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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】二酸化炭素電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 9/60 20210101AFI20240909BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 1/23 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 3/03 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 3/07 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 3/26 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 11/032 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 9/70 20210101ALI20240909BHJP
   C25B 15/00 20060101ALI20240909BHJP
   C25B 9/19 20210101ALI20240909BHJP
【FI】
C25B9/60
C25B1/04
C25B1/23
C25B3/03
C25B3/07
C25B3/26
C25B9/00 G
C25B9/00 Z
C25B9/00 A
C25B11/032
C25B11/052
C25B9/70
C25B15/00 302A
C25B9/19
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021150307
(22)【出願日】2021-09-15
(65)【公開番号】P2023042896
(43)【公開日】2023-03-28
【審査請求日】2023-03-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、環境省、二酸化炭素の資源化を通じた炭素循環社会モデル構築促進事業「多量CO2排出施設における人工光合成技術を用いた地域適合型二酸化炭素資源化モデルの構築実証」委託業務、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】工藤 由紀
(72)【発明者】
【氏名】小藤 勇介
(72)【発明者】
【氏名】田村 淳
(72)【発明者】
【氏名】山際 正和
(72)【発明者】
【氏名】清田 泰裕
(72)【発明者】
【氏名】北川 良太
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 智
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-045509(JP,A)
【文献】特開2021-109986(JP,A)
【文献】特開2019-157252(JP,A)
【文献】特開2019-056136(JP,A)
【文献】特開2001-273907(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0161720(US,A1)
【文献】中国実用新案第212152454(CN,U)
【文献】Ishizaki, Y., et al.,"Effects of Channel Structure and Wettability on Liquid Water Transport in Cathode of PEFC",ECS Transactions,2013年,Vol. 50, No. 2,pp. 375-384
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水を酸化して酸素を生成するためのアノードと、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、
前記カソードと接して設けられた表面と、前記表面に設けられるとともに前記カソードに面するカソード流路と、を有するカソード流路板と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられたセパレータと、
を備える電解セルを具備し、
前記表面は、前記カソードと接して設けられるとともに、水に対する接触角が45度未満である親水性領域を有し、
前記カソード流路は、
第1の流路領域と、
前記第1の流路領域と離間する第2の流路領域と、
を含み、
前記親水性領域は、前記表面において前記第1の流路領域と前記第2の流路領域との間に設けられる、二酸化炭素電解装置。
【請求項2】
水を酸化して酸素を生成するためのアノードと、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、
前記カソードと接して設けられた表面と、前記表面に設けられるとともに前記カソードに面するカソード流路と、を有するカソード流路板と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられたセパレータと、
を備える電解セルを具備し、
前記表面は、前記カソードと接して設けられるとともに、水に対する接触角が45度未満である親水性領域を有し、
前記親水性領域は、
前記表面において、前記カソード流路の入口から前記カソード流路の長さ方向に全流路長の1/3の長さを有する部分までの領域に沿って延在する、二酸化炭素電解装置。
【請求項3】
水を酸化して酸素を生成するためのアノードと、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、
前記カソードと接して設けられた表面と、前記表面に設けられるとともに前記カソードに面するカソード流路と、を有するカソード流路板と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられたセパレータと、
を備える電解セルを具備し、
前記表面は、前記カソードと接して設けられるとともに、水に対する接触角が45度未満である親水性領域を有し、
前記親水性領域は、0.1μm以上10μm以下の平均孔径を有する多孔質領域である、二酸化炭素電解装置。
【請求項4】
水を酸化して酸素を生成するためのアノードと、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、
前記カソードと接して設けられた表面と、前記表面に設けられるとともに前記カソードに面するカソード流路と、を有するカソード流路板と、
前記アノードと前記カソードとの間に設けられたセパレータと、
を備える電解セルを具備し、
前記表面は、前記カソードと接して設けられるとともに、水に対する接触角が45度未満である親水性領域を有し、
前記親水性領域は、10nm以上30μm以下の算術平均粗さを有する凹凸領域である、二酸化炭素電解装置。
【請求項5】
前記カソードは、
前記二酸化炭素を還元して前記炭素化合物を生成するための還元触媒を含む触媒層と、
前記触媒層上に設けられたガス拡散層と、を有し、
前記親水性領域は、前記ガス拡散層に接する、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項6】
前記親水性領域は、前記表面の全体に設けられる、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項7】
前記カソード流路の出口は、前記表面において前記カソード流路の入口に隣接して設けられる、請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項8】
水を酸化して酸素を生成するための第1のアノードと、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するための第1のカソードと、
前記第1のアノードと前記第1のカソードとの間に設けられた第1のセパレータと、
水を酸化して酸素を生成するための第2のアノードと、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するための第2のカソードと、
前記第2のアノードと前記第2のカソードとの間に設けられた第2のセパレータと、
前記第1のカソードと接して設けられた第1の表面と、前記第1の表面に設けられるとともに前記第1のカソードに面するカソード流路と、前記第2のアノードと接して設けられた第2の表面と、前記第2の表面に設けられるとともに前記第2のアノードに面するアノード流路と、前記カソード流路と前記アノード流路との間に設けられ、水に対する接触角が45度未満であるとともに0.01μm以上10μm以下の平均孔径を有する親水性多孔質領域と、を有する第1の流路板と、
を備える電解セルを具備する、二酸化炭素電解装置。
【請求項9】
水を酸化して酸素を生成するための第1のアノードと、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するための第1のカソードと、
前記第1のアノードと前記第1のカソードとの間に設けられた第1のセパレータと、
水を酸化して酸素を生成するための第2のアノードと、
二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するための第2のカソードと、
前記第2のアノードと前記第2のカソードとの間に設けられた第2のセパレータと、
前記第1のカソードと接して設けられた第1の表面と、前記第1の表面に設けられるとともに前記第1のカソードに面する第1のカソード流路と、前記第2のカソードと接して設けられた第2の表面と、前記第2の表面に設けられるとともに前記第2のカソードに面する第2のカソード流路と、前記第1のカソード流路と前記第2のカソード流路との間に設けられ、水に対する接触角が45度未満であるとともに0.01μm以上10μm以下の平均孔径を有する親水性多孔質領域と、を有する第2の流路板と、
を具備する、二酸化炭素電解装置。
【請求項10】
前記第2のカソード流路の入口は、前記第2のカソード流路の出口よりも前記第1のカソード流路の出口に近く、
前記第2のカソード流路の出口は、前記第2のカソード流路の入口よりも前記第1のカソード流路の出口に近い、請求項に記載の二酸化炭素電解装置。
【請求項11】
前記カソードに二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給部と、
前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方に水を含む電解溶液を供給する電解溶液供給部と、
前記アノードと前記カソードとに接続され、前記アノードと前記カソードとの間に電圧を印加する電源制御部と、
前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方にガス状物質を供給するガス供給部と、前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方にリンス液を供給するリンス液供給部と、を備えるリフレッシュ材供給部と、
前記電解セルの性能の要求基準に基づいて、前記二酸化炭素供給部による前記二酸化炭素の供給を停止し、前記電解溶液供給部による前記電解溶液の供給を停止するとともに、前記リフレッシュ材供給部により前記アノードおよび前記カソードの少なくとも一方にリンス液を供給する動作を制御する制御部と、
をさらに具備する、請求項1ないし請求項のいずれか一項に記載の二酸化炭素電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、二酸化炭素電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油や石炭といった化石燃料の枯渇が懸念され、持続的に利用できる再生可能エネルギーへの期待が高まっている。再生可能エネルギーとしては、太陽電池や風力発電等が挙げられる。これらは発電量が天候や自然状況に依存するため、電力の安定供給が難しいという課題を有している。そのため、再生可能エネルギーで発生させた電力を蓄電池に貯蔵し、電力を安定化させることが試みられている。しかし、電力を貯蔵する場合、蓄電池にコストを要したり、また蓄電時にロスが発生するといった問題がある。
【0003】
このような点に対して、再生可能エネルギーで発生させた電力を用いて水電解を行い、水から水素(H)を製造したり、あるいは二酸化炭素(CO)を電気化学的に還元し、一酸化炭素(CO)、ギ酸(HCOOH)、メタノール(CHOH)、メタン(CH)、酢酸(CHCOOH)、エタノール(COH)、エタン(C)、エチレン(C)等の炭素化合物のような化学物質(化学エネルギー)に変換する技術が注目されている。これらの化学物質をボンベやタンクに貯蔵する場合、電力(電気エネルギー)を蓄電池に貯蔵する場合に比べて、エネルギーの貯蔵コストを低減することができ、また貯蔵ロスも少ないという利点がある。
【0004】
二酸化炭素の電解装置としては、例えばカソードにAgナノ粒子触媒を用い、カソードにカソード溶液とCOガスを接触させると共に、アノードにアノード溶液を接触させる構造が検討されている。電解装置の具体的な構成としては、例えばカソードの一方の面に沿って配置されたカソード溶液流路と、カソードの他方の面に沿って配置されたCOガス流路と、アノードの一方の面に沿って配置されたアノード溶液流路と、カソード溶液流路とアノード溶液流路との間に配置されたセパレータとを備える構成が挙げられる。このような構成を有する電解装置を用いて、例えばカソードとアノードに定電流を流して、COから例えばCOを生成する反応を長時間実施した場合、COの生成量が低下したり、セル電圧が増加したりする等といった経時的なセル性能の劣化が生じるという課題がある。このため、経時的なセル性能の劣化を抑制することを可能にした二酸化炭素の電解装置が求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Zengcal Liu et al., Journal of CO2 Utilization, 15, p.50-56(2015)
【文献】Sinchao Ma et al., Journal of The Electrochemical Society, 161(10), F1124-F1131(2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、電解セルの性能を維持することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態の二酸化炭素電解装置は、水を酸化して酸素を生成するためのアノードと、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成するためのカソードと、カソードと接して設けられた表面と、表面に設けられるとともにカソードに面するカソード流路と、を有するカソード流路板と、アノードとカソードとの間に設けられたセパレータと、を備える電解セルを具備する。表面は、カソードと接して設けられるとともに、水に対する接触角が45度未満である親水性領域を有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第1の実施形態の二酸化炭素電解装置の構成を示す図である。
図2図1に示す二酸化炭素電解装置の電解セルを示す断面図である。
図3図2に示す電解セルにおけるアノード流路の一例を示す図である。
図4図2に示す電解セルにおけるカソード流路の一例を示す図である。
図5図2に示す電解セルにおけるカソード流路の他の例を示す図である。
図6図2に示す電解セルにおけるカソード流路の一例を示す図である。
図7図2に示す電解セルにおけるカソードの一例を示す図である。
図8図2に示す電解セルにおけるカソードの他の例を示す図である。
図9図2に示す電解セルにおけるカソードでの反応を模式的に示す図である。
図10】第1の実施形態の二酸化炭素電解装置の運転工程を示す図である。
図11】第1の実施形態の二酸化炭素電解装置のリフレッシュ工程を示す図である。
図12】第1の実施形態の二酸化炭素電解装置の動作を説明するための図である。
図13図2に示す電解セルにおけるカソード流路の他の例を示す図である。
図14図2に示す電解セルにおけるカソード流路の別の例を示す図である。
図15図2に示す電解セルにおけるカソード流路の別の例を示す図である。
図16図2に示す電解セルにおけるカソード流路の別の例を示す図である。
図17図2に示す電解セルにおけるカソード流路の別の例を示す断面図である。
図18図2に示す電解セルにおけるカソード流路の別の例を示す断面図である。
図19】第2の実施形態の二酸化炭素電解装置を示す図である。
図20図19に示す二酸化炭素電解装置の電解セルを示す断面図である。
図21図19に示す電解セルの他の断面構造例を示す図である。
図22図19に示す電解セルの別の断面構造例を示す図である。
図23】実施例1のカソード流路の平面形状を示す図である。
図24】実施例3のカソード流路の平面形状を示す図である。
図25】実施例8のカソード流路の平面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。以下に示す各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0010】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の二酸化炭素電解装置の構成を示す図であり、図2図1に示す電解装置における電解セルの構成を示す断面図である。図1に示す二酸化炭素の電解装置1は、電解セル2と、電解セル2にアノード溶液を供給するアノード溶液供給系統100と、電解セル2にカソード溶液を供給するカソード溶液供給系統200と、電解セル2に二酸化炭素(CO)ガスを供給するガス供給系統300と、電解セル2における還元反応により生成した生成物を収集する生成物収集系統400と、収集した生成物の種類や生成量を検出すると共に、生成物の制御やリフレッシュ動作の制御を行う制御系500と、カソード溶液やアノード溶液の廃液を収集する廃液収集系統600と、電解セル2のアノードやカソード等を回復させるリフレッシュ材供給部700とを具備している。なお、リフレッシュ動作に必要な構成要素は必ずしも設けられなくてもよい。
【0011】
電解セル2は、図2に示すように、アノード部10とカソード部20とセパレータ30とを具備している。アノード部10は、アノード11、アノード流路12(アノード溶液流路)、アノード集電板13、を備えている。カソード部20は、カソード流路21(カソード溶液流路)、カソード22、カソード流路(COガス流路)23、およびカソード集電板24を備えている。セパレータ30は、アノード部10とカソード部20とを分離するように配置されている。アノード11、アノード流路(アノード溶液流路)12、アノード集電板13、カソード流路21、カソード22、カソード流路23、カソード集電板24、およびセパレータ30は、互いに積層されていてもよい。また、カソード流路21は無くてもよい。電解セル2は、図示しない一対の支持板で挟み込まれ、さらにボルト等で締め付けられている。図1および図2において、アノード11およびカソード22に電流を流す電源制御部40が設けられている。電源制御部40は電流導入部材を介してアノード11およびカソード22と接続されている。電源制御部40は、通常の系統電源や電池等に限られるものではなく、太陽電池や風力発電等の再生可能エネルギーで発生させた電力を供給する電力源を有していてもよい。なお、電源制御部40は、上記電力源と、上記電力源の出力を調整してアノード11とカソード22との間の電圧を制御するパワーコントローラ等を有していてもよい。
【0012】
アノード11は、水または水酸化物を含む物質を酸化して酸素を含む酸化生成物を生成するために設けられる。アノード11は、電解溶液としてのアノード溶液中の水(HO)の酸化反応を生起し、酸素(O)や水素イオン(H)を生成する、もしくはカソード部20で生じた水酸化物イオン(OH)の酸化反応を生起し、酸素(O)や水(HO)を生成する電極(酸化電極)である。アノード11は、セパレータ30と接する第1の面11aと、アノード流路12に面する第2の面11bとを有する。アノード11の第1の面11aは、セパレータ30と密着している。アノード流路12は、アノード11に面し、アノード11に電解溶液としてアノード溶液を供給するものであり、流路板14(アノード流路板)に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。アノード溶液は、アノード11と接するようにアノード流路12内を流通する。アノード集電板13は、アノード流路12を構成する流路板14のアノード11とは反対側の面と電気的に接している。
【0013】
流路板14には、図示を省略した溶液導入口と溶液導出口とが設けられており、これら溶液導入口および溶液導出口を介して、アノード溶液供給系統100によりアノード溶液が導入および排出される。流路板14には、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。アノード流路12には、図3に示すように、複数のランド(凸部)14aが設けられていることが好ましい。ランド14aは、機械的な保持と電気的な導通のために設けられている。ランド14aは、アノード溶液の流れを均一化させるために、互い違いに設けることが好ましい。このようなランド14aによって、アノード流路12は蛇行している。さらに、酸素(O)ガスが混在するアノード溶液を良好に排出するためにも、アノード流路12にランド14aを互い違いに設け、アノード流路12を蛇行させることが好ましい。
【0014】
アノード11は、水(HO)を酸化して酸素や水素イオンを生成する、もしくは水酸化物イオン(OH)を酸化して水や酸素を生成することが可能で、そのような反応の過電圧を減少させることが可能な触媒材料(アノード触媒材料)で主として構成されることが好ましい。そのような触媒材料としては、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)等の金属、それらの金属を含む合金や金属間化合物、酸化マンガン(Mn-O)、酸化イリジウム(Ir-O)、酸化ニッケル(Ni-O)、酸化コバルト(Co-O)、酸化鉄(Fe-O)、酸化スズ(Sn-O)、酸化インジウム(In-O)、酸化ルテニウム(Ru-O)、酸化リチウム(Li-O)、酸化ランタン(La-O)等の二元系金属酸化物、Ni-Co-O、Ni-Fe-O、La-Co-O、Ni-La-O、Sr-Fe-O等の三元系金属酸化物、Pb-Ru-Ir-O、La-Sr-Co-O等の四元系金属酸化物、Ru錯体やFe錯体等の金属錯体が挙げられる。
【0015】
アノード11は、セパレータ30とアノード流路12との間でアノード溶液やイオンを移動させることが可能な構造、例えばメッシュ材、パンチング材、多孔体、金属繊維焼結体等の多孔構造を有する基材を備えている。基材は、チタン(Ti)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の金属やこれら金属を少なくとも1つ含む合金(例えばSUS)等の金属材料で構成してもよいし、上述したアノード触媒材料で構成してもよい。アノード触媒材料として酸化物を用いる場合には、上記した金属材料からなる基材の表面にアノード触媒材料を付着もしくは積層して触媒層を形成することが好ましい。アノード触媒材料は、酸化反応を高める上でナノ粒子、ナノ構造体、ナノワイヤ等を有することが好ましい。ナノ構造体とは、触媒材料の表面にナノスケールの凹凸を形成した構造体である。
【0016】
カソード22は、二酸化炭素を含む物質を還元して炭素化合物を含む還元生成物を生成するために設けられる。カソード22は、二酸化炭素(CO)の還元反応やそれにより生成される炭素化合物の還元反応を生起し、一酸化炭素(CO)、メタン(CH)、エタン(C)、エチレン(C)、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)、エチレングリコール(C)等の炭素化合物を生成する電極(還元電極)である。カソード22においては、二酸化炭素(CO)の還元反応と同時に、水(HO)の還元反応により水素(H)を発生する副反応が生起される場合がある。カソード22は、カソード流路21に面する第1の面22aと、カソード流路23に面する第2の面22bとを有する。カソード流路21は、電解溶液としてのカソード溶液がカソード22およびセパレータ30と接するように、カソード22とセパレータ30との間に配置されている。
【0017】
カソード流路21は、カソード22に面し、流路板25(カソード流路板)に設けられた開口部により構成されている。流路板25には、図示を省略した溶液導入口と溶液導出口とが設けられており、これら溶液導入口および溶液導出口を介して、カソード溶液供給系統200により電解溶液としてカソード溶液が導入および排出される。カソード溶液は、カソード22およびセパレータ30と接するようにカソード流路21内を流通する。カソード流路21を構成する流路板25には、化学反応性が低く、かつ導電性を有しない材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、アクリル樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、フッ素樹脂等の絶縁樹脂材料が挙げられる。カソード流路21はセル抵抗の増加につながるため、なくても良い。
【0018】
カソード22においては、主としてカソード溶液に接している部分でCOの還元反応が生じる。このため、カソード流路21には、図4に示すように、開口面積が広い開口部を適用することが好ましい。ただし、機械的な保持や電気的な接続性を高めるために、図5に示すように、カソード流路21にランド(凸部)26を設けてもよい。カソード流路21のランド26は、カソード流路21の中央部に設けられており、カソード流路21内のカソード溶液の流通を妨げないように、ランド26より薄いブリッジ部27で流路板25に保持されている。カソード流路21にランド26を設ける場合、セル抵抗を低減するために、ランド26の数は少ない方が好ましい。
【0019】
ランド26の少なくとも一部は、流路板14のランド14aに重畳することが好ましい。これにより良好な電気的接続を実現し、電解セル2の電気抵抗を低減させることができる。また、セパレータ30とアノード触媒材料とカソード触媒材料との良好な接触を実現し、電気的抵抗の低減だけでなく、反応を効率的に行うことができる。また、アノード流路16の少なくとも一部は、ランド26に重畳することが好ましい。これにより良好な電気的接続を実現し、電解セル2の電気抵抗を低減させることができる。また、セパレータ30とアノード触媒材料とカソード触媒材料との良好な接触を実現し、電気的抵抗の低減だけでなく、反応を効率的に行うことができる。
【0020】
カソード流路23は、カソード22に面し、流路板(カソード流路板)28に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。二酸化炭素を含む気体が流れるCOガス流路を構成する流路板28には、化学反応性が低く、かつ導電性が高い材料を用いることが好ましい。そのような材料としては、TiやSUS等の金属材料、カーボン等が挙げられる。なお、流路板14、流路板25、および流路板28には、図示を省略した溶液やガスの導入口および導出口、また締め付けのためのネジ穴等が設けられている。また、各流路板14、25、28の前後には、図示を省略したパッキンが必要に応じて挟み込まれる。
【0021】
流路板28には、図示を省略したガス導入口とガス導出口とが設けられており、これらガス導入口およびガス導出口を介して、ガス供給系統300によりCOガスもしくはCOを含むガス(総称して、単にCOガスと呼称する場合もある。)が導入および排出される。COガスは、カソード22と接するようにカソード流路23内を流通する。カソード流路23には、図6に示すように、複数のランド(凸部)29が設けられていることが好ましい。ランド29は、機械的な保持と電気的な導通のために設けられている。ランド29は互い違いに設けることが好ましく、これによりカソード流路23はアノード流路12と同様に蛇行している。カソード集電板24は、流路板28のカソード22とは反対側の面と電気的に接している。
【0022】
実施形態の電解セル2においては、アノード流路12およびカソード流路23にランド14a、29を設けることで、アノード11とアノード流路12を構成する流路板14との接触面積、およびカソード22とカソード流路23を構成する流路板28との接触面積を増やすことができる。また、カソード流路21にランド26を設けることで、カソード22とカソード流路21を構成する流路板25との接触面積を増やすことができる。これらによって、電解セル2の機械的な保持性を高めつつ、アノード集電板13とカソード集電板24との間の電気的な導通が良好になり、COの還元反応効率等を向上させることが可能になる。
【0023】
さらに、流路板28のカソード22側の表面28aは、カソード22に接する領域に親水性領域280を有する。親水性領域280は、水に対する接触角が0度以上45度未満である。上記接触角は30度以下、さらには15度以下であることが好ましい。親水性領域280は、二酸化炭素等のガスが透過しなくてもよい。
【0024】
表面28aのその他の部分の水に対する接触角は、45度以上180度以下であってもよい。
【0025】
図6は、親水性領域280が表面28aの全体に設けられる例を示すが、この例に限定されず、親水性領域280は、表面28aの少なくとも一部に設けられていればよい。
【0026】
親水性領域280は、例えばカーボン粒子等を付着させて表面28aを粗化する方法、表面28aをポリアセチレンやポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール等の親水性の導電性ポリマーによりコーティングする方法、または流路板28を親水性材料により構成する方法により形成可能である。
【0027】
カソード22は、図7に示すように、ガス拡散層22Aとその上に設けられたカソード触媒層22Bとを有している。ガス拡散層22Aとカソード触媒層22Bとの間には、図8に示すように、ガス拡散層22Aより緻密な多孔質層22Cを配置してもよい。図9に示すように、ガス拡散層22Aはカソード流路23側に配置され、カソード触媒層22Bはカソード流路21側に配置される。カソード触媒層22Bは、ガス拡散層22A中に入り込んでいてもよい。カソード触媒層22Bは、触媒ナノ粒子や触媒ナノ構造体等を有することが好ましい。ガス拡散層22Aは、例えばカーボンペーパやカーボンクロス等により構成され、撥水処理が施されている。多孔質層22Cは、カーボンペーパやカーボンクロスより孔径が小さい多孔体により構成される。
【0028】
図9の模式図に示すように、カソード触媒層22Bにおいてはカソード流路21からカソード溶液やイオンが供給および排出される。ガス拡散層22Aにおいては、カソード流路23からCOガスが供給され、またCOガスの還元反応の生成物が排出される。ガス拡散層22Aに適度な撥水処理を施しておくことによって、カソード触媒層22Bには主としてガス拡散によりCOガスが到達する。COの還元反応やそれにより生成される炭素化合物の還元反応は、ガス拡散層22Aとカソード触媒層22Bとの境界近傍、もしくはガス拡散層22A中に入り込んだカソード触媒層22B近傍で生起し、ガス状の生成物はカソード流路23から主として排出され、液状の生成物はカソード流路21から主として排出される。
【0029】
カソード触媒層22Bは、二酸化炭素を還元して炭素化合物を生成する、また必要に応じてそれにより生成した炭素化合物を還元して炭素化合物を生成することが可能で、そのような反応の過電圧を減少させることが可能な触媒材料(カソード触媒材料)で構成することが好ましい。そのような材料としては、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、チタン(Ti)、カドミウム(Cd)、亜鉛(Zn)、インジウム(In)、ガリウム(Ga)、鉛(Pb)、錫(Sn)等の金属、それらの金属を少なくとも1つ含む合金や金属間化合物等の金属材料、炭素(C)、グラフェン、CNT(カーボンナノチューブ)、フラーレン、ケッチェンブラック等の炭素材料、Ru錯体やRe錯体等の金属錯体が挙げられる。カソード触媒層22Bには、板状、メッシュ状、ワイヤ状、粒子状、多孔質状、薄膜状、島状等の各種形状を適用することができる。
【0030】
カソード触媒層22Bを構成するカソード触媒材料は、上記した金属材料のナノ粒子、金属材料のナノ構造体、金属材料のナノワイヤ、もしくは上記した金属材料のナノ粒子がカーボン粒子、カーボンナノチューブ、グラフェン等の炭素材料に担持された複合体を有することが好ましい。カソード触媒材料として触媒ナノ粒子、触媒ナノ構造体、触媒ナノワイヤ、触媒ナノ担持構造体等を適用することによって、カソード22における二酸化炭素の還元反応の反応効率を高めることができる。
【0031】
セパレータ30は、アノード11とカソード22との間に設けられる。アノード11とカソード22との間でイオンを移動させることができ、かつアノード部10とカソード部20とを分離することが可能なイオン交換膜等で構成される。イオン交換膜としては、例えばナフィオンやフレミオンのようなカチオン交換膜、ネオセプタやセレミオンのようなアニオン交換膜を使用することができる。後述するように、アノード溶液やカソード溶液としてアルカリ溶液を使用し、主として水酸化物イオン(OH)の移動を想定した場合、セパレータ30はアニオン交換膜で構成することが好ましい。ただし、イオン交換膜以外にもアノード11とカソード22との間でイオンを移動させることが可能な材料であれば、ガラスフィルタ、多孔質高分子膜、多孔質絶縁材料等をセパレータ30に適用してもよい。
【0032】
電解溶液としてのアノード溶液およびカソード溶液は、少なくとも水(HO)を含む溶液であることが好ましい。二酸化炭素(CO)は、カソード流路23から供給されるため、カソード溶液は二酸化炭素(CO)を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。アノード溶液とカソード溶液には、同一の溶液を適用してもよいし、異なる溶液を適用してもよい。アノード溶液およびカソード溶液として用いるHOを含む溶液としては、任意の電解質を含む水溶液が挙げられる。電解質を含む水溶液としては、例えば水酸化物イオン(OH)、水素イオン(H)、カリウムイオン(K)、ナトリウムイオン(Na)、リチウムイオン(Li)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、ヨウ化物イオン(I)、硝酸イオン(NO )、硫酸イオン(SO 2-)、リン酸イオン(PO 2-)、ホウ酸イオン(BO 3-)、および炭酸水素イオン(HCO )から選ばれる少なくとも1つを含む水溶液が挙げられる。電解溶液の電気的な抵抗を低減するためには、アノード溶液およびカソード溶液として、水酸化カリウムや水酸化ナトリウム等の電解質を高濃度に溶解させたアルカリ溶液を用いることが好ましい。
【0033】
カソード溶液には、イミダゾリウムイオンやピリジニウムイオン等の陽イオンと、BF やPF 等の陰イオンとの塩からなり、幅広い温度範囲で液体状態であるイオン液体もしくはその水溶液を用いてもよい。その他のカソード溶液としては、エタノールアミン、イミダゾール、ピリジン等のアミン溶液もしくはその水溶液が挙げられる。アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれでもかまわない。
【0034】
アノード部10のアノード流路12には、アノード溶液供給系統100から電解溶液としてアノード溶液が供給される。アノード溶液供給系統100は、アノード溶液がアノード流路12内を流通するように、アノード溶液を循環させる。アノード溶液供給系統100は、圧力制御部101、アノード溶液タンク102、流量制御部(ポンプ)103、基準電極104、および圧力計105を有しており、アノード溶液がアノード流路12を循環するように構成されている。アノード溶液タンク102は、循環するアノード溶液中に含まれる酸素(O)等のガス成分を収集する、図示しないガス成分収集部に接続されている。アノード溶液は、圧力制御部101および流量制御部103において、流量や圧力が制御されてアノード流路12に導入される。
【0035】
カソード部20のカソード流路21には、カソード溶液供給系統200からカソード溶液が供給される。カソード溶液供給系統200は、カソード溶液がカソード流路21内を流通するように、カソード溶液を循環させる。カソード溶液供給系統200は、圧力制御部201、カソード溶液タンク202、流量制御部(ポンプ)203、基準電極204、および圧力計205を有しており、カソード溶液がカソード流路21を循環するように構成されている。カソード溶液タンク202は、循環するカソード溶液中に含まれる一酸化炭素(CO)等のガス成分を収集するガス成分収集部206に接続されている。カソード溶液は、圧力制御部201および流量制御部203において、流量や圧力が制御されてカソード流路21に導入される。
【0036】
カソード流路23には、ガス供給系統300からCOガスが供給される。ガス供給系統300は、COガスボンベ301、流量制御部302、圧力計303、および圧力制御部304を有している。COガスは、流量制御部302および圧力制御部304において、流量や圧力が制御されてカソード流路23に導入される。ガス供給系統300は、カソード流路23を流通したガス中の生成物を収集する生成物収集系統400と接続されている。生成物収集系統400は、気液分離部401と生成物収集部402とを有している。カソード流路23を流通したガス中に含まれるCOやH等の還元生成物は、気液分離部401を介して生成物収集部402に蓄積される。
【0037】
アノード溶液やカソード溶液は、上述したように電解反応動作時においてはアノード流路12やカソード流路21を循環する。後述する電解セル2のリフレッシュ動作時には、アノード11、アノード流路12、カソード22、カソード流路21等がアノード溶液やカソード溶液から露出するように、アノード溶液やカソード溶液は廃液収集系統600に排出される。廃液収集系統600は、アノード流路12およびカソード流路21に接続された廃液収集タンク601を有する。アノード溶液やカソード溶液の廃液は、図示しないバルブを開閉することによって、廃液収集タンク601に収集される。バルブの開閉等は制御系500により一括して制御される。廃液収集タンク601は、リフレッシュ材供給部700から供給されるリンス液の収集部としても機能する。さらに、リフレッシュ材供給部700から供給され、液状物質を一部含むガス状物質も、必要に応じて廃液収集タンク601で収集される。
【0038】
リフレッシュ材供給部700は、ガス状物質供給系710とリンス液供給系720とを備えている。なお、リンス液供給系720は、場合によっては省くことも可能である。ガス状物質供給系710は、空気、二酸化炭素、酸素、窒素、アルゴン等のガス状物質の供給源となるガスタンク711と、ガス状物質の供給圧力を制御する圧力制御部712とを有している。リンス液供給系720は、水等のリンス液の供給源となるリンス液タンク721と、リンス液の供給流量等を制御する流量制御部(ポンプ)722とを有している。ガス状物質供給系710およびリンス液供給系720は、配管を介してアノード流路12、カソード流路21、およびカソード流路23に接続されている。ガス状物質やリンス液は、図示しないバルブを開閉することによって、各流路12、21、23に供給される。バルブの開閉等は制御系500により一括して制御される。
【0039】
生成物収集部402に蓄積された還元生成物の一部は、制御系500の還元性能検出部501に送られる。還元性能検出部501においては、還元生成物中のCOやH等の各生成物の生成量や比率が検出される。検出された各生成物の生成量や比率は、制御系500のデータ収集・制御部502に入力される。さらに、データ収集・制御部502は電解セル2のセル性能の一部として、セル電圧、セル電流、カソード電位、アノード電位等の電気的なデータやアノード溶液流路およびカソード溶液流路の内部の圧力および圧力損失等のデータを収集してリフレッシュ制御部503に送る。
【0040】
データ収集・制御部502は、還元性能検出部501に加えて、電源制御部40、アノード溶液供給系統100の圧力制御部101や流量制御部103、カソード溶液供給系統200の圧力制御部201や流量制御部203、ガス供給系統300の流量制御部302や圧力制御部304、およびリフレッシュ材供給部700の圧力制御部712や流量制御部722と、一部図示を省略した双方向の信号線を介して電気的に接続されており、これらは一括して制御される。なお、各配管には図示しないバルブが設けられており、バルブの開閉動作はデータ収集・制御部502からの信号により制御される。データ収集・制御部502は、例えば電解動作時に上記構成要素の動作を制御してもよい。
【0041】
リフレッシュ制御部503は、電源制御部40、アノード溶液供給系統100の流量制御部103、カソード溶液供給系統200の流量制御部203、ガス供給系統300の流量制御部302、およびリフレッシュ材供給部700の圧力制御部712、流量制御部722と、一部図示を省略した双方向の信号線を介して電気的に接続されており、これらは一括して制御される。なお、各配管には図示しないバルブが設けられており、バルブの開閉動作はリフレッシュ制御部503からの信号により制御される。リフレッシュ制御部503は、例えば電解動作時に上記構成要素の動作を制御してもよい。また、リフレッシュ制御部503およびデータ収集・制御部502を一つの制御部により構成してもよい。
【0042】
実施形態の二酸化炭素の電解装置1の運転動作について説明する。まず、図10に示すように、電解装置1の立上げ工程S101が実施される。電解装置1の立上げ工程S101においては、以下の動作が実施される。アノード溶液供給系統100においては、圧力制御部101や流量制御部103で流量や圧力を制御して、アノード溶液をアノード流路12に導入する。カソード溶液供給系統200においては、圧力制御部201や流量制御部203で流量や圧力を制御して、カソード溶液をカソード流路21に導入する。ガス供給系統300においては、流量制御部302や圧力制御部304で流量や圧力を制御して、COガスをカソード流路23に導入する。
【0043】
次に、COの電解動作工程S102が実施される。COの電解動作工程S102においては、立上げ工程S101が実施された電解装置1の電源制御部40による電解電圧の印加を開始し、アノード11とカソード22との間に電圧を印加して電流が供給される。アノード11とカソード22との間に電流を流すと、以下に示すアノード11付近での酸化反応およびカソード22付近での還元反応が生じる。ここでは、炭素化合物として一酸化炭素(CO)を生成する場合について、主として説明するが、二酸化炭素の還元生成物としての炭素化合物は一酸化炭素に限られるものではなく、前述した有機化合物等の他の炭素化合物であってもよい。また、電解セル2による反応過程としては、主に水素イオン(H)を生成する場合と、主に水酸化物イオン(OH)を生成する場合とが考えられるが、これら反応過程のいずれかに限定されるものではない。
【0044】
まず、主に水(HO)を酸化して水素イオン(H)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード11とカソード22との間に電源制御部40から電流を供給すると、アノード溶液と接するアノード11で水(HO)の酸化反応が生じる。具体的には、下記の(1)式に示すように、アノード溶液中に含まれるHOが酸化されて、酸素(O)と水素イオン(H)とが生成される。
2HO → 4H+O+4e …(1)
【0045】
アノード11で生成されたHは、アノード11内に存在するアノード溶液、セパレータ30、およびカソード流路21内のカソード溶液中を移動し、カソード22付近に到達する。電源制御部40からカソード22に供給される電流に基づく電子(e)とカソード22付近に移動したHとによって、二酸化炭素(CO)の還元反応が生じる。具体的には、下記の(2)式に示すように、カソード流路23からカソード22に供給されたCOが還元されてCOが生成される。
2CO+4H+4e → 2CO+2HO …(2)
【0046】
次に、主に二酸化炭素(CO)を還元して水酸化物イオン(OH)を生成する場合の反応過程について述べる。アノード11とカソード22との間に電源制御部40から電流を供給すると、カソード22付近において、下記の(3)式に示すように、水(HO)と二酸化炭素(CO)が還元されて、一酸化炭素(CO)と水酸化物イオン(OH)とが生成される。水酸化物イオン(OH)はアノード11付近に拡散し、下記の(4)式に示すように、水酸化物イオン(OH)が酸化されて酸素(O)が生成される。
2CO+2HO+4e → 2CO+4OH …(3)
4OH → 2HO+O+4e …(4)
【0047】
上述したカソード22における反応過程において、COの還元反応は前述したように、ガス拡散層22Aとカソード触媒層22Bとの境界近傍で生起すると考えられる。この際、カソード流路21を流れるカソード溶液がガス拡散層22Aまで侵入したり、カソード触媒層22Bが水分過剰になったりすることによって、COの還元反応によるCOの生成量が低下したり、セル電圧が増加する等といった不都合が生じる。このような電解セル2のセル性能の低下は、アノード11およびカソード22付近におけるイオンや残存ガスの分布の偏り、カソード触媒層22Bの水分過剰、カソード22やアノード11における電解質の析出、さらにアノード流路12やカソード流路21における電解質の析出等によっても引き起こされる。
【0048】
また、電解動作によってカソード流路21やガス拡散層22Aに塩が析出し、流路の閉塞やガス拡散性の低下によりセル性能が低下する場合がある。これはイオンがセパレータ30やイオン交換膜を介してアノード11とカソード22との間で移動し、当該イオンがガス成分と反応するためである。例えば、アノード溶液に水酸化カリウム溶液を用い、カソードガスに二酸化炭素ガスを用いる場合、アノード11からカソード22にカリウムイオンが移動し、当該イオンが二酸化炭素と反応して炭酸水素カリウムや炭酸カリウム等の塩が生じる。カソード流路21やガス拡散層22A内において、上記塩が溶解度以下である場合にカソード流路21やガス拡散層22Aに上記塩が析出する。流路の閉塞により、セル全体の均一なガスの流れが妨げられてセル性能が低下する。特に複数のカソード流路21を設ける場合、セル性能の低下が顕著である。なお、ガス流速が部分的に速くなることなどで、セル自体の性能が向上する場合もある。これはガスの圧力が増加することによって、触媒に供給されるガス成分等が増加するまたはガス拡散性が増加することによりセル性能が向上させるためである。このようなセル性能の低下を検知するために、セル性能が要求基準を満たしているかどうかを判定する工程S103を実施する。
【0049】
データ収集・制御部502は前述したように、例えば定期的にまたは連続的に各生成物の生成量や比率、電解セル2のセル電圧、セル電流、カソード電位、アノード電位、アノード流路12の内部の圧力、カソード流路21の内部の圧力等のセル性能を収集する。さらに、データ収集・制御部502には、セル性能の要求基準が予め設定されており、収集したデータが設定された要求基準を満たしているかどうかが判定される。収集データが設定された要求基準を満たしている場合には、COの電解停止(S104)を行うことなく、COの電解動作S102が継続される。収集データが設定された要求基準を満たしていない場合には、リフレッシュ動作工程S105が実施される。
【0050】
データ収集・制御部502で収集するセル性能は、例えば電解セル2に定電流を流した際のセル電圧の上限値、電解セル2に定電圧を印加した際のセル電流の下限値、COの還元反応により生成した炭素化合物のファラデー効率等のパラメータにより定義される。ここで、ファラデー効率は電解セル2に流れた全電流に対し、目的とする炭素化合物の生成に寄与した電流の比率と定義する。電解効率を維持するためには、定電流を流した際のセル電圧の上限値は設定値の150%以上、好ましくは120%以上に達した際にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。また、定電圧を印加した際のセル電流の下限値は設定値の50%以下、好ましくは80%以下に達した際にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。炭素化合物等の還元生成物の生産量を維持するためには、炭素化合物のファラデー効率が設定値より50%以下、好ましくは80%以下になった場合にリフレッシュ動作工程S105を実施するとよい。
【0051】
セル性能の判定は、例えばセル電圧、セル電流、炭素化合物のファラデー効率、アノード流路12の内部の圧力、およびカソード流路21の内部の圧力の少なくとも1つのパラメータが要求基準を満たしていない場合に、セル性能が要求基準を満たしていないと判定し、リフレッシュ動作工程S105を実施する。また、上記パラメータの2つ以上を組み合わせて、セル性能の要求基準を設定してもよい。例えば、セル電圧および炭素化合物のファラデー効率が共に要求基準を満たしていない場合に、リフレッシュ動作工程S105を実施するようにしてもよい。リフレッシュ動作工程S105は、セル性能の少なくとも1つが要求基準を満たしていない場合に実施する。CO電解動作工程S102を安定して実施するために、リフレッシュ動作工程S105は例えば1時間以上間隔を開けて実施することが好ましい。
【0052】
セル性能の要求基準をセル電圧、セル電流、炭素化合物のファラデー効率のいずれかだけで判断すると、セル性能が向上もしくは変化がない場合でも、流路やガス拡散層に塩が析出して出力が低下する場合にはリフレッシュが必要と判断される場合がある。電解装置では、セル性能の低下を事前に察知し、最適なタイミングでリフレッシュ動作を行うことが重要である。そこで、実施形態の電解装置では、セルの圧力(アノード流路12の内部の圧力、カソード流路21の内部の圧力等)を、要求基準を定義するためのパラメータの一つとすることにより塩の析出を感知し、リフレッシュ動作を行うことが好ましい。
【0053】
電解セル2が例えばCOをメインに生成する場合、水素であれば、通常時の少なくとも2倍、好ましくは1.5倍以上に上昇した場合にセル性能の要求基準を満たしていないと判断することができる。例えばCOであれば、通常時の少なくとも0.8倍以下、好ましくは0.9倍以下まで低下した場合にセル性能の要求基準を満たしていないと判断することができる。
【0054】
電解セル2により炭素化合物を生成するとともに水を分解することも考えられるため、上記基準濃度は任意である。例えば、水素とCOを2:1の割合で生成し、そのガスを反応器によってメタノールを製造する場合、還元生成物の濃度変化の基準は上記基準と異なり、水素と炭素化合物との濃度が、通常時の少なくとも1.3倍以上、好ましくは1.1倍以上に上昇、もしくは通常時の少なくとも0.8倍以下、好ましくは0.9以下に低下した場合にセル性能の要求基準を満たしていないと判断することができる。
【0055】
塩を検知した場合はリンス液によって塩を排出するが、塩の排出によっても物質移動量が変化しない場合には電解セル2においてリークが発生していると判断してもよい。電解セル2のリークとはアノード11とカソード22との間のガスのリークに限定されず、例えばカソード22とカソード流路21、23との間からのガスリークなども含む。このガスリークは、例えば塩が析出した電解セル2をカソード流路21、23の圧力が高い条件で長時間運転したときに起こりやすい。
【0056】
リフレッシュ動作の必要性の判断は、セル電圧や電流値、セルの圧力変化による塩の感知のみでなく、セパレータ30によりアノード11とカソード22との間を隔てている場合、アノード11とカソード22との間での気液分離の性能、つまり、アノード11とカソード22との間の液体、ガスの移動量や、生成物の量、基準電極との電圧差、これらパラメータからのファラデー効率の推測値等により判断する。各パラメータ値からのファラデー効率やリフレッシュ動作の必要性は、後述するパラメータからもリフレッシュ動作の必要性の判断として総合的に判定することができ、各値の組み合わせや計算手法は任意である。
【0057】
フラッディング性能を検出するための運転方法による各セルデータや圧力変化などから見積もられたフラッディング度によりリフレッシュ動作の必要性を判断してもよい。また、電解セル2の運転時間を考慮してもよい。運転時間は、運転開始後の運転時間のみでなく、これまでの運転時間の積算値でもよく、継続時間でもよく、リフレッシュ動作後の運転時間でもよく、さらには積算した電圧値と時間、電流値と時間の掛け算等の計算値でもよく、その組み合わせや計算方法は任意である。また、これら組み合わせの計算値は、単に継続時間等による判断よりも電解セル2の運転方法による違いが加味されるため、好ましい。さらには電流や電圧の変動値や電解溶液のpH値、変化値、酸素発生量、変動量を用いてもよい。
【0058】
リフレッシュ動作の必要性を判断する動作を行い、その運転時のセル電圧等のパラメータで判断すると、運転動作時間が減少してしまうが、リフレッシュ動作の必要性が的確に判断できるため、好ましい。なお、この際のリフレッシュ動作の必要性の判断時間は、リフレッシュ動作時間の少なくとも半分以下、好ましくは1/4以下、理想的には1/10以下であることが好ましい。また、リフレッシュ動作の必要性を判断するための各パラメータは、電解セル2の各データを電子的ネットワークを介して収集し、複数のセルのデータ収集・制御部502と解析部504により、ビックデータ解析や、機械学習などの解析により必要なパラメータを導き出し、リフレッシュ制御部503にリフレッシュの必要性を判断するための各パラメータにより定義されるセル性能の要求基準を更新させ、常に最良のリフレッシュ動作を行うことができる。
【0059】
リフレッシュ動作工程S105は、例えば図11に示すフロー図にしたがって実施される。まず、電源制御部40による電解電圧の印加を停止し、COの還元反応を停止させる(S201)。このとき、必ずしも電解電圧の印加を停止しなくてもよい。次に、カソード流路21およびアノード流路12からカソード溶液およびアノード溶液を排出(S202)させる。次に、リンス液をカソード流路21およびアノード流路12に供給(S203)して洗浄を行う。
【0060】
リンス液を供給している間、アノード11とカソード22との間にリフレッシュ電圧を印加してもよい。これにより、カソード触媒層22Bに付着したイオンや不純物を除去することができる。主に酸化処理になるようにリフレッシュ電圧を印加すると触媒表面についたイオンや有機物等の不純物が酸化され除去される。また、この処理をリンス液中で行うことによって触媒のリフレッシュだけでなく、セパレータ30としてイオン交換膜を用いる場合にイオン交換樹脂中に置換されたイオンを除去することもできる。
【0061】
リフレッシュ電圧は、例えば-2.5V以上2.5V以下であることが好ましい。リフレッシュ動作にエネルギーを使うため、リフレッシュ電圧の範囲は、できる限り狭い方が好ましく、例えば-1.5V以上1.5V以下であることがより好ましい。リフレッシュ電圧は、イオンや不純物の酸化処理と還元処理が交互に行われるようにサイクリックに印加されてもよい。これにより、イオン交換樹脂の再生や触媒の再生を加速させることができる。また、リフレッシュ電圧として電解動作時の電解電圧と同等の値の電圧を印加して、リフレッシュ動作を行ってもよい。この場合、電源制御部40の構成を簡略化することができる。
【0062】
次に、カソード流路21およびアノード流路12にガスを供給(S204)し、カソード22およびアノード11を乾燥させる。カソード流路21およびアノード流路12にリンス液を供給すると、ガス拡散層22A中の水の飽和度が上昇し、ガスの拡散性による出力低下が生じる。ガスを供給することにより、水の飽和度が下がるためセル性能が回復し、リフレッシュ効果が高まる。ガスは、リンス液流通後すぐに供給することが好ましく、少なくともリンス液の供給の終了後5分以内に行うことが好ましい。これは水の飽和度の上昇による出力低下が大きいためであり、例えば1時間おきにリフレッシュ動作を行うとすると、5分間のリフレッシュ動作中の出力は0Vかあるいは著しく少ないため、出力の5/60を失う場合がある。
【0063】
以上のリフレッシュ動作が終了したら、カソード流路21にカソード溶液を、アノード流路12にアノード溶液を、カソード流路23にCOガスを導入(S205)する。そして、電源制御部40によるアノード11とカソード22との間に電解電圧の印加を再開させてCO電解動作を再開する(S206)。なお、S201で電解電圧の印加を停止していない場合には上記再開動作は行われない。各流路12、21からのカソード溶液およびアノード溶液の排出には、ガスを用いてもよいし、リンス液を用いてもよい。
【0064】
リンス液の供給およびフロー(S203)は、カソード溶液およびアノード溶液に含まれる電解質の析出を防止し、カソード22、アノード11、および各流路12、21を洗浄するために実施される。そのため、リンス液は水が好ましく、電気伝導率が1mS/m以下の水がより好ましく、0.1mS/m以下の水がさらに好ましい。カソード22やアノード11等における電解質等の析出物を除去するためには、低濃度の硫酸、硝酸、塩酸等の酸性リンス液を供給してもよく、これにより電解質を溶解させるようにしてもよい。低濃度の酸性リンス液を用いた場合、その後工程で水のリンス液を供給する工程を実施する。ガスの供給工程の直前は、リンス液中に含まれる添加剤が残留することを防止するために、水のリンス液の供給工程を実施することが好ましい。図1は1つのリンス液タンク721を有するリンス液供給系720を示したが、水と酸性リンス液というように複数のリンス液を用いる場合には、それに応じた複数のリンス液タンク721が用いられる。
【0065】
特にイオン交換樹脂のリフレッシュのためには、酸またはアルカリのリンス液が好ましい。これは、イオン交換樹脂中にプロトンやOHの代わりに置換された、陽イオンや陰イオンを排出する効果がある。このため、酸とアルカリのリンス液を交互に流通させることや、電気伝導率が1mS/m以下の水との組み合わせ、リンス液が混合しないように複数のリンス液の供給の合間にガスを供給することが好ましい。
【0066】
リンス液として反応によって生成した水を用いてもよい。例えばCOとプロトンから還元によってCOを生成する場合、水が生じる。このときのカソード22から排出される水を気液分離によって分離し、溜めて用いてもよい。このようにすると新たに外部からリンス液を供給せずに済み、システム上有利になる。また、電位を変化させて反応電流を増加させ、生成される水の量を増加させることにより、当該水をカソード流路21に供給してもよい。これにより、生成された水のタンクやリンス液として用いるための配管やポンプなどが不要になり、システム上有効な構成となる。また、カソード流路21に酸素を含むガスを供給し、電圧を印加することにより、アノード11の電解溶液またはリンス液を水分解し、対極に移動したプロトンやOHイオンから触媒によって生成する水によってリフレッシュ動作を行ってもよい。例えば、金触媒を用いてCOをCOへ還元する電解セルで、ナフィオンをイオン交換膜として用いた場合、カソード22に空気を流通させて、セルに電位を掛けて水分解を行うと、カソード22に移動したプロトンが酸素と触媒によって反応し、水が生成する。この生成水でリフレッシュ動作を行うことができる。また、この後カソード22に酸素を含まないガスを供給することやガスの供給を停止することにより、水素ガスを発生させ、発生した水素によってカソード22を乾燥させるリフレッシュ動作を行ってもよい。これにより、プロトンや水素の還元力によって触媒のリフレッシュ動作を行うこともできる。
【0067】
ガスの供給およびフロー工程S204に用いるガスは、空気、二酸化炭素、酸素、窒素、およびアルゴンの少なくとも1つを含むことが好ましい。さらに、化学反応性の低いガスを用いることが好ましい。このような点から、空気、窒素、およびアルゴンが好ましく用いられ、さらには窒素およびアルゴンがより好ましい。リフレッシュ用のリンス液およびガスの供給は、カソード流路21およびアノード流路12のみに限らず、カソード22のカソード流路23と接する面を洗浄するため、カソード流路23にリンス液およびガスを供給してもよい。カソード流路23と接する面側からもカソード22を乾燥させるために、カソード流路23にガスを供給することは有効である。
【0068】
以上ではリフレッシュ用のリンス液およびガスをアノード部10およびカソード部20の両方に供給する場合について説明したが、アノード部10またはカソード部20の一方のみにリフレッシュ用のリンス液およびガスを供給してもよい。例えば、炭素化合物のファラデー効率は、カソード22のガス拡散層22Aとカソード触媒層22Bにおけるカソード溶液とCOとの接触領域により変動する。このような場合、カソード部20のみにリフレッシュ用のリンス液やガスを供給しただけで、炭素化合物のファラデー効率が回復することもある。使用する電解溶液(アノード溶液およびカソード溶液)の種類によっては、アノード部10またはカソード部20の一方に析出しやすい傾向を有することがある。このような電解装置1の傾向に基づいて、アノード部10またはカソード部20の一方のみにリフレッシュ用のリンス液およびガスを供給してもよい。さらに、電解装置1の運転時間等によっては、アノード11およびカソード22を乾燥させるだけでセル性能が回復する場合もある。そのような場合には、アノード部10およびカソード部20の少なくとも一方にリフレッシュ用のガスのみを供給するようにしてもよい。リフレッシュ動作工程S105は、電解装置1の動作状況や傾向等に応じて種々に変更が可能である。
【0069】
上述したように、第1の実施形態の電解装置1においては、電解セル2のセル性能が要求基準を満たしているかどうかに基づいて、COの電解動作工程S102を継続するか、もしくはリフレッシュ動作工程S105を実施するかが判定される。リフレッシュ動作工程S105でリフレッシュ用のリンス液やガスを供給することによって、セル性能の低下要因となるカソード溶液のガス拡散層22Aへの侵入、カソード触媒層22Bの水分過剰、アノード11およびカソード22付近におけるイオンや残存ガスの分布の偏り、カソード22、アノード11、アノード流路12、およびカソード流路21における電解質の析出等が取り除かれる。従って、リフレッシュ動作工程S105後にCOの電解動作工程S102を再開することによって、電解セル2のセル性能を回復させることができる。このようなCOの電解動作工程S102およびリフレッシュ動作工程S105をセル性能の要求基準に基づいて繰り返すことによって、電解装置1によるCOの電解性能を長時間にわたって維持することが可能になる。
【0070】
カソード流路23に析出する塩は、流路の後半部(長さ方向において出口OUTに近い側、下流側)よりも前半部(長さ方向において入口INに近い側、上流側)で析出しやすいため、カソード流路23の出口OUTから入口INに水等のリンス液を流すことで、カソード流路23で析出された塩を効率的に溶出できる。つまり、出口OUT側では塩の析出が少なく、導入したリンス液中の塩の濃度は低く、入口IN側では塩の析出が多く、リンス液中の塩濃度が高いため、少ないリンス液で効率的に塩を溶出できる。しかしながら、リンス液を流すことで、ガス拡散層の水分量が増加し、二酸化炭素の拡散性が低下し、セル性能が低下する現象が生じてしまう。この現象をフラッディングという。
【0071】
カソード流路23において、フラッディングは前半部で起こりやすい。これはカソード流路23の前半部では流路の湿度が低く、塩の析出が生じやすいためである。また、カソード流路23の後半部では、アノード11の水や反応によって生じる水のために、カソード流路23内のガスは加湿され、塩の析出量が減少する。場合によっては液体の水が生じ、塩が溶解して排出される場合もある。さらには、カソード流路23の前半部でCOガスが多く反応しているため、カソード流路23の後半部でCOガスの量が減少して塩の析出量が減少することも理由の一つである。
【0072】
これに対し、第1の実施形態の二酸化炭素電解装置では、流路板28の表面28aの少なくとも一部に親水性領域280を形成する。これにより、図12において矢印に示すように、水分量の多いカソード流路23の後半部から前半部に水等の液体を移動させることができる。つまり、カソード流路23の後半部内で凝集した水やアノード11から移動した水、反応によって生じた水を親水性領域280の流路板に水を移動できる。よって、カソード流路23の前半部では、親水性領域280を介して移動した水がセルの温度によって気化し、カソード流路23中のガスが加湿される。このように、親水性領域280を設けることにより、カソード流路23内の湿度の均一性を向上でき、加湿器を設けずにセルの内部で加湿することができる。
【0073】
水は、カソード触媒層22Bと親水性領域280との界面または親水性領域280の内部を移動する。これにより、カソード流路23の水分量の均一性を高めることができる。また、カソード流路23内での水の凝縮を防止し、液滴の発生を抑制できる。これにより、カソード流路23での気液二相流を防止し、カソード流路23内での圧力損失を抑制でき、ガスの供給圧力を減少させ、システム効率を向上させる。またセルを積層してスタックを形成する場合のセル間のガスの供給量が均一化し、効率が良い。
【0074】
ガス拡散層22Aはガスの拡散性を向上させるために撥水性を有し、カソード触媒層22Bでの水の移動は乏しいため、親水性領域280により水を移動させることは効果的である。また、このようにすることで、セル内部の加湿条件が均一化し、反応の面均一性を改善できる。特に電解質膜を用いた場合は、加湿環境が均一となることで、膜の乾燥を抑制し、イオン移動がセル面内のいずれの箇所も最適となり、反応の面均一性を向上できる。
【0075】
図13に示すように、親水性領域280は、表面28aにおいて、カソード流路23の入口INを含む流路領域と出口OUTを含む流路領域との間の領域(ランド29)のみに設けられてもよい。カソード流路23の入口INは、表面28aにおいて、カソード流路23の長さ方向の一端であり、ガス導入口に接続される。カソード流路23の出口OUTは、表面28aにおいて、カソード流路23の長さ方向の他端であり、ガス導出口に接続される。入口INおよび出口OUTのそれぞれは、複数設けられてもよい。
【0076】
図14に示すように、カソード流路23の入口INと出口OUTは、表面28aにおいて、隣接してもよい。また、親水性領域280は、表面28aにおいて、カソード流路23の複数の流路領域の間、すなわちランド29に設けられてもよい。図14は、親水性領域280が、表面28aにおいて、カソード流路23の入口INと出口OUTとの間に設けられる例を示す。
【0077】
カソード流路23の平面形状は、図15に示すように、表面28aの中線Mを基準に左右対称であってもよい。カソード流路23の入口INと出口OUTは、表面28aにおいて、隣接してもよい。図15は、親水性領域280が、表面28aにおいて、カソード流路23の入口INを含む直線状の第1の流路領域と出口を含む直線状の第2の流路領域との間に設けられる例を示す。
【0078】
カソード流路23の平面形状は、図16に示すように、曲線状に延在する複数の流路領域を含んでいてもよい。図16は、親水性領域280が、表面28aにおいて、カソード流路23の入口INを含む直線状の第1の流路領域と出口を含む直線状の第2の流路領域との間に設けられる例を示す。
【0079】
カソード流路23を親水性にすると、表面28aとカソード触媒層22Bとの接触面は電気的接触の良好な素材を用いることで、セル抵抗を低減してセル性能を向上できるが、水の移動経路がカソード流路23の入口IN付近と出口OUT付近の流路長に依存するため、水の移動性は低下する。一方、図13ないし図16に示すように、ランド29のみ親水性領域280を形成する場合、水の移動がカソード流路23の入口IN付近と出口OUT付近の流路長に依存しないため、塩析出を効果的に抑制でき、さらに湿度の均一化によるセル面内での反応の面均一性を向上できる。また、カソード流路23の入口INと出口OUTとの間の領域のみに親水性領域280を形成してもよい。親水性を付与することによって電気的接触抵抗が増加し、セル性能が悪化する場合には一部のみに親水性領域280を形成することが好ましい。
【0080】
図14ないし図16に示すように、カソード流路23の入口INと出口OUTを隣接して設置することにより、カソード流路23の後半部から前半部への水の移動を促進することができるため、好ましい。入口INと出口OUTとの距離は、触媒面積の平方根以下にすることにより、水の移動の促進効果を高めることができる。ただし、極端に近づけると、カソード流路23のガスが、ガス拡散層22Aを経由せずに移動するため、近すぎる場合は、MPL付きのガス拡散層22Aにし、ランド29の幅を広げるなどして、ガスのショートカットを防ぐ必要がある。
【0081】
カソード流路23の内壁面の一部を親水性に加工してもよい。カソード流路23を親水性に加工した方が塩析出効果は高いが、カソード流路23が親水性でなくても塩析出防止効果はある場合、必ずしも親水性に加工する必要はない。塩析出防止効果が低い場合は加湿したCOを供給することや、カソード流路23の前半部から塩溶出液をリフレッシュするなどの組み合わせを行うと良い。カソード流路23の入口INと出口OUTを隣接して設置する場合、塩の析出防止効果はあり、リフレッシュ液の供給量を減らすことや回数を減らすことができる。そのため、リフレッシュ動作を行ってもフラッディングを防ぐことができる。加湿されたCOを供給する際には加湿度合いを減らすことができるため、より好ましい。加湿されたCO中の水の濃度は、例えば反応温度においての相対湿度30%以上80%以下である。例えば、セル温度が60℃の場合、室温から40℃付近での加湿での運転が可能である。この場合相対湿度はおよそ50~60%であり、加湿度合いが少なく、フラッディングを防止することができるため、好ましい。
【0082】
図17に示すように、親水性領域280の表面は、凹凸281を有していてもよい。親水性領域280が凹凸281を有することにより、水の移動を効果的に促進できる。親水性領域280の算術平均粗さが極端に大きい場合、ガスのショートカットが起きるため、水によって凹部が満たされる程度の平均粗さが好ましい。親水性領域280の表面粗さ(各凹凸の幅)は、0.01μm以上50μm以下であることが好ましい。親水性領域280の平均粗さ(算術平均粗さ)は、10nm以上30μm以下、さらには、1μm以上10μm以下がより好ましい。親水性領域280の最大高さは、1μm以上50μm以下であることが好ましい。凹凸281により、表面張力が小さくなり、凹部に水が満たされ、ガスが透過しないので、ガスのショートカットによるセル性能低下を抑止する効果がある。凹凸281は、例えば表面28aの表面にカーボン粉末を付着させることにより形成可能である。
【0083】
図18に示すように、親水性領域280は、流路板28の全体に設けられていてもよい。これは、例えば親水性多孔体により流路板28を形成することにより実現できる。親水性多孔質体の平均孔径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。親水性多孔質体の空隙率は、30%以上80%以下であることが好ましい。親水性多孔質体のその他の説明は、親水性領域280の説明を適宜援用できる。空隙率は、例えば、水銀圧入法、アルキメデス法、または重量気孔率法を用いて測定可能である。平均孔径は、例えば、表面や断面を走査型電子顕微鏡、光学顕微鏡、またはレーザー顕微鏡を用いて観察することにより、測定可能である。
【0084】
流路板28の全体に親水性領域280を形成することにより、カソード流路23の後半部から前半部への水の移動を促進し、セル内部が均一に加湿され、セル外部に加湿器を設けずにセルの内部で加湿することができる。さらには流路内で凝集した水が親水性多孔体に吸収され、流路内での結露水が生じず、配管内の気液二相流を防ぐことができる。気液二相流が生じると、圧力損失が増加し、セル内の移動や積層したスタックのセル間の移動バランスが低下し、性能低下を招く。さらには圧力損失によってガスの供給圧力が増加するため、システム全体効率が低下する。
【0085】
(第2の実施形態)
図19は第2の実施形態による二酸化炭素の電解装置の構成を示す図であり、図20図19に示す電解装置における電解セルの構成を示す断面図である。図19に示す二酸化炭素の電解装置1Xは、第1の実施形態による二酸化炭素の電解装置1と同様に、電解セル2Xと、電解セル2Xにアノード溶液を供給するアノード溶液供給系統100と、電解セル2Xに二酸化炭素(CO)ガスを供給するガス供給系統300と、電解セル2Xにおける還元反応により生成した生成物を収集する生成物収集系統400と、収集した生成物の種類や生成量を検出すると共に、生成物の制御やリフレッシュ動作の制御を行う制御系500と、アノード溶液の廃液を収集する廃液収集系統600と、電解セル2Xのアノードやカソード等を回復させるリフレッシュ材供給部700とを具備している。
【0086】
図20に示す二酸化炭素の電解装置1Xは、電解セル2Xの構成が相違することを除いて、基本的には図1に示した電解装置1と同様な構成を具備している。電解セル2Xは、図20に示すように、アノード部10とカソード部20とセパレータ30とを具備している。アノード部10は、アノード11、アノード流路12、およびアノード集電板13を備えている。カソード部20は、カソード22、カソード流路23、およびカソード集電板24を備えており、カソード流路21は設けられていない。このため、カソード流路21にカソード溶液を供給するための構成要素は無くてもよい。電源制御部40は電流導入部材を介してアノード11およびカソード22と接続されている。
【0087】
アノード11は、セパレータ30と接する第1の面11aと、アノード流路12に面する第2の面11bとを有することが好ましい。アノード11の第1の面11aは、セパレータ30と密着している。アノード流路12は、流路板14に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。アノード溶液は、アノード11と接するようにアノード流路12内を流通する。アノード集電板13は、アノード流路12を構成する流路板14のアノード11とは反対側の面と電気的に接している。カソード22は、セパレータ30と接する第1の面22aと、カソード流路23に面する第2の面22bとを有する。カソード流路23は、流路板28に設けられたピット(溝部/凹部)により構成されている。カソード集電板24は、カソード流路23を構成する流路板28のカソード22とは反対側の面と電気的に接している。
【0088】
流路板28は、第1の実施形態と同様に親水性領域280を有する。親水性領域280の説明は、第1の実施形態の説明を適宜援用できる。
【0089】
リフレッシュ材供給部700のガス状物質供給系710およびリンス液供給系720は、配管を介してアノード流路12およびカソード流路23と接続されている。アノード流路12およびカソード流路23は、配管を介して廃液収集系統600と接続されている。アノード流路12およびカソード流路23から排出されたリンス液は、廃液収集系統600との廃液収集タンク601に回収される。アノード流路12およびカソード流路23から排出されたリフレッシュ用のガスは、廃液収集系統600を介して図示しない廃ガス収集タンクに回収されるか、もしくは大気中に放出される。各部の構成材料等は、第1の実施形態の電解装置1と同様であり、詳細は前述した通りである。
【0090】
カソード溶液タンク202は、例えばリフレッシュ動作時にカソード流路23から排出されるリンス液等の液体を収容するカソード排出溶液タンクとしての機能を有する。なお、タンク106は、カソード溶液タンク202やリフレッシュ材供給部700を介してカソード流路23に接続されてもよい。これにより、タンク106に液体が収容される場合に当該液体をリンス液として用いることができる。
【0091】
第2の実施形態の電解装置1Xにおいて、電解装置1Xの立上げ工程S101およびCOの電解動作工程S102は、カソード溶液の供給を実施しないことを除いて、第1の実施形態の電解装置1と同様に実施される。なお、カソード22におけるCOの還元反応は、カソード流路23から供給されたCOとセパレータ30を介してカソード22に浸透したアノード溶液とにより行われる。セル性能の要求基準を満たしているかどうかの判定工程S103についても、第1の実施形態の電解装置1と同様に実施される。セル性能が要求基準を満たしていないと判定されたとき、リフレッシュ動作工程S105を実施する。第2の実施形態の電解装置1Xにおいて、リフレッシュ動作工程S105は以下のようにして実施される。
【0092】
まず、CO還元反応を停止させる。このとき、電源制御部40による電解電圧の印加を維持してもよく、また停止してもよい。次に、アノード流路12からアノード溶液を排出させる。次に、リンス液供給系720からリンス液をアノード流路12およびカソード流路23に供給し、アノード11およびカソード22を洗浄する。リンス液を供給している間、第1の実施形態と同様にアノード11とカソード22との間にリフレッシュ電圧を印加してもよい。次に、ガス状物質供給系710からガスをアノード流路12およびカソード流路23に供給し、アノード11およびカソード22を乾燥させる。リフレッシュ動作工程に使用するガスやリンス液は、第1の実施形態と同様である。以上のリフレッシュ動作が終了したら、アノード流路12にアノード溶液を、カソード流路23にCOガスを導入する。そして、CO電解動作を再開する。電源制御部40による電解電圧の印加を停止していた場合、再開させる。
【0093】
第2の実施形態の電解装置1Xにおいても、電解セル2Xのセル性能が要求基準を満たしているかどうかに基づいて、CO電解動作を継続するか、もしくはリフレッシュ動作を実施するかが判定される。リフレッシュ動作工程でリンス液やガスを供給することによって、セル性能の低下要因となるアノード11およびカソード22付近におけるイオンの分布の偏りが解消され、またカソード22における水分過剰やアノード11およびカソード22における電解質の析出、それによる流路閉塞等が取り除かれる。従って、リフレッシュ動作工程後にCOの電解動作を再開することによって、電解セル2Xのセル性能を回復させることができる。このようなCOの電解動作およびリフレッシュ動作をセル性能の要求基準に基づいて繰り返すことによって、電解装置1XによるCOの電解性能を長時間にわたって維持することが可能になる。
【0094】
比較的低い圧力によってセパレータ30を液体が通過する場合、例えば親水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)多孔体などを用いて、リンス液をアノード流路12にのみ供給し、図示しないバルブ等でアノード出口の液体に圧力を加えるもしくはアノード出口を塞ぐ。するとリンス液はセパレータ30を通過し、カソード22に流れ、カソード22の排出口からリンス液が流出する。これにより、カソード22とアノード11のリフレッシュを同時に行うことができる。この構成はカソード22にリンス液を流通させる装置が不要であるため、装置がコンパクトになり、また、システムが簡略化されて好ましい。
【0095】
なお、カソード22に空気ガスを導入する配管を接続してもよい。リフレッシュ時はカソード22に空気を含むガスを供給し、アノード11とカソード22との間にリフレッシュ電圧を印加することにより水電解反応を行ってもよい。アノード11側は、酸化触媒によって、酸素が発生し、生じたプロトンはセパレータ30あるいは電解質膜を通じてカソード22に移動する。カソード22ではプロトンと空気中の酸素がカソード触媒によって反応し、水が生成する。この生成水によってカソードの塩を溶解排出させることができる。また、生成水は純水のため、カソード22を洗浄することができる。この際、カソード22に移動したプロトンによってカソード22の不純物を還元処理することができ、触媒や部材を再生することができる。この構成はカソード22にリンス液を供給する装置が不要であるため、装置がコンパクトになり、また、システムが簡略化されてよい。また、その後のCOガスの流通前にカソードに流通した空気を停止させると、生じたプロトン同士が反応し、水素が発生し、生じた水を押し出すこともできる。COで押し出す前に酸素含有ガスを停止させ、プロトンによる触媒や部材の再生機能がより効果を発揮することができる。これは酸素がないために、他の還元しにくい触媒やカソード22の各部材が還元されるからである。具体的には不純物の有機物や、金属酸化物などがある。その後にCOを供給して、反応させることでよりリフレッシュ効果が期待できる。
【0096】
電解セル2Xの構造は、図20に示す構造に限定されない。図21は、電解セル2Xの他の構造例を示す断面模式図である。図21に示す電解セル2Xは、図20に示す電解セル2Xと比較して、複数のアノード11と、複数のカソード22と、複数のセパレータ30と、流路板50と、を具備する点が異なる。異なる部分について以下に説明する。
【0097】
それぞれのアノード11、それぞれのセパレータ30、それぞれのカソード22は、順に積層され電解セルを形成する。アノード11、セパレータ30、カソード22の説明は、第1の実施形態の説明を適宜援用できる。
【0098】
流路板50は、複数のアノード11の一つと複数のカソード22の一つとの間に設けられる。流路板50は、表面50aに設けられた流路51と、表面50bに設けられた流路52と、を有する。流路板50をバイポーラ流路板ともいう。
【0099】
流路51は、複数のアノード11の一つに面する。流路51は、アノード溶液が流れるアノード流路(アノード溶液流路)としての機能を有する。流路51のその他の説明は、アノード流路12の説明を適宜援用できる。
【0100】
流路52は、複数のカソード22の一つに面する。流路52は、二酸化炭素が流れるカソード流路(ガス流路)としての機能を有する。流路52のその他の説明は、カソード流路23の説明を適宜援用できる。
【0101】
流路板50は、親水性多孔質体により形成される。親水性多孔質体の説明は、第1の実施形態の説明を適宜援用できる。
【0102】
流路板50は、流路51と流路52との間に親水性多孔質領域が形成される。これにより、アノード溶液が流路51から流路52に移動して流路52を加湿することができる。多孔質の流路板ではあるが、親水性にすることで、表面張力が小さくなり、多孔質内に水が満たされ、ガスが透過しないので、ガスリークは生じず、流路板として用いることができる。また、凝集した水の吸収や、セル内の均一の加湿にも効果を有する。また、流路板50の内部や表面に冷却水を流通させると、冷却水でも同様の効果を得ることができる。さらにはアノード11からカソード22へ移動して析出した電解液成分をアノード11に戻すことができる。アノード溶液は、反応によって、電解液成分がカソード22へと移動するため、その濃度が低下していくといった問題がある。その電解液成分を親水性多孔体領域によって、カソード22からアノード11へと戻すことができ、長時間の運転による安定性を向上させることができる。
【0103】
図22に示すように、流路51が複数のカソード22の他の一つに面していてもよい。このとき、流路52の入口が流路52の出口よりも流路51の出口に近く、流路52の出口が流路52の出口よりも流路51の出口に近いことが好ましい。これにより、流路51と流路52との間で水が移動して流路51と流路52を均一に加湿することができる。
【0104】
なお、第2の実施形態の構成は、第1の実施形態の構成と適宜組み合わせることができる。例えば図1に示す電解セル2の構成を図21または図22に示す構成にしてもよい。
【実施例
【0105】
(実施例1)
図1に示す電解装置を組み立てて、二酸化炭素の電解性能を調べた。まず、多孔質層が設けられたカーボンペーパ上に、金ナノ粒子が担持されたカーボン粒子を塗布したカソードを、以下の手順により作製した。金ナノ粒子が担持されたカーボン粒子と純水、ナフィオン溶液、エチレングリコールとを混合した塗布溶液を作製した。金ナノ粒子の平均粒径は8.7nmであり、担持量は18.9質量%であった。この塗布溶液をエアーブラシに充填し、窒素ガスを用いて多孔質層が設けられたカーボンペーパ上にスプレー塗布した。塗布後に純水で30分間流水洗浄し、その後に過酸化水素水に浸漬してエチレングリコール等の有機物を酸化除去した。これを2×2cmの大きさに切り出してカソードとした。なお、Auの塗布量は塗布溶液の金ナノ粒子とカーボン粒子の混合量から約0.2mg/cmと見積もられた。アノードには、Ti不織布に触媒となるIrOナノ粒子を塗布した電極を用いた。アノードとしてIrO/Tiメッシュを2×2cmに切り出したものを使用した。触媒面積は2cm×2cm=4cmとした。表面28aとの接触面におけるカソード触媒層22Bの面積が4cmに対し入口INと出口OUT間の距離が0.8cmであり、入口INと出口OUT間の距離/√カソード触媒層22Bの面積=0.2である。
【0106】
電解セル2は、図2に示すように、上からカソード集電板24、カソード流路23(流路板28)、カソード22、カソード流路23(流路板)、セパレータ30、アノード11、アノード流路12、アノード集電板13の順で積層し、図示しない支持板により挟み込み、さらにボルトで締め付けて作製した。セパレータ30には、アニオン交換膜(商品名:セレミオン)を用いた。アノード11のIrO/Tiメッシュは、アニオン交換膜に密着させた。カソード流路23の厚さは、1mmとした。流路板28は、チタン製である。カソード流路23は、流路板28を切削することにより作製した。カソード流路23の平面形状を図23に示す。カソード流路23の平面形状は、サーペンタイン状であって、4つの折り返し部を有する。また、カソード流路23は、表面28aにおいて、並列接続された一対のパラレル流路領域を4つ有する。カソード流路23の幅は1mmである。カソード流路23の流路板28の厚さ方向の深さは1mmである。ランド29の幅は1mmである。
【0107】
流路板28のガス拡散層22Aとの接触面は、表面加工により20nm以上30μm以下の表面粗さ(個々の凹凸の幅)を有する親水性領域280を有する。親水性領域280の表面の平均粗さ(算術平均粗さ)は、4±1μm程度であった。親水性領域280の純水に対する接触角は20度以上40度以下であった。流路板28の表面28aのその他の部分の純水に対する接触角は45度であった。なお、評価温度は室温とした。
【0108】
上記した電解セル2を用いて図1に示す電解装置1を組み立て、電解装置を以下の条件で運転した。電解セル2のカソード流路23にCOガスを20sccmで供給し、カソード流路21に水酸化カリウム水溶液(濃度1M KOH)を5mL/minで供給し、アノード流路12に水酸化カリウム水溶液(濃度1M KOH)を20mL/minの流量で供給した。次に、電源制御部により電圧を制御することにより、アノード11とカソード22の間に800mAの定電流を定電流密度200mA/cmを流してCOの電解反応を行い、その際のセル電圧を計測してデータ収集・制御部で収集した。さらに、カソード流路23から出力されるガスの一部を収集し、COの還元反応により生成されるCOガス、および水の還元反応により生成されるHガスの生成量をガスクロマトグラフにより分析した。データ収集・制御部でガス生成量からCOもしくはHの部分電流密度、および全電流密度と部分電流密度の比であるファラデー効率を算出して収集した。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例2)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例1と異なり、流路板28の表面28aはガス拡散層22Aと接する箇所だけ、親水性のカーボンの粉末を付着させて親水性領域280を形成した。親水性領域280は、20nm以上10μm以下の表面粗さを有し、平均粗さは3±1μm程度であった。親水性領域280の純水に対する接触角は10度以上30度以下であった。流路板28の表面28aのその他の部分の純水に対する接触角は45度であった。
【0110】
(実施例3)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例1と異なり、図24のようにカソード流路23の入口INと出口OUTを隣接させた。カソード流路23の平面形状は、サーペンタイン状であって、5つの折り返し部を有する。また、カソード流路23は、表面28aにおいて、並列接続された一対のパラレル流路領域を6つ有する。表面28aとの接触面におけるカソード触媒層22Bの面積が2cm×2cm=4cmに対し入口INと出口OUT間の距離が0.4cmであり、入口INと出口OUT間の距離/√カソード触媒層22Bの平面積=0.2である。それ以外は実施例2と同様である。
【0111】
(実施例4)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例3と同様に、カソード流路23を入口INと出口OUTを隣接させた。さらに、実施例3と異なり表面28aにおいてカソード流路23の入口から長さ方向に全流路長の1/3の長さを有する部分までの流路領域に沿って流路板28の表面28aにカーボンの粉末を付着させ親水性領域280を形成した。
【0112】
(実施例5)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例1と異なり、流路板28の表面を加工し、表面粗さ2μm、最大高さ20μmの親水性領域280を形成した。親水性領域280の平均粗さは6±1μm程度であった。このときの親水性領域280の純水に対する接触角は30度であった。
【0113】
(実施例6)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例1と異なり、複数のアノード11および複数のカソード22を有し、バイポーラ流路板を親水性多孔質カーボン板で作製し、バイポーラ流路板の一方の表面に複数のカソードの一つに面する流路51を形成し、他方の面に複数のアノードの一つに面する流路52を形成した。親水性多孔質カーボン板は10nm以上1μm以下の平均孔径を有し、空隙率が30%である。親水性多孔質カーボン板の純水に対する接触角は15度以下である。
【0114】
(実施例7)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例1と異なり、流路板28の表面28aと、カソード流路23の内壁面の表面28aから流路板28の厚さの1/3まで部分までの領域を加工し、表面粗さ2μm、最大高さ20μmの親水性領域280を形成した。親水性領域280の平均粗さは6±1μm程度であった。親水性領域280の純水に対する接触角は30度であった。
【0115】
(実施例8)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例1と異なり、図25のようにカソード流路23の入口INと出口OUTを隣接させた。カソード触媒層22Bの平面積が2cm×2cm=4cmに対し入口INと出口OUT間の距離が0.6cmであり、入口INと出口OUT間の距離/√カソード触媒層22Bの平面積=0.3である。カソード流路23の平面形状は、サーペンタイン状であって、5つの折り返し部を有する。また、カソード流路23は、表面28aにおいて、並列接続された3本のパラレル流路領域を6つ有する。
【0116】
(比較例1)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例1と異なり、流路板28のガス拡散層22A側の表面28aは、1μm以下の表面粗さを有し、平均粗さは0.1~2μm程度であった。この表面28aの純水に対する接触角は45度であった。それ以外は同様の条件で行った。
【0117】
(比較例2)
実施例1と同様に二酸化炭素電解装置を組み立て、二酸化炭素電解性能を調べた。実施例1と異なり、表面28aの表面に対して導電性ポリマーによる撥水加工を行った。この表面の純水に対する接触角は90度であった。
【0118】
表1は、実施例1ないし実施例8、ならびに比較例1および比較例2において、約5時間後に収集したセル電圧とCOのファラデー効率、Hのファラデー効率を示す。また、カソード流路23が閉塞するまでの時間(カソード流路23の圧力が0.3MPaを超えるまでの時間)を示す。0.3MPaは通常の電解に使用する流路の圧力損失と比較して流路が閉塞していることを示す。カソード流路23の圧力が0.3MPaを超えた直後に流量も0となった。いずれも比較例、実施例についても同様にカソード圧力が0.3MPaを超えた直後に流量が0となった。このため、カソード流路23が閉塞するまでの時間をカソード圧力が0.3MPaを超えた時間により規定した。
【0119】
【表1】
【0120】
実施例1ないし実施例8、ならびに比較例1および比較例2の結果から親水性領域280を形成することにより、カソード流路23が閉塞するまでの時間を長くすることができる。また、セル電圧およびCOのファラデー効率を向上させて、電解効率を向上できることがわかる。
【0121】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0122】
1…電解装置、1X…電解装置、2…電解セル、2X…電解セル、10…アノード部、11…アノード、11a…第1の面、11b…第2の面、12…アノード流路、13…アノード集電板、14…流路板、14a…ランド、20…カソード部、21…カソード流路、22…カソード、22A…ガス拡散層、22B…カソード触媒層、22C…多孔質層、22a…第1の面、22b…第2の面、23…カソード流路、24…カソード集電板、25…流路板、26…ランド、27…ブリッジ部、28…流路板、28a…表面、29…ランド、30…セパレータ、40…電源制御部、50…流路板、50a…表面、50b…表面、51…流路、52…流路、100…アノード溶液供給系統、101…圧力制御部、102…アノード溶液タンク、103…流量制御部、104…基準電極、105…圧力計、106…タンク、200…カソード溶液供給系統、201…圧力制御部、202…カソード溶液タンク、203…流量制御部、204…基準電極、205…圧力計、206…ガス成分収集部、280…親水性領域、281…凹凸、300…ガス供給系統、301…COガスボンベ、302…流量制御部、303…圧力計、304…圧力制御部、400…生成物収集系統、401…気液分離部、402…生成物収集部、500…制御系、501…還元性能検出部、502…データ収集・制御部、503…リフレッシュ制御部、504…解析部、600…廃液収集系統、601…廃液収集タンク、700…リフレッシュ材供給部、710…ガス状物質供給系、711…ガスタンク、712…圧力制御部、720…リンス液供給系、721…リンス液タンク、722…流量制御部。
図1
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