(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】プレススルーパック包装シート
(51)【国際特許分類】
B65D 65/40 20060101AFI20240910BHJP
B65D 83/04 20060101ALI20240910BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240910BHJP
B65D 75/26 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B65D65/40 D
B65D83/04 D
B32B27/30 C
B65D75/26
(21)【出願番号】P 2020130984
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】524208238
【氏名又は名称】SBパックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】友野 正樹
(72)【発明者】
【氏名】細江 夏樹
【審査官】武井 健浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/251225(WO,A1)
【文献】特開2019-126968(JP,A)
【文献】国際公開第2020/196700(WO,A1)
【文献】特開昭49-003980(JP,A)
【文献】特開平10-166518(JP,A)
【文献】特開昭58-148759(JP,A)
【文献】実開昭54-140085(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65D 65/40
B65D 83/04
B65D 75/26
B65D 75/34
B32B 27/00
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレススルーパック包装シートであって、
ポリ塩化ビニリデン系樹脂を有し、厚みが50μm以下の第1の層と、ポリエチレンを有する第2の層とが交互に2回以上繰返して積層されて接着された積層構造を備え、
シート全体の厚みが350μm以下であ
り、
前記第1の層の厚みが前記第2の層の厚みよりも小さいことを特徴とするプレススルーパック包装シート。
【請求項2】
前記積層構造において、前記第1の層と前記第2の層とが交互に3回以上繰り返して積層されて接着されている、請求項1に記載のプレススルーパック包装シート。
【請求項3】
前記積層構造を挟み込んで接着する2層のポリ塩化ビニル系樹脂の層をさらに備える、請求項1
または2に記載のプレススルーパック包装シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレススルーパック包装シートに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品などの包装形態の一つとして、底材と蓋材とを備えるプレススルーパック(以下、「PTP」とも言う。)包装体が知られている。PTP包装体は、まず、ポリ塩化ビニル系樹脂などからなるプレススルーパック包装シート(以下、「PTP包装シート」とも言う。)を、真空成形または圧空成形することによって、ポケット状の凹部を有する底材として成形する。次いで、この凹部に内容物を充填し、PTP包装シートの凹部以外のフランジ部をヒートシール性の蓋材でシールすることによって形成される。PTP包装体は、収納された内容物に対して底材の外側から蓋材の方向に力を加えて、蓋材を破ることによって、内容物を取り出すことができるように構成されている。
【0003】
上記PTP包装シートは、長期間内容物の成分を保持させるため、基材となるシートにバリア層を積層させることによって、水蒸気バリア性を付与することがある。バリア層には、高い水蒸気バリア性を有し、熱成型も可能な素材を使用することが好ましく、例えば、ポリ塩化ビニリデン系樹脂が多く使用されている。
【0004】
PTP包装体には、内容物を押し出しやすいことが求められる。一般的には、構成される素材が著しく変わらない限り、上記PTP包装シートの総厚みが薄いほど、内容物を押し出しやすい。
【0005】
また、PTP包装体には、PTP包装体を落下させた場合などに対する耐衝撃性が求められる。上記PTP包装シートの総厚みが厚いほど、高い耐衝撃性が得られる。
【0006】
内容物を押し出しやすいPTP包装シートについて、特許文献1には、凹部が構成された樹脂シートの凹部の最小深さが所定値となる最大荷重を規定することにより、薬を取り出しやすくすることができる医薬品包装シートが記載されている。
【0007】
また、高い耐衝撃性を有するPTP包装シートについて、特許文献2には、硬質塩化ビニル樹脂層と、塩化ビニリデン系共重合樹脂エマルジョン塗布層と、ポリエチレン層とを備え、ポリエチレン層を硬質塩化ビニル樹脂層でサンドイッチさせた高い耐衝撃性を有する熱成形用プラスチックシートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-90831号公報
【文献】特開昭61-268444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1の医薬品包装シートは、薬を取り出しやすいシートを実現できているものの、耐衝撃性については検討されていない。一方、特許文献2の熱成形用プラスチックシートについては、ポリエチレン層を硬質塩化ビニル樹脂層でサンドイッチさせた構造を有するだけでは、耐衝撃性が不十分である。
【0010】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、内容物の押し出しやすさと高い耐衝撃性とを兼ね備えたプレススルーパック包装体を実現できるプレススルーパック包装シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、PTP包装シート層内の1層あたりのポリ塩化ビニリデン系樹脂の厚みに着目して検討を行った結果、PTP包装シート層内のポリ塩化ビニリデン系樹脂の厚みを一定の厚み以下にすることによって、耐衝撃性が向上することを見出した。また、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を有する層とポリ塩化ビニリデン系樹脂以外の樹脂を有する層とを交互に2回以上繰り返して積層させることによって、耐衝撃性を更に向上させることができることを見出した。この2つの要素を有するPTP包装シートにすることによって、PTP包装シートの総厚みを薄くしても、耐衝撃性を有した状態で、内容物の押出性も向上させることができることを見出した。
【0012】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]プレススルーパック包装シートであって、
ポリ塩化ビニリデン系樹脂を有し、厚みが50μm以下の第1の層と、前記ポリ塩化ビニリデン系樹脂以外の樹脂を有する第2の層とが交互に2回以上繰返して積層されて接着された積層構造を備え、
シート全体の厚みが350μm以下であることを特徴とするプレススルーパック包装シート。
【0013】
[2]前記第1の層の厚みが前記第2の層の厚みよりも小さい、前記[1]に記載のプレススルーパック包装シート。
【0014】
[3]前記積層構造において、前記第1の層と前記第2の層とが交互に3回以上繰り返して積層されて接着されている、[1]に記載のプレススルーパック包装シート。
【0015】
[4]前記積層構造を挟み込んで接着する2層のポリ塩化ビニル系樹脂の層をさらに備える、前記[1]~[3]のいずれか一項に記載のプレススルーパック包装シート。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内容物の押し出しやすさと高い耐衝撃性を兼ね備えたプレススルーパック包装体を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明によるプレススルーパック包装シートの一例を示す図である。
【
図2】本発明によるプレススルーパック包装シートの別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明によるPTP包装シートの一例を示している。
図1に示したPTP包装シート1は、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を有し、厚みが50μm以下の第1の層10aと、ポリ塩化ビニリデン系樹脂以外の樹脂を有する第2の層10bとが交互に2回以上繰返して積層されて接着された積層構造10を備える。そして、シート1全体の厚みが350μm以下であることを特徴とする。
【0019】
本発明者は、PTP包装体に包装された内容物の取り出しやすさと高い耐衝撃性とを兼ね備えるPTP包装体を実現するPTP包装シートについて鋭意検討した。その結果、PTP包装シート1が、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を有し、厚みが50μm以下の層(第1の層)10aと、ポリ塩化ビニリデン系樹脂以外の樹脂からなる層(第2の層)10bとが交互に2回以上繰返して積層された積層構造10を有することにより、PTP包装体の高い耐衝撃性を実現できることを見出した。
【0020】
また、上記積層構造を有するPTP包装シート全体の厚みが350μm以下であれば、PTP包装体から内容物を押し出ししやすくなることも見出し、本発明を完成させたのである。以下、各構成について説明する。
【0021】
PTP包装シート1の積層構造10を構成する第1の層10aは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を有し、厚みが50μm以下となるように構成されている。これにより、PTP包装体が高い耐衝撃性を有する。こうした第1の層10aは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を含むポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を用いて作製することができる。
【0022】
-ポリ塩化ビニリデン系樹脂-
第1の層10aを構成するポリ塩化ビニリデン系樹脂は、塩化ビニリデン単量体の単独重合体であってもよいし、塩化ビニリデン単量体と共重合可能な単量体との共重合体であってもよい。塩化ビニリデン単量体と共重合可能な単量体としては、特に限定されず、アクリル酸、アクリル酸メチルおよびアクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステル;メタクリロニトリル、メタクリル酸メチルおよびメタクリル酸ブチルなどのメタクリル酸エステル;塩化ビニル、メタアクリロニトリル、アクリロニトリル及び酢酸ビニルなどが挙げられる。これらの中でも、PTP包装シート1のガスバリア性と耐衝撃性のバランスから、アクリル酸メチル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、メタクリル酸メチルが好ましい。
この場合、塩化ビニリデンが90~98質量%、共重合可能な単量体の総量が10~2質量%からなる共重合体であることがより好ましい。共重合可能な単量体の総量が2質量%以上であれば、耐衝撃性がより良好である。また、共重合可能な単量体の総量が10質量%以下であれば、より高いガスバリア性能を発生させることができる。
これらの共重合体可能な単量体は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物は、1種のポリ塩化ビニリデン系樹脂を含むものであってもよいし、2種以上のポリ塩化ビニリデン系樹脂を含むものであってもよい。
【0023】
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を含む層は、例えば水系エマルジョン(以下、ラテックス)を隣接する層に塗工することによって好ましく形成することができる。
ポリ塩化ビニリデン系樹脂組成物を含む層は、特に限定されないが、例えば、乾燥後の塗膜重量が、10g/m2~200g/m2の範囲内、より典型的には20g/m2~100g/m2の範囲になるように形成することができる。
【0024】
ポリ塩化ビニリデン系ラテックスは塩化ビニリデンを含む単量体混合物を乳化重合することによって製造することができる。特に限定されないが、通常、乳化重合は30~70℃の温度で行われる。重合温度は、好ましくは40~60℃の範囲である。重合温度を70℃以下にすることにより、重合中に原料の分解が抑制させるため、好ましい。重合温度を30℃以上にすることにより、重合速度を上げることができるため、重合の効率が向上する。重合時の媒体としては、例えば水やエタノールを使用することができるが、好ましくは水のみを使用する。
【0025】
ラテックスの乳化重合に用いる塩化ビニリデンおよび塩化ビニリデンと共重合可能な単量体は、例えば重合前に予め所定量を混合し、連続的に投入しても、段階的にバッチ投入しても、連続的な投入と段階的なバッチ投入とを組み合わせてもよい。連続投入する場合の単量体の添加速度は、例えば重合温度を50℃とする場合には、添加する単量体の総重量のうちの70%以上を17~30時間、好ましくは19~30時間、更に好ましくは21~30時間をかけて添加することが好ましい。連続添加する時間は、重合温度によって最適化することが好ましい。好ましい一態様は、重合初期に単量体をバッチ投入し、後に残量を連続投入する方法である。単量体の連続投入を行うことにより、共重合体の重合度を調整することができ、共重合体の重量平均分子量を最適な範囲に調整することが可能となり、重合を効率的に行うことができる。
【0026】
ラテックスの乳化重合に用いることができる界面活性剤として、例えばアルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩などの陰イオン性界面活性剤が挙げられる。重合開始剤として、例えば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム藤の過硫酸塩、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド等の過酸化物等が挙げられる。重合活性剤として、例えば亜硫酸水素ナトリウムのような開始剤のラジカル分解を加速する重合活性剤が挙げられる。これら重合活性剤は、特に限定されず、例えば従来から好ましく使用されている種類であってよい。これらの物質はラテックスから生成させた塗膜中に残存してバリア性を劣化させる要因となり得るため、その使用量は可能な限り少量であることが好ましい。
【0027】
ラテックスに含まれる塩化ビニリデン系共重合体粒子は、特に限定されないが、その平均粒径は100~200nmであることが好ましい。平均粒径をこの範囲とすることによって、ラテックスの貯蔵安定性がよく、塗工性が向上する。ラテックスの固形分は、特に限定されないが、通常40~70質量%である。
【0028】
また、ラテックスには必要に応じて、一般的に使用されている種々の成分、例えば、消泡剤、レオロジー調整剤、増粘剤、分散剤、および、界面活性剤等の安定化剤、湿潤剤、可塑剤、着色剤、ワックス、シリコーンオイルなどを添加してもよい。また、このラテックスに必要に応じて、光安定剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、無機フィラー、着色顔料、体質顔料等を配合して使用することも可能である。
【0029】
上述のように、第1の層10aの厚みは50μm以下とする。一方、第1の層10aの厚みは、5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましい。これにより、PTP包装体に均一なバリア性を得ることができる。
【0030】
また、積層構造10を構成する第2の層10bは、ポリ塩化ビニリデン系樹脂以外の樹脂を有する。こうした樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどを挙げることができる。これらの中でも、耐衝撃性および成形性が良好であることから、樹脂はポリエチレンであることが好ましい。
【0031】
上記第2の層10bの厚みは10μm以上70μm以下であることが好ましい。第2の層10bの厚みを10μm以上とすることにより、耐衝撃を向上させることができる。より好ましくは、第2の層10bの厚みは20μm以上である。一方、第2の層10bの厚みを70μm以下とすることにより、内容物の押出性と成形性が良好になる。より好ましくは、第2の層10bの厚みは50μm以下である。
【0032】
第1の層10aの厚みが第2の層10bの厚みよりも小さいことが好ましい。これにより、PTP包装体の耐衝撃性をより高めることができる。
【0033】
また、積層構造10において、第1の層10aと第2の層10bとが交互に3回以上繰り返して積層されて接着されていることが好ましい。後述する実施例に示すように、第1の層10aと第2の層10bとが交互に3回以上繰り返して積層させることにより、PTP包装シート1、2の耐衝撃性をより向上させることができる。
【0034】
また、
図2に示すPTP包装シート2のように、積層構造10を挟み込んで接着する2層のポリ塩化ビニル系樹脂の層20をさらに備えることが好ましい。これにより、PTP包装シート2の耐衝撃性を向上できると共に、PTP包装機での熱成型適性を得ることができる。
【0035】
ポリ塩化ビニル系樹脂の層20の厚みは、50μm以上250μm以下であることが好ましい。ポリ塩化ビニル系樹脂の層20の厚みを50μm以上とすることにより、耐衝撃性の向上効果を得ることができる。また、ポリ塩化ビニル系樹脂の層20の厚みを250μm以下とすることにより、内容物の押出性をより向上させることができる。
【0036】
本発明において、PTP包装シート1全体の厚みは、350μm以下とする。PTP包装シート1全体の厚みが350μmを超える場合、内容物の取りやすさが容易ではなくなる。そこで、本発明においては、PTP包装シート1全体の厚みを350μm以下とする。また、PTP包装シート1全体の厚みは、内容物の取りやすさの点では特に限定されないが、ガスバリア性および耐衝撃性の点から、190μm以上であることが好ましく、210μm以上であることがより好ましい。
【0037】
次に、上記本発明によるPTP包装シート1の作製方法について説明する。具体的には、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を主成分とした水系エマルジョンを、ポリ塩化ビニリデン系樹脂以外の第2の層10bの上にコーティングする。ポリ塩化ビニリデン系樹脂の第1の層10aと、ポリ塩化ビニリデン系樹脂以外の第2の層10bとの接着性を向上させるため、接着剤等を塗布して複層化しても構わない。接着剤等としては、接着剤の他に、アンカーコート剤、粘着剤などが挙げられる。接着剤等の構成成分としては特に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。接着剤等の厚みは0.1~10μmが好ましい。0.1μm以上とすることによって、均一な接着性が得られる。また10μm以下にすることによって、柔軟性を維持させることができ、内容物の押出性を良好にすることができる。接着剤等の厚みは、より好ましくは0.3~3μmである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0039】
下記の実施例1~4、比較例1~7によるPTP包装シートの厚み、耐衝撃性、ガス透過性、およびPTP包装体からの内容物の取り出しやすさを以下のように評価した。
【0040】
<シート全体の厚み>
PTP包装シート全体の厚みは、ダイヤルゲージ(ミツトヨ社製)により測定した。
【0041】
<耐衝撃性>
PTP包装シートの耐衝撃性を、デュポン式衝撃試験器を用いて評価した。まず、50mm幅の帯状にカットしてPTP包装シートサンプルを作製した。そして、デュポン式衝撃試験器の受け台と撃ち型の間に、作製したPTP包装シートサンプルをクランプで固定した。所定高さにおもり(重さ300±1g、サイズ約30×78×18mm)をセットし、その後、自由落下させて撃ち型(先端形状:1/4インチR)に落とし、PTP包装シートサンプルの表面からから衝撃を加え、サンプルに損傷が現れた時の、おもりの高さを測定した。測定の結果、損傷が見られなかった高さが150mm以上の場合に、PTP包装シートが十分な耐衝撃性を有していると評価とした。
【0042】
<ガスバリア性>
PTP包装シートのガスバリア性を、JISK 7129Bに規定された水蒸気透過率(Water Vapor Transmission Rate、WVTR)により評価した。水蒸気透過率を測定する装置としては、MOCON社製の水蒸気透過度測定装置PERMATRAN 3/33を用いた。測定は、40℃100%RHの条件で行い、測定値に0.9を掛けることによって90%RHの値に換算した。
まず、PTP包装シートサンプルを作製した。作製したシートサンプルを装置付属品のカット板を用いて装置推奨のサイズに切り出し、試験片とした。その際、切り出した試験片は、最低でもPERMATRAN 3/33の測定部を完全に覆っている必要がある。
測定は、4枚の試験片を用いて行い、得られた値の平均値をPTP包装シートサンプルのWVTRとした。測定の結果、サンプルのWVTRが0.42g/m2・日以下であれば、PTP包装シートが十分なガスバリア性を有していると評価とした。
【0043】
<内容物の取り出しやすさの評価>
PTP包装体からの内容物の取り出しやすさを、PTP包装シートの座屈強度で評価した。まず、成型機としてCKD株式会社製、300Eを使用してPTP包装体サンプルを作製した。そして、直径5mmの円柱状押出治具を用い、PTP包装体サンプルから錠剤を取り出すまでの荷重変化を測定した。その際、押出速度は10mm/分で一定とした。そして、荷重が急激に低下した2回目の点を座屈点とし、座屈強度を測定した。測定の結果、座屈強度が20N以下であれば、PTP包装体から内容物を取り出しやすいと評価とした。
【0044】
(比較例1)
以下のように、比較例1によるPTP包装シートを作製した。まず、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分としたシート80μmにアンカーコート剤を塗布し、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を主成分とした水系エマルジョンを13μmコーティングし、複層化シートAを得た。次に、複層化シートAにアンカーコート剤を塗布し、熱溶融させたポリエチレン樹脂を15μmコーティング後すぐに、アンカーオート材を塗布したポリ塩化ビニル系樹脂を主成分としたシート80μmとサンドイッチさせ、冷却した。こうして、比較例1によるPTP包装シートを得た。PTP包装シートの層構成、厚み、デュポン衝撃高さ、WVTR、座屈強度を表1に示す。なお、表1において、PVC、PVDC、PEは、それぞれポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリエチレン系樹脂を示している。
【0045】
【0046】
(実施例1)
以下のように、実施例1によるPTP包装シートを作製した。まず、ポリ塩化ビニル系樹脂を主成分としたシート100μmにアンカーコート剤を塗布し、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を主成分とした水系エマルジョンを13μmコーティングし、複層化シートAを得た。次に、別のポリ塩化ビニル系樹脂を主成分としたシート100μmにアンカーコート剤を塗布し、熱溶融させたポリエチレン樹脂を30μmコーティング後すぐに冷却し、複層化シートBを得た。この複層化シートBにアンカーコート剤を塗布し、ポリ塩化ビニリデン系樹脂を主成分とした水系エマルジョンを13μmコーティングし、複層化シートCを得た。最後に、複層化シートAにアンカーコート剤を塗布し、熱溶融させたポリエチレン樹脂を30μmコーティング後すぐに、アンカーコート剤を塗布した複層化シートCとサンドイッチさせ、冷却した。こうして、実施例1によるPTP包装シートを得た。PTP包装シートの層構成、厚み、デュポン衝撃高さ、WVTR、座屈強度を表1に示す。
【0047】
(実施例2~4、比較例2~6)
PTP包装シートの層構成および各層の厚みを種々変更して、表1に示した構成を有する実施例2~4、比較例2~6のPTP包装シートを作製した。PTP包装シートの層構成、厚み、デュポン衝撃高さ、WVTR、座屈強度を表1に示す。
【0048】
<耐衝撃性の評価>
表1から、PTP包装体の耐衝撃性に関するデュポン衝撃高さについて、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の層とポリエチレン系樹脂の層との積層の繰り返し数が2回以上である実施例1~4、比較例2、3、5および6については、デュポン衝撃高さは200mm以上となり、十分な耐衝撃性を有していた。これに対して、ポリ塩化ビニリデン系樹脂の層とポリエチレン系樹脂の層との積層の繰り返し数が1回である比較例1、4および7については、50mm以下となり、耐衝撃性は低かった。また、繰り返し数が2回である実施例1と、繰り返し数が3回である実施例3とを比較すると、繰り返し数が3回である実施例3の方がデュポン衝撃高さが大きく、耐衝撃性が大きいことが分かる。以上から、積層構造における積層の繰り返し数を多くすると、耐衝撃性を向上できることが分かる。
【0049】
<ガスバリア性の評価>
表1から、PTP包装体からのガスバリア性に関するWVTRについて、厚みが188μmである比較例1については、WVTRは0.82g/m2・日となり、ガスバリア性は低かった。これに対して、厚みが190μm以上である実施例1~4、比較例2~7については、WVTRはいずれも0.42g/m2・日以下となり、高いガスバリア性を有していた。
【0050】
<内容物の取り出しやすさの評価>
表1から、PTP包装体からの内容物の取り出しやすさに関する座屈強度について、PTP包装シートの厚みが350μm以下である実施例1~4、比較例1、4および7については、いずれも座屈強度は20N以下となった。これは、PTP包装体から内容物を取り出しやすいと判断することができる。これに対して、比較例2、3、5および6については、いずれも座屈強度は20Nを超えており、PTP包装体から内容物を取り出しにくいと判断することができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、内容物の押し出しやすさと高い耐衝撃性を兼ね備えたプレススルーパック包装体を実現できる。
【符号の説明】
【0052】
1,2 プレススルーパック包装シート
10 積層構造
10a 第1の層
10b 第2の層
20 ポリ塩化ビニル系樹脂の層