(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】振動型アクチュエータ制御装置およびレンズ装置
(51)【国際特許分類】
H02N 2/06 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
H02N2/06
(21)【出願番号】P 2021010580
(22)【出願日】2021-01-26
【審査請求日】2024-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125254
【氏名又は名称】別役 重尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 潤
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-152746(JP,A)
【文献】特開2020-025465(JP,A)
【文献】特開2017-123708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに位相差を有する2相の駆動信号の印加によって振動が励起される振動体と、前記振動体と接触し前記振動体に対して相対的に移動する接触体と、を有する振動型アクチュエータの駆動を制御する振動型アクチュエータ制御装置であって、
前記振動体および前記接触体のうち可動側となる移動体の可動方向に関して前記移動体に加わる外力を取得する取得手段と、
前記移動体の目標位置を設定する設定手段と、
前記振動体を制御する制御手段と、を有し、
前記制御手段は、前記目標位置への前記移動体の駆動方向が前記取得された外力の方向に対して順方向である場合において、少なくとも前記目標位置への前記移動体の駆動を開始する際に、前記目標位置に基づく駆動力に前記駆動方向とは逆方向の駆動力を加味して前記振動体を制御することを特徴とする振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記駆動方向が前記外力の方向に対して逆方向である場合において、少なくとも前記目標位置への前記移動体の駆動を開始する際に、前記目標位置に基づく駆動力に前記駆動方向に対して順方向の駆動力を加味して前記振動体を制御することを特徴とする請求項1に記載の振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記移動体の現在位置と前記目標位置との偏差に基づいて、位相差操作量を決定すると共に、前記外力の大きさおよび方向に基づいて初期位相差を決定し、前記位相差操作量に対して前記初期位相差を加算することで、前記目標位置への前記移動体の駆動を開始する際の前記駆動信号を生成することを特徴とする請求項1または2に記載の振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記駆動方向が前記外力の方向に対して順方向である場合、前記位相差操作量に対して、前記位相差操作量の極性とは逆極性の前記初期位相差を加算することを特徴とする請求項3に記載の振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記駆動方向が前記外力の方向に対して逆方向である場合、前記位相差操作量に対して、前記位相差操作量の極性と同極性の前記初期位相差を加算することを特徴とする請求項3または4に記載の振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項6】
前記初期位相差は、前記移動体が駆動状態にある動摩擦下において、前記移動体が前記外力に抗して位置の平衡を保つことのできるような位相差を基準に設定されることを特徴とする請求項3乃至5のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項7】
前記外力は重力を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項8】
前記外力は、前記移動体を付勢する付勢部材による付勢力を含み、前記付勢力は、検知された前記付勢部材の伸縮量から取得されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項9】
前記外力は、前記移動体に設置された外力センサの出力から取得されることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ制御装置。
【請求項10】
互いに位相差を有する2相の駆動信号の印加によって振動が励起される振動体と、前記振動体と接触し前記振動体に対して相対的に移動する接触体と、を有する振動型アクチュエータと、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ制御装置と、を有し、
前記振動型アクチュエータは、前記振動体または前記接触体のいずれかに固定されたレンズを含むことを特徴とするレンズ装置。
【請求項11】
互いに位相差を有する2相の駆動信号の印加によって振動が励起される振動体と、前記振動体と接触し前記振動体に対して相対的に移動する接触体と、を有する振動型アクチュエータと、
請求項1乃至9のいずれか1項に記載の振動型アクチュエータ制御装置と、
前記振動型アクチュエータにより駆動される被駆動部材と、を有することを特徴とする駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型アクチュエータ制御装置およびレンズ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
振動型アクチュエータは、一般に、互いに位相差を有する2相の周波駆動信号が圧電素子に印加されることにより楕円運動等の振動が励起される振動体と、これに接触する接触体とを有する。振動体あるいは接触体のうち可移動なもの(以下、移動体という)が移動する。すなわち、振動体と接触体とが相対移動する。
【0003】
このような振動型アクチュエータの駆動を制御する方法として、2相の駆動信号の周波数を変化させる周波数制御と、該2相の駆動信号の位相差を変化させる位相差制御とがある。周波数制御は高速駆動を制御し易く、位相差制御は周波数制御に比べて低速駆動の制御性が高い。そのため、振動型アクチュエータを速度あるいは位置に基づいてフィードバック制御する場合、動き始めの加速時や停止に向けた減速時などの低速域においては位相差制御が一般に用いられる。
【0004】
振動型アクチュエータは、前述したように振動体の楕円運動等の振動の励起で駆動する。振動の状態は、振動体と接触体との接面方向に働く振動(以下、突き上げ振動という)と、振動体と接触体の接面を滑らすように働く振動(以下、送り振動という)とに分けられる。位相差が0°から90°の間では位相差が大きいほど送り振動は大きくなり、送り振動の大きさに従い振動型アクチュエータの速度が大きくなる。
【0005】
このような振動型アクチュエータにおいては、駆動中の外力による影響を考慮することが重要である。振動型アクチュエータにおいて、駆動停止中のように振動を伴わない場合、移動体は高い保持力を示し、ある程度の外力を受けてもその位置に留まることが可能である。一方、駆動中のように振動を伴う場合、特に動き始めの加速時や停止に向けた減速時などの、位相差が小さく駆動方向への推進力である送り振動を多く伴わない状態においては、外力の影響を受けやすい。例えば、振動型アクチュエータの駆動方向に対し、外力が逆方向に加わっている場合、動き始めに外力に押されて駆動方向とは逆向きに位置ずれを起こしてしまうことがある。
【0006】
特許文献1には、振動型アクチュエータの動き出しを向上させる目的で、移動体を停止状態から移動させる際に、2相の駆動信号の位相差に初期位相差を設定し、位相差制御は該初期位相差から変化させることが開示されている。外力が駆動方向に対し逆方向に作用する場合は、初期位相差を外力に打ち勝つ程度に大きく設定することで、動き始めの逆方向への位置ずれを抑制することが可能になると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一方、外力が順方向に加わっている場合、停止に向けた減速時に駆動方向に過度に押されることで、目標停止位置を大きく通り越してしまう(オーバーシュートする)ことがある。しかしながら、特許文献1における、動き出しを向上させるための初期位相差は、駆動方向への推進力を大きくするものである。そのため、外力が駆動方向に対して順方向に作用している場合に、外力が駆動方向に対して逆方向に作用している場合と同様の初期位相差を設定すると、目標停止位置でのオーバーシュートをより大きくしてしまう可能性がある。フィードバック制御においては、オーバーシュートが大きいと移動体が目標位置に安定するのに要する時間(整定時間)が長くなる。
【0009】
本発明は、目標位置に対するオーバーシュートを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、互いに位相差を有する2相の駆動信号の印加によって振動が励起される振動体と、前記振動体と接触し前記振動体に対して相対的に移動する接触体と、を有する振動型アクチュエータの駆動を制御する振動型アクチュエータ制御装置であって、前記振動体および前記接触体のうち可動側となる移動体の可動方向に関して前記移動体に加わる外力を取得する取得手段と、前記移動体の目標位置を設定する設定手段と、前記振動体を制御する制御手段と、を有し、前記制御手段は、前記目標位置への前記移動体の駆動方向が前記取得された外力の方向に対して順方向である場合において、少なくとも前記目標位置への前記移動体の駆動を開始する際に、前記目標位置に基づく駆動力に前記駆動方向とは逆方向の駆動力を加味して前記振動体を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、目標位置に対するオーバーシュートを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】レンズ装置の構成を示す模式図およびブロック図である。
【
図2】2相(A相およびB相)の駆動信号の波形の例を示す図である。
【
図3】振動型アクチュエータの駆動特性を示す図である。
【
図4】初期位相差を設定した場合の振動型アクチュエータの駆動特性を示す図である。
【
図5】初期位相差の設定を行わなかった場合の振動型アクチュエータの駆動特性(比較例)を示す図である。
【
図6】初期位相差設定処理を示すフローチャートである。
【
図7】他の外力検知処理を示すフローチャートである。
【
図8】駆動装置の構成を示す模式図およびブロック図である。
【
図9】駆動装置の構成を示す模式図およびブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る振動型アクチュエータ制御装置が適用されるレンズ装置の構成を示す模式図およびブロック図である。光学機器であるこのレンズ装置は、レンズ駆動部100とその制御を行う振動型アクチュエータ制御装置とを備える。制御CPU120、操作部131および駆動回路132により振動型アクチュエータ制御装置が構成される。レンズ駆動部100にはレンズ105が含まれる。
【0015】
レンズ駆動部100において、固定鏡筒101は、レンズ105を含む光学系を収容する。接触体としての摩擦材102は固定鏡筒101の内面に固定されている。摩擦材102は、高い摩擦係数と摩擦耐久性を兼ね備えた材料で形成されている。振動体103は、電気-機械エネルギ変換素子である圧電素子と該圧電素子が固着された弾性体とを有し、振動型アクチュエータを構成する。振動体103は、バネ力や磁力等により摩擦材102に加圧状態で接触している。振動体103が有する圧電素子に、互いに位相差を有する2相の駆動信号(正弦波信号やパルス信号等の周波信号)を印加すると、振動体103の弾性体における摩擦材102との接触部に楕円運動としての振動が励起される。これにより、移動体としての振動体103が、摩擦材102に対して、つまり固定鏡筒101に対して移動する。
【0016】
なお、振動体および接触体のうち可動側となるものを移動体と称する。本実施の形態では、振動体103が移動体に該当する。しかし、接触体(摩擦材102)と振動体103とは相対的に移動する。従って、接触体が移動体となる構成であってもよい。例えば、振動体103が固定鏡筒101に固定され、摩擦材102が移動体として移動する構成であっても構わない。
【0017】
ホルダ104は振動体103に固定され、フォーカスレンズや変倍レンズ等のレンズ105を保持している。スリーブ106はホルダ104と一体に形成される。固定鏡筒101内にガイドバー107が固定されている。スリーブ106は、ガイドバー107に対して、矢印で示す光軸方向(無限端~至近端)へ移動可能に係合している。振動体103が移動することで、ホルダ104に保持されたレンズ105が光軸方向に移動する。従って、移動体である振動体103の可動方向は光軸方向と平行である。ここで、
図1に示すように、光軸方向のうちレンズ105が無限端側へ進む方向を第一の方向、至近端側へ進む方向を第二の方向と呼称する。
【0018】
レンズ105の位置は、位置センサ108によって検出される。位置センサ108としては光学エンコーダまたは磁気エンコーダを用いることができる。この光学エンコーダは、例えばホルダ104に固定されて明暗パターンを有する光学スケールと、固定鏡筒101に固定されて発光部から発して光学スケールで反射した光を受光する光学センサとにより構成される。また、磁気エンコーダは、例えば、ホルダ104に固定されて磁気パターンを有する磁気スケールと、固定鏡筒101に固定されて磁気スケールからの磁気の変化を検出する磁気抵抗素子(MRセンサ)とにより構成される。
【0019】
基準位置センサ109は、レンズ105が基準位置に位置することを検出する。基準位置センサ109としては、発光部と受光部とを有するフォトインタラプタを用いることができる。例えば、ホルダ104に遮光部を設け、該遮光部がフォトインタラプタの発光部と受光部との間に入り込むことで受光部の出力がHighからLowまたはLowからHighに変化する。
【0020】
位置センサ108から出力されたアナログ検出信号は、制御CPU120に入力される。制御CPU120において、位置検出部122は、位置センサ108からのアナログ検出信号をデジタル検出信号に変換し、さらにデジタル検出信号をレンズ105の位置(つまりは移動体としての振動体103の位置)を示す位置データに変換する。以下の説明において、この位置データによって表される位置を「検出位置」という。速度演算部121は、一定周期で得られた検出位置の変化量を速度に換算する。なお、レンズ105の速度を直接検出する速度センサを設けてもよい。
【0021】
基準位置検出部123は、シュミットトリガ機能の付いたバッファ回路等により構成され、基準位置センサ109から出力された信号を検出し、基準位置を演算・記憶する。レンズ105の絶対位置を得る場合には、基準位置検出部123は、例えば基準位置センサ109のフォトインタラプタのHighからLowへの立下りエッジを検出し、そのときに得られる位置を基準位置として記憶する。その後、基準位置検出部123は、基準位置と位置検出部122で逐次得られる検出位置との差分を算出することで絶対位置を求めることができる。なお、位置センサ108がポテンショメータにより構成され、絶対位置を検出できるセンサである場合には、基準位置を検出するための基準位置センサ109や基準位置検出部123は省略可能である。
【0022】
設定手段としての目標位置生成部126は、レンズ105の目標位置を生成する。操作部131が操作されると、目標位置生成部126は該操作に応じた目標位置を生成する。目標位置生成部126が目標位置を微小時間ごとに変化させることは、速度指令を生成することに相当する。
【0023】
減算器127は、位置検出部122から出力されたレンズ105の検出位置(実位置)と目標位置生成部126により生成された目標位置との差分を演算して偏差信号を生成する。この偏差信号は、制御部128を介して、駆動信号を得るための制御信号に変換される。振動型アクチュエータにおける制御信号とは、2相の駆動信号の周波数や位相差の情報を含む信号である。2相の駆動信号の周波数や位相差を変更することで、振動型アクチュエータの推力や速度が制御される。
【0024】
制御部128は、比例-積分-微分の各ゲイン器を組み合わせて構成されるものであり、その構成は制御の形態に応じて任意に選択可能である。例えば、積分ゲイン器は、停止時に発生する偏差を小さくしたり、衝撃等の外乱が加わった際でも目標位置に追従できるようにしたりする働きを有する。微分ゲイン器は、位相遅れにより発生する振動型アクチュエータの発振現象を回避するために使用される。比例ゲイン器は、係数変換や振動型アクチュエータの応答性および安定性を微調整するために設けられている。
【0025】
制御部128は、位置検出部122から出力されたレンズ105の検出位置が目標位置生成部126により生成された目標位置に到達したか否かも判定する。検出位置が目標位置に到達したと判定した場合は、振動体103の振動を停止させたり、目標位置に留まるようにフィードバック制御を継続したりする。
【0026】
初期位相差設定部124は、初期位相差を設定する。初期位相差設定部124は、制御部128での演算で求められた2相の駆動信号の周波数や位相差の情報を含む信号に位相差を加算する目的で使用される。この初期位相差の設定値は、外力検知部125で取得された情報に基づいて決定される。外力検知部125による外力の検知は、例えば、レンズ装置に取り付けられた外力センサ110の出力の取得により行われる。
【0027】
ここで、本実施の形態において、レンズ駆動部100に作用する外力は重力であると規定する。レンズ駆動部100の光軸方向を水平に対して傾けると、重力の影響でレンズ105やホルダ104、スリーブ106の質量が自重負荷として振動型アクチュエータに作用する。自重負荷はレンズ駆動部100の傾き角度に応じて変化し、レンズ駆動部100の光軸方向を鉛直方向に向けた場合に自重負荷が最大となる。
【0028】
外力センサ110には、レンズ駆動部100の光軸方向の傾きを検出するもであれば、一般に使用される各種センサを適用可能である。このような物体の傾き・姿勢を検知するセンサとしては、重力加速度を検知する加速度センサ、地磁気を検知する方位センサ、回転の角度や角速度を検知するジャイロセンサなどが知られている。
【0029】
レンズ駆動部100は、重力加速度以外の動的環境で使用されるケース(常に加減速しながら動いているような状態)があり、また、ジャイロセンサで生じやすい累積誤差をリセットする必要もある。これらのことから、外力センサ110としては、加速度センサとジャイロセンサとを組み合わせても構わない。センサの組み合わせは適宜選択可能であり、このような場合、外力センサ110は複数のセンサを包含するセンサであることを意味する。また、同様な情報を取得できる場合は、外力センサ110はレンズ装置に設置される必要はなく、レンズ装置が装着される撮像装置側に設置されるなど、構成は適宜選択可能である。
【0030】
外力検知部125は、傾き角度と、該傾き角度で生じる自重負荷との関係を、テーブルあるいは近似関数として予め内蔵しており、外力センサ110から得られる傾き角度に基づいて、振動型アクチュエータに加わる自重負荷を決定する。初期位相差設定部124は、外力(自重負荷)と、該外力に応じて必要となる初期位相差の関係を、テーブルあるいは近似関数として予め内蔵しており、外力検知部125から得られる外力(自重負荷)に基づいて、初期位相差を決定する。
【0031】
なお、初期位相差設定部124は、傾き角度から、外力演算を経ずに直接、初期位相差を演算してもよい。その場合、外力検知部125は傾き角度をそのまま初期位相差設定部124へ渡し、初期位相差設定部124は、内蔵している傾き角度と初期位相差との関係に基づいて初期位相差を決定する。なお、傾き角度(即ち外力(自重負荷))から初期位相差を決定する処理については後述する。
【0032】
加算器129は、制御部128が演算で求めた2相の駆動信号の周波数や位相差の情報を含む信号のうち、位相差に対して上記初期位相差を加算する。振動型アクチュエータは、位相差に関し、速度に対する閾値があり、0°から閾値までは位相差が大きいほど速度が大きくなるが、閾値を越えると逆に速度が低下していく。そのため、加算器129は、加算した位相差が上記閾値を越える場合には、位相差を上記閾値に設定し直すような処理してもよい。また、閾値(例えば120°)に対してマージンを取って、閾値以下の位相差(例えば90°)を越える場合は、加算器129は、上記位相差(90°)に設定し直すように処理してもよい。
【0033】
駆動信号生成部130は、制御部128が演算で求めた制御信号および初期位相差設定部124が設定した初期位相差を用いて、2相の駆動信号をその周波数と位相差を制御しつつ生成して駆動回路132へ出力する。駆動回路132は、駆動信号生成部130からの駆動信号を増幅して振動体103(の圧電素子)に印加する。これにより、振動体103に振動が励起され、振動体103がレンズ105とともに移動する。
【0034】
図2は、駆動信号生成部130が生成する2相(A相およびB相)の駆動信号の波形の例を示す図である。図中に示すように、2相の駆動信号の「位相差」は、これら駆動信号の位相のずれ量を意味する。なお、
図2(a)に示すように、B相に対してA相が先行して、第一の方向へ駆動させる場合の位相差を「プラスの位相差」と定義し、
図2(b)に示すように、A相に対してB相が先行して、第二の方向へ駆動させる場合の位相差を「マイナスの位相差」と定義する。
【0035】
図3は、レンズ装置を無限端側が上側となるよう鉛直方向に配置し、移動体を第一の方向(即ち上側)へ駆動した場合の、振動型アクチュエータの駆動特性を示す図である。
図3に示す例においては、初期位相差の設定値がゼロであるか、あるいは初期位相差の加算を行っていない。
【0036】
振動型アクチュエータはある一定速度で駆動するようフィードバック制御される。
図3では、生成される目標位置と、実際の検出位置と、位相差との関係が示されている。フィードバック制御においては、制御部128は、移動体の現在位置(検出位置)と目標位置との偏差に基づいて、2相の駆動信号における位相差の操作量(以下、位相差操作量という)を決定する。位相差操作量は、移動体の位置を制御対象としたときの、上記偏差を解消するための位相差の量である。加算器129において、位相差操作量に対して初期位相差が加算されることで、駆動信号生成部130において、目標位置への移動体の駆動を開始する際の2相の駆動信号が生成される。
【0037】
移動体の動き始めにおいて、目標位置と検出位置との偏差がゼロの状態から開始されるため、偏差を受けて演算される位相差の操作量(位相差操作量)もゼロ付近から開始される。動き始め直後から制御時間Aの間までは、位相差が小さく駆動方向への推進力である送り振動を多く伴わない状態のため、レンズの重量(自重負荷)を受けて駆動方向と反対側(下側)への位置ずれが生じている。
【0038】
位置ずれによって偏差が大きくなると位相差操作量も大きくなっていき、位相差が位相差uに到達すると第一の駆動方向(上側)へ移動体が動き出す。動き出しによる偏差の変化を受けて、制御時間B~Cでは、位相差は、位相差t~sの間となり、この位相差に対して振動型アクチュエータはほぼ一定位置に留まっている。また、制御時間C以後は、位相差tによる安定した駆動が継続される。
【0039】
振動型アクチュエータは、負荷の存在する状況では、動き始めに最も大きな推進力を必要とするため位相差操作量を大きく取るが、一度動き始めると以後は必要とする推進力がやや低下し、必要とする位相差操作量が小さくなる。これは、いわゆる静止摩擦と動摩擦の関係に近いと考えられる。本実施の形態における振動型アクチュエータ装置において、相対的に摩擦を受ける主な箇所としては、摩擦材102と振動体103の組み合わせ、および、スリーブ106とガイドバー107の組み合わせがある。
【0040】
振動型アクチュエータは自重負荷と静止摩擦力の合力よりも大きな推進力(位相差)を生成することで、求める駆動方向への動き出しが可能となる。なお、自重負荷が静止摩擦力よりも大きい場合は、図で示したような位置ずれが生じるが、自重負荷より静止摩擦力の方が大きい場合は位置ずれは生じない。位置ずれが生じない場合も、自重負荷と静止摩擦力の合力よりも大きな推進力(位相差)を生成することで振動型アクチュエータは駆動方向に動き出し、その後は動摩擦に移行するため、必要とする位相差操作量が小さくなる。
【0041】
図4(a)、(b)は、本実施の形態において初期位相差を設定した場合の振動型アクチュエータの駆動特性を示す図である。
図5(a)、(b)は、初期位相差の設定を行わなかった場合の振動型アクチュエータの駆動特性(比較例)を示す図である。
図4、
図5のいずれの例においても、レンズ装置を無限端側が鉛直上側となるよう配置している。
図4(a)、
図5(a)では、駆動方向を第一の方向(鉛直上側)としてフィードバック制御駆動した場合の位置と位相差との関係を示している。
図4(b)、
図5(b)では、駆動方向を第二の方向(鉛直下側)としてフィードバック制御駆動した場合の位置と位相差との関係を示している。
【0042】
自重負荷による位置ずれの影響は、駆動量が小さいほど相対的に顕著となる。
図4、
図5において、駆動量Δaは数μm程度の非常に小さい値に設定されている。なお、
図4、5で、制御時間のグラフスケールおよび位相差のグラフスケールは全て共通であり、位置のグラフスケールは駆動量Δaの大きさで相対比較される。
【0043】
図3で説明したように、鉛直上側への駆動で、自重負荷と静止摩擦力との合力に打ち勝つための位相差はuであり、自重負荷と動摩擦下で安定に駆動する位相差はtである。従って、少なくとも位相差をsとすれば、移動体は自重負荷に抗してその位置を保つ(平衡を保つ)ことができる。位置ずれしない位相差sを基準とし、平衡位置からさらに鉛直上側に動かすにはプラスの位相差を加え、鉛直下側へ動かすにはマイナスの位相差を加えればよい。そこで、本実施の形態では、初期位相差として位相差sを設定し、駆動方向に応じて制御部128が演算したプラスの位相差、マイナスの位相差に初期位相差を加算する。
【0044】
なお、位相差s,t,uの関係は温度環境や駆動速度で多少の変化を示すため、条件によっては前述のように設定した位相差は最適な値とならない。しかし、位置ずれを抑制する効果は十分に有する。
【0045】
制御CPU120は、移動体を第一の方向(鉛直上側)へ動かす場合、プラスの位相差を与える。
図3に示す結果に基づき、
図4(a)では、初期位相差として位相差sが与えられている。
図4(a)では、
図5(a)で見られるような動き始めの大きな位置ずれが抑制される。そのため、駆動精度が向上し、整定時間が削減されている。
【0046】
次に、移動体を第二の方向(鉛直下側)へ動かす場合を考える。本来ならば第二の方向へ動かすようマイナスの位相差が与えられるべきである。ところが、マイナスの位相差を与える駆動条件では、
図5(b)に示すように、動き始めに駆動量Δaを大きく超える鉛直下側への位置ずれ(オーバーシュート)が生じている。このような場合、
図4(b)に示すように、初期位相差にはプラスの位相差を与えるとよい。
【0047】
図4(b)では、初期位相差として位相差sを与えている。プラスの位相差が初期位相差として加算されることで、自重負荷と鉛直上側への推進力とが相殺される関係となり、位置ずれを抑制した安定した駆動が可能となる。その結果、
図4(b)では、
図5(b)で見られような、目標位置を大きく超えたオーバーシュートが抑制される。そのため、駆動精度が向上し、整定時間が削減される。
【0048】
図6は、初期位相差設定処理を示すフローチャートである。制御手段としての制御CPU120における各機能ブロック(
図1)の機能は、いずれも不図示のCPU、ROM、RAM、タイマ等の協働により実現される。
図6に示す処理は、制御CPU120が有するROMに格納されたプログラムをRAMに展開して実行することにより実現される。この処理は、駆動命令を受けて開始される。この処理においては、重力により移動体に位置ずれが生じる系を想定している。
【0049】
まず、ステップS201にて、制御CPU120は、外力検知処理を実行する。すなわち、取得手段としての外力検知部125は、外力センサ110での傾き角度に関する出力を解析して傾き角度を演算する。外力検知部125は、さらに、演算した傾き角度から、移動体の可動方向に関して移動体に加わる外力を取得する。すなわち、外力検知部125は、自重負荷の大きさや方向を演算し、その結果を初期位相差設定部124へ渡す。なお、外力検知部125が自重負荷の演算まで行わず、傾き角度を初期位相差設定部124へ直接渡してもよい。
【0050】
ステップS202では、制御CPU120は、駆動方向を判定する。これは、操作部131が指示する駆動方向を参照して行われる。つまり、操作部131の操作に応じて目標位置生成部126により設定された目標位置への移動体の駆動方向を判定する。ステップS203では、制御CPU120は、駆動方向と外力の方向(向き)とが逆方向であるか否かを判別する。言い換えると、制御CPU120は、目標位置への移動体の駆動方向が外力の方向に対して逆方向であるか否かを判別する。その判別の結果、制御CPU120は、駆動方向と外力の方向とが逆方向である場合は、ステップS204、S205を実行し、駆動方向と外力の方向とが順方向である場合は、ステップS206、S207を実行する。
【0051】
ステップS204では、制御CPU120は、外力とは逆方向に駆動する場合に必要となる初期位相差を演算する。まず、初期位相差設定部124は、予め、傾き角度と、この傾き角度で位置ずれしない位相差との対応関係を取得し、記憶しておく。この対応関係は、
図3で傾き角度が鉛直方向(即ち90度)のときに位置ずれしない位相差がsであると定められたのと同様に、傾き角度に応じてテーブルや関数として予め記憶されている。制御CPU120(初期位相差設定部124)は、上記対応関係を参照し、外力検知部125から受け取った傾き角度(外力)の情報から、初期位相差を決定する。
【0052】
ステップS205では、制御CPU120は、駆動方向に応じて初期位相差の極性を決定する。ここで、外力の向きが駆動方向とは逆方向であるので、動き始めの位置ずれを抑制する必要がある。まず、第一の方向へはプラス位相差によって移動体を駆動できる。従って、駆動方向が第一の方向である場合は、制御CPU120(初期位相差設定部124)は、外力に抗して駆動方向への移動を補助するために、初期位相差もプラスの位相差として決定する。従って、この場合の初期位相差は、位相差操作量の極性と同極性に設定される。
【0053】
一方、第二の方向へはマイナス位相差によって移動体を駆動できる。従って、駆動方向が第二の方向である場合は、制御CPU120(初期位相差設定部124)は、外力に抗して駆動方向への移動を補助するために、初期位相差もマイナスの位相差として決定する。従って、この場合の初期位相差も、位相差操作量の極性と同極性に設定される。
【0054】
ステップS206では、制御CPU120は、外力に対して順方向に駆動する場合に必要となる初期位相差を演算する。制御CPU120(初期位相差設定部124)は、上記対応関係を参照し、外力検知部125から受け取った傾き角度(外力)の情報から、初期位相差を決定する。
【0055】
ステップS207では、制御CPU120は、駆動方向に応じて初期位相差の極性を決定する。ここで、外力の向きと駆動方向とが順方向であるので、目標位置でのオーバーシュートを抑制する必要がある。まず、第一の方向へはプラス位相差によって移動体を駆動できる。従って、駆動方向が第一の方向である場合は、制御CPU120(初期位相差設定部124)は、外力によって駆動方向に押されるのに抗するため、初期位相差はマイナスの位相差として決定する。従って、この場合の初期位相差は、位相差操作量の極性とは逆極性に設定される。
【0056】
一方、第二の方向へはマイナス位相差によって移動体を駆動できる。従って、駆動方向が第二の方向である場合は、制御CPU120(初期位相差設定部124)は、外力によって駆動方向に押されるのに抗するため、初期位相差はプラスの位相差として決定する。従って、この場合の初期位相差も、位相差操作量の極性とは逆極性に設定される。ステップS205、S207の後、
図6に示す処理は終了する。
【0057】
本実施の形態によれば、駆動方向が外力の方向に対して順方向である場合において、制御CPU120は、位相差操作量に対して、位相差操作量の極性とは逆極性の初期位相差を加算する。すなわち、制御CPU120は、実質的に、少なくとも目標位置への移動体の駆動を開始する際に、目標位置に基づく駆動力に駆動方向とは逆方向の駆動力を加味して振動体103を制御する。これにより、外力に対して順方向に駆動する場合に、目標位置に対する移動体のオーバーシュートを抑制することができる。また、制御性を向上させ、整定時間の増加を回避することができる。
【0058】
一方、駆動方向が外力の方向に対して逆方向である場合において、制御CPU120は、位相差操作量に対して、位相差操作量の極性と同極性の初期位相差を加算する。すなわち、制御CPU120は、実質的に、少なくとも目標位置への移動体の駆動を開始する際に、目標位置に基づく駆動力に駆動方向に対して順方向の駆動力を加味して振動体103を制御する。これにより、外力に対して逆方向に駆動する場合に、移動体が逆向きに位置ずれすることを抑制することができる。また、制御性を向上させ、整定時間の増加を回避することができる。
【0059】
特に、外力が重力である場合に、重力の影響による制御性の劣化を少なくしたレンズ装置を提供可能となる。
【0060】
また、初期位相差は、移動体が駆動状態にある動摩擦下において、移動体が外力に抗して位置の平衡を保つことのできるような位相差を基準に設定されるので、整定時間を短縮することができる。なお、位相差操作量に加算する初期位相差の値の大きさは、必ずしも上記基準に設定される必要はない。例えば、初期位相差が上記基準に満たないような値に設定されたとしても、初期位相差を加算しない制御に比べれば、制御性の向上に対して効果はある。
【0061】
なお、ステップS201の外力検知処理では、外力センサ110の出力に基づいて、外力の大きさおよび方向が取得された。しかしこれに限るものでなく、
図7に示す変形例のように、直前の駆動特性を参照する方法などを用いることも可能である。
【0062】
図7は、他の外力検知処理を示すフローチャートである。この処理を適用する場合、この処理は
図6のステップS102で実行される。この処理は、レンズ装置の傾きが略一定である場合を想定している。
【0063】
ステップS301~S303では、制御CPU120は、直前(前回)の駆動命令時の駆動特性の情報を参照する。すなわち制御CPU120は、直前の駆動命令時の駆動特性の情報として、直前の駆動時における、駆動方向と、動き始めの位置ずれの大きさと、オーバーシュートの大きさとを取得する。ステップS304では、制御CPU120は、取得した情報に基づいて、今回の駆動命令に関する傾き角度(外力)を演算する。
【0064】
例えば、レンズ装置を傾けた状態で、振動型アクチュエータを上側に向けて移動させた場合には、動き始めの位置ずれが下側に向かって生じ、その位置ずれ量は傾き角度によって変わる。また、振動型アクチュエータを下側に向けて移動させた場合には、動き始めの逆方向への位置ずれは検知されないが、目標位置でのオーバーシュートが傾き角度に応じて検知される。従って、直前の駆動特性を参照し、駆動方向と、動き始めの位置ずれ量および目標位置でのオーバーシュート量との関係を参照すれば、傾き角度(外力)を演算することができる。
【0065】
図7に示す処理では、レンズ装置の傾きが略一定であれば比較的正確な検知が可能である。ただし、今回の駆動におけるレンズ装置の傾きが直前の駆動から大きく変化する場合は、演算した傾き角度と実際の傾き角度とがずれてしまう可能性がある。この問題を解消するために、例えば、外力検知用のテスト駆動を駆動命令に先立って行うことも考えられる。このテスト駆動では、例えば、ユーザへの妨げとならない制御的な隙間の時間を使って振動型アクチュエータを動作させる。テスト駆動の前後で振動型アクチュエータの位置を変えないよう、往復駆動により必ず元の位置に移動体を戻す。このテスト駆動での駆動特性を用いて外力検知を行い、初期位相差の設定を行う構成を採用してもよい。また、外力センサによる外力検知と直前の駆動特性を用いた外力検知とを併用してもよい。
【0066】
(第2の実施の形態)
図8は、本発明の第2の実施の形態に係る振動型アクチュエータ制御装置が適用される駆動装置の構成を示す模式図およびブロック図である。本実施の形態における振動型アクチュエータ装置の基本的な構成は第1の実施の形態と同様であり、レンズ駆動部100を駆動部200に置き換えたものを想定している。
【0067】
本実施の形態では、重力以外の一定外力として、付勢部材としてのバネ203による付勢力が掛かる系を想定している。このような系としては、例えば、ピストンの往復運動で、伸縮方向にバネ付勢されたものを直動アクチュエータで精密に制御するような系が考えられる。あるいは、チャックユニットの把持動作で、把持方向にバネ付勢されたものを直動アクチュエータで駆動制御するような系や、減圧弁など一方向にバネ付勢されたシリンダ構造のものを直動アクチュエータで駆動制御するような系、などが考えられる。
【0068】
図8では、バネ力を受ける例として、筐体201と被駆動部202との間にバネ203が連結された簡易的な構成を示している。被駆動部202はホルダ104に保持されている。振動型アクチュエータで被駆動部202を第一の方向および第二の方向に移動させるとバネ203が伸縮するため、バネ力が被駆動部202に外力として作用する。従って、被駆動部202を介して、移動体としての振動体103にバネ203からの付勢力が作用する。
【0069】
作用する外力はバネ203の弾性係数と伸縮量で決まる。従って、例えば、外力センサ110はバネ203の伸縮量を検出し、外力検知部125はバネ203の収縮量と予め内蔵しているバネの弾性係数とからバネ力を演算する。初期位相差設定部124は、バネ力と、該バネ力に抗する位相差との関係を予め、内蔵している。初期位相差設定部124は、外力検知部125から送られたバネ力に基づいて、必要となる初期位相差を設定する。重力と異なり、外力としてのバネ力は伸縮量に応じてその大きさが変化するが、動き始めに掛かるバネ力と、目標位置で掛かるバネ力と、これら各々のバネ力に抗することができる位相差との関係を予め取得しておけば良い。
【0070】
バネ力は伸縮量に対し一次関数で定義される。そのため、バネ力に応じて初期位相差を変化させるような使い方を採用可能である。例えば、動き始めに必要な値から、目標位置に到達するために必要な値まで、駆動位置に応じて初期位相差をリニアに変化させる使い方などが採用可能である。
【0071】
駆動方向が外力(バネ力)と逆方向ならば、動き始めの位置ずれを抑制する必要がある。そこで、外力に抗して駆動方向への移動を補助するため、駆動方向に必要な位相差の極性と同じ極性の初期位相差が設定される。一方、駆動方向が外力(バネ力)と順方向ならば、目標位置でのオーバーシュートを抑制する必要がある。そこで、外力によって駆動方向に付勢されるのに抗するよう、駆動方向に必要な位相差の極性とは逆の極性の初期位相差が設定される。
【0072】
本実施の形態によれば、外力に対して順方向に駆動する場合に、目標位置に対する移動体のオーバーシュートを抑制することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。また、外力に対して逆方向に駆動する場合に、移動体が逆向きに位置ずれすることを抑制することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。特に、重力以外の一定の外力が作用する場合であっても、制御性を向上させ、整定時間の増加を回避することができる。
【0073】
なお、本実施の形態と第1の実施の形態とを組み合わせてもよい。すなわち、バネ力に加えて、姿勢差による自重負荷(重力)が加わる場合は、これら外力の合力に対して必要となる初期位相差を設定してもよい。
【0074】
(第3の実施の形態)
図9は、本発明の第3の実施の形態に係る振動型アクチュエータ制御装置が適用される駆動装置の構成を示す模式図およびブロック図である。本実施の形態における振動型アクチュエータ装置の基本的な構成は第1の実施の形態と同様であり、レンズ駆動部100を駆動部300に置き換えたものを想定している。
【0075】
本実施の形態では、規則的あるいは突発的な外力が掛かる系を想定している。このような系としては、直動アクチュエータで駆動される被駆動部302が外力によって押されたり、被駆動部302に物体が衝突したりするようなケースが想定される。
【0076】
図9では、外力を受ける例として、被駆動部302に対して負荷体303が力を作用させる簡易的な構成を示している。被駆動部302はホルダ104に保持されている。負荷体303は、被駆動部302に直接、あるいは別部材を介して間接的に、外力を作用させる。振動型アクチュエータはその力に抗しながら被駆動部302を駆動する。負荷体303が作用させる力は一定でも不定でもよく、連続でも不連続でもよい。負荷体303の力が規則的であれば、作用する力に抗しつつ被駆動部302を駆動する状態が想定され、負荷体303の力が突発的であれば、物体が被駆動部302にぶつかった状態が想定される。
【0077】
外力は、例えば、移動体に設置された外力センサ110の出力(歪み量)から取得される。負荷体303から被駆動部302に作用する外力を直接検出する外力センサ110として、例えば、ひずみゲージ型や静電容量型などの起歪体の力覚センサを用いることができる。外力の方向が1軸のみであるならば、ひずみゲージを用いたロードセルのような既知の測定ユニットを使用しても構わない。外力検知部125が、ひずみゲージの出力を、系に適する形で校正することで外力検知が可能となる。
【0078】
また、物体が衝突するときの外力も、ひずみゲージでの検出結果から推測可能である。あるいは、外力センサ110は加速度センサであり、衝突による被駆動部302の位置ずれ時の加速度を検出し、この加速度と被駆動部302の重量とから、衝突時の外力を推測することも可能である。あるいは、振動型アクチュエータの負荷トルク状態と加速度の状態とから外力を推定する外力推定オブザーバを採用してもよい。このように、外力センサ110および外力検知部125としては、各種の外力検出手法に応じてその構成を採択すればよい。
【0079】
初期位相差設定部124は、外力と、外力の大きさに抗するための位相差との関係を予め内蔵する。初期位相差設定部124は、上記関係を参照し、動き始めであるか駆動途中であるかにかかわらず、外力検知部125から送られた外力の情報に基づいて初期位相差の設定、あるいは再設定を行う。
【0080】
例えば、駆動方向が外力と逆方向ならば、動き始めの位置ずれを抑制する必要がある。そこで、外力に抗して駆動方向への移動を補助するため、駆動方向に必要な位相差の極性と同じ極性の初期位相差が設定される。一方、駆動方向が外力と順方向ならば、目標位置でのオーバーシュートを抑制する必要がある。そこで、外力によって駆動方向に押されるのに抗するよう、駆動方向に必要な位相差の極性とは逆の極性の初期位相差が設定される。
【0081】
本実施の形態によれば、外力に対して順方向に駆動する場合に、目標位置に対する移動体のオーバーシュートを抑制することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。また、外力に対して逆方向に駆動する場合に、移動体が逆向きに位置ずれすることを抑制することに関し、第1の実施の形態と同様の効果を奏することができる。特に、突発的な外力が作用する場合であっても、制御性を向上させ、整定時間の増加を回避することができる。
【0082】
なお、本実施の形態と、第1の実施の形態または第2の実施の形態のいずれかまたは双方とを組み合わせてもよい。例えば、突発的な外力に加えて、姿勢差による自重負荷(重力)またはバネ力が加わる場合は、これら外力の合力に対して必要となる初期位相差を設定してもよい。
【0083】
なお、上記各実施の形態では、撮影用のレンズ装置や駆動装置に本発明の振動型アクチュエータ制御装置を適用した例を説明した。しかし、移動体と一体的に移動する被駆動部材はレンズに限定されず、撮像装置の撮像素子やレンズと撮像素子とを含む撮像ユニットが被駆動部材であってもよい。つまり、振動型アクチュエータにより駆動される被駆動部材を有する駆動装置等、他の各種装置にも本発明を適用可能である。
【0084】
以上、本発明をその好適な実施形態に基づいて詳述してきたが、本発明はこれら特定の実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれる。上述の実施形態の一部を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0085】
102 摩擦材
103 振動体
120 制御CPU
125 外力検知部
126 目標位置生成部