IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ライオンデル ケミカル テクノロジー、エル.ピー.の特許一覧

特許7551945アリルアルコールヒドロホルミル化溶媒とするメチルシクロヘキサン
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】アリルアルコールヒドロホルミル化溶媒とするメチルシクロヘキサン
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/50 20060101AFI20240909BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20240909BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20240909BHJP
   B01J 25/02 20060101ALI20240909BHJP
   B01J 31/24 20060101ALI20240909BHJP
   C07C 29/141 20060101ALI20240909BHJP
   C07C 31/20 20060101ALI20240909BHJP
   C07C 47/19 20060101ALI20240909BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20240909BHJP
【FI】
C07C45/50
B01J23/46 311Z
B01J23/755 Z
B01J25/02 Z
B01J31/24 Z
C07C29/141
C07C31/20 B
C07C47/19
C07B61/00 300
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023560784
(86)(22)【出願日】2022-04-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 US2022023845
(87)【国際公開番号】W WO2022216938
(87)【国際公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-10-04
(31)【優先権主張番号】63/172,763
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513074862
【氏名又は名称】ライオンデル ケミカル テクノロジー、エル.ピー.
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(74)【代理人】
【識別番号】100167106
【弁理士】
【氏名又は名称】倉脇 明子
(74)【代理人】
【識別番号】100194135
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修
(74)【代理人】
【識別番号】100206069
【弁理士】
【氏名又は名称】稲垣 謙司
(74)【代理人】
【識別番号】100185915
【弁理士】
【氏名又は名称】長山 弘典
(72)【発明者】
【氏名】ホワイト,ダニエル,エフ.
(72)【発明者】
【氏名】マンディムツイラ,ビーヴェン,エス.
(72)【発明者】
【氏名】レブマン,ロバート,ジェイ.
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/242977(WO,A1)
【文献】米国特許第07612241(US,B1)
【文献】米国特許第07271295(US,B1)
【文献】米国特許第07279606(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 45/50
B01J 23/46
B01J 23/755
B01J 25/02
B01J 31/24
C07C 29/141
C07C 31/20
C07C 47/19
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メチルシクロヘキサン反応溶媒及びロジウム錯体及び置換又は非置換のジホスフィン配位子を含む触媒系の存在下で、アリルアルコールを一酸化炭素及び水素と反応させることを含む、4-ヒドロキシブチルアルデヒドを生成するプロセス。
【請求項2】
前記ジホスフィン配位子は、トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタン、トランス-1,2-ビス(ビス(3,4,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタン、4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテン、又は2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタンであり、前記n-アルキルはメチル、エチル、又はプロピル基である、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンがトランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-メチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
前記トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンは、トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-エチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項5】
前記4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテンは、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジメチルホスフィノ)キサンテン又は9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジエチルホスフィノ)キサンテンである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項6】
前記2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタンは、2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]ブタン又は2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジエチルフェニル)ホスフィノ]ブタンである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項7】
前記ロジウム錯体が、ロジウムと、ヒドリド、カルボニル、トリアルキル又はトリアリールホスフィン、ジホスフィン、シクロペンタジエニル、2,4-アルカンジオネート、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ又は複数の配位子とを含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項8】
前記反応が、20℃~120℃の範囲内の温度及び20psig(0.14MPa)~600psig(4.14MPa)の範囲内の圧力で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項9】
前記反応が、65℃~85℃の範囲内の温度及び200psig(1.37MPa)の圧力で行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項10】
前記触媒系はモノホスフィン化合物をさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項11】
前記モノホスフィン化合物はトリフェニルホスフィンである、請求項10に記載のプロセス。
【請求項12】
前記液相中の一酸化炭素の濃度が4ミリモル/リットル(0.004M)を超えて維持される、請求項1に記載のプロセス。
【請求項13】
水素化触媒の存在下で前記4-ヒドロキシブチルアルデヒドを水素化して1,4-ブタンジオールを形成することをさらに含む、請求項1に記載のプロセス。
【請求項14】
前記水素化触媒がニッケル触媒である、請求項13に記載のプロセス。
【請求項15】
前記液相中の一酸化炭素の濃度は、4ミリモル/リットル(0.004M)~100ミリモル/リットル(0.100M)の範囲に維持される、請求項1に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
「関連出願の相互参照」
本願は、2021年4月9日に出願された米国仮特許出願第63/172,763号の優先権を主張する特許協力条約に基づいて提出されたものであり、当該出願のすべての内容は引用により本明細書に組み込まれている。
【0002】
「連邦政府資金による研究の記載」
該当なし。
【0003】
「マイクロフィッシュ付録を参照」
該当なし。
【0004】
本開示は、一般にヒドロキシ化合物の製造に関し、具体的には、アリルアルコールをヒドロホルミル化して4-ヒドロキシブチルアルデヒドを製造することに関する。
【背景技術】
【0005】
1,4-ブタンジオール(BDO)は、プラスチック、弾性繊維、フィルムの製造における重要な原料である。BDOは、ポリエーテルジオール、ウレタンポリマー、ポリエステルポリマーなどの一般的な工業製品及び商業製品の中間体として使用される。大量のBDOは、高性能ポリマーだけでなく、エレクトロニクス、医薬品、農薬にも使用されるガンマ-ブチロラクトン(GBL)の製造にも使用される。このようなさまざまな用途により、BDOに対する高い需要が生じている。
【0006】
BDOはさまざまな方法で生成される。BDOはテトラヒドロフラン、コハク酸、無水マレイン酸、その他の4炭素有機種から誘導できるが、それらの方法は経済的に魅力的ではない。BDOを製造する別の方法は、ホルムアルデヒドとアセチレンを反応させて中間体として1,4-ブチンジオールを形成し、その後水素化して所望のBDO生成物を得る方法である。例えば、米国特許第4,064,145号、4,215,077号、4,238,419号、4,678,857号、5,290,743号、及び7,612,241号を参照する。
【0007】
より経済的に魅力的な製造方法には、アリルアルコールのヒドロホルミル化が含まれる。貴金属及びリン化合物触媒系の存在下でのオレフィン性化合物のヒドロホルミル化はよく知られている。アリルアルコールのヒドロホルミル化により、中間体として4-ヒドロキシブタナール(HBA)が生成され、その後水素化されてBDOを得る。しかしながら、ヒドロホルミル化プロセスの欠点は、所望のHBA線状物に加えて、他の共生成物又は副産物も形成されることである。アリルアルコールのヒドロホルミル化により、一部の3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアルデヒド(HMPA)分岐状共生成物と、n-プロパノール又はプロピオンアルデヒド(PA)などのC3副産物が生成される。
【0008】
アルデヒド生成物はすべてヒドロホルミル化生成物流から抽出され、水素化される必要がある。HMPAを水素化すると、有用な材料である2-メチル-1,3-プロパンジオール(MPD)が生成され得るが、MPD共生成物によりHBAからのBDOの収率が低下する。C3副産物の形成は事実上、プロセスにおけるさらなる収率の損失を意味し、プロセスの経済性に重大な悪影響を与える可能性がある。さらに、アルデヒドをヒドロキシ化合物に転換するために使用される水素化触媒は、時間の経過とともに失活する傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、あまり望ましくない共生成物/副産物を減らしながらBDO収率を高めるヒドロホルミル化プロセスを改良する必要性が存在する。理想的には、これらの改良により水素化触媒の寿命も延長され、BDO生成がさらに増加する。
【0010】
本開示は、4-ヒドロキシブチルアルデヒドを製造するための改良されたヒドロホルミル化プロセスに関する。特に、ロジウム錯体と置換又は非置換のジホスフィン配位子を組み合わせた触媒系を利用するヒドロホルミル化プロセスは、反応溶媒としてメチルシクロヘキサンを使用するように変更される。この特定の反応溶媒が、3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアルデヒドと比較して、4-ヒドロキシブチルアルデヒドの高収率を維持しながら、ヒドロホルミル化プロセスの反応速度を予想外に増加させることは分かる。さらに、メチルシクロヘキサンがヒドロキシアルデヒド生成物と混和しないことは分かり、これにより後続の抽出ステップで必要な水の量が減少し、所望の生成物のより多くの回収が可能になる。これらの改良により、触媒系に必要なロジウムの量が減少し、抽出ステップに必要な水の量も減少するため、プロセスのコストが削減される。
【0011】
本方法は、以下の実施形態の任意の1つ又は複数の組み合わせを含む。
【0012】
メチルシクロヘキサン反応溶媒及びロジウム錯体及び置換又は非置換のジホスフィン配位子を含む触媒系の存在下で、アリルアルコールを一酸化炭素及び水素と反応させることを含む、4-ヒドロキシブチルアルデヒドを生成するプロセス。
【0013】
置換又は非置換のジホスフィン配位子がトランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタン、又は2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタンであり、n-アルキル基はメチル、エチル、又はプロピルである、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0014】
置換又は非置換のジホスフィン配位子は4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテンであり、n-アルキル基はC1-C6基である、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0015】
4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテン配位子は、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジメチルホスフィノ)キサンテンである、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0016】
4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテン配位子は、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジエチルホスフィノ)キサンテンである、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0017】
2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタン配位子は、2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]ブタンである、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0018】
2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタン配位子は、2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジエチルフェニル)ホスフィノ]ブタンである、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0019】
トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンは、トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンである、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0020】
トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンは、トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジエチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンである、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0021】
ロジウム錯体が、ロジウムと、ヒドリド、カルボニル、トリアルキル又はトリアリールホスフィン、ジホスフィン、シクロペンタジエニル、2,4-アルカンジオネート、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ又は複数の配位子とを含む、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0022】
反応は、約45℃~約85℃の範囲内の温度及び約30psig(約0.21MPa)~約400psig(約2.76MPa)の範囲内の圧力で行われる、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0023】
反応が、約65℃~約85℃の範囲内の温度及び約200psig(約1.37MPa)の範囲内の圧力で行われる、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0024】
触媒系がモノホスフィン化合物をさらに含む、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0025】
モノホスフィン化合物がトリフェニルホスフィンである、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0026】
液相中の一酸化炭素の濃度は、約2ミリモル/リットル(0.002M)~約10ミリモル/リットル(0.010M)の範囲に維持される、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0027】
液相中の一酸化炭素の濃度は、約3ミリモル/リットル(0.003M)~約6ミリモル/リットル(0.006M)の範囲に維持される、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0028】
液相中の一酸化炭素の濃度は、約4ミリモル/リットル(0.004M)~約8ミリモル/リットル(0.008M)の範囲に維持される、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0029】
液相中の一酸化炭素の濃度は、約4ミリモル/リットル(0.004M)~約25ミリモル/リットル(0.025M)の範囲に維持される、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0030】
液相中の一酸化炭素の濃度は、約4ミリモル/リットル(0.004M)~約50ミリモル/リットル(0.050M)の範囲に維持される、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0031】
液相中の一酸化炭素の濃度は、約4ミリモル/リットル(0.004M)~約100ミリモル/リットル(0.100M)の範囲に維持される、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0032】
液相中の一酸化炭素の濃度が4ミリモル/リットル(0.004M)を超えて維持される、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0033】
水素化触媒の存在下で4-ヒドロキシブチルアルデヒドを水素化して1,4-ブタンジオールを形成することをさらに含む、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0034】
水素化触媒がニッケル触媒である、本明細書に記載のいずれかのプロセス。
【0035】
この概要は、以下の詳細な説明においてさらに説明される概念の選択を導入するために提供される。この概要は、請求項の主題の主要な特徴や本質的な特徴を特定することを意図したものではなく、請求項の主題の範囲を限定するための補助として使用することを意図したものでもない。
定義
【0036】
特許請求の範囲又は明細書において、用語「含む」と組み合わせて使用される場合、「1つ(a)」又は「1つ(an)」の用語の使用は、文脈に別段の規定がない限り、1つ又は複数の語を意味する。
【0037】
「約」という用語は、表示値に測定の誤差限界加えた値又は引いた値、又は、10%を加えた値又は引いた値を指す。
【0038】
特許請求の範囲における「又は」という用語の使用は、「及び/又は」を意味する。ただし、代替案のみを意味することが明示的に示されている場合、又は代替案が相互に排他的である場合は、この限りでない。
【0039】
「備える」、「有する」、「含む」及び「含有する」という用語(並びにそれらの変形)は、オープン連結動詞であり、請求項で使用される場合、他の要素の追加を可能にする。
【0040】
「で構成される」というフレーズは閉じ型であり、追加要素はすべて除外される。
【0041】
「本質的に……から構成される」というフレーズは、追加の材料要素を除外するが、本発明の本質を実質的に変更しない非材料要素を含むことを可能にする。
【0042】
本明細書では、以下の略語が使用される。
【表1】
【発明を実施するための形態】
【0043】
本開示は、1,4-ブタンジオール(BDO)を形成する改良された方法に関する。この改良には、アリルアルコールのヒドロホルミル化、その後のヒドロキシアルデヒド生成物の水抽出、及び抽出されたヒドロキシアルデヒド生成物のアルコールへの水素化の効率を高める反応溶媒としてのメチルシクロヘキサンの使用が含まれる。
【0044】
アリルアルコールをヒドロホルミル化する従来の方法では、ロジウム錯体及び置換又は非置換のジホスフィン配位子を含む触媒系の存在下で、反応溶媒としてトルエン、シクロヘキサン、メチルt-ブチルエーテル及びそれらの混合物などの有機溶媒を利用する。反応溶媒と触媒系のこの組み合わせにより、3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアルデヒド(HMPA)と比較して4-ヒドロキシブチルアルデヒド(HBA)の収率が大幅に向上し、BDOの収率が向上する。しかしながら、これらの反応溶媒は、その後の水抽出プロセス中にヒドロキシアルデヒド生成物から分離することが難しく、ヒドロホルミル化プロセスとその後の水素化の両方の効率の低下につながる。
【0045】
具体的には、水抽出ステップ中、HBA及びHMPAは水相に溶解したままであり、有機反応溶媒/触媒相から分離される。しかしながら、水相と反応溶媒がわずかに混和する場合、2つの相を完全に分離することは困難である。水の一部はリサイクルされた触媒系に持ち込まれ、ヒドロホルミル化プロセスの効率が低下する。有機反応溶媒(複数可)の一部は水素化プロセスに持ち込まれ、そこで水素化触媒を失活させる可能性がある。さらに、ヒドロキシアルデヒド生成物のすべてが水相に分配されるわけではないため、生成物の損失が生じる。
【0046】
現在開示されている方法では、メチルシクロヘキサンが反応溶媒として使用される。メチルシクロヘキサンは、従来の有機反応溶媒と比較して、ヒドロホルミル化プロセスの反応速度を高めながら、その後の水抽出及び水素化プロセスも改善することが予想外に判明する。これらの予期せぬ改善により、ヒドロホルミル化プロセスに必要な触媒の量が減少し、抽出プロセスに必要な水が減少し、全体的なエネルギー消費量が減少するため、より費用効果の高いプロセスが実現する。
【0047】
より詳細には、メチルシクロヘキサンは、アリルアルコールのヒドロホルミル化に以前に使用された反応溶媒と比較して、ヒドロホルミル化反応速度を少なくとも約30%増加させることができる。さらに、メチルシクロヘキサンは水と混和しないだけでなく、ヒドロキシアルデヒド生成物ともほとんど混和しないことが予想外に判明する。したがって、抽出プロセス中にメチルシクロヘキサン相が水の上に浮かぶ一方で、より多くのヒドロキシアルデヒド生成物が水相に分配される。これにより、分離が向上し、必要な水の量が減少する。さらに、残りのプロセスのキャリーオーバーも少なくなる。最終的にリサイクル触媒系に水がほとんど又はまったく残らないため、ヒドロホルミル化反応の効率が向上する。また、水素化反応器に持ち込まれるメチルシクロヘキサンも少なくなるため、水素化触媒の失活も軽減される。
【0048】
ヒドロホルミル化、抽出、及び水素化プロセスの残りの態様は、当技術分野で知られているものと同じであり得る。
【0049】
ヒドロホルミル化:
現在記載されているプロセスは、バッチ式又は連続式のいずれかで行うことができ、特に連続操作に適している。ヒドロホルミル化の典型的な反応条件は、分岐状3-ヒドロキシ-2-メチルプロピオンアルデヒド(HMPA)共生成物ではなく、直鎖状4-ヒドロキシブチルアルデヒド(HBA)の形成に有利となる穏やかな条件である。
【0050】
いくつかの実施形態では、反応条件は約20~120℃の範囲であり、圧力は約20psig(約0.14MPa)~600psig(約4.14MPa)である。他の実施形態では、反応条件は、約45~85℃及び30psig(約0.21MPa)~400psig(約2.76MPa)の範囲である。あるいは、反応条件は、約50~80℃及び40psig(約0.28MPa)~300psig(約2.07MPa)の範囲である。さらに他の実施形態では、反応条件は約65℃から約85℃の範囲であり、圧力は約200psig(約1.37MPa)である。
【0051】
現在記載されている方法で使用される触媒系は、ロジウム錯体及び置換又は非置換のジホスフィン配位子を含む。
【0052】
いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子はトランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンであり、一般式は次のとおりである。
【化1】
【0053】
式中、Rはメチル、エチル、プロピルなどのn-アルキル基である。
【0054】
いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子は、トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタン又はトランス-1,2-ビス(ビス(3,4,5-トリ-メチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンである。
【0055】
トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)シクロブテン又はトランス-1,2-ビス(ビス(3,4,5-トリ-メチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンは、任意の可能な方法によって調製され得る。例えば、それは、トランス-1,2-シクロブタンジメタノール、ビス(トルエンスルホネート)とリチウムジ(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィン又はリチウムジ(3,4,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィンとの反応によって調製され得る。
【0056】
他の実施形態では、ジホスフィン配位子は4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテンであり、一般式は次のとおりである。
【化2】
【0057】
式中、Rはn-アルキル基であり、環炭素のいずれも置換されてもよいし、置換されなくてもよい。R基は同一であってもよいし、異なってもよいが、同一であることが好ましい。いくつかの実施形態では、R基は、メチル、エチル、又はn-プロピルなどのC~Cのn-アルキル基である。
【0058】
いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子は、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテンである。又は、ジホスフィン配位子は、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジメチルホスフィノ)キサンテン又は9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジエチルホスフィノ)キサンテンである。
【0059】
4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテンは、任意の可能な方法で調製され得る。例えば、それは、4,5-ジリチウムキサンテンとクロロ(ジ-n-アルキル)ホスフィンとの反応によって調製され得る。
【0060】
さらに他の実施形態では、ジホスフィン配位子は、2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタンであり、一般式は次のとおりである。
【化3】
【0061】
ここで、Rはプロトン(DIOP)、又はメチル、エチル、プロピルなどのn-アルキル基である。
【0062】
いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子は、2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]ブタン、又は2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジエチルフェニル)ホスフィノ]ブタンである。
【0063】
2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタンは、任意の可能な方法で調製され得る。例えば、それは、2,2-ジメチル-4,5-ビス[(トルエンスルホニルオキシメチル)メチル]-1,3-ジオキソランとリチウムジ(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)-ホスフィンの反応によって調製され得る。
【0064】
触媒系はロジウム錯体も含む。例示的なロジウム錯体は、配位基に結合したロジウムを含む。ロジウム錯体は、メチルシクロヘキサンに可溶であることが好ましい。ロジウム錯体に結合する配位子の選択に関しては特に制限はない。例えば、配位子には、ヒドリド、カルボニル、置換及び非置換のシクロペンタジエニル、2,4-アルカンジオネート、トリアルキル又はトリアリールホスフィン、ジホスフィン、及びそれらの混合物が含まれる。いくつかの実施形態では、配位子には、カルボニル、アセチルアセトネート(2,4-ペンタンジオネート)、トリフェニルホスフィン、及びそれらの混合物が含まれる。他の実施形態では、ロジウム錯体には、(アセチルアセトナト)ジカルボニルロジウム及びトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウムカルボニルヒドリドが含まれる。
【0065】
ジホスフィン配位子:ロジウム錯体のモル比は、0.5:1~5:1の範囲である。いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子:ロジウム錯体のモル比は、0.5:1~2.5:1の範囲内である。いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子:ロジウム錯体のモル比は、0.5:1~1.5:1の範囲内である。いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子:ロジウム錯体のモル比は、1:1~4.5:1の範囲内である。いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子:ロジウム錯体のモル比は、1:1~3:1の範囲内である。いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子:ロジウム錯体のモル比は、2:1~5:1の範囲内である。いくつかの実施形態では、ジホスフィン配位子:ロジウム錯体のモル比は、3:1~5:1の範囲内である。ロジウム錯体は、ジホスフィン配位子がロジウム錯体の一部を形成するように、ヒドロホルミル化反応で使用する前にジホスフィン配位子と予め結合させることができ、又は、別々に添加することもできる。しかしながら、いくつかの実施形態では、ロジウム錯体をジホスフィン配位子とは別に添加することが好ましい。
【0066】
必須ではないが、触媒系はさらにモノホスフィン化合物を含んでもよい。モノホスフィン化合物は、ロジウム錯体と結合される可能性のあるホスフィン配位子に加えて存在する。モノホスフィン化合物は、式(RPで表される三置換ホスフィンであり、Rはアリール基又はアルキル基である。脂肪族R基の例としては、メチル、エチル、n-ブチル、sec-ブチル、オクチル、及びデシルが挙げられ、芳香族R基の例としては、フェニル、トリル、及びナフチルが挙げられる。R基は同一であってもよいし、異なってもよいが、同一であることが好ましい。いくつかの実施形態では、モノホスフィンは三置換アリールホスフィンである。又は、モノホスフィンは、トリフェニルホスフィン又はトリトリルホスフィンである。
【0067】
ヒドロホルミル化プロセスでは、反応溶媒と触媒系に加えて、アリルアルコール基質と一酸化炭素(CO)及び水素(H)も結合する。CO:Hのモル比は、多くの場合約1:1であるが、この比は大幅に異なる場合がある。COの分圧は5~100psigの範囲内である。水素の分圧は40psig(約0.28MPa)~200psig(約1.38MPa)の範囲内である。反応は、アリルアルコールの大部分、例えば、60~99.9%が反応するまで、これらの条件で行われる。生成物は主にHBAであり、分岐状反応生成物もいくつかある。反応時間は重要ではないが、通常は0.5~4時間の反応時間で十分である。
【0068】
供給基準に対するメチルシクロヘキサン反応溶媒に対するアリルアルコールの出発濃度は、メチルシクロヘキサン中約5~40重量パーセントの範囲である。又は、メチルシクロヘキサン中の5~10重量パーセントの範囲のより低い濃度を使用してもよい。さらに別の代替例では、アリルアルコールの出発濃度は、メチルシクロヘキサン中15~30重量パーセントの範囲内であり、又はメチルシクロヘキサン中25~40重量パーセントの範囲内である。
【0069】
アリルアルコールのヒドロホルミル化は、ヒドロホルミル化中、液相中のCO濃度([CO]liq)が4ミリモル/リットル(0.004M)を超えて維持されるように行われる。[CO]liqの値は米国特許第6,225,509号で定義されており、その教示は参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、液相水素:一酸化炭素のモル比は、10:1~約1:2、又は5:1~約1:2の範囲にある。
【0070】
ヒドロホルミル化プロセスの後、抽出容器内での水抽出により、HBA生成物が溶媒及び触媒系から分離される。
【0071】
水の抽出:
水抽出方法は当技術分野で周知であり、ミキサセトラ、充填又はトレイ型抽出カラム、回転円板法などの任意の適切な方法によって実施することも、混合物を水相と有機相に分解するために沈降タンクに送ることもできる。
【0072】
上で説明したように、HBA及びHMPAなどのヒドロキシアルデヒド生成物は、メチルシクロヘキサン反応溶媒に溶解しない。これにより、ヒドロキシアルデヒド生成物は、より溶解性の高い水(水性)相に容易に分配される。さらに、メチルシクロヘキサンは水相に混和しないため、水の上に浮いて分離される。メチルシクロヘキサンと水相の非混和性、及びメチルシクロヘキサンとヒドロキシアルデヒド生成物の非混和性の両方の組み合わせにより、分離プロセスが容易になる。
【0073】
メチルシクロヘキサンと混和しないのとは対照的に、ヒドロキシアルデヒド生成物はトルエンなどの他の溶媒と完全に混和する。メチルシクロヘキサンと同様に、トルエンは水相に混和せず、上に浮かぶ。しかしながら、ヒドロキシアルデヒド生成物のトルエン中での混和性により、その抽出がより困難になる。抽出はプロセスを可能にするのに十分効率的であるが、一部のトルエンは水性ヒドロキシアルデヒド生成物の抽出物に混入され、一部の水はリサイクルされたトルエン触媒溶液に持ち込まれる。これは、触媒の損失及び/又は失活を引き起こすだけでなく、ヒドロホルミル化プロセスのコストの増加を引き起こす。
【0074】
水素化:
HBA(及び任意のHMPA)反応生成物に対して、水素化触媒の存在下で4-ヒドロキシブチルアルデヒドを水素化する追加のステップを行って、1,4-ブタンジオール(BDO)を生成する。水素化のために反応容器に水素を添加する。例示的な水素化触媒には、ニッケル、コバルト、ルテニウム、白金、及びパラジウムなどの任意のVIII族金属、ならびに銅、亜鉛、及びクロム、ならびにそれらの混合物及び合金が含まれる。特に好ましいのはニッケル触媒である。最も好ましいのは、ラネー(登録商標)タイプのニッケル触媒及び固定床ニッケル触媒である。
【0075】
任意の既知の水素化条件を使用することができる。いくつかの実施形態では、水素化反応条件は60~200℃の範囲であり、圧力は200psig(約1.38MPa)~1000psig(約6.89MPa)である。他の実施形態では、水素化反応条件は、80~140℃及び300psig(約2.07MPa)~1000psig(約6.89MPa)の範囲である。水素化反応時間は約1時間から約10時間の間である。
【0076】
理論に束縛されるものではないが、メチルシクロヘキサン反応溶媒が抽出プロセスからの水のキャリーオーバーを減少させながらヒドロホルミル化プロセスの反応速度を高めるため、上記の方法を使用すると、BDOの生成が改善される。さらに、メチルシクロヘキサンと水は非混和性であるため、従来のヒドロホルミル化反応溶媒と比較して分離が向上する。これにより、抽出に必要な水の量が減少し、その後の水素化プロセス中に存在するメチルシクロヘキサンの量が減少する。したがって、メチルシクロヘキサン反応溶媒の使用は、より大量のBDOを生成するためのより費用効率の高い方法につながる。
【実施例
【0077】
上述のヒドロホルミル化プロセスを使用する添付の特許請求の範囲の実施形態を説明するために、以下の実施例を含む。この実施例は、説明のみを目的としており、添付の特許請求の範囲を不当に限定するものではない。当業者は、本明細書に開示される精神及び範囲から逸脱することなく、開示された具体的な実施形態に様々な変更を加えても、同様又は類似の結果を得ることができることを理解するであろう。以下の実施例は、添付の特許請求の範囲を限定又は定義するものとして決して理解されるべきではない。
【0078】
この実施例では、アリルアルコールのヒドロホルミル化のために、異なる反応溶媒を触媒系と組み合わせた。各バッチ反応は、Rh-配位子A触媒系を用いて65℃、200psigの圧力で行われた。ここで、配位子Aはトランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-メチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンであった。触媒系のモル組成は、[Rh]:[配位子A]=1:2であった。各反応溶媒中のロジウム量は[Rh]=4.3x10-5モルであった。各反応について、ガスクロマトグラフィ(GC)を使用してHBAとHMPAを分析した。ヒドロキシアルデヒド生成物からジオールへの転換は、99%を超える転換率及び選択率で容易に達成されるため、水素化ステップは実行されなかった。したがって、ヒドロホルミル化プロセスで生成されるHBAとHMPAの比率を使用して、水素化プロセス後に形成されるBDOとMPDの量を予測した。表1に各反応の結果を示する。
【表2】
【0079】
トルエンは、他の反応溶媒の反応速度のベースライン比較として使用された。これらの反応溶媒の多くは、以前にヒドロホルミル化プロセスで使用されており、トルエンと同様の速度を示す。しかしながら、表1に示すように、反応溶媒をメチルシクロヘキサンに変更すると、予想外に反応速度が大幅に向上した。メチルシクロヘキサンは反応速度を36%増加させた。これは、触媒系で使用できるロジウム金属の量が少ないことを示す。これにより、HBA製造プロセスのコスト削減が大幅に増加する。
【0080】
シクロヘキサンもトルエンと比較して速度を約20%増加させたが、水抽出ステップ中にこの溶媒を分離するのはメチルシクロヘキサンよりも困難であることが注目された。シクロヘキサンは水相にある程度の混和性があるため、水から分離することが困難になる。これにより、水がシクロヘキサン触媒系に持ち込まれ、また触媒溶液が水性抽出物中に取り込まれ、それにより、触媒の損失及び/又は失活が生じる。
【0081】
対照的に、ヒドロキシアルデヒド生成物はメチルシクロヘキサンに溶解しなかった。実際、その後の各反応生成物のガスクロマトグラフィ(GC)分析では、正確に分析するためにメチルシクロヘキサン反応生成物サンプルにエタノールを加えて単相溶液を形成する必要があった。他の反応溶媒ではそのようなステップを必要としなかった。この不溶性のため、水抽出ステップ中にヒドロキシアルデヒド生成物が水相に容易に分配される。さらに、メチルシクロヘキサンは水相と混和しないため、分離して水上に浮かぶ。これは、表1の他の反応溶媒で見られた分離よりも良好な分離であり、抽出ステップに必要な水の量が少なくなるということを意味する。さらに、触媒系に水がほとんど又はまったく持ち込まれないため、さらにヒドロホルミル化プロセスのコストが削減される。
【0082】
反応速度の向上と分離の改善に加えて、メチルシクロヘキサンの使用により、望ましくないC3副産物の生成も減少した。C3副産物の形成は事実上、プロセスにおけるさらなる収率の損失を意味し、プロセスの経済性に重大な悪影響を与える可能性がある。メチルシクロヘキサンを使用すると、最も低いC3選択性の1つが得られた。
【0083】
表1のBDO及びMPDの量は、直鎖状HBAと分岐状HMPAの比(L:B)から予測された。メチルシクロヘキサンの使用は、HMPAと比較してHBAの高収率を達成する能力に実質的な影響を及ぼさなかったため、BDO及びMPDの予測量に悪影響を与えることはない。表1に見られるように、予測値は他の反応溶媒で見られた値と同様であるため、他の既知の反応溶媒の代わりにメチルシクロヘキサンを使用するとヒドロホルミル化反応の効率は低下しない。
【0084】
したがって、触媒系における反応溶媒としてメチルシクロヘキサンを使用すると、アリルアルコールをヒドロホルミル化するためのより経済的に魅力的な製造方法が提供される。メチルシクロヘキサンを使用すると、予想外に反応速度が向上し、触媒に必要なロジウムの量が減少し、プロセスのコストが削減される。さらに、反応生成物はメチルシクロヘキサンに不溶であり、メチルシクロヘキサンは水相と非混和性であるため、分離プロセスが改善される。これにより、リサイクルされた溶媒/触媒系とともにヒドロホルミル化反応器に持ち込まれる水の量が減少するだけでなく、所望の反応生成物の回収率が増加する。
【0085】
以下の参考文献は、引用によってすべて本願に組み込まれている。
US7612241
US7279606
US7271295
追加的な開示
【0086】
本明細書に開示される実施形態には、以下が含まれる。
【0087】
A:メチルシクロヘキサン反応溶媒及びロジウム錯体及び置換又は非置換のジホスフィン配位子を含む触媒系の存在下で、アリルアルコールを一酸化炭素及び水素と反応させることを含む、4-ヒドロキシブチルアルデヒドを生成するプロセス。
【0088】
実施形態Aは、以下の追加要素のうちの1つ以上を含み得る。
【0089】
要素1:ジホスフィン配位子は、トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタン、トランス-1,2-ビス(ビス(3,4,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタン、4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテン、又は2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタンであり、n-アルキルはメチル、エチル、又はプロピル基であること。要素2:トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンは、トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンであること。要素3:トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンは、トランス-1,2-ビス(ビス(3,5-ジ-エチルフェニル)ホスフィノメチル)-シクロブタンであること。要素4:4,5-ビス(ジ-n-アルキルホスフィノ)キサンテンは、9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジメチルホスフィノ)キサンテン又は9,9-ジメチル-4,5-ビス(ジエチルホスフィノ)キサンテンであること。要素5:2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジ-n-アルキルフェニル)ホスフィノ]-ブタンは、2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジメチルフェニル)ホスフィノ]ブタン又は2,3-O-イソプロピリデン-2,3-ジヒドロキシ-1,4-ビス[ビス(3,5-ジエチルフェニル)ホスフィノ]ブタンであること。要素6:ロジウム錯体が、ロジウムと、ヒドリド、カルボニル、トリアルキル又はトリアリールホスフィン、ジホスフィン、シクロペンタジエニル、2,4-アルカンジオネート、及びそれらの混合物からなる群から選択される1つ又は複数の配位子とを含むこと。要素7:反応は、約45℃~約85℃の範囲内の温度及び約30psig(約0.21MPa)~約400psig(約2.76MPa)の範囲内の圧力で行われること。要素8:反応は、約65℃~約85℃の範囲内の温度及び約200psig(約1.37MPa)の圧力で行われること。要素9:触媒系がモノホスフィン化合物をさらに含むこと。要素10:モノホスフィン化合物はトリフェニルホスフィンであること。要素11:液相中の一酸化炭素の濃度が4ミリモル/リットル(0.004M)を超えて維持されること。要素12:水素化触媒の存在下で4-ヒドロキシブチルアルデヒドを水素化して、1,4-ブタンジオールを形成することをさらに含むこと。要素13:水素化触媒はニッケル触媒であること。要素14:液相中の一酸化炭素の濃度は、約2ミリモル/リットル(0.002M)~約10ミリモル/リットル(0.010M)の範囲に維持されること。要素15:液相中の一酸化炭素の濃度は、約3ミリモル/リットル(0.003M)~約6ミリモル/リットル(0.006M)の範囲に維持されること。要素16:液相中の一酸化炭素の濃度は、約4ミリモル/リットル(0.004M)~約8ミリモル/リットル(0.008M)の範囲に維持されること。要素17:液相中の一酸化炭素の濃度は、約4ミリモル/リットル(0.004M)~約25ミリモル/リットル(0.025M)の範囲に維持されること。要素18:液相中の一酸化炭素の濃度は、約4ミリモル/リットル(0.004M)~約50ミリモル/リットル(0.050M)の範囲に維持されること。要素19:液相中の一酸化炭素の濃度は、約4ミリモル/リットル(0.004M)~約100ミリモル/リットル(0.100M)の範囲に維持されること。
【0090】
本開示は、本明細書における教示の恩恵を受ける当業者にとって明白な、異なるが等価な方法で修正及び実施され得るため、以上に開示した特定の実施形態は例示にすぎない。さらに、以下の特許請求の範囲に記載のこと以外、本明細書に示した構成又は設計の詳細に対する制限は意図しない。したがって、上記に開示した具体的な例示的実施形態は改変又は修正され得、かかる変形例はすべて、本開示の範囲及び精神に含まれるとみなされることは明白であろう。実施形態(複数可)の特徴を組み合わせる、統合する、及び/又は省略することによって得られる代替的な実施形態も本開示の範囲内である。組成物及び方法は、様々なコンポーネント又はステップを「有する」、「備える」、「含有する」、又は「含む」というより広い用語で記載されているが、組成物及び方法はまた、様々なコンポーネント又はステップ「から本質的になる」、又は「からなる」ことができる。特許請求の範囲のいずれかの要素に関する「任意的に」という用語の使用は、その要素が必要とされるか、又は代替的にその要素が必要とされず、両方の代替物が特許請求の範囲内にあることを意味する。特許請求の範囲において、ミーンズプラスファンクションクレームは、列挙された機能を実行する本明細書に記載される構造、及び構造的均等物のみならず均等な構造にも及ぶことが意図される。出願人の明示的な意図は、請求項で「のための手段」という用語が関連する機能とともに明示的に使用されない限り、本明細書の請求項のいずれかの制限について35U.S.C.第112条第6段落を援用しないことである。
【0091】
上記に開示された数及び範囲は、ある量だけ変化する場合がある。下限及び上限を有する数値範囲が開示されている場合はいつでも、その範囲内に入るいずれかの数及びいずれかの含まれる範囲が具体的に開示されている。特に、本明細書に開示される(「約a~約b」、又は同等に「約aからb」、又は同等に「約a~b」の形態の)全ての値の範囲は、値のより広い範囲に包含される全ての数及び範囲を示すものと理解されるべきである。また、特許請求の範囲中の用語は、特許権者によって明示的かつ明確に定義されていない限り、その平易で通常の意味を有する。本明細書及び1つ以上の特許又は他の文献における単語又は用語の使用に矛盾がある場合、本明細書と一致する定義を採用すべきである。
【0092】
従って、保護の範囲は、上記に示した説明によって限定されず、その範囲が特許請求の範囲の主題の全ての均等物を含む、次の特許請求の範囲によってのみ限定される。