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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-06
(45)【発行日】2024-09-17
(54)【発明の名称】水防システム及び水防方法
(51)【国際特許分類】
   E02B 3/10 20060101AFI20240909BHJP
【FI】
E02B3/10
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2024533922
(86)(22)【出願日】2024-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2024012272
【審査請求日】2024-06-05
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2023/013017
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】寺村 篤
(72)【発明者】
【氏名】川原 英昭
(72)【発明者】
【氏名】坂中 宏行
(72)【発明者】
【氏名】大和 辰徳
(72)【発明者】
【氏名】丸岡 豊
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特表2001-512798(JP,A)
【文献】特開2007-231574(JP,A)
【文献】特開昭61-049013(JP,A)
【文献】米国特許第08500365(US,B1)
【文献】特表2017-533358(JP,A)
【文献】特開2001-227255(JP,A)
【文献】特開2000-345537(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103758089(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護対象である敷地又は建物に沿って連続して設置される防水シート固定部と、
前記防水シート固定部に下端が固定され、前記敷地又は建物を連続して覆う防水シートと、
前記防水シート固定部の近傍に設置され、前記防水シートを支持する複数の支柱とを備え、
前記防水シートは、前記防水シート固定部に固定可能であると共に、引き上げられて、前記複数の支柱の上部に固定可能であり、
前記防水シートが引き上げられて前記複数の支柱の上部に固定された状態で、前記防水シートによって連続的に防水壁が形成される水防システムであって、
少なくとも、前記敷地又は建物に通じ車両や人が通行する道路又は通路において、
連続して掘られ、前記防水シート固定部を含むシート収納用溝部と、
前記シート収納用溝部を覆う開閉可能な蓋部と、
前記防水シート固定部と離間した位置の地面に形成され、前記支柱を、それぞれの前記支柱単体のみを閉じた内周面内に収納可能な支柱収納穴とが設けられ、
通常時は、前記シート収納用溝部に前記防水シートが収納されると共に、前記支柱収納穴に前記支柱が収納され、前記シート収納用溝部を覆う前記蓋部の上を車両や人が通行可能であり、
浸水時には、前記支柱収納穴から前記支柱が引き上げられて前記支柱収納穴に固定されると共に、前記蓋部が開いて前記シート収納用溝部から前記防水シートが引き上げられて前記防水シートの上部が前記複数の支柱に固定されるように構成されている
ことを特徴とする水防システム。
【請求項2】
前記支柱収納穴が、前記シート収納用溝部よりも前記敷地又は建物側で前記支柱を収納可能に設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の水防システム。
【請求項3】
前記敷地は、河川、湖又は海岸に沿う堤防であり、前記防水シート固定部は、前記堤防に沿って設けられ、
前記道路は、橋に通じる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項4】
前記防水シート固定部は、前記敷地又は建物の周囲に設けられ、
前記通路は、前記敷地又は建物の出入り口に通じ、
浸水時には、前記防水シートは、引き上げられて前記敷地又は建物の角部にある前記支柱の部分で折れ曲がった状態で前記支柱の上部に固定され、前記防水シートによって連続的に防水壁が形成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項5】
前記道路又は通路のない部分において、前記支柱は、固定された固定支柱であり、
浸水時には、前記防水シートが引き上げられて上部が前記固定支柱に固定されるように構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項6】
前記支柱収納穴には、内径が一定の円筒状スリーブが埋め込まれており、
前記支柱は円形外周面を有し、
前記支柱が引き上げられて前記支柱収納穴に固定された状態で、前記支柱と前記円筒状スリーブとの嵌合長さをAとし、水平方向の前記円筒状スリーブの内周面と、前記支柱の外周面との間の片側隙間をBとしたときに、A/Bが7以上で、より好ましくは10以上である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項7】
前記防水シートの下端が、前記シート収納用溝部の前記敷地又は建物と反対側に固定されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項8】
前記防水シートは、複数の支柱の上部に跨がるように支持された梁部材を介して吊り下げされている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項9】
前記防水シートに梁部材が一体的に設けられ、
前記支柱の上端に係合凹部が形成されており、
前記梁部材を複数の支柱の前記係合凹部に跨がるように支持させることで、前記防水シートによって連続的に防水壁が形成される
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項10】
前記複数の支柱及び前記防水シートの一方には、係止部が設けられており、
前記複数の支柱及び前記防水シートの他方に設けた被係止部が、前記係止部に掛けられるように構成されている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項11】
前記防水シートの上部には、パイプ部材又は袋とじ部が設けられ、
前記パイプ部材又は袋とじ部にワイヤが通され、
前記ワイヤを介して前記防水シートが前記支柱に吊り下げられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項12】
前記複数の支柱が、駆動装置により引き上げられる
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の水防システム。
【請求項13】
前記駆動装置の駆動源は、圧力流体である
ことを特徴とする請求項12に記載の水防システム。
【請求項14】
前記駆動装置は、前記支柱の内部に設けられたピストン及びシリンダである
ことを特徴とする請求項13に記載の水防システム。
【請求項15】
前記駆動装置に前記圧力流体を供給する配管が前記シート収納用溝部に設置され、
一台の流体供給装置で前記複数の支柱を立ち上げるように構成されている
ことを特徴とする請求項13に記載の水防システム。
【請求項16】
保護対象である敷地又は建物を防水シートにより連続して覆って防水壁を形成する方法であって、
少なくとも、前記敷地又は建物に通じて車両や人が通行する道路又は通路を含む部分において、
前記防水シートを固定する防水シート固定部を含むシート収納用溝部と、
前記防水シート固定部と離間した位置の地面に形成され、支柱を、それぞれの前記支柱単体のみを閉じた内周面内に収納可能な支柱収納穴とを設け、
前記シート収納用溝部に折り畳んで又は丸めて、連続して前記防水シートを収納し、
前記防水シートを収容した前記シート収納用溝部を開閉可能な蓋部で覆い、
道路又は通路を含まない部分においても、
前記防水シートの下端を固定する防水シート固定部を連続して設け、
前記防水シート固定部に下端を固定するようにして連続して前記防水シートを配置し、
前記防水シート固定部と離間した位置で前記支柱を配置し、
使用時に、前記支柱収納穴から前記支柱を引き上げると共に、前記防水シートを引き上げて前記支柱に支持することにより、前記防水シートにより前記敷地又は建物を連続して覆う防水壁を形成する
ことを特徴とする水防方法。
【請求項17】
前記支柱収納穴を前記シート収納用溝部よりも前記敷地又は建物側に設ける
ことを特徴とする請求項16に記載の水防方法。
【請求項18】
前記支柱収納穴を前記シート収納用溝部内の前記敷地又は建物側に設け、
前記支柱の上端に前記防水シートの上端を連結して前記支柱を前記支柱収納穴に収納した状態で、前記シート収納用溝部に収納する
ことを特徴とする請求項16に記載の水防方法。
【請求項19】
複数の前期支柱の上部に跨がるように梁部材を支持し、
前記梁部材を介して前記防水シートを吊り下げる
ことを特徴とする請求項16に記載の水防方法。
【請求項20】
前記防水シートに梁部材を一体的に設け、
前記梁部材を複数の支柱の上部に跨がるように支持させることで、前記防水シートによって連続的に防水壁を形成する
ことを特徴とする請求項16に記載の水防方法。
【請求項21】
前記防水シートの上部に、パイプ部材又は袋とじ部を設け、
前記パイプ部材又は袋とじ部にワイヤを通し、
前記ワイヤを介して前記防水シートを前記支柱に吊り下げる
ことを特徴とする請求項16に記載の水防方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水防システム及び水防方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1のように、建物や敷地を覆う浸水防止装置として、支柱と防水シートを備えた防水壁を形成する浸水防御装置が知られている。
【0003】
また、特許文献2のように、地面にほぼ鉛直に埋設される複数の円筒の地下埋設部材と、同軸状に出没自在に挿入された支柱部材とを備え、隣接する支柱部材の間に堰板を挿入し、支柱部材の上端に取り付けた押圧手段で堰板を地面に押し付けて遮水する遮水装置を、家屋の土地全体に多数敷き詰めて遮水装置とするものが知られている。
【0004】
さらに、特許文献3のように、トレンチ(溝部)にフレキシブル壁(防水シート)が収納され、同じトレンチ内に支柱が横倒しで収納され、浸水危険時に支柱を起立させてレシーバで支持する浸水防止装置が知られている。
【0005】
一方、特許文献4のように、河川の護岸に支柱と防水シートを備えた防水壁を形成する防水装置として、例えばガードレールの支柱やフェンスを用いた防水装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-88791号公報
【文献】特許第2886123号公報
【文献】特許第6676707号公報
【文献】特開2017-141601号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のものは、通常時には、支柱も防水シートもないため、敷地や建物への出入りには問題がないが、浸水時には支柱や防水シートを保管場所から運んでくる必要があり、支柱の設置、防水シートの形成、側壁との密閉などに非常に時間がかかる。このため、急激な豪雨による河川の洪水や、下水の内水氾濫による床下又は床上浸水を防止するのに、小規模のものにしか実質的は対応できず、河川沿いや工場周囲など広範囲に設置しようとすると、時間がかかりすぎ、防水装置の設置作業そのものが危険を伴うという問題点がある。
【0008】
特許文献2のものは、多くの堰板を収納するのに大きなスペースが必要である。さらには、多くの堰板を設置し、押圧手段で締め付ける作業を、囲いたい敷地や建物の広範囲にわたって行う必要があるので、特に河川沿いや工場周囲などでは、浸水防止装置の設置に多大な時間を要し、増水の緊急時に危険な作業を長時間行う必要がある。
【0009】
特許文献3のものは、支柱を横倒しで防水シート共に同じ溝内に収納してレシーバで支持する構造のため、増水時の水圧の大部分が支柱に加わる。また、大きな荷重が加わる支柱の支持部が浅く、構造的に大きな荷重に耐えられないことから、支柱とは別部材であるレシーバで水と反対側から支持しなければならず、設置に時間がかかるという問題がある。
【0010】
特許文献4のものでは、河川の橋の部分には車両や人が通行するためにガードレールやフェンスがないため、防水壁の設置ができず、特に都市部の小規模河川や用水路など、多くの橋がかかっている河川での氾濫防止には使えないという問題点がある。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、車両や人が通行する道路や通路部分において、通常時は通行可能で、浸水時にはその部分を含めて容易に防水壁を設けて保護対象の敷地又は建物の浸水を防止できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、この発明では、道路又は通路に至る部分において、通常時には防水シート及び支柱を収納してその上を通行可能とし、浸水時には防水シートを引き上げて、支柱収容穴から引き上げた支柱に掛けるようにした。
【0013】
具体的には、第1の発明では、
保護対象である敷地又は建物に沿って連続して設置される防水シート固定部と、
前記防水シート固定部に下端が固定され、前記敷地又は建物を連続して覆う防水シートと、
前記防水シート固定部の近傍に設置され、前記防水シートを支持する複数の支柱とを備え、
前記防水シートは、前記防水シート固定部に固定可能であると共に、引き上げられて、前記複数の支柱の上部に固定可能であり、
前記防水シートが引き上げられて前記複数の支柱の上部に固定された状態で、前記防水シートによって連続的に防水壁が形成される水防システムであって、
少なくとも、前記敷地又は建物に通じ車両や人が通行する道路又は通路において、
連続して掘られ、前記防水シート固定部を含むシート収納用溝部と、
前記シート収納用溝部を覆う開閉可能な蓋部と、
前記防水シート固定部と離間した位置で前記支柱を収納可能な支柱収納穴とが設けられ、
通常時は、前記シート収納用溝部に前記防水シートが収納されると共に、前記支柱収納穴に前記支柱が収納され、前記シート収納用溝部を覆う前記蓋部の上を車両や人が通行可能であり、
浸水時には、前記支柱収納穴から前記支柱が引き上げられて前記支柱収納穴に固定されると共に、前記蓋部が開いて前記シート収納用溝部から前記防水シートが引き上げられて前記防水シートの上部が前記複数の支柱に固定されるように構成されている。
【0014】
上記の構成によると、通常時には、車両や人が通行する際に、シート収納用溝部に収容された防水シートが蓋部で覆われ、支柱が支柱収納穴に収納されているので、通行の邪魔にならない。そして、浸水時には、まず通路又は道路の部分ではない領域において防水シートを引き上げてその上部を支柱に固定することで、浸水直前まで道路又は通路を利用して敷地又は建物を出入りでき、最後に道路又は通路部分において蓋部を外し、支柱を支柱収納穴から引き上げ、その支柱に防水シートを固定することで、防水シートや支柱を保管場所から運んでくることなく、敷地又は建物を連続して覆う防水壁が完成するようにすることができる。支柱を防水シート固定部から離間した位置に設けるので、防水シートは、支柱上端から防水シート固定部に向かって傾斜した状態で張られる。また、防水シートに加わる水圧は、一部が引張荷重として防水シート固定部に加わるので、支柱に加わる負荷が減る。ここで、「敷地」は、住居、工場など建物の敷地だけでなく、河川、湖、海岸の堤防、盛土がないような岸の壁部を含む意味である。
【0015】
第2の発明では、第1の発明において、
前記支柱収納穴が、前記シート収納用溝部よりも前記敷地又は建物側で前記支柱を収納可能に設けられている。
【0016】
上記の構成によると、支柱をシート収納用溝部よりも保護対象側に設けるので、防水シートは、支柱上端からシート収納用溝部に向かって傾斜した状態で張られる。また、防水シートに加わる水圧は、一部が引張荷重として防水シート固定部に加わるので、支柱に加わる負荷が減る。
【0017】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
前記敷地は、河川、湖又は海岸に沿う堤防であり、前記防水シート固定部は、前記堤防に沿って設けられ、
前記道路は、橋に通じる。
【0018】
上記の構成によると、通常時は、シート収納用溝部に収納された防水シートが蓋部に覆われ、支柱が支柱収納穴に収納されているので、橋に通じる道路を車両や人が通行できる。浸水時には、蓋部を開き、支柱を支柱収納穴から引き上げて固定し、防水シートを引き上げて支柱に固定するだけで、橋に通じる道路部分を含めて連続した防水壁が完成し、堤防に沿った防水が可能となる。ここで、「堤防」とは、一般に、河川、湖の氾濫や海水の侵入を防ぐため、河岸、湖岸、海岸に沿って設けた土石やコンクリート製の構築物を言うが、市街地を流れる小型河川のように、盛土がないような岸の壁部も含む意味である。
【0019】
第4の発明では、第1又は第2の発明において、
前記防水シート固定部は、前記敷地又は建物の周囲に設けられ、
前記通路は、前記敷地又は建物の出入り口に通じ、
浸水時には、前記防水シートは、引き上げられて前記敷地又は建物の角部にある前記支柱の部分で折れ曲がった状態で前記支柱の上部に固定され、前記防水シートによって連続的に防水壁が形成される。
【0020】
上記の構成によると、通常時には、敷地又は建物出入り口に通じる通路を車両や人が通行する際に、シート収納用溝部に収容された防水シートが蓋部で覆われ、支柱が支柱収納穴に収納されているので、通行の邪魔にならない。そして、浸水時には、まず通路の部分ではない領域において防水シートを引き上げてその上部を支柱に固定することで、浸水直前まで通路を利用して敷地又は建物を出入りでき、最後に蓋部を外し、支柱を支柱収納穴から引き上げ、その支柱に防水シートを固定することで、敷地又は建物の周囲を平面視で敷地又は建物の周囲の角部にある支柱の部分で折れ曲がった角部を有するようにして、連続した防水壁が完成する。このため、支柱や防水シートを保管場所から運んでくることなく、それぞれ収容溝や収納穴から引き上げるだけで極めて容易に保護対象の敷地又は建物の保護が必要な部分を適切に覆って容易に浸水を防止することができる。
【0021】
第5の発明では、第1から第3のいずれか1つの発明において、
前記道路又は通路のない部分において、前記支柱は、固定された固定支柱であり、
浸水時には、前記防水シートが引き上げられて上部が前記固定支柱に固定されるように構成されている。
【0022】
上記の構成によると、通行の邪魔にならない部分は、固定支柱としておけば、浸水時には、防水シートを引き上げて固定支柱に固定すればよいだけなので、防水シートの設置が極めて容易である。また、固定支柱の部分は、敷地や建物を覆うフェンスとしても使用できる。
【0023】
第6の発明では、第1から第5のいずれか1つの発明において、
前記支柱収納穴には、内径が一定の円筒状スリーブが埋め込まれており、
前記支柱は円形外周面を有し、
前記支柱が引き上げられて前記支柱収納穴に固定された状態で、前記支柱と前記円筒状スリーブとの嵌合長さをAとし、水平方向の前記円筒状スリーブの内周面と、前記支柱の外周面との間の片側隙間をBとしたときに、A/Bが7以上で、より好ましくは10以上である。
【0024】
上記の構成によると、A/Bが7を下回ると、水圧がかかったときに支柱が倒れてより大きな荷重がかかり、支柱の変形や破損につながる。しかし、A/Bが7以上であると、支柱が倒れにくくなる。特にA/Bが10以上であると、支柱が比較的高い場合も含めて、より安全である。これにより、剛性が高い防水壁を構成できる。なお、片側隙間としたのは、径方向反対側も同様の片側隙間があるためである。
【0025】
第7の発明では、第1から第6のいずれか1つの発明において、
前記防水シートの下端が、前記シート収納用溝部の前記敷地又は建物と反対側に固定されている。
【0026】
上記の構成によると、防水シートを引き上げ易く、引き上げた後も支柱上部に向かって斜めに延びるので、防水シートが安定し、収納もし易い。また、防水シートを敷地又は建物から見て支柱の外側に固定しているので、防水シートにて囲われた領域内に降った雨水をシート収納用溝部に逃がすことができる。このため、シート収納用溝部内の水を排水できるようにすることで、防水シートで囲まれた保護領域側に水が溜まりにくくなる。
【0027】
第8の発明では、第1から第7のいずれか1つの発明において、
前記防水シートは、複数の支柱の上部に跨がるように支持された梁部材を介して吊り下げされている。
【0028】
上記の構成によると、複数の支柱上部に跨がる梁部材を介して防水シートが支持されるので、梁部材がない場合に比べ、防水シートの上端が撓みにくくて強度が増し、防水壁の高さも高くすることができる。また、梁部材が複数の支柱に支持されるので、防水シートに加わる荷重を分散できる。
【0029】
第9の発明では、第1から第8のいずれか1つの発明において、
前記防水シートに梁部材が一体的に設けられ、
前記支柱の上端に係合凹部が形成されており、
前記梁部材を複数の支柱の前記係合凹部に跨がるように支持させることで、前記防水シートによって連続的に防水壁が形成される。
【0030】
上記の構成によると、防水シートに一体に設けた梁部材を介して防水シートが支持されるので、梁部材がない場合に比べ、防水シートの上端が撓みにくくて強度が増し、防水壁の高さも高くすることができる。また、梁部材が複数の支柱に支持されるので、防水シートに加わる荷重を分散できる。
【0031】
第10の発明では、第1から第7のいずれか1つの発明において、
前記複数の支柱及び前記防水シートの一方には、係止部が設けられており、
前記複数の支柱及び前記防水シートの他方に設けた被係止部が、前記係止部に掛けられるように構成されている。
【0032】
上記の構成によると、極めて簡単な構造であり、防水シート又は支柱の被係止部を他方の係止部にかけるだけでよいので、作業性もよい。
【0033】
第11の発明では、第1から第7のいずれか1つの発明において、
前記防水シートの上部には、パイプ部材又は袋とじ部が設けられ、
前記パイプ部材又は袋とじ部にワイヤが通され、
前記ワイヤを介して前記防水シートが前記支柱に吊り下げられている。
【0034】
上記の構成によると、ワイヤを引っ張ることで、そのワイヤが通されたパイプ部材又は袋とじ部が引き上げられてその一辺の防水シートが引き上げられる。このため、重量が重い防水シートであっても、防水壁の設置が容易かつ確実に行われる。また、剛性のあるパイプ部材又は袋とじ部にワイヤが通されているので、ワイヤをウインチ等で巻き上げたときに防水シートの上端で撓み等が生じにくい。
【0035】
第12の発明では、第1から第11のいずれか1つの発明において、
前記複数の支柱が、駆動装置により引き上げられる。
【0036】
上記の構成によると、安全かつ迅速に支柱を引き上げることができる。
【0037】
第13の発明では、第12の発明において、
前記駆動装置の駆動源は、圧力流体である。
【0038】
上記の構成によると、圧力流体によって複数箇所で同時に支柱を引き上げ易い。
【0039】
第14の発明では、第13の発明において、
前記駆動装置は、前記支柱の内部に設けられたピストン及びシリンダである。
【0040】
上記の構成によると、簡単な構成で支柱を引き上げることができる。
【0041】
第15の発明では、第13又は第14の発明において、
前記駆動装置に前記圧力流体を供給する配管が前記シート収納用溝部に設置され、
一台の流体供給装置で前記複数の支柱を立ち上げるように構成されている。
【0042】
上記の構成によると、複数の支柱を容易に同時に立ち上げることができる。
【0043】
第16の水防方法では、
保護対象である敷地又は建物を防水シートにより連続して覆って防水壁を形成する方法であって、
少なくとも、前記敷地又は建物に通じて車両や人が通行する道路又は通路を含む部分において、
前記防水シートを固定する防水シート固定部を含むシート収納用溝部と、
前記防水シート固定部と離間した位置で前記支柱を収納可能な支柱収納穴とを設け、
前記シート収納用溝部に折り畳んで又は丸めて、連続して前記防水シートを収納し、
前記防水シートを収容した前記シート収納用溝部を開閉可能な蓋部で覆い、
道路又は通路を含まない部分においても、
前記防水シートの下端を固定する防水シート固定部を連続して設け、
前記防水シート固定部に下端を固定するようにして連続して前記防水シートを配置し、
前記防水シート固定部と離間した位置で前記支柱を配置し、
使用時に、前記支柱収納穴から前記支柱を引き上げると共に、前記防水シートを引き上げて前記支柱に支持することにより、前記防水シートにより前記敷地又は建物を連続して覆う防水壁を形成する構成とする。
【0044】
上記の構成によると、通常時には、車両や人が通行する際に、シート収納用溝部に収容された防水シートが蓋部で覆われ、支柱が支柱収納穴に収納されているので、通行の邪魔にならない。そして、浸水時には、まず通路又は道路の部分ではない領域において防水シートを引き上げてその上部を支柱に固定することで、浸水直前まで道路又は通路を利用して敷地又は建物を出入りでき、最後に道路又は通路部分において蓋部を外し、支柱を支柱収納穴から引き上げ、その支柱に防水シートを固定することで、防水シートや支柱を保管場所から運んでくることなく、敷地又は建物を連続して覆う防水壁を完成させることができる。さらに、支柱をシート固定部から離間させているので、防水シートを引き上げ易く、引き上げた後も支柱上部に向かって斜めに延びるので、防水シートが安定し、収納もし易い。
【0045】
第17の発明は、第16の発明において、
前記支柱収納穴を前記シート収納用溝部よりも前記敷地又は建物側に設ける構成とする。
【0046】
上記の構成によると、支柱をシート固定部からより遠く保護対象側に離間させることができるので、さらに、防水シートを引き上げ易く、引き上げた後も支柱上部に向かって斜めに延びるので、防水シートが安定し、収納もし易い。
【0047】
第18の発明は、第16の発明において、
前記支柱収納穴を前記シート収納用溝部内の前記敷地又は建物側に設け、
前記支柱の上端に前記防水シートの上端を連結して前記支柱を前記支柱収納穴に収納した状態で、前記シート収納用溝部に収納する構成とする。
【0048】
上記の構成によると、支柱の上端に防水シートの状態を連結した状態であっても、シート収納用溝部に支柱の上端を収納できるので、出っ張らず、車両や人の通行の妨げにならない。一方、支柱を支柱収納穴から引き出すだけで、防水シートによって連続した防水壁が容易に完成する。
【0049】
第19の発明は、第16の発明において、
前記複数の支柱の上部に跨がるように梁部材を支持し、
前記梁部材を介して前記防水シートを吊り下げる構成とする。
【0050】
上記の構成によると、複数の支柱上部に跨がる梁部材を介して防水シートが支持されるので、梁部材がない場合に比べ、防水シートの上端が撓みにくくて強度が増し、防水壁の高さも高くすることができる。また、一辺当たり複数の支柱に支持されているので、防水シートに加わる荷重を分散できる。
【0051】
第20の発明では、第16の発明において、
前記防水シートに梁部材を一体的に設け、
前記梁部材を複数の支柱の上部に跨がるように支持させることで、前記防水シートによって連続的に防水壁を形成する構成とする。
【0052】
上記の構成によると、防水シートに一体に設けた梁部材を介して防水シートが支持されるので、梁部材がない場合に比べ、防水シートの上端が撓みにくくて強度が増し、防水壁の高さも高くすることができる。また、梁部材が複数の支柱に支持されるので、防水シートに加わる荷重を分散できる。
【0053】
第21の発明では、第16の発明において、
前記防水シートの上部に、パイプ部材又は袋とじ部を設け、
前記パイプ部材又は袋とじ部にワイヤを通し、
前記ワイヤを介して前記防水シートを前記支柱に吊り下げる構成とする。
【0054】
上記の構成によると、ワイヤを引っ張ることで、そのワイヤが通されたパイプ部材又は袋とじ部が引き上げられてその一辺の防水シートが引き上げられる。このため、重量が重い防水シートであっても、防水壁の設置が容易かつ確実に行われる。また、剛性のあるパイプ部材又は袋とじ部にワイヤが通されているので、ワイヤをウインチ等で巻き上げたときに防水シートの上端で撓み等が生じにくい。
【発明の効果】
【0055】
以上説明したように、本発明によれば、通常時には、防水シートや支柱が邪魔にならずに敷地又は建物を出入りでき、浸水時には、支柱や防水シートを別の場所から運んでくることなく、防水シートによって保護対象である敷地又は建物の保護が必要な部分を覆って容易に浸水を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1A】本発明の実施形態1に係る水防システムの収納状態を示す斜視図である。
図1B】本発明の実施形態1に係る水防システムの収納状態を示す図1AのIB部拡大斜視図である。
図1C】本発明の実施形態1に係る水防システムの収納状態を示す図1BのIC-IC線断面図である。
図2A】本発明の実施形態1に係る水防システムの使用状態を示す斜視図である。
図2B】本発明の実施形態1に係る水防システムの使用状態を示す図2AのIIB部拡大斜視図である。
図2C】本発明の実施形態1に係る水防システムの使用状態を示す図2BのIIC-IIC線断面図である。
図3A】本発明の実施形態2に係る水防システムの収納状態を示す斜視図である。
図3B】本発明の実施形態2に係る水防システムの収納状態を示す図3AのIIIB部拡大斜視図である。
図3C】本発明の実施形態2に係る水防システムの収納状態を示す図3BのIIIC-IIIC線断面図である。
図3D】本発明の実施形態2に係る水防システムの収納状態を示す図3AのIIID部拡大斜視図である。
図4A】本発明の実施形態2に係る水防システムの使用納状態を示す斜視図である。
図4B】本発明の実施形態2に係る水防システムの使用状態を示す図4AのIVB部拡大斜視図である。
図4C】本発明の実施形態2に係る水防システムの使用状態を示す図4BのIVC-IVC線断面図である。
図4D】本発明の実施形態2に係る水防システムの使用状態を示す図4AのIVD部拡大斜視図である。
図4E】本発明の実施形態2に係る水防システムの使用状態を示す図4DのIVE-IVE線断面図である。
図5A】本発明の実施形態3に係る水防システムの収納状態を示す斜視図である。
図5B】本発明の実施形態3に係る水防システムの収納状態を示す図5AのVB部拡大斜視図である。
図6A】本発明の実施形態3に係る水防システムの使用状態を示す斜視図である。
図6B】本発明の実施形態3に係る水防システムの使用状態を示す図6AのVIB部拡大斜視図である。
図6C】本発明の実施形態3に係る水防システムの使用状態を示す図6BのVIC-VIC線断面図である。
図7A】本発明の実施形態3に係る水防システムの使用状態における、直線部分の支柱及び防水シートを建物側から見た拡大斜視図である。
図7B】本発明の実施形態3に係る水防システムの使用状態における、角部の支柱及び防水シートを拡大して示す斜視図である。
図8A】本発明の変形例1に係る使用状態の、直線部分の支柱及び防水シートを拡大して示す斜視図である。
図8B】本発明の変形例1に係る使用状態の、角部の支柱及び防水シートを拡大して示す斜視図である。
図9】本発明の変形例2に係る使用状態の、支柱及び防水シートを拡大して示す斜視図である。
図10】本発明の変形例3に係る使用状態の、支柱及び防水シートを拡大して示す断面図である。
図11】本発明の変形例3に係る収納状態の、支柱及び防水シートを拡大して示す断面図である。
図12】シミュレーション解析に用いた条件を示す断面図である。
図13】シミュレーション解析に用いた条件を示す別の断面図である。
図14】支柱長さが500mmの時のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
図15】支柱長さが750mmの時のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
図16】支柱長さが1000mmの時のシミュレーション解析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0058】
(実施形態1)
-水防システムの構成-
実施形態1の水防システム1は、図1A及び図2Aに示すように、例えば、河川に沿って設けた、敷地としての堤防Eに設けられている。通常、堤防Eには、車両や人が通行する道路Rが交わる部分において橋Bがかけられている。それ以外の堤防E及び橋Bには、人等が河川側に入らないようにある程度の高さのフェンスFが設けられている。ここで、「堤防」とは、一般に、河川、湖の氾濫や海水の侵入を防ぐため、河岸、湖岸、海岸に沿って設けた土石やコンクリート製の構築物を言うが、市街地を流れる小型河川のように、盛土がないような岸の壁部も含む意味である。
【0059】
そして、保護対象である、河川に沿って設けた堤防Eの、河川と反対側を浸水から保護するために、堤防Eに沿ってシート収納用溝部2が連続して設置されている。シート収納用溝部2は、少なくとも橋Bに至る道路Rを含む部分に設けられていればよく、河川全長においてシート収納用溝部2が設けられていなければならない、という意味ではない。シート収納用溝部2は、基本的には河川に沿って設けられるので、河川が曲がっている領域においては、河川と同様に曲がるように設けてもよいし、河川よりも緩やかに曲がるように設けてもよい。
【0060】
シート収納用溝部2は、図1C図2C等に示すように、本実施形態では底面が平らな矩形状のものである。図示しないが、シート収納用溝部2内に溜まった水が滞りなく排出されるように、底面が傾いていたり、排水用孔が形成されていたりしてもよい。
【0061】
本実施形態のシート収納用溝部2は、堤防Eを新たに設ける場合だけでなく、既存の堤防Eに追加で設けることも可能である。見映え、安全性等の観点から、シート収納用溝部2の上部は、開閉可能な蓋部10で覆われている。蓋部10は、人力で取り外せる程度の重さであるのが望ましい。
【0062】
シート収納用溝部2は、防水シート固定部としての役割を有し、その内壁に、堤防Eを連続して覆う防水シート3の下端3aが固定されるようになっている。特に本実施形態では、防水シート3の下端3aが、シート収納用溝部2の保護対象である堤防Eの、河川と反対側にて取付金具3bにより固定されている。
【0063】
なお、車両や人が通行しない領域は、シート収納用溝部2を設けずに、堤防Eの上面を防水シート固定部とし、取付金具3bにより防水シート3の下端3aを固定し、その近傍に、平坦に防水シート3を折り畳んで載置したり、ボックス内に防水シート3を収納したりするようにしてもよい。
【0064】
防水シート3は、シート状部材よりなり、その材質、厚さ等は特に制限されず、防水性と可撓性を有していればよいが、長期間屋外で供用されることを考慮し、耐水、耐熱、耐オゾン等の耐候性の高いゴムシート、塩ビシート、ターポリン等の材料で構成されており、防水性と衝撃に対する強度を高めるには、単一のシート材料よりも、所謂ゴム引き布の方が望ましい。
【0065】
そして、シート収納用溝部2の近傍(具体的には、堤防Eにおける河川と反対側)には、防水シート3を支持する複数の支柱4が設けられている。本実施形態では、人、自転車等が堤防Eの上を河川に沿って通行する場合を考慮して、大部分の支柱4は、通常時、支柱収納穴5に収納されるように構成されている。しかし、車両や人が通行しないような場所では、支柱4は、常時起立させた固定支柱で構成してもよい。
【0066】
図2B及び図2Cに示すように、引き上げられた支柱4は、その下側にロックピン4aを挿通することで、支柱収納穴5内に戻らないように固定されるようになっている。
【0067】
本実施形態では、支柱4は例えば断面円形の中空又は中実部材で構成されている。支柱収納穴5は、それに合わせて断面円形の金属製パイプ等よりなる円筒状スリーブ5aが埋め込まれて構成されている。地面に設ける支柱収納穴5の深さは、支柱4の全長よりも深く掘削するとよい。支柱収納穴5の内周面と支柱4の外周面との片側隙間Bの大きさについては後述する。
【0068】
防水シート3は、その下端3aがシート収納用溝部2に固定可能であると共に、引き上げられて、その上部が複数の支柱4の上部に固定可能である。防水シート3の折り方は特に限定されないが、例えば、ジグザグに折って上下に積み重ねるとよい。場合によっては丸めて収納してもよい。上述したように、防水シート3の下端3aは、取付金具3bによりシート収納用溝部2の河川側内壁に固定されているが、その固定方法は特に限定されない。
【0069】
防水シート3が折り畳まれて収納されたシート収納用溝部2が、板状の蓋部10で覆われている。蓋部10は、シート収納用溝部2の周縁の蓋部用凹部2a(図2Cに示す)に嵌め込むだけでもよいし、図示しないヒンジ部を設けて開閉可能に構成してもよい。図示する蓋部10は、孔のない板状であるが、場合によってはグレーチングのような孔が設けられたもので構成してもよい。又、孔のない板状のものであっても、縞鋼板のような表面に滑り止めの凹凸が設けられたもので構成してもよい。
【0070】
本実施形態では、支柱4の上端に径方向に延びる直線状の係合凹部7が凹陥されている。一方、防水シート3の袋とじ部3cに棒状の梁部材6が一体的に設けられている。例えば、防水シート3の上端に形成した袋とじ部3cに梁部材6が挿通されている。支柱4の部分において、梁部材6が露出しているのが望ましいが、防水シート3で覆われたままでもよい。
【0071】
図2B及び図2Cに示すように、この係合凹部7に防水シート3の上端の袋とじ部3cに挿通した梁部材6が上方から係合されることで、梁部材6を介して防水シート3が支柱4に吊り下げられた状態で支持されるようになっている。係合凹部7の大きさは、少なくとも梁部材6が嵌まり込んで簡単に抜けないように設定するとよい。図示しないが、係合凹部7に梁部材6を係合させた状態で、上方から抜け止め部材で抜け止めしてもよい。
【0072】
また図示しないが、支柱4の上面には、支柱収納穴5から支柱4を引き出すための指掛け部が設けられていてもよい。例えば、逆U字状の金具が引き出し可能かつ抜け止めされた状態で埋め込まれていてもよい。
【0073】
そして、水防システム1は、防水シート3が引き上げられ、その梁部材6を複数の支柱4の上部に跨がるように支持させることで、防水シート3によって連続的に河川に沿って防水壁20が形成されるようになっている。
【0074】
-防水壁を形成する方法-
まず、堤防Eに沿って道路R及び橋Bがある部分を含め、シート収納用溝部2を設け、それを開閉可能な蓋部10で覆う。シート収納用溝部2の取付金具3bと離間した位置、具体的には河川と反対側に支柱収納穴5を埋設し、その中に支柱4を収納する。
【0075】
こうすることで、図1Aに示すように、通常時は、シート収納用溝部2に防水シート3が収納されると共に、支柱収納穴5に支柱4が収納され、シート収納用溝部2を覆う蓋部10の上を車両や人が通行可能となる。本実施形態では、橋Bがない部分においても支柱4が支柱収納穴5に収納され、シート収納用溝部2が蓋部10で覆われているので、人、自転車等が河川に沿って通行しても邪魔にならない。
【0076】
浸水時には、まず、道路R部分以外において、支柱収納穴5から支柱4が引き上げられて支柱収納穴5に固定される。また、蓋部10を開いてシート収納用溝部2から防水シート3を引き上げ、その上部を複数の支柱4に固定する。最後に、橋Bの部分において支柱4及び防水シート3を引き上げるようにすれば、浸水直前まで橋Bに通じる道路Rを通行可能である。
【0077】
そして、梁部材6を複数の支柱4の係合凹部7に跨がるように支持させることで、図2Aに示すように、防水シート3によって連続的に防水壁20が形成される。
【0078】
一方、浸水の可能性が減って再び防水シート3を収納するときには、防水シート3を複数の支柱4から外し、折り畳んでシート収納用溝部2に収納し、蓋部10を閉じる。そして、支柱4を支柱収納穴5に収納する。
【0079】
本実施形態では、図2Bに示すように、防水シート3に一体に設けた梁部材6を介して防水シート3が支持されるので、梁部材6がない場合に比べ、防水シート3の上端が撓みにくくて強度が増し、防水壁20の高さも高くすることができる。また、梁部材6が複数の支柱4に支持されるので、防水シート3に加わる荷重を分散できる。
【0080】
本実施形態では、支柱4をシート固定部から離間させているので、防水シート3を引き上げ易く、図2Cに示すように、引き上げた後も支柱4上部に向かって斜めに延び、防水シート3が安定し、収納もし易い。さらに、水圧は取付金具3b部分に引張荷重としても支持されることから、支柱4に加わる荷重も軽減される。
【0081】
以上説明したように、本実施形態によれば、通常時には、防水シート3や支柱4が邪魔にならずに橋Bの上を通行でき、浸水時には、防水シート3によって容易に河川からの浸水を防ぐことができる。
【0082】
(実施形態2)
図3A図4Eは本発明の実施形態2の水防システム101を示し、浸水からの保護対象が異なる点で上記実施形態1と異なる。なお、以下の各実施形態及び各変形例では、図1A図2Cと同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0083】
-水防システムの構成-
本発明の実施形態2の水防システム101は、平面視で多角形状(本実施形態では矩形状)に連続して掘られた防水シート固定部を含むシート収納用溝部102を備えている。
【0084】
本実施形態では、保護対象として一軒の住宅の建物Pを対象としているが、複数の住宅や工場を含む区画全体を囲む、避難場所として公園等を囲む、浸水・冠水による農作物の病害発生等を回避するために農地を囲むなど適用範囲は広い。なお、ブロック塀など他の防水可能な構造物が設けられている場合には、その構造物が設けられていない部分のみを囲めばよい。
【0085】
例えば図4Aに示すように、シート収納用溝部102は、建物Pを囲むように矩形に設けられているが、建物Pの敷地Aの形状に合わせて他の多角形状に設けてもよい。図3Cに示すように、このシート収納用溝部102には、引き上げると連続した平面視多角形状の防水壁120を構成する防水シート103が折り畳むように収納されている。詳しくは図示しないが、この防水シート103を折り畳む際には、特に角部において、適切に防水シート103が引き出されるように折り畳まれる。折り畳みは、角部の角度、防水シート103の厚さなどにより適切に行われる。
【0086】
シート収納用溝部102は、図3C図4C等に示すように、本実施形態では底面が平らな断面矩形状のものである。図示しないが、シート収納用溝部102内に溜まった水が滞りなく排出されるように、底面が傾いていたり、排水用孔が形成されていたりしてもよい。なお、氾濫時、この排水孔から下水等が逆流するのを防ぐために、排水孔に開閉可能な蓋や、排水方向にのみ開く逆止弁等を備えていてもよい。
【0087】
本実施形態では、四角形の角部だけでなく、四角形を形成する各辺にも、引き上げられた防水シート103を支持する複数の支柱104,104’が設けられている。本実施形態では、複数の支柱104は、シート収納用溝部102よりも内側(内水氾濫等から守られる建物P側の敷地A側)に収納可能又は脱着可能に設けられ、上部に防水シート103が吊り下げられるように構成されている。支柱104,104’の本数はこれよりも多くても少なくてもよい。
【0088】
本実施形態では、特に建物Pの出入り口Dに通じる通路G上及びその周辺の各支柱104は、上記実施形態1と同様に、車止めの上下式のボラードの要領で通常時は地面に収納可能となっている。
【0089】
本実施形態では、図3Aに示すように、建物Pの出入り口周辺の支柱104以外の支柱は、地面に収容しない固定支柱104’となっている。例えば、図3Dにも示すように、固定支柱104’は、複数の固定梁106’で互いに連結されており、建物Pを囲むフェンスの役割を果たしていてもよい。浸水時には、防水シート103が引き上げられて上部が固定支柱104’に固定されるように構成されている。複数の固定梁106’で連結された固定支柱104’は剛性が高くて有利である。
【0090】
図示しないが、支柱104の上部には、実施形態1と同様に支柱104を引き出すための金具等が設けられていてもよい。そして、図4Dに示すように、上記実施形態1と同様に、防水シート103の上端には、袋とじ部103cが設けられ、その袋とじ部103c内に、例えば丸棒材、丸パイプなどよりなる梁部材106が挿通されている。
【0091】
そして、防水シート103の下端103aは、シート収納用溝部102の保護対象である敷地A又は建物Pと反対側内壁に取付金具103bによって固定されている。防水シート103は、シート収納用溝部102内を一周する形で収納されている。
【0092】
図4B及び図4Cに示すように、上記実施形態1と同様に各支柱104,104’の上端に係合凹部107が形成されている。図7Bに示すように、角部の固定支柱104’の係合凹部107’は、角部の角度に合わせた凹部形状とすればよい。一方、防水シート103の上端の梁部材106が、この係合凹部107,107’に係合されることで、防水シート103が、梁部材106に吊り下げされるようになっている。
【0093】
使用時(浸水時)には、図4C及び図4Eに示すように、防水シート103は、上方に向かって支柱104,104’の上部側に傾斜するように引き上げられるようになっている。
【0094】
図4A及び図7Bにも示すように、防水シート3は、引き上げられて敷地A又は建物Pの角部にある支柱4の部分で折れ曲がった状態で支柱104,104’の上部に固定され、防水シート103によって連続的に防水壁120が形成されるように構成されている。
【0095】
-水防方法-
次に、本実施形態に係る水防方法について説明する。
【0096】
図3Aに示すように、平常時(通常時)などの水防システム101を使用しないときには、出入り口D側の通路G及びその周辺では、防水シート103がシート収納用溝部102に収納され、蓋部10で覆われている。図3Bにも示すように、建物Pの出入り口周辺の支柱104のみが支柱収納穴105に収納されている。このため、見映えがよく、建物Pの出入りの妨げにならない。一方、図3Aに示すように、その他の固定支柱104’は、固定梁106’に連結されてフェンスの役割を果たしている。
【0097】
そして、使用時(浸水時)には、まず、固定支柱104’部分の蓋部10を取り外す。
【0098】
次いで、図4D及び図4Eに示すように、例えば、固定支柱104’の係合凹部7に防水シート103の梁部材106を上方から嵌め込んで係合させる。角部についても、図7Bに示すように、角部専用の固定支柱104’の係合凹部107’に梁部材106の先端を係合させる。
【0099】
この作業をまず固定支柱104’の範囲で行っておく。そうすれば、建物Pを完全に覆うまでの間、建物Pの出入りが行える。
【0100】
次いで、建物Pの出入り口Dに通じる通路周辺の支柱104を引き出し、その下端側の貫通孔にロックピン(共に図示省略)を挿通して支柱収納穴105へ戻らないように固定する。
【0101】
次に、図4B及び図7Aに拡大して示すように、支柱104の係合凹部107に防水シート103の梁部材106を上方から嵌め込んで係合させる。
【0102】
これにより、支柱104,104’及び防水シート103を他の保管場所から持ち運ぶことなく、図4Aに示すように、敷地A又は建物Pの周囲を平面視で角部の固定支柱104’の部分で折れ曲がった角部を有するようにして、連続した断面四角形の傾斜した側壁を有する防水壁120が完成する。なお、防水壁120の外周面となる部分には、絵柄などを描いて外観が悪化しないようにしてもよい。
【0103】
このように、本実施形態では、シート収納用溝部102に収容されていた防水シート103を引き上げて支柱104,104’に支持させるだけで、敷地A又は建物Pの周囲を連続して覆う平面視多角形の防水壁120が完成する。
【0104】
また、複数の支柱104,104’の上部に跨がる梁部材106を介して防水シート103が支持されるので、強度が増し、防水壁120の高さも高くすることができる。
【0105】
さらに、通路G上及び周辺の支柱104については、防水シート103と同様に非使用時に支柱収納穴105に収納されるので、見映えがよく、敷地Aや建物Pの出入りの妨げにならない。
【0106】
本実施形態では、防水シート103の下端103aをシート収納用溝部102の保護対象である敷地A又は建物Pと反対側に固定したので、防水シート103を引き上げ易く、引き上げた後も支柱104上部に向かって斜めに延びるので、防水シート103が安定し、収納もし易い。また、防水シート103にて囲われた領域内に降った雨水は、シート収納用溝部102に逃がすことができる。
【0107】
したがって、本実施形態に係る水防システム101においても、通常時には、防水シート103や支柱104が邪魔にならずに敷地A又は建物Pを出入りでき、浸水時には、支柱104,104’や防水シート103を別の場所から運んでくることなく、防水シート103によって保護対象である敷地A又は建物Pの保護が必要な部分を覆って容易に浸水を防止することができる。
【0108】
また本実施形態では、火災保険の保険料の支払い対象とならない、「床上浸水又は地盤面より45cmを超える浸水」とならないような軽度な浸水も、防水シート103の防水壁120単体で効果的に防ぐことができる。
【0109】
上記実施形態2では、平面視四角形状の防水壁120を設けたが、平面視で、円形、楕円形、長円形などの湾曲した形状が含まれていてもよい。また、一部に擁壁があるような場合には、全周ではなく、それ以外の必要な領域にのみ防水壁120を設ければよい。このような場合には、その形状に合わせてシート収納用溝部102及び支柱104,104’を配置すればよい。さらに、平面視で一部がへこむような場合、その隅角部は、保護対象の敷地や建物と反対側(防水シート103の外側)に支柱104,104’が配置されてもよい。その場合も、防水シート103の下端は、シート収納用溝部102の、保護対象である敷地A又は建物Pと反対側に固定するとよい。
【0110】
(実施形態3)
図5A図6Cは本発明の実施形態3の水防システム201を示し、固定支柱104’を有さない点で上記実施形態2と異なる。本実施形態では、図1A図4Eと同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0111】
-水防システムの構成-
本発明の実施形態3の水防システム201も、図6Aに示すように、上記実施形態2と同様に、平面視で矩形状に連続して掘られた防水シート固定部を有するシート収納用溝部102を備えている。
【0112】
本実施形態では、特に建物Pの出入り口Dに通じる通路G上だけでなく、全周において、支柱104は、車止めの上下式のボラードの要領で通常時は支柱収納穴105に収納可能となっている。このため、各支柱104は、上記実施形態2のように固定梁106’で接続されていない。角部の支柱104の上端は、図7Bで示したように、上記実施形態2のような係合凹部107’を形成すればよい。
【0113】
本実施形態では、通常時、図5A及び図5Bに示すように、全ての支柱104及び防水シート103が収納されているので、見映えがよく、通路Gだけでなく、全周において通行が可能となっている。
【0114】
浸水時には、図6A図6Cに示すように、通路G部分以外の全ての支柱104を引き上げ、その上端の係合凹部107,107’に防水シート103の梁部材106を係合させる。
【0115】
最後に図7Aに示すように、通路G部分の支柱104を引き上げ、その係合凹部107に防水シート103の梁部材106を係合させる。
【0116】
これにより、上記実施形態2と同様に防水シート103によって連続的に防水壁220が形成される。
【0117】
したがって、本実施形態においても、通常時には、防水シート103や支柱104が邪魔にならずに敷地A又は建物Pを出入りでき、浸水時には、支柱104や防水シート103を別の場所から運んでくることなく、防水シート103によって保護対象である敷地A又は建物Pの保護が必要な部分を覆って容易に浸水を防止することができる。
【0118】
-変形例1-
図8A及び図8Bは、本発明の実施形態2の変形例1にかかる水防システム301を示し、防水シート303の上端の袋とじ部303cにワイヤ306が挿通されている点で、上記実施形態2と異なる。
【0119】
詳しくは図示しないが、このワイヤ306は、複数の支柱304を跨ぐようにして連続して防水シート303の袋とじ部303c(袋とじ部に挿通したパイプ部材でもよい)を通っている。
【0120】
図示しないが、複数の支柱304のうちの少なくとも一部の支柱304の上部には、滑車が設けられていてもよい。ワイヤ306は、滑車を介して電動又は油圧駆動のウインチに接続されていてもよい。
【0121】
ワイヤ306は、各支柱304の上端の係合凹部307に嵌め込むようにして係合されることで、抜けにくくなっているが、ワイヤ306自体は、その軸方向に移動可能としてもよい。
【0122】
そして、浸水時には、支柱304を引き上げた後、滑車に掛けられたワイヤ306が、電動又は油圧駆動のウインチによって巻き取られることで、防水シート303が支柱304の上側に引き上げられるように構成してもよい。防水シート303の高さは、ウインチの巻き取り量によって内水氾濫による水を止水可能な高さまで調整できるようにしてもよい。
【0123】
こうすると、重量が重い防水シート303であっても、防水壁の設置が容易かつ確実に行われる。また、剛性のあるパイプ部材又は袋とじ部303cにワイヤ306が通されているので、ワイヤ306をウインチ等で巻き上げたときに防水シート303の上端で撓み等が生じにくい。
【0124】
-変形例2-
図9は、本発明の実施形態2の変形例2にかかる水防システム401を示し、防水シート403の上端に適当な間隔を開けて鳩目403cが形成され、鳩目403cに通したシャックル408又はカラビナを介し、支柱404の上端に配置した梁部材406によって防水シート403が支持されるようになっている点で、上記実施形態2と異なる。なお、シャックル408又はカラビナに限定されず、一部が開閉可能な環状、或いはフック状の吊具によって防水シート403を支持してもよい。
【0125】
各支柱404の上端には、例えば、支柱404の引き出し時にも利用できるような逆U字状の支柱係合金具407が設けられており、この支柱係合金具407に梁部材406を挿通させ、支柱404により支持させるように構成されている。複数のシャックル408及び支柱係合金具407に梁部材406が挿通されている。支柱404は、その下部にロックピン404aを挿通させることで、支柱収納穴105に意図せず戻らないようになっている。シャックル408及び鳩目403cを設ける間隔は、適宜変更するとよい。
【0126】
なお、図示しないが、支柱404には、L字状フックなどの係止部が設けられていてもよい。そして、防水シート403を掛けた梁部材406をこの係止部に掛けるようにしてもよい。この極めて簡単な構造では、梁部材406などの被係止部を支柱404側の係止部にかけるだけでよいので、作業性もよい。
【0127】
また、支柱404側に係止部としてフックが設けられ、防水シート403側の鳩目403cをこの係止部に直接掛けるようにしてもよい。
【0128】
-変形例3-
図10及び図11は、本発明の実施形態2の変形例3にかかる水防システム501を示し、シート収納用溝部502の内部に支柱収納穴505が設けられている点で上記各実施形態と異なる。
【0129】
本変形例では、支柱収納穴505を設けるためにシート収納用溝部502の幅は大きくなっている。
【0130】
一方で、本変形例では、支柱504の上端が蓋部10によって隠れるので、支柱504の上端に予め梁部材506を介して防水シート503の上端を固定することができる。
【0131】
そうすれば、防水壁を設置する場合に、支柱504を引き上げた段階で防水シート503も張られる。このため、本変形例では、防水壁の設置作業が極めて簡素化されるという大きな利点がある。
【0132】
この場合、防水シート503を同時に引き上げるので、電動ウインチなど駆動手段を用いて支柱504及び防水シート503を引き出すことができるようにするとよい。
【0133】
-水平方向の円筒状スリーブの内周面と支柱の外周面との間の片側隙間B-
図12及び図13に示すように、支柱収納穴5には、内径が一定の円筒状スリーブ5aが埋め込まれている。支柱4は円形外周面を有し、支柱4が引き上げられて支柱収納穴5に固定された状態で、支柱4と円筒状スリーブ5aとの嵌合長さをAとし、水平方向の円筒状スリーブの内周面と、支柱4の外周面との間の片側隙間をB、地面から出た支柱高さをCとする。水圧Pが支柱4の1/3の高さに加わったとしたときに支柱4に加わる最大応力の値を有限要素法で解析した。なお、径方向反対側も同様の片側隙間Bがあるものとする。
【0134】
支柱4は、外径114.3で厚さ2.5mmの金属パイプとし、支柱ピッチを2500mm、Aを50mm、100mm、150mmとし、片側隙間Bを5mm、10mm、15mmとし、支柱高さCを500mmm、750mm、1000mmとした結果を図14図16にそれぞれ示す。
【0135】
図14に示すように、高さCが500mmのとき、A/Bが7以上で、より好ましくは10以上であれば、最大応力が抑えられている。A/Bは100よりも小さく、好ましくは50よりも小さい。嵌合長さAに比べて片側隙間Bが小さすぎても、支柱4の抜き差しが困難になる可能性があるためである。
【0136】
図15に示すように、高さCが750mmのときも、A/Bが7以上で、より好ましくは10以上であれば、最大応力が抑えられている。
【0137】
図16に示すように、高さCが1000mmのとき、A/Bが7よりも小さいと、最大応力が大きく、A/Bが7以上で支柱の材料や肉厚等変更すれば対応可能な最大応力の大きさであるが、10以上であれば、特に最大応力が抑えられて有利である。
【0138】
解析結果を見ると、A/Bが7を下回ると、水圧がかかったときに支柱4が倒れてより大きな荷重がかかり、支柱4の変形や破損につながる。しかし、A/Bが7以上であると、支柱4が倒れにくくなる。特にA/Bが10以上であると、支柱高さCが比較的高くなった場合でも、より安全であることがわかった。
【0139】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0140】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0141】
上記各実施形態では、防水シート3,103,303,403,503は、折り畳んでシート収納用溝部2,102,202,502に収容するようにしているが、一部丸めて収納してもよい。また、シート収納用溝部2,102,202,502を掘らない場合には、地面に直接又は地面に置いたボックス(図示せず)内に折り畳んだ又は丸めた防水シート3,103,303,403,503を配置してもよい。
【0142】
また、上記各実施形態では各支柱を手動で引き上げるようにしているが、駆動装置により引き上げられるようにしてもよい。そうすれば、安全かつ迅速に支柱を引き上げることができる。
【0143】
その場合、駆動装置の駆動源は、例えばエア、作動油等の圧力流体とするとよい。そうすれば、圧力流体によって複数箇所で同時に支柱を引き上げることができる。
【0144】
駆動装置は、例えば、支柱の内部に設けられたピストン及びシリンダである。そうすれば、簡単な構成で支柱を引き上げることができる。
【0145】
この場合、駆動装置にエア、作動油等の圧力流体を供給する配管がシート収納用溝部に設置されているとよい。そして、一台のコンプレッサ、油圧ユニット等の流体供給装置で複数の支柱を立ち上げるように構成されているのが望ましい。そうすれば、複数の支柱を容易に同時に立ち上げることができる。
【符号の説明】
【0146】
1,101,201,301,401,501 水防システム
2,102,202,502 シート収納用溝部
2a 蓋部用凹部
3,103,303,403,503 防水シート
3a,103a,203a,303a 下端
3b,103b 取付金具(防水シート固定部)
3c,103c,303c 袋とじ部
4,104,204,304,404,504 支柱
4a,404a ロックピン
5,105,505 支柱収納穴
5a 円筒状スリーブ
6,106,406,506 梁部材
7,107,307,307’ 係合凹部
10 蓋部
20,120,220 防水壁
104’ 固定支柱
106’ 固定梁
306 ワイヤ
403c 鳩目(孔部、被係止部)
407 支柱係合金具
408 シャックル
A 敷地
B 橋部
D 出入り口
E 堤防
F フェンス
G 通路
P 建物
R 道路
【要約】
少なくとも、敷地又は建物に通じ車両や人が通行する道路又は通路において、防水シート固定部を含むシート収納用溝部(2)を連続して掘り、シート収納用溝部を覆う開閉可能な蓋部(10)と、防水シート固定部と離間して支柱(4)を収納可能な支柱収納穴(5)とを設け、通常時は、シート収納用溝部に防水シートが収納されると共に、支柱収納穴に支柱が収納され、シート収納用溝部を覆う蓋部の上を車両や人が通行可能であり、浸水時には、支柱収納穴から支柱が引き上げられて支柱収納穴に固定されると共に、蓋部が開いてシート収納用溝部から防水シートが引き上げられて上部が複数の支柱に固定される。
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5A
図5B
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16