IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.の特許一覧

特許7551613VDFポリマーと黒鉛とを含むポリマー組成物
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】VDFポリマーと黒鉛とを含むポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/16 20060101AFI20240909BHJP
   F16L 9/14 20060101ALI20240909BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20240909BHJP
   B29C 48/395 20190101ALI20240909BHJP
   B29C 48/40 20190101ALI20240909BHJP
   B29C 48/09 20190101ALI20240909BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20240909BHJP
   B29C 63/14 20060101ALI20240909BHJP
   B29C 53/12 20060101ALI20240909BHJP
   B29C 53/60 20060101ALI20240909BHJP
   E21B 17/01 20060101ALI20240909BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C08L27/16
F16L9/14
C08K3/04
B29C48/395
B29C48/40
B29C48/09
B29C48/08
B29C63/14
B29C53/12
B29C53/60
E21B17/01
B32B27/30 D
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021528977
(86)(22)【出願日】2019-11-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-10
(86)【国際出願番号】 EP2019082477
(87)【国際公開番号】W WO2020109258
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2022-10-25
(31)【優先権主張番号】18208223.0
(32)【優先日】2018-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】サングイネーティ, アルド
(72)【発明者】
【氏名】ミレンダ, マルコ
(72)【発明者】
【氏名】ブリナーティ, ジュリオ
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-054185(JP,A)
【文献】特開昭60-168742(JP,A)
【文献】特許第3229635(JP,B2)
【文献】国際公開第2009/072606(WO,A1)
【文献】特開2016-014092(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
F16L9
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- 少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー、
- VDFポリマーの100重量部に対して2~50重量部の複数の黒鉛の粒子
を含む、ポリマー組成物であって、
- 前記複数の黒鉛の粒子が、50μm未満のレーザー散乱で測定されるD90粒子径及び15~50mgのBET比表面積を有する、ポリマー組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つのVDFポリマーが熱可塑性ポリマーである、請求項1に記載のポリマー組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物を含む、管状物品。
【請求項4】
層の1つが請求項3に記載の管状物品である、多層パイプ。
【請求項5】
少なくとも1つのVDFポリマーを含み黒鉛化合物を含まない層が、前記管状物品の内表面の少なくとも一部に接着されている、請求項4に記載の多層パイプ。
【請求項6】
石油ガス採取用の結合又は非結合フレキシブルライザーであり、当該フレキシブルライザーが、内側から外側へ、内部金属枠、ポリマー内側密封シース、金属伸張性アーマー層を含む、請求項4又は5に記載の多層パイプ。
【請求項7】
前記ポリマー内側密封シースが請求項3に記載の管状物品を含むか又は管状物品である、請求項6に記載の多層パイプ
【請求項8】
- 少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマーを提供する工程、
- VDFポリマーの100重量部に対して2~50重量部の複数の黒鉛の粒子であって、前記複数の黒鉛の粒子は、50μm未満のレーザー散乱で測定されるD90粒子径及び15~50mgのBET比表面積を有する、複数の黒鉛の粒子を提供する工程、
- 前記VDFポリマー及び前記複数の黒鉛の粒子を押出機へ導入する工程、
- 前記VDFポリマーと前記複数の黒鉛の粒子とを押し出す工程
を含む、請求項1又は2に記載のポリマー組成物の製造方法。
【請求項9】
プレミックスを得るために、ペレット、顆粒、粉末、ビーズ又は繊維などの分割形態の前記VDFポリマーを、前記複数の黒鉛の粒子とプレミックスする工程と、結果として生じたプレミックスを前記押出機のメインゲートに導入する工程とをさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1又は2に記載のポリマー組成物を管の形状で押し出す工程を含む、請求項3に記載の管状物品の製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2に記載のポリマー組成物を、フィルム、層又はテープの形状で押し出す工程と、その後前記フィルム、層又はテープを、円筒形状を有する支持体に巻き付ける工程と、次いで、任意選択的に前記支持体を取り除く工程とを含む、請求項3に記載の管状物品の製造方法。
【請求項12】
巻き付けられたフィルム、層又はテープに、それを少なくとも部分的に溶融させるために熱を加え、このようにして密封された管状物品を形成する工程をさらに含む、請求項11に記載の管状物品の製造方法。
【請求項13】
請求項1若しくは2に記載のポリマー組成物の、又は請求項3に記載の管状物品の、又は請求項4~7のいずれか一項に記載の多層パイプの、炭化水素を輸送するための使用。
【請求項14】
請求項1若しくは2に記載のポリマー組成物の、又は請求項3に記載の管状物品の、又は請求項4~7のいずれか一項に記載の多層パイプの、ダウンホール作業での使用。
【請求項15】
請求項1若しくは2に記載のポリマー組成物の、又は請求項3に記載の管状物品の、又は請求項4~7のいずれか一項に記載の多層パイプの掘削作業での使用。
【請求項16】
- 少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー、
- VDFポリマーの100重量部に対して1~100重量部の複数の黒鉛の粒子
を含む、ダウンホール作業又は掘削作業での使用のための、ポリマー組成物であって、
- 前記複数の黒鉛の粒子が、50μm未満のレーザー散乱で測定されるD90粒子径及び10~50mgのBET比表面積を有する、ポリマー組成物。
【請求項17】
請求項16に記載の組成物を含む、ダウンホール作業又は掘削作業での使用のための管状物品。
【請求項18】
層の1つが請求項17に記載の管状物品である、ダウンホール作業又は掘削作業での使用のための多層パイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月26日出願の欧州特許出願第18208223.0号に対する優先権を主張するものであり、この出願の全内容は、あらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、フッ化ビニリデン(VDF)ポリマーと選択された黒鉛グレードとを含むポリマー組成物に関する。本発明による組成物は、石油/ガス採取業界向けの、特に、炭化水素を沖合抗井から浮遊式沖合ユニットまで搬送するなどの厳しい条件での用途向けのパイプなどの管状物品の製造に特に有用である。本発明による組成物は、炭化水素流れからのCO及びHSなどの酸性ガスのパイプの層を通っての透過を低減し、こうしてその金属外側アーマー層の腐食を防ぐ。同時に、本発明による組成物は、著しい繰り返しの機械的変形が関与する状況におけるそれらの適用を可能にする切断時伸び及び降伏歪みなどの良好な機械的特性を有する。
【背景技術】
【0003】
原油及び天然ガスを沖合掘削リグ及びターミナルから陸上へ又は浮遊式プラットフォームにポンプ送液するために使用されるものなどの沖合パイプラインは、非常に高い圧力及び温度に耐え得ることが要求され、それ故典型的には、鉄及び鋼などの金属製の層を含む。
【0004】
そのようなパイプラインは、また、発生源及び目的地の相対移動に対応するように及びまた巻いた形態での輸送及び再使用を可能にするようにフレキシブルであることを要求される。フレキシビリティは、典型的には、構造と圧力への耐性とを提供する金属層と、管を密封し、及びパイプの内側から外側への物質の移行を防ぐポリマー層とを組み合わせることによって達成される。
【0005】
フレキシブルライザーとしても知られる、炭化水素を搬送するためのフレキシブルパイプは、広く使用されており、一般に、パイプの内側から外側へ、全体パイプを保護するための、特に海水がその厚さを貫通するのを防ぐためのポリマー内側密封シースで覆われた金属枠、圧力アーマー層、伸張性アーマー層及びポリマー外側シースを含む。金属枠及び圧力アーマー層は、通常、短ピッチで巻かれた長手方向エレメントで構成され、半径方向力に耐える能力をパイプに与え、一方、伸張性アーマー層は、通常、軸方向力に反応するために長ピッチで巻かれた金属線からなる。フレキシブルライザーは、結合していることができるかそれとも結合していないことができる。本発明は、両方のタイプに用途を見出す。
【0006】
ポリフッ化ビニリデン(PVDF)は、典型的には100℃~130℃の温度での炭化水素に対するその耐化学薬品性のためにそのようなポリマー内側密封シースを製造するための材料として提案されてきた。
【0007】
操作温度及び圧力下で、炭化水素中に含有される二酸化炭(CO)及び硫化水(HS)は、ポリマー内側密封シースを通って伸張性アーマー層中へ浸透し、水蒸気の存在下で、これらの金属強化材の腐食を引き起こす。これらの現象は、特に超深海用途における、パイプの機械的性能に影響を及ぼし、その結果としてパイプの耐用年数を低減し得る。
【0008】
圧力アーマー層及び伸張性アーマー層用の酸性使用鋼種が、この腐食影響を防ぐために使用されることもあるが、そのような鋼種は、高価であるという及び不十分な機械的特性を有するという欠点を有し、これらのパイプにおける金属部分のセクション及び重量の増加を強いる。
【0009】
それ故、そのようなフレキシブルパイプのポリマー内側密封シースに使用できる改善されたポリマー組成物であって、酸性ガスの透過が減少し、こうして酸性鋼種の使用に関連して上で述べられた欠点なしに、及び一般にそのようなパイプの耐用年数を延ばすためにそのようなパイプを製造することを可能にする組成物が必要とされている。そのような組成物は、また、特に、ロールの巻取り/巻戻しに、及び例えば目的地が浮遊型プラットフォームである場合に炭化水素の発生源及び目的地位置の相対移動に関連した、稼働中にそれらがさらされる繰り返される歪み及び圧縮力に耐えるために良好な機械的特性を維持すべきである。これらの条件で、パイプの一面は典型的には伸ばされ、一方、反対面は圧縮され、この延伸/圧縮サイクルは、異なる方向に多数回繰り返され得る。
【0010】
このような理由で、パイプに使用される材料が、パイプの全体耐用年数の間これらのストレスに耐えるように十分に高い切断時伸び及び十分に高い降伏ストレスを有することが非常に重要である。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、VDFポリマーと、低い粒子径及び定義された範囲のBET比表面積を有する選択された黒鉛材料とを含むポリマー組成物であって、非常に低い又は非常に高いBET比表面積を有する材料を排除する組成物に関する。
【0012】
本発明による組成物を例えばガス/石油採取用のフレキシブルパイプに使用することによって、CO及びHSなどの酸性ガスの透過速度が強く低減されることが見出された。本発明の組成物は、より大きい粒子径を有する黒鉛材料を使用する組成物と比較される場合により低い透過速度を有し、並びにより小さい粒子径及びより大きいBET比表面積を有する黒鉛材料を使用する組成物よりも製造するのが容易であり、且つ、安価である。最も好ましい範囲内の黒鉛グレードを含む組成物は、また、改善された機械的特性を有する。これらの特性は、組成物の容易な製造及び分布一様性並びに本組成物を含む物品にとって厳しい環境でもより長い耐用年数を可能にする。
【0013】
一態様において、本発明は、少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマー、VDFポリマーの100重量部に対して1~100重量部、好ましくは2~50重量部、より好ましくは2~30重量部、さらにより好ましくは3~20重量部の複数の黒鉛の粒子を含むポリマー組成物であって、前記黒鉛の粒子が、50μm未満、好ましくは2~30μm、より好ましくは2~20μm、より好ましくは2~10μmのレーザー散乱で測定されるD90粒子径、及び10~50m/g、好ましくは15~35m/gのBET比表面積を有する組成物に関する。
【0014】
別の態様において、本発明は、上で記載された組成物を含む管状物品に関する。
【0015】
さらなる態様において、本発明は、上で記載されたような管状物品を含む、多層パイプ、特にフレキシブルライザーに関する。
【0016】
本発明は、また、本発明の組成物の製造方法に、及び本発明の組成物を含む管状物品の製造方法に関する。
【0017】
別の態様において、本発明は、炭化水素を輸送するための、及び特にダウンホール又は掘削作業での本発明の組成物の、本発明の組成物を含む管状物品及び多層パイプの使用に関する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のポリマー組成物は、好ましくは、熱可塑性組成物である。
【0019】
本発明の組成物に、少なくとも1つのフッ化ビニリデン(VDF)ポリマーが使用される。好ましくは、前記VDFポリマーは、熱可塑性VDFポリマーであるが、また、VDF熱可塑性エラストマーを以下に詳述されるように使用することができる。
【0020】
本発明の目的のためには、用語「熱可塑性」は、室温又は使用温度で固体である、感知できる化学的及び物理的特性変化があることなしに、加熱されたときに柔らかくなり、冷却されたときに再び硬くなるポリマー及び/又は組成物を意味することが意図される。そのような定義は、例えば、Polymer Science Dictionaryと呼ばれる百科事典MARK S.M.編ALGER.LONDON:ELSEVIER APPLIED SCIENCE,1989.p.476に見出され得る。
【0021】
表現「フッ化ビニリデンポリマー」又は「VDFポリマー」は、同等であり、繰り返し単位で本質的にできているポリマーを示すために本発明の枠内で用いられ、前記繰り返し単位の50モル%超はフッ化ビニリデン(VDF)に由来する。
【0022】
本発明に有用なVDFポリマーは、好ましくは、
(a)少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは85モル%のフッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位と;
(b)任意選択的に0.1~15モル%、好ましくは0.1~12モル%、より好ましくは0.1~10モル%のVDFとは異なるフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位と、
(c)任意選択的に0.1~5モル%、好ましくは0.1~3モル%、より好ましくは0.1~1モル%の1つ以上の含水素コモノマーに由来する繰り返し単位と
を含み、
前述のモル%が全て、VDFポリマーの繰り返し単位の総モルを基準とする
ポリマーである。
【0023】
VDFとは異なる前記フッ素化モノマーは、有利には、フッ化ビニル(VF);トリフルオロエチレン(VF);クロロトリフルオロエチレン(CTFE);1,2-ジフルオロエチレン;テトラフルオロエチレン(TFE);ヘキサフルオロプロピレン(HFP);パーフルオロ(メチル)ビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロ(エチル)ビニルエーテル(PEVE)及びパーフルオロ(プロピル)ビニルエーテル(PPVE)などの、パーフルオロ(アルキル)ビニルエーテル;パーフルオロ(1,3-ジオキソール);パーフルオロ(2,2-ジメチル-1,3-ジオキソール)(PDD)からなる群において選択される。好ましくは、可能な追加のフッ素化モノマーは、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、トリフルオロエチレン(VF3)及びテトラフルオロエチレン(TFE)から選択される。
【0024】
前記含水素コモノマーの選択は特に限定されず;アルファ-オレフィン、(メタ)アクリルモノマー、ビニルエーテルモノマー、スチレンモノモノマーが使用され得る。
【0025】
したがって、本発明での使用のためのVDFポリマーは、より好ましくは、
(a)少なくとも60モル%、好ましくは少なくとも75モル%、より好ましくは85モル%の、フッ化ビニリデン(VDF)に由来する繰り返し単位;
(b)任意選択的に0.1~15モル%、好ましくは0.1~12モル%、より好ましくは0.1~10モル%のVDFとは異なるフッ素化モノマーであって;好ましくは、フッ化ビニル(VF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、ヘキサフルオロプロペン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(MVE)、トリフルオロエチレン(TrFE)及びそれらからの混合物からなる群において選択される前記フッ素化モノマー
から本質的になり、
前述のモル%は全て、VDFポリマーの繰り返し単位の総モルを基準とする
ポリマーである。
【0026】
欠陥、末端鎖、不純物、鎖の逆位又は分岐等は、これらの構成要素がVDFポリマーの挙動及び特性を実質的に変更することなく、前記繰り返し単位に加えて、VDFコポリマー中にさらに存在し得る。
【0027】
本発明で有用なVDFポリマーの非限定的な例としては、VDFのホモポリマー、VDF/TFEコポリマー、VDF/TFE/HFPコポリマー、VDF/TFE/CTFEコポリマー、VDF/TFE/TrFEコポリマー、VDF/CTFEコポリマー、VDF/HFPコポリマー、VDF/TFE/HFP/CTFEコポリマー等をとりわけ挙げることができる。
【0028】
上記のように、少なくとも1つのVDFポリマーは、熱可塑性ポリマーであり得る。任意選択的に少なくとも1つのVDFポリマーは、繰り返し単位の配列からなる少なくとも1つのゴム弾性「ソフト」ブロックであって、前記配列がVDFに由来する繰り返し単位及びVDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位を含むブロックと、繰り返し単位の配列からなる少なくとも1つの熱可塑性「ハード」ブロックであって、前記配列が、ブロックの繰り返し単位の総モルに対して、少なくとも85モル%の量でVDFに由来する繰り返し単位を含むブロックとを含むVDFベースのフッ素化熱可塑性エラストマーであることができる。
【0029】
本発明において、組成物は、2つ以上のVDFポリマーを含み得、特に組成物は、少なくとも1つのPVDFホモポリマーと少なくとも1つのVDF含有コポリマーとのブレンドを含み得る。
【0030】
PVDFホモポリマーと、VDF/CTFEコポリマー及びVDF/HFPコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つのVDFコポリマーとのブレンドが、本発明において特に好ましい。
【0031】
組成物中のVDFポリマーの(又は2つ以上のVDFポリマーが存在するケースでは、組み合わせたVDFポリマーの混合物の)メルトインデックスは、2.16kgのピストン荷重下で、230℃で行われる、ASTM試験No.1238に従って測定されるときに、有利には少なくとも0.01、好ましくは少なくとも0.05、より好ましくは少なくとも0.1g/10分、及び有利には50未満、好ましくは30未満、より好ましくは20g/10分未満であることができる。
【0032】
5kgのピストン荷重下で同じASTM標準に従ってその代わりに測定されるときに、メルトインデックスは、有利には少なくとも1、好ましくは少なくとも2、より好ましくは少なくとも5g/10分、及び有利には70未満、好ましくは50未満、より好ましくは40g/10分未満であることができる。
【0033】
本発明での使用のための各VDFポリマーは、好ましくは、ASTM D3418に従って、10℃/分の加熱速度で、DSCによって測定されるときに、少なくとも120℃、好ましくは少なくとも125℃、より好ましくは少なくとも130℃、及び最大でも190℃、好ましくは最大でも185℃、より好ましくは最大でも180℃の融点(Tm2)を有する。
【0034】
任意選択的に、本発明の組成物は、分散形態でのフルオロエラストマーであって、前記フルオロエラストマーが、VDFからの繰り返し単位とVDFとは異なる少なくとも1つのフッ素化モノマーに由来する繰り返し単位との配列からなり、前記エラストマーが、例えば動的加硫によって化学的に架橋されているエラストマーを含み得る。
【0035】
本発明の組成物は、また、VDFポリマーの100重量部に対して1~100重量部、好ましくは2~50重量部、より好ましくは2~30重量部、さらにより好ましくは3~20重量部の量で複数の黒鉛粒子を含む。本発明における黒鉛粒子は、実験の部において以下に説明されるレーザー散乱法で測定されるときに、50μm未満、好ましくは2~30μm、より好ましくは2~20μm、さらにより好ましくは2~10μmのD90粒子径を有する。本発明における黒鉛粒子は、また、10~50m/g、好ましくは15~35m/gのBET比表面積(実験の部において以下に説明され方法で測定されるときに)を有する。
【0036】
意外にも、特定のD90サイズ及びBET比表面積範囲の選択が本発明の組成物の幾つかの特性に著しい影響を及ぼすことが見出された。
【0037】
既に予測されたように、CO及びHSなどの酸性ガスの透過速度を考えるときに、下記の実験の部において示されるように、選択された粒子径範囲内の黒鉛材料の使用が、より大きい粒子径の黒鉛材料のそれよりも強い効果を提供することが見出された。
【0038】
また、(以下により詳細に説明されるように)、特許請求される範囲内のD90粒子径及びBET比表面積を持った黒鉛材料を使用することによって、プレミックスを提供するために、粉末、ペレット、顆粒又は繊維などの分割形態でのVDFポリマーと、黒鉛材料とを単にプレミックスし、次いでプレミックスを押出機において処理することによって本発明の組成物を容易に製造できることに気付いた。
【0039】
両方のこれらの効果は、本明細書で記載される好ましい範囲内のD90粒子径及びBET比表面積を選択することによってさらにより明白であった。
【0040】
ポリマー組成物の機械的特性を考えるときに、黒鉛のような微粒子充填材の添加はその機械的特性に悪影響を及ぼすことが予期される。「切断時伸び」及び「降伏歪み」(ASTM D638に従って測定される)は、本発明による組成物の実際の適用にとって重要な特性である。実際に、そのような組成物が管又はパイプへ成形されるときに、例えば、パイプを巻き取る及び巻き戻すときに、それらは、高いレベルの弾性変形にさらされ、それ故、本発明の組成物を含むパイプ及びパイプ層は、酸性ガス移行を防ぐことができるのみならず、それらの弾性を壊す又は失うことなくそのようなストレスに多数回耐えることができることもまた重要である。
【0041】
しかしながら、意外にも、本明細書で特許請求される最も好ましい範囲内のD90粒子径を有する黒鉛材料を選択することによって、これらの機械的特性への黒鉛粒子の存在の悪影響は、より大きい粒子径黒鉛を含む組成物に対して著しく低減されることが見出された。理論に制約されることなく、より大きい粒子は機械的ストレス後に構造破損の出発点としての役割を果たし得るので、大きい粒子のより低い数がそれらの特性を改善すると考えられる。
【0042】
それ故、本発明による組成物は、容易に製造することができ、選択されたフルオロポリマー材料と選択された黒鉛グレードとの特定の組み合わせの結果であるバリアと機械的特性との最適組み合わせを提供することができる。
【0043】
本発明によるポリマー組成物は、溶融状態での1つ以上のVDFポリマーと本発明による複数の黒鉛粒子とを混合することによって製造することができる。そのような組成物の工業的生産のための好ましい方法は、溶融物を十分にミックスすることができる押出機を使用し、VDFポリマーと黒鉛粒子との混合物を押し出すことである。この方法は、当技術分野において普通であるように実施することができるが、本出願人は、ある特定のプロセス工程が、結果として生じる組成物の特性をさらに改善し得ることを見出した。
【0044】
組成物のより良好な一様性を達成するために、VDFポリマーは、ペレット、顆粒、粉末、ビーズ又は繊維等などの分割形態で提供され得る。分割形態でのポリマーは、機械撹拌しながら、典型的には混合物を加熱することなしに、乾燥状態でプレミックスすることができる。プレミキシングは、そのメインゲートでブレンダーユニットを含む押出機のフィーダーにおいて直接行われ得る。プレミックスは、好ましくは、押出機のメインゲートで供給される。このようにして、黒鉛粒子は、個別粒子が分散し、凝集しないようにポリマーマトリックス内で十分に混合される。意外にも、このようにして製造される本発明による組成物は、同じ組成を有するが、例えば黒鉛粒子を押出機のサイドフィーダーで供給することなどの異なる方法を用いて製造される組成物と比較される場合にさらに改善された降伏歪み及び切断時伸びを有することが見出された。
【0045】
理論に制約されることなく、これは、選択された範囲内の黒鉛材料が、おそらく静電相互作用のために、VDFポリマー粒子を覆う層を均質に形成する傾向があり、その結果溶融時に黒鉛が、溶融相における比較的少ない混合で組成物内に十分に分散し、均質に分布するという事実の結果であると考えられる。その代わりに、余りにも大きい粒子径及び低いBET面積を有する黒鉛材料はプレミックス内で分離する傾向があり、組成物内に均質に分配することを困難にし、一方、余りにも小さい粒子径及び余りにも大きいBET比表面積を有する黒鉛材料(並びにグラフェン及びグラフェン様材料)は塊になる傾向があり、また、均質な組成物を達成することを困難にすることが観察されている。
【0046】
この操作のための好ましい押出機は、二軸スクリュー押出機である。
【0047】
本発明の組成物の原料が押出機に供給されるとすぐに、VDFポリマーは、溶融させられ、黒鉛粒子とブレンドされる。混合物は、その最終用途向けの管状で直接押し出すことができるが、より好ましくはペレット、顆粒、ビーズ又は繊維などの分割形態で押し出され、それらは、完成品を製造するために後の段階でさらに加工されるであろう。
【0048】
本発明によるポリマー組成物は、例えば、石油ガス業界向けのパイプの建造に用途を見出す。本発明による管状物品は、本発明による組成物を管状に押し出すことによって得ることができる。管状物品を製造するための好ましい方法は、本発明による組成物を、ペレット、顆粒、粉末、ビーズ又は繊維などの分割形態で提供し、それを、管状物品を形成することができる押出機に導入することであり、典型的には一軸スクリュー押出機が、本発明の組成物を管状物品へ成形するために好ましい。そのような管状物品は、自立管として押し出すことができるか、又はそれは、剛性金属枠などの支持材又は他の支持材などの支持材の上面上に押し出すことができる。
【0049】
或いはまた、本発明の組成物を含む管状物品は、本発明の組成物を、フィルム、層又はテープの形状で押し出すか又はさもなければ成形し、その後前記フィルム、層又はテープを、円筒形を有する支持体に巻き付けることによって製造することができる。そのような支持体は、管状物品が形成される又は建造物の一部として維持されるとすぐに取り除くことができる。より密着したシールをフィルム、層又はテープの接合部で形成するために、テープ、フィルム又は層から管を形成するときに当技術分野において一般的な方法を用いて熱を加えて組成物を部分的に溶融させることができる。
【0050】
本発明による管状物品は、そのようなものとして使用され得るか又は、より一般的には、本発明の組成物を含む又は組成物からできた少なくとも1つの層を持った多層パイプへ組み込むことができる。
【0051】
多層パイプは、公知の技術で形成することができ、例えば、より大きいパイプは、より小さいパイプの外側に導入する又は形成することができる。或いはまた、異なる組成物の層を有する同心パイプを形成するために異なるポリマー組成物を一緒に共押出しすることができる。例えば、本発明の組成物は、1つ以上のVDFポリマーを含むが、黒鉛粒子を含まない又は本質的に含まない組成物と共押出し、こうして1つの黒鉛含有層と1つの黒鉛を含まない層とを有する多層パイプであって、特に、黒鉛を含まない層が内部位置にある多層パイプを形成し得る。そのような構造物は、例えば石油採取用のフレキシブルライザーにおけるなどの高圧下で炭化水素が輸送されるときに有益であることでき、より長い耐用年数をそのようなフレキシブルライザーに提供することができる。理論に制約されることなく、高圧でのガスは、フローと直接接触したポリマーの第1分子層を透過し得ると考えられる。そのようなガスは、圧力が常圧に下げられるときに、膨張し、そのような層中にブリスタリングを形成し得る。この構造物で、黒鉛を含まない層よりも機械的ストレスに耐性が少ない、黒鉛含有層は、ブリスタリングから守られ、こうしてそれは、機械的破砕の引き金を引き得る可能な開始点を含まない。
【0052】
本技術分野において公知であるように、石油ガス業界において使用されるものなどの多層パイプは、「結合している」ことができる(すなわち、ここで、様々な層の表面は互いに結合している)か又は、「結合していない」ことができる(すなわち、ここで、様々な層は、多層構造内である程度独立して自由に移動できる)。いくつかのケースでは、多層パイプは、それらを間で「結合している」いくつかの層と、他と結合していない他の層とを含むことができる。
【0053】
本発明の組成物を含む好ましい多層パイプは、例えば石油ガス採取用のフレキシブルライザーなどの、炭化水素を回収するためのパイプである。先に述べられたように、典型的にはそのようなフレキシブルライザーは、パイプの内側から外側へ、ポリマー内側密封シースで覆われた金属枠、圧力アーマー層、伸張性アーマー層及びポリマー外側シースを含む。本発明によるフレキシブルライザーは、本発明による組成物を含む又は組成物でできているポリマー内側密封シースを含む。ポリマー内側シースが2つ以上の層を含むケースでは、それは、本発明による組成物を含む又は組成物でできたその層の少なくとも1つを有し得る。本発明によるそのようなパイプは、酸性ガスの透過に対する優れた抵抗性を、パイプを損傷することなく、沖合ボート及びプラットフォームなどの厳しい環境でさえも、繰り返される巻取り及び巻戻しを可能にする非常に良好な機械的特性と組み合わせている。そのようなパイプは、ポリマー外側シース層が異なるグレードの黒鉛を含む他のパイプよりもはるかに良好にそれらの条件で起こる歪みに耐えることができる。
【0054】
本発明によるフレキシブルライザーにおいて、ポリマー外側シース層は、本発明のポリマー組成物を含むことができるが、そのような層は、当技術分野において記載されるなどのそのような用途向けに通常の他の材料でできていることが好ましい。
【0055】
本発明の組成物を含む、組成物から本質的になる又は組成物でできている、1つの管状物品を含む多層パイプにとって特に好ましい形状は、VDFポリマー層を含み黒鉛粒子を本質的に含まない追加の管状物品が、同心であり、且つ、本発明の組成物を含む、組成物から本質的になる又は組成物でできている層よりもパイプの内部にあるものである。
【0056】
別の態様において、本発明は、本発明のポリマー組成物を含む又は組成物でできているパイプの又は本発明による管状物品の又は本発明による多層パイプの使用を含む、(例えば、とりわけ沖合掘削作業又はダウンホール作業における、原油を採取するための)炭化水素の輸送方法に関する。
【0057】
さらなる態様において、本発明は、本発明によるポリマー組成物を含むパイプの、本発明による管状物品の又は本発明による多層パイプの掘削作業での又はダウンホール作業での使用に関する。本発明の組成物は、パイプの寿命を延ばすバリア特性及び機械的特性をパイプに提供する。
【0058】
本発明は、これから以下の実施例に関連してより詳細に説明され、その目的は、例示的であるにすぎず、本発明の範囲を限定することを意図しない。
【0059】
原材料
Solvay Specialty Polymers Italy S.p.A.製のSOLEF(登録商標)VDFポリマーS50515
Imerys製のGraphite Timrex(登録商標)KS4-D90 4.7μm
Imerys製のGraphite Timrex(登録商標)CT301-D90 30μm
Imerys製のGraphite Timrex(登録商標)CT001-D90 81μm
【0060】
CO透過速度の測定
CO透過速度の測定は、23℃及び大気圧で方法ISO 15105-1を用いて実施した。使用された装置は、Versaperm Permeability Meter MK IVであった。CO2 CP Gradeを使用し、Tは23℃であり、試験は、大気圧(990~1015 mbar)で行った。下の表に報告される透過速度の値は、cm(STP)mm/m気圧日としてこの方法に従って表す。
【0061】
降伏歪み及び切断時伸びの測定
降伏歪み及び切断時伸びは、10mm/分の変形速度で23℃においてタイプV検体を使ってASTM D638に従って測定した。
【0062】
黒鉛粉末粒子径D90の測定
ポリマーマトリックスへの組み入れ前の黒鉛粒子の粒子径D90は、方法ISO 13390に従ってレーザー回折で測定した。
【0063】
黒鉛粉末BET比表面積の測定
黒鉛のBET比表面積は、ASTM D6556-04に従って測定した。
【実施例
【0064】
組成物は、20mmのスクリュー径及び40の長さ対直径比を有する二軸スクリュー押出機Brabender KETSEにおいて調製した。定量供給機を使用してメインゲートにおいてポリマーペレットを供給した。実施例2、4及び5においては、黒鉛粉末をVDFポリマーと、メインゲートでの定量供給機内で機械撹拌しながら4時間原料をプレミックスすることによって乾式ブレンドした。実施例3においては、黒鉛をサイドフィーダーで導入した。混合及び押出は、230℃の設定温度で行った。全ての組成物は、100部のVDFポリマー(SOLEF(登録商標)50515)に対して14重量部の黒鉛を含有した。
【0065】
【0066】
結果は、どれほど、大きい粒子径の黒鉛が透過性に何の効果も持たず、一方、中間の及び小さい粒子径黒鉛が酸性ガス移行を有効に防ぐかを示す。
【0067】
結果はまた、どれほど、小サイズの、一方、透過性の観点から最良のプロファイルを有する、実施例2からの黒鉛のみがまた、降伏歪みの小さい低下のみを与えて機械的特性を維持する点で最良のプロファイルを有するかを示す。実施例2についての切断時伸びは、より大きいサイズの黒鉛粒子入りの試料についてのそれよりも4倍高い。実施例2についての切断時伸びは、黒鉛を全く含有しない対照試料よりもやはりはるかに低いが、これは、21%という値が黒鉛なしの材料が使用される実際の適用において適合性を確保するのに十分であるので実際的な重要性は低い、なぜならば、とにかく11%を超える歪みは、降伏歪み限度のせいで黒鉛なしの材料の特性さえも変えるであろうからである。それに対して、中間及び高い黒鉛含量の試料についての最大切断時伸びは、材料が著しい機械的ストレスにさらされる全ての状況において、黒鉛なしの材料に取って代わるためには不十分である。
【0068】
実施例2と3との間の比較は、材料が製造されるプロセスが果たす重量な役割を示す。実施例2においては、小サイズ黒鉛とポリマーペレットとを4時間乾燥状態でプレミックスし、このプレミキシング操作の後に、結果として生じたプレミックスを押出機にそのメインゲートで導入する。実施例3においては、ポリマーペレットのみをメインゲートで導入し、一方、小サイズ黒鉛粒子を押出機のサイドフィーダーで導入した。意外にも、実施例2において得られた材料は、改善された降伏歪み及び2倍ほどに多い切断時伸びで実施例3において得られたものよりもはるかに良好な機械的特性を有する。
【0069】
参照により本明細書に援用される任意の特許、特許出願、及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。