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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02P 3/00 20060101AFI20240909BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240909BHJP
   F02P 3/045 20060101ALI20240909BHJP
【FI】
F02P3/00 J
F02D43/00 301A
F02D43/00 301E
F02P3/00 B
F02P3/045 303F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2023529470
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2022003976
(87)【国際公開番号】W WO2022269976
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-10-23
(31)【優先権主張番号】P 2021102642
(32)【優先日】2021-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】弁理士法人開知
(72)【発明者】
【氏名】押領司 一浩
(72)【発明者】
【氏名】赤城 好彦
(72)【発明者】
【氏名】松下 貴和
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-273838(JP,A)
【文献】特開2015-090133(JP,A)
【文献】特開2015-166572(JP,A)
【文献】特開2015-175283(JP,A)
【文献】特開2016-217190(JP,A)
【文献】特開2017-190677(JP,A)
【文献】特開2021-092226(JP,A)
【文献】国際公開第2020/235219(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
F02P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転条件及び混合気の希釈状態に基づいて、前記内燃機関の筒内の混合気の点火に必要なエネルギの目標値を示す目標点火トータルエネルギを算出し、
点火時期における前記内燃機関の筒内の混合気の流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータに基づいて、点火装置に放電電流をアシストさせるとともに、前記点火装置に前記目標点火トータルエネルギに応じた点火エネルギを発生させるプロセッサを備え
前記点火装置は、1次コイル、2次コイル、3次コイル、及び点火プラグを備え、
前記1次コイルへの通電を遮断することにより、前記点火プラグの電極間に放電電流が流れ、放電期間内に前記3次コイルへ通電することにより、前記放電電流が増加し、
前記プロセッサは、
前記目標点火トータルエネルギが所定範囲より大きい場合、及び前記目標点火トータルエネルギが前記所定範囲内であり、かつ前記流速が閾値未満である場合、前記1次コイルと前記3次コイルによって、前記2次コイルに前記目標点火トータルエネルギに相当するエネルギを発生させ、
前記目標点火トータルエネルギが前記所定範囲内であり、かつ前記流速が前記閾値以上である場合、及び前記目標点火トータルエネルギが前記所定範囲より小さい場合、前記1次コイルのみによって、前記2次コイルに前記目標点火トータルエネルギに相当するエネルギを発生させ、
前記目標点火トータルエネルギが所定範囲より大きい場合、及び前記目標点火トータルエネルギが前記所定範囲内であり、かつ前記流速が前記閾値未満である場合、前記流速が大きくなるにつれて前記3次コイルへ通電するタイミングを早くし、
前記目標点火トータルエネルギが所定範囲内である場合、及び前記目標点火トータルエネルギが所定範囲より小さい場合、前記流速が大きくなるにつれて前記1次コイルへの通電期間を長くする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記プロセッサは、
前記内燃機関の運転条件、前記内燃機関の筒内の混合気の流れ状態を制御するアクチュエータの操作量、及び前記点火時期に基づいて、前記点火時期における前記内燃機関の筒内の混合気の流速を推定し、
前記流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータは、前記プロセッサによって推定された流速の値を示す流速推定値であり、
前記プロセッサは、
前記流速推定値が大きくなるにつれて、放電開始タイミングから放電電流のアシストを開始するタイミングまでの時間を示すアシスト遅れを小さくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記プロセッサは、
前記流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータの変化により前記流速が大きくなるにつれて、放電開始タイミングから放電電流のアシストを開始するタイミングまでの時間を示すアシスト遅れを小さくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータは、前記内燃機関の筒内の混合気の流れ状態を制御するアクチュエータの操作量である
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項4に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記アクチュエータは、タンブル制御弁であり、
前記プロセッサは、
前記タンブル制御弁の開度が大きくなるにつれて、放電開始タイミングから放電電流のアシストを開始するタイミングまでの時間を示すアシスト遅れを大きくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項6】
請求項4に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記アクチュエータは、吸気弁を閉じるタイミングを調整する可変バルブ機構であり、
前記プロセッサは、
前記可変バルブ機構の操作量と、前記流速が最大となる可変バルブ機構の操作量を示す基準操作量との差が大きくなるにつれて、放電開始タイミングから放電電流のアシストを開始するタイミングまでの時間を示すアシスト遅れを大きくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項7】
請求項4に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記アクチュエータは、スロットルバルブであり、
前記プロセッサは、
前記スロットルバルブの開度が大きくなるにつれて、放電開始タイミングから放電電流のアシストを開始するタイミングまでの時間を示すアシスト遅れを小さくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項8】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータは、点火時期であり、
前記プロセッサは、
前記点火時期が進角するにつれて、放電開始タイミングから放電電流のアシストを開始するタイミングまでの時間を示すアシスト遅れを小さくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の内燃機関の制御装置であって、
前記流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータは、
点火時期における放電プラズマの伸長速度であり、
前記プロセッサは、
前記伸長速度が大きくなるにつれて、放電開始タイミングから放電電流のアシストを開始するタイミングまでの時間を示すアシスト遅れを小さくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【請求項10】
請求項1からのいずれかに記載の内燃機関の制御装置であって、
前記プロセッサは、
前記点火装置の充電電源の電圧に基づき前記点火装置の最大発生可能エネルギを算出し、前記最大発生可能エネルギが小さくなるにつれて混合気の希釈度の目標値を小さくする
ことを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の燃費性能を向上するためには種々の方法があるが、内燃機関の燃料消費量を低減することが重要である。燃料消費量の低減には、内燃機関の運転中に発生するポンプ損失、冷却損失、排気損失、といった各種損失の低減が有効であり、ポンプ損失、冷却損失の低減手段として、燃料と空気の比率を量論混合比(理論混合比)に比べて希薄にして燃焼させる希薄燃焼や、燃焼ガスの一部を吸気側に戻して燃料と空気の混合気を希釈するEGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを活用した燃焼方式がある。以下では、希薄燃焼やEGRガスを活用した燃焼方式をまとめて「希釈燃焼」と記載する。
【0003】
この希釈燃焼を用いると、希釈燃焼を用いない場合に比べて吸気管圧力を上げることができるので、内燃機関の負荷の低い条件でのポンプ損失の低減ができる。また、希釈燃焼を用いない場合に比べて、同一燃料量を燃焼させる際の熱容量を増加させることができるため、混合気の燃焼温度を低下して冷却損失の低減を図ることができる。また、内燃機関の負荷の高い条件では、EGRガスを導入することによる自着火反応に至る反応進行が抑制されることで、異常燃焼の発生が抑制できる。これによって点火時期を最適時期に近づけるように進角することができるため、排気損失の低減ができるようになる。
【0004】
さて、燃料消費量を低減するためには、運転条件に応じて適切な混合気の希釈度(以下に示すガス燃料比)を設定する必要が有る。混合気の希釈度は、空気やEGRガスからなる混合ガスの質量和と燃料の質量の比(ガス燃料比G/F)、空気と燃料の質量比(空燃比A/F)、吸気ガス中のEGRの割合(EGR率)で評価することが多い。
【0005】
希釈度の大きな条件(希薄な混合気の状態)で失火を避けて燃焼を実現するためには、燃料の相対的な濃度が小さくなっているので、火花点火時に点火プラグから気筒内の混合気に供給する放電エネルギ量を増加させる必要が有る。また、供給する放電エネルギ量に対して影響を与える因子として、点火時期におけるプラグ周囲の混合気の流速がある。例えば、点火時期におけるプラグ周囲の混合気の流速が大きいと、放電の吹き消えが発生し、失火につながることが良く知られている。
【0006】
このため、筒内の流れの状態に応じて、点火プラグから気筒内の混合気に供給する放電エネルギ量を増加することが有効であることが知られており、例えば、特開2019-163745号公報(特許文献1)に記載されている内燃機関制御装置がある。この特許文献1は、放電電流波形の与え方を筒内の流速に応じて変更することを提案している。具体的には、放電電流波形において、電流値を所定値に維持する期間を設ける場合に、初期値から当該所定値までの変化率を流速に応じて設定する点火装置を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-163745号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1においては、初期電流に対して、維持する所定値が大きい場合に、流速に応じて初期値から当該所定値までの変化率を設定することで、火花放電の吹き消えの防止と、確実な点火を実現しつつ、無駄なエネルギ供給を抑制することができる。しかしながら、特許文献1では、点火プラグの摩耗について考慮されていない。
【0009】
本発明の目的は、内燃機関の着火不良を抑制しつつ、点火プラグの摩耗を抑制することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の内燃機関の制御装置は、内燃機関の運転条件及び混合気の希釈状態に基づいて、前記内燃機関の筒内の混合気の点火に必要なエネルギの目標値を示す目標点火トータルエネルギを算出し、点火時期における前記内燃機関の筒内の混合気の流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータに基づいて、点火装置に放電電流をアシストさせるとともに、前記点火装置に前記目標点火トータルエネルギに応じた点火エネルギを発生させるプロセッサを備え、前記点火装置は、1次コイル、2次コイル、3次コイル、及び点火プラグを備え、前記1次コイルへの通電を遮断することにより、前記点火プラグの電極間に放電電流が流れ、放電期間内に前記3次コイルへ通電することにより、前記放電電流が増加し、前記プロセッサは、前記目標点火トータルエネルギが所定範囲より大きい場合、及び前記目標点火トータルエネルギが前記所定範囲内であり、かつ前記流速が閾値未満である場合、前記1次コイルと前記3次コイルによって、前記2次コイルに前記目標点火トータルエネルギに相当するエネルギを発生させ、前記目標点火トータルエネルギが前記所定範囲内であり、かつ前記流速が前記閾値以上である場合、及び前記目標点火トータルエネルギが前記所定範囲より小さい場合、前記1次コイルのみによって、前記2次コイルに前記目標点火トータルエネルギに相当するエネルギを発生させ、前記目標点火トータルエネルギが所定範囲より大きい場合、及び前記目標点火トータルエネルギが前記所定範囲内であり、かつ前記流速が前記閾値未満である場合、前記流速が大きくなるにつれて前記3次コイルへ通電するタイミングを早くし、前記目標点火トータルエネルギが所定範囲内である場合、及び前記目標点火トータルエネルギが所定範囲より小さい場合、前記流速が大きくなるにつれて前記1次コイルへの通電期間を長くする

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、内燃機関の着火不良を抑制しつつ、点火プラグの摩耗を抑制することができる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】内燃機関のシステム構成を示す構成図である。
図2A】点火コイルの構成図である。
図2B】点火コイルに発生する電流を説明する図である。
図3】本発明が適用される内燃機関の制御装置の構成図である。
図4】本発明の実施形態の制御ブロック図である。
図5】本発明の実施形態の制御ブロックで実行する制御ステップを説明するための制御フローチャートである。
図6A】当量比と基準エネルギの関係を示す特性図である。
図6B】EGR率と補正係数の関係を示す特性図である。
図6C】点火時期圧力と補正係数の関係を示す特性図である。
図6D】点火時期温度と補正係数の関係を示す特性図である。
図7A】運転条件と基準流速の関係を示す特性図である。
図7B】可変バルブと補正係数の関係を示す特性図である。
図7C】タンブル制御弁と補正係数の関係を示す特性図である。
図7D】点火時期と補正係数の関係を示す特性図である。
図8A】目標点火トータルエネルギごとの流速に応じた1次通電期間と放電開始後の電流アシストタイミングの関係を示す特性図である。
図8B】実現される電流波形を示す特性図である。
図9】回転数が変わった場合の各種アクチュエータの状態を示すタイミングチャートである。
図10】可変バルブ操作量が変わった場合の各種アクチュエータの状態を示すタイミングチャートである。
図11】タンブル制御弁とスロットルバルブ開度が変わった場合の各種アクチュエータの状態を示すタイミングチャートである。
図12】点火時期が変わった場合の各種アクチュエータの状態を示すタイミングチャートである。
図13】本発明の実施形態の制御ブロックで実行する制御ステップを説明するための制御フローチャートである。
図14】バッテリ電圧が変わった場合の希釈度の目標値、実値の状態を示すタイミングチャートである。
図15】本発明の第2の実施形態の制御ブロック図である。
図16】本発明の実施形態の制御ブロックで実行する制御ステップを説明するための制御フローチャートである。
図17A】運転条件と基準アシストまでの期間(アシスト遅れ)の関係を示す特性図である。
図17B】可変バルブと補正係数の関係を示す特性図である。
図17C】タンブル制御弁の開度と補正係数の関係を示す特性図である。
図17D】点火時期と補正係数の関係を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
【0014】
本発明の実施形態は内燃機関の制御装置に係り、特に点火コイルを利用して点火プラグに火花放電を発生して混合気に着火する火花点火式の内燃機関に使用される内燃機関の制御装置に関するものである。本発明の実施形態の目的は、放電電流が、基本電流波形に対して、任意のタイミングで電流を加算できるような仕組みを対象に、点火時期におけるプラグ周囲の流速を考慮して、放電エネルギ波形を設定することができる内燃機関の制御装置を提供することにある。
【0015】
[第1の実施形態]
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明するが、以下に示す実施形態に共通の構成を図1乃至図3を用いて説明する。
【0016】
図1は、自動車に使用される火花点火式内燃機関のシステム構成を示しており、ガソリン燃料を気筒内に直接噴射する筒内燃料噴射装置13を備えている。
【0017】
内燃機関ENGは、火花点火燃焼を実施する自動車用の筒内噴射式内燃機関である。吸入空気量及び吸気温度を計測するエアフローセンサ1と、吸気を過給するための過給機のコンプレッサ4aと、吸気を冷却するためのインタークーラ7と、吸気管圧力を調整する電子制御スロットル2、不図示の湿度センサとタンブル制御弁が吸気管の各々の適宜位置に備えられている。
【0018】
ここで、湿度センサは相対湿度及び絶対湿度が検出可能なセンサである。また、内燃機関ENGには、各気筒のシリンダ14の中に燃料を噴射する燃料噴射装置13(インジェクタ)と、点火エネルギを供給する点火装置(以下、点火コイル16、点火プラグ17)が気筒ごとに備えられている。
【0019】
また、気筒内に流入する混合気、又は気筒内から排出する排気ガスを調整する可変バルブ5が、シリンダヘッドに備えられている。可変バルブ5を調整することにより、全気筒の吸気量及び内部EGR量を調整する。
【0020】
また、図示していないが燃料噴射装置13に高圧燃料を供給するための高圧燃料ポンプが燃料配管によって燃料噴射装置13と接続されており、燃料配管中には、燃料噴射圧力を計測するための燃料圧力センサが備えられている。また、内燃機関のピストン位置を検知するためのクランク角度センサ19が取り付けられている。クランク角度センサ19の出力情報はECU20(Engine Control Unit)に送られる。
【0021】
更に、排気エネルギによって過給機のコンプレッサ4aに回転力を与えるためのタービン4bと、タービン4bに流れる排気流量を調整するための電子制御ウェイストゲート弁11と、排気を浄化する三元触媒10と、空燃比検出器の一態様であって、三元触媒10の上流側にて排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ9とが排気管15の各々の適宜位置に備えられる。
【0022】
また、図示していないが内燃機関を巡る冷却水の温度を計測する水温センサ18が備えられている。さらに、図示していないが、排気管15の三元触媒10の下流から、吸気管のコンプレッサ4aの上流に排気を還流させるためのEGR管を備えている。また、EGR管には、EGR流量を制御するためのEGRバルブ(EGR機構)が、EGR管の各々の適宜位置に、取りつけられている。
【0023】
エアフローセンサ1、水温センサ18と空燃比センサ9から得られる出力情報は、内燃機関を制御するコントロールユニット(ECU20)に送られる。また、アクセル開度センサ12から得られる出力情報がECU20に送られている。アクセル開度センサ12は、アクセルペダルの踏み込み量、すなわち、アクセル開度を検出する。
【0024】
ECU20は、アクセル開度センサ12の出力情報に基づいて、要求トルクを演算する。すなわち、アクセル開度センサ12は、内燃機関への要求トルクを検出する要求トルク検出センサとして用いられる。また、ECU20は、クランク角度センサ19の出力情報に基づいて、内燃機関の回転速度を演算する。ECU20は、上記各種センサの出力情報から得られる内燃機関の運転状態に基づき、空気流量、燃料噴射量、点火時期、燃料圧力等の内燃機関の主要な作動量を最適に演算する。
【0025】
ECU20で演算された燃料噴射量は開弁パルス信号に変換され、燃料噴射装置13に送られる。また、ECU20で演算された点火時期で点火されるように、点火信号が点火コイル16に送られる。また、ECU20で演算されたスロットル開度(スロットルバルブ開度ともいう)は、スロットル駆動信号として電子制御スロットル2に送られる。
【0026】
吸気管から吸気バルブを経てシリンダ14内に流入した空気に対し、燃料が噴射され、混合気を形成する。混合気は所定の点火時期で点火プラグ17から発生される火花により爆発し、その燃焼圧によりピストンを押し下げて内燃機関の駆動力となる。更に、爆発後の排気ガスは排気管15を経て、三元触媒10に送りこまれ、排気成分は三元触媒10内で浄化され、外部へと排出される。
【0027】
点火コイル16は、低電圧側(バッテリ側)の1次コイルと高電圧側の2次コイルで構成され、高電圧を生成する仕組みとなっている。これらの2つのコイルに加えて、低電圧側に電流アシストを可能とする3次コイルを備える点火コイル16を適用した構成とする。図2A、2Bに本実施形態で適用するコイルの構成例と同コイルを用いた際に発生する放電電流を示す。なお、図2A、2Bでは、点火コイル16に通電するための具体的な回路は図示しない。
【0028】
図2Aは点火コイル16の構成、図2Bには放電電流、操作量である1次コイル通電状態、3次コイル通電状態の時間履歴を示す。通電状態は、通電が行われている状態をON、通電が行われていない状態をOFFで表す指標である。1次コイル通電ONからOFFに切り替えた際に高電圧側で放電電流が流れ始める。3次コイルへの通電が行われない場合、2次コイルに蓄積された磁気エネルギが放出され、徐々に放電電流が小さくなるように変化する。途中、3次コイルへ通電することで、2次コイルへのエネルギ供給をアシストすると、単調減少ではなく、放電電流の維持、増加などが可能になる。以下では、3次電流を通電することを電流アシスト、放電開始から電流アシスト開始までの時間をアシスト遅れ、と呼ぶ。
【0029】
このような内燃機関システムにおいて、次に本実施形態の詳細について説明する。図3は、本発明が適用される内燃機関の制御装置の構成を示す構成図である。エアフローセンサ1からの空気量情報、アクセル開度センサ12からのアクセル踏込情報、クランク角度センサ19からの角度情報等の入力信号は、制御部であるECU20の入力回路21に入力される。但し、入力信号はこれらだけに限られるものではないので、適宜に追加して説明する。
【0030】
入力された各センサの入力信号は、入出力ポート22内の入力ポートに送られる。入力ポートに送られた入力情報は、RAM23cに一時保管され、CPU23aで、所定の制御プログラムにしたがって演算処理される。演算処理の内容を記述した制御プログラムは、ROM23bに予め書き込まれている。
【0031】
制御プログラムにしたがって演算された内燃機関を制御する燃料噴射装置13や点火コイル16への作動量を示す出力情報は、RAM23cに一時保管された後、入出力ポート22内の出力ポートに送られ、夫々の駆動回路を経て燃料噴射装置13や点火コイル16へ送られる。尚、内燃機関にはこれら以外のアクチュエータも使用されているが、ここでは説明を省略する。
【0032】
本実施形態の場合は、駆動回路として点火制御部24を示しており、点火制御部24は、点火コイル16への通電時期や放電エネルギ量等を制御する。本実施形態においては、ECU20内に点火コイル16への通電時間や放電エネルギ量を制御するための点火制御部24を備えているが、これに限るものではなく、点火制御部24の一部、又は、点火制御部24の全てがECU20とは別の装置に実装されていても差し支えないものである。
【0033】
そして、ECU20は検出した空気量、クランク角、冷却水温、吸気温度、湿度等に応じて、点火プラグ17の放電エネルギを演算して適切なタイミング(通流時間や点火時期)に点火コイル16へ通電して、気筒内の混合気に着火するものである。
【0034】
図4は、本発明の実施形態の内燃機関の制御装置であるECU20内の点火制御部24で実施される放電エネルギ制御の概要を示す制御ブロックである。
【0035】
目標点火トータルエネルギ算出部41は、アクセル開度センサ12の出力情報から算出された要求トルクと、クランク角度センサ19の出力情報から算出された内燃機関の回転速度に基づいて、目標点火トータルエネルギ量を算出する機能を備えている。目標点火トータルエネルギ算出部41で算出された目標点火トータルエネルギ量は、次段の目標点火エネルギ実現部43に入力される。
【0036】
点火時期流速算出部42は、要求トルクと、回転速度及び可変バルブ、タンブル制御弁の操作量及び点火時期に基づいて、点火時期のプラグ周囲流速を算出する機能を備えている。点火時期流速算出部42で算出された点火時期のプラグ周囲流速も、次段の目標点火エネルギ実現部43に入力される。
【0037】
目標点火エネルギ実現部43は、目標点火トータルエネルギ量と点火時期のプラグ周囲流速に基づき、点火装置の操作量を決める。目標点火エネルギ実現部43は、基本電流波形を決める1次コイルの通電期間と、アシストのタイミング、期間を設定算出し、出力する。
【0038】
操作量補正部44は、点火装置が発生できるエネルギ量の実現可否を判断し、目標エネルギに影響する混合気の希釈度や、流速に影響するアクチュエータの操作量を補正するブロックである。最大発生可能エネルギ算出部44aでは、点火コイル16の電源電圧に基づき発生することができる最大エネルギを算出する。算出した最大エネルギは目標希釈度補正部44bに入力する。目標希釈度補正部44bは、同最大発生可能エネルギで実現可能な希釈度を算出し、算出した実現可能な希釈度に基づき、新たな空燃比の目標値(目標空燃比)とEGR率の目標(目標EGR率)を算出する。
【0039】
図5は、第1の実施形態における点火制御のための演算処理の制御フローを示す。ステップS501は、図4の目標点火トータルエネルギ算出部41で実行される処理であり、ステップS502は点火時期流速算出部42で実行される処理である。さらに、ステップS503は目標点火エネルギ実現部43で実行される処理である。
【0040】
[ステップS501]
ステップS501では、目標点火トータルエネルギを算出する。目標点火トータルエネルギは、例えば、混合気の当量比を基に算出する基準エネルギ、EGR率に応じたエネルギ量補正のための補正係数、点火時期の圧力に応じたエネルギ量補正のための補正係数、点火時期の温度に応じたエネルギ量補正のための補正係数、の積で算出することができる。
【0041】
続いて図6A乃至6Dを用いて、当量比と基準エネルギの関係61、EGR率と補正係数の関係62、点火時期圧力と補正係数の関係63、点火時期温度と補正係数の関係64、を説明する。
【0042】
特定の当量比範囲で着火に必要となるエネルギが最小化することが知られている。特定の当量比範囲は、燃料種や酸化剤の種類によって異なるが、ガソリンの場合は、量論混合比(ストイキオメトリ)に近い条件で最小化する。このため、基準エネルギは、当量比に対して下に凸の特性を持つような特性をしている(図6A)。
【0043】
同一トルク条件を想定した場合、EGR率の増加に伴い、点火プラグギャップ間に存在する混合気の質量や熱容量が増加する。この結果、点火コイル16が発生するエネルギが同一であっても、EGR率の増加に伴い、混合気の到達温度が下がる。同一の温度条件に到達させるためには、EGR率の増加に応じてエネルギ量を増加させる必要がある。このため、EGR率の増加に伴い補正係数は増加する特性(正の相関)をしている(図6B)。
【0044】
圧力の増加に伴う密度の変化は、点火プラグギャップ間に存在する混合気の質量や熱容量の増加を引き起こす。このため、圧力の異なる条件で、同一の温度条件に到達させるためには、圧力の増加に応じてエネルギ量を増加させる必要がある。このため、点火時期の圧力の増加に伴い補正係数は増加する特性(正の相関)をしている(図6C)。
【0045】
点火コイル16によるエネルギ供給によりプラグギャップ間の混合気を所定の温度に到達させることを考えると、点火前の温度が高いほど、供給する必要のある温度が少なくて良いことは明らかである。このため、点火時期における温度が高いほど、補正係数は減少する特性(負の相関)をしている(図6D)。
【0046】
図6A乃至6Dに示す特性を、予め実験やシミュレーションによりマップ化することで、図5のステップS501にて目標点火トータルエネルギを算出できる。当量比と基準エネルギの関係、EGR率、圧力、温度と基準エネルギの関係と逆の特性を持つ指標として層流燃焼速度がある。
【0047】
層流燃焼速度は、混合気に着火した際に火炎が伝播する速度を示す指標であり、特定の当量比に対して最大値を持ち、EGR率の増加と共に減少する特性(負の相関)を示し、圧力の増加とともに減少する特性(負の相関)を示し、温度の増加と共に増加する特性(正の相関)を示す。この関係から、式(1)のような関係を実験、シミュレーションにより構築し、目標点火トータルエネルギEの算出に用いることもできる。
E=A-B×(SL÷SL0)・・・(1)
【0048】
ここで、A、Bは正の数であり、エンジンの特性に応じて、実験やシミュレーションにより適合が必要となるパラメータである。また、SLは、点火時期の温度、圧力、当量比、及びEGR率に基づき決まる混合気の層流燃焼速度であり、SL0は基準条件の層流燃焼速度である。
【0049】
例えば基準条件としては、大気温度、大気圧力条件下における量論混合比、EGR率0%の条件を選定すればよい。また、層流燃焼速度SLは、実験により予め取得する、又は、既存の提案されている式を用いても良い。式(1)において層流燃焼速度の項にはマイナスが掛けられているため、式(1)で算出した目標点火トータルエネルギEは、特定の当量比に対して最小値を持つ、EGR率に対して正の相関を持つ、圧力に対して正の相関を持つ、温度に対して負の相関を持つ、といった特性を満足する。
【0050】
以上に示すような方法で、ステップS501における目標点火トータルエネルギの算出が可能である。このように目標点火トータルエネルギを設定することで、当量比、EGR率、点火時期の圧力、点火時期の温度、といった着火性に影響するパラメータを踏まえて適切なエネルギ目標値の設定ができる。
【0051】
[ステップS502]
ステップS502では、点火時期の点火プラグ周囲の流速を算出する。点火時期におけるプラグ周囲の流速は、エンジンの運転条件(エンジントルク、回転速度)、空気流動に関連するアクチュエータの操作量である可変バルブ操作量やタンブル制御弁開度、点火を行うタイミングである点火時期、に依存する。
【0052】
例えば、運転条件毎の基準流速と、可変バルブ操作量、タンブル制御弁開度、点火時期、のそれぞれに基づく流速の補正係数の積により流速を求める方法が一つある。本方法による流速を求める場合、運転条件と基準流速、並びに可変バルブ操作量、タンブル制御弁開度、点火時期のそれぞれと補正係数、がどのような関係にあるか図7A乃至7Dを用いて説明する。図7A乃至7Dに、運転条件と基準流速の関係71、可変バルブ操作量と補正係数の関係72、タンブル制御弁開度と補正係数の関係73、点火時期と補正係数の関係74、をそれぞれ示す。
【0053】
運転条件としては、エンジンの回転速度とエンジンの発生するトルク(エンジントルク)がある。エンジン内部に形成される渦の角速度はエンジンの回転速度に応じて変化する傾向にあり、エンジンの回転速度が大きいほど点火時期の流速が大きくなる傾向にある(回転速度と流速は正の相関がある)。エンジントルクが大きいほど、多くの空気がエンジン筒内に導入されることで、エンジン筒内での運動量が大きくなり、流速の増加が生じる可能性がある(スロットル開度と流速は正の相関がある)。
【0054】
一般的に、エンジントルクが大きいほど、スロットルの開度は大きい傾向にあることから、このことは、スロットル開度が大きいほど、点火時期における流速が大きいことと同意となる。このため、基準流速マップでは、エンジントルクが大きいほど流速が大きく、回転速度が大きいほど流速が大きくなるような特性をしている(図7A)。
【0055】
可変バルブの操作量に対しては、流速は所定の範囲で極大値を持つような特性を持つことから、補正係数は可変バルブの操作量の所定の範囲で極大値を持つ特性となる(流速の最大となる可変バルブ機構の操作量(基準操作量)からの実操作量の差が大きいほど、流速が小さい。基準操作量と実操作の差と流速に負の相関がある)。
【0056】
具体的には可変バルブを操作し吸気弁を極端に早く閉じる場合、エンジン筒内の流れが減衰し、点火時期における流速は小さくなる。一方で、吸気弁の閉じ時期が極端に遅い場合、エンジン筒内に導入された空気のうち一部が吸気管へと吹き戻り、エンジン筒内の運動量が減少し、点火時期における流速が小さくなる。
【0057】
このことから、可変バルブの操作量に対する流速の変化は所定の範囲で極大値を持つ特性となる(図7B)。
【0058】
タンブル制御弁は、同制御弁の操作により流路の一部を閉じることで、エンジン内部に流れ込むガスの流速を増加するための仕組みである。タンブル制御弁開度が大きい状態は、流路の塞ぐ量が相対的に小さいことを示す。タンブル制御弁の開度が大きい状態では、流路を塞ぐ量が相対的に小さく、点火時期における流速は小さくなり、タンブル制御弁の開度が小さい状態では、流路を塞ぐ量が相対的に大きく、点火時期における流速は大きくなる。
【0059】
このため、タンブル制御弁の開度に対して補正係数は負の相関を持つ(図7C)。筒内に形成される渦がタンブル渦である場合、ピストン上昇に伴い渦の半径が徐々に小さくなり、プラグ周囲の流速は小さくなる傾向がある。このため、点火時期が進角するに伴い補正係数が増加する特性となる(図7D)。これに基づく補正マップには、点火時期の進角化に伴い補正係数が大きくなるように設定されている。
【0060】
図7A乃至7Dに示す特性を予め実験やシミュレーションによりマップ化し用いることで、ステップS502にて点火時期における点火プラグ周囲流速を算出できる。また、点火時期における点火プラグ周囲流速Vを算出する方法としては、次に示すようなモデル式(2)、(3)による算出もできる。
RT=(0.25×Vadv÷π)^(1÷3)・・・(2)
V=π×RT×Ne×NT÷30・・・(3)
【0061】
ここで、Vadvは点火時期における筒内容積(m)、RTはタンブル渦径(m)、Neはエンジン回転速度(rpm)、NTはタンブル比、πは円周率である。
【0062】
タンブル比は、エンジンの特性であり、シミュレーションや実験にて予め算出し、マップ又は関数化する。タンブル制御弁の状態に応じてタンブル比をマップ化しておくことで、タンブル比の影響を反映できる。式(3)では、エンジン回転速度、点火時期の違いを表現できるが、エンジントルク、可変バルブの操作量の影響を表現できていない。これらを表現するために、図7A乃至7Dに示した可変バルブと補正量の関係のマップから算出する補正係数との積を求めることで流速の算出ができる。
【0063】
このように点火時期における流速を算出することで、運転条件、空気流動に影響する各種アクチュエータ(可変バルブ、タンブル制御弁)、点火時期、といった流速に影響するパラメータを踏まえて適切な流速を算出できる。
【0064】
[ステップS503]
目標点火トータルエネルギEと流速Vに基づき1次コイルの通電時間、アシストタイミングを算出する。これらは、例えば、目標点火トータルエネルギの水準に応じて1次コイルの通電時間、アシストタイミングの関係をあらかじめ決めておき、決めておいた関係に基づき設定することができる。
【0065】
図8A及び8Bに、目標点火トータルエネルギと流速に応じた1次コイルの通電時間、アシストタイミングの関係を示す。図8A及び8Bには目標トータルエネルギが大きい場合、目標トータルエネルギが中程度の場合、目標トータルエネルギが小さい場合、を示す。
【0066】
目標点火トータルエネルギが大きい場合は、目標点火トータルエネルギの発生を点火アシスト無しでは実現できない程度の範囲を想定した設定である。目標点火トータルエネルギが中程度の場合は、1次コイルの通電時間の設定範囲内で、流速条件によらず目標点火トータルエネルギを実現できる範囲を想定したものである。目標点火トータルエネルギが小さい場合は、流速条件が小さい条件では、1次コイルの通電時間を小さくすることで実現できる範囲を想定したものである。
【0067】
目標点火トータルエネルギが大きい場合は、流速に応じてアシストタイミングを変更する。図8Aに示すとおり、1次コイルの通電時間は流速条件によらず概ね一定に設定され、流速が大きいほど点火アシストタイミングが早期化するように設定される。
【0068】
これは、流速が大きいほど、点火プラグギャップ間に形成される放電路が早く伸び、放電路の再形成が行われ、一度形成された火炎へのエネルギ供給が停止してしまう時刻が早期化するからである。アシスト無しでは放電開始から早いタイミングで放電路の再形成が生じてしまい、目標点火トータルエネルギの供給が放電路の再形成前に実施できない可能性が発生する。アシストが無い場合に放電路の再形成が発生する時期に合わせて、電流をアシストすることで、放電路が再形成するタイミングを遅らせて火炎へのエネルギ共有を続けることができる。この結果、目標点火トータルエネルギが火炎に対して供給でき、着火性が向上する。
【0069】
一方で、流速が小さい場合は、放電路の伸びが遅く、放電路の伸びが大きくなり、再形成が行われやすいタイミングが遅くなる。再形成が行われやすいタイミングに合わせてアシストを行うことで、放電路の再形成を防ぎ、継続的に加熱ができ、これにより目標点火トータルエネルギを火炎へと供給することができる。
【0070】
この結果、必要なタイミングにエネルギ供給ができ、着火性が向上する。また、アシストタイミングが早いと、放電初期の電流値が高い期間が続き、点火プラグ17の摩耗進行が速くなるが、流速が遅い条件に限られるが、放電のアシストタイミングを遅く設定することで、放電初期の電流値が続くことを抑制でき、点火プラグ摩耗の抑制につながる。
【0071】
以上の様に、点火プラグ周囲の流速に応じてアシストタイミングを操作することで、放電路の再形成の抑制による着火性向上、点火プラグ摩耗の抑制が実現できる。
【0072】
目標点火トータルエネルギが中程度の場合は、1次通電期間は、流速の増加に伴い大きく設定する。また、流速が小さい条件でアシストを実施し、アシストタイミングは、流速の増加に伴い早期化する。このように設定することで、所定の流速以上の条件では、アシストを用いることなく、1次コイルへの通電量の変更だけで対応する。一方で、流速が遅い条件では、2次コイル側に発生する電流の最大値を抑制し、流速が遅い条件で電流を必要とする放電後半での電流の確保ができる。これにより、流速条件によらず着火性の確保と、電流最大値の抑制による点火プラグ摩耗の抑制が可能となる。
【0073】
目標点火トータルエネルギが小さい場合は、流速が大きいほど一次コイルの通電量を大きくし、流速が小さいほど1次コイルの通電量を小さくする。このように設定することで、流速が早い条件では、放電後の前半で高い電流が必要となる目標を満たし、流速が遅い条件では、放電後前半の電流が不要という無駄を避けた設定ができる。ただし、1次通電量は、2次側で絶縁破壊電圧を生じるために最低限必要となる通電時間があるため、これを超えて短くすることはできない。
【0074】
図9に以上に示した処理の結果例を示す。上からエンジン回転速度、点火時期の流速、1次コイル通電期間、アシストタイミング(3次コイル通電開始時期)、及び1次コイル通電期間と電流アシストにより実現される電流波形を示す。図9では時間の経過とともにエンジン回転速度が増加する状況にあり、図中では4水準の回転速度における結果を示している。
【0075】
左から回転速度の水準を1水準目、2水準目、3水準目、4水準目、と示す。1水準目から2水準目の回転速度変化に伴う流速変化の結果、1水準目に比べて1次コイル通電期間が増加し、電流波形の最大電流が増加している。さらに、3水準目に移行した際には、3次コイルの通電が行われる。回転速度が4水準目に移行した際には、回転速度が3水準目に回転速度条件の際に比べて、3次コイルの通電タイミングが早期化している。
【0076】
エンジンの回転速度に対する点火時期の流速変化は、基本的に単調な相関関係にあるため、回転速度に対する点火アシストタイミングの変化は単調変化する可能性が高い。このように、エンジンの動作条件が変化し、筒内の流速の変化が生じた場合に、流速に応じた適切なタイミングで必要なエネルギを発生させることができ、着火性の確保、無駄なエネルギ供給の抑制が実現できる。
【0077】
図10に以上に示した処理の結果例を示す。上から可変バルブ操作量、点火時期の流速、1次コイル通電期間、アシストタイミング(3次コイル通電開始時期)、及び1次コイル通電期間と電流アシストにより実現される電流波形を示す。図10では時間の経過とともに可変バルブの操作量が進角側から遅角側へと操作されている状況にあり、図中では4水準の可変バルブ操作量における結果を示している。
【0078】
左から可変バルブ操作量の水準を1水準目、2水準目、3水準目、4水準目、と示す。1水準目から3水準目までの変化では、流速は増加し、3水準目から4水準目への変化では流速が減少している。図7Bで説明した通り、可変バルブの操作量に対しては、流速は必ずしも単調変化をしない特性があることから、図10に示すような変化となる。
【0079】
可変バルブの操作量が1水準目から3水準目までの変化では、同変化に伴い流速が増加するため、電流アシストタイミングが早期化する。一方で、3水準目から4水準目の変化では、流速が減少するため、アシストタイミングが遅くなる、という変化が生じる。
【0080】
以上の様に、可変バルブの操作に対する点火時期の流速の変化は単調な相関関係にないため、同動作操作量に対する点火アシストタイミングの変化は単調変化しない場合がある。このように、可変バルブの動作条件が変化し、筒内の流速の変化が生じた場合に、流速に応じた適切なタイミングで必要なエネルギを発生させることができ、着火性の確保、無駄なエネルギ供給の抑制が実現できる。
【0081】
図11に以上に示した処理の結果例を示す。上からタンブル制御弁操作量、スロットル開度、点火時期の流速、1次コイル通電期間、アシストタイミング(3次コイル通電開始時期)、及び1次コイル通電期間と電流アシストにより実現される電流波形を示す。図11では時間の経過とともにまず、タンブル制御弁の操作量が、開状態と閉状態を繰り返している。また、タンブル制御弁の操作量が前半(1、2水準目)の開状態と閉状態を行う際は、スロットル開度が一定の開度に維持されており、後半(3、4水準目)の開状態と閉状態を行う際には、スロットル開度が大きくなっている。
【0082】
また、可変バルブの操作量が進角側から遅角側へと操作されている状況にあり、図中では4水準の可変バルブ操作量における結果を示している。同一のスロットル開度の条件で、タンブル制御弁の開閉で流速を比較すると、タンブル制御弁の閉じた状態で流速が大きく、同一のタンブル制御弁の状態で比較すると、スロットル開度が大きい状態で流速が大きい。
【0083】
タンブル制御弁の開いた状態に比べてタンブル制御弁が閉じた状態では流速が大きくなるため、アシストタイミングが早期化する。また、スロットル開度が大きい条件では、同開度が小さい条件に比べて流速が大きくなるため、アシストタイミングが早期化する設定となる。
【0084】
このように、スロットルの動作条件が変化し、筒内の流速の変化が生じた場合に、流速に応じた適切なタイミングで必要なエネルギを発生させることができ、着火性の確保、無駄なエネルギ供給の抑制が実現できる。
【0085】
図12に以上に示した処理の結果例を示す。上から点火時期、点火時期の流速、1次コイル通電期間、アシストタイミング(3次コイル通電開始時期)、及び1次コイル通電期間と電流アシストにより実現される電流波形を示す。図12では時間の経過とともに点火時期が進角方向に変化している。点火時期が進角方向に変化するにつれて流速が大きくなる。このため、アシストタイミングは点火時期の進角とともに早期化する設定となる。
【0086】
このように、点火時期が変化し、筒内の流速の変化が生じた場合に、流速に応じた適切なタイミングで必要なエネルギを発生させることができ、着火性の確保、無駄なエネルギ供給の抑制が実現できる。
【0087】
続いて、図4の操作量補正部44が実施する処理について説明する。最大発生可能エネルギ算出部44aは、点火コイル16の電源電圧に基づき発生可能な最大エネルギを算出する。点火コイル16に蓄えることができるエネルギは、点火コイル16に接続している電源の電圧の2乗に比例する。
【0088】
例えば、基準を14Vとすると、12Vで27%、10Vで50%だけ蓄えられるエネルギが減少する。通常、点火コイル16の電源はバッテリであることから、コイル電源電圧の変動は生じうる。バッテリ電圧(VB)と発生可能な最大エネルギの関係は、点火コイル16の仕様であるため予め両者の関係を調査の上、発生可能な最大エネルギを電圧のマップとして持っておけばよい。同関係から、電源電圧に応じて発生可能なエネルギ量を算出する。
【0089】
目標希釈度補正部44bは、算出された発生可能なエネルギ量に基づき、希釈度(EGR率や空燃比)を補正する制御を行う。
【0090】
図13を用いて、目標希釈度補正部44bで実行する処理を説明する。最初に、ガス燃料比(G/F)と実効G/Fを説明する。G/Fは、混合気中の燃料以外のガス成分(空気、EGRガス、水分(湿度分))の質量と燃料の質量の比である。例えば、G/Fが大きいほど着火が不安定になりやすい。
【0091】
ガスの組成によって、着火が不安定になるG/Fが異なる。EGRガスによる混合気希釈を行った際に着火が不安定になるG/Fは、空気による混合気希釈を行った際に着火が不安定になるG/Fに比べて小さい。これは、空気は酸素を含むため、EGRガスに比べて反応性が高いために生じると考える。このように着火性に与える影響が異なるEGRガスと空気を同一の指標で取り扱うため、実効G/Fを定義する。例えば、実効G/Fを次の式(4)で定義する。
実効G/F=(A/F)×(1+α×EGR率)・・・(4)
【0092】
ここで、αは3程度の数値になる。通常のG/Fではαは1である。この式は、EGRガス1gが着火性に与える影響は、空気α(g)分と同等であることを意図したものである。
【0093】
[ステップS1301]
最大発生可能エネルギ算出部44aにて算出した最大発生可能エネルギに基づき実現可能な実効(G/F)を算出する。コイル発生エネルギと実現可能な実効G/Fの関係はあらかじめ試験やシミュレーションで関係性を調査したうえで、マップ化しておき、制御装置上では、同マップと最大発生可能エネルギに基づき実現可能な実効G/Fを算出する。以下では、実現可能な実効G/Fは上限G/Fとする。
【0094】
[ステップS1302]
排気A/F、EGR率と、式(4)から算出される現時点における実効G/F(現実効G/F)がステップS1301で算出した上限G/Fよりも小さいか判断する。上限G/Fよりも現実効G/Fが小さい場合は、ステップS1307に進む。上限G/Fよりも現実効G/Fが大きい場合は、ステップS1303に進む。
【0095】
[ステップS1303]
排気A/F(現A/F)がリーンA/F下限よりも大きいか判断する。現A/FがリーンA/F下限よりも大きい場合、ステップS1304に進む。一方で、現A/FがリーンA/F下限よりも小さい場合、ステップS1306に進む。なお、この判定は、現在、リーン燃焼を実行しているかを判断することと同じである。
【0096】
具体的には、現A/Fがリーン下限よりも大きい場合は、リーン燃焼を実行している場合と考える。逆に、現A/FがリーンA/F下限よりも小さいのであれば、リーン燃焼を実行していない(ストイキ燃焼を実行している)場合と理解する。
【0097】
[ステップS1304]
上限G/Fが、リーン燃焼運転で許容されるA/Fの最小値(リーンA/F下限)よりも大きいか判断する。上限G/FがリーンA/F下限より大きい場合、つまり、リーンA/F下限を超えたA/Fが設定でき、リーン燃焼で運転が可能な場合は、ステップS1305に進む。
【0098】
[ステップS1305]
目標EGR率を以下の関係式(5)から設定し、目標A/FをリーンA/F下限に設定する。
目標EGR率=(上限G/F-リーンA/F下限)÷α・・・(5)
【0099】
目標値の変更が必要な状況であるため、できるだけG/Fを大きく設定し、燃焼温度を下げるため、希釈を空気のみで行う設定としてもよい(目標EGR率=0)。
【0100】
[ステップS1306]
目標空燃比をストイキ空燃比に設定し、目標EGR率を以下の関係式(6)から設定する。
目標EGR率=(上限G/F-ストイキA/F)÷α・・・(6)
【0101】
なお、図13のS1306のA/Fstは、ストイキA/F(ストイキ空燃比)を表す。
【0102】
[ステップS1307]
目標EGR率、目標A/Fともに維持する。
【0103】
図13に示した処理を実行した場合のEGR率、A/Fの動きを図14に示す。図14は上から、点火コイル16の電源電圧、最大発生可能エネルギ、実効G/F、A/F、EGR率を示す。点火コイル16の電源電圧の減少に伴い最大発生可能エネルギが減少する。実効G/F及びA/Fには最大発生可能エネルギの変化に伴う上限G/Fの変化が破線で示されている。
【0104】
時刻t1で、上限G/Fが実効G/Fを下回り始める。この時点でのA/F、リーン限界A/F(A/Fグラフ上の一点鎖線)との関係から、リーン燃焼設定を維持しつつ、A/F目標値がリーンA/F下限に設定される。また目標EGR率が上限G/Fを満たすように設定される。このような目標設定を満足するように、各種アクチュエータ(スロットルバルブ、EGRバルブ)が操作されることでA/F、EGR率が変化する。
【0105】
具体的には、時刻t1でA/FがリーンA/F下限になるのと合わせ、EGR率がA/Fの減少に合わせて変化した上で、上限G/Fの変化に合わせて時刻t2まで減少を続ける。時刻t2では、EGR率が0%に達しており、上限G/Fの減少への対応がEGR率の減少で対応できない状況にある。この場合は、A/Fの目標値をストイキA/F(A/Fst)に設定し、実効G/Fが上限G/FとなるようにEGR率の目標値が設定されて各種アクチュエータが操作される。
【0106】
以上の様に目標A/Fや目標EGR率を点火コイル16が発生できるエネルギ上限に合わせて変化させることで、点火コイル16及び電源電圧の状態に応じた適切な燃焼制御が可能となり、内燃機関の着火不良を抑制しながら、電源電圧の変化による内燃機関の効率悪化を抑制した運転ができる。
【0107】
[第2の実施形態]
図15は、本発明の第2の実施形態の内燃機関の制御装置であるECU20内の点火制御部24で実施される放電エネルギ制御の概要を示す制御ブロックである。
【0108】
目標点火トータルエネルギ算出部151は、図4と同一である。
【0109】
目標点火エネルギ実現部152は、目標点火トータルエネルギ量と要求トルクと、回転速度、可変バルブ、タンブル制御弁の操作量及び点火時期に基づいて、点火プラグ17の操作量を決める。基本電流波形を決める1次コイルの通電期間と、アシストのタイミング、期間を設定算出し、出力する。
【0110】
図16は、第1の実施形態における点火制御のための演算処理の制御フローを示す。ステップS1601は、図15の目標点火トータルエネルギ算出部151で実行される処理であり、ステップS1602は目標点火エネルギ実現部152で実行される処理である。
【0111】
[ステップS1601]
ステップS1601の処理は、図5のステップS501と同一の処理である。
【0112】
[ステップS1602]
ステップS1602では、アシスト要否を判定する。例えば、目標点火トータルエネルギと運転条件毎に設定される1次電流の通電期間の基本設定からアシスト要否を判定する。本判定のために、運転条件として、エンジントルク、回転速度、また希釈度に応じた1次コイルの通電期間をマップ化しておき、同マップから現在の運転条件、希釈度に応じた1次コイルの通電量を決める。
【0113】
続いて、同通電量と電源電圧に応じた1次コイルの通電のみで点火コイル16で発生可能なエネルギをマップ化しておくことで、1次コイルの通電により発生するエネルギを算出する。さらに、算出したエネルギが目標点火トータルエネルギを満足するか判定する。満足できないと判断した場合は、アシスト要、満足できる場合は、アシスト不要と判断する。他には、運転条件、希釈度毎にアシスト要否をマップ化しておき、同マップと実際の運転条件、希釈度に基づきアシスト要否を判断してもよい。
【0114】
[ステップS1603]
ステップS1603では、ステップS1602でアシスト要と判断した場合、アクチュエータの操作量からアシストタイミングを算出する。
【0115】
アシストタイミングは、点火時期におけるプラグ周囲の流速に応じた設定が必要である。本実施形態では、流速の推定は行わず、流速とアクチュエータの相関関係に応じたアシストタイミングの操作を行う。例えば、運転条件毎の基準アシスト遅れと、可変バルブ操作量、タンブル制御弁開度、点火時期、のそれぞれに基づくアシスト遅れの補正係数の積によりアシストタイミングを求める方法が一つある。
【0116】
本方法によるアシスト遅れを求める場合、運転条件と基準アシスト遅れ、並びに可変バルブ操作量、タンブル制御弁開度、点火時期のそれぞれと補正係数、がどのような関係にあるか図17A乃至17Dを用いて説明する。図17A乃至17Dには、運転条件と基準アシスト遅れの関係171、可変バルブ操作量と補正係数の関係172、タンブル制御弁開度と補正係数の関係173、点火時期と補正係数の関係174、を示す。
【0117】
運転条件としては、エンジンの回転速度とエンジンの発生するトルク(エンジントルク)がある。エンジン内部に形成される渦の角速度はエンジンの回転速度に応じて変化する傾向にあり、エンジンの回転速度が大きいほど点火時期の流速が大きくなる傾向にある。エンジントルクが大きいほど、多くの空気がエンジン筒内に導入されることで、エンジン筒内での運動量が大きくなり、流速の増加が生じる可能性がある。
【0118】
なお、一般的に、エンジントルクが大きいほど、スロットルの開度は大きい傾向にあることから、このことは、スロットル開度が大きいほど、点火時期における流速が大きいことと同意となる。このため、基準アシスト遅れは、エンジントルクが大きいほど小さく(負の相関)、回転速度が大きいほど小さく(負の相関)なるような特性をしている(図17A)。
【0119】
可変バルブの操作量に対しては、流速は所定の範囲で極大値を持つような特性を持つことから、アシスト遅れの補正係数は可変バルブの操作量の所定の範囲で極小値を持つ特性となる。流速が最大となる可変バルブ機構の操作量(基準操作量)からの実操作量の差が大きいほど、アシスト遅れが大きくなる。つまり、基準操作量と実操作の差とアシスト遅れに正の相関がある。
【0120】
例えば可変バルブを操作し吸気弁を極端に早く閉じる場合、エンジン筒内の流れが減衰し、点火時期における流速は小さくなるためアシスト遅れは小さくなる。また、吸気弁の閉じ時期が極端に遅い場合、エンジン筒内に導入された空気のうち一部が吸気管へと吹き戻り、エンジン筒内の運動量が減少し、点火時期における流速が小さくなるためアシスト遅れは小さくなる。
【0121】
このことから、可変バルブの操作量に対するアシスト遅れの変化は所定の範囲で極小値を持つ特性となる(図17B)。
【0122】
タンブル制御弁は、同制御弁の操作により流路の一部を閉じることで、エンジン内部に流れ込むガスの流速を増加するための仕組みである。タンブル制御弁開度が大きい状態は、流路の塞ぐ量が相対的に小さいことを示す。タンブル制御弁の開度が大きい状態では、流路を塞ぐ量が相対的に小さく、点火時期における流速は小さくなり、タンブル制御弁の開度が小さい状態では、流路を塞ぐ量が相対的に大きく、点火時期における流速は大きくなるためアシスト遅れは小さくなる。
【0123】
このため、タンブル制御弁の開度に対してアシスト遅れの補正係数は正の相関を持つ(図17C)。筒内に形成される渦がタンブル渦である場合、ピストン上昇に伴い渦が減衰するため、プラグ周囲の流速は小さくなる傾向があるため、アシスト遅れは点火時期の遅角化に応じて大きくなる。このため、点火時期が進角するに伴いアシスト遅れの補正係数が減少する特性となる(図17D)。点火時期に基づく補正マップには、点火時期の進角化に伴いアシスト遅れの補正係数が小さくなるように設定されている。
【0124】
図17A乃至17Dに示す特性を予め実験やシミュレーションによりマップ化し用いることで、ステップS1603にてアシスト遅れを算出できる。同ステップで操作した場合のアクチュエータとアシストの関係は、図9図12にて説明したものと同一となる。
【0125】
第1及び第2の実施形態の主な特徴は、以下のようにまとめることもできる。
【0126】
内燃機関の制御装置(ECU20、図3)のプロセッサ(CPU23a、図3)は、内燃機関の運転条件(例えば、要求トルク、回転速度)及び混合気の希釈状態(例えば、EGR率、空燃比)に基づいて、内燃機関の筒内の混合気の点火に必要なエネルギの目標値を示す目標点火トータルエネルギを算出する(目標点火トータルエネルギ算出部41、図4)。
【0127】
プロセッサ(CPU23a)は、点火時期における内燃機関の筒内の混合気の流速に相関を持つ内燃機関のパラメータ(例えば、タンブル制御弁の開度、可変バルブ機構の操作量、スロットルの開度、点火時期)に基づいて、点火装置に放電電流をアシストさせるとともに、点火装置に目標点火トータルエネルギに応じた点火エネルギを発生させる(目標点火エネルギ実現部43、図4)。
【0128】
これにより、流速に相関を持つ内燃機関のパラメータに応じて放電電流がアシストされ、放電路の再形成が抑制される。その結果、内燃機関の着火不良を抑制することができる。また、流速が遅い場合に放電電流をアシストするタイミングを遅くすることで、放電初期の放電電流を抑制することができる。その結果、点火プラグ17の摩耗を抑制することができる。
【0129】
プロセッサ(CPU23a)は、例えば、内燃機関の運転条件(例えば、要求トルク、回転速度)、内燃機関の筒内の混合気の流れ状態を制御するアクチュエータの操作量(例えば、タンブル制御弁の開度、可変バルブ機構の操作量)、及び点火時期に基づいて、点火時期における前記内燃機関の筒内の混合気の流速を推定する(点火時期流速算出部42、図4)。
【0130】
流速に相関を持つ内燃機関のパラメータは、例えば、プロセッサ(CPU23a)によって推定された流速の値を示す流速推定値である。プロセッサ(CPU23a)は、流速推定値が大きくなるにつれて、放電開始タイミングから放電電流のアシストを開始するタイミングまでの時間を示すアシスト遅れを小さくする(図8A、8B等)。
【0131】
これにより、流速推定値に応じたタイミングで放電電流がアシストされる。また、筒内流速センサ(流量センサ)を用いずに、流速を推定することができる。
【0132】
プロセッサ(CPU23a)は、流速に相関を持つ内燃機関のパラメータ(例えば、タンブル制御弁の開度、可変バルブ機構の操作量、スロットルの開度、点火時期)の変化により流速が大きくなるにつれて、アシスト遅れを小さくする(図17A乃至17D)。
【0133】
これにより、流速に相関を持つ内燃機関のパラメータに応じたタイミングで放電電流がアシストされる。
【0134】
流速に相関を持つ内燃機関のパラメータは、例えば、内燃機関の筒内の混合気の流れ状態を制御するアクチュエータ(例えば、タンブル制御弁、可変バルブ機構、スロットルバルブ)の操作量である。これにより、流速に相関を持つアクチュエータの操作量に応じたタイミングで放電電流がアシストされる(図17A、17B、17C等)。
【0135】
アクチュエータは、例えば、タンブル制御弁である。プロセッサ(CPU23a)は、タンブル制御弁の開度が大きくなるにつれて、アシスト遅れを大きくする(図17C等)。これにより、タンブル制御弁の開度に応じたタイミングで放電電流がアシストされる。
【0136】
アクチュエータは、例えば、吸気弁を閉じるタイミングを調整する可変バルブ機構(可変バルブ5、図1)である。プロセッサ(CPU23a)は、可変バルブ機構の操作量と、流速が最大となる可変バルブ機構の操作量を示す基準操作量との差が大きくなるにつれて、アシスト遅れを大きくする(図17B等)。これにより、可変バルブ機構の操作量と基準操作量との差に応じたタイミングで放電電流がアシストされる。
【0137】
アクチュエータは、例えば、スロットルバルブ(電子制御スロットル2、図1)である。プロセッサ(CPU23a)は、スロットルの開度(エンジントルク)が大きくなるにつれて、アシスト遅れを小さくする(図17A等)。これにより、スロットルの開度に応じたタイミングで放電電流がアシストされる。
【0138】
流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータは、例えば、点火時期である。プロセッサ(CPU23a)は、点火時期が進角するにつれて、アシスト遅れを小さくする(図17D等)。これにより、点火時期に応じたタイミングで放電電流がアシストされる。
【0139】
なお、流速に相関を持つ前記内燃機関のパラメータは、点火時期における放電プラズマの伸長速度であってもよい。流速が大きくなるほど、放電プラズマの伸長速度は大きくなる。そこで、プロセッサ(CPU23a)は、伸長速度が大きくなるにつれて、アシスト遅れを小さくする。これにより、放電プラズマの伸長速度に応じたタイミングで放電電流がアシストされる。
【0140】
点火装置は、点火コイル16(1次コイル、2次コイル及び3次コイル)、及び点火プラグ17を備える(図2A)。1次コイルへの通電を遮断することにより、点火プラグ17の電極間に放電電流が流れ、放電期間内に3次コイルへ通電することにより、放電電流が増加する(図2B)。
【0141】
プロセッサ(CPU23a)は、図8A及び8Bに示すように、目標点火トータルエネルギが所定範囲(目標トータルエネルギが中程度)より大きい場合(すなわち、目標トータルエネルギが大きい場合)、及び目標点火トータルエネルギが所定範囲(目標トータルエネルギが中程度)内であり、かつ流速が閾値未満である場合、1次コイルと3次コイルによって、2次コイルに目標点火トータルエネルギに相当するエネルギを発生させる。
【0142】
プロセッサ(CPU23a)は、目標点火トータルエネルギが所定範囲(目標トータルエネルギが中程度)内であり、かつ流速が閾値以上である場合、及び目標点火トータルエネルギが所定範囲(目標トータルエネルギが中程度)より小さい場合(すなわち、目標トータルエネルギが小さい場合)、1次コイルのみによって、2次コイルに前記目標点火トータルエネルギに相当するエネルギを発生させる(図8A及び8B)。
【0143】
プロセッサ(CPU23a)は、目標点火トータルエネルギが所定範囲より大きい場合(目標トータルエネルギが大きい場合)、及び目標点火トータルエネルギが所定範囲(目標トータルエネルギが中程度)内であり、かつ流速が閾値未満である場合、流速が大きくなるにつれて3次コイルへ通電するタイミングを早くする(図8A及び8B)。
【0144】
プロセッサ(CPU23a)は、目標点火トータルエネルギが所定範囲(目標トータルエネルギが中程度)内である場合、及び目標点火トータルエネルギが所定範囲より小さい場合(目標トータルエネルギが小さい場合)、流速が大きくなるにつれて1次コイルへの通電期間を長くする。
【0145】
このように点火装置の1次コイルと3次コイルへの通電を制御することで、内燃機関の着火不良を抑制しつつ、点火プラグ17の摩耗を抑制することができる。
【0146】
プロセッサ(CPU23a)は、点火装置の充電電源の電圧(例えば、バッテリ電圧)に基づき点火装置の最大発生可能エネルギを算出する(最大発生可能エネルギ算出部44a、図4)。プロセッサ(CPU23a)は、最大発生可能エネルギが小さくなるにつれて混合気の希釈度の目標値を小さくする(目標希釈度補正部44b、図4)。これにより、電源電圧の変化による内燃機関の効率悪化を抑制することができる。
【0147】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上述した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0148】
また、上記の各構成、機能等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0149】
なお、本発明の実施形態は、以下の態様であってもよい。
【0150】
(1).点火装置を備える内燃機関を制御する内燃機関の制御装置において、前記点火装置が放電電流を放電期間中に電流をアシストする仕組みを備え、運転条件や混合気の希釈状態に基づき目標点火トータルエネルギを算出する目標点火トータルエネルギ算出部、点火時期の内燃機関内部の流速に相関を持つパラメータに基づき電流をアシストし、前記目標点火トータルエネルギを実現する目標点火エネルギ実現部、を備えることを特徴とする内燃機関の制御装置。
【0151】
(2).運転条件と内燃機関内部の流れ状態を制御するアクチュエータの操作量と点火時期に基づき前記点火時期における流速を推定する点火時期流速推定部を備え、前記流速に相関を持つパラメータが、前記点火時期流速推定部で推定した流速推定値、であることを特徴とする(1)の制御装置。
【0152】
(3).前記点火時期の流速推定値と放電開始から電流のアシストを開始するタイミングまでの時間が負の相関を持つことを特徴とする(2)の制御装置(補足:流速大→放電開始からアシスト開始までの期間小、流速小→放電開始からアシスト開始までの期間大)。
【0153】
(4).前記流速に相関を持つパラメータが示す点火時期の内燃機関内部の流速と放電開始から電流のアシストを開始するタイミングまでの時間が負の相関を持つことを特徴とする(1)の制御装置(流速相関パラメータと操作量の一般化)。
【0154】
(5).前記流速に相関を持つパラメータが、内燃機関内部の流れ状態を制御するアクチュエータの操作量であることを特徴とする(1)、(4)の制御装置(流速相関パラメータの具体化)。
【0155】
(6).前記内部機関の流れ状態を制御するアクチュエータは、前記内燃機関の吸気管内に設けられたエンジンタンブル制御弁であり、タンブル制御弁の開度と前記アシストまでの期間が正の相関を持つことを特徴とする(5)の制御装置(タンブル制御弁の開度小(=流速大)→アシストまでの期間小)。
【0156】
(7).前記内燃機関の流れ状態を制御するアクチュエータは、前記内燃機関の可変バルブ機構であり、点火時期における流速が最も大きくなる吸気弁閉じ位置となる可変バルブ機構の操作量と実操作量の差と前記アシストまでの期間が正の相関を持つことを特徴とする(5)の制御装置(バルブ機構の基準操作量からの差大(=流速小)→アシストまでの期間大)。
【0157】
(8).前記アクチュエータがスロットルバルブであり、前記スロットルバルブの開度と前記アシストまでの期間が負の相関を持つことを特徴とする(5)の制御装置。
【0158】
(9).前記流速に相関を持つパラメータが、点火時期であり、点火時期の進角量と放電開始から電流のアシストを開始するタイミングまでの時間が負の相関を持つことを特徴とする(1)、(4)の制御装置(点火進角量大(=流速大)→アシストまでの期間小)。
【0159】
(10).前記流速に相関を持つパラメータが、点火時期における放電プラズマの伸長速度であることを特徴とする(1)、(4)の制御装置。
【0160】
(11).前記放電プラズマの伸長速度と放電開始から電流のアシストを開始するタイミングまでの時間が負の相関を持つことを特徴とする(10)の制御装置。
【0161】
(12).前記目標点火トータルエネルギは、エンジンの運転条件のパラメータ、混合気の希釈状態を示すパラメータに基づき算出され、前記運転条件のパラメータの少なくとも一つはエンジントルクと相関を持つ指標であり、前記混合気の希釈状態を示すパラメータの少なくとも一つは混合気の希釈率と相関を持つ指標であり、前記エンジントルクが大きいほど前記トータルエネルギは大きく設定され、前記希釈率が大きいほど前記トータルエネルギが大きく設定されること、を特徴とする(1)~(11)の制御装置。
【0162】
(13).アシスト前の放電電流を前記目標点火トータルエネルギと前記点火時期の内燃機関内部の流速に相関を持つパラメータに基づき操作することを特徴とする(1)~(12)の制御装置。
【0163】
(14).前記流速に相関を持つパラメータが示す流速と放電開始時の放電電流が正の相関を持つことを特徴とする(13)の制御装置。
【0164】
(15).点火装置の充電電源に基づき点火装置の最大発生可能エネルギを算出する最大発生可能エネルギ算出部を備え、前記最大発生可能エネルギに基づき混合気の希釈度の目標値を補正する目標希釈度補正部を備えることを特徴とする(1)~(14)の制御装置。
【0165】
(16).前記最大発生可能エネルギと前記補正後の希釈度の目標値が正の相関を持つことを特徴とする(15)の制御装置(最大発生可能エネルギ大→希釈度目標値大)。
【0166】
(1)~(16)によれば、点火時期における点火プラグ周囲の流速を考慮した上で、基本電流波形に対して適切なタイミングで電流を加算することができる。また、点火進角時に点火遅角条件から決まるシステムの要求放電エネルギから放電エネルギを減少させることが出来るので、点火コイルの発熱や、点火プラグの磨耗を抑制し、システムの耐久性を向上することができる。
【符号の説明】
【0167】
1…エアフローセンサ、2…電子制御スロットル、4…過給機、4a…コンプレッサ、4b…タービン、5…可変バルブ、6…吸気マニホールド、7…インタークーラ、9…空燃比センサ、10…三元触媒、11…電子制御ウェイストゲート弁、12…アクセル開度センサ、13…燃料噴射装置、14…シリンダ、15…排気管、16…点火コイル、17…点火プラグ、18…水温センサ、19…クランク角度センサ、20…ECU、21…入力回路、22…入出力ポート、23a…CPU、23b…ROM、23c…RAM、24…点火制御部、25…基本放電エネルギ算出部、26…要求放電エネルギ算出部、27…エネルギ得失算出部、28…最終放電エネルギ算出部、29…放電エネルギ制御部、30…ガス燃料比G/F制御部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図17C
図17D