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特許7551793鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法
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  • 特許-鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法 図1
  • 特許-鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法 図2A
  • 特許-鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法 図2B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/128 20060101AFI20240909BHJP
   B22D 11/12 20060101ALI20240909BHJP
   C22C 38/04 20060101ALI20240909BHJP
   C22C 38/12 20060101ALI20240909BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240909BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240909BHJP
   B22D 11/22 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
B22D11/128 350A
B22D11/12 A
C22C38/04
C22C38/12
C22C38/00 301A
C21D9/00 101N
B22D11/22 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022580040
(86)(22)【出願日】2021-06-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-07-27
(86)【国際出願番号】 CN2021102402
(87)【国際公開番号】W WO2021259375
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】202010592866.1
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514216801
【氏名又は名称】バオシャン アイアン アンド スティール カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ワン, インチュン
(72)【発明者】
【氏名】シュ, グオドン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, ジュン
(72)【発明者】
【氏名】グオ, リャンリャン
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-060424(JP,A)
【文献】特開2007-160341(JP,A)
【文献】特開2008-183608(JP,A)
【文献】特開2018-099706(JP,A)
【文献】特開2018-034197(JP,A)
【文献】特開平07-227658(JP,A)
【文献】特開2016-022531(JP,A)
【文献】特開昭55-042109(JP,A)
【文献】実開昭57-116364(JP,U)
【文献】特開2018-114531(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00
C22C 38/00
C21D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のステップ:
(1)冶金連続鋳造の際に、連続鋳造機の出口に鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置および圧下装置を順次配置するステップ;
(2)冶金連続鋳造の製造において、上記鋳造機の水平部で鋳造スラブの表面を0.1~12℃/sの冷却速度で急速に冷却して、上記鋳造スラブの表面温度を下げ、その後、上記鋳造スラブのコーナー部を上記電磁誘導加熱装置により誘導加熱して、コーナー部温度を上げ、それにより、上記鋳造スラブのコーナー部温度を広面温度以上となるように上げるステップであって、上記鋳造スラブの表面への冷却の冷却強度が鋼種によって異なり、断面収縮率が40%を超える低炭素鋼に対しては、温度が400~900℃になるまで急速に冷却され断面収縮率が40%以下の鋼種に対しては、上記鋳造スラブの表面温度600~1000℃に制御される、ステップ;および
(3)最後に、上記鋳造スラブが完全に凝固した状態で上記鋳造スラブに対して10~50mmの圧下を施すステップ
を含む、鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項2】
上記鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置が上記鋳造機の出口に設置され、上記鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置が、台車に固定されたC型フレームを採用し、上記台車が、異なる幅のスラブに合わせるために横方向に移動できる、請求項1に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項3】
上記圧下装置が上記コーナー部加熱装置の後ろに設置され、上記圧下装置が、上ロールおよび下ロールを備える2ロール構造を有するシングルスタンドの形態であり、ロール径が500~1200mmであり、圧下力が1000~3000tである、請求項1に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項4】
上記断面収縮率が40%を超える低炭素鋼が、炭素当量CEが0<CE<0.08%の範囲にある鋼種であり、CE=C-0.14Si+0.04Mnである、請求項1に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項5】
上記断面収縮率が40%を超える低炭素鋼が、パイプライン鋼または構造用鋼である、請求項4に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項6】
上記断面収縮率が40%以下の鋼種が、炭素当量CEが0.08%~0.18%の範囲にある鋼種であり、CE=C-0.14Si+0.04Mnである、請求項1に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項7】
上記断面収縮率が40%以下の鋼種が、0.01質量%以上のNb、0.01質量%以上のV、0.01質量%以上のTi、および0.001質量%以上のBから選択される1つまたは複数の元素を含むマイクロアロイ鋼である、請求項1に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項8】
上記鋳造スラブの表面を冷却する前の上記鋳造スラブの表面温度が700~1100℃であり、上記コーナー部温度が上記表面温度より50~200℃低い、請求項1に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項9】
上記鋳造スラブの表面への冷却の冷却強度が鋼種によって異なり、上記断面収縮率が40%を超える低炭素鋼に対しては、上記冷却速度が1~12℃/sであり、上記温度が400~900℃になるまで冷却することで、上記鋳造スラブの表面と中心との温度差が400~1000℃となるようにし、上記断面収縮率が40%以下の鋼種に対しては、上記冷却速度が0.1~10℃/sであり、上記鋳造スラブの表面温度を600~1000℃に制御することで、上記鋳造スラブの表面と中心との温度差が200~900℃となるようにする、請求項1に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【請求項10】
ステップ(2)において、上記鋳造スラブのコーナー部温度が上記鋳造スラブの表面温度より100℃を超えて高くならないように、上記鋳造スラブのコーナー部が誘導加熱される、請求項1に記載の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連続鋳造の技術分野に属し、特に、鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法に属する。
【背景技術】
【0002】
冶金連続鋳造の製造工程において、鋳造スラブの内部品質および外部品質は、冶金作業者にとって大きな関心事である。鋳造スラブの内部品質の問題は、主に、不均一組成、多孔質(looseness)、収縮孔、割れなどの欠陥に現れ、外部品質の問題は、スラグ巻き込み、割れなどの欠陥に現れ、その後の圧延製品に受け継がれることになる。したがって、鋳造スラブについて優れた内部組織および外部組織を有する製品を製造することが望まれている。これらの内部欠陥は、一方では、溶鋼が凝固末期に自然収縮することに起因し、他方では、大きい断面、鋳造温度、冷却システム、およびロール開度などの連続鋳造工程に関するパラメータ設定に起因する。これらの欠陥は、既存の連続鋳造機の設計および製造方法によって決まり、防ぐことが困難である。鋳造スラブの内部品質の欠陥を改善するための現在の方法は、主に、低温鋳造、電磁撹拌、および軽圧下であるが、これらの手段では、鋳造スラブの中心の多孔質を改善できず、これらの多孔性欠陥は、鋳造スラブの液芯が固体状態に近づくと発生し、上記の方法は、凝固後期で発生する鋳造スラブの収縮および多孔質に対して決定的な役割を果たすことはできない。鋳造スラブの圧延に起因する割れは、一部は、連続鋳造工程に起因し、一部は、高温搬送工程における不適切な温度制御に起因する。
【0003】
特許文献1には、セグメントの一対の支持ロールを用いて、鋳造スラブに対して圧下を行い、短時間に一点で重圧下を行う単点重圧下方法が言及されている。この方法は、高変形速度の重圧下方法に属し、鋳造スラブの中心の多孔質の問題を解決するのに良好な効果を有するが、圧下距離が短いため、偏析の問題を解決するのには不十分である。特許文献2および特許文献3には、ビレットおよび広幅で厚いスラブに対して軽圧下および重圧下を行うことによる鋳造スラブの偏析および多孔質の問題を、複数のセグメントを採用して長い距離の範囲にわたって鋳造スラブに対して圧下を行うことにより解決する2段階の連続鋳造重圧下方法が言及されている。そのような方法は、変形速度が低く、低変形速度の変形方法に属し、製品の仕様および鋼種にある一定の制限があり、鋳造スラブの偏析の問題を解決するのに良好な効果を有するが、より厚さのある鋳造スラブの多孔質の問題を解決するのには効果が劣る。
【0004】
特許文献4および特許文献5には、連続鋳造スラブの凝固末端で重圧下を行うための連続鋳造機セグメントおよび重圧下方法が提案されている。その特徴は、大きい径の駆動ロールをセグメントの中央に配置することであり、これは、大きいロール径の圧延装置の圧延パス変形に相当し、連続鋳造スラブの中心領域の多孔質の改善にさらに貢献するものであるが、セグメントの中央にある大きいロールは、セグメントの入口シリンダから一定の距離があるため、この方法は圧下量を制限する。
【0005】
上記の特許分析からわかるように、現在のところ、重圧下についての技術的方針は主に2つある。一つの技術的方針は、1つのセグメントまたは複数のセグメントを採用して、長い距離にわたって一定量の圧下を行うことであり、その圧下領域は鋳造スラブの二相領域であり、偏析の問題を解決することに重点を置いている。もう一つの技術的方針は、単一のロールを採用して、一点で一定量の圧下を行うことであり、その圧下領域は、鋳造スラブが凝固の終点に近いまたは完全に凝固したときであり、多孔質の問題を解決することに重点を置いている。鋳造スラブの圧下により多孔質を解決するための前提条件は、圧下変形を鋳造スラブの中心に伝達し、それにより中心多孔質を除去することである。しかしながら、圧下工程は、往々にして、鋳造スラブに割れを発生させる傾向がある。それと同時に、圧下工程中に鋳造スラブにおいて圧下割れが形成されるのを、特に比較的温度が低い鋳造スラブのコーナー部で、防ぐ必要があり、変形が大きいと、鋳造スラブにおいてコーナー部割れが形成される原因となり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】中国特許出願公開第106735026号明細書
【文献】中国特許出願公開第106001476号明細書
【文献】中国特許第102921914号明細書
【文献】中国特許第104057049号明細書
【文献】中国特許出願公開第104858383号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、鋳造スラブの中心での圧下変形を改善するだけでなく、鋳造スラブの表層組織を制御して、熱間圧延により発生する鋳造スラブの表面割れを減少させることもできる、鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願人は、多孔質の問題は、鋳造スラブの圧下変形によって解決できるが、割れが、鋳造スラブ、特に鋳造スラブのコーナー部に形成されやすいことを見出した。検討の結果、鋳造スラブのコーナー部温度は、鋳造スラブの表面温度より低く、したがって、圧下工程中、鋳造スラブの変形は鋳造スラブのコーナー部および縁部で主に発生し、その抵抗は非常に大きいので、大きな変形量により、鋳造スラブのコーナー部に割れが非常に発生しやすいことを見出した。
【0009】
このため、本発明の技術的解決手段は下記の通りである。
【0010】
下記のステップ:
(1)冶金連続鋳造の際に、連続鋳造機の出口に鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置および圧下装置を順次配置するステップ;
(2)冶金連続鋳造の製造において、上記鋳造機の水平部で鋳造スラブの表面を0.1~12℃/sの冷却速度で急速に冷却して、上記鋳造スラブの表面温度を下げ、その後、上記鋳造スラブのコーナー部を上記電磁誘導加熱装置により誘導加熱して、コーナー部温度を上げ、それにより、上記鋳造スラブのコーナー部温度を広面温度以上となるように上げるステップであって、上記鋳造スラブの表面への冷却の冷却強度が鋼種によって異なり、塑性が良好な低炭素鋼に対しては、温度が400~900℃になるまで急速に冷却でき、割れ感受性が高い鋼に対しては、上記鋳造スラブの表面温度を600~1000℃に制御できる、ステップ;および
(3)最後に、上記鋳造スラブが完全に凝固した状態で上記鋳造スラブに対して10~50mmの圧下を施すステップ
を含む、鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法。
【0011】
広面温度とは、鋳造スラブの表面温度である。語句「鋳造スラブの表面」とは、鋳造スラブの厚さが10mm未満である部分を指す。本発明の塑性が良好な鋼種とは、断面収縮率が40%を超える鋼種を指し、本発明の割れ感受性が高い鋼種とは、断面収縮率が40%以下の鋼種である。また、冶金連続鋳造の製造において、鋳造機の水平部で鋳造スラブの表面は2~12℃/sの冷却速度で冷却される。
【0012】
本発明の一実施形態として、本発明の鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法は、下記のステップ:
(1)冶金連続鋳造の際に、連続鋳造機の出口に鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置および圧下装置を順次配置するステップ;
(2)冶金連続鋳造の製造において、鋳造機の水平部で鋳造スラブの表面を0.1~12℃/sの冷却速度で冷却して、鋳造スラブの表面温度を下げることで、炭素当量CEが0<CE<0.08%の範囲にある鋼種に対しては、鋳造スラブの表面温度を400~900℃に制御するか、または炭素当量CEが0.08%~0.18%の範囲にある鋼種に対しては、鋳造スラブの表面温度を600~1000℃に制御し、その後、鋳造スラブコーナー部加熱装置により鋳造スラブのコーナー部を加熱して、鋳造スラブのコーナー部温度を上げることで、鋳造スラブのコーナー部温度が鋳造スラブの表面温度より低くないようにするステップであって、CE=C-0.14Si+0.04Mnであるステップ;および
(3)最後に、鋳造スラブが完全に凝固した状態において、鋳造スラブの制御された表面温度で10~50mmの圧下量で鋳造スラブに対して圧下を行うステップ
を含む。
【0013】
本発明のスラブの冷却および圧下方法は、鋼が製錬された後の連続鋳造の工程で行われ、鋳造スラブの表面に対する冷却は、鋳造機の水平部において行われる。本発明の方法では、鋳造スラブの内部と外部との温度差を大きくするように、鋳造スラブの水平部において鋳造スラブの表面温度が冷却水を用いて制御され、その後、鋳造スラブの中心への圧下変形の効果的な伝達を実現するように、鋳造スラブは鋳造機の出口で圧下を受ける。そのような方法は、鋳造スラブの中心の品質を改善するために非常に効果的であることが、工業試験によって証明されている。上述した炭素当量の計算式では、式中の各化学元素に、該化学元素の質量パーセント含量が代入される。例えば、Cが0.12%であり、Siが0.3%であり、Mnが1.5%である組成を有する包晶合金鋼船舶用鋼板については、鋼の炭素当量CEは、CE=0.12%-0.14×0.3%+0.04×1.5%=0.138%と算出される。本発明によれば、第一のタイプの鋼種は、炭素当量CEが0<CE<0.08%の範囲にあるものであり、このタイプの鋼種の炭素当量は、0~0.08%の間であり、0および0.08%を除く。第二のタイプの鋼種は、炭素当量CEが0.08%~0.18%の間にあるものであり、このタイプの鋼種の炭素当量は、0.08%~0.18%の間であり、0.08%および0.18%を包含する。
【0014】
圧下工程中に温度が低い鋳造スラブのコーナー部でコーナー部割れが形成されるのを防ぐために、鋳造スラブのコーナー部温度を上げるように、鋳造機を出た後の鋳造スラブのコーナー部の位置に加熱装置が設置される。本方法は、製品の表面品質および内部品質の両方を改善するのに役立つ。鋳造機の水平部において鋳造スラブの表面を冷却することにより、鋳造スラブの表面温度は下げられ、要求される温度範囲内に制御されるが、一方で、鋳造スラブのコーナー部温度はより一層下げられ、その結果、コーナー部温度がはるかに低くなる。本発明によれば、鋳造スラブのコーナー部を加熱することにより、鋳造スラブのコーナー部温度は、鋳造スラブの冷却された表面の温度より低くはない。すなわち、鋳造スラブのコーナー部を加熱することにより、鋳造スラブのコーナー部温度は、鋳造スラブの表面温度と等しいか、または好適には、鋳造スラブの表面温度より高い。検討の結果、鋳造スラブのコーナー部温度が鋳造スラブの表面温度より100℃を超えて高くならないように鋳造スラブのコーナー部を加熱することにより、コーナー部割れを防ぐことができるとともに、不必要なエネルギー消費を減少できることも見出した。
【0015】
好ましくは、鋳造機の水平部において鋳造スラブの表面を冷却することにより、鋳造スラブの表面温度は、オーステナイトからフェライトへの相変態温度未満まで下げることができる。より具体的には、塑性が良好な低炭素鋼に対しては、鋳造スラブの表面温度は、400~900℃(400℃および900℃を包含する)まで冷却される。割れ感受性が高い鋼種に対しては、鋳造スラブの表面温度は、600~1000℃(600℃および1000℃を包含する)まで冷却される。このようにして、鋳造スラブの表面は相変態を経て、フェライトを形成し得る。連続鋳造の後、それに続く処理は、一般に、鋳造スラブに対して行われる。例えば、圧延および加熱の後、鋳造スラブの表面は再び相変態を経て、鋳造スラブの表面温度はオーステナイト温度を超える温度に戻る。鋳造スラブの表層組織の周期的な相変態を通じて、鋳造スラブの表面結晶粒を微細化し、鋳造スラブの塑性を向上させ、圧延割れの発生率を減少させ、鋳造スラブの表面品質を改善することができる。本発明の技術的解決手段では、鋳造スラブの表面温度は冷却されて、オーステナイトからフェライトへの相変態温度未満とされ、それと同時に、異なる鋼種、すなわち塑性が良好な低炭素鋼および割れ感受性が高い鋼種に対して、鋳造スラブの表面は、それぞれ400~900℃および600~1000℃までさらに下げられて、割れの発生を防ぐ。冷却速度の制御は、冷却機のパラメータ設定によって達成できる。パラメータ設定によって、冷却に用いられる水の量を制御できるため、冷却速度も制御できる。
【0016】
好ましくは、鋳造スラブコーナー部加熱装置は、鋳造スラブのコーナー部を誘導加熱するための鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置である。鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置は、鋳造機の出口に配置されており、台車に固定されたC型フレームを採用し、該台車は、異なる幅の鋳造スラブに合わせるために横方向に移動できる。
【0017】
好ましくは、圧下装置は、コーナー部加熱装置の後ろに設置され、圧下装置は、上ロールおよび下ロールを備える2ロール構造を有するシングルスタンドの形態であり、ロール径は500~1200mmであり、圧下力は1000~3000tである。本発明の圧下量は10~50mmの範囲にあるため、シングルスタンドの形態を採用して圧下工程を行うことができる。本発明が採用する圧下量は大きく、したがって、500~1200mmのロール径を採用して、ロール構造をより安定させる。
【0018】
好ましくは、塑性が良好な低炭素鋼は、炭素当量CEが0<CE<0.08%の範囲にある鋼種であり、CE=C-0.14Si+0.04Mnである。
【0019】
好ましくは、塑性が良好な低炭素鋼は、パイプライン鋼または構造用鋼などである。
【0020】
好ましくは、割れ感受性が高い鋼種は、炭素当量CEが0.08%~0.18%の範囲にある鋼種であり、CE=C-0.14Si+0.04Mnである。
【0021】
好ましくは、割れ感受性が高い鋼種は、0.01%以上のNb、0.01%以上のV、0.01%以上のTi、および0.001%以上のBから選択される1つまたは複数の元素を含むマイクロアロイ鋼であり、例えば、船舶用鋼板、エネルギー用鋼、および高強度鋼などである。
【0022】
本発明に係る鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法によれば、鋳造スラブの表面を冷却する前の鋳造スラブの表面温度は700~1100℃であり、コーナー部温度は表面温度より50~200℃低い。通常、製錬および連続鋳造の後、鋳造機の水平部に到達したとき、鋳造スラブの表面温度は中心温度より低く、コーナー部温度は表面温度より低い。本発明による冷却を行った後、コーナー部温度は依然として表面温度より50~200℃低い。本発明は、連続鋳造機の出口にコーナー部電磁誘導加熱装置を設置することで、コーナー部が、表面温度と一致する温度まで加熱される。具体的には、コーナー部を加熱する温度は表面温度に応じて設定できる。
【0023】
本発明によって提供される鋳造スラブの品質を改善するためのスラブの冷却および圧下方法によれば、鋳造スラブの表面への冷却の冷却強度は、鋼種によって異なり、塑性が良好で炭素当量CEが0<CE<0.08%の範囲にある低炭素鋼に対しては、温度が400~900℃になるまで冷却することで、鋳造スラブの表面と中心との温度差が400~1000℃となるようにし、炭素当量CEが0.08%~0.18%の範囲にある割れ感受性が高い鋼種に対しては、より低い冷却強度を採用して、鋳造スラブの表面温度を600~1000℃に制御することで、鋳造スラブの表面と中心との温度差が200~900℃となるようにする。
【0024】
連続鋳造の工程では、鋳造スラブは、凝固末期に二相領域を形成し、この領域の初期固相率は0であり、その後、熱の放出に伴って固相率は徐々に増加する。固相率が0.7に達する前は、二相領域はある一定の流動性を有し、鋳造スラブの中心の凝固収縮は、その後の溶鋼によって補充されるため、多孔質が発生しない。しかしながら、この領域では、選択的結晶化によって引き起こされる溶質元素の濃度凝集に起因して、偏析が発生する。固相率が0.8に達した後、二相領域はほとんど流動性の特性を有さず、補充溶鋼無しで凝固収縮が続くため、多孔質が形成される。鋳造スラブの固相率が1に達するまで、固体状態の鋳造スラブが形成され、この多孔質欠陥は鋳造スラブの中心に残存することになる。鋳造スラブの中心の多孔質欠陥を除去するために、鋳造スラブに対して10~50mmの圧下が施され、中心の多孔質が加圧されて融合される。鋳造スラブの表面で圧下を実施する際、より多くの変形を鋳造スラブの中心に伝達し、鋳造スラブの中心の圧下効率を高めるために、鋳造スラブの表面と中心との温度差を大きくして、鋳造スラブの表面強度を高め、鋳造スラブの中心でより多くの変形を起こさせることが必要である。したがって、鋳造スラブの水平部において鋳造スラブの表面へ強化された冷却が行われ、その冷却強度は鋼種によって異なり得る。炭素当量CEが0<CE<0.08%の範囲にある鋼種、すなわち塑性が良好な低炭素鋼に対しては、1~12℃/sの冷却速度を採用して温度を400~900℃まで下げることで、鋳造スラブの表面と中心との温度差が400~1000℃となるようにする。炭素当量CEが0.08%~0.18%の範囲にある割れ感受性が高い鋼種に対しては、より低い冷却強度を採用して、0.1~10℃/sの冷却速度によって鋳造スラブの表面温度を600~1000℃に制御することで、鋳造スラブの表面と中心との温度差が200~800℃となるようにする。圧下工程中にコーナー部温度が低いことに起因してコーナー部割れが形成されるのを防ぐために、鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置を鋳造機の出口に設置して、鋳造スラブのコーナー部温度を、炭素当量CEが0<CE<0.08%の範囲にある鋼種に対しては400~900℃まで、炭素当量CEが0.08%~0.18%の範囲にある鋼種に対しては600~1000℃まで上げ、その後、鋳造スラブに対して10~50mmの圧下を行う。その結果、鋳造スラブの表面と内部との間にはある一定の温度差があることで、鋳造スラブの表面の変形が鋳造スラブの中心に容易に伝達されて、鋳造スラブの中心で多孔質を加圧して融合させて、鋳造スラブの中心の緻密性および鋳造スラブの中心の品質を改善できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の有益な技術的効果は下記の通りである。
【0026】
本発明の方法によれば、鋳造スラブを冷却することによって、鋳造スラブの表面と中心との温度差を大きくし、その後、鋳造スラブに対してある一定量の圧下が行われることで、鋳造スラブの中心の多孔質を加圧して融合させて、製品の内部品質が改善される。鋳造スラブのコーナー部は、圧下前に誘導加熱されることにより、圧下の際に鋳造スラブのコーナー部割れが発生しにくくなる。それと同時に、鋳造スラブの表層は周期的な相変態を受けることにより、組織の結晶粒が微細化し、それにより、鋳造スラブの表面塑性の改善、鋳造スラブ表面での割れの発生率の減少、および製品の表面品質の改善に貢献する。したがって、本方法は、表面の冷却、コーナー部の加熱、および完全に凝固した状態での圧下を行うことによって、鋳造スラブの内部品質および表面品質を改善する。
【0027】
本発明の方法は、鋳造スラブの中心における圧下変形を大きくし、鋳造スラブの中心の多孔質を改善することができるだけでなく、スラブ中心のマクロ組織の品質をマンネスマン基準に従って2.0以内に制御することによって、厚板鋳造スラブの中心の多孔質および収縮を効果的に修復し、圧下比を1.5~3まで減少させることができる。従来の工程と比較して、鋳造スラブの孔隙率を1/3に減少させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明による鋳造スラブの急速冷却、コーナー部加熱、および完全凝固の工程を示す模式図である。
図2A】比較例1の圧下を受けていない鋳造スラブの写真である。
図2B】本発明の実施形態1の圧下を受けた鋳造スラブの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下の実施形態を参照して、本発明をさらに説明する。これらの実施形態は、例示のためだけのものであり、本発明に対するいかなる限定も構成しないことを当業者は理解すべきである。
【0030】
以下、添付図面を参照して、本発明の方法の実施工程を詳細に説明する。
【0031】
図1を参照すると、鋳造スラブの表面品質および内部品質を改善するための鋳造スラブの連続鋳造技術が開示されており、連続鋳造の工程中、鋳造スラブ1は、鋳造機の水平部において冷却2を受け、その後、コーナー部加熱3および完全凝固圧下4を受ける。完全凝固圧下とは、完全に凝固した状態での圧下を指し、軽圧下に比べて操作が簡単である。凝固の後期において、鋳造スラブの中心に多孔質が発生する。鋳造スラブの中心の多孔質欠陥を改善するために、鋳造スラブに対してある一定量の圧下を施す。そして、鋳造スラブの中心の圧下効率を改善するために、鋳造スラブの表面と中心との温度差を大きくすることが必要である。したがって、鋳造スラブの表面を鋳造機の水平部において冷却して、鋳造スラブの表面温度を下げ、その後、鋳造スラブのコーナー部を誘導加熱して、コーナー部温度を上げ、その後、鋳造スラブの圧下を行う。
【0032】
実施形態1:
低炭素合金パイプライン鋼を例として挙げると、実施形態1における鋼の組成は、Cが0.045%であり、Siが0.4%であり、Mnが0.5%であり、Nbが0.044%であり、残部が鉄および不可避的不純物である。鋳造スラブは、矯正点を通過した後に二相領域を形成する、すなわち、鋳造スラブの水平部は鋳造スラブの二相領域の凝固領域であり、この時、鋳造スラブ1の表面温度は900℃である。この領域では、鋳造スラブは完全に凝固し、末端に多孔質欠陥を形成する。鋳造機の水平部において鋳造スラブの表面に対して3℃/sの冷却速度で噴霧冷却を行って、鋳造スラブの温度を600℃まで下げ、これを赤外線温度測定により確認する。鋳造スラブの内部中心温度が1200℃であるとき、内部と外部との温度差は600℃である。この時、鋳造スラブのコーナー部温度は600℃より低い。鋳造スラブが鋳造機を出た後、誘導加熱により鋳造スラブのコーナー部を加熱して、鋳造スラブのコーナー部温度を650℃まで上げ、その後、鋳造スラブ1は、圧下装置4により20mmの圧下を受ける。鋳造スラブの内部と外部との温度差が大きく、内部温度が高いため、変形が鋳造スラブの内部に容易に伝達され、それにより、鋳造スラブの内部品質を改善する。本実施形態によって、図2の効果を得ることができる。
【0033】
鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置を鋳造機の出口に設置する。鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置は、台車に固定されたC型フレームを採用し、台車は、異なる幅のスラブに合わせるために横方向に移動できる。圧下装置をコーナー部加熱装置の後ろに設置する。圧下装置は、上ロールおよび下ロールを備える2ロール構造を有するシングルスタンドの形態であり、ロール径は800mmであり、圧下力は2000tである。
【0034】
実施形態2:
包晶合金鋼船舶用鋼板を例として挙げると、実施形態2における鋼の組成は、Cが0.12%であり、Siが0.3%であり、Mnが1.5%であり、Nbが0.05%であり、残部が鉄および不可避的不純物である。同様に、鋳造スラブ1は、水平部において二相領域を形成し、完全に凝固する。包晶合金鋼は割れ感受性が高い鋼種に属するため、鋳造スラブの表面を従来の方式で冷却し、冷却水の量を制御し、冷却速度は0.8℃/sである。所定量の冷却水を用いることによって、鋳造スラブの表面温度を900℃に維持できる。この時、鋳造スラブのコーナー部温度は約700℃である。鋳造スラブのコーナー部を930℃まで誘導加熱し、その後、鋳造スラブは20mmの完全凝固圧下を受けて、鋳造スラブの内部品質を改善する。本実施形態によっても、図2の技術的効果を得ることができる。
【0035】
鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置を鋳造機の出口に設置する。鋳造スラブコーナー部電磁誘導加熱装置は、台車に固定されたC型フレームを採用し、台車は、異なる幅のスラブに合わせるために横方向に移動できる。圧下装置をコーナー部加熱装置の後ろに設置する。圧下装置は、上ロールおよび下ロールを備える2ロール構造を有するシングルスタンドの形態であり、ロール径は1200mmであり、圧下力は3000tである。
【0036】
比較例1:
比較例1における鋼の組成は、Cが0.045%であり、Siが0.4%であり、Mnが0.5%であり、Nbが0.044%であり、残部が鉄および不可避的不純物である。この鋼種の鋳造スラブが結晶化装置を出るときの鋳造スラブの表面温度は1150℃であり、鋳造スラブは、二次冷却され、矯正点を通過した後、ある一定の厚さの二相領域を形成し、水平部において連続的に冷却されて、完全に凝固した鋳造スラブとなる。鋳造スラブの二相領域は、凝固中に溶鋼で補充できないため、鋳造スラブの中心に多孔性組織が形成される。多孔性組織を有する鋳造スラブが、連続鋳造機を出た後に圧下処理を受けない場合、明らかな帯状多孔質が鋳造スラブの中心に形成される。その内部品質を図2Aに示す。
【0037】
本発明の鋳造スラブの表面温度、中心温度、およびコーナー部温度の測定方法は、赤外線温度測定である。多孔質の測定方法はマクロ組織酸洗であり、鋳造スラブを厚さ60~80mmの試料に加工し、切断面を研磨し、高温の塩酸浴中で10~30分間エッチング処理を行う。鋳造スラブ試料を塩酸浴から取り出した後、加工面を水洗し、送風乾燥し、その後、手作業による組織観察で品質を確認する。
【0038】
図2Aおよび図2Bに示すように、図2Aは、圧下を受けていない比較例1による鋳造スラブの中心の写真を示し、図2Bは、圧下を受けた実施形態1による鋳造スラブの中心の写真を示す。圧下を受けた実施形態1の場合、鋳造スラブの中心偏析および多孔質の帯が消失しているのに対し、圧下を受けていない比較例1の場合、鋳造スラブの明らかな中心偏析および多孔質の帯が見られることがわかる。実施形態1では、スラブ中心マクロ組織の品質をマンネスマン基準の2.0以内に制御することにより、厚板鋳造スラブの中心の多孔質および収縮を効果的に修復することができ、圧下比が1.5~3まで減少する。比較例1の従来の工程と比較して、鋳造スラブの孔隙率を1/3に減少させることができる。圧下を受けた鋳造スラブでは、中心偏析および多孔質の帯が消失し、圧下を受けていない鋳造スラブでは、明らかな中心偏析および多孔質の帯が見られる。
【0039】
当然のことながら、上述した実施形態は、本発明を例示することのみを意図しており、本発明を限定することを意図していないことは、当業者によって理解されるだろう。上述した実施形態に対してなされる修正および変形は、本発明の真の趣旨および範囲から逸脱しない限り、本発明の特許請求の範囲に含まれることを意図している。
【符号の説明】
【0040】
1 鋳造スラブ
2 冷却
3 コーナー部加熱
4 完全凝固圧下

図1
図2A
図2B