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特許7551653観客席の観客に全帯域幅サウンドを送り出すためのシステムおよび方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】観客席の観客に全帯域幅サウンドを送り出すためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/02 20060101AFI20240909BHJP
   H04R 3/14 20060101ALI20240909BHJP
   H04R 1/34 20060101ALI20240909BHJP
   G03B 21/56 20060101ALI20240909BHJP
   H04R 1/30 20060101ALI20240909BHJP
   H04R 1/40 20060101ALI20240909BHJP
   H04R 3/00 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
H04R1/02 103B
H04R3/14
H04R1/34 310
G03B21/56
H04R1/30 A
H04R1/40 310
H04R3/00 310
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021566146
(86)(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-12
(86)【国際出願番号】 US2020032102
(87)【国際公開番号】W WO2020227633
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】62/845,244
(32)【優先日】2019-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】503257136
【氏名又は名称】メイヤー・サウンド・ラボラトリーズ・インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(72)【発明者】
【氏名】メイヤー,ジョン・ディー
(72)【発明者】
【氏名】シュウェンケ,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ロジャース,マイルズ
(72)【発明者】
【氏名】アーネソン,ジョン・エム
【審査官】毛利 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033472(JP,A)
【文献】特開2004-056261(JP,A)
【文献】特開平02-211000(JP,A)
【文献】特開平09-233588(JP,A)
【文献】国際公開第2015/105809(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2006/0251271(US,A1)
【文献】特開2005-051660(JP,A)
【文献】特開2006-014037(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0242077(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00 - 31/00
G03B 21/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響反射性画像スクリーンの前に配置された観客席の観客に全帯域幅サウンドを送り出すためのシステムであって、前記音響反射性画像スクリーンが、前記観客席の観客によって見られる1つまたは複数の静止画像または動画像を表示し、前記観客席の観客に送り出される前記全帯域幅サウンドが、前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記1つまたは複数の静止画像または動画像に空間的におよびコンテキストに従って関連づけられ、
前記システムが、
前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記サウンドの高周波成分を受け取り再生するための一つ又は複数の高周波ラウドスピーカと、
前記音響反射性画像スクリーンの前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記サウンドの低周波成分を受け取り再生するための一つ又は複数の低周波ラウドスピーカと、
全帯域幅オーディオ入力信号を、前記高周波ラウドスピーカのための高オーディオ信号入力および前記低周波ラウドスピーカのための低オーディオ信号入力に分割するためのクロスオーバーであり、
前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカは動作周波数範囲を有し、前記音響反射性画像スクリーンの前に位置づけられ、前記高オーディオ信号入力に応じて前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカによって極性パターンで放出される前記サウンドが、前記音響反射性画像スクリーンから反射されるように前記音響反射性画像スクリーンの方に傾けられ、前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカは、前記動作周波数範囲において、前記極性パターンが、前記音響反射性画像スクリーンから反射される前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカからのサウンドが前記観客席をカバーするように水平方向で十分に大きく、それにもかかわらず、前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカからの直接サウンドが前記観客席に及ばないように垂直方向で十分小さいことを満たす極性パターンを有し、前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカは、前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記サウンドの高周波成分であって前記観客席に届くもののみを供給し、前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記サウンドの高周波成分であって前記観客席に届くものは、反射されたサウンドのみであり、
前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカが、前記音響反射性画像スクリーンにまたはそのまわりに位置づけられ、前記低オーディオ信号入力に応じて前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカによって生成される低周波サウンドが直接サウンドとして前記観客席の観客によって受け取られるように向けられる、クロスオーバーと、
前記観客席に到達する前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカからの前記直接サウンドを、表示スクリーンから反射される前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカからのサウンドの到達と時間合わせするために、前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカによって生成される前記サウンドに対して前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカによって生成される前記サウンドを遅延させるための前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカの前の遅延補正と、
を含む、システム。
【請求項2】
前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカの前記高入力と前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカの前記低入力との間の前記クロスオーバーが、150Hzと1500Hzとの間で生じる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカの前記高入力と前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカの前記低入力との間の前記クロスオーバーが、350Hzと1000Hzとの間で生じる、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカがホーンスピーカである、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカがラインアレイラウドスピーカである、請求項1~3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記一つ又は複数の高周波ラウドスピーカが、最前列観客席が前記音響反射性画像スクリーンから離れている距離を超えない距離で前記音響反射性画像スクリーンの前に位置づけられる、請求項1~5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカが、前記音響反射性画像スクリーンの上に、前記観客席の方に向けて位置づけられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカが、前記音響反射性画像スクリーンの下に、前記観客席の方に向けて位置づけられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記一つ又は複数の低周波ラウドスピーカが、前記音響反射性画像スクリーンの開口部の後ろに、前記観客席の方に向けて位置づけられる、請求項1~6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
音響反射性画像スクリーンの前に配置された観客席の観客に全帯域幅サウンドを送り出すためのシステムであって、前記音響反射性画像スクリーンが、前記観客席の観客によって見られる画像を表示し、前記観客席の観客に送り出される前記全帯域幅サウンドが、前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記画像に空間的におよびコンテキストに従って関連づけられ、
前記システムが、
前記音響反射性画像スクリーンの前に位置づけられ、高周波オーディオ信号入力に応じて、動作周波数範囲を有する指向性高周波サウンド源によって極性パターンで放出されるサウンドが、前記動作周波数範囲において、前記音響反射性画像スクリーンから観客席に向かって反射され、前記観客席をカバーするように水平方向で十分に大きく、それにもかかわらず、指向性高周波サウンド源からの直接サウンドが前記観客席に及ばないように、垂直方向で十分小さいことを満たすサウンドであって、前記指向性高周波サウンド源は、前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記画像に関連する前記サウンドの高周波成分であって前記観客席に届くもののみを供給し、前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記画像に関連する前記サウンドの高周波成分であって前記観客席に届くものは、反射されたサウンドのみである、前記音響反射性画像スクリーンの方に向けられる指向性高周波サウンド源と、
低周波オーディオ信号入力に応じて低周波サウンド源によって放出されるサウンドが、前記観客席の観客によって低周波サウンド源からの直接サウンドとして受け取られるように、前記音響反射性画像スクリーンにまたはそのまわりに位置づけられ、前記観客席の方に向けられる低周波サウンド源と、
前記観客席に到達する前記低周波サウンド源からの前記直接サウンドを、表示スクリーンから反射される前記指向性高周波サウンド源からのサウンドの到達と時間合わせするために、前記指向性高周波サウンド源によって生成される前記サウンドに対して前記低周波サウンド源によって生成される前記サウンドを遅延させるための信号遅延手段と、
を含む、システム。
【請求項11】
前記指向性高周波サウンド源の高入力と前記低周波サウンド源の低入力との間のクロスオーバーが、150Hzと1500Hzとの間で生じる、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記指向性高周波サウンド源の高入力と前記低周波サウンド源の低入力との間の前記クロスオーバーが、350Hzと1000Hzとの間で生じる、請求項10に記載のシステム。
【請求項13】
前記指向性高周波サウンド源が、前記観客が前記音響反射性画像スクリーンから離れている距離を超えない距離で前記音響反射性画像スクリーンの前に位置づけられる、請求項10~12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
音響反射性画像スクリーンの前に配置された観客席の観客に全帯域幅サウンドを送り出すための方法であって、前記音響反射性画像スクリーンが、前記観客席の観客によって見られる1つまたは複数の静止画像または動画像を表示し、前記観客に送り出される前記全帯域幅サウンドが、前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記1つまたは複数の静止画像または動画像に空間的におよびコンテキストに従って関連づけられ、
前記方法が、
前記音響反射性画像スクリーンの前の位置から、前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記全帯域幅サウンドの高周波成分を、前記全帯域幅サウンドの前記高周波成分が反射サウンドのみとして前記観客席の観客に到達するように、極性パターンで前記音響反射性画像スクリーンに向けるステップであって、前記極性パターンが、前記音響反射性画像スクリーンから観客席に向かって反射される前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記全帯域幅サウンドの高周波成分が、前記観客席をカバーするように水平方向で十分に大きく、それにもかかわらず、前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記全帯域幅サウンドの高周波成分が、直接前記観客席に及ばないように、垂直方向で十分小さいことを満たす極性パターンであるステップと、
前記音響反射性画像スクリーンに表示される前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記サウンドの高周波成分のその他のものが、前記観客席に届くことを防ぐステップと、
前記音響反射性画像スクリーンのまたはそのまわりの位置から、前記音響反射性画像スクリーンの前記1つまたは複数の静止画像または動画像に関連する前記全帯域幅サウンドの低周波成分を、前記全帯域幅サウンドの前記低周波成分が直接サウンドとして前記観客席の観客に到達するように前記観客に向けるステップと、
前記全帯域幅サウンドの前記低周波成分および前記全帯域幅サウンドの前記高周波成分が、前記観客席の観客に届いたときに、前記全帯域幅サウンドの前記低周波成分と前記全帯域幅サウンドの前記高周波成分が時間合わせされるように、前記全帯域幅サウンドの前記高周波成分に対して前記全帯域幅サウンドの前記低周波成分を遅延させるステップと、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001]本発明は、一般に、サウンドシステムに関し、より詳細には、画像スクリーンに表示された画像と空間的におよびコンテキストに従って関連づけられるサウンドを生成するサウンドシステムに関する。本発明は、映画スクリーンの前に座っている観客が、映画空間内に戦略的に配置されたラウドスピーカを通して関連するサウンドトラックを聞きながら、スクリーンの映画、ドキュメンタリ、または他のコンテンツを見る映画に特定の用途がある。しかしながら、本発明は、1つまたは複数の画像に関連するサウンドが、移動しているかまたは静止しているかにかかわらず、画像からまたは画像の全区域から来るように見えるような方法で、観客に(一人の観客かまたは多数の観客かにかかわらず)送り出されなければならないどんな用途にも適応され得ることが分かるであろう。
【背景技術】
【0002】
[0002]映画画像を映写スクリーンに映写し、映写スクリーンが観客の鑑賞のために画像を観客席に反射して戻すという長い歴史がある。それが、典型的な映画館である。典型的な映画館では、映画スクリーンは、サウンドに対して実質的に透過性であり、映画に関連するサウンドトラックは、通常、映写スクリーンの後ろに配置されたラウドスピーカを通して再生される。追加のラウドスピーカが、サラウンドサウンド効果のために観客席の側方に追加されてもよいが、メインサウンドは、画像が表示される映写スクリーンから来ており、そこから来るように観客によって知覚されることが重要である。
【0003】
[0003]プラズマ、LCD、LED、およびOLEDなどの新しい発光性スクリーン技術の成熟とともに、発光性スクリーンは、映画公演にとって実用的で費用効果的になっており、従来の光反射映写スクリーンの実現可能な代替品と見られている。(LCDスクリーンは、スクリーンのLCD層がバックライトで生成された光を送出するので、時には、「透過型」ディスプレイと呼ばれる。)これらのより新しいスクリーン技術は、ホームシアタ、会議、およびコンファレンス空間などの用途で広範に使用されている。しかしながら、発光性スクリーンの難点は、それが、実用的な範囲で少しも、サウンドに対して透過性でないことである。これは、大スクリーン適用において画像表示にサウンドを所望するように関連づけをする際に問題を引き起こす。そして、それは、映画適用と、通常、スクリーンの後ろにあるラウドスピーカを使用して実現される中央チャネルサウンドの映画基準を満たすこととに特定の問題を引き起こす。ラウドスピーカを映画スクリーンの後ろに配置する必要がない放射スクリーンからサウンドが来るように見せ、それでもなお、観客にサウンドがスクリーンから来ていると思わせる目的を達成する解決策が必要である。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
[0004]本発明は、音響反射性画像スクリーン、特に、比較的大きい音響反射性画像スクリーンの前に配置された観客席の観客に全帯域幅サウンドを送り出すためのシステムおよび方法を対象にする。画像スクリーンは、大きいプラズマ、LED、もしくはOLEDスクリーンなどのそれ自体の画像を生成する発光性スクリーン、またはより高い周波数、例えば、500Hzを超えるサウンドを反射することができる映写スクリーンであり得る。本発明のシステムおよび方法は、画像スクリーンに表示される画像に空間的におよびコンテキストに従って関連づけられる全帯域幅サウンドを、観客に送り出すことを可能にし、特に、全帯域幅サウンドが画像スクリーンから来ているように思わせることになる。本発明のシステムおよび方法は、スクリーンの後ろにスピーカを置くことができない環境において、従来のスクリーンの後ろのスピーカの経験を再現する。
【0005】
[0005]本発明のシステムは、2つの別個の空間的にずらされたサウンド源、すなわち、音響反射性画像スクリーンに表示される画像に関連するサウンドの高周波成分を受け取り再生するための高周波ラウドスピーカと、画像に関連するサウンドの低周波成分を受け取り再生するための別個の低周波ラウドスピーカとを含む。クロスオーバーは、全帯域幅オーディオ入力信号を、高周波ラウドスピーカを駆動するための高周波成分と低周波ラウドスピーカを駆動するための低周波成分とに分割する。本発明の大部分の実装態様において、2つ以上の高周波ラウドスピーカおよび2つ以上の低周波ラウドスピーカが使用されることになるが、しかしながら、本発明は、特定の数の高周波ラウドスピーカまたは低周波ラウドスピーカの使用に限定されるように意図されていないことが企図される。
【0006】
[0006]本発明によれば、1つの高周波ラウドスピーカ(または複数のラウドスピーカ)が、音響反射性画像スクリーンの前に位置づけられ、オーディオ信号入力に応じて高周波ラウドスピーカによって放出されるサウンドが、画像スクリーンから反射されるように画像スクリーンの方に傾けられる。高周波ラウドスピーカが、以下の基準、すなわち、極性パターンが、画像スクリーンから反射される高周波ラウドスピーカからのサウンドが観客席をカバーするように十分に大きく、それにもかかわらず、高周波ラウドスピーカからの直接サウンドが観客席に及ばないように十分小さいことを満たす極性パターンを有することになる。他方、低周波ラウドスピーカは、音響反射性画像スクリーンにまたはそのまわりに位置づけられ、オーディオ信号入力に応じて低周波ラウドスピーカによって生成される低周波サウンドが、低周波ラウドスピーカからの直接サウンドとして観客によって受け取られるように向けられる、したがって、画像スクリーンの1つまたは複数の画像に関連する観客のオーディオ経験は、画像スクリーンから反射されるサウンドの高周波成分と低周波ラウドスピーカから直接受け取られるサウンドの低周波成分との組合せによって、その組み合わされたサウンドが観客に達したときに、決定される。サウンドの低周波成分から高周波成分へのクロスオーバーは、好ましくは、約350Hzから約1000Hzの範囲にあることになるが、しかしながら、クロスオーバーは、最低約150Hzから最高1500Hzで生じ得ると考えられる。
【0007】
[0007]サウンドの反射成分および直接成分が、観客に達するために進まなければならない音響経路の長さの差を補正するために、信号遅延が、低周波ラウドスピーカ(複数可)の前に配置される。この遅延は、観客席に到達する低周波ラウドスピーカからの直接サウンドを、表示スクリーンから反射された高周波ラウドスピーカからのサウンドの到達と時間合わせすることになる。
【0008】
[0008]好ましくは、1つまたは複数の高周波ラウドスピーカは、観客が表示スクリーンから離れているのを超えない距離で、画像スクリーンの前に、好ましくは、観客の最前列にほぼ対応する距離に位置づけられることになる。高周波ラウドスピーカのこの配置により、観客の一部が高周波ラウドスピーカからの反射サウンドと直接サウンドの両方を聞くというリスクを避けられることになる。
【0009】
[0009]本発明の方法によれば、全帯域幅サウンドは、観客によって見られる1つまたは複数の静止画像または動画像を表示する音響反射性画像スクリーンの前に配置された観客席の観客に送り出される。観客に送り出される全帯域幅サウンドは、画像スクリーンに表示される画像に空間的におよびコンテキストに従って関連づけられる。画像スクリーンの前の位置から、音響反射性画像スクリーンに表示される画像に関連するサウンドの高周波成分は、サウンドの高周波成分が反射サウンドのみとして観客に到達するように画像スクリーンに向けられる。異なる位置から、すなわち、音響反射性画像スクリーンでまたはそのまわりで、音響反射性画像スクリーンの画像に関連するサウンドの低周波成分は、サウンドの低周波成分が反射サウンドとしてではなく直接サウンドとして、すなわち、その発生源から観客に直接進むサウンドとして観客に到達するように観客に向けられる。全帯域幅サウンドの低周波成分および全帯域幅サウンドの高周波成分が、結合し、観客に到達するとき、全帯域幅サウンドのこれらの2つの成分を時間合わせするために、全帯域幅サウンドの低周波成分は、全帯域幅サウンドの高周波成分に対して遅延される。全帯域幅サウンドの組み合わされたおよび時間合わせされた周波数成分は、スクリーンの区域に空間的に配置された単一の発生源から来ているようにリスナーによって知覚される。
【0010】
[0010]したがって、本発明のシステムおよび方法は、画像スクリーンの後ろのラウドスピーカの従来の配置を妨げる画像スクリーンが使用される場合に、映画または映像プレゼンテーションなどの画像表示に関連する望ましいサウンド経験を生み出すことの問題を解決する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】[0011]従来のサウンド透過性映画スクリーンと、観客が全帯域幅サウンドを直接サウンドとして受け取るように映画スクリーンの後ろのラウドスピーカとを有する映画館などの公演場の立面図である。
図2】[0012]音響反射性画像スクリーンと、本発明による別個の高周波ラウドスピーカおよび低周波ラウドスピーカの例示的な垂直面配置とを有する、図1に示されたものなどの公演場の立面図である。
図3】[0013]低周波ラウドスピーカの代替の垂直面配置を示す、公演場の同じ立面図である。
図4】[0014]1つの低周波ラウドスピーカの代わりに2つの低周波ラウドスピーカの例示的な垂直面配置を示す、公演場の同じ立面図である。
図5】[0015]単一の中央チャネル高周波ラウドスピーカと単一の中央チャネル低周波ラウドスピーカからなる配置を水平面で示す、図2図4に示されたものなどの公演場の平面図である。
図6】[0016]本発明による3つの高周波ラウドスピーカおよび3つの低周波ラウドスピーカの例示的な水平面配置を示す、図2図5に示されたものなどの公演場の平面図である。
図7】[0017]本発明のシステムおよび方法による、別個の高周波ラウドスピーカおよび低周波ラウドスピーカを駆動するオーディオ信号のための信号処理の例示的な実装態様のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[0018]添付の図面に示された本発明の実施形態は、発光性画像スクリーン(画像スクリーン)を有する映画館などの観客席における本発明の実装態様を示す。しかしながら、本発明は、画像の映像表示に限定されないことが理解されよう。例えば、博物館は、本発明によるラウドスピーカシステムを使用して、サウンドを静止画像またはジオラマに関連づけ、それによって、サウンドが画像またはジオラマから来ているように見せることができる。必要とされるものは、十分な範囲に高周波音響エネルギーを反射して、表面の前にいる観客が、所望のより広い帯域幅のサウンドのこの成分を適切な鮮明度で聞くことができる表面である。表面は、画像スクリーンとして機能する。したがって、本明細書で使用される「画像スクリーン」は、画像を表面上に映写することによって、または現在既知のもしくは未知の発光技術により画像を表面に生成することのどちらかによって、1つまたは複数の動画像または静止画像が表示され得る任意の表面を意味するものとする。
【0013】
[0019]次に、図面を参照すると、図1は、観客13が観客席に座った状態の観客席12を有する公演場11を備えた建物10を示す。図1は、従来のサウンド透過性映写スクリーン15がある映画館または会議室を表し、透過性映写スクリーン15上に、映画画像などの画像が、観客の後ろのプロジュクタ17によって、破線の映写光円錐形ライン19で示されるように映写される。ラウドスピーカ21、この場合、全域ラウドスピーカが、サウンド透過性画像スクリーンの後ろに置かれ、観客の方に向けられる。このスクリーンの後ろのラウドスピーカから放出されたサウンドは、実線のサウンド円錐ライン23で示されたカバレッジ(極性)パターンで放出され、カバレッジパターンは、観客の最前列14を含む観客全体をカバーするのに十分な広さであることが分かる。この従来のサウンドシステム設計では、観客によって聞かれるサウンドは、映写スクリーンの後ろから来る。結果として、サウンドシステムは、サウンドがスクリーンの画像に空間的に関連づけられている望ましい結果を達成する。
【0014】
[0020]なお、図1において、以下の図におけるように、観客席配置は、単に例示の目的のための代表的な配置である。席配置は、構成およびサイズが大きく変わることがあり、バルコニー空間を含むことがある。ラウドスピーカの選択および配置は、これらの様々な観客席構成および観客サイズを考慮に入れる必要があろう。理想的には、ラウドスピーカシステム設計は、観客席全体にわたる均一なカバレッジを提供することになる。
【0015】
[0021]図2図5は、図1に示された公演場と同様の公演場11を備えた建物10を示しているが、しかしながら、この公演場には、サウンド透過性映写スクリーンの代わりに、サウンドに対して透過性ではなく、むしろサウンドを反射する画像スクリーン25の形態の画像スクリーンがある。画像スクリーンにはサウンド透過性が全くないかまたはほとんどないので、観客13によって見られるスクリーンの画像に全帯域幅サウンドを空間的に関連づけることができるサウンドシステムは、画像スクリーンの後ろに配置されたラウドスピーカに依拠することができない。
【0016】
[0022]図2図5に、本発明によって提供される解決策が示される。これらの図に示されるように、2つの別個のラウドスピーカ27、29(「トランスデューサ」または「ドライバ」と呼ぶこともできる)が、互いに物理的にずらされており、一方は、画像スクリーン25の前の距離にあり、他方は、画像スクリーンの近くにある。どちらも画像スクリーンの後ろに配置されない。これらの2つの別個のラウドスピーカのうちの第1のもの、すなわち、数字27で表され、画像スクリーンの前に位置づけられたものは、高周波ラウドスピーカであり、本明細書では時に「高ラウドスピーカ」と呼ぶ。このラウドスピーカは、画像スクリーンに表示される画像のオーディオプログラミングの高周波成分を再生し、この場合もまた音響的に反射性である画像スクリーンがこのラウドスピーカから来ているサウンドの高周波成分を反射して観客に戻すように、画像スクリーンの方に傾けられる。
【0017】
[0023]図2図5は、画像スクリーンの前の高周波ラウドスピーカの配置が、画像スクリーンの後ろで同じ高さおよび同じ距離に高周波ラウドスピーカを有することと、どのように等しいかを示す。これは、物理的に存在しないので「仮想」ラウドスピーカと呼ぶことができ、むしろ、従来のサウンド透過性画像スクリーンの後ろに配置されたラウドスピーカのカバレッジが、サウンドに対して透過性でない画像スクリーンの前のラウドスピーカからどのように複製され得るかを示す。
【0018】
[0024]仮想ラウドスピーカが、図2図5に破線のファントムラウドスピーカ27pで示される。実際のラウドスピーカ27のカバレッジが、実線31a、31bで示され、ライン31aは、ラウドスピーカ27から画像スクリーンまでの直接サウンドの進行を表し、ライン31bは、画像スクリーンから観客まで反射されたサウンドの進行を示す。画像スクリーンの後ろの仮想スピーカ27pから進行するサウンドのカバレッジは、スクリーンの後ろの破線33とスクリーンの前の実線31bとによって示される。画像スクリーンの前では、仮想スピーカ27pによって与えられるカバレッジが、実際のラウドスピーカ27によって与えられるカバレッジと等価であることが分かる。以下でさらに論じられるように、高周波ラウドスピーカは、指向性があり、望ましいカバレッジを達成するために特定の制限に適合する極性パターンを有することが重要である。
【0019】
[0025]数字29で表された、2つの必要とされるラウドスピーカのうちの第2のものは、低周波ラウドスピーカ(時には、本明細書では「低ラウドスピーカ」と呼ぶ)である。このラウドスピーカは、画像スクリーンに表示される画像のオーディオプログラミングの低周波成分を再生する。図2で分かるように、それは、画像スクリーンの真上に位置づけられ、観客の方に外側に向けられており、その結果、観客は、ラウドスピーカからのサウンドをスピーカから直接受け取る。ラウドスピーカ29は、低周波ラウドスピーカが映像映写スクリーンの後ろに位置づけられているように部屋の残響を引き起こすことになる。人間の耳は、低周波の発生源を見つけることが難しいので、ラウドスピーカが表示スクリーンの真後ろに配置されていないという事実にもかかわらず、画像のオーディオプログラミングの低周波成分は、スクリーン画像に容易に関連づけられ得る。
【0020】
[0026]1つまたは複数の低周波ラウドスピーカが、図2に示された場所以外の位置に配置されてもよいことを理解されよう。低周波ラウドスピーカの配置の例示的な代替が、図3図4に示され、図3は、2つの低周波ラウドスピーカを示しており、1つのもの(ラウドスピーカ29)は、図2に示された低ラウドスピーカの配置のように画像スクリーンの上に配置され、他のもの(ラウドスピーカ30)は、画像スクリーンより下に配置される。図4は、画像スクリーンより下の単一の低周波ラウドスピーカ30からなる配置を示す。任意の数の低周波ラウドスピーカが、観客によって聞かれる直接的な低周波サウンドを生成する目的で画像スクリーンのおおよそ近くに配置され得る。
【0021】
[0027]上記のように、高周波ラウドスピーカ27は、その場所および指向角とは別に、指向性がなければならない。動作周波数範囲内で、高周波ラウドスピーカ27の垂直面と水平面の両方での指向性は、画像スクリーンから反射されたサウンドが観客をカバーするのに十分な広さでなければならない。しかし、反射サウンドに加えて直接サウンドにさらされると、観客の誰にとっても非常に気が散り不快な経験になるので、垂直指向性は観客席に及ぶほど広くてはならない。図3に「A」で示されたカットオフ角は、この要件を満たしていることが分かる。理想的には、高ラウドスピーカによって生成されるサウンドのSPLレベルは、このカットオフ角で急速に減少することになる。それはまた、かなりの量の直接サウンドを観客席に漏らすことになるいかなる重大性のあるサイドローブを生成すべきでない。
【0022】
[0028]高周波ラウドスピーカがスクリーンの前に位置づけられる距離は、上記の目的を達成する際の考慮事項である。一般に、高ラウドスピーカは、スクリーンにあまり近づけることができないが、その理由は、観客の望ましいカバレッジを達成することが困難になり、スピーカが、画像スクリーンへの視線を視覚的に遮ることがあるからである。他方、高ラウドスピーカの配置がスクリーンから離れすぎると、観客の一部をラウドスピーカの直接放射パターン内に配置するというリスクにさらす。好ましくは、高ラウドスピーカは、図2図6に示されるように観客13の最前列14にほぼ対応する画像スクリーンの前の距離に配置されることになるが、しかしながら、適切な方向性があり、大きいサイドローブがない場合、高ラウドスピーカはこの位置の後ろに配置されてもよい。
【0023】
[0029]どこに位置づけられても、本発明のシステムおよび方法で使用される高周波ラウドスピーカの垂直指向性と水平指向性の両方は、通常、従来のスクリーンの後ろのスピーカの垂直指向性と水平指向性よりも狭いことになる。この理由は、高ラウドスピーカ27からのサウンドが観客に達するために進まなければならない距離が、スクリーンの後ろのラウドスピーカによって生成されたサウンドによってとられる直接経路よりも実質的に長いからである。必要とされる指向性は、市販のホーンラウドスピーカで、または指向性がホーンの代わりに信号処理を使用して達成されるダイレクトラジエータラインアレイによって達成され得る。
【0024】
[0030]しかしながら、必要とされる指向性は、低周波では達成することができない。一般に、500Hzよりはるかに低い周波数でラウドスピーカから有効な指向性を達成することは非現実的である。本明細書に記載されるように空間的に分離された高周波サウンド源と低周波サウンド源を設けることが、この問題への解決策を提供する。本発明のシステムおよび方法を実施する際に、高ラウドスピーカ27と低ラウドスピーカ29との間のクロスオーバーが、制限内で、500Hzの上下で生じる場合がある。好ましくは、クロスオーバーは、約350Hzから約1000Hzの範囲内のどこかで生じることになるが、しかしながら、効果的なシステムは、最低150Hzから最高1500Hzで生じるクロスオーバーで実現され得ると考えられる。
【0025】
[0031]最後に、本発明は、低周波ラウドスピーカ29から来るサウンドを、観客に達する前により長い経路を進む高周波ラウドスピーカ27から来るサウンドと時間合わせするために、低周波トランスデューサによって生成されたサウンドを遅延させることを提供する。振幅および位相の等化は、低ラウドスピーカと高ラウドスピーカの信号入力に適用されることができ、その結果、信号入力は、クロスオーバー周波数の範囲で位相を合計する。追加として、振幅および位相の等化は、境界荷重を考慮に入れてサウンドを映像に同期させるために、および他の目的のために、信号全体に適用され得る。
【0026】
[0032]図6は、水平面で見た本発明によるシステムを示し、システムは、画像スクリーン25の前に配置された3つの高周波指向性ラウドスピーカ、すなわち、中央チャネル高ラウドスピーカ27、左チャネルラウドスピーカ27a、および右チャンネルラウドスピーカ27bからなる。仮想等価物27p、27ap、および27bpで示され得るこれらの3つの高周波ラウドスピーカの配置および指向特性の基準は、単一の高周波ラウドスピーカのみを有するシステムに関連して上述したものと同じである。図2図5を参照されたい。図6に示されたシステムはまた、画像スクリーンの近くに配置された3つの低周波ラウドスピーカ29、29a、29bを有することが分かる。図2図5に示された例示的なシステムにおけるように、観客と向き合う低ラウドスピーカは、画像スクリーンの上もしくは下に、または画像スクリーンの上と下の両方に位置づけられ得る。それらは、さらに、画像スクリーンのまわりのどこか他のどこにでも位置づけられ得る。
【0027】
[0033]図7は、本発明のシステムおよび方法に関連して使用され得る信号処理の例示的な実装態様を示す。オーディオ入力信号40がクロスオーバー41を通過し、クロスオーバー41が、オーディオ入力を低周波成分と高周波成分とに分割することが示される。高周波成分は、高周波チャネル43を介して高オーディオ信号入力として高周波ラウドスピーカ27に送られ、一方、低周波成分は、低周波チャネル45を介して低オーディオ信号入力として低周波ラウドスピーカ29に送られる。これらのチャネルの各々は、位相補正ブロック47、49および振幅補正ブロック51、53によって示されるように、それ自体の位相および振幅補正を適切に含む。加えて、低周波チャネルの信号処理は、遅延機能を備え、低周波ラウドスピーカ29への低オーディオ信号入力が、高周波ラウドスピーカ27への高オーディオ信号入力に対して遅延される。図7にブロック55で示される低チャネルの遅延補正は、上述のように、高ラウドスピーカからのサウンドが観客に達するために進まなければならないより長い経路を補正する。
【0028】
[0034]図7に示された信号処理の機能は、アナログ回路またはデジタル信号処理を使用する様々な異なる方法で実施されてもよいことを理解されよう。図7に示された回路ブロックの実装態様は、当業者によって既知の回路設計および/またはデジタルフィルタにより達成され得る。
【0029】
[0035]本発明のシステムおよび方法が前述の明細書および添付の図面にかなり詳細に記載されているが、本発明はそのような詳細に限定されることを意図されない。以下の特許請求の範囲に反映されるような本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、記載された実施形態の変更が可能であることが当業者には容易に明らかであろう。本発明のシステムも方法も、本明細書に記載された用途に限定されるように意図されていない。再度、以下の特許請求の範囲に反映されるような本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、現在既知であるかまたは未知であるかにかかわらず、他の用途が現在可能であり得、または今後可能であり得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7