(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】エレベーターシステム及びエレベーターシステムの制御方法
(51)【国際特許分類】
G06F 11/20 20060101AFI20240909BHJP
G06F 11/16 20060101ALI20240909BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
G06F11/20 633
G06F11/16 650
B66B3/00 R
B66B3/00 U
(21)【出願番号】P 2021049771
(22)【出願日】2021-03-24
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】納谷 英光
(72)【発明者】
【氏名】星野 孝道
(72)【発明者】
【氏名】鳥谷部 訓
(72)【発明者】
【氏名】前原 知明
(72)【発明者】
【氏名】羽鳥 貴大
【審査官】坂東 博司
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-198530(JP,A)
【文献】特開昭62-222981(JP,A)
【文献】特開2007-072980(JP,A)
【文献】特開2001-102969(JP,A)
【文献】特開2018-182695(JP,A)
【文献】特開2006-096481(JP,A)
【文献】特表2009-532771(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01184324(EP,A1)
【文献】特開昭61-221068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 11/20
G06F 11/16
B66B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のエレベーター号機ごとにエレベーターコントローラを備え、複数のエレベーターコントローラ間がネットワークにより接続されたエレベーターシステムであって、
複数の各エレベーターコントローラは、運行制御処理の一部を稼働系と予備系による多重化構成として前記稼働系により前記エレベーター号機の実制御を行い、かつ異常と正常を判定する合理性判定部と前記稼働系と前記予備系の処理を、ソフトウェア部品を用いて実現するに際し、各エレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行うソフトウェア部品は互いに相違するソフトウェア部品とされるとともに、一のエレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部のいずれか
の処理を担当したソフトウェア部品は、前記
一のエレベーターコントローラ以外のエレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の
前記いずれか以外の処理を担当するように構成されている
ことにより、同種のソフトウェア部品が前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部で異なるコントローラに配置されるとともに、
各エレベーターコントローラは、ROMを含む計算機により構成されており、前記ROMには前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行う互いに相違するすべてのソフトウェア部品のプログラム、エレベーター号機の実制御を行うためのプログラム、及び通信のためのプログラムを保持していることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項2】
複数のエレベーター号機ごとにエレベーターコントローラを備え、複数のエレベーターコントローラ間がネットワークにより接続されたエレベーターシステムであって、
複数の各エレベーターコントローラは、運行制御処理の一部を稼働系と予備系による多重化構成として前記稼働系により前記エレベーター号機の実制御を行い、かつ異常と正常を判定する合理性判定部と前記稼働系と前記予備系の処理を、ソフトウェア部品を用いて実現するに際し、各エレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行うソフトウェア部品は互いに相違するソフトウェア部品とされるとともに、一のエレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部のいずれかの処理を担当したソフトウェア部品は、前記一のエレベーターコントローラ以外のエレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の前記いずれか以外の処理を担当するように構成されていることにより、同種のソフトウェア部品が前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部で異なるコントローラに配置されるとともに、
各エレベーターコントローラは、ROMを含む計算機により構成されており、各エレベーターコントローラの前記ROMには前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行う互いに相違するソフトウェア部品のうちの一つのプログラム、エレベーター号機の実制御を行うためのプログラム、及び通信のためのプログラムを保持しており、前記各エレベーターコントローラが前記ネットワークにより接続されたときに、互いが保持する前記ソフトウェア部品のうちの一つのプログラムを相互にコピーすることで、前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行う互いに相違するすべてのソフトウェア部品のプログラムを確保することを特徴とする、エレベーターシステム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のエレベーターシステムであって、
複数の各エレベーターコントローラは、複数のエレベーター号機を群管理する群管理制御部と個々のエレベーター号機を制御する号機制御部とネットワークに接続する通信部を備えており、前記群管理制御部を前記運行制御処理の一部として、前記合理性判定部と前記稼働系と前記予備系により構成することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載のエレベーターシステムであって、
前記合理性判定部は、前記稼働系及び前記予備系の同一ソフトウェア部品の処理結果をもとに、正常・異常を判定することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のエレベーターシステムであって、
前記合理性判定部は、エレベーターシステムの、機器構成や階床情報の構造的な静的情報や、実際の乗りかごの位置や速度及び
荷重の動的な運行状態をもとに、処理結果がエレベーター運行としてあり得ない制御値を演算していないかを、ソフトウェア部品のそれぞれの処理内容に応じた合理性をもとに、正常・異常を判定することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のエレベーターシステムであって、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に全てのエレベーターコントローラにおける前記エレベーター号機の実制御を稼働系から予備系に切り替えることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項7】
請求項1または請求項2に記載のエレベーターシステムであって、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に、当該判定結果に関連する処理を、稼働系から予備系に入れ替えることを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項8】
請求項1または請求項2に記載のエレベーターシステムであって、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に、当該判定結果に対応するエレベーターコントローラを縮退運転に遷移することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項9】
請求項1または請求項2に記載のエレベーターシステムであって、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に、当該判定結果に対応するエレベーターコントローラの駆動系を、別のエレベーターコントローラから制御することにより、エレベーターシステムの可用性を維持することを特徴とするエレベーターシステム。
【請求項10】
複数のエレベーター号機ごとにエレベーターコントローラを備え、複数のエレベーターコントローラ間がネットワークにより接続されたエレベーターシステムの制御方法であって、
複数の各エレベーターコントローラは、運行制御処理の一部を稼働系と予備系による多重化構成として前記稼働系により前記エレベーター号機の実制御を行い、かつ異常と正常を判定する合理性判定部と前記稼働系と前記予備系の処理を、ソフトウェア部品を用いて実現するに際し、各エレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行うソフトウェア部品は互いに相違するソフトウェア部品とされるとともに、一のエレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部のいずれか
の処理を担当したソフトウェア部品は、前記
一のエレベーターコントローラ以外のエレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の
前記いずれか以外の処理を担当するように構成されている
ことにより、同種のソフトウェア部品が前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部で異なるコントローラに配置されるとともに、
各エレベーターコントローラは、ROMを含む計算機により構成されており、前記ROMには前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行う互いに相違するすべてのソフトウェア部品のプログラム、エレベーター号機の実制御を行うためのプログラム、及び通信のためのプログラムを保持し、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に全てのエレベーターコントローラにおける前記エレベーター号機の実制御を稼働系から予備系に切り替えることを特徴とするエレベーターシステムの制御方法。
【請求項11】
複数のエレベーター号機ごとにエレベーターコントローラを備え、複数のエレベーターコントローラ間がネットワークにより接続されたエレベーターシステムの制御方法であって、
複数の各エレベーターコントローラは、運行制御処理の一部を稼働系と予備系による多重化構成として前記稼働系により前記エレベーター号機の実制御を行い、かつ異常と正常を判定する合理性判定部と前記稼働系と前記予備系の処理を、ソフトウェア部品を用いて実現するに際し、各エレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行うソフトウェア部品は互いに相違するソフトウェア部品とされるとともに、一のエレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部のいずれかの処理を担当したソフトウェア部品は、前記一のエレベーターコントローラ以外のエレベーターコントローラにおける前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の前記いずれか以外の処理を担当するように構成されていることにより、同種のソフトウェア部品が前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部で異なるコントローラに配置されるとともに、
各エレベーターコントローラは、ROMを含む計算機により構成されており、各エレベーターコントローラの前記ROMには前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行う互いに相違するソフトウェア部品のうちの一つのプログラム、エレベーター号機の実制御を行うためのプログラム、及び通信のためのプログラムを保持しており、前記各エレベーターコントローラが前記ネットワークにより接続されたときに、互いが保持する前記ソフトウェア部品のうちの一つのプログラムを相互にコピーすることで、前記稼働系と前記予備系と前記合理性判定部の処理を行う互いに相違するすべてのソフトウェア部品のプログラムを確保し、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に全てのエレベーターコントローラにおける前記エレベーター号機の実制御を稼働系から予備系に切り替えることを特徴とするエレベーターシステムの制御方法。
【請求項12】
請求項10または請求項11に記載のエレベーターシステムの制御方法であって、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に、当該判定結果に関連する処理を、稼働系から予備系に入れ替えることを特徴とするエレベーターシステムの制御方法。
【請求項13】
請求項10または請求項11に記載のエレベーターシステムの制御方法であって、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に、当該判定結果に対応するエレベーターコントローラを縮退運転に遷移することを特徴とするエレベーターシステムの制御方法。
【請求項14】
請求項10または請求項11に記載のエレベーターシステムの制御方法であって、
一のエレベーターコントローラにおける前記合理性判定部の判定結果として、故障を検知した場合に、当該判定結果に対応するエレベーターコントローラの駆動系を、別のエレベーターコントローラから制御することにより、エレベーターシステムの可用性を維持することを特徴とするエレベーターシステムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターシステム及びエレベーターシステムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベーターシステム及びエレベーターシステムの制御方法に関して、特許文献1では、「複数の階床に対して複数台のエレベーターを就役させ、発生したホール呼びに対して各エレベーターの状態情報に基づいてエレベーターの運行を決定する評価式を演算し、これにより各エレベーター毎の評価値を求め、評価値が最も良好なエレベーターを最適なエレベーターとしてホール呼びの発生したホールに割り付けるようにしたエレベーターの群管理制御装置において、
各エレベーター毎に設けられる制御装置に群管理制御に必要な各制御機能を細分化した群管理機能と単体エレベーターの制御機能を付加し、また、各制御装置は互いの情報交換のための伝送系で結合し、且つ、伝送制御手段を設けて情報授受可能に構成するとともに、各制御装置には上記細分化した群管理機能のうち、負荷平滑化のため互いに重複しないよう予め定めた分担対応のものを実行させる機能を持たせたことを特徴とするエレベーターの群管理制御装置」のように構成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、特許文献1に記載の技術では、群管理制御をメイン機能とサブ機能をリアルタイムOSにおけるタスクとして分割し、一定時間間隔で該分割数と単体制御部の総数をもとに均等に割り付けて処理を実行している。
【0005】
この結果、単体制御部に故障が発生すると群管理処理全体が停止することになるため、少なくとも処理の割当を再計算する時間及び新たな割当による群管理処理の再起動に要する時間の間は、該群管理処理の停止が継続してしまい、エレベーターサービスを提供できない、という問題がある。
【0006】
また、群管理処理を再起動してしまうために、停止前の運行制御を継続して提供できない、という問題もある。単に機能を分散させるだけでは、どの機能に不具合が発生しているか、もしくはどの単体制御部で不具合が発生しているのか、を判定できない。さらに、標準エレベーターと高速エレベーターのように、異なるエレベーターの機種が組み合わされる場合には単体制御部の性能が異なるため、上述のような均等割では負荷分散に偏りが生じてしまう。また、群管理処理に不具合が発生した場合の、個々のエレベーターの可用性を維持することができていない。
【0007】
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、エレベーターの群管理制御の分散可用性及びエレベーターシステム全体の可用性維持を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明においては「複数のエレベーター号機ごとにエレベーターコントローラを備え、複数のエレベーターコントローラ間がネットワークにより接続されたエレベーターシステムであって、複数の各エレベーターコントローラは、運行制御処理の一部を稼働系と予備系による多重化構成として稼働系によりエレベーター号機の実制御を行い、かつ異常と正常を判定する合理性判定部と稼働系と予備系の処理を、ソフトウェア部品を用いて実現するに際し、各エレベーターコントローラにおける稼働系と予備系と合理性判定部の処理を行うソフトウェア部品は互いに相違するソフトウェア部品とされるとともに、一のエレベーターコントローラにおける稼働系と予備系と合理性判定部のいずれかを担当したソフトウェア部品は、他のエレベーターコントローラにおける稼働系と予備系と合理性判定部の他のいずれかを担当するように構成されていることを特徴とするエレベーターシステム。」のように構成したものである。
【0009】
また本発明においては「複数のエレベーター号機ごとにエレベーターコントローラを備え、複数のエレベーターコントローラ間がネットワークにより接続されたエレベーターシステムの制御方法であって、複数の各エレベーターコントローラは、運行制御処理の一部を稼働系と予備系による多重化構成として稼働系によりエレベーター号機の実制御を行い、かつ異常と正常を判定する合理性判定部と稼働系と予備系の処理を、ソフトウェア部品を用いて実現するに際し、各エレベーターコントローラにおける稼働系と予備系と合理性判定部の処理を行うソフトウェア部品は互いに相違するソフトウェア部品とされるとともに、一のエレベーターコントローラにおける稼働系と予備系と合理性判定部のいずれかを担当したソフトウェア部品は、他のエレベーターコントローラにおける稼働系と予備系と合理性判定部の他のいずれかを担当するように構成されており、合理性判定部における判定結果によりエレベーターコントローラの処理内容を修正することを特徴とするエレベーターシステムの制御方法。」のように構成したものである。
【発明の効果】
【0010】
エレベーターの群管理制御の分散可用性及びエレベーターシステム全体の可用性維持を向上することができる。
【0011】
さらに詳細に述べるならば、本発明の一態様によれば、群管理制御及び号機制御をソフトウェア部品に分割し、それぞれのソフトウェア部品を、少なくとも二つの異なる号機制御コントローラに割り当てて、該ソフトウェア部品による複数の処理結果を元に故障を判定することで、故障を検知できるとともに、故障が発生した場合でも、異なる号機制御コントローラで実行されているソフトウェア部品によって、該群管理制御処理を継続することが可能となる。また、故障等を検知したソフトウェア部品を、別のソフトウェア部品で代替えすることで、エレベーターシステム全体の可用性を維持することが可能となる。
【0012】
上記した以上の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1a】本発明の実施例1に係るエレベーターシステムの概略構成例を示す図。
【
図1b】
図1のエレベーターシステムの通信部の概略構成例を示す図。
【
図1c】
図1のエレベーターシステムの号機部の概略構成例を示す図。
【
図1d】
図1のエレベーターシステムのソフトウェア部品の概略構成例を示す図。
【
図2】エレベーターシステムが備える各装置を構成する計算機のハードウェア構成例を示すブロック図。
【
図3】稼働系から予備系への全系切替フローを示す図。
【
図4】ソフトウェア部品50を入替える場合の各種テーブル類の構成例を示す図。
【
図5b】主フローの中で受信側あることが指定されたときのサブフローを示す図。
【
図5c】主フローの中で送信側であることが指定されたときのサブフローを示す図。
【
図5d】主フローの中で予備側であることが指定されたときのサブフローを示す図。
【
図6】1つのROMにすべてのプログラムを収納する全部入りの考え方を示す図。
【
図7】複数のROMに収納する分散済みの考え方を示す図。
【
図8】部品ごとに収納する組合せの考え方を示す図。
【
図10】
図8の構成を、
図9の構成に変換するための処理フローを示す図。
【
図11】仮想マシンの考え方を採用することにより複数のエレベーターコントローラ間での負荷平滑を図ることを示す図。
【
図12a】負荷分散にあたり、プロファイルを管理することを示す図。
【
図12b】標準機エレベーターコントローラ11、12と高速機エレベーターコントローラ13の処理時間を均等化すべく割り当てた事例を示す図。
【
図14】故障発生時にソフトウェア部品50の号機代替えを行うことを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態の例について、図面を参照して説明する。本件明細書及び図面において実質的に同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0015】
以下、本発明の実施例1ではエレベーターシステムの概略構成例について説明し、実施例2では実施例1で説明した基本構成のエレベーターシステムにおいて、稼働系と予備系の切替を行う処理について説明し、実施例3ではエレベーターシステムでの処理に関する各種のプログラムを記憶しているROMの構成例について説明し、実施例4では仮想マシンの考え方を採用することにより複数のエレベーターコントローラ11、12、13間での負荷平滑を図ることについて説明し、実施例5では複数のエレベーターコントローラ11、12、13間での負荷分散を図ることについて説明し、実施例6では故障発生時に縮退運転を実行させることについて説明し、実施例7では故障発生時にソフトウェア部品10の号機代替えを実行させることについて説明するものとする。
【実施例1】
【0016】
まず、本発明の実施例1に係るエレベーターシステムの概略構成例について、
図1a、
図1b、
図1c、
図1d、
図2を参照して説明する。
図1aは本発明の実施例1に係るエレベーターシステムの概略構成例であり、
図1b、
図1c、
図1dはエレベーターシステム各部の概略構成例を示している。
図2はエレベーターシステム1が備える各装置のハードウェア構成例である。
【0017】
図1aに示すエレベーターシステム1は、複数のエレベーターコントローラから構成されており、本実施例では3台のエレベーターコントローラ11、12、13。から構成されている。なお、エレベーターコントローラを個別に区別する必要がない場合には単にエレベーターコントローラ10とすることがある。エレベーターコントローラ10における主たる制御機能は、エレベーターの群管理制御機能と、個々のエレベーター号機の号機制御機能と、通信制御機能である。なおこの例では、1号機、2号機が標準機、3号機が高速機であり、エレベーターコントローラ11、12、13は、それぞれ1号機、2号機、3号機の制御を担当している。
【0018】
エレベーターコントローラ10における主たる制御機能である個々のエレベーター号機の号機制御機能の実現のために、エレベーターコントローラ10は、少なくともエレベーター単体の制御を担う号機部20または22を有する。標準機である1号機、2号機の制御を担当するエレベーターコントローラ11及び12の号機部20は、標準的な仕様を満たすエレベーター制御を実行する。これに対して高速機である3号機の制御を担当するエレベーターコントローラ13の号機部22は、高速向け仕様を満たすエレベーター制御を実行する。エレベーターコントローラ10は、エレベーターのかごの運行つまり上下移動を担う主機(巻上機モータ等)の制御を行うものである。号機部20は、
図1cに例示したように標準エレベーターに適合した主機を駆動するための駆動部24を有する。同様に号機部22は、高速エレベーターに適合した主機を駆動するための駆動部26を有する。
【0019】
またエレベーターコントローラ10における主たる制御機能であるエレベーター号機間での通信制御機能の実現のために、エレベーターコントローラ11、12、13は、ネットワーク40を経由して、エレベーターの状態を含む様々なデータの通信を担う通信部30を有する。通信部30は
図1bに例示するように、メッセージ受信部32とメッセージ送信部34と、送受信を行う相手が誰であるかを記録している送受信テーブル36をそなえ、予め定められた相手との間での送受信を実行する。送受信テーブル36については、後述する。なお本実施例に係るエレベーターの構造は周知慣用の構成であるため、エレベーターの個々の前記主機のような構成要素についてはその詳細説明を割愛する。
【0020】
本発明の実施例1は、エレベーターコントローラ10における主たる制御機能であるエレベーターの群管理制御機能の改良に関わるものである。この群管理制御機能は、
図1dに例示するように複数のソフトウェア部品50から成り立っており、ソフトウェア部品50には、入出力を制御する仮想I/O70を有する。本実施例では説明のために、A部品52、B部品54、C部品56の三つをソフトウェア部品50としている。
【0021】
群管理処理は、実際にエレベーターを制御する稼働系と、処理を実行するがエレベーターを制御しないバックアップとしての予備系と、によって構成される。稼働系及び予備系の処理結果を同時にエレベーター本体に反映させると二重に処理することになるため、予備系の処理結果を疑似的に受け付ける機能を有するのが
図1dの仮想I/O70である。仮想I/O70は、ソフトウェア部品50の処理結果を実際にエレベーター本体に反映させる場合と、上記疑似的に受け付ける場合と、を切り替えることができる。また、仮想I/O70は、出力先を変更することもできる。稼働系と予備系による群管理処理の考え方は、群管理制御系を多重化したものということができる。
【0022】
さらに、エレベーターシステム1では、それぞれのソフトウェア部品50に対応する、ソフトウェア部品の処理の正常・異常を判定するための合理性判定部60を有する。A部品52に対応するのはA合理性判定部62、B部品54に対応するのはB合理性判定部64、C部品56に対応するのはC合理性判定部66である。なお、合理性判定部60もまたソフトウェア部品ということができる。
【0023】
合理性判定部60は、稼働系及び予備系の同一ソフトウェア部品50の処理結果をもとに、正常・異常を判定する。最低限の正常・異常判定処理の一例としては、稼働系のソフトウェア部品50の処理結果と、予備系のソフトウェア部品50の処理結果と、が一致することを確認する処理である。さらには、エレベーターシステム1の、機器構成や階床情報等の構造的な静的情報や、実際の乗りかごの位置や速度及び荷重等の動的な運行状態をもとに、処理結果がエレベーター運行としてあり得ない制御値を演算していないか等を、ソフトウェア部品50のそれぞれの処理内容に応じた合理性をもとに、正常・異常を判定する処理を実行する。
【0024】
各号機のエレベーターコントローラ11、12、13は、A部品52と、B部品54と、C部品56と、及びA合理性判定部62と、B合理性判定部64と、C合理性判定部66と、号機部20、22と、通信部30を含んで構成されており、通信部30により、ネットワーク40を経由して他のエレベーターコントローラで実行されているソフトウェア部品50と通信が可能である。またソフトウェア部品50は、エレベーターコントローラ11、12、13の通信部30を経由することにより、他のエレベーターコントローラとの間で、コピーが可能である。
【0025】
本実施例では、説明のため、一台目のエレベーターコントローラ11には、稼働系としてA部品52と、予備系としてB部品54と、C合理性判定部66と、を有する。二台目のエレベーターコントローラ12には、稼働系としてB部品54と、予備系としてC部品56と、A合理性判定部62と、を有する。三台目のエレベーターコントローラ13には、稼働系としてC部品56と、予備系としてA部品52と、B合理性判定64と、を有する構成とした。
【0026】
このように、それぞれのエレベーターコントローラ11、12、13において、稼働系のソフトウェア部品50と、予備系のソフトウェア部品50と、が同一ソフトウェア部品50としてエレベーターコントローラに存在しないよう、異なるエレベーターコントローラに分散して割り当てる。また、それぞれのエレベーター11、12、13において、分散して割り当てられたソフトウェア部品50と、対応しない別のソフトウェア部品50の合理性判定部60を割り当てる。
【0027】
ソフトウェア部品50を複数のエレベーターコントローラ11、12、13に分散させ、少なくとも稼働系、予備系の2形態の分散形態をとり、且つ稼働系及び予備系の処理結果を判定する判定機能を備えることにより、エレベーターシステム1全体の正常/異常を検知することができる。また、あるソフトウェア部品50で異常が発生した場合において、当該ソフトウェア部品50の処理を停止させても、他方のソフトウェア部品50の処理結果を利用することができるので、エレベーターシステム1として群管理処理を停止することなく、エレベーターの運行つまりエレベーター・サービスを継続して提供することができる。
【0028】
つまり、本発明の実施例1について別の言い方をするならば、複数の各エレベーターコントローラは、制御処理部を稼働系と予備系による多重化構成としてその一方により実制御を行い、かつ稼働系と予備系と判定部の処理をソフトウェア部品を用いて実現するに際し、各エレベーターコントローラにおける稼働系と予備系と判定部の処理を行うソフトウェア部品は互いに相違するソフトウェア部品とされたものである。
【0029】
さらに、一のエレベーターコントローラ(例えば11)における稼働系と予備系と合理性判定部のいずれかを担当したソフトウェア部品は、他のエレベーターコントローラ(例えば12、13)における稼働系と予備系と合理性判定部の他のいずれかを担当するように構成されたものである。
【0030】
上記構成とすることによりさらに、群管理処理の負荷を分散できるとともに、故障が局所的に集中することを避けることができ、エレベーターコントローラ11、12、13に必要とされる性能要求を、群管理処理全体を各エレベーターコントローラで実行する場合と比較して軽減することができる。
【0031】
次に、エレベーターシステム1が備える各装置のハードウェア構成について、
図2を参照して説明する。ここでは、エレベーターコントローラ11、12、13が備える計算機のハードウェア構成を説明する。
【0032】
エレベーターコントローラ11、12、13は、システムバス105にそれぞれ接続されたMPU(Micro Processing Unit)101、ROM(Read Only Memory)102、RAM(Random Access Memory)103、及び通信インタフェース104を備える。なお、MPUに類する上位概念としてCPU(Central Processing Unit)があるが、ここでは複数ジョブを並行処理可能な複数コア、複数スレッド構成を有するものであることが望ましい。
【0033】
MPU101、ROM102、RAM103は処理部を構成する。MPU101は、本実施例の形態で係る各機能を実現するソフトウェア部品50であるプログラムコードをROM102から読み出してRAM103にロードし、該プログラムを実行する。もしくは、ソフトウェア部品50であるプログラムコードをROM102から読み出してそのまま該プログラムを実行する場合もある。RAM103には、MPU101の処理実行途中で発生した変数やパラメータ等が一時的に書き込まれ、これらの変数及びパラメータ等がMPU101から適宜読みだされる。
【0034】
エレベーターコントローラ11、12、13は、MPU101が実行するプログラムである複数のソフトウェア部品50である、号機部20と、通信部30と、A部品52と、B部品54と、C部品56と、A合理性判定部62と、B合理性判定部64と、C合理性判定部66と、によりその機能が実現される。
【0035】
エレベーターコントローラ11、12、13それぞれの通信部30によって、エレベーターコントローラ間を接続するネットワーク40として、例えば、RS-485のようなマルチドロップ形態のシリアル通信デバイスや、イーサネット(登録商標)のような複数のトポロジを提供するLAN(Local Area Network)・WAN(Wide Area Network)、さらには有線通信以外であれば無線通信があり、例えばWi-Fiのようなローカル無線や、4G及び5Gのようなインフラ無線通信によって、各コントローラのデータを装置間で送受信することが可能となる。
【実施例2】
【0036】
実施例2では、実施例1で説明した基本構成のエレベーターシステムにおいて、稼働系と予備系の切替を行う処理について、
図3、
図4、
図5a、
図5b、
図5c、
図5dを用いて説明する。この処理は、合理性判定部60で故障等を検知した場合に、エレベーターシステム1を稼働系から予備系に切り替えるものであり、
図3は稼働系から予備系への全系切替フロー、
図4はソフトウェア部品50を入替える場合の各種テーブル類の構成例、
図5a、
図5b、
図5c、
図5dは入れ替え処理の処理フローを示している。
【0037】
最初に
図3を用いて、稼働系から予備系への全系切替を行うときの処理フローについて説明する。
図3において、左右のフローはエレベーターコントローラ11、12、13のいずれもが保有している機能であるが、実際の処理としては、左側のフローにおいて合理性判定が合理性判定部66、62、64で行われ、異常検知した合理性判定部(例えば62)の切替指示が右側のフローに伝達されて、エレベーターコントローラ11、12、13の全てにおいて切替処理を実行するという処理フローである。したがって、この処理内容によれば、いずれかのエレベーターコントローラ11、12、13での合理性判定結果として、異常が検知されれば全てのエレベーターコントローラ11、12、13を予備系に切り替える処理である。
【0038】
図3の最初の処理ステップS10では、全てのエレベーターコントローラ内の合理性判定部60がそれぞれ故障判定を実行している。ここでの故障判定は、例えば、稼働系及び予備系の同一ソフトウェア部品50の処理結果をもとに、正常・異常を判定するものであり、あるいはエレベーターシステム1の、機器構成や階床情報等の構造的な静的情報や、実際の乗りかごの位置や速度及び荷重等の動的な運行状態をもとに、処理結果がエレベーター運行としてあり得ない制御値を演算していないか等を、ソフトウェア部品50のそれぞれの処理内容に応じた合理性をもとに、正常・異常を判定するものである。
【0039】
この結果、故障等が発生しない、すなわち処理結果が正しい場合には、そのまま処理を続行する。故障等の発生を検知した、すなわち処理結果が誤っている場合には、処理ステップS12において、稼働系から予備系への切替を、エレベーターコントローラ11、12、13のすべてに指示を送信する。これは誰が検知しても、自己を含む全員に切替指示を与えるものである。
【0040】
図3の右側の処理は、切替を指示された全てのエレベーターコントローラ11、12、13における処理であり、最初に処理ステップS14において、稼働系から、予備系への、切替の指示を受信する。処理ステップS16において、各エレベーターコントローラ11、12、13は、自らが保持しているソフトウェア部品50をひとつずつ選択する。処理ステップS18では、それぞれのソフトウェア部品50の仮想I/Oを、稼働系のソフトウェア部品50の場合には稼働系から予備系へ、予備系のソフトウェア部品50の場合には予備系から稼働系へ切り替える。これを切替が終了していないソフトウェア部品50がなくなるまで繰り返す。なお、稼働系すなわち故障とみなされたソフトウェア部品50については、処理を停止させても良い。
【0041】
このようにすることで、故障等を検知した場合、即座に複数のエレベーターコントローラに稼働系から、予備系への切替を指示できるので、エレベーターシステム1として、エレベーター・サービスを継続して提供することができる。
【0042】
図3のフローでは、すべての系統を稼働系から予備系に一斉に切替える全系統切替の考え方で対処することについて説明したが、次に故障個所のみを切替える部分入替の処理について説明する。ここでは、あるソフトウェア部品50が故障した場合に、このソフトウェア部品50のみを、稼働系から予備系へ入替える場合の構成例とフローチャートを説明する。
【0043】
図4によりソフトウェア部品50を入替える場合の各種テーブル類の構成を説明する。なお本説明事例では、B部品54の稼働系を予備系に入れ替える例で説明することから、
図4の上段にB部品の合理性を判断する3号機のB部品合理部64と、管理テーブル65の記憶内容を例示している。
【0044】
図1に示す構成によれば、高速機である3号機のエレベーターコントローラ13で動作しているB合理性判定部64は、稼働系ソフトウェア部品50としてB部品52が搭載されているエレベーターコントローラ12である2号機と、予備系ソフトウェア部品50としてB部品52が搭載されているエレベーターコントローラ11である1号機と、を管理テーブル65で把握している。
図4上段の管理テーブルは、この関係を稼働側が2号機、待機側が1号機として把握されていることを表している。なお参考までに他の号機の管理テーブルの把握内容を述べるならば、2号機に搭載されるA合理性判定部62は稼働側が1号機、待機側が3号機として把握しており、1号機に搭載されるC合理性判定部66は稼働側が3号機、待機側が2号機として把握していることになる。
【0045】
図4中段及び下段には、各号機の通信部30内の送受信テーブル36の記憶内容を示している。この図で送受信テーブル36は、稼働系と、予備系の、ソフトウェア部品50が、どのエレベーターコントローラの、どのソフトウェア部品50と、紐づけられているか、を記憶している。36-1が1号機、36-2が2号機、36-3が3号機の送受信テーブル36である。
【0046】
なお、通信部30における通信の説明を行うにあたり、その前提としてここでは
図1のエレベーターコントローラシステムでは、A部品52と、B部品54と、C部品56と、が順番に処理を実施し、この処理を繰り返すことで、群管理処理をしているものとする。
【0047】
この処理の順番によれば、例えば稼働系のB部品52に着目すると、
図4中段の送受信テーブル36-2において、B部品54が受信する、つまり一つ前の処理は1号機から到着することが記憶されている。よって、1号機の稼働系はA部品52なので、該B部品54の一つ前の処理がわかる。一方で、B部品52が送信する、つまり処理を終わって次の処理に送信することが記憶されている。よって、3号機の稼働系はC部品56なので、該B部品54の次の処理がわかる。このような、分散しているソフトウェア部品50の全ての稼働系及び予備系の関係が、送受信テーブル36-1、36-2、36-3に記憶されている。
【0048】
各エレベーターコントローラの通信部30は、この送受信テーブル36に基づいて、通信処理を実行する。ここでは、送受信テーブル36の内容を、故障前(
図4中段)と故障後(
図4下段)について示している。
【0049】
次に上記の送受信関係を前提として、B部品54の稼働系を予備系に入れ替える例について説明する。故障前の稼働系のB部品54つまり2号機の送受信テーブル36-2を見ると、1号機と3号機が関係していることがわかる。1号機の稼働系の送信側を、B部品54の予備系の受信側に入れ替え、また、3号機の稼働系の受信側を、B部品54の予備系の送信側に入れ替えることにより、B部品54を稼働系から予備系に入替えることが可能になる。
【0050】
つまり、故障前の1号機の稼働系Aの送信側は2号機となっているが、故障後には1号機の稼働系Aの送信側を、B部品54の予備系が動作している1号機とすればよい。故障前の3号機の稼働系Cの受信側は2号機となっているが、故障後には3号機のC部品56の受信側を、B部品54の予備系が動作している1号機とすればよい。予備系のB部品54の受信側及び送信側は、故障した稼働系の受信側1号機及び送信側3号機を踏襲すればよい。
【0051】
なお、本実施例では、送受信テーブル36の受信側及び送信側を1要素としているがこの限りではない。つまり、複数の受信側及び送信側を記憶している場合がある。この場合には、受信側及び送信側であるソフトウェア部品50が複数存在することになるので、所謂並列処理構成となる。
【0052】
次に
図5a、
図5b、
図5c、
図5dを用いて、入替処理のフローチャートを説明する。なお
図5aは入れ替え処理の主たるフローであり、
図5b、
図5c、
図5dは主フローの中で受信側、送信側、予備側であることが指定されたときのサブフローを示している。
【0053】
図5aの入れ替え処理の主たるフローにおける最初の処理ステップS10は、
図3の判定処理ステップS10と同じものであり、判定に誤りが検知されたことをもって以下の処理が開始され、判定誤りがないときは起動されない。なお本説明事例では、B部品54の稼働系を予備系に入れ替える例で説明する。
【0054】
この場合、処理ステップS10でB部品54の判定に誤りが検知されると、処理ステップS20が起動され、また
図5dに示す予備側のサブフローが起動される。このうち処理ステップS20においては、
図4上段に示した管理テーブル63にて、B部品54の稼働系/予備系を確認し、稼働系が2号機、予備系が1号機であることがわかる。続いて処理ステップS20において、B部品54の稼働系の受信側/送信側を確認し、受信側は1号機、送信側は3号機、であることがわかる。
【0055】
上記により、B部品54の判定に誤りが検知されたときの受信側、送信側、予備側が特定され、これを受けて
図5b、
図5c、
図5dに示した受信側、送信側、予備側のサブフローがスタートする。
【0056】
このうち
図5bの受信側の処理フローAにおいては、処理ステップS31により2号機の通信部30は、稼働系の送信側の変更依頼を1号機に送信する。処理ステップS32により1号機の通信部30は、送信側の変更依頼を受信する。処理ステップS33では、当該依頼に基づき、稼働系の送信側を変更する。
【0057】
また
図5cの送信側の処理フローBにおいては、処理ステップS34により2号機の通信部30は、稼働系の受信側の変更依頼を3号機に送信する。処理ステップS35により3号機の通信部30は、受信側の変更依頼を受信する。処理ステップS36では、当該依頼に基づき、稼働系の受信側を変更する。
【0058】
さらに
図5dの予備側の処理フローCにおいては、処理ステップS41により2号機の通信部30は、送受信の変更をB部品54の予備系がある1号機に送信する。処理ステップS42により1号機の通信部30は、送受信の変更依頼を受信する。処理ステップS43では、当該依頼に基づき、予備系の受信側及び送信側を変更する。このような
図5a、
図5b、
図5c、
図5dの処理フローにより、
図4の故障後の接続状態のような構成に変更することが可能となる。
【実施例3】
【0059】
実施例3では、エレベーターシステムでの処理に関する各種のプログラムを記憶しているROMの構成例について
図6、
図7、
図8、
図9を用いて説明する。
【0060】
図2のROMには、エレベーターシステムでの処理に関する各種のプログラムとして、ソフトウェア部品50、合理性判定部60、号機部20、22、通信部30の処理を行うプログラムを記憶するが、ROMにこれらプログラムを収納しROM割り当てを決定するにあたり、いくつかの構成例が考えられる。これらの構成例は、1つのROMにすべてのプログラムを収納する全部入り、複数のROMに収納する分散済み、最低限の機能のみを収納する最低組合せである。
【0061】
図6は、1つのROMにすべてのプログラムを収納する全部入りの考え方で構成したものであり、例えば群管理処理の全てのソフトウェア部品50を、すべてのエレベーターコントローラ11、12、13のROM102に記憶させる構成である。標準機用ROM102aと、高速機用ROM102bは、群管理処理の全てのA部品52、B部品54、C部品56と、判定部であるA合理性判定部62と、B合理性判定部64と、C合理性判定部66と、を有する。なお、標準機用ROM102aと、高速機用ROM102bと、の違いは、標準機用号機部20と、高速機用号機部22との違いである。なお、標準機用号機部20と、高速機用号機部22と、が同一の号機部処理であり、パラメータ等により、標準機と高速機の切替が可能な場合にはROMの構成は同一となる。このようなROM構成にすることで、ROMイメージをひとつもしくはモデル毎に固定することが可能となる。
【0062】
図7は、複数のROMに収納する分散済みの考え方で構成したものであり、例えば予め、ソフトウェア部品50と、合理性判定部60と、をそれぞれのエレベーターコントローラ11、12、13に分散割当しておき、それぞれのエレベーターコントローラ11、12、13専用にROM102c、102d、102eを構成した一実施例である。このようにすることで、エレベーターシステム1における、標準型エレベーターや、高速型エレベーターのような複数のモデルの組合せに合わせた専用のROMイメージを作成することが可能となるとともに
図6の全部入りよりも、ROMイメージのサイズを縮小することが可能となる。
【0063】
図8は、部品ごとに収納する組合せの考え方で構成したものであり、例えば、ソフトウェア部品50と、合理性判定部60と、を組みにして、それぞれのエレベーターコントローラ11、12、13専用にROM102f、102g、102hを構成した例である。ソフトウェア部品50と、合理性判定部60と、を組合せた個別ROMイメージサイズをもとに、複数のエレベーターコントローラに、ほぼ均一になるように、個別ROMイメージサイズを割り当てることにより、ROMイメージサイズを均一且つ小容量とすることが可能となる。
【0064】
上記した
図6、
図7、
図8のROM割当例を比較すると明らかなように、
図6の構成例は
図1aの構成例においてさらに他の合理性判定部も備えたものであり、
図7の構成例は
図1aの構成例と同じである。したがって
図6、
図7の構成例は、
図1aと同等またはそれ以上の機能を備えたものということができる。これに対し、
図8の構成例は
図1aの構成例が備える部品のすべてを備える形態にはなっていない。
【0065】
このため、
図8の携帯でROM割り当てを行った場合には、エレベーターシステム1を構成した後、その運用開始前の状態において、ネットワーク40を用いたデータ通信により、
図1aの構成を構築しておく必要がある。
【0066】
図9は、この構築前後の形態を示している。
図9の上部には、初期段階の
図8の構成のROM割り当てされたエレベーターシステム1の構成例、
図9の下部には、データコピー技術を利用したクローニングにより構築された
図1aの構成を示している。
【0067】
図10は、
図8の構成を、
図9の構成に変換するための処理フロー図である。
図10により、ソフトウェア部品50と、合理性判定部60と、を組合せた個別ROMの構造をもとに、ソフトウェア部品50の稼働系、予備系及び合理性判定部60をエレベーターコントローラに分散して割り当てる処理フローの一実施例を説明する。前述の通り、ソフトウェア部品50は、エレベーターコントローラの通信部30を経由することにより、任意のエレベーターコントローラで、コピーが可能である。
【0068】
図10の処理フローの最初の処理ステップS100では、個々のエレベーターコントローラ11、12、13について、他のエレベーターコントローラ10に、予備系として別のエレベーターコントローラ10に割り当てられていないソフトウェア部品50を確認する。処理ステップS102では、未割当ソフトウェア部品の有無を判定し、割り当てされていないソフトウェア部品50があった場合には、処理ステップS104においてこれを取得して予備系として割り当てて、管理テーブル65及び送受信テーブル36を更新する。
【0069】
処理ステップS102の判断が割り当てされていないソフトウェア部品50がないというものである場合には、処理ステップS106において割り当てられていない且つ当該エレベーターコントローラ10に割り当てられていないソフトウェア部品に対応する判定部60であるか否かを確認する。処理ステップS108では、未割当判定部の有無を判定し、割り当てされていない判定部60があった場合には、処理ステップS110においてこれを取得して判定部として自分に割り当てる。なお処理ステップS108の判定において、割り当てされていない判定部60がない場合には、割当処理を終了する。
【0070】
このようにすることで、処理性能が高いエレベーターコントローラ13は、多く割り当てられていないソフトウェア部品50を獲得し、相対的に処理性能が低いエレベーターコントローラ11、12は、確認する頻度が減るためにソフトウェア部品50の獲得が低くなるため、エレベーターシステム1全体で、処理性能に見合った負荷分散とすることが可能となる。
【実施例4】
【0071】
実施例4では、仮想マシンの考え方を採用することにより複数のエレベーターコントローラ11、12、13間での負荷平滑を図ることについて、
図11を用いて説明する。エレベーターの標準機や高速機等のモデルの違いによる、処理性能の違いを取り除くために、仮想マシンを活用することについて説明する。この例では、標準機のエレベーターコントローラ11、12よりも、高速機のエレベーターコントローラ13の方が、処理性能が高いと仮定する。
【0072】
図11の構成を
図1aの構成と比較すると明らかなように、
図11では各エレベーターコントローラ11、12、13の群管理制御部分を仮想マシン81、82として構成する。具体的には、標準機のエレベーターコントローラ11、12で動作する仮想マシン81と、高速機のエレベーターコントローラ13で動作する仮想マシン82と、において、仮想マシン81と仮想マシン82の処理性能が同一となるように、同一アーキテクチャの仮想マシンを設計もしくは調整をする。
【0073】
これにより、同一アーキテクチャ上でのソフトウェア部品50の処理時間等の指標によって、ソフトウェア部品50の処理負荷をエレベーターシステム1全体でできるだけ均一に分散させることが容易となる。
【実施例5】
【0074】
実施例5では、複数のエレベーターコントローラ11、12、13間での負荷分散を図ることについて、
図12a、
図12bを用いて説明する。ここでは、エレベーターの標準機や高速機等のモデルの違いによる、処理性能の違いを考慮した、ソフトウェア部品の分散割当について説明する。
【0075】
ただしここでは、説明の都合上、ソフトウェア部品50を、A部品からF部品まで総数を多くしている。また、高速機エレベーターコントローラ13の処理性能を、標準機エレベーターコントローラ11、12の2倍としている。
【0076】
図12aに示すように実施例5での負荷分散にあたり、プロファイルを管理する。プロファイルとは、実際に処理を実行させた結果である処理時間結果を指標とするものである。プロファイルテーブル90は、A部品からF部品までのそれぞれのソフトウェア部品50に関して、標準機エレベーターコントローラ11、12で実際に処理を実行した場合の性能指標と、高速機エレベーターコントローラ13で実際に処理を実行した場合の性能指標と、を記憶している。なおここでは、各ソフトウェア部品について高速機エレベーターコントローラ13の処理性能は、標準機エレベーターコントローラ11、12の2倍であるとしている。
【0077】
図12bは、標準機エレベーターコントローラ11、12と高速機エレベーターコントローラ13の処理時間を均等化すべく割り当てた事例を示している。ここでは例えば、各エレベーターコントローラ11、12、13の、稼働系のソフトウェア部品50の総数及び処理時間と、予備系のソフトウェア部品50の総数及び処理時間と、に大きな隔たりが生じないように割り当てる。本実施例では、処理速度2倍の差を元に、ソフトウェア部品50の割当割合及び総処理時間を元に、ソフトウェア部品50を割り当てているが、このようなアルゴリズムに限定されるわけではない。
【0078】
これにより、実際のプロファイル結果つまりエレベーターコントローラ10の処理性能を元に、該ソフトウェア部品50の処理負荷をエレベーターシステム1全体でできるだけ均一に分散させることが容易となる。
【実施例6】
【0079】
実施例6では、故障発生時に縮退運転を実行させることについて
図13を用いて説明する。ここでは、故障等が発生した場合に、故障等が発生したソフトウェア部品50が動作しているエレベーターコントローラを、縮退運転モードに変更することについて説明する。なおこの前提として一般的に号機部20には、少なくとも通常運転モードと、縮退運転モードと、が実装されている。
【0080】
図13は、縮退運転移行処理を行うフロー図である。図の左側には故障検知側のエレベーターコントローラとして11の処理フローを、図の右側に和故障側のエレベーターコントローラとして12の処理フローを記述しているが、これは任意の組み合わせであってもよい。
【0081】
図13のフローにおいて、処理ステップS10において故障等を検知したエレベーターコントローラ11は、処理ステップS50において故障等が発生したソフトウェア部品50が動作しているエレベーターコントローラ12に対して、縮退運転モードへの移行を指示する。
【0082】
これに対し、故障等が発生したソフトウェア部品50が動作しているエレベーターコントローラ12は、処理ステップS60において縮退運転モードへの移行指示を受信する。縮退意向を受信したエレベーターコントローラ12は、処理ステップS61において自身で故障等が発生しているか否かの動作状態を確認する。故障等が確認できた場合には、処理ステップS62に移行して縮退運転モードへ移行する処理を実行する。故障等が確認できない場合には、処理ステップS63に移行して自身が正常な状態であることの確認データを、縮退指示を送ったエレベーターコントローラ11に送信する。
【0083】
故障等を検知したエレベーターコントローラ11は、処理ステップS51において正常な状態であることの確認データを受信する。処理ステップS52では、正常な状態であることの確認データが受信できたか、もしくは受信タイムアウトしたかを確認する。受信できなかった場合には、処理ステップS53において故障側のソフトウェア部品50に係る送信側、受信側を無効にして別のエレベーターコントローラで動作しているソフトウェア部品と連携するように正常に動作しているエレベーターコントローラの送受信テーブル36を更新して、故障したエレベーターコントローラ12を隔離する。正常な状態であることの確認データが受信できた場合には、処理ステップS54においてエレベーターシステム1が継続して処理を続けるよう復帰処理を実行する。
【0084】
これにより、故障等と思われるソフトウェア部品50が動作しているエレベーターコントローラ12の正常性が疑わしい場合にも、エレベーターコントローラ12で動作している号機部20を、念のため縮退運転モードに遷移することが可能になる。
【実施例7】
【0085】
実施例7では、故障発生時にソフトウェア部品50の号機代替えを実行させることについて
図14、
図15を用いて説明する。
【0086】
ここでは、故障等が発生した場合に、故障等が発生したエレベーターコントローラのソフトウェア部品50の代替えとして、別のエレベーターコントローラでソフトウェア部品50を実行して、エレベーターシステム1としてエレベーター・サービスを継続する構成について
図14を用いて説明する。
図14の例は、2号機のエレベーターコントローラ12で故障が発見された場合に、2号機の号機部20の代替えを、エレベーターコントローラ11で実行する構成である。
【0087】
このためにここでは、健全側であるエレベーターコントローラ11内において号機部20のソフトウェア部品50をコピーして、エレベーターコントローラ11内にエレベーターコントローラ12用の号機部23を作成する。またエレベーターコントローラ11内の号機部23から故障発生側のエレベーターコントローラ12を操作するにあたり、その処理の実行に際しては、エレベーターコントローラ12で動作している号機部20の状態を取得し、同一状態にして遠隔状態において処理を開始する。
【0088】
具体的には、エレベーターコントローラ11内の号機部23の仮想I/O70を、通信部30を経由してエレベーターコントローラ12に処理結果を転送するように変更する。エレベーターコントローラ12の通信部30は、転送されて来た処理結果を、駆動部24に直接転送する。
【0089】
これにより、故障等と思われるソフトウェア部品50が動作しているエレベーターコントローラ12の正常性が疑わしい場合に、最低限の機能である駆動部24のみを活かして、他のエレベーターコントローラ11から、該駆動系24を操作して、正常にエレベーターの制御を継続することが可能となる。
【0090】
次に、
図15を用いて、代替え処理のフローを説明する。
図15のフローにおいて、処理ステップS10で故障等を検知したエレベーターコントローラ11は、処理ステップS70において故障等が発生したソフトウェア部品50が動作しているエレベーターコントローラ12に、縮退運転モードへの移行を指示する。
【0091】
故障等が発生したソフトウェア部品50が動作しているエレベーターコントローラ12は、処理ステップS80において縮退運転モードへの移行指示を受信する。移行指示を受信したエレベーターコントローラ12は、処理ステップS81において自身で故障等が発生しているか否かの動作状態を確認する。故障等が確認できた場合には、処理ステップS82において縮退運転モードへ移行する。縮退運転モードに移行できない場合には、処理ステップS83において現在の号機部20の動作状態データを、縮退指示を送ったエレベーターコントローラ11に送信する。次いで、2号機のエレベーターコントローラ12は、ステップS84において号機部20の処理を停止するとともに、通信部30を代替受付モードに変更する。なお代替え受付モードとは、特定のエレベーターコントローラ11からの通信によって、駆動部24を操作するモードのことである。
【0092】
故障等を検知したエレベーターコントローラ11は、処理ステップS71において号機部20の動作状態データ(状態移管)を受信する。次に処理ステップS72において、動作状態データが受信できたかもしくは受信タイムアウトしたかを確認する。受信できなかった場合には、処理ステップS73において故障側のソフトウェア部品50に係る送信側、受信側を無効にして別のエレベーターコントローラ10で動作しているソフトウェア部品と連携するように正常に動作しているエレベーターコントローラ10の送受信テーブル36を更新して、故障したエレベーターコントローラ10を隔離する。動作状態データが受信できた場合には、処理ステップS74において動作状態データをもとに号機部23を起動し、エレベーターシステム1が処理を続けられるよう代替え処理を実行する。
【符号の説明】
【0093】
1:エレベーターシステム
10、11、12、13:エレベーターコントローラ
20、22:号機部
24、26:駆動部
30:通信部
32:メッセージ受信部
34:メッセージ送信部
36:送受信テーブル
40:ネットワーク
50、52、54、66:ソフトウェア部品
60、62、64、66:合理性判定部
65:管理テーブル
70:仮想I/O
80、82:仮想マシン
90:プロファイルテーブル
101:MPU
102a、102b:群管理ソフトウェア部品が全て記憶されたROMイメージ
102c、102d、102e:個々のエレベーター毎に分散済みのROMイメージ
102f、102g、102h:ソフトウェア部品と判定部の組合せ毎のROMイメージ
103:RAM
104:通信I/F