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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】面発光レーザ素子
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/183 20060101AFI20240909BHJP
   H01S 5/11 20210101ALI20240909BHJP
【FI】
H01S5/183
H01S5/11
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021071665
(22)【出願日】2021-04-21
(65)【公開番号】P2022166454
(43)【公開日】2022-11-02
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100174399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺澤 正太郎
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 和義
(72)【発明者】
【氏名】日▲高▼ 正洋
(72)【発明者】
【氏名】亀井 宏記
(72)【発明者】
【氏名】杉山 貴浩
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-068330(JP,A)
【文献】特開2020-098891(JP,A)
【文献】特開2018-198302(JP,A)
【文献】特開2019-216148(JP,A)
【文献】国際公開第2019/111787(WO,A1)
【文献】特開2011-243831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と、
前記第1電極と電気的に接続された第1導電型の第1クラッド層と、
前記第1クラッド層上に設けられた活性層と、
前記活性層上に設けられた第2導電型の第2クラッド層と、
前記第2クラッド層上に設けられた第2導電型の緩和層と、
前記緩和層上に設けられ、前記第2クラッド層とは異なるバンドギャップを有する第2導電型のコンタクト層と、
前記コンタクト層上に設けられ、前記コンタクト層とオーミック接触を成す第2電極と、
前記第1クラッド層と前記活性層との間、または前記活性層と前記第2クラッド層との間に設けられ、基本層と、前記基本層とは屈折率が異なり厚さ方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域とを含み、前記面内において光の共振モードを形成する共振モード形成層と、
を備え、
前記緩和層は、前記第2クラッド層のバンドギャップと前記コンタクト層のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有
厚さ方向から見て前記コンタクト層の面積が前記緩和層の面積よりも小さく、前記コンタクト層の周囲において前記緩和層が前記コンタクト層から露出している、面発光レーザ素子。
【請求項2】
前記共振モード形成層は、前記複数の異屈折率領域が周期的に配列されたフォトニック結晶層である、請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項3】
光像を出力する面発光レーザ素子であって、
前記共振モード形成層の前記面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、前記複数の異屈折率領域の重心が、前記仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、前記格子点周りに前記光像に応じた回転角度を有する、請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項4】
光像を出力する面発光レーザ素子であって、
前記共振モード形成層の前記面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、前記複数の異屈折率領域の重心が、前記仮想的な正方格子の格子点を通り前記正方格子に対して傾斜する直線上に配置されており、各異屈折率領域の重心と、対応する格子点との距離が前記光像に応じて個別に設定されている、請求項1に記載の面発光レーザ素子。
【請求項5】
前記緩和層は、前記第2クラッド層の構成元素と同じ構成元素からなる、請求項1~4のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項6】
前記緩和層のバンドギャップは、前記第2クラッド層のバンドギャップから前記コンタクト層のバンドギャップへ近づくように連続的に変化する、請求項1~5のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項7】
前記緩和層のバンドギャップは、前記第2クラッド層のバンドギャップから前記コンタクト層のバンドギャップへ近づくように段階的に変化する、請求項1~5のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項8】
前記第2クラッド層の屈折率は、前記第1クラッド層の屈折率よりも小さい、請求項1~7のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項9】
前記第2クラッド層及び前記緩和層は組成としてAlを含み、
前記緩和層のAl組成比は、前記第2クラッド層のAl組成比よりも小さい、請求項1~5のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項10】
前記緩和層のAl組成比は、前記第2クラッド層側の界面から前記コンタクト層側の界面に向けて連続的に小さくなる、請求項9に記載の面発光レーザ素子。
【請求項11】
前記緩和層のAl組成比は、前記第2クラッド層側の界面から前記コンタクト層側の界面に向けて段階的に小さくなる、請求項9に記載の面発光レーザ素子。
【請求項12】
前記第2クラッド層及び前記緩和層はAlGaAs層であり、前記コンタクト層はGaAs層である、請求項9~11のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項13】
前記第1クラッド層は組成としてAlを含み、
前記第2クラッド層のAl組成比は、前記第1クラッド層のAl組成比よりも大きい、請求項9~12のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項14】
前記緩和層の厚さは、前記第2クラッド層の厚さよりも小さい、請求項1~13のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【請求項15】
前記緩和層は前記共振モード形成層及び前記活性層の双方から1μm以上離れている、請求項1~14のいずれか1項に記載の面発光レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、面発光レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体レーザ素子に関する技術が開示されている。この半導体レーザ素子は、支持基体と、第1のクラッド層と、活性層と、回折格子層と、第2のクラッド層とを備える。活性層と回折格子層とは、第1のクラッド層と第2のクラッド層との間に設けられる。活性層は光を発生する。第2のクラッド層は、第1のクラッド層の導電型とは異なった導電型を備える。回折格子層は、正方格子配置の2次元フォトニック結晶構造を備える。
【0003】
特許文献2には、半導体発光素子およびその製造方法に関する技術が開示されている。この半導体発光素子は、半導体基板と、半導体基板上に順に設けられた、第1クラッド層、活性層、第2クラッド層、およびコンタクト層を備えるとともに、第1クラッド層と活性層との間または活性層と第2クラッド層との間に位置する位相変調層を備える。位相変調層は、基本層と、基本層の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異屈折率領域とを有する。位相変調層の厚さ方向に垂直な面内において仮想的な正方格子が設定された場合、該正方格子を構成する単位構成領域それぞれにおいて、割り当てられた異屈折率領域が、その重心位置が対応する単位構成領域の格子点から離れるよう配置されるとともに、所望の光像に応じた該格子点周りの回転角度を有するよう、位相変調層が構成される。
【0004】
特許文献3には、発光装置に関する技術が開示されている。この発光装置は、基板の主面の法線方向、または、法線方向と交差する傾斜方向、または、法線方向および傾斜方向の双方に沿って光像を形成する光を出力する。この発光装置は、発光部と、基板上に設けられた位相変調層であって、発光部と光学的に結合された位相変調層と、を備える。位相変調層は、基本層と、法線方向に垂直な面上において二次元状に分布するよう基本層内に設けられた複数の異屈折率領域であって基本層の屈折率とは異なる屈折率を有する複数の異屈折率領域と、を含む。面上に仮想的な正方格子が設定された状態において、複数の異屈折率領域は、複数の異屈折率領域それぞれの重心が対応する格子点から所定距離だけ離れた状態で配置され、かつ、仮想的な正方格子における各格子点周りの回転角度であって複数の異屈折率領域それぞれの重心と対応する格子点とを結ぶ線分の、仮想的な正方格子に対する回転角度は、光像を形成するための位相分布に従って設定される。仮想的な正方格子の格子間隔aと発光部の発光波長λは、位相変調層の波数空間に相当する逆格子空間における対称点のうちM点での発振条件を満たすように設定される。位相変調層の逆格子空間に形成される4方向の第1面内波数ベクトルのうち、少なくとも1つの第1面内波数ベクトルの大きさは、2π/λよりも小さい。
【0005】
非特許文献1には、フォトニック結晶を構成する複数の空孔の形状を工夫することにより、室温、連続波条件下での高出力単一モード動作を可能とした2次元フォトニック結晶面発光レーザが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-197659号公報
【文献】特開2018-198302号公報
【文献】国際公開第2020/045453号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Kazuyoshi Hirose et al., "Watt-class high-power,high-beam-quality photonic-crystal lasers", Nature Photonics, Volume 8,pp. 406-411 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
基板の主面と交差する方向にレーザ光を出射する面発光型のレーザ素子として、2つのクラッド層の間に活性層およびフォトニック結晶層を配置した、フォトニック結晶面発光レーザがある。また、フォトニック結晶面発光レーザと似た構造を有する面発光型のレーザ素子として、フォトニック結晶層に代えて位相変調層を配置した、いわゆるS-iPM(Static-integrable Phase Modulating)レーザと呼ばれる素子がある。これらのレーザ素子においては、一方のクラッド層上にコンタクト層が設けられ、コンタクト層とオーミック接触した電極からクラッド層を介して活性層へ電流が供給される。
【0009】
より少ない電流で十分なレーザ発振を得る為には、活性層において発生した光をフォトニック結晶層または位相変調層に十分に閉じ込めることが求められる。その為には、クラッド層の屈折率を活性層および位相変調層と比較して十分に小さくすることが望ましい。しかしながら、クラッド層の屈折率を小さくするほど、クラッド層のバンドギャップが大きくなる。クラッド層のバンドギャップが大きくなると、クラッド層とコンタクト層とのバンドギャップ差が大きくなる。そして、クラッド層とコンタクト層との界面におけるバンドギャップの急峻な変化に起因して生じるポテンシャルバリアによって、電気抵抗が増し、駆動電圧を高くしないと十分なレーザ発振が得られなくなる。その結果、消費電力が大きくなり、素子の信頼性も低下する。
【0010】
本開示は、フォトニック結晶面発光レーザ或いはS-iPMレーザといった面発光レーザ素子において、低い駆動電圧であっても十分なレーザ発振を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の面発光レーザ素子は、第1電極と、第1電極と電気的に接続された第1導電型の第1クラッド層と、第1クラッド層上に設けられた活性層と、活性層上に設けられた第2導電型の第2クラッド層と、第2クラッド層上に設けられた第2導電型の緩和層と、緩和層上に設けられ、第2クラッド層とは異なるバンドギャップを有する第2導電型のコンタクト層と、コンタクト層上に設けられ、コンタクト層とオーミック接触を成す第2電極と、共振モード形成層と、を備える。共振モード形成層は、第1クラッド層と活性層との間、または活性層と第2クラッド層との間に設けられ、基本層と、基本層とは屈折率が異なり厚さ方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域とを含み、面内において光の共振モードを形成する。緩和層は、第2クラッド層のバンドギャップとコンタクト層のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、フォトニック結晶面発光レーザ或いはS-iPMレーザといった面発光レーザ素子において、低い駆動電圧であっても十分なレーザ発振を得ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る面発光レーザ素子の断面構成を模式的に示す図である。
図2】フォトニック結晶層の平面図である。
図3】(a)~(g)異屈折率領域の形状の例を示す図である。
図4】(a)~(k)異屈折率領域の形状の例を示す図である。
図5】(a)~(k)異屈折率領域の形状の例を示す図である。
図6】(a)面発光レーザ素子の屈折率分布と、活性層及びフォトニック結晶層を中心として生じる基本モード分布と、を示すグラフである。(b)(a)のうち活性層及びフォトニック結晶層の付近を拡大して示すグラフである。
図7】(a)緩和層を備えない場合の面発光レーザ素子の屈折率分布及び基本モード分布を示すグラフである。(b)(a)のうち活性層及びフォトニック結晶層の付近を拡大して示すグラフである。
図8】第2実施形態に係る面発光レーザ素子の断面構成を模式的に示す図である。
図9】位相変調層の平面図である。
図10】位相変調層の一部を拡大して示す図である。
図11】光学デバイスの出力ビームパターンが結像して得られる光像と、位相変調層における回転角度分布との関係を説明するための図である。
図12】球面座標からXYZ直交座標系における座標への座標変換を説明するための図である。
図13】位相変調層の特定領域内にのみ図7の屈折率構造を適用した例を示す平面図である。
図14】(a)(b)各異屈折率領域の配置を決める際に、一般的な離散フーリエ変換(或いは高速フーリエ変換)を用いて計算する場合の留意点を説明するための図である。
図15】(a)~(d)近赤外波長帯のGaAs系S-iPMレーザから出力されるビームパターン(光像)の例を示す図である。
図16】(a)面発光レーザ素子の屈折率分布と、活性層及び位相変調層を中心として生じる基本モード分布と、緩和層及びコンタクト層を中心として生じるモード分布と、を示すグラフである。(b)(a)のうち活性層及び位相変調層の付近を拡大して示すグラフである。
図17】(a)緩和層を備えない場合の面発光レーザ素子の屈折率分布及び基本モード分布を示すグラフである。(b)(a)のうち活性層及び位相変調層の付近を拡大して示すグラフである。
図18】第3実施形態に係る光学デバイスが備える共振モード形成層としての位相変調層の平面図である。
図19】位相変調層における異屈折率領域の位置関係を示す図である。
図20】第1変形例に係る面発光レーザ素子の構成を示す断面図である。
図21】第2変形例に係る面発光レーザ素子の断面構成を模式的に示す図である。
図22】(a)面発光レーザ素子の屈折率分布と、活性層及びフォトニック結晶層を中心として生じる基本モード分布と、緩和層及びコンタクト層を中心として生じるモード分布と、を示すグラフである。(b)(a)のうち活性層及びフォトニック結晶層の付近を拡大して示すグラフである。
図23】(a)面発光レーザ素子の屈折率分布と、活性層及び位相変調層を中心として生じる基本モード分布と、緩和層及びコンタクト層を中心として生じるモード分布と、を示すグラフである。(b)(a)のうち活性層及び位相変調層の付近を拡大して示すグラフである。
図24】第3変形例に係る面発光レーザ素子の断面構成を模式的に示す図である。
図25】Γ点で発振するPCSELのフォトニック結晶層に関する逆格子空間を示す平面図である。
図26図25に示された逆格子空間を立体的に見た斜視図である。
図27】M点で発振するPCSELのフォトニック結晶層に関する逆格子空間を示す平面図である。
図28】Γ点で発振するS-iPMレーザの位相変調層に関する逆格子空間を示す平面図である。
図29図28に示された逆格子空間を立体的に見た斜視図である。
図30】M点で発振するS-iPMレーザの位相変調層に関する逆格子空間を示す平面図である。
図31】面内波数ベクトルに対して或る一定の大きさおよび向きを有する回折ベクトルを加える操作を説明するための概念図である。
図32】ライトラインの周辺構造を模式的に説明するための図である。
図33】回転角度分布の一例を概念的に示す図である。
図34】位相変調層の回転角度分布の例を示す図である。
図35図34に示された一部分を拡大して示す図である。
図36】実施例において形成された多点ビームを撮像した結果を示す図である。
図37】作製した面発光レーザ素子の電流-光出力特性を示すグラフである。
図38】作製した面発光レーザ素子の電流-電圧特性を示すグラフである。
図39】発振前の低い駆動電流における、実施例の近視野像を示す図である。(a)は駆動電流を30mAとした場合を示し、(b)は駆動電流を100mAとした場合を示す。
図40】(a)緩和層の厚さを変化させたときの電流-光出力特性の相違を示すグラフである。(b)緩和層の厚さを変化させたときの電流-電圧特性の相違を示すグラフである。
図41】作製された積層構造を模式的に示す図である。
図42】(a),(b)作製された積層構造を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の面発光レーザ素子は、第1電極と、第1電極と電気的に接続された第1導電型の第1クラッド層と、第1クラッド層上に設けられた活性層と、活性層上に設けられた第2導電型の第2クラッド層と、第2クラッド層上に設けられた第2導電型の緩和層と、緩和層上に設けられ、第2クラッド層とは異なるバンドギャップを有する第2導電型のコンタクト層と、コンタクト層上に設けられ、コンタクト層とオーミック接触を成す第2電極と、共振モード形成層と、を備える。共振モード形成層は、第1クラッド層と活性層との間、または活性層と第2クラッド層との間に設けられ、基本層と、基本層とは屈折率が異なり厚さ方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域とを含み、面内において光の共振モードを形成する。緩和層は、第2クラッド層のバンドギャップとコンタクト層のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。
【0015】
この面発光レーザ素子において、第1電極と第2電極との間に電圧が印加されると、第1電極と第2電極との間に電流が流れる。活性層は、この電流を光に変換する。活性層から出力された光は、第1クラッド層と第2クラッド層との間に閉じ込められ、共振モード形成層による回折を受ける。共振モード形成層では、共振モード形成層の厚さ方向と垂直な面内方向において共振モードが形成され、複数の異屈折率領域の配置に応じたモードのレーザ光が生成される。レーザ光は、共振モード形成層の厚さ方向に進み、面発光レーザ素子の外部へ出射される。
【0016】
この面発光レーザ素子は、第2クラッド層とコンタクト層との間に緩和層を備える。緩和層は、第2クラッド層のバンドギャップとコンタクト層のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。したがって、緩和層が設けられない場合と比較して、クラッド層とコンタクト層との間に生じるバンドギャップの変化率が緩和され、ポテンシャルバリアが低減される。故に、素子の電気抵抗が低下し、低い駆動電圧であっても十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力を小さくし、素子の信頼性を向上させることができる。
【0017】
上記の面発光レーザ素子において、共振モード形成層は、複数の異屈折率領域が周期的に配列されたフォトニック結晶層であってもよい。この場合、活性層から出力された光は、フォトニック結晶層による回折を受ける。フォトニック結晶層では、フォトニック結晶層の厚さ方向と垂直な面内方向において共振モードが形成され、複数の異屈折率領域の配列周期に応じた波長で光が発振し、レーザ光が生成される。例えば、正方格子結晶において配列周期を光の1波長分の長さとした場合、レーザ光の一部が、フォトニック結晶層の厚さ方向に回折され、面発光レーザ素子の外部へ出射される。
【0018】
上記の面発光レーザ素子は、光像を出力する面発光レーザ素子(iPMレーザ)であって、共振モード形成層の面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、複数の異屈折率領域の重心が、仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、格子点周りに光像に応じた回転角度を有してもよい。活性層から出力された光は、共振モード形成層による回折を受ける。共振モード形成層では、複数の異屈折率領域の重心が、仮想的な正方格子の格子点周りに各異屈折率領域毎に設定された回転角度を有する。このような場合、複数の異屈折率領域の重心が正方格子の格子点上に位置する場合と比較して、共振モード形成層の厚さ方向(言い換えると、面発光レーザ素子の光出射面に垂直な方向)に出射する光、すなわち0次光の光強度が減り、その方向に対して傾斜した方向に出射する高次光、例えば1次光及び-1次光が現れる。更に、各異屈折率領域の重心の格子点周りの回転角度が異屈折率領域毎に個別に設定されることにより、光の位相を各異屈折率領域毎に独立して変調し、任意形状の光像を出力することができる。
【0019】
上記の面発光レーザ素子は、光像を出力する面発光レーザ素子(iPMレーザ)であって、共振モード形成層の面内において仮想的な正方格子を設定した場合に、複数の異屈折率領域の重心が、仮想的な正方格子の格子点を通り正方格子に対して傾斜する直線上に配置されており、各異屈折率領域の重心と、対応する格子点との距離が光像に応じて個別に設定されてもよい。活性層から出力された光は、共振モード形成層による回折を受ける。共振モード形成層では、複数の異屈折率領域の重心が、仮想的な正方格子の格子点を通り正方格子に対して傾斜する直線上に配置されている。このような場合においても、光出射面に垂直な方向に出射する光(0次光)の光強度が減り、その方向に対して傾斜した方向に出射する例えば1次光及び-1次光といった高次光が現れる。更に、各異屈折率領域の重心と、対応する格子点との距離が異屈折率領域毎に個別に設定されることにより、光の位相を各異屈折率領域毎に独立して変調し、任意形状の光像を出力することができる。
【0020】
上記の面発光レーザ素子において、緩和層は、第2クラッド層の構成元素と同じ構成元素からなってもよい。この場合、第2クラッド層を成長させた後に供給原料を変更することなく緩和層を成長させ得るので、緩和層を容易に形成することができる。
【0021】
上記の面発光レーザ素子において、緩和層のバンドギャップは、第2クラッド層のバンドギャップからコンタクト層のバンドギャップへ近づくように連続的に変化してもよい。この場合、ポテンシャルバリアを効果的に低減できるので、本開示の面発光レーザ素子による上記の効果をより顕著に得ることができる。
【0022】
上記の面発光レーザ素子において、緩和層のバンドギャップは、第2クラッド層のバンドギャップからコンタクト層のバンドギャップへ近づくように段階的に変化してもよい。この場合であっても、ポテンシャルバリアを効果的に低減できるので、本開示の面発光レーザ素子による上記の効果を顕著に得ることができる。
【0023】
上記の面発光レーザ素子において、第2クラッド層の屈折率は、第1クラッド層の屈折率よりも小さくてもよい。この場合、コンタクト層に生じるモードが、共振モード形成層に結合することを抑制し、出力光の品質を高めることができる。そして、第2クラッド層の屈折率が小さいほど、第2クラッド層のバンドギャップが大きくなり、第2クラッド層とコンタクト層とのバンドギャップ差が大きくなる。上記の面発光レーザ素子は、このような場合に特に有用である。
【0024】
上記の面発光レーザ素子において、第2クラッド層及び緩和層は組成としてAlを含み、緩和層のAl組成比は、第2クラッド層のAl組成比より小さくてもよい。第2クラッド層がAlを含み、緩和層が設けられない場合、コンタクト層を通過した(或いは、コンタクト層から露出した第2クラッド層に取り込まれた)酸素原子によって、第2クラッド層のAlが酸化し易くなる。或いは、第2クラッド層とコンタクト層との間において成長が中断される場合、第2クラッド層のAlが酸化し易くなる。コンタクト層ではオーミック接触のため高いドーピング濃度が必要であることから、コンタクト層の結晶成長条件が第2クラッド層の結晶成長条件と異なる場合がある。例えばそのような場合に、第2クラッド層とコンタクト層との間において成長が中断される。第2クラッド層のAlが酸化すると、第2クラッド層の電気抵抗が増し、駆動電圧を高くしないと十分なレーザ発振が得られなくなる。その結果、消費電力が大きくなり、素子の信頼性も低下する。この面発光レーザ素子では、コンタクト層と第2クラッド層との間に第2クラッド層よりもAl組成比の小さい緩和層が介在しているので、Alの酸化による影響を低減できる。すなわち、この面発光レーザ素子によれば、Alの酸化による電気抵抗の増大を抑制し、より低い駆動電圧でもって十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力をより小さくし、素子の信頼性を更に向上させることができる。
【0025】
上記の面発光レーザ素子において、緩和層のAl組成比は、第2クラッド層側の界面からコンタクト層側の界面に向けて連続的に小さくなってもよい。この場合、Alの酸化を効果的に低減できるので、上記の効果をより顕著に得ることができる。
【0026】
上記の面発光レーザ素子において、緩和層のAl組成比は、第2クラッド層側の界面からコンタクト層側の界面に向けて段階的に小さくなってもよい。この場合であっても、Alの酸化を効果的に低減できるので、上記の効果を顕著に得ることができる。
【0027】
上記の面発光レーザ素子において、第2クラッド層及び緩和層はAlGaAs層であり、コンタクト層はGaAs層であってもよい。この場合、赤外域の面発光レーザ素子を得ることができる。
【0028】
上記の面発光レーザ素子において、第1クラッド層は組成としてAlを含み、第2クラッド層のAl組成比は、第1クラッド層のAl組成比よりも大きくてもよい。この場合、第2クラッド層の屈折率が第1クラッド層の屈折率よりも小さくなるので、第2クラッド層に生じる高次モードを低減し、出力光の品質を高めることができる。そして、このように第2クラッド層のAl組成比が大きい場合に、緩和層を備える上記の面発光レーザ素子は特に有用である。
【0029】
上記の面発光レーザ素子において、厚さ方向から見てコンタクト層の面積が緩和層の面積よりも小さく、コンタクト層の周囲において緩和層がコンタクト層から露出していてもよい。電流を効率よく供給するため、コンタクト層のうち第2電極が設けられた部分を除く部分が除去されることがある。その場合、緩和層が設けられないと、第2クラッド層が露出することとなり、第2クラッド層のAlがより一層酸化し易くなる。上記の面発光レーザ素子では、Al組成比が第2クラッド層よりも小さい緩和層が露出するので、Alの酸化による影響を低減できる。
【0030】
上記の面発光レーザ素子において、緩和層の厚さは、第2クラッド層の厚さよりも小さくてもよい。この場合、第2クラッド層の厚さが比較的厚くなり、第2クラッド層よりも屈折率の大きい緩和層が共振モード形成層及び活性層から離れるので、共振モード形成層に、緩和層及びコンタクト層により生じるモードが結合することを抑制できる。これにより、基本モードを安定させて出力光の品質を高めることができる。
【0031】
上記の面発光レーザ素子において、緩和層は共振モード形成層及び活性層の双方から1μm以上離れていてもよい。この場合、第2クラッド層よりも屈折率の大きい緩和層が共振モード形成層及び活性層から離れるので、共振モード形成層に、緩和層及びコンタクト層により生じるモードが結合することを抑制できる。これにより、基本モードを安定させて出力光の品質を高めることができる。
【0032】
本開示の面発光レーザ素子の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。以下の説明では、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
【0033】
図1は、本開示の第1実施形態に係る面発光レーザ素子1Aの断面構成を模式的に示す図である。この面発光レーザ素子1Aは、フォトニック結晶面発光レーザ(Photonic Crystal Surface Emitting LASER:PCSEL)である。理解の容易のため、図中には必要に応じてXYZ直交座標系を定義する。面発光レーザ素子1Aは、XY面内方向において定在波を形成し、レーザ光Loutを光出射面に対して垂直な方向(Z方向)に出力する。
【0034】
本実施形態の面発光レーザ素子1Aは、主面8a及び裏面8bを有する半導体基板8と、半導体基板8の主面8a上に設けられた半導体積層10と、第1電極21と、第2電極22と、を有する。半導体積層10は、活性層11と、フォトニック結晶層(回折格子層)12Aと、下部クラッド層(第1クラッド層)13と、光ガイド層14と、上部クラッド層(第2クラッド層)15と、緩和層16Aと、コンタクト層17と、を含む。これらの層は、XY平面に沿って延在し、Z方向を厚さ方向として、Z方向に沿って積層されている。
【0035】
半導体基板8の主面8a及び裏面8bは、平坦且つ互いに平行である。半導体基板8は、半導体積層10の複数の半導体層をエピタキシャル成長するために用いられる。半導体積層10の複数の半導体層がGaAs系半導体層である場合、半導体基板8は例えばGaAs基板である。半導体積層10の複数の半導体層がInP系半導体層である場合、半導体基板8は例えばInP基板である。半導体積層10の複数の半導体層がGaN系半導体層である場合、半導体基板8は例えばGaN基板である。半導体基板8の厚さは、例えば50μm~1000μmの範囲内である。半導体基板8は、p型またはn型の導電型を有する。主面8aの平面形状は例えば長方形または正方形である。
【0036】
下部クラッド層13は、半導体基板8の主面8a上にエピタキシャル成長することにより設けられ、一例では半導体基板8の主面8aと接する。下部クラッド層13は、主面8a上に直接成長してもよく、主面8aと下部クラッド層13との間に設けられたバッファ層(不図示)を介して主面8a上に成長してもよい。下部クラッド層13の厚さは、例えば0.5μm~5.0μmの範囲内である。
【0037】
光ガイド層14は、下部クラッド層13上にエピタキシャル成長することにより設けられ、一例では下部クラッド層13と接する。光ガイド層14は、Z方向における光分布を調整するための層である。図示例では光ガイド層14は下部クラッド層13と活性層11との間にのみ設けられているが、必要に応じて、活性層11と上部クラッド層15との間にも光ガイド層が設けられてもよい。光ガイド層が活性層11と上部クラッド層15との間に設けられる場合、フォトニック結晶層12Aは、上部クラッド層15と光ガイド層との間に設けられる。或いは、下部クラッド層13と活性層11との間、及び活性層11と上部クラッド層15との間のいずれにも光ガイド層が設けられなくてもよい。光ガイド層14は、キャリアを活性層11に効率的に閉じ込めるためのキャリア障壁層を含んでもよい。光ガイド層14の厚さは、例えば発振波長を940nmとすると、10nm~500nmの範囲内である。なお、光ガイド層14が厚い場合、層厚方向において高次モードが現れる。層厚方向において高次モードが現れると、出射する光像に対して高次モードがノイズ光を形成するおそれがある。したがって、光ガイド層14の膜厚は、層厚方向における基本モードのみが許容される範囲内であることが好適である。また、光ガイド層14の厚さがそのような範囲内であっても、光ガイド層14が比較的厚いと、モードが光ガイド層14に偏ってしまい、回折効率が低下するおそれがある。一方、光ガイド層14が比較的薄いと、共振モードのうち下部クラッド層13(又は上部クラッド層15)に漏れる割合が大きくなり、回折効率が低下するおそれがある。故に、モード形状を考慮して光ガイド層14の適切な膜厚を設定するとよい。
【0038】
活性層11は、下部クラッド層13上(本実施形態では光ガイド層14上)にエピタキシャル成長することにより設けられ、一例では光ガイド層14と接する。活性層11は、電流の供給を受けて光を発生する。活性層11の屈折率は下部クラッド層13及び上部クラッド層15の屈折率より大きく、活性層11のバンドギャップは下部クラッド層13及び上部クラッド層15のバンドギャップより小さい。一例では、活性層11は井戸層及び障壁層が交互に積層された多重量子井戸構造を有する。
【0039】
フォトニック結晶層12Aは、下部クラッド層13と活性層11との間、または活性層11と上部クラッド層15との間に設けられる。図示例では、フォトニック結晶層12Aは活性層11と上部クラッド層15との間に設けられており、活性層11及び上部クラッド層15と接している。
【0040】
フォトニック結晶層12Aは、本実施形態における共振モード形成層である。図2は、フォトニック結晶層12Aの平面図である。フォトニック結晶層12Aは、基本層12aと、複数の異屈折率領域12bとを含んで構成されている。基本層12aは、第1屈折率媒質からなる半導体層である。複数の異屈折率領域12bは、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなり、基本層12a内に存在する。異屈折率領域12bは、空孔であってもよく、空孔に固体媒質が埋め込まれて構成されてもよい。異屈折率領域12bが空孔である場合、フォトニック結晶層12Aは、空孔に蓋をするための層を基本層12a上に更に有してもよい。この層の構成材料は、基本層12aの構成材料と同じであってもよく、異なってもよい。
【0041】
複数の異屈折率領域12bは、フォトニック結晶層12Aの厚さ方向に垂直な面内(XY面内)において二次元状且つ周期的に配列されている。等価屈折率をnとした場合、フォトニック結晶層12Aが選択する波長λ(=a×n、aは格子間隔)は、活性層11の発光波長範囲内に含まれている。フォトニック結晶層12Aは、フォトニック結晶層12Aの厚さ方向に垂直な面内(XY面内)において、波長λの光の共振モードを形成する。複数の異屈折率領域12bの配列周期は、波長λの光がΓ点発振を行うように設定されている。したがって、フォトニック結晶層12Aは、活性層11の発光波長のうちの波長λを選択して、Z方向に回折することができる。
【0042】
ここで、フォトニック結晶層12Aに、XY面内における仮想的な正方格子を設定する。正方格子の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行であるものとする。このとき、正方格子の格子点を中心とする正方形状の単位構成領域Rが、X軸に沿った複数列及びY軸に沿った複数行にわたって二次元状に設定され得る。単位構成領域Rは、仮想的な正方格子の格子点間を2等分する直線で囲まれる領域である。複数の異屈折率領域12bは、各単位構成領域R内に1つまたは2つ以上の決まった数ずつ設けられる。異屈折率領域12bの平面形状は、例えば円形状である。各単位構成領域R内において、異屈折率領域12bの重心Gは、各格子点と重なって(一致して)いる。なお、複数の異屈折率領域12bの周期構造はこれに限られず、例えば正方格子に代えて三角格子を設定してもよい。
【0043】
図2にはXY平面内における異屈折率領域12bの形状が円形である例が示されているが、異屈折率領域12bは円形以外の形状を有してもよい。例えば、XY平面内における異屈折率領域12bの形状は、鏡像対称性(線対称性)を有してもよい。ここで、鏡像対称性(線対称性)とは、XY平面に沿った或る直線を挟んで、該直線の一方側に位置する異屈折率領域12bの平面形状と、該直線の他方側に位置する異屈折率領域12bの平面形状とが、互いに鏡像対称(線対称)となり得ることをいう。鏡像対称性(線対称性)を有する形状としては、例えば図3に示すように、(a)真円、(b)正方形、(c)正六角形、(d)正八角形、(e)正16角形、(f)長方形、(g)楕円、などが挙げられる。
【0044】
XY平面内における異屈折率領域12bの形状は、180°の回転対称性を有さない形状であってもよい。このような形状としては、例えば図4に示すように、(a)正三角形、(b)直角二等辺三角形、(c)2つの円又は楕円の一部分が重なる形状、(d)楕円の長軸に沿った一方の端部近傍の短軸方向の寸法が他方の端部近傍の短軸方向の寸法よりも小さくなるように変形した形状(卵形)、(e)楕円の長軸に沿った一方の端部を長軸方向に沿って突き出る尖った端部に変形した形状(涙形)、(f)二等辺三角形、(g)矩形の一辺が三角形状に凹みその対向する一辺が三角形状に尖った形状(矢印形)、(h)台形、(i)五角形、(j)2つの矩形の一部分同士が重なる形状、(k)2つの矩形の一部分同士が重なり且つ鏡像対称性を有さない形状、等が挙げられる。このように、XY平面内における異屈折率領域12bの形状が180°の回転対称性を有さないことにより、更に高い光出力を得ることができる。
【0045】
図5は、XY平面内の異屈折率領域の形状の別の例を示す平面図である。この例では、複数の異屈折率領域12bとは別の複数の異屈折率領域12cが更に設けられる。各異屈折率領域12cは、基本層12aの第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる。異屈折率領域12cは、異屈折率領域12bと同様に、空孔であってもよく、空孔に固体媒質が埋め込まれて構成されてもよい。異屈折率領域12cは、異屈折率領域12bにそれぞれ一対一で対応して設けられる。そして、異屈折率領域12bおよび12cを合わせた重心Gは、仮想的な正方格子を構成する単位構成領域Rの格子点上に位置している。なお、いずれの異屈折率領域12b,12cも仮想的な正方格子を構成する単位構成領域Rの範囲内に含まれる。
【0046】
異屈折率領域12cの平面形状は例えば円形であるが、異屈折率領域12bと同様に、様々な形状を有し得る。図5(a)~図5(k)には、異屈折率領域12b,12cのXY平面内における形状および相対関係の例が示されている。図5(a)および図5(b)は、異屈折率領域12b,12cが同じ形状の図形を有する形態を示す。図5(c)および図5(d)は、異屈折率領域12b,12cが同じ形状の図形を有し、互いの一部分同士が重なる形態を示す。図5(e)は、異屈折率領域12b,12cが同じ形状の図形を有し、異屈折率領域12b,12cが互いに回転した形態を示す。図5(f)は、異屈折率領域12b,12cが互いに異なる形状の図形を有する形態を示す。図5(g)は、異屈折率領域12b,12cが互いに異なる形状の図形を有し、異屈折率領域12b,12cが互いに回転した形態を示す。
【0047】
また、図5(h)~図5(k)に示されるように、異屈折率領域12bは、互いに離間した2つの領域12b1,12b2を含んで構成されてもよい。そして、領域12b1,12b2を合わせた重心(単一の異屈折率領域12bの重心に相当)と、異屈折率領域12cの重心との距離が単位構成領域R内で任意に設定されてもよい。また、この場合、図5(h)に示されるように、領域12b1,12b2および異屈折率領域12cは、互いに同じ形状の図形を有してもよい。または、図5(i)に示されたように、領域12b1,12b2および異屈折率領域12cのうち2つの図形が他と異なっていてもよい。また、図5(j)に示されるように、領域12b1,12b2を結ぶ直線のX軸に対する角度に加えて、異屈折率領域12cのX軸に対する角度が単位構成領域R内で任意に設定されてもよい。また、図5(k)に示されるように、領域12b1,12b2および異屈折率領域12cが互いに同じ相対角度を維持したまま、領域12b1,12b2を結ぶ直線のX軸に対する角度が単位構成領域R内で任意に設定されてもよい。
【0048】
なお、異屈折率領域12bは、各単位構成領域R毎に複数個ずつ設けられてもよい。ここで、単位構成領域Rとは、ある単位構成領域Rの格子点に対して、周期的に配列した他の単位構成領域の格子点との垂直二等分線で囲まれる領域の中で、最小面積の領域を指し、固体物理学におけるウィグナーザイツセルに対応する。その場合、一つの単位構成領域Rに含まれる複数個の異屈折率領域12bが互いに同じ形状の図形を有し、互いの重心が離間してもよい。また、異屈折率領域12bのXY平面内の形状は、各単位構成領域R間で同一であり、並進操作、又は並進操作及び回転操作により、各単位構成領域R間で互いに重ね合わせることが可能であってもよい。その場合、フォトニックバンド構造の揺らぎが少なくなり、線幅の狭いスペクトルを得ることができる。或いは、異屈折率領域のXY平面内の形状は各単位構成領域R間で必ずしも同一でなくともよく、隣り合う単位構成領域R間で形状が互いに異なっていてもよい。
【0049】
上述の構造では、異屈折率領域12bが空孔となっているが、異屈折率領域12bは、基本層12aとは屈折率が異なる無機材料が空孔内に埋め込まれて形成されてもよい。その場合、例えば基本層12aの空孔をエッチングにより形成し、化学気相成長法や原子層堆積法などを用いて無機材料を空孔内に埋め込んでもよい。また、基本層12aの空孔内に無機材料を埋め込んで異屈折率領域12bを形成した後、更に、その上に異屈折率領域12bと同一の無機材料を堆積してもよい。なお、異屈折率領域12bが空孔である場合、該空孔にアルゴンや窒素といった不活性ガス、又は水素や空気等の気体が封入されてもよい。
【0050】
再び図1を参照する。上部クラッド層15は、フォトニック結晶層12A上にエピタキシャル成長することにより設けられ、一例ではフォトニック結晶層12Aと接する。上部クラッド層15の厚さは、例えば0.5μm~5.0μmの範囲内である。上部クラッド層15のバンドギャップは、活性層11及びフォトニック結晶層12Aの基本層12aのバンドギャップよりも大きく、厚さ方向に一定である。上部クラッド層15の屈折率は、活性層11及びフォトニック結晶層12Aの基本層12aの屈折率よりも小さい。
【0051】
面発光レーザ素子1AがPCSELである本実施形態では、上部クラッド層15のバンドギャップは、下部クラッド層13のバンドギャップよりも小さい。具体的には、下部クラッド層13及び上部クラッド層15が組成としてAlを含む場合、上部クラッド層15のAl組成比は、下部クラッド層13のAl組成比よりも小さい。これにより、上部クラッド層15の屈折率が相対的に高くなるので、フォトニック結晶層12Aにおいて分布するモードの割合が増し、回折効率を高めることができる。
【0052】
緩和層16Aは、上部クラッド層15上にエピタキシャル成長することにより設けられ、上部クラッド層15と接する。緩和層16Aは、上部クラッド層15とコンタクト層17とのバンドギャップ差に起因するポテンシャルバリアを緩和するために設けられる。緩和層16Aは、例えば上部クラッド層15の構成元素と同じ構成元素からなる。また、緩和層16Aは、上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。そして、緩和層16Aのバンドギャップは、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて単調に小さくなる。図1には、厚さ方向における緩和層16Aのバンドギャップの分布を示すグラフG1が示されている。グラフG1において、横軸はバンドギャップを表し、縦軸は厚さ方向の位置を表す。グラフG1に示されるように、本実施形態において緩和層16Aのバンドギャップは、上部クラッド層15のバンドギャップからコンタクト層17のバンドギャップへ近づくように連続的に変化する。図示例では、コンタクト層17のバンドギャップが上部クラッド層15のバンドギャップよりも小さいので、緩和層16Aのバンドギャップは、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて連続的に小さくなる。一例では、緩和層16Aのバンドギャップは、上部クラッド層15側の界面からの距離に比例して変化する。なお、図1においては、緩和層16Aのバンドギャップ分布を色の濃淡によって表しており、濃い部分ほどバンドギャップが大きい。緩和層16Aの上部クラッド層15側の界面におけるバンドギャップは上部クラッド層15のバンドギャップと等しくてもよく、緩和層16Aのコンタクト層17側の界面におけるバンドギャップはコンタクト層17のバンドギャップと等しくてもよい。
【0053】
上部クラッド層15が組成としてAlを含む場合、緩和層16Aは、上部クラッド層15のAlの酸化を抑止する層としても機能する。この場合、緩和層16AもまたAlを含む。緩和層16Aは、上部クラッド層15のAl組成比とコンタクト層17のAl組成比(コンタクト層17がAlを組成として含まない場合はゼロ)との間の大きさのAl組成比を有する。そして、緩和層16AのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて単調に小さくなる。図1には、厚さ方向における緩和層16AのAl組成比の分布を示すグラフG2が示されている。グラフG2において、横軸はAl組成比を表し、縦軸は厚さ方向の位置を表す。グラフG2に示されるように、本実施形態において緩和層16AのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて連続的に小さくなる。一例では、緩和層16AのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からの距離に比例して小さくなる。緩和層16Aの上部クラッド層15側の界面におけるAl組成比は上部クラッド層15のAl組成比と等しくてもよく、緩和層16Aのコンタクト層17側の界面におけるAl組成比はコンタクト層17のAl組成比と等しくてもよい。コンタクト層17のAl組成比がゼロである場合、すなわちコンタクト層17が組成としてAlを含まない場合は、緩和層16Aのコンタクト層17側の界面におけるAl組成比もゼロである。
【0054】
緩和層16Aの厚さは、上部クラッド層15の厚さよりも小さい。緩和層16Aの厚さは、例えば5nm~1000nmの範囲内である。緩和層16Aは、フォトニック結晶層12A及び活性層11の双方から1μm以上離れており、より好適には、フォトニック結晶層12A及び活性層11の双方から1.5μm以上離れている。すなわち、緩和層16Aとフォトニック結晶層12A及び活性層11との間に上部クラッド層15のみが設けられている場合、上部クラッド層15の厚さは1μm以上(より好適には1.5μm以上)である。上部クラッド層15と緩和層16Aとの厚さの和は、下部クラッド層13の厚さと等しくてもよい。
【0055】
コンタクト層17は、緩和層16A上にエピタキシャル成長することにより設けられ、緩和層16Aと接する。コンタクト層17は、上部クラッド層15とは異なるバンドギャップを有する。典型的には、コンタクト層17のバンドギャップは、上部クラッド層15のバンドギャップよりも小さい。一例では、コンタクト層17の組成は、フォトニック結晶層12Aの基本層12a、及び活性層11の障壁層の組成と同じである。コンタクト層17の厚さは、例えば50nm~500nmの範囲内である。
【0056】
第1電極21は、半導体基板8の裏面8b上に設けられた金属製の電極である。第1電極21は、半導体基板8とオーミック接触を成すことにより、下部クラッド層13と電気的に接続される。第1電極21は、半導体基板8の裏面8bと垂直な方向から見て、レーザ光Loutを通過させるための開口部21aを有する矩形枠状を呈する。半導体基板8の裏面8bは、開口部21aを通じて第1電極21から露出する。フォトニック結晶層12Aにおいて発振したレーザ光Loutは、開口部21aを通じて面発光レーザ素子1Aの外部へ出力される。
【0057】
第2電極22は、コンタクト層17上において、少なくとも第1電極21の開口部21aを投射した領域(半導体積層10の中央領域)に設けられた金属製の電極である。第2電極22は、コンタクト層17とオーミック接触を成す。なお、第2電極22と接触していないコンタクト層17の部分は、取り除かれてもよい。第2電極22には、活性層11において発生した光を反射する役割もある。
【0058】
或る例では、半導体基板8はGaAs基板であり、活性層11、フォトニック結晶層12A、下部クラッド層13、光ガイド層14、上部クラッド層15、緩和層16A、及びコンタクト層17は、GaAs系半導体からなる。一実施例では、下部クラッド層13及び光ガイド層14はAlGaAs層であり、活性層11は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaAs/量子井戸層:GaAs、井戸層の層数は例えば3つ)を有し、フォトニック結晶層12Aの基本層12aはAlGaAs層若しくはGaAs層であり、異屈折率領域12bは空孔であり、上部クラッド層15及び緩和層16AはAlGaAs層であり、コンタクト層17はGaAs層である。この場合、半導体基板8の厚さは例えば150μmであり、下部クラッド層13の厚さは例えば2000nmであり、光ガイド層14の厚さは例えば80nmであり、活性層11の井戸層及び障壁層の各厚さは例えば10nmであり、フォトニック結晶層12Aの厚さは例えば300nmであり、上部クラッド層15の厚さは例えば1500nmであり、緩和層16Aの厚さは例えば500nmであり、コンタクト層17の厚さは例えば200nmである。下部クラッド層13のAl組成比は例えば70原子%であり、光ガイド層14のAl組成比は例えば15原子%であり、活性層11の障壁層のAl組成比は例えば15原子%であり、上部クラッド層15のAl組成比は例えば43原子%であり、上部クラッド層15との界面における緩和層16AのAl組成比は例えば43原子%であり、コンタクト層17との界面における緩和層16AのAl組成比は例えば0原子%である。
【0059】
下部クラッド層13には半導体基板8と同じ導電型(第1導電型)が付与され、上部クラッド層15、緩和層16A及びコンタクト層17には半導体基板8とは逆の導電型(第2導電型)が付与される。一例では、半導体基板8及び下部クラッド層13はn型であり、上部クラッド層15、緩和層16A及びコンタクト層17はp型である。フォトニック結晶層12Aは、活性層11と下部クラッド層13との間に設けられる場合には半導体基板8と同じ導電型を有し、活性層11と上部クラッド層15との間に設けられる場合には半導体基板8とは逆の導電型を有する。なお、導電型を決定する不純物の濃度は例えば1×1016~1×1021/cm3である。活性層11及び光ガイド層14はいずれの不純物も意図的に添加されていない真性(i型)であるが、いずれかの導電型が付与されてもよい。真性(i型)の不純物濃度は1×1016/cm3以下である。フォトニック結晶層12Aの不純物濃度については、不純物準位を介した光吸収による損失の影響を抑制する必要がある場合等には、真性(i型)としてもよい。緩和層16Aの不純物濃度は、上部クラッド層15の導電型を決定する不純物の濃度と同じであってもよく、それより大きくてもよい。
【0060】
第1電極21の材料は、半導体基板8の構成材料に応じて適宜選択される。半導体基板8がn型GaAs基板である場合、第1電極21は、例えばAuとGeとの混合物を含んでもよい。一例では、第1電極21はAuGe単層、またはAuGe層およびAu層の積層構造を有する。第2電極22の材料は、コンタクト層17の構成材料に応じて適宜選択される。コンタクト層17がp型GaAsである場合、第2電極22は、例えばCr,TiおよびPtのうち少なくとも一つとAuとを含む材料により構成されることができ、例えばCr層およびAu層の積層構造を有する。但し、第1電極21及び第2電極22の各材料は、オーミック接合が実現できればよく、これらに限定されない。
【0061】
以上の構成を備える本実施形態の面発光レーザ素子1Aは次のように動作する。第1電極21と第2電極22との間に駆動電流が供給されると、活性層11内において電子と正孔の再結合が生じ、活性層11から光が出力される。この発光に寄与する電子及び正孔、並びに発生した光は、下部クラッド層13と上部クラッド層15との間に効率的に分布する。活性層11から出力された光は、下部クラッド層13と上部クラッド層15との間に分布するのでフォトニック結晶層12Aの内部に入り、下部クラッド層13と上部クラッド層15との間に閉じ込められつつフォトニック結晶層12Aによる回折を受ける。フォトニック結晶層12Aでは、フォトニック結晶層12Aの厚さ方向と垂直な面内方向において共振モードが形成され、複数の異屈折率領域12bの配列周期に応じた波長で光が発振し、レーザ光が生成される。例えば、正方格子結晶において配列周期を光の1波長分の長さとした場合、レーザ光の一部が、フォトニック結晶層12Aの厚さ方向(Z方向)に回折される。フォトニック結晶層12AからZ方向に回折した光は、半導体基板8の主面8aに対して垂直な方向に進み、直接に、裏面8bから開口部21aを通って面発光レーザ素子1Aの外部へ出力されるか、または、第2電極22において反射したのち、裏面8bから開口部21aを通って面発光レーザ素子1Aの外部へ出力される。
【0062】
以上に説明した本実施形態の面発光レーザ素子1Aによって得られる効果について説明する。この面発光レーザ素子1Aは、上部クラッド層15とコンタクト層17との間に緩和層16Aを備える。緩和層16Aは、上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。したがって、緩和層16Aが設けられない場合と比較して、上部クラッド層15とコンタクト層17との間に生じるバンドギャップの変化率が緩和され、ポテンシャルバリアが低減される。故に、素子の電気抵抗が低下し、低い駆動電圧であっても十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力を小さくし、素子の信頼性を向上させて、素子の寿命を延ばすことができる。
【0063】
前述したように、緩和層16Aは、上部クラッド層15の構成元素と同じ構成元素からなってもよい。一例では、上部クラッド層15及び緩和層16Aは共にAlGaAsからなる。上部クラッド層15及び緩和層16Aが同じ構成元素を有する場合、上部クラッド層15を成長させた後に供給原料を変更することなく緩和層16Aを成長させ得るので、緩和層16Aを容易に形成することができる。
【0064】
図1のグラフG1に示されたように、緩和層16Aのバンドギャップは、上部クラッド層15のバンドギャップからコンタクト層17のバンドギャップに近づくように連続的に変化してもよい。この場合、ポテンシャルバリアを効果的に低減できるので、本実施形態の面発光レーザ素子1Aによる上記の効果をより顕著に得ることができる。
【0065】
本実施形態のように、上部クラッド層15及び緩和層16Aは組成としてAlを含み、緩和層16AのAl組成比は、上部クラッド層15のAl組成比より小さくてもよい。上部クラッド層15がAlを含み、緩和層16Aが設けられない場合、コンタクト層17を通過した酸素原子によって、上部クラッド層15のAlが酸化し易くなる。或いは、上部クラッド層15とコンタクト層17との間において成長が中断される場合、上部クラッド層15のAlが酸化し易くなる。上部クラッド層15のAlが酸化すると、上部クラッド層15の電気抵抗が増し、駆動電圧を高くしないと十分なレーザ発振が得られなくなる。その結果、消費電力が大きくなり、素子の信頼性も低下する。本実施形態では、コンタクト層17と上部クラッド層15との間に上部クラッド層15よりもAl組成比の小さい緩和層16Aが介在しているので、Alの酸化による影響を低減できる。すなわち、本実施形態によれば、Alの酸化による電気抵抗の増大を抑制し、より低い駆動電圧でもって十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力をより小さくし、素子の信頼性を更に向上させることができる。
【0066】
図1のグラフG2に示されたように、緩和層16AのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて連続的に小さくなってもよい。この場合、Alの酸化を効果的に低減できるので、上記の効果をより顕著に得ることができる。
【0067】
本実施形態のように、上部クラッド層15及び緩和層16AはAlGaAs層であり、コンタクト層17はGaAs層であってもよい。この場合、赤外域のレーザ光Loutを出力可能な面発光レーザ素子1Aを得ることができる。
【0068】
本実施形態のように、緩和層16Aの厚さは、上部クラッド層15の厚さよりも小さくてもよい。この場合、上部クラッド層15の厚さが比較的厚くなり、上部クラッド層15よりも屈折率の大きい緩和層16Aが活性層11及びフォトニック結晶層12Aから離れるので、フォトニック結晶層12Aに、緩和層16A及びコンタクト層17により生じるモードが結合することを抑制できる。これにより、基本モードを安定させて出力光の品質を高めることができる。
【0069】
本実施形態のように、緩和層16Aはフォトニック結晶層12A及び活性層11の双方から1μm以上(或いは1.5μm以上)離れていてもよい。この場合、上部クラッド層15よりも屈折率の大きい緩和層16Aが活性層11及びフォトニック結晶層12Aから離れるので、フォトニック結晶層12Aに、緩和層16A及びコンタクト層17により生じるモードが結合することを抑制できる。これにより、基本モードを安定させて出力光の品質を高めることができる。特に、PCSELである面発光レーザ素子1Aにおいては、層方向高次モードが形成されると、高次モードのバンド端が形成され、基本モードのバンド端との反交差点にビームパターンを形成するなど、予期しないビームパターンが現れるおそれがある。緩和層16Aはフォトニック結晶層12A及び活性層11の双方から1μm以上(或いは1.5μm以上)離れていることによって、層方向高次モードの形成を回避して、予期しないビームパターンの出現を抑制することができる。
【0070】
ここで、本実施形態の面発光レーザ素子1Aの実施例を示す。下記の表1は、面発光レーザ素子1Aを構成する各層の組成及び厚さの実施例を示す。この例では、緩和層16Aがフォトニック結晶層12Aから2μm離れている。フィリングファクタとは、単位構成領域Rの面積のうち異屈折率領域12bが占める割合をいう。図6(a)は、この表1の構成を有する面発光レーザ素子1Aの屈折率分布G11と、活性層11及びフォトニック結晶層12Aを中心として生じる基本モード分布G12と、緩和層16A及びコンタクト層17を中心として生じるモード分布G13と、を示すグラフである。図6(b)は、図6(a)のうち活性層11及びフォトニック結晶層12Aの付近を拡大して示す。また、図7(a)は、比較のため、緩和層16Aを備えない場合の面発光レーザ素子の屈折率分布G11、基本モード分布G12、及びモード分布G13を示すグラフである。図7(b)は、図7(a)のうち活性層11及びフォトニック結晶層12Aの付近を拡大して示す。図中、区間Tclad1は下部クラッド層13に対応し、区間Tacは活性層11に対応し、区間Tpcはフォトニック結晶層12Aに対応し、区間Tclad2は上部クラッド層15に対応し、区間Trelaxは緩和層16Aに対応し、区間Tcontはコンタクト層17に対応し、区間Tairは空気に対応する。
【表1】
【0071】
図6を参照すると、モード分布G13の電界はフォトニック結晶層12Aにおいてほぼゼロであり、フォトニック結晶層12Aにおける回折には寄与しない。また、基本モード分布G12とモード分布G13との結合係数はほぼゼロである。このことから、上部クラッド層15よりも屈折率の大きい緩和層16Aが活性層11及びフォトニック結晶層12Aから十分に離れることによって、活性層11及びフォトニック結晶層12Aを中心として生じる基本モードと、緩和層16A及びコンタクト層17において生じるモードとの結合を十分に抑制できることがわかる。
【0072】
本実施形態では、上部クラッド層15の屈折率が下部クラッド層13の屈折率より大きい場合について説明したが、この形態に限られず、上部クラッド層15の屈折率が下部クラッド層13の屈折率より小さくてもよい。この場合、コンタクト層17において生じるモードと基本モードとの結合を抑制し、出力光の品質を高めることができる。そして、下部クラッド層13の屈折率が小さいほど、下部クラッド層13のバンドギャップが大きくなり、下部クラッド層13と半導体基板8とのバンドギャップ差が大きくなる。この場合、緩和層16Aを下部クラッド層13と半導体基板8との間に備えてもよく、本実施形態の面発光レーザ素子1Aは、このような場合に特に有用である。
【0073】
ここで、本実施形態の面発光レーザ素子1Aを作製する方法について説明する。まず、半導体基板8の主面8a上に、例えば有機金属気相成長法(MOCVD)を用いて、下部クラッド層13、光ガイド層14、活性層11、及びフォトニック結晶層12Aの基本層12aをこの順で結晶成長させる。次に、基本層12aの表面上に電子線レジストを塗布し、電子線描画法により異屈折率領域12bのパターニングを行う。そして、例えば誘導結合プラズマ(ICP)エッチングを用いて電子線レジストのパターンを基本層12aに転写することにより、フォトニック結晶層12Aを形成する。電子線レジストを除去した後、例えばMOCVDを用いて、フォトニック結晶層12A上に上部クラッド層15、緩和層16A及びコンタクト層17をこの順で結晶成長させる。
【0074】
続いて、半導体基板8の裏面8bを研磨して半導体基板8を薄化したのち、裏面8bに鏡面研磨を施す。そして、フォトリソグラフィ、真空蒸着法およびリフトオフ法を用いて、開口部21aを有する第1電極21を裏面8b上に形成する。また、フォトリソグラフィ、真空蒸着法およびリフトオフ法を用いて、コンタクト層17の表面上に第2電極22を形成する。なお、第1電極21の形成と第2電極22の形成とは、いずれを先に行ってもよい。その後、半導体基板8及び半導体基板8上に形成された各層をダイシングして、チップ状に切断する。以上の工程を経て、本実施形態の面発光レーザ素子1Aが作製される。
(第2実施形態)
【0075】
上述した実施形態においては、異屈折率領域12bが周期的に配列されたフォトニック結晶層12Aを備える面発光レーザ素子1Aについて説明したが、本開示の面発光レーザ素子は、異屈折率領域が周期的に配列されたフォトニック結晶層に限らず様々な共振モード形成層を備えることができる。近年、二次元状に配列された複数の発光点から出射される光の位相スペクトル及び強度スペクトルを制御することにより任意の光像を出力する位相変調発光素子が研究されている。このような位相変調発光素子はS-iPMレーザと呼ばれ、空間的な任意形状の光像を出力する。共振モード形成層は、このようなS-iPMレーザに用いられる構成を含んでもよい。
【0076】
図8は、第2実施形態に係る面発光レーザ素子1Bの断面構成を模式的に示す図である。本実施形態の面発光レーザ素子1Bと第1実施形態の面発光レーザ素子1Aとの相違点は、共振モード形成層の構成である。本実施形態の面発光レーザ素子1Bは、共振モード形成層として、上記実施形態のフォトニック結晶層12Aに代えて位相変調層12Bを有する。
【0077】
図9は、位相変調層12Bの平面図である。位相変調層12Bは、第1屈折率媒質からなる基本層12aと、第1屈折率媒質とは屈折率の異なる第2屈折率媒質からなる異屈折率領域12bとを含む。ここで、位相変調層12Bに、XY面内における仮想的な正方格子を設定する。正方格子の一辺はX軸と平行であり、他辺はY軸と平行であるものとする。このとき、正方格子の格子点Oを中心とする正方形状の単位構成領域Rが、X軸に沿った複数列及びY軸に沿った複数行にわたって二次元状に設定され得る。複数の異屈折率領域12bは、各単位構成領域R内に1つずつ設けられる。異屈折率領域12bの平面形状は、上記実施形態と同様に、円形などの様々な形状であることができる。各単位構成領域R内において、異屈折率領域12bの重心Gは、これに最も近い格子点Oから離れて配置される。
【0078】
図10に示されるように、格子点Oから重心Gに向かう方向とX軸との成す角度をφ(x,y)とする。xはX軸におけるx番目の格子点の位置、yはY軸におけるy番目の格子点の位置を示す。回転角度φが0°である場合、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの方向はX軸の正方向と一致する。また、格子点Oと重心Gとを結ぶベクトルの長さをr(x,y)とする。一例では、r(x,y)はx、yによらず(位相変調層12B全体にわたって)一定である。
【0079】
図9に示されるように、位相変調層12Bにおいては、異屈折率領域12bの重心Gの格子点O周りの回転角度φが、所望の光像に応じて各単位構成領域R毎に独立して個別に設定される。回転角度分布φ(x,y)は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。すなわち、回転角度分布φ(x,y)は、所望の光像を逆フーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。なお、所望の光像から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGerchberg-Saxton(GS)法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性が向上する。
【0080】
本実施形態において、活性層11から出力された光は、下部クラッド層13と上部クラッド層15との間に閉じ込められつつ位相変調層12Bによる回折を受け、位相変調層12Bの内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層12B内で散乱されて出射されるレーザ光は、下部クラッド層13及び半導体基板8を通過して、面発光レーザ素子1Aの外部へ出力される。このとき、0次光は、位相変調層12Bの厚さ方向(Z方向)へ出射する。これに対し、+1次光および-1次光は、Z方向及びZ方向に対して傾斜した方向を含む空間的な任意方向へ出射する。
【0081】
図11は、本実施形態に係る面発光レーザ素子1Bの出力ビームパターンを投影して得られる光像と、位相変調層12Bにおける回転角度分布φ(x,y)との関係を説明するための図である。なお、出力ビームパターンの中心Qは面発光レーザ素子1Bの光出射面の中心からZ方向に位置しており、図11には、中心Qを原点とする4つの象限が示されている。図11では例として第1象限および第3象限に光像が得られる場合を示したが、第2象限および第4象限或いは全ての象限に像を得ることも可能である。本実施形態では、図11に示されるように、原点に関して点対称な光像が得られる。図11は、例として、第3象限に文字「A」が+1次回折光として、第1象限に文字「A」を180度回転したパターンが-1次回折光として、それぞれ得られる場合について示している。なお、回転対称な光像(例えば、十字、丸、二重丸など)である場合には、重なって一つの光像として観察される。
【0082】
本実施形態に係る面発光レーザ素子1Bの出力ビームパターンを投影して得られる光像は、スポット、直線、十字架、線画、格子パターン、写真、縞状パターン、CG(コンピュータグラフィクス)、及び文字のうち少なくとも1つを含んでいる。ここで、所望の光像を得るためには、以下の手順によって位相変調層12Bの異屈折率領域12bの回転角度分布φ(x、y)を決定する。
【0083】
まず、第1の前提条件として、法線方向に一致するZ軸と、複数の異屈折率領域12bを含む位相変調層12Bの一方の面に一致した、互いに直交するX軸およびY軸を含むXY平面と、により規定されるXYZ直交座標系において、該XY平面上に、それぞれが正方形状を有するM1(1以上の整数)×N1(1以上の整数)個の単位構成領域Rにより構成される仮想的な正方格子が設定される。
【0084】
第2の前提条件として、XYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)は、図12に示されるように、動径の長さrと、Z軸からの傾き角θtiltと、XY平面上で特定されるX軸からの回転角θrotと、で規定される球面座標(r,θrottilt)に対して、以下の式(1)~式(3)で示された関係を満たしているものとする。なお、図12は、球面座標(r,θrottilt)からXYZ直交座標系における座標(ξ,η,ζ)への座標変換を説明するための図であり、座標(ξ,η,ζ)により、実空間であるXYZ直交座標系において設定される所定平面上の設計上の光像が表現される。
【数1】

【数2】

【数3】
【0085】
面発光レーザ素子1Bから出力される光像に相当するビームパターンを角度θtiltおよびθrotで規定される方向に向かう輝点の集合とするとき、角度θtiltおよびθrotは、以下の式(4)で規定される規格化波数であってX軸に対応したKx軸上の座標値kと、以下の式(5)で規定される規格化波数であってY軸に対応するとともにKx軸に直交するKy軸上の座標値kに換算されるものとする。規格化波数は、仮想的な正方格子の格子間隔に相当する波数を1.0として規格化された波数を意味する。このとき、Kx軸およびKy軸により規定される波数空間において、光像に相当するビームパターンを含む特定の波数範囲が、それぞれが正方形状のM2(1以上の整数)×N2(1以上の整数)個の画像領域FRで構成される。なお、整数M2は、整数M1と一致する必要はない。同様に、整数N2は、整数N1と一致する必要もない。また、式(4)および式(5)は、例えば、Y. Kurosaka et al.," Effects of non-lasing band intwo-dimensional photonic-crystal lasers clarified using omnidirectional bandstructure," Opt. Express 20, 21773-21783 (2012)に開示されている。
【数4】

【数5】

a:仮想的な正方格子の格子定数
λ:面発光レーザ素子1Bの発振波長
【0086】
第3の前提条件として、波数空間において、Kx軸方向の座標成分k(0以上M2-1以下の整数)とKy軸方向の座標成分k(0以上N2-1以下の整数)とで特定される画像領域FR(k,k)それぞれを、X軸方向の座標成分x(0以上M1-1以下の整数)とY軸方向の座標成分y(0以上N1-1以下の整数)とで特定されるXY平面上の単位構成領域R(x,y)に二次元逆離散フーリエ変換することで得られる複素振幅F(x,y)が、jを虚数単位として、以下の式(6)で与えられる。また、この複素振幅F(x,y)は、振幅項をA(x,y)とするとともに位相項をP(x,y)とするとき、以下の式(7)により規定される。更に、第4の前提条件として、単位構成領域R(x,y)が、X軸およびY軸にそれぞれ平行であって単位構成領域R(x,y)の中心となる格子点O(x,y)において直交するs軸およびt軸で規定される。
【数6】

【数7】

上記第1~第4の前提条件の下、位相変調層12Bは、以下の第1および第2条件を満たすよう構成される。すなわち、第1条件は、単位構成領域R(x,y)内において、重心Gが、格子点O(x,y)から離れた状態で配置されていることである。また、第2条件は、格子点O(x,y)から対応する重心Gまでの線分長r(x,y)がM1個×N1個の単位構成領域Rそれぞれにおいて共通の値に設定された状態で、格子点O(x,y)と対応する重心Gとを結ぶ線分と、s軸と、の成す角度φ(x,y)が、
φ(x,y)=C×P(x,y)+B
C:比例定数であって例えば180/π
B:任意の定数であって例えば0
なる関係を満たすように、対応する異屈折率領域12bが単位構成領域R(x,y)内に配置されることである。
【0087】
図13は、位相変調層12Bの特定領域内にのみ図9の屈折率構造を適用した例を示す平面図である。図13に示す例では、正方形の内側領域RINの内部に、目的となるビームパターンを出射するための屈折率構造(例えば図9の構造)が形成されている。一方、内側領域RINを囲む外側領域ROUTには、正方格子の格子点位置に、重心位置が一致する真円形の異屈折率領域が配置されている。内側領域RINの内部も、外側領域ROUT内においても、仮想的に設定される正方格子の格子間隔は同一である。この構造の場合、外側領域ROUT内にも光が分布することにより、内側領域RINの周辺部において光強度が急激に変化することで生じる高周波ノイズ(いわゆる窓関数ノイズ)の発生を抑制することが出来るという利点がある。また、面内方向への光漏れを抑制できるので、活性層11において発生した光からレーザ光Loutへの変換効率を高めることができる。
【0088】
フーリエ変換で得られた複素振幅分布から強度分布と位相分布を得る方法として、例えば強度分布I(x,y)については、MathWorks社の数値解析ソフトウェア「MATLAB」のabs関数を用いることにより計算することができ、位相分布P(x,y)については、MATLABのangle関数を用いることにより計算することができる。
【0089】
ここで、光像のフーリエ変換結果から回転角度分布φ(x,y)を求め、各異屈折率領域12bの配置を決める際に、一般的な離散フーリエ変換(或いは高速フーリエ変換)を用いて計算する場合の留意点を述べる。所望の光像である図14(a)の逆フーリエ変換で得られた複素振幅分布より計算される出力ビームパターンは図14(b)のようになる。図14(a)と図14(b)のように空間をA1,A2,A3,及びA4といった4つの象限に分割すると、図14(b)の出力ビームパターンの第1象限には、図14(a)の第1象限を180度回転したものと図14(a)の第3象限とが重畳したパターンが現れる。ビームパターンの第2象限には、図14(a)の第2象限を180度回転したものと図14(a)の第4象限とが重畳したパターンが現れる。ビームパターンの第3象限には、図14(a)の第3象限を180度回転したものと図14(a)の第1象限とが重畳したパターンが現れる。ビームパターンの第4象限には、図14(a)の第4象限を180度回転したものと図14(a)の第2象限とが重畳したパターンが現れる。このとき、180度回転したパターンは-1次光成分によるものである。
【0090】
従って、フーリエ変換前の光像(元の光像)として第一象限のみに値を有するものを用いた場合には、得られるビームパターンの第三象限に元の光像の第一象限が現れ、得られるビームパターンの第一象限に元の光像の第一象限を180度回転したパターンが現れる。
【0091】
図15(a)~図15(d)は、本実施形態と同じ原理を利用した近赤外波長帯のGaAs系S-iPMレーザから出力されるビームパターン(光像)の例を示す。各図の中心は、S-iPMレーザの光出射面の中心からZ方向に位置する。これらの図に示されるように、S-iPMレーザは、光出射面の中心からZ方向に延びる軸線に対して傾斜した第1方向に出力される第1光像部分E1を含む1次光と、該軸線に関して第1方向と対称である第2方向に出力され、該軸線に関して第1光像部分E1と回転対称である第2光像部分E2を含む-1次光と、該軸線上を進む0次光E3とを出力する。このことは、本実施形態の面発光レーザ素子1Bにおいても同様である。
【0092】
本実施形態において、活性層11から出力された光は、下部クラッド層13と上部クラッド層15との間に閉じ込められつつ位相変調層12Bによる回折を受け、位相変調層12Bの内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層12Bでは、複数の異屈折率領域12bの重心が、仮想的な正方格子の格子点周りに各異屈折率領域12b毎に設定された回転角度φ(x,y)を有する。このような場合、複数の異屈折率領域12bの重心Gが正方格子の格子点上に位置する場合(図2を参照)と比較して、位相変調層12Bの厚さ方向(言い換えると、面発光レーザ素子1Bの光出射面に垂直なZ方向)に出射する光、すなわち0次光の光強度が減り、その方向に対して傾斜した方向に出射する高次光、例えば1次光及び-1次光が現れる。更に、各異屈折率領域12bの重心Gの格子点周りの回転角度φ(x,y)が所望の光像に応じて個別に設定されることにより、光の位相を各異屈折率領域12b毎に独立して変調し、光出射面と垂直なZ方向及びZ方向に対して傾斜した方向に、空間的な任意形状の光像を出力することができる。この光像(レーザ光Lout)は、下部クラッド層13及び半導体基板8を通過して、面発光レーザ素子1Bの外部へ出力される。
【0093】
面発光レーザ素子1AがPCSELである第1実施形態では、上部クラッド層15のバンドギャップが、下部クラッド層13のバンドギャップよりも小さい。これに対し、面発光レーザ素子1BがiPMレーザである本実施形態では、上部クラッド層15のバンドギャップは、下部クラッド層13のバンドギャップよりも大きく設定される。これは、上部クラッド層15の屈折率を下部クラッド層13の屈折率より小さくして、上部クラッド層15に起因するモードと活性層11及び位相変調層12Bを中心とする基本モードとが競合することを抑制するためである。iPMレーザにおいて、上部クラッド層15に起因するモードは、位相変調層12Bに分布してバンド構造を形成し、基本モードのバンド構造と反交差することがあり、出力光像にノイズが生じる原因となる。上記のように、上部クラッド層15のバンドギャップが下部クラッド層13のバンドギャップよりも大きいことによって、これらのモードの競合を抑制し、出力光像に含まれるノイズを低減できる。
【0094】
具体的には、下部クラッド層13及び上部クラッド層15が組成としてAlを含む場合、上部クラッド層15のAl組成比は、下部クラッド層13のAl組成比よりも大きい。或る例では、半導体基板8はGaAs基板であり、活性層11、位相変調層12B、下部クラッド層13、光ガイド層14、上部クラッド層15、緩和層16A、及びコンタクト層17は、GaAs系半導体からなる。一実施例では、下部クラッド層13及び光ガイド層14はAlGaAs層であり、活性層11は多重量子井戸構造(障壁層:AlGaAs/量子井戸層:InGaAs、井戸層の層数は例えば3つ)を有し、位相変調層12Bの基本層12aはAlGaAs層若しくはGaAs層であり、異屈折率領域12bは空孔であり、上部クラッド層15及び緩和層16AはAlGaAs層であり、コンタクト層17はGaAs層である。この場合、半導体基板8の厚さは例えば150μmであり、下部クラッド層13の厚さは例えば2000nmであり、光ガイド層14の厚さは例えば80nmであり、活性層11の井戸層及び障壁層の各厚さは例えば10nmであり、位相変調層12Bの厚さは例えば300nmであり、上部クラッド層15の厚さは例えば1500nmであり、緩和層16Aの厚さは例えば500nmであり、コンタクト層17の厚さは例えば150nmである。下部クラッド層13のAl組成比は例えば43原子%であり、光ガイド層14のAl組成比は例えば15原子%であり、活性層11の障壁層のAl組成比は例えば15原子%であり、上部クラッド層15のAl組成比は例えば70原子%であり、上部クラッド層15との界面における緩和層16AのAl組成比は例えば70原子%であり、コンタクト層17との界面における緩和層16AのAl組成比は例えば0原子%である。
【0095】
本実施形態の面発光レーザ素子1Bにおいても、上記実施形態と同様に、緩和層16Aは、上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。したがって、上部クラッド層15とコンタクト層17との間に生じるバンドギャップの変化率が緩和層16Aによって緩和され、ポテンシャルバリアが低減される。故に、素子の電気抵抗が低下し、低い駆動電圧であっても十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力を小さくし、素子の信頼性を向上させて、素子の寿命を延ばすことができる。また、iPMレーザである面発光レーザ素子1Bにおいては、光像の高品質化のために、活性層11全体への均一な電流供給が求められる。異屈折率領域12bを空孔とした場合、位相変調層12Bは比較的高抵抗となるが、緩和層16Aによる低電圧化によって、低い駆動電流であっても活性層11全体への電流供給を均一に近づけることができる。なお、本実施形態の面発光レーザ素子1Bは、第1実施形態の面発光レーザ素子1Aと同様の工程を経て作製され得る。
【0096】
本実施形態においても、緩和層16Aのバンドギャップは、上部クラッド層15のバンドギャップからコンタクト層17のバンドギャップに近づくように連続的に変化してもよい。この場合、ポテンシャルバリアを効果的に低減できるので、本実施形態の面発光レーザ素子1Bによる上記の効果をより顕著に得ることができる。
【0097】
本実施形態においても、上部クラッド層15及び緩和層16Aは組成としてAlを含み、緩和層16AのAl組成比は、上部クラッド層15のAl組成比より小さくてもよい。iPMレーザの場合、コンタクト層17に起因するモードを低減するために、コンタクト層17の厚さはPCSELと比べて小さく設定されることがある。その場合、コンタクト層17を酸素原子が通過し易くなり、緩和層16Aが設けられない場合には上部クラッド層15のAlが更に酸化し易くなる。或いは、上部クラッド層15とコンタクト層17との間において成長が中断される場合、上部クラッド層15のAlが酸化し易くなる。従って、Alの酸化による影響を緩和層16Aによって低減することは、本実施形態のようなiPMレーザにおいて特に有用である。
【0098】
本実施形態においても、緩和層16AのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて連続的に小さくなってもよい。この場合、Alの酸化を効果的に低減できるので、上記の効果をより顕著に得ることができる。
【0099】
前述したように、上部クラッド層15の屈折率は、下部クラッド層13の屈折率よりも小さくてもよい。この場合、コンタクト層17において生じるモードと基本モードとの結合を抑制し、出力光の品質を高め、出力光像に含まれるノイズを更に低減することができる。そして、下部クラッド層13の屈折率が小さいほど、下部クラッド層13のバンドギャップが大きくなり、下部クラッド層13と半導体基板8とのバンドギャップ差が大きくなる。緩和層16Aを下部クラッド層13と半導体基板8との間に備えてもよく、本実施形態の面発光レーザ素子1Bは、このような場合に特に有用である。
【0100】
前述したように、下部クラッド層13及び上部クラッド層15が組成としてAlを含む場合、上部クラッド層15のAl組成比は、下部クラッド層13のAl組成比よりも大きくてもよい。この場合、上部クラッド層15の屈折率が下部クラッド層13の屈折率よりも小さくなるので、上記のように、上部クラッド層15において生じるモードを抑制し、出力光の品質を高め、出力光像に含まれるノイズを更に低減することができる。そして、このように上部クラッド層15のAl組成比が大きい場合に、緩和層16Aを備える本実施形態の面発光レーザ素子1Bは特に有用である。
【0101】
また、このように上部クラッド層15のAl組成比が大きい場合、コンタクト層17との格子定数差が大きくなり、上部クラッド層15とコンタクト層17とが接する場合、コンタクト層17の結晶構造の歪みが大きくなる。その結果、素子表面の転位等の結晶欠陥が増し、光像の品質が劣化する要因となる。これに対し、本実施形態では、上部クラッド層15のAl組成比とコンタクト層17のAl組成比との間のAl組成比を有する緩和層16Aが設けられているので、コンタクト層17の結晶構造の歪みを緩和し、素子表面の結晶欠陥を減少させて、光像の品質劣化を抑制することができる。
【0102】
本実施形態においても、緩和層16Aの厚さは、上部クラッド層15の厚さよりも小さくてもよい。この場合、上部クラッド層15の厚さが比較的厚くなり、上部クラッド層15よりも屈折率の大きい緩和層16Aが位相変調層12B及び活性層11から離れるので、位相変調層12Bに緩和層16Aのモードが結合することを抑制できる。これにより、基本モードを安定させて出力光の品質を高め、出力光像に含まれるノイズを更に低減することができる。
【0103】
本実施形態においても、緩和層16Aは活性層11及び位相変調層12Bの双方から1μm以上(或いは1.5μm以上)離れていてもよい。この場合、上部クラッド層15よりも屈折率の大きい緩和層16Aが活性層11及び位相変調層12Bから離れるので、位相変調層12Bに緩和層16Aのモードが結合することを抑制できる。これにより、基本モードを安定させて出力光の品質を高め、出力光像に含まれるノイズを更に低減することができる。
【0104】
ここで、本実施形態の面発光レーザ素子1Bの実施例を示す。下記の表2は、面発光レーザ素子1Bを構成する各層の組成及び厚さの実施例を示す。この例では、緩和層16Aが位相変調層12Bから1.5μm離れている。図16(a)は、この表2の構成を有する面発光レーザ素子1Bの屈折率分布G21と、活性層11及び位相変調層12Bを中心として生じる基本モード分布G22と、緩和層16A及びコンタクト層17を中心として生じるモード分布G23と、を示すグラフである。図16(b)は、図16(a)のうち活性層11及び位相変調層12Bの付近を拡大して示す。また、図17(a)は、比較のため、緩和層16Aを備えない場合の面発光レーザ素子の屈折率分布G11及び基本モード分布G12を示すグラフである。図17(b)は、図17(a)のうち活性層11及び位相変調層12Bの付近を拡大して示す。図中、区間Tclad1は下部クラッド層13に対応し、区間Tacは活性層11に対応し、区間Tpmは位相変調層12Bに対応し、区間Tclad2は上部クラッド層15に対応し、区間Trelaxは緩和層16Aに対応し、区間Tcontはコンタクト層17に対応し、区間Tairは空気に対応する。
【表2】
【0105】
図16を参照すると、モード分布G23の電界は位相変調層12Bにおいてほぼゼロであり、位相変調層12Bにおける回折には寄与しない。また、基本モード分布G22とモード分布G23との結合係数はほぼゼロである。このことから、上部クラッド層15よりも屈折率の大きい緩和層16Aが活性層11及び位相変調層12Bから十分に離れることによって、位相変調層12Bに、緩和層16A及びコンタクト層17において生じるモードが結合することを十分に抑制できることがわかる。
(第3実施形態)
【0106】
S-iPMレーザは、前述した第2実施形態の構成に限られない。例えば、本実施形態の位相変調層の構成であっても、S-iPMレーザを好適に実現することができる。図18は、第3実施形態に係る光学デバイスが備える共振モード形成層としての位相変調層12Cの平面図である。また、図19は、位相変調層12Cにおける異屈折率領域12bの位置関係を示す図である。
【0107】
図18及び図19に示されるように、位相変調層12Cにおいて、各異屈折率領域12bの重心Gは、直線D上に配置されている。直線Dは、各単位構成領域Rの対応する格子点Oを通り、正方格子の各辺に対して傾斜する直線である。言い換えると、直線Dは、X軸及びY軸の双方に対して傾斜する直線である。正方格子の一辺(X軸)に対する直線Dの傾斜角はθである。傾斜角θは、位相変調層12C内において一定である。傾斜角θは、0°<θ<90°を満たし、一例ではθ=45°である。または、傾斜角θは、180°<θ<270°を満たし、一例ではθ=225°である。傾斜角θが0°<θ<90°または180°<θ<270°を満たす場合、直線Dは、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第1象限から第3象限にわたって延びる。或いは、傾斜角θは、90°<θ<180°を満たし、一例ではθ=135°である。或いは、傾斜角θは、270°<θ<360°を満たし、一例ではθ=315°である。傾斜角θが90°<θ<180°または270°<θ<360°を満たす場合、直線Dは、X軸及びY軸によって規定される座標平面の第2象限から第4象限にわたって延びる。このように、傾斜角θは、0°、90°、180°及び270°を除く角度である。このような傾斜角θとすることで、光出力ビームにおいて、X軸方向に進む光波とY軸方向に進む光波との両方を寄与させることができる。ここで、格子点Oと重心Gとの距離をr(x,y)とする。xはX軸におけるx番目の格子点の位置、yはY軸におけるy番目の格子点の位置を示す。距離r(x,y)が正の値である場合、重心Gは第1象限(または第2象限)に位置する。距離r(x,y)が負の値である場合、重心Gは第3象限(または第4象限)に位置する。距離r(x,y)が0である場合、格子点Oと重心Gとは互いに一致する。
【0108】
図18に示される、各異屈折率領域12bの重心Gと、各単位構成領域Rの対応する格子点Oとの距離r(x,y)は、所望の光像に応じて各異屈折率領域12b毎に個別に設定される。距離r(x,y)の分布は、x,yの値で決まる位置毎に特定の値を有するが、必ずしも特定の関数で表わされるとは限らない。距離r(x,y)の分布は、所望の光像を逆フーリエ変換して得られる複素振幅分布のうち位相分布を抽出したものから決定される。すなわち、図19に示される、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には距離r(x,y)を0と設定し、位相P(x,y)がπ+P0である場合には距離r(x,y)を最大値R0に設定し、位相P(x,y)が-π+P0である場合には距離r(x,y)を最小値-R0に設定する。そして、その中間の位相P(x,y)に対しては、r(x,y)={P(x,y)-P0}×R0/πとなるように距離r(x,y)をとる。ここで、初期位相P0は任意に設定することができる。正方格子の格子間隔をaとすると、r(x,y)の最大値R0は例えば
【数8】

の範囲内である。なお、所望の光像から複素振幅分布を求める際には、ホログラム生成の計算時に一般的に用いられるGS法のような繰り返しアルゴリズムを適用することによって、ビームパターンの再現性が向上する。
【0109】
本実施形態においては、以下の手順によって位相変調層12Cの異屈折率領域12bの距離r(x,y)の分布を決定することにより、所望の光像を得ることができる。すなわち、第2実施形態において説明した第1~第4の前提条件の下、位相変調層12Cは、以下の条件を満たすよう構成される。すなわち、格子点O(x,y)から対応する異屈折率領域12bの重心Gまでの距離r(x,y)が、
r(x,y)=C×(P(x,y)-P0
C:比例定数で例えばR0/π
0:任意の定数であって例えば0
なる関係を満たすように、該対応する異屈折率領域12bが単位構成領域R(x,y)内に配置される。すなわち、距離r(x,y)は、或る座標(x,y)における位相P(x,y)がP0である場合には0に設定され、位相P(x,y)がπ+P0である場合には最大値R0に設定され、位相P(x,y)が-π+P0である場合には最小値-R0に設定される。所望の光像を得たい場合、該光像を逆離散フーリエ変換して、その複素振幅の位相P(x,y)に応じた距離r(x,y)の分布を、複数の異屈折率領域12bに与えるとよい。位相P(x,y)と距離r(x,y)とは、互いに比例してもよい。
【0110】
なお、本実施形態においても、位相変調層12Cの特定領域内にのみ図18の屈折率構造を適用してもよい。例えば、図13に示された例のように、正方形の内側領域RINの内部に、目的となるビームパターンを出射するための屈折率構造(例えば図18の構造)が形成されてもよい。この場合、内側領域RINを囲む外側領域ROUTには、正方格子の格子点位置に、重心位置が一致する真円形の異屈折率領域が配置される。内側領域RINの内部も、外側領域ROUT内においても、仮想的に設定される正方格子の格子間隔は同一である。この構造の場合、外側領域ROUT内にも光が分布することにより、内側領域RINの周辺部において光強度が急激に変化することで生じる高周波ノイズ(いわゆる窓関数ノイズ)の発生を抑制することができる。また、面内方向への光漏れを抑制できるので、活性層11において発生した光からレーザ光Loutへの変換効率を高めることができる。
【0111】
逆フーリエ変換で得られた複素振幅分布から強度分布と位相分布を得る方法として、例えば強度分布I(x,y)については、MathWorks社の数値解析ソフトウェア「MATLAB」のabs関数を用いることにより計算することができ、位相分布P(x,y)については、MATLABのangle関数を用いることにより計算することができる。なお、光像の逆フーリエ変換結果から位相分布P(x,y)を求め、各異屈折率領域12bの距離r(x,y)を決める際に、一般的な離散フーリエ変換(或いは高速フーリエ変換)を用いて計算する場合の留意点は、前述した第2実施形態と同様である。
【0112】
本実施形態において、活性層11から出力された光は、下部クラッド層13と上部クラッド層15との間に閉じ込められつつ位相変調層12Cによる回折を受け、位相変調層12Cの内部の格子構造に応じた所定のモードを形成する。位相変調層12Cでは、複数の異屈折率領域12bの重心Gが、仮想的な正方格子の格子点Oを通り正方格子に対して傾斜する直線D上に配置されている。そして、各異屈折率領域12bの重心Gと、対応する格子点Oとの距離r(x,y)が光像に応じて個別に設定されている。このような場合においても、複数の異屈折率領域12bの重心Gが正方格子の格子点O上に位置する場合(図2を参照)と比較して、位相変調層12Cの厚さ方向(言い換えると、面発光レーザ素子の光出射面に垂直なZ方向)に出射する光、すなわち0次光の光強度が減り、その方向に対して傾斜した方向に出射する高次光、例えば1次光及び-1次光が現れる。更に、各異屈折率領域12bの重心Gと、対応する格子点Oとの距離r(x,y)が所望の光像に応じて個別に設定されることにより、光の位相を各異屈折率領域12b毎に独立して変調し、光出射面と垂直なZ方向及びZ方向に対して傾斜した方向に、空間的な任意形状の光像を出力することができる。この光像(レーザ光Lout)は、下部クラッド層13及び半導体基板8を通過して面発光レーザ素子の外部へ出力される。
【0113】
本実施形態の面発光レーザ素子においても、上記各実施形態と同様に、緩和層16Aは、上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。したがって、上部クラッド層15とコンタクト層17との間に生じるバンドギャップの変化率が緩和層16Aによって緩和され、ポテンシャルバリアが低減される。故に、素子の電気抵抗が低下し、低い駆動電圧であっても十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力を小さくし、素子の信頼性を向上させて、素子の寿命を延ばすことができる。また、本実施形態の面発光レーザ素子の構成は、位相変調層12Cを除いて第2実施形態の面発光レーザ素子1Bと同様であり、本実施形態の面発光レーザ素子は第2実施形態の面発光レーザ素子1Bと同様の作用効果を奏することができる。なお、本実施形態の面発光レーザ素子は、第1実施形態の面発光レーザ素子1Aと同様の工程を経て作製され得る。
(第1変形例)
【0114】
図20は、第1変形例に係る面発光レーザ素子1Cの構成を示す断面図である。この面発光レーザ素子1Cは、コンタクト層17のうち第2電極22が設けられた部分を除く部分が除去されている点において第2実施形態または第3実施形態と相違し、他の点においてこれらと一致する。本変形例では、厚さ方向から見てコンタクト層17の面積が緩和層16Aの面積よりも小さく、コンタクト層17の周囲において緩和層16Aがコンタクト層17から露出している。このような構成により、第2電極22から供給される電流の経路を限定して、電流を活性層11へ効率よく供給することができる。
【0115】
また、このようにコンタクト層17のうち第2電極22が設けられた部分を除く部分が除去される場合、緩和層16Aが設けられない(すなわち上部クラッド層15とコンタクト層17とが接する)従来の面発光レーザ素子では、上部クラッド層15が露出することとなり、上部クラッド層15のAlがより一層酸化し易くなる。本変形例の面発光レーザ素子1Cでは、Al組成比が上部クラッド層15よりも小さい緩和層16Aが露出するので、露出面におけるAl酸化物の量を低減し、Alの酸化による影響を低減できる。
(第2変形例)
【0116】
図21は、第2変形例に係る面発光レーザ素子1Dの断面構成を模式的に示す図である。この面発光レーザ素子1Dは、緩和層16Aに代えて緩和層16Bを備える点において第1実施形態と相違し、他の点において第1実施形態と一致する。緩和層16Bは、上部クラッド層15上にエピタキシャル成長することにより設けられ、上部クラッド層15と接する。緩和層16Bは、上部クラッド層15とコンタクト層17とのバンドギャップ差に起因するポテンシャルバリアを緩和するために設けられる。緩和層16Bは、例えば上部クラッド層15の構成元素と同じ構成元素からなる。また、緩和層16Bは、上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。図21には、厚さ方向における緩和層16Bのバンドギャップの分布を示すグラフG3が示されている。グラフG3において、横軸はバンドギャップを表し、縦軸は厚さ方向の位置を表す。グラフG3に示されるように、本変形例において緩和層16Bのバンドギャップは、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面にかけて厚さ方向に一定である。緩和層16Bの上部クラッド層15側の界面におけるバンドギャップと上部クラッド層15のバンドギャップとの差、及び、緩和層16Bのコンタクト層17側の界面におけるバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの差は、互いに等しくてもよい。
【0117】
上部クラッド層15が組成としてAlを含む場合、緩和層16Bは、上部クラッド層15のAlの酸化を抑止する層としても機能する。この場合、緩和層16BもまたAlを含む。緩和層16Bは、上部クラッド層15のAl組成比とコンタクト層17のAl組成比(コンタクト層17がAlを組成として含まない場合はゼロ)との間の大きさのAl組成比を有する。図21には、厚さ方向における緩和層16BのAl組成比の分布を示すグラフG4が示されている。グラフG4において、横軸はAl組成比を表し、縦軸は厚さ方向の位置を表す。グラフG4に示されるように、本変形例において緩和層16BのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面にかけて厚さ方向に一定である。
【0118】
緩和層16Bの厚さは、上部クラッド層15の厚さよりも小さい。緩和層16Bの厚さは、第1実施形態の緩和層16Aの厚さと同様の範囲内である。緩和層16Bは、フォトニック結晶層12A及び活性層11の双方から1μm以上離れており、より好適には、フォトニック結晶層12A及び活性層11の双方から1.5μm以上離れている。すなわち、緩和層16Bとフォトニック結晶層12A及び活性層11との間に上部クラッド層15のみが設けられている場合、上部クラッド層15の厚さは1μm以上(より好適には1.5μm以上)である。上部クラッド層15と緩和層16Bとの厚さの和は、下部クラッド層13の厚さと等しくてもよい。
【0119】
本変形例のように、緩和層16Bのバンドギャップは、厚さ方向に一定であってもよい。この場合であっても、上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを緩和層16Bが有することにより、緩和層16Bが設けられない場合と比較して、上部クラッド層15とコンタクト層17との間に生じるバンドギャップの変化率が緩和され、ポテンシャルバリアが低減される。故に、素子の電気抵抗が低下し、低い駆動電圧であっても十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力を小さくし、素子の信頼性を向上させることができる。
【0120】
また、本変形例のように、緩和層16BのAl組成比は、厚さ方向に一定であってもよい。この場合であっても、コンタクト層17と上部クラッド層15との間に上部クラッド層15よりもAl組成比の小さい緩和層16Bが介在することにより、Alの酸化による影響を低減できる。すなわち、本変形例によれば、Alの酸化による電気抵抗の増大を抑制し、より低い駆動電圧でもって十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力をより小さくし、素子の信頼性を更に向上させることができる。
【0121】
なお、第1実施形態以外の前述した各実施形態及び各変形例もまた、緩和層16Aに代えて本変形例の緩和層16Bを備えてもよい。これにより、上記と同様の効果を奏することができる。
【0122】
本変形例の面発光レーザ素子1Dの実施例を示す。下記の表3は、面発光レーザ素子1Dを構成する各層の組成及び厚さの実施例を示す。この例では、緩和層16Bがフォトニック結晶層12Aから1.5μm離れている。図22(a)は、この表3の構成を有する面発光レーザ素子1Dの屈折率分布G31と、活性層11及びフォトニック結晶層12Aを中心として生じる基本モード分布G32と、緩和層16B及びコンタクト層17を中心として生じるモード分布G33と、を示すグラフである。図22(b)は、図22(a)のうち活性層11及びフォトニック結晶層12Aの付近を拡大して示す。図中、区間Tclad1は下部クラッド層13に対応し、区間Tacは活性層11に対応し、区間Tpcはフォトニック結晶層12Aに対応し、区間Tclad2は上部クラッド層15に対応し、区間Trelaxは緩和層16Bに対応し、区間Tcontはコンタクト層17に対応し、区間Tairは空気に対応する。
【表3】
【0123】
図22を参照すると、モード分布G33の電界はフォトニック結晶層12Aにおいてほぼゼロであり、フォトニック結晶層12Aにおける回折には寄与しない。また、基本モード分布G32とモード分布G33との結合係数はほぼゼロである。このことから、上部クラッド層15よりも屈折率の大きい緩和層16Bが活性層11及びフォトニック結晶層12Aから十分に離れることによって、活性層11及びフォトニック結晶層12Aを中心として生じる基本モードと、緩和層16B及びコンタクト層17において生じるモードとの結合を十分に抑制できることがわかる。
【0124】
また、下記の表4は、第2実施形態の面発光レーザ素子1Bが緩和層16Aに代えて本変形例の緩和層16Bを備える場合における、面発光レーザ素子を構成する各層の組成及び厚さの実施例を示す表である。この例では、緩和層16Bが位相変調層12Bから1.5μm離れている。図23(a)は、この表4の構成を有する面発光レーザ素子の屈折率分布G41と、活性層11及び位相変調層12Bを中心として生じる基本モード分布G42と、緩和層16B及びコンタクト層17を中心として生じるモード分布G43と、を示すグラフである。図23(b)は、図23(a)のうち活性層11及び位相変調層12Bの付近を拡大して示す。図中、区間Tclad1は下部クラッド層13に対応し、区間Tacは活性層11に対応し、区間Tpmは位相変調層12Bに対応し、区間Tclad2は上部クラッド層15に対応し、区間Trelaxは緩和層16Bに対応し、区間Tcontはコンタクト層17に対応し、区間Tairは空気に対応する。
【表4】
【0125】
図23を参照すると、モード分布G43の電界は位相変調層12Bにおいてほぼゼロであり、位相変調層12Bにおける回折には寄与しない。また、基本モード分布G42とモード分布G43との結合係数はほぼゼロである。このことから、上部クラッド層15よりも屈折率の大きい緩和層16Bが活性層11及び位相変調層12Bから十分に離れることによって、活性層11及び位相変調層12Bを中心として生じる基本モードと、緩和層16B及びコンタクト層17において生じるモードとの結合を十分に抑制できることがわかる。
(第3変形例)
【0126】
図24は、第3変形例に係る面発光レーザ素子1Eの断面構成を模式的に示す図である。この面発光レーザ素子1Eは、緩和層16Aに代えて緩和層16Cを備える点において第1実施形態と相違し、他の点において第1実施形態と一致する。また、緩和層16Cは、厚さ方向におけるバンドギャップ及びAl組成の分布において第2変形例の緩和層16Bと相違し、他の点において第2変形例の緩和層16Bと一致する。
【0127】
緩和層16Cは、上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有する。そして、緩和層16Cのバンドギャップは、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて単調に小さくなる。図24には、厚さ方向における緩和層16Cのバンドギャップの分布を示すグラフG5が示されている。グラフG5において、横軸はバンドギャップを表し、縦軸は厚さ方向の位置を表す。グラフG5に示されるように、本変形例において緩和層16Cのバンドギャップは、上部クラッド層15のバンドギャップからコンタクト層17のバンドギャップへ近づくように段階的に変化する。図示例では、コンタクト層17のバンドギャップが上部クラッド層15のバンドギャップよりも小さいので、緩和層16Cのバンドギャップは、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて段階的に小さくなる。なお、図24においては、緩和層16Cのバンドギャップ分布を色の濃淡によって表しており、濃い部分ほどバンドギャップが大きい。バンドギャップの段階的変化における変化の回数(但し上部クラッド層15との界面における変化およびコンタクト層17との界面における変化を除く)は、例えば2回や3回など、1以上の任意の値としてよい。また、或る変化と別の変化との間において、バンドギャップは一定であってもよく、コンタクト層17側の界面に向けて次第に小さくなるようバンドギャップが連続的に変化してもよい。
【0128】
上部クラッド層15及び緩和層16CがAlを含む場合、緩和層16Cは、上部クラッド層15のAl組成比とコンタクト層17のAl組成比(コンタクト層17がAlを組成として含まない場合はゼロ)との間の大きさのAl組成比を有する。そして、緩和層16CのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて単調に小さくなる。図24には、厚さ方向における緩和層16CのAl組成比の分布を示すグラフG6が示されている。グラフG6において、横軸はAl組成比を表し、縦軸は厚さ方向の位置を表す。グラフG6に示されるように、本変形例において緩和層16CのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面にかけて段階的に小さくなる。Al組成比の段階的変化における変化の回数(但し上部クラッド層15との界面における変化およびコンタクト層17との界面における変化を除く)は、例えば2回や3回など、1以上の任意の値としてよい。また、或る変化と別の変化との間において、Al組成比は一定であってもよく、コンタクト層17側の界面に向けて次第に小さくなるようAl組成比が連続的に変化してもよい。
【0129】
本変形例のように、緩和層16Cのバンドギャップは、上部クラッド層15のバンドギャップからコンタクト層17のバンドギャップに近づくように段階的に変化してもよい。この場合であっても、上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを緩和層16Cが有することにより、緩和層16Cが設けられない場合と比較して、上部クラッド層15とコンタクト層17との間に生じるバンドギャップの変化率が緩和され、ポテンシャルバリアが低減される。故に、素子の電気抵抗が低下し、低い駆動電圧であっても十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力を小さくし、素子の信頼性を向上させることができる。
【0130】
また、本変形例のように、緩和層16CのAl組成比は、上部クラッド層15側の界面からコンタクト層17側の界面に向けて段階的に小さくなってもよい。この場合であっても、コンタクト層17と上部クラッド層15との間に上部クラッド層15よりもAl組成比の小さい緩和層16Cが介在することにより、Alの酸化による影響を低減できる。すなわち、本変形例によれば、Alの酸化による電気抵抗の増大を抑制し、より低い駆動電圧でもって十分なレーザ発振を得ることができる。その結果、消費電力をより小さくし、素子の信頼性を更に向上させることができる。
【0131】
なお、第1実施形態以外の前述した各実施形態及び各変形例(但し第2変形例を除く)もまた、緩和層16Aに代えて本変形例の緩和層16Cを備えてもよい。これにより、上記と同様の効果を奏することができる。
(第4変形例)
【0132】
第2実施形態の位相変調層12Bの変形例について詳細に説明する。本変形例では、仮想的な正方格子の格子間隔aと活性層11の発光波長λとがM点発振の条件を満たす。更に、位相変調層12Bにおいて逆格子空間(波数空間)を考えるとき、回転角度分布φ(x,y)による位相変調を受け、光像を形成する光の角度広がりに対応した波数広がりをそれぞれ含む定在波を示す4方向の面内波数ベクトルが形成される。そして、該面内波数ベクトルのうち少なくとも1つの大きさが、2π/λ(ライトライン)よりも小さい。以下、これらの点に関して詳細に説明する。
【0133】
まず、比較のため逆格子空間におけるΓ点で発振するフォトニック結晶レーザ(PCSEL)について説明する。PCSELは、活性層と、複数の異屈折率領域が二次元状に周期的に配列されたフォトニック結晶層を有する。PCSELは、フォトニック結晶層の厚み方向に垂直な面内において、異屈折率領域の配列周期に対応した発振波長の定在波を形成しつつ、半導体基板の主面の法線方向に沿ってレーザ光を出力する。また、Γ点発振のためには、仮想的な正方格子の格子間隔a、活性層11の発光波長λ、およびモードの等価屈折率nが条件:λ=naを満たすとよい。
【0134】
図25は、Γ点で発振するPCSELのフォトニック結晶層に関する逆格子空間(波数空間)を示す平面図である。この図は、複数の異屈折率領域が正方格子の格子点上に位置する場合を示し、図中の点Pは逆格子点を表す。また、図中の矢印B1は、基本逆格子ベクトルを表し、矢印B2それぞれは、基本逆格子ベクトルB1の2倍の逆格子ベクトルを表す。また、矢印K1、K2、K3、およびK4は、4つの面内波数ベクトルを表す。4つの面内波数ベクトルK1、K2、K3、およびK4は、90°および180°の回折を経て互いに結合し、定在波状態を形成している。ここで、逆格子空間において互いに直交するΓ-X軸およびΓ-Y軸を定義する。Γ-X軸は、正方格子の一辺と平行であり、Γ-Y軸は、正方格子の他辺と平行である。面内波数ベクトルとは、波数ベクトルをΓ-X・Γ-Y平面内に投影したベクトルである。すなわち、面内波数ベクトルK1は、Γ-X軸正方向を向き、面内波数ベクトルK2は、Γ-Y軸正方向を向き、面内波数ベクトルK3は、Γ-X軸負方向を向き、面内波数ベクトルK4は、Γ-Y軸負方向を向く。図25から明らかなように、Γ点で発振するPCSELにおいては、面内波数ベクトルK1~K4の大きさ(すなわち面内方向の定在波の大きさ)は、基本逆格子ベクトルB1の大きさと等しい。なお、面内波数ベクトルK1~K4の大きさkは、以下の式(9)で与えられる。
【数9】
【0135】
図26は、図25に示された逆格子空間を立体的に見た斜視図である。図26には、Γ-X軸およびΓ-Y軸の方向と直交するZ軸が示されている。このZ軸は、図1に示されたZ軸と同一である。図26に示されるように、Γ点で発振するPCSELでは、回折によって面内方向の波数が0となり、面垂直方向(Z軸方向)への回折が生じる(図中の矢印K5)。したがって、レーザ光は基本的にZ軸方向に出力される。
【0136】
次に、M点で発振するPCSELについて説明する。M点発振のためには、仮想的な正方格子の格子間隔a、活性層11の発光波長λ、およびモードの等価屈折率nが条件:λ=(√2)n×aを満たすとよい。図27は、M点で発振するPCSELのフォトニック結晶層に関する逆格子空間(波数空間)を示す平面図である。この図27もまた、複数の異屈折率領域が正方格子の格子点上に位置する場合を示し、図27中の点Pは逆格子点を表す。また、図27中の矢印B1は、図25と同様の基本逆格子ベクトルを表し、矢印K6、K7、K8、およびK9は、4つの面内波数ベクトルを表す。ここで、逆格子空間において互いに直交するΓ-M1軸およびΓ-M2軸を定義する。Γ-M1軸は、正方格子の一方の対角方向と平行であり、Γ-M2軸は、正方格子の他方の対角方向と平行である。面内波数ベクトルとは、波数ベクトルをΓ-M1・Γ-M2平面内に投影したベクトルである。すなわち、面内波数ベクトルK6は、Γ-M1軸正方向を向き、面内波数ベクトルK7は、Γ-M2軸正方向を向き、面内波数ベクトルK8は、Γ-M1軸負方向を向き、面内波数ベクトルK9は、Γ-M2軸負方向を向く。図27から明らかなように、M点で発振するPCSELにおいて、面内波数ベクトルK6~K9の大きさ(すなわち面内方向の定在波の大きさ)は、基本逆格子ベクトルB1の大きさよりも小さい。なお、面内波数ベクトルK6~K9の大きさkは、以下の式(10)で与えられる。
【数10】

回折は、波数ベクトルK6~K9に逆格子ベクトル(大きさは2mπ/a、m:整数)のベクトル和の方向に生じる。ただし、M点で発振するPCSELでは、回折によって面内方向の波数が0となり得ず、面垂直方向(Z軸方向)への回折は生じない。したがって、面垂直方向にレーザ光は出力されないため、通常、PCSELにおいてM点発振は用いられない。
【0137】
次に、Γ点で発振するS-iPMレーザについて説明する。なお、Γ点発振の条件は上述のPCSELの場合と同様である。図28は、Γ点で発振するS-iPMレーザの位相変調層に関する逆格子空間を示す平面図である。基本逆格子ベクトルB1はΓ点発振のPCSELと同様(図25を参照)であるが、面内波数ベクトルK1~K4は、回転角度分布φ(x,y)による位相変調を受け、光像の広がり角に対応した波数広がりSPをそれぞれ有する。波数広がりSPは、Γ点発振のPCSELにおける各面内波数ベクトルK1~K4の先端を中心とし、x軸方向およびy軸方向の辺の長さがそれぞれ2Δkxmax、2Δkymaxの矩形領域として表現できる。このような波数広がりSPによって、各面内波数ベクトルK1~K4は(Kix+Δkx、Kiy+Δky)の矩形状の範囲に広がる(i=1~4、KixはベクトルKiのx方向成分、KiyはベクトルKiのy方向成分)。ここで、-Δkxmax≦Δkx≦Δkxmax、-Δkymax≦Δky≦Δkymaxとなる。なお、ΔkxmaxおよびΔkymaxの大きさは、光像の広がり角に応じて定まる。言い換えると、ΔkxmaxおよびΔkymaxの大きさは、表示させようとする光像に依存する。
【0138】
図29は、図28に示された逆格子空間を立体的に見た斜視図である。図29には、Γ-X軸に沿った方向およびΓ-Y軸に沿った方向それぞれと直交するZ軸が示されている。このZ軸は、図8に示されたZ軸と同一である。図29に示されたように、Γ点で発振するS-iPMレーザの場合、面垂直方向(Z軸方向)への0次光のみでなく、Z軸方向に対して傾斜した方向への1次光および-1次光を含む2次元的な広がりを有する光像(ビームパターン)LMが出力される。
【0139】
次に、M点で発振するS-iPMレーザについて説明する。なお、M点発振の条件は上述のPCSELの場合と同様である。図30は、M点で発振するS-iPMレーザの位相変調層に関する逆格子空間を示す平面図である。基本逆格子ベクトルB1は、M点発振のPCSELと同様(図27を参照)であるが、面内波数ベクトルK6~K9は、回転角度分布φ(x,y)による波数広がりSPをそれぞれ有する。なお、波数広がりSPの形状および大きさは、上述のΓ点発振の場合と同様である。S-iPMレーザにおいても、M点発振の場合には面内波数ベクトルK6~K9の大きさ(すなわち面内方向の定在波の大きさ)は基本逆格子ベクトルB1の大きさよりも小さい(回折によって面内方向の波数が0となり得ず、面垂直方向(Z軸方向)への回折は生じない)。したがって、面垂直方向(Z軸方向)への0次光、並びにZ軸方向に対して傾斜した方向への1次光および-1次光の双方が出力されない。
【0140】
ここで、本変形例においては、M点で発振するS-iPMレーザにおいて次のような工夫を位相変調層12Bに施すことにより、0次光を出力しないまま、1次光および-1次光の一部を出力する。具体的には、図31に示されたように、面内波数ベクトルK6~K9に対して、或る一定の大きさおよび向きを有する回折ベクトルVを加算することにより、面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つ(図では面内波数ベクトルK8)の大きさを、2π/λよりも小さくする。換言すれば、回折ベクトルVが加算された後の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つ(面内波数ベクトルK8)は、半径2π/λの円状領域(ライトライン)LL内に収まる。なお、図31において破線で示される面内波数ベクトルK6~K9は回折ベクトルVの加算前を表し、実線で示される面内波数ベクトルK6~K9は回折ベクトルVの加算後を表す。ライトラインLLは全反射条件に対応しており、ライトラインLL内に収まる大きさの波数ベクトルは面垂直方向(Z軸方向)の成分を有することとなる。一例では、回折ベクトルVの方向は、Γ-M1軸またはΓ-M2軸に沿っており、その大きさは2π/(√2)a-2π/λから2π/(√2)a+2π/λの範囲内(一例として、2π/(√2)a)となる。
【0141】
面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つをライトラインLL内に収めるための回折ベクトルVの大きさおよび向きについて検討する。以下の式(11)~(14)は、回折ベクトルVが加えられる前の面内波数ベクトルK6~K9をそれぞれ示す。
【数11】

【数12】

【数13】

【数14】

なお、波数ベクトルの広がりΔkxおよびΔkyは、以下の式(15)および式(16)をそれぞれ満たし、面内波数ベクトルのx軸方向の広がりの最大値Δkxmaxおよびy軸方向の広がりの最大値Δkymaxは、設計上の光像を形成する光の角度広がりにより規定される。
【数15】

【数16】

ここで、回折ベクトルVを以下の式(17)のように表すとき、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK6~K9は、以下の式(18)~(21)となる。
【数17】

【数18】

【数19】

【数20】

【数21】

上記式(18)~(21)において波数ベクトルK6~K9のいずれかがライトラインLL内に収まることを考慮すると、以下の式(22)の関係が成り立つ。
【数22】

すなわち、上記式(22)を満たす回折ベクトルVを加えることにより、波数ベクトルK6~K9のいずれかがライトラインLL内に収まり、1次光および-1次光の一部が出力される。
【0142】
なお、ライトラインLLの大きさ(半径)を2π/λとしたのは次の理由による。図32は、ライトラインLLの周辺構造を模式的に説明するための図であって、Z軸方向に垂直な方向から見たデバイスと空気との境界を示している。真空中の光の波数ベクトルの大きさは2π/λとなるが、図32のようにデバイス媒質中を光が伝搬するとき、屈折率nの媒質内の波数ベクトルKaの大きさは2πn/λとなる。このとき、デバイスと空気の境界を光が伝搬するためには、境界に平行な波数成分が連続している必要がある(波数保存則)。図32で波数ベクトルKaとZ軸とが角度θをなす場合、面内に投影した波数ベクトル(すなわち面内波数ベクトル)Kbの長さは(2πn/λ)sinθとなる。一方で、一般に媒質の屈折率n>1の関係から、媒質内の面内波数ベクトルKbが2π/λより大きくなる角度では波数保存則が成立しなくなる。このとき、光は全反射し、空気側に取り出すことが出来ない。この全反射条件に対応する波数ベクトルの大きさがライトラインLLの大きさとなり、2π/λとなる。
【0143】
面内波数ベクトルK6~K9に回折ベクトルVを加算する具体的な方式の一例として、所望の光像を形成するための位相分布である回転角度分布φ1(x,y)(第1位相分布)に対し、光像とは無関係の回転角度分布φ2(x,y)(第2位相分布)を重畳する方式が考えられる。この場合、位相変調層12Bの回転角度分布φ(x,y)は、
φ(x,y)=φ1(x,y)+φ2(x,y)
として表される。φ1(x,y)は、上述のように光像を逆フーリエ変換したときの複素振幅の位相に相当する。また、φ2(x,y)は、上記式(22)を満たす回折ベクトルVを加えるための回転角度分布である。図33は、回転角度分布φ2(x,y)の一例を概念的に示す図である。図33に示されたように、この例では、第1の位相値φAと、第1位相値φAとは異なる値の第2位相値φBとが、市松模様に配列されている。すなわち、第1位相値φAとは異なる値の第2位相値φBとが、直交する2方向それぞれに沿って交互に配列されている。一例では、位相値φAは0(rad)であり、位相値φBはπ(rad)である。つまり、第1位相値φAと第2位相値φBとがπずつ変化する。このような位相値の配列によって、Γ-M1軸またはΓ-M2軸に沿った回折ベクトルVを好適に実現することができる。第1位相値φAと第2位相値φBとが上述のように市松模様に配列された場合、V=(±π/a,±π/a)のように、該回折ベクトルVは図30の波数ベクトルK6~K9と丁度相殺される。一般に、回折ベクトルVの角度分布θ2(x,y)は、回折ベクトルV(Vx,Vy)と位置ベクトルr(x,y)との内積で表され、次式で与えられる。
θ2(x,y)=V・r=Vx・x+Vy・y
前記のV=(±π/a,±π/a)の場合、位置ベクトルr(xa,ya)(x,y:整数)とすると位相値は0とπとなる。一方、回折ベクトルVは、面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つがライトラインLLに入る範囲内であれば、(±π/a、±π/a)からシフトしていてもよい。
【0144】
なお、第2実施形態の構造において、活性層11および位相変調層12Bを含む構成であれば、材料系、膜厚、層の構成は様々に変更され得る。ここで、仮想的な正方格子からの摂動が0の場合のいわゆる正方格子フォトニック結晶レーザに関してはスケーリング則が成り立つ。すなわち、波長が定数α倍となった場合、正方格子構造全体をα倍することによって同様の定在波状態を得ることが出来る。同様に、本変形例においても、波長に応じたスケーリング則によって位相変調層12Bの構造を決定することが可能である。
【0145】
以上に説明した、本変形例による位相変調層12Bによって得られる効果について説明する。本変形例では、仮想的な正方格子の格子間隔aと活性層11の発光波長λとが、M点発振の条件を満たす。通常、M点発振の定在波状態においては位相変調層12B内を伝搬する光が全反射してしまい、信号光(1次光および-1次光)と0次光との双方の出力が抑制される。しかしながら、本変形例では、位相変調層12Bの逆格子空間に形成される面内波数ベクトルであって回転角度分布φ(x,y)による波数広がりΔkをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルK6~K9のうち、少なくとも1つの大きさが2π/λ(ライトラインLL)よりも小さくなっている。S-iPMレーザでは、例えば回転角度分布φ(x,y)を工夫することにより、このような面内波数ベクトルK6~K9の調整が可能である。そして、少なくとも1つの面内波数ベクトルの大きさが2π/λよりも小さい場合、その面内波数ベクトルはZ軸方向の成分を有するので、結果的に信号光の一部が位相変調層12Bから出力されることとなる。但し、0次光は依然としてM点の定在波を形成する4つの波数ベクトル(±π/a、±π/a)のどれか1つと一致する方向で面内に閉じ込められるため、位相変調層12Bからライトライン内に出力されない。すなわち、本変形例によれば、S-iPMレーザの出力に含まれる0次光をライトライン内から取り除き、信号光のみをライトライン内に出力することができる。
【0146】
また、本変形例のように、回転角度分布φ(x,y)は、光像に応じた回転角度分布φ1(x,y)と光像とは無関係の回転角度分布φ2(x,y)とが重畳されてなってもよい。その場合、回転角度分布φ2(x,y)は、位相変調層12Bの逆格子空間上において、回転角度分布φ1(x,y)による4方向の面内波数ベクトルK6~K9に対して或る一定の大きさおよび向きを有する回折ベクトルVを加算するための回転角度分布であってもよい。そして、4方向の面内波数ベクトルK6~K9に回折ベクトルVが加算された結果、4方向の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つの大きさが2π/λよりも小さくなってもよい。これにより、逆格子空間において回転角度分布φ(x,y)による波数広がりΔkx、Δkyをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つの大きさが2π/λ(ライトライン)よりも小さい構成を容易に実現することができる。
【0147】
また、本変形例のように、回転角度分布φ2(x,y)は、互いに値が異なる位相値φA,φBが市松模様に配列されたパターンであってもよい。このような回転角度分布φ2(x,y)により、上述した回折ベクトルVを容易に実現することができる。
【0148】
図34は、位相変調層12Bの回転角度分布φ(x,y)の例を示す図である。また、図35は、図34に示された部分Sを拡大して示す図である。図34および図35において、回転角度の大きさは色の濃淡で表されており、濃い領域ほど回転角度が大きい(すなわち位相角が大きい)ことを示している。図35を参照すると、互いに値が異なる位相値が市松模様に配列されたパターンが重畳されていることがわかる。
【0149】
本変形例では、Z軸を含み、Z軸に関して対称なパターンを出力することもできる。このとき0次光がないため、Z軸上でもパターンの強度ムラを生じない。このようなビームパターンの設計例として、多点、メッシュ、および1次元パターンがある。このようなビームパターンを可視領域で出力することにより、例えば表示用途などに応用することができる。
(第5変形例)
【0150】
この変形例では、第3実施形態の位相変調層12Cにおいて、上述の第4変形例と同様に、仮想的な正方格子の格子間隔aと活性層11の発光波長λとがM点発振の条件を満たす。更に、位相変調層12Cにおいて逆格子空間を考えるとき、距離r(x,y)の分布による波数広がりをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルのうち少なくとも1つの大きさが、2π/λ(ライトライン)よりも小さい。
【0151】
詳述すると、本変形例においては、M点で発振するS-iPMレーザにおいて次のような工夫を位相変調層12Cに施すことにより、0次光をライトライン内に出力しないまま、1次光および-1次光の一部が出力される。具体的には、図31に示されたように、面内波数ベクトルK6~K9に対して、或る一定の大きさおよび向きを有する回折ベクトルVを加算することにより、面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つの大きさを、2π/λよりも小さくする。換言すれば、回折ベクトルVが加えられた後の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つは、半径2π/λの円状領域(ライトライン)LL内に収まる。すなわち、上述の式(22)を満たす回折ベクトルVを加えることにより、面内波数ベクトルK6~K9のいずれかがライトラインLL内に収まり、1次光および-1次光の一部が出力される。
【0152】
本変形例においても、仮想的な正方格子の格子間隔aと活性層11の発光波長λとがM点発振の条件を満たすとともに、位相変調層12Cの逆格子空間上において、距離r(x,y)の分布によって定在波を形成する平面波が位相変調され、光像の角度広がりによる波数広がりΔkをそれぞれ含む4方向の面内波数ベクトルK6~K9のうち少なくとも1つの大きさが2π/λ(ライトライン)よりも小さくなっている。または、4方向の面内波数ベクトルK6~K9から波数広がりΔkを除いたものに対して回折ベクトルVを加えることにより、少なくとも1つの面内波数ベクトルの大きさが、2π/λから波数広がりΔkを差し引いた値{(2π/λ)-Δk}より小さくなっている。従って、S-iPMレーザの出力に含まれる0次光をライトライン内から取り除き、信号光のみを出力することができる。
(実施例)
【0153】
本発明者は、第4変形例の面発光レーザ素子1Bを実際に作製し、評価を行った。その際、位相変調層12Bの異屈折率領域12bを正八角形の空孔とし、格子定数aを202nmとし、フィリングファクタを28%とし、重心Gと格子点Oとの距離rを0.08aとした。そして、出力光像において6行6列(計36個)の多点ビームを形成するように複数の異屈折率領域12bを配置した。また、位相変調層12Bにおける内側領域RINを一辺200μmの正方形とし、外側領域ROUTを一辺240μmの正方形とし、第2電極22とコンタクト層17との接触部分を一辺200μmの正方形とし、素子の平面形状を一辺800μmの正方形とした。なお、第1変形例のように、コンタクト層17のうち第2電極22が設けられた部分を除く部分を除去し、緩和層16Aを露出させた。
【0154】
図36は、本実施例において形成された多点ビームの遠視野像を示す図である。また、図37は、作製した面発光レーザ素子1Bの室温連続動作における電流-光出力特性を示すグラフである。図37において、横軸は電流(単位:mA)を示し、縦軸は光出力(単位:mW)を示す。また、図38は、作製した面発光レーザ素子1Bの室温連続動作における電流-電圧特性を示すグラフである。図38において、横軸は電流(単位:mA)を示し、縦軸は電圧(単位:V)を示す。
【0155】
図37を参照すると、駆動電流が或る値(この例では1000mA)を超えたのち、光出力が大きく立ち上がっていることがわかる。また、図38を参照すると、駆動電流の増大に伴って電圧も徐々に増大しており、高い電気抵抗による電圧の急激な増大、或いは電圧特性の高電圧側への突出(キンク)などが見られない。このように、緩和層16Aを設けることにより、電流-電圧特性の安定化、光出力の改善、および低電圧化を実現できる。
【0156】
図39は、発振前の低い駆動電流(30mA及び100mA)における、本実施例の近視野像(Near FieldPattern:NFP)を示す図である。図39(a)は駆動電流を30mAとした場合を示し、図39(b)は駆動電流を100mAとした場合を示す。これらのNFPを取得するに際しては、パルス状の駆動電流(パルス幅50ナノ秒、デューティ1%)を第1電極21と第2電極22との間に供給した。周囲温度は25℃であった。
【0157】
図39を参照すると、暗線などのノイズは特に観察されず、また、再成長表面(コンタクト層17の表面)における転位等の結晶欠陥が少なくモフォロジーが良好である。このことは、上部クラッド層15とコンタクト層17との間に緩和層16Aが介在することによってコンタクト層17の結晶品質が改善したことを示唆している。
【0158】
図40(a)は、本実施例において緩和層16Aの厚さを変化させたときの電流-光出力特性(IL特性)の相違を示すグラフである。図40(b)は、緩和層16Aの厚さを変化させたときの電流-電圧特性(IV特性)の相違を示すグラフである。図41図42(a)及び図42(b)は、作製された積層構造を模式的に示す図である。図中の数値は各層の厚さを表す。図40(a)及び図40(b)において、グラフG7は緩和層16Aの厚さが50nmである場合(図41を参照)を示す。また、比較例として、グラフG8は緩和層16Aに代えて厚さ50nmのp型GaAs層18を設けた場合(図42(a)を参照)を示し、グラフG9は緩和層16Aを設けず上部クラッド層15がコンタクト層17と接している場合(図42(b)を参照)を示す。図40(a)及び図40(b)を参照すると、緩和層16Aの厚さが50nmである場合(グラフG7)において、特にIL特性及びIV特性が改善されていることがわかる。
【0159】
本開示による面発光レーザ素子は、上述した実施形態に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上記実施形態では面発光レーザ素子がPCSELである場合及びS-iPMレーザである場合について例示した。面発光レーザ素子はこれらに限られず、基本層と、基本層とは屈折率が異なり厚さ方向に垂直な面内において二次元状に分布する複数の異屈折率領域とを含み、面内において光の共振モードを形成する共振モード形成層を備えるものであれば、他の様々な面発光レーザ素子に本開示の構成を適用できる。
【0160】
また、S-iPMレーザの構成として、複数の異屈折率領域の重心が、仮想的な正方格子の格子点から離れて配置されるとともに、格子点周りに光像に応じた回転角度を有する構成、及び、複数の異屈折率領域の重心が、仮想的な正方格子の格子点を通り正方格子に対して傾斜する直線上に配置され、各異屈折率領域の重心と、対応する格子点との距離が光像に応じて個別に設定されている構成を例示したが、他の構成を備えるS-iPMレーザに本開示の構成を適用してもよい。
【0161】
また、上記各実施形態ではコンタクト層17のバンドギャップが上部クラッド層15のバンドギャップより小さい場合を例示したが、コンタクト層17のバンドギャップは上部クラッド層15のバンドギャップより大きくてもよい。その場合においても、緩和層が上部クラッド層15のバンドギャップとコンタクト層17のバンドギャップとの間の大きさのバンドギャップを有することによって、上記各実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0162】
1A,1B…面発光レーザ素子、8…半導体基板、8a…主面、8b…裏面、10…半導体積層、11…活性層、12A…フォトニック結晶層、12a…基本層、12b,12c…異屈折率領域、12B,12C…位相変調層、13…下部クラッド層、14…光ガイド層、15…上部クラッド層、16A,16B,16C…緩和層、17…コンタクト層、21…第1電極、21a…開口部、22…第2電極、D…直線、E1…第1光像部分、E2…第2光像部分、E3…0次光、G…重心、G11,G21…屈折率分布、G12,G22…基本モード分布、G13,G23…モード分布、K6~K9,Kb…面内波数ベクトル、LL…ライトライン、Lout…レーザ光、O…格子点、Q…中心、R…単位構成領域、RIN…内側領域、ROUT…外側領域、S…部分、V…回折ベクトル。
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