(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】高処理速度でBOPPフィルムを製造するためのポリマー
(51)【国際特許分類】
C08F 10/06 20060101AFI20240909BHJP
C08F 2/01 20060101ALI20240909BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20240909BHJP
C08K 3/26 20060101ALI20240909BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20240909BHJP
C08L 23/12 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C08F10/06
C08F2/01
C08J5/18 CES
C08K3/26
C08K5/00
C08L23/12
(21)【出願番号】P 2022537710
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 RU2019000983
(87)【国際公開番号】W WO2021126000
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】513322589
【氏名又は名称】パブリック・ジョイント・ストック・カンパニー・“シブール・ホールディング”
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】クリスティーナ・アンドレエヴナ・サマロヴァ
(72)【発明者】
【氏名】イリーナ・ジェンナデヴナ・リジコヴァ
(72)【発明者】
【氏名】セルゲイ・アレクサンドロヴィチ・ザカレンコ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンダー・アレクサンドロヴィチ・シドレンコ
(72)【発明者】
【氏名】カリーナ・アレクサンドロヴナ・スクヴォルツォヴァ
【審査官】古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-309913(JP,A)
【文献】特開2000-080121(JP,A)
【文献】特開平06-025340(JP,A)
【文献】特開2009-280719(JP,A)
【文献】特表2009-500207(JP,A)
【文献】特開2017-014352(JP,A)
【文献】特表2015-528517(JP,A)
【文献】特表2010-520632(JP,A)
【文献】特表2018-502968(JP,A)
【文献】特表2002-528875(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/06
C08F 2/01
C08J 5/18
C08K 3/26
C08K 5/00
C08L 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3つの反応器において炭化水素溶媒媒体中でプロピレンを重合させる工程を含む
、ポリプロピレンの製造方法であって、以下の工程:
a.第1の反応器において、0.5g/10分~2.0g/10分のメルトフローレート(MFR 230℃/2.16kg)を有する第1ポリプロピレン画分を得る工程;
b.第2の反応器において、4.0~11.0g/10分のメルトフローレート(MFR 230℃/2.16kg)
を有する第2ポリプロピレン画分を得る工程;
c.前記第1及び第2ポリプロピレン画分を第3の反応器に移動させる工程;
d.第1及び第2ポリプロピレン画分を第3の反応器において混合し、ポリプロピレンを生成させる工程;
を含
み、
前記ポリプロピレンが、BOPPフィルムの製造に適しており、
前記ポリプロピレンが以下の:
・アイソタクチックポリマー画分(mmmm)の含有量は、ポリマー質量に基づいて87~91%の範囲内である、
・キシレン可溶性(XS)画分のポリマー中の含有量は、ポリマー質量に基づいて1.0~2.8wt%の範囲内である、
・ヘプタン可溶性(HS)画分のポリマー中の含有量は、ポリマー質量に基づいて0.4~2.5wt%の範囲内である、
・分子量分布(MWD)は、5.5~8.5の範囲内である、
特性を有し、
前記ポリプロピレンが二峰性である、方法。
【請求項2】
キシレン可溶性(XS)画分の含有量が、ポリマー質量に基づいて1.2~2.7wt%の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヘプタン可溶性(HS)画分の含有量が、ポリマー質量に基づいて0.5~2.0wt%の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
分子量分布(MWD)が、6.0~8.0の範囲内である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリプロピレンが、2.0~3.8g/10分のメルトフローレート(MFR 230℃/2.16kg)によって特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
炭化水素溶媒媒体中のプロピレンの重合が、3つの反応器で行われる、請求項
1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
反応器の1つが、別の2つの並列運転反応器に連続して接合される、請求項
6に記載の方法。
【請求項8】
C7+炭化水素画分またはその混合物が、炭化水素溶媒として使用される、請求項
1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
第1の反応器における転化率と第2の反応器における転化率の比が70:30である、請求項
1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
ポリプロピレンを含む組成物の製造方法であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により、ポリプロピレンを製造する工程と、
前記ポリプロピレンを含む組成物を製造する工程と、
を含み、前記組成物が、任意に安定剤を含む、方法。
【請求項11】
前記組成物が、少なくとも1つの酸化防止剤及び少なくとも1つの酸捕捉剤を含む安定剤を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記組成物が、安定剤として、少なくとも1つのフェノール系酸化防止剤及び少なくとも1つのホスファイト系酸化防止剤を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記組成物が、酸捕捉剤としてハイドロタルサイトを含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記組成物が、ポリプロピレン1トン当たり1~3kgの安定剤を含む、請求項10~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記組成物が、0から0.010質量%未満のステアリン酸カルシウムを含む、請求項10~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
ポリプロピレンまたはポリプロピレンを含む組成物を含む、少なくとも1つの層を含むフィルムの製造方法であって、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法により、ポリプロピレンを製造する工程又は、請求項10~15のいずれか一項に記載の方法により、ポリプロピレンを含む組成物を製造する工程と、
前記ポリプロピレン又は前記組成物を含む、少なくとも1つの層を含むフィルムを製造する工程と、
を含む、方法。
【請求項17】
前記組成物が、少なくとも1つの酸化防止剤及び少なくとも1つの酸捕捉剤を含む安定剤を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記組成物が、少なくとも1つのフェノール系酸化防止剤と少なくとも1つのホスファイト系酸化防止剤を含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記組成物が、酸捕捉剤としてハイドロタルサイトを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記組成物が、ポリプロピレン1トン当たり1~3kgの安定剤を含む、請求項16~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記組成物が、0から0.010質量%未満のステアリン酸カルシウムを含む、請求項16~20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記フィルムが、共押出しによって得られる、請求項16~21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記フィルムが、二軸延伸フィルムである、請求項16~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
フィルムを含む、物品の製造方法であって、
請求項16~23のいずれか一項に記載の方法により、フィルムを製造する工程と、
前記フィルムを含む物品を製造する工程と、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムの製造に使用することができるポリプロピレンに関する。請求されるポリプロピレンの構造的特徴により、フィルムウェブの破断を生じさせることなく、少なくとも430m/分の処理速度でBOPPフィルムを製造することができる。本発明はまた、請求されるポリプロピレンと安定剤の組成物に関し、この組成物は、二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムの使用に好適である。本発明はまた、炭化水素溶媒媒体中で、必要とされる複合的特性を有するポリプロピレンを製造する方法に関し、これにより、プロピレンが、満足な物理的及び機械的特性ならびにそれからの光学的指標を有するBOPPフィルムの製造に好適となる。さらに、本発明は、その少なくとも1つの層が本発明によるポリプロピレンを含むBOPPフィルムに関する。本発明によるフィルムは、食品パッケージ、粘着テープ、ラベルなどを含むパッケージの製造に使用することができる。
【背景技術】
【0002】
二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)フィルムは、その独特の複合的な特性により、柔軟なパッケージが必要とされるほぼ全ての消費分野において、非常に重要な材料である。特に、BOPPフィルムは、食品パッケージ及び非食品製品の製造において、個別またはグループ化されたパッケージの形態で使用され、ここで、パッケージは、充填剤の色に依存して、透明でも金属化されていても良く、あるいはマットであっても良い。さらにまた、BOPPフィルムは、ラベル、粘着テープなどの製造に使用される。
【0003】
初期のポリプロピレンが、強度と光学特性の必要な複合的特性を有するBOPPフィルムに効率的に加工される性能は、ポリプロピレン特性、例えば、結晶化度、分子量などの組み合わせによって規定される。
【0004】
先行技術から、出発時のポリプロピレン中に低温キシレン可溶性画分が存在することが、BOPPフィルムを製造するためには非常に重要であることが既知である。これらの画分は、主に、ポリマーの非晶質画分、さらにまた低分子アイソタクチック画分、及びオリゴマー生成物を含み、このため、指標は、実際には、ポリマーの結晶化度及びある程度は分子量分布値を反映する。プロピレンのアイソタクチック度は、また、13C NMR分光法で決定されるアイソタクチックメソペンタッド(またはトライアド)の量によって表してもよい。
【0005】
分子量分布(MWD)値もまた、ポリプロピレンをフィルムに加工する際に非常に重要であり、前記MWD値は、例えば、ゲル浸透クロマトグラフィー法によって決定してよい。
【0006】
先行技術から知られる通り、広いMWDを有するポリマーを製造する有効な方法は、ポリマー合成方法の多段階スキームへの実施であり、それに従って、別々の段階で、異なる分子量及びそれに応じたメルトフローレート(MFR)を有するポリマー画分が得られ、最終ポリマーは二峰性MWDで特徴付けられる。
【0007】
米国出願第20110031645号明細書[Dow Global Technologies Inc., 10.02.11]には、5より大きいMWDを有し、5~8wt%の低温キシレン可溶性画分含有量、92.5wt%未満のアイソタクチックメソペンタッド含有量、及び1.0~4.0g/10分(230℃及び2.16kgにて)のメルトフローレート(MFR)を有するポリマーを製造する、少なくとも2工程を含む方法が開示されている。この出願によるポリプロピレンは、液相重合、気相重合、又はこれらの組み合わせによって得ることができる。この方法の個々の段階で得られるポリプロピレン画分のMFRは、好ましくは、2~3.5g/10分の範囲内で変化する最終ポリマーの必要MFR値に基づき、この方法の最初の工程で得られたポリプロピレン画分のMFRに対する最終ポリマーのMFR比が、1~20である範囲内で、決定される。最終ポリマーは、少なくとも400m/分の処理速度で、BOPPフィルムに加工することができる。この文献には、即座に使用できるフィルムの特性、特に物理的及び化学的指標を開示するデータは全く提供されていない。
【0008】
しかしながら、ポリプロピレン中のキシレン可溶性画分の高い含有量は、加工装置上での炭化をもたらし、その結果、装置を洗浄するための追加の停止を実施する必要性を生じ、さらに、低い強度特性を有するフィルムが製造される理由となりうる。
【0009】
国際公開第2014/166779号[Borealis, 16.10.14]には、1.5~10g/10分のMFR、9.0より大なるMWD、及び少なくとも2.8wt%の低温キシレン可溶性画分含有量によって特徴付けられるプロピレンホモポリマーの製造方法が記載されている。得られるポリマーは、0.4wt%以下の2,1-エリスロ部位欠損の含有量及び93.5wt%より大なるアイソタクチックメソペンタッドの含有量(13C NMRスペクトルによる)によっても特徴づけられる。上述の特性を有するポリマーは、2つの反応器を含むスキームに従う、70~95℃の温度での気相重合により得られる。同時に、第2の反応器で得られるポリプロピレン画分のMFR値は、第1の反応器で得られるポリプロピレン画分のMFR値の1~4倍であり、第1及び第2の反応器でそれぞれ得られる画分の含有量の質量比は、70:30~35:65の範囲内である。BOPPフィルムを製造するためのポリプロピレンの処理条件に関するデータは、この出願には示されていない。
【0010】
示された方法によって得られるポリプロピレンは、未反応の残留触媒錯体の含有量が低いことを特徴とし、このことは、ポリマーを洗浄する追加段階の必要性の排除を可能にするために、この方法の本質的な利点である。
【0011】
国際公開第2014/166779号[Borealis, 16.10.14]に提案される解決策は、非常に広いMWD(7.0より大きい)を有するポリマーの取得をもたらし、その結果、既成フィルムの光学特性に大幅な低下を生じる可能性がある。最適な値は、製造されたフィルムの外観に損失のない、5.0~7.0の範囲のポリプロピレンのMWD値である。
【0012】
以上に提示された文献から、キシレン可溶性画分の含有量が少なくとも2.8wt%であるポリプロピレンが、BOPPフィルムの製造に主に使用されることが明かである。しかしながら、先行技術によれば、BOPPフィルムの製造に、キシレン可溶性画分の含有量が低く(2.8wt%以下)、これに対応して結晶化度が増加したポリプロピレンを使用することも可能である。既述の特性を有するポリプロピレンフィルムは、コンデンサーの製造に使用される。
【0013】
したがって、欧州特許第2341088号[Borealis, 02/10/14]には、コンデンサーの製造を企図した、高い耐熱性を有する二軸延伸フィルムの製造のためのポリプロピレン及びその製造方法が開示されている。この発明によるポリプロピレンは、メタロセン触媒を用いる接触重合によって調製される。同時に、このポリマーは、多峰性ポリマーを得ることを可能にする多段スキームに従って得られることが好ましく、循環反応器におけるバルク重合処理と気相反応器における重合との組み合わせを使用することもまた好ましい。
【0014】
得られたポリプロピレンの特徴的な特性は、1.5wt%以下の低温キシレン可溶性画分及び2.8~8.0のMWDである。このポリプロピレンはまた、段階的等温分離(SIST)法により決定される、結晶画分のラメラの厚さの分布、すなわち、ラメラ厚さが7.7~14.09nmの範囲の画分が45.0~67.0wt%、ラメラ厚さが14.09nmより大なる画分が18.0~50.0であることによっても特徴づけられる。さらにまた、このポリプロピレンは、13C NMR分光法で測定され、少なくとも0.4mol%である、2,1-エリトロ部位欠損の含有量によって特徴付けられる。
【0015】
前記特許に、高速処理ラインの条件下でのBOPPフィルムの製造におけるキシレン可溶性(XS)画分の低い含有量に特徴付けられる、ポリプロピレンの技術的有効性に関するデータが含まれていないことには、留意されるべきである。さらにまた、BOPPフィルムに加工可能な低XS含有量のポリプロピレンは、バルク重合及び気相重合処理の組み合わせによって得られるが、炭化水素溶媒媒体中でBOPPフィルムを製造するための、XS含有量の指標が同様のポリプロピレンを製造する可能性に関するデータは存在しない。
【0016】
以上より、現時点では、炭化水素系溶媒媒体中に得られる低XS含有量のポリプロピレンを使用して、高速処理の条件下でBOPPフィルムとするとは知られていないことが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】米国出願第20110031645号明細書
【文献】国際公開第2014/166779号
【文献】欧州特許第2341088号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の目的は、炭化水素溶媒媒体中で得られるポリプロピレンであって、複合的な構造特性を有し、これにより高い処理速度でBOPPフィルムを製造することができる、ポリプロピレンを開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の技術的成果は、少なくとも430m/分の処理速度でBOPPフィルムに加工することができ、キシレン可溶性(XS)画分の含有量が低い、二峰性ポリプロピレンの炭化水素溶媒媒体中での製造を含み、ポリマーの二峰性は、多段スキームに従うポリプロピレンの合成の実施によって提供される。
【0020】
さらなる技術的成果には、改善された物理的、化学的、及び光学的特性によって特徴付けられるBOPPフィルムの製造が含まれる。
さらに別の技術的成果は、透明、マット、充填、汎用のものなどの幅広いスペクトルのフィルムを得られること、またフィルムにコーティング、例えば金属化層、スタンプなどを適用し得ることである。
【0021】
以下の:
・アイソタクチックポリマー画分(mmmm)の含有量は、ポリマー質量に基づいて87~91%の範囲内である、
・キシレン可溶性(XS)画分のポリマー中の含有量は、ポリマー質量に基づいて1.0~2.8wt%、好ましくは1.2~2.7wt%、最も好ましくは1.5~2.5wt%の範囲内である、
・ヘプタン可溶性(HS)画分のポリマー中の含有量は、ポリマーの質量に基づいて0.4~2.5wt%、好ましくは0.5~2.0wt%、最も好ましくは0.5~1.5wt%の範囲内である、
・分子量分布(MWD)は、5.5~8.5、好ましくは6.0~8.0の範囲内である、
特性に見合うポリプロピレンの、溶媒媒体中におけるスラリー技術を利用した製造により、本発明の課題は解決され、また技術的成果が達成される。
【0022】
本発明者らは、驚くべきことに、多段スキームに従って炭化水素溶媒媒体中における重合によって得られるポリプロピレンは、そこに含まれるキシレン可溶性(XS)画分及びヘプタン可溶性(HS)画分の低い含有量にもかかわらず、高速生産ライン(少なくとも430m/分)でBOPPフィルムに加工し得ることを見いだした。得られるポリプロピレン中のXS及びHSの低い含有量は、非晶質ポリプロピレン画分のより多くの部分が溶解して残る、炭化水素溶媒の合成過程での使用によって、主に説明することができる。同時に、請求された速度でポリプロピレンをBOPPフィルムに加工する可能性は、発明者らによって開発されたポリマー合成の方法によって提供され、結果として、アイソタクチシティが低減され、MWDがより広い、二峰性ポリマーが得られる。このように、ポリプロピレンが上述の複合的特性を有することにより、強度特性の向上と外観の改善に特徴付けられるBOPPフィルムの、高速ラインでの製造が可能となる。
【0023】
本発明の実施の様々な部分及び実施態様の詳細な説明がさらに提供される。
高い処理速度でBOPPフィルムを製造するポリプロピレンは、
以下の:
・アイソタクチックポリマー画分(mmmm)の含有量は、ポリマー質量に基づいて87~91%の範囲内である、
・キシレン可溶性(XS)画分のポリマー中の含有量は、ポリマー質量に基づいて1.0~2.8wt%、好ましくは1.2~2.7wt%、最も好ましくは1.5~2.5wt%の範囲内である、
・ヘプタン可溶性(HS)画分のポリマー中の含有量は、ポリマーの質量に基づいて0.4~2.5wt%、好ましくは0.5~2.0wt%、最も好ましくは0.5~1.5wt%の範囲内である、
・分子量分布(MWD)は、5.5~8.5、好ましくは6.0~8.0の範囲内である、
特性に見合う。
【0024】
本発明は、高い処理速度(少なくとも430m/分)でBOPPフィルムを製造するためのポリマー、並びに、一般式MgCl2/TiCl4/D1/D2/TEAを有する応用チタン-マグネシウムチーグラー・ナッタ触媒の使用により得られる、破断のなさに関する。これらの触媒では、四ハロゲン化チタンがハロゲン化マグネシウムに適用され、D1が内部ドナー、D2が外部ドナー、トリエチルアルミニウム(TEAl)が助触媒である。
【0025】
D1として、先行技術から知られ、以下の官能基:アルコール基、アミド基、アミノ基、エステル基の少なくとも1つを含む化合物が使用される。内部供与体には、以下に限定されるものではないが、メタノール、エタノール、イソプロパノール及びブタノール、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン及びトリエチルアミン、ホルムアミド及びアセトアミド、安息香酸のC1-C20アルキルエステル、脂肪族モノカルボン酸のC1-C8アルキルエステル、1,8-ナフチルジエステル、マロネート、スクシネート及びグルタレートが含まれる。しかしながら、本発明内では、第4世代のチーグラー・ナッタ触媒(ドナーとしてフタレート化合物を含む)、フルオレン化合物を表す内部供与体を使用することは推奨されない。
【0026】
D2として、下式R1nR2mSi(OR3)z(II)で表される有機ケイ素化合物を用いることができ、ここでR1及びR2は同一または相違して、メチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、デカニル、イソプロピル、イソブチル、イソペンチル、tert-ブチル、tert-アミル、ネオペンチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、メチルシクロペンチル、及びシクロヘプチルからなる群から独立して選択され、R3はメチルまたはエチル、zは2または3、mは0または1、nは0または1、但し、n+m+z=4であることを条件とする。本発明で使用してよい有機ケイ素化合物の例には、ジイソプロピルジメトキシシラン、tert-ブチルメチルジメトキシシラン、tert-ブチルメチルジエトキシシラン、tert-アミルメチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、tert-ブチルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリメトキシシラン、2-メチルシクロペンチルトリメトキシシラン、シクロペンチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジエトキシシラン、トリシクロペンチルメトキシシラン、ジシクロペンチルメチルメトキシシラン、ジシクロペンチルエチルメトキシシラン、及びシクロペンチルジメチルエトキシシランが含まれる。シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシランを使用することが好ましい。
【0027】
記載された触媒のより具体的な例、及びこれらの製造方法は、欧州特許第2221320号[三井化学株式会社, 21.06.17]、欧州特許第2638080号[Borealis, 07.01.15]、欧州特許出願第1572756号[Basell Poliolefine Spa, 10.04.13]の文献に開示される触媒及びこれらの製造方法であってよい。
【0028】
本発明によるポリプロピレンは、先行技術から知られる任意の重合技術に従い、例えばモンテディソン技術に従って、炭化水素溶媒中に得られる。本発明の範囲内で、好適な炭化水素溶媒は、C7+炭化水素画分またはこれらの混合物、好ましくはヘプタンまたはヘプタン-ヘキサン画分、最も好ましくはヘプタンである。
【0029】
重要なことには、既述の条件下でのポリプロピレン合成は、ポリマーの低分子及び非晶質画分の溶媒中への抽出の活動プロセスを伴い、この点に鑑みれば、炭化水素溶媒媒体中に高いXS含有量(2.8wt%より大なる)を有するポリマーを得ることは不可能と思われる。同時に、先行技術(例えば、米国出願第20110031645号[Dow Global Technologies Inc., 10.02.11]及び国際公開第2014/166779号[Borealis, 16.10.14])から知られる通り、ポリプロピレンをBOPPフィルムに加工する可能性を定義する特性の1つは、好ましくは少なくとも2.8wt%であるべきXS含有量である。一方、高いXS含有量を有するポリプロピレンの、高い物理的、化学的、及び光学的特性を有するBOPPフィルムへの加工は、ポリプロピレンが特定の特性の組み合わせ(アイソタクチシティ、HS、XS含有量、MWD)を有する場合にのみ実施し得る。
【0030】
上記より、本発明者らは、前記技術によって得られるポリプロピレンの加工性を向上させるためには、低XS値(ポリマー質量に基づいて1.0~2.8wt%、好ましくは1.2~2.7wt%、最も好ましくは1.5~2.5wt%の範囲内)及び低HS値(ポリマー質量に基づいて0.4~2.5wt%、好ましくは0.5~2.0wt%、最も好ましくは0.5~1.5wt%の範囲内)を考慮してポリマー生成物のMWDを広げることができるような合成方法であって、最終的に、ポリマーを高速でBOPPフィルムに効率よく加工することができ、完成フィルムの強度及び光学特性を損なうことのない方法を計画することが必要である旨を示唆した。
【0031】
この問題を解決するために、出願人らは、並列運転する2つの反応器と連続する第3の反応器からなる3反応器スキームに従う、炭化水素溶媒媒体中におけるポリプロピレンの多段階製造方法を提案した。この方法の誘導温度は50~80℃の範囲内、好ましくは65~75℃の範囲内であり、操作圧力は0.1~0.6MPaの範囲内、好ましくは0.5~0.55MPaの範囲内である。必要とされる複合的特性を有するポリプロピレンの取得は、第3の反応器において、第1及び第2の並列反応器で予めそれぞれ得られた低MFR及び高MFRのポリマーを混合することによって実施される。同時に、0.5~2.0g/10分、好ましくは1.4~1.8g/10分の範囲内のMFRを有するポリプロピレンが第1の並列スラリー反応器に、4.0~11.0g/10分、好ましくは5.0~7.0g/10分の範囲内のMFRを有するポリプロピレンが第2の反応器に存在する。請求される技術的成果を達成するためのもう一つの重要な条件は、70:30、最も好ましくは50:50に等しい、2つの並列反応器における転化率の比を維持することである。
【0032】
好ましくは、即座に使用できるフィルムの物理的及び機械的特性を維持するためには、ASTM D 1238に従って決定される、使用ポリマーのメルトフローレート(MFR230℃/2.16kg)は、2.0~3.8g/10分、好ましくは2.5~3.5g/10分、最も好ましくは2.8から3.2g/10分であるべきである。
【0033】
フィルムを得るために、任意に安定剤との混合物で、上述のポリマー組成物を使用する。
【0034】
好ましくは、ポリプロピレン組成物は安定剤を含有し、これは少なくとも酸化防止剤と酸捕捉剤との混合物を表すことができる。当該技術分野で知られる任意の酸化防止剤が酸化防止剤として使用され、ホスファイト系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤との混合物が好ましく使用される。金属ステアレートの部類に関連しない、当該技術分野で知られる任意の酸捕捉剤を、酸捕捉剤として使用してよい。さらにまた、加工及び使用中にポリプロピレンがその特性を保持することを可能にする別の既知の添加剤も、さらに使用してよい。ポリプロピレン中に添加される安定剤の量は、ポリプロピレン1トン当たり1~3kg、好ましくはポリプロピレン1トン当たり1.5~2.8kg、より好ましくはポリプロピレン1トン当たり1.7~2.2 kgである。
【0035】
本発明によるポリプロピレンは、ステアリン酸カルシウムを実質的に含有しない。表面に容易に移行するステアリン酸は、ステアリン酸カルシウムから、その、酸との相互作用の後に生じ、これによって金属化フィルムを得ることが不可能となる。「実質的に含まない」との定義は、含有量が、0.010wt%未満、好ましくは0.005wt%未満、最も好ましくは0.001wt%未満であることを意味する。
【0036】
指示されるポリプロピレンは、先行技術から知られる任意のフィルム層及び任意の配合物の主成分として、また付加的な成分として、使用してよい。フィルムの正確な構造(層の数及び配置)及び層の配合は、フィルム及びフィルムから作られる物品に対する要求に依存する。
【0037】
本発明によるポリプロピレンに加えて、フィルムは別のポリオレフィン、並びに機能性ポリマーを含んでよい。α-オレフィンのコポリマー及びターポリマー、特にプロピレンとエチレンとの、プロピレンとブテンとのコポリマー、プロピレンとエチレンとブテンとのターポリマー等が、ポリオレフィンとして使用される。エチレンビニルアルコールコポリマー、ポリ塩化ビニリデン、塩化ビニリデンコポリマー、ポリエステル、ポリアミド(フィルムにガス及び/または芳香を浸透させない性質を付与)、エチレン及びα-オレフィンインターポリマー(フィルムを紙に糊なし積層するため)、無水マレイン酸で変性したホモポリプロピレン(共押出フィルムにおける粘着層)等が、機能性ポリマーとして使用される。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の実施態様
試験方法
1.メルトフローレート(MFR)を、ASTM D1238 “押出プラストメーターによる熱可塑性樹脂のメルトフローレートの標準試験法”に準拠して測定した。
2.沸騰n-ヘプタン/アイソタクチック画分中の可溶性画分の質量含有率を、国家標準規格(National State Standard)26996-86に従って測定した。ポリプロピレン及びプロピレンコポリマー。
3.p-キシレン可溶性画分の質量含有率を、ISO 16152 に従って測定した。
【0039】
4.ポリプロピレン試料及び統計的エチレンプロピレンコポリマー試料の分子量特性(MWC)の測定を、ISO 16014-4-2012「ポリマー-ゲル浸透クロマトグラフィーを用いた平均分子量及び分子量分布の測定、第4部.高温法に従い、Agilent PL-GPC 220 装置を使用して、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって実施した。溶解温度及び測定温度は150℃、溶媒は1,2,4-トリクロロベンゼンである。
【0040】
5.試料からのp-キシレン(XS)及びn-ヘプタン(HS)に可溶性の物質のMWCの測定を、ISO 16014-3-2012「ポリマー-ゲル浸透クロマトグラフィーを用いた平均分子量及び分子量分布の測定、第3部. 低温法」に従い、Agilent 1200液体クロマトグラフィー(Agilent)を用いる低温GPC法により実施した。溶解温度及び測定温度は40℃、溶媒はテトラヒドロフランである。
【0041】
6.プロピレンポリマー試料の微細構造、アイソタクチック度、ペンタッド比は、Bruker Avance III 400 MHz装置を用いた高分解能炭素核磁気共鳴分光法(13C NMR)により決定した。研究のため、250μgの試料を、2.5mlのトリクロロベンゼンに、140℃に加熱しつつ溶解させた。13C核のスキャン回数は16000回である。実験温度は140℃である。
【0042】
本発明は、以下の実施例を参照してより具体的に説明される。実施例は、本発明を説明するためにのみ与えられ、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0043】
実施例1.
MFRが3.2g/10分(230℃及び2.16kgにて)のポリプロピレンが、第1のスラリー反応器で得られたMFRが1.7g/10分のポリプロピレンと第2のスラリー反応器で得られたMFRが5.6g/10分のポリプロピレンとを第3の反応器中で混合することによる、3反応器スキームに従って、炭化水素溶媒(ヘプタン)媒体中に得られた。溶媒媒体中のプロピレン重合は、68~72℃の温度及び0.50~0.55MPaの操作圧力で実施した。
【0044】
欧州特許第0361493号[Himont Inc., 23.11.94]の実施例に従って得られたV世代チタン-マグネシウム触媒を、外部供与体シクロヘキシルジメトキシシランと組み合わせて触媒として使用した。
得られたポリマーを”Bruckner Maschinenbau GmbH”社のラインで処理するが、前記ラインによれば、8.2メートルのベルト幅で450m/分の速度にてポリマーを処理することができる。
【0045】
BOPPフィルムは5層フィルムを呈し、その各層は、前述のポリプロピレン、酸化防止剤[空間障害(spatial-hindered)フェノール系酸化防止剤ペンタエリスリトールテトラオキシ(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(イルガノックス1010)及びリン含有酸化防止剤トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト(イルガフォス168)]、及びさらに酸捕捉剤としてのハイドロタルサイトを、ポリプロピレン1トン当たり2.19kgの安定剤の量で含む。前記フィルムは、フィルムウェブの段階的な配向、熱硬化及び冷却を伴うポリプロピレンの連続押出しによって得られ:各押出機(層数で5)のメルトフローは、押出しノズル(ヘッド)で接続され、そのスリットから成形シートの形態で冷却ドラム(ローラー)上に流出し、このシートは水浴を通過して冷却された。次に、このシートをカレンダー上で100~130℃に再加熱し、ロール上で長手方向に6回延伸した。長手方向に伸長させたシートを炉に導き、エアで170~190℃に再加熱し、横方向に10回伸長させた。全フィルム厚は20μmであり、一方で外層は0.9μμmの厚さを有し、中間層は2.5μmであり、主層の厚さは13.2μmであった。
使用したポリプロピレン及び完成したフィルムの特性、並びにフィルム加工のパラメーターを表1に示す。
【0046】
実施例2-比較例
MFRが3.2g/10分(230℃及び2.16kgにて)のポリプロピレンが、単一反応器(標準)スキームに従って、炭化水素溶媒(ヘプタン)媒体中に得られた。プロピレンは、溶媒媒体中、68~72℃の温度及び0.50~0.55MPaの操作圧力で重合させた。
欧州特許第0361493号[Himont Inc., 23.11.94]の実施例に従って得られたV世代チタン-マグネシウム触媒を、外部供与体シクロヘキシルジメトキシシランと組み合わせて触媒系として使用した。
使用したポリプロピレン及び実施例1に従って得られた完成フィルムの特性、ならびにフィルム加工のパラメーターを表1に示す。
【0047】
実施例3-比較例
BOPPフィルムが、実施例1と同様に、気相技術に従って合成され、MFRが3.0g/10分(230℃及び2.16kgにて)のプロピレンポリマーから、実施例1による触媒を65~75℃の温度及び2.2MPaの操作圧力で使用して、得られた。
使用したポリプロピレン及び即座に使用可能なフィルムの特性、ならびにフィルム加工のパラメーターを表1に示す。
【0048】
実施例4-比較例
BOPPフィルムが、実施例1と同様に、但し、製造者からの仕様書によれば、二峰性媒体により特徴づけられ、またBOPPフィルムの製造に使用される、液体モノマー媒体中での多段重合で得られる、市販品のポリプロピレンJampilen HP525J(Jam Polymers)を使用して得られた。
使用したポリプロピレン及び完成フィルムの特性、並びにフィルム加工のパラメーターを表1に示す。
【0049】
【0050】
本発明によるポリマーは、当該技術分野で知られる標準メルトフローレート(MFR)を有し、且つp-キシレン可溶性(XS)画分及びヘプタン可溶性(HS)画分の含有量の低いプロピレンホモポリマーであり、これはまた、炭化水素溶媒媒体中におけるポリマー調製の成果である。表1には、比較試料として、単一反応器(標準)スキームに従って炭化水素溶媒媒体中に得られたポリプロピレン(実施例2)が示され、さらに、BOPPフィルムの製造に適した、高いXS及びHS含有量を有するポリプロピレンの特性及び処理条件があり、これは気相技術によって得られるポリプロピレン(実施例3)、並びに炭化水素溶媒媒体中ではなく液体モノマー媒体中での多段重合で得られた、市販のポリプロピレンJampilen HP 525J(実施例4)である。実施例3によるポリマーは、実施例1によるものと同様に、430m/分の速度でフィルムに加工されるが、より高い破断率によって特徴付けられることに留意されたい。さらに、実施例3及び4によるフィルムは、外観及び強度特性における利点を備えておらず、このため物理的及び機械的特性に関して高い要求の対象となる、目的の狭いフィルムの製造、特に粘着テープの製造における使用が制限される。これらのフィルムはまた、移行性の低分子量成分の含有量が増加しているため(高いXS及びHS値)、これらにプリントする場合にも、実施例1によるフィルムに劣ることになる。
【0051】
本発明のポリマー(実施例1)は、XS及びHSの含有量が少ないが、430m/分のライン速度で加工することが可能である。これは、生成物が二峰性であることの結果である、高い多分散度値(Mw/Mn=6.6)と、ポリマーの加工性の改善につながる、ポリマーのアイソタクチック性の低減によるものである。一方で、実施例2によるポリマーは、同様の条件下で得られ、但し単峰性であり、より低い多分散度値(Mw/Mn=5.3)を有することから、400m/分の速度でのみ満足に処理される。加工速度の違いに加え、両ポリマーは一定時間内の破断数で表される破断指数においても相違する。したがって、加工の結果によれば、二峰性ポリマーの破断率は、単峰性のものとは対照的にゼロであり、これはポリマー中の膨張したMWDの形成と正確に関連し、標準スキームによって得られたポリマーと比べると、温度を上昇させた場合でさえも、著しい利点をもたらすことが判明した(実施例2)。もう一つの好ましい点は、他の参照試料と比較して、完成したフィルムのより高い物理的、機械的、及び光学的特性(輝き)であり、これは炭化水素溶媒媒体中で得られる低いXS含有量の結果である。
【0052】
実施例1によるポリプロピレンと実施例4によるポリプロピレンとを比較すると、縦延伸(LD)及び横延伸(TD)のノードにおけるポリマー処理の温度レジメンに有意差が認められ、実施例1による二峰性ポリマーの低速処理では、指示温度が、実施例4によるポリマーをより高速で処理する場合よりもはるかに高い。実施例1によるポリマーを効率的に処理するための、フィルム延伸ゾーンの温度を上げる必要性は、ポリマーの処理速度を試験条件下で得られるものよりも上昇させることへの制限要因であり、なぜなら、温度をさらに上昇させた場合には、破断時の悪影響のリスクが増大し(TDゾーンの装置の壁に溶融ポリマーが付着し、その結果、それらの洗浄に時間がかかり)、また、外層に低融点のコポリマーまたはターポリマーを含むフィルムを製造することが不可能になるためである。
【0053】
したがって、高速ラインでのBOPPフィルムの製造のための、スラリー技術によるポリマーの入手に必要なことは、低XSを生成する条件下で、高い処理速度を確保するために必要な特性を有するポリマーを得ること、及び、改善された物理的、機械的及び光学的特性を有する、即座に使用可能なフィルムを得ることを可能にする、多段スキームによる重合方法の実施である。