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特許7551756タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を推定および調整するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を推定および調整するための方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 25/16 20060101AFI20240909BHJP
   F17C 13/00 20060101ALI20240909BHJP
   B63H 21/38 20060101ALI20240909BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20240909BHJP
   B63B 79/40 20200101ALI20240909BHJP
【FI】
B63B25/16 G
F17C13/00 302A
B63B25/16 A
B63H21/38 B
B63B49/00 Z
B63B25/16 D
B63B79/40
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022537734
(86)(22)【出願日】2020-12-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 FR2020052560
(87)【国際公開番号】W WO2021123685
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-10-06
(31)【優先権主張番号】1915335
(32)【優先日】2019-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】515220317
【氏名又は名称】ギャズトランスポルト エ テクニギャズ
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】ベルナール、アウン
(72)【発明者】
【氏名】パーベル、ボリシェビキ
(72)【発明者】
【氏名】ロマン、ナルメ
【審査官】宇佐美 琴
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2018/189789(JP,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0158289(US,A1)
【文献】特開2018-002011(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0241244(US,A1)
【文献】特開2019-043328(JP,A)
【文献】特開2006-168711(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0076076(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 1/00-85/00
B63J 1/00-99/00
B63H 1/00-25/52
F17C 1/00-13/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体状ガス(13)のエネルギ収支を推定および調整するための方法(5)であって、前記液体状ガス(13)は、前記ガスを所与の仕向地(2)まで運搬することが意図された浮遊構造物(1)の少なくとも1つのタンク(9)内に収容されており、前記浮遊構造物(1)は、前記液体状ガスから生成される気相(14)の凝縮機能および/または前記液体状ガス(13)の冷却機能を実行することができる前記浮遊構造物(1)の消費装置に燃料を供給するためのシステム(8)を含む、エネルギ収支を推定および調整するための方法(5)において、
-前記仕向地(2)の液体状ガスの最高飽和圧力要件および前記タンク内に収容されている前記液体状ガスの特性に基づいて、前記仕向地への到着時の、前記タンク内に収容されている前記液体状ガスの最高許可温度を計算するステップAと、
-前記仕向地(2)への到着(51)まで前記供給システム(8)により実行される、前記液体状ガスから生成される前記気相(14)の凝縮機能のための第1の運転計画(36)を確立するステップBであって、前記第1の運転計画(36)は、行程(3)中に前記タンク(9)内の前記液体状ガスから生成される過剰気相(14)の推定値から確立される、ステップBと、
-前記仕向地(2)への到着(51)まで前記供給システム(8)により実行される、前記液体状ガス(13)の冷却機能のための第2の運転計画(37)を確立するステップCであって、前記第2の運転計画(37)は、前記行程(3)中に前記液体状ガスから生成される前記過剰気相の前記推定値から確立される、ステップCと、
-前記タンク(9)内に収容されている前記液体状ガス(13)の温度と前記タンク(9)内に収容されている前記液体状ガス(13)の性質とから、時間t(38)における前記液体状ガスのエネルギ収支を計算するステップDと、
-ステップAにおいて計算された前記液体状ガス(13)の前記最高許可温度と、前記タンク(9)内に収容されている前記液体状ガス(13)の特性とから、最大エネルギ収支(32,33)を計算するステップEと、
-ステップBおよびCにおいて決定された前記凝縮機能および前記冷却機能の前記運転計画(36,37)と、ステップDにおいて決定された、時間t(38)における前記液体状ガスの前記エネルギ収支とから、前記行程(3)からの到着(51)時の、前記タンク内に収容されている前記液体状ガスのエネルギ収支(31)を推定するステップFと、
-前記第1の運転計画(36)および/または前記第2の運転計画(37)を調整するステップGと、
-ステップGにおいて調整された、前記液体状ガス(13)の前記凝縮機能および前記冷却機能の前記運転計画(36,37)にしたがって前記供給システム(8)を実施するステップHと、
を含むことを特徴とする、エネルギ収支を推定および調整するための方法(5)。
【請求項2】
ステップFにおいて計算された、前記行程(3)からの到着(51)時の、前記タンク内に収容されている前記液体状ガスの推定エネルギ収支(31)が、ステップEにおいて計算された前記最大エネルギ収支(32,33)よりも小さい限り、ステップGが、前記凝縮機能をアクティブ化することとして行われる、請求項1記載のエネルギ収支を推定および調整するための方法(5)。
【請求項3】
ステップFにおいて計算された、前記行程(3)からの到着(51)時の、前記タンク内に収容されている前記液体状ガスの推定エネルギ収支(31)が、ステップEにおいて計算された前記最大エネルギ収支(32,33)よりも小さいことを保証する推定時間dtにおいて、ステップGが、前記冷却機能を停止することとして行われる、請求項1または2記載のエネルギ収支を推定および調整するための方法(5)。
【請求項4】
ステップFにおいて計算された、前記行程(3)からの到着(51)時の、前記タンク内に収容されている前記液体状ガスの推定エネルギ収支(31)が、ステップEにおいて計算された前記最大エネルギ収支(32,33)よりも大きい限り、ステップGが、前記凝縮機能を停止することとして行われる、請求項1記載のエネルギ収支を推定および調整するための方法(5)。
【請求項5】
ステップFにおいて計算された、前記行程(3)からの到着(51)時の、前記タンク内に収容されている前記液体状ガスの推定エネルギ収支(31)が、ステップEにおいて計算された前記最大エネルギ収支(32,33)よりも大きい限り、ステップGが、前記冷却機能をアクティブ化することとして行われる、請求項1または4記載のエネルギ収支を推定および調整するための方法(5)。
【請求項6】
前記方法が、ステップBから開始され、前記浮遊構造物(1)の行程(3)中、反復により繰り返される、請求項1から5までのいずれか1項記載の推定および調整方法(5)。
【請求項7】
前記方法が、前記浮遊構造物(1)の出発(50)から時間tまでの前記凝縮機能および前記冷却機能の実行と、先行の反復中に計算された、時間t(38)における前記液体状ガスのエネルギ収支とから、時間t(38)における前記液体状ガスの前記エネルギ収支を計算する、ステップDと同時に行われる追加のステップD’を含む、請求項6記載の推定および調整方法(5)。
【請求項8】
ステップFのために保存された、時間t(38)における前記液体状ガスの前記エネルギ収支は、ステップDにおいて計算された、時間t(38)における前記液体状ガスの前記エネルギ収支と、ステップD’において計算された、時間t(38)における前記液体状ガスの前記エネルギ収支との中で最も大きい、請求項7記載の推定および調整方法(5)。
【請求項9】
前記方法が、前記浮遊構造物(1)の行程(3)の特性の関数としての前記液体状ガス(13)の前記最大エネルギ収支(32,33)の安全マージン(60)を選択する追加のステップA’を含み、ステップEが前記安全マージン(60)を考慮して実施される、請求項1から5までのいずれか1項記載の推定および調整方法(5)。
【請求項10】
ステップA’が、前記浮遊構造物(1)の行程(3)中、反復により繰り返される、請求項9記載の推定および調整方法(5)。
【請求項11】
前記浮遊構造物(1)が前記仕向地(2)に近づくにつれて、前記安全マージン(60)が低減される、請求項9または10記載の推定および調整方法(5)。
【請求項12】
前記浮遊構造物(1)が、前記液体状ガスから生成される前記気相(14)により少なくとも部分的に駆動される少なくとも1つのエンジン(16)を備えており、前記行程(3)中に前記液体状ガスから生成される前記過剰気相の前記推定値が、前記タンク(9)への入熱の予測値と前記エンジン(16)の消費の推定値とから確立される、請求項1から11までのいずれか1項記載の推定および調整方法(5)。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載の推定および調整方法(5)を実施する、浮遊構造物(1)の少なくとも1つのタンク(9)内に収容されている液体状ガス(13)のエネルギ収支を管理するためのシステム(4)であって、前記浮遊構造物(1)の消費装置のための少なくとも1つの燃料供給システム(8)と、前記浮遊構造物(1)の行程(3)中に前記液体状ガスから生成される過剰気相(14)の量を推定する機能を有する少なくとも1つのコンピュータ(7)とを含む、液体状ガス(13)のエネルギ収支を管理するためのシステム(4)。
【請求項14】
請求項13記載の液体状ガスのエネルギ収支を管理するためのシステム(4)を含む、液体状ガス(13)を輸送するための浮遊構造物(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然ガスの輸送の分野に関し、とりわけこのような輸送中の前記天然ガスの温度制御の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
長距離にわたって液体状の天然ガスなどの液体状ガスをより容易に輸送および/または貯蔵する目的で、ガスは、頭字語「LNG」で一般に知られる液化天然ガスを得るべく、大気圧において極低温、例えば-163℃まで冷却することにより、通常、液化されている。次いで、この液化天然ガスは、浮遊構造物内の専用貯蔵タンク内に積載される。
【0003】
しかし、このようなタンクは決して完全には熱絶縁されておらず、このためガスのボイルオフが不可避であり、この現象はBOG(ボイルオフガスの頭字語)と称されている。したがって、浮遊構造物の貯蔵タンクは液体状天然ガスおよび気体状天然ガスの両方を含み、天然ガスの気相がタンクの上部を形成している。
【0004】
公知のように、タンク内に存在する気体状天然ガスの少なくとも一部を使用して、浮遊構造物の運転エネルギ需要を満たすように設計されたエンジンに、特に浮遊構造物の推進および/または搭載機器用の発電のために、これを供給することができる。この目的のために、気体状態の天然ガスを、その加熱および圧縮が可能となるように、少なくとも1つの天然ガス処理システムを通じて循環させることが特に公知であり、前記システムは、いずれもエンジンの上流に配置された過熱器および圧縮器として使用される熱交換器を含む。
【0005】
天然ガス処理システムが気体状態の天然ガスから取り出された一部を凝縮させることを可能にするように構成されることも公知である。天然ガスの凝縮は、浮遊構造物の運転エネルギ需要と比べてタンク内でボイルオフされる天然ガスの量が過多であるときに特に必要とされうる;この場合、天然ガス処理システムは、タンク内に存在するボイルオフガスを凝縮させて、液体状態でタンクに戻すことを可能にする。このような液化システムは、浮遊構造物が停止してその(1つまたは複数の)エンジンによる気体天然ガスの消費がゼロまたはほぼゼロであるときに、特に実施可能である。
【0006】
このタイプの輸送に関して考慮すべき不可欠なデータの1つは、浮遊構造物がその目的地に到着してその貨物を下ろすときの液体状天然ガスの状態である。実際、液体状天然ガスを受け入れるステーションは、前記液体状天然ガスの温度または飽和圧力など、運搬された液体状天然ガスの特性に関する要件を有する。したがって、仕向地の施設管理者は、液体状天然ガスの貨物が仕向地の要件を満たさない場合、これを下ろすことを拒否することができる。温度は輸送中に著しく変化する変動要因であるため、このタイプの輸送中に考えられる主なリスクは、液体状態の天然ガスが、仕向地の施設管理者により期待される基準に対応せず、したがって貨物の潜在的な拒否または格下げを意味する飽和圧力および/または温度で、その目的地に到着する可能性があることである。
【0007】
貨物の温度管理は、浮遊構造物の消費装置のための燃料供給システムに直接に関係する2つの問題を提起する。第1の問題は、供給システムの冷却機能に関する。液体状天然ガスの温度および/または飽和圧力を下げることは、これが仕向地の要件からの非常に大きな逸脱につながる場合、無駄となる。この状況では、供給システムの冷却機能が過度に使用され、不必要なエネルギ消費につながる。
【0008】
第2の問題は、供給システムの凝縮機能に関する。凝縮機能がアクティブであるとき、液体状ガスから生成された過剰気相は、液相に戻って、輸送タンクへ戻る。しかし、凝縮液体状ガスは、タンク内に存在する液体状ガスよりも高い温度を有することがある。したがって、液体状凝縮ガスをタンクに戻すと、タンク内に存在する液体状ガスの温度の一般的な上昇につながり、したがって、液体状ガスの貨物がもはや仕向地の要件を満たさず、結果として運搬が拒否されるリスクをもたらす可能性がある。対照的に、供給システムの凝縮機能がイナクティブである場合、液体状ガスから生成される余剰の気相が例えば燃焼または空気中への放出により除去され、したがって貨物の浪費につながる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、一般的な問題は、貨物が仕向地の要件を満たすようにしつつ、一方で、液体状ガスから生成される気相の除去および/または供給システムの冷却機能での過剰消費に起因するエネルギ消費が制限されるよう、供給システムの凝縮機能と冷却機能との間のバランスを見出すことである。したがって、本発明は、運搬時、貨物が仕向地の受入基準を下回り、ただし供給システムの冷却機能に関連するあらゆる過剰消費を避けるためにこの基準から過度に大きく逸脱しないことが保証されるよう、液化システムの使用を最適化することを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
したがって、本発明は、液体状ガスのエネルギ収支を推定および調整するための方法であって、液体状ガスは、前記ガスを所与の仕向地まで運搬することが意図された浮遊構造物の少なくとも1つのタンク内に収容されており、浮遊構造物は、液体状ガスから生成される気相の凝縮機能および/または液体状ガスの冷却機能を実行することができる浮遊構造物の消費装置に燃料を供給するためのシステムを含む、エネルギ収支を推定および調整するための方法において、
-仕向地の液体状ガスの最高飽和圧力要件およびタンク内に収容されている液体状ガスの特性に基づいて、仕向地への到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの最高許可温度を計算するステップAと、
-仕向地への到着まで供給システムにより実行される、液体状ガスから生成される気相の凝縮機能のための第1の運転計画を確立するステップBであって、前記第1の運転計画は、行程中にタンク内の液体状ガスから生成される過剰気相の推定値から確立される、ステップBと、
-仕向地への到着まで供給システムにより実行される、液体状ガスの冷却機能のための第2の運転計画を確立するステップCであって、前記第2の運転計画は、行程中に液体状ガスから生成される過剰気相の推定値から確立される、ステップCと、
-タンク内に収容されている液体状ガスの温度とタンク内に収容されている液体状ガスの性質とから、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支を計算するステップDと、
-ステップAにおいて計算された液体状ガスの最高許可温度と、タンク内に収容されている液体状ガスの特性とから、最大エネルギ収支を計算するステップEと、
-ステップBおよびCにおいて決定された凝縮機能および冷却機能の運転計画と、ステップDにおいて決定された、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支とから、行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を推定するステップFと、
-第1の運転計画および/または第2の運転計画を調整するステップGと、
-ステップGにおいて調整された、液体状ガスの凝縮機能および冷却機能の運転計画にしたがって供給システムを実施するステップHと、
を含むことを特徴とする、エネルギ収支を推定および調整するための方法からなる。
【0011】
浮遊構造物は、例えば、液体状ガス、例えば液体状天然ガスもしくはLNGを貯蔵および/または輸送することができる輸送船でありうる。浮遊構造物の消費装置の燃料供給システムは、タンク内で生成する液体状ガスから生成される気相をスマートに利用して、浮遊構造物の推進エンジンまたは発電機などの1つまたはいくつかの消費装置に供給することにより、タンク内で生成する液体状ガスから生成される気相の管理を保証する。同時に、浮遊構造物の消費装置の燃料供給システムは、その冷却機能およびその凝縮機能により、タンク内に収容されている液体状ガスの状態を管理することができる。「浮遊構造物の消費装置の燃料供給システム」なる用語は、以下では「供給システム」と略称する。
【0012】
推定および調整方法は、液体ガスの貨物が、温度制御に必要なエネルギ消費を最小限に抑えながら、仕向地の要件にしたがう液体ガスの飽和圧力で仕向地まで運搬されるように、液体ガスの特性を制御する。「エネルギ収支」なる用語は、液体状ガスの飽和圧力もしくは液体状ガスの温度などのガスの複数の物理定数から、またはさらに供給システムの冷却機能もしくは凝縮機能により供給もしくは要求されるエネルギから導出可能な計算により得られる数値データを指すために使用される。推定および調整方法は、浮遊構造物の出発前に、かつ/または浮遊構造物の起点、例えばガス液化ターミナルから液体ガス貨物が運搬される仕向地までの行程中に、開始することができる。液体状ガスを含むタンクは、このような貨物の輸送に適した規格対応タンクであり、これは、例えば、膜のそれぞれが熱絶縁されている一次膜および二次膜を有するタンクでありうる。
【0013】
推定および調整方法はステップAから始まり、これは一般に、仕向地による液体状ガスの貨物の受入れの条件、とりわけ、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の最高許可温度を決定することとして行われる。しかし、液体状ガスの飽和圧力または圧力および/もしくは温度に関連する別の値によって判断することが可能である。超えるべきではないこのような目標値の計算は、液体状ガスの飽和圧力要件と、仕向地の液体状ガスの温度と、ガスの一定の特性とに依存する。したがって、液体状ガスを受け入れるターミナルの要件が、貨物の受入れの条件を課すことで船とターミナルとの間の移動中の天然ガスの大量の気化を避けることを目的としていることは明らかである。
【0014】
タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の最高許可温度は、輸送される液体状ガスの性質に依存し、これは、液体状ガスの全質量および液体状ガスの比熱容量である。これらの2つのデータは、例えば、技術データシートなどの貨物に関する任意の文書により提供され、供給システム、例えば制御モニタにより考慮することができる。
【0015】
推定および調整方法により計算される、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の最高許可温度は、仕向地の施設管理者により決定された液体状ガスの最高飽和圧力要件にも依存する。このようなデータも、仕向地により提供される任意の情報源を通じて既知となり、また上記の説明と同じ方式で供給システムに記録することもできる。
【0016】
ステップBおよびCは、供給システムの機能それぞれのための運転計画をセットアップすることとして行われる。「運転計画」は、仕向地への到着を可能にする、行程中の機能それぞれの作用の進行として理解されなければならない。機能のそれぞれ、すなわち凝縮機能および冷却機能はアクティブであるかまたはイナクティブであるかのいずれかであり、供給システムは一方のモードから他方のモードへ切り替わることができる。したがって、機能それぞれのための運転計画は、行程中に機能それぞれのアクティブおよびイナクティブのシーケンスを決定し、その結果、状況に応じて貨物が加熱または冷却される。
【0017】
凝縮機能および冷却機能がアクティブと見なされるとき、これは、供給システムがその凝縮機能および/または冷却機能の実行を許可されることを意味する。逆に、凝縮機能および冷却機能がイナクティブと見なされるとき、これは、供給システムがその凝縮機能および/または冷却機能の実行を許可されないことを意味する。冷却機能がアクティブであるとき、供給システムは、液体状ガスから生成された気相が存在することを条件として、液体状ガスを冷却することを許可される。凝縮機能がアクティブであるとき、供給システムは、液体状ガスから生成された過剰気相もさらに存在することを条件として、液体状ガスを冷却することができる。
【0018】
凝縮機能がアクティブであるとき、タンク内に収容されている液体状ガスの温度は上昇しやすくなることがある。冷却機能は、アクティブ化されているとき、温度の低下につながる。2つの機能が同時に働くとき、温度はこれとは異なって変化し、または行程中の環境条件に応じて自然に変化することもある。しかし、行程中に起こる主な温度変化は、推定および調整方法のステップBおよびC中に実施される運転計画のアクティブ化に依存することが理解される。
【0019】
したがって、電力供給システムの凝縮機能または冷却機能のための運転計画は、行程のうちのどの時間tに機能のそれぞれがアクティブ化またはイナクティブ化されなければならないかを決定するフローチャートである。運転計画が全行程中に機能の一方または他方をアクティブまたはイナクティブに保つことからなることも可能である。
【0020】
これらの運転計画のそれぞれは、行程中に液体状ガスから生成される過剰気相の推定値から決定される。液体状ガスから生成される気相は、自然に、あるいは強制的な方式で、輸送タンクから発散する。続いて、この気相は、浮遊構造物、例えば浮遊構造物の推進を可能にするエンジン、あるいは浮遊構造物に電気を供給する発電機に供給するために使用することができる。浮遊構造物に供給するために使用されない、液体状ガスから生成される気相は、液体状ガスから生成される過剰気相である。凝縮機能および冷却機能が同時に働くとき、これは、供給システム内を循環する液体状ガスから生成された過剰気相が存在することを意味する。
【0021】
液体状ガスから生成される過剰気相の存在は、本発明の管理システムの外部のシステムにより、または本発明による推定および調整方法により直接に検出することができる。
【0022】
推定および調整方法のステップDは、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支を、すなわち時間tにおいて測定されたデータから計算することとして行われる。ステップDはステップBおよびCから独立しており、したがって、ステップBおよびCと同時に、またはこれらの前に行うことができる。ステップD中のエネルギ収支の計算は、液体状ガスの全質量および液体状ガスの比熱容量、ステップA中に使用される定数、ならびに時間tにおけるタンク内に収容されている液体状ガスの平均温度に依存する。より具体的には、液体状ガスのエネルギ収支は次式から計算される:
Be=mGas×Cp×T
Beは、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支であり、mGasは、液体状ガスの全質量であり、Cpは、液体状ガスの比熱容量であり、Tは、時間tにおける液体状ガスの温度である。
【0023】
液体状ガスの温度は、タンク内に配置された少なくとも1つの温度センサにより測定することができる。この場合、前記温度はステップDの計算中に考慮される。温度は、例えば、いくつかの温度センサがタンク内に置かれる場合、または浮遊構造物がそれぞれ1つまたは複数の温度センサを備えるいくつかのタンクを含む場合、平均の形で扱うことができる。このステップD中に計算される、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支は、残りの推定および調整方法において使用される。
【0024】
ステップEは、ステップDにおいて計算されるエネルギ収支と同様のエネルギ収支を計算することとして行われるが、ステップEのエネルギ収支は、ステップAにおいて計算された液体状ガスの最高許可温度に関する、最大エネルギ収支である。ステップE中に計算される最大エネルギ収支の計算は、ステップDにおいて計算される、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支には依存しない。したがって、ステップDおよびEは、同時に、あるいは任意の順番で逐次行うことができる。最大エネルギ収支は、液体状ガスの全質量、液体状ガスの比熱容量、および液体状ガスの最高許可温度から計算される。したがって、ステップEにおいて行われる計算は、ステップDにおいて行われる計算と同様であり、浮遊構造物のタンク内で測定される温度の代わりに液体状ガスの最高許可温度が用いられる。
【0025】
ステップF中、推定および調整方法は、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支を計算する。言い換えれば、推定および調整方法は、浮遊構造物が仕向地へ到着したときの、タンク内に収容されている液体状ガスの特性、特にそのエネルギ収支を予測することを可能にする。行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を推定するために、推定および調整方法は、ステップD中に計算された、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支、ならびにステップBおよびCにおいて計算された、供給システムの冷却機能および凝縮機能のための運転計画を使用する。ステップD中に計算された、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支は、液体状ガスの飽和圧力および液体状ガスの温度によって推定値の起点を構成する。ステップBおよびCにおいて計算された、冷却機能および凝縮機能のための運転計画は、上述のようにタンク内に収容されている液体状ガスの温度に影響するので、これらも推定の一部である。これらの3つのデータから、推定および調整方法は、あらかじめ確立された冷却機能および凝縮機能の運転計画を考慮して、浮遊構造物が仕向地に到着した際の液体状ガスのエネルギ収支を決定することができる。液体状ガスのエネルギ収支は複数の特性を包含するため、液体状ガスの飽和圧力、温度、または熱交換の量によって推論することも可能である。このようにして到着時の貨物のエネルギ収支を推定することにより、到着時の液体状ガスの飽和圧力が貨物を受け入れ可能とするように運転計画を調整することが可能である。
【0026】
次いで、ステップGは、ステップEにおいて計算された最大エネルギ収支と、ステップFにおいて計算された、行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支の推定値との間の比較に基づいて運転計画を調整することとして行われる。前記比較に応じて、凝縮機能の第1の運転計画および/または冷却機能の第2の運転計画を調整することができる。調整は、機能の一方および/または他方を停止することから成っていてよく、停止は場合により即時であってもよいしまたはある一定の期間の後にプログラムされてもよい。また、機能の一方および/または他方を、即時にまたは予定して実行または再開することもできる。したがって、凝縮機能の第1の運転計画および/または冷却機能の第2の運転計画は、ステップEおよびF中に計算または推定されたデータから変更される。
【0027】
ステップHは、調整された運転計画を実施することとして行われる。言い換えれば、供給システムは、もはやステップBおよびC中に確立された運転計画を考慮せず、これらがステップG中に調整された運転計画で置き換えられる。調整された運転計画は、推定および調整方法が完了した後、供給システムに伝達される。したがって、供給システムは、伝達されたそれぞれの調整された運転計画にしたがって液体状ガスの冷却および/または凝縮を実施し、これらをアクティブに保つかまたはこれらをイナクティブ化することができる。
【0028】
本発明の1つの特徴によれば、ステップFにおいて計算された、行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支が、ステップEにおいて計算された最大エネルギ収支よりも小さい限り、ステップGが、凝縮機能をアクティブ化することとして行われる。行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支が、最大エネルギ収支よりも小さいとき、これは、行程からの到着時、液体状ガスの貨物が、例えば仕向地により定義された必要条件よりも低い液体状ガス飽和圧力となることを意味する。この状況が行程中に生じる場合、タンク内に収容されている液体状ガスの温度の上昇を許可および制御するように供給システムの機能のための運転計画を調整することに不利な点は存在しない。したがって、これが既にあてはまっていない場合、凝縮機能の第1の運転計画の調整は、全行程を通じて凝縮機能をアクティブに保つこととして行われる。したがって、液体状ガスから生成された過剰気相は、場合に応じて除去される代わりに、十分に凝縮される。したがって、液体状ガスから生成されかつ浮遊構造物への供給のために使用される気相を除いて、タンク内に収容されている液体状ガスの損失はない。
【0029】
この状況では、凝縮機能がアクティブである。言い換えれば、液体状ガスから生成された過剰気相が存在する場合、供給システムは、液体状ガスから生成された過剰気相を凝縮することを許可される。液体状ガスの凝縮の作用は、液体状ガスから生成される過剰気相を管理する必要に基づいて、様々であってよい。液体状ガスの凝縮は、例えば、タンク内の液体状ガスから過剰気相が生成される場合に、タンク内の圧力を下げるため、より持続的な方式で行うことができる。
【0030】
本発明の1つの特徴によれば、ステップFにおいて計算された、行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支が、ステップEにおいて計算された最大エネルギ収支よりも小さいことを保証する推定時間dtにおいて、ステップGが、冷却機能を停止することとして行われる。凝縮機能のための第1の運転計画の調整が、全行程を通じてこれを維持することとして行われた後には、到着時の液体状ガスの推定エネルギ収支を仕向地の要件よりも常に小さくすることが可能である。したがって、冷却機能が推定時間dtにおいてイナクティブ化されるように、冷却機能のための第2の運転計画を調整することが可能である。このような調整は、冷却機能がイナクティブ化されている期間中、冷却機能により消費されるエネルギを節約することを可能にする。これは、液体状ガスがもはや冷却機能により冷却されないために、タンク内に収容されている液体状ガスの温度の上昇につながる。このことは、冷却機能を停止する推定時間dtを、タンク内に収容されている液体状ガスの温度が上昇してもこの上昇が仕向地まで液体状ガスが運搬されて行程から到着する時点で要件を超えないように確立する理由である。
【0031】
これを行うため、推定および調整方法は、冷却機能のための第2の運転計画の調整と、ステップF、すなわちタンク内に収容されている液体状ガスの到着時のエネルギ収支を推定するステップとを逐次繰り返すことになる。冷却機能のための第2の運転計画の調整は、仕向地への到着を目標として推定時間dtを決定することとして行われる。この場合、推定時間dtは、到着に対して一定量の時間の前、例えば数日前または数時間前として決定される。次いで、推定および調整方法は、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支を再計算するが、この時間は、冷却機能のための第2の運転計画の新たな調整、すなわち例えば仕向地への到着の数日または数時間前に冷却機能を停止することを考慮するものである。タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支がもはやステップEにおいて計算された最大エネルギ収支よりも小さくない場合、推定および調整方法は、通常、ステップHに続く。タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支が最大収支よりも依然として小さい場合には、推定および調整方法は、推定時間dtを例えば仕向地への到着の数日前または数時間前までにさらに予測することにより、冷却機能のための第2の運転計画の調整を繰り返す。次いで、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支は、新たな調整を考慮することにより再計算される。したがって、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支が最大エネルギ収支よりも小さい限り、推定時間dtは遅延される。このループにより、できるだけ多くのエネルギを節約するために、現在の時刻tに最も近い推定時間dtが決定され、したがって、できるだけ早く冷却機能をイナクティブ化することが可能となる。最終推定時間dtが決定されると、推定および調整方法はステップHに続く。
【0032】
本発明の1つの特徴によれば、ステップFにおいて計算された、行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支が、ステップEにおいて計算された最大エネルギ収支よりも大きい限り、ステップGが、凝縮機能を停止することとして行われる。行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支が、最大エネルギ収支よりも大きいとき、これは、液体状ガスの貨物が浮遊構造物の到着時の仕向地の要件に対して過度に高い液体状ガスの飽和圧力となることを意味する。このような状況を避けるためには、タンク内に収容されている液体状ガスの温度の上昇につながるあらゆる作用を制限するとよい。したがって、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支が最大エネルギ収支を超える所与の時間d’tにおいて供給システムの凝縮機能がシャットダウンされるよう、凝縮機能のための第1の運転計画が調整される。行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支が、その後、最大エネルギ収支よりも再び小さくなる場合、凝縮機能は、場合により再アクティブ化されてもよい。
【0033】
本発明の1つの特徴によれば、ステップFにおいて計算された、行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支が、ステップEにおいて計算された最大エネルギ収支よりも大きい限り、ステップGが、冷却機能をアクティブ化することとして行われる。この状況では、タンク内に収容されている液体状ガスの温度を下げることが不可欠である。したがって、凝縮機能が所与の時間d’tにおいてイナクティブ化されるように凝縮機能の第1の運転計画が調整されると同時に、液体状ガスの飽和圧力が仕向地の要件を満たして仕向地における浮遊構造物の到着まで冷却機能がアクティブであるように、冷却機能の第2の運転計画も調整される。
【0034】
したがって、この状況では、冷却機能がアクティブである。言い換えれば、供給システムは、タンク内に収容されている液体状ガスを冷却することを許可される。供給システムは、前記供給システムの構成に関して可能な限り高い作用にしたがって液体状ガスを冷却する。
【0035】
本発明の1つの特徴によれば、推定および調整方法は、ステップBから開始され、浮遊構造物の行程中に反復により繰り返される。その出発点から仕向地までの浮遊構造物の行程時間は運搬にしたがって可変であるが、この行程は、数日、さらには数週間継続しうる。推定値は、例えば海上輸送のための気象または海の状態などの環境条件により、中長期的には歪められることがある。したがって、所望の目的を達成するために、推定および調整方法は、行程中に規則的に繰り返されなければならない。このため、推定および調整方法は、例えば規則的な時間間隔で、例えば6時間毎に開始されるようにパラメータ化することができる。
【0036】
ステップAは、固定値に依存する計算に基づく。したがって、初めて推定および調整方法を開始した後にこのステップを繰り返す必要はない。したがって、推定および調整方法は、供給システムの凝縮機能のための第1の運転計画を確立するステップから出発して、反復により繰返し可能である。
【0037】
本発明の1つの特徴によれば、推定および調整方法は、浮遊構造物の出発から時間tまでの凝縮機能および冷却機能の実行と、先行の反復中に計算された、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支とから、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支を計算する、ステップDと同時に行われる追加のステップD’を含む。ステップD’において行われる、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支の計算は、例えば温度センサにより記録された、時間tにおけるタンク内に収容されている液体状ガスの温度をもはや考慮していないが、あらかじめ計算された時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支は考慮する。言い換えれば、ステップD’は、推定および調整方法の初回が既に実施されている場合にのみ実行される。有利には、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支は、先の時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支、すなわち推定および調整方法の先の反復からの液体状ガスのエネルギ収支から計算され、これはステップDまたはD’中に計算されたものであってよい。
【0038】
ステップD’中の時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支の計算は、浮遊構造物の出発から時間tまでの凝縮機能および冷却機能の実行も考慮する。凝縮機能では、これは、タンクに伝達され、例えば凝縮機能を実行する熱交換器の入口と出口とにおける温度差により示される温度の一般的な上昇につながる熱に関するデータに対応する。冷却機能では、これは、タンクに伝達され、例えば冷却機能を実行する熱交換器の入口と出口とにおける温度差により示される温度の一般的な低下を結果としてもたらす低温に関するデータに対応する。
【0039】
本発明の1つの特徴によれば、ステップFのために保存された、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支は、ステップDにおいて計算された、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支と、ステップD’において計算された、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支との中で最も大きい。言い換えれば、これは、推定および調整方法が、続いてステップF、すなわち到着時に推定される、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を推定するステップに到ったとき、ステップFの推定のために使用される、ステップDにおいて得られた結果とステップD’において得られた結果との中で最も大きい値を有する、時間tにおけるタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支である。最も大きい値を有する、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支は、最も悲観的な結果と考えられる。目的が仕向地の最大エネルギ収支を超えないことであるため、安全対策として最も長い時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支を保つとよい。
【0040】
本発明の1つの特徴によれば、推定および調整方法は、浮遊構造物の行程の特性の関数としての液体状ガスの最大エネルギ収支の安全マージンを選択する追加のステップA’を含み、ステップEが前記安全マージンを考慮して実施される。エネルギ収支が仕向地の要件よりも大きい液体状ガスの貨物と共に浮遊構造物が前記仕向地に到着しないことを確実とするために、最大エネルギ収支の値を実質的に低減すべく安全マージンを考慮することが可能である。したがって、ステップE中、最大エネルギ収支は、ステップAにおいて計算された液体状ガスの最高許可温度にしたがって、ただし安全マージンも考慮して、常に計算される。この場合、実際の最大エネルギ収支よりも小さい値を有する安全な最大エネルギ収支が得られる。残りの推定および調整方法においては、凝縮機能のための第1の運転計画および冷却機能のための第2の運転計画が、行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支と、仮想の最大エネルギ収支との間の比較にしたがって調整され、すなわちこれは安全マージンを考慮している。したがって、安全マージンは、実際の最大エネルギ収支を下回ったままであることの確実性を保証する。
【0041】
安全マージンは、異なるパラメータにしたがって選ぶことができる。例えば、行程が長いほど、より高い安全マージンを選択することが好ましい。高い安全マージンは、行程中の気象情報が不足している場合にも推奨される。安全マージンは、例えば、制御モニタを介して手動で入力することができ、または経時的に可変にプログラムすることもできる。
【0042】
安全マージンはステップEの計算に使用されるため、ステップA’は、推定および調整方法において、ステップEに先行する。
【0043】
本発明の1つの特徴によれば、ステップA’は、浮遊構造物の行程中、反復により繰り返される。ステップA’の繰返しは、推定および調整方法の繰返しから独立していてよく、あるいはその一部を形成していてもよい。ステップA’は、例えば予見されない気象現象の出現後に、手動でトリガすることもできる。この場合、安全マージンの値を手動で増加させて、前記気象現象によってもたらされる不確実性を克服することがスマートでありうる。
【0044】
本発明の1つの特徴によれば、浮遊構造物が仕向地に近づくにつれて、安全マージンが低減される。言い換えれば、浮遊構造物がその仕向地に近づくほど、必要とされる安全マージンは低くなる。したがって、経時的に減少する安全マージンをプログラムすることが可能である。
【0045】
本発明の1つの特徴によれば、浮遊構造物が、液体状ガスから生成される気相により少なくとも部分的に駆動される少なくとも1つのエンジンを備えており、行程中に液体状ガスから生成される過剰気相の推定値が、タンクへの入熱の予測値とエンジンの消費の推定値とから確立される。先に記載したように、浮遊構造物は、例えばその推進エンジンおよび/またはその発電機を駆動するために、液体状ガスから生成される気相を使用することができ、またはさらにこれを発生させることができる。これらの様々な機能のために使用されない、液体状ガスから生成される気相は、液体状ガスから生成される過剰気相に対応する。過剰気相は、推定および調整方法のステップBおよびC、すなわち供給システムの凝縮機能および冷却機能のための運転計画を確立するためのステップを行うことができるような量で推定される必要がある。タンクへの入熱の予測値は、例えば使用されるタンクモデルに依存しうるので、タンクの技術特性として利用可能でありうる。タンクへの入熱の予測値は、センサを使用して推定することもできる。
【0046】
浮遊構造物が、仕向地までの行程のための経路計画を定義することを可能にするモジュールを備えている場合、エンジン消費を推定することができる。備えていない場合、エンジン消費は、残りの行程における浮遊構造物の平均速度から推定することができ、残りの行程は、進むべき残りの距離および仕向地に到着するまでの残りの時間に依存する。
【0047】
したがって、液体状ガスから生成される過剰気相は、推定および調整方法の外部の源により推定することができ、例えば、推定および調整方法において考慮されるために制御モニタにより入力することができる。この場合、この余剰は、トン/時間単位で定量化することができる。
【0048】
本発明は、先に記載したような推定および調整方法を実施する、浮遊構造物の少なくとも1つのタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を管理するためのシステムであって、浮遊構造物の消費装置のための少なくとも1つの燃料供給システムと、浮遊構造物の行程中に液体状ガスから生成される過剰気相の量を推定する機能を有する少なくとも1つのコンピュータとを含むシステムもカバーする。
【0049】
このようなエネルギ収支管理システムは、凝縮機能および冷却機能を実行する、浮遊構造物の消費装置のための燃料供給システムを含み、推定および調整方法の実行を可能にする。
【0050】
推定および調整方法、特に、供給システムにより行われる、液体状ガスから生成される気相の凝縮機能のための第1の運転計画および液体状ガスの冷却機能のための第2の運転計画をそれぞれ確立するステップBおよびCの円滑な実行を保証するために、コンピュータは、ステップBおよびCを行うために不可欠な、液体状ガスから生成される過剰気相の推定量を伝達することができる。エネルギ収支管理システムは、上述の制御モニタを含むこともできる。
【0051】
本発明は、上記のような液体状ガスのエネルギ収支を管理するためのシステムを含む、液体状ガスを輸送するための浮遊構造物もカバーする。
【0052】
本発明の他の特徴および利点は、添付の概略図を参照して、例示目的でかつ限定することなく示す以下の説明およびいくつかの例示的な実施形態の両方から明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】液体状ガスが積載された、仕向地までの行程を行く浮遊構造物の概略図である。
図2】本発明による液体状ガスの温度を管理するためのシステムの一実施形態の概略図である。
図3】本発明による液体状ガスのエネルギ収支を推定および調整するための一連の方法が初めて開始されるときの概略図である。
図4】本発明による液体状ガスのエネルギ収支を推定および調整するための一連の方法が反復により開始されるときの概略図である。
図5】推定および調整方法にしたがって複数のコマンドを実行することができる、浮遊構造物の消費装置のための燃料供給システムを示す概略図である。
図6】第1の特定の実施形態による供給システムの図である。
図7】第2の特定の実施形態による供給システムの図である。
図8】液体状ガスの前記エネルギ収支が到着時に過小と推定される状況における、時間の関数としての液体状ガスのエネルギ収支の変化ならびに凝縮機能および冷却機能のための運転計画を表す曲線を示す図である。
図9図8において述べた状況を克服するための、時間の関数としての液体状ガスのエネルギ収支の変化ならびに凝縮機能および冷却機能のために調整された運転計画を表す曲線を示す図である。
図10】液体状ガスの前記エネルギ収支が到着時に過大と推定される状況における、時間の関数としての液体状ガスのエネルギ収支の変化ならびに凝縮機能および冷却機能のための運転計画を表す曲線を示す図である。
図11図10において述べた状況を克服するための、時間の関数としての液体状ガスのエネルギ収支の変化ならびに凝縮機能および冷却機能のために調整された運転計画を表す曲線を示す図である。
図12】時間の関数としての安全マージンの値の変化の第1の例を表す曲線を示す図である。
図13】時間の関数としての安全マージンの値の変化の第2の例を表す曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
本発明が適合する文脈を可視化するために、図1は、行程3にしたがうことにより仕向地2に向かって進む浮遊構造物1を示す。本明細書において示される浮遊構造物1は、輸送船、例えばLNG運搬船である。浮遊構造物1は、液体状ガスの貨物を仕向地2まで運搬することを目的としてこれを輸送する。このような輸送を保証するために、浮遊構造物1は、少なくとも1つのタンク9を含む。
【0055】
仕向地2は、浮遊構造物1のタンク9内に収容されている液体状ガスを受け入れることが意図されたターミナルである。浮遊構造物1が仕向地2に到着すると、液体状ガスは、例えば貯槽40に荷揚げされる。しかし、仕向地2は、液体状ガスの特性に関する要件を課す。仕向地2の要件は、仕向地2が付属している施設の管理者にしたがって変化しうるものであって、主に液体状ガスの特性、例えばその飽和圧力および/またはその温度に関する。
【0056】
浮遊構造物1のタンク9内に収容されている液体状ガスが、液体状ガスに関するこれらの飽和圧力要件を満たさない場合、液体状ガスの貨物は、仕向地2の施設管理者により潜在的に拒否されうる。
【0057】
これを避けるために、液体状ガスの貨物は、行程3を通じて綿密に監視されなければならない。行程3は、荷積み場所から仕向地2までの距離ならびに浮遊構造物1の速度に応じて可変の距離を有し、数日、さらには数週間継続しうる。
【0058】
図2は、浮遊構造物のタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を管理するためのシステム4を概略的に示す。液体状ガスのエネルギ収支は、例えば液体状ガスの温度、飽和圧力、全質量、または比熱容量などの前記ガスの様々な特性を包含するデータに対応する。管理システム4は、浮遊構造物のタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を推定および調整するための方法5をメモリ内に有する制御ボックス41を含む。したがって、制御ボックス41は、規則的かつ自動化された方式で、ならびに/または例えば制御モニタ6により行われる手動制御にしたがって、推定および調整方法5を開始することができる。これは後に明らかにされるように、データ、例えば輸送される液体状ガスの特性、または推定および調整方法5の進行に有用な他の任意の情報を制御モニタ6を介して手動で入力することも可能である。
【0059】
管理システム4は、浮遊構造物の消費装置のための燃料供給システム8も含む。供給システム8は、タンク内に収容されている液体状ガスを凝縮する機能および/または冷却する機能を有し、これらをアクティブ化またはイナクティブ化することによりこれらの機能の一方または他方を調整することができる。供給システム8の凝縮機能および冷却機能の調整は、推定および調整方法5の結果に依存する。したがって、推定および調整方法5が終了するとき、制御ボックス41は、供給システム8により行われるべき調整を示す信号を供給システム8に送信する。
【0060】
管理システム4はコンピュータ7も含む。コンピュータ7の機能は、浮遊構造物の行程中に液体状ガスから生成される過剰気相の量を推定することである。液体状ガスから生成される気相は、液体状ガスのタンク内で自然に発生し、あるいは強制的に形成されうる。液体状ガスから生成される推定過剰気相は、浮遊構造物のエンジンの消費の推定値およびタンクへの入熱の予測値を使用して計算される。コンピュータ7および制御ボックス41は、同じ制御ユニットの一部であってよく、または互いに独立していてもよい。
【0061】
情報をコンピュータ7に伝達する制御モニタ6への経路計画の入力により、あるいは浮遊構造物の位置と仕向地との間の残りの距離および仕向地に到着するまでの残りの時間から浮遊構造物の平均速度を計算することにより、浮遊構造物のエンジンの消費を推定することができる。浮遊構造物の平均速度は、情報をコンピュータ7に伝達する制御モニタ6にデータを入力することにより計算することもできる。
【0062】
タンクへの入熱の予測値は、タンクへの入熱の設計値に、またはタンクへの入熱の推定値にも対応しうる。タンクへの入熱の設計値は、輸送のために使用されるタンクのモデルに依存し、かつ制御モニタ6を介してコンピュータ7に与えることができる。タンクへの入熱の推定値は、前記タンクに含まれるセンサにより通信することもできる。
【0063】
行程中に液体状ガスから生成される過剰気相がコンピュータ7により推定されると、コンピュータ7は、結果を制御ボックス41に伝達する。以下で説明するように、行程中に液体状ガスから生成される過剰気相は、推定および調整方法5の実行を可能にするデータである。
【0064】
図3は、本発明による液体状ガスのエネルギ収支を推定および調整するための方法5の概略図である。この図は、仕向地までの行程中に推定および調整方法5が初めて開始されるときの進行を示す。推定および調整方法5は、浮遊構造物の出発前または出発時に初めて開始することができる。図3において、実線の矢印は、推定および調整方法5のステップのそれぞれの進行を表し、点線の矢印は、推定および調整方法5の2つのステップ間のデータ伝達、または液体状ガスのエネルギ収支を管理するためのシステムの1つの要素と推定および調整方法5の1つのステップとの間のデータ伝達に対応する。
【0065】
推定および調整方法5が初めて開始されるとき、これは、仕向地への到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスの最高許可温度を計算することを可能にするステップAから始まる。ステップAの計算は、液体状ガスの全質量および比熱容量など、液体状ガスのある一定の特性に依存する。このような特性は、輸送される液体状ガスのタイプに依存し、浮遊構造物の関係者に何らかの形式で既知である。したがって、液体状ガスの全質量および液体状ガスの比熱容量は、制御モニタ6を通じて入力するまたは事前に選択することができ、推定および調整方法5のステップAの計算のために伝達することができる。ステップAの計算は、仕向地の液体状ガスの最高飽和圧力要件にも依存する。これらの要件は仕向地にしたがって変化するため、液体状ガスの必要とされる最高飽和圧力の値は、仕向地が既知であれば既知である。液体状ガスの飽和圧力要件は、制御モニタ6を介して入力することができ、または例えば液体状ガスの受入れおよび荷下ろしが許可されたすべての目的地の場所をリストにしたデータベースを介して知ることができる。
【0066】
ステップAの計算が実施されると、推定および調整方法5は、ステップBに直接に移行することができ、あるいは中間ステップA’を通過することができる。ステップA’は、液体状ガスのエネルギ収支が仕向地の到着時の要件よりも小さいことを確認するために安全マージンを決定することとして行われる。したがって、ステップA’は、推定および調整方法5の円滑な実行に不可欠ではなく、安全マージンなしですべての計算および推定を実行することができるが、しかしこれは液体状ガスのエネルギ収支の調整の最適化に寄与する。安全マージンは、経路計画および/または気象条件から自動で、または制御モニタ6を介して手動で決定することができる。安全マージンは、ステップE中の計算に使用される。したがって、ステップA’は、ステップEの前の任意の時点で行うことができる。
【0067】
推定および調整方法5のステップBは、ステップAまたはステップA’の後に行われる。ステップBは、供給システム8の凝縮機能の第1の運転計画を確立することとして行われる。供給システム8の凝縮機能の第1の運転計画は、経時的に、行程のうちのいつ凝縮機能がアクティブまたはイナクティブなままであるか、およびいつ凝縮機能がアクティブ化またはイナクティブ化されるかを示す。第1の運転計画の確立は、行程中に液体状ガスから生成される過剰気相の量に依存する。実際には、例えば、液体状ガスから生成される過剰気相が行程中に生成されないことが決定された場合、供給システムは、液体状ガスから生成された凝縮する気相を有さず、したがって行程中にアクティブである必要はないことが理解される。このような余剰は、浮遊構造物の消費装置がシャットダウンされて液体状ガスのボイルオフが発生し続ける場合に結果として生じることがある。液体状ガスから生成される過剰気相はコンピュータ7により推定され、したがって、コンピュータ7は、推定および調整方法5がステップBを実施することができるように情報を制御ボックスに伝達する。
【0068】
ステップCは、ステップBに並行してまたは続いて行われる。ステップCは、供給システム8の冷却機能のための第2の運転計画の確立を可能にするため、ステップBと同じ基本方式に基づく。ステップBについてと同様に、供給システム8の冷却機能の第2の運転計画は、経時的に、行程のうちのいつ冷却機能がアクティブまたはイナクティブなままであるか、およびいつ冷却機能がアクティブ化またはイナクティブ化されるかを示す。第2の運転計画の確立も、コンピュータ7により推定される、行程中に液体状ガスから生成される過剰気相の量に依存する。したがって、液体状ガスから生成される過剰気相の推定値がステップBおよびCで考慮される。
【0069】
次いで、推定および調整方法5は、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支を計算するステップDに続く。図3は、初めての開始の際の推定および調整方法5の過程を示しており、ここでの時間tは、浮遊構造物の出発の時点または出発の前に対応する。時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支を計算するために、推定および調整方法5は、液体状ガスの全質量、または液体状ガスの比熱容量など、特にタンク内に収容されている液体状ガスの到着時の最高許可温度を計算するためにステップA中に使用される液体状ガスの特性を必要とする。これらの特性は、ステップAについてと全く同様に、制御モニタ6により提供することができる。時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支の計算には、時間tにおけるタンク内に収容されている液体状ガスの平均温度も必要である。ガスの平均温度は、例えばタンク内に位置する温度センサを使用して測定することができる。したがって、供給システム8が、推定および調整方法5がステップDの計算を行うことができるようにタンク内の平均温度を与え、これを制御ボックスに伝達する。
【0070】
ステップDが完了すると、推定および調整方法5は、最大エネルギ収支を計算することとしてのステップEに続く。最大エネルギ収支は、仕向地の要件の限界に対応し、これは、浮遊構造物が仕向地に到着したとき、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支が越えてはならず、貨物が拒否されるペナルティ下にある限界である。なお、液体状ガスのエネルギ収支は、何事も起こさず行程中にこの最大エネルギ収支の限界を超えることがあるが、浮遊構造物が仕向地に到着する前にこの最大エネルギ収支未満に戻らなければならない。最大エネルギ収支は、行程中にタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支を調整するための目標であることが理解される。
【0071】
ステップE中の最大エネルギ収支のこの計算について、推定および調整方法5は、液体状ガスの特性、およびステップA中に計算された、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の最高許可温度を必要とする。したがって、提供されたデータとステップA中に行われた計算とを、ステップEの計算のために伝達することができる。推定および調整方法5がステップA’を行った場合、言い換えれば安全マージンが決定および選択された場合、前記安全マージンも伝達され、最大エネルギ収支の計算のために考慮される。したがって、ステップE中に計算される最大エネルギ収支は、安全マージンの不在下の実際の最大エネルギ収支、または計算において考慮される安全マージンのために実際の最大エネルギ収支よりも小さい仮想の最大エネルギ収支に対応する。
【0072】
推定および調整方法5の次のステップは、行程からの到着時の、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支の推定を保証するステップFである。ステップFは、ステップBおよびC中に確立された凝縮機能および冷却機能のための運転計画を保ちながら、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支が行程からの到着時にどうなるかを決定することを可能にする。このような推定を実施するために、計算は、ステップD中に計算された時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支、ならびにステップBおよびC中に確立された凝縮機能および冷却機能のための運転計画に基づく。ステップBおよびC中、全行程について凝縮機能および冷却機能のための運転計画が確立されると、次いで、推定および調整方法5は、このステップF中に液体状ガスのエネルギ収支の変化を推定することができ、凝縮機能および冷却機能は、自身がアクティブであるかまたはイナクティブであるか、および自身がいつアクティブ化されるかまたはイナクティブ化されるかによって液体状ガスの前記エネルギ収支を変化させることができる。したがって、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時のエネルギ収支は、これらのデータから決定することができる。
【0073】
次いで、推定および調整方法5は、供給システム8の凝縮機能および冷却機能のための運転計画の調整を保証するステップGに続く。この調整は、ステップE中に計算された最大エネルギ収支と、ステップFにおいて計算された、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支との間の比較に基づいて行われる。ステップF中に計算された、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支は、ステップBおよびC中に確立された、凝縮機能および冷却機能のための運転計画に基づくことに留意されたい。したがって、ステップGは、凝縮機能および冷却機能のための運転計画を調整することにより、タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の当該推定エネルギ収支を変更することを可能にする。
【0074】
タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支が最大エネルギ収支よりも大きいとき、これは、液体状ガスの貨物が、到着時に仕向地の最高要件に対して過剰である液体状ガスの飽和圧力となることを意味する。したがって、凝縮機能および冷却機能のための運転計画は、タンク内に収容されている液体状ガスの温度を下げ、相応に液体状ガスのエネルギ収支を小さくするために、調整されなければならない。
【0075】
タンク内に収容されている液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支が最大エネルギ収支よりも小さいとき、これは、液体状ガスの貨物が到着時に仕向地の要件に適合し、ただし、調整がエネルギ節約の点で有用であると判明すれば、タンク内に収容されている液体状ガスの温度の上昇を可能にする調整を行うことが可能であることを意味する。したがって、凝縮機能および冷却機能のための運転計画は、タンク内に収容されている液体状ガスの温度の上昇、および相応の液体状ガスのエネルギ収支の増大を可能にするために調整されなければならない。
【0076】
したがって、ステップGは、状況に最も良く対応するように供給システム8の凝縮機能および冷却機能のための運転計画の最適な調整を決定する。運転計画の調整の例は、後に提示する。
【0077】
推定および調整方法5は、最後に、ステップG中に調整された運転計画を実施するステップHで終了する。ステップHは、推定および調整方法5の終了を示し、供給システム8が凝縮機能および冷却機能の調整された運転計画を実施するよう、これらを供給システム8に送信する。供給システム8の運転の詳細は、後に提示する。
【0078】
図4は、反復による繰り返し中の、すなわち推定および調整方法5が図3にしたがって初めて開始された後に行程中に開始されるときの、液体状ガスのエネルギ収支を推定および調整するための方法5の概略図である。推定および調整方法5のステップの大部分が先に記載したものと同様であり、したがって、これに関する説明については図3の説明を参照されたい。図3についてと同様に、実線の矢印は、推定および調整方法5のステップのそれぞれの進行を表し、点線の矢印は、推定および調整方法5の2つのステップ間のデータ伝達、または液体状ガスのエネルギ収支を管理するためのシステムの1つ要素と推定および調整方法5の1つのステップとの間のデータ伝達に対応する。
【0079】
推定および調整方法5が反復により繰り返される場合、ステップAを開始することはもはや有用ではない。実際に、ステップAの計算、すなわちタンク内に収容されている到着時の液体状ガスの最高許可温度の計算の結果は経時的に不変である。しかし、ステップAの結果はステップEの計算に使用されるので、前記結果は、行程中、例えば制御ボックスのメモリにより保持されなければならない。
【0080】
安全マージンを選択することとしてのステップA’も繰り返されない。ただし、安全マージンは、推定および調整方法5が初めて開始されたときに経時的に変化するように構成されたために、または制御モニタ6を通じて手動で変更されたために、推定および調整方法5の進行から独立に変化するように設定されていてよい。安全マージンの変化は、ステップEが推定および調整方法5内に維持されることの理由であり、なぜなら、これは、ステップEの計算のために経時的に変化する可能性のある要因であるからである。
【0081】
したがって、推定および調整方法5が反復により繰り返されるとき、これはステップBから始まる。推定および調整方法5の初めての開始中、液体状ガスから生成される過剰気相の量がコンピュータ7により依然として計算および供給されるように、ステップBおよびCが行われる。
【0082】
ステップDも、上記で記載したのと全く同様に行われる。対照的に、ステップD’はステップDに並行して行われ、ここでも時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支が計算されるが、ステップDの計算とは異なる計算にしたがう。ステップD’の時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支の計算は、推定および調整方法5の先の反復において計算された、先の時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支と、浮遊構造物の出発以来の凝縮機能および冷却機能の実行とから行われる。先の時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支は、例えば制御ボックスのバッファメモリから回復することができる。凝縮機能および冷却機能の実行は、液体状ガスの貨物に向かって、凝縮機能により行われる熱伝達および冷却機能により行われる冷伝達を起点とする。したがって、凝縮機能および冷却機能の実行は、液体状ガスの凝縮および冷却を保証する供給システム8の要素に配置されたセンサにより測定することができ、供給システム8は、ステップD’での適用のために、このデータを制御ボックスに伝達する。
【0083】
ステップDおよびD’の時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支を計算した後、最も大きい値を有する、時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支のみが保持される。時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支は最も悲観的な値を有すると考えられ、優先事項は、続いて計算される最大エネルギ収支を下回ったままであることである。
【0084】
次いで、残りの推定および調整方法5が、図3の記載にしたがって行われる。推定および調整方法5が完了すると、凝縮機能および冷却機能のための運転計画の調整が供給システム8に伝達され、推定および調整方法5は、制御ボックスの設定に応じてステップBから直接に再び繰り返すことができる。有利には、制御ボックスは、図4の流れにしたがって、行程を通じて規則的な間隔で、例えば1日に1回または6時間毎に、推定および調整方法5を繰り返すように構成される。
【0085】
図5は、液体状ガスの凝縮および冷却の機能を保証する供給システム8の概略図である。一般に、供給システム8は、タンク9と、また消費装置セットと相互作用する。
【0086】
供給システム8は、タンク9の液体状ガスの温度管理を保証することができる。これを行うため、供給システム8は、液体入口81およびガス入口82を含む。液体入口81は、供給システム8をタンク9に接続し、かつ液体状ガス13を、例えば液体状ガスポンプ26により引き入れることができる。ガス入口82は、液体状ガスから生成された一定量の気相14を含みうるタンクヘッドから供給システム8まで延びている。液体状ガスから生成された気相14は、供給システム8への導通のために、例えば圧縮器27により吸引することができる。
【0087】
供給システム8は、供給システム8から消費装置セットまで延びるガス出口83も含む。例として、消費装置は、推進エンジン16、発電機17、燃焼室18または脱ガスマット28でありうる。推進エンジン16は、行程中に浮遊構造物を前進させることを可能にするものであり、液体状ガスから生成された気相14が供給されうる。発電機17は、浮遊構造物、例えば浮遊構造物の照明または搭載ネットワーク、より一般に、電力供給を必要とする任意の実体に電気を供給する。したがって、液体状ガスから生成された気相14は、これらの消費装置の一方および/または他方の燃料としての役割を果たす。したがって、例えば液体状ガスから過剰気相14が生じた場合、供給システム8は、液体状ガスから生成された気相14をガス入口82内に吸引することができる。次いで、液体状ガスから生成された気相14は、供給システム8により処理され、次いで、例えば推進エンジン16または発電機17への供給のために、ガス出口83を通じて供給システム8を出ることができる。
【0088】
液体状ガスから生成されるが推進エンジン16または発電機17に供給するために使用されない気相14を、液体状ガスから生成された過剰気相14とする。液体状ガスから生成されたこの過剰気相14は、燃焼室18で燃焼させることができ、または脱ガスマット28により雰囲気中に放出することができる。
【0089】
液体状ガスから生成された過剰気相14は、供給システム8により凝縮させるためにバイパス84を介して供給システム8に戻すこともできる。これが行われると、凝縮液体状ガスは、供給システム8の液体出口85を通じてタンク9に戻る。
【0090】
液体状ガス13が冷却される必要がある場合、液体状ガス13は、液体状ガスポンプ26により引き入れられ、供給システム8まで液体入口81内を循環し、そこで冷却される。次いで、冷却された液体状ガス13は、液体出口85を通じてタンク9に戻る。
【0091】
図6は、液体状ガスの凝縮機能および冷却機能を保証する供給システム8の第1の実施形態の概略図である。
【0092】
図5についてと同様に、供給システム8は、タンク9の温度を管理する。タンク9は、一定量の液体状ガス13で少なくとも部分的に充填されている。タンクヘッドはまた、液体状ガスから生成された一定量の気相14を含んでもよい。タンク9は、少なくとも液体状ガスポンプ26も含む。タンク9は、第1の温度センサ10も含む。この第1の温度センサ10により、液体状ガス13の平均温度が測定され、推定および調整方法のステップDの計算のために制御ボックスに伝達される。図6の例について、タンク9の第1の温度センサ10は、自身を取り囲む液体状ガスの温度を記録する。浮遊構造物が第1の温度センサ10をそれぞれ含む複数のタンク9を含む場合、温度の平均が形成され、次いで制御ボックスに送信される。
【0093】
先に示したように、供給システム8の凝縮機能は、液体状ガスから生成された過剰気相14の凝縮を可能にする。これを行うため、タンク9の液体状ガスから生成された気相14は、タンクの外部に配置されて気相回路15を構成する圧縮器27により吸引される。気相回路15は、液体状ガスから生成された気相14を輸送し、この気相14が推進エンジン16および/または発電機17により燃料として使用されるために推進エンジン16および/または発電機17へ出るまで延びる。
【0094】
液体状ガスから生成されるが推進エンジン16または発電機17に供給するために使用されない気相14は、液体状ガスから生成された過剰気相14であり、過剰回路19内を循環する。過剰回路19は、第1の熱交換器11への液体状ガスから生成された過剰気相14の循環を可能にする。第1の熱交換器11が、第1の流路111と第2の流路112との間の熱交換によって、液体状ガスから生成された過剰気相14を凝縮する機能を実行する。第1の流路111を液体状ガスから生成された過剰気相14が横断し、次いで、液体状ガスから生成された過剰気相14が凝縮して液体状態となるように第2の流路112により冷却される。したがって、供給システム8の凝縮機能がアクティブであるとき、液体状ガスから生成された過剰気相14は、過剰回路19を介して第1の熱交換器11へ導かれることが理解される。供給システム8の凝縮機能がイナクティブである場合には、液体状ガスから生成された過剰気相は、燃焼室18へ導かれて燃焼され、または脱ガスマット28へ導かれて雰囲気中に放出される。液体状ガスから生成された過剰気相14を凝縮するために、液体状ガスから生成された過剰気相14の状態変化温度よりも低い温度を有する流体は、第2の流路112内を循環する。
【0095】
過剰気相14が第1の熱交換器11により凝縮された液体状ガスから生成されると、凝縮ガスは、凝縮ガスをタンク9に導く戻り回路21に到るまで、凝縮ガス回路20内を循環する。
【0096】
供給システム8の冷却機能に関して、タンク9内に収容されている液体状ガス13は、まず液体状ガスポンプ26により吸引される。液体状ガスポンプ26により吸引された液体状ガス13は、第2の熱交換器12まで循環する。第2の熱交換器12が、第3の流路121と第4の流路122との間の熱交換によって液体状ガス13を冷却する機能を実行する。液体状ガスポンプ26により吸引された液体状ガス13は、第4の流路122を通じて第2の熱交換器12内を循環し、冷却される。既に極低温である液体状ガス13を冷却するために、液体状ガス13よりも低い温度を有する流体が第3の流路121内を循環している。第3の流路121は、供給システム8の外部の、図6に示されていない冷却回路の一部でありうる。外部の冷却回路は、例えば真空蒸発器型システムの一部であってよい。
【0097】
続いて、第2の熱交換器12により冷却された後、冷却された液体状ガス13は、戻り回路21を通じてタンク9に戻る。したがって、冷却された液体状ガス13は、タンク9を全体的に冷却することを可能にし、冷却された液体状ガス13の温度は、タンク9内に残っている液体状ガス13の温度よりも低くなる。
【0098】
第1の熱交換器11および第2の熱交換器12の熱交換は、複数の温度センサにより測定される。したがって、供給システム8は、第1の熱交換器11の入口および出口にそれぞれ位置する2つの第2の温度センサ24と、第2の熱交換器12の入口および出口にそれぞれ位置する2つの第3の温度センサ25とを含む。熱交換器のそれぞれの出口と入口との間の温度差を計算することにより、第2の温度センサ24によりタンク9への入熱を測定することができ、第3の温度センサ25によりタンク9への入冷を測定することができる。入熱および入冷は、供給システム8の凝縮機能および冷却機能の実行を計算するために使用されるデータであり、前記実行は、推定および調整方法のステップD’の時間tにおける液体状ガスのエネルギ収支を計算するのに役立つ。したがって、このデータは、供給システム8により制御ボックスに送信される。
【0099】
推定および調整方法の最後に、供給システム8は、凝縮機能および冷却機能のための調整された運転計画を受け取る。次いで、供給システム8は、凝縮機能および冷却機能の一方および/または他方のアクティブ化またはイナクティブ化をプログラム可能であることにより、調整された運転計画にしたがってその運転を変更する。
【0100】
図7は、供給システム8の第2の実施形態を概略的に表す。図6に提示した第1の実施形態と比べて、供給システム8の冷却機能の実施のみが異なる。したがって、2つの実施形態に共通する供給システム8の任意の部分については、図6の説明を参照されたい。
【0101】
供給システム8のこの第2の実施形態において、供給システム8は、浮遊構造物の消費装置に供給する機能と組み合わせたその冷却機能を実行する。実際に、液体状ガスから生成された気相14が気相回路15内に吸引されると、これは、第3の流路121内を循環しながら第2の熱交換器12を通過する。タンク9内に収容されている液体状ガス13は、まず液体状ガスポンプ26により吸引され、次いで、第2の熱交換器12内に位置する第4の流路122を通じて循環する。第3の流路121と第4の流路122との間で行われる熱交換は、推進エンジン16および/または発電機17への供給に十分となるように液体状ガスから生成された気相14の温度を上げることを可能にし、ただし、液体状ガスポンプ26により吸引された液体状ガス13をサブクールすることも可能にする。続いて、第2の熱交換器12により冷却された後、冷却された液体状ガス13は、冷却された液体状ガス13をタンク9内に導く戻り回路21に到るまで、冷却されたガス回路23内を循環する。
【0102】
したがって、冷却された液体状ガス13はタンク9に戻り、タンク9を全体的に冷却することを可能にし、冷却された液体状ガス13の温度は、タンク9内に残っている液体状ガス13の温度よりも低くなる。
【0103】
冷却機能がアクティブである場合、液体状ガス13はこのようにして循環する。したがって、液体状ガスから生成された気相14が冷却機能に存在し、液体状ガスから生成された過剰気相14が凝縮機能に存在する限り、供給システム8は、凝縮機能および冷却機能が同時にアクティブまたはイナクティブであるようにする。
【0104】
図8図11は、時間の関数としての、すなわち浮遊構造物の行程中の、図8図11それぞれの上部に示されている凝縮機能および冷却機能のための運転計画の関数としてのタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支の変化の曲線を示す。図8および図9は、液体状ガスの到着時の推定エネルギ収支が最大エネルギ収支よりも小さい状況に応じた推定および調整にそれぞれ対応する。図10および図11は、液体状ガスの推定エネルギ収支が最大エネルギ収支よりも大きい状況に応じた推定および調整にそれぞれ対応する。
【0105】
図8図11のそれぞれについて、提示されている初期の状況は、出発50から到着51までの浮遊構造物の行程中の時間tにおける推定および調整方法の開始である。
【0106】
図8図11の時間の関数としてのエネルギ収支の曲線のそれぞれは、実際の最大エネルギ収支32と、仮想の、すなわち安全マージンを考慮した最大エネルギ収支33とを含む。仮想の最大エネルギ収支33は実際の最大エネルギ収支32よりも小さく、差は、安全マージンの値に依存する。図のそれぞれについて、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支の調整は仮想の最大エネルギ収支33にしたがって行われるため、実際の最大エネルギ収支32は指標としてのみ存在する。実際の最大エネルギ収支32は経時的に一定である。有利には、仮想の最大エネルギ収支33は経時的に徐々に実際の最大エネルギ収支に近づくが、明確にするために、仮想の最大エネルギ収支33も図8図11において経時的に一定として示されている。
【0107】
図8図11はそれぞれ、経時的な凝縮機能の第1の運転計画36および冷却機能の第2の運転計画37の曲線も示す。運転計画の曲線の縦軸は、2つの位置、すなわち位置0および位置1のみを有する。運転計画が位置0にあるとき、これは、関連する機能がイナクティブであることを意味する。運転計画が位置1にあるとき、これは、関連する機能がアクティブであることを意味し、結果として、供給システムを介した液体状ガスの凝縮および/または冷却が許可される。状況のそれぞれについて、2つの運転計画は行程を通じて基本的に位置1にあり、すなわち、凝縮機能および冷却機能が行程を通して許可されることが想定されている。
【0108】
したがって、図8は、浮遊構造物の行程中の最初の状況を示す。したがって、時間tにおいて、推定および調整方法が開始し、時間t38における液体状ガスのエネルギ収支が、タンク内に収容されている液体状ガスの温度から、または出発50からの凝縮機能および冷却機能の実行から、推定および調整方法のステップDまたはD’において得られる。出発50から時間tまでのタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支の変化を観察することが可能であり、この変化が測定されたエネルギ収支34に対応する。測定されたエネルギ収支34は、出発50からリアルタイムで既に測定されているため実線で示されており、最初の測定は、推定および調整方法が初めて開始されたとき決定された出発エネルギ収支30に対応する。したがって、時間t後の液体状ガスのエネルギ収支の変化は点線で示されており、推定および調整方法により、より正確にはステップFにおいて時間t38における液体状ガスのエネルギ収支から評価された予測エネルギ収支35を表す。したがって、図8に示されているような運転計画が到着51まで維持される場合、タンク内に収容されている液体状ガスの到着51時のエネルギ収支31の推定は、浮遊構造物が到着51に到着するときのエネルギ収支の値の推定に対応する。
【0109】
図8において、本発明による推定および調整方法のための運転計画の調整がなければ、タンク内に収容されている液体状ガスの到着51時の推定エネルギ収支31は、推定および調整方法のステップE中に計算された仮想の最大エネルギ収支33よりも小さいことに留意されたい。したがって、タンク内に収容されている液体状ガスは、仕向地の要件を満たす。しかしなお、供給システムのエネルギ消費を制限するために運転計画を調整することが可能である。
【0110】
図9は、図8に示されている運転計画に対して調整された運転計画を有する、本発明による推定および調整方法のステップGを実施する曲線を示す。推定および調整方法は、時間tにおいて、到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31が仮想の最大エネルギ収支33よりも小さいという観察の後に常に行われる。したがって、推定および調整方法は、エネルギ節約を保証するために運転計画を調整する。したがって、示されている例において既にそうであるが、凝縮機能の第1の運転計画36は、行程からの到着51までアクティブであるように、すなわち位置1に保たれるように調整される。したがって、液体状ガスから生成された過剰気相は十分に凝縮され、貨物の損失につながらない。
【0111】
さらに、到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31が仮想の最大エネルギ収支33よりも小さいため、行程中に推定時間dtにおいて冷却機能をイナクティブ化することも可能である。推定時間dtを決定するために、推定および調整方法は、冷却機能の第2の運転計画37の調整と到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31の再計算とが連続的に交番する1回または複数回の反復を実施する。ここで、冷却機能の第2の運転計画37の調整は、到着51を目標として冷却機能がイナクティブ化される時間を選択することとして行われる。到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31が仮想の最大エネルギ収支33よりも小さい限り反復は継続し、冷却機能がイナクティブ化される選択された時間は、それぞれの新たな発生のたびに先のものよりも次第に早まり、到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31の計算が、あらかじめ決定された冷却機能の第2の運転計画37の新たな調整と共に毎回行われる。したがって、到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31は、仮想の最大エネルギ収支33を超えないが、一方で、最大エネルギを節約するために冷却機能ができるだけ早くイナクティブ化されるよう、これらの反復により最適な推定時間dtを決定することが可能となる。
【0112】
推定時間dtが得られると、推定および調整方法は、冷却機能のための第2の運転計画37を調整し、これを供給システムに伝達する。冷却機能の第2の調整された運転計画37は図9に見えており、図中、冷却機能が調整後に位置0へ切り替わり、推定時間dtにおいてイナクティブ化されることがわかる。したがって、推定時間dtと到着51との間、冷却機能はイナクティブ化されたままである。このことが既知でありかつ凝縮機能が常にアクティブであるので、タンク内に収容されている液体状ガスの温度、および相応の、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支は、推定時間dtと到着51との間で、図8の曲線におけるよりも著しい増大を示す。しかし、推定時間dtは、上述の推定および調整方法の反復により、到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31を増大させるものの仕向地への到着51時の仮想の最大エネルギ収支33を超えないように計算されている。
【0113】
したがって、タンク内に収容されている液体状ガスは、仕向地の要件を常に満たすが、冷却機能がこの時間中イナクティブ化されているので、エネルギ節約が推定時間dtと到着51との間で達成され、したがって、エネルギ供給の必要はない。したがって、推定および調整方法は、仕向地の要件にしたがって液体状ガスを保ちながらエネルギの浪費を制限することを可能にした。
【0114】
図10もやはり経時的なタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支の変化曲線を示すが、今度は図8および図9に対して逆の状況である。実際に、推定および調整方法にしたがって、行程の時間t中、時間t38における液体状ガスのエネルギ収支が計算され、次いで、推定および調整方法は、時間t38における液体状ガスのエネルギ収支から、到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31を計算する。図10からわかるように、図10に見られる冷却機能のための第2の運転計画37に示されている通りの全行程を通じた冷却機能の常時のアクティブ化にも関わらず、タンク内に収容されている液体状ガスの到着51時の推定エネルギ収支31は、仮想の最大エネルギ収支33、さらには実際の最大エネルギ収支32よりも大きい。
【0115】
この状況では、到着51時の、凝縮機能および冷却機能のための運転計画が調整されない場合、タンク内に収容されている液体状ガスは仕向地の要件を満たさず、結果として仕向地の要件により貨物が拒否されてしまう。これを避ける目的で、仕向地の到着51時の要件を満たすために、タンク内に収容されている液体状ガスの飽和圧力を下げ、またタンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支の低減につなげることが不可欠である。所与の時間d’tは図10に示されており、予測エネルギ収支35が仮想の最大エネルギ収支33を超える時間、すなわち、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支がもはや仕向地の要件を満たさなくなる時間に対応する。
【0116】
図10において述べた状況を克服するために必要な調整を図11に示す。したがって、これが既にあてはまっていない場合、推定および調整方法は、冷却機能が行程の到着51までアクティブであるように冷却機能の第2の運転計画37を調整する。
【0117】
先述の通り、タンク内に収容されている液体状ガスの温度の上昇ならびにそのエネルギ収支の増大につながる主な要因は、液体状ガスから生成された過剰気相の凝縮に起因する。実際に、液状とするために凝縮されるものの、凝縮ガスの温度はタンク内に収容されている液体状ガスの温度よりも高い。したがって、凝縮ガスをタンクに戻すと、結局は、タンク内に収容されている液体状ガスの温度の上昇につながる。したがって、温度のこのような上昇を止める最良の手法は、凝縮機能がイナクティブ化されるように、凝縮機能のための調整された第1の運転計画36を実施することである。
【0118】
したがって、推定および調整方法は、凝縮機能のための第1の運転計画36を調整する。したがって、凝縮機能は、所与の時間d’tにおいて、すなわち推定エネルギ収支34が仮想の最大エネルギ収支33に達する時点でイナクティブ化されるようにプログラムされる。したがって、推定および調整方法は、凝縮機能をできるだけ長い間アクティブに保つことを可能にする。所与の時間d’tが来ると、凝縮機能がイナクティブ化される。次いで、タンク内に収容されている液体状ガスのエネルギ収支の増大が、凝縮機能のイナクティブ化によって、また冷却機能はアクティブに保たれていることで、停止する。したがって、到着51時のタンク内に収容されている液体状ガスの推定エネルギ収支31は、仕向地の要件に対応する仮想の最大エネルギ収支33のレベルに保たれる。この構成では、所与の時間d’tから到着51までの間、液体状ガスから生成された過剰気相はもはや供給システムにより凝縮されない。
【0119】
図12は、出発50から到着51まで、時間の関数としての安全マージン60の変化の曲線の第1の例を示す。この第1の例は、経時的に減少する安全マージン60を示す。言い換えれば、浮遊構造物が仕向地に近くなるほど安全マージン60は低減され、仮想の最大エネルギ収支は、浮遊構造物がその目的地に近づくにつれて減少する安全マージン60を有する推定および調整方法の反復により、各ステップEにおいて再計算されるので、結果として仮想の最大エネルギ収支が実際の最大エネルギ収支に近づく。
【0120】
安全マージンの値は、浮遊構造物の関係者により保持される行程に関する情報、例えば行程中の気象条件または海の状態の量にも依存しうる。したがって、行程の状態に関する情報が存在しない場合、より高い安全マージン60が示されることがある。
【0121】
図13は、経時的な安全マージン60の変化の第2の例を示す。この行程の開始時の安全マージン60は、先の図中のように経時的に低減される。しかし、予見されない事象61が起こる可能性がある。事象61は、浮遊構造物の速度を減速させることができる自然現象、例えば嵐または霧などの気象現象でありうる。事象61は、浮遊構造物を無視できない期間不動化させうる機械的な出来事、例えば浮遊構造物の故障でありうる。したがって、このような事象61は仕向地までの移動時間を長くする。この状況では、出発50時にプログラムされたような安全マージン60はもはや行程にとって十分ではない。したがって、事象61の結果すなわち上述の例における浮遊構造物の減速または不動化に安全マージン60を適合させるために、これを再プログラムすることが可能である。図13において、事象61が起こったとき安全マージン60は増大され、次いで、経時的に再び低減される。この変更は、仮想の最大エネルギ収支に関する確実性を保証し、かつ仕向地への到着時の、液体状ガスの貨物の拒否に潜在的につながりうるエラーを避けることを可能にする。
【0122】
もちろん、本発明は、記載してきた例に限定されず、本発明の範囲から逸脱することなくこれらの例に対して多数の修正を行うことができる。
【0123】
本発明は、ここで説明してきたように、設定した目標を達成し、供給システムのエネルギ消費を最適に調整しながら、液体状ガスの運搬が意図される仕向地の要件を液体状ガスのエネルギ収支が満たすように、浮遊構造物のタンク内に収容されている液体状ガスの前記エネルギ収支を推定および調整するための方法を提案することを可能にする。本発明によれば、本明細書に記載されていない変形形態も本発明による推定および調整方法に含まれるため、本発明の文脈から逸脱することなく実施することができる。
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