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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】新規投与方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/353 20060101AFI20240909BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20240909BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240909BHJP
   A61K 47/18 20170101ALI20240909BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240909BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
A61K31/353
A61K9/70
A61K47/34
A61K47/18
A61P25/00
A61P19/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020559272
(86)(22)【出願日】2019-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2019048408
(87)【国際公開番号】W WO2020122101
(87)【国際公開日】2020-06-18
【審査請求日】2022-12-09
(31)【優先権主張番号】P 2018232813
(32)【優先日】2018-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002912
【氏名又は名称】住友ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 清和
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆
(72)【発明者】
【氏名】小川 祥司
(72)【発明者】
【氏名】井上 満博
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/018069(WO,A1)
【文献】特開2016-037472(JP,A)
【文献】国際公開第2005/053678(WO,A1)
【文献】国際公開第2002/009756(WO,A1)
【文献】Journal of Controlled Release,1998年,Vol.52,pp.169-178
【文献】麻酔,1986年,Vol.6,pp.917-923
【文献】解剖学雑誌,1958年,Vol.33(6),pp.565-582
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00
A61K 47/00
A61K 31/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される化合物Aを含む、硬膜外投与により脊髄損傷又は脳損傷を治療するためのシート製剤。
【化1】
【請求項2】
基材としてシリコーンを含む、請求項1に記載のシート製剤。
【請求項3】
水溶性添加剤をさらに含む、請求項1又は2に記載のシート製剤。
【請求項4】
水溶性添加剤として1種又は2種以上のアミノ酸を含む、請求項3に記載のシート製剤。
【請求項5】
1種又は2種以上のアミノ酸がアラニン又はロイシンである、請求項4に記載のシート製剤。
【請求項6】
式(1)で表される化合物Aを含有し、化合物Aを硬膜外に投与するための、シート製剤。
【化2】
【請求項7】
基材としてシリコーンを含む、請求項6に記載のシート製剤。
【請求項8】
水溶性添加剤をさらに含む、請求項6又は7に記載のシート製剤。
【請求項9】
水溶性添加剤として1種又は2種以上のアミノ酸を含む、請求項8に記載のシート製剤。
【請求項10】
1種又は2種以上のアミノ酸がアラニン又はロイシンである、請求項9に記載のシート製剤。
【請求項11】
硬膜外投与のための脊髄損傷又は脳損傷の治療剤を製造するための、請求項6~10のいずれか一項に記載のシート製剤の使用。
【請求項12】
請求項6~10のいずれか一項に記載のシート製剤を含有する、硬膜外投与のための脊髄損傷又は脳損傷の治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセマフォリン阻害剤における新規なシート製剤及び該シート製剤を用いる新規投与方法に関する。また本発明は、セマフォリン阻害剤の新規投与方法に適したシート製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セマフォリンはこれまで約20種類ほど見出されているが、クラス3型と呼ばれるサブファミリーの遺伝子群は神経円錐の成長を抑制する機能などを有し、特に研究が進んでいる。クラス3型のセマフォリン(Sema3A)は、10pMという低濃度で、神経細胞を退縮させることが知られ、Sema3Aを阻害する低分子化合物がセマフォリン阻害剤として知られている。例えばセマフォリン阻害剤の1つである式(1)で表される化合物Aは、損傷部での神経の再生を促し、用途の例として脊髄損傷の改善が想定されている(特許文献1及び特許文献2)。
【化1】
【0003】
一方、セマフォリン阻害剤の投与方法は病床部位に局所的に投与する方法が好ましいことが知られている。そのためセマフォリン阻害剤を脊髄損傷治療剤として用いる場合、硬膜を除去する外科手術が必要である。
硬膜は、脳又は脊髄を覆う3層の髄膜のうち一番外に存在する膜である。硬膜は、多量の膠原線維を含む強靭な膜であり、硬膜を透過させて薬剤を投与することは、一般的に困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2002/009756号公報
【文献】国際公開2012/018069号公報
【文献】特開昭62-174007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のとおり、そのためセマフォリン阻害剤を脊髄損傷の治療剤として用いる場合、硬膜を除去する外科手術が必要であるところ、硬膜を除去する外科手術は対象における身体的な負担が大きい。一方、硬膜を除去する外科手術を施術せずにセマフォリン阻害剤を施用する手段は、これまで存在しない。
上記現況に鑑み、本発明は硬膜を除去する外科手術を施術せずにセマフォリン阻害剤を施用するための製剤を提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、ある種の製剤を用いることにより、外科的に硬膜を取り除くことなくセマフォリン阻害剤を施用できることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、少なくとも以下の各発明に関する:
[1]セマフォリン阻害剤を含む、硬膜外投与により脊髄損傷又は脳損傷を治療するためのシート製剤。
[2]基材としてシリコーンを含む上記[1]のシート製剤。
[3]水溶性添加剤をさらに含む上記[1]又は[2]のシート製剤。
[4]水溶性添加剤が1種又は2種以上のアミノ酸を含む上記[3]のシート製剤。
[5]アミノ酸がアラニン又はロイシンである上記[4]のシート製剤。
[6]セマフォリン阻害剤がセマフォリン3A阻害剤である上記[1]~ [5]のいずれか1項のシート製剤。
[7]セマフォリン阻害剤が式(1)で表される化合物Aである上記[1]~ [5]のいずれか1項のシート製剤。
【化2】

[8]式(1)で表される化合物Aを含有するシート製剤。
【化3】

[9]基材としてシリコーンを含む、[8]に記載のシート製剤。
[10]水溶性添加剤をさらに含む、[8]又は[9]に記載のシート製剤。
[11]水溶性添加剤として1種又は2種以上のアミノ酸を含む、[10]に記載のシート製剤。
[12]1種又は2種以上のアミノ酸がアラニン又はロイシンである、[11]に記載のシート製剤。
[13]治療が必要な患者に、治療上の有効量の上記[8]~ [12]のいずれか一項に記載のシート製剤を硬膜外に投与することを特徴とする、脊髄損傷又は脳損傷を治療するための方法。
[14]硬膜外に投与する脊髄損傷又は脳損傷の治療剤を製造するための、上記[8]~ [12]のいずれか一項に記載のシート製剤の使用。
[15]上記[8]~ [12]のいずれか一項に記載のシート製剤を含有し、硬膜外に投与することを特徴とする、脊髄損傷又は脳損傷の治療剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明のシート製剤によれば、外科的に硬膜を取り除くことなく、脊髄損傷又は脳損傷の患部及び/又はその近傍に施用することにより、セマフォリン阻害剤を患部に到達させることが可能になる。したがって本発明によれば、セマフォリン阻害剤を投与する際の患者の身体的負担が大幅に軽減されるという効果が奏される。
本発明のシート製剤のうち基材としてシリコーンを含むシート製剤によれば、セマフォリン阻害剤の患部への送達を一層効率的に行うことができる。
本発明のシート製剤のうち水溶性添加剤、とくに1種又は2種以上のアミノ酸、を含むシート製剤によれば、セマフォリン阻害剤の患部への送達をより一層効率的に行うことができる。上記1種又は2種以上のアミノ酸がアラニン又はロイシンである本発明のシート製剤は、セマフォリン阻害剤の患部への送達の効率がとくに優れている。
【0008】
本発明の有効成分であるセマフォリン阻害剤のような水溶性の化合物では疎水性高分子担体にほとんど溶解せず、自律的に拡散・放出され得ないことから、脂溶性薬物とは全く異なる放出機構が一般に必要である。
水溶性薬物を疎水性高分子担体から放出させる一般的な手法としては、リザーバー型製剤で細孔から放出させるものが挙げられる。他にも、担体中に薬物が分散したタイプもあり、ここではまず初めに表面に存在する薬物粒子が周囲の組織中の水分により溶け出し、次いでこれに接する薬物粒子が溶け出す、といった現象の繰り返しにより連続した水のチャンネルを形成し、チャンネル内を拡散させることにより薬物を放出させている。このとき、製剤内部で生じる浸透圧の差によりクラッキングが生じることによってもチャンネル形成が促進され、さらに膨潤による押出し効果によって放出が促進される。このため、放出を持続させるには担体中の粒子が近接していることや製剤内部で浸透圧の差を発生させることが必要であり、一定量以上の水溶性薬物又は水溶性の添加剤を含有させる必要があることを特徴とする。このような例として、アルブミンの添加によりシリコーンからの薬物放出を制御する方法が報告されている(特許文献3)。
しかし、このような水溶性薬物の放出機構による放出制御は極めて難しく、一般的に初期放出速度が著しく大きいバースト的放出を生じ、その後は経時的に放出量が低下する一次放出のプロファイルとなることから、長期間の安定した持続放出は困難である。
【0009】
これに対して、本発明のシート製剤のうち基材としてシリコーンを含み、水溶性添加剤、とくに1種又は2種以上のアミノ酸、をさらに含むシート製剤によれば、セマフォリン阻害剤の患部への送達をより一層効率的に行うことができる。上記1種又は2種以上のアミノ酸がアラニン又はロイシンである本発明のシート製剤は、セマフォリン阻害剤の患部への送達の効率がとくに優れているといった効果を奏する。
また、上記1種又は2種以上のアミノ酸をさらに含む本発明のシート製剤においては柔軟性が担保されるため患部又はその近傍への追従性に優れ、もって患部又はその近傍への密着度も高められるといった効果も奏される。かかる効果は上記1種又は2種以上のアミノ酸がアラニン又はロイシンである本発明のシート製剤において一層顕著に奏される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、製剤例1(本発明のシート製剤の例である試験製剤1-1)を用いた薬物放出試験の結果を示す(試験例1)。グラフの縦軸は化合物Aの累積放出率を、横軸は試験開始後の経過時間を、それぞれ表す。
図2図2は、製剤例2(本発明のシート製剤の例である試験製剤2-1)を用いた薬物放出試験の結果を示す(試験例2)。グラフの縦軸は化合物Aの累積放出率を、横軸は試験開始後の経過時間を、それぞれ表す。
図3図3は、製剤例2(本発明のシート製剤の例である試験製剤2-2)及び製剤例3(比較例:試験製剤3-2)を用いたラット脊髄損傷モデルを用いたBBBスコア評価の結果を示す(実施例1)。グラフの縦軸は化合物Aの累積放出率を、横軸は試験開始後の経過時間を、それぞれ表す。
図4図4は、製剤例2(本発明のシート製剤の例である試験製剤2-3)を用いたラット脊髄硬膜外留置による薬物の脊髄移行評価試験の結果を示す(実施例2)。
図5図5は、製剤例1(本発明のシート製剤の例である試験製剤1-2)を用いたフランツセルを用いたイヌ及びブタ脳硬膜透過性評価試験の結果を示す(実施例3)。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、セマフォリン阻害剤を含む、硬膜外投与により脊髄損傷又は脳損傷を治療するためのシート製剤にかかるものである。
セマフォリン阻害剤を含有したシート製剤を硬膜の外側に密着させることで、細胞を用いたIn vitro試験においてセマフォリン3Aによる神経伸長阻害作用を十分に抑制できるレベルまで脊髄中のセマフォリン阻害剤、とくに化合物Aの濃度を高めることができ、マウスを用いたIn vivo試験において薬理効果を、本発明者らは確認した。
また、本発明者らは、硬膜内に投与した製剤と同等の薬理効果が、本発明のシート製剤を用いることにより得られることを見出した。
さらに、本発明のシート製剤を用いた際には血中にセマフォリン阻害剤はほとんど移行しておらず、セマフォリン阻害剤が局所的に投薬されていることも、発明者らは確認した。さらにまた、本発明者らはセマフォリン阻害剤を長期的かつ効率的に放出可能なシート製剤を見出している。
本発明は、これらの新たな知見に基づくものである。
なお、脊髄損傷又は脳損傷のためにセマフォリン阻害剤を適用するための剤型として、シート製剤が用いられることは、これまで試されることさえなかった。
【0012】
●本発明のシート製剤の構成
本発明のシート製剤は、有効成分としてセマフォリン阻害剤を含有し、任意にセマフォリン阻害剤以外の薬学的に許容される成分が、セマフォリン阻害剤とともに基材に担持された構成を有し、硬膜外投与により脊髄損傷又は脳損傷の治療に供しえるものであれば、その構成はとくに限定されない。
セマフォリン阻害剤はとくに限定されず、特開2016-037472に記載の各種化合物や化合物Aが例示される。本発明のシート製剤におけるセマフォリン阻害剤として、化合物Aは好ましい。化合物Aは下記の構造を有する:
【化4】
【0013】
化合物Aはペニシリウム・エスピー(Penicillium sp.)SPF-3059株の培養、化学的な全合成、又は本培養もしくは全合成によって得られた物を原料に用いた公知の合成方法による化学的な変換によって得ることができる。
培養としては、大阪府内土壌より分離したペニシリウム属に属するカビSPF-3059株[本菌株は、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブタペスト条約に基づき、2001年7月13日に経済産業省独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305-8566茨城県つくば市東1-1-1中央第6)に受託番号FERM BP-7663として寄託されている。]を培養することにより効果的に得ることができる。具体的には、国際公開第02/09756号パンフレット(特許文献1)又は国際公開第03/062243号パンフレットに記載された方法に従って、当該化合物を得ることができる。
全合成としては、特開2008-13530号公報に記載された方法に従って化合物Aを得ることができる。
【0014】
本発明のシート製剤における基材は限定されないところ、該基材の成分として生体適合性の疎水性高分子が例示される。疎水性高分子は生体内非分解性のものと生体内分解性のものに大別されるところ本発明のシート製剤においてはいずれを用いてもよく、以下に例を示すが、これに限定されるものではない。すなわち、生体内非分解性高分子の例としては、シリコーン、ポリウレタンが挙げられ、生体内分解性高分子の例としてはポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトン及びこれらの共重合体が挙げられる。
【0015】
これらの疎水性高分子のうち、シリコーンは好ましい。シリコーンを基材の成分として含む本発明のシート製剤は、セマフォリン阻害剤の患部への送達を一層効率的に、及び/又は徐放的に行うことができるため好ましい。理論に拘泥するものではないが、シリコーンのような疎水性高分子を基材として用いることにより、シート製剤内部で浸透圧の差が効率的に発生し、化合物Aのようなキサントン化合物の硬膜に対する透過性が高まることが一因であると推測される。
シリコーンを基材として用いる場合、シリコーンにセマフォリン阻害剤及び添加剤が分散され含有される。
シリコーンは生体適合性の優れた材料として古くから人工臓器や医療器具の材料として用いられている、安全性にも優れる素材である。シリコーンにはシロキサン結合の重合度や置換基の違いにより、オイル状、ゲル状、ゴム状等、さまざまな形状のものがある。本発明のシート製剤に用いられるシリコーンは限定されず、液状、オイル状、ゲル状のシリコーンを硬化させ固体としたものであってもよい。該シリコーンとしては液状のものが好ましく、液状のシリコーンとしては例えばDow Corning社製のポリジメチルシロキサンのSILASTIC Q7-4750A成分や同B成分、Nusil社製のMED-4750を用いることができる。本発明のシート製剤に用いられるシリコーンとしてQ7-4750A成分及びQ7-4750B成分は好ましく、これらを併用したものはより好ましい。
本発明のシート製剤におけるシリコーン等の基材の配合割合は限定されず、例えば30%~90%であり、35%~75%は好ましく、40%~60%はより好ましい。本明細書において各成分の配合割合は他に記載がない限り、有効成分を含有する、シート製剤の本体全体の重量に対する各成分の重量割合を%で表したものである。
【0016】
●その他の成分
本発明のシート製剤には薬学的に許容される他の成分を含んでよい。薬学的に許容される他の成分はとくに限定されない添加剤であるところ、前記添加剤としては、薬学的に許容される通常の担体が挙げられ、目的に応じて、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、等張剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤、溶解剤、溶解補助剤、増粘剤、分散剤、安定化剤等を用いることができる。添加剤として、例えば、乳糖、マンニトール、結晶セルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、部分α化デンプン、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、酸化チタン、タルク等が挙げられる。
【0017】
前記添加剤として、水溶性添加剤は好ましい。水溶性添加剤を用いることにより、水溶性添加剤によりセマフォリン阻害剤の放出速度を最適化し、及び/又はセマフォリン阻害剤の安定化等が達成される可能性がある。すなわち水溶性添加剤により、セマフォリン阻害剤の患部への送達をより一層効率的に行うことができる。
本発明においては、さらに放出速度を最適化するため、又は薬物安定化等の目的のために、水溶性添加剤を加えることは好ましい。
水溶性添加剤は常温で固体であり医学的・薬学的に許容されるものであればとくに限定されず、公知のものを用いてよい。本発明のシート製剤における水溶性添加剤として、水溶性添加剤は常温で固体であり医学的・薬学的に許容されるものであれば限定されず、1種又は2種以上のアミノ酸、1級アミンを持たない糖類、塩類、胆汁酸塩が好ましい。これらの好ましい水溶性添加剤として、具体的には以下のものが例示される:
・1種又は2種以上のアミノ酸として、中性アミノ酸又は疎水性アミノ酸が挙げられ、これらのアミノ酸のうちアルキル鎖を持つグリシン、アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンはより好ましく、アラニン及びロイシンはとくに好ましい。またアラニン及びロイシンのうちL-アラニン及びL-ロイシンはそれぞれ好ましい。
・1級アミンを持たない糖類として、グルコース、マンニトール、ラクトース、トレハロース、スクロース、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール等が挙げられ、好ましくはグルコース、マンニトール、ラクトースが挙げられ、これらのうちマンニトールはとくに好ましい。
・塩類として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム等が挙げられ、好ましくは塩化ナトリウムが挙げられる。
・胆汁酸塩として、一次胆汁酸塩であるコール酸ナトリウム及びケノデオキシコール酸ナトリウム、二次胆汁酸塩であるデスオキシコール酸ナトリウム及びリトコール酸ナトリウム、複合胆汁酸塩であるグリココール酸ナトリウム及びタウロコール酸ナトリウム等が挙げられ、好ましくはコール酸ナトリウム、デスオキシコール酸ナトリウム、グリココール酸ナトリウムが挙げられる。
【0018】
本発明のシート製剤に用いられる水溶性添加剤として、より好ましいのは1種又は2種以上のアミノ酸、1級アミンを持たない糖類、及び塩類であり、これらの水溶性添加剤のうちとくに1種又は2種以上のアミノ酸は好ましい。1級アミンを持たない糖類又は塩類を本発明のシート製剤に用いる場合、これらを併用することは好ましい。
本発明のシート製剤に用いられる1種又は2種以上のアミノ酸は限定されないところ、中性アミノ酸又は疎水性アミノ酸は好ましい。これらのアミノ酸のうちアルキル鎖を持つグリシン・アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシンはより好ましく、アラニン及びロイシンはとくに好ましい。本発明のシート製剤のうち、1種又は2種以上のアミノ酸としてアラニン又はロイシンを含むものは好ましく、アラニン及びロイシンを含む本発明のシート製剤は、より好ましい。
本発明のシート製剤に水溶性添加剤が用いられる場合、その配合割合は限定されず、例えば5重量%~35重量%であり、10重量%~25重量%は好ましく、15重量%~25重量%はより好ましい。
本発明のシート製剤における水溶性添加剤としてアラニンが用いられる場合、その配合割合は限定されず、例えば5重量%~25重量%であり、8重量%~20重量%は好ましく、10重量%~20重量%はより好ましい。
本発明のシート製剤における水溶性添加剤としてロイシンが用いられる場合、その配合割合は限定されず、例えば0.5重量%~10重量%であり、1重量%~10重量%は好ましく、1重量%~8重量%はより好ましい。
本発明のシート製剤における水溶性添加剤としてアラニン及びロイシンが用いられる場合、それらの配合比は限定されず、例えばアラニン:ロイシンの比は10:1~2:1であり、8:1~2:1は好ましく、8:1~3:1はより好ましい。
【0019】
●成分の量
本発明のシート製剤におけるセマフォリン阻害剤の含量はとくに限定されず、0.3~35%であってよく、好ましくは2~20%であり、より好ましくは8~15%である。
本発明のシート製剤における基材の含量もとくに限定されず、30%~90%であり、35%~75%は好ましく、40%~60%はより好ましい。
本発明のシート製剤において水溶性添加剤が用いられる場合、添加される水溶性添加剤の含量は限定されず、5重量%~35重量%であり、10重量%~25重量%は好ましく、15重量%~25重量%はより好ましい。
本発明のシート製剤のうち1種又は2種以上のアミノ酸をさらに含む本発明のシート製剤においては柔軟性が向上するため、セマフォリン阻害剤のような水溶性薬物による硬化を緩和することができる。そのため本発明のシート製剤のうち1種又は2種以上のアミノ酸をさらに含む本発明のシート製剤においては従来のシート製剤に比較してより多量のセマフォリン阻害剤を有効成分として含有させることができる。
【0020】
セマフォリン阻害剤及び適宜添加される水溶性添加剤は担体中で粉末として分散しているが、これらの粒子径が放出性に影響を与える可能性がある。そのため、本発明のシート製剤の品質を安定させるために、必要に応じてセマフォリン阻害剤及び水溶性添加剤の粒子径を一定範囲にコントロールすることは好ましい。前記粒子径は、上限として300μm以下であることが好ましく、より好ましくは200μm以下である。これらの粒子径になるようにコントロールされることは好ましい。
【0021】
●大きさ・厚み・形状
本発明のシート製剤の大きさや形状は限定されない。
本発明のシート製剤の大きさは、例えば縦は2~90mmであり、横は2~140mmであり、損傷部位の大きさに応じて用時に切断してもよい。
本発明のシート製剤の厚みは限定されず、0.1~2.0mmが例示される。本発明のシート製剤の厚みは、好ましくは0.3~1.5mmであり、より好ましくは0.5~1.2mmである。
また本発明のシート製剤の形状としては、損傷部位近傍に載置・定着されることができる形状であれば限定されず、全体の形状として円形、楕円形、矩形が例示される。
【0022】
本発明のシート製剤の厚さの測定方法は、実験的な小規模製造においては、シリコーン硬化後にノギス等により測定することが可能であるが、シリコーンには弾力性があることから過度の加圧による収縮、変形が起こらないように注意して測定する必要がある。加圧の影響が少ない測定法としては顕微鏡による測定や超音波厚さ計が挙げられる。製造工程において、シリコーン硬化前の成形直後、又は硬化後のいずれにおいても測定することも可能であるが、硬化前には加圧よる変形が起こりやすいので一層の注意を要する。また、成形に用いるノズル、スリット、ローラー等の金型のサイズと常圧下での膨張率を予め計算しておいて、完成品のサイズを予測して製造することもできる。
【0023】
●製造方法
本発明のシート製剤の製造方法は限定されず、本技術分野において通常用いられる方法により製造してよい。本発明のシート製剤のうちシリコーンが基材として用いられるものについては、例えばWO2012/018069に記載されているシリコーン製剤の製造方法を参照してよい。
【0024】
●用途・使用方法
本発明のシート製剤は、硬膜外投与により脊髄損傷又は脳損傷を治療するために、脊髄損傷又は脳損傷の患部及び/又はその近傍に施用することにより用いられる。本明細書において「治療する」とは、完治のみならず、症状の軽減を客観的な指標及び/又は患者の主観により、測定又は認識できることも包含する。
本発明のシート製剤のうち、脊髄の湾曲形状に追従する柔軟性、可撓性及び/又は可塑性を有するものは脊髄損傷の治療においてとくに好ましい。かかる柔軟性、可撓性及び/又は可塑性を担保するために、上記1種又は2種以上のアミノ酸をさらに含む本発明のシート製剤は好ましい。
本発明のシート製剤は、支持層の上に基材を載置して用いることにより、患部への定着性をより高める構成にしてよい。また本発明のシート製剤において、前記支持層の2面のうち基材が載置される面の側には、支持層と基材との間に粘着層を有してよい。
【実施例
【0025】
以下に製剤例及び試験例とともに、実施例により本発明についてより詳細に説明する。本発明はいかなる意味においてもこれらの例に限定されるものではない。
〔製剤例1〕
表1に従って、化合物A、マンニトール(PEARLITOL(登録商標) SD-Mannitol、ROQUETTE製)、及び塩化ナトリウム(ナカライテスク製)を秤量し、乳鉢内で均一に混合して、混合粉末を得た。一方、表1に従って、Q7-4750シリコーンA成分(SILASTIC Q7-4750シリコーンA成分、Dow Corning製)、及びQ7-4750シリコーンB成分(SILASTIC Q7-4750シリコーンB成分、Dow Corning製)を秤量し、2本ロールで練合した。上記シリコーン練合後、速やかに上記混合粉末を全量加え練合した。その後二本ロールで伸展し40℃で25時間硬化させ、厚さ0.3mmのシート製剤(製剤例1)を得た。「配合比(%)」は重量%を表す。
【表1】
【0026】
〔製剤例2〕
表2に従って、L-アラニン(ナカライテスク製)、及びL-ロイシン(ナカライテスク製)、化合物Aをこれらの順番で秤量し、12mLポリプロピレン製軟膏壺に入れた。ミクロスパーテルを用いて粉末を均一に混合し、混合粉末を得た。一方、10mLポリプロピレン製シリンジに、MED-6215シリコーンA成分(NuSil製)6.0gとMED-6215シリコーンB成分(NuSil製)0.6gを秤取した後、ステンレス製シリンジミキサーの片側に取り付けた。もう片側には空の10mLポリプロピレン製シリンジを取り付けた後、十分に脱気した。手動にてシリンジミキサーを介してシリンジを15往復(30回)ポンピングさせて混合し、シリコーン混合物とした。このシリコーン混合物を0.936g(A成分、B成分としてそれぞれ0.851g、0.085g相当)秤取し、上記軟膏壺に入れた。軟膏壺を自転公転ミキサー(ARE-310、シンキー製)にセットし、混練モード2000rpmで2分、遠心モード2000rpmで1分、混練モード2000rpmで2分の順で混練した。混練物はミクロスパーテルを用いて再度十分に混練し、 5mLポリプロピレン製シリンジに混練物の全量を回収した後、遠心機(CF7D2、日立工機製)にセットし1000rpmで2分間の条件で脱泡した。脱泡した混練物を1.05mm厚のSUS型枠内に注入し、手動油圧加熱プレス(井元製作所製)に設置し、0.8ton (9.8 MPa) の荷重を加えた状態で100℃ 、30分間の条件で硬化させ、厚さ1mmのシート製剤(製剤例2)を得た。
【表2】
【0027】
〔製剤例3〕
表3に従って、L-アラニン(ナカライテスク製)、及びL-ロイシン(ナカライテスク製)をこれらの順番で秤量し、12mLポリプロピレン製軟膏壺に入れた。ミクロスパーテルを用いて粉末を均一に混合し、混合粉末を得た。一方、10mLポリプロピレン製シリンジに、MED-6215シリコーンA成分(NuSil製)6.0gとMED-6215シリコーンB成分(NuSil製)0.6gを秤取した後、ステンレス製シリンジミキサーの片側に取り付けた。もう片側には空の10mLポリプロピレン製シリンジを取り付けた後、十分に脱気した。手動にてシリンジミキサーを介してシリンジを15往復(30回)ポンピングさせて混合し、シリコーン混合物とした。このシリコーン混合物を1.476g(A成分、B成分としてそれぞれ1.342g、0.134g相当)秤取し、上記軟膏壺に入れた。軟膏壺を自転公転ミキサー(ARE-310、シンキー製)にセットし、混練モード2000rpmで2分、遠心モード2000rpmで1分、混練モード2000rpmで2分の順で混練した。混練物はミクロスパーテルを用いて再度十分に混練し、5mLポリプロピレン製シリンジに混練物の全量を回収した後、遠心機(CF7D2、日立工機製)にセットし1000rpmで2分間の条件で脱泡した。脱泡した混練物を1.05mm厚のSUS型枠内に注入し、手動油圧加熱プレス(井元製作所)に設置し、0.8ton (9.8 MPa) の荷重を加えた状態で100℃ 、30分間の条件で硬化させ、厚さ1mmのシート製剤(製剤例3)を得た。
【表3】
【0028】
〔試験例1〕製剤例1の薬物放出試験
製剤例1のシートを5mm×7mmの長方形に切り取り試験製剤1-1とした。切り取った試験製剤1-1をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)1mL中に投入し、25℃にて静置し、製剤から放出される化合物Aを高速液体クロマトグラフィー(UFLC、株式会社 島津製作所製)により定量し累積放出率を求めた。
その結果、図1に示すような薬物放出が示された。
【0029】
〔試験例2〕製剤例2の薬物放出試験
製剤例2のシートを3mm×3mmの正方形に切り取り試験製剤2-1とした。試験例1と同様の方法で試験し、製剤からの化合物Aの累積放出率を求めた。
その結果、図2に示すように、90日間におよぶ良好な持続放出が達成された。
【0030】
〔実施例1〕ラット脊髄損傷モデルを用いた後肢運動機能評価(BBBスコア評価)試験
7週齢雌性SDラット脊髄損傷モデルを用いた後肢運動機能評価(BBBスコア評価、Basso DM, Beattie MS, Bresnahan JC. A sensitive and reliable locomotor rating scale for open field testing in rats. J.Neurotrauma 1995;12:1-21.参照)試験を行った。深麻酔下でラットの背部皮膚を切開し、第10胸椎の棘突起及び椎弓を約2.5 mm径に除去し、IHインパクター(ブレインサイエンス・イデア社)を用いて露出した脊髄を250 kdynの力で圧挫損傷させた。その後、肉眼的に硬膜の損傷がないこと、脊髄周辺組織から異常な出血が起こっていないことを確認して脊髄損傷モデルの作製とした。製剤例2のシートを3mm×3mmの正方形に切り取り、試験製剤2-2とした。比較例として、製剤例3のシートを3mm×3mmの正方形に切り取り、試験製剤3-2とした。脊髄損傷直後に切り出した試験製剤を損傷脊髄の硬膜上に投与(留置)した。脊髄損傷後7日目より、20分間/日、5日/週の頻度でトレッドミルを用いてリハビリ処置を行った。ラットに前肢を通すことで前半身を保持できるジャケットを着用させ、トレッドミル(夏目製作所 KN-73)上に軽く前肢・後肢を置ける高さで保持した。脊髄損傷後7日目からトレッドミルのベルトを0.6 m/minの速度で動かし、ラットの後肢を強制的に20分間動かし、後肢運動機能回復のためのリハビリとした。その2週間後にはベルト速度を1.8 m/minに、さらにその2週間後以降は3.0 m/minに増加させ、リハビリを継続した。脊髄損傷1週間後より週に1度、13週目までBBBスコア評価を実施した。BBBスコア評価は、Bassoら1)の方法に従い実施した。脊髄損傷後2週時点において、BBBスコア9以上の動物は自然回復動物とみなし、試験から除外した。
その結果、図3に示すように本発明の実施例である化合物A投与群(試験製剤2-2)は比較例(試験製剤3-2)に対して、7及び11週間目において有意なBBBスコアの改善を示した。
【0031】
〔実施例2〕ラット脊髄硬膜外留置による薬物の脊髄移行評価試験
7週齢雌性SDラットを用い、脊髄硬膜外に留置したシート製剤からの脊髄組織中への薬物移行性を評価した。製剤例2のシートを3mm×3mmの正方形に切り取り、試験製剤2-3とした。深麻酔下でラットの背部皮膚を切開し、第10胸椎について棘突起及び椎弓を切除し脊髄硬膜を露出させた。直ちに試験製剤2-3を脊髄硬膜上に投与(留置)し、開創部位を閉鎖した。留置後1、10、28及び91日後に脊髄を採取し、組織中の化合物A濃度をLC/MS/MS(API-4000、SCIEX)で測定した。さらに、留置後1、3、6及び24時間ならびに10、28及び91日後に採血し、血漿中の化合物A濃度を上記LC/MS/MSにより定量した。
その結果、図4に示すように硬膜外投与した薬物は、十分量が脊髄組織中に移行することが示された。一方で、血漿中濃度は、脊髄中濃度に比較して低濃度であり、薬物が血液中への移行を介さず脊髄中へ直接分布したことが示唆された。
【0032】
〔実施例3〕フランツセルを用いたイヌ及びブタ脳硬膜透過性評価試験
イヌ(Beagle)及びブタ(Gottingen mini-pigs)を深麻酔下で放血、屠殺した後、脳硬膜を採取した。フランツセル(キーストンサイエンティフィック製)のレセプターチャンバー側を6連スターラー上に固定し、恒温槽とレセプターチャンバーをチューブで接続し、37℃の温水をウォータージャケット内に還流させた。レセプターチャンバー内に回転子を入れた後、チャンバー内を人工脳脊髄液(ACSF)で満たした。チャンバー内のACSFの温度が安定した後、各硬膜をレセプターチャンバーの上に乗せ、さらに硬膜の上からドナーチャンバーをセットし、クランプで固定した。レセプターチャンバー内のACSF量は標線に合わせて5mLに調整した。製剤例1を5mm×7mmの長方形に切り取り試験製剤1-2とした。切り取った試験製剤1-2を、硬膜上に留置した。さらに、乾燥防止のため、ドナーチャンバーの上部をパラフィルムで密閉し、試験を開始した。サンプリングポートより経時的に300μLをサンプリングし、サンプリング直後には同量のACSFをサンプリングポートより補充した。サンプリング時間は、0.5、1、2、4、6、24及び48時間の7ポイントとした。サンプリングした溶液中の化合物A濃度を高速液体クロマトグラフィー(UFLC、島津製作所製)により定量し、透過量を算出した。
図5に示すように、製剤例1から得た本発明の実施例である試験製剤1-2から化合物Aが放出され、脳硬膜を動物種の違いなく透過することが示された。
【0033】
以下に化合物Aの合成方法を例示する。
〔合成例1〕
【化5】

文献(ACS Chemical Neuroscience 2015,6,542-550)の方法で合成される化合物A保護体(160g,169mmol)とトルエン(800g)、水(6.10g,0.339mmol)を反応容器に加え、25℃に保温した。ここにトリフルオロ酢酸(1.54kg,13.5mol)を滴下し、種晶(1.60g,1.69mmol)を添加した。40℃で1時間攪拌した後、60℃に昇温してさらに3時間攪拌した。0℃に冷却し、エタノール(400g)を加えて終夜攪拌した後、生じた結晶を濾取した。濾上物をトルエン(320g)、エタノール(320g×2回)で順次洗浄し、40℃で減圧乾燥して化合物Aトリフルオロ酢酸和物(107.9g,1TFA和物として収率92.3%)を黄色固体として得た。
XRD:2θ=7.5,8.4,10.0,12.0,14.0,14.2,14.9,21.8,22.4,23.9.
TGA:30℃から190℃にかけて15.0%の重量減少
【0034】
〔合成例2〕
【化6】

合成例1で得られた化合物Aトリフルオロ酢酸和物(105g,152mmol)とアセトン(210g)、脱イオン水(840g)を混合し、50℃で4時間攪拌した。0℃まで2時間かけて冷却し、さらに1時間攪拌した。生じた結晶を濾別し、アセトン/水(31.5g/126g)の混合溶媒で2回、少量のアセトンで1回洗浄した後、40℃で減圧乾燥し、化合物A(92.2g,定量的、2工程収率97.2%)を黄色固体として得た。
なお、核磁気共鳴(NMR)スペクトルは、Bruker BioSpin製AV400M(400MHz)を用いて測定した。粉末X線回折(XRD)は、Bruker AXS製D8 ADVANCEを用いて回折角度2θ5度~40度の範囲でCu Kα線、X線管電流40ミリアンペア、電圧40キロボルトステップ0.015度、測定時間48秒/ステップの条件にて測定した。TGA(熱重量分析)はティ・エイ・インスツルメント社製Q500を用いて測定温度範囲室温~300℃、昇温速度10℃/分、雰囲気ガス乾燥窒素、サンプル流量約60mL/分、バランス流量約40mL/分の条件でプラチナパン容器にて測定した。
H-NMR(DMSO-d,400MHz)δ:11.65(1H,brs),11.40(1H,brs),9.41(2H,brs),8.53(1H,s),8.17(1H,s),6.96(1H,s),6.94(1H,s),2.54(1H,s),2.53(1H,s).
XRD:2θ=7.57,8.22,13.2,13.7,21.5,22.2,22.825,0,27.9,30.0.
【0035】
〔合成例3〕
【化7】

合成例1で得られた化合物Aトリフルオロ酢酸和物(1.00g,1.44mmol)と5% アセトン水(5.00g)を混合して得られるスラリーに3%炭酸水素ナトリウム水溶液(52.7g,18.7mmol)を加え、25℃で1時間攪拌して溶解させた。この溶液を、9%塩酸(8.21g,20.1mmol)に30分かけて滴下した。25℃で3時間攪拌し、生じた結晶を濾取し、水(2.00g)で3回洗浄後、25℃で3時間減圧乾燥した。飽和塩化カリウム水溶液を入れた容器内(湿度80%以上)に結晶を静置して終夜調湿し、化合物A三水和物(0.900g,収率98.5%)を薄黄色の固体として得た。
XRD:2θ=10.1,15.5,19.1,24.0,25.6.
TGA:25℃から125℃にかけて8.35%の重量減少
【0036】
〔合成例4〕
【化8】

合成例3で得られた化合物A三水和物(1.25g,1.98mmol)と50重量%アセトン水(37.5g)を混合し、60℃で3時間加熱攪拌した。1時間かけて0℃まで冷却し、さらに4時間攪拌した。結晶を濾取し、50重量%アセトン水(1.88g)で2回洗浄した後、40℃で減圧乾燥して化合物A(1.01g,収率88.6%)を黄色固体として得た。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明によれば、外科的に硬膜を取り除くことなく、脊髄損傷又は脳損傷の患部及び/又はその近傍に施用することにより、セマフォリン阻害剤を患部に到達させることが可能になる。すなわち、本発明のシート製剤を用いることによって、患者の身体的負担が大幅に軽減された脊髄損傷又は脳損傷の治療が可能になる。
図1
図2
図3
図4
図5