(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ジオキサン分解菌粉末製剤とその製造方法、及び生分解処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/00 20230101AFI20240910BHJP
C02F 3/34 20230101ALI20240910BHJP
C02F 3/10 20230101ALI20240910BHJP
C12N 11/12 20060101ALI20240910BHJP
C12N 11/14 20060101ALI20240910BHJP
C12N 11/02 20060101ALI20240910BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C02F3/00 G
C02F3/34 Z
C02F3/10 A
C12N11/12
C12N11/14
C12N11/02
C12N1/20 D
(21)【出願番号】P 2021048168
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-10-10
【微生物の受託番号】NPMD NITE BP-02032
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390034348
【氏名又は名称】ケイ・アイ化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100122954
【氏名又は名称】長谷部 善太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100194803
【氏名又は名称】中村 理弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 哲史
(72)【発明者】
【氏名】日下 潤
(72)【発明者】
【氏名】服部 新吾
(72)【発明者】
【氏名】堀内 達也
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-236596(JP,A)
【文献】特開2010-252779(JP,A)
【文献】国際公開第2016/181802(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/097921(WO,A1)
【文献】特開2017-176067(JP,A)
【文献】特開2017-177031(JP,A)
【文献】特開2018-170988(JP,A)
【文献】国際公開第2019/082907(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/00
C02F 3/34
C02F 3/10
C12N 11/12
C12N 11/14
C12N 11/02
C12N 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状の基体に、1,4-ジオキサン分解菌が担持されてなり、
前記1,4-ジオキサン分解菌が、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株であり、
前記基体が、公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過する
セルロースであることを特徴とするジオキサン分解菌粉末製剤。
【請求項2】
水分率が、7重量%以上13重量%以下であることを特徴とする請求項
1に記載のジオキサン分解菌粉末製剤。
【請求項3】
流動層乾燥装置を用いて、流動層中で分散している粉末状の基体に1,4-ジオキサン分解菌を含む懸濁液を噴霧し、ジオキサン分解活性を維持したまま乾燥させる工程を有し、
前記1,4-ジオキサン分解菌が、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株であり、
前記基体が、公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過する
セルロースであることを特徴とするジオキサン分解菌粉末製剤の製造方法。
【請求項4】
請求項1
または2に記載のジオキサン分解菌粉末製剤を用いることを特徴とする有機化合物の生分解処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,4-ジオキサン分解菌の粉末製剤とその製造方法、及びこの粉末製剤を用いた有機化合物の生分解処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1,4-ジオキサンは、下記式(1)で表される環状エーテルである。1,4-ジオキサンは、水や有機溶媒との相溶性に優れており、主に有機合成の反応溶剤として使用されている。
【0003】
【0004】
2010年度の日本国における1,4-ジオキサンの製造・輸入量は、約4500t/年であり、約300t/年が環境中へ放出されたと推測される。1,4-ジオキサンは、水溶性であるため、水環境中へ放出されると広域に拡散してしまう。また、揮発性、固体への吸着性、光分解性、加水分解性、生分解性がいずれも低いため、水中からの除去が困難である。1,4-ジオキサンは急性毒性及び慢性毒性を有する上、発がん性も指摘されていることから、1,4-ジオキサンによる水環境の汚染は、人や動植物に悪影響を及ぼすことが懸念されている。そのため、日本国では、水道水質基準(0.05mg/L以下)、環境基準(0.05mg/L以下)及び排水基準(0.5mg/L以下)により、1,4-ジオキサンの規制がなされている。また、非特許文献1には、1,4-ジオキサンを含む産業廃水には、1,4-ジオキサンの他に1,3-ジオキソラン及び2-メチル-1,3-ジオキソランといった環状エーテルが含まれていることが報告されている。特に1,3-ジオキソランは、急性毒性等の毒性が確認されており、1,3-ジオキソランを含む汚染水等は適切に処理しなければならない。
【0005】
低コストかつ安定的に1,4-ジオキサン等の環状エーテルを含む水を処理する方法が求められており、特許文献1、非特許文献2では、1,4-ジオキサン分解菌による1,4-ジオキサン処理が提案されている。1,4-ジオキサン分解菌(以下、分解菌ともいう)は、1,4-ジオキサンを単一炭素源として分解する菌(資化菌)と、テトラヒドロフラン等の特定の基質の存在下にて1,4-ジオキサンを分解できる菌(共代謝菌)の2種類に大別される。資化菌は、さらに1,4-ジオキサン分解酵素の誘導の有無によって、誘導型と構成型に分けられる。誘導型1,4-ジオキサン分解菌は、1,4-ジオキサンなどの誘導物質が存在することで分解酵素の生産・分泌がされるため、1,4-ジオキサン処理に用いる前に予め馴養する必要がある。一方、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、常時、分解酵素を生産しているため、馴養することなく、直ちに1,4-ジオキサン処理に用いることができる。
【0006】
1,4-ジオキサンを生分解処理する場合、菌の前準備が簡便であるため、特定の基質を添加する必要がない資化菌を活用することが好ましく、誘導の必要がない構成型1,4-ジオキサン分解菌を用いることがさらに好ましい。しかし、構成型1,4-ジオキサン分解菌は、誘導型1,4-ジオキサン分解菌と比較して1,4-ジオキサン最大比分解速度が低いという問題点があった。
本発明者らは、構成型1,4-ジオキサン分解菌であるPseudonocardia sp.N23(以下、N23株ともいう)を報告している。N23株は、ジオキサンのみならず、環状エーテル、有機塩素化合物を生分解することができ、また優れた分解能力を有する(特許文献2、3)。そのため、N23株は、多様な汚染状況に対して生分解処理が可能であることが期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-306939号公報
【文献】特許第6117450号公報
【文献】特開2020-110788号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】CD. Adams, PA. Scanlan and ND. Secrist: Oxidation and biodegradability enhancement of 1,4-dioxane using hydrogen peroxide and ozone, Environ. Sci. Technol., 28(11), pp.1812-1818, 1994.
【文献】清和成、池道彦:1,4-ジオキサン分解菌を用いた汚染地下水の生物処理・浄化の可能性,用水と廃水,Vol.53, No.7, 2011
【文献】K. Sei, K. Miyagaki, T. Kakinoki, K. Fukugasako, D. Inoue and M. Ike: Isolation and characterization of bacterial strains that have high ability to degrade 1,4-dioxane as a sole carbon and energy source, Biodegradation, 24, 5, pp.665-674, 2012.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
N23株等のジオキサン分解菌は、活性を有したまま、すなわち、生きたまま取り扱う必要があり、通常、培養液やその濃縮液として取り扱われる。しかし、濃縮液にしても、その殆どは水で重く嵩張るものであり、汚染水を処理する曝気槽に必要量の菌体を供給するためには、大量の培養液または濃縮液が必要であった。そのため、ジオキサン分解菌の取り扱い性の向上が求められていた。
そこで、本発明は、1,4-ジオキサン分解菌の粉末製剤と、その製造方法、及び粉末製剤を用いた生分解処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
1.粉末状の基体に、1,4-ジオキサン分解菌が担持されてなり、
前記基体が、公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過することを特徴とするジオキサン分解菌粉末製剤。
2.前記基体が、無機担体、セルロース、キチン、キトサンのいずれかであることを特徴とする1.に記載のジオキサン分解菌粉末製剤。
3.水分率が、7重量%以上13重量%以下であることを特徴とする1.または2.に記載のジオキサン分解菌粉末製剤。
4.前記1,4-ジオキサン分解菌が、Pseudonocardia(シュードノカルディア)属であることを特徴とする1.~3.のいずれかに記載のジオキサン分解菌粉末製剤。
5.前記1,4-ジオキサン分解菌が、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株であることを特徴とする1.~4.のいずれかに記載のジオキサン分解菌粉末製剤。
6.流動層乾燥装置を用いて、流動層中で分散している粉末状の基体に1,4-ジオキサン分解菌を含む懸濁液を噴霧し、ジオキサン分解活性を維持したまま乾燥させる工程を有し、
前記基体が、公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過することを特徴とするジオキサン分解菌粉末製剤の製造方法。
7.前記基体が、無機担体、セルロース、キチン、キトサンのいずれかであることを特徴とする6.に記載のジオキサン分解菌粉末製剤の製造方法。
8.前記1,4-ジオキサン分解菌が、Pseudonocardia(シュードノカルディア)属であることを特徴とする6.または7.に記載のジオキサン分解菌粉末製剤の製造方法。
9.前記1,4-ジオキサン分解菌が、受託番号NITE BP-02032として寄託されたN23株であることを特徴とする6.~8.のいずれかに記載のジオキサン分解菌粉末製剤の製造方法。
10.1.~5.のいずれかに記載のジオキサン分解菌粉末製剤を用いることを特徴とする有機化合物の生分解処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の粉末製剤は、粉末状であるため、液体と比較して軽く、取り扱い性に優れている。本発明の粉末製剤は、雑菌が繁殖しにくく、ジオキサン分解菌を優先的に維持することができる。特に、N23株の粉末製剤は、1,4-ジオキサンのみならず、環状エーテル、有機塩素化合物の生分解処理に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実験1におけるジオキサン濃度の経時変化を示す図。
【
図2】実験2におけるジオキサン濃度の経時変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のジオキサン分解菌粉末製剤(以下、粉末製剤ともいう)は、粉末状の基体に、1,4-ジオキサン分解菌が担持されてなり、
公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過するものであることを特徴とする。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0014】
・基体
本発明で使用する基体は、公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過するものである。上記条件を満足する基体は、流動層乾燥装置を用いる粉末製剤の製造時に、流動層中で分散(気流に乗って浮かび上がること)でき、均一にジオキサン分解菌を担持することができる。基体は、公称目開き0.25mmの篩を80質量%以上通過するものであることが好ましく、公称目開き0.125mmの篩を80質量%以上通過するものであることがより好ましく、公称目開き0.053mmの篩を80質量%以上通過するものであることがさらに好ましい。
【0015】
基体の比表面積は、1m2/g以上であることが好ましい。比表面積が1m2/g以上であると、より多くの菌体を担持することができる。基体の比表面積は、2m2/g以上であることがより好ましく、3m2/g以上であることがさらに好ましい。また、基体の比表面積の上限値は、特に制限されない。
【0016】
基体の材質は特に制限されず、活性白土、珪藻土、ゼオライト、ベントナイト、パーライト、バーミキュライト、タルク、クレー、カオリン、珪砂、軽石、活性炭、カーボンブラック、グラファイト等の無機担体、セルロース、キチン、キトサン、米粉、小麦粉、コーンスターチ、澱粉、脱脂粉乳等の有機担体等を用いることができる。これらの中で、無機担体、セルロース、キチン、キトサンが、微生物が炭素源、窒素源として使用することが困難な材質であり、雑菌の繁殖を防ぐことができるため好ましい。
【0017】
・1,4-ジオキサン分解菌
本発明で使用する分解菌としては特に制限されず、マイコバクテリウム属(Mycobacterium sp.)、シュードノカルディア属(Pseudonocardia sp.)、アフピア属(Afipia sp.)、ロドコッカス属(Rhodococcus sp.)、フラボバクテリウム属(Flavobacterium sp.)、メチロサイナス属(Methylosinus sp.)、バークホルデリア属(Burkholderia sp.)、ラルストニア属(Ralstonia sp.)、コルディセプス属(Cordyceps sp.)、キサントバクター属(Xanthobacter sp.)、アシネトバクター属(Acinetobacter sp.)等に属するものを用いることができる。これらの中で、マイコバクテリウム属またはシュードノカルディア属が好ましく、シュードノカルディア属がより好ましい。また、構成型資化菌、誘導型資化菌、共代謝菌のいずれも使用することができるが、誘導物質が不要なため資化菌が好ましく、馴養が不要なため構成型資化菌がより好ましい。
【0018】
具体的には、Pseudonocardia sp. N23、Mycobacterium sp. D11、Pseudonocardia sp. D17、Mycobacterium sp.D6、Pseudonocardia dioxanivorans CB1190、Afipia sp. D1、Mycobacterium sp. PH-06、Pseudonocardia benzenivorans B5、Flavobacterium sp.、Pseudonocardia sp. ENV478、Pseudonocardia tetrahydrofuranoxydans K1、Rhodococcus ruber T1、Rhodococcus ruber T5、Methylosinus trichosporium OB3b、Mycobacterium vaccae JOB5、Burkholderia cepacia G4、Pseudomonas mendocina KR1、Pseudonocardia tetrahydrofuranoxydans K1、Ralstonia pickettii PKO1、Rhodococcus sp. RR1、Acinetobacter Baumannii DD1、Rhodococcus sp. 219、Pseudonocardia antarctica DVS 5a1、Cordyceps sinensis A、Rhodococcus aetherivorans JCM14343等を挙げることができる。これらの中で、構成型資化菌であり、分解能に優れたPseudonocardia sp.N23(N23株)が最も好ましい。
【0019】
N23株は、受託番号NITE BP-02032として、独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8(郵便番号292-0818))に、2015年4月10日付で国際寄託されている。
N23株は、グラム染色性が陽性、カタラーゼ反応が陽性である。N23株は、これまでに報告されている構成型1,4-ジオキサン分解菌の中で最も高い1,4-ジオキサン最大比分解速度を有し、その値は誘導型1,4-ジオキサン分解菌と同等以上である。また、N23株は、1,4-ジオキサンを0.017mg/L以下の極低濃度まで分解することができ、約5,200mg/Lという高濃度の1,4-ジオキサンを処理することができる。また、1,4-ジオキサンのみならず、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、2-クロロメチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロペン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン等の有機塩素化合物を分解することができる。
【0020】
・粉末製剤の製造方法
本発明の粉末製剤の製造方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。これらの中で、流動層乾燥装置を用いて製造することが好ましい。具体的には、流動層乾燥装置を用いて、流動層中で分散している粉末状の基体に1,4-ジオキサン分解菌を含む懸濁液を噴霧し、ジオキサン分解活性を維持したまま乾燥させる工程により、製造することが好ましい。この際、粉末状の基体を流動層中で分散しながら高温に加熱して基体を殺菌した後に、懸濁液を噴霧することが好ましい。
【0021】
乾燥は、粉末製剤の水分率が7重量%以上13重量%以下となるように行うことが好ましい。粉末製剤の水分率がこの範囲内であると、粉末製剤の密度を小さくなり、また、ジオキサン分解活性を維持しながら、単位重量あたりのジオキサン分解菌の含有割合を多くすることができ、さらに、粉末製剤を長期保存した後もジオキサン分解活性を比較的高く維持することができる。粉末製剤の水分率は、8重量%以上12重量%以下であることがより好ましい。
乾燥温度は特に制限されないが、例えば、入口温度50℃~95℃、出口温度20℃~60℃であることが好ましい。このような温度条件であれば、熱による菌体の減少を防ぎながらも、乾燥時間を短縮でき、また、所望の水分率を保った粉末製剤を得ることが容易となる。
【0022】
・生分解処理方法
本発明の生分解処理方法は、この粉末製剤を用いることを特徴とする。
生分解処理対象としては、有機化合物を含む地下水、工場排水等の汚染水、不法廃棄サイトの汚染土壌等が挙げられる。なお、汚染土壌を浄化する場合は、土壌を予め水で洗浄し、処理対象である有機化合物を水相に移行させて汚染水として処理することが好ましい。
粉末製剤は、汚染水処理施設の曝気槽に直接投入することもでき、粉末製剤は通過できないが、通水可能な不織布等からなる袋に封入して投入することもできる。さらに、この粉末製剤を用いて小型の培養槽等で分解菌を培養し、その培養液を投入することもできる。
【0023】
生分解処理する有機化合物としては、1,4-ジオキサン分解菌が分解できる有機化合物であれば特に制限されない。例えば、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン、2-メチル-1,3-ジオキソラン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、クロロエチレン、1,1-ジクロロエチレン、シス-1,2-ジクロロエチレン、1,2-ジクロロプロパン、1,3-ジクロロプロペン、1,1,2-トリクロロエタン、トリクロロエチレン等の有機塩素化合物、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0025】
「実験1(D17株)」
2kL培養槽に培地(グリセリン4g/L、CSL:10g/L、酵母エキス:2g/L、消泡剤SI:0.2g/L、pH5.5)を1200L仕込み、121℃で60分間滅菌した。植菌液として、PCV(Packed Cell Volume)0.55ml/10mlであるPseudonocardia sp.D17(受託番号:NITE BP-01927、以下、D17株ともいう)培養液50Lを用い、培養温度30℃、攪拌40rpm、通気量400L/min、内圧0.05Mpaで7日間培養を実施した。培養終了時のPCVは0.8ml/10ml、DCW(Dry Cell Weight)は7.2g/Lであった。
培養終了後、攪拌、通気、ジャケット冷却を止め、酸・アルカリポットよりエアーを吹込んで内圧0.05MPaを維持した状態で5時間静置し、培養槽に設置してある目盛り板の250L部分まで上清を抜出した。その後、30分ほど50rpmで攪拌しながらスパージャーよりエアーを流し、沈殿物を均一に分散させてから、目開き0.85mm篩を通しながらブロスアウトし、菌体濃縮液(260kg)を得た。元の培養液量を1200Lとすると濃縮倍率は4.6倍であった。
【0026】
・凍結乾燥
菌体濃縮液80gに基体(サナス2002、株式会社サナス製、水溶性デキストリン、公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過)15gを加えて、固形分濃度を200g/kgにして、凍結乾燥用の試料とした。これを冷凍庫(-20℃)で凍らせた後、凍結乾燥機(FDU-2100、東京理化器機株式会社製)を用いて粉末化し、粉末製剤(凍結)を得た。
・噴霧乾燥
菌体濃縮液9kgに基体(サナス2002)、1.62kgを加えて、固形分濃度を200g/kgにして、噴霧乾燥用の試料とした。噴霧乾燥装置(L-12型スプレードライヤー、大川原化工機株式会社製)に噴霧しながら、入口温度:165℃、出口温度:65℃で90分乾燥を行い、粉末製剤(噴霧)を得た。
・流動層乾燥
流動層乾燥装置(FLO-120、フロイント産業株式会社製)に、基体としてコーンスターチ(コーンスターチIPY、日本食品化工株式会社製、公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過)を36kg投入した。流動層中で基体を分散させながら、菌体濃縮液(36kg)を連続的に噴霧、入口温度:62-86℃、出口温度:32-47℃で85分乾燥を行い、粉末製剤(流動層乾燥)を得た。
【0027】
1,4-ジオキサンを120mg/L濃度で含む無機塩培地20mLに、0.2gの菌体濃縮液を添加し、30℃にて回転振盪培養を行った。
また、菌体濃縮液0.2gと菌体重量が同一となるように調整した粉末製剤を用いた以外は同様にして、回転浸透培養を行った。
培地をサンプリングし、ヘッドスペースガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS-QP2010 PLUS、TURBOMATRIX HS40、株式会社島津製作所製、以下、GC/MSという。)を用いてジオキサン濃度を測定した。結果を
図1に示す。
【0028】
全ての粉末製剤が、菌体濃縮液に劣るものの、ジオキサン分解活性を示した。特に、粉末製剤(流動層乾燥)は、5日目までの分解能は他の粉末製剤と同等であったが、5日目以降から他の粉末製剤よりも優れた分解活性を示した。
【0029】
「実験2(N23株)」
10L容量の培養槽に6Lの培地(グリセリン:4g/L、CSL:10g/L、酵母エキス3g/L、消泡剤SI0.2g/L、pH5.5)を仕込み、121℃で20分間滅菌した。植菌液として、PCV0.3ml/10mlのN23株培養液150mlを用い、培養温度30℃、攪拌速度200rpm、通気量2L/min、内圧0.05MPaで7日間培養した。培養終了時のPCVは0.4ml/10ml、DCWは5.8g/Lであった。
培養液4436.7gを抜出し、6℃の低温室で4時間静置し、上清を破棄して、目開き0.85mm篩を通し、N23株濃縮液887.3gを得た。
【0030】
流動層乾燥装置(パルビスミニベッド、ヤマト科学株式会社製)に、下記に示す各基体(いずれも公称目開き0.5mmの篩を80質量%以上通過)を150g投入した。流動層中で基体を分散させながら、N23株濃縮液(150g)を連続的に噴霧、入口温度:90-96℃、出口温度:20-25℃で120分間乾燥を行い、粉末製剤を得た。
・基体
コーンスターチ(コーンスターチIPY、日本食品化工株式会社製)
大豆タンパク(ソイプロ、株式会社J-オイルミルズ製)
セルロース(粉末セルロース、ナカライテスク株式会社製)
珪藻土(ラヂオライト♯3000、昭和化学工業株式会社製)
活性白土(ナカライテスク株式会社製)
【0031】
1,4-ジオキサンを120mg/L濃度で含む無機塩培地20mLに、0.2gのN23株濃縮液を添加し、30℃にて回転振盪培養を行った。
また、N23株濃縮液と菌体重量が同一となるように調整した粉末製剤を用いた以外は同様にして、回転浸透培養を行った。
培地をサンプリングし、GC/MSを用いてジオキサン濃度を測定した。結果を
図2に示す。
【0032】
コーンスターチ、大豆タンパクを基体とする粉末製剤は、1,4-ジオキサン濃度の低減が遅かった。また、88時間後には雑菌の繁殖が確認できたため、以後のジオキサン濃度測定と培養を中止した。このことから、コーンスターチ、大豆タンパクを基体とする粉末製剤は、雑菌が繁殖しやすく、N23株の活動が抑えられることが示唆された。
セルロース、珪藻土、活性白土を基体とする粉末製剤は、ジオキサン分解活性が認められた。珪藻土、活性白土を基体とする粉末製剤は、菌体濃縮液と同等の分解能であったが、セルロースを基体とする粉末製剤は、菌体濃縮液よりも高い分解活性を示した。