは、二次電池における硫化水素の発生を予測又は検知し、硫化水素の発生が予測又は検知された場合に、リチウムと結合することでリチウム化合物を形成するためのリチウム化合物形成ガスを二次電池に供給することで、硫化水素の発生を抑制する。この電池システム1は、図1に示すように、バッテリーパック部10と、加熱制御部20と、ガス制御部30と、を備えている。
【0010】
バッテリーパック部10は、バッテリーケース11と、複数の二次電池(セル電池)12と、複数の伝熱板13a,13bと、加熱素子14と、を有している。バッテリーケース11は、金属製のケースであり、バッテリーパック部10の二次電池12、伝熱板13a,13b、及び加熱素子14を収容している。
【0011】
二次電池12は、二次電池12の主面が互いに略平行となるように並べられている。本実施形態における二次電池12は、全固体リチウムイオン二次電池である。即ち、二次電池12は、リチウムイオンを吸蔵放出可能な正極活物質を含有する正極活物質層を含む正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極活物質を含有する負極活物質層を含む負極と、正極活物質層および負極活物質層との間に介在する固体電解質層と、を有する発電要素を備える。二次電池12は、発電要素の他に、電極タブと、電極タブ及び発電要素を収容する外装部材を有している。また、二次電池12は、少なくとも硫黄系材料を使用した電池であって、正極用の材料及び/又は固体電解質の材料として、硫黄成分を含有している。二次電池の詳細な構造及び材料については後述する。
【0012】
伝熱板13aは、二次電池12に隣り合うように配置されており、二次電池12に略平行となるように並べられている。伝熱板13aは、二次電池12の両主面側から当該二次電池12を挟み込んでおり、伝熱板13aと二次電池12とは交互に配置されるように積層されている。このように、伝熱板13aと二次電池12とが積層されていることで、伝熱板13aは二次電池12と熱的に接続されている。
【0013】
また、伝熱板13aの下端は、伝熱板13bに接続されている。この伝熱板13bは、二次電池12と略垂直となるように、二次電池12及び伝熱板13aの下側に配置されている。この伝熱板13bは、二次電池12の下端とも接触しており、二次電池12と熱的に接続されている。伝熱板13a,13bとしては、伝熱性に優れた部材であれば任意の部材を用いることができるが、例えば、金属板等を用いることができる。
【0014】
加熱素子14は、伝熱板13bの下面と接触するように、バッテリーケース11の底面に配置されている。この加熱素子14は、上述の伝熱板13a,13bを介して、二次電池12を加熱することが可能なように構成されている。この加熱素子14としては、発熱が可能な素子であれば任意の素子を用いることができるが、例えば、発熱抵抗等を用いることができる。本実施形態のように、伝熱板13a,13bを介して二次電池12を加熱することで、二次電池12を効率的に加熱することができる。
【0015】
この加熱素子14は、加熱制御部20により制御されている。加熱制御部20は、複数の温度センサ21と、温度監視装置22と、加熱コントローラ23と、を有している。温度センサ21は、バッテリーケース11の内部に収容されていると共に、各二次電池12に取り付けられている。この温度センサ21は、二次電池12の温度に応じた検出値を温度監視装置22に出力する。この温度センサ21としては、特に限定されないが、サーミスタや熱電対等を用いることができる。
【0016】
温度監視装置22は、CPU及びメモリ等を有している。この温度監視装置22は、温度センサ21から出力された検出値に基づいて各二次電池12の温度を演算し、加熱コントローラ23に送信する。この加熱コントローラ23は、温度監視装置22と同様に、CPU及びメモリ等を有している。加熱コントローラ23は、加熱素子14のON/OFFや加熱出力等を、温度監視装置22から入力された演算温度に応じて制御することができる。本実施形態では、加熱コントローラ23は、バッテリーケース11内の硫化水素の発生が予測又は検知された場合であり、かつ、二次電池12が所定の温度以下である場合に、加熱素子14により二次電池12の加熱を行う。
【0017】
ガス制御部30は、バッテリーケース11内の硫化水素の発生の予測又は検知を行うと共に、リチウムと結合してリチウム化合物を形成するためのリチウム化合物形成ガスをバッテリーケース11内に供給する。本実施形態では、リチウム化合物形成ガスとして空気(乾燥空気)を用いる場合を説明する。ガス制御部30は、配管31と、通気口32と、除湿フィルタ33と、開閉バルブ34と、硫化水素濃度計35と、ガスコントローラ36と、を有している。
【0018】
配管31は、バッテリーケース11を貫通するように配置された中空の管であり、バッテリーケース11の外側から内側に亘って延在している。この配管31は、バッテリーケース11の内部への気体の輸送に用いられるものであり、配管31の排気口がバッテリーケース11の内部に位置している一方で、吸気口はバッテリーケース11の外部に位置している。また、この配管31には、通気口32と、除湿フィルタ33と、開閉バルブ34と、が、配管31を介して相互に連結するように設けられている。なお、本実施形態では特に図示しないが、配管31にはポンプが設けられていてもよく、当該ポンプにより空気の輸送を行ってもよい。
【0019】
通気口32は、配管31の吸気口側の端部に設けられており、バッテリーケース11の外部に位置している。この通気口32からバッテリーケース11の外部の空気を吸入し、当該空気を配管31を介してバッテリーケース11の内部に送り込むことができる。除湿フィルタ33は、通気口32と開閉バルブ34の間に設けられている。この除湿フィルタ33は、特に限定されないが、乾燥剤を含有するシート等から構成されており、通気口32から送られた空気中の水分を取り除くことができる。バッテリーケース11に送る空気から水分を除去することで、当該空気に含まれる水分と硫黄系材料との反応を防止し、硫化水素の発生をより効果的に抑制することができる。なお、バッテリーケース11の外気の湿度が低い場合等には、除湿フィルタ33を省略してもよい。
【0020】
開閉バルブ34は、配管31において除湿フィルタ33よりも排気口側に設けられている。この開閉バルブ34は、配管31を開閉することができると共に、バッテリーケース11の内部に送り込む空気の流量を調整することができる。この開閉バルブ34は、ガスコントローラ36によって制御される。開閉バルブ34は、通常時には閉ざされているが、二次電池12における硫化水素の発生が検知された場合には、ガスコントローラ36により開かれる。
【0021】
硫化水素濃度計35は、バッテリーケース11内に配置されており、当該バッテリーケース11内の雰囲気中の硫化水素濃度を測定することで、二次電池12の状態を検出することができる。二次電池12に硫黄系材料を使用した場合、硫黄と水分が反応すると硫化水素が発生する。何らかの原因で硫化水素が発生した場合には、硫化水素の濃度が変化する。この変化を測定することで、二次電池12の状態を検出することができる。
【0022】
また、硫化水素濃度計35は、硫化水素濃度の検出値をガスコントローラ36に出力する。ガスコントローラ36は、CPU及びメモリ等を有しており、硫化水素濃度計35の検出値に基づき、二次電池12における硫化水素の発生を検知する制御装置である。ガスコントローラ36は、開閉バルブ34を制御して、配管31に流れる空気の流量を調整しながら、バッテリーケース11の内部に空気を送り込む。
【0023】
次に、図2(a)及び図2(b)を参照して、二次電池(全固体リチウムイオン二次電池)12の構造を説明する。図2(a)に、本実施形態に係る二次電池12の平面図、図2(b)に、図2(a)のIII-III線に沿った二次電池12の断面図を示す。なお、二次電池12の構造は、図2(a)及び図2(b)に示す構造に限らず、その他の構造でもよい。
【0024】
二次電池12は、図2(a)及び図2(b)に示すように、3つの正極層102、7つの電解質層103、3つの負極層104を有する発電要素101と、3つの正極層102にそれぞれ接続された正極タブ105と、3つの負極層104にそれぞれ接続された負極タブ106と、これら発電要素101および正極タブ105、負極タブ106を収容して封止している上部外装部材107および下部外装部材108とから構成されている。
【0025】
なお、正極層102、電解質層103、負極層104の数は特に限定されず、1つの正極層102、3つの電解質層103、1つの負極層104で、発電要素101を構成してもよいし、また、必要に応じて正極層102、電解質層103および負極層104の枚数を適宜選択してもよい。
【0026】
発電要素101を構成する正極層102は、正極タブ105まで伸びている正極側集電体102a、および正極側集電体102aの一部の両主面にそれぞれ形成された正極活物質層を有している。正極層102を構成する正極側集電体102aとしては、たとえば、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅チタン箔、または、ステンレス箔等の電気化学的に安定した金属箔で構成することができる。正極側集電体102aには、金属としては、ニッケル、鉄、銅などが用いられてもよい。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。
【0027】
正極側集電体102aには、金属の代わりに、導電性を有した樹脂を用いてもよい。導電性を有する樹脂は、非導電性高分子材料に必要に応じて導電性フィラーを添加された樹脂で構成することができる。非導電性高分子材料としては、例えば、ポリエチレン(PE;高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)など)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等、優れた耐電位性を有した材料が用いられる。導電性フィラーは、導電性を有する物質であれば特に制限なく用いることができる。例えば、導電性、耐電位性、またはリチウムイオン遮断性に優れた材料として、金属および導電性カーボンなどが挙げられる。金属としては、特に制限はないが、Ni、Ti、Al、Cu、Pt、Fe、Cr、Sn、Zn、In、およびSbからなる群から選択される少なくとも1種の金属もしくはこれらの金属を含む合金または金属酸化物が挙げられる。
【0028】
正極層102を構成する正極活物質層としては、特に制限されないが、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の酸化物活物質としては、例えば、LiTi12が挙げられる。リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好ましく用いられ、さらに好ましくはLi(Ni-Mn-Co)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、Pなどが挙げられる。
【0029】
正極活物質層には、硫黄系正極活物質が用いられてもよい。硫黄系正極活物質としては、有機硫黄化合物または無機硫黄化合物の粒子または薄膜が挙げられ、硫黄の酸化還元反応を利用して、充電時にリチウムイオンを放出し、放電時にリチウムイオンを吸蔵することができる物質であればよい。有機硫黄化合物としては、ジスルフィド化合物、硫黄変性ポリアクリロニトリルなどが挙げられる。無機硫黄化合物としては、硫黄(S)、S-カーボンコンポジット、TiS、TiS、TiS、NiS、NiS、CuS、FeS、LiS、MoS、MoS等が挙げられる。
【0030】
なお、上記以外の正極活物質が用いられてもよい。正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されない。正極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、バインダの少なくとも1つをさらに含有してもよい。正極活物質の形状は、例えば、粒子状(球状、繊維状)、薄膜状等が挙げられる。正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されない。正極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電助剤、バインダの少なくとも1つをさらに含有してもよい。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質が挙げられ、後述する電解質層103を構成可能な固体電解質として例示されたものなどを用いることができる。
【0031】
導電助剤としては、特に限定されないが、その形状が、粒子状または繊維状であるものであることが好ましい。導電助剤が粒子状である場合、粒子の形状は特に限定されず、粉末状、球状、棒状、針状、板状、柱状、不定形状、燐片状、紡錘状等、いずれの形状であっても構わない。導電助剤が粒子状である場合の平均粒子径(一次粒子径)は、特に限定されるものではないが、電池の電気特性の観点から、0.01~10μmであることが好ましい。
【0032】
バインダとしては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)(水素原子が他のハロゲン元素にて置換された化合物を含む)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン、ポリブテン、ポリエーテルニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体およびその水素添加物などの熱可塑性高分子;テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、エチレン・テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂;ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-PFP系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-ペンタフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFP-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-パーフルオロメチルビニルエーテル-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-PFMVE-TFE系フッ素ゴム)、ビニリデンフルオライド-クロロトリフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-CTFE系フッ素ゴム)等のビニリデンフルオライド系フッ素ゴム;エポキシ樹脂;等が挙げられる。中でも、ポリイミド、スチレン・ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミドであることがより好ましい。
【0033】
そして、これら3枚の正極層102を構成する各正極側集電体102aが、正極タブ105に接合されている。正極タブ105としては、アルミニウム箔、アルミニウム合金箔、銅箔、または、ニッケル箔等を用いることができる。
【0034】
発電要素101を構成する負極層104は、負極タブ106まで伸びている負極側集電体104aと、当該負極側集電体104aの一部の両主面にそれぞれ形成された負極活物質層とを有している。負極層104の負極側集電体104aは、例えば、ニッケル箔、銅箔、ステンレス箔、または、鉄箔等の電気化学的に安定した金属箔である。
【0035】
負極層104は、負極活物質を含有する層で形成されている。負極活物質の種類としては、特に制限されないが、炭素材料、金属酸化物および金属活物質が挙げられる。炭素材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボン、ソフトカーボン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、Nb、LiTi12、SiO等が挙げられる。さらに、金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSn等の金属単体や、TiSi、LaNiSn等の合金が挙げられる。
【0036】
また、負極活物質は、Liを含有する金属でもよく、このような負極活物質は、Liを含有する活物質であれば特に限定されず、Li金属のほか、Liを含有するリチウム合金でもよい。リチウム合金としては、たとえば、リチウムと、金(Au),マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、及びビスマス(Bi)から選択される少なくとも1種の金属との合金が挙げられる。また、リチウム合金としては、リチウムと、上述した金属のうち2種以上の金属との合金であってもよい。リチウム合金の具体例としては、例えば、リチウム-金合金(Li-Au)、リチウム-マグネシウム合金(Li-Mg)、リチウム-アルミニウム合金(Li-Al)、リチウム-カルシウム合金(Li-Ca)、リチウム-亜鉛合金(Li-Zn),リチウム-スズ合金(Li-Sn)、リチウム-ビスマス合金(Li-Bi)などが挙げられる。
【0037】
なお、負極活物質層としては、リチウム合金を含有するものであればよく、その構成は、特に限定されないが、たとえば、リチウム合金を構成するリチウム以外の金属を「Me」とした場合に、次の(1)~(3)のいずれかの態様とすることができる。(1)リチウム合金のみからなる単一の層からなるもの(すなわち、Li-Me層)。(2)リチウム金属からなる層と、リチウム合金からなる層とを備えるもの(すなわち、Li層/Li-Me層)。(3)リチウム金属からなる層と、リチウム合金からなる層と、リチウム以外の金属からなる層とを備えるもの(すなわち、Li層/Li-Me層/Me層)。上記(2)の態様においては、リチウム合金からなる層(Li-Me層)を電解質層103側の層(電解質層103との界面を形成する層)とすることが望ましく、また、上記(3)の態様においては、リチウム以外の金属からなる層(Me層)を電解質層103側の層(電解質層103との界面を形成する層)とすることが望ましい。リチウム金属を含むリチウム金属層と、リチウム金属とは異なる金属を含む層(中間層)とする場合には、中間層は、リチウム金属層と固体電解質の間の層であり、リチウム金属のうち少なくとも一部と、中間層を形成する金属のうち少なくとも一部とが、合金化することが望ましい。
【0038】
例えば、負極を、上記(3)の態様、すなわち、リチウム金属からなる層と、リチウム合金からなる層と、リチウム以外の金属からなる層とを備える態様(すなわち、Li層/Li-Me層/Me層)とする場合には、リチウム金属と、リチウム以外の金属とを積層することで、これらの界面部分を合金化し、これにより、これらの界面にリチウム合金からなる層を形成することができる。なお、リチウム金属と、リチウム以外の金属とを積層する方法としては、特に限定されないが、リチウム金属からなる層の上に、リチウム以外の金属を真空蒸着などにより蒸着させることにより、リチウム金属からなる層の上に、リチウム以外の金属からなる層を形成しつつ、これらの界面を合金化させる方法が挙げられる。あるいは、リチウム以外の金属からなる層上に、リチウム金属を真空蒸着などにより蒸着させ、リチウム以外の金属からなる層の上に、リチウム金属からなる層を形成しつつ、これらの界面を合金化させる方法などが挙げられる。
【0039】
なお、本実施形態の二次電池12では、3枚の負極層104は、負極層104を構成する各負極側集電体104aが、単一の負極タブ106に接合されるような構成となっている。すなわち、本実施形態の二次電池12では、各負極層104は、単一の共通の負極タブ106に接合された構成となっている。
【0040】
発電要素101の電解質層103は、上述した正極層102と負極層104との短絡を防止するものであり、固体電解質を主成分として含有し、上述した正極活物質層と負極活物質層との間に介在する層である。固体電解質としては、例えば、硫化物固体電解質や酸化物固体電解質、高分子固体電解質などが挙げられるが、硫化物固体電解質であることが好ましい。
【0041】
硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPS、LiPSCl、LiS-P、LiS-P-LiI、LiS-P-LiO、LiS-P-LiOLiI、LiS-SiS、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiBr、LiS-SiS-LiCl、LiS-SiS-B-LiI、LiS-SiS-P-LiI、LiS-B、LiS-P-ZmSn(ただし、m、nは正の数であり、Zは、Ge、Zn、Gaのいずれかである)、LiS-GeS、LiS-SiS-LiPO、LiS-SiS-LixMOy(ただし、x、yは正の数であり、Mは、P、Si、Ge、B、Al、Ga、Inのいずれかである)等が挙げられる。なお、「LiS-P」の記載は、LiSおよびPを含む原料組成物を用いてなる硫化物固体電解質を意味し、他の記載についても同様である。
【0042】
硫化物固体電解質は、例えば、LiPS骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよく、Li骨格を有していてもよい。LiPS骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LiI-LiPS、LiI-LiBr-LiPS、LiPSが挙げられる。また、Li骨格を有する硫化物固体電解質としては、例えば、LPSと称されるLi-P-S系固体電解質(例えば、Li11)が挙げられる。また、硫化物固体電解質として、例えば、Li(4-x)Ge(1-x)(xは、0<x<1を満たす)で表されるLGPS等を用いてもよい。なかでも、硫化物固体電解質は、P元素を含む硫化物固体電解質であることが好ましく、硫化物固体電解質は、LiS-Pを主成分とする材料であることがより好ましい。さらに、硫化物固体電解質は、ハロゲン(F、Cl、Br、I)を含有していてもよい。
【0043】
また、硫化物固体電解質がLiS-P系である場合、LiSおよびPの割合は、モル比で、LiS:P=50:50~100:0の範囲内であることが好ましく、なかでもLiS:P=70:30~80:20であることが好ましい。また、硫化物固体電解質は、硫化物ガラスであってもよく、結晶化硫化物ガラスであってもよく、固相法により得られる結晶質材料であってもよい。なお、硫化物ガラスは、例えば原料組成物に対してメカニカルミリング(ボールミル等)を行うことにより得ることができる。また、結晶化硫化物ガラスは、例えば硫化物ガラスを結晶化温度以上の温度で熱処理を行うことにより得ることができる。また、硫化物固体電解質の常温(25℃)におけるイオン伝導度(例えば、Liイオン伝導度)は、例えば、1×10-5S/cm以上であることが好ましく、1×10-4S/cm以上であることがより好ましい。なお、固体電解質のイオン伝導度の値は、交流インピーダンス法により測定することができる。
【0044】
酸化物固体電解質としては、例えば、NASICON型構造を有する化合物等が挙げられる。NASICON型構造を有する化合物の一例としては、一般式Li1+xAlGe2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LAGP)、一般式Li1+xAlTi2-x(PO(0≦x≦2)で表される化合物(LATP)等が挙げられる。また、酸化物固体電解質の他の例としては、LiLaTiO(例えば、Li0.34La0.51TiO)、LiPON(例えば、Li2.9PO3.30.46)、LiLaZrO(例えば、LiLaZr12)等が挙げられる。電解質層103は、上述した固体電解質に加えて、バインダをさらに含有していてもよい。バインダとしては、特に限定されないが、例えば、上述したものを用いることができる。
【0045】
固体電解質の含有量は、例えば、10~100質量%の範囲内であることが好ましく、50~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0046】
以上のように、本実施形態に用いられる正極層102は、正極活物質として硫黄化合物を含むことで、硫黄系材料を使用し、電解質層103が、硫化物固体電解質を主成分として含むことで、硫黄材料を使用する。なお、硫黄系材料は、正極層102及び電解質層103のうち、いずれか一方の層に使用すればよい。
【0047】
そして、図2(b)に示すように、正極層102と負極層104とは、電解質層103を介して、交互に積層され、さらに、その最上層および最下層に電解質層103がそれぞれ積層されており、これにより、発電要素101が形成されている。
【0048】
以上のように構成されている発電要素101は、上部外装部材107および下部外装部材108に収容されて封止されている。発電要素101を封止するための上部外装部材107および下部外装部材108は、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂フィルムや、アルミニウムなどの金属箔の両面をポリエチレンやポリプロピレンなどの樹脂でラミネートした、樹脂-金属薄膜ラミネート材など、柔軟性を有する材料で形成されており、これら上部外装部材107および下部外装部材108を熱融着することにより、正極タブ105および負極タブ106を外部に導出させた状態で、発電要素101が封止されることとなる。
【0049】
なお、正極タブ105および負極タブ106には、上部外装部材107および下部外装部材108と接触する部分に、上部外装部材107および下部外装部材108との密着性を確保するために、シールフィルム109が設けられている。シールフィルム109としては、特に限定されないが、たとえば、ポリエチレン、変性ポリエチレン、ポリプロピレン、変性ポリプロピレン、または、アイオノマー等の耐電解液性及び熱融着性に優れた合成樹脂材料から構成することができる。
【0050】
上記のように、本実施形態に用いられる二次電池12は硫黄系材料を含んでいる。何らかの原因で、硫黄と水分が反応した場合には硫化水素が発生する。そして、硫化水素が、二次電池12外に流出した場合には、バッテリーケース11内の金属部品を腐食させる可能性がある。そのため、硫化水素の発生が予測又は検知した場合には、硫化水素の発生を抑制することが求められる。
【0051】
図3は、硫黄系材料で硫化水素反応が生じたときから、硫化水素の発生が止まるまでの推移を説明するための概念図である。硫黄系材料が水分に触れると、硫化水素が発生する。このような硫化水素発生反応と同時に、リチウム金属が酸素と反応し、リチウム化合物が形成される。このリチウム化合物の形成速度は、セル温度が高いほど速くなる。図3に示すように、硫化水素発生反応は、主に、硫黄系材料41の表層部で起こるため、リチウム化合物42は硫黄系材料41の表層部に形成される。そして、硫黄系材料41がリチウム化合物42で覆われると、硫化水素発生が止まる。本実施形態では、リチウム化合物42が硫黄系材料41の表層部に形成されることで硫化水素の発生が止まることに着目し、リチウムと結合してリチウム化合物を形成するリチウム化合物形成ガスを二次電池12に供給して、正極及び/又は固体電解質に保護被膜としてのリチウム化合物を形成することで、硫化水素の発生を抑制する。
【0052】
次いで、本実施形態における硫化水素の発生を検知し、二次電池12にリチウム化合物形成ガスを供給する方法を説明する。ここではまず、二次電池12の温度に関わらず、リチウム化合物形成ガスを供給する方法を説明する。図4は、ガスコントローラ36の制御手順を示すフローチャートである。なお、ガスコントローラ36は、二次電池12の充放電時に、図4の制御フローを実行する。
【0053】
ステップS1にて、ガスコントローラ36は、硫化水素濃度計35の検出値を取得することで、二次電池12の状態を検出する。ステップS2にて、ガスコントローラ36は、硫化水素濃度計35の検出値と、予め設定された判定閾値を比較することで、二次電池12における硫化水素の発生を検知する。判定閾値は、二次電池12において硫化水素が発生していると判定するための閾値である。そして、硫化水素濃度計35の検出値が判定閾値未満である場合には、ガスコントローラ36は、二次電池12において硫化水素が発生していないと判定する。そして、制御フローはステップS1に戻る。ガスコントローラ36は、ステップS1とステップS2の制御処理を繰り返し実行することで、二次電池12の使用中、硫化水素の発生の有無を検知している。
【0054】
ガスコントローラ36の検出値が判定閾値以上である場合には、ガスコントローラ36は、二次電池12において硫化水素が発生していると判定し、ステップS3の制御処理を実行する。ステップS3にて、ガスコントローラ36は、開閉バルブ34を開き、バッテリーケース11の内部に空気(乾燥空気)を送り、二次電池12に空気を供給する。なお、二次電池12に対して空気の供給を開始するタイミングは、硫化水素の発生が検知された時点に対して早ければ早いほどよいが、ガスコントローラ36は、ステップS2にて硫化水素の発生が検知された時点から直ちに(例えば、1秒経過するまでに)、空気の供給を開始することが好ましい。
【0055】
また、ステップS3にて、ガスコントローラ36は、バッテリーケース11の内部に供給する空気の体積がバッテリーケース11の内部における空隙の体積の0.1%以下となるように、開閉バルブ34を制御することが好ましい。なお、バッテリーケース11の内部に供給する空気の体積の下限は、例えば、バッテリーケース11の内部における空隙の体積の0.01%とすることができる。
【0056】
上記のように、本実施形態では、正極及び/又は固体電解質に硫黄系材料を使用した二次電池12における、硫化水素の発生を検知し、硫化水素の発生が検知された場合は、二次電池に空気を供給する。これにより、二次電池12の硫黄系材料の表層に空気の成分(窒素、酸素、二酸化炭素等)とリチウムとの反応により生成されたリチウム化合物が形成される。このリチウム化合物の生成過程では、硫化水素は生じにくく、かつ、硫黄系材料の表層部をリチウム化合物から成る保護被膜で覆うことができるため硫黄系材料と水分との反応が抑制される。よって、硫化水素の発生が速やかに抑制され、硫化水素の発生量を抑えることができる。
【0057】
また、本実施形態であれば、少量の空気(バッテリーケース11の内部における空隙の体積の0.1%以下)を二次電池12に供給することで、硫黄系材料を速やかに保護被膜で覆うことができる。つまり、保護被膜の形成に必要な空気を一度に供給することができ、速やかに硫化水素の発生を抑制することができる。
【0058】
なお、硫黄系材料と水分との反応を抑制するために、二次電池に疎水処理を施した材料を使用することも考えられるが、疎水処理により抵抗増加(入出力低下)を招く恐れがある。これに対して、本実施形態であれば、疎水処理を必要とすることなく硫化水素の発生を抑制することができる。
【0059】
本実施形態の変形例として、ガスコントローラ36は、二次電池12のセル温度に応じて、二次電池12に空気を供給する制御を実行してもよい。図5(a)は、ガスコントローラ36の制御手順を示すフローチャートである。ステップS11にて、ガスコントローラ36は硫化水素濃度計35の検出値を取得する。ステップS12にて、ガスコントローラ36は、二次電池12における硫化水素の発生の有無を検知する。なお、ステップS11及びステップS12の制御処理は、上記のステップS1及びステップS2の制御処理とそれぞれ同様である。
【0060】
ステップS13にて、ガスコントローラ36は二次電池12のセル温度を取得する。ガスコントローラ36は、加熱制御部20からセル温度を取得する。ガスコントローラは36は、温度センサ21の検出値から温度を演算してもよいし、温度監視装置22が演算した演算温度を取得してもよい。ステップS14にて、ガスコントローラ36は、セル温度とガス供給可能温度を比較する。ガス供給可能温度は、二次電池12の硫黄系材料と空気中の成分(窒素、酸素、二酸化炭素等)とが所望の反応速度で反応可能な温度の下限値を示している。ガス供給可能温度は、硫黄系材料の種類やリチウム化合物形成ガスの種類等により実験的に決まる値であり、予め設定されている。
【0061】
セル温度がガス供給可能温度以下である場合には、ステップS15にて、加熱コントローラ23は二次電池12の加熱を開始する。ステップS13~ステップS15により、加熱コントローラ23は、セル温度をガス供給可能温度より高くなるように調整する。
【0062】
セル温度がガス供給可能温度より高い場合には、硫黄系材料と空気中の成分とが反応し、リチウム化合物が形成されるため、二次電池12を加熱する必要はない。よって、ステップS16にて、ガスコントローラ36は、二次電池12に空気を供給する。なお、ステップS16の制御処理は、上記のステップS3の制御処理と同様である。
【0063】
本実施形態の変形例では、二次電池12のセル温度を取得し、セル温度がガス供給可能温度より低い場合に、加熱素子14により二次電池12を加熱する。これにより、より速やかに二次電池12の硫黄系材料に保護被膜を形成することができるため、硫化水素の発生を効率よく抑制することができる。
【0064】
なお、上記変形例では、二次電池12のセル温度がガス供給可能温度より高くなってから、リチウム化合物形成ガスの供給を開始しているがこれに限定されない。例えば、セル温度がガス供給可能温度以下であっても、加熱素子14により二次電池12を加熱しながらリチウム化合物形成ガスの供給を開始してもよい。
【0065】
また、本実施形態の他の変形例として、ガスコントローラ36は、二次電池12の自己発熱によりセル温度がガス供給可能温度より高くなるまで待機した後に、リチウム化合物形成ガスを供給するよう制御してもよい。図5(b)は、ガスコントローラ36の制御手順を示すフローチャートである。図5(b)のフローチャートは、図5(a)に係る制御方法のステップS15がステップS15’に置き換えられていること以外は、図5(a)に係る制御方法に係る記載を適宜、援用する。
【0066】
図5(b)のステップS14にてセル温度がガス供給可能温度以下であると判定された場合、ステップS15’にて、ガスコントローラ36は、所定時間待機する。二次電池12は、充放電に伴って自己発熱するため、待機中の当該自己発熱によってセル温度が上昇する。よって、この変形例では、ステップS13、ステップS14,ステップS15’を繰り返すことで、セル温度がガス供給可能温度より高くなるまで、積極的な加熱を行うことなく待機する。このように、二次電池12の通常使用時の昇温を利用することで、加熱に要する外部エネルギ(ヒーター等の作動に要するエネルギ)の消費を抑制することができる。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0068】
例えば、本実施形態において、ガスコントローラ36は、必ずしも、硫化水素の発生を検知する必要はなく、硫化水素の発生を予測してもよい。特に限定されないが、ガスコントローラ36は、二次電池12の短絡を検知した場合には、硫化水素が発生すると予測できる。二次電池12の短絡は、二次電池12の充放電時の電流変化、あるいは、二次電池12の内部抵抗から検知されればよい。そして、ガスコントローラ36は、硫化水素の発生が予測された場合には、二次電池12にリチウム化合物形成ガスを供給する。図4に示す制御フローのうち、ステップS1及びステップS2の制御処理において、ガスコントローラ36は、二次電池12の電流を検出する電流センサ、インピーダンス測定器などから、二次電池12の状態を示す検出値を取得し、取得された値に基づき、短絡が発生しているか否か判定することで、硫化水素の発生の有無を予測する。そして、短絡が発生していると判定した場合には、ガスコントローラ36は、二次電池12において硫化水素が発生すると予測する。
【0069】
上記のように、本実施形態では、二次電池12における、硫化水素の発生を予測し、硫化水素の発生が予測された場合は、二次電池12にリチウム化合物形成ガスを供給する。これにより、硫黄系材料の表層部にリチウム化合物が形成されることで、硫化水素の発生が速やかに抑制されるため、硫化水素の発生の抑制に要する時間を低減することができる。
【0070】
また、二次電池12に供給するリチウム化合物形成ガスとしては、窒素ガスや炭酸ガスを用いてもよい。この場合、上記実施形態の通気口の代わりに、窒素ガスや炭酸ガスを封入したボンベを用いることができる。また、上述の通り、少量のリチウム化合物形成ガス(バッテリーケース11の内部における空隙の体積の0.1%以下)を二次電池12に供給するだけで、硫黄系材料を速やかに保護被膜で覆うことができるため、ボンベの小型化も可能となる。
【0071】
また、本実施形態では、硫化水素の発生の有無の検知に硫化水素濃度計を用いているがこれに限定されない。例えば、硫化水素濃度計の代わりに、加速度センサ又は圧力センサ等を用いてもよい。二次電池12から硫化水素が発生した場合には、バッテリーケース11内において、気流の加速度、圧力等が変化する。このような変化を検出することで、二次電池12の状態を検出することができる。
【実施例
【0072】
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0073】
<評価方法1>
市販品としても入手可能である、LiSを含むサンプルを以下の方法に従って評価した。(1)不活性ガスとしてヘリウムガスを使用し、露点13℃に管理された加湿槽中にヘリウムガスを通過させて、加湿槽から出てきたヘリウムガスを加湿ガス(露点13℃)とした。(2)25℃と50℃にそれぞれ管理された恒温槽内に配置された反応容器内に、LiSサンプル1、2をそれぞれ置き、反応容器内に加湿ガスを通過させて、反応容器内から出てきたガスをガスバックに採取した。なお、反応容器の容積は約200cmであり、過失ガスの流量は0.2L/minとした。また、25℃と50℃にそれぞれ管理された恒温槽内に配置された反応容器内に、LiSサンプル3、4をそれぞれ置き、加湿ガスの代わりにドライガスを反応容器内に通過させて、反応容器内から出てきたガスをガスバックに採取した。(3)反応容器内から出たガスを含むガスパックを、10分毎に回収し、それぞれのガスパック中に含まれる硫化水素をガスクロマトグラフィーで定量分析を行った。(4)また、ガス回収後のサンプル1~4に対して、X線電子分光(XPS)による表面分析を行った。なお、サンプル1~4に加えて、上記(1)~(3)の評価方法を行っていない、初期品のサンプル5に対しても、XPSによる表面分析を行った。
<実施例の評価>
図6は、ガスクロマトグラフィーによる定量分析の結果[(3)の評価結果]を示すグラフである。グラフа~dは、発生した硫化水素の濃度の経時変化を示している。また、恒温槽内の温度、加湿ガスの露点、初期重量あたりの硫化水素発生量は表1のとおりである。図6のグラフаはサンプル1の特性を示し、グラフbはサンプルbの特性を示し、グラフcはサンプル3、4の特性を示す。
【表1】
【0074】
図7(a)~図7(c)は、X線電子分光(XPS)による表面分析の結果を示すグラフである。図7(a)はLiの1s軌道のスペクトルをピーク分割させたグラフであり、図7(b)はOの1s軌道のスペクトルをピーク分割させたグラフであり、図7(c)はSの2p軌道のスペクトルをピーク分割させたグラフである。図7(a)~図7(c)のグラフаはサンプル1の特性を示し、グラフbはサンプルbの特性を示し、グラフcはサンプル3の特性を示し、グラフdはサンプル4の特性を示し、グラフeはサンプル5の特性を示す。
【0075】
図6に示すように、恒温槽内の温度を25℃にしたときのサンプル1(グラフа)と、恒温槽内の温度を50℃にしたときのサンプル2(グラフb)を比較すると、サンプル1の方が、硫化水素の濃度のピークは低く、また表1より硫化水素の発生量が少なくなる結果となった。つまり、サンプルの温度を低くすることで、硫化水素の発生量が減少することが確認できた。
【0076】
また、図7(b)に示すように、Oの1sのエネルギーピークは、サンプル2(グラフb)が最も高く、次いで、サンプル1(グラフb)が高い結果となった。サンプル2は、サンプル1と比較して、恒温槽内の温度が高く、硫化水素発生反応が、材料の表層部だけでなく深層部まで進むため、リチウム酸化物が深層部まで形成される分、Liの1sのエネルギーピークが高くなったと考えられる。一方、サンプル1は、サンプル2と比較して、恒温槽内の温度が低く、硫化水素発生反応が、材料の表層部で起こり、リチウム酸化物の形成が表層部にとどまるため、Liの1sのエネルギーピークはサンプル2よりも低くなったと考えられる。
【0077】
図7(c)に示すように、Sの2pのエネルギーピークについて、サンプル1及びサンプル2では、硫化水素が発生した分、エネルギーピークが他のサンプル3~5より低くなったことが確認できた。
【0078】
<評価方法2>
市販品としても入手可能である、LiPSClを含むサンプル及び(試作品)を、評価方法1の(1)~(3)と同様の方法で評価した。なおサンプル6~9を準備し、サンプル6では恒温槽内の温度25度、加湿ガスの露点13℃とし、サンプル7では、恒温槽内の温度50度、加湿ガスの露点13℃とし、サンプル8では恒温槽内の温度25度、ドライガスとし、サンプル9では恒温槽内の温度50度、ドライガスとした。図8のグラフаはサンプル6の特性を、グラフbはサンプル7の特性を、グラフcはサンプル8、9の特性を示す。
【0079】
図8に示すように、恒温槽内の温度を25℃にしたときのサンプル6(グラフа)と、恒温槽内の温度を50℃にしたときのサンプル7(グラフb)を比較すると、サンプル6の方が、硫化水素の濃度のピークは低く、硫化水素の発生量が少なくなる結果となった。つまり、サンプルの温度を低くすることで、硫化水素の発生量が減少することが確認できた。
【符号の説明】
【0080】
1…電池システム
10…バッテリーパック部
20…加熱制御部
30…ガス制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8