(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】L-バリン生産微生物及びそれを用いたL-バリン生産方法
(51)【国際特許分類】
C12N 1/21 20060101AFI20240909BHJP
C12P 13/08 20060101ALI20240909BHJP
C12N 9/88 20060101ALI20240909BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20240909BHJP
【FI】
C12N1/21
C12P13/08 D ZNA
C12N9/88
C12N15/60
(21)【出願番号】P 2023514054
(86)(22)【出願日】2021-09-01
(86)【国際出願番号】 KR2021011717
(87)【国際公開番号】W WO2022050671
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】10-2020-0111084
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
【微生物の受託番号】KCCM KCCM12761P
(73)【特許権者】
【識別番号】514199250
【氏名又は名称】シージェイ チェイルジェダング コーポレイション
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ジン スク チャング
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヒェ キム
(72)【発明者】
【氏名】ビョン フン ユン
(72)【発明者】
【氏名】ジュ‐ヨン キム
(72)【発明者】
【氏名】ヒュン ジュン キム
(72)【発明者】
【氏名】ソン ヒョン チェ
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-537771(JP,A)
【文献】特表2018-512132(JP,A)
【文献】特表2016-526927(JP,A)
【文献】特表2012-528577(JP,A)
【文献】特表2008-538899(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03561055(EP,A1)
【文献】国際公開第2013/027709(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106520655(CN,A)
【文献】Metabolic Engineering,2015年,Vol.29,pp.66-75
【文献】Microbial Cell Factories,2018年,Vol.17, No.185,pp.1-10
【文献】Biotechnology Progress,2009年,Vol.25, No.3,pp.754-762
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/21
C12P 13/08
C12N 9/88
C12N 15/60
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(1)~(
6)
:
(1)強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び減少したトランスアミナーゼCの活性;
(2)強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性;
(3)強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び減少したクエン酸シンターゼの活性;
(4)強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;減少したトランスアミナーゼCの活性;及び弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性;
(5)強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;減少したトランスアミナーゼCの活性;及び減少したクエン酸シンターゼの活性;または
(6)強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性;及び減少したクエン酸シンターゼの活性
から選択されるいずれか一つ以上の組合わせを有する、L-バリン生産微生物
であって、コリネバクテリウム属微生物である、前記L-バリン生産微生物。
【請求項2】
前記微生物は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び減少したトランスアミナーゼCの活性を有する、請求項1に記載の微生物。
【請求項3】
前記微生物は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性を有する、請求項1に記載の微生物。
【請求項4】
前記微生物は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び減少したクエン酸シンターゼの活性を有する、請求項1に記載の微生物。
【請求項5】
前記微生物は、減少したトランスアミナーゼCの活性または弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性をさらに有する、請求項4に記載の微生物。
【請求項6】
前記ジヒドロキシ酸デヒドラターゼは、ilvD遺伝子によりコードされる、請求項1に記載の微生物。
【請求項7】
前記トランスアミナーゼCは、avtA遺伝子によりコードされる、請求項1に記載の微生物。
【請求項8】
前記ピルビン酸デヒドロゲナーゼは、aceE遺伝子によりコードされる、請求項1に記載の微生物。
【請求項9】
前記クエン酸シンターゼは、gltA遺伝子によりコードされる、請求項1に記載の微生物。
【請求項10】
前記弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3のアミノ酸配列のN末端から432番目または435番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された
ことを特徴とする、請求項1に記載の微生物。
【請求項11】
前記減少したクエン酸シンターゼは、配列番号4のアミノ酸配列のN末端から241番目または312番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された
ことを特徴とする、請求項1に記載の微生物。
【請求項12】
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項
1に記載の微生物。
【請求項13】
請求項1~
12のいずれか一項に記載の微生物を培養する段階を含む、L-バリンの生産方法。
【請求項14】
前記培養された微生物または培地からL-バリンを回収する段階をさらに含む、請求項
13に記載
の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、L-バリン生産微生物及び前記微生物を用いたL-バリンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分岐鎖アミノ酸の一つであるL-バリンは、微生物においてピルビン酸から出発してアセト乳酸(acetolactic acid)、ジヒドロキシイソ吉草酸(dihydroxy isovaleric acid)、ケトイソ吉草酸(ketoisovaleric acid)を経由して生合成される。このような中間代謝産物は、アセトヒドロキシ酸シンターゼ(acetohydroxy acid synthase)、アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼ(acetohydroxy acid isomeroreductase)、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(dihydroxy acid dehydratase)、トランスアミナーゼB(transaminase B)により触媒された反応により生成される。しかし、前記酵素はケト酪酸(ketobutyric acid)とピルビン酸から始まるL-イソロイシン生合成にも関与し、中間代謝物であるケトイソ吉草酸から2-イソプロピルリンゴ酸(2-isopropylmalic acid)、3-イソプロピルリンゴ酸(3-isopropylmalic acid)、ケトイソカプロン酸(ketoisocaproic acid)を経由してL-ロイシンが生合成されることもある。従って、前記のように分岐鎖アミノ酸、即ち、L-バリン、L-イソロイシン、L-ロイシンはその生合成過程に同一の酵素を用いるため、一つの分岐鎖アミノ酸を発酵を通じて工業的に製造するには困難があることが知られており、さらに最終産物であるL-バリンまたはその誘導体によるフィードバック阻害が発生し、これを工業的に大量製造するには制約が伴うという問題を有している。
【0003】
ただし、これまでフィードバック阻害を通じたバリンの生産方法に関する研究はあったが(米国登録特許第10457919号)、本出願の活性強化または活性減少した酵素の組合わせを通じたバリンの生産能の増大に関する研究はなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国登録特許第10457919号
【文献】米国特許US 7662943 B2
【文献】米国登録特許US 10584338 B2
【文献】米国登録特許US 10273491 B2
【非特許文献】
【0005】
【文献】Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16
【文献】Sambrook et al. Molecular Cloning 2012
【文献】Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444
【文献】Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277
【文献】Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453
【文献】Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)
【文献】Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990)
【文献】Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994
【文献】[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073
【文献】Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482
【文献】Schwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)
【文献】Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745
【文献】Biotechnology and Bioprocess Engineering, June 2014, Volume 19, Issue 3, pp 456-467
【文献】van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これに対し、本発明者は、効果的なL-バリン生産方法について持続的な研究を行った結果、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(dihydroxy-acid dehydratase)の活性強化;及びトランスアミナーゼC(transaminase C)の活性減少、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(pyruvate dehydrogenase)の活性弱化、クエン酸シンターゼ(Citrate synthase)の活性減少またはこれらの組合わせを含む微生物が前記酵素の野生型に比べてL-バリン生産能に優れることを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本出願の一つの目的は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び下記(1)~(3)から選択されるいずれか一つ以上の組合わせを有する、L-バリン生産微生物を提供することにある。
(1)減少したトランスアミナーゼCの活性
(2)弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性
(3)減少したクエン酸シンターゼの活性
本出願の他の目的は、前記微生物を培養する段階を含む、L-バリンの生産方法を提供することにある。
【発明の効果】
【0008】
本出願のL-バリン生産微生物を培養する場合、高収率のL-バリン生産が可能である。これにより、産業的な面で生産の便宜性及び製造原価節減の効果が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下では、本出願をより詳細に説明する。
【0010】
一方、本出願で開示されたそれぞれの説明及び実施形態は、それぞれの異なる説明及び実施形態にも適用することができる。すなわち、本出願で開示された様々な要素の全ての組み合わせが、本出願の範囲に属する。また、以下に記載される具体的な記述により本出願の範囲が制限されるとは見られない。
【0011】
また、当該技術分野の通常の知識を有する者は、通常の実験のみを用いて本出願に記載された本出願の特定様態に対する多数の等価物を認知したり確認することができる。また、このような等価物は、本出願に含まれることが意図される。
【0012】
本出願の一つの様態は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び下記(1)~(3)から選択されるいずれか一つ以上の組合わせを有することを特徴とするL-バリン生産微生物を提供することである。
【0013】
(1)減少したトランスアミナーゼCの活性
(2)弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性
(3)減少したクエン酸シンターゼの活性
【0014】
一つの具体例として、前記バリン生産微生物は、前記微生物は強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性及び減少したトランスアミナーゼCの活性を有する微生物であってもよい。
【0015】
他の具体例として、前記バリン生産微生物は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性及び弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性を有する微生物であってもよい。
【0016】
他の具体例として、前記バリン生産微生物は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性及び減少したクエン酸シンターゼの活性を有する微生物であってもよい。
【0017】
他の具体例として、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性及び減少したクエン酸シンターゼの活性に、減少したトランスアミナーゼCの活性または弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性をさらに有する微生物であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0018】
本出願において、用語「ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(dihydroxy-acid dehydratase)」はピルビン酸(pyruvate)からアセトラクテート(acetolactate)を経てジヒドロキシイソ吉草酸(dihydroxy-isovalaerate)からケトイソ吉草酸(ketoiso-valerate)を経てL-バリンを生産する生合成経路においてL-バリンの前駆体であるケトイソ吉草酸(ketoiso-valerate)の合成に関与する酵素を意味する。本出願では、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性を強化させてケトイソ吉草酸の合成を増加させることによりL-バリンの生産量増加を図ることができる。
【0019】
本出願において、用語「トランスアミナーゼC(transaminase C)」は、ピルビン酸(pyruvate)からL-アラニンを合成する経路に関与する酵素を意味する。
【0020】
本出願において、用語「ピルビン酸デヒドロゲナーゼ(pyruvate dehydrogenase)」は、ピルビン酸からアセチル助酵素A(acetyl-coA)の合成に関与する酵素を意味する。
【0021】
本出願において、用語「クエン酸シンターゼ(Citrate synthase)」は、アセチル助酵素Aからクエン酸(citrate)を合成する酵素を意味する。
【0022】
本出願において、用語「強化」とは、タンパク質の活性が内在的活性に比べて増加することを意味する。前記強化は、活性化(activation)、上方制御(up-regulation)、過発現(overexpression)、増加(increase)などの用語と混用され得る。ここで、活性化、強化、上方制御、過剰発現、増加は、本来有していなかった活性を示すこと、または内在的活性または変形前の活性に比べて向上した活性を示すようになることを全て含むことができる。前記「内在的活性」とは、天然または人為的要因による遺伝的変異で形質が変化した場合、形質転換前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性を意味する。これは、「変形前の活性」と混用され得る。ポリペプチドの活性が、内在的活性に比べて「強化」、「上方制御」、「過剰発現」または「増加」するとは、形質転換前の親株または非変形微生物が本来有していた特定のポリペプチドの活性及び/または濃度(発現量)に比べて向上したことを意味する。
【0023】
前記強化は、外来のポリペプチドを導入するか、または内在的なポリペプチドの活性強化及び/または濃度(発現量)増加を通じて達成することができる。前記ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性の強化有無は、当該ポリペプチドの活性度、発現量または当該ポリペプチドから排出される産物の量の増加から確認することができる。
【0024】
前記ジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性の強化は、当技野においてよく知られた様々な方法の適用が可能であり、目的のポリペプチドの活性を改変前の微生物より強化させることができる限り、限定されない。具体的には、分子生物学の日常的な方法である当業者の通常の技術界によく知られた遺伝子工学及び/又はタンパク質工学を利用したものであってもよいが、これに限定されない(例えば、Sitnicka et al. Functional Analysis of Genes. Advances in Cell Biology. 2010, Vol. 2. 1-16, Sambrook et al. Molecular Cloning 2012など)。
【0025】
具体的には、本出願のジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性の強化は、
1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数の増加;
2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域を活性の強力な配列で交換;
3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の変形;
4)ポリペプチド活性が強化されるように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列の変形;
5)ポリペプチド活性が強化されるように前記ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列の変形(例えば、ポリペプチドの活性が強化されるように変形されたポリペプチドをコードするように前記ポリペプチド遺伝子のポリヌクレオチド配列の変形);
6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリペプチドまたはそれをコードする外来ポリヌクレオチドの導入;
7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化;
8)ポリペプチドの三次構造を分析して露出部位を選択して変形するか、または化学的に変形;または
9)前記1)~8)から選択される2以上の組み合わせであってもよいが、これに特に限定されるものではない。
【0026】
より具体的には、
前記1)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの細胞内コピー数の増加は、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが作動可能に連結された、宿主とは無関係に複製して機能し得るベクターの宿主細胞内への導入により達成されるものであってもよい。または、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、宿主細胞内の染色体内に1コピーまたは2コピー以上の導入により達成されるものであってもよい。前記染色体内への導入は、宿主細胞内の染色体内に前記ポリヌクレオチドを挿入することができるベクターが宿主細胞内に導入されることにより行うことができるが、これらに限定されない。前記ベクターは、前述の通りである。
【0027】
前記2)ポリペプチドをコードする染色体上の遺伝子発現調節領域(または発現調節配列)を活性の強力な配列での交換は、例えば、前記発現調節領域の活性をさらに強化するように欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはそれらの組合せにより配列上の変異の発生、またはより強い活性を有する配列への交換であってもよい。前記発現調節領域は、特にこれに限定されないが、プロモーター、オペレーター配列、リボソーム結合部位をコードする配列、ならびに転写及び解読の終結を調節する配列などを含んでもよい。一例として、本来のプロモーターを強力なプロモーターと交換させることであってもよいが、これらに限定されない。
【0028】
公知の強力なプロモーターの例としては、CJ1~CJ7プロモーター(米国特許US 7662943 B2)、lacプロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、ラムダファージPRプロモーター、PLプロモーター、tetプロモーター、gapAプロモーター、SPL7プロモーター、SPL13(sm3)プロモーター(米国登録特許US 10584338 B2)、O2プロモーター(米国登録特許US 10273491 B2)、tktプロモーター、yccAプロモーターなどがあるが、これらに限定されない。
【0029】
前記3)ポリペプチドをコードする遺伝子転写体の開始コドンまたは5’-UTR領域をコードする塩基配列の変形は、例えば、内在的開始コドンに比べてポリペプチド発現率がより高い他の開始コドンをコードする塩基配列で置換することであってもよいが、これらに限定されない。
【0030】
前記4)及び5)のアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列の変形は、ポリペプチドの活性を強化するように、前記ポリペプチドのアミノ酸配列またはポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を欠失、挿入、非保存的または保存的置換、またはこれらの組み合わせにより配列上の変異の発生、またはより強い活性を有するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列または活性が増加するように改良されたアミノ酸配列またはポリヌクレオチド配列への交換であってもよいが、これらに限定されるものではない。前記交換は、具体的には、相同組換えによりポリヌクレオチドを染色体内に挿入することにより行うことができるが、これらに限定されない。このときに使用されるベクターは、染色体の挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選別マーカーは下記に詳しく記述する内容の通りである。
【0031】
前記6)ポリペプチドの活性を示す外来ポリヌクレオチドの導入は、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示すポリペプチドをコードする外来ポリヌクレオチドの宿主細胞内の導入であってもよい。前記外来ポリヌクレオチドは、前記ポリペプチドと同一/類似の活性を示す限り、その由来や配列に制限はない。前記導入に用いられる方法は、公知の形質転換方法を当業者が適宜選択して行うことができ、宿主細胞内で前記導入されたポリヌクレオチドが発現されることによりポリペプチドが生成し、その活性が増加されてもよい。
【0032】
前記7)ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのコドン最適化は、内在ポリヌクレオチドが宿主細胞内で転写または翻訳が増加するようにコドン最適化したものであるか、または外来ポリヌクレオチドが宿主細胞内で最適化された転写、翻訳が行われるようにそのコドンを最適化したものであってもよい。
【0033】
前記8)ポリペプチドの三次構造を分析して露出部位を選択して変形または化学的に修飾することは、例えば、分析しようとするポリペプチドの配列情報を既知のタンパク質の配列情報が格納されたデータベースと比較することにより、配列の類似性の程度にしたがって、鋳型タンパク質候補を決定し、それに基づいて構造を確認し、変形または化学的に修飾する露出部位を選択して変形または修飾することであってもよい。
【0034】
本出願のベクターは、外来遺伝物質を他の細胞に人工的に運搬する媒介体として使用されるDNA分子であり、具体的には、適切な宿主内で目的のポリペプチドを発現させるように、適切な発現調節領域(または発現調節配列)に作動可能に連結された前記目的のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列を含むDNA製造物を含んでもよい。前記発現調節領域は、転写を開始するプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、及び転写及び解読の終結を調節する配列を含んでもよい。ベクターは、適切な宿主細胞に形質転換された後、宿主ゲノムとは無関係に複製または機能することができ、ゲノム自体に統合されてもよい。
【0035】
本出願で使用されるベクターは特に限定されず、当技術分野で知られている任意のベクターを使用することができる。通常使用されるベクターの例としては、天然または組換え状態のプラスミド、コスミド、ウイルス及びバクテリオファージを挙げることができる。例えば、ファージベクターまたはコスミドベクターとしてpWE15、M13、MBL3、MBL4、IXII、ASHII、APII、t10、t11、Charon4A及びCharon21Aなどを用いることができ、プラスミドベクターとしてpDZ系、pBR系、pUC系、pBluescriptII系、pGEM系、pTZ系、pCL系及びpET系などを用いることができる。具体的には、pDZ、pDC、pDCM2、pACYC177、pACYC184、pCL、pECCG117、pUC19、pBR322、pMW118、pCC1BACベクターなどを用いることができる。
【0036】
一例として、細胞内における染色体挿入用ベクターを通じて目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを染色体内に挿入することができる。前記ポリヌクレオチドの染色体内への挿入は、当業界に知られている任意の方法、例えば、相同組換え(homologous recombination)により行われてもよいが、これに限定されない。前記染色体の挿入有無を確認するための選別マーカー(selection marker)をさらに含んでもよい。前記選別マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選別、即ち、目的核酸分子の挿入有無を確認するためのものであり、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面ポリペプチドの発現のような選択可能表現型を付与するマーカーが使用されてもよい。選択剤(selective agent)が処理された環境では、選別マーカーを発現する細胞のみが生存するか、または他の発現形質を示すため、形質転換された細胞を選別することができる。
【0037】
本出願における用語「形質転換」とは、標的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むベクターを宿主細胞または微生物内に導入し、宿主細胞内で前記ポリヌクレオチドがコードするポリペプチドが発現できるようにすることを意味する。形質転換されたポリヌクレオチドは、宿主細胞内で発現できる限り、宿主細胞の染色体内に挿入されて位置するか、または染色体外に位置するかに関係なく、それらいずれも含んでもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、目的のポリペプチドをコードするDNA及び/又はRNAを含むことができる。前記ポリヌクレオチドは、宿主細胞内に導入されて発現できるものであれば、如何なる形態でも導入されてもよい。例えば、前記ポリヌクレオチドは、自体で発現されるのに必要な全ての要素を含む遺伝子構造体である発現カセット(expression cassette)の形態で宿主細胞に導入されてもよい。前記発現カセットは、通常、前記ポリヌクレオチドに作動可能に連結されているプロモーター(promoter)、転写終結信号、リボソーム結合部位、及び翻訳終結信号を含んでもよい。前記発現カセットは、自己複製可能な発現ベクターの形態であってもよい。また、前記ポリヌクレオチドは、それ自体の形態で宿主細胞に導入され、宿主細胞で発現に必要な配列と作動可能に連結されているものであってもよく、これに制限されない。
【0038】
また、前記において用語「作動可能に連結」されたとは、本出願の目的タンパク質をコードするポリヌクレオチドの転写を開始及び媒介させるプロモーター配列と前記ポリヌクレオチド配列が機能的に連結されていることを意味する。
【0039】
このようなタンパク質活性の強化は、対応するタンパク質の活性がなかったことが示されたり、またはその活性または濃度が野生型タンパク質や初期の微生物菌株における活性または濃度を基準として一般に、1%、10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%または500%、最大1000%または2000%まで増加することであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0040】
具体的には、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ活性の強化は、微生物内におけるジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性が野生型、変異前の微生物または当該タンパク質が非変形された微生物に比べて強化されてジヒドロキシイソ吉草酸(dihydroxy-isovalaerate)からL-バリンの前駆体であるケトイソ吉草酸(ketoiso-valerate)の合成が増加することにより、L-バリン生産能が増加したものであってもよい。
【0041】
本出願において、用語「減少」とは、本来微生物が天然の状態、または変異前の状態で示すタンパク質の活性、即ち、内在的活性またはタンパク質をコードする遺伝子の細胞内1コピーである時と比較した時、その活性が弱化されたりまたは活性がないこと(欠損)をいずれも含む概念であり、活性が0%以上~100%未満であることを意味する。
【0042】
このようなタンパク質「活性の減少」は、特にこれに制限されないが、前記タンパク質自体の活性が除去された場合または本来機能以下の効果を導き出すことを意味することである。すなわち、活性の減少は、具体的に「活性の欠損」と「活性の弱化」の両方を含む意味である。
【0043】
前記「活性の欠損」は、酵素またはタンパク質の発現が天然の野生型菌株、親株または当該タンパク質が非変形された菌株に比べて全く発現されていないか、または発現されてもその活性がないことを意味する。
【0044】
本出願において、前記活性の欠損は、当該分野においてよく知られている様々な方法の適用により達成されてもよい。前記方法の例として、1)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の全体または一部を欠損させる方法;2)前記タンパク質の活性が除去されるようにタンパク質をコードする前記遺伝子配列の変形、3)前記タンパク質をコードする前記遺伝子の転写体に相補的に結合するアンチセンスオリゴヌクレオチド(例えば、アンチセンスRNA)の導入;4)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のシャイン・ダルガノ(Shine-Dalgarno)配列の前にシャイン・ダルガノ配列と相補的な配列を付加して2次構造物を形成させてリボソーム(ribosome)の付着を不可能にさせる方法;5)前記タンパク質をコードする前記遺伝子のポリヌクレオチド配列のORF(open reading frame)の3’末端に反対方向に転写されるプロモーターを付加する方法(Reverse transcription engineering、RTE)などがあり、これらの組合わせでも達成することができるが、これについて、特に制限されるものではない。
【0045】
また、前記「活性の弱化」は、特にこれに制限されないが、本来の機能以下の効果を導き出すことを意味することであり、前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の一部を欠失させる方法;当該タンパク質の活性が減少するように突然変異された遺伝子で、染色体上の前記タンパク質をコードする遺伝子を代替する方法;前記タンパク質をコードする染色体上の遺伝子の発現調節配列に変異を導入する方法;前記タンパク質をコードする遺伝子の発現調節配列を活性が弱い配列で交換する方法(例えば、前記遺伝子のプロモーターを内在的プロモーターより弱いプロモーターで交換する方法)などからなってもよいが、これに制限されるものではなく、活性弱化のために公知となった方法が制限なく用いられる。
【0046】
このようなタンパク質活性の減少は、対応するタンパク質の活性が除去されたり、またはこの活性または濃度が野生型タンパク質や初期の微生物菌株における活性または濃度を基準として、一般に、0%、1%、5%、10%、15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%に減少されるものであってもよいが、これに制限されるものではない。
【0047】
具体的には、前記微生物においてトランスアミナーゼCの活性は、自然の野生型菌株、変異前の親株または当該タンパク質が非変形の菌株に比べて減少したものであってもよい。一つの具体例として、前記微生物は、トランスアミナーゼC遺伝子が欠損してトランスアミナーゼCタンパク質の活性がなかったりトランスアミナーゼC遺伝子の開始コドンコード配列がGTGに変形されてトランスアミナーゼCタンパク質の発現が減少して活性が弱化されたものであってもよい。
【0048】
また、具体的には、前記微生物においてピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性は、自然の野生型菌株、変異前の親株または当該タンパク質が非変形の菌株に比べて減少したものであってもよい。一つの具体例として、前記微生物は、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子が欠損してピルビン酸デヒドロゲナーゼタンパク質の活性がなかったりピルビン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の開始コドンコード配列がGTGに変形されてピルビン酸デヒドロゲナーゼタンパク質の発現が減少して活性が弱化されたものであってもよい。もう一つの具体例として、前記微生物においてピルビン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子の配列が変異されて前記微生物は、配列番号3のアミノ酸配列のN末端から432番目または435番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された、野生型タンパク質より弱化された活性を有するピルビン酸デヒドロゲナーゼ変異体が発現するものであってもよい。この時、前記野生型タンパク質より弱化された活性を有するピルビン酸デヒドロゲナーゼ変異体は、それぞれ配列番号5または配列番号6の配列を含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0049】
また、具体的には、前記微生物においてクエン酸シンターゼの活性は、自然の野生型菌株、変異前の親株または当該タンパク質が非変形の菌株に比べて減少したものであってもよい。一つの具体例として、前記微生物は、クエン酸シンターゼ遺伝子の欠損によりクエン酸シンターゼタンパク質活性を示さなかったりクエン酸シンターゼ遺伝子の開始コドンコード配列がGTGに変異されることにより、クエン酸シンターゼタンパク質の発現が減少し、この活性が弱化されたものであってもよい。もう一つの具体例として、前記微生物においてクエン酸シンターゼ遺伝子の配列が変異され、前記微生物は、配列番号4のアミノ酸配列のN末端から241番目または312番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換された、野生型タンパク質より減少した活性を有するクエン酸シンターゼ変異体を発現するものであってもよい。この時、前記野生型タンパク質より減少した活性を有するクエン酸シンターゼ変異体は、それぞれ配列番号7または配列番号8の配列を含んでもよいが、これに制限されるものではない。
【0050】
「他のアミノ酸で置換」は、置換前のアミノ酸と他のアミノ酸で置換されるものであれば、制限されない。具体的には、リシン、ヒスチジン、グルタミン酸、アスパラギン酸、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、プロリン、セリン、スレオニン、システイン、チロシン、アスパラギン、アルギニン及びグルタミンのいずれか一つのアミノ酸で置換されたものであってもよい。
【0051】
より具体的には、弱化された活性を有するピルビン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3のアミノ酸配列のN末端から432番目または435番目の位置に対応するアミノ酸が非極性アミノ酸で置換されたものであってもよい。
【0052】
また、より具体的には、減少した活性を有するクエン酸シンターゼは、配列番号4のアミノ酸配列のN末端から241番目または312番目の位置に対応するアミノ酸が極性または非極性アミノ酸で置換されたものであってもよい。
【0053】
本出願において用語「対応する(corresponding to)」は、タンパク質またはペプチドで列挙される位置のアミノ酸残基であるか、またはタンパク質またはペプチドで列挙される残基と類似または同一または相同のアミノ酸残基を指す。本出願で使用される「対応する領域」は、一般に、関連タンパク質または比較タンパク質における類似の位置を指す。
【0054】
本出願において、本出願に用いられるタンパク質内のアミノ酸残基位置に特定のナンバリングが用いられる。例えば、比較しようとする対象タンパク質と本出願のタンパク質配列を整列することにより、本出願のタンパク質のアミノ酸残基位置に対応する位置に対して再ナンバリングすることが可能である。
【0055】
本出願において、用語「相同性(homology)」または「同一性(identity)」とは、2つの与えられたアミノ酸配列または塩基配列相互間の類似度を意味し、百分率で表すことができる。用語の相同性及び同一性はしばしば互換的に使用することができる。
【0056】
保存された(conserved)ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列相同性または同一性は、標準的な配列アルゴリズムにより決定され、使用されるプログラムにより確立されたデフォルトギャップペナルティが共に使用されてもよい。実質的に、相同性を有したり(homologous)または同一の(identical)配列は、一般に、配列の全部または一部と中程度または高いストリンジェントな条件(stringent conditions)でハイブリダイズすることができる。ハイブリダイゼーションは、ポリヌクレオチドにおける一般のコドンまたはコドン縮退性を考慮したコドンを含有するポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションも含まれることが自明である。
【0057】
任意の2つのポリヌクレオチド配列またはポリペプチド配列が相同性、類似性または同一性を有するかどうかは、例えば、Pearson et al (1988) [Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85]: 2444でのようなデフォルトパラメータを用いて「FASTA」プログラムなどの既知のコンピュータアルゴリズムを使用して決定されてもよい。または、EMBOSSパッケージのニードルマンプログラム(EMBOSS:The European Molecular Biology Open Software Suite, Rice et al., 2000, Trends Genet. 16: 276-277)(バージョン5.0.0または以降のバージョン)で行われるような、ニードルマン-ウンシュ(Needleman-Wunsch)アルゴリズム(Needleman and Wunsch, 1970, J. Mol. Biol. 48: 443-453)を使用して決定されてもよい(GCGプログラムパッケージ(Devereux, J., et al, Nucleic Acids Research 12: 387 (1984)), BLASTP, BLASTN, FASTA (Atschul, [S.] [F.,] [ET AL, J MOLEC BIOL 215]: 403 (1990); Guide to Huge Computers, Martin J. Bishop, [ED.,] Academic Press, San Diego,1994,及び[CARILLO ETA/.](1988) SIAM J Applied Math 48: 1073を含む)。 例えば、国立生物工学情報データベースセンターのBLASTまたはClustalWを用いて相同性、類似性または同一性を決定することができる。
【0058】
ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの相同性、類似性または同一性は、例えば、Smith and Waterman, Adv. Appl. Math (1981) 2:482において公知となっているように、例えば、Needleman et al. (1970), J Mol Biol. 48:443のようなGAPコンピュータプログラムを用いて配列情報を比較することにより決定されてもよい。要約すると、GAPプログラムは、2つの配列中、より短いものにおける記号の総数であり、類似の配列された記号(すなわち、ヌクレオチドまたはアミノ酸)の数を除した値と定義することができる。GAPプログラムのためのデフォルトパラメータは、(1)二進法比較マトリックス(同一性のために1、そして非-同一性のために0の値を含む)、及びSchwartz and Dayhoff, eds., Atlas Of Protein Sequence And Structure, National Biomedical Research Foundation, pp. 353-358 (1979)により開示されているように、Gribskov et al(1986) Nucl. Acids Res. 14: 6745の加重比較マトリックス(またはEDNAFULL(NCBI NUC4.4のEMBOSSバージョン)置換マトリックス);(2)各ギャップのための3.0のペナルティ及び各ギャップにおいて各記号のための追加の0.10ペナルティ(またはギャップ開放ペナルティ10、ギャップ延長ペナルティ0.5);(3)末端ギャップのための無ペナルティを含むことができる。
【0059】
本出願において、用語「変異体(variant)」とは、一つ以上のアミノ酸が保存的置換(conservative substitution)及び/又は変形(modification)において、前記列挙された配列(the recited sequence)と相違するが、前記タンパク質の機能(functions)または特性(properties)が維持されたタンパク質を指す。変異体は、数個のアミノ酸置換、欠失または付加により識別される配列(identified sequence)と相違する。そのような変異体は、一般に、前記タンパク質のアミノ酸配列中の1つ以上のアミノ酸を変形し、前記変形されたタンパク質の特性を評価して識別されてもよい。即ち、変異体の能力は、本来タンパク質(native protein)に比べて増加したり、変わらなかったり、または減少される。他の変異体は、成熟タンパク質(mature protein)のN及び/又はC末端から一部分が除去された変異体を含んでもよい。前記用語「変異体」は、変異型変形、変異されたタンパク質、変異型ポリペプチド、変異などの用語(英文表現では、modification, modified protein, modified polypeptide, mutant, mutein,divergent, variantなど)が用いられ、変異された意味として用いられる用語であれば、これに制限されない。本出願の目的上、前記変異体は、天然の野生型または非変形タンパク質と対比してタンパク質の活性が減少または弱化されたものであってもよいが、これに制限されない。
【0060】
本出願において用語「保存的置換(conservative substitution)」は、あるアミノ酸を類似した構造的及び/または化学的性質を有する他のアミノ酸で置換させることを意味する。このようなアミノ酸置換は、一般に、残基の極性、電荷(塩基性、酸性)、溶解度、疎水性、親水性及び/又は両親媒性(amphipathic nature)における類似性に基づいて起こり得る。
【0061】
また、変異体は、ポリペプチドの特性と2次構造に最小限の影響を有するアミノ酸配列の欠損または付加を含んでもよい。例えば、ポリペプチドは、翻訳と同時に(co-translationally)または翻訳後に(post-translationally)タンパク質の移転(transfer)に関与するタンパク質N末端のシグナル(またはリーダ)配列とコンジュゲートすることができる。また、前記ポリペプチドは、ポリペプチドを確認、精製、または合成できるように他の配列またはリンカーとコンジュゲートされてもよい。
【0062】
本出願の用語、「L-バリン生産微生物」は、培地中の炭素源からL-バリンを野生型や非変形微生物と比較して過量で生産できる微生物を意味する。また、前記L-バリンを生産する微生物は、組換え微生物であってもよい。具体的には、L-バリンを生産することができれば、その種類が特に制限されないが、エンテロバクター(Enterbacter)属、エシェリキア(Escherichia)属、エルウィニア(Erwinia)属、セラチア(Serratia)属、プロビデンシア(Providencia)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属及びブレビバクテリウム(Brevibacterium)属に属する微生物であってもよい。より具体的には、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属またはエシェリキア(Escherichia)属に属する微生物であってもよい。
【0063】
より一層具体的には、エシェリキア属(Escherichia)微生物は、大腸菌(Escherichiacoli)であってもよく、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)であってもよいが、強化された活性を有するジヒドロキシ酸デヒドラターゼ;及び減少した活性を有するトランスアミナーゼC、弱化した活性を有するピルビン酸デヒドロゲナーゼまたは減少した活性を有するクエン酸シンターゼから選択されるいずれか一つ以上の組合わせが導入されたL-バリン生産量が増加されるエシェリキア属または、コリネバクテリウム属に属する微生物は、制限なく含まれてもよい。
【0064】
本出願で強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び下記(1)~(3)から選択されるいずれか一つ以上の組合わせを有する変形されたL-バリンを生産する微生物の親株は、L-バリンを生産する微生物であれば、特に制限されない。
【0065】
(1)減少したトランスアミナーゼCの活性
(2)弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性
(3)減少したクエン酸シンターゼの活性
【0066】
L-バリンを生産する微生物は、天然型微生物自体または外部のL-バリン生産機序と関連した遺伝子が挿入されたり、内在的遺伝子の活性を強化させたり減少(弱化または抑制)させて向上したL-バリン生産能を有するようになった微生物であってもよい。
【0067】
一つの具体例として、前記微生物は、野生型または変異前の親株よりジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性が強化され、野生型または変異前の親株よりトランスアミナーゼCの活性が減少したL-バリン生産微生物であってもよい。この時、前記ジヒドロキシ酸デヒドラターゼはilvD遺伝子によりコードされ、前記トランスアミナーゼCはavtA遺伝子によりコードされてもよい。前記遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0068】
他の具体例として、前記微生物は、野生型または変異前の親株よりジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性が強化され、野生型または変異前の親株よりピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性が弱化されたL-バリン生産微生物であってもよい。この時、前記ジヒドロキシ酸デヒドラターゼはilvD遺伝子によりコードされ、前記ピルビン酸デヒドロゲナーゼはaceE遺伝子によりコードされてもよい。前記遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0069】
他の具体例として、前記微生物は、野生型または変異前の親株よりジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性が強化され、野生型または変異前の親株よりクエン酸シンターゼの活性が減少したL-バリン生産微生物であってもよい。この時、前記ジヒドロキシ酸デヒドラターゼはilvD遺伝子によりコードされ、前記クエン酸シンターゼはgltA遺伝子によりコードされてもよい。前記遺伝子は、コリネバクテリウム・グルタミカム由来であってもよいが、これに制限されるものではない。
【0070】
また、前記微生物にさらに野生型または変異前の親株よりトランスアミナーゼCの活性が減少またはピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性が減少したL-バリン生産微生物であってもよく、もしくは野生型または変異前の親株よりトランスアミナーゼCの活性が減少し、ピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性が減少したL-バリン生産微生物であってもよい。
【0071】
本出願のもう一つの様態は、前記強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び下記(1)~(3)から選択されるいずれか一つ以上の組合わせを有することを特徴とするL-バリン生産微生物を培地で培養することを含む、L-バリンの生産方法に関する。
【0072】
(1)減少したトランスアミナーゼCの活性
(2)弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性
(3)減少したクエン酸シンターゼの活性
【0073】
本出願の「L-バリン」は、L-バリンそれ自体の形態だけでなく、その塩の形態も全て含まれる。
【0074】
本出願において、用語「培養」とは、前記微生物を適切に調節された環境条件で生育させることを意味する。本出願の培養過程は、当業界に知られている適当な培地と培養条件に応じて行うことができる。このような培養過程は、選択される菌株に応じて当業者が容易に調整して使用することができる。具体的には、前記培養は、回分式、連続式及び流加式であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0075】
本出願において、用語「培地」とは、前記微生物を培養するために必要とする栄養物質を主成分として混合した物質を意味し、生存及び発育に不可欠な水をはじめとする栄養物質及び発育因子などを供給する。具体的には、本出願の微生物の培養に用いられる培地及びその他の培養条件は、通常の微生物の培養に使用される培地であれば、特に制限なくいずれも使用できるが、本出願の微生物を適当な炭素源、窒素源、リン源、無機化合物、アミノ酸及び/又はビタミンなどを含有する通常の培地内で好気性条件下で温度、pH等を調節しながら培養することができる。
【0076】
本出願において、前記炭素源としては、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトースなどのような炭水化物;マンニトール、ソルビトールなどのような糖アルコール、ピルビン酸、乳酸、クエン酸などのような有機酸;グルタミン酸、メチオニン、リシンなどのようなアミノ酸などを含むことができる。また、澱粉加水分解物、糖蜜、ブラックストラップ糖蜜、米ぬか、キャッサバ、バカス及びトウモロコシ浸漬液のような天然の有機栄養源を用いることができ、具体的には、グルコース及び殺菌された前処理糖蜜(すなわち、還元糖に転換された糖蜜)などのような炭水化物を使用することができ、その他の適量の炭素源を制限なく多様に利用することができる。これらの炭素源は、単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよく、これに限定されるものではない。
【0077】
前記窒素源としては、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、酢酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのような無機窒素源;グルタミン酸、メチオニン、グルタミンなどのようなアミノ酸、ペプトン、NZ-アミン、肉類抽出物、酵母抽出物、麦芽抽出物、トウモロコシ浸漬液、カゼイン加水分解物、魚類またはその分解生成物、脱脂大豆ケーキまたはその分解生成物などのような有機窒素源が使用されてもよい。これらの窒素源は、単独で使用し、2種以上を組み合わせて使用してもよく、これに限定されるものではない。
【0078】
前記リン源としては、リン酸第1カリウム、リン酸第2カリウム、またはそれに対応するナトリウム含有塩などが含まれてもよい。無機化合物としては、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化鉄、硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸マンガン、炭酸カルシウムなどが使用されてもよく、それ以外にアミノ酸、ビタミン及び/または適切な前駆体などが含まれてもよい。これらの構成成分または前駆体は、培地に回分式または連続式で添加されてもよい。しかし、これに限定されるものではない。
【0079】
本出願において、微生物の培養中に水酸化アンモニウム、水酸化カリウム、アンモニア、リン酸、硫酸などのような化合物を培地に適切な方法で添加し、培地のpHを調整することができる。また、培養中は脂肪酸ポリグリコールエステルなどのような消泡剤を用いて気泡生成を抑制することができる。また、培地の好気状態を維持するために、培地内に酸素または酸素含有気体を注入したり、嫌気及び微好気状態を維持するために、気体の注入なしに、あるいは窒素、水素または二酸化炭素ガスを注入することができ、これに限定されるものではない。
【0080】
培地の温度は20℃~50℃、具体的には、30℃~37℃であってもよいが、これに制限されない。培養期間は、有用物質の所望の生成量が得られるまで続けることができ、具体的には、10時間~100時間であってもよいが、これに制限されない。
【0081】
本出願の培養により生産されたL-バリンは、培地中に分泌されるか、または細胞内に残留存する。
【0082】
本出願のL-バリン生産方法は、本出願の微生物を準備する段階、前記菌株を培養するための培地を準備する段階、またはこれらの組み合わせ(順は無関係、in any order)を、例えば、前記培養段階の前に、さらに含むことができる。
【0083】
本出願のL-バリン生産方法は、前記培養による培地(培養済み培地)または本出願の微生物からL-バリンを回収する段階をさらに含むことができる。前記回収する段階は、前記培養する段階の後にさらに含むことができる。
【0084】
前記回収は、本出願の微生物の培養方法、例えば、回分式、連続式または流加式培養方法などにより当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて所望のL-バリンを収集(collect)することであってもよい。例えば、遠心分離、濾過、結晶化タンパク質沈殿剤による処理(塩析法)、抽出、超音波破砕、限外濾過、透析法、分子篩クロマトグラフィー(ゲルろ過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種クロマトグラフィー、HPLCまたはそれらの方法を組み合わせて使用することができ、当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて培地または微生物から所望のL-バリンを回収することができる。
【0085】
また、本出願のL-バリン生産方法は、さらに精製段階を含んでもよい。前記精製は、当該技術分野において公知となった適切な方法を用いて行うことができる。一例として、本出願のL-バリン生産方法が回収段階と精製段階の両方を含む場合、前記回収段階及び精製段階は、順序に関係なく連続的または非連続的に行われるか、または同時にまたは一つの段階に統合されて行うことができるが、これに限定されるものではない。
【0086】
本出願の方法において、ポリヌクレオチド、ベクター、微生物、L-バリンなどは、前記他の態様で記載された通りである。
【0087】
本出願のもう一つの様態は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び下記(1)~(3)から選択されるいずれか一つ以上の組合わせを有することを特徴とする微生物への変形を含む、L-バリン生産能を増加させる方法を提供する。
【0088】
(1)減少したトランスアミナーゼCの活性
(2)弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性
(3)減少したクエン酸シンターゼの活性
【0089】
本出願のもう一つの様態は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び下記(1)~(3)から選択されるいずれか一つ以上の組合わせを有する微生物のL-バリンの生産用途を提供する。
【0090】
(1)減少したトランスアミナーゼCの活性
(2)弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性
(3)減少したクエン酸シンターゼの活性発明の効果
【0091】
以下、本出願を実施例を通じてより詳細に説明する。しかし、これら実施例は、本出願を例示的に説明するためのものであり、本出願の範囲がこれら実施例に限定されるものではない。
【0092】
実施例1:バリン生産基盤菌株の製作及び評価
野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067とATCC13869にそれぞれ1種の変異[ilvN(A42V);Biotechnology and Bioprocess Engineering, June 2014, Volume 19, Issue 3, pp 456-467]を導入してL-バリン生産能が向上した菌株を製作した。
【0093】
具体的には、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型であるATCC14067菌株のゲノムDNAをG-spin Total DNA抽出ミニキット(Intron社、Cat.No 17045)を用いてキットに提供されたプロトコルにより抽出した。前記ゲノムDNAを鋳型とし、配列番号9と配列番号10のプライマー対及び配列番号11と配列番号12のプライマー対を用いてPCRを行い、それぞれ537bpの遺伝子断片をそれぞれ得た。PCRは、94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で30秒重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件で行った。
【0094】
前記両断片を鋳型とし、配列番号9と配列番号12をプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを実施して1044bpのPCR結果物(以下、「変異導入断片2」と命名する)を得た。
【0095】
前記得られた変異導入断片2を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターとT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いてライゲーションして変異導入断片2を含むベクターを製作した。前記ilvN遺伝子のA42V変異導入を目的とするベクターをpDZ-ilvN(A42V)と命名した。
【0096】
【0097】
その後、前記pDZ-ilvN(A42V)を野生型であるコリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067とATCC13869菌株にそれぞれ形質転換させ、染色体上で相同性組換えを誘導した(van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/lを含有した培地で選別した。
【0098】
その後、前記で選別されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に配列番号18と配列番号21を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、遺伝子配列の分析を通じて変異が正確に導入されていることを確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7V及びCJ8Vとそれぞれ命名した。
【0099】
野生株コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067とATCC13869菌株、前記CJ7V及びCJ8V菌株を対象に発酵力価実験を実施した。栄養培地で継代培養された各菌株を、生産培地25mlを含有する250mlのコーナーバッフルフラスコに接種し、30℃で72時間、200rpmで振盪培養した。その後、HPLCを用いてL-バリンの濃度を分析し、下記表2に示した。
【0100】
<栄養培地(pH7.2)>
ブドウ糖10g、肉汁5g、ポリペプトン10g、塩化ナトリウム2.5g、酵母エキス5g、寒天20g、ウレア2g(蒸溜水1リットル基準)
【0101】
<生産培地(pH7.0)>
ブドウ糖100g、硫酸アンモニウム40g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids)5g、尿素3g、第2リン酸カリウム1g、硫酸マグネシウム7水塩0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1mg、パントテン酸カルシウム2mg、ニコチンアミド3mg、炭酸カルシウム30g(蒸溜水1リットル基準)
【0102】
【0103】
前記結果から見られるように、野生型コリネバクテリウム・グルタミカムATCC14067及び13869菌株と対比してilvN(A42V)遺伝子変異が導入されたCJ7V及びCJ8V菌株のバリン生産能が増加したことを確認した。
【0104】
実施例2:バリン高生産能菌株の製作及び評価
実施例2-1.バリン生合成遺伝子ilvD強化菌株の製作及び評価
バリン生合成遺伝子であるilvD発現を強化したバリン高生産能の菌株を製作するために、下記配列番号13及び14のプライマー対、配列番号15及び16のプライマー対及び配列番号17及び18のプライマー対を用いて前記ilvD遺伝子のプロモーター交換のためのpDZ-Pcj7-ilvDベクターを製作した。
【0105】
【0106】
具体的には、pDZ-Pcj7-ilvDベクターの製作のために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型であるATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号13と配列番号14のプライマー対、配列番号15と配列番号16のプライマー対及び配列番号17と配列番号18のプライマー対を用いてPCRを行い、それぞれの断片を得た。PCRは、94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件で行った。
【0107】
前記断片を鋳型とし、配列番号13と配列番号18のプライマー対を用いたオーバーラッピング(Overlapping)PCRを実施して得られた変異導入断片3に制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)を処理し、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)でライゲーションしてpDZ-Pcj7-ilvDベクターを製作した。
【0108】
その後、前記製作されたpDZ-Pcj7-ilvDをバリン生産基盤菌株であるCJ7V、CJ8V及びKCCM11201Pにそれぞれ形質転換させて染色体上で相同性組換えを誘導した(van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/lを含有した培地で選別した。選別されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に配列番号13と配列番号18のプライマー対を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、遺伝子配列の分析を通じて変異が正確に導入されたことを確認した後、前記選別された組換え菌株をそれぞれコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7V:ilvD、CJ8V:ilvD、KCCM11201P:ilvDと命名した。選別されたilvD遺伝子強化菌株の発酵力価を実施例1と同様の方法で行い、その結果は下記の通りである。
【0109】
【0110】
前記結果から見られるように、バリン生合成遺伝子の一つであるilvDを強化した時にバリン生産基盤菌株のCJ7V、CJ8V及びKCCM11201P菌株がいずれもバリン生産能が増加することを確認した。
【0111】
実施例2-2.avtA欠損及び弱化(a1g)菌株の製作及び評価
バリン高生産能の菌株を製作するために、avtAを弱化(avtA遺伝子の開始コドンをGTGに変形)または欠損させようとした。これに、下記配列番号19及び20のプライマー対及び配列番号21及び22のプライマ一対を用いてavtA弱化菌株(avtA遺伝子の開始コドンをGTGに変形)製作用ベクター及び下記配列番号23及び24のプライマー対及び配列番号25及び26のプライマー対を用いてavtA欠損菌株製作用ベクターを製作し、それぞれpDZ-avtA(A1g)、pDZ-avtA(del)と命名した。
【0112】
具体的には、avtA弱化ベクター(pDZ-avtA(A1g))を製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号19と配列番号20のプライマー対及び配列番号21及び22のプライマーセットを用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片を鋳型とし、配列番号19と配列番号22のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片4を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)でライゲーションしてpDZ-avtA(A1g)DNAを製作した。
【0113】
avtA欠損ベクター(pDZ-avtA(del))を製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号23と配列番号24のプライマー対及び配列番号25及び26のプライマー対を用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片を鋳型とし、配列番号23と配列番号26のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片5を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)でライゲーションしてpDZ-avtA(del)ベクターDNAを製作した。
【0114】
avtA弱化及び欠損菌株ベクター製作プライマー配列
【表5】
【0115】
その後、pDZ-avtA(del)、pDZ-avtA(A1g)をバリン生産菌株であるCJ7V:ilvD、CJ8V:ilvD及びKCCM11201P:ilvDにそれぞれ形質転換させ、染色体上で相同性組換えを誘導した(van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/lを含有した培地で選別した。
【0116】
その後、前記で選別されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に、それぞれ配列番号19及び20、配列番号21及び22、配列番号23及び24、配列番号25及び26のプライマー対を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、前記実施例1と同様な方法で遺伝子配列の分析を通じて変異が正確に導入されていることを確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム CJ7V:ilvD-avtA(del)、CJ7V:ilvD-avtA(a1g)、CJ8V:ilvD-avtA(del)、CJ8V:ilvD-avtA(a1g)、KCCM11201P:ilvD-avtA(del)、KCCM11201P:ilvD-avtA(a1g)と下記のように命名し、実施例1と同様の方法で力価評価を行った。
【0117】
avtA欠損及び弱化菌株L-バリン生産能
【表6】
【0118】
前記結果から見られるように、avtA欠損の場合、バリン生産能強化の効果があり、avtA発現を弱化させた場合には、CJ8V:ilvD-avtA(a1g)菌株でCJ8V:ilvD菌株比バリン生産能の増加を確認し、対照菌であるilvD強化菌株と同等またはそれ以上の水準のバリン生産能を示した。表4におけるCJ7V、CJ8V及びKCCM11201P菌株と比較すると、ilvD強化及びavtA欠損や弱化の場合、いずれもバリン生産能が強化されたことを確認した。
【0119】
実施例2-3.aceE欠損及び弱化(a1g、Q432A、K435A)菌株の製作及び評価
バリン高生産能の菌株を製作するために、aceEを弱化または欠損させることにした。これにaceEが弱化した菌株を製作するために、配列番号27及び28、配列番号29及び30のプライマー対を用いてaceE遺伝子の開始コドンGTGに変形された菌株製作用ベクターを下記配列番号27及び32、配列番号33及び36のプライマー対を用いてaceE(Q432A)菌株製作用ベクター及び配列番号27及び34、配列番号35及び36のプライマー対を用いてaceE(K435A)菌株製作用ベクターを製作し、また、配列番号37及び38、配列番号39及び40のプライマー対を用いてace欠損(aceE(del))菌株製作用ベクターを製作した。前記製作されたベクターをそれぞれpDZ-aceE(A1g)、pDZ-aceE(Q432A)、pDZ-aceE(K435A)、pDZ-aceE(del)と命名した。
【0120】
具体的には、aceEの開始コドンを弱化するベクターを製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号27と配列番号28のプライマー対及び配列番号29と配列番号30を用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片を鋳型とし、配列番号27と配列番号30のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片6を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いてライゲーションしてPDZ-aceE(A1g)ベクターDNAを製作した。
【0121】
aceE(Q432A)変異を導入するベクターを製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号27と配列番号28及び配列番号33と配列番号36のプライマー対を用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片を鋳型とし、配列番号27と配列番号36のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片7を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いてライゲーションしてPDZ-aceE(Q432A)ベクターDNAを製作した。
【0122】
aceE(K435A)変異を導入するベクターを製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号27と配列番号34及び配列番号35と配列番号36のプライマー対を用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片を鋳型とし、配列番号27と配列番号36のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片8を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いてライゲーションしてpDZ-aceE(K435A)ベクターDNAを製作した。
【0123】
aceE(del)変異を導入するベクターを製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号37と配列番号38及び配列番号39と配列番号40のプライマー対を用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片を鋳型とし、配列番号37と配列番号40のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片9を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターとT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いてライゲーションしてPDZ-aceE(del)ベクターDNAを製作した。
【0124】
aceE欠損及び弱化菌株ベクター製作プライマー配列
【表7】
【0125】
その後、pDZ-aceE(del)、pDZ-aceE(A1g)、pDZ-aceE(Q432A)、pDZ-aceE(K435A)をバリン生産菌株であるCJ7V:ilvD、CJ8V:ilvD及びKCCM11201P:ilvDにそれぞれ形質転換させ、染色体上で相同性組換えを誘導した(van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/lを含有した培地で選別した。
【0126】
その後、前記で選別されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に配列番号27と配列番号36のプライマー対を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、遺伝子配列の分析を通じて変異が正確に導入されていることを確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7V:ilvD-aceE(del)、CJ7V:ilvD-aceE(a1g)、CJ7V:ilvD-aceE(Q432A)、CJ7V:ilvD-aceE(K435A)、CJ8V:ilvD-aceE(del)、CJ8V:ilvD-aceE(a1g)、CJ8V:ilvD-aceE(Q432A)、CJ8V:ilvD-aceE(K435A)、KCCM11201P:ilvD-aceE(del)、KCCM11201P:ilvD-aceE(a1g)、KCCM11201P:ilvD-aceE(Q432A)、KCCM11201P:ilvD-aceE(K435A)と下記のように命名し、実施例1と同様の方法で力価評価を行った。
【0127】
aceE欠損及び弱化菌株L-バリン生産能
【表8】
【0128】
前記結果から見られるように、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(ilvD)の活性が強化された菌株においてaceEが追加で欠損した菌株の場合、生育及び糖消耗速度が急激に低下してバリン生産能が減少した。これに対し、aceEが弱化された菌株の場合、弱化程度に応じて差があるものの、生育及び糖消耗速度の低下がわずかであり、バリン生産能が増加することを確認した。
【0129】
実施例2-4.gltA弱化(a1g、N241T、M312I)菌株の製作及び評価
バリン高生産能の菌株を製作するために、gltAを弱化させようとした。これに配列番号41及び42、配列番号43及び44のプライマー対を用いてgltA遺伝子の開始コドンがGTGに変形されたgltA弱化菌株製作用ベクター、配列番号45及び46、配列番号47及び50のプライマー対を用いてgltA(N241T)菌株製作用ベクター及び配列番号45及び48、配列番号49及び50のプライマー対を用いてgltA(M312I)菌株製作用ベクターを製作し、それぞれそれぞれ、pDZgltA(A1g)、pDZ-gltA(N241T)、pDZ-gltA(M312I)と命名した。
【0130】
gltA開始コドン弱化変異を導入するベクターを作製するために、コドンコリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号41と配列番号42及び配列番号43と配列番号44のプライマー対を用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片(A、B)を鋳型とし、配列番号41と配列番号44のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片10を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)でライゲーションしてpDZ-gltA(A1g)ベクターDNAを製作した。
【0131】
gltA(N241T)変異を導入するベクターを製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号45と配列番号46及び配列番号47と配列番号50のプライマー対を用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片(A、B)を鋳型とし、配列番号45と配列番号50のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片11を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)でライゲーションしてpDZ-gltA(N241T)ベクターDNAを製作した。
【0132】
gltA(M312I)変異を導入するベクターを製作するために、コリネバクテリウム・グルタミカム野生型ATCC14067菌株のゲノムDNAを鋳型とし、配列番号45と配列番号48及び配列番号49と配列番号50のプライマー対を用いて94℃で5分間変性した後;94℃で30秒の変性、55℃で30秒のアニーリング、及び72℃で60秒の重合を25回繰り返した後;72℃で7分間重合反応の条件でPCRを行った。それぞれの得られた断片(A、B)を鋳型とし、配列番号45と配列番号50のプライマー対を用いてオーバーラッピング(Overlapping)PCRを行い、得られた変異導入断片12を制限酵素XbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で処理した後、同一の制限酵素で処理されたpDZベクターにT4リガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)でライゲーションしてpDZ-gltA(M312I)ベクターDNAを製作した。
【0133】
gltA弱化菌株ベクター製作プライマー配列
【表9】
【0134】
その後、pDZ-gltA(A1g)、pDZ-gltA(N241T),pDZ-gltA(M312I)をバリン生産菌株であるCJ7V:ilvD、CJ8V:ilvD及びKCCM11201P:ilvDにそれぞれ形質転換させ、染色体上で相同性組換えを誘導した(van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/lを含有した培地で選別した。
【0135】
その後、前記で選別されたコリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に配列番号45と配列番号50のプライマー対を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、遺伝子配列の分析を通じて変異が正確に導入されていることを確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカムCJ7V:ilvD-gltA(a1g)、CJ7V:ilvD-gltA(N241T)、CJ7V:ilvD-gltA(M312I)、CJ8V:ilvD-gltA(a1g)、CJ8V:ilvD-gltA(N241T)、CJ8V:ilvD-gltA(M312I)、KCCM11201P:ilvD-gltA(a1g)、KCCM11201P:ilvD-gltA(N241T)、KCCM11201P:ilvD-gltA(M312I)と命名し、実施例1と同様の方法で力価評価行った。
【0136】
【0137】
前記結果から見られるように、ジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(ilvD)の活性が強化された菌株でgltA弱化菌株の場合、弱化程度に応じて差があるものの、生育及び糖消耗速度が低下がわずかであり、バリン生産能が増加することを確認した。
【0138】
実施例2-5.有効変異形質組合わせ菌株の製作及び評価
前記実施例2-2~2-4で確認した結果から各変異の多様な組合わせ時にバリン生産能にシナジー効果があるかを確認することにした。pDZ-avtA(del)、pDZ-aceE(K435A)ベクターを実施例2-4で製作したバリン生産菌株であるCJ7V:ilvD-gltA弱化(N241T)、CJ8V:ilvD-gltA弱化(N241T)、KCCM11201P:ilvD-gltA弱化(N241T)にそれぞれ形質転換させた(van der Rest et al., Appl Microbiol Biotechnol 52:541-545, 1999)。相同性配列の組換えにより染色体上にベクターが挿入された菌株は、カナマイシン(kanamycin)25mg/lを含有した培地で選別した。
【0139】
その後、2次組換えが完了した前記コリネバクテリウム・グルタミカム形質転換株を対象に配列番号23と配列番号26のプライマー対及び配列番号27と配列番号36のプライマー対を用いたPCRを通じて遺伝子断片を増幅した後、遺伝子配列の分析を通じて変異挿入菌株を確認した。前記組換え菌株をコリネバクテリウム・グルタミカム下記のように命名し、実施例1と同様の方法で力価評価を行った。
【0140】
【0141】
前記結果から見られるように、i1vD強化及びgltA弱化形質にaceE弱化形質及びavtA欠損形質がそれぞれ導入されたとき、生育及び糖消耗速度は同等水準であり、バリン生産能がさらに増加することを確認した。
【0142】
前記においてpDZ-aceE(K435A)ベクターをKCCM11201P:ilvD-gltA弱化(N241T)菌株に形質転換させ、相同性配列の組換えにより染色体上にace(K435A)変異が導入された菌株をCA08-1592と命名し、2020年7月3日付でブダペスト条約下の国際寄託機関である韓国微生物保存センター(KCCM)に国際寄託してKCCM12761Pとして寄託番号の付与を受けた。
【0143】
以上の説明から、本発明が属する技術分野の当業者であれば、本出願がその技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態で実施されうることが理解できるだろう。これに関連し、以上で記述した実施例はあくまで例示的なものであり、限定的なものでないことを理解すべきである。本出願の範囲は前記詳細な説明よりは、後述する特許請求の範囲の意味及び範囲、そしてその等価概念から導かれるあらゆる変更または変形された形態が本出願の範囲に含まれるものと解釈すべきである。
【0144】
【表12】
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼ(dihydroxy-acid dehydratase)の活性;及び下記(1)~(3)から選択されるいずれか一つ以上の組合わせを有する、L-バリン生産微生物。
(1)減少したトランスアミナーゼC(transaminase C)の活性
(2)弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼ(pyruvate dehydrogenase)の活性
(3)減少したクエン酸シンターゼ(Citrate synthase)の活性
(態様2)
前記微生物は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び減少したトランスアミナーゼCの活性を有する、態様1に記載の微生物。
(態様3)
前記微生物は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性を有する、態様1に記載の微生物。
(態様4)
前記微生物は、強化されたジヒドロキシ酸デヒドラターゼの活性;及び減少したクエン酸シンターゼの活性を有する、態様1に記載の微生物。
(態様5)
前記微生物は、減少したトランスアミナーゼCの活性または弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼの活性をさらに有する、態様4に記載の微生物。
(態様6)
前記ジヒドロキシ酸デヒドラターゼは、ilvD遺伝子によりコードされる、態様1に記載の微生物。
(態様7)
前記トランスアミナーゼCは、avtA遺伝子によりコードされる、態様1に記載の微生物。
(態様8)
前記ピルビン酸デヒドロゲナーゼは、aceE遺伝子によりコードされる、態様1に記載の微生物。
(態様9)
前記クエン酸シンターゼは、gltA遺伝子によりコードされる、態様1に記載の微生物。
(態様10)
前記弱化したピルビン酸デヒドロゲナーゼは、配列番号3のアミノ酸配列のN末端から432番目または435番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたものである、態様1に記載の微生物。
(態様11)
前記減少したクエン酸シンターゼは、配列番号4のアミノ酸配列のN末端から241番目または312番目の位置に対応するアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたものである、態様1に記載の微生物。
(態様12)
前記L-バリン生産微生物は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)である、態様1に記載の微生物。
(態様13)
前記コリネバクテリウム属微生物は、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、態様12に記載の微生物。
(態様14)
態様1~13のいずれか一項に記載の微生物を培養する段階を含む、L-バリンの生産方法。
(態様15)
前記培養された微生物または培地からL-バリンを回収する段階をさらに含む、態様14に記載のL-バリンの生産方法。
【配列表】