(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】記録装置、制御方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/01 451
B41J2/01 107
(21)【出願番号】P 2020217085
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 大輔
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-007759(JP,A)
【文献】特開平06-079873(JP,A)
【文献】特開平11-010854(JP,A)
【文献】特開2005-219320(JP,A)
【文献】国際公開第01/010648(WO,A1)
【文献】特開2008-012702(JP,A)
【文献】特開2007-301990(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体に対してインクを吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有し、前記ノズル列の配列方向と交差する方向に走査しながら記録する記録手段と、
前記記録手段の1回の走査で記録可能な、前記ノズル列の配列方向の長さに対応した単位記録領域に対して、記録を伴う、前記記録手段の走査方向の往方向の走査と、記録を伴う、該走査方向の復方向の走査とを交互に実行して記録するよう前記記録手段を制御可能な制御手段と、を有し、
前記制御手段は、偶数回数の記録を伴う走査によって、前記単位記録領域に記録する第1モードと、3以上の奇数回数の記録を伴う走査によって、前記単位記録領域に記録する第2モードとを含む記録モードのうちの1つのモードを選択的に実行し、
前記第1モードは、前記ノズル列が、第1個数の連続するノズルごとに、前記偶数回数の値よりも多い複数のブロックに分割され、該ブロックごとにインクの吐出領域および非吐出領域が設定される記録モードであり、
前記第2モードは、前記ノズル列が、前記第1個数よりも少ない第2個数の連続するノズルごとに、前記奇数回数の値よりも多い複数のブロックに分割され、該ブロックごとにインクの吐出領域および非吐出領域が設定される記録モードである
ことを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記第2個数は、前記第1個数の1/2以上であることを特徴とする請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
前記単位記録領域の所定の領域において吐出されるインク量に関する情報を取得する取得手段をさらに備え、
前記制御手段は、前記情報に基づいて、前記第1モードまたは前記第2モードを選択することを特徴とする請求項1または2に記載の記録装置。
【請求項4】
前記奇数回数が前記偶数回数よりも大きい場合、前記制御手段は、
前記情報が第1閾値より大きければ前記第2モードを選択し、
前記情報が前記第1閾値以下、かつ、前記第1閾値よりも小さい第2閾値より大きければ、前記第1モードを選択し、
ことを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記情報が前記第2閾値以下であれば、前記単位記録領域に対して、前記記録手段の往方向または復方向への1回の走査によって記録するよう前記記録手段を制御する第3モードを選択することを特徴とする請求項4に記載の記録装置。
【請求項6】
前記第1閾値は、前記記録手段の前記偶数回数の走査で記録するときに、ノズルから安定的にインクを吐出可能な前記情報に基づく値であり、
前記第2閾値は、前記記録手段の1回の走査で記録するときに、ノズルから安定的にインクを吐出できる情報に基づく値である
ことを特徴とする請求項5に記載の記録装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記奇数回数が前記偶数回数よりも小さい場合には、
前記情報が第3閾値より大きければ、前記第1モードを選択し、
前記情報が前記第3閾値以下、かつ、前記第3閾値よりも小さい第4閾値より大きければ、前記第2モードを選択する
ことを特徴とする請求項3に記載の記録装置。
【請求項8】
前記第3閾値は、前記記録手段の前記奇数回数の走査で記録するときに、ノズルから安定的にインクを吐出可能な前記情報に基づく値であり、
前記第4閾値は、前記記録手段の前記偶数回数の走査で記録するときに、ノズルから安定的にインクを吐出可能な前記情報に基づく値である
ことを特徴とする請求項7に記載の記録装置。
【請求項9】
前記所定の領域は、前記単位記録領域と一致することを特徴とする請求項3から8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項10】
前記所定の領域は、前記単位記録領域を分割した複数の領域であることを特徴とする請求項3から8のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項11】
前記偶数回数は2回であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項12】
前記奇数回数は3回であることを特徴とする請求項1から11のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項13】
前記第1個数は8個であることを特徴とする請求項1から12のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項14】
前記第2個数は6個であることを特徴とする請求項1から13のいずれか1項に記載の記録装置。
【請求項15】
記録媒体に対してインクを吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有し、前記ノズル列の配列方向と交差する方向に走査しながら記録する記録手段を有し、前記記録手段の1回の走査で記録可能な、前記ノズル列の配列方向の長さに対応した単位記録領域に対して、記録を伴う、前記記録手段の走査方向の往方向の走査と、記録を伴う、該走査方向の復方向の走査とを交互に実行して記録するよう前記記録手段を制御可能な記録装置の制御方法であって、
偶数回数の記録を伴う走査によって、前記単位記録領域に記録する第1モードと、3以上の奇数回数の記録を伴う走査によって、前記単位記録領域に記録する第2モードを含む記録モードのうち1つのモードを選択的に実行し、
前記第1モードは、前記ノズル列が、第1個数の連続するノズルごとに、前記偶数回数の値よりも多い複数のブロックに分割され、該ブロックごとにインクの吐出領域および非吐出領域が設定される記録モードであり、
前記第2モードは、前記ノズル列が、前記第1個数よりも少ない第2個数の連続するノズルごとに、前記奇数回数の値よりも多い複数のブロックに分割され、該ブロックごとインクの吐出領域および非吐出領域が設定される記録モードである
ことを特徴とする制御方法。
【請求項16】
請求項15に記載の制御方法を、コンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録媒体に対してインクを吐出して記録する記録装置、当該記録装置の制御方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置における記録の制御方法として、記録媒体上の単位記録領域における、記録ヘッドの記録を伴う走査の回数(パス数)を、記録する画像に応じて変化させる分割制御が知られている。分割制御では、記録媒体上に記録可能な画素数に対して、概ね30~50%以上を記録するような高デューティな画像を記録するときには、高デューティでない画像を記録するときよりもパス数を増やして記録を行う。
【0003】
特許文献1では、分割制御による1回の走査に伴う記録で使用するノズル位置が示されている。具体的には、単位記録領域をMパスで記録する場合、記録ヘッドの走査方向と直交する方向に配列されたノズル列を、所定数のノズルからなるブロックに分割し、記録を伴う各走査において、記録に用いるブロックを割り当てるようにしている。より詳細には、第一の走査で1,M+1、2M+1・・・のブロックを用いて記録し、第二の走査で2、M+2、2M+2・・・のブロックを用いて記録し、第Jの走査では、J、M+J、2M+J・・・のブロックを用いて記録する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
分割制御による記録時間を短縮するため、例えば、シリアルタイプのインクジェット記録装置では、走査方向で往復移動する記録ヘッドの往方向および復方向の双方向の走査時に記録するようにする。しかしながら、往方向および復方向で記録を行う双方向記録の場合、往方向での記録と復方向での記録とで、インクの着弾位置にずれが生じる虞がある。往方向と復方向とでインクの着弾位置にずれがあれば、偶数パスの場合、隣接するブロック(ノズル群)で記録された記録部分は、必ず走査方向にずれることとなる。これに対して、奇数パスの場合、隣接するブロックで記録された記録部分は、走査方向にずれる箇所と、走査方向においてすれが生じていない箇所とが混在する。
【0006】
奇数パスと偶数パスとで同じブロック幅(ノズル数)を用いると、偶数パスでの記録画像のように、同じ幅でずれが生じると、インクの着弾位置のズレによる画像不良は視認され難い。一方、奇数パスでの記録画像のように、異なる幅でズレが生じると、インクの着弾位置のズレによる画像不良は視認され易くなる。しかしながら、特許文献1では、こうした奇数パスによる記録において顕著となるインクの着弾位置のズレによる画像不良について言及されていない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、記録を伴う往方向の走査と、記録を伴う復方向の走査とを交互に実行する記録装置において、奇数パスで記録する際の、インクの着弾位置に起因する画像不良の発生を抑制可能な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の一実施形態による記録装置は、記録媒体に対してインクを吐出する複数のノズルが配列されたノズル列を有し、前記ノズル列の配列方向と交差する方向に走査しながら記録する記録手段と、前記記録手段の1回の走査で記録可能な、前記ノズル列の配列方向の長さに対応した単位記録領域に対して、記録を伴う、前記記録手段の走査方向の往方向の走査と、記録を伴う、該走査方向の復方向の走査とを交互に実行して記録するよう前記記録手段を制御可能な制御手段と、を有し、前記制御手段は、偶数回数の記録を伴う走査によって、前記単位記録領域に記録する第1モードと、3以上の奇数回数の記録を伴う走査によって、前記単位記録領域に記録する第2モードとを含む記録モードのうちの1つのモードを選択的に実行し、前記第1モードは、前記ノズル列が、第1個数の連続するノズルごとに、前記偶数回数の値よりも多い複数のブロックに分割され、該ブロックごとにインクの吐出領域および非吐出領域が設定される記録モードであり、前記第2モードは、前記ノズル列が、前記第1個数よりも少ない第2個数の連続するノズルごとに、前記奇数回数の値よりも多い複数のブロックに分割され、該ブロックごとにインクの吐出領域および非吐出領域が設定される記録モードであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、記録を伴う往方向の走査と、記録を伴う復方向の走査とを交互に実行する記録装置において、奇数パスで記録する際の、インクの着弾位置のズレに起因する画像不良の発生を抑制することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図4】温度制御回路における温度検出の流れを示す図。
【
図6】2パス記録時に用いるマスクパターンおよび記録画像を示す図。
【
図7】3パス記録時に用いるマスクパターンおよび記録画像を示す図。
【
図8】比較例としての3パス記録時に用いるマスクパターンおよび記録画像を示す図。
【
図9】記録処理の詳細な処理内容を示すフローチャート。
【
図10】4パス記録時に用いるマスクパターンおよび記録画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付の図面を参照しながら、記録装置、制御方法、およびプログラムの実施形態の一例を詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本発明を限定するものではなく、また、本実施形態で説明されている特徴の組み合わせのすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。また、実施形態に記載されている構成の相対位置、形状などはあくまで例示であり、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0012】
(第1実施形態)
まず、
図1乃至
図8を参照しながら、第1実施形態による記録装置について説明する。
図1(a)は、実施形態による記録装置の概略構成図である。
図1(b)は、記録装置の側面図である。
図1の記録装置100は、インクジェット方式により、シート状の記録媒体Sに対してインクを吐出して記録するインクジェット記録装置である。
【0013】
記録装置100は、記録媒体Sを搬送する搬送部102と、搬送される記録媒体Sに対して記録する記録部104とを備えている。搬送部102は、搬送される記録媒体Sの幅方向(X方向)に延在する搬送ローラ106と、搬送ローラ106に圧接して搬送ローラ106に従動するピンチローラ108とを備えている。記録媒体Sは、搬送ローラ106とピンチローラ108とに挟持されてX方向と交差(本実施形態では直交)するY方向に搬送される。また、搬送部102は、搬送ローラ106により搬送される記録媒体Sを押さえる拍車110と、拍車110により押さえられた記録媒体Sを排出する排出ローラ112とを備えている。即ち、搬送部102では、搬送ローラ106とピンチローラ108とが、拍車110および排出ローラ112に対して、記録媒体Sの搬送方向上流側に位置する。
【0014】
記録部104は、搬送ローラ106と排出ローラ112との間で、搬送される記録媒体Sを支持するプラテン114と、プラテン114と対向するように、記録チップ122(後述する)が設けられた記録ヘッド116とを備えている。記録ヘッド116は、キャリッジ118を介してX方向で往復移動可能に構成されている。即ち、本実施形態では、X方向が、記録ヘッド116が走査する走査方向となっており、記録ヘッド116は、走査方向の一方側から他方側に向かう往方向、および走査方向の他方側から一方側に向かう復方向に移動可能な構成となっている。キャリッジ118にはベルト120が接続され、このベルト120によって移動する構成となっている。記録ヘッド116は、記録を行っていないときや、記録ヘッド116への回復処理を行うときには、X方向の一方の端部に設けられたホームポジションHに位置される。
【0015】
なお、本実施形態では、記録装置100を、Y方向に搬送される記録媒体Sに対してX方向に移動(走査)する記録ヘッド116からインクを吐出する構成としたが、これに限定されるものではない。即ち、ノズルの配列方向と交差する方向に記録ヘッドと記録媒体Sが相対移動可能であればよく、一方が固定されるような構成であってもよい。
【0016】
記録ヘッド116は、チューブ(不図示)を介して、インクを貯留するインクタンク(不図示)からインクが供給される。本実施形態では、記録ヘッド116は、例えば、ブラック(Bk)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクを吐出する構成となっている。また、記録ヘッド116は、キャリッジ118に搭載された際に、プラテン114と対応する位置に設けられた記録チップ122を備えている。記録チップ122は、Bkインクを吐出する複数のノズルが配列された記録チップ122aと、Cインク、Mインク、およびYインクについて、それぞれのインクを吐出する複数のノズルが配列された記録チップ122bとを備えている(
図2(b)参照)。
【0017】
ここで、
図2を参照しながら、記録ヘッド116の構成について説明する。
図2(a)は、記録ヘッド116の斜視構成図である。
図2(b)は、記録ヘッド116における記録チップ122が設けられたチップ面の図である。
図2(c)は、記録チップ122aにおけるノズル列を示す図である。
図2(d)は、記録チップ122bにおける各ノズル列を示す図である。
【0018】
記録ヘッド116は、コンタクトパッド202を介して、記録装置100本体から記録信号を受信し、記録ヘッド116の駆動に必要な電力が供給される。
【0019】
記録チップ122aには、Bkインクを吐出するための複数のノズルがY方向に配列されたノズル列204が形成されている。記録チップ122bには、Cインクを吐出するための複数のノズルがY方向に配列されたノズル列206が形成されている。また、記録チップ122bには、Mインクを吐出するための複数のノズルがY方向に配列されたノズル列208が形成されている。さらに、記録チップ122bには、Yインクを吐出するための複数のノズルがY方向に配列されたノズル列210が形成されている。
【0020】
記録チップ122aは、ノズル列204のY方向の一方の端部側に、記録ヘッド116の温度を検出するダイオードセンサ(Diセンサ)212を備えている。また、記録チップ122bは、ノズル列210のY方向の一方の端部側に、記録ヘッド116の温度を検出するDiセンサ214を備えている。Diセンサ212、214は、記録チップ122a、122bにおいて、記録媒体Sの搬送方向下流側に位置する。
【0021】
記録チップ122a、122bはそれぞれ、インク加熱用のサブヒータ216、218を備えている。サブヒータ216、218は、電圧を印加するか否かによって記録ヘッド基板を加熱もしくは非加熱とする。
【0022】
記録チップ122aのノズル列204は、
図2(c)のように、Y方向に延在する液室220の両側に、インクを吐出する吐出口222が形成されている。各吐出口222に対応する位置、本実施形態では真下(+Z方向側)には、インク吐出用のヒータ224が配置されている。ノズル列204では、吐出口222は1280個形成されている。また、記録チップ122bのノズル列206、208、210はそれぞれ、
図2(d)のように、Y方向に延在する液室226の両側に、インクを吐出する吐出口228が形成されている。各吐出口228に対応する位置、本実施形態では真下には、インク吐出用のヒータ230が配置されている。ノズル列206、208、210では、吐出口228が512個形成されている。
【0023】
ヒータ224、230はそれぞれ、電圧が印加されると発熱して、液室220、226内のインクに気泡を発生させ、対応するノズルからインクを吐出させる。また、ノズル列204、206、208、210では、Diセンサ212、214が位置する側から-Y方向に向かって順に0、1、2、・・・のように通し番号が付与されている。ノズル列204における吐出口222間の間隔、およびノズル列206、208、210における吐出口228間の間隔は、それぞれ1/1200インチとなっている。従って、ノズル列204、206、208、210では、吐出口222、228およびヒータ224、230などにより、吐出口222、228からインクを吐出するための構成としてのノズルが形成される。
【0024】
次に、記録装置100の記録制御系の構成について説明する。
図3は、記録装置100の記録制御系の構成を示すブロック図である。記録装置100は、ホストコンピュータ302に接続されている。ホストコンピュータ302は、ハードディスクやメモリなどの各種記憶媒体(不図示)に保存されている、各画素がRGB3チャンネルの値(例えば、0~255)を持つビットマップ形式の多値画像データを、記録装置100に送信する。なお、本実施形態では、ホストコンピュータ302は、アプリケーション304を用いて多値画像データを記録装置100に送信する。ホストコンピュータ302は、例えば、スキャナやデジタルカメラなどの外部装置から入力された多値画像データを、アプリケーション304で加工した後に、記録装置100に出力するようにしてもよい。
【0025】
記録装置100は、ホストコンピュータ302から入力された画像データに対して、MPU306、ASIC308などにより画像処理を行う。具体的には、入力された多値画像データは、MPU306あるいはASIC308などにおいて、2値化処理やマスク処理が施される。これにより、記録装置100では、各画素に対して、記録ヘッド116からのインクの吐出、非吐出を表す2値のビットマップ形式の記録データが生成される。
【0026】
また、記録装置100は、生成した記録データに基づいて、記録ヘッド116からインクを記録媒体Sに吐出することで、画像を記録する。記録装置100は、ROM310に記憶されたプログラムに従ってMPU306により制御される。RAM312は、MPU306の作業領域や一時データ保存領域として機能する。
【0027】
MPU306は、ASIC308を介して、キャリッジ118を駆動するためのキャリッジ駆動部314と、搬送部102における搬送ローラ106および排出ローラ112を駆動するための搬送駆動部316とを制御する。また、MPU306は、ASIC308を介して、記録ヘッド116に対する回復処理を行う構成を制御する回復駆動部318を制御する。さらに、MPU306は、ASIC308を介して、記録ヘッド116を駆動するためのヘッド制御回路320と、記録ヘッド116の温度を制御するための温度制御回路322と、インターフェース324とを制御する。
【0028】
回復処理を行う構成とは、吐出口222、228からのインクの吐出状態を良好に、維持回復するための構成である。具体的には、記録ヘッド116における記録チップ122が設けられたチップ面を保護するキャップ、キャップ内を減圧してノズルからインクを強制的に吸引する吸引装置、チップ面を払拭(ワイピング)するワイパなどの公知の構成を適用できる。回復駆動部318は、これらを駆動する駆動部であり、各構成に対して、それぞれモータなどの駆動系を備えるようにしてもよいし、複数の構成で兼用する駆動系を備えるようにしてもよい。
【0029】
生成された記録データは、ASIC308に接続されたプリントバッファ326に一時的に記憶される。また、ASIC308には、マスクバッファ328が接続されている。マスクバッファ328には、記録データを記録ヘッド116に転送する際に適用する複数のマスクパターンが一時的に記憶される。記憶されたマスクパターンは、記録ヘッド116の記録媒体S上の単位記録領域に対する複数回数の走査を伴った吐出を行う方式、所謂、マルチパス記録方式で記録を行う記録モードを実行する際や、分割制御を実行する際に用いられる。なお、マスクバッファ328に記憶可能な各種のマスクパターンは、ROM310に予め記憶されており、実際の記録時に該当するマスクパターンがROM310から読み出されてマスクバッファ328に記憶される。
【0030】
本実施形態では、記録装置100は、A4サイズ(8.27inch×11.69inch)までの記録媒体Sに対して記録可能であり、X方向の記録解像度は600dpiであるものとする。また、本実施形態では、600dpi×600dpiの格子に2ドット配置したときの記録率を100%デューティと定義する。記録ヘッド116の場合、Y方向のノズル解像度が1200dpiであるため、1ノズルが600dpi×600dpiの格子に1ドット配置すれば100%デューティとなる。
【0031】
温度制御回路322は、記録ヘッド116の温度を検出するDiセンサ212、214の出力値に基づいて、記録チップ122のサブヒータ216、218の駆動条件を決定する。そして、ヘッド制御回路320は、決定された駆動条件に基づいてサブヒータ216、218を駆動する。また、ヘッド制御回路320は、記録ヘッド116におけるヒータ224、230の駆動を行う。
【0032】
ヘッド制御回路320によって、サブヒータ216、218およびヒータ224、230を駆動することで、記録ヘッド116において、予備吐出やインク吐出、および温度調整のためのヘッド温度調整などが行われる。温度制御を実行するためのプログラムは、例えば、ROM310に記憶されている。こうしたプログラムによって、ヘッド制御回路320および温度制御回路322により、記録ヘッド116の温度の検出およびサブヒータ216、218の駆動などが実行される。また、ヘッド制御回路320は、記録ヘッド116の温度に応じて、プレバルスとメインパルスとからなる駆動信号(駆動パルス)によってヒータ224、230を駆動することで、PWM制御を行う。
【0033】
次に、温度制御回路322での記録ヘッド116の温度検出の流れについて説明する。
図4は、温度制御回路322での温度検出の流れを示す図である。記録ヘッド116のDiセンサ212、214から記録ヘッド116の温度に基づく電圧が温度制御回路322に入力されると、まず、増幅器402において、入力された電圧値を増幅する。増幅器402により増幅された電圧値は、アナログデジタルコンバータ(ADコンバータ)404によりデジタル化される。ADコンバータ404でデジタル化されたDiセンサ212、214からの電圧値ADdiは、温度変換部406において、温度Thに変換される。温度変換部406では、ROM310に記憶されているADdi-温度変換式を用いて、電圧値ADdiから温度Thに変換する。変換された温度Thは、ヘッド温度検出部408に出力される。
【0034】
以上において説明した記録装置100を用いて、記録媒体に対して記録を行う場合について説明する。記録装置100は、ホストコンピュータ302や記録装置100に設けられた操作部(不図示)などから、記録開始の指示が入力されると、記録媒体Sに対して記録を行う記録処理を開始する。本実施形態では、単位記録領域とは、記録ヘッド116のX方向での1回の走査で記録可能な、記録チップ122におけるノズル列の配列方向の長さに対応した領域となる。
【0035】
図5は、本実施形態による記録装置で実行される記録処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。この
図5のフローチャートで示される一連の処理は、MPU306がROM310に記憶されているプログラムコードをRAM312に展開して実行されることにより行われる。あるいはまた、
図5におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。なお、各処理の説明における符号Sは、当該フローチャートにおけるステップであることを意味する。
【0036】
なお、
図5のフローチャートで示す記録処理では、単位記録領域に対する記録のデューティに応じて、通常の記録と分割制御による記録とを選択的に実行する。本実施形態では、記録装置100は、記録ヘッド116の走査方向の往方向および復方向への走査時に記録を行う双方向記録により記録媒体への記録を行う。また、通常の記録とは、記録を伴う走査を1回行うことにより単位記録領域への記録を行う1パス記録である。分割制御による記録とは、記録を伴う走査を、偶数回数または3以上の奇数回数行うことにより単位記録領域への記録を行う複数パス記録である。本実施形態では、分割制御による記録は、記録を伴う走査を2回行うことにより単位記録領域への記録を行う2パス記録、および記録を伴う走査を3回行うことにより単位記録領域への記録を行う3パス記録とする。また、本実施形態では、記録チップ122a、122bについて、同様の処理が実行されるため、以下の処理では、記録チップ122aでの処理について説明することとする。
【0037】
記録処理が開始されると、まず、MPU306は、記録する単位記録領域を示す変数mを1に設定し(S502)、第m番目の単位記録領域に対する記録データを取得する(S504)。そして、MPU306は、取得した記録データから、Bkインクのドット数および画像幅W(X方向の長さ)をカウントし、BkインクのデューティDとして、ドット数を画像幅Wで除算した値を算出する(S506)。このように、本実施形態では、MPU306が単位記録領域に吐出されるインク量に関する情報を取得する取得部として機能している。
【0038】
次に、MPU306は、算出したデューティDが閾値Dth1より大きいか否かを判定する(S508)。閾値Dth1は、3パス記録、つまり、3分割制御による記録を行うか否かの判定に用いる値であり、予めROM310に記憶されている。閾値Dth1は、例えば、記録チップ122aが2パスで記録するときのヘッド昇温量が第1値以下となるデューティ値を設定する。この第1値としては、2パス記録の際に、ヒータ224によって吐出口222から安定的にインクを吐出できるデューティ値の上限値としてもよいし、当該上限値よりも一定量だけ小さい値としてもよい。閾値Dth1として設定するデューティ値については、他の要件に基づいて設定してもよい。例えば、閾値Dth1を、記録装置100の電源(不図示)の供給能力などに応じて、記録チップ122aが単位記録領域を2パスで記録可能なデューティ値の上限値または当該上限値よりも一定量だけ小さい値に設定してもよい。
【0039】
S508において、デューティDが、閾値Dth1より大きくない、つまり、当該閾値以下であると判定されると、3パス記録を行うデューティでないと判定されて、MPU306は、デューティDが閾値Dth2より大きいか否かを判定する(S510)。閾値Dth2は、2パス記録、つまり、2分割制御による記録を行うか否かを判定する値であり、予めROM310に記憶されている。閾値Dth2は、例えば、記録チップ122aが1パスで記録する場合のヘッド昇温量が第2値以下となるデューティ値を設定する。この第2値としては、1パス記録の際に、ヒータ224によって吐出口222から安定的にインクを吐出可能なデューティ値の上限値としてもよいし、当該上限値よりも一定量だけ小さい値としてもよい。閾値Dth2として設定するデューティ値については、他の要件に基づいて設定してもよい。例えば、閾値Dth2を、記録装置100の電源(不図示)の供給能力に応じて、記録チップ122aが単位記録領域を1パスで記録可能なデューティ値の上限値または当該上限値よりも一定量だけ小さい値に設定してもよい。従って、閾値Dth2は、閾値Dth1よりも小さい値となっている。なお、閾値Dth2を閾値Dth1の半分の値としてもよいし、あるいは、閾値Dth1を閾値Dth2の2倍の値としてもよい。
【0040】
S510において、デューティDが閾値Dth2より大きくない、つまり、当該閾値以下であると判定されると、分割制御による記録の必要はないと判定され、MPU306は、第m番目の単位記録領域に対して通常の記録(第3モード)を行う(S512)。通常の記録とは、上記したように、記録を伴う1回の走査により記録する1パス記録である。1パス記録による第m番目の単位記録領域への記録が終了すると、次に、MPU306は、記録媒体Sを所定量だけ搬送し(S514)、次の単位記録領域への記録データがあるか否かを判定する(S516)。S516において、次の単位記録領域への記録データがあると判定されると、MPU306は、mをインクリメントして(S518)、S504に戻る。また、S516において、次の単位記録領域への記録データがないと判定されると、この記録処理を終了する。
【0041】
なお、S514における記録媒体Sの搬送量となる所定量については、ノズル列204の配列方向(Y方向)の長さに相当する量に設定される。あるいは、記録装置100の搬送部102の特性に応じて、上記長さに相当する量を補正した値を用いてもよい。あるいはまた、ノズル列204の吐出特性を考慮して上記長さに相当する量を補正した値を用いてもよい。
【0042】
また、S510において、デューティDが閾値Dth2より大きいと判定されると、2パス記録(第1モード)を行う必要があると判定され、後述するS520へ進み、マスクパターンA1、A2を用いて2パス記録を行う。マスクパターンA1、A2や後述するマスクパターンを含む各種のマスクパターンは、ROM310に予め記憶されており、実際の記録時に使用するマスクパターンがROM310から読み出されてマスクバッファ328に記憶される。
【0043】
ここで、2パス記録に用いるマスクパターンA1、A2について説明する。
図6(a)はマスクパターンA1を示す図であり、
図6(b)はマスクパターンA2を示す図である。
図6(c)は、100%デューティのベタ画像を、マスクパターンA1、A2を用いて2パス記録した際に、往方向での記録と復方向での記録とにインクの着弾位置のズレが生じたときの記録画像のイメージ図である。図示のマスクパターンA1、A2において、Y方向(図中縦方向)に配列された各画素は、ノズル列204における各ノズルと対応している。また、X方向(図中横方向)は、1画素のみのパターンとなっているが、本実施形態では、このパターンをX方向に画像幅W分繰り返したものを用いる。
【0044】
図示したマスクパターンA1、A2において、黒く塗りつぶされている部分がインクを吐出する領域である。マスクパターンA1、A2では、連続する8つのノズルを1ブロックとし、このブロック単位で、インクの吐出領域、非吐出領域が設定されている。マスクパターンA1、A2は、ブロック1からブロック160まで分けられている。マスクパターンA1では、奇数番号のブロック、つまり、ブロック1、3、5、・・・159が吐出領域となっており、偶数番号のブロックが非吐出領域となっている。また、マスクパターンA2では、偶数番号のブロック、つまり、ブロック2、4、6、・・・160が吐出領域となっており、奇数番号のブロックが非吐出領域となっている。マスクパターンA1とマスクパターンA2とを重ね合わせることで、単位記録領域の全域を記録可能となっている。
【0045】
図5に戻る。2パス記録では、まずS520において、MPU306が記録ヘッド116を、例えば、往方向で移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンA1とを用いて、単位記録領域の画像(1パス画像)にマスクパターンA1を当てた画像を記録する。その後、MPU306が記録ヘッド116を、S520での走査方向と逆方向の復方向で移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンA2とを用いて、1パス画像にマスクパターンA2を当てた画像を記録し(S522)、S514に進む。このように、2パス記録では、1つの単位記録領域に対して、S520とS522とでは互いに異なる方向に移動しながら記録を行う。
【0046】
なお、上記2パス記録の説明では、理解を容易にするために、S520の記録では記録ヘッド116を往方向に走査させ、S522の記録では記録ヘッド116をS520での走査方向と逆方向の復方向に走査させるようにしたが、これに限定されるものではない。即ち、第(m-1)番目の単位記録領域への記録が、記録ヘッド116を往方向で移動させた記録で終了した場合には、S520では記録ヘッド116を復方向に走査させながら記録し、S522では記録ヘッド116を往方向に走査させながら記録する。
【0047】
また、S508において、デューティDが閾値Dth1より大きいと判定されると、3パス記録(第2モード)を行う必要があると判定され、後述するS524へ進み、マスクパターンB1、B2、B3を用いて3パス記録を行う。ここで、3パス記録に用いるマスクパターンB1、B2、B3について説明する。
図7(a)はマスクパターンB1を示す図であり、
図7(b)はマスクパターンB2を示す図であり、
図7(c)はマスクパターンB3を示す図である。
図7(d)は、100%デューティのベタ画像を、マスクパターンB1、B2、B3を用いて3パス記録した際に、往方向での記録と復方向での記録とにインクの着弾位置のズレが生じたときの記録画像のイメージ図である。図示のマスクパターンB1、B2、B3は、マスクパターンA1、A2と同様に、各画素がノズル列204の各ノズルと対応し、X方向に画像幅W分繰り返したものを用いる。
【0048】
図示したマスクパターンB1、B2、B3において、黒く塗りつぶされている部分がインクを吐出する領域である。マスクパターンB1、B2、B3では、連続する6つのノズルを1ブロックとし、このブロック単位で、インクの吐出領域、非吐出領域が設定されている。マスクパターンB1、B2、B3は、ブロック1からブロック214まで分けられている。なお、ブロック214については、ノズル数が6ではないが、便宜上1つのブロックとして扱う。即ち、3パス記録で用いるマスクパターンB1、B2、B3の1ブロックのノズル数は、2パス記録で用いるマスクパターンA1、A2の1ブロックのノズル数よりも少なくなっている。換言すると、3パス記録で用いるマスクパターンの1つのブロックのY方向における幅(以下、単に、「ブロック幅」とも称する。)は、2パス記録で用いるマスクパターンのブロック幅よりも小さくなっている。
【0049】
マスクパターンB1では、ブロック1、4、7、・・・211、214が吐出領域となっており、それ以外のブロックが非吐出領域となっている。即ち、マスクパターンB1では、ブロック1から、2ブロックおき、つまり、3ブロックごとに吐出領域が形成されている。また、マスクパターンB2では、ブロック2、5、8、・・・212が吐出領域となっており、それ以外のブロックが非吐出領域となっている。即ち、マスクパターンB2では、ブロック2から2ブロックおきに吐出領域が形成されている。さらに、マスクパターンB3では、ブロック3、6、9、・・・213が吐出領域となっており、それ以外のブロックが非吐出領域となっている。即ち、マスクパターンB3では、ブロック3から2ブロックおきに吐出領域が形成されている。マスクパターンB1、マスクパターンB2、およびマスクパターンB3を重ね合わせることで、単位記録領域の全体を記録可能となっている。
【0050】
図5に戻る。3パス記録では、まず、S524において、MPU306が、記録ヘッド116を、例えば、往方向で移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンB1とを用いて、1パス画像にマスクパターンB1を当てた画像を記録する。次に、MPU306が、記録ヘッド116を、S524での走査方向と逆方向の復方向で移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンB2とを用いて、1パス画像にマスクパターンB2を当てた画像を記録する(S526)。その後、MPU306が、記録ヘッド116を、S526での走査方向と逆方向の往方向に移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンB3とを用いて、1パス画像にマスクパターンB3を当てた画像を記録し(S528)、S514に進む。このように、3パス記録では、1つの単位記録領域に対してS524、S526、S528の3回の走査で記録され、このときの記録ヘッド116の走査方向は、S526と、S524およびS528とで逆方向となっている。
【0051】
上記3パス記録の説明では、理解を容易にするために、3パス記録の1パス目の記録では、記録ヘッド116を往方向に走査させ、2パス目の記録では記録ヘッド116を復方向に走査させ、3パス目の記録では記録ヘッド116を往方向に走査するようにした。なお、3パス記録時の記録ヘッド116の走査方向は、これに限定されるものではない。即ち、第(m-1)番目の単位記録領域への記録が、記録ヘッド116を往方向に走査させた記録で終了した場合には、1パス目の記録、つまり、S524では、記録ヘッド116を復方向に移動させながら記録する。また、2パス目の記録、つまり、S526では、記録ヘッド116を往方向に移動させながら記録し、3パス目の記録、つまり、S528では、記録ヘッド116を復方向に移動させながら記録する。本実施形態では、MPU306が、2パス記録および3パス記録を選択し、当該選択に基づいて、記録を伴う往方向の走査と記録を伴う復方向の走査とを交互に実行して単位記録領域に記録するよう記録ヘッド116を制御可能な制御部として機能している。
【0052】
上記のように、本実施形態では、3パス記録の場合には、使用するマスクパターンにおけるインクの吐出領域、非吐出領域を設定する1ブロックのノズル数を、2パス記録で使用するマスクパターンの1ブロックのノズル数よりも少なくする。ここで、3パス記録時の1ブロックのノズル数を、2パス記録時の1ブロックのノズル数よりも少なくしたことによる作用効果について、
図6(c)、
図7(c)、および
図8を参照しながら説明する。
図8は、3パス記録時の1ブロックのノズル数と、2パス記録時の1ブロックのノズル数とが一致した比較例のマスクパターンと記録画像を示す図である。
図8(a)は比較例で用いるマスクパターンD1を示す図であり、
図8(b)は比較例で用いるマスクパターンD2を示す図であり、
図8(c)は比較例で用いるマスクパターンD3を示す図である。
図8(d)は、100%デューティのベタ画像を、マスクパターンD1、D2、D3を用いて3パス記録した際に、往方向での記録と復方向での記録とにインクの着弾位置のズレが生じたときの記録画像のイメージ図である。
【0053】
図示のマスクパターンD1、D2、D3では、マスクパターンA1、A2と同様に、各画像がノズル列204の各ノズルと対応し、X方向に画像幅W分繰り返したものが用いられる。具体的には、マスクパターンD1、D2、D3は、ブロック1から160ブロックまで分けられる。マスクパターンD1では、ブロック1から2ブロックおきに吐出領域が形成され、マスクパターンD2では、ブロック2から2ブロックおきに吐出領域が形成され、マスクパターンD3では、ブロック3から2ブロックおきに吐出領域が形成されている。マスクパターンD1、マスクパターンD2、およびマスクパターンD3を重ね合わせることで、単位記録領域の全体を記録可能となっている。
【0054】
2パス記録では、
図6(c)のように、往方向の記録と復方向の記録とにおけるインクの着弾位置のズレ(以下、単に「着弾ズレ」とも称する。)は、Y方向において、8×(1/1200dpi)≒0.17mm単位で発生している。一方、1つのブロックを2パス記録時と同じ画素数(ノズル数)としたマスクパターンD1、D2、D3を用いて3パス記録を行った比較例では、
図8(d)のようになる。即ち、同方向への記録が連続する部分では、Y方向において、8×2×(1/1200dpi)≒0.34mmで着弾ズレが発生している。この着弾ズレの箇所では、2パス記録時よりもY方向に2倍の長さで着弾ズレが視認される。
【0055】
これに対して、1つのブロックを2パス記録時の画素数より少なくしたマスクパターンB1、B2、B3を用いて記録を行った本願実施形態では、
図7(d)のようになる。即ち、同方向への記録が連続する部分では、Y方向において、6×2×(1/1200dpi)≒0.25mmで着弾ズレが発生している。即ち、本実施形態での3パス記録による画像では、Y方向において、6×(1/1200dpi)≒0.12mmで着弾ズレが生じている個所と、0.25mmで着弾ズレが生じている個所とが混在する。この着弾ズレの値はそれぞれ、共に比較例で生じた着弾ズレの値(0.17mm、0.34mm)よりも小さくなっている。このため、着弾ズレの視認性が軽減される、つまり、着弾ズレが視認され難くなる。
【0056】
また、一般的に、分割制御による記録を行う場合、一定以上ブロック幅を小さくすると記録画像の濃度が高くなる。これは、分割制御による記録の1回目の走査時の記録により記録媒体上に着弾して浸透したインクの影響により、2回目以降の走査時の記録により当該記録媒体上に着弾したインクの、記録媒体への浸透状態が変化することに起因する。このため、1回の走査で記録した領域と、2回以上の走査で記録した領域とが隣接する部分で色むらが生じてしまう。本願発明の知見によれば、2パス記録よりも3パス記録のほうが同じブロック幅でも上記色むらが軽減することがわかっている。
【0057】
こうしたことから、本実施形態では、2パス記録時に1つのブロックをノズル8個、3パス記録時に1つのブロックをノズル6個とすることで、着弾ズレと色むらの視認性を共に改善している。なお、2パス記録時と3パス記録時の1ブロックのノズル数はそれぞれ、8個(第1個数)と6個(第2個数)とに限定されるものではない。即ち、インクや記録媒体の種類やその組み合わせによって、2パス記録時の1ブロックのノズル数および3パス記録時の1ブロックのノズル数を、例えば、実験的に求めて決定するようにしてもよい。
【0058】
なお、奇数パス記録時の1ブロックのノズル数(画素数)は、偶数パス記録時の1ブロックのノズル数の1/2以上とすることが好ましい。仮に、奇数パス記録時の1ブロックのノズル数が、偶数パス記録時の1ブロックのノズル数の1/2よりも小さいと、奇数パス記録時の着弾ズレの単位の最大値が、偶数パス記録時の着弾ズレの単位よりも小さくなり、着弾ズレの視認性は軽減される。しかしながら、その一方で、色むらの発生リスクが向上する。また、偶数パス記録時の総ブロック数は、当該偶数パス記録時のパス数よりも大きくなるように設定され、奇数パス記録時の総ブロック数は、当該奇数パス記録時のパス数よりも大きくなるように設定される。つまり、2パス記録では、ノズル列が3ブロック以上に分割され、3パス記録では、ノズル列が4ブロック以上に分割される。
【0059】
本実施形態では、記録時間の増大を抑制するために、分割制御について、2パス記録および3パス記録を選択的に実行するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、記録時間の規制が緩和される場合には、偶数パス記録を4パス以上の走査を伴う記録としてもよいし、奇数パス記録を5パス以上の走査を伴う記録としてもよい。
【0060】
以上において説明したように、上記実施形態では、記録媒体に対する記録を行う記録処理において、単位記録領域への記録について、分割制御するか否かを判定するとともに、分割制御での走査回数を決定する。そして、分割制御の際には、3パス記録時に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数は、2パス記録時に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数よりも少なくなる。これにより、3パス記録の際の着弾ズレが視認し難くなり、記録物における画像不良の発生を抑制できる。
【0061】
また、3パス記録時の1ブロックのノズル数を、2パス記録時の1ブロックのノズル数の1/2以上とした。これにより、色むらの発生が抑制されて、記録物における画像不良の発生を、より確実に抑制することができる。
【0062】
(第2実施形態)
次に、
図9および
図10を参照しながら、第2実施形態による記録装置について説明する。なお、以下の説明では、上記した第1実施形態による記録装置と同一または相当する構成については、第1実施形態で用いた符号と同一の符号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0063】
第2実施形態では、分割制御による記録について、2パス記録および3パス記録に加えて、4パス記録を選択的に実行できるようにした点において上記第1実施形態と異なっている。
【0064】
以下、本実施形態による記録装置で実行する記録処理について詳細に説明する。
図9は、第2実施形態による記録装置で実行される記録処理の詳細な処理内容を示すフローチャートである。この
図9のフローチャートで示される一連の処理は、MPU306がROM310に記憶されているプログラムコードをRAM312に展開して実行されることにより行われる。あるいはまた、
図9におけるステップの一部または全部の機能をASICまたは電気回路などのハードウェアで実行してもよい。
【0065】
なお、
図9のフローチャートで示す記録処理では、単位記録領域に対する記録デューティに応じて、通常の記録と分割制御による記録とを選択的に実行するようになっている。なお、分割制御による記録とは、本実施形態では、2パス記録、3パス記録、および記録を伴う走査を4回行うことにより単位記録領域への記録を行う4パス記録である。また、本実施形態についても、記録チップ122a、122bに対して、同様の記録処理が実行されるため、以下の説明では、記録チップ122aに対して実行される記録処理について説明する。さらに、以下の説明では、上記第1実施形態での記録処理における処理と具体的な処理内容が同じ処理については、同じステップ番号を用いることにより、その詳細な説明を省略する。
【0066】
記録処理が開始され、S506でBkインクのデューティを算出すると、算出したデューティDが閾値Dth0より大きいか否かを判定する(S902)。閾値Dth0は、4パス記録、つまり、4分割制御による記録を行うか否かの判定に用いる値であり、予めROM310に記憶されている。閾値Dth0は、例えば、記録チップ122aが3パスで記録するときのヘッド昇温量が第3値以下となるデューティを設定する。この第3値としては、3パス記録の際に、ヒータ224によって吐出口222から安定的にインクを吐出できるデューティ値の上限値としてもよいし、当該上限値よりも一定量だけ小さい値としてもよい。閾値Dth0として設定するデューティ値については、他の要件に基づいて設定してもよい。例えば、閾値Dth0を、記録装置100の電源(不図示)の供給能力などに応じて、記録チップ122aが単位記録領域を3パスで記録可能なデューティ値の上限値または当該上限値よりも一定量だけ小さい値に設定してもよい。
【0067】
S902において、デューティDが、閾値Dth0より大きくない、つまり、閾値Dth0以下であると判定されると、4パス記録を行うデューティでないと判定されて、S508に進み、以降の処理が実行される。また、S902において、デューティDが閾値Dth0より大きいと判定されると、4パス記録を行う必要があると判定され、上述するS904へ進み、マスクパターンC1、C2、C3、C4を用いて4パス記録を行う。
【0068】
ここで、4パス記録に用いるマスクパターンC1、C2、C3、C4について説明する。
図10(a)は、マスクパターンC1を示す図であり、
図10(b)は、マスクパターンC2を示す図であり、
図10(c)は、マスクパターンC3を示す図であり、
図10(d)は、マスクパターンC4を示す図である。
図10(e)は、100%デューティのベタ画像を、マスクパターンC1、C2、C3、C4を用いて4パス記録した際に、往方向での記録と復方向での記録とにインクの着弾位置のズレが生じたときの記録画像のイメージ図である。図示のマスクパターンC1、C2、C3、C4は、マスクパターンA1、A2と同様に、各画素がノズル列204の各ノズルと対応し、X方向に画像幅W分繰り返したものを用いる。
【0069】
図示したマスクパターンC1、C2、C3、C4において、黒く塗りつぶされている部分がインクを吐出する領域である。マスクパターンC1、C2、C3、C4では、連続する8つのノズルを1ブロックとし、このブロック単位で、インクの吐出領域、非吐出領域が設定されている。マスクパターンC1、C2、C3、C4は、ブロック1からブロック160まで分けられている。
【0070】
マスクパターンC1では、ブロック1、5、・・・157が吐出領域となっており、それ以外のブロックが非吐出領域となっている。即ち、マスクパターンC1では、ブロック1から3ブロックおき、つまり、4ブロックごと吐出領域が形成されている。また、マスクパターンC2では、ブロック2、6、・・・158が吐出領域となっており、それ以外のブロックが非吐出領域となっている。即ち、マスクパターンC2では、ブロック2から3ブロックおきに吐出領域が形成されている。さらに、マスクパターンC3では、ブロック3、7、・・・159が吐出領域となっており、それ以外のブロックが非吐出領域となっている。即ち、マスクパターンC3では、ブロック3から3ブロックおきに吐出領域が形成されている。さらにまた、マスクパターンC4では、ブロック4、8、・・・160が吐出領域となっており、それ以外のブロックが非吐出領域となっている。マスクパターンC1、マスクパターンC2、マスクパターンC3、およびマスクパターンC4を重ね合わせることで、単に記録領域の全体を記録可能となっている。
【0071】
図9に戻る。4パス記録では、まず、S904において、MPU306が、記録ヘッド116を、例えば、往方向で移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンC1とを用いて、1パス画像にマスクパターンC1を当てた画像を記録する。次に、MPU306は、記録ヘッド116を、S904での走査方向と逆方向の復方向で移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンC2とを用いて、1パス画像にマスクパターンC2を当てた画像を記録する(S906)。その後、MPU306は、記録ヘッド116を、S906での走査方向と逆方向の往方向で移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンC3とを用いて、1パス画像にマスクパターンC3を当てた画像を記録する(S908)。さらに、MPU306は、記録ヘッド116を、S908での走査方向と逆方向の復方向で移動させながら、S504で取得した記録データとマスクパターンC4とを用いて、1パス画像にマスクパターンC4を当てた画像を記録し(S910)、S514に進む。このように、4パス記録では、1つの単位記録領域に対して、S904、S906、S908、S910の4回の走査で記録され、S904およびS908と、S906およびS910とで、記録ヘッド116の走査方向が異なる。
【0072】
上記4パス記録の説明では、理解を容易にするために、記録ヘッド116を、4パス記録の1パス目の記録では往方向、2パス目の記録では復方向、3パス目の記録では往方向、4パス目の記録では復方向に走査するようにした。なお、4パス記録時の記録ヘッド116の走査方向はこれに限定されるものではない。即ち、第(m-1)番目の単位記録領域への記録が、記録ヘッド116を往方向に走査させた記録で終了した場合には、1パス目の記録、つまり、S904では、記録ヘッド116を復方向に移動させながら記録する。また、2パス目の記録、つまり、S906では、記録ヘッド116を往方向に移動させながら記録する。さらに、3パス目の記録、つまり、S908では、記録ヘッド116を復方向に移動させながら記録する。さらにまた、4パス目の記録、つまり、S910では、記録ヘッド116を復方向に移動させながら記録する。
【0073】
このように、本実施形態では、4パス記録の場合には、マスクパターンでのインクの吐出領域、非吐出領域を設定する1ブロックのノズル数を、2パス記録の場合と同数とする。4パス記録の場合では、
図10(e)のように、往方向の記録と復方向の記録とにおける着弾ズレは、Y方向において、2パス記録と同様に、0.17mm単位で発生している。このように、4パス記録でも、1ブロックのノズル数を、2パス記録の場合と同じに設定することで、着弾ズレの視認性は、2パス記録の場合と同程度とすることができる。即ち、本実施形態では、3パス記録時の1ブロックのノズル数は、4パス記録時の1ブロックのノズル数よりも少なくしているともいえる。
【0074】
本実施形態では、記録時間の増大を抑制するために、分割制御について、2パス記録、3パス記録、および4パス記録を選択的に実行するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、記録時間の規制が緩和される場合には、走査回数の少ない偶数パス記録を4パス以上の走査を伴う記録、奇数パス記録を5パス以上の走査を伴う記録、走査回数の大きい偶数パスの記録を6パス以上の走査を伴う記録としてもよい。この場合、奇数パスの走査回数は、2つの偶数パスの走査回数の間とし、2つの偶数パス記録に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数は同数とする。また、奇数パス記録に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数を、偶数パス記録に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数よりも少なくする。なお、色むらを抑制する場合には、さらに、奇数パス記録に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数を、偶数パス記録に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数の1/2以上とする。
【0075】
以上において説明したように、本実施形態では、分割制御について、偶数パス記録と奇数パス記録とを選択的に実行するようにした。そして、奇数パス記録に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数が、偶数パス記録に用いるマスクパターンの1ブロックのノズル数よりも少なくなるようにした。また、奇数パス記録時の1ブロックのノズル数を、偶数パス記録時の1ブロックのノズル数の1/2以上とした。これにより、本実施形態では、上記第1実施形態による記録装置と同様の作用効果を奏する。
【0076】
(他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下の(1)乃至(5)に示すように変形してもよい。
【0077】
(1)上記実施形態では、記録処理において、各色のインクのデューティに基づいて、単位記録領域への記録時の記録を伴う走査回数を判定するようにしたが、判定の要件については、デューティに限定されるものではない。即ち、S506でカウントしたドット数に基づいて上記判定を行うようにしてもよいし、デューティとドット数の両方を用いて上記判定を行うようにしてもよく、所定の領域内に吐出されるインク量に関する情報であればどのような情報を用いてもよい。
【0078】
(2)上記実施形態では、記録処理において、ドット数をカウントする際に、単位記録領域の全体を対象とするようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、単位記録領域を、画像の幅方向で所定画素ごとに分割した各領域またはその中の所定の領域を対象とするようにしてもよい。これにより、1走査に係る時間よりも短い時間レンジの記録ヘッド116の消費電力を抑制することができる。
【0079】
(3)上記実施形態では、記録ヘッド116のインクの吐出方式として、ヒータを用いてインクを吐出するサーマル方式を用いた場合について説明したが、当該吐出方式としては、サーマル方式に限定されるものではない。当該吐出方式として、例えば、圧電素子を用いてインクを吐出するピエゾ方式を用いるようにしてもよい。
【0080】
(4)上記実施形態では特に記載しなかったが、記録媒体上の単位記録領域に対するパス数、つまり、単位記録領域への記録を伴う走査回数を決定する際に用いる閾値については、記録媒体Sの種類、記録品位に関する情報などに応じて異なるようにしてもよい。
【0081】
(5)上記実施形態および上記した(1)乃至(4)に示す各種の形態は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワークまたは記録媒体を介してシステムまたは装置に供給し、そのシステムまたは装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。
【符号の説明】
【0082】
100 記録装置
116 記録ヘッド
204、206、208、210 ノズル列
306 MPU