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特許7551598全固体二次電池用バインダー、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに全固体二次電池及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】全固体二次電池用バインダー、全固体二次電池用バインダー組成物、全固体二次電池用スラリー、全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに全固体二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20240909BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240909BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240909BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240909BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20240909BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/052
H01M10/0585
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021511297
(86)(22)【出願日】2020-03-06
(86)【国際出願番号】 JP2020009664
(87)【国際公開番号】W WO2020203042
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2023-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2019066166
(32)【優先日】2019-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】322004083
【氏名又は名称】株式会社ENEOSマテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】麻生 圭吾
(72)【発明者】
【氏名】大橋 泰良
(72)【発明者】
【氏名】疇地 基央
(72)【発明者】
【氏名】助口 大介
(72)【発明者】
【氏名】板井 信吾
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/136090(WO,A1)
【文献】特開2012-243476(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073678(WO,A1)
【文献】特開2015-167126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和カルボン酸エステル(水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a1)と、3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)と、を含有し、
重量平均分子量(Mw)が250,000~3,000,000であり、
ASTM D3418に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、-10℃以下に吸熱ピークが観測される、重合体(A)を含有する、全固体二次電池用バインダー。
【請求項2】
前記重合体(A)が、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)をさらに含有する、請求項1に記載の全固体二次電池用バインダー。
【請求項3】
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)を0.1~20質量部含有する、請求項2に記載の全固体二次電池用バインダー。
【請求項4】
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)を0.1~20質量部含有する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の全固体二次電池用バインダー。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の全固体二次電池用バインダーと、液状媒体(B)とを含有する、全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項6】
前記液状媒体(B)が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類及びエーテル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項7】
前記重合体(A)が、50nm~5,000nmの数平均粒子径を有する粒子である、請求項5または請求項6に記載の全固体二次電池用バインダー組成物。
【請求項8】
請求項5ないし請求項7のいずれか一項に記載の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含有する全固体二次電池用スラリー。
【請求項9】
前記固体電解質として、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質を含有する、請求項8に記載の全固体二次電池用スラリー。
【請求項10】
正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層とを少なくとも備える全固体二次電池において、
前記正極活物質層、前記固体電解質層、及び前記負極活物質層の少なくともいずれか1層が、請求項8又は請求項9に記載の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層である、全固体二次電池。
【請求項11】
基材上に、請求項8又は請求項9に記載の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層を有する、全固体二次電池用固体電解質シート。
【請求項12】
請求項8又は請求項9に記載の全固体二次電池用スラリーを基材上に塗布及び乾燥させる工程を含む、全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体二次電池用バインダー、該バインダーを含有する全固体二次電池用バインダー組成物、該組成物と固体電解質とを含有する全固体二次電池用スラリー、該スラリーを基材上に塗布及び乾燥させて形成された全固体二次電池用固体電解質シート及びその製造方法、並びに該シートを備えた全固体二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの駆動電源や家庭用蓄電池などに用いるため、現在、大型リチウムイオン電池の研究が盛んに行われている。汎用されているリチウムイオン二次電池には、電解液が用いられているものが多い。この電解液を固体電解質に置き換え、構成材料の全てを固体とする全固体二次電池は、安全性と高エネルギー密度、長寿命を兼ね備えた究極の電池として開発が進められている。
【0003】
全固体二次電池は、高いイオン伝導性を示す固体電解質を用いるため、液漏れや発火の危険性がなく、安全性や信頼性に優れている。また、全固体二次電池は、電極のスタックによる高エネルギー密度化にも適している。具体的には、活物質層と固体電解質層とを並べて直列化した構造を持つ電池とすることができる。このとき、電池セルを封止する金属パッケージ、電池セルをつなぐ銅線やバスバーを省略することができるので、電池のエネルギー密度を大幅に高めることができる。また、高電位化が可能な正極材料との相性の良さなども利点として挙げられる。
【0004】
その一方で、全固体二次電池を製造する際の課題も顕在化している。具体的には、電解質としての固体電解質と活物質との接触面積を増大させるために、それらを混合した混合物の加圧成型体とした場合には、該加圧成型体は硬くて脆い加工性に乏しいものとなる。また、活物質はリチウムイオンの吸蔵・放出により体積変化を伴うため、前記加圧成型体では、充放電サイクルに伴って活物質が剥離するなどし、顕著な容量低下が発生するなどの問題を有していた。
【0005】
そこで、成型性を高めるために、前記混合物にバインダー成分をさらに加えて成型性を向上させる技術が検討されている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-86899号公報
【文献】特公平7-87045号公報
【文献】国際公開第2009/107784号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1~3に開示された高分子化合物からなるバインダー成分は、従来の印加電圧下においては、全固体二次電池としての特性が良好になると考えられる。しかしながら、固体電解質の表面が高分子化合物に覆われることで、固体電解質間のイオン伝導が阻害されやすいことに加え、昨今の全固体二次電池に要求される高電圧下における高レベルのサイクル寿命特性を満足することができず、さらなる改善が要求されていた。
【0008】
そこで、本発明に係る幾つかの態様は、イオン伝導度の低下を抑制することができ、かつ、結着性及び耐酸化性に優れており、高電圧下においても良好なサイクル寿命特性を実現できる全固体二次電池用バインダー及び該バインダーを含有する全固体二次電池用バインダー組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下のいずれかの態様として実現することができる。
【0010】
本発明に係る全固体二次電池用バインダーの一態様は、
不飽和カルボン酸エステル(水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a1)と、3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)と、を含有し、
重量平均分子量(Mw)が250,000~3,000,000であり、
JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、-10℃以下に吸熱ピークが観測される、重合体(A)を含有する。
【0011】
前記全固体二次電池用バインダーの一態様において、
前記重合体(A)が、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)をさらに含有することができる。
【0012】
前記全固体二次電池用バインダーのいずれかの態様において、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)を0.1~20質量部含有することができる。
【0013】
前記全固体二次電池用バインダーのいずれかの態様において、
前記重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計を100質量部としたときに、前記3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)を0.1~20質量部含有することができる。
【0014】
本発明に係る全固体二次電池用バインダー組成物の一態様は、
前記いずれかの態様の全固体二次電池用バインダーと、液状媒体(B)とを含有する。
【0015】
前記全固体二次電池用バインダー組成物の一態様において、
前記液状媒体(B)が、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ケトン類、エステル類及びエーテル類よりなる群から選ばれる少なくとも1種であることができる。
【0016】
前記全固体二次電池用バインダー組成物のいずれかの態様において、
前記重合体(A)が、50nm~5,000nmの数平均粒子径を有する粒子であることができる。
【0017】
本発明に係る全固体二次電池用スラリーの一態様は、
前記いずれかの態様の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含有する。
【0018】
前記全固体二次電池用スラリーの一態様において、
前記固体電解質として、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質を含有することができる。
【0019】
本発明に係る全固体二次電池の一態様は、
正極活物質層と、固体電解質層と、負極活物質層とを少なくとも備える全固体二次電池であって、
前記正極活物質層、前記固体電解質層、及び前記負極活物質層の少なくともいずれか1層が、前記いずれかの態様の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層である。
【0020】
本発明に係る全固体二次電池用固体電解質シートの一態様は、
基材上に、前記いずれかの態様の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層を有する。
【0021】
本発明に係る全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法の一態様は、
前記いずれかの態様の全固体二次電池用スラリーを基材上に塗布及び乾燥させる工程を含む。
【0022】
本発明に係る全固体二次電池の製造方法の一態様は、
前記態様の全固体二次電池用固体電解質シートの製造方法を介して全固体二次電池を製造する。
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る全固体二次電池用バインダー組成物によれば、全固体二次電池の固体電解質層及び/又は活物質層の材料として用いたときに、適度な粘性を有することにより作業性に優れ、イオン伝導度の低下を抑制することができ、かつ、結着性及び耐酸化性にも優れており、高電圧下においても良好なサイクル寿命特性を実現できるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、下記に記載された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含むものとして理解されるべきである。なお、本明細書における「(メタ)アクリル酸~」とは、「アクリル酸~」及び「メタクリル酸~」の双方を包括する概念である。同様に「~(メタ)アクリレート」とは、「~アクリレート」及び「~メタクリレート」の双方を包括する概念である。同様に「(メタ)アクリルアミド」とは、「アクリルアミド」及び「メタクリルアミド」の双方を包括する概念である。
【0025】
本明細書において、「A~B」のように記載された数値範囲は、数値Aを下限値として含み、かつ、数値Bを上限値として含むものとして解釈される。
【0026】
1.全固体二次電池用バインダー
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダーは、重合体(A)を含有する。前記重合体(A)は、不飽和カルボン酸エステル(水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a1)(以下、単に「繰り返し単位(a1)」ともいう。)と、3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)(以下、単に「繰り返し単位(a2)」ともいう。)を含有し、重量平均分子量(Mw)が250,000~3,000,000であり、JIS K7121に準拠して示差走査熱量測定(DSC)を行ったときに、-10℃以下に吸熱ピークが観測される重合体である。
【0027】
また、重合体(A)は、前記繰り返し単位(a1)及び前記繰り返し単位(a2)のほかに、それと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。
【0028】
以下、重合体(A)を構成する各繰り返し単位、重合体(A)の物性、製造方法の順に説明する。
【0029】
1.1.重合体(A)を構成する繰り返し単位
<不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)>
重合体(A)は、不飽和カルボン酸エステル(水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルを除く)に由来する繰り返し単位(a1)を含有する。不飽和カルボン酸エステルとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸プロピレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、テトラ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ヘキサ(メタ)アクリル酸ジペンタエリスリトール、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸イソボルニル等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらのうち、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ドデシル及び(メタ)アクリル酸イソボルニルから選択される1種以上であることが好ましく、(メタ)アクリル酸n-ブチルであることが特に好ましい。なお、これらの単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なお、本発明における「不飽和カルボン酸エステル」との用語には、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルは含まれないものとする。
【0030】
不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)の含有割合の下限としては、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計量を100質量部としたときに、40質量部であることが好ましく、50質量部であることがより好ましく、65質量部であることが特に好ましい。一方、不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a1)の含有割合の上限としては、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計量を100質量部としたときに、99.9質量部であることが好ましく、99.7質量部であることがより好ましく、97質量部であることが特に好ましい。重合体(A)が繰り返し単位(a1)を前記範囲で含有することにより、疎水性の高い重合体(A)が液状媒体(B)中に溶解もしくは一部溶解した状態で存在するので、重合体(A)による活物質や固体電解質、そして導電助剤等のフィラー間の結着性が向上するとともに、ポットライフが長く良好な分散性を有する全固体二次電池用スラリー(以下、単に「スラリー」ともいう。)を作成することができる。また、重合体(A)に柔軟性を付与することができ、柔軟性の高い重合体(A)が活物質や固体電解質の表面を覆うことにより、活物質層や固体電解質層が硬脆性を示すことなく耐擦性や粉落ち性に優れた電極板が得られるとともに、良好な耐酸化性と充放電耐久特性を有する全固体二次電池が得られる。
【0031】
<3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)>
重合体(A)は、3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)を含有する。3級アミノ基を有する化合物としては、特に限定されないが、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル、4-アクリロイルモルフォリン、N-シクロヘキシルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドなどを挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらのうち、メタクリル酸1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル、N-シクロヘキシルマレイミド及びN-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミドであることが好ましい。なお、これらの単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)の含有割合の下限としては、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計量を100質量部としたときに、0.1質量部であることが好ましく、0.5質量部であることがより好ましく、1質量部であることが特に好ましい。一方、3級アミノ基を有する化合物に由来する繰り返し単位(a2)の含有割合の上限としては、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計量を100質量部としたときに、20質量部であることが好ましく、15質量部であることがより好ましく、10質量部であることが特に好ましい。繰り返し単位(a2)を前記範囲で含有することにより、特に硫化物系電解質と反応することなく、重合体(A)と集電体との結着性を向上させることができる。また、重合体(A)に3級アミノ基が導入されることで、重合体(A)による活物質や固体電解質、そして導電助剤等のフィラー間の結着性が向上するとともに、ポットライフが長く良好な分散性を有するスラリーを作成できる。
【0033】
<水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)>
重合体(A)は、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)を含有することができる。水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸5-ヒドロキシペンチル、(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシ-1-アダマンチル、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中でも、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシ-1-アダマンチルが好ましい。なお、これらの単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)の含有割合の下限としては、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計量を100質量部としたときに、0.1質量部であることが好ましく、0.5質量部であることがより好ましく、1質量部であることが特に好ましい。一方、水酸基を有する不飽和カルボン酸エステルに由来する繰り返し単位(a3)の含有割合の上限としては、重合体(A)中に含まれる繰り返し単位の合計量を100質量部としたときに、20質量部であることが好ましく、15質量部であることがより好ましく、10質量部であることが特に好ましい。繰り返し単位(a3)を前記範囲で含有することにより、硫化物系電解質と反応することなく、重合体(A)と集電体との結着性が向上する。また、水酸基間の水素結合により電池充放電中の電極膨張・収縮への耐久性が向上し、良好な耐酸化性と充放電耐久特性を有する全固体二次電池が得られる。
【0035】
<その他の繰り返し単位>
重合体(A)は、前記繰り返し単位(a1)~(a3)の他に、これらと共重合可能な他の単量体に由来する繰り返し単位を含有してもよい。他の単量体としては、共役ジエン化合物、芳香族ビニル化合物、α,β-不飽和ニトリル化合物、前記3級アミノ基を有する化合物以外の(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0036】
共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらの中でも、1,3-ブタジエンが特に好ましい。
【0037】
芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、クロルスチレン、ジビニルベンゼン等を挙げることができ、これらのうちから選択される1種以上であることができる。これらの中でも、スチレンが特に好ましい。
【0038】
α,β-不飽和ニトリル化合物としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α-クロルアクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、シアン化ビニリデン等を挙げることができ、これらから選択される1種以上であることができる。これらの中でも、アクリロニトリル及びメタクリロニトリルから選択される1種以上であることが好ましく、アクリロニトリルであることが特に好ましい。
【0039】
前記3級アミノ基を有する化合物以外の(メタ)アクリルアミドとしては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、マレイン酸アミド、アクリルアミドtert-ブチルスルホン酸等が挙げられ、これらから選択される1種以上であることができる。
【0040】
1.2.重合体(A)の物性
<重量平均分子量(Mw)>
重合体(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が250,000~3,000,000である。重合体(A)の重量平均分子量の下限は、270,000以上であることが好ましく、300,000以上であることがより好ましい。重合体(A)の重量平均分子量の上限は、2,800,000以下であることが好ましく、2,500,000以下であることがより好ましい。重合体(A)の重量平均分子量(Mw)が前記範囲であると、重合体(A)による活物質や固体電解質、そして導電助剤等のフィラー間の結着性が向上し、充放電特性に優れた全固体二次電池が得られやすい。また、全固体二次電池作製時の電極板や固体電解質層のプレス、折り曲げ等の外力に対する耐性が向上する。
【0041】
<重合体(A)の溶解度>
重合体(A)は、液状媒体(B)に溶解した状態であることが好ましい。「重合体(A)が液状媒体(B)に溶解する」とは、重合体(A)の液状媒体(B)に対する溶解度が、液状媒体(B)100gに対し1g以上であることを意味する。重合体(A)が液状媒体(B)に溶解した状態であることにより、柔軟性や結着性に優れる重合体(A)によって活物質の表面がコーティングされやすくなるので、充放電時における活物質の伸縮による脱落を効果的に抑制でき、良好な充放電耐久特性を示す全固体二次電池が得られやすい。また、スラリーの安定性が良好となり、スラリーの集電体への塗布性も良好となるため好ましい。
【0042】
<数平均粒子径>
重合体(A)は、液状媒体(B)に分散したラテックス状態であることも好ましい。この場合には、重合体(A)は粒子形状を有している。重合体(A)の数平均粒子径は、50nm~5,000nmであることが好ましく、60nm~1,000nmであることがより好ましく、70nm~500nmであることが特に好ましい。重合体(A)の数平均粒子径が前記範囲にあると、活物質の表面に重合体(A)の粒子が吸着しやすくなるので、活物質の移動に伴って重合体(A)も追従して移動することができる。その結果、両者の粒子のうちのいずれかのみが単独でマイグレーションすることを抑制できるので、電気的特性の劣化を低減することができる。
【0043】
なお、重合体(A)の数平均粒子径は、透過型電子顕微鏡(TEM)により観察した重合体(A)の画像より得られる粒子径50個の平均値より算出することができる。透過型電子顕微鏡としては、例えば株式会社日立ハイテクノロジーズ製の「H-7650」等を用いることができる。
【0044】
<ガラス転移温度(Tg)>
重合体(A)は、JIS K7121に準拠する示差走査熱量測定(DSC)によって測定したときに、-10℃以下の温度範囲において吸熱ピークを有する。この吸熱ピークの温度(すなわちガラス転移温度(Tg))は、-10℃以下の範囲にあることが好ましく、-25℃以下の範囲にあることがより好ましい。DSC分析における重合体(A)の吸熱ピークが-10℃以下にある場合、重合体(A)は、活物質層に対してより良好な柔軟性及び結着性を付与することができるため好ましい。
【0045】
1.3.重合体(A)の合成方法
重合体(A)の合成方法は、特に制限されず、基本的にはラジカル重合による、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、沈殿重合等の公知の重合方法を用いることができる。中でも、水を主成分とした溶媒中での公知の連鎖移動剤、重合開始剤等の存在下で行われる懸濁重合又は乳化重合が好ましい。
【0046】
重合体(A)の合成時に用いる連鎖移動剤は、例えば、次亜リン酸塩類、亜リン酸類、チオール類、第2級アルコール類、アミン類等が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。連鎖移動剤の使用量は、重合させる単量体の全質量100質量部に対して、5.0質量部以下であることが好ましい。
【0047】
重合体(A)の合成時に用いる重合開始剤は、ラジカル開始剤が好ましく、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩や4,4’-アゾビス(4-シアノ吉草酸)等のアゾ系開始剤、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル等の過酸化物系開始剤等が挙げられる。重合開始剤の使用量は、重合させる単量体の全質量100質量部に対して、0.1~5.0質量部であることが好ましい。
【0048】
重合体(A)合成時の重合温度は特に制限されないが、製造時間や単量体の共重合体への転化率(反応率)などを考慮に入れると30~95℃の範囲で合成することが好ましく、50~85℃がより好ましい。また、重合時には製造安定性を向上する目的でpH調整剤や金属イオン封止剤であるEDTAもしくはその塩などを使用することも可能である。
【0049】
また、重合前もしくは重合後に、アンモニアや有機アミン、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の一般的な中和剤でpH調整を行ってもよく、その場合にはpHを5~11の範囲に調整することが好ましい。金属イオン封止剤であるEDTAもしくはその塩などを使用することも可能である。
【0050】
2.全固体二次電池用バインダー組成物
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、上述の重合体(A)と、液状媒体(B)とを含有する。以下、本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物に含まれる各成分について詳細に説明する。なお、重合体(A)については、上述したので詳細な説明を省略する。
【0051】
2.1.液状媒体(B)
液状媒体(B)としては、特に限定されないが、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン等の脂環式炭化水素;トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、テトラリン等の芳香族炭化水素;メチルヘキシルケトン、ジプロピルケトン等のケトン類;酢酸ブチル、酪酸ブチル、ブタン酸メチル等のエステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、アニソール等のエーテル類;水を含有する水系媒体などを用いることができる。これらの溶媒は、1種単独であるいは2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物中の液状媒体(B)の含有割合は、重合体(A)100質量部に対して、好ましくは100~10,000質量部であり、より好ましくは500~2,000質量部である。液状媒体(B)の含有割合が前記下限値以上であると、全固体二次電池用スラリーを調製する際において、重合体(A)と活物質との混合性が良好となる。一方、液状媒体(B)の含有割合が前記上限値以下であると、活物質層を製造する際に、全固体二次電池用スラリーの塗布性が良好となり、塗布後の乾燥処理において重合体(A)や活物質の濃度勾配が生じにくい。また、固体電解質層を製造する際に、固体電解質と全固体二次電池用バインダー組成物とを含有するスラリーの塗布性が良好となり、塗布後の乾燥処理において重合体(A)や固体電解質の濃度勾配が生じにくい。
【0053】
2.2.その他の添加剤
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、必要に応じて上述した成分以外の添加剤を含有することができる。このような添加剤としては、例えば前記重合体(A)以外の重合体、酸化防止剤、増粘剤等が挙げられる。
【0054】
<重合体(A)以外の重合体>
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、重合体(A)以外の重合体(後述の増粘剤に該当するものを除く)を含有してもよい。重合体(A)以外の重合体を含有することにより、柔軟性や密着性がより向上する場合がある。このような重合体としては、特に限定されないが、ポリアクリロニトリル、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンイミン、ポリメタクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミック酸、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル、ニトロセルロース、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体の(Na)イオン架橋体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体の(Na)イオン架橋体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体、エチレン-アクリル酸メチル共重合体の(Na)イオン架橋体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体の(Na)イオン架橋体、モノアルキルトリアルコキシシラン重合体からなる高分子、モノアルキルトリアルコキシシラン重合体とテトラアルコキシシランモノマーとを共重合させた高分子、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・イソプレン共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体(ブチルゴム)、エチレン・プロピレン・ジエン共重合体(エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体(NBR)、水素化スチレンブタジエンゴム、水素化アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、エチレン-プロピレン-ジエンマー(EPDM)、スルホン化エチレン-プロピレン-ジエンマー等が挙げられる。
【0055】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物における重合体(A)の含有割合は、重合体(A)、重合体(A)以外の重合体、及び増粘剤の合計100質量部に対して、10~80質量部であることが好ましく、15~65質量部であることがより好ましく、20~50質量部であることが特に好ましい。
【0056】
<酸化防止剤>
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤を含有することにより、得られる全固体二次電池の低温サイクル特性及び低温出力特性を更に向上できる場合がある。また、重合体成分の耐酸化性を更に向上させることができる場合がある。
【0057】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、キノン系酸化防止剤、有機リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、フェノチアジン系酸化防止剤などの化合物が挙げられる。これらの中でも、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤が好ましい。
【0058】
<増粘剤>
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物は、増粘剤を含有してもよい。増粘剤を含有することにより、その塗布性や得られる全固体二次電池の充放電特性等を更に向上できる場合がある。
【0059】
増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース系ポリマー;ポリ(メタ)アクリル酸;前記セルロース化合物又は前記ポリ(メタ)アクリル酸のアンモニウム塩もしくはアルカリ金属塩;変性ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド;ポリビニルピロリドン、ポリカルボン酸、酸化スターチ、リン酸スターチ、カゼイン、各種変性デンプン、キチン、キトサン誘導体などが挙げられる。これらの中でも、セルロース系ポリマーが好ましい。
【0060】
本実施形態に係る全固体二次電池用バインダー組成物が増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有割合は、全固体二次電池用バインダー組成物の全固形分量100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0061】
3.全固体二次電池用スラリー
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含有する。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、正極活物質層及び負極活物質層のいずれの活物質層を形成するための材料として使用することもできるし、また固体電解質層を形成するための材料として使用することもできる。
【0062】
正極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、正極用の活物質(以下、単に「正極活物質」ともいう。)とを含有する。また、負極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質と、負極用の活物質(以下、単に「負極活物質」ともいう。)とを含有する。さらに、固体電解質層を形成するための全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と、固体電解質とを含有する。以下、本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーに含まれ得る成分について説明する。
【0063】
3.1.活物質
<正極活物質>
正極活物質としては、例えば、MnO、MoO、V、V13、Fe、Fe、Li(1-x)CoO、Li(1-x)NiO、LiCoSn、Li(1-x)Co(1-y)Ni、Li(1+x)Ni1/3Co1/3Mn1/3、TiS、TiS、MoS、FeS、CuF、NiF等の無機化合物;フッ化カーボン、グラファイト、気相成長炭素繊維及び/又はその粉砕物、PAN系炭素繊維及び/又はその粉砕物、ピッチ系炭素繊維及び/又はその粉砕物等の炭素材料;ポリアセチレン、ポリ-p-フェニレン等の導電性高分子などを用いることができる。これらの正極活物質は、1種を単独で用いてもよく、又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0064】
正極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、固固界面の接触面積を増加させる観点から、0.1μm~50μmであることが好ましい。正極活物質を所定の平均粒径とするためには、乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、衛星ボールミル、旋回気流型ジェットミル等の粉砕機や、篩、風力分級機等の分級機を用いればよい。粉砕時には、必要に応じて、水又はメタノール等の溶媒を共存させた湿式粉砕を行ってもよい。分級は、乾式、湿式ともに用いることができる。また、焼成法によって得られた正極活物質は、水、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、又は有機溶剤にて洗浄した後使用してもよい。
【0065】
なお、活物質の平均粒径とは、レーザー回折法を測定原理とする粒度分布測定装置を用いて測定された体積平均粒子径のことをいう。このようなレーザー回折式粒度分布測定装置としては、例えばHORIBA LA-300シリーズ、HORIBA LA-920シリーズ(以上、株式会社堀場製作所製)等が挙げられる。
【0066】
正極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーにおいて、正極活物質の含有割合は、固形成分の合計を100質量部としたときに、20~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましい。
【0067】
<負極活物質>
負極活物質としては、可逆的にリチウムイオン等を吸蔵・放出できるものであれば特に限定されないが、例えば炭素質材料、酸化錫や酸化ケイ素等の金属酸化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金、Sn、Si若しくはIn等のリチウムと合金形成可能な金属等が挙げられる。中でも、信頼性の点から炭素質材料が、電池容量を大きくできる点からケイ素含有材料が好ましく用いられる。
【0068】
炭素質材料としては、実質的に炭素からなる材料であれば特に限定されないが、例えば、石油ピッチ、天然黒鉛、気相成長黒鉛等の人造黒鉛、及びPAN系の樹脂やフルフリルアルコール樹脂等の各種の合成樹脂を焼成した炭素質材料を挙げることができる。さらには、PAN系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、脱水PVA系炭素繊維、リグニン炭素繊維、ガラス状炭素繊維、活性炭素繊維等の各種炭素繊維類、メソフェーズ微小球体、グラファイトウィスカー、平板状の黒鉛等を挙げることもできる。
【0069】
ケイ素含有材料は、一般的に用いられる黒鉛やアセチレンブラックに比べて、より多くのリチウムイオンを吸蔵できる。すなわち、単位重量当たりのリチウムイオン吸蔵量が増加するため、電池容量を大きくすることができる。その結果、バッテリー駆動時間を長くすることができるという利点があり、車載用バッテリー等への使用が今後期待されている。その一方で、ケイ素含有材料は、リチウムイオンの吸蔵、放出に伴う体積変化が大きいことが知られており、黒鉛やアセチレンブラックではリチウムイオンの吸蔵による体積膨張が1.2~1.5倍程度であるところ、ケイ素を含有する負極活物質では約3倍にもなる場合がある。この膨張・収縮を繰り返すこと(充放電を繰り返すこと)によって、負極活物質層の耐久性が不足し、例えば接触不足を起こしやすくなったり、サイクル寿命(電池寿命)が短くなったりすることがある。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーを用いて形成された負極活物質層は、このような膨張・収縮が繰り返されてもバインダー成分が追従することによって高い耐久性(強度)が発揮されるので、高電圧下においても良好なサイクル寿命特性を実現できるという優れた効果を奏する。
【0070】
負極活物質の平均粒径は、特に限定されないが、固固界面の接触面積を増加させる観点から、0.1μm~60μmであることが好ましい。負極活物質を所定の平均粒径とするためには、上記例示した粉砕機や分級機を用いることができる。
【0071】
負極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーにおいて、負極活物質の含有割合は、固形成分の合計を100質量部としたときに、20~90質量部であることが好ましく、40~80質量部であることがより好ましい。
【0072】
3.2.固体電解質
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、固体電解質を含有する。固体電解質としては、一般に全固体二次電池に使用される固体電解質を適宜選択して用いることができるが、硫化物系固体電解質又は酸化物系固体電解質であることが好ましい。
【0073】
固体電解質の平均粒径の下限としては、0.01μmであることが好ましく、0.1μmであることがより好ましい。固体電解質の平均粒径の上限としては、100μmであることが好ましく、50μmであることがより好ましい。
【0074】
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーにおいて、固体電解質の含有割合の下限は、電池性能と界面抵抗の低減・維持効果の両立の観点から、固形成分の合計を100質量部としたときに、50質量部であることが好ましく、70質量部であることがより好ましく、90質量部であることが特に好ましい。固体電解質の含有割合の上限は、同様の観点から、固形成分の合計を100質量部としたときに、99.9質量部であることが好ましく、99.5質量部であることがより好ましく、99.0質量部であることが特に好ましい。ただし、前記正極活物質又は前記負極活物質とともに用いるときには、その総和が上記の濃度範囲となることが好ましい。
【0075】
<硫化物系固体電解質>
硫化物系固体電解質は、硫黄原子(S)及び周期表第1族又は第2族の金属元素を含み、イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。このような硫化物系固体電解質としては、例えば、下記一般式(1)で表される組成式の硫化物系固体電解質を挙げることができる。
Li ・・・・・(1)
(式(1)中、Mは、B、Zn、Si、Cu、Ga及びGeから選択される元素を表す。a~dは各元素の組成比を表し、a:b:c:d=1~12:0~1:1:2~9を満たす。)
【0076】
上記一般式(1)中、Li、M、P及びSの組成比は、好ましくはb=0である。より好ましくはb=0、かつ、a:c:d=1~9:1:3~7である。さらに好ましくはb=0、かつ、a:c:d=1.5~4:1:3.25~4.5である。各元素の組成比は、後述するように、硫化物系固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。
【0077】
硫化物系固体電解質は、非結晶(ガラス)であってもよく、結晶(ガラスセラミックス)であってもよく、一部のみが結晶化していてもよい。
【0078】
Li-P-S系ガラス及びLi-P-S系ガラスセラミックスにおける、LiSとPとの比率は、LiS:Pのモル比で、好ましくは65:35~85:15、より好ましくは68:32~80:20である。LiSとPとの比率をこの範囲にすることにより、リチウムイオン伝導度を高くすることができる。硫化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度は、1×10-4S/cm以上が好ましく、1×10-3S/cm以上がより好ましい。
【0079】
このような化合物としては、例えば、LiSと、第13族~第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるものを挙げることができる。具体例としては、LiS-P、LiS-GeS、LiS-GeS-ZnS、LiS-Ga、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-GeS-Sb、LiS-GeS-Al、LiS-SiS、LiS-Al、LiS-SiS-Al、LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiI、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、Li10GeP12などが挙げられる。中でも、LiS-P、LiS-GeS-Ga、LiS-GeS-P、LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPOからなる結晶及び/又は非結晶の原料組成物が、高いリチウムイオン伝導性を有するため好ましい。
【0080】
このような原料組成物を用いて硫化物系固体電解質を合成する方法としては、例えば非晶質化法を挙げることができる。非晶質化法としては、例えば、メカニカルミリング法及び溶融急冷法を挙げることができる。中でも、常温での処理が可能になり、製造工程の簡略化できるため、メカニカルミリング法が好ましい。
【0081】
硫化物系固体電解質は、例えば、T.Ohtomo,A.Hayashi,M.Tatsumisago,Y.Tsuchida,S.Hama,K.Kawamoto,Journal of Power Sources,233,(2013),pp231-235又はA.Hayashi,S.Hama,H.Morimoto,M.Tatsumisago,T.Minami,Chem.Lett.,(2001),pp872-873等の文献を参考にして合成することができる。
【0082】
<酸化物系固体電解質>
酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)及び周期表第1族又は第2族の金属元素を含み、イオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有するものが好ましい。このような酸化物系固体電解質としては、例えば、LixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LiLaZr12(LLZ)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li(1+xb+yb)(Al,Ga)xb(Ti,Ge)(2-xb)Siyb(3-yb)12(ただし、0≦xb≦1、0≦yb≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12が挙げられる。
【0083】
また、酸化物系固体電解質としては、Li、P及びOを含むリン化合物も好ましい。例えば、リン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸原子の一部を窒素原子で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt及びAuから選ばれる少なくとも1種を示す。)が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C及びGaから選ばれる少なくとも1種を示す。)等も好ましく用いることができる。
【0084】
これらの中でも、Li(1+xb+yb)(Al,Ga)xb(Ti,Ge)(2-xb)Siyb(3-yb)12(ただし、0≦xb≦1、0≦yb≦1である)は、高いリチウムイオン伝導性を有し、化学的に安定で取り扱いが容易なため好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
酸化物系固体電解質のリチウムイオン伝導度は、1×10-6S/cm以上が好ましく、1×10-5S/cm以上がより好ましく、5×10-5S/cm以上が特に好ましい。
【0086】
3.3.その他の添加剤
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーには、前述した成分以外に、必要に応じてその他の成分を添加してもよい。このような成分としては、例えば、導電付与剤、増粘剤、液状媒体(ただし、全固体二次電池用バインダー組成物からの持ち込み分を除く。)等が挙げられる。
【0087】
<導電付与剤>
導電付与剤は、電子の導電性を助ける効果を有するため、正極活物質層又は負極活物質層を形成するための全固体二次電池用スラリーに添加される。導電付与剤の具体例としては、活性炭、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン等のカーボンが挙げられる。これらの中でも、アセチレンブラック、ファーネスブラックが好ましい。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーが導電付与剤を含有する場合、導電付与剤の含有割合は、活物質100質量部に対して、20質量部以下であることが好ましく、1~15質量部であることがより好ましく、2~10質量部であることが特に好ましい。
【0088】
<増粘剤>
増粘剤の具体例としては、上述の全固体二次電池用バインダー組成物のところで例示した増粘剤と同様の増粘剤が挙げられる。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーが増粘剤を含有する場合、増粘剤の含有割合は、全固体二次電池用スラリーの全固形分量100質量部に対して、5質量部以下であることが好ましく、0.1~3質量部であることがより好ましい。
【0089】
<液状媒体>
液状媒体の具体例としては、上述の全固体二次電池用バインダー組成物のところで例示した液状媒体(B)と同様の液状媒体が挙げられる。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーに液状媒体を添加する場合、全固体二次電池用バインダー組成物に含まれる液状媒体(B)と同一の液状媒体を添加してもよく、異なる液状媒体を添加してもよいが、同一の液状媒体を添加することが好ましい。本実施形態に係る全固体二次電池用スラリー中の液状媒体の含有割合は、その塗布性を良好なものとし、塗布後の乾燥処理における重合体(A)や活物質の濃度勾配を抑制する観点から、任意の割合に調整することができる。
【0090】
3.4.全固体二次電池用スラリーの調製方法
本実施形態に係る全固体二次電池用スラリーは、上述の全固体二次電池用バインダー組成物と固体電解質とを含有するものである限り、どのような方法によって製造されたものであってもよい。
【0091】
しかしながら、より良好な分散性及び安定性を有するスラリーを、より効率的かつ安価に製造するとの観点から、上述の全固体二次電池用バインダー組成物に、固体電解質及び必要に応じて用いられる任意的添加成分を加え、これらを混合することにより製造することが好ましい。全固体二次電池用バインダー組成物とそれ以外の成分とを混合するためには、公知の手法による攪拌によって行うことができる。
【0092】
全固体二次電池用スラリーを製造するための混合撹拌手段としては、スラリー中に固体電解質粒子の凝集体が残らない程度に撹拌し得る混合機と、必要にして十分な分散条件とを選択する必要がある。分散の程度は粒ゲージにより測定可能であるが、少なくとも100μmより大きい凝集物がなくなるように混合分散することが好ましい。このような条件に適合する混合機としては、例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、脱泡機、顔料分散機、擂潰機、超音波分散機、ホモジナイザー、プラネタリーミキサー、ホバートミキサーなどを例示することができる。
【0093】
全固体二次電池用スラリーの調製(各成分の混合操作)は、少なくともその工程の一部を減圧下で行うことが好ましい。これにより、得られる正極活物質層、負極活物質層又は固体電解質層内に気泡が生じることを防止することができる。減圧の程度としては、絶対圧として、5.0×10~5.0×10Pa程度とすることが好ましい。
【0094】
4.固体電解質シート
本実施形態に係る固体電解質シートは、基材上に上述の全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて形成された層を有するものである。
【0095】
本実施形態に係る固体電解質シートは、例えば、基材となるフィルム上に上述の全固体二次電池用スラリーを、ブレード法(例えばドクターブレード法)、カレンダー法、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、オフセット法、ダイコート法、又はスプレー法等により塗布し、乾燥させて層を形成した後、該フィルムを剥離することによって製造することができる。このようなフィルムとしては、例えば離型処理したPETフィルム等の一般的なものを用いることができる。
【0096】
または、固体電解質シートを積層する相手のグリーンシート、もしくは、その他の全固体二次電池の構成部材の表面に、固体電解質を含有する全固体二次電池用スラリーを直接塗布、乾燥させて、固体電解質シートを成型することもできる。
【0097】
本実施形態に係る固体電解質シートは、層の厚さが好ましくは1~500μm、より好ましくは1~100μmの範囲となるように、上述の全固体二次電池用スラリーを塗布することが好ましい。層の厚さが前記範囲内であると、リチウムイオン等の伝導イオンが移動しやすくなるので、電池の出力が高くなる。また、層の厚さが前記範囲内であると、電池全体を薄厚化することができるので、単位体積当たりの容量を大きくすることができる。
【0098】
全固体二次電池用スラリーの乾燥は、特に限定されず、加熱乾燥、減圧乾燥、加熱減圧乾燥等のいずれの手段も用いることができる。乾燥雰囲気は、特に限定されず、例えば大気雰囲気下で行うことができる。
【0099】
固体電解質シートに正極活物質及び固体電解質が含まれる場合には、固体電解質シートは正極活物質層としての機能を有する。固体電解質シートに負極活物質及び固体電解質が含まれる場合には、固体電解質シートは負極活物質層としての機能を有する。また、固体電解質シートに正極活物質及び負極活物質が含まれず、固体電解質が含まれる場合には、固体電解質シートは固体電解質層としての機能を有する。
【0100】
5.全固体二次電池用電極及び全固体二次電池
本実施形態に係る全固体二次電池用電極は、集電体と、前記集電体の表面上に上述の全固体二次電池用スラリーが塗布及び乾燥されて形成された活物質層と、を備えるものである。かかる全固体二次電池用電極は、金属箔などの集電体の表面に、上述の全固体二次電池用スラリーを塗布して塗膜を形成し、次いで該塗膜を乾燥して活物質層を形成することにより製造することができる。このようにして製造された全固体二次電池用電極は、集電体上に、上述の重合体(A)、固体電解質、及び活物質、さらに必要に応じて添加した任意成分を含有する活物質層が結着されてなるものであるから、柔軟性、耐擦性及び粉落ち耐性に優れるとともに、良好な充放電耐久特性を示す。
【0101】
正極・負極の集電体としては、化学変化を起こさない電子伝導体が用いられることが好ましい。正極の集電体としては、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及びこれらの合金等や、アルミニウム、ステンレス鋼の表面にカーボン、ニッケル、チタンあるいは銀を処理させたものが好ましく、これらの中でも、アルミニウム、アルミニウム合金がより好ましい。負極の集電体としては、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、ニッケル、チタン、及びこれらの合金が好ましく、アルミニウム、銅、銅合金がより好ましい。
【0102】
集電体の形状としては、通常フィルムシート状のものが使用されるが、ネット、パンチされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の成形体なども用いることができる。集電体の厚みとしては、特に限定されないが、1μm~500μmが好ましい。また、集電体表面は、表面処理により凹凸を付けることも好ましい。
【0103】
全固体二次電池用スラリーを集電体上に塗布する手段としては、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、又はエアーナイフ法等を利用することができる。全固体二次電池用スラリーの塗布膜の乾燥処理の条件としては、処理温度は20~250℃であることが好ましく、50~150℃であることがより好ましく、処理時間は1~120分間であることが好ましく、5~60分間であることがより好ましい。
【0104】
また、集電体上に形成された活物質層をプレス加工して圧縮してもよい。プレス加工する手段としては、高圧スーパープレス、ソフトカレンダー、1トンプレス機等を利用することができる。プレス加工の条件は、用いる加工機に応じて適宜設定することができる。
【0105】
このようにして集電体上に形成された活物質層は、例えば、厚みが40~100μmであり、密度が1.3~2.0g/cmである。
【0106】
このようにして製造された全固体二次電池用電極は、一対の電極間に固体電解質層が挟持されて構成される全固体二次電池における電極、具体的には全固体二次電池用の正極及び/又は負極として好適に用いられる。また、上述の全固体二次電池用スラリーを用いて形成された固体電解質層は、全固体二次電池用の固体電解質層として好適に用いられる。
【0107】
本実施形態に係る全固体二次電池は、公知の方法を用いて製造することができる。具体的には、以下のような製造方法を用いることができる。
【0108】
まず、固体電解質及び正極活物質を含有する全固体二次電池用スラリーを集電体上に塗布及び乾燥させて正極活物質層を形成し、全固体二次電池用正極を作製する。次いで、該全固体二次電池用正極の正極活物質層の表面に固体電解質を含有する全固体二次電池用スラリーを塗布及び乾燥させて固体電解質層を形成する。さらに、同様にして固体電解質及び負極活物質を含有する全固体二次電池用スラリーを固体電解質層の表面に塗布及び乾燥させて負極活物質層を形成する。最後に、該負極活物質層の表面に負極側の集電体(金属箔)を載置することで、所望の全固体二次電池の構造を得ることができる。
【0109】
また、固体電解質シートを離型PETフィルム上に作製し、予め作製しておいた全固体二次電池用正極または全固体二次電池用負極の上に貼り合わせる。その後、離型PETを剥離することで、所望の全固体二次電池の構造を得ることもできる。なお、上記の各組成物の塗布方法は常法によればよい。このとき、全固体二次電池正極用スラリー、全固体二次電池固体電解質層用スラリー、及び全固体二次電池負極用スラリーのそれぞれの塗布の後に、それぞれ加熱処理を施すことが好ましい。加熱温度は重合体(A)のガラス転移温度以上であることが好ましい。具体的には30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、100℃以上であることが最も好ましい。上限は、300℃以下が好ましく、250℃以下がより好ましい。このような温度範囲で加熱することで、重合体(A)を軟化させるとともに、その形状を維持することができる。これにより、全固体二次電池において、良好な結着性とイオン伝導性を得ることができる。
【0110】
また、加熱しながら加圧することも好ましい。加圧圧力としては5kN/cm以上が好ましく、10kN/cm以上であることがより好ましく、20kN/cm以上であることが特に好ましい。なお、本明細書中において、放電容量とは、電極の活物質重量あたりの値を示し、ハーフセルにおいては負極の活物質重量あたりの値を示す。
【0111】
6.実施例
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0112】
6.1.各物性値の測定法
以下の実施例及び比較例において、各物性値の測定法は以下の通りである。
【0113】
(1)重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)
温度条件50℃においてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、カラム:商品名「GMHHR-H」、東ソー株式会社製)によって測定を行い、ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を求め、これらの値から分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0114】
(2)ガラス転移温度(Tg)
ASTM D3418に準拠して示差走査熱量測定(DSC)によって測定した。
【0115】
(3)数平均粒子径
透過型電子顕微鏡(TEM)(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式「H-7650」)を用いて重合体粒子を観察し、得られた画像から50個の重合体粒子の粒子径を測定し、それらの平均値を算出して求めた。
【0116】
6.2.重合体(A)の合成例
<合成例1>
メタクリル酸ドデシル75質量部、メタクリル酸イソブチル19質量部、N,N-ジエチルアクリルアミド5質量部、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート1質量部、ラウロイルペルオキシド2質量部、及びtert-ドデシルメルカプタンを混合した均一溶液を、懸濁重合の分散安定剤として1%ポリビニルアルコール水溶液60質量部に加え、ホモミキサーにて500rpmで30分間攪拌した。この分散液を、攪拌機、温度計、窒素導入管、還流冷却器を備えたセパラブルフラスコに入れ、窒素気流下、60℃で4時間加熱し重合させた。重合終了後、冷却し放置すると反応系は重合体粒子と透明な水の2層に分離し、乳化重合物はほとんど認められなかった。ヌッチェを用いてこれを濾過し重合体粒子を取り出し、水洗と濾過を繰り返し、乾燥して重合体(A)50質量部を得た。得られた重合体(A)について、重量平均分子量(Mw)及びガラス転移温度(Tg)を測定し、結果を表1に記載した。
【0117】
<合成例2~19、23~28>
上記合成例1において、各単量体の種類及び量をそれぞれ表1~表3に記載の通りとし、合成方法を適宜応用して合成例2~19の各重合体(A)、及び合成例23~28の各重合体を合成した。
【0118】
<合成例20>
撹拌機付きガラス容器に、アクリル酸n-ブチル54質量部、アクリル酸シクロヘキシル13.5質量部、メタクリル酸ドデシル22.5質量部、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル5質量部、アクリル酸2-ヒドロキシエチル5質量部、重合性乳化剤「アデカリアソープSR1025」(株式会社ADEKA製)0.1質量部を添加し、水170質量部、及び、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5質量部を添加し、十分に攪拌した後、窒素気流下、60℃で4時間加熱し重合させた。
次いで、得られた水分散液を10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを7に調整した。また、pHを7に調整したポリマーの水分散液に対しては、未反応モノマーを除去するため加熱減圧処理を行った後、イオン交換水を添加し、固形分濃度を30質量%に調整した。
粒子状ポリマーの溶媒を水から有機溶媒に交換するため、固形分濃度を調整した粒子状ポリマーの水分散液100gに、有機溶剤としてのアニソールを500g添加し、減圧下で水を蒸発させた。こうして得られたバインダー組成物を正極活物質層、負極活物質層及び固体電解質層を作製するためのバインダー組成物として用いた。得られたバインダー組成物に含まれる重合体粒子について透過型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、型式「H-7650」)を用いて観察し、得られた画像より50個の粒子の平均粒子径を算出したところ200nmであった。
【0119】
<合成例21、22>
上記合成例20において、各単量体の種類及び量をそれぞれ表2に記載の通りとし、合成方法を適宜応用して合成例21、22の各重合体(A)を合成した。
【0120】
6.3.実施例1
<バインダー組成物の調製>
合成例1で得た重合体(A)をアニソール中に添加し、一晩撹拌することにより、重合体(A)をアニソールに溶解させたバインダー組成物を調製した。ここで、バインダー組成物全体を100質量%としたときに、重合体(A)の含有量が10質量%となるようにした。
【0121】
<全固体二次電池正極用スラリーの調製>
正極活物質としてLiCoO(平均粒子径:10μm)70質量部と、固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒子径5μm)30質量部と、導電助剤としてアセチレンブラック2質量部と、上記で調製したバインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらに液状有機媒体としてアニソールを加えて、固形分濃度を75%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全固体二次電池正極用スラリーを調製した。
【0122】
<全固体二次電池固体電解質層用スラリーの調製>
固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒子径5μm)100質量部と、上記で調製したバインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらに液状有機媒体としてアニソールを加えて、固形分濃度を55%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全固体二次電池固体電解質層用スラリーを調製した。
【0123】
<全固体二次電池負極用スラリーの調製>
負極活物質としての人造黒鉛(平均粒子径:20μm)65質量部、固体電解質としてLiSとPからなる硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒子径5μm)35質量部、上記で調製したバインダー組成物を固形分相当で2質量部とを混合し、さらに液状有機媒体としてアニソールを加えて、固形分濃度を65%に調整した後に自転公転ミキサー(THINKY社製、あわとり練太郎ARV-310)で10分間混合して全固体二次電池負極用スラリーを調製した。
【0124】
<正負極・固体電解質層の作製>
上記で調製した全固体二次電池正極用スラリーをドクターブレード法によりアルミニウム箔上に塗布し、120℃の減圧下でアニソールを蒸発させて3時間かけて乾燥することにより、厚み0.1mmの正極活物質層が形成された全固体二次電池正極を作製した。
上記で調製した全固体二次電池固体電解質用スラリーをドクターブレード法により離型PETフィルム上に塗布し、120℃の減圧下でアニソールを蒸発させて3時間かけて乾燥することにより、厚み0.1mmの固体電解質層を作製した。
上記で調製した全固体二次電池負極用スラリーをドクターブレード法によりステンレス箔上に塗布し、120℃の減圧下でアニソールを蒸発させて3時間かけて乾燥することにより、厚み0.1mmの負極活物質層が形成された全固体二次電池負極を作製した。
【0125】
<全固体二次電池正極の剥離強度試験>
上記で得られた全固体二次電池正極のアルミニウム箔上に形成された正極活物質層について、正極活物質層上に幅20mmのテープを貼り、これを剥離角度90°、剥離速度50mm/minの条件で剥離するときの剥離強度を測定した。評価基準は下記の通りである。結果を表1に示す。
(評価基準)
AA:剥離強度が20N/m以上。
A :剥離強度が10N/m以上20N/m未満。
B :剥離強度が5N/m以上10N/m未満。
C :剥離強度が5N/m未満。
【0126】
<全固体二次電池正極の柔軟性試験>
正極試験片のアルミニウム箔側を直径1.0mmの金属棒に沿わせ、この金属棒に巻き付けて正極活物質層が割れるか否か、巻き付け端部に損傷があるか否かを評価した。評価基準は下記の通りである。結果を表1に示す。正極活物質層の損傷が見られないものは、試験片の柔軟性が高く、全固体二次電池組み立てのプロセス適性が良好であることを示す。
(評価基準)
A:正極活物質層の割れなし、巻き付け端部の損傷なし。
B:正極活物質層の割れなし、巻き付け端部の損傷あり。
C:正極活物質層の割れあり。
【0127】
<固体電解質層のリチウムイオン伝導度測定>
PETフィルムから剥がした固体電解質層を2枚のステンレス鋼製の平板からなるセルで挟み、インピーダンスアナライザーを使用して測定し、ナイキストプロットからリチウムイオン伝導度を算出した。評価基準は下記の通りである。結果を表1に示す。リチウムイオン伝導度が大きい程、電池性能が良好な全固体二次電池が得られることを示す。
(評価基準)
AA:リチウムイオン伝導度が0.8×10-4S/cm以上1.0×10-4S/cm以下
A :リチウムイオン伝導度が0.5×10-4S/cm以上0.8×10-4S/cm未満
B :リチウムイオン伝導度が0.2×10-4S/cm以上0.5×10-4S/cm未満
C :リチウムイオン伝導度が0.2×10-4S/cm未満
【0128】
<負極ハーフセルの作製及び電気化学評価>
硫化物ガラス(LiS/P=75mol%/25mol%、平均粒子径5μm)単独からなる層が、作製した負極塗工シートとLi(厚み0.2mm)-In(厚み0.1mm)積層体の間に配置されるようにそれぞれ積層することで、負極ハーフセルを作製した。
得られた負極ハーフセルに対して充放電試験を実施した。充放電は、0.88~-0.57V(vs.Li-In)の電位範囲で、0.1Cレートで測定を行った。この0.1Cレートの充放電を繰り返し行い、1サイクル目の放電容量をA(mAh/g)、20サイクル目の放電容量をB(mAh/g)としたとき、20サイクル後の容量維持率を下記式によって算出した。評価基準は以下の通りである。結果を表1に示す。
20サイクル後の容量維持率(%)=(B/A)×100
なお、CレートのCとは時間率であり、(1/X)C=定格容量(Ah)/X(h)と定義される。Xは定格容量分の電気を充電又は放電する際の時間を表す。例えば、0.1Cとは、電流値が定格容量(Ah)/10(h)であることを意味する。
(評価基準)
AA:容量維持率が95%以上100%以下
A :容量維持率が90%以上95%未満
B :容量維持率が85%以上90%未満
C :容量維持率が85%未満
【0129】
6.4.実施例2~22、比較例1~6
表1~表3に示す重合体を用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして全固体二次電池用バインダー組成物を得て、全固体二次電池用スラリー及び全固体二次電池電極を作製し、上記実施例1と同様に評価した。それぞれの結果を表1~表3に示す。
【0130】
6.5.評価結果
下表1~下表3に、実施例1~22及び比較例1~6で使用した重合体組成、各物性及び各評価結果をまとめた。
【0131】
【表1】
【0132】
【表2】
【0133】
【表3】
【0134】
上表1~上表3における単量体の略称は、それぞれ以下の化合物を表す。
<不飽和カルボン酸エステル(a1)>
・n-BA:アクリル酸n-ブチル
・2-EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
・CHA:アクリル酸シクロヘキシル
・IBA:アクリル酸イソボルニル
・n-BMA:メタクリル酸n-ブチル
・i-BMA:メタクリル酸イソブチル
・MMA:メタクリル酸メチル
・CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
・LAMA:メタクリル酸ドデシル
<3級アミノ基を有する化合物(a2)>
・DEAA:N,N-ジエチルアクリルアミド
・DEAEMA:メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル
・PMPMA:メタクリル酸1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル
・AMP:アクリロイルモルフォリン
・CHMI:N-シクロヘキシルマレイミド
・EMI:N-エチルマレイミド
・AOHI:N-アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド
・DMAA:メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル
・DMAEMA:メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル
<水酸基を有する不飽和カルボン酸エステル(a3)>
・HAA:アクリル酸3-ヒドロキシ-1-アダマンチル
・CHDMA:1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート
・HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル
・HHA:アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル
<1級又は2級アミノ基を有する化合物>
・AA:アクリルアミド
・IPAA:イソプロピルアクリルアミド
・HEAA:ヒドロキシエチルアクリルアミド
・CEA:アクリル酸2-シアノエチル
【0135】
表1~表3の結果から、実施例1~実施例22の全固体型電池用バインダー組成物においては、高い作業性をもって活物質層を形成することができ、しかも形成される活物質層には集電体に対して高い密着性が得られることが確認された。
【0136】
また、実施例1~実施例22においては、全固体二次電池電極用スラリーとして、全固体二次電池用バインダー組成物に活物質と共に固体電解質が含有されてなるものが用いられている。そして、当該スラリーによって形成された活物質層において、剥離強度の測定の際に活物質層自体が脆くなって活物質や固体電解質の脱落、あるいはクラックなどが生じることがなく、活物質及び固体電解質のいずれの間においてもバインダーに十分な結着性が得られていることが確認された。したがって、本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を用いることによって形成される活物質層には固体電解質層に対する十分な密着性が得られること、及び本発明の全固体二次電池用バインダー組成物を用いることによって固体電解質層を形成した場合にも高い作業性が得られること、また形成される固体電解質には活物質層に対する十分な密着性が得られることが推察される。
【0137】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を包含する。また本発明は、上記の実施形態で説明した構成の本質的でない部分を他の構成に置き換えた構成を包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成をも包含する。さらに本発明は、上記の実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成をも包含する。