IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

<>
  • 特許-超音波検査装置 図1
  • 特許-超音波検査装置 図2
  • 特許-超音波検査装置 図3
  • 特許-超音波検査装置 図4
  • 特許-超音波検査装置 図5
  • 特許-超音波検査装置 図6
  • 特許-超音波検査装置 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】超音波検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/28 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
G01N29/28
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021069551
(22)【出願日】2021-04-16
(65)【公開番号】P2022164209
(43)【公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北澤 聡
(72)【発明者】
【氏名】小方 雅己
(72)【発明者】
【氏名】河原 章哲
【審査官】田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-108454(JP,A)
【文献】特開平10-142207(JP,A)
【文献】特開2005-037195(JP,A)
【文献】特開2020-106410(JP,A)
【文献】特開2015-099971(JP,A)
【文献】特表2019-506597(JP,A)
【文献】登録実用新案第3191253(JP,U)
【文献】特開平01-112104(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接する素子面同士が傾動可能に配置された超音波アレイセンサと、
前記超音波アレイセンサを支持する支持部材と、を有し、
前記支持部材は、曲率を持つ検査対象物の内表面に、前記超音波アレイセンサの素子面が沿い、且つ前記超音波アレイセンサの素子面と前記検査対象物の内表面とが隙間を保持するように、前記超音波アレイセンサを支持し、
前記素子面が並んだ方向を長手方向とし、前記長手方向に交差する方向を幅方向としたときに、前記支持部材は、前記超音波アレイセンサの幅方向の両縁に係合する一対のガイド片を有し、
前記ガイド片が、前記検査対象物の内表面に密着したときに、前記検査対象物の内表面と前記素子面との間に接触媒質が供給される隙間が形成され、前記隙間は前記超音波アレイセンサの長手方向端部に接する外側空間と連通する、
ことを特徴とする超音波検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記支持部材は、前記検査対象物の内表面に対向する一方の側に複数の切込みを備え、他方の側では連結していることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記支持部材に、前記超音波アレイセンサの素子面に接触媒質を供給するための吐出口を一つ以上備えることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項4】
請求項3に記載の超音波検査装置において、
前記吐出口から吐出される前記接触媒質が、気体の圧力により押し出されて供給されることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項5】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記超音波アレイセンサを前記検査対象物の前記内表面に押し付ける押付け機構を備えることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項6】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記検査対象物が管状構造物であり、かつ、前記管状構造物の軸方向に前記超音波アレイセンサを移動させる移動機構を備えることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項7】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記超音波アレイセンサから超音波を送受信して処理する超音波波形信号収録方法は、フルマトリクスキャプチャ方式であることを特徴とする超音波検査装置。
【請求項8】
請求項1に記載の超音波検査装置において、
前記検査対象物の前記内表面が、鉄道車両の台車枠を構成する横梁の内表面であることを特徴とする超音波検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷(以下、UTと略記する)は、鋳鋼品や溶接部の内部に存在する欠陥の検出に用いられる代表的な非破壊検査手法であるが、欠陥検出だけでなく接着や剥離の検査等、様々な用途で使用されている。UTは基本的には、センサ(探触子、プローブ、トランスデューサとも呼ばれる)から発信された超音波が内部の傷等の欠陥から反射し、再度センサに戻ってくるまでの時間(伝播時間)と、その際の信号強度を測定し、欠陥の位置や大きさを評価するものである。
【0003】
欠陥の評価方法として、Aスコープと呼ばれる波形に現れるピーク信号(エコー)を用いて評価する方法や、送受信の位置やタイミングをずらした複数のAスコープから探傷画像を生成し、画像から欠陥を評価する方法が、UTの主力技術となっている。画像から欠陥を評価する方法では、フェーズドアレイ法(PA法)が代表的な手法となっており、PA法による欠陥評価が既に様々な産業分野で用いられている。
【0004】
また、近年はフルマトリクスキャプチャ法(Full Matrix Capture:FMC法)と呼ばれる新たな手法も注目されており、適用が広がりつつある。PA法とFMC法では、超音波を送受信するための素子が複数内蔵されたアレイセンサが用いられる。かかる素子には、電圧を力に変換する、もしくは加えられた力を電圧に変換する圧電効果を利用した圧電素子が通常用いられる。
【0005】
素子の数、寸法、配列方法は用途に応じて様々であるが、例えば、鋼材中の1mm程度の欠陥を検出する目的では数十から百数十個の素子を一列に配列したリニアアレイセンサが用いられる。配列方向の素子の寸法とピッチは概ね1mm以下である。PA法は、アレイセンサの各素子から発振される超音波の位相を制御することにより、その合成波である超音波ビームを任意方向に走査したり、焦点の位置を変化させたりすることができる技術である。
【0006】
FMC法は、アレイセンサの各素子の送受信の組合せに対応する波形を個別に全て収録し、送受信素子の位置に対応した波形合成処理をソフトウェア上で施すことにより、高精細な画像を得る技術である。FMC法については、例えば特開2019-158876号公報に記載されている。
【0007】
これらのアレイセンサを用いる検査手法では、探傷面は必ずしも平面である必要はない。探傷面が任意形状であっても各素子の座標が既知であれば、原理的にこれらの手法を適用することは可能である。この場合、PA法では位相制御が複雑になるため現実的ではないが、FMC法の場合は座標を計算に用いることで容易に画像を生成することが可能である。
【0008】
このような理由から、近年はフレキシブルアレイセンサと呼ばれる探傷面が曲面でも追従可能な柔軟性のあるアレイセンサが実用化され、FMC法と共に用いられる事例が増えている。フレキシブルアレイセンサを用いると、例えば、配管のような曲面を有する部品の表面にセンサを沿わせて直接接触させ、部品の母材や溶接部等を探傷して結果を容易に映像化することが可能である。
【0009】
ここで、管状部品の代表的な例として、鉄道車両の台車枠の例を挙げる。鉄道車両の台車枠は一般的に、横梁と呼ばれる管状の長尺部材(長さ数メートル、直径数十センチメートル)と、側梁と呼ばれる長尺部材を直交方向に溶接した構造を骨格としており、これに艤装品を固定するブラケットと呼ばれる板材が複数個所に溶接された構造を備える。
【0010】
これらの溶接部は重量部品を支持する重要な役割を担っているため、安全性の観点から高い健全性が求められており、工場出荷時に超音波検査が行われている場合が多い。横梁の溶接部は、横梁内面からも外面からも超音波検査が可能であるが、内面にはセンサを接触させる際の障害物が無いため、前述のフレキシブルアレイセンサを横梁内面に沿わせて直接接触させれば、容易に横梁溶接部の検査が可能となる。
【0011】
この場合、センサを横梁に直接接触させる際には、接触面とセンサの間に超音波の伝播を抑制する空気が入り込まないように、通常は液状の接触媒質(カプラント)を介在させる。接触媒質として水を用いる場合も、しばしばある。特に自動走査装置(マニピュレータ)にセンサを装着し、接触面上に沿ってセンサを機械的に動かしながら探傷を行う場合には、安定的に接触媒質を供給するための機構が別途必要となり、装置の構成が煩雑になったりコストが高くなる。
【0012】
このため、例えば特許文献1において、一般的な曲面部材の探傷においては、センサと接触面との間に固体状のゲルシートを設置することにより、液状の接触媒質を使用することなく超音波を安定して検査体内部に伝播できるようにした技術が提案されている。尚、この場合でも、ゲルシートと検査材料との密着性を確保するために検査体の表面に水を塗布することが好ましいと報告されている。
【0013】
また、特許文献2には、センサの移動に伴いゲルシートも順次移動させる技術が開示されている。これは、比較的寸法が大きく曲率が大きな部品を対象とした技術であるが、これにより、大きなサイズのゲルシートを用いる必要が無くなるというメリットがある。さらに特許文献2には、フレキシブルアレイセンサで大型検査体を探傷する場合のゲルシートのスライド機構として、帯環状のゲルシートを複数のローラで無限軌道となるように走査方向に向かって連続的に移動させる方法が開示されている。また特許文献2には、ゲルシートと検査体表面、およびゲルシートとセンサの間は摩擦係数が小さくなるように必要に応じて潤滑液を塗布することが開示され、潤滑液としては水を用いることができることも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2003-114221号公報
【文献】特許6577878号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、これら従来の手法では、ゲルシートと接触面の間に潤滑液を塗布するため、接触面に錆や埃などが付着している検査体を探傷する場合には、これらの付着物が潤滑液によって接触面から剥離し、ゲルシートに巻き込まれてしまうという問題がある。ゲルシートには様々な種類があるが、いずれも柔らかい素材でできている上に吸着性も有するため、ゲルシートをセンサと共に接触面に押し付けると、これらの錆や埃がゲルシート表面に埋没するかたちで付着してしまう。
【0016】
その結果、超音波がゲルシート内部を伝播する際に錆や埃で散乱され、計測波形にノイズとして現れ悪影響を及ぼすおそれがある。また、潤滑液を塗布しているとはいえ、ゲルシートが接触面との摩擦によって摩耗したり傷ついたりするため、長期間の使用には耐えられず、定期的な交換が必要になる。さらに、特許文献2に記載の技術では、無限軌道を構成するための機構を小型化することが難しく、鉄道台車枠の横梁のような径が比較的小さく、曲率が大きな部品を探傷することは困難である。
【0017】
本発明の目的は、ゲルシートを用いる必要が無く、かつ、センサの素子面を摩耗させたり、傷つけることなく探傷が可能な超音波探傷装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、代表的な本発明の超音波検査装置の一つは、
隣接する素子面同士が傾動可能に配置された超音波アレイセンサと、
前記超音波アレイセンサを支持する支持部材と、を有し、
前記支持部材は、曲率を持つ検査対象物の内表面に、前記超音波アレイセンサの素子面が沿い、且つ前記超音波アレイセンサの素子面と前記検査対象物の内表面とが隙間を保持するように、前記超音波アレイセンサを支持し、
前記素子面が並んだ方向を長手方向とし、前記長手方向に交差する方向を幅方向としたときに、前記支持部材は、前記超音波アレイセンサの幅方向の両縁に係合する一対のガイド片を有し、
前記ガイド片が、前記検査対象物の内表面に密着したときに、前記検査対象物の内表面と前記素子面との間に接触媒質が供給される隙間が形成され、前記隙間は前記超音波アレイセンサの長手方向端部に接する外側空間と連通する、ことにより達成される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ゲルシートを用いる必要が無く、かつ、センサの素子面を摩耗させたり、傷つけることなく探傷が可能な超音波探傷装置を提供することができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、実施形態1における検査対象である鉄道台車枠の構造を示した平面図である。
図2図2は、横梁を軸方向から見た側面図である。
図3図3は、フレキシブルアレイセンサを詳細に図示した斜視図である。
図4図4(a)は、フレキシブルアレイセンサの斜視図であり、図4(b)、(c)は、ガイドの断面を示す図である。
図5図5は、本実施形態のフレキシブルアレイセンサを用いて鉄道台車枠横梁の溶接部を検査する際の処理フローを示す図である。
図6図6は、実施形態2におけるフレキシブルアレイセンサの斜視図である。
図7図7は、形状可変ガイドが変形する前の状態を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0022】
(実施形態1)
図1は、実施形態1における検査対象である鉄道台車枠の構造を示した図である。台車枠1は、二本の管状長尺部材である横梁2と、同じく長尺部材である2本の側梁3を直交方向に組み合わせた構造を骨格としている。横梁2と側梁3は溶接で結合されている。さらに、横梁2には様々な艤装品を固定するための上板4や、ブレーキ装置を取り付けるためのブレーキ装置取り付け座5が溶接されている。一般的にはこの他にも多くの部材が台車枠1に溶接されているが、ここでは省略する。
【0023】
横梁2は、管状の長尺部材となっており、一般的に、その直径は数十センチメートルで、長さは数メートルである。本実施形態では、フレキシブルアレイセンサ(超音波アレイセンサ)を用いて横梁内面から探傷を行う。前述のように、横梁内面には探傷の際に障害となる物体が存在しないため、探傷を効率よく行うことが可能である。
【0024】
横梁2の内面にフレキシブルアレイセンサを周方向に沿わせて設置した状態を、図2に示す。図2は横梁2を軸方向から見た図である。フレキシブルアレイセンサ200は、内部に複数の圧電素子202を内蔵しており、各圧電素子202から所望のタイミングで超音波が発信される。複数の圧電素子202は、隣接する素子面同士が傾動可能となるように連結されているため、横梁2の表面204の曲率に倣うようにして複数の素子面を表面204に正対させることができる。
【0025】
アレイセンサの型式としては、コンポジット型が好ましい。コンポジット型のセンサは、格子状にカットされた複数の圧電材料の隙間にエポキシ樹脂を充填してブロック状に固め、その後、ブロックの底面を研磨してエポキシ格子の中に複数の小さな圧電素子が残るようにして作製する。両面は電気接続用にメッキされ、組み込まれるセンサの型に合わせて正方形、長方形、または円形などの形状に切断される。
【0026】
これらの複数の圧電素子202は、送受信部205から送られる電圧信号で個別に制御されており、電圧信号に対応したタイミングで各素子が変形して振動し、素子に接触している物質を加振し、その結果として超音波を発生して送信することが可能となる。また、受信過程においては、送信と逆の過程であり、超音波による素子の変位が電圧信号に変換され、その信号が送受信部205に送られることにより、受信波形が収録・信号処理部206で収録され、適切な信号処理が施され、その結果が表示部207に表示される。また図2では省略したが、送受信処理は圧電素子202の素子ごとに行われるため、波形も素子ごとに収録される。
【0027】
ここで適切な信号処理とは、たとえば、前述のフルマトリクスキャプチャ法(方式)で、全素子の組み合わせに対応する波形を収録し、それらの波形をトータルフォーカシングメソッド法(TFM法)や開口合成法などで映像化する処理のことである。これらの処理により、フレキシブルアレイセンサ200の素子並び方向に平行な平面での断層像に相当する超音波探傷画像が得られ、その画像が表示部207に表示される。近年の計算機を用いれば、これらの処理は十分に短い時間で行われるため、フレキシブルアレイセンサ200の位置に応じて、即時に画像が更新されて表示部207に表示される。
【0028】
もちろん、これ以外の映像化手法で映像化しても構わない。また、各素子の波形を個別に収録するのではなく、適切な遅延時間パターンに従いフェーズドアレイ法で収録し、映像化した画像を表示させても構わない。
【0029】
フレキシブルアレイセンサ200を、図3に詳細に図示する。フレキシブルアレイセンサ200には、素子面303の両側に横梁2の内面204の曲率と同じ曲率を持つガイド203が設置されており、容易に脱着可能な構造となっている。構造の詳細については、後で述べる。図示しないが、素子面303の正面には樹脂やゲルで構成される薄い保護材が設けられている。
【0030】
フレキシブルアレイセンサ200は、バネ等を内蔵した押付け機構304で素子面303の背面から押し付けられ、横梁2の内面204(図2)に密着されて設置される。押付け機構304は移動機構305に接続されており、フレキシブルアレイセンサ200を移動用軌道306に沿って走査させることが可能となっている。
【0031】
支持部材としてのガイド203は、一体型でも複数に分かれていても構わない。本実施形態では、ガイド203は、一対のガイド片203a、203bを含んでいる。図4(b)、(c)に、ガイド203の圧電素子202の並び方向に垂直な断面を示している。ガイド片203a、203bには、それぞれ溝401a、401bが対向して加工されている。これら溝に、図4(a)に示すフレキシブルアレイセンサ200の両側が係合するようにして、ガイド片203a、203bによりフレキシブルアレイセンサ200が挟み込まれる。これにより、横梁2の内面204に沿ってフレキシブルアレイセンサ200が曲がった形状に強制保持される構造となっている(図3)。
【0032】
フレキシブルアレイセンサ200に組み付けた状態で、ガイド203の外面は、素子面303よりも僅かに外方に突出しており、それによりガイド203が横梁2の内面204に接触したときに、素子面303は内面204に直接接触しない構造となっている。素子面303と内面204の間には概ね1mmから数mm程度の隙間が確保されることが望ましい。
【0033】
また、図3に示すようにガイド片203aには、接触媒質を素子面303と内面204の隙間に供給する接触媒質供給孔301a、301b、301cが設けられている。接触媒質供給孔301a、301b、301cは、ガイド片203aの内部通路(不図示)を介して、接触媒質供給チューブ302に連通している。
【0034】
接触媒質供給チューブ302を通じて外部から空気圧等を利用して供給された接触媒質が、接触媒質供給孔301a、301bおよび301cから供給される。素子面303と内面204の隙間に供給された接触媒質は、内面204に当接したガイド片203a、203bにより両側から保持されて残存する。ここでは接触媒質供給孔は、代表的な位置に3つ配置するものとして示してあるが、接触媒質供給孔の数や位置は、横梁管の径やフレキシブルアレイセンサ200の寸法等に応じて適用に選択するのが好ましい。ガイド片203bに、接触媒質供給孔を配設してもよい。接触媒質としてはグリセリンペーストや水を用いるが、一般的に超音波探傷に用いられている物質を用いることができる。
【0035】
ガイド203の素材は、柔軟性を有する樹脂であることが望ましい。特に、耐摩耗性に優れるポリオキシメチレンを材料とするエンジニアリングプラスチックであることが望ましい。ただし、ガイド203の素材は必ずしも樹脂である必要はなく、金属やその他の材料を用いても本発明の効果は同様に得られるため、それでもかまわない。
【0036】
押付け機構304は、移動機構305に対して回転できるようになっており、移動用軌道306に対するフレキシブルアレイセンサ200の向きを自由に変えることが可能であってもよい。例えば、図3ではフレキシブルアレイセンサ200の圧電素子202の並び方向は移動用軌道306と直交するように描いており、この状態で移動用軌道306を横梁管の軸方向に合わせることにより、フレキシブルアレイセンサ200を横梁管の内面に押し付けながら周方向探傷を行いつつ、横梁管の軸方向に探傷位置を移動させながら検査する。
【0037】
これにより、長尺な横梁管の溶接部を効率良く検査することが可能となる。また、横梁管内の軸方向の任意の位置において、フレキシブルアレイセンサ200を移動用軌道306ごと移動用軌道306の軸回りに回転させることで、フレキシブルアレイセンサ200で横梁管の周方向探傷を行いながら、さらに横梁管の周方向に探傷位置を移動させながら検査することが可能である。図には示していないが、軸回りの回転は手動で行ってもよいし、回転装置に移動用軌道306を接続させ、電子制御で回転させても構わない。
【0038】
以下に、本実施形態のフレキシブルアレイセンサを用いて鉄道台車枠横梁の溶接部を検査するための検査方法を、具体的に述べる。図5は、本実施形態のフレキシブルアレイセンサを用いて、鉄道台車枠横梁の溶接部を検査する際の処理フローを示す図である。検査方法は、以下のステップにより実行される。なお、検査する横梁の内径に対応して、異なる曲率を持つガイド203が予め準備されているものとする。
【0039】
(ステップ1)
検査する横梁の内径に合わせてガイド203を選択し、フレキシブルアレイセンサ400に装着する。
【0040】
(ステップ2)
選択したガイド203を介して、フレキシブルアレイセンサ200を横梁の検査対象位置に密着するように設置する。まず、フレキシブルアレイセンサ200を、横梁の軸方向における検査開始位置に設置する。さらに、気体の圧力により接触媒質供給チューブ302を通して接触媒質を押し出して、素子面303と内面204の隙間に供給する。
【0041】
(ステップ3)
フレキシブルアレイセンサ200の素子から横梁に向けて超音波を出射し、その反射波を受信した素子が対応する電圧信号を送受信部205に送信したとき、その受信波形を収録・信号処理部206で収録する。このとき、フレキシブルアレイセンサ200の全ての素子の組み合わせの波形を、FMC法で収録する。ただし、波形は必ずしも全ての組み合わせである必要はなく、選択的な組み合わせの波形のみを収録しても構わない。
【0042】
(ステップ4)
ステップ3で収録した波形から、TFM法等を用いて探傷画像を生成する。TFM法以外に開口合成法や、その他の映像法を用いても構わない。探傷画像はこの時点で画像表示画面に表示されても構わないし、されなくても構わない。
【0043】
(ステップ5)
探傷画像の内、欠陥の有無を確認したい溶接部領域のエコーを抽出する。ただし、ノイズと明確に識別できない場合は、このステップを省略しても構わない。
【0044】
(ステップ6)
ステップ5で抽出したエコーが、あらかじめ規定した強度以上かどうかを判定する。規定する強度は、検査の要求精度に合わせて検査者が任意に決めて構わないし、規定値を用いても構わない。
【0045】
(ステップ6b)
ステップ6において、規定した強度以上のエコーが存在する場合は、エコー強度とフレキシブルアレイセンサの位置を記録し、その後ステップ7に進む。
【0046】
(ステップ7)
フレキシブルアレイセンサの位置があらかじめ決めた探傷終了位置かどうかを判定し、探傷終了位置の場合は探傷を終了する。探傷終了位置ではない場合は、移動機構305を用いて次の探傷位置にフレキシブルアレイセンサを移動させ、さらにステップ2からステップ7を繰り返す。
【0047】
本実施形態の超音波検査装置を用いて上記の検査方法を実行することにより、フレキシブルアレイセンサを検査体に直接接触させ、ゲルシートなどを用いることなく、またセンサの素子面を摩耗させたり傷つけたりしないで探傷を行うことが可能となる。
【0048】
(実施形態2)
図6は、実施形態2におけるフレキシブルアレイセンサ400を図示したものである。フレキシブルアレイセンサ400においては、素子面303の両端に、支持部材としての形状可変ガイド501が脱着可能に設けられている。
【0049】
図7に、形状可変ガイド501が変形する前の状態の側面図を示す。形状可変ガイド501は、フレキシブルアレイセンサ400と共に横梁管内面に密着するように自在に変形する構造を備える。具体的には、形状可変ガイド501には、一方の面(図7で上面)から他方の面(図7で下面)に向かって、切込み502が複数設けられている。切込み502の奥端は形状可変ガイド501内に留まるため、形状可変ガイド501が分離することはない。
【0050】
形状可変ガイド501が押付け機構304により横梁管内面に押し付けられた際に、凹状の横梁管内面に向かって押し付けられることで、切込み502が開くことにより形状可変ガイド501の全体形状が凸状に変化する。切込み502は複数設けられているが、その位置と数は横梁管の内径や使用状況に合わせて任意に決めて構わない。一般的には細かいピッチで多くの溝を設けた方が、より柔軟性が増す構造となる。
【0051】
このような形状可変ガイド501を用いれば、異なる内径の横梁管を検査する際にもガイドを交換する必要が無く、工数削減が図れる。さらに、施工時の熱により溶接部の形状に歪みが生じて円形が崩れることもあるが、そのような歪みが生じた領域でも、歪みに対応して形状可変ガイド501がフレキシブルアレイセンサ400と共に追従して変形することができる。このため、横梁管の軸方向に探傷位置を移動させながら検査する場合でも、歪み領域でフレキシブルアレイセンサ400が浮き上がったり、引っかかって装置が停止するような不具合を避けることが可能となる。
【0052】
また、形状可変ガイド501において、切込み502のない側は連結された状態となっているが、完全に複数の小さな部材に分離されていても構わない。ただし、この場合は、これらの部材が使用時に離れないように、ワイヤで順次連結するなど別の保持機構を設ける必要がある。
【0053】
また、本実施形態におけるフレキシブルアレイセンサ400を用いると、検査フローにおいては図5に記載したステップ1を省略することが可能となる。その他の構成および検査フローは、実施形態1と同様であるため説明は割愛する。
【0054】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、上記以外の様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
1:台車枠、2:横梁、3:側梁、4:上板、5:ブレーキ装置取り付け座、200:フレキシブルアレイセンサ(超音波アレイセンサ)、202:圧電素子、203:ガイド(支持部材)、203a、203b:ガイド片、204:横梁の内面、205:送受信部、206:収録・信号処理部、207:表示部、301a、301b、301c:接触媒質供給孔、302:接触媒質供給チューブ、303:素子面、304:押付け機構、305:移動機構、306:移動用軌道、400:フレキシブルアレイセンサ、401a、401b:溝、501:形状可変ガイド(支持部材)、502:切込み
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7