(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】電気化学的デバイスの容量低下の加速の予測
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240909BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240909BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240909BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240909BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240909BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20240909BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/387
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022166355
(22)【出願日】2022-10-17
【審査請求日】2022-12-16
(32)【優先日】2021-10-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】504462489
【氏名又は名称】エレクトリシテ・ドゥ・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マリオン・フールマン
(72)【発明者】
【氏名】小林 陽
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/157132(WO,A1)
【文献】特開2016-053564(JP,A)
【文献】特開2016-197955(JP,A)
【文献】特開2017-129493(JP,A)
【文献】国際公開第2020/033343(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
H01M 10/48
G01R 31/367
G01R 31/382
G01R 31/385
G01R 31/387
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学的デバイスの
容量低下の加速を予測するための方法であって、
前記電気化学的デバイスの端子間の電圧(V)を前記電気化学的デバイスの電荷の状態(Q)に関連付ける関
数を取得するとともに、前記電気化学的デバイスの容量(Qt)の測定値を取得するステップと、
前記関数の導関数
(dV/dQ)を計算して
、前記関数の反曲による、前記導関数
(dV/dQ)のピークを特定するステップであって、前記反曲は前記電気化学的デバイスのアノード容量を表す量(Qa/2)を特徴付けている、ステップと、
前記ピークの幅(σ)を推定し、前記ピーク
の前記幅
(σ)と前記アノード容量を表す前記量
(Qa/2)との組合せを、前記電気化学的デバイスの容量(Qt)の前記測定値と比較するステップ
であって、
前記組合せは2*(Qa/2)-N*σ-εによって与えられ、
(Qa/2)は、前記電気化学的デバイスのアノードの容量(Qa)の半分に対応する値であり、
Nは、前記電気化学的デバイスのタイプに基づいて選択される自然数であり、
σは、前記ピークの前記幅の推定値に対応し、前記ピークにガウス分布をフィッティングして前記ガウス分布の幅を測定することによって推定され、
εは選択された安全閾値である、ステップと、
前記組合せが前記電気化学的デバイスの容量未満であれば、前記電気化学的デバイスの
容量低下の加速を予測するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
前記導関数
(dV/dQ)が計算される前記関
数は前記電気化学的デバイスの電荷の前記状態(Q)の関数としての電圧(V)の変動であり、前記アノード容量を表す前記量
(Qa/2)は、前記ピークの
頂点における前記電気化学的デバイスの電荷の前記状態(Q)によって与えられる、前記電気化学的デバイスのアノードの容量
(Qa)の半分である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組合せが前記電気化学的デバイスの容量未満であれば、前記電気化学的デバイスのアノードでの金属堆積の形成によって特徴付けられる、前記電気化学的デバイスの
容量低下がさらに予測される、請求項
1に記載の方法。
【請求項4】
前記電気化学的デバイスは少なくとも1つのリチウム電池を含み、前記アノードで形成される前記
金属堆積は金属リチウムの堆積である、請求項
3に記載の方法。
【請求項5】
前記アノードは黒鉛を含む、請求項
3に記載の方法。
【請求項6】
前記組合せが前記電気化学的デバイスの容量未満であれば、警告信号を生成することをさらに含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記警告信号は前記電気化学的デバイスの寿命の終了が迫っていることを示す、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
前記電気化学的デバイスの
容量低下の加速の前記予測は、前記電気化学的デバイスの測定された容積の、閾値を超える増加によって確証される、請求項
1に記載の方法。
【請求項9】
電気化学的デバイスの
容量低下の加速を予測するためのデバイスであって、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法を実施するために前記電気化学的デバイスに接続された少なくとも1つの処理回路を含む、デバイス。
【請求項10】
命令であって、前記命令が処理回路のプロセッサによって実行されるとき、請求項1から
8のいずれか一項に記載の方法を実施するための、命令を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー貯蔵およびエネルギー貯蔵デバイスの寿命の推定の分野内にある。
【背景技術】
【0002】
本発明は、
再充電可能電池、
リチウムイオン電池、
固体リチウムイオン電池、
ナトリウムイオン電池、
固体ナトリウムイオン電池、および/または他のもの
などの、エネルギーを貯蔵するための任意のタイプの電気化学的デバイスおよび/またはシステムに関する。
【0003】
これらのデバイスは、スマートフォンもしくはラップトップ用に、または電気自動車(EV)用に、または太陽もしくは風エネルギーから電気エネルギーを生成するためのシステム(BES)、または他のもの用に意図され得る。
【0004】
したがって、本発明は、電気エネルギーを貯蔵するための電気化学的デバイスがあるすべてのデバイスおよびシステムに適用することができる。
【0005】
このようなデバイスおよび/またはシステムにおいて、特に電圧測定および電圧モニタリングを用いて、エネルギーを貯蔵するための電気化学的デバイスの容量の「急速な低下」(以降ニーポイントと呼ぶ)を予測する必要性がある。
図1(パート4)の右下を参照すると、ニーポイントはより具体的に容量の低下の加速を指しており、典型的には、これは、図示の例に示すように、使用のサイクル(またはより一般的には使用の持続期間)の数の関数として容量の減少の勾配の変化に関連する。この容量は図においてQtと示され、電気化学的デバイスの総(すなわち最大)容量を表す。これは一般的にはカソードの容量に対応し、これはデバイスが新しいとき限定要因である。特に
図1-4において、勾配の絶対値が、前述のニーポイントに対応する所与のサイクルにおいて増加することが見られる。
【0006】
今まで、この容量の低下は特にリチウム電池において観察され、しばしばリチウムの金属堆積(または「Liめっき」)に関連付けられるが、このような容量の低下は、より一般的にはその2つの電極(アノードおよびカソード)用にインターカレーション材料を用いる電池において起こり得る。
【0007】
再充電可能なLiイオンタイプの電気化学的貯蔵デバイスは正(カソード)および負(アノード)の電極での可逆反応に基づいている。いわゆる「インターカレーション」反応は、充電/放電動作中、高い可逆性を有するため、Liイオン電池の開発の中心である。
【0008】
「インターカレーション」反応中、標的イオン(たとえばリチウムまたは場合によりナトリウム)は、デバイスの全動作について、金属状態ではなく、イオン状態でカソードとアノードとの間を移動する。たとえば、リチウムイオン電池を充電する場合、Liイオンがカソードから解放され(脱インターカレーションまたは脱挿入反応)、アノードで挿入される(インターカレーションまたは挿入反応)。放電中、反対の反応がカソードで(インターカレーション)およびアノードで(脱インターカレーション)起こる。このような「イオンの」状態での反応により、その可逆性および再充電可能な電気化学的デバイスの適切な動作を保証することが可能になる。
【0009】
金属堆積が起こらない限り、このような反応は可逆的である。換言すれば、「金属」状態での堆積反応が起これば(「Liめっき」)、これは不可逆反応を誘発する。デバイスの性能を低下させてその容量をかなり低減することに加えて、「Liめっき」はリチウムデンドライトの形成を促進し、これは内部の短絡およびしたがって安全上の問題を引き起こす可能性がある。この理由で、再充電可能な電気化学的貯蔵デバイスの動作中、できる限りいかなる金属堆積をも低減することが重要である。
【0010】
黒鉛のおよび金属リチウムの電位の近接のため、主に黒鉛アノード上に金属リチウムの局所的堆積が起こる可能性がある。
【0011】
電極のインターカレーション容量は、イオン種がアクセス可能な結晶学的サイトの数に基づいて、または金属合金の場合はイオン種とホスト金属との間の比率に基づいて定義される。各電極によって受け入れられるイオンの最大量は、したがってその理論的容量に対応する。過度のイオンがアノードに向かって移動すると(すなわち利用可能なサイトより多くのイオン)、これらのイオンはもう構造内へ挿入されず、金属の形態で黒鉛の表面上に堆積する。したがって、再充電可能な電気化学的貯蔵デバイスはしばしばアノード側で過度の容量を備えて設計される。
【0012】
デバイスの動作中、金属堆積が起こると、重大な不可逆反応が起こって容量の急速な減少につながる。
図4における星によって表された、前述のニーポイントに対応する反曲点がこのときデバイスの経年曲線上に観察される。金属めっき(たとえばリチウムで)のリスクがある領域を
図4(右下パート4)においてグレーで示す。より一般的には、カソード容量の損失、液体電解質の損失、または他のもの(たとえばリチウムイオン電池以外のデバイスにおける)のような、他の劣化メカニズムで、ニーポイントが観察されることもある。しかしながら、金属リチウムの堆積によって誘発されるニーポイントはデバイスの危険な状態(特に発火のリスク)にもつながる。したがって、金属めっきによるニーポイントは動作中に回避すべき最も重要な事象である。
【0013】
金属リチウムの堆積に続くニーポイントの出現の一例を以下に説明する。
【0014】
再充電可能な電気化学的貯蔵デバイスの電圧プロフィールVは、その電荷の状態(図においてQと示す)の関数として、カソードとアノードとの間の電位差によって決定される。これは、リチウム金属の堆積に関連付けられるニーポイントを予測することを可能にする良好な指標を構成する。分析の典型的な一例を
図1-1に示す。「a」と示す曲線は、充電中のアノード電圧プロフィールを表し、曲線「c」はカソード電圧プロフィールを表す。曲線「b」はデバイスの電圧を表し、これは曲線「c」-「a」に対応する。デバイスの可逆容量はこのとき、Q1と示す重複領域に対応する。この例において、カソード側に容量の損失がないと想定する。
【0015】
劣化/経年後、デバイスの可逆容量は
図1-2においてQ2へ減少する。この場合、アノード電圧はΔQ2だけ右に移行して(曲線の移行)減少する(曲線が狭くなることで)。ここでアノードの可逆容量は減少したが、これは依然としてデバイスの容量(カソードの容量によって限定される)より大きいので、デバイスの総容量に(まだ)影響がない。
【0016】
さらなる経年後、可逆容量は、
図1-3に示すように、Q3へ減少する。この場合、アノードの可逆容量(これは限定する電極になって今やデバイスの総容量を決定する)はカソードの容量より少なくなる。したがってアノードでの利用可能な挿入サイトと比較して過度のリチウムイオンがあり、アノード電位は0Vに達し、金属堆積の重大なリスクを誘発する。
【0017】
図1-4は、前述のタイプの電気化学的デバイスの充電/放電サイクル(または動作時間)の関数として容量Qtの典型的な傾向を示す。Q1とQ2との間で、容量の損失の勾配は、ΔQ2がとる値によって支配されるため一定である。次いで、容量の損失の勾配は変化して反曲点を形成し、これがニーポイントである。したがってこの場合、容量の損失は今やアノードの容量の損失によって支配される。これは、アノードの劣化によるニーポイントの出現を示す典型的な一例である。
【0018】
金属めっきを回避するため、アノードは通常その容量がカソードのそれより大きくなるように設計されるため、実際、不可能でなくても、デバイスの電圧の変化に基づいて直接アノードの容量を測定することは困難である。
【0019】
アノード容量を推定するため、電圧対容量(dV/dQ)の導関数の分析(差分解析)が一般的に用いられる。
図2を参照すると、これは太い黒線で描かれた変動dV/dQ(各グラフ1から3の右にある)である。たとえば、アノード材料(典型的には黒鉛)は、リチウムイオンのインターカレーションおよび脱インターカレーションの間、平坦域からなる電圧プロフィールを示す。
図2に示すように、最も明確な平坦域はアノード容量の半分、Qa/2において観察される。アノードが完全に脱リチウムの状態で(リチウムイオンが黒鉛の構造にほとんど存在していないとき)充電が始まると想定される。したがって、充電の開始とdV/dQの最高ピークとの間で測定される容量がQa/2である。アノードの可逆容量Qaはこのとき、
図2-1に示すように、このピークの位置から、Qa=2×Qa/2によって推定することができる。
【0020】
図2-2におけるような劣化の後、dV/dQ分析を用いてアノード容量の損失を推定することができる。このとき、dV/dQ分析および劣化後のアノードの容量の推定を用いることによってニーポイントの出現を予測することが可能である。充電/放電サイクルまたは使用の日数の関数としてアノードの可逆容量をプロットすることによって、Qa容量の傾向を外挿してデバイスの容量との交点を見出すことによってニーポイントを予測することが可能である。換言すれば、ニーポイントは、デバイスの総容量Qtがアノードの容量Qaと等しくなる点に対応する(限定する電極はもうカソードではなくアノードになる)。
【0021】
ニーポイントの出現のこの推定は、2つのピークの間の容量に基づいて、アノードの半分の容量Qa/2の値を得ることである。しかしながら、実際、ニーポイントは、この技術によって予測される前に現れることが起こり得るということが経験により示されている。換言すれば、アノードの可逆容量Qaがデバイスの容量Qtより依然として大きいときにニーポイントが現れることがある。したがって、実際の使用のため、より正確にニーポイントを予測するため、追加の考慮を実施しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明はこの状況を改善する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
この目的のため、これは、電気化学的デバイスの容量低下の加速を予測するための方法を提案し、この方法は、
電気化学的デバイスの両端子にわたる電圧(V)を電気化学的デバイスの電荷の状態(Q)に関連付ける関数、および電気化学的デバイスの(総)容量の測定値を取得するステップと、
上記関数の導関数を計算して、上記関数の反曲による、上記導関数のピークを特定し、電気化学的デバイスのアノード容量を表す量(Qa/2)を特徴付けるステップと、
ピークの幅(σ)を推定し、ピーク幅とアノード容量を表す量との組合せを、電気化学的デバイスの容量(Qt)の測定値と比較するステップと、
上記組合せが電気化学的デバイスの容量未満であれば、電気化学的デバイスの容量低下の加速を予測するステップと
を含む。
【0024】
このように、本発明は、dV/dQのような導関数の曲線のピークの広がりの位置および程度に基づいて前述のニーポイントを予測することを提案し、この広がりは、電気化学的デバイス内の不均一性の程度を表している。この不均一性の程度を分析することによって、ニーポイントの出現を予測すること(およびさまざまな用途についてそうすること)が可能である。
【0025】
一実施形態において、その導関数が計算される関数(dV/dQ)は電気化学的デバイスの電荷の状態(Q)の関数としての電圧(V)の変動であり、アノード容量を表す量は、前述のピークの横座標によって与えられる、電気化学的デバイスのアノードの容量の半分(Qa/2)である。
【0026】
もちろん、あるいは、相互関数Q(V)(関数V(Q)という上の選択の代わりに)の導関数dQ/dVによって与えられる特異点を見出すことも可能である。
【0027】
一実施形態において、ピークの幅(σ)は、ピークにガウス分布を調整(または「フィッティング」)してこのガウス分布の幅を測定することによって推定される。
【0028】
ガウス分布の幅σは典型的にはガウス分布の基部(x軸との交点)によって与えられる、またはたとえばその中間高さでの幅から、または他の方法で推定することができる。
【0029】
もちろん、特にガウシアンフィットについて変形がある(ベツィエ曲線フィッティング、または他のもの)。
【0030】
一実施形態において、前述の組合せは2*(Qa/2)-N.σ-εによって与えられ、ここで、
(Qa/2)は、電気化学的デバイスのアノードの容量の半分に対応する値であり、
Nは1以上の自然数であり、
σはピークの幅の推定値に対応し、
εは選択された安全閾値である(たとえば電気化学的デバイスの総容量Qtのパーセンテージに等しく、たとえばQtの10%)。
【0031】
整数Nはたとえば動いている電気化学的デバイスのタイプに基づいて選択することができる(たとえばN=3)。
【0032】
一実施形態において、前述の組合せが電気化学的デバイスの容量未満であれば、電気化学的デバイスのアノードでの金属堆積の形成によって特徴付けられる、電気化学的デバイスの加速された物理的劣化がさらに予測される。
【0033】
たとえば、電気化学的デバイスは少なくとも1つのリチウム電池を含むことができ、アノードにおいて形成される堆積は金属リチウムの堆積である。
【0034】
ナトリウムイオン電池の場合、ナトリウム堆積がまたアノードにおいて形成され得る。
【0035】
この容量の劣化の加速はより一般的には、黒鉛(純粋なまたは合金の)を含むアノードデバイスにおいて起こり得る。
【0036】
このような状況は電気化学的デバイスの死が迫っているサインである。
【0037】
特に総容量Qtが2*(Qa/2)-N.σに等しくなるとき、このような終わりに達する可能性がある。したがって上の項εはユーザに十分に前もって警告するのに役立つということが理解されよう。
【0038】
また、一実施形態において、この方法は、前述の組合せが電気化学的デバイスの容量未満であれば、かつ特に安全閾値εによって表されるマージンに届き始めれば、警告信号を生成することをさらに含む。
【0039】
特に、警告信号(または第2の警告信号)は電気化学的デバイスの寿命の終了が迫っていることを示すことができる(特にマージンεを超えた場合)。
【0040】
一実施形態において、電気化学的デバイスの容量の劣化の加速の前述の予測は、電気化学的デバイスの測定された容積の、閾値(これは事前定義する、または相対的とすることができる)を超える増加によって(以下でいくつかの実施形態において提示するように)確証することができる。
【0041】
本発明はまた、電気化学的デバイスの容量の劣化の加速を予測するためのデバイスであって、上に提示した方法を実施するために電気化学的デバイスに接続された少なくとも1つの処理回路を含むデバイスに関する。
【0042】
図8を参照すると、予測デバイスDISの処理回路は、
電気化学的デバイスBATTからの信号の入力インターフェースINであって、その充電またはその放電中、これらの信号は、電気化学的デバイスBATTの両端子にわたって印加される電圧V(ボルトで)および充電/放電Q(アンペア時間で)である、入力インターフェースと、
電圧および充電/放電値、ならびに上の方法を実施するためのコンピュータプログラムからの命令データを少なくとも一時的に格納することができるメモリMEMと、
メモリMEMと協働し、特に上に定義した方法の計算および比較ステップを実行するため、メモリに格納された命令を特に読み出すことができるプロセッサPROCと、
プロセッサPROCと協働して、人間と機械の間のインターフェースによって再生されるように意図された可能な警告信号ALTER(スクリーン上に表示される、または音声信号として再生される)を送達する出力インターフェースOUTと、
を含むことができる。
【0043】
処理回路は、総容量Qtが2*(Qa/2)-N.σに等しくなるとき(したがってたとえばマージンεを超えるとき)、電気化学的デバイスを隔離してその動作(充電または放電)を止めるための回路ブレーカ(
図8に表さず)を含むこともできる。
【0044】
本発明はまた、命令であって、これらの命令が処理回路(たとえば
図8に示すタイプの)のプロセッサによって実行されるとき、上の方法を実施するための、命令を含むコンピュータプログラムに関する。
【0045】
他の態様によれば、このようなプログラムが格納される、非一時的、コンピュータ可読記憶媒体が提供される。
【0046】
以下の詳細な説明を読み、添付の図面を分析すると、他の特徴、詳細、および利点が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【
図1】たとえばデバイスの容量の勾配の変化につながるアノード容量の低下から導出される、ニーポイントの出現の原理を示す図である。
【
図2】導関数dV/dQの分析によるニーポイントの予測を示す図である。
【
図3】早期のニーポイントにつながる容量の不均一的損失を示す図である。
【
図4】導関数dV/dQを分析することおよびガウス分布σ(σ1、σ2、σ3)を用いることによる、ニーポイントの予測を示す図であり、この分布は電気化学的デバイスの劣化を特徴付けている(およびこれと共に増加している)。
【
図5】サイクルの数の関数としての、加速された容量の損失による、デバイスの正常状態(SoH)の劣化を示す図であり、ここで2つの劣化の状態(ニーポイントの前のポイントに対応する「例1」およびニーポイントの後のポイントに対応する「例2」)が、SoHが100%で固定されている参照状態から始まった後、4000サイクル後に出現している。
【
図6】経年前後の電気化学的デバイスの総容量(Qt)およびアノードの容量(Qa)を示す図であり、縦棒は、ポイントQa/2でdV/dQ曲線のガウシアンフィッティングによって推定される容量の分布σに対応する。
【
図7】参照状態に近い状態(図の頂部)についてのdV/dQピークと、同じ電気化学的デバイスの、より劣化した状態(
図7の底部)についてのこのピーク(およそ50%)の広がりのため、分布の幅σをもたらしていることを比較的に示す図である。
【
図8】上述のような予測デバイスの一例を概略的に提示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
まず
図3を参照してデバイスの不均一性の程度を説明するが、
図3は容量の低下の前後のアノード電圧およびdV/dQ曲線に対する焦点を示している。
【0049】
容量の均一な損失の場合、アノードはその全表面にわたって均一に劣化する。この場合、電極の電圧プロフィールはデバイスのすべてのポイントにおいて同一である。したがって、
図3-2に示すように、デバイスの経年後にdV/dQ曲線の広がりがない。
【0050】
他方、アノードの容量の損失が不均一(領域に応じて大きな劣化がより多いまたは少ない)であれば、電極の電圧は場所ごとに異なる。いくつかの領域が依然として高容量を保持する一方、他の領域がより多くの容量を失う。この状況は
図3-3に示されている。両方の場合に勾配変化があるが、劣化が不均一であれば、ニーポイントの到着を良好な信頼性で予測するため、アノード電圧の変動性を考慮に入れることが好ましい。このタイプの不均一な劣化は、反応表面が大きいため、および/または電子化学的デバイス内の端子状態における変動が激しいため、大容量デバイスに起こるが、サイズの小さいデバイスでも起こり得る。その表面全体にわたるアノードの電圧の大幅な変動により、対応するdV/dQ曲線はピークの広がりを示す(
図7)。
【0051】
本発明は次いで、
図4に示すように、デバイス内の不均一性の程度を用いることによってニーポイントの出現を予測することを提案する。不均一性の程度は、アノードの容量の半分、Qa/2に対応するピークを調整することによって推定することができる。ピークはガウス曲線によって外挿することができる。
【0052】
図4-4は、たとえばアノードでの金属の堆積に関連付けられるニーポイントのリスクを予測するこの実施形態の実装を示す。既存の先行技術において、ニーポイントは、単に
図4-4においてグレーの点線の星によって表されるQa/2の値(dV/dQ曲線上の対応するピークの位置)によって推定される。本発明において、金属堆積のリスクは、
図4-4においてグレーの円錐形の領域によって表される、ガウシアンピークの分布(dV/dQ曲線上の対応するピークの位置および幅)を用いて検出することができる。この方法で推定されるニーポイントのリスクは、
図4-4において黒い星によって示される、線Q1-Q2の外挿とグレー領域の交点に対応する。このように本発明の意味内でのニーポイント(黒い星によって示される)の予測は先行技術のそれ(グレーの星によって示される)より早くなり得るということが理解される。
【0053】
具体的な一例において、一組のクラス200Whのリチウムイオン電池をサンプルとして用いた。カソードは層状酸化物で、アノードは黒鉛で構成した。10℃および1C(Cは電池の名目上の容量に従って印加される電流である)でサイクル試験を行った。サイクルの前後に25℃、C/2およびC/25で電池容量を測定した。完全同等サイクルの数の関数としてのC/2での容量曲線を
図5に示す。dV/dQ曲線(25℃およびC/25で)も計算し、サイクルの前(参照例)および後、より正確にはニーポイントの直前(第1の実施例)、およびニーポイントの直後(第2の実施例)にガウシアン曲線を用いてフィッティングした。ガウシアンフィットの分布εを用いて、金属リチウム堆積のリスクの前のアノード容量マージン(カソードの容量と比較したアノードでの余剰容量)を推定した。
【0054】
アルゴン下のグローブボックスにおいて、サイクルの前に第1の電池を、サイクルの後に第2の電池を除去した。
【0055】
参照例において、正常状態SoHが100%でサイクル前の初期電池容量を定義した。Qa/2値から推定されたアノード容量は、C/25で測定された電池容量と比較して120.6%であった。ガウシアンフィットから推定されたアノード容量の分布は4.8%であった。結果として、リチウム堆積のリスクに対するアノード容量マージンは15.8%と推定された。したがって、アノード容量マージンは十分であり、Li金属堆積の、およびしたがって加速されたデバイスの劣化のリスクは非常に限定的である。
【0056】
また、参照サンプルの場合、電池の除去時、アノードの表面上に金属堆積が確認されなかった。
【0057】
第1の実施例において、4182の完全同等サイクルの後、C/2での測定されたSoHは69.6%であり、C/25での測定されたSoHは79.4%であった。Qa/2値から推定されたアノード容量は、サイクル前のC/25での電池容量と比較して99.0%であった。ガウシアンフィットから推定されたアノード容量の分布は19.2%であった。結果として、リチウム金属堆積のリスクに対する容量マージンは0.4%と推定された。
【0058】
この小さいマージンから、金属リチウム堆積の高いリスクのために、劣化の加速およびニーポイントの観測がおそらく起ころうとしていると予測することがすでに可能である。ニーポイントはしたがって電池容量の損失の実際の加速の前でも予測することができる。
【0059】
金属リチウム堆積の現象による電池のこの劣化には一般に電池の容積の変化が伴う。ここで、典型的には、電池の平均の厚さは、参照電池のそれと比較して122.9%であった(約23%の容積の増加)。
【0060】
第2の実施例において、4206の完全同等サイクルの後、C/2での測定されたSoHは65.9%であり、C/25での測定されたSoHは78.0%であった。Qa/2値から推定されたアノード容量は、サイクル前のC/25で測定された電池容量と比較して92.8%であった。ガウシアンフィットから推定された容量分布は16.6%であった。結果として、リチウム堆積のリスクに対する容量マージンは-1.8%と推定され、Li金属堆積がすでに起こったという高いリスクがあることを示していた。
【0061】
電池の平均の厚さは、参照電池のそれと比較して134.6%であった(およそ35%の容積の増加)。
【0062】
この電池の分解中、アノードの表面上に粉末の形態の堆積が観察された。堆積した粉末はエタノールとの反応によってリチウム金属と特定され、Liめっきメカニズムがすでに起きたことが確認された。
【0063】
これらの結果は、金属リチウムの堆積およびしたがってニーポイントをその実際の出現前に予測することが、典型的にはここで第1の実施例において可能であることを示している。
【0064】
本発明という手段によって、ポイントQa/2でdV/dQ曲線の分布を分析することによって、アノード容量の変動を考慮に入れる。対応するピークの幅(たとえば中間高さでの)は、
図6において参照例(SoH=100%での)および例1および2についてのデバイス内でのアノード容量の変動性を特徴付けているエラーバーによって表されている。例1の場合、エラーバーの下限は電池の容量に近い。これは将来のリチウム金属堆積の高いリスクを示す。第2の実施例の場合、エラーバーの下限は電池容量未満になり、リチウム金属堆積メカニズムを引き起こした(およびニーポイントを超えた)というリスクが非常に高いことを示している。電池を開けて観察されるリチウム堆積により、このメカニズムが実際に起きたことが確認される。したがって、本発明の意味内の分析は、実際の場合においてリチウム堆積を特定すること、とりわけ、上述の例1に従って、所与の正常状態でのアノードの容量の分布を分析することによってリチウム堆積の(およびしたがって容量の損失の加速の)リスクの程度を予測することに適している。
【0065】
もちろん、本発明は、上に例として提示した実施形態に限定されない。
【0066】
たとえば、これはdV/dQの変動を観察することに限定されない。充電および放電中に電池によって生成される熱流束(P)を、デバイス内の不均一性の程度の指標として用いることもできる。Pを分析する場合、dV/dQの代わりにdP/dQに基づいて、同様の方法を適用することができる。dQ/dVおよびdQ/dPのような、逆差分解析を適用することも可能である。同様の分析のため、電圧と熱流束の組合せ、dV/dPおよびdP/dVも用いることができる。
【0067】
本発明は、上に提案した手順を電池の厚さの変化に適用することによって実行することもできる。たとえば、アノード容量分布の進展と電池厚さの進展を組み合わせることによって適切な指標を得ることができる。厚さ追跡を含めることによって、ニーポイントリスク予測の精度を改善することができる。
【0068】
さらに、上の実験的な例はリチウムイオン電池を用いている。しかしながら、提案された発明はこのタイプの電池に限定されない。たとえば、ナトリウムイオン電池の場合、同様の黒鉛アノードが用いられる。同じ手順を、したがってナトリウムイオン電池に適用することもできる。
【0069】
提案された発明は、ケイ素および/または錫のような合金タイプのアノードを備えた電池に適用することもできる。合金タイプのアノードの場合、電池を充電または放電するときに明確なdV/dQのピークがないので、dQ/dV曲線を用いて電池容量分布を推定することが好ましい。
【0070】
本発明の意味内の分析は、ニーポイントのリスク、およびこれから、電気化学的デバイスの寿命を推定することに効果的であることを、得られた結果は示している。
【0071】
実際、本発明の意味内でのニーポイントのこの予測は、電気化学的デバイスの有効寿命を評価することに適用することができる。既存の先行技術において、一次関数または他の数学的な関数によって実際の容量曲線を外挿すること(供用されてからのサイクルの数または日数に基づいて)がしばしばデバイスの残存寿命を推定するために用いられる。この外挿方法では、ニーポイントに基づいて容量の損失の加速を推定することが可能でない。ニーポイントの出現のリスクの程度を推定することによって、電気化学的デバイスの実際の残存寿命を推定することが可能である。
【0072】
このように、たとえば、本発明の手段によって、電気自動車のユーザに電池の正常状態のより正確な推定および電池の寿命の予測を提供することが可能である。本発明により、電気自動車の電池の再売却価値を、たとえば定置型貯蔵システム内でのその次の寿命を視野に入れてより正確に決定することが可能になり得る。また、メンテナンスまたは交換が必要であるとき、オペレータに警告すること(特に事故のリスクの前に)も可能になる。