(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
B60R 19/04 20060101AFI20240910BHJP
B60R 19/26 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B60R19/04 M
B60R19/26
(21)【出願番号】P 2019145166
(22)【出願日】2019-08-07
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】山口 直朗
(72)【発明者】
【氏名】西多 智哉
(72)【発明者】
【氏名】加納 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】土佐 秀喜
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-077149(JP,A)
【文献】中国実用新案第206579589(CN,U)
【文献】特開2007-062733(JP,A)
【文献】特開2001-180398(JP,A)
【文献】特開2010-137699(JP,A)
【文献】特開2005-153750(JP,A)
【文献】特開2007-192566(JP,A)
【文献】特開平05-193428(JP,A)
【文献】特開2016-107737(JP,A)
【文献】特開平08-020297(JP,A)
【文献】特開2018-052248(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/04
B60R 19/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の車幅方向に間隔を置いて配置され車両前後方向に延びる一対のサイドメンバーと、車幅方向に延びて前記一対のサイドメンバーの前端部または後端部に取り付けられるバンパービームと、を具備する車体構造であって、
前記バンパービームは、クラッシュボックスを介して前記サイドメンバーに取り付けられ、
前記バンパービームは、前記サイドメンバーに連結される一対の外側部と、前記一対の外側部の間に位置し当該外側部を連結する中央部とを有し、
前記中央部は、前記外側部よりも車両前後方向の折れ荷重が小さく形成され
、前記中央部の前記折れ荷重は、前記クラッシュボックスの車両前後方向の潰れ荷重よりも大きく形成され、
オフセット衝突に際し前記クラッシュボックスを変形させた後に前記中央部を屈曲させる
ことを特徴とする、車体構造。
【請求項2】
前記中央部が、車幅方向の中心に近いほど前記折れ荷重が小さく形成される
ことを特徴とする、請求項1記載の車体構造。
【請求項3】
前記中央部が、車幅方向の中心に位置する第一中央部と、前記第一中央部よりも前記折れ荷重が大きく形成され前記第一中央部の左右に位置する第二中央部とを含む
ことを特徴とする、請求項2記載の車体構造。
【請求項4】
前記第二中央部は、前記車体が衝突物と前記バンパービームの全幅の40%の範囲でオフセット衝突した際に、前記衝突物の幅方向端部が前記第二中央部の幅内に位置するように設けられる
ことを特徴とする、請求項3記載の車体構造。
【請求項5】
前記バンパービームの下方に位置し、車幅方向に延びるサブビームを有し、
前記サブビームの車幅方向の中央に位置する下部中央部が、前記下部中央部の左右に位置する下部外側部よりも前記折れ荷重が小さく形成される
ことを特徴とする、請求項1~
4のいずれか1項に記載の車体構造。
【請求項6】
前記下部中央部の車幅方向の範囲は、前記中央部の車幅方向の範囲と同程度に形成される
ことを特徴とする、請求項
5に記載の車体構造。
【請求項7】
前記下部中央部の強度は、前記中央部の強度と同程度に形成される
ことを特徴とする、請求項
5又は6に記載の車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドメンバーとバンパービームとを具備する車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の衝突安全性能として、自車両の変形被害を軽減するだけではなく、相手車両への加害性(コンパチビリティ性能)を低減させることが望まれている(特許文献1参照)。そのための方法として、相手車両を極力均等に変形させ、局所的な変形を抑制することが考えられる(特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-145257号公報
【文献】特開2005-212555号公報
【文献】特開2005-212551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2,3には、車体前端にエアバッグや膜状壁体を設けることで、車両衝突時の衝突エネルギーを吸収することが記載されている。しかし、これらの手法を採用した場合には車体構造が複雑化し、車体重量や製造コストが上昇してしまう。それゆえ、実際の市販車両の車体構造として採用することは難しく、より簡素でコンパチビリティ性能の高い車体構造を実現することが目下の急務とされている。
【0005】
本件の目的の一つは、上記のような課題に鑑みて創案されたものであり、簡素な構成で車両のコンパチビリティ性能を改善できるようにした車体構造を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ここで開示するのは、車体の車幅方向に間隔を置いて配置され車両前後方向に延びる一対のサイドメンバーと、車幅方向に延びて一対のサイドメンバーの前端部または後端部に取り付けられるバンパービームと、を具備する車体構造である。バンパービームは、クラッシュボックスを介してサイドメンバーに取り付けられるとともに、サイドメンバーに連結される一対の外側部と、一対の外側部の間に位置し外側部を連結する中央部とを有する。中央部は、外側部よりも車両前後方向の折れ荷重が小さく形成され、中央部の折れ荷重は、クラッシュボックスの車両前後方向の潰れ荷重よりも大きく形成される。また、この車体構造は、オフセット衝突に際しクラッシュボックスを変形させた後に中央部を屈曲させるものである。
【発明の効果】
【0007】
中央部を外側部よりも低強度にすることで、オフセット衝突時にバンパービームをその中央付近で屈曲させることができ、バンパービームの相手車両への進入を抑制することができる。したがって、相手車両の変形被害を抑制することができ、簡素な構成で車両のコンパチビリティ性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態としての車体構造が適用された車両の模式的な斜視図である。
【
図2】(A),(B)は車体構造を示す図であり、(A)はサイドメンバーの上面図、(B)はバンパービームを省略して示すサイドメンバーの下面図である。
【
図3】(A)~(C)はバンパーの縦断面を例示する断面図である。
【
図4】(A)~(C)はオフセット衝突時の変形状態を示す上面図であり、(A),(B)は実施形態の車体構造が適用されない場合を示し、(C)は実施形態の車体構造が適用された場合を示す。
【
図5】(A)~(C)はオフセット衝突時におけるバンパービームの変形形状を示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1.構成]
図1は、実施形態としての車体構造が適用された車両10の斜視図である。図中の前後左右上下は、車両10の運転者を基準にして定められる方向を表す。車両10の下部には、車両前後方向(車長方向)に延在するフレームとしてのサイドメンバー2が設けられる。サイドメンバー2は、車幅方向に所定の間隔を置いて左右に一対設けられる。サイドメンバー2の形状は中空の角柱状、あるいは溝形状やC型のチャンネル形状であり、断面の形状は閉断面やこれに近い形状とされる。左右のサイドメンバー2の間は、図示しない複数のクロスメンバーによって接続される。
【0010】
サイドメンバー2の前端部にはフロントバンパービーム1が設けられ、後端部にはリアバンパービーム9が設けられる。これらのフロントバンパービーム1及びリアバンパービーム9は、車両10の前後から入力される荷重や衝撃を緩和,吸収するための部材であり、バンパーカバーの裏側(フロントバンパーカバーの後側,リアバンパーカバーの前側)に配置され、車幅方向のほぼ全体にわたって水平方向に延設される。リアバンパービーム9の構造はフロントバンパービーム1の構造とほぼ同様である。以下、フロントバンパービーム1(単にバンパービーム1とも称する)の構造について詳述する。
【0011】
バンパービーム1は、筒状に形成されたクラッシュボックス3を介してサイドメンバー2の前方に設けられる横架材である。クラッシュボックス3は、車両衝突時に外部から入力される荷重に対して圧縮方向に変形することで、その衝撃を緩和,吸収する部品である。クラッシュボックス3及びサイドメンバー2は、互いのフランジを接合させた状態で固定される。クラッシュボックス3の強度(前後方向の潰れ荷重)は、C[N]である。バンパービーム1は、クラッシュボックス3の先端に接合されることで、サイドメンバー2に支持されている。なお、バンパービーム1は、クラッシュボックス3(及びサイドメンバー2)よりも車幅方向外側まで延びており、車両の衝突時に、衝突物に対してより広い範囲で接触できるようになっている。
【0012】
バンパービーム1の下方には、バンパービーム1に沿って延びるサブビーム5が配置されている。サブビーム5は、バンパービーム1と車両10の正面視で上下に所定の間隔をあけて配置される。本実施形態では、サブビーム5は、バンパービーム1よりも車両後方に若干ずれて配置されている。サブビーム5は、
図1に示すように、サイドメンバー2から前方及び下方に延びるブラケット8を介してサイドメンバー2に接続される。なお、ブラケット8の先端に第二のクラッシュボックスを設け、サブビーム5を、第二のクラッシュボックスを介してブラケット8に取り付けてもよい。また、サブビーム5は、サイドメンバー2に接続されるものに限らず、例えばサブフレームの前方に設けられるものなど、バンパービーム1の下方にてバンパービーム1に沿って延び、車幅方向の両端部が車両後方から支持されているものであればよい。
【0013】
[2.強度の大小関係]
図2(A)に示すように、バンパービーム1のうち車幅方向の中央の部位を中央部12と呼び、その左右の部位を外側部11と呼ぶ。外側部11は、それぞれ一対のサイドメンバー2と車両前後方向に対向して、クラッシュボックス3を介してサイドメンバー2に取り付けられる箇所とその周辺である。中央部12は、一対の外側部11を連結する。中央部12のうち、車幅方向の中心に位置する部位を第一中央部13と呼び、その車幅方向寸法をV
1[mm]とする。同様に、第一中央部13の左右に隣接して位置する部位を第二中央部14と呼び、その車幅方向寸法をV
2[mm]とする。
図2(A)に示す例では、V
1,V
2は同程度(例えば同一幅)であって、ともに全幅V
0の10%程度に設定される。なお、第二中央部14を省略することも可能であり、V
2の最小寸法は0[mm]である。
【0014】
第一中央部13の強度(前後方向の折れ荷重)をA1[N]とし、第二中央部14の強度(前後方向の折れ荷重)をA2[N]とし、外側部11の強度(前後方向の折れ荷重)をA3[N]とする。これらの強度は、少なくともクラッシュボックス3以上の高強度になるように設定される。また、中央部12は、車幅方向の中心に近いほど低強度に形成される。本実施形態では、第一中央部13の強度A1が、第二中央部14の強度A2よりも低強度になるように設定され、第二中央部14の強度A2が、外側部11の強度A3よりも低強度になるように設定される。強度の大小を不等式で表現すれば、C≦A1<A2<A3となる。本実施形態では、第二中央部14の強度A2は、第一中央部13の強度A1と外側部11の強度A3の中間の値に設定されている。なお、外側部11の強度A3は、車両衝突時にクラッシュボックス3との接合箇所近傍で変形しない、若しくは変形量が小さくなる程度の強度に設定される。
【0015】
サブビーム5についても、同様の強度設定が適用される。
図2(B)に示すように、サブビーム5のうち車幅方向の中央の部位を下部中央部16と呼び、その左右の部位を下部外側部15と呼ぶ。下部外側部15は、ブラケット8(あるいは、ブラケット8の先端に第二のクラッシュボックスを設けている場合は、第二のクラッシュボックス)に車両前後方向で対向する箇所とその周辺である。下部中央部16のうち、車幅方向の中心に位置する部位を第一下部中央部17と呼び、その車幅方向寸法をW
1[mm]とする。同様に、第一下部中央部17の左右に位置する部位を第二下部中央部18と呼び、その車幅方向寸法をW
2[mm]とする。
図2(B)に示す例では、W
1,W
2はともに全幅W
0の10%程度に設定される。なお、第二下部中央部18を省略することも可能であり、W
2の最小寸法は0[mm]である。
【0016】
サブビーム5の全幅W0は、必ずしもバンパービーム1の全幅V0と同一ではない。W1,W2についても同様であり、V1,V2と同一でなくてもよい。一方、本実施形態では、第一下部中央部17の寸法W1が第一中央部13の寸法V1と同程度(例えば同一寸法)であり、かつ、第二下部中央部18の寸法W2が第二中央部14の寸法V2と同程度(例えば同一寸法)に設定される。これにより、車両10の前面視で強度の境界線が車両上下方向でほぼ同一直線上に配置されることになり、オフセット衝突時の屈曲位置がバンパービーム1とサブビーム5とで揃いやすくなる。
【0017】
第一下部中央部17の強度(前後方向の折れ荷重)をB1[N]とし、第二下部中央部18の強度(折れ荷重)をB2[N]とし、下部外側部15の強度(折れ荷重)をB3[N]とする。下部中央部16は、車幅方向の中心に近いほど低強度に形成される。例えば、第一下部中央部17の強度B1は、第二下部中央部18の強度B2よりも低強度になるように設定され、第二下部中央部18の強度B2は、下部外側部15の強度B3よりも低強度になるように設定される。強度の大小を不等式で表現すれば、B1<B2<B3となる。なお、ブラケット8の先端に第二のクラッシュボックスを設けている場合は、第一下部中央部17の強度B1を第二のクラッシュボックスの強度よりも高強度に設定するとよい。
【0018】
中央部12の強度A1~A3と下部中央部16の強度B1~B3との関係は、必ずしも一致させる必要はない。一方、本実施形態では、第一中央部13の強度A1が第一下部中央部17の強度B1と同程度(例えば同一強度)に設定される。また、第二中央部14の強度A2が第二下部中央部18の強度B2と同程度(例えば同一強度)に設定され、外側部11の強度A3が下部外側部15の強度B3と同程度(例えば同一強度)に設定される。これにより、オフセット衝突時における屈曲のタイミングがバンパービーム1とサブビーム5とで揃いやすくなる。
【0019】
サブビーム5は、車両の衝突によって車体が変形しきった状態において、バンパービーム1と同様の形状に変形していることが好ましい。したがって、バンパービーム1及びサブビーム5が同様の形状に変形するように、バンパービーム1及びサブビーム5のそれぞれについて、各寸法V1,V2,W1,W2及び各強度A1,A2,A3,B1,B2,B3の値を設定すればよい。
【0020】
[3.形状]
上記のような強度の大小関係は、各部位に使用する鋼材の種類を変化させることで実現してもよいし、各部位の形状を変化させることで実現してもよい。
縦断面形状を相違させることで強度を変化させる場合、バンパービーム1及びサブビーム5の縦断面形状を、例えば
図3(A)~(C)に示すような形状にすることが考えられる。
図3において、(A)は外側部11や下部外側部15の縦断面形状を示し、(B)は第二中央部14や第二下部中央部18の縦断面形状を示し、(C)は第一中央部13や第一下部中央部17の縦断面形状を示す。
【0021】
図3(A)に示す外側部11,下部外側部15は、ハット型断面の前面部材21のフランジに平面状の背面部材22を接合することで形成された台形状の閉断面構造を持つ。前面部材21は、ハット型断面の開口が後方に向かって開放される姿勢(ハット型断面の頂面を前方に向けた姿勢)で配置され、その開口が背面部材22によって閉鎖される。前面部材21と背面部材22とに挟まれた空間内には、前後方向の荷重に対する前面部材21の変形を抑制するための補強部材23が内蔵される。補強部材23の断面はコ字状に形成され、前面部材21と背面部材22との双方に当接するように、閉断面の内部に固定される。このような構造により外側部11,下部外側部15の強度A
3が確保される。なお、前面部材21と補強部材23とを押出成型で一体的に形成してもよい。
【0022】
図3(B)に示す第二中央部14,第二下部中央部18は、
図3(A)に示す構造から背面部材22を取り除いた開断面構造を持つ。背面部材22を省略することで、第二中央部14,第二下部中央部18の強度A
2は外側部11,下部外側部15よりもやや低くなる。また、
図3(C)に示す第一中央部13,第一下部中央部17は、
図3(B)に示す構造から補強部材23を取り除いた開断面構造を持つ。補強部材23を省略することで、第一中央部13,第一下部中央部17の強度A
1は第二中央部14,第二下部中央部18よりもさらに低くなる。
【0023】
なお、強度を変化させるための構造は上記に限らず、従来公知の様々な構造を採用することができる。例えば、中央部12及び下部中央部16に孔を設けた構造にしてもよい。この場合、孔の大きさや数を適宜設定することにより強度を調整することができる。あるいは、中央部12及び下部中央部16の高さ寸法を他の部分よりも減少させた構造にしてもよい。この場合、高さ寸法を適宜設定することにより強度を調整することができる。
【0024】
[4.作用]
図4(A),(B),(C)は、コンピューターシミュレーションにより、相手車両を模擬したハニカムバリアにバンパービーム1の全幅V
0に対する50%の範囲で車両10をオフセット衝突(以下、50%オフセット衝突という)させたときの変形状態を示す上面図である。
図4(A)は従来のバンパービーム1Aの変形状態を示し、
図4(B)は従来のバンパービーム1Bの強度を車幅方向に均一にした場合の変形状態を示し、
図4(C)は本実施形態におけるバンパービーム1の変形状態を示す。
【0025】
図4(A)に示すように、従来のバンパービーム1Aでは、クラッシュボックス3との接合箇所近傍でバンパービーム1Aが車両後方に折れるように変形し、ハニカムバリアがクラッシュボックス3(サイドメンバー2)前方の箇所で局所的に大きく変形する。
図4(A)では、車両10の左側のクラッシュボックス3がハニカムバリアの内部にめり込むように進入していることが示されている。このように、従来のバンパービーム1Aでは、50%オフセット衝突におけるハニカムバリア(すなわち相手車両)への加害性が大きくなる。
【0026】
一方、バンパービーム1Aがクラッシュボックス3との接合箇所近傍で変形しないようにすることで、上記のような問題は改善され得ると考えられる。そこで、バンパービーム1B全体の強度を、バンパービーム1Bがクラッシュボックス3との接合箇所近傍で変形しない程度に高強度とすることが考えられる。このようなバンパービーム1Bにおいて50%オフセット衝突を行った場合、
図4(B)に示すように、バンパービーム1Bはほぼ変形せず、ハニカムバリアに衝突した箇所が車両後方に押されることによって、バンパービーム1Bが斜めに傾いて延びた状態となる。そのため、車両10の車幅方向中央部においてハニカムバリア(すなわち相手車両の車幅方向端部)が大きく変形する。したがって、全体的に高強度に形成されたバンパービーム1Bにおいても、50%オフセット衝突におけるハニカムバリア(すなわち相手車両)への加害性が大きくなる。
【0027】
これらに対し、本実施形態の構造、すなわち車幅方向の中央部12におけるバンパービーム1の強度を左右の外側部11よりも低強度に設定した場合には、
図4(C)に示すように、バンパービーム1がハニカムバリアの内部に進入する過程でその中央部12が「くの字」に屈曲する。これにより、バンパービーム1の車幅方向の中心部におけるハニカムバリア内部への進入量は、バンパービーム1のハニカムバリアと衝突した側における車幅方向外側部(車両10の左側)のハニカムバリア内部への進入量と同程度となり、ハニカムバリアの局所的変形を小さくすることができる。このように、本実施形態のバンパービーム1によれば、ハニカムバリアの局所的な変形が抑制され、相手車両に対する加害性が減少する。
【0028】
また、第一中央部13と第二中央部14の車幅方向寸法V
1,V
2は、小さすぎると衝突の際に変形の起点とならないため好ましくないが、大きすぎても不具合が発生する。
図5(A)に示すように、左右の外側部11の間に第二中央部14を設けずに、第一中央部13の車幅方向寸法V
1をバンパービーム1の全幅V
0の30%とした状態で50%オフセット衝突をシミュレーションした場合、ハニカムバリアの端部よりハニカムバリア幅方向の内側で第一中央部13が変形してしまい、ハニカムバリアの端部が車両後方に突出した状態となった。これは、第一中央部13の強度が弱いため、ハニカムバリアからの荷重を十分に受けきれなかったためと考えられる。ハニカムバリアの端部も十分に潰すことができれば、ハニカムバリア全体の変形量を更に低減することができる。
【0029】
また、オフセット衝突のラップ量は、50%には限らない。
図5(B),(C)に40%オフセット衝突(バンパービーム1の全幅V
0に対する40%の範囲を衝突させるオフセット衝突)のシミュレーション結果を示す。
図5(B)は、第一中央部13のみを設け、その車幅方向寸法V
1を全幅V
0の10%に設定した場合を示す。また、
図5(C)は、第一中央部13及び第二中央部14を設け、それぞれの車幅方向寸法V
1,V
2を全幅V
0の10%に設定した場合を示す。
図5(B)では、第一中央部13が折れずに湾曲するのみとなる。そのため、バンパービーム1のハニカムバリアとの非衝突側に作用する車両前方への荷重が、バンパービーム1のハニカムバリアとの衝突側に伝達し、ハニカムバリアの変形量が大きくなる。
【0030】
一方、
図5(C)では、第一中央部13が折れるため、バンパービーム1のハニカムバリアとの非衝突側に作用する車両前方への荷重が、バンパービーム1のハニカムバリアとの衝突側に伝達しにくくなり、ハニカムバリアの変形量を抑えることができる。
図5(B)で、第一中央部13が折れないのは、第一中央部13がハニカムバリアと衝突せず、衝突側のバンパービーム1がクラッシュボックス3を中心に撓むことにより、第一中央部13に荷重が集中しないためと考えられる。
図5(C)では、第二中央部14がハニカムバリアとラップするため、衝突側のバンパービーム1が第二中央部14で変形しようとし、撓みが抑えられたことにより第一中央部13に荷重が集中しやすくなったため、第一中央部13でバンパービーム1が折れたものと考えられる。
【0031】
上記を考慮して、第一中央部13と第二中央部14の車幅方向寸法V1,V2は、それぞれ全幅V0の5%以上かつ20%未満とすることが好ましい。これは、第一中央部13の車幅方向寸法V1を大きくしすぎることなく、40%オフセット衝突時に第二中央部14内にハニカムバリアの端部が位置するようにすることで、バンパービーム1がハニカムバリアの外のみで折れ変形するように考慮したものである。なお、30%付近のオフセット衝突では、自車のサイドメンバー2と相手車両のサイドメンバーが衝突する可能性が高く、互いにサイドメンバーを通して荷重を受けることができるため、加害性は小さくなる傾向にある。また、25%以下のオフセット衝突では、ハニカムバリアがサイドメンバー2の車幅方向外側を通る可能性が高く、フロントバンパービーム及びサイドメンバー2で荷重をとることが難しいため、専用の対策が別途必要であり、本願では考慮しない。また、オフセット量が50%よりも大きくなるような場合には、衝突面積が増えることにより加害性は低減するため、本願では考慮しない。
【0032】
[5.効果]
(1)上述の実施形態では、バンパービーム1の中央部12が外側部11よりも低強度に形成される。このような簡素な構成により、オフセット衝突時にバンパービーム1をその中央付近で屈曲させることができ、バンパービーム1の相手車両への進入を抑制することができる。したがって、相手車両に対する加害性を減少させることができ、車両10のコンパチビリティ性能(衝突相手への加害性,共存性)を改善することができる。
【0033】
(2)上述の実施形態では、中央部12が、車幅方向の中心に近いほど低強度に形成される。これにより、バンパービーム1がより中心に近い位置で屈曲しやすくなり、例えばフロントバンパービーム1の全体がその形状を保ったまま相手車両の車室近くまで進入するような状況が回避されやすくなる。したがって、車両10のコンパチビリティ性能をさらに改善することができる。
【0034】
(3)上述の実施形態では、中央部12に第一中央部13と第二中央部14とが設けられる。このような構成により、オフセット衝突時における荷重を第一中央部13に集中しやすくすることができ、第一中央部13での屈曲を促進することができる。したがって、車両10のコンパチビリティ性能をさらに改善することができる。
【0035】
(4)
図5(C)に示す例では、40%オフセット衝突時にハニカムバリア(衝突相手)の幅方向端部が第二中央部14の幅内に位置するように、第二中央部14が設けられている。このような第二中央部14の構成は、ハニカムバリアよりも外側でバンパービーム1の屈曲を促進する上で効果的であり、車両10のコンパチビリティ性能をさらに改善することができる。
【0036】
(5)上述の実施形態では、中央部12がクラッシュボックス3よりも高強度に形成されるため、クラッシュボックス3の変形によりオフセット衝突時の荷重を吸収することができる。例えば、
図4(B)に示すように、クラッシュボックス3を変形させた後に中央部12を屈曲させることができ、相手車両の局所変形を抑制することができる。したがって、車両10のコンパチビリティ性能をさらに改善することができる。
【0037】
(6)上述の実施形態では、バンパービーム1だけでなくサブビーム5の強度も中央付近で弱く設定される。例えば、下部中央部16が下部外側部15よりも低強度に形成されるとともに、クラッシュボックス3よりも高強度に形成される。このように、下部中央部16を下部外側部15よりも低強度にすることで、サブビーム5をその中央付近で屈曲させることができ、オフセット衝突時におけるサブビーム5の相手車両への進入を抑制することができる。
【0038】
(7)上述の実施形態では、第一下部中央部17の寸法W1が第一中央部13の寸法V1と同程度の寸法であり、かつ、第二下部中央部18の寸法W2が第二中央部14の寸法V2と同程度の寸法に設定される。このような構成により、車両10の前面視で強度の境界線が車両上下方向でほぼ同一直線上に配置されることになり、オフセット衝突時の屈曲位置をバンパービーム1とサブビーム5とで揃えることができる。したがって、バンパービーム1とサブビーム5との屈曲位置が揃わない場合と比較して、相手車両の変形量を均一にすることができ、車両10のコンパチビリティ性能をさらに改善することができる。
【0039】
(8)上述の実施形態では、第一中央部13の強度A1が第一下部中央部17の強度B1と同程度に設定される。このような構成により、オフセット衝突時における屈曲のタイミングをバンパービーム1とサブビーム5とで揃いやすくすることができる。したがって、屈曲のタイミングが揃っていない場合と比較して、相手車両の変形量を均一にすることができ、車両10のコンパチビリティ性能をさらに改善することができる。
【0040】
[6.変形例]
上記の実施形態はあくまでも例示にすぎず、本実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0041】
上述の実施形態では、バンパービーム1がクラッシュボックス3の前端部に固定されているが、クラッシュボックス3を省略することも可能である。少なくとも、バンパービーム1,9の中央部12を外側部11よりも低強度に形成することで、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。なお、サブビーム5,ブラケット8についても適宜省略することが可能である。
【0042】
上述の実施形態では、バンパービーム1,サブビーム5,及びリアバンパービーム9において、中央部12,16を外側部11,15よりも低強度としているが、バンパービーム1またはリアバンパービーム9の少なくとも一方において、中央部12が外側部11よりも低強度となっていればよい。少なくともサイドメンバー2の前方または後方に位置するバンパービーム1,9の中央部12を外側部11よりも低強度に形成することで、上述の実施形態と同様の効果を奏するものとなる。
【0043】
上述の実施形態では、サブビーム5がブラケット8を介してサイドメンバー2に取り付けられる構造としたが、サブビーム5は、サイドメンバー2の下方に設けられたサブフレームの前端部に取り付けられるものであってもよい。また、サブビーム5は設けなくともよい。なお、バンパービーム1の強度A1,A2,A3とクラッシュボックス3の強度Cとの関係は不問であり、例えば強度A1が強度Cと同一値であってもいし、場合によっては強度A3が強度Cよりも低く設定されうる。
【符号の説明】
【0044】
1 フロントバンパービーム(バンパービーム)
2 サイドメンバー
3 クラッシュボックス
5 サブビーム
8 ブラケット
9 リアバンパービーム(バンパービーム)
10 車両
11 外側部
12 中央部
13 第一中央部
14 第二中央部
15 下部外側部(外側部)
16 下部中央部(中央部)
17 第一下部中央部
18 第二下部中央部
21 前面部材
22 背面部材
23 補強部材