(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】エレベータ用ロープ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
B66B 7/06 20060101AFI20240909BHJP
D07B 1/02 20060101ALI20240909BHJP
D07B 1/06 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
B66B7/06 A
B66B7/06 E
D07B1/02
D07B1/06 Z
(21)【出願番号】P 2022556757
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2020038791
(87)【国際公開番号】W WO2022079836
(87)【国際公開日】2022-04-21
【審査請求日】2022-09-07
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100188514
【氏名又は名称】松岡 隆裕
(72)【発明者】
【氏名】内藤 晋也
(72)【発明者】
【氏名】肥田 政彦
(72)【発明者】
【氏名】野口 豊弘
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】平城 俊雅
【審判官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-46462(JP,A)
【文献】特開2003-292270(JP,A)
【文献】特開2002-60162(JP,A)
【文献】国際公開第2004/055263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線からなる鋼芯と、
前記鋼芯の外周に配置された高強度合成繊維からなる第1の繊維層と、
複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線を、前記第1の繊維層の外周に複数本巻き付けてなる第1の鋼線層と、
前記第1の鋼線層の外周に配置された高強度合成繊維からなる第2の繊維層と、
複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線を、前記第2の繊維層の外周に複数本巻き付けてなる第2の鋼線層と
を備えたエレベータ用ロープ。
【請求項2】
前記第1の鋼線層と前記第2の繊維層の間、及び前記第2の繊維層と前記第2の鋼線層の間の少なくとも一箇所に樹脂からなる緩衝層を備えた請求項
1記載のエレベータ用ロープ。
【請求項3】
前記第2の鋼線層の外周に配置された高強度合成繊維からなる第3の繊維層と、
複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線を、前記第3の繊維層の外周に複数本巻き付けてなる第3の鋼線層と
をさらに備えた請求項
1又は
2記載のエレベータ用ロープ。
【請求項4】
前記第2の鋼線層と前記第3の繊維層の間、及び前記第3の繊維層と前記第3の鋼線層の間の少なくとも一箇所に樹脂からなる緩衝層を備えた請求項
3記載のエレベータ用ロープ。
【請求項5】
最外層として樹脂製の被覆層を備えた請求項1から
4のいずれか一項に記載のエレベータ用ロープ。
【請求項6】
複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線からなる鋼芯の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置して第1の繊維層を形成する工程と、
複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線を、前記第1の繊維層の外周に複数本巻き付けて第1の鋼線層を形成する工程と、
前記第1の鋼線層の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置して第2の繊維層を形成する工程と、
複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線を、前記第2の繊維層の外周に複数本巻き付けて第2の鋼線層を形成する工程と
を含むエレベータ用ロープの製造方法。
【請求項7】
前記第2の鋼線層の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置して第3の繊維層を形成する工程と、
複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線を、前記第3の繊維層の外周に複数本巻き付けて第3の鋼線層を形成する工程と
をさらに含む請求項
6記載のエレベータ用ロープの製造方法。
【請求項8】
最外層として樹脂からなる被覆体を被覆して被覆層を形成する工程をさらに含む請求項
6又は7記載のエレベータ用ロープの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベータにおいてかごを吊り下げるエレベータ用ロープ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の高層化に伴い、エレベータの高揚程化が進んでいる。高揚程のエレベータでは、使用されるエレベータ用ロープの直径及び長さが大きくなることから、軽量で高強度なロープが必要となる。そこで、エレベータ用ロープの芯に軽くて強い高強度合成繊維を使用する方法が知られている。
【0003】
特許文献1には、中心に高強度合成繊維からなる繊維芯を配置し、その外周に鋼製ストランドを巻き付けてエレベータ用ロープを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、高強度合成繊維からなる繊維芯の製造においては、たとえば径が数~数十μmである高強度合成繊維を複数束ねてなる高強度繊維ヤーンを多数並べて束ねたり撚り合わせたりして繊維芯を形成しつつ、その全体の断面形状が円形になるようにする。このとき、エレベータ運行時にエレベータ用ロープにかかる引張荷重を繊維芯が充分に負担できるようにするため、高強度繊維ヤーンはあえて少し緩めに撚り合わせる。しかしながら、高強度繊維ヤーンは細くて柔らかいため緩く撚り合わせるときに形が崩れやすく、円形の芯材を作るのが容易ではなく、楕円化してしまう場合がある。芯材の楕円度が高いと、その外周に鋼製ストランドを巻いたロープの楕円度も高くなり、楕円度が高いとロープの寿命の低下を招くおそれがある。
【0006】
そこで、本開示の目的は、高強度合成繊維を含む、楕円度の低いエレベータ用ロープを容易に製造することができる構造のエレベータ用ロープ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係るエレベータ用ロープは、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線からなる鋼芯と、鋼芯の外周に配置された高強度合成繊維からなる第1の繊維層と、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線を、第1の繊維層の外周に複数本巻き付けてなる第1の鋼線層とを備えたものである。
【0008】
本開示に係るエレベータ用ロープの製造方法は、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線からなる鋼芯の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置して第1の繊維層を形成する工程と、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランド又は単一の鋼線を、前記第1の繊維層の外周に複数本巻き付けて第1の鋼線層を形成する工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係るエレベータ用ロープ及びその製造方法によれば、高強度合成繊維を含む楕円度の低いエレベータ用ロープを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施の形態に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図2】第1の実施の形態に係るエレベータ用ロープの各層を順番に切り開いた状態を示す側面図である。
【
図3】第1の実施の形態の変形例に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図4】第1の実施の形態の第1の変形例に係るエレベータ用ロープの各層を順番に切り開いた状態を示す側面図である。
【
図5】第1の実施の形態の第2の変形例に係るエレベータ用ロープの各層を順番に切り開いた状態を示す側面図である。
【
図6】第2の実施の形態に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図7】第2の実施の形態の変形例に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図8】第3の実施の形態に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図9】第3の実施の形態の第1の変形例に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図10】第3の実施の形態の第2の変形例に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図11】第4の実施の形態に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図12】第4の実施の形態の変形例に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図13】第5の実施の形態に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図14】第5の実施の形態の変形例に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図15】第6の実施の形態に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【
図16】第6の実施の形態の変形例に係るエレベータ用ロープの長手方向に垂直な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1の実施の形態]
以下、第1の実施の形態に係るエレベータ用ロープ100について説明する。
図1はエレベータ用ロープ100の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図2はエレベータ用ロープ100の各層を順番に切り開いた状態を示す側面図である。
【0012】
図1及び
図2に示すように、エレベータ用ロープ100は、鋼芯11と、鋼芯11の外周に配置された高強度合成繊維からなる第1の繊維層12を有している。また、第1の繊維層12の外周に複数本の第1の鋼製ストランド13nを巻き付けてなる第1の鋼線層13を有している。
【0013】
鋼芯11は、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる。鋼芯11は、心線11aと、この心線11aの外周に巻き付けられた6本の側線11bからなる。この心線11aと側線11bはいずれも鋼線からなる。
【0014】
第1の繊維層12は、鋼芯11の外周に配置された高強度合成繊維からなる層である。第1の繊維層12は、複数本の繊維束を撚り合わせて形成され、各繊維束は高強度合成繊維からなる。高強度合成繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、又はバサルト繊維などを用いる。各繊維束は、たとえばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂で固めて一体化させたものであってもよいし、樹脂を被覆したものであってもよい。
【0015】
第1の鋼線層13は、複数の鋼線を撚り合わせた第1の鋼製ストランド13nを第1の繊維層12の外周に複数本巻き付けてなる。
図1に示す例においては、第1の繊維層12の外周に、8本の第1の鋼製ストランド13nが巻き付けられている。各第1の鋼製ストランド13nは、心線13aと、この心線13aの外周に巻き付けられた9本の第1の側線13bと、さらにその外周に巻き付けられた9本の第2の側線13cを有する。この心線13a、第1の側線13b及び第2の側線13cはいずれも鋼線からなる。第1の実施の形態においては、この第1の鋼線層13が、エレベータ用ロープ100の最外層に位置し、外部に露出している。
【0016】
エレベータ用ロープ100を製造する際には、まず複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる鋼芯11の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置して第1の繊維層12を形成する。具体的には、複数本の繊維束を鋼芯11の外周面に沿うように撚り合わせて第1の繊維層12を形成する。このとき、第1の繊維層12によりエレベータ用ロープにかかる引張荷重を充分に負担できるようにするため、複数本の繊維束はあえて少し緩く撚り合わせるが、鋼芯11を芯材としているため撚り合わせるときの形が崩れにくく、第1の繊維層12の形成が容易である。その後、複数の鋼線を撚り合わせた第1の鋼製ストランド13nを第1の繊維層12の外周に複数本巻き付けて第1の鋼線層13を形成する。
【0017】
以上説明したように、エレベータ用ロープ100は、鋼芯11と、その鋼芯11の外周に配置された高強度合成繊維からなる第1の繊維層12と、鋼製ストランドを第1の繊維層12の外周に複数本巻き付けてなる第1の鋼線層13とを備えている。これにより、鋼芯11を芯材として第1の繊維層12を容易に形成することができ、高強度合成繊維を含む楕円度の低いエレベータ用ロープを容易に製造することができる。
【0018】
また、エレベータは、昇降高が高くなるほど、エレベータに重量補償用のロープ(又は鎖)を設けることが好ましいが、エレベータ用ロープ100によれば、高強度合成繊維を含むことにより軽量化を実現できることから、重量補償用のロープ(又は鎖)の本数又は質量をさらに減らしたり、または完全に除去したりすることができる。
【0019】
なお、上記第1の実施の形態では、第1の繊維層12が、鋼芯11の外周に複数本の繊維束を撚り合わせたものである場合について説明したが、これに代えて、複数本の繊維束を編み合わせたものであってもよいし、複数本の繊維束をおおよそ平行に並べて束ねたものであってもよい。
【0020】
また、上記第1の実施の形態において、鋼芯11を構成する構成ストランドの構造(鋼線の数や配置など)は適宜変更してもよい。また、第1の鋼線層13を構成する第1の鋼製ストランド13nの本数や、各第1の鋼製ストランド13nの構造(鋼線の数や配置など)も適宜変更してもよい。
【0021】
[第1の実施の形態の第1の変形例]
以下、第1の実施の形態の第1の変形例であるエレベータ用ロープ101について説明する。
図3はエレベータ用ロープ101の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図4はエレベータ用ロープ101の各層を順番に切り開いた状態を示す側面図である。
【0022】
図3及び
図4に示すように、エレベータ用ロープ101は、最外層として樹脂製の被覆層18を備えている点において第1の実施の形態と相違する。すなわち、第1の実施の形態に係るエレベータ用ロープ100においては、第1の鋼線層13がエレベータ用ロープ100の最外層として外部に露出している。これに対し、この変形例に係るエレベータ用ロープ101においては、第1の鋼線層13の外周が被覆層18により被覆されている。これにより、エレベータ用ロープ101は耐摩耗性が向上し、耐久性が向上する。被覆層18は、互いに隣接する第1の鋼製ストランド13nの間に入り込んでいる。被覆層18の材料としては、綱車との間のトラクション能力を確保するため、十分な摩擦係数を有する樹脂、例えばエラストマー系樹脂,ポリウレタンなどを用いる。
【0023】
また、エレベータは、昇降高が高くなるほど、エレベータに重量補償用のロープ(又は鎖)を設けることが好ましいが、エレベータ用ロープ101によれば、高強度合成繊維を含むことにより軽量化を実現できるとともに、綱車との間の摩擦係数の向上によって綱車との間の滑りを抑制し、安定した動力伝達が行えるようにすることができる。その結果、重量補償用のロープ(又は鎖)の本数又は質量をさらに減らしたり、または完全に除去したりすることができる。
【0024】
[第1の実施の形態の第2の変形例]
以下、第1の実施の形態の第2の変形例であるエレベータ用ロープ102について説明する。
図5はエレベータ用ロープ102の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。エレベータ用ロープ102は、鋼芯11と第1の繊維層12の間、及び第1の繊維層12と第1の鋼線層13の間にそれぞれ樹脂からなる緩衝層を備えている点において第1の実施の形態と相違する。以下の説明ではその相違点について説明し、第1の実施の形態と同様の構成については説明を省略する。
【0025】
図5に示すように、エレベータ用ロープ102は、鋼芯11と第1の繊維層12の間に樹脂からなる第1の緩衝層19aを有している。これにより、鋼芯11と第1の繊維層12が直接接触することによる第1の繊維層12の摩耗を抑制できる。また、第1の繊維層12と第1の鋼線層13の間に樹脂からなる第2の緩衝層19bを有している。これにより、第1の繊維層12と第1の鋼線層13が直接接触することによる第1の繊維層12の摩耗を抑制できる。第1の緩衝層19a、及び第2の緩衝層19bの材料としては、耐摩耗性と低摩擦性を有する樹脂、例えばポリエチレン,ポリプロピレンなどを用いる。
【0026】
なお、上記第1の実施の形態の第2の変形例では、鋼芯11と第1の繊維層12の間、第1の繊維層12と第1の鋼線層13の間の両方にそれぞれ樹脂からなる緩衝層を備えている場合について説明している。しかし、これに代えて、そのいずれか1箇所にのみ緩衝層を備えるようにしてもよい。これにより、その緩衝層を備える箇所において第1の繊維層12の摩耗を抑制できる。すなわち、鋼芯11と第1の繊維層12の間、及び第1の繊維層12と第1の鋼線層13の間の少なくとも1箇所に緩衝層を備えるようにすればよい。
【0027】
[第2の実施の形態]
以下、第2の実施の形態に係るエレベータ用ロープ200について説明する。
図6はエレベータ用ロープ200の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。エレベータ用ロープ200は、鋼芯21が単一の鋼線からなる点で第1の実施の形態のものと相違する。これに対し、第1の実施の形態では、鋼芯11は、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる。その他の点においては第1の実施の形態と共通するため、ここでは説明を省略する。
【0028】
なお、この第2の実施の形態においては、鋼芯21と第1の繊維層12の間、及び第1の繊維層12と第1の鋼線層13の間の少なくとも1箇所に緩衝層を備えるようにしてもよい。
【0029】
[第2の実施の形態の変形例]
以下、第2の実施の形態の変形例であるエレベータ用ロープ201について説明する。
図7はエレベータ用ロープ201の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図7に示すように、エレベータ用ロープ201は、最外層として樹脂製の被覆層28を備えている点において第2の実施の形態と相違する。すなわち、第2の実施の形態に係るエレベータ用ロープ200においては、第1の鋼線層13がエレベータ用ロープ200の最外層として外部に露出している。これに対し、この変形例に係るエレベータ用ロープ201においては、第1の鋼線層13の外周が被覆層28により被覆されている。これにより、エレベータ用ロープ201は耐摩耗性が向上し、耐久性が向上する。
【0030】
被覆層28は、互いに隣接する第1の鋼製ストランド13nの間に入り込んでいる。被覆層28の材料としては、綱車との間のトラクション能力を確保するため、十分な摩擦係数を有する樹脂、例えばエラストマー系樹脂,ポリウレタンなどを用いる。
【0031】
[第3の実施の形態]
以下、第3の実施の形態に係るエレベータ用ロープ300について説明する。
図8はエレベータ用ロープ300の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【0032】
図8に示すように、エレベータ用ロープ300は、鋼芯31と、鋼芯31の外周に配置された高強度合成繊維からなる第1の繊維層32を有している。また、第1の繊維層32の外周に複数本の第1の鋼製ストランド33nを巻き付けてなる第1の鋼線層33を有している。また、第1の鋼線層33の外周に配置された高強度合成繊維からなる第2の繊維層34を有している。また、第2の繊維層34の外周に複数本の第2の鋼製ストランド35nを巻き付けてなる第2の鋼線層35を有している。
【0033】
鋼芯31は、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる。鋼芯31は、心線と、この心線の外周に巻き付けられた6本の側線からなる。この心線と側線はいずれも鋼線からなる。
【0034】
第1の繊維層32は、鋼芯31の外周に配置された高強度合成繊維からなる層である。第1の繊維層32は、複数本の繊維束を撚り合わせて形成され、各繊維束は高強度合成繊維からなる。高強度合成繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、又はバサルト繊維などを用いる。各繊維束は、たとえばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂で固めて一体化させたものであってもよいし、樹脂を被覆したものであってもよい。
【0035】
第1の鋼線層33は、複数の鋼線を撚り合わせた第1の鋼製ストランド33nを第1の繊維層32の外周に複数本巻き付けてなる。
図8に示す例においては、第1の繊維層32の外周に、12本の第1の鋼製ストランド33nが巻き付けられている。各第1の鋼製ストランド33nは、心線と、この心線の外周に巻き付けられた6本の側線からなる。この心線と側線はいずれも鋼線からなる。
【0036】
第2の繊維層34は、第1の鋼線層33の外周に配置された高強度合成繊維からなる層である。第2の繊維層34は、複数本の繊維束を撚り合わせて形成され、各繊維束は高強度合成繊維からなる。高強度合成繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、又はバサルト繊維などを用いる。各繊維束は、たとえばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂で固めて一体化させたものであってもよいし、樹脂を被覆したものであってもよい。
【0037】
第2の鋼線層35は、複数の鋼線を撚り合わせた第2の鋼製ストランド35nを第2の繊維層34の外周に複数本巻き付けてなる。
図8に示す例においては、第2の繊維層34の外周に、12本の第2の鋼製ストランド35nが巻き付けられている。各第2の鋼製ストランド35nは、心線と、この心線の外周に巻き付けられた9本の第1の側線と、さらにその外周に巻き付けられた9本の第2の側線を有する。この心線、第1の側線及び第2の側線はいずれも鋼線からなる。第3の実施の形態においては、この第2の鋼線層35が、エレベータ用ロープ300の最外層に位置し、外部に露出している。
【0038】
エレベータ用ロープ300を製造する際には、まず複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる鋼芯31の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置して第1の繊維層32を形成する。具体的には、複数本の繊維束を鋼芯31の外周面に沿うように撚り合わせて第1の繊維層32を形成する。このとき、第1の繊維層32によりエレベータ用ロープにかかる引張荷重を充分に負担できるようにするため、複数本の繊維束はあえて少し緩く撚り合わせるが、鋼芯31を芯材としているため撚り合わせるときの形が崩れにくく、第1の繊維層32の形成が容易である。その後、複数の鋼線を撚り合わせた第1の鋼製ストランド33nを第1の繊維層32の外周に複数本巻き付けて第1の鋼線層33を形成する。
【0039】
その後、第1の鋼線層33の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置し
て第2の繊維層34を形成する。具体的には、複数本の繊維束を第1の鋼線層33の外周面に沿うように撚り合わせて第2の繊維層34を形成する。その後、複数の鋼線を撚り合わせた第2の鋼製ストランド35nを第2の繊維層34の外周に複数本巻き付けて第2の鋼線層35を形成する。
【0040】
以上説明したように、エレベータ用ロープ300は、鋼芯31と、その鋼芯31の外周に配置された高強度合成繊維からなる第1の繊維層32と、鋼製ストランドを第1の繊維層32の外周に複数本巻き付けてなる第1の鋼線層33とを備えている。これにより、鋼芯31を芯材として第1の繊維層32を容易に形成することができ、高強度合成繊維を含む楕円度の低いエレベータ用ロープを容易に製造することができる。また、エレベータ用ロープ300は、第1の鋼線層33の外周に配置された高強度合成繊維からなる第2の繊維層34と、鋼製ストランドを第2の繊維層34の外周に複数本巻き付けてなる第2の鋼線層35とをさらに備えている。すなわち、繊維層を2層設けている。これにより、高強度合成繊維の使用量を増やして軽量化を実現できる。
【0041】
また、エレベータは、昇降高が高くなるほど、エレベータに重量補償用のロープ(又は鎖)を設けることが好ましいが、エレベータ用ロープ300によれば、複数の繊維層により高強度合成繊維をより多く含むことによって従来のエレベータ用ロープより軽量化を実現でき、重量補償用のロープ(又は鎖)の本数又は質量をさらに減らしたり、または完全に除去したりすることができる。
【0042】
なお、上記第3の実施の形態では、第1の繊維層32と第2の繊維層34が、鋼芯31の外周に複数本の繊維束を撚り合わせたものである場合について説明したが、これに代えて、複数本の繊維束を編み合わせたものであってもよいし、複数本の繊維束をおおよそ平行に並べて束ねたものであってもよい。
【0043】
また、上記第3の実施の形態において、鋼芯31を構成する構成ストランドの構造(鋼線の数や配置など)は適宜変更してもよい。また、第1の鋼線層33を構成する第1の鋼製ストランド33nの本数や、各第1の鋼製ストランド33nの構造(鋼線の数や配置など)も適宜変更してもよい。また、第2の鋼線層35を構成する第2の鋼製ストランド35nの本数や、各第2の鋼製ストランド35nの構造(鋼線の数や配置など)も適宜変更してもよい。
【0044】
また、上記第3の実施の形態においては、鋼芯31と第1の繊維層32の間、第1の繊維層32と第1の鋼線層33の間、第1の鋼線層33と第2の繊維層34との間、及び第2の繊維層34と第2の鋼線層35との間の少なくとも1箇所に樹脂からなる緩衝層を設けるようにしてもよい。これにより、その緩衝層を備える箇所において第1の繊維層32又は第2の繊維層34の摩耗を抑制できる。このとき、緩衝層の材料としては、耐摩耗性と低摩擦性を有する樹脂、例えばポリエチレン,ポリプロピレンなどを用いることができる。
【0045】
[第3の実施の形態の第1の変形例]
以下、第3の実施の形態の変形例であるエレベータ用ロープ301について説明する。
図9はエレベータ用ロープ301の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図9に示すように、エレベータ用ロープ301は、最外層として樹脂製の被覆層38を備えている点において第3の実施の形態と相違する。すなわち、第3の実施の形態に係るエレベータ用ロープ300においては、第2の鋼線層35がエレベータ用ロープ300の最外層として外部に露出している。これに対し、この変形例に係るエレベータ用ロープ301においては、第2の鋼線層35の外周が被覆層38により被覆されている。これにより、エレベータ用ロープ301は耐摩耗性が向上し、耐久性が向上する。
【0046】
被覆層38は、互いに隣接する第2の鋼製ストランド35nの間に入り込んでいる。被覆層38の材料としては、綱車との間のトラクション能力を確保するため、十分な摩擦係数を有する樹脂、例えばエラストマー系樹脂,ポリウレタンなどを用いる。
【0047】
また、エレベータは、昇降高が高くなるほど、エレベータに重量補償用のロープ(又は鎖)を設けることが好ましいが、エレベータ用ロープ301によれば、複数の繊維層により高強度合成繊維をより多く含むことによって従来のエレベータ用ロープより軽量化を実現できるとともに、綱車との間の摩擦係数の向上によって綱車との間の滑りを抑制し、安定した動力伝達が行えるようにすることができる。その結果、重量補償用のロープ(又は鎖)の本数又は質量をさらに減らしたり、または完全に除去したりすることができる。
【0048】
[第3の実施の形態の第2の変形例]
以下、第3の実施の形態の変形例であるエレベータ用ロープ302について説明する。
図10はエレベータ用ロープ302の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図10に示すように、エレベータ用ロープ302は、第1の鋼線層33の各第1の鋼製ストランド33nをそれぞれ被覆する樹脂製の被覆体39を有している点において第3の実施の形態と相違し、その他の点に実質的な差異はない。これにより、第1の繊維層32と第1の鋼線層33が直接接触することによる第1の繊維層32の摩耗を抑制できる。また、第1の鋼線層33と第2の繊維層34が直接接触することによる第2の繊維層34の摩耗を抑制できる。被覆体49の材料としては、耐摩耗性と低摩擦性を有する樹脂、例えばポリエチレン,ポリプロピレンなどを用いる。
【0049】
[第4の実施の形態]
以下、第4の実施の形態に係るエレベータ用ロープ400について説明する。
図11はエレベータ用ロープ400の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。エレベータ用ロープ400は、鋼芯41が単一の鋼線からなる点で第3の実施の形態のものと相違する。これに対し、第3の実施の形態では、鋼芯31は、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる。その他の点においては第3の実施の形態と共通するため、ここでは説明を省略する。
【0050】
[第4の実施の形態の変形例]
以下、第4の実施の形態の変形例であるエレベータ用ロープ401について説明する。
図12はエレベータ用ロープ401の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図12に示すように、エレベータ用ロープ401は、最外層として樹脂製の被覆層48を備えている点において第4の実施の形態と相違する。すなわち、第4の実施の形態に係るエレベータ用ロープ400においては、第2の鋼線層35がエレベータ用ロープ400の最外層として外部に露出している。これに対し、この変形例に係るエレベータ用ロープ401においては、第2の鋼線層35の外周が被覆層48により被覆されている。これにより、エレベータ用ロープ401は耐摩耗性が向上し、耐久性が向上する。
【0051】
被覆層48は、互いに隣接する第2の鋼製ストランド35nの間に入り込んでいる。被覆層48の材料としては、綱車との間のトラクション能力を確保するため、十分な摩擦係数を有する樹脂、例えばエラストマー系樹脂,ポリウレタンなどを用いる。
【0052】
[第5の実施の形態]
以下、第5の実施の形態に係るエレベータ用ロープ500について説明する。
図13はエレベータ用ロープ500の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
【0053】
図13に示すように、エレベータ用ロープ500は、鋼芯51と、鋼芯51の外周に配置された高強度合成繊維からなる第1の繊維層52と、第1の繊維層52の外周に複数本の第1の鋼製ストランド53nを巻き付けてなる第1の鋼線層53を有している。また、第1の鋼線層53の外周に配置された高強度合成繊維からなる第2の繊維層54と、第2の繊維層54の外周に複数本の第2の鋼製ストランド55nを巻き付けてなる第2の鋼線層55を有している。さらに、第2の鋼線層55の外周に配置された高強度合成繊維からなる第3の繊維層56と、第3の繊維層56の外周に複数本の第3の鋼製ストランド57nを巻き付けてなる第3の鋼線層57を有している。
【0054】
鋼芯51は、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる。鋼芯51は、心線と、この心線の外周に巻き付けられた6本の側線からなる。この心線と側線はいずれも鋼線からなる。
【0055】
第1の繊維層52は、鋼芯51の外周に配置された高強度合成繊維からなる層である。第1の繊維層52は、複数本の繊維束を撚り合わせて形成され、各繊維束は高強度合成繊維からなる。高強度合成繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、又はバサルト繊維などを用いる。各繊維束は、たとえばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂で固めて一体化させたものであってもよいし、樹脂を被覆したものであってもよい。
【0056】
第1の鋼線層53は、複数の鋼線を撚り合わせた第1の鋼製ストランド53nを第1の繊維層52の外周に複数本巻き付けてなる。
図13に示す例においては、第1の繊維層52の外周に、12本の第1の鋼製ストランド53nが巻き付けられている。各第1の鋼製ストランド53nは、心線と、この心線の外周に巻き付けられた6本の側線からなる。この心線と側線はいずれも鋼線からなる。
【0057】
第2の繊維層54は、第1の鋼線層53の外周に配置された高強度合成繊維からなる層である。第2の繊維層54は、複数本の繊維束を撚り合わせて形成され、各繊維束は高強度合成繊維からなる。高強度合成繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、又はバサルト繊維などを用いる。各繊維束は、たとえばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂で固めて一体化させたものであってもよいし、樹脂を被覆したものであってもよい。
【0058】
第2の鋼線層55は、複数の鋼線を撚り合わせた第2の鋼製ストランド55nを第2の繊維層54の外周に複数本巻き付けてなる。
図13に示す例においては、第2の繊維層54の外周に、20本の第2の鋼製ストランド55nが巻き付けられている。各第2の鋼製ストランド55nは、心線と、この心線の外周に巻き付けられた9本の第1の側線と、さらにその外周に巻き付けられた9本の第2の側線を有する。この心線、第1の側線及び第2の側線はいずれも鋼線からなる。
【0059】
第3の繊維層56は、第2の鋼線層55の外周に配置された高強度合成繊維からなる層である。第3の繊維層56は、複数本の繊維束を撚り合わせて形成され、各繊維束は高強度合成繊維からなる。高強度合成繊維としては、例えば炭素繊維、ガラス繊維、ポリパラフェニレンベンズオキサゾール(PBO)繊維、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、又はバサルト繊維などを用いる。各繊維束は、たとえばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の樹脂で固めて一体化させたものであってもよいし、樹脂を被覆したものであってもよい。
【0060】
第3の鋼線層57は、複数の鋼線を撚り合わせた第3の鋼製ストランド57nを第3の繊維層56の外周に複数本巻き付けてなる。
図13に示す例においては、第3の繊維層56の外周に、15本の第3の鋼製ストランド57nが巻き付けられている。各第3の鋼製ストランド57nは、心線と、この心線の外周に巻き付けられた9本の第1の側線と、さらにその外周に巻き付けられた9本の第2の側線を有する。この心線、第1の側線及び第2の側線はいずれも鋼線からなる。第5の実施の形態においては、この第3の鋼線層57が、エレベータ用ロープ500の最外層に位置し、外部に露出している。
【0061】
エレベータ用ロープ500を製造する際には、まず複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる鋼芯51の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置し
て第1の繊維層52を形成する。具体的には、複数本の繊維束を鋼芯51の外周面に沿うように撚り合わせて第1の繊維層52を形成する。このとき、第1の繊維層52によりエレベータ用ロープにかかる引張荷重を充分に負担できるようにするため、複数本の繊維束はあえて少し緩く撚り合わせるが、鋼芯51を芯材としているため撚り合わせるときの形が崩れにくく、第1の繊維層52の形成が容易である。その後、複数の鋼線を撚り合わせた第1の鋼製ストランド53nを第1の繊維層52の外周に複数本巻き付けて第1の鋼線層53を形成する。
【0062】
その後、第1の鋼線層53の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置して第2の繊維層54を形成する。具体的には、複数本の繊維束を第1の鋼線層53の外周面に沿うように撚り合わせて第2の繊維層54を形成する。また、複数の鋼線を撚り合わせた第2の鋼製ストランド55nを、第2の繊維層54の外周に複数本巻き付けて第2の鋼線層55を形成する。
【0063】
その後、第2の鋼線層55の外周に、高強度合成繊維からなる複数本の繊維束を配置して第3の繊維層56を形成する。具体的には、複数本の繊維束を第2の鋼線層55の外周面に沿うように撚り合わせて第3の繊維層56を形成する。また、複数の鋼線を撚り合わせた第3の鋼製ストランド57nを、第3の繊維層56の外周に複数本巻き付けて第3の鋼線層57を形成する。
【0064】
以上説明したように、エレベータ用ロープ500は、鋼芯51と、その鋼芯51の外周に配置された高強度合成繊維からなる第1の繊維層52と、鋼製ストランドを第1の繊維層52の外周に複数本巻き付けてなる第1の鋼線層53とを備えている。これにより、鋼芯51を芯材として第1の繊維層52を容易に形成することができ、高強度合成繊維を含むエレベータ用ロープを容易に製造することができる。また、エレベータ用ロープ500は、第1の鋼線層53の外周に配置された高強度合成繊維からなる第2の繊維層54と、鋼製ストランドを第2の繊維層54の外周に複数本巻き付けてなる第2の鋼線層55とをさらに備えている。また、第2の鋼線層55の外周に配置された高強度合成繊維からなる第3の繊維層56と、鋼製ストランドを第3の繊維層56の外周に複数本巻き付けてなる第3の鋼線層57とをさらに備えている。すなわち、繊維層を3層設けている。これにより、高強度合成繊維の使用量を増やして軽量化を実現できる。
【0065】
また、エレベータは、昇降高が高くなるほど、エレベータに重量補償用のロープ(又は鎖)を設けることが好ましいが、エレベータ用ロープ500によれば、複数の繊維層により高強度合成繊維をより多く含むことによって従来のエレベータ用ロープより軽量化を実現でき、重量補償用のロープ(又は鎖)の本数又は質量をさらに減らしたり、または完全に除去したりすることができる。
【0066】
なお、上記第5の実施の形態では、第1の繊維層52と第2の繊維層54が、鋼芯51の外周に複数本の繊維束を撚り合わせたものである場合について説明したが、これに代えて、複数本の繊維束を編み合わせたものであってもよいし、複数本の繊維束をおおよそ平行に並べて束ねたものであってもよい。
【0067】
また、上記第5の実施の形態において、鋼芯51を構成する構成ストランドの構造(鋼線の数や配置など)は適宜変更してもよい。また、第1の鋼線層53を構成する第1の鋼製ストランド53nの本数や、各第1の鋼製ストランド53nの構造(鋼線の数や配置など)も適宜変更してもよい。また、第2の鋼線層55を構成する第2の鋼製ストランド55nの本数や、各第2の鋼製ストランド55nの構造(鋼線の数や配置など)も適宜変更してもよい。また、第3の鋼線層57を構成する第3の鋼製ストランド57nの本数や、各第3の鋼製ストランド57nの構造(鋼線の数や配置など)も適宜変更してもよい。
【0068】
また、上記第5の実施の形態においては、第1の繊維層52と第1の鋼線層53の間に樹脂からなる緩衝層を設けるようにしてもよい。これにより、第1の繊維層52と第1の鋼線層53が直接接触することによる第1の繊維層52の摩耗を抑制できる。同様な理由により、第1の鋼線層53と第2の繊維層54の間、及び第2の繊維層54と第2の鋼線層55の間にも、樹脂からなる緩衝層を設けるようにしてもよい。また、第2の鋼線層55と第3の繊維層56の間、及び第3の繊維層56と第3の鋼線層57の間にも、樹脂からなる緩衝層を設けるようにしてもよい。なお、緩衝層の材料としては、耐摩耗性と低摩擦性を有する樹脂、例えばポリエチレン,ポリプロピレンなどを用いることができる。
【0069】
また、上記第5の実施の形態においては、鋼芯51と第1の繊維層52の間、第1の繊維層52と第1の鋼線層53の間、第1の鋼線層53と第2の繊維層54との間、第2の繊維層54と第2の鋼線層55との間、第2の鋼線層55と第3の繊維層56との間、及び第3の繊維層56と第3の鋼線層57との間の少なくとも1箇所に樹脂からなる緩衝層を設けるようにしてもよい。これにより、その緩衝層を備える箇所において第1の繊維層52、第2の繊維層54、又は第3の繊維層56の摩耗を抑制できる。このとき、緩衝層の材料としては、耐摩耗性と低摩擦性を有する樹脂、例えばポリエチレン,ポリプロピレンなどを用いることができる。
【0070】
[第5の実施の形態の変形例]
以下、第5の実施の形態の変形例であるエレベータ用ロープ501について説明する。
図14はエレベータ用ロープ501の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図14に示すように、エレベータ用ロープ501は、最外層として樹脂製の被覆層58を備えている点において第5の実施の形態と相違する。すなわち、第5の実施の形態に係るエレベータ用ロープ500においては、第3の鋼線層57がエレベータ用ロープ500の最外層として外部に露出している。これに対し、この変形例に係るエレベータ用ロープ501においては、第3の鋼線層57の外周が被覆層58により被覆されている。これにより、エレベータ用ロープ501は耐摩耗性が向上し、耐久性が向上する。
【0071】
被覆層58は、互いに隣接する第3の鋼製ストランド57nの間に入り込んでいる。被覆層58の材料としては、綱車との間のトラクション能力を確保するため、十分な摩擦係数を有する樹脂、例えばエラストマー系樹脂,ポリウレタンなどを用いる。
【0072】
[第6の実施の形態]
以下、第6の実施の形態に係るエレベータ用ロープ600について説明する。
図15はエレベータ用ロープ600の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。エレベータ用ロープ600は、鋼芯61が単一の鋼線からなる点で第5の実施の形態のものと相違する。これに対し、第5の実施の形態では、鋼芯51は、複数の鋼線を撚り合わせた鋼製ストランドからなる。その他の点においては第5の実施の形態と共通するため、ここでは説明を省略する。
【0073】
[第6の実施の形態の変形例]
以下、第6の実施の形態の変形例であるエレベータ用ロープ601について説明する。
図16はエレベータ用ロープ601の長手方向に垂直な断面を示す断面図である。
図16に示すように、エレベータ用ロープ601は、最外層として樹脂製の被覆層68を備えている点において第6の実施の形態と相違する。すなわち、第6の実施の形態に係るエレベータ用ロープ600においては、第3の鋼線層57がエレベータ用ロープ600の最外層として外部に露出している。これに対し、この変形例に係るエレベータ用ロープ601においては、第3の鋼線層57の外周が被覆層68により被覆されている。これにより、エレベータ用ロープ601は耐摩耗性が向上し、耐久性が向上する。
【0074】
被覆層68は、互いに隣接する第3の鋼製ストランド57nの間に入り込んでいる。被覆層68の材料としては、綱車との間のトラクション能力を確保するため、十分な摩擦係数を有する樹脂、例えばエラストマー系樹脂,ポリウレタンなどを用いる。
【0075】
上記実施の形態では、繊維層を1層、2層又は3層である場合について説明したが、繊維層の数は、エレベータ用ロープの大径化の程度に応じて適宜増やすことができる。そのとき、各繊維層の外周には鋼線層を設けることが好ましい。
【符号の説明】
【0076】
11、21、31、41、51、61 鋼芯
11a、13a 心線
11b 側線
13b 第1の側線
13c 第2の側線
12、32,52 第1の繊維層
13、33、53 第1の鋼線層
13n、33n、53n 第1の鋼製ストランド
18、28、38、48、58、68 被覆層
19a 第1の緩衝層
19b 第2の緩衝層
34、54 第2の繊維層
35、55 第2の鋼線層
35n、55n 第2の鋼製ストランド
39 被覆体
56 第3の繊維層
57 第3の鋼線層
57n 第3の鋼製ストランド
100,101、200、201、300、301、400、401、500、501、600、601 エレベータ用ロープ