(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】処置用哺乳動物細胞の凍結保存、凍結貯蔵、凍結輸送および適用に有用な、デバイス、方法および組成物
(51)【国際特許分類】
A61J 1/05 20060101AFI20240909BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20240909BHJP
A61M 5/34 20060101ALI20240909BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240909BHJP
A61K 35/32 20150101ALI20240909BHJP
A61L 27/38 20060101ALI20240909BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20240909BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20240909BHJP
A61P 19/00 20060101ALI20240909BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240909BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240909BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
A61J1/05 311
A61J1/05 353
A61J1/05 313M
A61L31/04
A61L31/04 110
A61M5/34 530
A61K35/12
A61K35/32
A61L27/38 300
A61P9/00
A61P17/02
A61P19/00
A61P21/00
A61K47/20
A61K47/36
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022033144
(22)【出願日】2022-03-04
(62)【分割の表示】P 2019547356の分割
【原出願日】2018-03-02
【審査請求日】2022-04-01
(32)【優先日】2017-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515254574
【氏名又は名称】ディスクジェニックス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DISCGENICS, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ララ・シルバーマン
(72)【発明者】
【氏名】ガリーナ・ドゥラトフ
(72)【発明者】
【氏名】テリー・タンデスキー
(72)【発明者】
【氏名】アイザック・エリクソン
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-507563(JP,A)
【文献】国際公開第2015/194872(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0369227(US,A1)
【文献】特表2012-533620(JP,A)
【文献】特表2007-530052(JP,A)
【文献】特開2004-033442(JP,A)
【文献】特開2000-201672(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61J
A61L
A61M
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記を含む、処置用混合物を凍結および解凍するためのデバイス:
容器であって、
第1の直径を有する第1の開口端、
前記第1の直径よりも小さい第2の直径を有する第2の開口端、
前記第1の直径と同様の管腔直径を有し、前記第1および第2の開口端と流体連通する、管腔壁を含む管腔
を含み、該容器が、約-130℃未満で凍結される、および解凍される際に構造の完全性を維持する1つまたはそれ以上の生体適合性材料で製造されている容器;
前記管腔内に嵌め込まれて前記管腔壁との封止接触をもたらすよう構成されている第1のポリマーシール;
前記第1の開口端を封止するように設計された第1のポリマーキャップ;および
前記第2の開口端を封止するように設計された第2のポリマーキャップ;
ここで、前記第2の開口端が、前記第2のポリマーキャップが取り外されたときに、適合する構造のシリンジニードルを受けることができるルアーロック構造を規定する。
【請求項2】
前記容器がシリンジバレルを規定し、前記第1のポリマーシールがピストンまたはプランジャである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記容器がシリンジバレルを規定し、前記容器管腔が処置用組成物を保持し、前記第1のポリマーシールがピストンまたはプランジャである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項4】
前記容器がシリンジバレルを規定し、前記容器管腔が処置用哺乳動物細胞組成物を保持し、前記第1のポリマーシールがピストンまたはプランジャである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項5】
前記容器がシリンジバレルを規定し、前記容器管腔が、処置用の、ヒト椎間板組織から誘導される哺乳動物細胞の組成物を保持し、前記第1のポリマーシールがピストンまたはプランジャである、請求項1に記載のデバイス。
【請求項6】
前記容器が透明なポリマーで製造されている、請求項1~5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項7】
前記容器が環状オレフィンポリマーで製造されている、請求項1~5のいずれかに記載のデバイス。
【請求項8】
前記第1のポリマーシールがゴムを含む、請求項1~5のいずれかに記載のデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、引用によりその全体を本書の一部とする、2017年3月2日に出願された“Devices, Methods, And Compositions Useful in Cryo-Preservation Mammalian Cells”と題する米国仮特許出願第62/466228号に基づく、米国特許法第119条(e)に基づく優先権の利益を主張する。
【0002】
分野
本開示のプロセス、方法およびシステムは、医療処置用の哺乳動物細胞を、その生存性を顕著に低下することなく非常に低い温度で長期間保存することに関する。そのような細胞は、解凍後、殆どまたは全く手を加える必要なく、患者に投与しうる。
【背景技術】
【0003】
処置用の細胞は、哺乳動物ドナーから直接に得られるか、または細胞培養における選択、富化、増幅等を経て、患者に投与される。場合によっては、処置用細胞は投与前に貯蔵または輸送されうる。貯蔵および/または輸送中に細胞の生存性を維持するために、処置用細胞は、非常に低い温度で凍結され、その処置能力を保存および保護することができる(凍結保存または凍結貯蔵)。この凍結保存は、処置効果を殆どまたは全く損なうことなく、長期の貯蔵および/または長時間の輸送を可能にしうる。
【0004】
従来の凍結保存法では、処置用細胞の解凍後の生存性が一定でないか、または低いことがある。さらに、従来の凍結保存法では、細胞を投与用の装置またはデバイスに移し、および/または1つもしくはそれ以上の凍結保存物質を除去するために、さらに手を加え操作する必要がある。
【0005】
処置用細胞に後で操作することにより、不変性、生存性および有効性に悪影響が及びうる。さらに、処置用細胞を適当な医療用デバイスまたは装置に移すことは、望ましくない細菌、ウイルス、化学物質等による細胞の汚染リスクを高める。それに加えて、動物血清の使用に依存する従来の凍結方法は、ヒトレシピエントを、動物が媒介する疾患に罹患する危険にさらしうる。
【0006】
したがって、処置用細胞の凍結において使用するための改善された組成物および方法、ならびに解凍後の操作を減らす手段が求められる。
【発明の概要】
【0007】
処置用医薬組成物における真核生物細胞の凍結貯蔵および保存のための組成物を開示する。本発明の組成物は、凍結培地、凍結剤(例えばジメチルスルホキシド)、および1つまたはそれ以上の有機ポリマー(例えばヒアルロン酸)を含む。本発明の組成物はまた、動物血清を伴っても伴わなくても、処置用細胞の凍結を可能にする。本開示の組成物およびデバイスは、細胞の凍結、-130℃~-196℃での長期の貯蔵、解凍、および患者への投与を通して、細胞の生存性および無菌性を維持することができる。
【0008】
さらに、真核生物細胞の凍結および解凍において有用な容器を開示する。本発明の容器は多くの態様において、解凍後の細胞の投与に適当であり、投与前の細胞混合物の操作を殆どまたは全く必要としない。本発明の容器は多くの態様において、シリンジのような医療用デバイスの少なくとも一部を規定し、ここで、該容器は、凍結および解凍の間、細胞混合物の無菌性を維持することができ、該混合物をそれを必要とする患者に投与するために使用することができる。本発明の容器は、管腔、ならびに第1および第2の開口端を含むことができ、これは、キャップ、チップ、プラグ、プランジャ、または前記混合物を管腔内に含むために適当な他の構造を受容するように構成されうる。本発明の容器は、その完全性を凍結および解凍のプロセスを通して維持する生体適合性材料で製造される。
【0009】
処置用哺乳動物細胞の生存性を低温において維持するために使用するデバイス、組成物および方法が本書に開示され、本開示のデバイスは、必要とする患者への投与前の細胞操作を減らすのにも有用である。本開示の組成物、デバイスおよび方法は、細胞の生存性を維持するので、処置効果の喪失を軽減するのに役立つ。
【0010】
本発明のさらなる目的および利点は、その一部が以下の説明において示され、一部が該説明から明らかになるか、または本発明の実施によって明らかになる。本発明の目的および利点は、特許請求の範囲に特に記載される要素および組み合わせによって、実現および達成されうる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の細胞組成物の凍結、貯蔵および適用のためのデバイスの一態様を示す。上図は、組立てられていないデバイスのさまざまな部分を示す。下図は該デバイスの断面図である。
【
図2】
図2は、バレル管腔内に入れられる本開示の組成物の凍結、貯蔵、輸送および解凍の間の汚染を低減するよう構成された、組立てられた本開示のデバイスの一態様を示す図である。
【
図3】
図3は、1%のヒアルロン酸を伴ってさまざまな培地を用いて液体窒素の蒸気相中で1箇月貯蔵した後の回収率および生存率を、培地間で比較するものである。実験に使用した凍結容器はシリンジシステムであった。いずれの培地を使用した場合も、良好な回収率および生存率が示された。
【
図4】
図4は、DiscGenicsシリンジサンプルのヘッドスペース酸素の非破壊測定の値を棒グラフで示すものである。T0とT1の時点の間のヘッドスペース酸素濃度変化の値を示している。両時点でのヘッドスペース酸素濃度は、各シリンジについて5回の反復測定の平均値として処理した。赤色の横線は、シリンジの容器閉鎖完全性喪失の判断基準として用いた、酸素の3.0%の減少を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、真核生物細胞(例えば哺乳動物細胞)を貯蔵および/または輸送のために非常に低い温度で凍結するための組成物および方法を提供する。さらに、該凍結細胞を収容するのに有用であり、また、後の投与に先立つ細胞の操作を減らす、医療用デバイスおよび装置を提供する。さらに、本開示のデバイス中で本開示の組成物を凍結および貯蔵する方法も開示する。ここで、該凍結および貯蔵方法は、気体、液体および微生物(例えば細菌、真菌、ウイルス等)による汚染に対する抵抗性の驚くべき向上を提供する。
【0013】
多くの態様において、本開示の方法は、細胞を凍結培地と組み合わせて細胞混合物を形成し、次いで該細胞混合物を本開示のデバイスおよび装置中に置くことを含む。多くの態様において、本開示の凍結組成物は、凍結培地、凍結剤、および有機ポリマーを含む。多くの態様において、細胞は凍結に先立ち容器に入れられ、ここで、該容器は該細胞の投与に有用な医療用デバイスの一部である。このような態様において、該容器は、該細胞の生存性および無菌性または該デバイスの機能に実質的に影響を及ぼすことなく、非常に低い温度および解凍に耐えるよう構成される。
【0014】
本開示は、解凍後に処置のために使用するのに適当な量の細胞を凍結および解凍するための組成物、デバイスおよび方法を提供する。本開示の処置用細胞は、解凍後に、生存率が50%~100%であり(すなわち、60~100%の細胞が成長および分裂する能力を有する)、無菌であり、直ちに投与することができる。多くの態様において、約50~100%の細胞が容器から回収され、患者に投与される。多くの態様において、本開示の方法は、閉鎖完全性の喪失率を20%未満、10%未満、5%未満またはそれ以下に実質的に低下するのに役立つ。驚くべきことに、出願人は、ポリマーのシリンジプランジャは、単独では、本開示の組成物の無菌性を保護するのに十分ではないことを見出した。これは、本開示の細胞の凍結および貯蔵のために開示されるような非常に低い温度では、該プランジャはガス交換を許し、それによりウイルス、真菌、細菌および他の微生物のような生物学的物質による汚染が起こりうるためである。
【0015】
多くの態様において、本開示の組成物、方法およびデバイスは、1つまたはそれ以上の指標となる遺伝子またはタンパク質の発現、例えば1つまたはそれ以上のサイトカイン、細胞周期マーカーまたは細胞外マトリックス成分の産生を測定することにより解析されうる、本開示の処置用細胞の効力を維持するのに役立つ。
【0016】
本開示はまた、組成物中の細胞の生存性、同一性および分散性を維持しながら、動物血清を伴うかまたは伴わずに細胞を高密度(例えば約1.0×106細胞/ml~5.0×108細胞/ml)で凍結するのに有用である。いくつかの態様において、細胞密度は、約100×103、0.5×106、1×106、1.5×106、2×106、3×106、4×106、5×106、6×106、10×106、20×106、30×106、40×106、50×106、100×106、200×106、300×106、400×106、500×106、600×106、または700×106よりも大きく、約750×106、700×106、600×106、500×106、400×106、300×106、200×106、100×106、50×106、40×106、30×106、20×106、10×106、6×106、5×106、4×106、3×106、2×106、1.5×106、1×106、0.5×106、または200×103よりも小さいものでありうる。
【0017】
多くの場合に、処置用細胞は、0.5×106細胞/ml~1.0×107細胞/mlの細胞密度で凍結しうる。いくつかの態様において、細胞混合物中の処置用細胞の密度は約1.0×106~9.0×106細胞/mlであり、例えば約1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、4.0、4.5、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0、7.5、8.0、および8.5×106細胞/mlよりも大きく、約9.0、8.5、8.0、7.5、7.0、6.5、6.0、5.5、5.0、4.5、4.0、3.5、3.4、3.3、3.2、3.1、3.0、2.9、2.8、2.7、2.6、2.5、2.4、2.3、2.2、2.1、2.0、1.9、1.8、1.7、1.6、1.5、1.4、1.3、1.2、および1.1×106細胞/mlよりも小さいものでありうる。
【0018】
細胞は、1回または複数回の用量の体積または量で凍結しうる。いくつかの態様において、用量は、約0.1ml~5.0ml、例えば、約0.1ml、0.2ml、0.3ml、0.4ml、0.5ml、0.6ml、0.7ml、0.8ml、0.9ml、1.0ml、1.1ml、1.2ml、1.3ml、1.4ml、1.5ml、1.6ml、1.7ml、1.8ml、1.9ml、2.0ml、2.1ml、2.2ml、2.3ml、2.4ml、2.5ml、2.6ml、2.7ml、2.8ml、2.9ml、3.0ml、3.1ml、3.2ml、3.3ml、3.4ml、3.5ml、3.6ml、3.7ml、3.8ml、3.9ml、4.0ml、または4.5ml/用量よりも大きく、約5.0ml、4.5ml、4.0ml、3.9ml、3.8ml、3.7ml、3.6ml、3.5ml、3.4ml、3.3ml、3.2ml、3.1ml、3.0ml、2.9ml、2.8ml、2.7ml、2.6ml、2.5ml、2.4ml、2.3ml、2.2ml、2.1ml、2.0ml、1.9ml、1.8ml、1.7ml、1.6ml、1.5ml、1.4ml、1.3ml、1.2ml、1.1ml、1.0ml、0.9ml、0.8ml、0.7ml、0.6ml、0.5ml、0.4ml、0.3ml、または0.2ml/用量よりも小さい体積でありうる。いくつかの態様において、1、2、3またはそれ以上の用量を1つのデバイス中で凍結しうる。
【0019】
細胞
本開示の組成物、デバイスおよび方法で使用する細胞は、哺乳動物細胞、処置用細胞、例えば処置用ヒト細胞を包含する。本開示の細胞は、さまざまな組織から得ることができ、または、さまざまな組織に投与することができる。多くの態様において、処置用細胞は、椎間板組織から得ることができ、椎間板に投与することができる。多くの態様において、さまざまな種類の細胞、例えば筋原細胞、筋細胞、軟骨細胞、上皮細胞、骨細胞、破骨細胞、前駆細胞、幹細胞等を、筋肉、肝臓、心臓、肺、膵臓、関節軟骨、腱、靭帯、椎間板、骨、胸腺、甲状腺もしくはリンパ節を包含するさまざまな組織から得、および/または該さまざまな組織に投与することができる。いくつかの態様において、本開示の細胞は、関節軟骨、心臓組織または骨から誘導されうる。
【0020】
本開示の組成物、デバイスおよび方法は、椎間板変性疾患、椎間板損傷、火傷、裂傷、心臓および筋肉の損傷、骨折(bone fractures/separations)等を包含するがそれに限定されない、さまざまな疾患および状態の処置に有用である。
【0021】
組成物
いくつかの態様において、処置用細胞は、凍結に先立ち、細胞培養培地から収集する。一態様において、遠心によって細胞を収集およびペレット化する。その後、ペレット化された細胞を本開示の凍結組成物中に再懸濁して、細胞混合物を形成しうる。多くの態様において、本開示の凍結組成物は、凍結培地、凍結剤、および有機ポリマーを含みうる。
【0022】
培地
凍結培地(または凍結保護培地)は、動物血清(例えばウシ胎児血清(FCSまたはFBS))および凍結保護剤(すなわち、水溶性が高く毒性の低い物質)を包含するがそれに限定されない、1つまたはそれ以上の添加剤を含みうる。凍結培地に加えられた凍結保護剤は、凍結および解凍プロセスの間の細胞の損傷を軽減または防止することによって、細胞の生存を促進することができる。
【0023】
本開示の方法で使用するための本発明の組成物を調製するのに、さまざまな市販の凍結培地を使用することができる。例えば、いくつかの態様において、動物血清を使用しない場合があり、そのような態様においては、動物血清含有培地の代わりに「ゼノフリー(xeno-free)」培地、例えばProfreeze、FreesIS、Cryostor等を使用することができる。さまざまな態様において、本開示の凍結培地は、1つまたはそれ以上のさらなる成分、例えばアルブミンのようなタンパク質をも含有しうる。一態様において、ヒト、哺乳動物、または合成の血清アルブミン(HSA)を凍結培地に含めることができる。多くの態様において、凍結培地の量は、凍結剤および有機ポリマーを含まない、残部のフラクションに相当しうる。いくつかの態様において、凍結培地の占める量は、約60%~約98.9%であり、例えば、約65%、70%、75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%よりも多く、約100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、8%、88%、87%、86%、85%、84%、83%、82%、81%、80%、75%、または70%よりも少ない。一態様において、凍結培地の量は約91.5%である。
【0024】
本開示の培地は、例えば下記のようなさらなる成分をも含有しうる:アミノ酸(例えば、グルタミン、アルギニンまたはアスパラギン)、ビタミン(B群のビタミン、例えばビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB3、ビタミンB6、ビタミンB7、ビタミンB9、またはビタミンB12の1つまたはそれ以上を包含するが、それに限定されない)、遷移金属(ニッケル、鉄(例えば、第二鉄または第一鉄)、または亜鉛を包含するが、それに限定されない)、および他の培地成分。本発明の培地にはまた、必要に応じて下記のものを補充しうる:ホルモンおよび/または他の成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または上皮増殖因子)、イオン(例えば、ナトリウム、塩化物、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸)、緩衝剤(例えば、HEPES)、ヌクレオシド(例えば、アデノシンおよびチミジン)、微量元素(通常マイクロモル範囲の終濃度で存在する無機化合物として定義される)、およびグルコースまたは同等のエネルギー源。いくつかの側面において、本発明の凍結培地は、植物または動物に由来するタンパク質を含む。いくつかの態様において、本発明の凍結培地は、植物または動物に由来するタンパク質を含まない。任意の他の必要な補充物をも、当業者に知られうる適当な濃度で含めることができる。
【0025】
凍結剤
凍結剤(または凍結保護剤)は、凍結保護剤とも称されうる。該剤は、凍結および解凍のプロセスの間、細胞が生存性を維持するのを助ける化学物質でありうる。凍結剤は一般に、細胞内に入って、細胞内浸透圧の低下および細胞内タンパク質の変性からの保護を促進する。細胞膜を通過しうる凍結剤の一例は、DMSO(ジメチルスルホキシド)である。DMSOは、細胞膜を通過することができるので、解凍後に細胞から出ることも可能である。他の凍結剤としては、グリセロール、アルギネート、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
【0026】
凍結剤の使用濃度は、約1%(体積または重量で)~約20%の範囲でありうる。多くの態様において、凍結剤の濃度は、例えばDMSOの場合、約7.5%でありうる。多くの態様において、DMSOの使用濃度は、処置用細胞で処置される患者へのDMSO投与量を最小限にするために、低くすることができる。
【0027】
ポリマー
凍結組成物には有機ポリマーを含ませる。本開示の有機ポリマーは、細胞を凍結中に保護し、また、解凍後に患者に投与する場合、該処置用細胞のためのマトリックスとして機能するのに有用である。多くの態様において、有機ポリマーは、グリコサミノグリカン、例えばヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、またはヒアルロナンである。多くの態様において、有機ポリマーの濃度は、混合物の約0.1重量%~10重量%である。好ましい態様において、有機ポリマーの濃度は約1.0%である。
【0028】
方法
本開示の細胞混合物は、非常に低い温度(すなわち約-100℃未満)に耐えるよう設計された適当な容器内に置くことができる。いくつかの態様において、凍結組成物は、処置用細胞と組み合わせる前から冷却しうる。多くの態様において、細胞は、長期の貯蔵に付す前に-20℃~-80℃で5~120分間凍結しうる。いくつかの態様において、長期の貯蔵のためには、組成物およびデバイスを、約-80℃または約-196℃で貯蔵しうる。例えば、本開示の方法は、細胞を開示のデバイス内で、約-20℃、-25℃、-30℃、-35℃、-40℃、-45℃、-50℃、-55℃、-60℃、-65℃、-70℃、-75℃または-80℃で、約5分、10分、15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、60分、75分、90分、105分、120分または180分よりも長く、約240分、180分、120分、105分、90分、75分、60分、45分、40分、35分、30分、25分、20分または15分よりも短い時間にわたり凍結することを含みうる。多くの場合、組成物の温度を、約0.1℃/分、0.2℃/分、0.3℃/分、0.4℃/分、0.5℃/分、1℃/分、2℃/分、3℃/分、4℃/分、5℃/分、6℃/分、7℃/分、8℃/分、9℃/分または10℃/分よりも大きく、約15℃/分、10℃/分、9℃/分、8℃/分、7℃/分、6℃/分、5℃/分、4℃/分、3℃/分、2℃/分、1℃/分、0.5℃/分、0.4℃/分、0.3℃/分、0.2℃/分または0.1℃/分よりも小さい速度で低下させうる。
【0029】
本開示の方法は、ワンステップ、マルチステップまたは勾配を付けた(ramped)凍結を伴いうる。多くの態様において、細胞を凍結後、約-135℃~約-196℃、例えば約-130℃、-135℃、-140℃、-145℃、-150℃、-155℃、-160℃、-165℃、-170℃、-171℃、-172℃、-173℃、-174℃、-175℃、-176℃、-177℃、-178℃、-179℃、-180℃、-181℃、-182℃、-183℃、-184℃、-185℃、-186℃、-187℃、-188℃、-189℃、-190℃、-191℃、-192℃、-193℃、-194℃、-195℃または-196℃よりも低く、約196℃、-197℃、-196℃、-195℃、-194℃、-193℃、-192℃、-191℃、-190℃、-189℃、-188℃、-187℃、-186℃、-185℃、-184℃、-183℃、-182℃、-181℃、-180℃、-179℃、-178℃、-177℃、-176℃、-175℃、-174℃、-173℃、-172℃、-171℃、-170℃、-165℃、-160℃、-155℃、-150℃、-145℃、-140℃および-135℃よりも高い温度でありうる液体窒素の蒸気相中で貯蔵しうる。
【0030】
本開示の細胞組成物は、長期間貯蔵しうる。いくつかの態様において、細胞は、約4週、6週、8週、10週、12週、16週、20週、24週、28週、32週、36週、40週、44週、48週、52週、1年、1.5年、2年、2.5年、3年、3.5年、4年またはそれ以上よりも長く、約5年、4.5年、4年、3.5年、3年、2.5年、2年、1.5年、1年、52週、48週、44週、40週、36週、32週、28週、24週、20週、16週、12週、10週、8週または6週よりも短い期間貯蔵しうる。多くの態様において、貯蔵された細胞の解凍後の生存率は、約90%よりも高く、例えば約100%、99%、98%、97%、96%、95%、94%、93%、92%、91%、90%、89%、88%、87%、86%、85%、80%および75%よりも低く、約75%、80%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%よりも高い。
【0031】
細胞、組成物およびデバイスは、さまざまな温度で輸送されうる。いくつかの態様において、凍結細胞は、液体窒素、蒸気相窒素を包含するさまざまな媒体に入れて輸送されうる。他のいくつかの態様において、本開示の方法は、-80℃~-196℃の温度での長期の貯蔵および輸送を含みうる。
【0032】
凍結に先立ち、細胞を凍結組成物中に再懸濁し、容器に入れるが、これは、混合物の無菌性、組成を維持し、混合物と容器との間に空隙または空間ができないようにする条件下に行う。いくつかの態様において、本発明のデバイスに予め組成物の一部を入れておき、該容器内の組成物に細胞を加えることができる。多くの態様において、該容器は、医療用デバイスの少なくとも一部、例えばシリンジバレルであるが、低温で細胞の生存性を維持するのに適当な任意の容器であってもよい。多くの態様において、該容器は、処置用細胞を患者に直接に投与または適用するのに役立ちうる。いくつかの態様において、該容器は、移植可能および/または生分解性でありうる。いくつかの態様において、後に詳述するように、本発明の医療用デバイスは、組成物とデバイス周囲の窒素蒸気または他のガスとの間のガス交換を阻止するようにキャップまたはシールを施すことができる容器、例えばシリンジバレルでありうる。
【0033】
本開示の方法は、細胞温度を低下する速度を高めるのに有用でありうる。温度低下速度を高めることは、損傷をもたらす凍結の作用側面(例えば脱水)を回避して細胞の生存性を維持するのに役立ちうる。本開示によると、解凍速度もまた、従来の方法よりも高めることができる。多くの態様において、解凍は、容器を室温または周囲温度(例えば約20℃~約25℃)に置き、細胞混合物を液体形態に至らしめることによって行いうる。他のいくつかの態様において、解凍は、氷上で、または加温デバイスを使用して行いうる。いくつかの態様において、細胞混合物を、約2時間、110分、100分、95分、90分、85分、80分、75分、70分、65分、60分、55分、50分、45分、40分、35分、30分、25分または20分よりも短く、約15分、20分、25分、30分、35分、40分、45分、50分、55分、60分、65分、70分、75分、80分、85分、90分、95分、100分、105分、110分または115分よりも長い時間で、液体形態に、すなわち約0℃を上回る温度に至らしめうる。いくつかの態様において、細胞混合物は、細胞混合物が体温(すなわち約37℃)に達する前に、すなわち約37℃、36℃、35℃、34℃、33℃、32℃、31℃、30℃、29℃、28℃、27℃、26℃、25℃または20℃よりも低く、約15℃、20℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃または36℃よりも高い温度で、患者に投与される。
【0034】
医療用デバイス
細胞を、凍結に先立ち、医療用デバイスまたは容器に入れることができる。いくつかの態様において、医療用デバイスは、シリンジのバレルまたは管腔であり得、1つまたはそれ以上のシール、プランジャ、キャップ、または、ガス交換および/またはシリンジ周囲の物質もしくは生物体による汚染に対する他の適当なバリアで、組成物をバレル内に封入しうる。本開示の細胞をシリンジデバイス内で凍結保存し、貯蔵し、該デバイスから送り出すことは、本開示の細胞の製造、輸送および適用にかかる費用を抑えるのに役立ちうる。例えば、バイアルを使用する場合には、細胞を適用のためにシリンジに移す必要があるので、より時間がかかり、費用も嵩みうる。シリンジの使用はまた、本開示の細胞が2つ以上の針を通過する必要を無くすこともでき、したがって、効力に影響を及ぼしうる剪断力のような力への暴露を少なくすることができる。さらに、本開示の細胞を貯蔵容器からアプリケータに移すならば、元の容器に残るサンプルの損失が生じうる。
図1に、シリンジである本発明の容器デバイスの一態様を示す。
【0035】
図1において、開示されるデバイス100は、シリンジバレル200、プランジャロッド300、プランジャ400、およびニードル端キャップ500を含みうる。任意に使用しうるバレルキャップ600も示す。多くの態様において、シリンジはプランジャロッドを含まなくてもよい。バレルは、バレルフランジ215、およびバレル管腔225への開口を規定するバレルオリフィス220を含む、第1のプランジャ端210、および第2のニードル端230を有しうる。バレルオリフィスは直径d
1を有し、管腔は直径D
Lを有する。バレルフランジ端は、バレルの外径よりも大きい直径を有する、バレルオリフィスを取り巻く実質的に平らな面を規定しうる。ニードル端またはその近くにニードルハブ240があってよく、これは、キャップまたはルアーを受ける複数の隆起したリッジ243を含む内表面242によって規定されるニードルハブ管腔241を規定しうる。ニードルハブ管腔の中心に、ニードル(図示せず)または場合によりニードル端キャップ500を受けるチップ245が配置されうる。該チップは、バレル管腔と流体連通する第1の入り口のオリフィス251、およびバレル管腔内の組成物をニードル(図示せず)へと移行させるのに役立ちうる第2の出口のオリフィス252を有する管腔250を規定する。該第2の出口のオリフィスは、細胞組成物がチップ管腔内をシリンジニードル(図示せず)へと通過する際の剪断力を最小にするよう選択されうる直径d
2を有する。さまざまな態様において、チップ管腔はd
2に等しい一定の直径を有するか、または、第1の入口のオリフィスがd
1よりも小さいがd
2よりも大きい直径を規定して、変化する直径を有しうる。チップ管腔は、約1.0~10.0mmでありうるバレル管腔の内径D
Lよりも小さい内径を有する。多くの態様において、バレル管腔は約6.0、6.1、6.2、6.3または6.4mmの内径を有し、チップ管腔は、約0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、1.5mm、1.6mm、1.7mm、1.8mm、1.9mm、2.0mm、2.1mm、2.2mm、2.3mmまたは2.4mmよりも大きく、約2.5mm、2.4mm、2.3mm、2.2mm、2.1mm、2.0mm、1.9mm、1.8mm、1.7mm、1.6mm、1.5mm、1.4mm、1.3mm、1.2mm、1.1mm、0.9mm、0.8mm、0.7mmまたは0.6mmよりも小さい内径を有しうる。チップはまた、例えば約0.1mm、0.2mm、0.3mm、0.4mm、0.5mm、0.6mm、0.7mm、0.8mm、0.9mm、1.0mm、1.1mm、1.2mm、1.3mm、1.4mm、1.5mm、1.6mm、1.7mm、1.8mm、1.9mm、2.0mm、2.1mm、2.2mm、2.3mmまたは2.4mmよりも小さいかまたは大きい、ニードルハブ管腔の長さL
2よりも大きいかまたは小さい、長さL
1を規定しうる。したがって、チップはニードルハブ管腔から突出しうるか(長さがニードルハブ管腔よりも長い場合)、または窪んで位置しうる(長さがニードルハブ管腔よりも短い場合)。開示のシリンジのいくつかの態様は、ニードル端キャップまたはニードルを含み、他のいくつかの態様はそれを含まない。ニードル端キャップ500は、チップを確実に封止し、ガス交換、細胞組成物のバレル管腔からの漏出、および/またはバレル内へのガス、微生物もしくは他の異物の侵入を阻止するように構成されうる。
図1に示す態様において、ニードル端キャップは、ニードルハブ管腔の内表面上の相補的構造に嵌合する複数のコネクタリッジ515を規定する外表面510を有しうる。
図1に示す態様において、ニードル端キャップはさらに、バレル上のチップを受ける内部チップ管腔520を規定する。
【0036】
プランジャロッドは、さまざまな方法でプランジャに連結されうる。例えば
図1に示すような一態様においては、プランジャロッドは、一方の端にプランジャコネクタ310、反対側の端にプランジャヘッド320を含みうる。該プランジャコネクタは、プランジャに固定的に連結するように構成されうる。
図1に示す態様において、プランジャコネクタは、複数のねじタイン(screw tine)315を有するねじ315を規定する。プランジャは、プランジャロッド上のプランジャコネクタと固定的に連結するためのプランジャ受容部構造415を規定しうる。
図1に示す態様は、プランジャロッドのプランジャコネクタねじを受ける管腔として構成されたプランジャ受容部を有する。プランジャは、バレルの内腔と接触するよう構成された外表面420を有しうる。
図1の態様において、プランジャは、外表面上に複数のリッジ425を含む。
【0037】
出願人は驚くべきことに、ポリマーは、シリンジを約-80℃未満の温度で貯蔵する場合に、シリンジのバレル内の気密封止を維持できないことを見出した。多くの場合に、ポリマープランジャのこの不具合は、プランジャからプランジャロッドが外されていることによって影響されない。すなわち、プランジャがプランジャロッドに固定的に連結された適用においても、不完全な封止が示される。出願人はまた、驚くべきことに、バレルのフランジオリフィスにおけるか、またはその近くでのポリマーキャップの使用が、ガス交換および/または汚染の阻止に役立ちうることを示した。後段の実施例2に示すように、ガス交換/漏出入は、バレル中に追加のプランジャを配置しても阻止されない。それよりもむしろ、バレルのフランジ端を封止することによって、不具合発生率を顕著に低下することができる。シリンジのフランジ端を封止する他の方法として、バレルのフランジ端におけるかまたはその近くに、他の適当なポリマーおよび非ポリマーシールを配置することが挙げられる。一態様において、ポリマーキャップとフランジの平らな面との間に、封止を促進するように接着剤を配置することができ、他のいくつかの態様においては、当業者に知られる他の方法を用いて、キャップを該平らな面に対して封止することができる。
【0038】
図2に、閉鎖完全性を維持し、液体、気体、微生物または他の物質による組成物の汚染を低減するよう構成された、本開示のデバイスの一態様を示す。この態様において、バレルオリフィスは、バレル端オリフィスにおいて、少なくとも部分的に、バレルキャップ600の配置により封止される。いくつかの態様において、該キャップは、ガス交換および/またはバレル管腔への汚染物侵入を阻止するように、1つまたはそれ以上の構造または方法によって適所に保持されうる。バレルキャップは、バレル管腔の汚染を阻止するようにバレルフランジおよび/またはバレルオリフィスに対する封止をもたらしうる任意の化合物または要素で製造されうる。いくつかの態様において、追加の構造、例えばリッジ(例えばニードル端キャップに設けられるような)、ポリマー接着剤、金属封止材等により、バレルキャップの固定を補助しうる。
【0039】
本開示のプランジャ、ニードル端キャップおよびバレルキャップは、使用に適当なさまざまなポリマーおよび非ポリマー材料から製造されうる。いくつかの態様において、該構造物は、シリコーン、ポリプロピレン、ブチルゴム、天然ゴムまたは他の適当な材料から製造されうる。多くの態様において、バレル管腔、プランジャ、ニードル端キャップ、および/またはバレルキャップは、コーティング、層、または物質の適用をさらに含み得、これは封止および摩擦軽減に役立ちうる。いくつかの態様において、例えば、コーティングは、シリコーン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、または当分野でよく知られる医療適用のための他の適当な材料でありうる。
【0040】
本開示の医療用デバイスは、処置用細胞を凍結、貯蔵、解凍および投与するのに役立つ。多くの態様において、本開示のデバイスは、第1の開口端および第2の開口端を有するボディ、ならびに該開口の間に位置して該開口を流体連通的につなぐ管腔を含む。第1の開口端は、封止キャップまたはアプリケータ、例えばニードルを着脱可能に取り付けおよび取り外すよう構成されたチップを規定しうる。該チップは、前記管腔と流体連通する内部、および外部を規定しうる。チップの外部は、ニードルの固定に役立つよう設計された1つまたはそれ以上の構造、例えばルアーロックを含みうる。他のいくつかの態様においては、該キャップおよびニードルは、圧入されうる。
【0041】
第2の開口端は、凍結組成物中の本開示の処置用細胞を、それが管腔内に配置されうるように受け入れるよう構成された開口を規定しうる。第2の開口はさらに、キャップ、プランジャ、プラグ、または第2の開口の壁内に適合して可動式に封止するよう設計された他の構造を受けるよう構成されうる。第2の開口の壁は、管腔の壁に続きうる。該キャップ、プランジャ、プラグまたは他の構造は、該キャップ、プランジャ、プラグまたは他の構造に力を掛けるのに役立ちうるロッド部分に連結(いくつかの態様においては着脱可能に連結)されるように設計されてよく、それによって、該キャップ、プランジャ、プラグまたは他の構造を管腔壁に対して移動させうる。
【0042】
本開示のデバイスは、非常に低い温度で凍結組成物の1つまたはそれ以上の成分と接触して貯蔵された後に機能を維持するよう設計される。例えば、本開示のキャップ、プランジャ、プラグまたは他の構造は、第2の開口端および/または管腔の壁と共に、管腔内に配置される処置用細胞の汚染防止に役立つよう、凍結、貯蔵および解凍中に流体封止を実質的に維持しうる。
【0043】
第2の開口端および管腔の壁は、それに対するキャップ、プランジャ、プラグまたは他の構造の滑らかな移動を、流体封止を実質的に維持しながら可能にするよう設計される。いくつかの態様において、管腔は壁上に、デバイスと凍結組成物との間の化学的相互作用を防止しうるコーティングを含みうる。他のいくつかの態様において、管腔壁の組成は、化学的相互作用を防ぐのに十分でありうる。化学的相互作用とは、細胞および/または凍結組成物の処置効果に減弱または変化を生じうる、デバイスの組成または凍結組成物のいずれかの変化をもたらしうる反応を指しうる。
【0044】
本開示のデバイスは、さまざまな材料から製造されうる。いくつかの態様において、本開示のデバイスの製造に使用される材料は、凍結および解凍時の過大な膨張、収縮、破損、ひび割れ、破砕等に対し抵抗性である。一態様において、本開示のデバイスは、ガラス代替ポリマー、例えば環状オレフィンポリマー(例えばクリスタル・ゼニス(crystal zenith))、またはシクロオレフィンポリマーおよびコポリマーを含みうる。多くの態様において、本開示のデバイスは、処置用細胞および凍結組成物をモニターすることができるように、1つまたはそれ以上の透明な材料を含みうる。
【0045】
管腔壁は、調節された、また急速な凍結および解凍を可能にするように、十分な薄さを有する。多くの態様において、デバイスの管腔の材質は、処置用細胞の急速な凍結および解凍を可能にするように効果的に熱を伝導しうるものでありうる。
【0046】
キャップ、プラグ、プランジャまたは他の材料は、少なくとも部分的に、凍結および解凍時の膨張、収縮、ひび割れ、破砕等に抵抗するポリマー化合物で製造されうる。いくつかの態様において、該ポリマー化合物は、1つまたはそれ以上の有機ポリマー、例えばイソプレンまたはラテックスを含む。いくつかの態様において、キャップ、プラグ、プランジャまたは他の材料に、管腔壁に対する封止の維持を促進するために潤滑剤またはコーティングを適用しうる。
【0047】
定義
「培地」および「細胞培養培地」とは、培養において、およびin situで(例えば、そのような細胞を必要とする患者への投与後に)、真核生物細胞の生存性を維持するための溶液を指す。本開示の培地は、細胞の成長に利用される栄養源(例えば、血清、血清代替物、グルコース、ガラクトース等の1つまたはそれ以上)、および1つまたはそれ以上のさらなる成分(例えば、ホルモン、ペプチド、ビタミン、必須アミノ酸、非必須アミノ酸、ミネラル、塩、緩衝剤等)を含む。
【0048】
「凍結培地」とは、凍結時および凍結後の真核生物細胞の生存性を維持するために有用な、1つまたはそれ以上のさらなる成分、例えば凍結保護剤を含む培地を指しうる。
【0049】
本発明の態様をさらに記載する:
[項1]
凍結培地;
凍結剤;および
有機ポリマー
を含む、処置用哺乳動物細胞の生存性を維持するための医薬組成物。
[項2]
凍結剤がジメチルスルホキシドを含む、上記項1に記載の医薬組成物。
[項3]
凍結培地が動物血清を含まない、上記項1または2に記載の医薬組成物。
[項4]
ポリマーがヒアルロン酸である、上記項1~3のいずれかに記載の医薬組成物。
[項5]
細胞が、椎間板組織、皮膚、筋肉、腸、骨髄、神経、肝臓、心臓、肺、膵臓、関節軟骨、骨、胸腺、甲状腺またはリンパ組織から誘導される、上記項1~4のいずれかに記載の医薬組成物。
[項6]
細胞が、椎間板組織、関節軟骨、心臓組織または骨から誘導される、上記項1~5のいずれかに記載の医薬組成物。
[項7]
下記を含む、処置用細胞混合物を凍結および解凍するためのデバイス:
容器であって、
第1の直径を有する第1の開口端、
前記第1の直径よりも小さい第2の直径を有する第2の開口端、
前記第1の直径と同様の管腔直径を有し、前記第1および第2の開口端と流体連通する、管腔壁を含む管腔
を含み、該容器が、約-130℃未満で凍結される、および解凍される際に構造の完全性を維持する1つまたはそれ以上の生体適合性材料で製造されている容器;
前記管腔内に嵌め込まれて管腔壁との封止接触をもたらすよう構成されている第1のポリマシール;
前記第1の開口端を封止するように設計された第1のポリマーキャップ;および
前記第2の開口端を封止するように設計された第2のポリマーキャップ。
[項8]
前記容器がシリンジバレルを規定し、前記第1のポリマーシールがピストンまたはプランジャである、上記項7に記載の容器。
[項9]
前記容器が透明なポリマーで製造されている、上記項7または8に記載の容器。
[項10]
前記容器が環状オレフィンポリマーで製造されている、上記項7~9のいずれかに記載の容器。
[項11]
前記第2の開口端が、前記第2のポリマーキャップが取り外されたときに、適合する構造のシリンジニードルを受けることができるルアーロックを規定する、上記項7~10のいずれかに記載の容器。
[項12]
下記を含む、処置用哺乳動物細胞を凍結する方法:
複数の処置用細胞と組成物とを組み合わせて混合物を形成すること;
前記混合物を、第1の開口および第2の開口を有する医療用デバイスの容器に入れること;
第1のポリマーシールを前記混合物に接触して配置すること;
前記第1の開口に第1のポリマーキャップを、前記第2の開口に第2のポリマーキャップを配置して、気密封止を形成すること;
前記混合物の温度を-80℃またはそれ以下に低下すること;
前記混合物を-80℃未満の温度に少なくとも30日間維持すること;ここで、30日後に前記細胞の少なくとも約50%が細胞培養において成長し少なくとも1回分裂する。
[項13]
前記混合物が、液体窒素の蒸気相中に、約-130℃未満で、または前記30日間の少なくとも一部において維持される、上記項12に記載の方法。
[項14]
30日後に前記細胞の少なくとも約90%が成長し少なくとも1回分裂する、上記項12または13に記載の方法。
[項15]
前記細胞を維持した後、前記混合物を約20~40℃の温度の液体形態に解凍する、上記項12~14のいずれかに記載の方法。
[項16]
前記処置用細胞がヒト椎間板組織から誘導される、上記項12~15のいずれかに記載の方法。
[項17]
前記容器が、
第1の直径を有する第1の開口端、
第2の直径を有する第2の開口端、
前記第1および第2の開口端と流体連通する、管腔壁を含む管腔
を含み、該容器が、約-130℃未満で凍結される、および解凍される際に構造の完全性を維持する1つまたはそれ以上の生体適合性材料で製造されている、上記項12~16のいずれかに記載の方法。
[項18]
前記デバイスが、該デバイスが-80℃未満の温度で貯蔵される際に少なくとも窒素ガスの交換を阻止する、上記項12~17のいずれかに記載の方法。
[項19]
前記細胞が、椎間板組織、皮膚、筋肉、腸、骨髄、神経、肝臓、心臓、肺、膵臓、関節軟骨、骨、胸腺、甲状腺またはリンパ組織から誘導される、上記項12~18のいずれかに記載の方法。
[項20]
前記細胞が、椎間板組織、関節軟骨、心臓組織または骨から誘導される、上記項12~19のいずれかに記載の医薬組成物。
複数の態様を開示したが、さらに別の本発明の態様が、以下の詳細な説明から当業者に明らかになるであろう。明らかなように、本発明は、本発明の本質および範囲から外れることなく、さまざまな明らかな側面において変更が可能である。したがって、詳細な説明は例示に過ぎず、限定のためのものではないと解釈すべきである。
【0050】
本書に開示される参照物はいずれも、特許文献のものであれ非特許文献のものであれ、引用によりその全体が、引用箇所で掲載されるかのように本書の一部とされる。参照物と明細書との間に矛盾がある場合は、定義を含めて本明細書の方が優先される。
【0051】
本開示はある程度の特定性を以て記載されているが、本開示は例としてなされているものであり、特許請求の範囲に規定される本開示の本質から外れることなく細部または構造において変化を加えうることが理解される。
【実施例1】
【0052】
凍結組成物中における回収および生存性
さまざまな培地中での細胞の回収および生存性を比較した。上記開示の容器デバイス中で、細胞を凍結し、液体窒素の気相中で1箇月間貯蔵した。本実験に用いた容器はシリンジシステムであった。本開示のシリンジシステム中で貯蔵することにより、細胞混合物を、解凍後、最小限の操作で対象に直接投与することができる。
【0053】
図3の棒グラフに示されるように、試験した凍結組成物のいずれによっても、良好な回収率および生存性が達成された。
【実施例2】
【0054】
閉鎖の完全性
驚くべきことに、初期の試験において、シリンジ中のサンプルを非常に低い温度、例えば液体窒素の蒸気における温度で凍結すること、および解凍することにより、サンプル中の酸素が失われることがわかった。このことは、ポリマーのプランジャおよび/またはチップキャップが、凍結、貯蔵および解凍時の封止を維持するために十分でないことを示していた。この不具合は、プランジャロッドが適所にあるとき、およびそれが取り外されているときのいずれにおいても見られた。
【0055】
この不具合の原因を調べるために、さまざまなシリンジおよびクロージャを用いて一連の構成を試験した。本試験の目的は、非常に低い温度で貯蔵した複数のシリンジ構成において、シリンジのヘッドスペースの酸素濃度[%]およびその全圧[torr]を非破壊分析することにより、容器閉鎖完全性(CCI)を評価することであった。本試験用に、8つの異なるシリンジ構成を示す複数のシリンジを調製した。該シリンジにサンプルを充填し、非常に低温の貯蔵庫内で約4.5日間貯蔵した。この条件において、容器閉鎖完全性が破られると、シリンジヘッドスペース中の酸素濃度低下が起こりうる。この酸素濃度低下は、窒素に富む貯蔵環境とシリンジ内の組成物との間のガス漏出入および交換の結果であると考えられる。
【0056】
対照として、各構成につき1個のシリンジを、窒素パージした気密庫内で、室温で貯蔵した。この陰性対照サンプルは、ガス交換/漏出入に対する非常に低い貯蔵温度の効果を調べるためにデザインしたものである。
【0057】
ヘッドスペース酸素濃度の測定は、波長可変半導体レーザ吸収分光法(tunable diode laser absorption spectroscopy(TDLAS))を用いて行った。
【0058】
サンプルセット
異なる構成の閉鎖完全性を試験するために、さまざまなシリンジ、プランジャおよびストッパを組み合わせた(
図4および表1)。下記の表1に記載されるサンプルフォーマットについて、7つの複製サンプルを調製した。
【0059】
各複製物において、各シリンジのヘッドスペースの酸素濃度および全圧を、貯蔵前と貯蔵後に測定した。
【0060】
【0061】
方法および材料
サンプル調製および操作
本試験において、試験組成物としてPBSを使用した。PBS(Gibco; Cat#: 20012-027; pH7.2)を各シリンジに入れるのに、Gilson P1000 Pipetmanを用いた。シリンジバレルの内表面上に液滴を形成しないよう注意した。所定のプランジャをシリンジに挿入するのに、Dabricoのベント型配置ツール(vented placement tool)(Dabrico; Cat#: MS-25)を用いた。
【0062】
いくつかのサンプルフォーマットにおいては、081ストッパおよび420ストッパの挿入によって追加のバリアを設けた。具体的には、これらストッパをサンプルフォーマット2および7のシリンジにそれぞれ手動で挿入した。
【0063】
サンプル番号1~5は、各サンプルフォーマットの試験群を表した。サンプル番号6は、所定の欠陥を設けた陽性対照を表した。このサンプル番号6複製物の欠陥は、シリンジのプランジャ(およびストッパがある場合にはストッパ)を通してシリンジニードルを差し込むことによって設けた。具体的には、サンプルフォーマット7以外のすべてのサンプルフォーマットには23ゲージ×1インチのニードルを使用し、サンプルフォーマット7には18ゲージ×1.5インチのニードルを使用した(プランジャおよびストッパの両方を貫通するのに必要)。各サンプルフォーマットのサンプル番号7は、上述の、窒素環境中で室温で貯蔵する陰性対照を表した。
【0064】
ヘッドスペース酸素濃度および全圧の両方の初期値(T0)を、サンプルフォーマットを調製した日に測定した。2日目に、各サンプルフォーマットのサンプル番号1~6を、-20℃の冷凍庫内に3時間置いた後、-80℃の冷凍庫に移した。サンプル番号1~6を-80℃で約4時間置いた後、Cryoport Express(登録商標)High Volume Dry Vapor Shipper内に貯蔵した(過剰の液体窒素は全部除去した)。該ドライベーパーシッパーの温度をApollo IVデジタル温度計(UEi; Cat#: DT304)を用いてモニターして、約4.5日間の凍結貯蔵期間にわたり、-177℃(96K)で一定に保った。サンプル番号7は、純粋な窒素でパージした気密庫内に貯蔵し、周囲室温(約23℃)に約4.5日間保った。
【0065】
約4.5日間の貯蔵の後、サンプル番号1~6を凍結貯蔵から取り出した。サンプルを直ちに別の窒素パージした気密庫に入れ、周囲室温(約23℃)で約2時間置くことにより、解凍させ室温と平衡化させた。
【0066】
T1の時点でのヘッドスペース酸素濃度および全圧の両方を、すべてのフォーマットのすべてのシリンジにおいて測定した。各サンプルにおいて5回の測定を行った。T0からT1の間のヘッドスペース酸素濃度の変化を示すグラフを
図4に示す。
【0067】
ヘッドスペース酸素の測定
各複製物におけるヘッドスペース酸素の測定に、周波数変調波長可変半導体レーザ吸収分光装置(Lighthouse)を使用した。TDLASと称されるこの方法は、封止された容器内のヘッドスペースのガス分析を非侵襲的かつ短時間で提供し、特定のガスの数密度とヘッドスペース全圧との両方を与える。
【0068】
サンプルの分析に先立ち、装置のパフォーマンスを検証するために、酸素濃度のわかっている6つの酸素標準をそれぞれ5回ずつ連続して測定した。測定誤差の絶対値(わかっている値と測定された値との差)、および測定精度(各標準についての複数の測定の標準偏差)に基づいて、本試験に関してのヘッドスペース酸素濃度測定の不確かさは、±0.8% atmとして確立された。
【0069】
ヘッドスペース圧の測定
ヘッドスペース圧の測定を、標準的な測定手順にしたがってFMS-Moisture/Pressure Headspace Analyzer(Lighthouse)を用いて行った。手短に述べると、装置をオンにし、少なくとも1標準L/分の窒素パージ下に少なくとも30分間ウォームアップさせてから測定セッションに付した。わかっている圧力/湿度標準を用いて校正を行った。
【0070】
サンプル分析の前に、装置のパフォーマンスを検証するために、全圧のわかっている圧標準(ある1つのフォーマットに対して10の標準、別のフォーマットに対して8の標準)をそれぞれ5回連続して測定した。測定誤差の絶対値(わかっている値と測定された値との差)、および測定精度(各標準についての複数の測定の標準偏差)に基づいて、本試験に関してのヘッドスペース全圧測定の不確かさは、測定値の±6 torrおよび±7%の大きい方として確立された。
【0071】
結果
非破壊ヘッドスペース酸素測定の結果をまとめて
図4に示す。9つの異なるサンプルフォーマットの各シリンジについて、T0とT1の時点間のヘッドスペース酸素濃度の変化を示す。赤色の横線は、シリンジの容器閉鎖完全性欠如の判断基準として用いた3.0%の酸素減少を示す(下記の考察の項を参照されたい)。本試験に使用した標準についてのヘッドスペース酸素濃度測定の不確かさは、該酸素標準のパフォーマンスに基づき、±0.8% atmとして確立された。各シリンジサンプルについて測定された各ヘッドスペースパラメータの結果をまとめて表3に示す。サンプルフォーマットについてのヘッドスペース全圧測定の不確かさは、Lighthouseの圧標準のパフォーマンスに基づいて、測定値から約6 torrまたは測定値の約7%の大きい方として確立された。
【0072】
【0073】
考察および結論
ヘッドスペース酸素濃度および全圧は、9つの構成(表1)それぞれのすべてのシリンジについて首尾よく測定された。本試験のヘッドスペース酸素濃度測定の不確かさは、酸素標準に基づいて±0.8% atmとして確立された。対応する全圧に関する測定の不確かさは、圧標準のパフォーマンスに基づき、測定値の±6torrおよび±7%の大きい方として確立された。シリンジは液体の水を含んだので、ヘッドスペースは水蒸気で飽和され、したがって記載されるシリンジ構成において得られうる最大のFMSシグナルを与えた。
【0074】
測定結果をまとめて表3に示す。低温貯蔵後のヘッドスペース酸素濃度[%]および全圧[torr]の変化も該表に示す。前記条件において、ある特定のシリンジにおいて容器閉鎖完全性が破られた場合、そのヘッドスペース内の酸素濃度低下が、3つの可能なプロセスによって起こりうる。低下を起こすプロセスの1つ目は、温度が低下した際、非常に低温の貯蔵庫内のシリンジ周囲の窒素蒸気が破損部(欠陥部)からシリンジ内に漏入し得、それによりヘッドスペース中の総酸素が希釈されるので酸素濃度が低下しうる、というものである。2つ目は、シリンジが約177℃の貯蔵温度で熱平衡に達してから、酸素分子がシリンジヘッドスペースから非常に低温の貯蔵庫の窒素環境へと漏出しうるように拡散が起こりうる、というものである。3つ目は、シリンジが非常に低温での貯蔵から取り出されたとき、漏れが起こっていたシリンジにおいては温度上昇によってヘッドスペース内に過剰な圧力が生じ得、この過剰圧力が、残存する酸素を含むシリンジヘッドスペースガスを押し出す傾向を示しうる、というものである。容器閉鎖完全性の破損が温度上昇の際に再封止された場合には、ヘッドスペースの過剰な圧力は維持されうることに注意すべきである。表3の「プランジャ不具合」欄は、シリンジヘッドスペースの過剰な圧力の存在がシリンジプランジャを押し戻した場合を示す。
【0075】
陰性対照(サンプル番号7)において測定された酸素量変化に基づき、ヘッドスペース酸素濃度の3.0%を上回る低下を、容器閉鎖不全を示す基準とした。さらに、シリンジの温度上昇によりプランジャが押し戻された(「プランジャ不具合」)シリンジについては、容器閉鎖不全とも見なした。最後に、100torrを上回るヘッドスペース圧力上昇を、CCI喪失が起こったことのさらなる判断基準として規定した。
【0076】
図4および表3に示される個々のシリンジについての結果は、低温貯蔵された45のシリンジサンプルのうち29が、容器閉鎖性を失ったことを示している。予想通り、陽性対照(サンプル番号6)も8つすべてがその基準を満たさなかった。
【0077】
サンプルフォーマット1、4、5および8については5つの複製物すべてが、サンプルフォーマット3については5つの試験シリンジのうちの4つが、CCIを失った。これら各フォーマットは、シリンジのバレルの封止のためにプランジャのみを用いていた。興味深いことに、サンプルフォーマット8は2個のプランジャを含んでいた。バレル端にストッパを含んだサンプルフォーマット7が、CCI喪失の阻止に最も効果的であった。