(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】歯科用重合性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/30 20200101AFI20240910BHJP
A61K 6/79 20200101ALI20240910BHJP
【FI】
A61K6/30
A61K6/79
(21)【出願番号】P 2020053184
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】515279946
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】村上 翔悟
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 祐亮
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慶太
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-127000(JP,A)
【文献】特開2012-051856(JP,A)
【文献】特開2010-215824(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038218(WO,A1)
【文献】特開2011-121869(JP,A)
【文献】特開2010-037324(JP,A)
【文献】国際公開第2021/049268(WO,A1)
【文献】特開2019-044038(JP,A)
【文献】特開2003-096122(JP,A)
【文献】特開2015-140299(JP,A)
【文献】特開2021-001261(JP,A)
【文献】特開2020-111513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00-6/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリレートと、5価のバナジウム化合物と、チオ尿素誘導体を含む第一剤と、
(メタ)アクリレートと、有機過酸化物を含む第二剤を有し、
前記5価のバナジウム化合物は、バナジウムオキシトリアルコキシドであ
り、
前記チオ尿素誘導体は、エチレンチオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-エチルチオ尿素、N-プロピルチオ尿素、N-ブチルチオ尿素、N-ラウリルチオ尿素、N-フェニルチオ尿素、N-シクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジメチルチオ尿素、N,N-ジエチルチオ尿素、N,N-ジプロピルチオ尿素、N,N-ジブチルチオ尿素、N,N-ジラウリルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素、1-アリル-3-(2-ヒドロキシエチル)-2-チオ尿素、1-(2-テトラヒドロフルフリル)-2-チオ尿素、N-tert-ブチル-N'-イソプロピルチオ尿素、2-ピリジルチオ尿素からなる群から選択される、歯科用重合性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用重合性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、口腔内のような湿潤条件下で使用することが可能な重合性組成物として、例えば、(メタ)アクリレートと、チオ尿素誘導体と、バナジウム化合物を含む第一剤と、(メタ)アクリレートと、有機過酸化物を含む第二剤を有する重合性組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、重合性組成物を長期間保存した後の硬化性を向上させること、即ち、重合性組成物の保存安定性を向上させることが望まれていた。
【0005】
本発明の一態様は、保存安定性に優れる歯科用重合性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、歯科用重合性組成物において、(メタ)アクリレートと、5価のバナジウム化合物と、チオ尿素誘導体を含む第一剤と、(メタ)アクリレートと、有機過酸化物を含む第二剤を有し、前記5価のバナジウム化合物は、有機バナジウム化合物である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、保存安定性に優れる歯科用重合性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明を実施するための形態を説明する。
【0009】
<歯科用重合性組成物>
本実施形態の歯科用重合性組成物は、(メタ)アクリレートと、5価のバナジウム化合物と、チオ尿素誘導体を含む第一剤と、(メタ)アクリレートと、有機過酸化物を含む第二剤を有する2剤型の歯科用重合性組成物である。
【0010】
第一剤、第二剤の性状としては、例えば、ペースト状等が挙げられる。
【0011】
本実施形態の歯科用重合性組成物の第一剤と第二剤の質量比は、通常、10:1~1:10である。
【0012】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、通常、第一剤と第二剤を練和して用いる。
【0013】
本実施形態の歯科用重合性組成物は、歯科用セメント、知覚過敏抑制材、歯科用シーラント等に適用することができる。
【0014】
以下、本実施形態の歯科用重合性組成物を構成する成分について説明する。
【0015】
<(メタ)アクリレート>
本願明細書及び特許請求の範囲において、(メタ)アクリレートとは、メタクリロイルオキシ基及び/又はアクリロイルオキシ基(以下、(メタ)アクリロイルオキシ基という)を1個以上有する化合物(例えば、モノマー、オリゴマー、プレポリマー)を意味する。
【0016】
(メタ)アクリレートは、酸基を有していてもよいし、酸基を有していなくてもよいが、第一剤に含まれる(メタ)アクリレートは、酸基を有さない(メタ)アクリレートであることが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用重合性組成物の保存安定性が向上する。
【0017】
(酸基を有さない(メタ)アクリレート)
酸基を有さない(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有することが好ましい。
【0018】
酸基を有さない(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-メチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート、ジ-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5-トリス[1,3-ビス{(メタ)アクリロイルオキシ}-2-プロポキシカルボニルアミノヘキサン]-1,3,5-(1H,3H,5H)トリアジン-2,4,6-トリオン、2,2-ビス[4-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)フェニル]プロパン、N,N'-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレート等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化体の機械的強度の点で、2-ヒドロキシ-1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロパン、ジ-2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートが好ましい。
【0019】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の酸基を有さない(メタ)アクリレートの含有量は、10~95質量%であることが好ましく、15~80質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中の酸基を有さない(メタ)アクリレートの含有量が10質量%以上95質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の操作性が向上する。
【0020】
(酸基を有する(メタ)アクリレート)
酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、リン酸基を有する(メタ)アクリレート、ピロリン酸基を有する(メタ)アクリレート、チオリン酸基を有する(メタ)アクリレート、カルボキシル基を有する(メタ)アクリレート、スルホン酸基を有する(メタ)アクリレート、ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の歯面のスメアー層の溶解性や歯質脱灰性、特に、エナメル質に対する接着性の点で、リン酸基又はチオリン酸基を有する(メタ)アクリレートが好ましい。
【0021】
なお、酸基を有する(メタ)アクリレートは、複数個の酸基を有していてもよい。
【0022】
また、酸基を有する(メタ)アクリレートの代わりに、酸基を有する(メタ)アクリレートの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩を用いてもよい。
【0023】
リン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、ビス[2-(メタ)アクリロイルオキシエチル]ハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルフェニルハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-ジハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルプロパン-2-フェニルハイドロジェンホスフェート、ビス[5-{2-(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニル}ヘプチル]ハイドロジェンホスフェート等が挙げられる。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の接着性の点で、10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが好ましい。
【0024】
ピロリン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕等が挙げられる。
【0025】
チオリン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデシルジハイドロジェンチオホスフェート、14-(メタ)アクリロイルオキシテトラデシルジハイドロジェンチオホスフェート、15-(メタ)アクリロイルオキシペンタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、17-(メタ)アクリロイルオキシヘプタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、18-(メタ)アクリロイルオキシオクタデシルジハイドロジェンチオホスフェート、19-(メタ)アクリロイルオキシノナデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート等が挙げられる。
【0026】
カルボキシル基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリット酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリット酸、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリット酸無水物、11-(メタ)アクリロイルオキシ-1,1-ウンデカンジカルボン酸、1,4-ジ(メタ)アクリロイルオキシピロメリット酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルマレイン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタル酸等が挙げられる。
【0027】
スルホン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-(メタ)アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0028】
ホスホン酸基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量は、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中の酸基を有する(メタ)アクリレートの含有量が0.1質量%以上であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の歯質に対する接着性がさらに向上し、20質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性がさらに向上する。
【0030】
<5価のバナジウム化合物>
5価のバナジウム化合物は、重合促進剤として、機能する。
【0031】
5価のバナジウム化合物は、(メタ)アクリレートに可溶であることが好ましい。
【0032】
5価のバナジウム化合物は、有機バナジウム化合物であることが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用重合性組成物における5価のバナジウム化合物の(メタ)アクリレートに対する溶解性が向上する。
【0033】
5価のバナジウム化合物は、バナジウムオキシトリアルコキシドであることが好ましい。これにより、本実施形態の歯科用重合性組成物の保存安定性が向上する。
【0034】
バナジウムオキシトリアルコキシドとしては、例えば、バナジウムオキシトリイソプロポキシド、バナジウムオキシトリプロポキシド、バナジウムオキシトリエトキシド等が挙げられる。
【0035】
バナジウムトリアルコキシド以外の5価のバナジウム化合物としては、例えば、オキシ塩化バナジウム等が挙げられる。
【0036】
なお、5価のバナジウム化合物は、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0037】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の5価のバナジウム化合物の含有量は、0.001~1質量%であることが好ましく、0.01~0.1質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中の5価のバナジウム化合物の含有量が0.001質量%以上であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性が向上し、1質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の保存安定性が向上する。
【0038】
また、上記と同様の理由で、第一剤中の5価のバナジウム化合物の含有量は、0.002~2質量%であることが好ましく、0.02~0.2質量%であることがさらに好ましい。
【0039】
<チオ尿素誘導体>
チオ尿素誘導体は、化学重合開始剤の還元剤として、機能する。
【0040】
チオ尿素誘導体としては、例えば、エチレンチオ尿素、N-メチルチオ尿素、N-エチルチオ尿素、N-プロピルチオ尿素、N-ブチルチオ尿素、N-ラウリルチオ尿素、N-フェニルチオ尿素、N-シクロヘキシルチオ尿素、N,N-ジメチルチオ尿素、N,N-ジエチルチオ尿素、N,N-ジプロピルチオ尿素、N,N-ジブチルチオ尿素、N,N-ジラウリルチオ尿素、N,N-ジフェニルチオ尿素、N,N-ジシクロヘキシルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、N-アセチルチオ尿素、N-ベンゾイルチオ尿素、1-アリル-3-(2-ヒドロキシエチル)-2-チオ尿素、1-(2-テトラヒドロフルフリル)-2-チオ尿素、N-tert-ブチル-N'-イソプロピルチオ尿素、2-ピリジルチオ尿素等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性の点で、N-ベンゾイルチオ尿素が好ましい。
【0041】
本実施形態の歯科用重合性組成物中のチオ尿素誘導体の含有量は、0.1~5質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中のチオ尿素誘導体の含有量が0.1質量%以上であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性が向上し、5質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物におけるチオ尿素誘導体の(メタ)アクリレートに対する溶解性が向上する。
【0042】
また、上記と同様の理由で、第一剤中のチオ尿素誘導体の含有量は、0.2~10質量%であることが好ましく、0.2~2質量%であることがさらに好ましい。
【0043】
<有機過酸化物>
有機過酸化物は、化学重合開始剤の酸化剤として、機能する。
【0044】
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド、t-アミルヒドロペルオキシド、1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ヒドロペルオキシ)ヘキサン、p-ジイソプロピルベンゼンモノヒドロペルオキシド、p-メタンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。これらの中でも、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性の点で、クメンヒドロペルオキシドが好ましい。
【0045】
本実施形態の歯科用重合性組成物中の有機過酸化物の含有量は、0.01~5質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中の有機過酸化物の含有量が0.01質量%以上であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化性が向上し、5質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の操作余裕時間が長くなる。
【0046】
また、上記と同様の理由で、第二剤中の有機過酸化物の含有量は、0.02~10質量%であることが好ましく、0.2~4質量%であることがさらに好ましい。
【0047】
<その他の成分>
第一剤は、第3級アミンをさらに含んでいてもよい。
【0048】
第3級アミンは、化学重合開始剤の還元剤として、機能する。
【0049】
第3級アミンは、第3級脂肪族アミン及び第3級芳香族アミンのいずれであってもよいが、第3級芳香族アミンであることが好ましく、p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルであることが特に好ましい。
【0050】
第3級脂肪族アミンとしては、例えば、N,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0051】
p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキルとしては、例えば、p-ジメチルアミノ安息香酸メチル、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p-ジメチルアミノ安息香酸アミル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p-ジエチルアミノ安息香酸エチル、p-ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が挙げられる。
【0052】
p-ジアルキルアミノ安息香酸アルキル以外の第3級芳香族アミンとしては、例えば、7-ジメチルアミノ-4-メチルクマリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジベンジルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N,2,4,6-ペンタメチルアニリン、N,N,2,4-テトラメチルアニリン、N,N-ジエチル-2,4,6-トリメチルアニリン等が挙げられる。
【0053】
なお、第3級アミンは、単独で使用してもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0054】
第一剤及び/又は第二剤は、重合禁止剤、光重合開始剤、フィラー等をさらに含んでいてもよい。
【0055】
重合禁止剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0056】
光重合開始剤としては、例えば、カンファーキノン、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルージフェニルフォスフィン、ベンジルケタール、ジアセチルケタール、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタール、ベンジルビス(2-メトキシエチル)ケタール、4,4'-ジメチル(ベンジルジメチルケタール)、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、チオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-ニトロチオキサントン、2-メチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロ-7-トリフルオロメチルチオキサントン、チオキサントン-10,10-ジオキシド、チオキサントン-10-オキシド、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、4,4'-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0057】
フィラーとしては、例えば、無水ケイ酸粉末、ヒュームドシリカ、アルミナ粉末、ガラス粉末(例えば、バリウムガラス粉末、フルオロアルミノシリケートガラス粉末)等が挙げられ、二種以上を併用してもよい。
【0058】
なお、フィラーは、シランカップリング剤等の表面処理剤で処理されていてもよい。
【0059】
本実施形態の歯科用重合性組成物中のフィラーの含有量は、4~90質量%であることが好ましく、15~80質量%であることがさらに好ましい。本実施形態の歯科用重合性組成物中のフィラーの含有量が4質量%以上であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の硬化体の機械的強度が向上し、90質量%以下であると、本実施形態の歯科用重合性組成物の操作性が向上する。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0061】
[実施例1~9、比較例1~3]
(ペースト1の調製)
表1に示す配合[質量%]で、酸基を有さないメタクリレートと、5価のバナジウム化合物と、チオ尿素誘導体と、フィラーと、第3級アミンと、光重合開始剤と、重合禁止剤を混合し、ペースト1を得た。
【0062】
(ペースト2の調製)
表1に示す配合[質量%]で、酸基を有さないメタクリレートと、酸基を有するメタクリレートと、有機過酸化物と、フィラーと、重合禁止剤を混合し、ペースト2を得た。
【0063】
なお、表1における略称の意味は、以下の通りである。
【0064】
Bis-GMA:2,2-ビス[4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)フェニル]プロパン
UDMA:ジ-2-メタクリロイルオキシエチル-2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジカルバメート
EBDMA:エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート
NPG:ネオペンチルグリコールジメタクリレート
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
MDP:10-メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート
HOMS:2-メタクリロイルオキシエチルコハク酸
TIPOVO:バナジウムオキシトリイソプロポキシド
TPOVO:バナジウムオキシトリプロポキシド
TEOVO:バナジウムオキシトリエトキシド
VAA:バナジルアセチルアセトネート(ビス(2,4-ペンタンジオナト)バナジウム(IV)オキシド)
NBTU:N-ベンゾイルチオ尿素
CHP:クメンヒドロペルオキシド
フィラー1:バリウムガラス粉末G018-053 UF0.4(SCHOTT製)
フィラー2:アエロジルRX300(疎水性ヒュームドシリカ)(日本アエロジル製)
フィラー3:無水ケイ酸粉末RAF1000(龍森製)
EPA:p-ジメチルアミノ安息香酸エチル
CQ:カンファーキノン
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
次に、ペースト1、2(歯科用重合性組成物)の保存安定性を評価した。
【0065】
(保存安定性)
歯科用重合性組成物の保存安定性を評価するために、加速試験を実施した。具体的には、ペースト1、2を60℃で14日間保存した。次に、保存する前後のペースト1、2を質量比1:1で練和した後、硬化時間を測定し、歯科用重合性組成物の保存安定性を評価した。具体的には、内径8mm、厚さ2mmのアクリルリングに、ペースト1、2の練和物を充填した後、赤外放射温度計を用いて、温度を測定することにより、硬化時間を求めた。
【0066】
なお、保存安定性の判定基準は、下記の通りである。
【0067】
優:保存する前後の歯科用重合性組成物の硬化時間の変化が3分以下である場合
良:保存する前後の歯科用重合性組成物の硬化時間の変化が3分を超え、4分以下である場合
不可:保存する前後の歯科用重合性組成物の硬化時間の変化が4分を超える場合
表1、2に、歯科用重合性組成物の保存安定性の評価結果を示す。
【0068】
【0069】
【表2】
表1、2から、実施例1~9の歯科用重合性組成物は、保存安定性が高いことがわかる。
【0070】
これに対して、比較例1~3の歯科用重合性組成物は、5価のバナジウム化合物を含まず、4価のバナジウム化合物であるバナジルアセチルアセトネートを含むペースト1を有するため、保存安定性が低い。