(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】保持装置、および複合部材
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20240909BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20240909BHJP
C04B 37/00 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
H01L21/68 R
C04B41/87 E
C04B37/00 Z
(21)【出願番号】P 2021170195
(22)【出願日】2021-10-18
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100144510
【氏名又は名称】本多 真由
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】森 智史
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-009270(JP,A)
【文献】特開2021-111688(JP,A)
【文献】特開2021-034413(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0172101(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0025964(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
C04B 41/87
C04B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成され、前記対象物が載置される載置面を有する保持部と、
前記保持部に対して、前記載置面とは反対側に配置され、かつ、前記保持部を形成する材料と熱膨張率が異なる材料から形成された支持部と、
前記保持部と前記支持部との間に配置され、前記保持部と前記支持部とを接合する接合部と、
を備え、
前記接合部は、
複数のカーボンナノチューブが、自身の長手方向が前記保持部と前記支持部との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層と、
接着剤を主成分とし、前記保持部と前記カーボンナノチューブ層とを接着すると共に、前記カーボンナノチューブ層と前記支持部とを接着する接着層と、
を有
し、
前記接合部の最大せん断ひずみε(mm)が下記(式1)を満たすことを特徴とする、
保持装置。
ε≧|d
1
-d
2
| … (式1)
ここで、d
1
:最高温度における保持部の半径(mm)、d
2
:最高温度における支持部の半径(mm)である。
保持部および支持部の平面形状が円形でない場合は、最も長い対角線の半分の長さ(mm)を、それぞれ、d
1
およびd
2
とする。
【請求項2】
対象物を保持する保持装置であって、
板状に形成され、前記対象物が載置される載置面を有する保持部と、
前記保持部に対して、前記載置面とは反対側に配置され、かつ、前記保持部を形成する材料と熱膨張率が異なる材料から形成された支持部と、
前記保持部と前記支持部との間に配置され、前記保持部と前記支持部とを接合する接合部と、
を備え、
前記接合部は、
複数のカーボンナノチューブが、自身の長手方向が前記保持部と前記支持部との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層と、
接着剤を主成分とし、前記保持部と前記カーボンナノチューブ層とを接着すると共に、前記カーボンナノチューブ層と前記支持部とを接着する接着層と、
を有し、
前記カーボンナノチューブ層は、面密度が5×10
8
本/cm
2
以上であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の保持装置であって、
前記カーボンナノチューブ層は、前記複数のカーボンナノチューブの配向方向に垂直な方向にも導電性を示すことを特徴とする、
保持装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記カーボンナノチューブ層は、前記複数のカーボンナノチューブの配向方向の熱伝導率が5W/mK以上であることを特徴とする、
保持装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接合部のうち前記カーボンナノチューブ層は、前記支持部から前記保持部へ貫通する孔部を有することを特徴とする、
保持装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の保持装置であって、
前記接着層は、カーボン系の熱伝導性充填剤を含むことを特徴とする、
保持装置。
【請求項7】
第1平面を有する第1部材と、
前記第1部材と熱膨張率が異なり、前記第1部材の前記第1平面と対向する第2平面を有する第2部材と、
前記第1部材の前記第1平面と前記第2部材の前記第2平面との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、
を備え、
前記接合部は、
複数のカーボンナノチューブが、自身の長手方向が前記第1部材と前記第2部材との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層と、
接着剤を主成分とし、前記第1部材の前記第1平面と前記カーボンナノチューブ層とを接着すると共に、前記カーボンナノチューブ層と前記第2部材の前記第2平面とを接着する接着層と、
を有し、
前記接合部の最大せん断ひずみε(mm)が下記(式1)を満たすことを特徴とする、
複合部材。
ε≧|d
1
-d
2
| … (式1)
ここで、d
1
:最高温度における保持部の半径(mm)、d
2
:最高温度における支持部の半径(mm)である。
保持部および支持部の平面形状が円形でない場合は、最も長い対角線の半分の長さ(mm)を、それぞれ、d
1
およびd
2
とする。
【請求項8】
第1平面を有する第1部材と、
前記第1部材と熱膨張率が異なり、前記第1部材の前記第1平面と対向する第2平面を有する第2部材と、
前記第1部材の前記第1平面と前記第2部材の前記第2平面との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、
を備え、
前記接合部は、
複数のカーボンナノチューブが、自身の長手方向が前記第1部材と前記第2部材との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層と、
接着剤を主成分とし、前記第1部材の前記第1平面と前記カーボンナノチューブ層とを接着すると共に、前記カーボンナノチューブ層と前記第2部材の前記第2平面とを接着する接着層と、
を有
し、
前記カーボンナノチューブ層は、面密度が5×10
8
本/cm
2
以上であることを特徴とする、
複合部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を保持する保持装置、および複合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体を製造する際にウェハ等の対象物を保持する保持装置として、例えば、静電チャックが用いられる。静電チャックは、対象物が載置される保持部と、保持部を支持する支持部と、保持部と支持部とを接合する接合部と、を備える。静電チャックにおいて、支持部は、保持部を冷却する機能も有する場合がある。このような静電チャックにおいて、従来、樹脂性の接着剤からなる接合部が用いられており、接合部の熱抵抗が大きいため、保持部と支持部との間の熱伝達に時間を要し、対象物の冷却に時間がかかる場合があった。この問題に対し、接合部として、接着剤を用いずカーボンナノチューブ(以下、CNTとも呼ぶ)を用い、CNTの分子間力を用いて保持部と支持部と接合することにより、保持部と支持部との間の熱伝導性を向上させ、静電チャックの冷却性能を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献に記載の静電チャックにおいて、例えば、静電チャックの搬送、据え付け時や、ウェハの取り外し時等、保持部が接合部に対して角度をつけて引っ張られるような状態になる場合には、接合部による接着性が弱く、保持部と支持部とが剥離する可能性がある。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、対象物を保持する保持装置において、保持部と支持部との間の良好な熱伝導性を有すると共に、保持部と支持部との剥離を抑制する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0007】
(1)本発明の一形態によれば、対象物を保持する保持装置が提供される。この保持装置は、板状に形成され、前記対象物が載置される載置面を有する保持部と、前記保持部に対して、前記載置面とは反対側に配置され、かつ、前記保持部を形成する材料と熱膨張率が異なる材料から形成された支持部と、前記保持部と前記支持部との間に配置され、前記保持部と前記支持部とを接合する接合部と、を備え、前記接合部は、複数のカーボンナノチューブが、自身の長手方向が前記保持部と前記支持部との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層と、接着剤を主成分とし、前記保持部と前記カーボンナノチューブ層とを接着すると共に、前記カーボンナノチューブ層と前記支持部とを接着する接着層と、を有する。
【0008】
カーボンナノチューブの軸方向の熱伝導率は、樹脂や、充填剤により高熱伝導化した高熱伝導樹脂シートと比較して、非常に大きい。この構成によれば、保持装置の接合部が、複数のカーボンナノチューブが自身の長手方向が保持部と支持部との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層を有するため、樹脂や、充填剤により高熱伝導化した高熱伝導樹脂シートにより形成された接合部と比較して、保持部と支持部との間の熱伝導性を向上させることができる。また、この構成によれば、接合部が、接着剤を主成分とする接着層を有するため、保持部が接合部に対して角度をつけて引っ張られるような状態になる場合にも、接着性を維持することができる。そのため、接着剤を用いずカーボンナノチューブの分子間力を用いて保持部と支持部と接合する場合と比較して、接着性を向上させることができる。
【0009】
(2)上記形態の保持装置であって、前記カーボンナノチューブ層は、前記複数のカーボンナノチューブの配向方向に垂直な方向にも導電性を示してもよい。このようにすると、保持部の載置面の面方向の熱伝導性が良好になるため、載置面の面方向の温度の不均一を抑制することができる。
【0010】
(3)上記形態の保持装置であって、前記接合部の最大せん断ひずみε(mm)が下記(式1)を満たすことを特徴とする、
保持装置。
ε≧|d1-d2| … (式1)
ここで、d1:最高温度における保持部の半径(mm)、d2:最高温度における支持部の半径(mm)である。保持部および支持部の平面形状が円形でない場合は、最も長い対角線の半分の長さ(mm)を、それぞれ、d1およびd2とする。
【0011】
このようにすると、保持部、冷却部と接合部との間の剥離を抑制することができる。また、接合部における破断を抑制することができ、高い信頼性を持つ保持装置とできる。
【0012】
(4)上記形態の保持装置であって、前記カーボンナノチューブ層は、面密度が5×108本/cm2以上であってもよい。このようにすると、例えば、対象物を加工する際に用いられるプラズマからの入熱により、保持部材の載置面が250℃以上等の高温になる場合も、保持部から支持部材に急速に伝熱することができる。
【0013】
(5)上記形態の保持装置であって、前記カーボンナノチューブ層は、前記複数のカーボンナノチューブの配向方向の熱伝導率が5W/mK以上であってもよい。このようにしても、例えば、対象物を加工する際に用いられるプラズマからの入熱により、保持部材の載置面が250℃以上等の高温になる場合も、保持部から支持部材に急速に伝熱することができる。
【0014】
(6)上記形態の保持装置であって、前記接合部のうち前記カーボンナノチューブ層は、前記支持部から前記保持部へ貫通する孔部を有してもよい。このようにすると、接合部が支持部から保持部へ貫通する孔部を有する場合に、孔部の周りにカーボンナノチューブが配置される。孔部内にはガスが在り熱伝導率が低く、孔部の周りは冷却され難いため、孔部の周りにカーボンナノチューブを配置することにより、孔部の周りの熱伝導性を向上させることができる。そのため、保持部の載置面の温度分布のばらつきを低減させることができる。
【0015】
(7)上記形態の保持装置であって、前記接着層は、カーボン系の熱伝導性充填剤を含んでもよい。カーボンナノチューブ層と同様のカーボン系の熱伝導性充填剤を用いると、熱を伝える媒体が共通のため、接触界面での熱伝導が良好となるため、接合部の熱伝導性がより効率的に向上される
【0016】
(8)本発明の一形態によれば、複合部材が提供される。複合部材は、第1平面を有する第1部材と、前記第1部材と熱膨張率が異なり、前記第1部材の前記第1平面と対向する第2平面を有する第2部材と、前記第1部材の前記第1平面と前記第2部材の前記第2平面との間に配置され、前記第1部材と前記第2部材とを接合する接合部と、を備え、前記接合部は、複数のカーボンナノチューブが、自身の長手方向が前記第1部材と前記第2部材との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層と、接着剤を主成分とし、前記第1部材の前記第1平面と前記カーボンナノチューブ層とを接着すると共に、前記カーボンナノチューブ層と前記第2部材の前記第2平面とを接着する接着層と、を有する。
【0017】
この構成によれば、複合部材の接合部が、複数のカーボンナノチューブが自身の長手方向が保持部と支持部との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層を有するため、樹脂や、充填剤により高熱伝導化した高熱伝導樹脂シートにより形成された接合部と比較して、第1部材と第2部材との間の熱伝導性を向上させることができる。また、この構成によれば、接合部が、接着剤を主成分とする接着層を有するため、第1部材または第2部材が接合部に対して角度をつけて引っ張られるような状態になる場合にも、接着性を維持することができる。そのため、接着剤を用いずカーボンナノチューブの分子間力を用いて第1部材と第2部材と接合する場合と比較して、接着性を向上させることができる。
【0018】
なお、本発明は、種々の態様で実現することが可能であり、例えば、保持装置を含む半導体製造装置、保持装置の製造方法、複合部材を含む半導体製造装置、複合部材の製造方法などの形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】第1実施形態における静電チャックの外観構成を概略的に示す説明図である。
【
図2】静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図3】カーボンナノチューブ層の配向方向の熱伝導率と保持部の降温速度との関係を示す説明図である。
【
図4】カーボンナノチューブ層の面密度とカーボンナノチューブ層の配向方向の熱伝導率の関係を示す説明図である。
【
図5】第2実施形態における静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図6】第3実施形態の静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図7】第4実施形態における静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図8】第5実施形態における静電チャックの平面構成を概略的に示す説明図である。
【
図9】静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図10】第6実施形態におけるカーボンナノチューブ層の平面構成を概略的に示す説明図である。
【
図11】第7実施形態における静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図12】第8実施形態における静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【
図13】第9実施形態における静電チャックのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態における静電チャック10の外観構成を概略的に示す説明図である。
図2は、静電チャック10のXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
図1、
図2には、方向を特定するために、互いに直交するXYZ軸が示されている。
図2において、Y軸正方向は、紙面裏側に向かう方向である。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向といい、Z軸負方向を下方向というものとするが、静電チャック10は実際にはそのような向きとは異なる向きで設置されてもよい。
【0021】
静電チャック10は、対象物(例えばウェハW)を静電引力により吸着して保持する装置であり、例えば半導体製造装置の真空チャンバー内でウェハWを固定するために使用される。静電チャック10は、上下方向(Z軸方向)に並べて配置された保持部100、支持部200、および保持部100と支持部200とを接合する接合部300を備える。本実施形態における静電チャック10を、「保持装置」とも呼ぶ。
【0022】
保持部100は、略円形平面状の載置面S1を有する板状部材であり、セラミック(例えば、アルミナや窒化アルミニウム等)により形成されている。保持部100の直径は、例えば、50mm~500mm程度(通常は200mm~350mm程度)であり、保持部100の厚さは例えば1mm~10mm程度である。
【0023】
保持部100の内部には、導電性材料(例えば、タングステンやモリブデン等)により形成された吸着電極400(
図2)が配置されている。Z軸方向視での吸着電極400の形状は、例えば略円形である。吸着電極400に電源(不図示)から電圧が印加されると、静電引力が発生し、この静電引力によってウェハWが保持部100の載置面S1に吸着固定される。
【0024】
支持部200は、保持部100より径が大きい略円形平面状の板状部材である。支持部200は、保持部100を形成する材料と熱膨張率が異なる材料から形成されており、本実施形態では例えばアルミニウムやアルミニウム合金等の金属により形成され、保持部100を冷却する機能を有している。支持部200の直径は、例えば、220mm~550mm程度(通常は220mm~350mm)であり、支持部200の厚さは、例えば、20mm~40mm程度である。
【0025】
支持部200の内部には冷媒流路210(
図2)が形成されている。静電チャック10の保持部100に保持されたウェハWを、プラズマを利用して加工する際、ウェハWに対してプラズマから入熱され、ウェハWの温度が上昇する。支持部200に形成された冷媒流路210に冷媒(例えば、フッ素系不活性液体や水等)が流されると、支持部200が冷却され、接合部300を介した支持部200と保持部100との間の伝熱により保持部100が冷却され、保持部100の載置面S1に保持されたウェハWが冷却される。これにより、ウェハWの温度制御が実現される。
【0026】
接合部300は、保持部100の径と等しい略円形平面状の板状部材であり、保持部100と支持部200とを接合する。
【0027】
上述の通り、静電チャック10が晒される温度の変化に伴い、保持部100および支持部200が変形するものの、保持部100を形成する材料と支持部200を形成する材料とは、熱膨張率が異なるためその変形量が異なる。そうすると、接合部300に対してせん断力が加わる。静電チャック10において、接合部300の最大せん断ひずみε(mm)が下記の通りであるため、静電チャック10が晒される温度の変化に伴い接合部300にせん断力が加わっても、接合部300で破断を生じないため、高い信頼性を持つ静電チャック10とすることができる。
【0028】
最大せん断ひずみは、接合部300の柔軟性や応力緩和性能を表す指標となる値であり、接合部300にせん断力を加えたときに接合部300で発生するせん断応力が最大になるとき、すなわち、接合部300で最大せん断応力が発生するときに、接合部300で生じるひずみの大きさ(せん断力方向の変位量)である。
【0029】
接合部300の最大せん断ひずみε(mm)は、下記(式1)を満たす。
ε≧|d1-d2| … (式1)
ここで、d1:最高温度における保持部の半径(mm)、d2:最高温度における支持部の半径(mm)である。
【0030】
d1、d2は、以下の(式2)、(式3)により求めることができる。
d1=d{1+α1(TH-TL)}… (式2)
d2=d{1+α2(TH-TL)}… (式3)
ここで、d:室温(例えば、25℃)における接合部300の半径、α1:保持部100の線膨張率(1/K)、α2:支持部200の線膨張率(1/K)、TH:静電チャック10が晒される最高温度(℃)、TL:静電チャック10が晒される最低温度(℃)、とする。
【0031】
静電チャック10が晒される温度が変化した場合、保持部100と支持部200の半径は、それぞれ上記のd1、d2になり、これらの差が、接合部300の最大せん断ひずみε(mm)以下の場合、接合部300で破断を生じず、高い信頼性を持つ静電チャック10とできる。
【0032】
上記(式2)、(式3)を、(式1)に代入すると、下記の通りである。
ε≧|d1-d2|
=|d{1+α1(TH-TL)}-d{1+α2(TH-TL)}|
=|d(α1-α2)(TH-TL)|
【0033】
すなわち、接合部300の最大せん断ひずみε(mm)は、下記(式4)を満たすともいえる。
ε≧|d(α1-α2)(TH-TL)|… (式4)
【0034】
接合部300の最大せん断ひずみε(mm)は、公知の引張試験機(例えば、島津製作所製オートグラフAGSー5kNX)を使用し、引張試験によって測定することができる。引張試験において、せん断応力が最大になったときのひずみを、最大せん断ひずみとする。
【0035】
例えば、保持部100の主成分がアルミナ、支持部200の主成分がアルミニウムであって、保持部100の半径が150mm、支持部200の半径が150mmの場合には、最大せん断ひずみは、0.5mm以上であることが好ましい。
【0036】
接合部300は、上記(式1)を満たすため、静電チャック10が晒される温度が変化しても接合部300の破断等が生じ難く、保持部100と支持部200との剥離を抑制することができる。
【0037】
接合部300は、複数のカーボンナノチューブ312を有するカーボンナノチューブ層310と、接着剤を主成分とする接着層320と、を有する。
【0038】
カーボンナノチューブ層310は、複数のカーボンナノチューブ312の集合体であり、自身の長手方向(繊維方向)が保持部100と支持部200との積層方向(図面におけるZ軸方向)に沿うように、配向している。カーボンナノチューブの軸方向の熱伝導率は、樹脂や、充填剤により高熱伝導化した高熱伝導樹脂シートと比較して、非常に大きい。カーボンナノチューブ層310において、複数のカーボンナノチューブ312が自身の長手方向(軸方向)が保持部100と支持部200との積層方向に沿って配向するように配置されているため、樹脂や、充填剤により高熱伝導化した高熱伝導樹脂シートにより形成された接合部と比較して、保持部100と支持部200との間の熱伝導性を向上させることができる。
【0039】
「カーボンナノチューブ312の長手方向が保持部100と支持部200との積層方向に沿うように、配向する」とは、カーボンナノチューブ312の長手方向と積層方向とのなす角(以下、「傾き」とも呼ぶ)が、以下の範囲を含む概念である。カーボンナノチューブ312の長手方向がZ軸に平行な場合を0度して、Z軸となす角が30度以下となることが好ましい。これより傾きが大きい場合、熱伝導率が低下したり、接合部300の柔軟性や応力緩和性能が低下するためである。特に、カーボンナノチューブの傾きの方向と、応力緩和の際の歪みの方向とが逆になっていた場合、顕著に応力緩和性能が低下するため、30度以上の傾きは好ましくない。
【0040】
カーボンナノチューブの配向方向は、以下の方法により確認することができる。静電チャック10を割断し、その断面を走査電子顕微鏡(SEM)などで観察することで、配向方向を確認できる。電子顕微鏡の中でも、電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)が、汎用性が高くかつ比較的高倍率での観察が可能なため好ましい。拡大倍率は、全体の配向方向や1本ごとの形状が確認できるよう適宜設定すればよい。
【0041】
カーボンナノチューブの熱伝導率は、カーボンナノチューブの配向方向(図におけるZ軸方向)に、5W/mK以上である。本実施形態において、カーボンナノチューブ層310は、複数のカーボンナノチューブ312の配向方向(図におけるZ軸方向)に垂直な方向にも導電性を示す。複数のカーボンナノチューブ312が相互に接するほど高い密度で、複数のカーボンナノチューブ312を配置することにより、カーボンナノチューブ312の配向方向に垂直な方向にも導電性を示すことができる。例えば、多層カーボンナノチューブアレイを、カーボンナノチューブ層310として用いることができる。本実施形態において、カーボンナノチューブ層310層は、カーボンナノチューブの面密度が5×108本/cm2以上である。
【0042】
カーボンナノチューブ層310が複数のカーボンナノチューブ312の配向方向に垂直な方向にも導電性を示すため、保持部100の載置面S1の面方向の熱伝導性が良好になり、載置面S1の面方向の均熱性にも寄与することができる。
【0043】
カーボンナノチューブ層310の熱伝導率は、カーボンナノチューブ312の面密度を変更することにより変更することができる。カーボンナノチューブ312の面密度は、カーボンナノチューブ層310を作製する際の触媒の量、カーボンナノチューブ成長時の圧力やガスの流量を変更することで調整できる。面密度は電子顕微鏡画像にて面積当たりのカーボンナノチューブの本数を数えることで推定することができる。
【0044】
図3は、カーボンナノチューブ層の配向方向の熱伝導率と保持部100の降温速度との関係を示す説明図である。
図3(A)に評価結果(表)を示し、
図3(B)に、カーボンナノチューブ層の配向方向の熱伝導率を横軸、保持部100の降温速度を縦軸とするグラフを示す。
【0045】
図3に示す例では、配向方向の熱伝導率が互いに異なるカーボンナノチューブ層を用いて静電チャックのサンプル(サンプル1~8)を作製し、各静電チャックの保持部100の降温速度を調べた。サンプル1~8は、カーボンナノチューブ層の熱伝導率が互いに異なるものの、他の構成は同一である。サンプル1~8において、保持部100はアルミナを主成分とし、支持部200はアルミニウムを主成分とし、接着層320はシリコーン系接着剤と主成分とする。カーボンナノチューブ層の厚みは1mmである。
【0046】
保持部100の初期温度を100℃、支持部200の温度を20℃とし、保持部100の表面温度が100℃から30℃まで冷却されるのに要する時間から降温速度を算出した。ここで、降温速度(℃/s)=(100℃-30℃)/(100℃から30℃まで冷却される時間(s))である。
【0047】
図3(A)に示すように、サンプル4~8は降温速度が4.0℃/s以上であり、静電チャックの冷却性能が良好であると言える。また、
図3(B)に示すように、熱伝導率が1W/mKから5W/mKまで上昇する間は降温速度が大きく上昇し、熱伝導率の上昇の効果が大きく発現し、5W/mK以上になると降温速度の変化は緩やかになるものの、カーボンナノチューブ層の熱伝導率が高くなると降温速度が速くなる。以上の結果から、カーボンナノチューブ層の熱伝導率は5W/mK以上が好ましい。
【0048】
図4は、カーボンナノチューブ層の面密度とカーボンナノチューブ層の配向方向の熱伝導率の関係を示す説明図である。カーボンナノチューブ層の配向方向が確認できるよう、Z軸に平行な方向でカーボンナノチューブ層を破断し、走査電子顕微鏡で観察し、5μm角の範囲に何本のカーボンナノチューブが存在するか数えることで、面密度を算出した。図示するように、面密度が大きくなるにつれてカーボンナノチューブ層310の配向方向の熱伝導率が大きくなる。上述の通り、カーボンナノチューブ層310の配向方向の熱伝導率が5W/mK以上の場合に保持部100の冷却性能が良好になるため、カーボンナノチューブ層310の配向方向の熱伝導率が5W/mK以上であることが好ましい。そのため、カーボンナノチューブの面密度が5×10
8本/cm
2以上であることが好ましい。
【0049】
カーボンナノチューブの熱分解温度は、大気中で500℃~600℃程度であり、通常の樹脂の熱分解温度よりも高く、耐熱性に優れる。そのため、保持部100の耐熱性を向上させることができる。
【0050】
接合部300の厚みは、特に限定されないが、0.1mm~2mmが好ましい。保持部100と支持部200の熱膨張率が異なるときに、接合部300の厚みを上記の範囲内にすると、温度変化による保持部100と支持部200の熱膨張差を良好に緩和することができ、保持部100と支持部200の剥離や反りを抑制することができる。
【0051】
カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ(SWNT:Single-walled carbon nanotube)、2層カーボンナノチューブ(DWNT:Double-walled carbon nanotube)、および多層カーボンナノチューブ(MWNT:Multi-walled carbon nanotube)のいずれでも良い。カーボンナノチューブは多層カーボンナノチューブであることが好ましい。多層カーボンナノチューブは、一本一本の強度が高く、全体として強度が高くかつバンドルするためである。バンドルすることで、面内の意図しない温度の不均一性が低下する。
【0052】
カーボンナノチューブは、ラマン散乱測定において、Gピーク(1580cm-1)とDピーク(1350cm-1)の比(IG/ID)は2以上であることが好ましい。Gピークはグラフェン構造に起因し、Dピークはその欠陥に起因するため、その比を3以上にすることにより、カーボンナノチューブの結晶性が高く、高い熱伝導性とその面内均一性が得られる。
【0053】
本実施形態のカーボンナノチューブ層310は、自身の表面に金属層(金属触媒薄膜)を有さない。そのため、静電チャック10に保持されたウェハW(対象物)のプラズマ処理に伴う金属層によるウェハWの汚染を抑制することができる。
【0054】
接着層320は、接着剤を主成分とし、保持部100とカーボンナノチューブ層310層とを接着すると共に、カーボンナノチューブ312層と支持部200とを接着する。詳しくは、接着層320は、持部100とカーボンナノチューブ層310層とを接着する第1接着層321と、カーボンナノチューブ312層と支持部200とを接着する第2接着層322と、を有する。
【0055】
図2に示すように、第1接着層321と第2接着層322は、それぞれ、自身の一部が、カーボンナノチューブ層310の複数のカーボンナノチューブ312の間の隙間に入り込んでいる。接着層320の一部がカーボンナノチューブ層310の隙間に入り込んでいることにより、接着強度を上昇させることができる。また、接着剤は空気より熱伝導率が高いため、接着層320がカーボンナノチューブ層310の隙間に入り込んでいない場合と比較して熱伝導性を向上させることができる。
【0056】
液状の接着剤を、カーボンナノチューブ層310に含浸させ、硬化させることにより、自身の一部がカーボンナノチューブ層310の隙間に入り込んだ第1接着層321および第2接着層322を形成することができる。
【0057】
接着層320の主成分である接着剤は、特に限定されないが、例えば、シリコーン系接着剤を用いることができる。シリコーン系接着剤は、耐熱性、接着性、および柔軟性が高いため、好ましい。
【0058】
また、カーボンナノチューブとの接触角が60度以下の接着剤が好ましい。このようにすると、濡れ性がよく、良好な接着性を得ることができる。カーボンナノチューブシートに接着剤を滴下し、液滴とカーボンナノチューブシートのなす角(接触角)を、公知の装置により測定することができる。公知の装置としては、例えば、協和界面科学製の接触角計DMo-502などがある。
【0059】
接合部300は、例えば、以下の方法により製造することができる。
多層カーボンナノチューブアレイ等のカーボンナノチューブシートにスクリーン印刷など公知の手法で接着剤を塗布する、もしくは液状の接着剤中に含浸するなどの方法により、接着剤を含んだカーボンナノチューブシートを作製する。気泡を除去する場合など、必要に応じて真空引きを行ってもよい。その後、接着剤を含んだカーボンナノチューブシートを、支持部200の上に配置し、接着剤を含んだカーボンナノチューブシートの上に保持部を配置した後、所定の硬化条件で接着剤を硬化させる。これにより、カーボンナノチューブ層310と接着層320とを有する接合部300が形成され、保持部100と支持部200とが接合部300により接合される。
【0060】
なお、カーボンナノチューブシートにカップリング剤を塗布した後に、接着剤を塗布等してもよい。このようにすると、カーボンナノチューブシートの表面にカップリング剤が多く存在するため、接着剤が馴染みやすく、接着強度および熱伝導性を向上させることができる。カップリング剤は、無機材料と有機材料とを結合する化合物であり、有機材料に反応する官能基と無機材料に反応する官能基を分子内に持つ。有機材料に反応する官能基にはアミノ基、エポキシ基、アクリレート基、メタクリレート基、メルカプト基、ビニル基などがあり、無機材料と結合する官能基にはアルコキシ基など加水分解性基がある。
【0061】
以上説明したように、本実施形態の静電チャック10によれば、接合部300が、複数のカーボンナノチューブ312が自身の長手方向が保持部100と支持部200との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層310層を有するため、樹脂や、充填剤により高熱伝導化した高熱伝導樹脂シートにより形成された接合部と比較して、保持部100と支持部200との間の熱伝導性を向上させることができる。
【0062】
また、接合部300が、接着剤を主成分とする接着層320を有するため、静電チャック10の搬送時、据え付け時、デチャック時等、保持部100が接合部300に対して角度をつけて引っ張られるような状態になる場合にも、接着性を維持することができる。そのため、接着剤を用いずカーボンナノチューブの分子間力を用いて保持部100と支持部200と接合する場合と比較して、接着性を向上させることができる。
【0063】
また、接合部300は、上記(式1)を満たすため、静電チャック10が晒される温度が変化しても接合部300の破断等が生じ難く、保持部100と支持部200との剥離を抑制することができる。
【0064】
また、カーボンナノチューブ層310が、複数のカーボンナノチューブ312の配向方向に垂直な方向にも導電性を示すため、保持部100の載置面S1の面方向の熱伝導性が良好になり、載置面S1の面方向の温度の不均一を抑制することができる。
【0065】
カーボンナノチューブ層310は、面密度が5×108本/cm2以上であるため、例えば、対象物を加工する際に用いられるプラズマからの入熱により、保持部材の載置面が250℃以上等の高温になる場合も、保持部から支持部材に急速に伝熱することができる。
【0066】
さらに、カーボンナノチューブ層310層は、複数のカーボンナノチューブ312の配向方向の熱伝導率が5W/mK以上であるため、例えば、対象物を加工する際に用いられるプラズマからの入熱により、保持部材の載置面が250℃以上等の高温になる場合も、保持部から支持部材に急速に伝熱することができる。
【0067】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態における静電チャック10AのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
図3において、Y軸正方向は、紙面裏側に向かう方向である。本実施形態の静電チャック10Aは、接合部300Aの構成が第1実施形態の静電チャック10Aと異なるものの、他の構成は第1実施形態の静電チャック10Aと同一である。以下に説明する実施形態において、第1実施形態の静電チャック10と同一の構成には同一の符号を付し、先行する説明を参照する。
【0068】
本実施形態の接合部300Aは、第1実施形態の接合部300と同様に、カーボンナノチューブ層310と、接着層320Aと、を有する。接合部300Aにおいて、カーボンナノチューブ層310は保持部100と支持部200との両方に当接しており、接着層320Aは、カーボンナノチューブ層310を構成する複数のカーボンナノチューブ312の間に充填されている。
【0069】
本実施形態の静電チャック10Aによれば、接合部300Aにおいて、カーボンナノチューブ層310が保持部100と支持部200との両方に当接しているため、保持部100と支持部200との間の熱伝導性をさらに向上させることができる。
【0070】
<第3実施形態>
図6は、第3実施形態の静電チャック10BのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。本実施形態の静電チャック10Bにおいて、接着層320Bは第1実施形態と同様に第1接着層321Bと第2接着層322Bとを有する。但し、本実施形態では、図示するように、第1接着層321Bと第2接着層322Bとは、カーボンナノチューブ層310の隙間に入り込んで一体的に繋がっている。換言すると、保持部100と支持部200との間で接着層320Bは隙間なく、かつ積層の境界面なく連続している。
【0071】
本実施形態の静電チャック10Bによれば、第1接着層321Bと第2接着層322Bとの境界面の存在による熱伝導の低下を防ぎ、第1実施形態の静電チャック10より熱伝導性を向上させることができ、温度分布の均一化に資することができる。また、このようにすると、気密性、ガスバリア性を向上させることができる。
【0072】
<第4実施形態>
図7は、第4実施形態における静電チャック10CのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。本実施形態の静電チャック10Cは、第3実施形態の静電チャック10Bの構成に加え、さらに、支持部200と接合部300との間に配置されるカーボンを主成分とする第1カーボン膜331と、接合部300と支持部200との間に配置されるカーボンを主成分とする第2カーボン膜332と、をさらに備える。第1カーボン膜331と第2カーボン膜332とを区別しないときは、単に、カーボン膜330とも呼ぶ。
【0073】
カーボン膜330は、支持部200と接合部300、それぞれの表面を、物理蒸着(PVD)、化学蒸着(CVD)、PVD法のひとつであるアークイオンプレーティング、スパッタリングなどの方法によりコーティングすることにより形成することができる。
【0074】
本実施形態の静電チャック10Cによれば、カーボンナノチューブ層310と同じカーボンを主成分とするカーボン膜330が、保持部100および支持部200の表面に配置されているため、熱の伝導性をさらに向上させることができる。
【0075】
<第5実施形態>
図8は、第5実施形態における静電チャック10Dの平面構成を概略的に示す説明図である。
図8において、Z軸正方向は、紙面表側に向かう方向である。
図9は、静電チャック10DのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。
図9は、
図8におけるA-A断面を示す。
【0076】
本実施形態の静電チャック10Dは、保持部100Dの載置面S1から支持部200Dの下面202(Z軸負方向の面)に至る貫通孔である冷却用ガス孔106を、備える。冷却用ガス孔106には、例えば、ヘリウムガス等の冷却用ガスが供給される。これにより、ウェハWの均熱性を向上させることができる。また、静電チャック10Dは、保持部100D内の吸着電極400の裏側から支持部200Dの下面202に至る貫通孔であり、吸着電極400に電圧を印加するための端子孔104を、備える。冷却用ガス孔106および端子孔104は、共に、接合部300Dを貫通している。すなわち、接合部300Dは、積層方向(Z軸方向)に自身を貫通する孔部306と孔部304を備える。換言すると、冷却用ガス孔106は孔部306を含み、端子孔104は孔部304を含む。また、カーボンナノチューブ層310Dは、自身の厚み方向に貫通する孔部314と孔部316とを有する。
【0077】
静電チャック10Dにおいて、カーボンナノチューブ層310Dは、端子孔104および冷却用ガス孔106の周りにのみ形成されている。端子孔104および冷却用ガス孔106の内部にはガスが在り、熱伝導性が低いため、端子孔104および冷却用ガス孔106の周りは冷却され難い。カーボンナノチューブ層310Dを端子孔104および冷却用ガス孔106の周りに配置することにより、端子孔104および冷却用ガス孔106の周りの熱伝導性を向上させることができ、保持部100Dの表面の温度分布のばらつきを抑制することができる。
【0078】
また、
図7に示すように、本実施形態の静電チャック10Dにおいても、接着層320Dはカーボンナノチューブ層310Dの隙間に入り込んでおり、また、接合部300の外周部は接着層320が形成されているため、ガスバリア性が得られ、冷却用ガス孔106内のガスのリークを抑制することができ、効果的に静電チャック10Dの保持部100Dの載置面S1に冷却ガスを導入することができる。また、静電チャック10Dは、孔部304の外周に接着層320が配置されているため、端子孔104を介した半導体製造装置内への外部の大気の侵入を抑制することができ、半導体装置内の状態(例えば、真空状態)の変化を抑制することができる。
【0079】
<第6実施形態>
図10は、第6実施形態におけるカーボンナノチューブ層310Eの平面構成を概略的に示す説明図である。
図10において、Z軸正方向は、紙面表側に向かう方向である。本実施形態のカーボンナノチューブ層310Eは、第5実施形態のカーボンナノチューブ層310Dと異なり、接合部300Dの全面に亘って形成されている。また、本実施形態のカーボンナノチューブ層310Eは、第5実施形態のカーボンナノチューブ層310Dと同様に、積層方向(Z軸方向)に自身を貫通する孔部316と孔部314を備える。カーボンナノチューブ層310Eは、孔部316と孔部314の外周に形成され、カーボンナノチューブの密度が他の部分より高い緻密部319を備える。
【0080】
緻密部319は、例えば、特開2021-111688号公報に記載の方法により形成することができる。
【0081】
このようにしても、端子孔104および冷却用ガス孔106の周りの熱伝導性を向上させることができ、保持部の表面温度の温度分布のばらつきを抑制することができる。
【0082】
<第7実施形態>
図11は、第7実施形態における静電チャック10FのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。本実施形態の静電チャック10Fは、第3実施形態図の静電チャック10B(
図6)の接着層320Bに替えて接着層320Fを備える。接着層320Fは、第3実施形態の接着層320Bに対して熱伝導性充填剤324が添加されている。
【0083】
熱伝導性充填剤324としては、例えば、カーボンナノチューブ、黒鉛、カーボンブラック等のカーボン系の熱伝導性充填材、アルミナ、窒化アルミ等の無機系の熱伝導性充填剤を用いることができる。これらを併用してもよい。特に、カーボンナノチューブ層310と同様のカーボン系の熱伝導性充填剤を用いると、熱を伝える媒体が共通のため、接触界面での熱伝導が良好となるため、接合部300の熱伝導性がより効率的に向上されるため、好ましい。中でも、カーボンブラックは、異方性がないため、より好ましい。
【0084】
また、カーボン系材料を熱伝導性充填剤として用いると、シリコーン系接着剤の耐熱性を向上させることができる。カーボン系材料がラジカルトラップ材として機能し、分解を抑制するためと考えられる。
【0085】
以上説明したように、本実施形態の静電チャック10Fによれば、第3実施形態図の静電チャック10Bよりさらに、熱伝導性と耐熱性を向上させることができる。
【0086】
<第8実施形態>
図12は、第8実施形態における静電チャック10GのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。本実施形態の静電チャック10Gは、第1実施形態図の静電チャック10(
図2)に加え、接合部300の外周面の全面を覆うように形成された外周保護部材500を備える。
【0087】
本実施形態の外周保護部材500は、略円環平面状に形成されており、厚みが接合部300の厚みと同一である。外周保護部材500は、接合部300の外周面の上に形成されていればよく、接合部300の外周面と外周保護部材500との間に空隙が形成されていてもよい。他の実施形態では、外周保護部材500は接合部300の外周面の一部に形成されていてもよい。外周保護部材500は、カーボンより耐プラズマ性が高い材料から成る。耐プラズマ性が高い材料としては、例えば、フッ素系のゴム材料を用いることができる。また、熱収縮チューブを用いてもよい。
【0088】
本実施形態の静電チャック10Gによれば、外周保護部材500を備えるため、静電チャック10Gに保持されたウェハW(対象物)のプラズマ処理による接合部300の劣化を抑制することができ、静電チャック10Dの耐久性を向上させることができる。
【0089】
また、静電チャック10Gが外周保護部材500を備えることにより、接合部300の気密性を確保することができる。
【0090】
<第9実施形態>
図13は、第9実施形態における静電チャック10HのXZ断面構成を概略的に示す説明図である。本実施形態の静電チャック10Hは、第5実施形態の静電チャック10Dの接合部300Dに替えて接合部300Hを備える。すなわち、本実施形態の静電チャック10Hは、第5実施形態の静電チャック10Dと同様に、冷却用ガス孔106および端子孔104を備える。但し、接合部300Hにおいて、孔部304Hおよび孔部306Hは、保持部100Dに形成されている端子孔104および冷却用ガス孔106より径が大きく、孔部304Hおよび孔部306Hの内周に、内周保護部材600が設けられている。内周保護部材600は、保持部100Dに形成されている端子孔104および冷却用ガス孔106と略同一の内径の略円環平面状に形成されており、厚みが接合部300Hの厚みと同一である。
【0091】
内周保護部材600としては、例えば、ベローズ(伸縮管)を用いてもよい。ベローズは、伸縮性を有するため、保持部100Dと支持部200Dとの熱膨張差に伴う接合部300Hの変形に追従して、面方向に動くことができるため、好ましい。なお、第8実施形態において示した外周保護部材500と同様に、フッ素系のゴム材料を用いて形成されてもよい。
【0092】
接合部300Hにおいて、接着層320Hはカーボンナノチューブ層310Hの保持部100D側の面と、支持部200D側の面とに当接しており、カーボンナノチューブ層310Hの隙間に入り込んでいない。すなわち、カーボンナノチューブ層310Hの複数のカーボンナノチューブ312の間は空隙である。
【0093】
本実施形態の静電チャック10Hによれば、接合部300Hにおいて孔部306Hの内周に内周保護部材600が形成されているため、ヘリウムガス等の冷却ガスの漏れを抑制することができ、効果的に静電チャック10Hの保持部100Dの載置面S1に冷却ガスを導入することができる。また、静電チャック10Hは、孔部304Hの内周面にも内周保護部材600を備えるため、端子孔104を介した半導体製造装置内への外部の大気の侵入を抑制することができ、半導体装置内の状態(例えば、真空状態)の変化を抑制することができる。
【0094】
<第10実施形態>
第10実施形態は、複合部材である。複合部材は、第1平面を有する第1部材と、第1部材と熱膨張率が異なり、第1部材の第1平面と対向する第2平面を有する第2部材と、第1部材の第1平面と第2部材の第2平面との間に配置され、第1部材と第2部材とを接合する接合部と、を備え、接合部は、複数のカーボンナノチューブが、自身の長手方向が第1部材と第2部材との積層方向に沿って配向するように配置されたカーボンナノチューブ層と、接着剤を主成分とし、第1部材の第1平面とカーボンナノチューブ層とを接着すると共に、カーボンナノチューブ層と第2部材の第2平面とを接着する接着層と、を有する。
【0095】
複合部材の一例としてのプロジェクタにおいて、蛍光体素子(紫外線レーザを可視光に変換する素子)が第1部材、ヒートシンクが第2部材に、それぞれ相当する。
【0096】
複合部材の他の例としてのヘッドランプ等の光源において、LED素子等の発光素子を実装したセラミックパッケージが第1部材、ヒートシンクが第2部材に、それぞれ相当する。
【0097】
上記の複合部材において、接合部として上述の第1~第9実施形態の接合部を用いることができる。
【0098】
このような複合部材においても、上述の接合部を備えるため、第1部材の熱を第2部材に効率よく移動させて、急速に第1部材を冷却することができる。
【0099】
<本実施形態の変形例>
本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、上記した実施形態を組み合わせても良い。例えば、次のような変形も可能である。
【0100】
・カーボンナノチューブ層は、複数のカーボンナノチューブの配向方向に垂直な方向には導電性を示さなくてもよい。このようにしても、複数のカーボンナノチューブの配向方向の熱伝導性を良好に維持することができる。
【0101】
・接合部は上記実施形態に限定されず、接合部の最大せん断ひずみε(mm)が上記(式1)を満たさなくてもよい。
【0102】
・上記実施形態において、略円形平面の板状部材である保持部および支持部を例示したが、保持部の平面形状は上記実施形態に限定されない。例えば、矩形平面、多角形平面等の板状部材であってもよい。保持部および支持部の平面形状が円形でない場合は、最も長い対角線の半分の長さ(mm)を、それぞれ、上記(式1)におけるd1およびd2とする。
【0103】
・カーボンナノチューブ層の面密度、および配向方向の熱伝導率は、上記実施形態に限定されない。
【0104】
・接合部が備える貫通孔の数は、上記実施形態に限定されない。例えば、1つでも、2つよいし、8つ以上でもよい。静電チャックがヒータを備える場合に、ヒータに接続する配線を通すための配線挿通孔を有してもよいし、対象物(例えば、ウェハ)を脱着するためのピンなどが配置されるピン挿通孔を有してもよい。また、接合部が貫通孔を備えなくてもよい。
【0105】
・静電チャックを構成する各部、各層の形成材料は上記実施形態に限定されない。例えば、保持部は、セラミック以外の絶縁性材料により形成されてもよい。例えば、高耐熱樹脂や高耐熱ガラスを用いることができる。高耐熱樹脂の例としてはポリイミド、ポリベンズイミダゾールなどが挙げられる。また、支持部は、金属以外の熱伝導性の高い材料により形成されてもよい。例えば、アルミナや窒化アルミニウムなどのセラミックを用いることができる。
【0106】
・接合部において、保持部や支持部自体の温度分布に応じて、カーボンナノチューブの分布に疎密を設けてもよい。このようにすると、温度分布の均一性を高めることができる。具体的には、保持部において、ヒータを内蔵する場合、ヒータ部の直上は温度が上昇しやすいので、カーボンナノチューブの分布を密にし、ヒータ部の熱引きを高めてもよい。また、支持部において、冷媒流路210の直上は温度が低下しやすいので、カーボンナノチューブの分布を疎にし、熱引きを抑制してもよい。なお、保持部と支持部の間の全面にカーボンナノチューブが配置されており、かつ保持部や支持部自体の温度分布に応じてカーボンナノチューブの分布に疎密を設けるのが好ましい。仮に、カーボンナノチューブが配置されない部分があると、その部分は放熱できず、極高温になる可能性があるためである。
【0107】
・上記実施形態において、保持装置として静電チャックを例示したが、保持装置は、静電チャックに限定されない。例えば、CVD、PVD、PLD(Pulsed Laser Deposition)等の真空装置用ヒータ装置、サセプタ、載置台として構成することができる。
【0108】
以上、実施形態、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した態様の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することができる。
【符号の説明】
【0109】
S1…載置面
W…ウェハ
10、10A、10B、10C、10D、10F、10G、10H…静電チャック
100、100D…保持部
104…端子孔
106…冷却用ガス孔
200、200D…支持部
202…下面
210…冷媒流路
300、300A、300D、300H…接合部
304、304H…孔部
306、306H…孔部
310、310D、310E、310H…カーボンナノチューブ層
312…カーボンナノチューブ
314、316…孔部
319…緻密部
320、320A、320B、320D、320F、320H…接着層
321、321B…第1接着層
322、322B…第2接着層
324…熱伝導性充填剤
330…カーボン膜
331…第1カーボン膜
332…第2カーボン膜
400…吸着電極
500…外周保護部材
600…内周保護部材