(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】フッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 27/16 20060101AFI20240909BHJP
C08F 214/22 20060101ALI20240909BHJP
C08F 2/24 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
C08L27/16
C08F214/22
C08F2/24 Z
(21)【出願番号】P 2022565398
(86)(22)【出願日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2021043133
(87)【国際公開番号】W WO2022114044
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-05-09
(31)【優先権主張番号】P 2020198148
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】四家 彩
(72)【発明者】
【氏名】長澤 善幸
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 民人
【審査官】今井 督
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-033913(JP,A)
【文献】国際公開第2018/173373(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154449(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/126201(WO,A1)
【文献】特開2017-165881(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 214/18-214/28
C08F 2/00- 2/60
C08L 27/12- 27/22
H01M 4/00- 4/98
H01M 10/00- 10/667
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン由来の構成単位と、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位とを含むフッ化ビニリデン共重合体を含有するフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法であって、
水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを準備する工程と、
前記未処理フッ化ビニリデン共重合体のヒートフローを示差走査熱量計で測定したときに、185℃以下にみられる吸熱ピークのうち最も高温のピークのエンドセットより低い温度、かつ、40℃以上の温度で前記エマルションを加熱する工程と、
を含み、
前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃以下であり、
前記エマルションを準備する工程後、かつ前記エマルションを加熱する工程前に、
前記エマルションに界面活性剤を添加する工程をさらに含む、
フッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法。
【請求項2】
前記含フッ素アルキルビニル化合物が、ヘキサフルオロプロピレンである、
請求項
1に記載のフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法。
【請求項3】
前記フッ化ビニリデン共重合体の構成単位100質量%に対して、前記
含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位を15質量%以上70質量%以下含む、
請求項
1または2に記載のフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化ビニリデン共重合体組成物およびその製造方法、ポリマー分散液、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池用電解質層、ならびに非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水電解質二次電池の各層のバインダーとして、フッ化ビニリデンを含むフッ化ビニリデン重合体が広く用いられている。特に、フッ化ビニリデンおよび含フッ素アルキルビニル化合物の共重合体(以下、「フッ化ビニリデン共重合体」とも称する)は、集電体と電極活物質等とを結着するためのバインダーとして広く知られている。
【0003】
ここで、特許文献1にはフッ化ビニリデン共重合体を非水電解質二次電池の一種である全固体電池の電極層や電解質層のバインダーに使用した例が記載されている。この場合、当該フッ化ビニリデン共重合体を、電極活物質や固体電解質、溶媒もしくは分散媒等と混合し、上記層を形成することが一般的である。また、特許文献2では、固体電解質からのリチウムの溶出を抑制したりするために、誘電率が小さい溶媒を使用している。
【0004】
しかしながら、フッ化ビニリデン共重合体は絶縁体であるため、上記混合物において、イオン伝導パスが切断され、全固体電池の性能が十分に得られないことがあった。特許文献3には、固体電解質層にバインダーを混入させるとイオン伝導性が低下する旨が記載されている。
【0005】
そこで、フッ化ビニリデン共重合体を溶解させずに分散させて、電極層や電解質層を形成する技術が検討されている。例えば、特許文献4や特許文献5では、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体を酪酸ブチル等に分散させたスラリーが記載されている。
【0006】
さらに、特許文献6には、分散媒に粒子状のバインダーポリマーを均一に分散させると、固体電解質を局部的あるいは全面的に被覆することなく固着させることができる、と記載されている。そして、このようなバインダー分散液を使用すると、固体電解質粒子間、固体電解質粒子と集電体間等の界面抵抗の上昇を抑えられること、バインダー分散液と固体電解質粒子と混合して塗布できるようになること、等が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第6257698号公報
【文献】国際公開第2012/063827号
【文献】特開2008-103284号公報
【文献】特開2016-025025号公報
【文献】特開2016-025027号公報
【文献】特開2015-159067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述の特許文献3に記載されているように、フッ化ビニリデン共重合体は絶縁体であるため、電極層や電解質層のバインダーとした際、イオン伝導性を低下させることがあった。そこで、特許文献4~6のように、フッ化ビニリデン共重合体を溶解させずに分散させて、電極層や固体電解質層を形成することが検討されている。
【0009】
そして、全固体電池の性能をさらに高めるために、電極層や電解質層を形成するためのポリマー分散液に、バインダー(フッ化ビニリデン共重合体)をより均一に分散させる方法が模索されている。ここで、電極層や電解質層を形成するためのポリマー分散液中では、フッ化ビニリデン共重合体が長期間に亘って沈降し難いことが好ましい。そこで、本発明は、比誘電率の低い分散媒に対する分散性が長期間に亘って安定な、フッ化ビニリデン共重合体組成物の提供や、その製造方法の提供を目的とする。また、当該フッ化ビニリデン共重合体組成物を含むポリマー分散液や非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池用電解質層、非水電解質二次電池等の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下のフッ化ビニリデン共重合体組成物を提供する。
すなわち、本発明は、フッ化ビニリデン共重合体を含むフッ化ビニリデン共重合体組成物であって、前記フッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位とを含み、前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃以下であり、前記フッ化ビニリデン共重合体組成物は、前記フッ化ビニリデン共重合体組成物のリバーシングヒートフローを温度変調示差走査熱量計で測定したとき、融解エンタルピー量(ΔHm)が2J/g以上である吸熱ピークを有し、前記吸熱ピークのうち、最も大きい吸熱ピークのピークトップ温度と、前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の前記融点との差の絶対値が10℃以下であり、酪酸ブチルと前記フッ化ビニリデン共重合体組成物とを含み、かつ前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率が10質量%である分散液を、25℃で30分間攪拌し、20時間静置した後の、前記分散液の上部20体積%における前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率が、4.0質量%以上10質量%以下である、フッ化ビニリデン共重合体組成物を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記フッ化ビニリデン共重合体組成物と、比誘電率が15以下である分散媒と、を含む、ポリマー分散液も提供する。
【0012】
本発明は、上記のフッ化ビニリデン共重合体組成物を含む、非水電解質二次電池用電極も提供する。さらに、上記のフッ化ビニリデン共重合体組成物を含む、非水電解質二次電池用電解質層を提供する。また、上記のフッ化ビニリデン共重合体組成物を含む、非水電解質二次電池も提供する。
【0013】
本発明は、以下のフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法も提供する。
フッ化ビニリデン由来の構成単位と、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位とを含むフッ化ビニリデン共重合体を含有するフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法であって、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを準備する工程と、前記エマルションに界面活性剤を添加して攪拌し、25℃における表面張力が40mN/m以下の界面活性剤含有エマルションを得る工程と、を含み前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃以下である、フッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法を提供する。
【0014】
また、フッ化ビニリデン由来の構成単位と、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位とを含むフッ化ビニリデン共重合体を含有するフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法であって、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを準備する工程と、前記未処理フッ化ビニリデン共重合体のヒートフローを示差走査熱量計で測定したときに、185℃以下にみられる吸熱ピークのうち最も高温のピークのエンドセットより低い温度、かつ、40℃以上の温度で前記エマルションを加熱する工程と、を含み、前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃以下である、フッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、比誘電率の低い分散媒に対する分散性が非常に優れる。したがって、当該フッ化ビニリデン共重合体組成物によれば、フッ化ビニリデン共重合体組成物を均一に含む電極層や電解質層の形成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、フッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのエンドセットを特定する方法を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
1.フッ化ビニリデン共重合体組成物
本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、所定の物性を有するフッ化ビニリデン共重合体を含む組成物である。フッ化ビニリデン共重合体組成物は、フッ化ビニリデン共重合体のみで構成されていてもよく、フッ化ビニリデン共重合体と例えば界面活性剤等の他の成分を含んでいてもよい。
【0018】
本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、融点が140℃以下であればよく、通常、25℃で固体状である。なお、本明細書において、組成物が25℃で固体状であるとは、組成物の主な構成成分が25℃で固体状であることを意味し、本発明の目的および効果を損なわない範囲において、液体状の成分を一部に含んでいてもよい。
【0019】
前述のように、非水電解質二次電池の電極層や電解質層を形成する際、フッ化ビニリデン共重合体は、分散媒(比誘電率の低い分散媒)に分散されることが好ましく、長期間に亘ってその分散性が維持されることが好ましい。本発明者らの鋭意検討によれば、フッ化ビニリデン共重合体組成物が特定の物性を有する場合に、比誘電率の低い分散媒に分散しやすいこと、さらにフッ化ビニリデン共重合体組成物分散液を静置したときの分散安定性が非常に高いこと、が明らかとなった。
【0020】
具体的には、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃以下であり、かつフッ化ビニリデン共重合体組成物が、当該フッ化ビニリデン共重合体組成物のリバーシングヒートフローを温度変調示差走査熱量計で測定したときに、融解エンタルピー量(ΔHm)が2J/g以上である吸熱ピークを有し、最も大きい吸熱ピークのピークトップ温度と、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点との差の絶対値が10℃以下である場合に、比誘電率が15以下である分散媒中でフッ化ビニリデン共重合体組成物の分散性が良好になることが明らかとなった。
【0021】
フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃以下であることは、フッ化ビニリデン共重合体が、一定以上の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位を含んでいることを意味する。そして、フッ化ビニリデン共重合体組成物が、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位を含むと、比誘電率が低い分散媒との親和性が良好になりやすいと考えられる。
【0022】
また、フッ化ビニリデン由来の構成単位と含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位とがある一定の組成比を有するフッ化ビニリデン共重合体を含むフッ化ビニリデン共重合体組成物において、そのリバーシングヒートフローにおける最も大きい吸熱ピークのピークトップ温度は、フッ化ビニリデン共重合体組成物中のフッ化ビニリデン共重合体の結晶性領域の状態に応じて変化する。フッ化ビニリデン共重合体の結晶性領域の状態は、熱履歴(温度、時間)やモノマーの反応速度など重合条件や設備により変化するため、当該ピークトップ温度は製造履歴が反映された値となる。一方、当該フッ化ビニリデン共重合体組成物において、後述の方法によって測定する融点は、製造時に形成される結晶性領域の状態の影響を受けにくい。そして、比誘電率が低い分散媒との親和性を損なうことなく、フッ化ビニリデン共重合体が適度に結晶化している場合に、当該ピークトップ温度と、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点との差の絶対値が10℃以下となる。つまり、上記絶対値が10℃以下である場合には、フッ化ビニリデン共重合体組成物が、比誘電率の低い溶媒に分散しやすいといえる。
【0023】
また本発明では、酪酸ブチルと前記フッ化ビニリデン共重合体組成物とを含み、かつ前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率が10質量%である分散液を調製したとき、当該分散液を25℃で30分攪拌し、20時間静置した後の、分散液の上部20体積%におけるフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率が、4.0質量%以上10質量%以下である。上記分散液中のフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率が、上記範囲となると、フッ化ビニリデン共重合体組成物が比誘電率の低い分散媒中で沈降し難くなり、長期間にわたって、分散性が良好に維持される。
【0024】
以下、フッ化ビニリデン共重合体組成物中の成分や、その物性、製造方法等について、詳しく説明する。
【0025】
・フッ化ビニリデン共重合体
本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物が含むフッ化ビニリデン共重合体は、フッ化ビニリデン由来の構造単位、および含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位を含む。フッ化ビニリデン共重合体中のフッ化ビニリデン由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン共重合体の構成単位100質量%に対して、30質量%以上85質量%以下が好ましく、40質量%以上80質量%以下がより好ましい。フッ化ビニリデン由来の構造単位の質量分率が上述の範囲内であると、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が所望の範囲に収まりやすくなる。上記フッ化ビニリデン由来の構造単位の質量分率は、フッ化ビニリデン共重合体を19F-NMRで分析することにより特定することができる。
【0026】
一方、含フッ素アルキルビニル化合物は、1つのビニル基と、アルキル基のうち1つ以上の水素がフッ素に置換されたアルキル基と、を有する化合物、または1つのビニル基を有し、かつ当該ビニル基にフッ素が結合している化合物(ただし、フッ化ビニリデンは除く)であればよく、その例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ヘキサフルオロエチレン、フルオロアルキルビニルエーテル、およびパーフルオロメチルビニルエーテル等が含まれる。これらの中でも、比誘電率が低い分散媒との親和性が良好になりやすいとの観点で、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンが好ましく、特にヘキサフルオロプロピレンが好ましい。フッ化ビニリデン共重合体中には、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位が1種のみ含まれていてもよく、2種以上含まれていてもよい。
【0027】
フッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位の量は、後述のフッ化ビニリデン共重合体組成物の融点を140℃以下にすることが可能であれば特に制限されない。含フッ素アルキルビニル化合物の種類にもよるが、含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位の量は、フッ化ビニリデン共重合体の構成単位100質量%に対して、15質量%以上70質量%以下が好ましく、20質量%以上60質量%以下がより好ましい。フッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物の量が上記範囲であると、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が所望の範囲に収まりやすくなる。上記含フッ素アルキルビニル化合物由来の構造単位の質量分率は、フッ化ビニリデン共重合体を19F-NMRで分析することにより特定できる。
【0028】
また、フッ化ビニリデン共重合体は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、フッ化ビニリデンや、含フッ素アルキルビニル化合物と共重合可能な他の単量体由来の構成単位を一部に含んでいてもよい。
【0029】
フッ化ビニリデン等と共重合可能な他の単量体の例には、1つのビニル基と、架橋性基と、を有する、架橋性アルキルビニル化合物が含まれる。架橋性基の例には、ビニル基も含まれる。すなわち、架橋性アルキルビニル化合物は、2つ以上のビニル基を有する化合物等であってもよい。また、当該架橋性アルキルビニル化合物は、フッ素原子を含んでいてもよい。当該架橋性アルキルビニル化合物の例には、パーフルオロジビニルエーテルおよびパーフルオロアルキレンジビニルエーテル等が含まれる。なお、パーフルオロアルキレンジビニルエーテルの例には、すべての水素原子がフッ素原子で置換された2つのビニルエーテル基が、炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖状の2価のパーフルオロアルキレン基で結合された構造を有する化合物が含まれる。
【0030】
また、他の単量体の例には、不飽和二塩基酸または不飽和二塩基酸モノエステルも含まれる。不飽和二塩基酸は、不飽和ジカルボン酸またはその誘導体であり、その例には、2つのカルボキシル基が、炭素数1以上6以下の直鎖状または分岐鎖状の不飽和アルキレン基で結合された化合物が含まれる。上記不飽和二塩基酸のより具体的な例には、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、およびシトラコン酸等が含まれる。一方、不飽和二塩基酸モノエステルは、上記不飽和二塩基酸に由来するモノエステル化合物である。上記不飽和二塩基酸モノエステルの例には、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノエチルエステル、シトラコン酸モノメチルエステル、およびシトラコン酸モノエチルエステル等が含まれる。
【0031】
また、他の単量体の例には、ビニル基および極性基を含有する化合物(以下、「極性基含有化合物」ともいう。)も含まれる。当該極性基含有化合物の例には、(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシエチルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸、およびグリシジル(メタ)アクリレート等が含まれる。
【0032】
フッ化ビニリデン共重合体中の上記架橋性アルキルビニル化合物、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸モノエステル、または極性基含有化合物に由来する構造単位の質量分率は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、任意に設定することができる。例えば、不飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸モノエステル、または極性基含有化合物に由来する構造単位の導入量は、フッ化ビニリデン共重合体をFT-IR分析することにより特定することができる。
【0033】
ここで、フッ化ビニリデン共重合体の重量平均分子量は、10万~1000万が好ましく、20万~500万がより好ましく、30万~200万がさらに好ましい。フッ化ビニリデン共重合体の重量平均分子量が当該範囲であると、フッ化ビニリデン共重合体組成物の分散媒に対する分散性が良好になりやすい。また、フッ化ビニリデン共重合体組成物を電極層や全固体電池の電解質層のバインダーとしたとき、活物質や固体電解質を結着しやすくなる。なお、上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定される、ポリスチレン換算値である。
【0034】
・界面活性剤
上述のように、フッ化ビニリデン共重合体組成物は、フッ化ビニリデン共重合体だけでなく、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。
【0035】
ここで、フッ化ビニリデン共重合体組成物が含む界面活性剤は、アニオン性の基またはカチオン性の基を有するイオン性の界面活性剤であってもよく、非イオン性の界面活性剤であってもよい。また、界面活性剤はフッ素を含まない非フッ素化界面活性剤であってもよく、フッ素を含むフッ素化界面活性剤(過フッ素化界面活性剤および部分フッ素化界面活性剤等)であってもよい。
【0036】
使用できるアニオン性の界面活性剤は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。アニオン性界面活性剤の親水基は、カルボン酸塩、硫酸塩、スルホン酸塩、リン酸塩等を含むことが好ましく、さらにエステル結合、酸アミド結合、エーテル結合を含んでいてよい。また、疎水基は、アルキル鎖、アルキルエーテル鎖、パーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖、フルオロカーボン鎖またはフルオロポリエーテル鎖を含むことが好ましく、これらは直鎖構造であっても分岐構造を有していてもよい。
【0037】
使用できるカチオン性の界面活性剤は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。カチオン性界面活性剤の親水基は、脂肪族第4級アンモニウム塩、脂肪族アミン塩、環式第4級アンモニウム塩、アミン酢酸塩、を含むことが好ましい。また、疎水基は、アルキル鎖、アルキルエーテル鎖、パーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖、フルオロカーボン鎖またはフルオロポリエーテル鎖を含むことが好ましく、これらは直鎖構造であっても分岐構造を有していてもよい。
【0038】
さらに、使用できる非イオン性界面活性剤は特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。非イオン性界面活性剤の親水基は、ヒドロキシ基、エーテル結合、酸アミド結合、エステル結合等を分子内に有することが好ましい。また、疎水基は、アルキル鎖、アルキルエーテル鎖、パーフルオロアルキル鎖、パーフルオロアルキルエーテル鎖、フルオロカーボン鎖またはフルオロポリエーテル鎖を含むことが好ましく、これらは直鎖構造であっても分岐構造を有していてもよい。
【0039】
界面活性剤としては、後述するフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法において準備するエマルション中の水性媒体に溶解または混和するものが好ましい。
【0040】
フッ化ビニリデン共重合体組成物が含む界面活性剤の量は、フッ化ビニリデン共重合体と界面活性剤との合計量に対して、0.01質量%以上20質量%以下が好ましく、0.02質量%以上15質量%以下がより好ましい。界面活性剤の量が過度に多くなると、得られるフッ化ビニリデン共重合体組成物を電極層や電解質層のバインダーとして使用したときに、フッ化ビニリデン共重合体組成物と活物質や電解質等との接着性が低下することがあるが、20質量%以下であれば、接着性が低下し難い。一方で、界面活性剤の量が、フッ化ビニリデン共重合体組成物の総量に対して0.01質量%以上であると、フッ化ビニリデン共重合体組成物を分散媒に分散させたときの分散安定性が高まる。
【0041】
<フッ化ビニリデン共重合体組成物の物性>
本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、上述のように、その融点が140℃以下であればよいが、135℃以下が好ましく、130℃以下がより好ましい。フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点は、上述のフッ化ビニリデン共重合体中の含フッ素アルキルビニル化合物由来の構成単位の量等によって調整可能である。また、本明細書において、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点は、以下の方法で測定する。まず、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を200℃でプレスし、厚み150μmのフィルム状に成形する。示差走査熱量計を用い、ASTM D3418に準拠して、プレスしたフィルム状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の融点を測定する。当該方法によって測定されるフッ化ビニリデン共重合体組成物の融点は、フッ化ビニリデン共重合体組成物を一度溶融した後に測定される値である。したがって、後述のフッ化ビニリデン共重合体の重合反応過程における製造履歴およびフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法の影響を受けにくい。
【0042】
一方、本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、当該フッ化ビニリデン共重合体組成物のリバーシングヒートフローを温度変調示差走査熱量計で測定したとき、融解エンタルピー量(ΔHm)が2J/g以上である吸熱ピークを有する。なお、フッ化ビニリデン重合体の標準融解エンタルピー量(ΔHm0)の文献値(M Neidhofer:Polymer volume45,Issue5,2004,1679-1688に記載の値)は104.5J/gであることから、フッ化ビニリデン共重合体の融解エンタルピー量(ΔHm)の上限を104.5J/gとする。ここで、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融解エンタルピー量(ΔHm)や、吸熱ピークのピークトップの数や、ピークトップ温度は、フッ化ビニリデン共重合体組成物(特にフッ化ビニリデン共重合体)の結晶性領域の状態、すなわち、後述の製造方法に応じて変化する。例えば、吸熱ピークのピークトップが1つになるフッ化ビニリデン共重合体を含むエマルションに、任意で界面活性剤を添加し、所定の温度で加熱を行うと、フッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのピークトップが2つ以上になる。これは、エマルションを加熱することでフッ化ビニリデン共重合体の結晶構造が変化し、加熱前のフッ化ビニリデン共重合体に由来する融解ピークとは異なるピークとして現れるためである。なお、本明細書において、融解エンタルピー量(ΔHm)が2J/g以上である吸熱ピークとは、0℃以上の温度において観察されるピークであり、吸熱ピークに、0℃未満の温度域で観察されるピークは含めない。
【0043】
ここで、フッ化ビニリデン共重合体組成物のリバーシングヒートフローは、温度変調示差走査熱量計によって特定する。具体的には、フッ化ビニリデン共重合体組成物を含むエマルションを凍結乾燥することで得た粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を測定用サンプルとする。そして、ヒートオンリー条件となるように、平均昇温速度5℃/分、モジュレイション周期40秒、モジュレイション振幅±0.531℃で加熱し、下に凸の吸熱ピークを有するリバーシングヒートフローを得る。得られたリバーシングヒートフローにおいて、エンドセットより高温側の直線状のヒートフローと重なるようにベースラインを直線状に引く。そして、リバーシングヒートフローの下に凸な吸熱ピークのうち、当該ベースラインからリバーシングヒートフローに向けて、垂直に線を引いたとき、ベースラインからリバーシングヒートフローまでの距離が最も遠い点を最も大きい吸熱ピークのピークトップとし、当該ピークトップとなる温度を特定する。ここで、リバーシングヒートフローの下に凸な吸熱ピークにおける極小値の数を吸熱ピークのピークトップの数とする。一方で、当該ベースラインとリバーシングヒートフローとに囲まれた領域を融解エンタルピー量(ΔHm)とする。
【0044】
また、本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、上記融解エンタルピー量(ΔHm)が2J/g以上のフッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち、最も大きい吸熱ピークのピークトップ温度と、前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点との差の絶対値が10℃以下である。ここで、「最も大きい吸熱ピークのピークトップ温度」とは、上記融解エンタルピー量(ΔHm)が2J/g以上の吸熱ピークにおいて、前述の方法により引いたベースラインから、リバーシングヒートフローに向けて垂直に線を引いたとき、ベースラインからリバーシングヒートフローまでの距離が最大となるときの温度(リバーシングヒートフロー上の点)のことである。当該絶対値は、9.5℃以下がより好ましく、9℃以下がさらに好ましい。上記絶対値が当該範囲であると、上述のように、比誘電率の低い分散媒に対する親和性と分散性とを兼ね備えたフッ化ビニリデン共重合体組成物となる。なお、上記絶対値が10℃を超えると、フッ化ビニリデン共重合体組成物の結晶性が高まりすぎたりして、分散性が低下する傾向にある。当該絶対値は、後述のフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法によって、調整できる。例えば、フッ化ビニリデン共重合体を固体状(粉体状)にしてから、加熱を行ったりすると、上記絶対値が10℃を超えやすくなる。
【0045】
また、本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、酪酸ブチルと前記フッ化ビニリデン共重合体組成物とを含み、かつ前記フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率が10質量%である分散液を調製したとき、20時間静置後の分散液の上部20体積%におけるフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率が、4.0質量%以上10質量%以下となる。上部20体積%におけるフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率は、7.0質量%以上10質量%以下がより好ましい。フッ化ビニリデン共重合体組成物が、酪酸ブチルに対してこのような分散安定性を有すると、電極層や電解質層等を形成するためのポリマー分散液等において、フッ化ビニリデン共重合体組成物が沈降し難く、所望の性能を有する電極層や電解質層が得られやすくなる。なお、静置後の分散液中のフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率は、後述のフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法によって調整できる。例えば、フッ化ビニリデン共重合体と混合する界面活性剤の量や種類、エマルションの加熱の有無等によって調整できる。
【0046】
ここで、上記静置後のフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率の測定は、以下のように行う。フッ化ビニリデン共重合体組成物を酪酸ブチルに添加した分散液(フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率10質量%)を調製する。当該分散液20mLを20mLメスシリンダーに入れ、パラフィルムで蓋をして20時間静置する。その後、メスシリンダーの上澄みから4mLを採取し、135℃、1時間乾燥させ、これをデシケータ内で1時間放冷する。そして、乾燥前後の重量を測定することで、分散液の上部20体積%におけるフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率を算出する。
【0047】
また、上記分散液の濁度は、5%以上が好ましい。上記分散液の濁度が5%未満である場合、フッ化ビニリデン共重合体組成物が分散媒に溶解しており、5%以上である場合には、フッ化ビニリデン共重合体組成物の少なくとも一部が分散媒に溶解せずに分散している。当該濁度は、フッ化ビニリデン共重合体組成物を調製する際に使用する界面活性剤の種類や加熱の有無等によって調整できる。上記分散液の濁度は、以下の方法で測定される。フッ化ビニリデン共重合体組成物の酪酸ブチル分散液(フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率10質量%)を調製し、20時間静置した後、攪拌する。攪拌直後の当該分散液の濁度をJIS K 7136に準拠して測定する。
【0048】
なお、本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物の形状は特に制限されないが、通常、粒子状(粉体状)であることが好ましい。また、当該フッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は特に制限されないが、1μm以上5000μm以下が好ましく、2μm以上3000μm以下がより好ましい。フッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径が当該範囲であると、フッ化ビニリデン共重合体の取り扱いが容易になりやすい。当該平均二次粒子径は、レーザー回折・散乱法にて体積基準で測定される粒度分布の累積平均径(D50)である。
【0049】
<フッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法>
上述の物性を満たすフッ化ビニリデン共重合体組成物は、例えば以下の3つの方法で製造できる。ただし、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法は、以下の3つの方法に限定されない。
【0050】
・第1の方法
フッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法の第1の方法では、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを準備する工程(以下、「エマルション準備工程」とも称する)と、当該エマルションにイオン性界面活性剤を添加して攪拌し、25℃における表面張力が40mN/m以下の界面活性剤含有エマルションを得る工程(以下、「界面活性剤添加工程」とも称する)と、を行う。
【0051】
また、界面活性剤添加工程後に、界面活性剤含有エマルションを乾燥させて、フッ化ビニリデン共重合体を取り出す工程(以下、「乾燥工程」とも称する)を行うことで、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物を固体状で得られる。なお、本方法では、固体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た後、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点以上の温度での加熱は行わないものとする。以下、各工程について説明する。
【0052】
(エマルション準備工程)
エマルション準備工程では、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを準備する。なお、当該エマルションは市販品であってもよい。本明細書において、未処理フッ化ビニリデン共重合体とは、一般的な方法によって調製されたフッ化ビニリデンと含フッ素アルキルビニル化合物との共重合体を指し、フッ化ビニリデン共重合体の重合後、残存モノマーや残存開始剤の分解を目的とする以外の加熱処理や界面活性剤との混合等が行われていないものをいう。当該未処理フッ化ビニリデン共重合体は、上述のフッ化ビニリデン共重合体と実質的に同様の組成を有する。ただし、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションに後述の界面活性剤添加工程等を行うことによって、当該未処理フッ化ビニリデン共重合体の比誘電率が15以下である分散媒に対する分散性が変化する。
【0053】
本工程において、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションは、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法もしくはマイクロサスペンション重合法等によって作製してもよい。また、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションの市販品を用いてもよい。中でも、乳化重合法によって水中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを得る方法が好ましい。
【0054】
具体的な乳化重合方法としては、フッ化ビニリデンと、含フッ素アルキルビニル化合物と、必要に応じて他の単量体と、水性媒体と、乳化剤と、をオートクレーブ内で混合する。そして、当該混合液に水性媒体に可溶な重合開始剤を添加し、フッ化ビニリデンと含フッ素アルキルビニル化合物と、必要に応じて他の単量体とを重合させる。
【0055】
重合時のオートクレーブ内の圧力は0~20MPaとすることが好ましく、0.5~15MPaとすることがより好ましく、1~10MPaとすることがさらに好ましい。重合を行う際の圧力を上記範囲に調整することで、製造上安定して未処理フッ化ビニリデン共重合体が得られる。
【0056】
乳化重合に用いる水性媒体は、上記フッ化ビニリデンと含フッ素アルキルビニル化合物が難溶な液体であれば特に制限されず、主成分が水である液体であれば、水以外に水と混和する溶媒を含んでいてもよい。水性媒体は、水であることが好ましい。
【0057】
一方、乳化剤は、ミセルを水性媒体中に形成可能であり、かつ、合成される未処理フッ化ビニリデン共重合体を水性媒体中に安定に分散させることができるものであれば特に制限されず、例えば公知の界面活性剤とすることができる。乳化剤としては、非イオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれでもよく、これらを組み合わせて使用してもよい。乳化剤の例には、ポリフッ化ビニリデンの重合に従来から使用されている過フッ素化界面活性剤、部分フッ素化界面活性剤および非フッ素化界面活性剤等が含まれる。これらの界面活性剤のうち、パーフルオロアルキルスルホン酸およびその塩、パーフルオロアルキルカルボン酸およびその塩、ならびに、フルオロカーボン鎖またはフルオロポリエーテル鎖を有するフッ素化界面活性が好ましい。乳化剤としては、上記のうちから選択される1種単独又は2種以上を使用することができる。乳化剤の添加量は、重合に用いられる全単量体の総量を100質量部とすると、0.0001~22質量部であることが好ましい。
【0058】
重合開始剤は、水性媒体に溶解可能であり、かつ単量体を重合可能な化合物であれば特に制限されない。重合開始剤の例には、公知の水溶性過酸化物、水溶性アゾ系化合物およびレドックス系開始剤等が含まれる。水溶性過酸化物の例には、過硫酸アンモニウムおよび過硫酸カリウム等が含まれる。水溶性アゾ系化合物の例には、2,2’-アゾビス-イソブチロニトリル(AIBN)および2,2’-アゾビス-2-メチルブチロニトリル(AMBN)等が含まれる。レドックス系開始剤の例には、アスコルビン酸-過酸化水素等が含まれる。これらの中でも水溶性過酸化物が、反応性等の観点で好ましい。これらの重合開始剤は、1種単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤の添加量は、重合に用いられる全単量体の総量を100質量部とすると、0.01~5質量部であることが好ましい。
【0059】
一方で、上記乳化重合法は、ソープフリー乳化重合法、ミニエマルション重合法、シード乳化重合法等であってもよい。ソープフリー乳化重合法とは、上記のような通常の乳化剤を用いることなく乳化重合する方法である。また、ソープフリー乳化重合法では、上記乳化剤として、分子中に重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を用いることもできる。反応性乳化剤は、重合の初期には系中にミセルを形成するが、重合が進行するにつれ、単量体として重合反応に使用されて消費される。そのため、最終的に得られる反応系中には、遊離した状態ではほとんど存在しない。したがって、反応性乳化剤が、得られる未処理フッ化ビニリデン共重合体の粒子表面にブリードアウトし難いという利点がある。
【0060】
反応性乳化剤の例には、ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、メタクリロイルオキシポリオキシプロピレン硫酸エステルナトリウムおよびアルコキシポリエチレングリコールメタクリレート等が含まれる。
【0061】
また、ミニエマルション重合法とは、超音波発振器等を用いて強いせん断力をかけて、フッ化ビニリデンや含フッ素アルキルビニル化合物等の単量体の油滴をサブミクロンサイズまで微細化し、重合を行なう方法である。このとき、微細化された単量体の油滴を安定化させるために、公知のハイドロホーブを混合液に添加する。ミニエマルション重合法では、理想的には、各モノマー油滴でのみ重合反応が生じ、各油滴がそれぞれ未処理フッ化ビニリデン共重合体(微粒子)となる。そのため、得られる未処理フッ化ビニリデン共重合体の粒径および粒径分布等を制御しやすい。
【0062】
シード乳化重合とは、上記のような重合方法で得られた微粒子を他の単量体からなる重合体で被覆する重合である。微粒子のエマルションに、さらに単量体と、必要に応じて、水性媒体、界面活性剤、重合開始剤等を添加し、重合させる。
【0063】
ここで、上記いずれの乳化重合法においても、得られる未処理フッ化ビニリデン共重合体の重合度を調節するために、連鎖移動剤を用いてもよい。連鎖移動剤の例には、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジエチル、アセトン、エタノール、n-プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、および四塩化炭素等が含まれる。
【0064】
また、必要に応じてpH調整剤を用いてもよい。pH調整剤としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムおよびリン酸二水素カリウム等の緩衝能を有する電解質物質、ならびに水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等の塩基性物質が挙げられる。
【0065】
また、必要に応じて沈降防止剤、分散安定剤、腐食防止剤、防カビ剤、湿潤剤等の他の任意成分を用いてもよい。これらの任意成分の添加量は、重合に用いられる全単量体の総量を100質量部に対して、5ppm以上10質量部以下が好ましく、10ppm以上7質量部以下がより好ましい。
【0066】
未処理フッ化ビニリデン共重合体の重合において、重合温度は、重合開始剤の種類等によって、適宜選択すればよいが、例えば、0~120℃、好ましくは20~110℃、より好ましくは40~100℃に設定すればよい。重合時間は、特に制限されないが、生産性等を考慮すると、1~24時間であることが好ましい。
【0067】
本発明に係る製造方法によれば、水性媒体が水である場合、水中に未処理フッ化ビニリデン共重合体粒子が均一に分散されたエマルションが得られる。市販品のエマルションおよびこのようにして得られたエマルションは、そのまま使用してもよく水性媒体で任意の濃度に薄めて使用してもよい。当該エマルションを塩析、凍結粉砕、スプレードライ、及びフリーズドライ等から選ばれる少なくとも1種の方法で粉体化した後、所望の水性媒体に物理的または化学的に再分散させてから、後述の界面活性剤添加工程を行ってもよい。またこのとき、他の任意成分(ただし、界面活性剤は除く)を任意のタイミングで混合してもよいし、未処理のエマルションから、透析膜又はイオン交換樹脂等によって不純物を除去してもよい。さらに、未処理フッ化ビニリデン共重合体は、凍結粉砕や分級等によって微粉化処理してから、水性媒体と混合し、後述の界面活性剤添加工程を行ってもよい。未処理フッ化ビニリデン共重合体の水性媒体への分散方法は特に制限されず、公知の分散方法を適用することができる。
【0068】
ここで、エマルション中の未処理フッ化ビニリデン共重合体の含有量は、5質量%以上70質量%以下が好ましく、10質量%以上60質量%以下がより好ましい。上述の方法で調製あるいは購入したエマルションをそのまま使用するか、あるいは水性媒体で薄めて使用してもよい。未処理フッ化ビニリデン共重合体の含有量が5質量%以上であると、効率よくフッ化ビニリデン共重合体組成物を調製できる。一方、70質量%以下であると、エマルションの分散性が安定しやすくなる。
【0069】
エマルション中の未処理フッ化ビニリデン共重合体の動的光散乱法で決定される平均一次粒子径は5μm以下が好ましく、3μm以下がより好ましく、1μm以下がさらに好ましい。一方、上記平均一次粒子径は、0.01μm以上が好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.1μm以上がさらに好ましい。エマルション中の未処理フッ化ビニリデン共重合体の平均一次粒子径は、動的光散乱法の正則化解析によって算出される。例えば、BECKMAN COULTER社製 DelsaMaxCOREを使用して、JIS Z8828に準拠して、測定媒体を水、測定温度を25℃として測定できる。また、正則化解析によって得られる最も大きいピークを平均一次粒子径とする。
【0070】
(界面活性剤添加工程)
界面活性剤添加工程では、上述のエマルション準備工程で準備したエマルションに、イオン性界面活性剤を添加して攪拌し、25℃における表面張力が40mN/m以下の界面活性剤含有エマルションを得る。本工程で添加するイオン性界面活性剤は、添加後のエマルション(界面活性剤含有エマルション)の表面張力を40mN/m以下とすることが可能であれば特に制限されない。ここで、イオン性界面活性剤添加後のエマルション(界面活性剤含有エマルション)の25℃における表面張力は、5mN/m以上40mN/m以下が好ましく、10mN/m以上40mN/m以下がより好ましい。
【0071】
界面活性剤含有エマルションの上記表面張力はWilhelmy法を用いて表面張力計(Sigma701/700、KSV instruments社製)によって測定される。測定には白金プレートを使用し、25℃における表面張力を3回測定したときの平均値を表面張力の値とする。
【0072】
本工程で添加するイオン性界面活性剤としては、エマルションに含まれる水性媒体に溶解または混和するものが選択されアニオン性界面活性剤、およびカチオン性界面活性剤のいずれであってもよく、アニオン性界面活性剤が特に好ましい。これらを1種類のみ添加してもよく、これらを組み合わせて2種以上添加してもよい。イオン性の界面活性剤を添加することで、上述のエマルションに含まれる未処理フッ化ビニリデン共重合体の表面に吸着することができ、比誘電率が15以下である分散媒への分散性が向上する。
【0073】
使用できるアニオン性界面活性剤およびカチオン性界面活性剤は、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物が含む界面活性剤に例示したものと同様である。
【0074】
イオン性界面活性剤の添加量は、界面活性剤含有エマルションの表面張力に応じて適宜選択されるが、通常、エマルション中の未処理フッ化ビニリデン共重合体の総量に対して0.01質量部以上20質量部以下が好ましく、0.02質量部以上15質量部以下がより好ましい。イオン性界面活性剤の量が過度に多くなると、得られるフッ化ビニリデン共重合体組成物を電極層や電解質層のバインダーとして使用したときに、フッ化ビニリデン共重合体組成物と活物質や電解質等との接着性が低下することがある。そこで、未処理フッ化ビニリデン共重合体の総量100質量部に対して20質量部以下が好ましい。一方で、イオン性界面活性剤の量が、未処理フッ化ビニリデン共重合体の総量に対して0.01質量部以上であると、フッ化ビニリデン共重合体組成物を分散媒に分散させたときの分散安定性が高まる。なお、本工程で添加した界面活性剤のうち、余剰の成分については、必要に応じて、透析膜、イオン交換樹脂等によって除去してもよい。
【0075】
(乾燥工程)
乾燥工程では、上記界面活性剤含有エマルションから水性媒体を除去する。水性媒体の除去方法は特に制限されないが、界面活性剤含有エマルション中のフッ化ビニリデン共重合体組成物の物性等に影響を及ぼさない温度で乾燥させることが好ましい。乾燥工程は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。当該乾燥によって、上述の固体状(粉体状)のフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られる。また、水性媒体を除去するための装置は特に制限されず、棚段式乾燥器、コニカルドライヤー、流動層乾燥器、気流乾燥器、噴霧乾燥器、凍結乾燥機等を用いることができる。
【0076】
・第2の方法
フッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法の第2の方法では、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを準備する工程(以下、「エマルション準備工程」とも称する)と、当該未処理フッ化ビニリデン共重合体のヒートフローを示差走査熱量計で測定したときに、185℃以下に見られる当該未処理フッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち最も高温のピークのエンドセットより低い温度で前記エマルションを加熱する工程(以下、「加熱工程」とも称する)と、を少なくとも行う。なお、上記エマルション加熱工程後、エマルションを乾燥させて、フッ化ビニリデン共重合体を取り出す工程(以下、「乾燥工程」とも称する)を行うことで、上述の固体状(粉体状)のフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られる。なお、本方法においても、固体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た後、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点以上の温度での加熱は行わないものとする。以下、各工程について説明する。
【0077】
(エマルション準備工程)
エマルション準備工程では、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを準備する。当該エマルション準備工程は、上述の第1の方法のエマルション準備工程と同様とすることができる。上述のように、市販のエマルションを使用してもよい。
【0078】
(加熱工程)
加熱工程では、エマルション準備工程後に、エマルションを加熱する。上述のエマルション準備工程で重合を行う場合、重合の後、そのまま連続して加熱工程を実施してもよく、重合と加熱工程を分けて実施してもよい。重合で得たエマルションを加熱する場合、重合の後、かつ、加熱工程の前に、少なくとも、未反応のフッ化ビニリデンおよび含フッ素アルキルビニル化合物を系外にパージし、除去することが好ましい。当該作業を行うことで、加熱工程中にフッ化ビニリデン共重合体を形成するための重合反応が再度開始することがない。また未処理フッ化ビニリデン共重合体の結晶性領域の状態を加熱工程で調整しやすくなる。
【0079】
エマルションを加熱する温度は、以下のように定める。まず、上述の未処理フッ化ビニリデン共重合体の一部を粉体化した後フィルム状にする。当該フィルム状の未処理フッ化ビニリデン共重合体のヒートフローを、示差走査熱量計を用い、ASTM D3418に準拠した方法で測定する。そして、185℃以下に見られるフッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち、最も高温のピークのエンドセットより低い温度を加熱温度とする。加熱工程を行うことで、比誘電率が15以下である分散媒への分散性が向上する。
【0080】
エマルションを加熱する温度の決定方法は、より具体的には以下の通りである。まず、エマルションを凍結乾燥し、未処理フッ化ビニリデン共重合体を粉体状にする。そして、剥離剤を噴霧した2枚のアルミ箔の間に、縦5cm×横5cm×厚み150μmの鋳型と、粉体状の未処理フッ化ビニリデン共重合体約1gとを挟み、200℃でプレスし、フィルム状にする。そして、示差走査熱量計(METTLER社製「DSC-1」)を用いてASTM D3418に準拠した方法で、フィルム状の未処理フッ化ビニリデン共重合体のヒートフローを得る。そして、当該ヒートフローにおいて185℃以下にみられる未処理フッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち最も高温のピークのエンドセットを特定し、当該エンドセットより低い温度を、エマルションを加熱する温度、とする。
【0081】
なお当該エンドセットは以下のように特定する。吸熱ピークの高温側(例えば185℃超)における直線状のヒートフローと重なるようにベースラインを直線状に引く。当該ヒートフローの185℃以下にみられるフッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち、最も高温のピークトップより高温側の温度域で、かつ、ヒートフローとベースラインとが重なる最低温度より低温側の温度域において、
図1に示すように、ヒートフローに接線を引く。そして当該接線と前記ベースラインとの交点を、フッ化ビニリデン共重合体のエンドセットとする。
【0082】
エマルションを加熱する温度は、エマルション中の未処理フッ化ビニリデン共重合体の結晶構造を適度に変化させるとの観点で、40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることがさらに好ましい。
【0083】
185℃以下にみられるフッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち最も高温のピークのエンドセットよりも低い温度で加熱すると、エマルション中のフッ化ビニリデン共重合体の結晶構造が適度に変化し、上述の物性を満たすフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られやすくなる。一方で、当該エンドセットよりも高い温度で加熱すると、エマルション中のフッ化ビニリデン共重合体の結晶構造が著しく変化し、エマルションの分散安定性が低下し、フッ化ビニリデン共重合体組成物を粉体状で取り出すことが困難となる。
【0084】
エマルション準備工程で重合を行う場合、重合の後そのまま連続して加熱工程を実施することができる。この場合、重合の後、かつ、加熱工程の前に、少なくとも、未反応のフッ化ビニリデンおよび含フッ素アルキルビニル化合物を系外にパージし、除去した後に、上述の温度で加熱することが好ましい。
【0085】
エマルション準備工程で重合を行う場合、重合と加熱工程を分けて実施することもできる。この場合、加熱工程の前に、重合温度より低い温度まで冷却してから、加熱を行うことが好ましい。具体的には、重合温度より5℃以上低い温度まで冷却することが好ましい。またこのときの冷却方法は特に制限されない。当該温度まで冷却することによって、加熱効果(未処理フッ化ビニリデン共重合体の結晶性領域の状態の変化)が得られやすくなり、所望の物性を有するフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られやすくなる。
【0086】
一方、上述のエマルション準備工程で重合を行わない場合、例えば市販のエマルションを用いる場合等には、そのまま上記温度に加熱すればよい。
【0087】
なお、本明細書において、加熱温度で加熱するとは、上記加熱温度において、一定時間エマルションを保持することをいう。加熱時間は、加熱工程によってエマルションに残存する開始剤の除去を目的としていないため、上記未処理フッ化ビニリデン共重合体の結晶性領域の状態が変化する範囲であれば特に制限されないが、一例として、10秒以上24時間以下が好ましく、20秒以上12時間以内が好ましく、30秒以上6時間以下がより好ましい。上記加熱温度で上記時間保持することで、未処理フッ化ビニリデン共重合体の重合過程で形成された結晶性領域の状態が変化しやすくなり、所望の物性を有するフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られやすくなる。
【0088】
加熱方法は特に制限されず、上記エマルションを攪拌せずに行ってもよく、攪拌しながら行ってもよいが、上記エマルションの分散安定性の観点から攪拌しながら行うことが好ましい。加熱装置も特に制限されない。上述のエマルションを、オートクレーブ等を用いて加圧下、飽和蒸気圧下あるいは大気圧下で加熱してもよい。
【0089】
(乾燥工程)
乾燥工程では、上記エマルションから水性媒体を除去する。水性媒体の除去方法は特に制限されないが、エマルション中のフッ化ビニリデン共重合体組成物の物性等に影響を及ぼさない温度で乾燥させることが好ましい。乾燥工程は、大気圧下で行ってもよく、減圧下で行ってもよい。当該乾燥によって、上述の固体状(粉体状)のフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られる。乾燥方法は、第1の方法における乾燥工程と同様とすることができる。
【0090】
・第3の方法
フッ化ビニリデン共重合体組成物の製造方法の第3の方法では、前記第2の方法におけるエマルション準備工程後、加熱工程前にエマルションに界面活性剤を添加(以下、界面活性剤を添加したエマルションを「界面活性剤含有エマルション」とも称する)する工程(以下、「界面活性剤添加工程」とも称する)、を少なくとも行う。つまり、エマルション準備工程、界面活性剤添加工程、および加熱工程の順に行う。なお、上記加熱工程後、エマルションを乾燥させて、フッ化ビニリデン共重合体を取り出す工程(以下、「乾燥工程」とも称する)を行うことで、上述の固体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られる。なお、本方法においても、固体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た後、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点以上の温度での加熱は行わないものとする。以下、各工程について説明する。
【0091】
(エマルション準備工程)
エマルション準備工程では、水性媒体中に未処理フッ化ビニリデン共重合体が分散したエマルションを準備する。当該エマルション準備工程は、上述の第1の方法のエマルション準備工程と同様とすることができる。
【0092】
(界面活性剤添加工程)
界面活性剤添加工程では、上述のエマルション準備工程で準備したエマルションに界面活性剤を添加し、界面活性剤含有エマルションを調製する。また、エマルション準備工程で重合を行う場合、界面活性剤の添加前、または添加後、もしくは添加中にエマルション(もしくは界面活性剤含有エマルション)の冷却を行ってもよい。
【0093】
上述のエマルション準備工程で重合を行う場合、エマルションもしくは界面活性剤添加後の界面活性剤含有エマルションをエマルション準備工程における重合温度より低い温度まで冷却することが好ましい。具体的には、重合温度より5℃以上低い温度まで冷却することが好ましい。またこのときの冷却方法は特に制限されない。冷却することによって、加熱工程を行うことの効果(未処理フッ化ビニリデン共重合体の結晶性領域の状態の変化)が得られやすくなり、所望の物性を有するフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られやすくなる。
【0094】
本工程で、エマルションに界面活性剤を添加すると、加熱工程においてエマルションの安定性が向上するため好ましい。当該界面活性剤添加工程によって加熱工程におけるエマルションが安定であればよいため、当該界面活性剤添加工程では、添加後のエマルション(界面活性剤含有エマルション)の表面張力や添加量が制限されないこと以外は上述の第1の方法の界面活性剤添加工程と同様とすることができる。
【0095】
界面活性剤添加工程では、上述のエマルション準備工程で調製したエマルションに、界面活性剤を添加して攪拌する。このとき添加後のエマルション(界面活性剤含有エマルション)の表面張力は特に制限されないが、25℃における表面張力が40mN/m以下であることが好ましく、35mN/m以下であることがより好ましい。
【0096】
本工程で添加する界面活性剤としては、上述のエマルションに含まれる水性媒体に溶解または混和するものであれば特に制限されず、例えば上述の第1の方法で添加する界面活性剤に加えて、非イオン性界面活性剤も使用することが出来る。使用できる非イオン性界面活性剤は、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物が含む界面活性剤と同様である。
【0097】
本工程では、界面活性剤を1種のみ添加してもよく、2種以上添加してもよい。なお、本工程で添加した界面活性剤のうち、余剰の成分については、必要に応じて、透析、イオン交換樹脂等によって除去してもよい。
【0098】
(加熱工程)
加熱工程では、上述の界面活性剤添加工程で得られた界面活性剤含有エマルションを加熱する。当該加熱工程は、上述の第2の方法の加熱工程と同様とすることができる。
【0099】
また、加熱処理後、界面活性剤含有エマルション中に含まれる余剰の界面活性剤を透析、イオン交換樹脂等によって除去してもよい。例えば透析は、セルロース製の透析膜に加熱処理後の界面活性剤含有エマルションを注入し、透析膜と共に純水で満たされた水槽に浸し、一定時間ごとに水槽の純水を交換することによって行うことができる。
【0100】
(乾燥工程)
乾燥工程では、上記界面活性剤含有エマルションから水性媒体を除去する。乾燥方法は、第1の方法における乾燥工程と同様とすることができる。
【0101】
2.ポリマー分散液
上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物と、分散媒と、を混合したポリマー分散液の形態で、後述の電極層を形成するための電極合剤あるいは電解質層を形成するための電解質合剤に用いることができる。
【0102】
特に、上述のように、フッ化ビニリデン共重合体組成物は、比誘電率が低い分散媒に対する分散性が非常に良好であり、長期間に亘って、安定な状態を維持できる。使用可能な分散媒としては、乾燥によって除去できる媒体で、比誘電率が15以下の分散媒であることが好ましい。
【0103】
ここで、比誘電率が15以下である分散媒は特に限定されないが、例えば、無極性溶媒および低極性溶媒が含まれる。具体的には、炭化水素化合物、エーテル結合を有するエーテル化合物、ケトン基を有するケトン化合物、エステル結合を有するエステル化合物等が挙げられる。脱水処理が容易であるという観点から、エステル化合物が好ましい。
【0104】
炭化水素化合物は炭素原子、水素原子で構成されている化合物であればよく、鎖状構造であっても分岐構造であっても環状構造であってもよい。炭素数は特に制限されず、二重結合、三重結合等の多重結合や、芳香族性の構造を有してもよい。具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、ヘキセン、ヘプテン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、等が挙げられる。
【0105】
エーテル化合物の具体例としては、アルキレングリコールアルキルエーテル(エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等)、ジアルキルエーテル(ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等)、環状エーテル(テトラヒドロフラン、ジオキサン(1,2-、1,3-及び1,4-の各異性体を含む)、モルホリン等)等が挙げられる。
【0106】
ケトン化合物の具体例としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジイソプロピルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、アセトフェノン、イソホロン等が挙げられる。
【0107】
エステル化合物の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸イソペンチル、酢酸ベンジル、酪酸エチル、酪酸プロピル、酪酸ブチル、酪酸イソペンチル、プロピオン酸エチル、ペンタン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、エチレングリコールモノアルキルエーテルアセタート等が挙げられる。
脱水処理が容易であるという観点から、酪酸ブチルが好ましい。
【0108】
また、当該ポリマー分散液における分散媒の量は、ポリマー分散液の用途や、フッ化ビニリデン共重合体組成物の種類等に応じて適宜選択されるが、ポリマー分散液100質量%に対して、50質量%以上99.9質量%以下が好ましく、75質量%以上99.9質量%以下がより好ましい。分散媒の量が上記範囲であると、ポリマー分散液中でのフッ化ビニリデン共重合体組成物の分散性が良好になりやすい。
【0109】
また、当該ポリマー分散液は分散媒とフッ化ビニリデン共重合体組成物の他に溶媒を含んでいてもよい。溶媒の種類は、乾燥によって除去できる媒体であることが好ましく、無極性溶媒および低極性溶媒以外に極性溶媒およびイオン液体も含まれる。
【0110】
溶媒の例には、ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のアミド化合物;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、ラウリルアルコール、トリプロピレングリコール等のアルコール;o-トルイジン、m-トルイジン、p-トルイジン等のアミン化合物;1-エチル-3-メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド;γ-ブチロラクトン、δ-ブチロラクトン等のラクトン;ジメチルスルホキシド、スルホラン等のスルホキシド・スルホン化合物;エチルメチルイミダゾリウム塩、ブチルメチルイミダゾリウム塩等のイオン性液体等が挙げられる。
【0111】
当該ポリマー分散液における溶媒の量は、ポリマー分散液中でのフッ化ビニリデン共重合体組成物の分散性が維持される量であれば特に限定されないが、一例において、10質量%以下が好ましい。
【0112】
3.非水電解質二次電池用電極
上述のポリマー分散液は、各種非水電解質二次電池等の電極の電極層の形成に使用できる。非水電解質二次電池の電極は、例えば、集電体と、当該集電体上に配置された電極層とを含む。このとき、電極層の形成に、上述のポリマー分散液を用いることができる。なお、当該電極は、正極用であってもよく、負極用であってもよい。
【0113】
(1)集電体
負極および正極用の集電体は、電気を取り出すための端子である。集電体の材質としては、特に限定されるものではなく、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス鋼、鋼、ニッケル、チタン等の金属箔あるいは金属網等を用いることができる。また、他の媒体の表面に上記金属箔あるいは金属網等を施したものであってもよい。
【0114】
(2)電極層
電極層は、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物もしくはポリマー分散液と、活物質と、必要に応じて分散媒と、を混合して、電極合剤を調製し、当該電極合剤を集電体上に塗布し、乾燥させた層とすることができる。電極層は、上記集電体の一方の面のみに形成されていてもよく、両方の面に配置されていてもよい。電極合剤中の分散媒は、上述のポリマー分散液で説明したものと同様である。
【0115】
電極層中の成分は、非水電解質二次電池の種類に応じて適宜選択される。例えば上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物と、活物質とを含む層とすることができる。また、全固体電池用の電極の電極層では、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物と、活物質と、固体電解質とを含む層とすることが好ましい。また、電極層は、必要に応じてこれら以外の成分を含んでいてもよい。他の成分の例には、導電助剤、顔料分散剤、接着補助剤、増粘剤等の各種添加剤等が含まれる。
【0116】
電極層の総量に対する、フッ化ビニリデン共重合体組成物の量は、0.1質量%以上50質量%以下が好ましく、0.2質量%以上40質量%以下がより好ましく、0.3質量%以上30質量%以下がさらに好ましい。フッ化ビニリデン共重合体組成物の量が当該範囲であると、電極層中の活物質、固体電解質や他の成分と集電体との接着性が良好になりやすい。
【0117】
電極層が含む活物質は、特に限定されるものではなく、例えば、従来公知の負極用の活物質(負極活物質)または正極用の活物質(正極活物質)を用いることができる。
【0118】
上記負極活物質の例には、人工黒鉛、天然黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、活性炭、又はフェノール樹脂およびピッチ等を焼成炭化したもの等の炭素材料;Cu、Li、Mg、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Bi、Cd、Ag、Zn、Hf、ZrおよびY等の金属・合金材料;ならびにGeO、GeO2、SnO、SnO2、PbO、PbO2等の金属酸化物等が含まれる。また、これら活物質表面にコーティングを施したものも含まれる。なお、負極活物質は、市販品であってもよい。
【0119】
一方、正極活物質の例には、リチウムを含むリチウム系正極活物質が含まれる。リチウム系正極活物質の例には、LiCoO2、LiNixCo1-xO2(0<x≦1)等の一般式LiMY2(Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、およびV等の遷移金属のうち1種または2種以上、Yは、OおよびS等のカルコゲン元素)で表わされる複合金属カルコゲン化合物;LiMn2O4等のスピネル構造をとる複合金属酸化物;およびLiFePO4等のオリビン型リチウム化合物;等が含まれる。また、これら活物質表面にコーティングを施したものも含まれる。なお、正極活物質は、市販品であってもよい。
【0120】
電極層が含む活物質の量は、その種類、電極の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、一例において、活物質、フッ化ビニリデン共重合体組成物、および導電助剤の合計量に対して、50質量%以上99.9質量%以下が好ましい。活物質の量が当該範囲であると、例えば十分な充放電容量が得られ、電池性能が良好になりやすい。
【0121】
また、導電助剤は、活物質同士、または活物質と集電体との間の導電性をより高めることができる化合物であれば特に制限されない。また電極層に他の成分として固体電解質を含む場合、上述に加えて、活物質と固体電解質との間、固体電解質と集電体との間、または固体電解質同士の間の導電性をより高めることができる化合物であれば特に制限されない。導電助剤の例には、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、黒鉛粉末、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、およびカーボンファイバー等が含まれる。
【0122】
電極層が含む導電助剤の量は、その種類、電極の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、その種類や電池の種類に応じて任意に設定できる。導電性の向上および導電助剤の分散性をともに高める観点から、一例において、活物質、フッ化ビニリデン共重合体組成物、および導電助剤の合計量に対して、0.1質量%15質量%以下が好ましく、0.1質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0123】
また、電極合材層が含む固体電解質は、イオン伝導性を有する固形状の化合物であれば特に制限されず、従来公知の無機固体電解質および高分子固体電解質を用いることができる。無機固体電解質としては、例えば、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質、窒化物系固体電解質、錯体水素化物固体電解質等が含まれる。また、高分子固体電解質としては、例えば、ゲル系電解質や真性ポリマー電解質等が含まれる。
【0124】
酸化物系固体電解質としては、これに限定されるものではないが、ペロブスカイト型のLLTO、ガーネット型のLLZ、NASICON型の化合物、LISICON型の化合物、LIPON型の化合物、β-アルミナ型の化合物等が挙げられる。具体例には、Li3PO4、Li0.34La0.51TiO3、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、Li6BaLa2Ta2O12、Li2.9PO3.3N0.46、Li4.3Al0.3Si0.7O4、50Li4SiO4-50Li3BO3、Li2O-Al2O3-SiO2-P2O5-TiO2、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3-0.05Li2O等が含まれる。
【0125】
硫化物系固体電解質としては、Li、A(AはP、Si、Ge、Al及びBのうちの少なくとも一つ)、およびSを含有する固体電解質が含まれ、当該硫化物系固体電解質はハロゲン元素をさらに含有していてもよい。また、LGPS(Li-Ge-P-S)型の化合物、アルジロダイト型の化合物、非晶質系の化合物、Li-P-S系の化合物等も挙げられる。硫化物系固体電解質の具体例には、Li2S-P2S5、Li2S-P2S3、Li2S-P2S3-P2S5、Li2S-SiS2、LiI-Li2S-SiS2、LiI-Li2S-P2S5、LiI-Li2S-P2O5、LiI-Li3PO4-P2S5、LiI-Li2S-SiS2-P2S5、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li3PS4-Li4GeS4、Li3.4P0.6Si0.4S4、Li3.25P0.25Ge0.76S4、Li3.25P0.75Ge0.25S4、Li10GeP2S12、Li4-xGe1-xPxS4、Li6PS5Cl、Li6PS5Br、Li6PS5I等が含まれる。
【0126】
窒化物系固体電解質としては、これに限定されるものではないが、具体的にはLiN3等が挙げられる。
【0127】
錯体水素化物固体電解質としては、これに限定されるものではないが、具体的にはLiBH4等が挙げられる。
【0128】
ゲル系電解質としては、これに限定されるものではないが、具体例にはPoly(ethylene oxide)8-LiClO4(エチレンカーボネート(EC)+プロピレンカーボネート(PC))、Poly(ethylene oxide)8-LiClO4(PC)、Poly(vinylidene fluoride)-LiN(CF3SO2)2(EC+PC)、Poly(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)-LiPF6(EC+ジエチルカーボネート(DEC)+ジメチルカーボネート(DMC))、Poly(ethylene glycol acrylate)-LiClO4(PC)、Poly(acrylonitrile)-LiClO4(EC+PC)、Poly(methyl methacrylate)-LiClO4(PC)等が含まれる。
【0129】
真性ポリマー電解質としては、これに限定されるものではないが、具体例にはPoly(ethylene oxide)8-LiClO4、Poly(oxymethylene)-LiClO4、Poly(propylene oxide)8-LiClO4、Poly(dimethyl siloxane)-LiClO4、Poly(vinylidene fluoride-co-hexafluoropropylene)-LiTFSI、Poly(2,2-dimethoxypropylene carbonate)-LiFSI、Poly[(2-methoxy)ethylglycidyl ether]8-LiClO4等が含まれる。
【0130】
電極層は、上記固体電解質を一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0131】
電極層が固体電解質を含む場合、固体電解質の量は、その種類、電極の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、一例において、活物質、フッ化ビニリデン共重合体組成物、および固体電解質の合計量に対して、1質量%以上99.9質量%以下が好ましい。固体電解質の量が当該範囲であると、十分なイオン伝導性が得られ、電池性能が良好になりやすい。
【0132】
電極層は、上述のように、顔料分散剤、接着補助剤、増粘剤等を含んでいてもよく、これらとして、公知の化合物を用いることができる。これらの量は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、一例において、活物質、フッ化ビニリデン共重合体組成物、およびこれらの合計量に対して、15質量%以下が好ましい。
【0133】
電極層は、リン化合物、硫黄化合物、有機酸、アミン化合物、およびアンモニウム化合物等の窒素化合物;有機エステル、各種シラン系、チタン系およびアルミニウム系のカップリング剤;上述のフッ化ビニリデン共重合体以外のフッ化ビニリデン重合体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、およびポリアクリロニトリル(PAN)等の樹脂;等の添加剤をさらに含んでいてもよい。これらは、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、一例において、活物質、フッ化ビニリデン共重合体組成物、および添加剤の合計量に対して、15質量%以下が好ましい。
【0134】
ここで、電極層の厚みは特に限定されるものではないが、一例において、1μm以上1000μm以下が好ましい。また、電極層に含まれる活物質の目付量は、特に限定されるものではなく、任意の目付量とすることができるが、一例において、50~1000g/m2が好ましく、100~500g/m2がより好ましい。
【0135】
(電極層の形成方法)
上記電極層は、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物もしくはポリマー分散液と、活物質と、必要に応じて固体電解質、分散媒、溶媒、導電助剤や各種添加剤等とを混合した電極合剤を調製する工程と、当該電極合剤を集電体上に塗布する工程と、これを乾燥させる工程と、を行うことで形成できる。
【0136】
上記電極合剤は、全ての成分を一度に混合して調製してもよく、一部の成分を先に混合し、後から残りの成分を混合して調製してもよい。このことき、電極層用合剤の温度が過度に上昇しないように、温調装置を備えた混合機によって混合することが好ましい。
【0137】
また、上記電極合剤中の分散媒および溶媒は、フッ化ビニリデン共重合体組成物と、活物質や固体電解質、導電助剤等とを均一に分散させることが可能であればよい。添加する分散媒の種類は特に限定されないが、上述のポリマー分散液が含む分散媒と同様であることが好ましい。また、溶媒を添加する場合は、上述のポリマー分散液が含む溶媒と同様であることが好ましい。ポリマー分散液中の分散媒およびこれに加える分散媒の合計量は、特に限定されるものではなく、製造上の観点から任意の量とすることができるが、一例において、上述の活物質の量100質量部に対して10質量部以上20000質量部以下が好ましい。ポリマー分散液中の溶媒およびこれに加える溶媒の合計量は、特に限定されるものではなく、製造上の観点から任意の量とすることができるが、一例において、上述の活物質の量100質量部に対して2000質量部以下が好ましい。
【0138】
電極合剤の粘度は、電極合剤を塗工して電極を得るときの液だれ・電極の塗工ムラ・塗工後の乾燥遅延を防止でき、電極作製の作業性や電極の塗布性が良好な粘度であれば特に限定されない。一例において、0.1Pa・s以上100Pa・s以下が好ましい。電極合剤の粘度は、E型粘度計等によって測定される。
【0139】
また、電極合剤の塗布方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法、ダイコート法およびディップコート法等を適用することができる。
【0140】
また、電極合剤の塗布後、任意の温度で加熱し、溶媒(分散媒)を乾燥させる。乾燥温度は、一例において、30℃以上500℃以下が好ましい。乾燥は、異なる温度で複数回行ってもよい。このとき、大気圧下、加圧下、減圧下で乾燥してもよい。乾燥後にさらに熱処理を行ってもよい。
【0141】
上記電極合剤の塗布および乾燥後、さらにプレス処理を行ってもよい。プレス処理を行うことにより、電極密度を向上させることができる。プレス圧力は、一例において、1kPa以上10GPa以下が好ましい。
【0142】
4.非水電解質二次電池用電解質層
上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物もしくはポリマー分散液は、例えば非水電解質二次電池用電解質層の製造にも使用できる。非水電解質二次電池用電解質層(以下、単に「電解質層」とも称する)は、例えば、電解質層のみを含んでいてもよい。上述のポリマー分散液(フッ化ビニリデン共重合体)は、当該電解質層の材料として用いることができる。
【0143】
電解質層は、上述の少なくともフッ化ビニリデン共重合体組成物と電解質を含んでいればよく、必要に応じて他の成分をさらに含んでいてもよい。電解質層は、電極と電解質とを結着するための層であってもよく、各種イオンを伝導させるための層であってもよく、これらの機能を同時に担う層であってもよい。当該電解質層内で、上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、粒子状であってもよく、膜状(多孔質膜を含む)であってもよく、ゲル状であってもよい。
【0144】
全固体電池は、例えば、一対の電極(いずれも集電体および電極層を有する)間に電解質層が挟み込まれた構造を有する。上述のポリマー分散液は、このような全固体電池の電解質層の形成にも使用できる。
【0145】
電解質層は、例えばフッ化ビニリデン共重合体組成物もしくはポリマー分散液と、固体電解質と、必要に応じて分散媒と、任意で他の成分と、を含む電解質合剤を調製し、これを基材上に塗布し、乾燥させた層であってもよい。このとき、乾燥させた層を基材から剥がした層であってもよい。また、上記電極上に、直接上記電解質合剤を塗布し、乾燥させた層であってもよい。
【0146】
なお、電解質層が含む固体電解質は、上述の電極の電極層についての説明中に記載したものと同様の化合物を使用できる。電解質層の総量に対する、固体電解質の量は、その種類、電解質層の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、一例において、電解質層の総量に対して10質量%以上99.9質量%以下が好ましい。
【0147】
さらに、電解質層は上述のフッ化ビニリデン共重合体および上述の固体電解質以外の成分を含んでいてもよく、その例には、顔料分散剤、接着補助剤、増粘剤、フィラーや各種添加剤などが含まれる。なお、顔料分散剤、接着補助剤、増粘剤は公知の化合物を用いることができ、電極層が含む添加剤と同じであってもよい。また、これらの量は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、一例において、電解質層の総量に対して0.1質量%以上90質量%以下が好ましい。
【0148】
電解質層が含むフィラーは無機フィラーであってもよく、有機フィラーであってもよい。無機フィラーの例には、二酸化ケイ素(SiO2)、アルミナ(Al2O3)、二酸化チタン(TiO2)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化バリウム(BaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸バリウム(BaTiO3)等の酸化物;水酸化マグネシウム(Mg(OH)2)、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、水酸化亜鉛(Zn(OH)2)水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、水酸化酸化アルミニウム(AlO(OH))等の水酸化物;炭酸カルシウム(CaCO3)等の炭酸塩;硫酸バリウム等の硫酸塩;窒化物;粘土鉱物;およびベーマイト等が含まれる。フィラーは一種のみ含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。また、これらの量は、本発明の目的および効果を損なわない範囲であれば特に制限されないが、一例において、電解質層の総量に対して0.1質量%以上90質量%以下が好ましい。
【0149】
電解質層の厚みは、電解質層の機能に応じて適宜選択され、特に限定されるものではないが、一例において、1μm以上1000μm以下が好ましい。
【0150】
電解質層の総量に対する、フッ化ビニリデン共重合体組成物の量は、その種類、電解質層の機能、電池の種類等に応じて適宜選択され、特に制限されるものではないが、一例において、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0151】
なお、電解質層の形成方法は特に制限されず、上述のように、電解質合剤を塗布し、乾燥させて形成できる。電解質合剤の塗布方法や乾燥方法は、電極層の形成方法と同様である。また、電解質合剤として、固体電解質に上述のポリマー分散液をそのまま混合してもよく、必要に応じてさらに分散媒や溶媒を添加してもよい。電解質層の形成に用いる分散媒は特に限定されないが、上述のポリマー分散液が含む分散媒と同様であることが好ましい。
【0152】
5.非水電解質二次電池
上述のフッ化ビニリデン共重合体組成物もしくはポリマー分散液は、上述のように、全固体電池を含む各種非水電解質二次電池等の電極や、電解質層に使用可能であるが、非水電解質二次電池の他の層の形成に使用してもよい。
【実施例】
【0153】
以下において、実施例を参照して本発明をより詳細に説明する。これらの実施例によって、本発明の範囲は限定して解釈されない。
【0154】
<エマルションの調製>
(1)エマルション1の調製
オートクレーブにイオン交換水280質量部を入れ、30分間の窒素バブリングによって脱気を行った。次に、リン酸水素二ナトリウム0.2質量部、およびパーフルオロオクタン酸アンモニウム塩(PFOA)1.0質量部を仕込み、4.5MPaまで加圧して窒素置換を3回行った。その後、酢酸エチル0.1質量部、フッ化ビニリデン(VDF)11質量部、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)24質量部を上記オートクレーブ中に添加した。撹拌しながら80℃まで昇温させた。そして、5質量%過硫酸アンモニウム(APS)水溶液を、APS量が0.06質量部となるように添加し、重合を開始させた。缶内圧力が2.5MPaで維持されるように重合開始直後にVDF65質量部を連続的に添加した。添加終了後、1.5MPaまで圧力が降下したところで重合を完了とし、40℃以下に冷却した後、残留モノマーをオートクレーブからパージして除去し、未処理フッ化ビニリデン共重合体が水に分散されたエマルション1を得た。当該エマルション1の固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は21.0質量%であった。また、凍結乾燥によって未処理フッ化ビニリデン共重合体を取り出し、後述の方法に基づき当該フッ化ビニリデン共重合体の185℃以下にみられる吸熱ピークのエンドセットを測定したところ、132℃であった。
【0155】
(エンドセットの特定方法)
まず、エマルションを凍結乾燥し、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体を得た。次に、剥離剤を噴霧した2枚のアルミ箔の間に、縦5cm×横5cm×厚み150μmの鋳型と、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体約1gとを挟み、200℃でプレスしてフィルムを作製した。そして、示差走査熱量計(METTLER社製「DSC-1」)を用いてASTM D3418に準拠して測定し、フッ化ビニリデン共重合体のヒートフローを得た。得られたヒートフローにおいて、185℃以下にみられるフッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち、最も高温のピークトップよりも高温側の温度域で直線状のヒートフローと重なるようにベースラインを直線状に引いた。そして、185℃以下にみられるフッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち、最も高温のピークトップより高温側の温度域で、かつ、ヒートフローとベースラインとが重なる温度の最小温度より低温側の温度域において、ヒートフローに接線を引き、その接線とベースラインとの交点を、フッ化ビニリデン共重合体のエンドセットとした。
【0156】
(2)エマルション2の調製
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を11質量部から15質量部に変更し、HFPの量を24質量部から20質量部に変更した以外はエマルション1の調製と同様に重合し、未処理フッ化ビニリデン共重合体が水に分散されたエマルション2を得た。当該エマルション2の固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は20.8質量%であった。また、エマルション1と同様の方法で特定した当該未処理フッ化ビニリデン共重合体の185℃以下にみられるフッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち最も高温のピークのエンドセットは、134℃であった。
【0157】
(3)エマルション3の調製
重合開始前に、オートクレーブ中に一括添加するVDFの量を11質量部から25質量部に変更し、HFPの量を24質量部から10質量部に変更した以外はエマルション1の調製と同様に重合し、未処理フッ化ビニリデン共重合体が水に分散されたエマルション3を得た。当該エマルション3の固形分濃度(フッ化ビニリデン共重合体の濃度)は21.3質量%であった。またエマルション1と同様の方法で特定した未処理フッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち最も高温のピークのエンドセットは、152℃であった。
【0158】
<実施例1>
オートクレーブにエマルション1を入れ、さらにエマルション中の水に対するドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の濃度が1質量%となるようにSDSを入れて界面活性剤含有エマルションを得た。このとき、界面活性剤含有エマルションの25℃における表面張力を測定した。結果を表1に示す。
【0159】
そして、500rpmで攪拌しながら上記エンドセットより低い温度である125℃で、1時間加熱した。その後、攪拌を継続したまま缶内温度が40℃以下になるまで室温(24℃)下で空冷した。また、当該エマルションを凍結乾燥し、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は174μmであった。このとき凍結乾燥品は、重合後のエマルションを液体窒素で凍結させ室温下で減圧乾燥させることで得た。
【0160】
<実施例2>
エマルション1中の水に対するSDSの濃度を1質量%から0.5質量%に変更した以外は実施例1と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は141μmであった。
【0161】
<実施例3>
エマルション1に添加する界面活性剤をSDSからエマルゲンLS-110(花王社製、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル)に変更した以外は実施例2と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は197μmであった。
【0162】
<実施例4>
エマルション1に添加する界面活性剤をSDSからPFOA(ペルフルオロオクタン酸)に変更した以外は実施例2と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は163μmであった。
【0163】
<実施例5>
エマルション1の加熱温度を125℃から95℃に変更した以外は実施例2と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は391μmであった。
【0164】
<実施例6>
エマルション1の加熱温度を125℃から75℃に変更した以外は実施例2と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は364μmであった。
【0165】
<実施例7>
エマルション1中の水に対するSDSの濃度を0.5質量%から0質量%に変更した以外は実施例2と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は173μmであった。
【0166】
<実施例8>
エマルション1中の水に対するSDSの濃度を0.5質量%から0質量%に変更した以外は実施例6と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は424μmであった。
【0167】
<実施例9>
オートクレーブに入れるエマルションをエマルション1からエマルション2に変更し、界面活性剤を添加した後のエマルション(界面活性剤含有エマルション)の加熱温度を125℃から130℃に変更した以外は実施例2と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は52μmであった。
【0168】
<実施例10>
オートクレーブにエマルション1を入れ、さらにエマルション中の水に対するPFOAの濃度が0.5質量%となるようにPFOAを入れた。そして、室温(24℃)下、500rpmで攪拌することでエマルションにPFOAを溶解させた。当該エマルションを凍結乾燥し、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は160μmであった。
【0169】
<実施例11>
オートクレーブにエマルション1を入れ、さらにエマルション中の水に対するSDSの濃度が1質量%となるようにSDSを入れ、室温(24℃)下、500rpmで攪拌することでエマルションにSDSを溶解させた。当該エマルションを凍結乾燥し、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は148μmであった。
【0170】
<実施例12>
エマルション中の水に対するSDSの濃度を1質量%から0.5質量%に変更した以外は実施例11と同様に溶解および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は126μmであった。
【0171】
<実施例13>
エマルション中の水に対するPFOAの濃度を0.5質量%から1質量%に変更した以外は実施例10と同様に溶解および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は219μmであった。
【0172】
<実施例14>
エマルション中の水に対するPFOAの濃度を0.5質量%から0.1質量%に変更した以外は実施例10と同様に溶解および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は178μmであった。
【0173】
<実施例15>
オートクレーブにエマルション1を入れ、さらにエマルション中の水に対するアセタミン86の濃度が0.05質量%となるようにアセタミン86(花王社製、ステアリルアミンアセテート)を入れ、室温(24℃)下、500rpmで攪拌することでエマルションにアセタミン86を溶解させた。当該エマルションを凍結乾燥し、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は821μmであった。
【0174】
<比較例1>
エマルション1を凍結乾燥し、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は215μmであった。
【0175】
<比較例2>
実施例11で得られた粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を125℃、1時間熱処理することで、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該フッ化ビニリデン共重合体組成物は凝集が激しいため、平均二次粒子径は測定不可であった。
【0176】
<比較例3>
比較例1で得られた粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を125℃、1時間熱処理することで、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該フッ化ビニリデン共重合体組成物は凝集が激しいため、平均二次粒子径は測定不可であった。
【0177】
<比較例4>
エマルションに入れる界面活性剤をPFOAからエマルゲンLS-110に変更した以外は実施例10と同様に溶解および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は127μmであった。
【0178】
<比較例5>
オートクレーブに入れるエマルションをエマルション1からエマルション3に変更し、エマルションの加熱温度を125℃から150℃に変更した以外は実施例2と同様に熱処理および凍結乾燥を行い、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は39μmであった。
【0179】
<比較例6>
比較例1で得られた粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物に、凍結乾燥前のエマルション中の水に対して、1質量%となる量のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を入れ、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得た。当該粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は215μmであった。
【0180】
<比較例7>
エマルション1の加熱温度を125℃から180℃に変更した以外は実施例2と同様に熱処理を行った。当該加熱工程によって、分散安定性のあるエマルションとして回収できなかったため、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得られなかった。
【0181】
<比較例8>
エマルション1の加熱温度を125℃から180℃に変更した以外は実施例7と同様に熱処理を行った。当該加熱工程によって分散安定性のあるエマルションとして回収できなかったため、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物を得られなかった。
【0182】
<各種物性の測定方法>
上記フッ化ビニリデン共重合体組成物や、エマルション等の物性は、それぞれ、以下のように測定した。
【0183】
・各エマルションの固形分濃度測定
得られたエマルション約5gをアルミ製のカップに入れ、80℃で3時間乾燥させた。そして、乾燥前後の重量を測定することで、エマルション中のフッ化ビニリデン共重合体の濃度(固形分濃度)を算出した。
【0184】
・フッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径測定
フッ化ビニリデン共重合体組成物の平均二次粒子径は、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物について、レーザー回折・散乱法にて体積基準で測定し、その粒度分布の累積平均径(D50)を算出した。具体的には、マイクロトラック・ベル社製 Microtrac MT3300EXIIを使用し、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物約0.5mgを撹拌によって水中に分散させ、測定用試料とした。測定媒体は水とし、媒体屈折率は1.333、粒子形状は非球形、粒子屈折率は1.42、測定時間30秒とし、透過モードで5回測定した時のD50の平均値を平均二次粒子径とした。
【0185】
・フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点測定
フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点は、以下の方法で作製されるフィルムの形態で測定した。まず、剥離剤を噴霧した2枚のアルミ箔の間に、縦5cm×横5cm×厚み150μmの鋳型と、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物約1gとを挟み、200℃でプレスし、プレスフィルムを得た。そして、示差走査熱量計(METTLER社製「DSC-1」)を用いてASTM D3418に準拠して融点を測定した。
【0186】
・温度変調示差走査熱量測定
フッ化ビニリデン共重合体組成物のリバーシングヒートフロー(RHF)のピークトップおよび融解エンタルピーは、温度変調示差走査熱量計(Q-100、TAインスツルメンツ社製)を用いて測定した。具体的には、凍結乾燥により粉体化したフッ化ビニリデン共重合体組成物約5mgをアルミニウムパンに詰め、測定用サンプルとした。測定条件はヒートオンリー条件となるように、平均昇温速度5℃/min、モジュレイション周期40秒、モジュレイション振幅±0.531℃とした。得られたリバーシングヒートフローは下に凸の吸熱ピークを有していた。得られたリバーシングヒートフローにおいて、エンドセットより高温側の直線状のヒートフローと重なるようにベースラインを直線状に引いた。そして、リバーシングヒートフローの下に凸な吸熱ピークのうち、当該ベースラインからリバーシングヒートフローに向けて、垂直に線を引いたとき、リバーシングヒートフロー上であって、当該ベースラインから最も距離が遠い点を吸熱ピークのピークトップとし、当該ピークトップの温度を特定した。また、リバーシングヒートフローの下に凸な吸熱ピークの極小値の数を吸熱ピークのピークトップの数とした。一方で、当該ベースラインとリバーシングヒートフローとに囲まれた領域を融解エンタルピー量(ΔHm)とした。
【0187】
・エマルションの表面張力測定
エマルション(エマルションに界面活性剤を添加する場合は、エマルションに界面活性剤を添加した後のエマルション)の表面張力はWilhelmy法を用いて表面張力計(Sigma701/700、KSV instruments社製)によって測定した。測定には白金プレートを使用し、25℃における表面張力を3回測定したときの平均値を表面張力の値とした。
【0188】
・フッ化ビニリデン共重合体組成物の酪酸ブチル分散液の上澄みのフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率測定
まず、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物2gを18gの酪酸ブチルに添加し、25℃のスターラー上で30分撹拌し、フッ化ビニリデン共重合体組成物の酪酸ブチル分散液(フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率10質量%)を調製した。当該分散液20mLを20mLメスシリンダーに入れ、パラフィルムで蓋をして20時間静置した。メスシリンダーの上澄みから4mLをピペットで採取し、アルミカップに入れ、135℃、1時間乾燥させ、これをデシケータ内で1時間放冷した。そして、乾燥前後の重量を測定することで、フッ化ビニリデン共重合体組成物の酪酸ブチル分散液の上澄みのフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率を特定した。
【0189】
・濁度
フッ化ビニリデン共重合体組成物を酪酸ブチルに分散させた分散液の濁度は、以下の方法で測定した。まず、粉体状のフッ化ビニリデン共重合体組成物2gを18gの酪酸ブチルに添加し、25℃のスターラー上で30分撹拌し、フッ化ビニリデン共重合体組成物の酪酸ブチル分散液(フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率10質量%)を調製した。そして、当該サンプルを20時間静置した後再攪拌した当該分散液の濁度を、日本電色工業製のNDH2000(JIS K 7136に準拠)で測定した。なお、サンプルは石英セルに入れた。また、酪酸ブチルの濁度を0%とし、サンプルの濁度を算出した。
【0190】
【0191】
【0192】
上記表2に示すように、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃以下であり、フッ化ビニリデン共重合体組成物が、リバーシングヒートフローにおいて融解エンタルピー量(ΔHm)が2mJ/g吸熱ピークを有し、かつ最大吸熱ピーク温度(最も大きい吸熱ピークのピークトップ温度)と、組成物の融点との差の絶対値が10℃以下であり、かつフッ化ビニリデン共重合体組成物を酪酸ブチルに分散させた分散液(フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率10質量%)の20時間静置後の上部のフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有率が4.0質量%以上10質量%以下である場合には、フッ化ビニリデン共重合体組成物の分散性が良好となった(実施例1~15)。
【0193】
これに対し、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃を超える場合には、酪酸ブチル中で非常に沈降しやすかった(比較例5)。さらに、フッ化ビニリデン共重合体組成物のリバーシングヒートフローにおける融解エンタルピー量(ΔHm)が2mJ/gの最大吸熱ピーク温度(最も大きい吸熱ピークのピークトップ温度)と、組成物の融点との差の絶対値が10℃を超える場合には、凝集が激しかった(比較例2および3)。さらに、フッ化ビニリデン共重合体組成物を酪酸ブチルに分散させた分散液(フッ化ビニリデン共重合体組成物の含有量:10質量%)の20時間静置後の上部のフッ化ビニリデン共重合体組成物の含有量が4.0質量%以上10質量%を超える場合には、いずれも分散性が低かった(比較例1~8)。
【0194】
また、表1に示すように、フッ化ビニリデン共重合体のエマルション(共重合体分散液)に界面活性剤を一定量添加する、もしくは当該エマルションを加熱することによって、所望の物性を有するフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られた(実施例1~15)。これに対し、フッ化ビニリデン共重合体のエマルションに界面活性剤を添加せず、さらには当該エマルションを加熱しなかった場合には、当該フッ化ビニリデン共重合体組成物が酪酸ブチル中で沈降しやすかった(比較例1)。
【0195】
さらに、エマルションに対する界面活性剤の添加の有無にかかわらず、フッ化ビニリデン共重合体組成物を粉体状にしてから加熱を行った場合、フッ化ビニリデン共重合体組成物が酪酸ブチル中で沈降しやすかった(比較例2および3)。
【0196】
さらに、イオン系でない界面活性剤(非イオン系界面活性剤)をエマルションに添加し、エマルションの加熱を行わなかった場合にも、フッ化ビニリデン共重合体組成物が酪酸ブチル中で沈降しやすかった(比較例4)。
【0197】
さらに、フッ化ビニリデン共重合体組成物を粉体状にしてから界面活性剤を添加した場合、フッ化ビニリデン共重合体組成物が酪酸ブチル中で沈降しやすかった(比較例6)。
【0198】
さらに、フッ化ビニリデン共重合体組成物の融点が140℃を超えると、エマルションに界面活性剤を添加したり、界面活性剤含有エマルションを加熱したりしても、所望の物性を有するフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られなかった(比較例5)。
【0199】
また、フッ化ビニリデン共重合体のエマルションを、当該エマルション中のフッ化ビニリデン共重合体のヒートフローを示唆走査熱量計で測定したときに185℃以下にみられるフッ化ビニリデン共重合体の吸熱ピークのうち最も高温のピークのエンドセットより高い温度で加熱すると、エマルションに界面活性剤を添加してもしていなくても、所望の物性を有するフッ化ビニリデン共重合体組成物が得られなかった(比較例7、8)。
【0200】
本出願は、2020年11月30日出願の特願2020-198148号に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0201】
本発明のフッ化ビニリデン共重合体組成物は、比誘電率の低い分散媒に分散しやすく、さらに当該分散液を長時間保管しても沈降し難い。したがって、非水電解質二次電池用の電極層や電解質層の作製等に非常に有用である。