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特許7551616真菌マットの製造方法及びそれから作られた材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】真菌マットの製造方法及びそれから作られた材料
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/14 20060101AFI20240909BHJP
   C12N 11/02 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C12N1/14 B
C12N1/14 A
C12N1/14 E
C12N11/02
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021532418
(86)(22)【出願日】2019-12-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-01
(86)【国際出願番号】 IB2019060466
(87)【国際公開番号】W WO2020115690
(87)【国際公開日】2020-06-11
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】102018000010869
(32)【優先日】2018-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】521246231
【氏名又は名称】モグ・ソチエタ・ア・レスポンサビリタ・リミタータ
【氏名又は名称原語表記】MOGU S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】アントニ・ガンディア
(72)【発明者】
【氏名】マウリツィオ・モンタルティ
(72)【発明者】
【氏名】ステファノ・バッビーニ
【審査官】三原 健治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/014004(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
D03D
B32B
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の:
a)リグノセルロース系材料を含む固体栄養培地上に糸状真菌種を接種して成長させ、それによって前記真菌種によりコロニーが形成された固体栄養培地を得る工程;
b)前記コロニーが形成された固体栄養培地を水又は水溶液と配合し、少なくとも10,000rpmの速度で混合して均一な生きた真菌スラリーを得る工程;
c)生きた真菌スラリーを平坦な容器に注ぐ工程;
d)生きた真菌スラリーの上面に所望の厚さ及び密度の連続した真菌マットが形成されるまで、生きた真菌スラリーを培養する工程;
e)このように得られた真菌マットを採取する工程;及び
f)採取した真菌マットを洗浄する工程;
を含む、真菌マットを得るための方法であって、
前記真菌種が、担子菌類区分に属する種から選択される方法。
【請求項2】
前記真菌種が、Ganoderma、Trametes、Fomes、Fomitopsis、Phellinus、Perenniporia、Pycnoporus、Tyromyces、Macrohyporia、Bjerkandera、Cerrena、Schizophyllumから選択される種、から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記固体栄養培地が、その総重量の少なくとも90%のリグノセルロース系材料又は種子、種子粉、デンプン粉末及び/又はミネラルと混ぜられたリグノセルロース系材料からなる、請求項1及び2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
工程c)において、多孔質材料の層が、一旦これが平坦な容器に平らに注がれた後、真菌スラリーの表面に添加され、スラリーと多孔質材料とのさらなる交互の層が添加され、それによって、工程d)において、多孔質材料の1つ以上の層と交互になった真菌菌糸体の1つ以上の層を含む多層複合材料が生じる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記多孔質材料が、繊維質の材料又はポリマーからなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記繊維質の材料が、麻、綿又はリネンからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマーが、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、酢酸セルロース、キチン/キトサン、コーンゼイン及び/又はデンプンからなる群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記真菌マットを可塑剤及び/又は架橋剤で処理する工程g)をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
工程f)又はg)の後に、前記真菌マットを乾燥する工程h)をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程e)又はf)の後、及び真菌マットを可塑剤及び/又は架橋剤で処理する工程の前に、2つ以上の真菌マットが他方の上に1つ置かれ、少なくとも2日の期間中、培養され、それによって真菌菌糸体の2つ以上の層を有する多層マットを得る工程l)をさらに含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、生きた真菌スラリーから真菌マットを製造するための新規な方法、及びそれから得られる、例えば、皮革及び繊維製品のような、特に、柔軟性物品市場における用途のための製品、に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維産業は、世界で最も汚染する産業の1つであり、環境に対し相当な影響を有する。
【0003】
近年、環境に優しい、非汚染方法の使用により得られる、新しい持続可能で堆肥化可能な繊維材料の開発に大きな注目が集まっている。
【0004】
特に、再生可能な供給原料に基づく、より持続可能な方法及び材料が、綿又は石油系繊維の代わりに提案されている;その例としては、パイナップルセルロース(ピニャテックス)、グレープマーク(ベゲア)、オレンジ繊維及びヤシの葉製品などが挙げられる。また、動物由来製品の分野では、環境影響及び動物福祉への意識の高まりから、獣皮の使用に対する代替品が、いくつかの市場において増加傾向にある。動物の皮革の製造は、大量の、天然資源の使用並びに皮の加工に使用される汚染物質及び有毒化学物質のため、倫理的な問題を引き起こし、環境に悪影響を及ぼす。動物性材料を含まない持続可能な皮革様材料を製造するために、異なる戦略が提案されている。例えば、リンゴジュースの製造、パイナップル又は真菌に由来する廃棄物から、製品が得られている。
【0005】
特に、真菌は地球上で最も豊富で最も速く成長する生物の1つである。
【0006】
菌糸体は真菌の栄養体であり、菌糸とよばれる、微細なフィラメントのネットワークからなる。菌糸は、2~10μmの直径をもつ管状で、細長い構造物として成長する細胞によって形成され、連結したフィラメントの緊密なネットワークを形成する。細胞は、細胞の乾燥重量の最大30%を占めることができる細胞壁により囲まれており、主にβ型グルカン、キチン及びその他の構造タンパク質からなる構成を有する。細胞壁には多量のキチンが含まれており、キチンが構造的にセルロースと類似していることから、真菌パルプは、製紙、生物医学及び繊維分野において木材パルプの代替として工業的に利用できることが示唆されている。
【0007】
そのため、近年、様々な用途のために培養において、真菌マットを製造する多くの方法が開発されている。
【0008】
真菌マットの製造のためのこれらの開示された方法論は、液体発酵(LSF)及び固体発酵(SSF)のような、糸状真菌の増殖のための広く知られた技術を利用する。
【0009】
LSFは、大過剰の遊離水中での微生物の増殖を伴い、典型的には、種々の栄養素が溶解した液体培地において微生物の懸濁液をもたらす。
【0010】
反対に、SSFは、微生物の増殖と代謝活性とを支援するために、最小限の水分をもつ固体生育培地中で行われる。SSF中の含水率は、基材材料の保持容量に応じて30%から80%の範囲である。
【0011】
米国特許第5854056号には、LSFに基づく方法が記載されており、この方法は、真菌の分生子をもつ液体培地の接種及びこれらの胞子からの菌糸体の生産と、その後の、栄養になるブロスを含有する浅い槽における、菌糸体の、平坦なマットへの成長及び食品、繊維及び生物医学目的のためにさらに処理される菌糸体マットのその後の回収と、を含む。
【0012】
この液体発酵(LSF)法は、例えば、Rhizopus spp.及びFusarium spp.のような、成長の速いカビに適応されるが、担子菌類には容易に適用できない。通常、LSF内で成長する、成長の速いカビは、柔らかい材料に適する十分な密度又は均一性をもつマットを提供せず、マットは壊れやすく、特に乾燥後に、低い引裂き及び引張強度、及び摩耗に対する低い耐性を持つ。さらに、脱水する場合、この特許に記載された材料は、非常に脆い。
【0013】
一方、米国特許出願公開第2015/003620号及び国際公開第2018/0144004号には、固体発酵(SSF)による真菌材料の製造方法、及び固体栄養基材表面での菌糸体の成長及びその後のそれらの採取方法が記載されている。両方法は、真菌株を接種した平坦な固体基材の表面から真菌マットを採取することに基づいている。2つの方法の間の主な違いの1つは、国際公開第2018/0144004号に記載されているように、真菌によりコロニーが形成された固体栄養基材の上部に配置された多孔質膜を使用することである。そのような多孔質膜を使用することで、固体基材から、形成する菌糸体マットを分離することが明らかに容易になり、また、そのことで、菌糸の成長が、所望の空間パターン及び/又は幾何学的配向に向けられる。
【0014】
これらの最後の2つのSSF法、及び一般にすべてのSSFに基づいたプロトコルは、固体基材全体の接種材料の分布及び密度に非常に依存し、表面上に不均一な形態を生成する傾向が強い。ランダムに分布した、通常はひと粒の種菌である、固体の粒状接種材料と固体基材上における異なる成長速度との使用は、実際に、必然的に、形成するマットに不連続性をもたらす。これらは、密度、厚さ及び色の点において、最終的な真菌マットにおける均一性の欠如と乏しい機械的及び美的特性とをもたらし、そのため、消費者向けの繊維産業での使用には適していない。
【0015】
LSF及びSSFで遭遇する一般的な制限は、それらのいくつかは上で考察されたが、国際公開第2017/151684号にも記載されている。そのような制限を克服するために、そのような特許の発明者らは、固体基材表面発酵(SSSF)と呼ばれる発酵技術を提案する。この方法論において、固体基材は、液体の表面下に沈められ、沈めた固体に由来する炭素源を用いて、真菌マットが液体の表面で成長する。それにもかかわらず、静置した液体培地内の溶存酸素の不十分な利用可能性を考慮する場合、この方法にはまだ制限がある。そのうえ、前記方法がSSSFと呼ばれているとしても、当業者は、マットが栄養になる液体の表面で成長するとはいえ、米国特許第5854056号明細書に記載される静置した液体表面発酵と、実質的に異ならないことを理解するであろう。
【0016】
また、これらのマットを成長させるために記載された方法は、全て標準的なLSF又はSSF技術にしたがっており、固体基材又は液体培地内における汚染微生物にとって栄養素が自由に利用できるため、高い汚染のリスクと関係している。また、非常に頻繁に、これらの方法は、成長する菌糸に良好な酸素添加を提供することができず、LSF構成において、又はSSFプロトコルに従う場合には非常に圧縮された基材ブロック上の菌糸体マトリックスを窒息させることによって、酸素の交換を制限し、したがって液体の表面に対する栄養素の輸送と成長とを制限する。
【0017】
したがって、従来技術の方法では、特に、外観、密度、厚さ、及び引張及び引裂き強度並びに摩耗に対する耐性のような機械的特性に関して、不連続な特性をもつ真菌マットが製造される。さらに、既存の方法は、操作を安全にするために非常に厳格な滅菌プロトコル及び設備の使用を必要とし、それらは製造コストを上昇させる。さらに、汚染及びマットの均一な成長の欠如の結果として、これらの方法は、さらなる用途に使用するのに適した製品における、大きな体積損失と低い収量とによって特徴づけられる。
【0018】
したがって、一貫性、再生可能な及び安定な特性をもち、特に組成及び厚さの両方において均一であり、真菌マットの機械的及び美的特性の改善を示す、真菌マットを提供する新しい方法が必要性になる。
【0019】
さらに、微生物汚染のリスクが低く、したがって、厳密な無菌条件で行う必要がない方法も必要性である。生育培地内で良好なガス交換を可能にし、成長する菌糸に良好な酸素添加を提供する方法を証明することもまた必要である。最後に、真菌マットの採取を容易にするために、多孔質膜を必要とせず、菌糸の特定の成長パターン又は幾何学的配向も必要としない、単純な方法を開発することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【文献】米国特許第5854056号明細書
【文献】米国特許出願公開第2015/003620号明細書
【文献】国際公開第2018/0144004号
【文献】国際公開第2017/151684号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明者らは、従来技術のLSF及びSSF法に見出された上記の問題を解決することができる真菌マットを得るための新しい方法を見出した。
【0022】
特に、本発明者らは、高いリグノセルロース含有量を構成する、予めコロニーが形成された固体栄養培地を、水及び/又は任意の添加剤と特定比率において、高速で混合することにより、生きた真菌スラリーを得て、得られたスラリーを平坦な容器内で培養することによって、スラリー内に微細で均一な分布の菌糸と気泡とを常に得て、それによって、液体でも固体でもなく、むしろゲル状の適切なプラットフォームを提供し、それによって、一貫して均一な厚さ及び組成を有する真菌マットの表面上での製造を可能にすることを見出した。
【0023】
また、混合工程中に予めコロニーが形成されたリグノセルロース系材料を主要な栄養培地として使用することにより、微生物による汚染のリスクは非常に低くなる。実際には、真菌によりすでにコロニーが形成された固体栄養培地は、汚染微生物にとって乏しい栄養素の利用可能性を提供するが、高速ミキサーを用いて均一に切断し、分配することができる大量の生存可能な菌糸を提供し、生きた真菌スラリーを形成する。さらに、生育培地を消化しやすいように調製することによって、真菌は、それ自身の自然の防御力をもつ抗微生物性化合物を生成及び放出し、それらは、均一化されたスラリー全体に存在することになる。
【0024】
したがって、本発明による方法は、さらなる工業的用途に適する、機械的な性能の真菌マットを高収量で供給する、生きた真菌スラリーを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0025】
よって、本発明の第1の目的は、以下の:
a)リグノセルロース系材料を含む固体栄養培地上に糸状真菌種を接種して成長させ、それによって前記真菌種によりコロニーが形成された固体栄養培地を得る工程;
b)前記コロニーが形成された栄養培地を水又は水溶液と配合し、高速で混合して均一な生きた真菌スラリーを得る工程;
c)生きた真菌スラリーを平坦な容器に注ぐ工程;
d)生きた真菌スラリーの上面に所望の厚さ及び密度の連続した真菌マットが形成されるまで、生きた真菌スラリーを培養する工程;
e)このように得られた真菌マットを採取する工程;及び要すれば
f)採取した真菌マットを洗浄する工程;
を含む、真菌マットを得るための方法である。
【0026】
本発明の第2の目的は、本発明の第1の目的にしたがった方法により得られるマットである。本発明の第1の目的による方法によって得られるマットは、従来技術の方法によって得られるマットとは異なり、厚さ、密度、色において均一であり、連続する表面全体にわたって一貫した機械的特性を有する。
【0027】
本発明の第3の目的は、多孔質材料の1つ以上の単層と交互になった、本発明の第2の目的による真菌マットの1つ以上の単層を含む、不織多層複合材料である。
【0028】
本発明の第4の目的は、本発明の第2の目的による方法によって得られる、真菌マットの1つ以上の層を含む多層マットであって、前記マットが、少なくとも真菌バイオマスの95%からなり、前記層が、いずれかの整然とした空間的配置(spatial arrangements)又はパターンも伴わず成長した真菌菌糸を含む、多層マットである。
【0029】
本発明の第5の目的は、本発明の第2の目的によるマット、本発明の第3の目的による多層複合材料、又は本発明の第4の目的による多層マットを使用して、繊維製品を製造することである。
【0030】
本発明の第6の目的は、本発明の第2の目的による真菌マット、本発明の第3の目的による多層複合材料、又は本発明の第4の目的による多層マットを含む、繊維製品である。
【0031】
本発明の第7の目的は、柔軟性物品を製造するための、本発明の第2の目的によるマット、本発明の第3の目的による多層複合材料、又は本発明の第4の目的による多層マット、の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1図1は、実施例1で得られた真菌マットの採取を示す。
【0033】
図2図2は、実施例3で得られた1枚の真菌マットを示す。
【0034】
図3図3は、3つの基本的な工程、すなわち、生きた真菌スラリーを平坦な容器に注ぐ工程A、培養中に真菌マットがスラリーの上部で成長する工程B、及びマットが採取され、消化された排出物が平坦な容器に残される工程Cにおける概略的な製造方法を示す。
【0035】
<定義>
本明細書で使用される「柔軟性物品」という用語は、繊維及び/又は皮革のような柔らかくしなやかな材料で作られた、又はそれを含む、いずれかの製品を指す。これらとしては、アパレル、布地、衣服、履物類、帽子、スポーツウェア、バックパック及び旅行かばん、寝具類、リネン、家電、アクセサリー、家具又は自動車用カバーなどが挙げられる。
【0036】
本明細書で使用される「リグノセルロース系材料」という用語は、セルロース、ヘミセルロース及びリグニンを主成分として含有し、要すれば少量のペクチン、タンパク質及び灰分を含有する材料を指す。これらの各組成の相対的含有量は、リグノセルロース材料の出処に依存して変化する。
【0037】
本明細書で使用される「マット」又は「真菌マット」という用語は、連続した平坦な表面を形成する、織り合わされた又は相互に繋がった真菌菌糸によって形成される材料のシートを指す。好ましくは、前記材料のシートは、専ら真菌菌糸体からなる。本明細書で使用される「菌糸体」という用語は、菌糸と呼ばれる、枝分かれしたフィラメントの塊で作られた糸状真菌の栄養体を指す。
【0038】
本明細書で使用される「糸状真菌」という用語は、菌糸として知られる糸状構造を形成する子嚢菌類及び担子菌類の真菌を含有する真核生物のグループのいずれかの成員を指す。菌糸は管状で、細長く、糸のようで(糸状)、1つの細胞あたり2以上の核を含有してもよく、先端で枝分かれして伸長することによって成長する、多細胞構造である。
【0039】
本明細書で使用される「固体栄養培地」という用語は、真菌菌糸体の成長のための支持体及び栄養素の両方を提供する固体基材を指す。
【0040】
本明細書で使用される「純粋培養」という用語は、他の生物又は菌型が存在しない中で、1つの株又はクローンのみが存在する無菌培養を指す。
【0041】
本明細書で使用される「平坦な容器」という用語は、側面によって囲まれた平坦な底面を含む容器である。
【0042】
本明細書で使用される「多孔質材料」という用語は、孔を含有する材料を指し、したがって、孔を取り囲む骨格部分(すなわち、「マトリックス」又は「フレーム」)と、孔を満たす流体(すなわち液体又は気体)とによって形成される。
【0043】
本明細書で使用される「衛生的な方法で」という用語は、衛生的な無菌培養を提供する方法を指す。
【0044】
本明細書で使用される「生きた真菌スラリー」、「生きたスラリー」、「菌糸体スラリー」、「真菌スラリー」、又はついにはただの「スラリー」という用語は、基材粒子、流体(すなわち、液体又は/及び気体)及び生きた真菌菌糸の、粘性の微細な混合体又は分散体を指す。
【0045】
本明細書で使用される「混合」又は「混合工程」という用語は、前述の生きた真菌スラリーを達成するのに適した機械的手段によって、予めコロニーが形成された固体基材及び水から出発して生きた真菌スラリーを得る方法を指す。
【発明を実施するための形態】
【0046】
本発明の目的は、以下の:
a)リグノセルロース系材料を含む固体栄養培地上に糸状真菌種を接種して成長させ、それによって前記真菌種によりコロニーが形成された固体栄養培地を得る工程;
b)前記コロニーが形成された栄養培地を水又は水溶液と配合し、高速で混合して均一な生きた真菌スラリーを得る工程;
c)生きた真菌スラリーを平坦な容器に注ぐ工程;
d)生きた真菌スラリーの上面に所望の厚さ及び密度の連続した真菌マットが形成されるまで、生きた真菌スラリーを培養する工程;
e)このように得られた真菌マットを採取する工程;及び要すれば
f)採取した真菌マットを洗浄する工程;
を含む、真菌マットを得るための方法である。
【0047】
本発明の方法では、いずれかの種類の糸状真菌を使用してもよい。しかしながら、特に好ましいのは、担子菌類区分に属する真菌種である。好ましくは、前記真菌種は、Ganoderma、Trametes、Fomes、Fomitopsis、Phellinus、Perenniporia、Pycnoporus、Tyromyces、Macrohyporia、Bjerkandera、Cerrena、及びSchizophyllumから選択される。Fusarium、Rhizopus、Aspergillus、Myxotrichum、及びTrichoderma属に属する他の種の使用もまた、明細書に記載される方法の下で実行可能である。得られた最終マットの特徴に起因する真菌の特に好ましい種は、Ganoderma spp.、Fomes spp.、Pycnoporus spp.、及びPerenniporia spp.である。
【0048】
好ましい実施形態によれば、工程a)において、糸状真菌の純粋培養菌が接種される。
【0049】
あるいは、真菌の異なる種又は株の組み合わせを用いることができる。
【0050】
上記種の中で、菌株は、好ましくは、短時間で基材にコロニーを形成する能力、より良好な温度寛容性、微生物の汚染に対する耐性又は特定の菌糸分岐パターン、菌糸体の着色、臭い又は剛性などの有利な特徴を有するように選択される。
【0051】
選択した真菌株は、(誘発突然変異誘発、遺伝子工学などの)改良プログラム内で生成された突然変異体又は組換えクローンであってもよい。
【0052】
通常、工程a)において、滅菌ツール、例えばホールピペット又は外科用メスを用いて、液体又は固体の、真菌の接種材料を無菌状態で固体栄養培地上に添加することによって接種を行う。
【0053】
液体接種材料は、十分な濃度の真菌細胞を含有するあらかじめ決められた体積の液体培地からなる。好ましくは、前記液体培地は、5から15g/Lの間の量の真菌バイオマスを含有し、それは、基材をKg当たり5から20mlの間の比率で固体栄養培地に添加する。接種材料の調製のために使用するのに適した液体培地は、例えば、麦芽エキスブロス(MEB)、麦芽酵母エキスブロス(MYEB)、ポテトデキストロースブロス(PDB)、体積の5%までの濃度の液体糖蜜の使用に基づく製剤、及び例えば農業又は食品産業における、他の産業過程からのリグノセルロース系バイオマス及び/又は副産物の加工に由来するサイドストリームである。
【0054】
固体接種材料は、ペトリ皿又は液体培養バイアル中の純粋培養に由来する真菌菌糸体を接種した、固体培地、好ましくは種子又はおがくずからなる。選択した接種材料は、清潔な空気流の下で滅菌の外科用メス、鉗子又はピペットチップを用いて衛生的な方法で移送されるか、又は好ましくは、接種材料は、固体培地の総重量当たり2~5%の比率で、その後の固体栄養培地に直接注がれる。
【0055】
固体栄養培地は、好ましくは、接種前に殺菌又は低温殺菌される。接種後、接種した固体栄養培地を静置及び好気条件下で培養し真菌の成長を行う。好ましくは、真菌の成長は暗所で、20℃と30℃との間の温度において、より好ましくは23℃と28℃との間の範囲で行われる。真菌の成長は、好ましくは、固体培地の露出領域が真菌菌糸体によって、より好ましくは完全に、覆われるまで継続される。通常、このためには、接種後5~15日間、より好ましくは7~10日間の期間中、成長を行う必要がある。
【0056】
好ましい実施形態によれば、工程a)の前記固体栄養培地は、リグノセルロース系材料の総重量の少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%、さらにより好ましくは100%からなる。リグノセルロース系材料は、その質感、pH及び栄養特性を改善するために、例えば硫酸カルシウム、炭酸カルシウム又は他の類似のミネラル改良剤を添加することにより、又は種子、種子粉又はデンプン粉末と混ぜることにより、化学的に処理される場合もある。
【0057】
したがって、別の好ましい実施形態では、前記固体栄養培地は、主成分として、好ましくは、種子、種子粉、デンプン粉末及び/又はミネラルと混ぜられたリグノセルロース材料からなるものを含む。好ましくは、工程a)の前記固体栄養培地は、総重量の少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%、さらにより好ましくは100%が、種子、種子粉、デンプン粉末及び/又はミネラルと混ぜられたリグノセルロース系材料からなる。
【0058】
好ましくは、前記種子は、キビ、ライ麦、モロコシ、米、小麦、トウモロコシの全種子(whole seed)から選択される全種子である。好ましくは、前記種子粉は、キビ、ライ麦、モロコシ、小麦、米、トウモロコシの全種子から得られる。好ましくは、前記ミネラルは、硫酸カルシウム及び炭酸カルシウムから選択される。
【0059】
好ましくは、本発明の方法において使用するためのリグノセルロース系材料は、例えば、農業作物残渣、エネルギー又は目的作物、林業、製紙産業、食品及びバイオ燃料生産からの非農業副産物、又はそれらの組み合わせからなる、農産業リグノセルロース系バイオマスから選択される。
【0060】
固体栄養培地は、使用する特定の真菌の代謝要求に応じて選択される。例えば、タマチョレイタケ目(polyporales)の階層に属する担子菌類種は、木材及びワラに見られるような、より高い含有量のリグノセルロース系材料を必要とするが、他の区分に属する他の真菌は、小麦ふすまや小麦粉に見られるもののような、容易に入手可能な炭水化物の割合の存在を必要とする。
【0061】
当業者は、使用される各真菌種としてどのリグノセルロース系材料を選択すべきかを、共通一般知識及び参照に基づいて知るであろう。
【0062】
工程b)では、前記コロニーが形成された固体栄養培地を、好ましくは滅菌又は衛生的にされた、水又は水溶液と配合し、次いで混合して、液体のものと固体のものとの間の物理的特性をもつ、その結果ゲル状態に近い状態になる、均一で粘性のある生きた真菌スラリーを得る。好ましくは、コロニーが形成された培地と水又は水溶液とを、水10ml当たり、コロニーが形成された培地0.5~3g、より好ましくは2gの割合で配合する。
【0063】
この混合物を、処理する材料の量に適する、高速メカニカルブレンダー中で、生きた真菌スラリーが得られるまで、少なくとも30秒間、好ましくは少なくとも3分間、及びより好ましくは少なくとも5分間混合する。
【0064】
好ましい実施形態によれば、混合物は、高速メカニカルブレンダー中で、少なくとも10,000rpm、好ましくは少なくとも15,000rpm、より好ましくは少なくとも20,000rpmの速度で混合される。好ましくは、混合物は高速メカニカルブレンダー中で80,000rpm以下、好ましくは70,000rpm以下、より好ましくは60,000rpm以下の速度で混合される。特定の実施形態では、混合物は高速メカニカルブレンダー中で30,000から50,000rpmの速度で混合される。
【0065】
好ましくは、工程b)において得られた生きた真菌スラリーは、1,000から40,000cps、好ましくは4,000から30,000cps、及びより好ましくは10,000から20,000cpsの粘度を有する。
【0066】
好ましくは、水は、処理されていない通常の水道水、滅菌水、蒸留水、又はこれらのいずれかに過酸化水(H)を全体積の0.009~0.05%の範囲の濃度で加えたものである。
【0067】
上記の水溶液は、微生物の数を減少させるためにHで処理された、採取工程e)において、マットから分離されたリサイクル排出物から完全に又は部分的に得ることができる。
【0068】
水への発泡剤の添加は、通常は真菌菌糸体の成長に役立つ気泡に富んだ泡状物質をもたらすであろう。そのような発泡剤としては、カラギーナン(0.1~1%)又はアルブミン(0.1~1%)などの天然由来が好ましいが、これらに限定されない。
【0069】
工程c)では、生きた真菌スラリーを所望の形態及びサイズの平坦な容器に注ぐ。好ましくは、生きた真菌スラリーは、容器の内側の平坦な底面を完全に覆う量で添加される。好ましくは、容器の内側の平坦な底面を覆う生きた真菌スラリーの層は、圧縮して菌糸の嫌気性窒息することを避けるために、0.2から5cm、好ましくは0.5から1.5cmの厚さを有する。
【0070】
追加の栄養素、好ましくは炭水化物、より好ましくはスクロース、デキストロース、モルト抽出物又は糖蜜、及び/又は発泡剤、H又はpH調整剤などの培養衛生剤、のような添加剤を、使用される特定の真菌及び操作条件に応じて、容器に注ぐ前又は後に、要すればスラリーに添加してもよい。
【0071】
pH調整剤は、ソルビン酸、酢酸、安息香酸、プロピオン酸の、酸及びそれらのナトリウム塩から好ましくは選択される。
【0072】
例えば、過酸化水のような培養衛生剤は、非滅菌状態で作業する場合、例えば、生きた真菌スラリーが水道水を用いて、又は非滅菌環境において調製される場合に、添加される。
【0073】
ある実施形態によると、多孔質材料の1つの層は、生きた真菌スラリーを平坦な容器に注いだ後、生きた真菌スラリーの表面上に添加することもでき、したがって、工程d)において、真菌菌糸体の1つの層及び多孔質材料の1つの層を含む、多層複合マットを形成する。この実施形態の代替例によれば、スラリー及び多孔質材料の多数の交互の層を工程c)において容器に添加し、それによって、工程d)において多層複合マットが生じてもよい。
【0074】
好ましくは、多孔質材料は、繊維質の材料又はポリマーからなる群から選択される。本明細書で使用される「繊維質の材料」という用語は、例えば、限定されるものではないが、麻、綿、又はリネンのような天然繊維を含有する材料を指す。本明細書で使用される「ポリマー」という用語は、真菌マットのための強化融合繊維又はバインダーとして使用することができるポリマーを指す。そのようなポリマーは、合成ポリマー、又はさらにより好ましくは、例えば、限定されるものではないが、ポリヒドロキシアルカノエート(PHA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリ-ε-カプロラクトン(PCL)、ポリカプロラクトン(PCL)、ポリ乳酸(PLA)、酢酸セルロース、キチン/キトサン、コーンゼイン及び/又はデンプンなどの天然及び/又は生分解性ポリマーから構成され得る。
【0075】
好ましくは、前記多孔質材料は布である。ある好ましい実施形態によれば、前記布は天然由来であり、より好ましくは麻、綿又はリネンから選択される。ある代替的な好ましい実施形態によれば、前記布は、合成ポリマー、又は天然ポリマーと合成ポリマーとのブレンドから作られる。特に好ましい実施形態によれば、前記布は生分解性である。
【0076】
生分解性でない合成ポリマーが利用される場合、その材料は、製品寿命の終わりに真菌層と合成ポリマー層との間の効果的な分離を可能にするのに適しているべきである。
【0077】
培養工程d)は、一定温度における静置及び好気条件下で、容器を水平に維持して行われる。好ましくは、容器は、容器の内容積と外部環境との間の制御されたガス交換を可能にするシステムを特徴とする蓋で覆われる。真菌種及び所望の成長条件に応じて、電子センサーを用いて培養囲い内のCO濃度を監視することによって、好ましくは2000~2500ppmの間の、一定のCO濃度が維持される。
【0078】
培養は、所望の密度及び厚さの連続した菌糸体マットがスラリーの上部に形成されるまで行われる。好ましくは、これは、培養が8~20日間、より好ましくは10~18日間、さらにより好ましくは15日間、行われることを必要とする。より長い培養時間により、一般に、より厚く、より耐性のあるマットが生成される。
【0079】
マットが所望の厚さ及び密度に達したら、図1に示すように採取する。有利には、所望の厚さは、0.1から6.0mm、好ましくは0.2から5.0mm、及びより好ましくは0.3から4.0mmの範囲である。特に、所望の密度は、0.1から2.0g/cm、好ましくは0.3から1.7g/cm、より好ましくは0.5から1.4g/cmの範囲である。
【0080】
好ましくは、工程e)の真菌マットは、すぐ下にある消化された排出物から分離することによって採取される。より好ましくは、採取は、スラリーの排出物又は未消化画分を残して、容器から真菌マットを剥離することによって行われる。
【0081】
上に記載したように、採取工程からの排出物は、工程b)におけるスラリーを調製するための水溶液として、工程中で処理及びリサイクルすることができる。
【0082】
採取後、この方法は、工程e)の後に、さらなる工程f)を好ましく含み、前記採取された真菌マットは、いずれかの排出物又は残屑を除去するために、好ましくは、水でその表面をすすぎ、又は水に浸漬することによって洗浄される。
【0083】
入手したい最終生成物の特性に応じて、本発明の方法は、好ましくは、洗浄工程f)の後に工程g)をさらに含んでもよく、ここで、真菌マットは、外観、濡れ性又は疎水性、耐薬品性、耐摩耗性、硬度、抗微生物活性、活性化合物放出などの特性を改善するために、化学的及び/又は物理的に処理される。
【0084】
好ましくは、工程g)において、マットを可塑剤及び/又は架橋剤で処理する。
【0085】
好ましくは、前記可塑剤はグリセロールであり、より好ましくは10~20%(v/v)の間の濃度をもつグリセロール溶液である。
【0086】
好ましくは、前記架橋剤は、皮革なめしにすでに通常採用される化学試薬の1つであり、好ましくはゲニピンである。
【0087】
工程g)の後、マットに、生育培地からいずれかの残渣又は残屑を除去するために、さらなる洗浄工程、工程f’)を施すことができる。
【0088】
工程f)及び/又はg)及び/又はf’)の後、存在する場合、好ましくはマットにさらなる工程、マットを乾燥させる工程h)を施す。乾燥は、好ましくは、例えば加熱された真空機械によって与えられるような、制御され安定した条件をもつチャンバー内で行われる。乾燥工程は、従来の皮革製造工程に存在する基準にしたがって行われてもよい。
【0089】
乾燥工程が70℃以上の温度に達する場合、乾燥工程は、真菌の生物活性の停止にも寄与する。
【0090】
ある実施形態によれば、工程h)で得られた真菌マットに、1つ以上のさらなる仕上げ工程i)が施されてもよく、ここで、前記マットは、柔軟性、質感及び色を含有するがこれらに限定されないその機械的及び美的特性を改善するために、処理又は、上に記載されたような可塑剤又は架橋剤でさらに処理される。前記仕上げ工程の後、前記マットを、好ましくは、さらに洗浄し、乾燥させる。
【0091】
そのうえ、上に記載された方法は、工程e)又はf)の後、及び工程g)の前に、さらに工程l)を含んでもよく、ここで、2つ以上の真菌マットは、他方の上に1つ置かれ、好ましくは、工程d)について前述したのと同じ培養条件で、少なくとも2日、好ましくは2~7日の期間中培養され、それによって多層マットが得られる。
【0092】
採取及び洗浄の後、マットはまだ生きた状態であり、培養の間、新しい菌糸がマットの並置された表面の両方から成長し、2つのマットの間に自然な結合を形成する。この工程は、新しいマットを追加の層として加えることによって、数回繰り返すことができる。得られる材料は、複数の層から構成される、向上した機械的特性をもつ、特に増加した引裂、曲げ及び引張強度をもつ、より厚いマットである。記載された方法は、菌糸の成長パターンにおけるいかなる変化も誘導せず、いずれかの追加の材料も必要としない。
【0093】
本発明の第2の目的は、本発明の第1の目的による方法により得られるマットである。
【0094】
本発明による方法によって得られたマットは、従来技術の方法で得られなかったマット全体にわたる、厚さ、密度、色及び一般的な機械的特性、特に引張及び引裂き強度及び摩耗に対する耐性における均一性を示す。
【0095】
好ましくは、真菌マットは、担子菌類区分に属する真菌種から構成される。好ましくは、前記真菌種は、Ganoderma、Trametes、Fomes、Fomitopsis、Phellinus、Perenniporia、Pycnoporus、Tyromyces、Macrohyporia、Bjerkandera、Cerrena、及びSchizophyllumから選択される。異なる種は、異なる色及び質感のマットを生成する;例えば、Fomes fomentariusは茶色がかったビロードのような、いい匂いをもつマットを生成し、Pycnoporus cinnabarinus及びGanoderma lucidumは黄色がかった、又は時にはオレンジのような、砂のような表面を生成する。
【0096】
したがって、本発明の目的は、Fomes fomentarius、Pycnoporus cinnabarinus及びGanoderma lucidumから選択される真菌から構成される真菌マットである。
【0097】
本発明の第1の目的による方法は、皮革のものと同様の性質を有するマットを得ることを可能にする。特に、真菌マットが採取される場合、それはすでに不織皮革様材料と見做すことができ、その技術的特性は可塑剤及び架橋剤によってさらに高めることができる。
【0098】
上に記載したように、本発明による方法は、多層及び複合不織材料を得ることを可能にする。
【0099】
上に記載したように、工程c)の容器にスラリーと多孔質材料との交互の層を添加する場合、複合マットが得られる。
【0100】
したがって、本発明の第3の目的は、上で定義した、多孔質材料、好ましくはポリマー又は繊維質の材料の1つ以上の層と交互になった、本発明の第2の目的による真菌マットの1つ以上の層を含む、多層複合材料である。多層複合材料は、上述したような本発明の方法により得られる。
【0101】
工程e)及びf)により得られたマットをさらに工程l)にしたがって処理する場合、多層真菌マットが得られる。
【0102】
本発明の第4の目的は、2層以上の真菌菌糸体を含む多層マットであって、前記マットが、少なくとも95%、好ましくは98%、より好ましくは100%の真菌バイオマスからなり、いずれかの空間的配置も伴わず成長した真菌菌糸を含む、多層マットである。菌糸は、いずれかの特定の幾何学的パターン又は優先的な方向又は傾向を示さない。多層マットは、上述したような本発明の方法により得られる。
【0103】
本発明の真菌マットは、繊維を含有する柔軟性物品、皮革、アパレル、履物類、自動車、膜、家電、アクセサリー及び包帯などのような異なる分野における用途を見出してもよい。
【0104】
本発明の第5の目的は、本発明の第1の目的により得られるマット、本発明の第3の目的による多層複合材料、又は本発明の第4の目的による多層マットを、繊維製品の製造のために使用することである。
【0105】
本発明の第6の目的は、本発明の第2の目的である真菌マット、本発明の第3の目的による多層複合材料、又は本発明の第4の目的による多層マットを含む繊維製品である。
【0106】
本発明の第7の目的は、本発明の第2の目的によるマット、本発明の第3の目的による多層複合材料、又は本発明の第4の目的による多層マットを、柔軟性物品、好ましくは繊維製品の製造のために使用することである。
【実施例
【0107】
<実施例1>
ポテトデキストロース寒天(PDA)傾斜管中に保存した真菌Ganoderma lucidumの純粋培養菌を、いくつかの麦芽エキス寒天(MEA)ペトリ皿上に塗布し、これらを28℃で5日間培養し、冷蔵下で少なくとも1週間保存できる作業ストックを作成した。
【0108】
ペトリ皿上で成長している菌糸体の健康で、活発で、均一な領域を選択し、清潔な空気流の下で滅菌の外科用メスを用いて、麦芽酵母エキスブロス(MYEB)を含有するいくつかの液体培養フラスコに移し、28℃、200rpmの振とう培養器中で3日間、培養された。次に、これらの液体培養菌を用いて、低温殺菌した(72℃で1.5時間)3,2kgの、50%の水分含有量(1600mLのHO)を有する、麻の削り屑(800g)と大豆の殻(800g)との、50/50の混合物を含有する、固体基材バッグを接種した。室温(およそ23℃)での7日間の培養後、コロニーが形成された基材を手動で少量の塊に分離し、コロニーが形成された基材を、水3000ml当たり600gの割合で水と配合し、そして4Lの(121℃で30分間高圧滅菌した)滅菌実験室ブレンダーを用いて、機械的手段により45,000rpmで混合し、菌糸体及び生育培地要素を含有する生きたスラリーを得た。菌糸体スラリーを55×55cmの平坦な容器に平らに注ぎ、次いで室温にて2週間静置条件で培養し、表面上に均一で連続的な真菌マットを形成し、下に横たわっている精力が尽きた排出物から手で採取した。得られた真菌マットを、図1に見られるような精力が尽きたスラリー排出物から離して移動し、冷たい水道水を用い手で洗い、加熱真空テーブルを使用することで乾燥させた。
【0109】
<実施例2>
10%グリセロール低温バイアル中に-80℃で保存したFomes fomentariusの予め選択した培養菌を、いくつかのポテトデキストロース寒天(PDA)ペトリ皿上に塗布し、その後、28℃にて5日間培養し、短期的な作業ストックを作成した。ペトリ皿上で成長している菌糸体の活発な領域を選択し、2%CaSOで改良した、殺菌した大麦粒と55%の全水分含量とを含有するポリプロピレン(PP5)濾過バッグに移した。室温(およそ23℃)での7日間の培養後、コロニーが形成された穀粒を、水1000ml当たりコロニーが形成された基材200gの割合で水と混合し、機械的手段により45、000rpmで混合して、菌糸体及び生育培地要素を含有する生きたスラリーを得た。前記真菌スラリーを平坦な容器に平らに注ぎ、次いで2週間静置条件で培養し、純粋な菌糸体を含む、真菌マットを形成し、排出物とも呼ばれる、精力が尽きたスラリーから手で分離した。次に真菌マットを洗浄し、10%グリセロール溶液に浸漬し、最終的に加熱真空硬化テーブルを用いて乾燥した。得られた製品は、感触、色及び一般的な機械的特性において動物の皮革に似ている。
【0110】
<実施例3>
Schizophyllum communeの無菌の予め選択した培養菌を、作業ストックを作成し、老化、汚染又は組織の無い表現型を廃棄するために、麦芽エキス寒天(MEA)を含有するいくつかのペトリ皿内で成長させた。迅速な成長と顕著な菌糸体密度を示す、これらのペトリ皿からの活発な菌糸体領域を寒天から切断し、炎で消毒された(flamed)外科用メスを用いて、特定量の滅菌水を含有する滅菌実験室ブレンダーに移した。次いで、選択した菌糸体領域を、最大速度で1分間混合し、50%の水分含有量の、刻まれたススキ(800g)とワラ及びダイズ殻(800g)との、50/50混合物を含有する基材バッグ(個々のバッグの総重量は3、2kgであった)を接種するために使用した。次いで、前記接種した基材バッグを、室温(およそ23℃)にて3週間培養し、実施例1と同様に、高速滅菌実験室ブレンダーを用いて、水1リットル当たり200gの割合で、水と混合し、生きた真菌スラリーを形成した。次いで、真菌スラリーを、光(暗)、湿度(>80%)、換気(一定の2000ppmCOレベル)及び温度(25℃)の制御されたパラメーターの下で、インキュベーターチャンバー内の、35×35cmのトレイの形の平坦な容器に移した。真菌スラリーの表面上に成長する形成真菌マットが所望の厚さ及び密度値を達成した場合、前記真菌スラリーを3週間、平らに静置して培養した。次に、真菌マットを、囲いから剥がし、下にある可能性のあるいずれかの粗い排出物からその表面を清潔にするために、真菌マットを洗浄することにより、採取した。洗浄した真菌マットを10%グリセロールの可塑化溶液に一晩浸漬し、最後にそれを絞り、加熱真空硬化テーブルを用いて乾燥した。得られた製品は、図2に示すように、2mmの一貫した厚さと顕著な柔軟性とをもち、囲いのものを複製する形状品質(例:フォーム/サイズ)をもつ、連続で均一な革状マットであった。
【0111】
<実施例4>
実施例1~3に記載されているように、仕上げられた真菌マットは、最終的な1枚の厚さ及び機械的耐性を増加させるために、同じタイプ/起源の他の真菌マットと多層様式で結合される。マットは、生きている間に、採取直後にもう一方の上に結合され、その後、それらの菌糸が一緒に融合することを可能にするために、前と同じ条件の下、48時間再び培養され、その結果、マットは接着して、単一の連続的な1枚を形成する。得られた製品は、由来する個々のマットよりも増加した厚さ及びより高い引張及び曲げ強度、引裂き耐性、パンク耐性、及びより良好な断熱性などの高められた機械的特性を有する。
図1
図2
図3A
図3B
図3C