(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】ミリ波吸収体および積層体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20240909BHJP
H01Q 17/00 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
H05K9/00 M
H05K9/00 W
H01Q17/00
(21)【出願番号】P 2022073385
(22)【出願日】2022-04-27
【審査請求日】2023-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】森 智史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
【審査官】黒田 久美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-200534(JP,A)
【文献】特開2004-116100(JP,A)
【文献】特開2004-296758(JP,A)
【文献】特開2018-073897(JP,A)
【文献】特開2005-327930(JP,A)
【文献】特開2004-059832(JP,A)
【文献】特開2009-278137(JP,A)
【文献】特開2007-150115(JP,A)
【文献】特開2018-056315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
H01Q 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミリ波帯域の電磁波を吸収するミリ波吸収体であって、
カーボンブラックと、α-アルミナと、シリコーン樹脂と、を備え
、
前記カーボンブラックの含有率が35~50wt%であり、
ヤング率が2MPa以下であり、かつ、室温での伸び率が100%以上であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
【請求項2】
請求項1に記載のミリ波吸収体であって、
前記α-アルミナの含有率が10~70wt%であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
【請求項3】
請求項1に記載のミリ波吸収体であって、
前記シリコーン樹脂の含有率が10wt%以上であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
【請求項4】
請求項1に記載のミリ波吸収体であって、
絶縁破壊強さが100V/mm以上であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
【請求項5】
請求項1に記載のミリ波吸収体であって、
20~100GHzの電磁波に対して、10dB以上の反射減衰量を示すことを特徴とする
ミリ波吸収体。
【請求項6】
積層体であって、
シート状に形成された請求項1から
5までのいずれか一項に記載のミリ波吸収体と、
前記ミリ波吸収体の一方の面に接して設けられ、前記
ミリ波吸収体を透過した電磁波を反射する反射層と、
を備えることを特徴とする積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ミリ波帯域の電磁波を吸収するミリ波吸収体、および、ミリ波吸収体を備える積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多くの電子機器に情報通信機能等が搭載されて、電磁波を送受信する機器が増加している。また、機器間でやり取りされる情報量の増加に伴い、使用される電磁波の周波数帯は徐々に高周波帯へシフトして、いわゆる「ミリ波」と呼ばれる周波数帯域の使用が進んでいる。このような機器の普及により、機器から放出等された電磁波の影響を抑えるために、電磁波を吸収する電磁波吸収体が用いられている。
【0003】
電磁波吸収体としては、金属板や焼結フェライトセラミックス等の他、磁性体等と樹脂とを混合した電磁波吸収体が知られている。樹脂を含む組成物により電磁波吸収体を形成する場合には、電磁波吸収体の形状の自由度を高めて軽量化することが容易になる。例えば、特許文献1には、ミリ波帯域以上の周波数帯域で磁気共鳴する電磁波吸収材料である磁性酸化鉄と、ゴム製バインダーとを含む電磁波吸収層を有する電磁波吸収シートが開示されている。また、特許文献2には、繊維状導電性カーボンとカルボニル鉄とが樹脂に含まれた電磁波干渉抑制シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-127039号公報
【文献】特開2007-288006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の電磁波吸収シートでは、電磁波吸収材料として磁性酸化鉄を用いており、酸化鉄は、密度が5g/cm3を超える比較的重い材料であるため、電磁波吸収性能を高めつつ、電磁波吸収体を軽量化することが困難となる場合があった。また、特許文献2に記載の電磁波干渉抑制シートのように、繊維状の材料を樹脂に混合してシートを作製すると、樹脂シートの柔軟性が低下し易く、繊維状材料の樹脂シート中における混合量を増加させることが困難になる場合があった。また、繊維状の材料は一般的に、樹脂中での均一分散が比較的困難であるため、樹脂シートにおける電磁波吸収性能が不均一になる可能性があった。このように、電磁波吸収体(ミリ波吸収体)においては、高い電磁波吸収性能に加えて、軽量化や柔軟性、あるいは、電磁波の吸収に伴い発生する熱を放熱するための熱伝導性や、配線近傍での設置を可能にするための絶縁性の確保などを含めた、さらなる性能向上が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、ミリ波帯域の電磁波を吸収するミリ波吸収体が提供される。このミリ波吸収体は、カーボンブラックと、α-アルミナと、シリコーン樹脂と、を備える。
この形態のミリ波吸収体によれば、ミリ波吸収体を比較的軽量にしつつ、高い電磁波吸収能と高い絶縁破壊強さと良好な熱伝導性とを実現することができる。
(2)上記形態のミリ波吸収体において、前記カーボンブラックの含有率が10~50wt%であることとしてもよい。このような構成とすれば、ミリ波吸収体の電磁波吸収能を確保することが容易になる。
(3)上記形態のミリ波吸収体において、前記α-アルミナの含有率が10~70wt%であることとしてもよい。このような構成とすれば、ミリ波吸収体の絶縁破壊強さおよび熱伝導率を確保することが容易になる。
(4)上記形態のミリ波吸収体において、前記シリコーン樹脂の含有率が10wt%以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、ミリ波吸収体のヤング率を抑えると共に伸び率を大きくすることが容易になる。
(5)上記形態のミリ波吸収体において、ヤング率が10MPa以下であり、かつ、室温での伸び率が20%以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、ミリ波吸収体の柔軟性や可撓性を高めることができるため、ミリ波吸収体を曲げるなどにより、任意の形状の部材表面にミリ波吸収体を配置することが容易になる。
(6)上記形態のミリ波吸収体において、絶縁破壊強さが100V/mm以上であることとしてもよい。このような構成とすれば、電気配線等の近傍であっても、絶縁破壊を抑えつつミリ波吸収体を使用することが可能になる。
(7)上記形態のミリ波吸収体において、20~100GHzの電磁波に対して、10dB以上の反射減衰量を示すこととしてもよい。このような構成とすれば、ミリ波吸収体としての良好な性能を確保することができる。
(8)本開示の他の一形態によれば、積層体が提供される。この積層体は、シート状に形成された(1)から(7)までのいずれか一項に記載のミリ波吸収体と、前記ミリ波吸収体の一方の面に接して設けられ、前記電磁波吸収層を透過した電磁波を反射する反射層と、を備える。
この形態の積層体によれば、反射層に起因するミリ波の乱反射を抑えつつ、ミリ波吸収体におけるミリ波の透過を遮断することができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、ミリ波吸収シート、ミリ波吸収体の製造方法、ミリ波吸収体を備える筐体、電子機器における望ましくない電磁波の放出や侵入の防止方法、などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態のミリ波吸収体の概略構成を表す断面模式図。
【
図2】λ/4型電磁波吸収体における電磁波の吸収の様子を示す説明図。
【
図3】ミリ波吸収体内部に入射したミリ波が減衰する様子を表す説明図。
【
図4】第2実施形態の積層体の概略構成を表す断面模式図。
【
図5】ミリ波吸収体の組成と性能を調べた結果とをまとめて示す説明図。
【
図6】ミリ波吸収体の評価結果をまとめて示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態におけるミリ波吸収体10の概略構成を表す断面模式図である。ミリ波吸収体10は、カーボンブラック12と、アルミナ14と、シリコーン樹脂16と、を備える。本実施形態のミリ波吸収体10では、カーボンブラック12とアルミナ14とは、粉末の状態で、シリコーン樹脂16中に分散されている。ミリ波とは、一般に、30GHz帯から300GHz帯の電磁波を指すが、本願明細書において、「ミリ波」は、通信規格の5Gで用いられる28GHz帯を含んでおり、ミリ波吸収体10は、特に、10~100GHz帯の電磁波を減衰する。
【0009】
カーボンブラック12としては、例えば、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック等を用いることができ、これらを2種以上用いてもよい。カーボンブラック12は、導電性材料であり、ミリ波帯域の広い周波数帯域で、電磁波吸収能を示す。具体的には、24GHz、28GHz、79GHzで電磁波吸収能を発揮する。
【0010】
ミリ波吸収体10におけるカーボンブラック12の含有率が高いほど、ミリ波吸収体10の電磁波吸収能が高まるため、電磁波吸収能の確保の観点からは、ミリ波吸収体10におけるカーボンブラック12の含有率は、10wt%以上とすることが好ましく、20wt%以上とすることがより好ましく、30wt%以上とすることがさらに好ましい。ただし、カーボンブラック12の含有率が高いほど、シリコーン樹脂16との混合が困難になるため、ミリ波吸収体10におけるカーボンブラック12の含有率は、例えば、70wt%以下とすればよい。また、カーボンブラック12の含有率が高いほど、ミリ波吸収体10全体の電気抵抗や絶縁破壊強さが低下し、ヤング率が大きくなり(柔軟性が低下し)、伸び率が小さくなる傾向がある。そのため、ミリ波吸収体10全体の絶縁破壊強さ、柔軟性、および伸び率を確保する観点から、ミリ波吸収体10におけるカーボンブラック12の含有率は、50wt%以下とすることが望ましい。
【0011】
カーボンブラック12の粒径(算術平均粒子径)は、一般に、10nm以上、200nm以下である。カーボンブラック12の粒径が細かすぎると、分子間力の影響が大きく働いて粒子同士が凝集しやすくなり、そのような粒子を樹脂に混合すると、樹脂の粘度が大きく上昇して混錬が困難化する。そのため、カーボンブラック12の粒径は、例えば、30nm以上とすることが好ましく、50nm以上とすることがより好ましい。
【0012】
アルミナ14は、安定な結晶構造を有するα-アルミナにより構成されている。ミリ波吸収体10におけるアルミナ14の含有率が高いほど、ミリ波吸収体10全体の電気抵抗や絶縁破壊強さ、および、熱伝導性を高めることができる。また、ミリ波吸収体10にアルミナ14を加えることにより、カーボンブラック12の粒子間の隙間をアルミナ14で埋めて、ミリ波吸収体10の強度を高めることができる。さらに、ミリ波吸収体10にアルミナ14を加えることにより、ミリ波吸収体10の製造時に材料を混練する際に、カーボンブラック12を解砕してカーボンブラック12の分散状態を均一化することができる。上記のように、絶縁破壊強さおよび熱伝導性の向上など、アルミナ14を加えることによる効果を得るために、ミリ波吸収体10におけるアルミナ14の含有率は、10wt%以上とすることが好ましい。ただし、アルミナ14の含有率が高くなり、カーボンブラック12に対する相対的な含有率が高まるほど、ミリ波吸収体10における電磁波吸収能は抑えられる。また、アルミナ14の含有率が高いほど、シリコーン樹脂16との混合が困難になる。また、アルミナ14の含有率が高いほど、ミリ波吸収体10全体のヤング率が大きくなり(柔軟性が低下し)、伸び率が小さくなる。そのため、ミリ波吸収体10における電磁波吸収能や柔軟性を確保する観点から、ミリ波吸収体10におけるアルミナ14の含有率は、例えば、70wt%以下とすることが好ましく、60wt%以下とすることがより好ましく、50wt%以下とすることがさらに好ましい。
【0013】
アルミナ14の粒径は、体積基準で粒子径の存在比率を測定したときに、90%径が50μ以下であることが望ましい。このような粒径とすることで、ミリ波吸収体10の製造時に材料を混練する際に、アルミナ14を樹脂中で分散させることが容易になり、その結果、ミリ波吸収体10における熱伝導性および電気抵抗を均一化することができる。さらに、上記のような粒径とすることで、アルミナ14の粒子がミリ波吸収体10の薄型化の妨げとなることを抑えることができる。
【0014】
アルミナ14の粒子形状は、球状に近いほど、アルミナ14を添加したことに起因するミリ波吸収体10の柔軟性の低下が抑えられ、ミリ波吸収体10の伸び率を高めることができる。また、アルミナ14の粒子形状が球状に近いほど、ミリ波吸収体10の製造時に材料を混練する際に、アルミナ14を樹脂中で分散させることが容易になり、その結果、ミリ波吸収体10における熱伝導性および電気抵抗を均一化することができる。さらに、アルミナ14の粒子形状が球状に近いほど、ミリ波吸収体10におけるアルミナ14の添加量を増加させ易く(シリコーン樹脂16中におけるアルミナ14の充填率を高め易く)なり、ミリ波吸収体10の熱伝導性を高めることができる。ただし、アルミナ14の分散状態や、ミリ波吸収体10の柔軟性や、ミリ波吸収体10の熱伝導性等が許容範囲であれば、アルミナ14の粒子形状は、例えば不定形状など、球形以外の形状であってもよい。
【0015】
上記のように、アルミナ14の粒子形状を球状に近づける観点から、アルミナ14の粒子を断面視したときの内接円の半径をR1とし、外接円の半径をR2としたときに、「R2/R1」の値の平均値は1.3以下であることが好ましく、1.1以下であることがより好ましい。「R2/R1」が1.0に近いほど、粒子の形状が真球に近い(以下では、真球度が高いともいう)ことを表す。内接円および外接円の特定の方法、および、「R2/R1」の求め方は以下の通りである。すなわち、ミリ波吸収体10を断面視ができるように切断と研磨とを行い、200μm×200μmの視野を走査電子顕微鏡(SEM)により観察し、アルミナ14の粒子10個に対して形状を観察する。具体的には、画像解析ソフトウエアWinROOF(三谷商事株式会社製)等を利用して、R1およびR2を測定し、R2/R1を算出すればよい。
【0016】
シリコーン樹脂16は、カーボンブラック12およびアルミナ14の粉末が分散状態で混合されたシリコーン樹脂の樹脂層である。耐熱性および耐候性に優れるシリコーン樹脂を用いることで、ミリ波吸収体10を、比較的高温になる環境下や屋外で使用する場合であっても、ミリ波吸収体10の耐久性の確保が容易になる。ミリ波吸収体10の柔軟性および伸び率を確保する観点から、ミリ波吸収体10におけるシリコーン樹脂16の含有率は、10wt%以上とすることが好ましく、30wt%以上とすることがより好ましい。また、カーボンブラック12およびアルミナ14の含有率を確保して、ミリ波吸収体10における電磁波吸収能や絶縁性や導電性を確保する観点から、ミリ波吸収体10におけるシリコーン樹脂16の含有率は、80wt%以下とすることが好ましい。
【0017】
シリコーン樹脂16の分子量を大きくするほど、ミリ波吸収体10の伸び率を大きくすることができ、シリコーン樹脂16の架橋密度を低くするほど、ミリ波吸収体10のヤング率を低くすると共に、伸び率を大きくすることができる。そのため、シリコーン樹脂16の分子量や架橋密度は、ミリ波吸収体10において実現すべき望ましい伸び率やヤング率に応じて、適宜選択すればよい。
【0018】
シリコーン樹脂16は、付加硬化型、水分硬化型のどちらでもよく、必要に応じて、硬化反応を促進する触媒を添加してもよい。触媒としては、従来知られる種々の触媒を利用可能であり、例えば、白金触媒、ロジウム触媒、チタン触媒、ビスマス触媒等を用いることができる。中でも、反応性が高い白金触媒を用いることが望ましい。触媒を利用する付加硬化型のシリコーン樹脂とする場合には、ミリ波吸収体10の高温使用時に副生成物としてのアウトガスの発生を抑えることができるため望ましい。
【0019】
ミリ波吸収体10は、20~100GHzの電磁波に対して、10dB以上の反射減衰量を示すことが望ましく、20dB以上の反射減衰量を示すことがより望ましく、30dB以上の反射減衰量を示すことがさらに望ましい。反射減衰量は、ミリ波吸収体に入射した電波と反射して返ってきた電波との電力比であり、ミリ波吸収体の電磁波吸収能を表す。ミリ波吸収体10の反射減衰量を上記の値にすることで、ミリ波吸収体10の電磁波吸収能を確保することができる。
【0020】
また、ミリ波吸収体10は、ヤング率が10MPa以下であることが望ましい。さらに、ミリ波吸収体10は、室温での伸び率が20%以上であることが望ましい。これにより、ミリ波吸収体10の柔軟性を確保することができる。ミリ波吸収体10の柔軟性を確保することにより、ミリ波吸収体10を、平坦面とは異なる形状に沿って取り付けることが容易になる。例えば、ミリ波を送受信する機器を収納する筐体の内壁面の一部にミリ波吸収体10を貼り付けるときに、貼り付け部位が曲面であっても、ミリ波吸収体10を容易に貼り付けることが可能になる。さらに、ミリ波吸収体10が上記のように高い伸び率を示すことにより、例えば、ミリ波を送受信する機器を収納する筐体の内壁面の一部にミリ波吸収体10を貼り付けるときに、ミリ波吸収体10が筐体の熱膨張に追従することが可能になる。
【0021】
また、ミリ波吸収体10は、絶縁破壊強さが100V/mm以上であることが望ましい。これにより、ミリ波吸収体10を電気配線に近接して配置する場合であっても、ミリ波吸収体10を介した漏電を抑えることができる。具体的には、例えば48V電源を用いる、いわゆるマイルドEVにおいて、電気配線に近接してミリ波吸収体10を配置する場合であっても、絶縁破壊を抑えてミリ波吸収体10を使用することが可能になる。
【0022】
また、ミリ波吸収体10は、熱伝導性が0.50W/(m・K)以上であることが望ましい。ミリ波吸収体10が電磁波を吸収する際には、導電性材料であるカーボンブラック12や、誘電性材料であるアルミナ14において、電磁波のエネルギが熱に変換されることにより発熱する。そのため、上記のようにミリ波吸収体10の熱伝導性を確保して、ミリ波吸収体10における放熱性を高めることで、ミリ波吸収体10の性能を維持することが容易になる。また、ミリ波を送受信する機器を収納する筐体の内壁面の一部にミリ波吸収体10を貼り付ける場合には、ミリ波吸収体10の放熱性能を高めて筐体内の過熱を抑えることで、筐体内に収納される機器の性能を維持することが容易になる。特に、ミリ波吸収体10を、パワー半導体等の発熱する部品の近傍に配置する場合には、ミリ波吸収体10の熱伝導性が高く、放熱性能に優れることが望ましい。
【0023】
上記した反射減衰量、ヤング率、伸び率、絶縁破壊強さ、熱伝導性などのミリ波吸収体10の物性値は、ミリ波吸収体10の組成、すなわち、ミリ波吸収体10を構成するカーボンブラック12やアルミナ14やシリコーン樹脂16の含有率を、既述した範囲とすることで、容易に実現可能となる。
【0024】
ミリ波吸収体10の厚みは、例えば、0.1mm~1.5mmとすることができる。ここで、ミリ波吸収体10が吸収能を示す電磁波の周波数帯は、ミリ波吸収体10の組成と厚みとによって定まる。吸収したい電磁波に応じたミリ波吸収体10の厚みの設定方法を以下に説明する。
【0025】
図2は、λ/4型電磁波吸収体における電磁波の吸収の様子を示す説明図である。ミリ波吸収体10は、λ/4型電磁波吸収体であり、大気中の波長がλ
0[mm]である電磁波が、ミリ波吸収体10内部で波長λm[mm]に変化する場合には、ミリ波吸収体10の厚さをtとすると、ミリ波吸収体10の表面および裏面からの反射波が干渉して電磁波が低減される条件は、整数m(m=1、2、3・・・)を用いて、以下の(1)式により表すことができる。なお、λmは、λ
0と、ミリ波吸収体10の誘電率および透磁率によって定まる。例えば、減衰したい電磁波の周波数λ
0やミリ波吸収体10の誘電率および透磁率からλmを求め、求めたλmを(1)式に代入することで、ミリ波吸収体10の厚みとして設定すべき厚みtを導くことができる。なお、ミリ波吸収体10内部では、ミリ波の波長は短くなる。以下の(2)式に示す「n」は、ミリ波吸収体10内部での波長λmに対する大気中の波長λ
0の割合を表す。
【0026】
【0027】
上記したλ/4型電磁波吸収体としての説明は、ミリ波吸収体10が取り付けられる既述した筐体内壁面等でミリ波が反射することを想定しているが、ミリ波吸収体10は、反射減衰以外に、媒質内減衰を利用してミリ波を減衰することも可能である。ミリ波吸収体10内部に侵入したミリ波は、以下の(3)式に従い減衰することとなる。(3)式は、周波数と、ミリ波吸収体10の複素誘電率とから解くことができ、ミリ波吸収体10の厚みを、媒質中の電界振幅が十分に小さくなる厚みに調整することで、ミリ波を減衰することができる。(3)式において、Eは、媒質内(ミリ波吸収体10内)の電界振幅であり、E0は、電磁波(ミリ波吸収体10に入射するミリ波)の電界振幅であり、αは、減衰定数であり、βは、位相定数であり、Z方向にミリ波が進行するものとする。
【0028】
【0029】
図3は、ミリ波吸収体10内部に入射したミリ波が、上記(3)式に従って減衰する様子を表す説明図である。横軸は、ミリ波が入射する面である入射表面からの厚さ方向の距離を表し、縦軸は、媒質内の電界振幅を表す。
【0030】
図1では、ミリ波吸収体10の一方の面上に、さらに、接着層18を設けた様子を示している。接着層は、既述したミリ波を送受信する機器を収納する筐体の内壁面のように、ミリ波吸収体10を配置したい箇所に貼り付けるための構造である。接着層18は、例えば、シリコーン系樹脂やアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂等の接着剤を塗布することにより構成することができる。なお、ミリ波吸収体10を、貼り付けではなく、例えば留め具などを用いて機械的に固定して配置する場合には、接着層18を設けないこととしてもよい。
【0031】
また、ミリ波吸収体10を貼り付けにより配置する場合に、接着層18を設けることなく、例えば、シリコーン樹脂16にシランカップリング剤等のアルコキシドを添加し、ミリ波吸収体10を接着シートとして使用してもよい。この場合には、シリコーン樹脂16の一部分を硬化させた状態でミリ波吸収体10を用意した後に、所望の箇所(被着体)にミリ波吸収体10を貼り付けて熱硬化させることで、上記被着体にミリ波吸収体10を接合することができる。シリコーン樹脂16に添加するシランカップリング剤としては、特に制限は無く、例えば、有機反応性基としてビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、メルカプト基、イソシアネート基のいずれかを有するものなど、従来知られるシランカップリング剤の中から適宜選択することができる。
【0032】
シリコーン樹脂16は、上記したシランカップリング剤に代えて、あるいはシランカップリング剤に加えて、他の添加物を含有していてもよい。他の添加物としては、例えば、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、スピネルフェライト、六方晶フェライト、純鉄粉、ケイ素鋼粉、パーマロイ粉、センダスト粉、鉄アモルファス粉、Fe-Si-Cr合金磁性粉などを挙げることができる。このような添加物の添加により、用いた添加物に応じた性能を、ミリ波吸収体10に付与することができる。ミリ波吸収体10における添加物の含有率は、例えば、40wt%以下とすればよい。カーボンブラック12により実現されるミリ波吸収性能の向上の効果や、アルミナ14により実現される電気抵抗および熱伝導性の確保の効果や、ミリ波吸収体10の柔軟性等に対する影響が、許容範囲であればよい。
【0033】
以上のように構成された本実施形態のミリ波吸収体10によれば、カーボンブラック12と、アルミナ14と、シリコーン樹脂16と、を備えている。このように、主としてミリ波吸収性能を発揮する成分として、電磁波吸収体において従来用いられていたフェライト(磁性材料である金属酸化物)等よりも密度が小さいカーボンブラックを用いるため、ミリ波吸収体10を軽量化することが容易になる。また、高い電磁波吸収能と共に、比較的低い電気抵抗を有するカーボンブラック12と、ミリ波吸収性能ではカーボンブラック12に劣るものの、高い電気抵抗と良好な熱伝導性とを有するアルミナ14と、を組み合わせて用いることで、ミリ波吸収体10全体として、高い電磁波吸収能と高い絶縁破壊強さと良好な熱伝導性とを実現することが可能になる。
【0034】
このようなミリ波吸収体10を配置してミリ波を吸収させることで、ミリ波による望ましくない影響を抑えることができる。例えば、ミリ波を送信する機器を収納する筐体の内壁面の一部にミリ波吸収体10を貼り付けることで、望ましくない方向に不要な電磁波が発信されることを抑えることができる。また、ミリ波を受信する機器を収納する筐体の内壁面にミリ波吸収体10を貼り付けることで、不要な電磁波が上記機器に入力されることを抑えることができる。ここで、ミリ波吸収体10を、カーボンブラック12およびアルミナ14の粉末をシリコーン樹脂16中に分散させた組成物として構成しているため、ミリ波吸収体10の柔軟性や可撓性を確保することが容易になる。そのため、ミリ波吸収体10を曲げるなどにより、任意の形状の筐体の壁面にミリ波吸収体を配置することが可能になる。
【0035】
ミリ波吸収体10を、例えば、車両のボディのような金属部材を被着体として配置する場合には、被着体が反射層として働いて、ミリ波吸収体10で吸収しきれなかったミリ波を反射するため、ミリ波吸収体10における電磁波の透過を遮断することができる。ここで、被着体としての金属部材は、ミリ波の透過を遮断することができるが、ミリ波の乱反射の原因ともなり得る。ミリ波吸収体として、電磁波吸収能に優れた本実施形態のミリ波吸収体10を用いることで、金属部材表面でミリ波が反射することに起因するミリ波の乱反射を抑えることができる。
【0036】
B.第2実施形態:
図4は、第2実施形態の積層体120の概略構成を表す断面模式図である。第2実施形態の積層体120は、第1実施形態と同様のミリ波吸収体10を備えると共に、ミリ波吸収体10の一方の面(被着体に接する側の面)上に、反射層119を備えている。
【0037】
反射層119は、ミリ波吸収体10を透過した電磁波を反射する層である。反射層119は、ミリ波を反射可能であればよく、例えば、銅、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、金や銀等の貴金属、アルミニウム等の金属により形成することができる。反射層119は、例えば、予め作製した金属膜を、ミリ波吸収体10の一方の面に貼り付けることにより形成することができる。このとき、反射層119とミリ波吸収体10との貼り付けは、接着剤を用いてもよく、あるいは、シリコーン樹脂16にシランカップリング剤等を添加してミリ波吸収体10を接着シートにして、反射層119とミリ波吸収体10とを接合することとしてもよい。また、反射層119の材料としてめっき皮膜を形成可能な金属を用いる場合には、電解めっきや無電解めっき等のめっき処理をミリ波吸収体10の表面に施すことにより、反射層119を形成してもよい。
【0038】
第2実施形態のミリ波吸収体10を所望の被着体上に配置する際には、例えば、ミリ波吸収体10に貼り付けられた反射層119と被着体とを、接着剤を用いて固定すればよい。反射層119は導電性部材であるため、ミリ波吸収体10を被着体上に配置する際には、さらに、反射層119と被着体との間に絶縁層を設けることが望ましい。これにより、電気配線の近傍にミリ波吸収体10を配置する場合であっても、短絡等が生じることを抑えることができる。
【0039】
このような構成とすれば、第1実施形態のミリ波吸収体10と同様の効果が得られると共に、反射層119をミリ波吸収体10に重ねて設けることで、ミリ波吸収体10におけるミリ波の透過を遮断することができる。すなわち、ミリ波吸収体10でミリ波が吸収されるだけでなく、ミリ波吸収体10で吸収しきれなかったミリ波を反射層119で反射することができる。
【0040】
C.他の実施形態:
上記した各実施形態では、ミリ波吸収体はシート状に形成したが、異なる形状としてもよい。ただし、シート状にすることで、任意の形状の被着体の表面に沿ってミリ波吸収体を配置することが容易になる。
【実施例】
【0041】
図5は、サンプルS1~サンプルS12までの12種類のミリ波吸収体を作製し、それらの組成と性能を調べた結果を、まとめて示す説明図である。
図6は、サンプルS1~サンプルS12のミリ波吸収体についての評価結果をまとめて示す説明図である。以下に、各サンプルの構成および製造方法と、性能を評価した結果について説明する。各サンプルは、用いた材料の種類や、材料の混合割合が、それぞれ異なっている。なお、サンプルS9~サンプルS12は、実施形態で説明したカーボンブラック、アルミナ、およびシリコーン樹脂に係る条件を満たさない比較例のサンプルである。
【0042】
<各サンプルの作製>
[サンプルS1]
カーボンブラック(算術平均粒子径:約120nm)、アルミナ(体積平均粒子径:約10μm)、および、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約70000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒を添加し、羽根攪拌と3本ロールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS1のミリ波吸収体を得た。上記したアルミナの体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、MT3300)を用いて測定した値である。
【0043】
なお、以下で説明する各サンプルで使用したカーボンブラックおよびアルミナは、上記したサンプルS1と同じ材料である。
【0044】
[サンプルS2]
既述したカーボンブラックおよびアルミナと、官能基としてヒドロキシル基を有するシリコーン樹脂(分子量約30000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、少量の水を添加し、羽根攪拌と3本ロールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS2のミリ波吸収体を得た。
【0045】
[サンプルS3、S4]
既述したカーボンブラックおよびアルミナと、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約30000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒を添加し、羽根攪拌と3本ロールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS3またはサンプルS4のミリ波吸収体を得た。サンプルS3とサンプルS4とは、用いた材料は同じであるが、
図5および
図6に示すように、組成(カーボンブラック、アルミナ、およびシリコーン樹脂の含有率)が異なる。
【0046】
[サンプルS5]
既述したカーボンブラックおよびアルミナと、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約30000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒、溶媒としてトルエンを添加し、ボールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、80℃以下の温度でトルエンを揮発させた後、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS5のミリ波吸収体を得た。
【0047】
[サンプルS6、S7]
既述したカーボンブラックおよびアルミナと、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約60000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒を添加し、羽根攪拌と3本ロールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS6またはサンプルS7のミリ波吸収体を得た。サンプルS6とサンプルS7とは、用いた材料は同じであるが、
図5および
図6に示すように、組成(カーボンブラック、アルミナ、およびシリコーン樹脂の含有率)が異なる。
【0048】
[サンプルS8]
既述したカーボンブラックおよびアルミナと、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約60000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒、溶媒としてトルエンを添加し、ボールミルよって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、80℃以下の温度でトルエンを揮発させた後、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS8のミリ波吸収体を得た。
【0049】
[サンプルS9]
既述したアルミナと、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約60000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒を添加し、羽根攪拌と3本ロールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS9のミリ波吸収体を得た。
【0050】
[サンプルS10]
既述したアルミナと、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約70000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒を添加し、羽根攪拌と3本ロールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS10のミリ波吸収体を得た。
【0051】
[サンプルS11]
既述したカーボンブラックと、官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約60000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒を添加し、羽根攪拌と3本ロールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS11のミリ波吸収体を得た。
【0052】
[サンプルS12]
官能基としてビニル基を有するシリコーン樹脂(分子量約70000)に、さらに、シランカップリング剤、架橋剤、金属触媒を添加し、羽根攪拌と3本ロールミルによって混合して、ペーストを得た。得られたペーストを用いて、厚みが700μmおよび1000μmとなるようドクターブレード法によってシート状に成形し、100℃以上の温度で熱硬化させて、サンプルS12のミリ波吸収体を得た。
【0053】
<ミリ波吸収体の組成の測定>
各サンプルの組成、すなわち、カーボンブラック、アルミナ、およびシリコーン樹脂の含有量(各サンプルにおける含有率)を、厚み1000μmのサンプルを用いて調べた。カーボンブラックの含有量は、炭素成分分析法により測定した。また、アルミナおよびシリコーン樹脂の含有量は、アルキメデス法によりミリ波吸収体の密度を測定し、先に測定したカーボンブラックの含有量と比重、およびアルミナとシリコーン樹脂の比重から計算した。ここで、一部のサンプルに含まれる白金触媒の含有量は、サンプル全量に対してごく微量であるため、誤差として無視して計算した。
【0054】
<ヤング率、および伸び率の測定>
ヤング率と伸び率とは、引張試験機(島津製作所製オートグラフ(AG-IS))を使用して室温にて、厚み700μmのサンプルを用いて測定した。各サンプルを、幅1cm×長さ7cmの短冊状の試験片として切り出し、両端から2cmの位置を治具で保持して、中間の長さ3cmの部分で引張試験を行い、S-Sカーブ(応力-ひずみ曲線)からヤング率と伸び率とを得た。具体的には、各試験片を破断するまで引っ張りながら、サンプル長と荷重の変化を経時的に測定した。このとき、測定した荷重を試験片の引張試験前の断面積で除すことにより、引張応力が算出される。ヤング率は、以下の(4)式により算出される歪みを横軸とし、上記引張応力を縦軸とするグラフ(応力-ひずみ曲線)において、弾性変形領域における傾きとして算出した。また、伸び率は、各試験片が破断するまで引っ張り、破断したときのサンプル長から元のサンプル長(上記サンプルでは中間の長さ3cm)を引いた後、元のサンプル長で除すことにより算出した。伸び率を求める式を、以下に(5)式として示す。
【0055】
歪み(%)=[引っ張り中のサンプル長 - 元のサンプル長]/元のサンプル長 ・・・(4)
伸び率(%)=[破断したときのサンプル長 - 元のサンプル長]/元のサンプル長 ・・・(5)
【0056】
<絶縁破壊強さの測定>
絶縁破壊強さは、JIS C 2110-1:2016に従い、厚み1000μmのミリ波吸収体を用いて測定した。ここでは、「ミリ波吸収体の絶縁性を高めて、配線近傍でミリ波吸収体を使用可能にする効果」を、絶縁破壊強さにより評価した。
【0057】
<反射減衰量の測定>
反射減衰量は、室温における自由空間法(JIS R 1679:2007)によって測定した。周波数は18GHz~110GHzの範囲で減衰量を測定し、20GHz~100GHzの範囲で減衰が最大となる値を減衰量とした。ここで、減衰のピークが狙いの周波数と異なる場合でも、 20GHz~100GHzの範囲で減衰のピークを持てば、その値を減衰量とした。なお、反射減衰量の測定は、厚み700μmのサンプルと厚み1000μmのサンプルとの双方を用いて行い、減衰の程度が大きい方の値を採用した。
【0058】
図7は、一例として、厚み1000μmのサンプルS8の電波吸収特性を示す説明図である。
図7では、サンプルS8が、45GHzの電磁波を大きく減衰する様子が示されている(
図7中の矢印を参照)。
【0059】
<熱伝導率>
熱伝導率は非定常平面熱源を用いる熱伝導率測定装置TCi(株式会社リガク社製)によって測定した。測定には、厚さ1000μmに成形した各サンプルを用いた。
【0060】
<評価方法>
図6に示すように、各項目について、基準値との比較により評価を行った。「カーボン量」は、各サンプルにおけるカーボンブラックの含有率が10wt%以上50wt%以下の範囲内であれば「○」、上記範囲外であれば「×」とした。「アルミナ量」は、各サンプルにおけるアルミナの含有率が10wt%以上70wt%以下の範囲内であれば「○」、上記範囲外であれば「×」とした。「シリコーン量」は、各サンプルにおけるシリコーン樹脂の含有率が10wt%以上であれば「○」とした。
【0061】
「ヤング率」は、各サンプルのヤング率が10MPa以下であれば「○」とした。「伸び率」は、各サンプルの伸び率が20%以上であれば「○」、20%未満であれば「×」とした。「絶縁破壊強さ」は、各サンプルの絶縁破壊強さが100V/mm以上であれば「○」、100V/mm未満であれば「×」とした。
【0062】
「反射減衰量」は、各サンプルの反射減衰量が10dB以上であれば「○」、2dB以上10dB未満であれば「△」、2dB未満であれば「×」とした。「熱伝導率」は、各サンプルの熱伝導率が0.50W/(m・K)以上であれば「○」、0.30W/(m・K)以上0.50W/(m・K)未満であれば「△」、0.30W/(m・K)未満であれば「×」とした。
【0063】
図6では、さらに、総合評価の結果を示している。「総合評価」は、上記したヤング率、伸び率、絶縁破壊強さ、反射減衰量、および熱伝導率の評価項目において、「×」の評価項目が2つ以上、あるいは、反射減衰量が確認できなかった(検出限界である2dB未満であった)場合に「×」とした。また、総合評価が「×」以外の場合であって、「×」の評価項目が1つの場合に「△」とした。また、総合評価が「×」以外の場合であって、「×」の評価項目が無い場合に「○」とした。
【0064】
<評価結果>
サンプルS1は、カーボンブラックとアルミナとシリコーン樹脂とを含むが、カーボン量およびアルミナ量が比較的少ないために、反射減衰量および熱伝導率の双方が、比較的低い値となり、総合評価が「△」になったと考えられる。
【0065】
サンプルS2は、サンプルS1と比較してカーボン量が多いため、反射減衰量が良好であった。ただし、アルミナ量が比較的少ないために、絶縁破壊強さおよび熱伝導率が比較的低くなり、総合評価が「△」になったと考えられる。
【0066】
サンプルS3は、サンプルS1と比較してアルミナ量が多いため、絶縁破壊強さと熱伝導率の双方が良好な値となり、総合評価は「○」であった。ただし、アルミナ量を増加させたことにより、ヤング率が大きくなると共に伸び率が小さくなり、可撓性および伸び率の低下が確認された。
【0067】
サンプルS4は、サンプルS3と比較してカーボン量が多いため、反射減衰量の値が向上した。ただし、シリコーン樹脂に添加される粉末の総量が増加したことにより伸び率の値がさらに低下して、総合評価が「△」になったと考えられる。
【0068】
サンプルS5は、サンプルS4と比較してカーボン量がさらに多く、反射減衰量の値が向上した。また、サンプルS4と比較してアルミナ量が少なく、伸び率の値が向上した。ただし、カーボン量を増加させたことにより、絶縁破壊強さが低下して、総合評価が「△」になったと考えられる。
【0069】
サンプルS6~S8は、カーボンブラックとアルミナの含有率のバランスが良く、ヤング率、伸び率、絶縁破壊強さ、反射減衰量、および熱伝導率の各々において比較的良好な値を示し、総合評価が「○」であった。
【0070】
サンプルS9は、カーボンブラックを含まないため、反射減衰量を確認することができず、総合評価は「×」であった。ただし、アルミナ量が比較的多いため、絶縁破壊強さと熱伝導率は良好であった。
【0071】
サンプルS10は、サンプルS9と同様にカーボンブラックを含まないため、反射減衰量を確認することができず、総合評価は「×」であった。さらに、サンプルS9に比べてアルミナ量も少ないため、熱伝導率も低い値であった。
【0072】
サンプルS11は、カーボン量が十分であるため、反射減衰量は良好であった。ただし、アルミナを含まないため、絶縁破壊強さおよび熱伝導率が低く、総合評価は「×」であった。
【0073】
サンプルS12は、カーボンブラックおよびアルミナの双方を含まないため、反射減衰量を確認することができず、また、熱伝導率も低く、総合評価は「×」であった。
【0074】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0075】
本開示は、以下の形態としても実現することが可能である。
[適用例1]
ミリ波帯域の電磁波を吸収するミリ波吸収体であって、
カーボンブラックと、α-アルミナと、シリコーン樹脂と、を備えることを特徴とする
ミリ波吸収体。
[適用例2]
適用例1に記載のミリ波吸収体であって、
前記カーボンブラックの含有率が10~50wt%であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
[適用例3]
適用例1または2に記載のミリ波吸収体であって、
前記α-アルミナの含有率が10~70wt%であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
[適用例4]
適用例1から3までのいずれか一項に記載のミリ波吸収体であって、
前記シリコーン樹脂の含有率が10wt%以上であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
[適用例5]
適用例1から4までのいずれか一項に記載のミリ波吸収体であって、
ヤング率が10MPa以下であり、かつ、室温での伸び率が20%以上であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
[適用例6]
適用例1から5までのいずれか一項に記載のミリ波吸収体であって、
絶縁破壊強さが100V/mm以上であることを特徴とする
ミリ波吸収体。
[適用例7]
適用例1から6までのいずれか一項に記載のミリ波吸収体であって、
20~100GHzの電磁波に対して、10dB以上の反射減衰量を示すことを特徴とする
ミリ波吸収体。
[適用例8]
積層体であって、
シート状に形成された適用例1から7までのいずれか一項に記載のミリ波吸収体と、
前記ミリ波吸収体の一方の面に接して設けられ、前記電磁波吸収層を透過した電磁波を反射する反射層と、
を備えることを特徴とする積層体。
【符号の説明】
【0076】
10…ミリ波吸収体
12…カーボンブラック
14…アルミナ
16…シリコーン樹脂
18…接着層
119…反射層
120…積層体