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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】ゲート駆動回路、電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20240909BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240909BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H02M7/48 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023522236
(86)(22)【出願日】2022-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2022007049
(87)【国際公開番号】W WO2022244361
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-07-26
(31)【優先権主張番号】P 2021086386
(32)【優先日】2021-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】土肥 昌宏
【審査官】安食 泰秀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-169407(JP,A)
【文献】特開2003-274672(JP,A)
【文献】特開2015-065742(JP,A)
【文献】特開平05-328746(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲート端子を有する半導体素子とゲート抵抗を介して接続され、前記ゲート端子に印加するゲート電圧を変化させて前記半導体素子を駆動させるゲート駆動回路であって、
前記半導体素子に流れる電流に関する所定の第1の閾値と、前記電流に関する閾値であって前記第1の閾値よりも大きい所定の第2の閾値と、前記半導体素子の温度に関する所定の第3の閾値と、前記温度に関する閾値であって前記第3の閾値よりも大きい所定の第4の閾値と、を表すマップが格納された記憶部と、
前記記憶部に格納された前記マップを参照して、前記電流が前記第1の閾値以上で前記第2の閾値以下であり、かつ、前記温度が前記第3の閾値以上で前記第4の閾値以下であるという条件を満たすか否かを判定する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記半導体素子に流れる電流の大きさを表す電流情報と、前記半導体素子の温度を表す温度情報と、を取得し、前記電流情報および前記温度情報に基づいて前記条件を満たすか否かを判定し、
前記制御部が前記条件を満たすと判定した場合に、前記半導体素子がターンオンするときの前記ゲート抵抗の抵抗値を、前記条件を満たさない場合よりも大きい値に切り替えるゲート駆動回路。
【請求項2】
請求項に記載のゲート駆動回路において、
前記ゲート電圧を供給するゲート電源と、
前記ゲート端子と接続される第1の抵抗素子と、
前記第1の抵抗素子と並列に前記ゲート端子と接続される第2の抵抗素子と、
前記ゲート電源と前記第1の抵抗素子の間の接続状態を切り替える第1のスイッチング素子と、
前記ゲート電源と前記第2の抵抗素子の間の接続状態を切り替える第2のスイッチング素子と、を備え、
前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子の切り替え状態を変化させることで、前記ゲート抵抗の抵抗値を切り替えるゲート駆動回路。
【請求項3】
請求項に記載のゲート駆動回路において、
前記条件を満たさない場合、前記第1のスイッチング素子および前記第2のスイッチング素子の両方をオン状態にして前記ゲート端子に前記ゲート電圧を印加することで、前記半導体素子をターンオンし、
前記条件を満たす場合、前記第1のスイッチング素子をオン状態、前記第2のスイッチング素子をオフ状態にして前記ゲート端子に前記ゲート電圧を印加することで、前記半導体素子をターンオンするゲート駆動回路。
【請求項4】
請求項1に記載のゲート駆動回路と、
前記半導体素子を有し、直流電源から供給される直流電力を前記半導体素子を用いて交流電力に変換するインバータと、を備える電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲート駆動回路および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉄道車両や電気自動車等の駆動用モータの制御では、省エネルギー化や低騒音化のため、複数のスイッチング素子により直流電力を交流電力に変換するインバータが広く利用されている。こうしたインバータにおいて、スイッチング素子には一般的に半導体素子が用いられており、特に近年では、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)の低価格に伴ってIGBTの採用が進んでいる。IGBTは電圧駆動型のスイッチング素子であり、ゲート駆動回路を用いてゲートに印加する電圧をオン、オフすることで、電流をオン、オフすることができる。
【0003】
モータ等の誘導負荷に流れる電流をIGBTを使って制御する場合、電源とIGBTの間の寄生インダクタンスにより、IGBTのスイッチング動作時にはサージ電圧やノイズが発生する。サージ電圧やノイズを抑制するためには、一般にIGBTのゲートに接続されるゲート抵抗を大きくすればよい。しかしながら、ゲート抵抗を大きくするとスイッチング損失が大きくなり、消費電力の増加や発熱等の問題が生じるという課題がある。
【0004】
上記課題を解決する技術として、例えば特許文献1が知られている。特許文献1では、負荷電流が所定値以下の場合、スイッチング素子のゲート抵抗値を大きくしてノイズ発生を低減し、負荷電流が所定値を超える場合でかつ、半導体スイッチング素子の温度が所定温度を超える場合にゲート抵抗値を小さくすることで、サージ電圧とノイズを抑制する半導体スイッチング装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第3820167号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、IGBTをスイッチング素子に用いたインバータ等の装置は、交流出力電流の各相に対して、IGBTにダイオードを逆並列接続したアームを2つ直列に接続して構成された上下アーム回路を有している。この上下アーム回路において、ゲート電圧の変化に応じて一方のアームのIGBTがターンオンする場合、対となる他方のアームのダイオードはリカバリ動作を行う。このとき、直流電源とダイオードの間の寄生インダクタンスにより、リカバリサージと呼ばれるサージ電圧がダイオードにおいて発生する。このリカバリサージの大きさは、負荷電流や温度に応じて変化し、ある電流値と温度においてピークを持つ。そのため、特許文献1に開示された半導体スイッチング装置のように、負荷電流と温度がそれぞれ所定値を超える場合にゲート抵抗値を小さく切り替えても、負荷電流や温度によってはサージ電圧を十分に抑制することができずに、ノイズやスイッチング損失が発生してしまう場合がある。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて、半導体素子において生じるノイズやスイッチング損失を十分に抑制可能なゲート駆動回路および電力変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によるゲート駆動回路は、ゲート端子を有する半導体素子とゲート抵抗を介して接続され、前記ゲート端子に印加するゲート電圧を変化させて前記半導体素子を駆動させるものであって、前記半導体素子に流れる電流に関する所定の第1の閾値と、前記電流に関する閾値であって前記第1の閾値よりも大きい所定の第2の閾値と、前記半導体素子の温度に関する所定の第3の閾値と、前記温度に関する閾値であって前記第3の閾値よりも大きい所定の第4の閾値と、を表すマップが格納された記憶部と、前記記憶部に格納された前記マップを参照して、前記電流が前記第1の閾値以上で前記第2の閾値以下であり、かつ、前記温度が前記第3の閾値以上で前記第4の閾値以下であるという条件を満たすか否かを判定する制御部と、を備え、前記制御部は、前記半導体素子に流れる電流の大きさを表す電流情報と、前記半導体素子の温度を表す温度情報と、を取得し、前記電流情報および前記温度情報に基づいて前記条件を満たすか否かを判定し、前記制御部が前記条件を満たすと判定した場合に、前記半導体素子がターンオンするときの前記ゲート抵抗の抵抗値を、前記条件を満たさない場合よりも大きい値に切り替える。
本発明による電力変換装置は、ゲート駆動回路と、前記半導体素子を有し、直流電源から供給される直流電力を前記半導体素子を用いて交流電力に変換するインバータと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、半導体素子において生じるノイズやスイッチング損失を十分に抑制可能なゲート駆動回路および電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ダイオードのリカバリ特性を評価する回路の一例を示す図である。
図2】ダイオードの電流と電圧の変化を説明する図である。
図3】サージ電圧の電流依存性の一例を示す図である。
図4】ターンオン損失のコレクタ電流依存性の一例を示す図である。
図5】サージ電圧の温度依存性の一例を示す図である。
図6】本発明の一実施形態に係るゲート駆動回路の構成を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係るゲート抵抗切替信号の生成処理を示すフローチャートである。
図8】本発明の一実施形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0012】
以下に図1図5を参照して、本発明の原理を説明する。
【0013】
図1は、ダイオードのリカバリ特性を評価する回路の一例を示す図である。図1に示す回路は、直流電源1、配線寄生インダクタンス2、負荷インダクタンス3、IGBT4aおよび4b、ダイオード5aおよび5b、パルス発生器6、ゲート抵抗7により構成される。なお、図1に示す回路は、交流モータとインバータを組み合わせたモータ駆動システムの等価回路であり、負荷インダクタンス3が交流モータの巻線に、IGBT4a,4bおよびダイオード5a,5bがインバータの1相分にそれぞれ相当する。また、パルス発生器6はIGBT4aを駆動させる駆動回路に相当する。
【0014】
図1の回路では、IGBT4aとダイオード5a、IGBT4bとダイオード5bがそれぞれ逆並列に接続され、さらにこれらが直流電源1の高電位側と低電位側の間に直列に接続されている。IGBT4aとダイオード5aは下アームを形成し、IGBT4bとダイオード5bはインバータの上アームを形成する。これにより、インバータ1相分の上下アーム回路が形成される。下アームのIGBT4aのゲート端子には、ゲート抵抗7を介してパルス発生器6が接続されている。
【0015】
下アームのIGBT4aのコレクタは、上アームのIGBT4bのエミッタと接続されている。これらの間には、負荷インダクタンス3が接続されている。直流電源1の高電位側はIGBT4bのコレクタと接続されており、直流電源1の低電位側はIGBT4aのエミッタ側と接続されている。図1では、IGBT4bと直流電源1の間の配線における寄生インダクタンスを、配線寄生インダクタンス2として示している。
【0016】
図1の回路において、パルス発生器6がオン信号を発生させると、IGBT4aのゲート電圧が上昇してIGBT4aがオンする。このとき、直流電源1から負荷インダクタンス3を通してIGBT4aに電流が流れる。その後、パルス発生器6がオフ信号を発生させると、IGBT4aのゲート電圧が低下してIGBT4aがオフする。このとき、それまでにIGBT4aに流れていた電流は、負荷インダクタンス3とダイオード5bを還流する。
【0017】
図2は、図1の回路においてダイオード5bに電流が流れているときに、IGBT4aをオンした場合のダイオード5bの電流と電圧の変化を説明する図である。図2(a)はダイオード5bの電流波形と電圧波形を示し、図2(b)はダイオード5bにおけるキャリア分布の変化の様子を表す模式図を示す。
【0018】
図2(b)では、図2(a)の電流波形におけるA点、B点、C点のキャリア分布の様子をそれぞれ示している。A点では、IGBT4aがオフ状態であり、ダイオード5bに還流電流が定常通流している。このときダイオード5bは、図2(b)に示すように、低濃度のN-層においてpn接合からの注入により電子とホール(キャリア)が増加し、低抵抗状態となる。
【0019】
IGBT4aがオフからオンに切り替えられると、図2(a)に示すように、ダイオード5bに逆方向の電圧がかかり、ダイオード5bに流れる電流が減少する。このようにダイオード5bのアノード-カソード間に逆バイアスが加わると、ダイオード5b内に蓄積されたキャリアが吐き出されるため、ダイオード5b内は通常とは逆方向にリカバリ電流が流れる状態(いわゆるリカバリ状態)になる。B点はこのリカバリ電流のピーク点を示しており、B点でのダイオード5bのキャリア分布は、図2(b)に示すように、空乏層がN-層の途中まで広がった状態となる。N-層中に蓄積していたキャリアが減少するにつれて、ダイオード5bに流れるリカバリ電流は減少する。
【0020】
図1の回路では、ダイオード5bに上記のリカバリ電流が流れている間、リカバリ電流によるサージ電圧がアノード-カソード間に発生する。このサージ電圧は、リカバリ電流の大きさの時間変化di/dtと配線寄生インダクタンス2のインダクタンス値Lとの積(L×di/dt)で表される。
【0021】
C点は、リカバリ電流が0になる点を示している。このときダイオード5bでは、図2(c)に示すように、N-層中に蓄積していたキャリアが消滅することで、リカバリ電流が0となる。
【0022】
図3は、ダイオード5bにおけるサージ電圧の電流依存性の一例を示す図である。図3(a)では、図2(a)のA点に示した定常状態においてダイオード5bに流れるアノード電流の大きさと、その後にIGBT4aがオフからオンに切り替えられたときにダイオード5bのアノード-カソード間に生じるサージ電圧の大きさとの関係を示している。ここで、図3(a)における実線と破線は、ターンオン時のゲート抵抗値がR1、R2である場合のサージ電圧の電流依存性をそれぞれ示しており、R1<R2である。
【0023】
図3(a)に示すように、リカバリ時のサージ電圧は、ダイオード5bに流れる電流の最小値と最大値の間のある電流でピークを持つ。以下、その理由を説明する。
【0024】
図3(a)の各グラフにおいて、小電流側の点をα点、サージ電圧のピーク点をβ点、大電流側の点をγ点とそれぞれ定義する。図3(b)は、これらの各点におけるダイオード5bのキャリア分布模式図を示している。
【0025】
小電流側のα点ではダイオード5bに流れる電流が小さく、図3(b)に示すように、ダイオード5bにおいて蓄積されるキャリアが少ない。そのため、リカバリ電流の時間変化di/dtが小さくなり、ターンオン時の跳ね上がり電圧は小さい。一方、大電流側のγ点ではダイオード5bに流れる電流が大きく、図3(b)に示すように、ダイオード5bにおいて蓄積されるキャリアが多い。そのため、ターンオン時に空乏層が伸びにくく、リカバリ電流の流れる時間が長くなることで、時間変化di/dtが小さくなる。したがって、時間変化di/dtが最大となるのはα点、γ点のいずれでもなく、これらの間のある電流値に対応するβ点となる。すなわち、定常時にダイオード5bに蓄積されるキャリアの量はα点<β点<γ点となる一方で、リカバリ時にN-層からキャリアが吐き出される時間はα点>β点>γ点となる。その結果、リカバリ電流の時間変化di/dtは、β点において極大となる。
【0026】
例えばダイオード5bの定格電圧を650Vとすると、ターンオン時のゲート抵抗値がR1の場合には、図3(a)の実線で示すように、β点付近においてサージ電圧が定格電圧を超える電流領域が発生する。一方、ターンオン時のゲート抵抗値がR2の場合には、図3(a)の破線で示すように、α点からγ点の間の全電流領域において、サージ電圧<定格電流となる。すなわち、サージ電圧を低減するためにはゲート抵抗値をなるべく大きくすればよい。
【0027】
図4は、IGBT4aのターンオン損失のコレクタ電流依存性の一例を示す図である。図4では、IGBT4aをターンオンしたときに流れるコレクタ電流の大きさと、ターンオン時の損失との関係を示している。ここで、図4における実線と破線は、図3(a)と同様に、ターンオン時のゲート抵抗値がR1、R2である場合のターンオン損失のコレクタ電流依存性をそれぞれ示しており、R1<R2である。
【0028】
図4に示すように、コレクタ電流が大きいほどターンオン損失が大きくなる。また、ゲート抵抗値が大きいほどIGBT4aのターンオンは遅くなるため、ゲート抵抗値R1、R2でのIGBT4aのターンオン損失をそれぞれL1、L2とすると、全コレクタ電流領域においてL1<L2となる。
【0029】
図5は、ダイオード5bにおけるサージ電圧の温度依存性の一例を示す図である。図4では、ダイオード5bの温度と、IGBT4aがオフからオンに切り替えられたときにダイオード5bのアノード-カソード間に生じるサージ電圧の大きさとの関係を示している。図5に示すように、リカバリ時のサージ電圧は、ダイオード5bが使用される温度範囲の最小値と最大値の間のある温度でピークを持つ。この理由を以下に説明する。
【0030】
低温側ではアノードからのホールの注入が少なく、ダイオード5bにおいて蓄積されるキャリアが少ない。そのため、リカバリ電流の時間変化di/dtが小さくなり、ターンオン時の跳ね上がり電圧は小さい。一方、高温側ではアノードからのホールの注入が多く、ダイオード5bにおいて蓄積されるキャリアが多い。そのため、ターンオン時に空乏層が伸びにくく、リカバリ電流の流れる時間が長くなることで、時間変化di/dtが小さくなる。したがって、時間変化di/dtが最大となる温度は最低温度と最高温度のいずれでもなく、これらの間のある温度となる。
【0031】
以上のように、ゲート電圧の変化に応じて駆動されるIGBTとダイオードがそれぞれ逆並列に接続された上下アーム回路において、一方のアームがターンオンしたときに他方のアームのダイオードのアノード-カソード間に生じるサージ電圧は、ある電流と温度でそれぞれピークを持つ。本発明は、こうした上下アーム回路のサージ電圧の特性を考慮して、ダイオードの電流と温度の全領域に渡って、一方のアームのIGBTがターンオンしたときに生じる対アームのダイオードのサージ電圧を十分に抑制するとともに、IGBTのターンオン損失も十分に抑制できるゲート駆動回路を提供するものである。
【0032】
次に図6図8を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0033】
図6は、本発明の一実施形態に係るゲート駆動回路の構成を示す図である。図6に示すゲート駆動回路100は、IGBT4と接続され、IGBT4のゲート端子に印加するゲート電圧を変化させてIGBT4を駆動させる。IGBT4にはダイオード5が逆並列に接続されており、これらがアームを形成している。
【0034】
なお、図6では1アーム分のゲート駆動回路100の構成のみを示しているが、複数のアームを有するインバータに対して適用する場合、各アームに対して図6と同様のゲート駆動回路100がそれぞれ接続される。例えば、3相分の上下アーム回路を用いて直流電力を三相交流電力に変換し三相交流モータに出力するインバータの場合には、そのインバータが有する6つのアームのそれぞれに対して、図6のようなゲート駆動回路100が設けられる。ただし、マイコン15については、6つのアームで1つのマイコン15を共用してもよい。
【0035】
ゲート駆動回路100は、ゲート抵抗7a,7bおよび7c、pチャネルMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)11aおよび11b、nチャネルMOSFET12、ゲート電源13、ドライバIC14、マイコン15を備える。
【0036】
ゲート抵抗7a,7bおよび7cは、IGBT4のゲート端子とそれぞれ接続されている。ゲート抵抗7aとゲート抵抗7bは、ゲート電源13の正極側とIGBT4のゲート端子の間に互いに並列に接続され、ゲート抵抗7cは、ゲート電源13の負極側とIGBT4のゲート端子の間に接続されている。ゲート電源13とゲート抵抗7a、7bおよび7cとの間には、pチャネルMOSFET11a,11bおよびnチャネルMOSFET12がそれぞれ接続されており、これらのMOSFETのオン・オフ状態がドライバIC14によって切り替えられることで、ゲート電源13と各ゲート抵抗の間の接続状態が切り替えられる。
【0037】
マイコン15は、電流センサ16から出力される電流情報16aと、温度センサ17から出力される温度情報17aとを取得する。電流センサ16は、例えばIGBT4から交流モータ等の負荷への出力配線上に設置されており、この電流センサ16から出力される電流情報16aは、IGBT4のコレクタ-エミッタ間を通って負荷に出力される電流の大きさを表している。なお、IGBT4のセンスエミッタ端子からの出力信号を電流情報16aとして利用してもよい。また、温度センサ17は、IGBT4の周辺、例えばIGBT4の半導体チップ上やIGBT4を搭載したパワーモジュール上に設置されており、この温度センサ17から出力される温度情報17aは、IGBT4の温度を表している。なお、IGBT4を含むパワーモジュールを冷却する冷却水の温度を温度情報17aとして利用してもよい。
【0038】
マイコン15は、不図示の上位制御装置から入力される制御指令(例えばトルク指令)等に基づいてPWM信号15aを生成し、ドライバIC14へ出力する。ドライバIC14は、マイコン15からのPWM信号15aに応じて、pチャネルMOSFET11a,11bおよびnチャネルMOSFET12の各ゲート端子の電圧を変化させることにより、各MOSFETのオン・オフ状態を制御する。このときドライバIC14は、マイコン15からPWM信号15aとともに出力されるゲート抵抗切替信号15bに基づいて、pチャネルMOSFET11a,11bの一方のみ、またはこれら両方をオンさせるように、各ゲート端子の電圧を変化させる。
【0039】
pチャネルMOSFET11a,11bの一方または両方をオンにすると、ゲート電源13からゲート抵抗7a,7bを介してIGBT4のゲート端子に電圧が印加され、IGBT4がオンになる。このとき、nチャネルMOSFET12はオフにする。一方、pチャネルMOSFET11a,11bを両方ともオフにし、nチャネルMOSFET12をオンにすると、IGBT4のゲートに蓄積されていた電荷が放電され、IGBT4はオフになる。
【0040】
マイコン15は、その内部あるいは外部に、pチャネルMOSFET11a,11bおよびnチャネルMOSFET12に対する切り替え条件を表す情報であるマップ21が格納されたメモリ20を有する。マップ21は、例えば図6に示すように、電流に対する閾値Ith1,Ith2(Ith1<Ith2)と、温度に対する閾値Tth1,Tth2(Tth1<Tth2)とを表している。マイコン15は、このマップ21が表す閾値Ith1,Ith2,Tth1,Tth2と、電流情報16aおよび温度情報17aとに基づき、図7に示す処理を実行することにより、ゲート抵抗切替信号15bを生成してドライバIC14へ出力する。
【0041】
なお、上記の閾値Ith1,Ith2および閾値Tth1,Tth2は、図3(a)に例示したサージ電圧の電流依存性のピーク部分と、図5に例示したサージ電圧の温度依存性のピーク部分とにそれぞれ対応して設定される。すなわち、ダイオード5のサージ電圧の電流依存性のピーク部分がIth1とIth2の間に存在し、かつ、ダイオード5のサージ電圧の温度依存性のピーク部分がTth1とTth2の間に存在するように、これらの閾値が設定される。
【0042】
ここで、定常状態においてダイオード5に流れる還流電流の大きさは、IGBT4から負荷に流れる電流の大きさに応じて決定される。したがって、電流情報16aが表すIGBT4のコレクタ-エミッタ間の電流値を、ダイオード5に流れる還流電流の電流値の代わりに用いて、図3(a)に例示したサージ電圧の電流依存性を適用することができる。また、IGBT4とダイオード5は通常、同一の半導体チップ上に形成されている。したがって、温度情報17aが表すIGBT4の温度を、ダイオード5の温度の代わりに用いて、図5に例示したサージ電圧の温度依存性を適用することができる。
【0043】
図7は、本発明の一実施形態に係るゲート抵抗切替信号の生成処理を示すフローチャートである。図7のフローチャートに示す処理は、ゲート駆動回路100において、例えば一定の処理周期ごとにマイコン15によって実行される。
【0044】
ステップS101において、マイコン15は、電流情報16aを取得する。
【0045】
ステップS102において、マイコン15は、温度情報17aを取得する。
【0046】
ステップS103において、マイコン15は、メモリ20に格納されたマップ21を参照し、ステップS101、S102で取得した電流情報16aおよび温度情報17aがそれぞれ表す電流値Iおよび温度Tをマップ21と比較する。
【0047】
ステップS104において、マイコン15は、ステップS103の比較結果に基づき、電流値Iが閾値Ith1以上で閾値Ith2以下であり、かつ、温度Tが閾値Tth1以上で閾値Tth2以下であるという条件を満たすか否かを判定する。この条件を満たす場合、すなわちIth1≦I≦Ith2かつTth1≦T≦Tth2である場合には、ステップS104からステップS105へ進み、条件を満たさない場合には、ステップS104からステップS106へ進む。
【0048】
ステップS105において、マイコン15は、IGBT4のゲート抵抗値を大きくする指示をドライバIC14へ出力する。このときマイコン15は、例えばゲート抵抗切替信号15bを出力することで、ドライバIC14に対してゲート抵抗値を大きくする指示を行う。
【0049】
ステップS106において、マイコン15は、IGBT4のゲート抵抗値を小さくする指示をドライバIC14へ出力する。このときマイコン15は、例えばゲート抵抗切替信号15bの出力を停止することで、ドライバIC14に対してゲート抵抗値を小さくする指示を行う。
【0050】
ステップS105またはS106の処理を実行したら、マイコン15は図7のフローチャートに示す処理を終了する。
【0051】
次に、ゲート抵抗切替信号15bの有無によるドライバIC14の動作の違いについて説明する。
【0052】
マイコン15からゲート抵抗切替信号15bが入力されている場合、ドライバIC14は、マイコン15によりゲート抵抗値を大きくする指示が行われていると判断する。このときドライバIC14は、PWM信号15aに応じて、pチャネルMOSFET11a,11bの一方、例えばpチャネルMOSFET11aのみをオンにする。これにより、IGBT4のターンオン時のゲート抵抗値を、ゲート抵抗7a単体の抵抗値とする。
【0053】
一方、マイコン15からゲート抵抗切替信号15bが入力されていない場合、ドライバIC14は、マイコン15によりゲート抵抗値を小さくする指示が行われていると判断する。このときドライバIC14は、PWM信号15aに応じて、pチャネルMOSFET11a,11bの両方をオンにする。これにより、IGBT4のターンオン時のゲート抵抗値を、ゲート抵抗7a,7bの並列抵抗による抵抗値として、ゲート抵抗7a単体の抵抗値よりも小さくする。
【0054】
本実施形態のゲート駆動回路100は、以上説明した動作を行う。これにより、どのような電流、温度範囲においても、IGBT4およびダイオード5におけるノイズやスイッチング損失を抑制することができる。
【0055】
図8は、本発明の一実施形態に係る電力変換装置の構成を示す図である。図8に示す電力変換装置1000は、ゲート駆動回路100とインバータ200を有しており、直流電源300とモータ400に接続される。ゲート駆動回路100は、図6で説明した回路構成を有している。
【0056】
インバータ200は、モータ400のU相、V相、W相のそれぞれに対して、上下アーム回路201を有している。各上下アーム回路201は、IGBT4とダイオード5が逆並列に接続されたアームを2つ有しており、これらのアームが直流電源300の正極と負極の間に直列接続されている。各上下アーム回路201の上アームを構成するIGBT4のエミッタと、各上下アーム回路201の下アームを構成するIGBT4のコレクタとの間には、モータ400への出力線がそれぞれ接続されている。この出力線には電流センサ16が設けられており、図6で説明したように、各電流センサ16から出力される電流情報16aがゲート駆動回路100に入力される。
【0057】
インバータ200の各上下アーム回路201には、温度センサ17がそれぞれ設置されている。各温度センサ17は、上アームおよび下アームそれぞれのIGBT4の温度を検出し、図6で説明したように、温度情報17aをゲート駆動回路100に出力する。
【0058】
ゲート駆動回路100は、インバータ200の各上下アーム回路201が有するIGBT4のゲート端子と接続されており、各IGBT4のオン・オフ状態を制御することで、直流電源300から供給される直流電力を交流電力に変換し、モータ400へ出力する。このとき、電流情報16aおよび温度情報17aに基づいて前述のような動作を行うことにより、インバータ200の各上下アーム回路201が有するIGBT4をターンオンする際のゲート抵抗値を切り替える。これにより、ダイオード5で発生するサージ電圧を抑制し、電力変換装置1000におけるノイズやスイッチング損失を低減する。
【0059】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0060】
(1)ゲート駆動回路100は、ゲート端子を有する半導体素子であるIGBT4とゲート抵抗7a,7b,7cを介して接続され、ゲート端子に印加するゲート電圧を変化させてIGBT4を駆動させる。ゲート駆動回路100は、IGBT4に流れる電流が所定の閾値Ith1以上でIth1よりも大きい所定の閾値Ith2以下であり、かつ、IGBT4の温度が所定の閾値Tth1以上でTth1よりも大きい所定の閾値Tth2以下であるという条件を満たす場合に、IGBT4がターンオンするときのゲート抵抗の抵抗値を、この条件を満たさない場合よりも大きい値に切り替える。このようにしたので、半導体素子であるIGBT4やダイオード5において生じるノイズやスイッチング損失を十分に抑制可能なゲート駆動回路100を提供することができる。
【0061】
(2)ゲート駆動回路100は、閾値Ith1、Ith2、Tth1およびTth2を表すマップ21が格納されたメモリ20と、メモリ20に格納されたマップ21を参照して条件を満たすか否かを判定するマイコン15と、を備える。このようにしたので、上記の条件を満たすか否かを確実かつ容易に判定することができる。
【0062】
(3)マイコン15は、IGBT4に流れる電流の大きさを表す電流情報16aと、IGBT4の温度を表す温度情報17aと、を取得し(ステップS101,S102)、電流情報16aおよび温度情報17aに基づいて条件を満たすか否かを判定する(ステップS103,S104)。このようにしたので、IGBT4の状態に応じて上記の条件を満たすか否かを正確に判定することができる。
【0063】
(4)ゲート駆動回路100は、ゲート電圧を供給するゲート電源13と、IGBT4のゲート端子と接続される抵抗素子であるゲート抵抗7aと、ゲート抵抗7aと並列にIGBT4のゲート端子と接続される抵抗素子であるゲート抵抗7bと、ゲート電源13とゲート抵抗7aの間の接続状態を切り替えるpチャネルMOSFET11aと、ゲート電源13とゲート抵抗7bの間の接続状態を切り替えるpチャネルMOSFET11bと、を備える。ゲート駆動回路100は、pチャネルMOSFET11aおよびpチャネルMOSFET11bの切り替え状態を変化させることで、IGBT4がターンオンするときのゲート抵抗の抵抗値を切り替える。具体的には、上記の条件を満たさない場合(ステップS104:No)、pチャネルMOSFET11aおよびpチャネルMOSFET11bの両方をオン状態にしてゲート端子にゲート電圧を印加することで、IGBT4をターンオンする(ステップS106)。一方、上記の条件を満たす場合(ステップS104:Yes)、pチャネルMOSFET11aをオン状態、pチャネルMOSFET11bをオフ状態にしてゲート端子にゲート電圧を印加することで、IGBT4をターンオンする(ステップS105)。このようにしたので、IGBT4がターンオンするときのゲート抵抗の抵抗値を、確実かつ容易に切り替えることができる。
【0064】
なお、上述の実施形態では、電流情報16aが表すIGBT4のコレクタ-エミッタ間の電流値を、ダイオード5に流れる還流電流の電流値の代わりに用いることとした。また、温度情報17aが表すIGBT4の温度を、ダイオード5の温度の代わりに用いることとした。しかしながら、ダイオード5に流れる還流電流やダイオード5の温度を直接検出し、これらの検出結果に基づいて、IGBT4がターンオンするときのゲート抵抗の抵抗値を変化させるようにしてもよい。
【0065】
また、上述の実施形態では、直流電力を交流電力に変換するためのスイッチング素子としてIGBTを用いる例を説明したが、例えばMOSFETなど、他の半導体素子であってもよい。ゲート端子を有し、ゲート端子に印加するゲート電圧を変化させることで駆動可能なものであれば、任意の半導体素子を用いることができる。なお、MOSFETを用いる場合、MOSFETのボディダイオードをダイオード5として利用することも可能である。
【0066】
上述の実施形態では、図6に示した回路構成のゲート駆動回路100により、IGBT4の電流や温度に応じてIGBT4がターンオンするときのゲート抵抗の抵抗値を変化させる例を説明したが、他の回路構成のゲート駆動回路を用いてもよい。例えば、pチャネルMOSFET11a,11b以外のスイッチング素子を用いて、ゲート電源13とゲート抵抗7a,7bの間の接続状態を切り替えるようにしてもよい。IGBT4の電流や温度に応じてIGBT4がターンオンするときのゲート抵抗の抵抗値を変化させることができれば、任意の回路構成によるゲート駆動回路を用いて本発明を実現できる。
【0067】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0068】
1:直流電源、2:配線寄生インダクタンス、3:負荷インダクタンス、4,4a,4b:IGBT、5,5a,5b:ダイオード、6:パルス発生器、7,7a,7b,7c:ゲート抵抗、11a,11b:pチャネルMOSFET、12:nチャネルMOSFET、13:ゲート電源、14:ドライバIC、15:マイコン、15a:PWM信号、15b:ゲート抵抗切替信号、16:電流センサ、16a:電流情報、17:温度センサ、17a:温度情報、20:メモリ、21:マップ、100:ゲート駆動回路、200:インバータ、300:直流電源、400:モータ、1000:電力変換装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8