(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】光学系およびそれを有する撮像装置
(51)【国際特許分類】
G02B 13/02 20060101AFI20240909BHJP
G02B 13/18 20060101ALN20240909BHJP
【FI】
G02B13/02
G02B13/18
(21)【出願番号】P 2023035395
(22)【出願日】2023-03-08
(62)【分割の表示】P 2019093546の分割
【原出願日】2019-05-17
【審査請求日】2023-03-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110412
【氏名又は名称】藤元 亮輔
(74)【代理人】
【識別番号】100104628
【氏名又は名称】水本 敦也
(74)【代理人】
【識別番号】100121614
【氏名又は名称】平山 倫也
(72)【発明者】
【氏名】井野 友裕
(72)【発明者】
【氏名】横谷 真樹
【審査官】岡田 弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-215491(JP,A)
【文献】特開2017-215495(JP,A)
【文献】特開2017-215493(JP,A)
【文献】特開2016-161644(JP,A)
【文献】特開2010-197765(JP,A)
【文献】特開2010-276744(JP,A)
【文献】特開2012-037870(JP,A)
【文献】特開2012-083702(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 9/00-17/08
G02B 21/02-21/04
G02B 25/00-25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側より像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群、負の屈折力の第3レンズ群からなり、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系であって、
前記第3レンズ群は、複数の負レンズを有し、
前記第3レンズ群は、物体側から像側へ順に配置された、負の屈折力の第1部分群、負の屈折力の第2部分群、正の屈折力の第3部分群からなり、
フォーカシングに際して前記第2レンズ群が移動し、
像ぶれ補正に際して、前記第2部分群が光軸に垂直な方向の成分を含む方向に移動し、
無限遠合焦時の前記光学系の焦点距離をf、前記第3レンズ群の焦点距離をf3、前記第1部分群と前記第2部分群との光軸上の間隔をD3A
、前記第2部分群の横倍率をβ3B、前記第3部分群の横倍率をβ3Cとするとき、
-0.32<f3/f<-0.05
0.01<D3A/f<0.05
-4.00<(1-β3B)×β3C<-2.00
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項2】
前記第2部分群の焦点距離をf3Bとするとき、
-0.30<f3B/f<-0.05
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1に記載の光学系。
【請求項3】
前記第1部分群の焦点距離をf3Aとするとき、
-1.20<f3A/f<-0.20
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1または2に記載の光学系。
【請求項4】
物体側より像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群、負の屈折力の第3レンズ群からなり、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系であって、
前記第3レンズ群は、複数の負レンズを有し、
前記第3レンズ群は、物体側から像側へ順に配置された、負の屈折力の第1部分群、負の屈折力の第2部分群、正の屈折力の第3部分群からなり、
フォーカシングに際して前記第2レンズ群が移動し、
像ぶれ補正に際して、前記第2部分群が光軸に垂直な方向の成分を含む方向に移動し、
無限遠合焦時の前記光学系の焦点距離をf、前記第3レンズ群の焦点距離をf3、前記第1部分群と前記第2部分群との光軸上の間隔をD3A、前記第1部分群の焦点距離をf3Aとするとき、
-0.32<f3/f<-0.05
0.01<D3A/f<0.05
-1.20<f3A/f<-0.20
なる条件式を満足することを特徴とする光学系。
【請求項5】
前記第2部分群は、少なくとも1枚の正レンズと少なくとも1枚の負レンズから構成されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項6】
無限遠合焦時の前記光学系のレンズ全長をLとするとき、
0.40<L/f<0.70
なる条件式を満足することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の光学系。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の光学系と、該光学系によって形成される像を受光する撮像素子を有することを特徴とする撮像装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学系に関し、デジタルビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、放送用カメラ、銀塩フィルム用カメラ、監視用カメラ等に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、光学系におけるフォーカシングは、光学系全体を移動、または光学系の一部のレンズを移動させることで行われる。光学系が長焦点距離の望遠レンズでは、レンズが大型化し、高重量となるため、光学系全体を移動させてフォーカシングを行うことは困難である。このため、望遠レンズでは、高重量の前方レンズ群以外の比較的小型で軽量のレンズ群を移動させてフォーカシングを行う、所謂インナーフォーカス方式が採用されている。インナーフォーカス方式の望遠レンズは、物体側より像側へ順に配置された、正の屈折率の第1レンズ群、正または負の屈折率の第2レンズ群、正または負の屈折率の第3レンズ群の3つのレンズ群を有し、第2レンズ群でフォーカシングを行う。
【0003】
また、従来、振動による画像のぶれを補正するためにレンズの一部または全部を光軸垂直方向へ駆動する光学系が提案されている。光学系が長焦点距離の望遠レンズでは、レンズが大型化し、高重量となるため、比較的小型で軽量な後方レンズ群の全部または一部を光軸垂直方向へ駆動して防振を行う方式が採用されている。
【0004】
特許文献1には、物体側より像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群、負の屈折力の第3レンズ群を有し、第3レンズ群の中群で防振補正を行う望遠レンズが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、物体側より像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、負の屈折力の第2レンズ群、正の屈折力の第3レンズ群を有し、第3レンズ群の中群で防振補正を行う望遠レンズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-242504号公報
【文献】特開2014-211496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
インナーフォーカス方式の光学系では、小型軽量のレンズ群を移動させることで高速なフォーカシングを可能とするが、フォーカスレンズ群の移動に伴いフォーカスレンズ群を通過する光線の高さが大きく変化するため光学性能が変化しやすい。特に、物体側より像側へ順に配置された正の屈折率の第1レンズ群、負の屈折率の第2レンズ群を有し、第2レンズ群でフォーカシングを行う望遠レンズでは、第1レンズ群で大きく発生する、球面収差やコマ収差等の収差を第2レンズ群の収差で打ち消す構成となっている。そのため、第2レンズ群では大きな収差を発生させる必要があり、フォーカシングによる光学性能の悪化が大きくなる。また、偏芯による光学性能の変化も大きくなるため、製造時に高い光学性能を達成することが困難である。
【0008】
また、高重量となる望遠レンズを軽量化し、光学系のレンズ全長を短縮しつつ、防振性能を適切にするために各レンズの屈折力配置を適切に行う必要がある。
【0009】
特許文献1,2では、光学系の軽量化のため少ないレンズ枚数で、フォーカスによる光学性能の悪化を低減しつつ、レンズ全長を短縮する方法については開示していない。
【0010】
本発明は、小型かつ軽量で、フォーカシングによる光学性能の変化を低減可能な光学系およびそれを有する撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一側面としての光学系は、物体側より像側へ順に配置された、正の屈折力の第1レンズ群、正の屈折力の第2レンズ群、負の屈折力の第3レンズ群からなり、フォーカシングに際して隣り合うレンズ群の間隔が変化する光学系であって、第3レンズ群は、複数の負レンズを有し、第3レンズ群は、物体側から像側へ順に配置された、負の屈折力の第1部分群、負の屈折力の第2部分群、正の屈折力の第3部分群からなり、フォーカシングに際して第2レンズ群が移動し、像ぶれ補正に際して、第2部分群が光軸に垂直な方向の成分を含む方向に移動し、無限遠合焦時の光学系の焦点距離をf、第3レンズ群の焦点距離をf3、第1部分群と第2部分群との光軸上の間隔をD3A、第2部分群の横倍率をβ3B、第3部分群の横倍率をβ3Cとするとき、
-0.32<f3/f<-0.05
0.01<D3A/f<0.05
-4.00<(1-β3B)×β3C<-2.00
なる条件式を満足することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小型かつ軽量で、フォーカシングによる光学性能の変化を低減可能な光学系およびそれを有する撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図2】(A)、(B)実施例1の無限遠合焦時の収差図、物体距離4.5m合焦時の収差図である。
【
図3】実施例2の無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図4】(A)、(B)実施例2の無限遠合焦時の収差図、物体距離6m合焦時の収差図である。
【
図5】実施例3の無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図6】(A)、(B)実施例3の無限遠合焦時の収差図、物体距離4.5m合焦時の収差図である。
【
図7】実施例4の無限遠合焦時のレンズ断面図である。
【
図8】(A)、(B)実施例4の無限遠合焦時の収差図、物体距離4.5m合焦時の収差図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
図1は、実施例1の無限遠合焦時のレンズ断面図である。
図2(A)、(B)はそれぞれ、実施例1の無限遠物体合焦時の収差図、物体距離4.5m合焦時の収差図である。実施例1の光学系は、焦点距離582mm、Fナンバー11.3の光学系である。
【0016】
図3は、実施例2の無限遠合焦時のレンズ断面図である。
図4(A)、(B)はそれぞれ、実施例2の無限遠合焦時の収差図、物体距離6m合焦時の収差図である。実施例2の光学系は、焦点距離776mm、Fナンバー11.3の光学系である。
【0017】
図5は、実施例3の無限遠合焦時のレンズ断面図である。
図6(A)、(B)はそれぞれ、実施例3の無限遠合焦時の収差図、物体距離4.5m合焦時の収差図である。実施例3の光学系は、焦点距離582mm、Fナンバー11.3の光学系である。
【0018】
図7は、実施例4の無限遠合焦時のレンズ断面図である。
図8(A)、(B)はそれぞれ、実施例4の無限遠合焦時の収差図、物体距離4.5m合焦時の収差図である。実施例4の光学系は、焦点距離582mm、Fナンバー8.2の光学系である。
【0019】
各実施例の光学系は、デジタルビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、放送用カメラ、銀塩フィルム用カメラ、監視用カメラ等の撮像装置に用いられる光学系である。なお、各数値実施例の光学系は、投射装置(プロジェクタ)用の投射光学系として用いることもできる。
【0020】
各レンズ断面図において、左方が物体側(前方)で、右方が像側(後方)である。各実施例の光学系は複数のレンズ群を有して構成されている。本願明細書においてレンズ群とは、フォーカシングに際して一体的に移動または静止するレンズのまとまりである。すなわち、各実施例の光学系では、無限遠から近距離へのフォーカシングに際して隣接するレンズ群同士の間隔が変化する。なお、レンズ群は1枚のレンズから構成されていても良いし、複数のレンズから成っていても良い。また、レンズ群は開口絞りを含んでいても良い。
【0021】
各レンズ断面図において、iを物体側からのレンズ群の順番とすると、Liは第iレンズ群を示す。SPは開口絞りである。IPは像面であり、各実施例の光学系をデジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラの光学系として使用する際にはCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)の撮像面が配置される。各実施例の光学系を銀塩フィルム用カメラの光学系として使用する際には像面IPにはフィルム面に相当する感光面が置かれる。像面IPの物体側には、光学フィルター、フェースプレート、ローパスフィルター、赤外カットフィルターなどに相当する光学ブロックを配置することもできる。
【0022】
球面収差図において、FnoはFナンバーであり、d線(波長587.6nm)、g線(波長435.8nm)に対する球面収差量を示している。非点収差図において、Sはd線に対するサジタル像面における非点収差量、Mはd線に対するメリディオナル像面における非点収差量を示している。歪曲収差図において、d線に対する歪曲収差量を示している。色収差図では、g線における色収差量を示している。ωは、半画角である。
【0023】
本発明の光学系は、物体側より像側へ順に配置された、正屈折力の第1レンズ群L1、正屈折力の第2レンズ群L2、負屈折力の第3レンズ群L3を備える。第2レンズ群L2と第3レンズ群L3との間には、絞りSPが設けられている。第2レンズ群L2を物体側へ移動させることで、無限遠物体から近距離物体へのフォーカシングが行われる。
【0024】
本発明の光学系では、正屈折力の第1レンズ群L1と正屈折力の第2レンズ群L2の合成屈折力が正屈折力の前群と、負屈折力の第3レンズ群を後群としたテレフォトタイプの屈折力配置とし、レンズ全長(光学全長)を短縮している。
【0025】
また、近軸軸上光線が高く、球面収差、コマ収差、軸上色収差等が大きく発生する第1レンズ群L1の屈折力を、正屈折力の第2レンズ群L2に分担させることで、特に高次の収差の発生を低減することが可能となる。
【0026】
また、偏芯時の光学性能の変化を小さくすることができ、製造容易性を向上させることが可能となる。
【0027】
また、第2レンズ群が負屈折力の屈折力配置に比べて、第1レンズ群L1の屈折力が小さくなるため、フォーカスレンズ群である第2レンズ群L2への光線の入射角が緩やかになる。そのため、フォーカシング時の第2レンズ群L2を通過する光線の高さの変動が小さくなるため、フォーカシングによる光学性能の変化を小さくすることが可能となる。
【0028】
また、本発明の光学系では、第1レンズ群L1の最も像側のレンズを負レンズで構成している。フォーカスレンズ群の物体側に負屈折力のレンズを配置することで、フォーカスレンズ群への光線の入射角をさらに緩やかにし、フォーカシングによる光学性能の変化を低減することが可能となる。
【0029】
また、第1レンズ群L1内の屈折力配置をテレフォトタイプの配置とすることができ、レンズを小型化することが可能となる。
【0030】
また、本発明の光学系は、無限合焦時の光学系の焦点距離をf、第3レンズ群L3の焦点距離をf3とするとき、以下の条件式(1)を満足する。
【0031】
-0.32<f3/f<-0.05 (1)
条件式(1)は、レンズ全長を短縮しつつ、光学性能を良好に保つための条件式である。条件式(1)の上限値を超えて第3レンズ群L3の屈折力が大きくなりすぎると、絞りSPに対して非対称なテレフォトタイプの屈折力配置が強くなりすぎるため、像面湾曲、歪曲といった軸外収差が悪化してしまう。逆に、条件式(1)の下限値を下回って第3レンズ群L3の屈折力が小さくなると、テレフォトタイプの屈折力配置が弱まり、レンズ全長が長くなってしまう。
【0032】
また、各数値実施例において、第3レンズ群L3は物体側より像側へ順に配置された、負屈折力の第1部分群3A、負屈折力の第2部分群3B、正屈折力の第3部分群3Cからなる。防振(像ぶれ補正)に際して、第2部分群3Bが光軸に垂直な方向の成分を含む方向に移動する。
【0033】
第1部分群3Aを負屈折力とすることで、第3レンズ群L3の前側主点が物体側になり、レンズ全長を短縮することが可能となる。
【0034】
また、本発明の光学系は、第1部分群3Aと第2部分群3Bとの光軸上の空気間隔をD3Aとするとき、以下の条件式(2)を満足することが好ましい。
【0035】
0.01<D3A/f<0.05 (2)
条件式(2)は、レンズ全長を短縮しつつ、防振敏感度を適切に保つための条件式である。条件式(2)の上限値を超えて第1部分群3Aと第2部分群3Bとの光軸上の空気間隔D3Aが長くなりすぎてしまうと、レンズ全長が長くなってしまう。また、第3部分群3Cと像面の距離が近くなることで、第3部分群3Cの横倍率が小さくなってしまい、防振敏感度が低くなってしまう。また、第2部分群3Bが後方に配置されることで周辺光束を取り込むためにレンズ径が大きくなりすぎてしまい、結果として重量が重くなり、防振時に駆動が困難となる。逆に、条件式(2)の下限値を下回って第1レンズ群3Aと第2部分群3Bとの光軸上の空気間隔D3Aが短くなると、第3レンズ群L3と像面の距離が遠くなることで、第3部分群3Cの横倍率が大きくなりすぎてしまう。結果として、防振敏感度が高すぎてしまい、撮影時のシャッターショック等の微小な振動で第2部分群3Bが微小に動き、像ブレを引き起こしてしまう。
【0036】
また、本発明の光学系は、第2部分群3Bの焦点距離をf3Bとするとき、以下の条件式(3)を満足することが好ましい。
【0037】
-0.30<f3B/f<-0.05 (3)
条件式(3)は、防振敏感度を適切に設定しつつ、レンズ全長を短縮するための条件式である。条件式(3)の上限値を超えて第2部分群3Bの屈折力が弱くなりすぎると、防振時にレンズを光軸方向へ大きく動かさなければならなくなる。したがって、レンズの駆動機構が大型化してしまい、結果として光学系が大型化してしまう。逆に、条件式(3)の下限値を下回って第2部分群3Bの屈折力が強くなりすぎると、第3レンズ群L3内で諸収差が補正しきれなくなってしまい、特に非点収差が悪化してしまう。
【0038】
また、本発明の光学系は、無限遠合焦時の光学系のレンズ全長をLとしたとき、以下の条件式(4)を満足することが好ましい。
【0039】
0.40<L/f<0.70 (4)
条件式(4)は、レンズ全長を短縮しつつ、光学性能を良好に保つための条件式である。条件式(4)の上限値を超えると、レンズ全長が長くなりすぎて、光学系が大型化してしまう。逆に、条件式(4)の下限値を下回ってレンズ全長が小さくなりすぎると、第1レンズ群L1で発生する球面収差、コマ収差、軸上色収差、倍率色収差が大きくなりすぎ、各収差を十分に補正することができないため、高い光学性能を達成することが困難となる。高い光学性能を達成するには、第1レンズ群L1のレンズ枚数を増加する必要があるため、軽量化することができない。
【0040】
また、本発明の光学系は、第1部分群3Aの焦点距離をf3Aとしたとき、以下の条件式(5)を満足することが好ましい。
【0041】
-1.20<f3A/f<-0.20 (5)
条件式(5)は、レンズ全長を短縮しつつ、光学像性能を良好に保つための条件式である。条件式(5)の上限値を超えて第1部分群3Aのパワーが強くなりすぎると、像面湾曲が悪化してしまい、光学性能が悪化してしまう。逆に、条件式(5)の下限値を下回って第1部分群3Aのパワーが弱くなりすぎると、第3レンズ群L3のパワーが弱くなりすぎてしまう。結果としてテレフォトタイプの効果が弱くなってしまい、レンズ全長の短縮が困難となる。
【0042】
また、本発明の光学系は、第2部分群3Bの横倍率をβ3B、第3部分群3Cの横倍率をβ3Cとしたとき、以下の条件式(6)を満足することが好ましい。
【0043】
-4.00<(1-β3B)×β3C<-2.00 (6)
条件式(6)は、防振群である第2部分群3Bの横倍率と、その像側に配置される第3部分群3Cの横倍率との組み合わせを適切に設定するための条件式である。条件式(6)の上限値を超えると、防振補正時の第2部分群3Bの移動量が増大し、光学系の径が大きくなるため、好ましくない。逆に、条件式(6)の下限値を超えると、防振補正時の収差変動が増大するため、好ましくない。また、条件式(6)の下限値を超えると、防振敏感度が敏感になりすぎて防振群が像ブレ補正以外で動いてしまった場合に像ブレが発生してしまう。
【0044】
また、条件式(1)乃至(6)の数値範囲をそれぞれ、以下の条件式(1a)乃至(6a)の範囲とすることが好ましい。
【0045】
-0.260<f3/f<-0.075 (1a)
0.0125<D3A/f<0.0375 (2a)
-0.200<f3B/f<-0.055 (3a)
0.43<L/f<0.65 (4a)
-1.15<f3A/f<-0.30 (5a)
-3.50<(1-β3B)×β3C<-2.20 (6a)
また、条件式(1)乃至(6)の数値範囲をそれぞれ、以下の条件式(1b)乃至(6b)の範囲とすることがさらに好ましい。
【0046】
-0.20<f3/f<-0.10 (1b)
0.015<D3A/f<0.025 (2b)
-0.15<f3B/f<-0.05 (3b)
0.46<L/f<0.60 (4b)
-1.10<f3A/f<-0.40 (5b)
-3.00<(1-β3B)×β3C<-2.40 (6b)
実施例1,2,4の光学系では、さらにレンズ枚数を減らすために、光学系中最も近軸軸上光線、瞳近軸光線が高い位置にある最も物体側の正レンズユニットに回折光学素子を配置することで、少ないレンズ枚数でも色収差を大きく改善する構成となっている。回折光学素子は負のアッベ数(νd=-3.453)のため、回折面に正の屈折力を与えることで、第1レンズ群L1で発生する軸上色収差、倍率色収差の補正が可能となる。回折面が正屈折力のため、第1レンズ群L1の正屈折力を回折面にも分担させることができるため、球面収差、コマ収差の補正を行うことが可能となる。さらに、回折光学素子の周期構造を変化させることによる非球面効果と合わせて、第1レンズ群L1の正レンズを最小枚数で構成することが可能となり、軽量化を達成することができる。
【0047】
次に、各レンズ群の構成に関して説明する。実施例1,4では、第1レンズ群L1は、物体側より像側へ順に配置された、両凸レンズと物体側凹面の負メニスカスレンズの接合レンズ、物体側凹面の負メニスカスレンズより構成される。接合レンズの接合面に回折面を有している。軸上色収差、倍率色収差、フォーカスによる光学性能の変動を低減するための方法については、前述したとおりである。実施例2では、第1レンズ群L1は、物体側より像側へ順に配置された、物体側凸面の正メニスカスレンズ、両凸レンズと両凹レンズの接合レンズ、物体側凹面の負メニスカスレンズより構成される。接合レンズの接合面に回折面を有している。実施例3では、第1レンズ群L1は、物体側より像側へ順に配置された、物体側凸面の正メニスカスレンズ、両凸レンズ、物体側凸面の正メニスカスレンズ、両凹レンズより構成される。
【0048】
また、実施例1では、第2レンズ群L2は、両凸レンズのみで構成される。実施例2から実施例4では、第2レンズ群L2は、物体側凸面の正メニスカスレンズのみで構成される。第2レンズ群L2を正レンズ1枚の構成とすることで、レンズ重量を軽くすることが可能となり、高速なフォーカシングを可能にしている。各実施例では、レンズ重量の軽量化、およびフォーカシング速度の向上のため、第2レンズ群L2を1枚構成としているが、第2レンズ群L2を複数枚構成とし、高性能化することもの可能である。
【0049】
また、実施例1,2,4では、第3レンズ群L3は、両凹レンズと両凸レンズの接合レンズで構成された第1部分群3A、両凸レンズと両凹レンズの接合レンズと両凹レンズで構成された第2部分群3B、両凸レンズの第3部分群3Cより構成される。実施例3では、第3レンズ群L3は、両凹レンズと両凸レンズの接合レンズで構成された第1部分群3A、両凸レンズと両凹レンズの接合レンズと両凹レンズで構成された第2部分群3B、像側凸の正メニスレンズの第3部分群3Cで構成される。
【0050】
全ての実施例において、第2部分群3Bを光軸に対して垂直に移動させることにより防振を行っている。また、第2部分群3Bは、各実施例では3枚で構成されているが、防振時の色収差変動を抑制するために2枚以上で構成されることが望ましい。
【0051】
以下に、実施例1乃至4にそれぞれ対応する数値実施例1乃至4を示す。各数値実施例の面データにおいて、rは各光学面の曲率半径、d(mm)は第m面と第(m+1)面との間の軸上間隔(光軸上の距離)を表わしている。ただし、mは光入射側から数えた面の番号である。また、ndは各光学部材のd線に対する屈折率、νdは光学部材のアッベ数を表わしている。なお、ある材料のアッベ数νdは、フラウンホーファ線のd線(587.6nm)、F線(486.1nm)、C線(656.3nm)、g線(波長435.8nm)における屈折率をNd、NF、NCとするとき、
νd=(Nd-1)/(NF-NC)
で表される。
【0052】
なお、各数値実施例において、d、焦点距離(mm)、Fナンバー、半画角(度)は全て各実施例の光学系が無限遠物体に焦点を合わせた時の値である。バックフォーカス(BF)は、レンズ最終面(最も像側のレンズ面)から近軸像面までの光軸上の距離を空気換算長により表記したものである。「レンズ全長」は、光学系の最前面(最も物体側のレンズ面)から最終面までの光軸上の距離にバックフォーカスを加えた長さである。「レンズ群」は、複数のレンズから構成される場合に限らず、1枚のレンズから構成される場合も含むものとする。
【0053】
また、回折格子の位相形状ψは、回折光の回折次数をm、設計波長をλ0、光軸からの光軸に直交する方向の高さをh、位相係数をCi(i=1,2,3…)とするとき、次式によって表される。
【0054】
ψ(h,m)=(2π/mλ0)×(C1・h2+C2・h4+C3・h6+…)
また、光学面が非球面の場合は、面番号の右側に、(回折)と表示している。非球面形状は、Xを光軸方向の面頂点からの変位量、hを光軸と垂直な方向の光軸からの高さ、Rを近軸曲率半径、kを円錐定数、A4、A6、A8、A10を各次数の非球面係数とするとき、
x=(h2/R)/[1+{1-(1+k)(h/R)2}1/2 +A4×h4+A6×h6
+A8×h8+A10×h10
で表している。なお、各非球面係数における「e±XX」は「×10±XX」を意味している。
【0055】
また、各条件式と数値実施例との関係を表1に示す。
[数値実施例1]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 58.978 11.86 1.48749 70.2
2(回折) -205.536 2.70 1.91082 35.3
3 -776.181 61.26
4 -46.263 1.30 1.83481 42.7
5 -112.060 (可変)
6 120.340 2.08 1.48749 70.2
7 -488.018 (可変)
8(絞り) ∞ 6.43
9 -43.031 1.00 1.90043 37.4
10 43.031 3.82 1.65412 39.7
11 -29.498 12.32
12 107.096 3.70 1.65412 39.7
13 -22.333 0.80 1.59282 68.6
14 293.053 0.63
15 -76.788 0.80 1.80400 46.5
16 54.248 1.33
17 63.147 2.07 1.59551 39.2
18 -767.459 138.29
像面 ∞
非球面データ
第2面(回折面)
A 2=-4.47403e-005 A 4= 1.03980e-008 A 6=-5.47538e-012 A 8= 2.97170e-015
A10=-1.66936e-018
各種データ
ズーム比 1.00
焦点距離 582.00
Fナンバー 11.31
半画角(度) 2.13
像高 21.64
レンズ全長 287.05
BF 138.29
無限遠合焦時 物体距離4.5m合焦時
d 5 17.42 2.51
d 7 19.23 34.14
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 386.12
2 6 198.25
3 8 -86.66
3A 8 -342.02
3B 12 -55.81
3C 17 98.07
[数値実施例2]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 81.395 9.89 1.48749 70.2
2 767.797 30.35
3 83.964 9.43 1.48749 70.2
4(回折) -277.706 2.70 1.80400 46.5
5 113.168 85.76
6 -49.232 1.30 1.74400 44.8
7 -95.332 (可変)
8 67.893 2.25 1.51633 64.1
9 448.372 (可変)
10(絞り) ∞ 6.43
11 -43.031 1.00 1.90043 37.4
12 43.031 3.82 1.65412 39.7
13 -29.498 12.32
14 107.096 3.70 1.65412 39.7
15 -22.333 0.80 1.59282 68.6
16 293.053 0.63
17 -76.788 0.80 1.80400 46.5
18 54.248 1.33
19 63.147 2.07 1.59551 39.2
20 -767.459 138.10
像面 ∞
非球面データ
第4面(回折面)
A 2=-4.52286e-005 A 4= 6.40571e-009 A 6=-8.87101e-013 A 8=-7.49305e-016
A10= 5.24559e-019
各種データ
ズーム比 1.00
焦点距離 775.99
Fナンバー 11.31
半画角(度) 1.60
像高 21.64
レンズ全長 365.39
BF 138.10
無限遠合焦時 物体距離6m合焦時
d 7 32.49 16.04
d 9 20.22 36.67
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 686.23
2 8 154.64
3 10 -86.66
3A 10 -342.02
3B 14 -55.81
3C 19 98.07
[数値実施例3]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 133.448 4.39 1.59349 67.0
2 245.324 9.88
3 54.814 10.00 1.43875 94.7
4 -294.426 8.61
5 59.825 5.12 1.43875 94.7
6 631.348 1.04
7 -254.244 1.30 1.74100 52.6
8 50.472 (可変)
9 64.215 1.81 1.49700 81.5
10 103.624 (可変)
11(絞り) ∞ 5.00
12 -63.723 1.00 1.91082 35.3
13 87.812 3.00 1.73800 32.3
14 -56.968 11.15
15 115.364 3.17 1.73800 32.3
16 -37.330 2.45 1.49700 81.5
17 180.804 0.79
18 -66.872 1.38 1.91082 35.3
19 79.176 2.11
20 -814.769 1.89 1.48749 70.2
21 -67.269 178.41
像面 ∞
各種データ
ズーム比 1.00
焦点距離 582.00
Fナンバー 11.31
半画角(度) 2.13
像高 21.64
レンズ全長 328.50
BF 178.41
無限遠合焦時 物体距離4.5m合焦時
d 8 73.90 55.33
d10 2.10 20.67
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 255.94
2 9 334.63
3 11 -92.66
3A 11 -349.57
3B 15 -71.37
3C 20 150.28
[数値実施例4]
単位 mm
面データ
面番号 r d nd νd
1 87.387 12.85 1.48749 70.2
2(回折) -334.980 3.00 1.83400 37.2
3 -2900.216 93.84
4 -68.593 1.30 1.80100 35.0
5 -132.015 (可変)
6 89.303 3.07 1.48749 70.2
7 417.857 (可変)
8(絞り) ∞ 4.99
9 -91.716 0.99 1.90043 37.4
10 30.296 4.42 1.65412 39.7
11 -42.133 9.99
12 63.149 4.36 1.65412 39.7
13 -22.130 1.75 1.59282 68.6
14 65.686 1.09
15 -76.612 0.70 1.80400 46.5
16 42.003 3.01
17 42.568 3.31 1.51742 52.4
18 -273.996 105.35
像面 ∞
非球面データ
第2面(回折面)
A 2=-3.30742e-005 A 4= 3.39180e-009 A 6=-3.87395e-013 A 8=-4.34279e-016
A10= 1.36105e-019
各種データ
ズーム比 1.00
焦点距離 582.00
Fナンバー 8.20
半画角(度) 2.13
像高 21.64
レンズ全長 314.65
BF 105.35
無限遠合焦時 物体距離4.5m合焦時
d 5 21.82 2.50
d 7 38.83 58.15
レンズ群データ
群 始面 焦点距離
1 1 448.61
2 6 232.27
3 8 -84.76
3A 8 -610.16
3B 12 -41.84
3C 17 71.46
【0056】
【0057】
[撮像装置]
次に、本発明の光学系を撮像光学系として用いたデジタルスチルカメラ(撮像装置)の実施例に関して
図9を用いて説明する。
図9は、本発明の撮像装置の要部概略図である。
図9において、10はカメラ本体、11は実施例1乃至4で説明したいずれかの光学系によって構成された撮像光学系である。12はカメラ本体に内蔵され、撮像光学系11によって形成された光学像を受光して光電変換するCCDセンサやCMOSセンサ等の固体撮像素子(光電変換素子)である。カメラ本体10はクイックターンミラーを有する所謂一眼レフカメラでもよいし、クイックターンミラーを有さない所謂ミラーレスカメラでもよい。
【0058】
このように本発明の光学系をデジタルスチルカメラ等の撮像装置に適用することにより、全長とレンズ系が小型で、高いフォーカス性能を有する撮像装置を得ることができる。
【符号の説明】
【0059】
L1 第1レンズ群
L2 第2レンズ群
L3 第3レンズ群