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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】糸巻取機、及び糸巻取方法
(51)【国際特許分類】
   B65H 54/38 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
B65H54/38 B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022131782
(22)【出願日】2022-08-22
(62)【分割の表示】P 2020550001の分割
【原出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2022159556
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2022-08-22
【審判番号】
【審判請求日】2023-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2018190602
(32)【優先日】2018-10-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502455511
【氏名又は名称】TMTマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】播戸 志郎
【合議体】
【審判長】川俣 洋史
【審判官】門 良成
【審判官】道祖土 新吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-24909(JP,A)
【文献】特開2007-137616(JP,A)
【文献】特開2007-238245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65H 54/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行中の糸をトラバースガイドによってトラバースさせながら回転中のボビンに巻取可能、且つ、前記ボビンの回転数と前記トラバースガイドの単位時間あたりの往復移動回数との比であるワインド比を一定に維持するプレシジョン巻を実行しつつパッケージを形成可能に構成された糸巻取機であって、
前記トラバースガイドを所定のトラバース方向に往復駆動する、糸の巻取動作中に前記トラバースガイドの反転位置を変更可能なガイド駆動部と、
制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記ガイド駆動部を制御して、前記トラバース方向において、所定の速さで外側へ走行している前記トラバースガイドを減速させて所定の第1反転位置で内側へ反転させ、前記所定の速さまで再加速させる第1反転制御と、
前記ガイド駆動部を制御して、前記トラバース方向において、前記所定の速さで外側へ走行している前記トラバースガイドを減速させて前記第1反転位置よりも内側にある第2反転位置で内側へ反転させ、前記所定の速さまで再加速させる第2反転制御と、を実行可能であり、
前記プレシジョン巻の実行中に、前記第1反転制御における前記トラバースガイドの減速開始から再加速完了までの時間である第1反転時間よりも、前記第2反転制御における前記トラバースガイドの減速開始から再加速完了までの時間である第2反転時間を長くし、
前記第2反転制御において、前記トラバースガイドを前記トラバース方向における前記第2反転位置で停止させている状態を所定時間維持した後に、前記トラバースガイドを再加速させ、
前記所定時間は、前記第1反転制御における前記トラバースガイドの停止時間よりも長いことを特徴とする糸巻取機。
【請求項2】
前記第2反転時間内における前記トラバースガイドの加速度の最大値を、前記第1反転時間内における前記トラバースガイドの加速度の最大値と等しくすることを特徴とする請求項1に記載の糸巻取機。
【請求項3】
前記制御部は、
前記トラバース方向における一端部に位置する前記第1反転位置と前記トラバース方向において前記一端部に近い側の前記第2反転位置との前記トラバース方向における距離が長いほど、前記一端部に近い側の前記第2反転位置に係る前記第2反転制御において、前記第2反転時間内に前記トラバースガイドが前記トラバース方向に移動する領域の幅を広くし、
前記トラバース方向における他端部に位置する前記第1反転位置と前記トラバース方向において前記他端部に近い側の前記第2反転位置との前記トラバース方向における距離が長いほど、前記他端部に近い側の前記第2反転位置に係る前記第2反転制御において、前記第2反転時間内に前記トラバースガイドが前記トラバース方向に移動する領域の幅を広くすることを特徴とする請求項1又は2に記載の糸巻取機。
【請求項4】
前記制御部は、
前記第2反転制御において、前記トラバースガイドの減速を開始させてから前記第2反転時間の半分の時間が経過したときに前記トラバース方向における前記第2反転位置に前記トラバースガイドを位置させるように、前記ガイド駆動部を制御することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項5】
前記ボビンを回転駆動するボビン駆動部を備え、
前記制御部は、
前記ボビンの回転角度と前記トラバースガイドの前記トラバース方向における位置との関係に関する情報を記憶する記憶部を有し、
前記記憶部に記憶されている前記情報に基づいて前記ボビン駆動部及び前記ガイド駆動部を制御することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項6】
前記ガイド駆動部は、
正逆駆動可能に構成された駆動源を有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の糸巻取機。
【請求項7】
前記ガイド駆動部は、
前記トラバースガイドが取り付けられ、前記駆動源によって往復駆動されるベルト部材を有することを特徴とする請求項6に記載の糸巻取機。
【請求項8】
走行中の糸をトラバースガイドによってトラバースさせながら回転中のボビンに巻き取り、前記ボビンの回転数と前記トラバースガイドの単位時間あたりの往復移動回数との比であるワインド比を一定に維持するプレシジョン巻を実行しつつパッケージを形成する糸巻取方法であって、
所定のトラバース方向において、所定の速さで外側へ走行している前記トラバースガイドを減速させて所定の第1反転位置で内側へ反転させ、前記所定の速さまで再加速させる第1反転工程と、
前記トラバース方向において、前記所定の速さで外側へ走行している前記トラバースガイドを減速させて前記第1反転位置よりも内側にある第2反転位置で内側へ反転させ、前記所定の速さまで再加速させる第2反転工程と、を実行し、
前記プレシジョン巻の実行中に、前記第1反転工程における前記トラバースガイドの減速開始から再加速完了までの時間である第1反転時間よりも、前記第2反転工程における前記トラバースガイドの減速開始から再加速完了までの時間である第2反転時間を長くし、
前記第2反転工程において、前記トラバースガイドを前記トラバース方向における前記第2反転位置で停止させている状態を所定時間維持した後に、前記トラバースガイドを再加速させ、
前記所定時間は、前記第1反転工程における前記トラバースガイドの停止時間よりも長いことを特徴とする糸巻取方法。
【請求項9】
前記第2反転時間内における前記トラバースガイドの加速度の最大値を、前記第1反転時間内における前記トラバースガイドの加速度の最大値と等しくすることを特徴とする請求項8に記載の糸巻取方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸巻取機、及び糸巻取方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、糸をトラバースガイドによってトラバースさせながらボビンに巻き取り、パッケージを形成する糸巻取機が開示されている。糸巻取機は、ボビンを回転駆動するボビン駆動用モータと、ガイド駆動用モータによってトラバースガイドを往復走行させるガイド駆動機構と、ボビン駆動用モータ及びガイド駆動用モータを制御する制御部とを備える。このような糸巻取機における糸の巻き方の一つに、ボビンの回転数と単位時間あたりのトラバース回数との比(ワインド比)を一定に制御する「プレシジョン巻」という巻き方がある。プレシジョン巻において、ワインド比は、一般的に、リボン巻が発生しないよう(パッケージ表面の同じ経路上に糸が繰り返し巻き取られないよう)、整数とわずかに異なる値に設定される。このようにすることで、プレシジョン巻では、リボン巻を回避するとともに、パッケージ表面における糸の巻取経路を少しずつずらしながら、糸を平行に規則正しく巻き取ることができる。これにより、形成されたパッケージからの糸の解舒性を向上させること、及び、パッケージの用途に応じてパッケージ密度をコントロールしやすくすることができる。
【0003】
これとは別に、特許文献2には、パッケージの耳高を抑制するクリーピングを実施可能なトラバース装置が開示されている。耳高とは、トラバースガイドの急激な反転(方向転換)が一般的に難しいこと等に起因して、パッケージ表面の軸方向端部に巻かれる糸量が他の部分に巻かれる糸量よりも多くなることである。耳高は、パッケージ形状の悪化及び/又はパッケージ密度の不均一化等の原因となりうる。クリーピングとは、パッケージ形成中に、トラバースガイドの往復移動領域の幅(トラバース幅)を一時的に狭くすることである。これにより、クリーピングを行わない場合と比べて、パッケージの軸方向端部において巻き取られる糸量が少なくなり、耳高が緩和される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平3-115060号公報
【文献】特開昭57-13058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の糸巻取機において、プレシジョン巻の最中にクリーピングを行おうとすると、以下の問題が発生しうる(なお、より詳細については、後述する実施形態において説明する)。まず、例えば、クリーピング時のトラバース幅を通常のトラバース時(以下、通常時)よりも単に狭くするだけでは、トラバース周期が変動してワインド比が一定に保たれなくなる。このため、パッケージ表面において、糸が実際に巻き取られる位置が、本来糸を巻き取りたい位置からずれてしまい、パッケージ表面の形状が乱れてしまう。したがって、これを防止するためには、トラバース周期を変動させずにクリーピングを行う必要がある。しかしながら、例えば、通常時とクリーピング時との間で単純にトラバースガイドの移動速度を異ならせることでワインド比の一定化を図ると、今度は糸とパッケージ表面とのなす角度(綾角)が通常時とクリーピング時との間で互いにずれてしまう。このため、やはりパッケージ表面の形状が乱れてしまう。
【0006】
本発明の目的は、プレシジョン巻の実行中にクリーピングを行っても、ワインド比の変動を抑制し、且つ、パッケージ表面の形状が乱れることを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明の糸巻取機は、走行中の糸をトラバースガイドによってトラバースさせながら回転中のボビンに巻取可能、且つ、前記ボビンの回転数と前記トラバースガイドの単位時間あたりの往復移動回数との比であるワインド比を一定に維持するプレシジョン巻を実行しつつパッケージを形成可能に構成された糸巻取機であって、前記トラバースガイドを所定のトラバース方向に往復駆動する、糸の巻取動作中に前記トラバースガイドの反転位置を変更可能なガイド駆動部と、制御部と、を備え、前記制御部は、前記ガイド駆動部を制御して、前記トラバース方向において、所定の速さで外側へ走行している前記トラバースガイドを減速させて所定の第1反転位置で内側へ反転させ、前記所定の速さまで再加速させる第1反転制御と、前記ガイド駆動部を制御して、前記トラバース方向において、前記所定の速さで外側へ走行している前記トラバースガイドを減速させて前記第1反転位置よりも内側にある第2反転位置で内側へ反転させ、前記所定の速さまで再加速させる第2反転制御と、を実行可能であり、前記プレシジョン巻の実行中に、前記第1反転制御における前記トラバースガイドの減速開始から再加速完了までの時間である第1反転時間よりも、前記第2反転制御における前記トラバースガイドの減速開始から再加速完了までの時間である第2反転時間を長くすることを特徴とするものである。
【0008】
クリーピングを行いつつプレシジョン巻を正常に行うための前提として、トラバースガイドが第1反転位置で反転する場合(以下、通常時とも呼ぶ)と第2反転位置で反転する場合(以下、クリーピング時とも呼ぶ)とで、ワインド比を等しくする必要がある。ワインド比を等しくするためには、例えばボビンの回転数を一定としたとき、通常時よりもトラバースガイドの移動領域の幅が狭いクリーピング時においても、トラバースガイドの移動周期を通常時と等しくする必要がある。
【0009】
本発明では、第2反転時間が第1反転時間よりも長い。このように、クリーピング時の反転時間を積極的に長くすることにより、クリーピング時のトラバースガイドの移動周期を長くすることができる。これにより、通常時とクリーピング時とでトラバースガイドの移動周期を等しくすることができる。したがって、ワインド比の変動を防止できる。
【0010】
さらに、このように、第2反転時間の調整によってクリーピング時のトラバース周期を調整できるので、反転時以外のタイミングにおいては、トラバースガイドの走行速度を通常時とクリーピング時とで等しくすることができる。このため、パッケージ表面に巻き取られる糸の角度を揃えることができる。したがって、パッケージ表面の形状が乱れることを抑制できる。
【0011】
以上のようにして、プレシジョン巻の実行中にクリーピングを行っても、ワインド比の変動を抑制でき、且つ、パッケージ表面の形状が乱れることを抑制できる。
【0012】
第2の発明の糸巻取機は、前記第1の発明において、前記制御部は、前記トラバース方向における前記第1反転位置と前記第2反転位置との距離が長いほど、前記第2反転制御において、前記第2反転時間内に前記トラバースガイドが前記トラバース方向に移動する領域の幅を広くすることを特徴とするものである。
【0013】
ワインド比の変動を抑制しつつパッケージ表面の形状乱れを抑制するためには、第1反転位置と第2反転位置との距離が長いほど(すなわち、クリーピング時のトラバース幅が狭いほど)、第2反転時間を長くする必要がある。ここで、第2反転時間内にトラバース方向においてトラバースガイドが移動する領域(以下、反転領域とする)の幅が一定である場合、第2反転時間が長くなると、トラバースガイドは、第2反転制御時に第2反転位置の近傍の領域に長時間位置し続けることとなる。すると、パッケージ表面の狭い領域に糸が集中的に巻き取られやすくなる。その結果、パッケージ表面に段差ができやすくなり、糸の綾落ちが発生する等、パッケージの形状等に悪影響が生じるおそれがある。
【0014】
本発明では、第1反転位置と第2反転位置との距離が長いほど、反転領域の幅が広い。つまり、クリーピング時のトラバース幅が狭くなることによって第2反転時間が長くなった場合、第2反転制御中にトラバースガイドが移動可能な領域が広くなる。このため、トラバース方向における狭い領域内にトラバースガイドが長時間位置し続けることを抑制できる。したがって、パッケージ表面の狭い領域に糸が集中的に巻き取られることを抑制できる。
【0015】
第3の発明の糸巻取機は、前記第1又は第2の発明において、前記制御部は、前記第2反転制御において、前記トラバースガイドの減速を開始させてから前記第2反転時間の半分の時間が経過したときに前記トラバース方向における前記第2反転位置に前記トラバースガイドを位置させるように、前記ガイド駆動部を制御することを特徴とするものである。
【0016】
第2反転制御において、例えば、トラバースガイドを急減速させて第2反転位置に到達させ、その後緩やかに再加速させることも可能である。但し、この場合、パッケージ表面に巻き取られる糸の反転部分の形状が、トラバースガイドの減速時と再加速時とで大きく異なるおそれがある。このため、パッケージ表面の糸の反転部分の形状が非対称となり、反転部分をきれいに形成できないおそれがある。本発明では、トラバースガイドの減速を開始させてからトラバースガイドが第2反転位置に到達するまでの時間と、トラバースガイドが第2反転位置を離れてから再加速が完了するまでの時間とを等しくすることができる。これにより、糸の反転部分の形状を、パッケージの中心軸を中心線とした対称形状とすることができる(つまり、反転部分をきれいに形成することができる)。したがって、パッケージ表面の反転部分の形状が乱れることを抑制できる。
【0017】
第4の発明の糸巻取機は、前記第1~第3のいずれかの発明において、前記ボビンを回転駆動するボビン駆動部を備え、前記制御部は、前記ボビンの回転角度と前記トラバースガイドの前記トラバース方向における位置との関係に関する情報を記憶する記憶部を有し、前記記憶部に記憶されている前記情報に基づいて前記ボビン駆動部及び前記ガイド駆動部を制御することを特徴とするものである。
【0018】
本発明では、ボビンの回転角度とトラバースガイドの位置との関係に関する情報に基づく制御を行うことにより、例えば複雑な機械構造を用いた制御を行う場合と比べて、ワインド比を一定に維持しつつクリーピングも行うという複雑な動作を容易化できる。また、当該情報を書き換えることで、第2反転制御時のトラバースガイドの位置及び/又は速度等の調整を容易に行うことができる。
【0019】
第5の発明の糸巻取機は、前記第1~第4のいずれかの発明において、前記ガイド駆動部は、正逆駆動可能に構成された駆動源を有することを特徴とするものである。
【0020】
例えば、一般的なカム式のトラバース装置では、一方向に回転するモータが駆動源として用いられており、且つ、クリーピングを行うための構造が複雑な機械構造となっている。このため、カム式のトラバース装置では、クリーピングの細かい制御が困難である。本発明では、駆動源の正逆駆動によってトラバースガイドに往復走行を行わせることができる。このため、トラバースガイドの反転の位置及びタイミング等を制御部によって細かく制御できる。したがって、クリーピングの細かい制御を容易に行うことができる。
【0021】
第6の発明の糸巻取機は、前記第5の発明において、前記ガイド駆動部は、前記トラバースガイドが取り付けられ、前記駆動源によって往復駆動されるベルト部材を有することを特徴とするものである。
【0022】
例えば揺動可能なアームの先端部にトラバースガイドが取り付けられ、アームが揺動駆動される構成では、トラバースガイドが弧を描くように往復走行する。このため、プレシジョン巻を行っても、パッケージ表面に糸を規則正しく巻き取ることが難しいおそれがある。本発明では、ベルト部材のトラバースガイドが取り付けられた部分を直線状に張って往復駆動することにより、トラバースガイドを容易に直線的に往復走行させることができる。したがって、パッケージ表面に糸を規則正しく巻き取りやすくすることができる。
【0023】
第7の発明の糸巻取方法は、走行中の糸をトラバースガイドによってトラバースさせながら回転中のボビンに巻き取り、前記ボビンの回転数と前記トラバースガイドの単位時間あたりの往復移動回数との比であるワインド比を一定に維持するプレシジョン巻を実行しつつパッケージを形成する糸巻取方法であって、所定のトラバース方向において、所定の速さで外側へ走行している前記トラバースガイドを減速させて所定の第1反転位置で内側へ反転させ、前記所定の速さまで再加速させる第1反転工程と、前記トラバース方向において、前記所定の速さで外側へ走行している前記トラバースガイドを減速させて前記第1反転位置よりも内側にある第2反転位置で内側へ反転させ、前記所定の速さまで再加速させる第2反転工程と、を実行し、前記プレシジョン巻の実行中に、前記第1反転工程における前記トラバースガイドの減速開始から再加速完了までの時間である第1反転時間よりも、前記第2反転工程における前記トラバースガイドの減速開始から再加速完了までの時間である第2反転時間を長くすることを特徴とするものである。
【0024】
本発明では、第1の発明と同様に、プレシジョン巻の実行中にクリーピングを行っても、ワインド比の変動を抑制でき、且つ、パッケージ表面の形状が乱れることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本実施形態に係るリワインダを正面から見た模式図である。
図2】リワインダの電気的構成を示す図である。
図3】(a)は、トラバースガイドの位置と時間との関係を示すグラフであり、(b)は、トラバースガイドの速度と時間との関係を示すグラフである。
図4】(a)及び(b)は、プレシジョン巻の説明図であり、(c)は、クリーピングの説明図である。
図5】(a)は、トラバースガイドの速度と時間との関係を示すグラフであり、(b)は、巻取パッケージの表面における糸の経路を示す説明図である。
図6】(a)は、トラバースガイドの速度と時間との関係を示すグラフであり、(b)は、巻取パッケージの表面における糸の経路を示す説明図である。
図7】(a)は、トラバースガイドの位置と時間との関係を示すグラフであり、(b)は、トラバースガイドの速度と時間との関係を示すグラフである。
図8】(a)は、トラバースガイドの加速度と時間との関係を示すグラフであり、(b)は、反転領域の幅とクリーピング量との関係を示すグラフである。
図9】(a)及び(b)は、パッケージ表面における糸の経路を示す説明図である。
図10】(a)は、変形例に係るトラバースガイドの位置と時間との関係を示すグラフであり、(b)は、同じくトラバースガイドの速度と時間との関係を示すグラフである。
図11図10に示す変形例に係る、トラバースガイドの加速度と時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本発明の実施形態について、図1図9を参照しながら説明する。図1に示す上下方向及び左右方向を、それぞれリワインダ1の上下方向及び左右方向とする。上下方向及び左右方向の両方と直交する方向(図1の紙面垂直方向)を、前後方向とする。糸Yの走行する方向を糸走行方向とする。
【0027】
(リワインダの構成)
まず、図1を用いて、本実施形態に係るリワインダ1(本発明の糸巻取機)の構成について説明する。図1は、リワインダ1を正面から見た模式図である。図1に示すように、リワインダ1は、給糸部11と、巻取部12と、制御装置13(本発明の制御部)等を備える。リワインダ1は、給糸部11に支持されている給糸パッケージPsから糸Yを解舒して、巻取部12によって巻取ボビンBw(本発明のボビン)に巻き返し、巻取パッケージPw(本発明のパッケージ)を形成するためのものである。より具体的には、リワインダ1は、例えば給糸パッケージPsに巻かれている糸Yをよりきれいに巻き直したり、所望の密度の巻取パッケージPwを形成したりするためのものである。
【0028】
給糸部11は、例えば、立設された機台14の下部の前面に取り付けられている。給糸部11は、給糸ボビンBsに糸Yが巻かれて形成された給糸パッケージPsを支持するように構成されている。これにより、給糸部11は、糸Yを供給可能となっている。
【0029】
巻取部12は、巻取ボビンBwに糸Yを巻き取って巻取パッケージPwを形成するためのものである。巻取部12は、機台14の上部に設けられている。巻取部12は、クレードルアーム21と、巻取モータ22(本発明のボビン駆動部)と、トラバース装置23と、コンタクトローラ24等を有する。
【0030】
クレードルアーム21は、例えば、機台14に揺動可能に支持されている。クレードルアーム21は、例えば左右方向を巻取ボビンBwの軸方向として、巻取ボビンBwを回転可能に支持する。クレードルアーム21の先端部には、巻取ボビンBwを把持するボビンホルダ(不図示)が回転可能に取り付けられている。巻取モータ22は、ボビンホルダを回転駆動するためのものである。巻取モータ22は、例えば一般的な交流モータであり、回転数を変更可能に構成されている。これにより、巻取モータ22は、巻取ボビンBwの回転速度を変更可能となっている。巻取モータ22は、制御装置13と電気的に接続されている(図2参照)。
【0031】
トラバース装置23は、巻取ボビンBwの軸方向(本実施形態では左右方向)に糸Yをトラバースさせる装置である。トラバース装置23は、巻取パッケージPwの糸走行方向におけるすぐ上流側に配置されている。トラバース装置23は、トラバースモータ31(本発明のガイド駆動部)と、無端ベルト32(本発明のベルト部材)と、トラバースガイド33とを有する。
【0032】
トラバースモータ31は、例えば一般的な交流モータである。トラバースモータ31は、正転駆動及び逆転駆動可能に構成され、且つ、回転数を変更可能に構成された駆動源である。トラバースモータ31は、制御装置13と電気的に接続されている(図2参照)。無端ベルト32は、トラバースガイド33が取り付けられたベルト部材である。無端ベルト32は、左右方向に互いに離間して配置されたプーリ34及びプーリ35と、トラバースモータ31の回転軸に連結された駆動プーリ36とに巻き掛けられており、略三角形状に張られている。無端ベルト32は、トラバースモータ31によって往復駆動される。トラバースガイド33は、無端ベルト32に取り付けられ、左右方向においてプーリ34とプーリ35の間に配置されている。トラバースガイド33は、無端ベルト32がトラバースモータ31によって往復駆動されることにより、左右方向に直線的に往復走行させられる(図1の矢印参照)。これにより、トラバースガイド33は、糸Yを左右方向にトラバースさせる。以下では、左右方向をトラバース方向とも呼ぶ。上記のような構成を有するトラバース装置23では、トラバースモータ31の回転軸の回転方向の切換タイミング等を制御することにより、糸Yの巻取動作中にトラバースガイド33の移動領域の幅(トラバース幅)を変更可能となっている。
【0033】
コンタクトローラ24は、巻取パッケージPwの表面に接圧を付与して巻取パッケージPwの形状を整えるためのものである。コンタクトローラ24は、巻取パッケージPwに接触し、巻取パッケージPwの回転に従動して回転する。
【0034】
糸走行方向において、給糸部11と巻取部12との間には、上流側から順に糸ガイド15、案内ローラ16、テンションセンサ17が配置されている。糸ガイド15は、例えば給糸ボビンBsの中心軸の延長線上に配置されており、給糸パッケージPsから解舒された糸Yを糸走行方向下流側へ案内する。案内ローラ16は、糸ガイド15によって案内された糸Yをさらに糸走行方向下流側へ案内するためのものである。案内ローラ16は、機台14の前面且つ糸ガイド15の上方に配置されている。案内ローラ16は、例えばローラ駆動モータ18によって回転駆動される。ローラ駆動モータ18は、例えば一般的な交流モータであり、回転数を変更可能に構成されている。これにより、ローラ駆動モータ18は、案内ローラ16の回転速度を変更可能となっている。ローラ駆動モータ18は、制御装置13と電気的に接続されている(図2参照)。本実施形態では、案内ローラ16の周速度と巻取パッケージPwの周速度との速度差によって、糸Yにテンションが付与される。
【0035】
テンションセンサ17は、糸走行方向において巻取パッケージPwと案内ローラ16との間に配置されており、糸Yに付与されているテンションを検知する。テンションセンサ17は、制御装置13と電気的に接続されており(図2参照)、テンションの検知結果を制御装置13に送る。
【0036】
制御装置13は、CPUと、ROMと、RAM(記憶部19)等を備える。記憶部19には、例えば、糸Yの巻取量や巻取速度、糸Yに付与するテンションの強さ等のパラメータが記憶されている。制御装置13は、RAM(記憶部19)に記憶されたパラメータ等に基づいて、ROMに格納されたプログラム従い、CPUにより各部を制御する。
【0037】
以上のようなリワインダ1において、給糸パッケージPsから解舒された糸Yが糸走行方向における下流側へ走行する。走行中の糸Yは、トラバースガイド33によって左右方向(トラバース方向)にトラバースされながら、回転中の巻取ボビンBwに巻き取られる(糸の巻取動作)。
【0038】
(トラバースガイドの移動制御)
次に、制御装置13によるトラバースガイド33の基本的な移動制御について、図3を用いて説明する。図3(a)は、トラバースガイド33のトラバース方向における位置と時間との関係を示すグラフである。図3(b)は、トラバースガイド33のトラバース方向における速度と時間との関係を示すグラフである。
【0039】
制御装置13の記憶部19(図2参照)には、トラバース幅に関する情報が記憶されている。制御装置13は、記憶部19に記憶された情報に基づいてトラバースモータ31を制御する。これにより、無端ベルト32が往復駆動され、トラバースガイド33がトラバース方向に往復走行する。
【0040】
図3(a)に示すグラフにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸はトラバースガイド33のトラバース方向における位置を示している。説明の便宜上、左右方向において、トラバースガイド33が往復移動する領域(トラバース領域)の中心よりも左方をグラフの縦軸の正方向とする。また、トラバース領域の中心よりも右方をグラフの縦軸の負方向とする。
【0041】
一例として、トラバース幅をWとしたとき、図3(a)に示すように、トラバースガイド33は、トラバース方向において-W/2~W/2の領域内を往復走行する。より具体的には、例えば、所定時刻(図3(a)のグラフの左端)において、トラバースガイド33が右端(-W/2の位置)に位置している。所定時間(Tとする)経過後に、トラバースガイド33は左端(W/2の位置)まで移動する。その後、トラバースガイド33は、右方に反転し、再び右端に到達する。これを繰り返すことにより、トラバースガイド33が往復走行する。
【0042】
図3(b)に示すグラフにおいて、横軸は時間を示しており、縦軸はトラバースガイド33のトラバース方向における速度を示している。以下、具体例について説明する。トラバースガイド33が右端(-W/2の位置)に位置しているとき、トラバースガイド33の速度はゼロである。制御装置13は、トラバースモータ31を制御して、トラバースガイド33を所定の速さ(Vとする)まで加速させる。その後、制御装置13は、トラバースガイド33が左端(W/2の位置)近傍に到達するまでトラバースガイド33の速度を一定に維持する。トラバースガイド33が左端近傍に到達したとき、制御装置13はトラバースモータ31を制御して、以下のような反転制御を行う。すなわち、制御装置13は、左方(トラバース方向における外側)へ走行しているトラバースガイド33を減速させてW/2の位置で右方(トラバース方向における内側)へ反転させる。その後、制御装置13は、トラバースガイド33を所定の速さまで再加速させる(図3(b)の-Vを参照)。本実施形態では、反転制御におけるトラバースガイド33の減速開始から再加速完了までの時間を、反転時間(図3(a)、(b)に示すTr)と呼ぶ。
【0043】
(プレシジョン巻及びクリーピング)
次に、プレシジョン巻及びクリーピングについて、図4(a)~(c)を用いて説明する。図4(a)、(b)は、プレシジョン巻の説明図であり、巻取パッケージPwを回転角度方向に展開した図である。説明の便宜上、図4(a)、(b)に示すように、巻取パッケージPwの紙面上端における回転角度を0度とし、紙面下端における回転角度を360度とする。図4(c)は、クリーピングの説明図である。
【0044】
まず、プレシジョン巻について説明する。プレシジョン巻とは、巻取ボビンBwの回転数とトラバースガイド33の単位時間あたりの往復移動回数との比(ワインド比)を一定に維持する巻き方のことである。これにより、巻取パッケージPwの巻径によらず、巻取ボビンBwの回転角度とトラバースガイド33のトラバース方向における位置との関係を制御できる。
【0045】
制御装置13の記憶部19(図2参照)には、例えば、巻取ボビンBwの回転角度とトラバースガイド33のトラバース方向における位置との関係に関する情報(テーブル及び計算式)が記憶されている。具体例として、記憶部19には、巻取ボビンBwの回転角度と、トラバースガイド33のトラバース方向における加速・減速開始位置及び反転位置等とが関連付けて記憶されている。また、記憶部19には、巻取ボビンBwの回転角度に関する情報とトラバースガイド33の位置に関する情報とに基づいて、トラバースガイド33の速度及び/又は加速度を算出するための計算式が記憶されている。制御装置13は、記憶部19に記憶された情報に基づいて巻取モータ22及びトラバースモータ31を制御する。本実施形態では、制御装置13は、巻取ボビンBwの回転数を一定に維持するように巻取モータ22を制御する。最初の例として、図4(a)に示すように、ワインド比を5としたとき、トラバースガイド33が1往復するごとに巻取ボビンBwが5回転する。つまり、図4(a)に示すように、トラバースガイド33が1往復するごとに、巻取パッケージPwが5回転した分だけ糸Yが巻き取られる。
【0046】
なお、上述したようにワインド比が整数である場合、巻取パッケージPwの表面において、糸Yが同じ経路上に繰り返し巻き取られる(いわゆるリボン巻が発生する)という問題がある。これを回避するため、実際には、図4(b)に示すように、ワインド比は、整数とわずかに異なる値(例えば5+α)に設定される。このようにすることで、プレシジョン巻では、リボン巻を回避するとともに、巻取パッケージPwの表面における糸Yの巻取径路を少しずつずらしながら、糸Yを平行に規則正しく巻き取ることができる。これにより、後工程における巻取パッケージPwからの糸Yの解舒性を向上させること、及び、巻取パッケージPwの用途に応じてパッケージ密度をコントロールしやすくすることができる。
【0047】
次に、クリーピングについて説明する。クリーピングとは、巻取パッケージPwの耳高を抑制することを目的として、糸Yの巻取動作中にトラバース幅を一時的に変更することである。耳高とは、トラバースガイド33の急激な反転が一般的に難しいこと等に起因して、巻取パッケージPwの表面の軸方向端部に巻かれる糸量が他の部分に巻かれる糸量よりも多くなることである。その結果、巻取パッケージPwの表面に段差ができやすくなり、糸Yの綾落ちが発生するおそれがある。その他、巻取パッケージPwの形状の悪化及び/又は巻取パッケージPwの密度の不均一化等の原因となりうる。
【0048】
上述したように、トラバース装置23は、トラバースガイド33が取り付けられた無端ベルト32をトラバースモータ31によって往復駆動するように構成されている。このため、制御装置13でトラバースモータ31を制御することにより、トラバースガイド33の反転位置を任意に変更可能である。制御装置13は、一例として、図4(c)に示すように、所定の第1幅(Wa)と、第1幅よりも小さい第2幅(Wb)との間でトラバース幅を切換可能(すなわち、クリーピング可能)に構成されている。以下では、トラバース幅が第1幅であるときを通常時とし、トラバース幅が第2幅であるときをクリーピング時とする。通常時のトラバースガイド33の反転位置とクリーピング時のトラバースガイド33の反転位置との距離は、ΔW(=(Wa-Wb)/2)である。以下、この距離をクリーピング量とも呼ぶ。制御装置13は、トラバースモータ31を制御することにより、クリーピング量を変更可能である。クリーピング量は、一般的に5~20mm程度であるが、これには限られない。また、制御装置13は、任意のタイミングでクリーピングを実行することができる。一例として、図4(c)に示すように、制御装置13は、トラバースガイド33が3往復する毎に1回クリーピングを実行することができる。クリーピングを行うことによって、クリーピングを行わない場合と比べて、巻取パッケージPwの軸方向端部において巻き取られる糸量を少なくすることができ、耳高を緩和できる。
【0049】
ここで、プレシジョン巻を行っている最中にクリーピングを実行しようとすると、以下の問題が発生しうる。具体的には、図5(a)、(b)及び図6(a)、(b)を用いて説明する。図5(a)は、クリーピング時に単純にトラバース幅を狭くした場合(詳細は後述)の、トラバースガイド33の速度と時間との関係を示す、図3(b)と同様のグラフである。図5(b)は、クリーピング時に単純にトラバース幅を狭くした場合の、巻取パッケージPwの表面における糸Yの経路を示す説明図であり、巻取パッケージPwの左端部の拡大図である。図6(a)は、クリーピング時に単純にトラバース速度を遅くした場合(詳細は後述)の、トラバースガイド33の速度と時間との関係を示す、図3(b)と同様のグラフである。図6(b)は、クリーピング時に単純にトラバース速度を遅くした場合の、巻取パッケージPwの表面における糸Yの経路を示す説明図であり、巻取パッケージPwの左端部の拡大図である。なお、図5(a)及び図6(a)に示すグラフにおいて、実線は通常時のトラバース速度を示しており、破線はクリーピング時のトラバース速度を示している。
【0050】
まず、クリーピング時に、通常時と比べて単純にトラバース幅を狭くした場合について説明する。単純にトラバース幅を狭くするとは、図5(a)に示すように、上述した反転時間(Tr)及び反転制御時以外におけるトラバース速度(V)を変更せず、反転制御の実行タイミングだけを変更することである。この場合、クリーピング時には、トラバースガイド33を通常時と比べて早めに反転させることのみによって、トラバース幅が狭くなる。これにより、クリーピング時に、通常時と比べてトラバース周期が短くなる。このため、プレシジョン巻が正常に行われず、巻取パッケージPwの表面における糸Yの経路は、図5(b)に示すようになる。すなわち、通常時に巻取パッケージPwに巻き取られる糸Yの一部である糸Y1、Y2は、巻取パッケージPwの端面Pw1上の点101、102でそれぞれ反転する。また、クリーピング時に巻取パッケージPwに巻き取られる糸Yの一部である糸Y3は、トラバース方向において点101、102よりもΔWだけ内側にある点103で反転する。点103は、仮に糸Y3が巻き取られるときのトラバース幅が通常時と同じである場合の反転位置(点104)よりも、回転角度方向において手前側に位置している。つまり、糸Y3は、クリーピングを行わない場合に糸Yが巻き取られる経路105から大きくずれた状態で巻き取られる。このため、巻取パッケージPwの表面の形状が乱れてしまう。
【0051】
次に、クリーピング時に、通常時と比べて単純にトラバース速度を遅くした場合について説明する。単純にトラバース速度を遅くするとは、図6(a)に示すように、反転時間(Tr)及び反転制御の実行タイミングを変更せず、反転制御時以外におけるトラバース速度を、通常時よりも遅くすることである。例えば、通常時の上記トラバース速度をVaとし、クリーピング時の上記トラバース速度をVbとすると、Vb<Vaである。この場合、通常時とクリーピング時とでトラバース周期が同じであるため、ワインド比も一定に維持される。この場合、図6(b)に示すように、クリーピング時に巻き取られる糸Y3は、点106で反転する。点106は、回転角度方向において、上述した点104と同じ位置にある。しかしながら、この場合、トラバース速度の変更に起因して、糸Yと巻取パッケージPwとのなす角度(綾角)が通常時とクリーピング時との間で互いにずれてしまう。つまり、通常時に巻取パッケージPwに巻き取られる糸Yの一部である糸Y1、Y2と、クリーピング時に巻取パッケージPwに巻き取られる糸Yの一部である糸Y3とが互いに平行でなくなる。このため、やはり巻取パッケージPwの表面の形状が乱れてしまう。そこで、本実施形態では、プレシジョン巻の実行中にクリーピングを行ってもワインド比の変動を抑制し、且つ、巻取パッケージPwの表面の形状が乱れることを抑制するために、制御装置13が以下のような制御を行う。
【0052】
(反転制御を用いた糸巻取方法の詳細)
制御装置13による上述した反転制御を用いた糸巻取方法の詳細について、図7(a)、(b)、図8(a)、(b)、図9(a)、(b)を用いて説明する。図7(a)は、トラバースガイド33のトラバース方向における位置と時間との関係を示すグラフである。図7(b)は、トラバースガイド33のトラバース方向における速度と時間との関係を示すグラフである。図8(a)は、トラバースガイド33のトラバース方向における加速度と時間との関係を示すグラフである。図8(b)は、後述する反転領域の幅とクリーピング量との関係を示すグラフである。図9(a)及び図9(b)は、巻取パッケージPwの表面における糸Yの経路を示す、図5(b)及び図6(b)と同様の説明図である。以下の説明において、巻取パッケージPwの回転数は一定であるものとする。
【0053】
まず、制御装置13は、通常時の反転制御(第1反転制御)として、以下の制御を行う。制御装置13は、第1反転制御において、トラバース方向における第1反転位置(図7(a)のWa/2)でトラバースガイド33を反転させる(第1反転工程)。第1反転制御において、トラバースガイド33の減速開始から再加速完了までの時間を第1反転時間(Tra)とする。また、制御装置13は、クリーピング時の反転制御(第2反転制御)として、以下の制御を行う。制御装置13は、第2反転制御において、トラバース方向における第2反転位置(図7(a)のWb/2)でトラバースガイド33を反転させる(第2反転工程)。第2反転制御において、トラバースガイド33の減速開始から再加速完了までの時間を第2反転時間(Trb)とする。また、トラバースガイド33が、減速開始から再加速完了までの間にトラバース方向において移動する領域を反転領域とする。第2反転制御における反転領域の幅を、例えばWtとする(図7(a)参照)。
【0054】
制御装置13は、図7(a)に示すように、第2反転時間を第1反転時間よりも長くする(Trb>Tra)。別の観点から説明すると、制御装置13は、第2反転制御時には、第1反転制御時と比べてトラバースガイド33を緩やかに加減速させる。より具体的には、第1反転制御時の第1反転時間内における加速度の最大値(Aaとする)と比べて、第2反転制御時の第2反転時間内における加速度の最大値(Abとする)を小さくする(図8(a)参照)。言い換えると、第1反転制御時の第1反転時間内における加速度の時間平均値と比べて、第2反転制御時の第2反転時間内における加速度の時間平均値を小さくする。
【0055】
これにより、通常時とクリーピング時との間でトラバース幅が互いに異なっていても、トラバース周期を等しくすることができる(図7(a)参照)。すなわち、ワインド比の変動を抑制できる。また、制御装置13は、反転制御時以外におけるトラバース速度を通常時とクリーピング時とで等しくする(図7(b)参照)。さらに、制御装置13は、第2反転制御において、トラバースガイド33の減速を開始させてから第2反転時間の半分の時間(Trb/2)が経過したときに、第2反転位置にトラバースガイド33を位置させるように、トラバースモータ31を制御する。
【0056】
上記のような制御を行うことにより、糸Yは、図9(a)に示すように巻取パッケージPwに巻き取られる。すなわち、糸Yのうち、クリーピング時に巻取パッケージPwに巻き取られる部分(糸Y3)は、点107でトラバース方向において反転する。点107は、回転角度方向において、上述した点104と同じ位置にある。また、第2反転制御時(すなわち、トラバースガイド33が上述した反転領域を移動しているとき)、糸Y3は、弧を描くように巻取パッケージPwに巻き取られる(図9(a)のハッチングされた領域201参照)。また、反転制御時以外におけるトラバース速度が通常時とクリーピング時とで等しいため、通常時とクリーピング時とで反転制御時以外における綾角が等しい。これにより、領域201よりもトラバース方向における内側では、糸Y3は、上述した経路105に沿って巻き取られる。つまり、本実施形態ではプレシジョン巻が正常に行われ、且つ、巻取パッケージPwの表面の形状が乱れることが抑制される。
【0057】
また、上述したように、トラバースガイド33の減速を開始させてから第2反転時間の半分の時間(Trb/2)が経過したときに、トラバースガイド33が第2反転位置に位置する。このため、糸Y3の反転部分は、巻取パッケージPwの中心軸を中心線とした対称形状となる。つまり、糸Y3の反転部分がきれいに形成される。
【0058】
また、制御装置13は、クリーピング量が大きいほど、トラバース方向における反転領域の幅を広くする(図8(b)参照)。例えば、クリーピング量がΔWよりも大きいΔW1である場合、制御装置13は、反転領域の幅をWtよりも広いWt1とする(図9(a)、(b)参照)。つまり、クリーピング時のトラバース幅が狭くなることによって第2反転時間が長くなった場合、第2反転制御中にトラバースガイド33がトラバース方向に移動可能な領域が広くなる。このため、トラバース方向における狭い領域内にトラバースガイド33が長時間位置し続けることが抑制される。また、この場合、糸Y3が巻取パッケージPwに巻き取られるときに描く弧が大きくなる(図9(b)の領域202参照)。
【0059】
以上のように、第2反転時間が第1反転時間よりも長い。このように、クリーピング時の反転時間を積極的に長くすることにより、クリーピング時のトラバースガイド33の移動周期を長くすることができる。これにより、トラバースガイド33の移動周期を通常時とクリーピング時とで等しくすることができる。したがって、ワインド比の変動を防止できる。
【0060】
さらに、このように、第2反転時間の調整によってクリーピング時のトラバース周期を調整できるので、反転以外のタイミングにおいては、トラバースガイド33の走行速度を通常時とクリーピング時とで等しくすることができる。このため、巻取パッケージPwの表面に巻き取られる糸Yの角度を揃えることができる。したがって、巻取パッケージPwの表面の形状が乱れることを抑制できる。
【0061】
また、クリーピング量が大きいほど、反転領域の幅が広い。つまり、クリーピング時のトラバース幅が狭くなることによって第2反転時間が長くなった場合、第2反転制御中にトラバースガイド33が移動可能な領域が広くなる。このため、トラバース方向における狭い領域内にトラバースガイド33が長時間位置し続けることを抑制できる。したがって、巻取パッケージPwの表面の狭い領域に糸Yが集中的に巻き取られることを抑制できる。
【0062】
また、トラバースガイド33の減速を開始させてからトラバースガイド33が第2反転位置に到達するまでの時間と、トラバースガイド33が第2反転位置を離れてから再加速が完了するまでの時間とを等しくすることができる。これにより、糸Yの反転部分の形状を、巻取パッケージPwの中心軸を中心線とした対称形状とすることができる(つまり、反転部分をきれいに形成することができる)。したがって、巻取パッケージPwの表面の反転部分の形状が乱れることを抑制できる。
【0063】
また、制御装置13が、巻取ボビンBwの回転角度とトラバースガイド33の位置との関係に関する情報に基づく制御を行う。これにより、例えば複雑な機械構造を用いた制御を行う場合と比べて、ワインド比を一定に維持しつつクリーピングも行うという複雑な動作を容易化できる。また、当該情報を書き換えることで、第2反転制御時のトラバースガイド33の位置及び速度等の調整を容易に行うことができる。
【0064】
また、トラバースモータ31が正転及び逆転駆動可能に構成されている。これにより、トラバースモータ31の正逆駆動によってトラバースガイド33に往復走行を行わせることができる。このため、トラバースガイド33の反転の位置及びタイミング等を制御部によって細かく制御できる。したがって、クリーピングの細かい制御を容易に行うことができる。
【0065】
また、無端ベルト32のトラバースガイド33が取り付けられた部分を直線状に張って往復駆動することにより、トラバースガイド33を容易に直線的に往復走行させることができる。したがって、巻取パッケージPwの表面に糸Yを規則正しく巻き取りやすくすることができる。
【0066】
次に、前記実施形態に変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0067】
(1)前記実施形態において、制御装置13は、第2反転制御時には、第1反転制御時と比べてトラバースガイド33を緩やかに加減速させるものとしたが、これには限られない。例えば、図10(a)、(b)及び図11に示すように、制御装置13は、第2反転制御時の第2反転時間内における加速度の最大値を、第1反転制御時の第1反転時間内における加速度の最大値と等しくしても良い。そして、制御装置13は、トラバースガイド33をトラバース方向における第2反転位置で所定時間停止させた後に再加速させても良い。このようにして、第2反転時間を第1反転時間よりも長くしても良い。前記実施形態における第2反転制御をA制御とし、上記変形例(図10(a)、(b)及び図11)における第2反転制御をB制御としたとき、制御装置13は、以下のような制御を行っても良い。すなわち、制御装置13は、巻取動作中の第2反転制御としてA制御のみを行い、又はB制御のみを行っても良い。或いは、制御装置13は、巻取動作中にA制御とB制御とを組み合わせて行っても良い。より具体的には、制御装置13は、第2反転制御としてA制御及びB制御を所定のパターンで繰り返し行うようにしても良い。繰り返しの例として、制御装置13は、A制御とB制御とを交互に行う等しても良い。
【0068】
(2)前記までの実施形態において、クリーピング量が大きいほどトラバースガイド33のトラバース方向における反転領域の幅を広くするものとしたが、これには限られない。反転領域の幅は、クリーピング量によらず一定でも良い。
【0069】
(3)前記までの実施形態において、制御装置13は、第2反転制御において、トラバースガイド33の減速を開始させてから第2反転時間の半分の時間が経過したときに、第2反転位置にトラバースガイド33を位置させるように、トラバースモータ31を制御するものとした。しかし、これには限られない。例えば、制御装置13は、第2反転制御において、トラバースガイド33を急減速させ、その後緩やかに再加速させる等の制御を行っても良い。或いは、制御装置13は、第2反転制御において、トラバースガイド33を緩やかに減速させ、その後急加速させる等の制御を行っても良い。
【0070】
(4)前記までの実施形態において、制御装置13の記憶部19には、巻取ボビンBwの回転角度とトラバースガイド33のトラバース方向における位置との関係に関する情報として、テーブル及び計算式の両方が記憶されているものとしたが、これには限られない。例えば、記憶部19には、巻取ボビンBwの回転角度に基づいてトラバースガイド33の位置及び/又は速度等を算出するための計算式のみが記憶されていても良い。つまり、制御装置13は、巻取動作中に、巻取ボビンBwの回転角度及び計算式に基づいて、トラバースガイド33の位置及び/又は速度等を常時算出しても良い。或いは、記憶部19には、巻取ボビンBwの回転角度と、トラバースガイド33の位置、速度及び加速度との関係に関する情報として、テーブルのみが記憶されていても良い。
【0071】
(5)前記までの実施形態において、トラバースガイド33は無端ベルト32に取り付けられているものとしたが、これには限られない。例えば、揺動駆動されるアームの先端部にトラバースガイド33が取り付けられていても良い(特開2007-153554号公報等を参照)。或いは、トラバースガイド33は、リニアモータ等によって往復駆動されても良い。
【0072】
(6)前記までの実施形態において、トラバースガイド33は正逆駆動可能に構成された駆動源によって駆動されるものとしたが、これには限られない。例えば、リワインダ1は、一方向に回転駆動するモータを駆動源とするカム式のトラバース装置を備えていても良い。
【0073】
(7)前記までの実施形態において、巻取ボビンBwの回転数は一定であるものとしたが、これには限られない。すなわち、制御装置13は、プレシジョン巻を行うためにワインド比を一定に保つように巻取モータ22及びトラバースモータ31を制御すれば良く、巻取動作中に巻取ボビンBwの回転数を変更しても良い。
【0074】
(8)本発明は、リワインダ1に限られず、様々な糸巻取機に適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 リワインダ(糸巻取機)
13 制御装置(制御部)
19 記憶部
22 巻取モータ(ボビン駆動部)
31 トラバースモータ(ガイド駆動部)
32 無端ベルト(ベルト部材)
33 トラバースガイド
Bw 巻取ボビン(ボビン)
Pw 巻取パッケージ(パッケージ)
Y 糸
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11