(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】金属粉末製造方法および金属粉末製造装置
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20240910BHJP
B22F 1/16 20220101ALI20240910BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20240910BHJP
【FI】
B22F9/08 A
B22F9/08 M
B22F1/16 100
B22F1/14 650
(21)【出願番号】P 2020016819
(22)【出願日】2020-02-04
【審査請求日】2023-01-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】澤井 丈徳
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-221550(JP,A)
【文献】特開2018-056363(JP,A)
【文献】特開2018-206834(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00-9/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流下する溶融金属に
ポリシロキサン化合物を含む噴霧媒体をノズルで噴射して衝突させ
て前記溶融金属を
複数の液滴に分裂させる粉末化工程と、
前記
複数の液滴に分裂された溶融金属を
、ポリシロキサン化合物を含む液体が貯留され
た
気液界面が存在する槽に自然落下させて浸漬することにより金属粉末の懸濁液とする金
属粉末の被覆工程と、
を含み、
前記粉末化工程は、前記溶融金属の複数の液滴への分裂と、前記ポリシロキサン化合物
による被覆と、が進行され、
前記粉末化工程と前記被覆工程とは、同一装置内にて行われ、
前記
複数の液滴に分裂された前記溶融金属の熱によって前記ポリシロキサン化合物が反
応して、前記金属粉末の表面を酸化ケイ素で被覆する
ことを特徴とする金属粉末製造方法。
【請求項2】
前記粉末化工程と前記被覆工程とが、不活性ガス雰囲気にて実施されることを特徴とす
る、
請求項1に記載の金属粉末製造方法。
【請求項3】
前記粉末化工程と前記被覆工程とが、気密空間にて実施されることを特徴とする、請求
項
2に記載の金属粉末製造方法。
【請求項4】
流下する溶融金属に
ポリシロキサン化合物を含む噴霧媒体をノズルで噴射して衝突させ
て前記溶融金属を
複数の液滴に分裂させて金属粉末とし、該金属粉末の表面を酸化ケイ素
で被覆する金属粉末製造装置であって、
前記
ノズルで噴射する噴射部と、
気液界面を有してポリシロキサン化合物を含む液体を貯留し、
複数の液滴に分裂された
前記溶融金属を自由落下させて前記液体に浸漬させる浸漬槽部と、
を備え、
前記噴射部における前記噴霧媒体の噴射によって、前記溶融金属の複数の液滴への分裂
と、前記ポリシロキサン化合物による被覆と、が進行され、
前記浸漬槽部において、前記
複数の液滴に分裂された前記溶融金属の熱によって前記ポ
リシロキサン化合物が反応して、前記金属粉末の表面を前記酸化ケイ素で被覆する
ことを特徴とする金属粉末製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粉末製造方法および金属粉末製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶融金属に噴霧媒体を噴射して金属粉末を製造するアトマイズ法が知られていた。例えば、特許文献1には、噴霧媒体として、非水溶性有機物質を水中に分散させた乳濁液を使用する金属粉末複合材の製造方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の金属粉末複合材の製造方法では、金属粉末表面の汚染を防ぐことが難しいという課題があった。詳しくは、噴霧媒体中の非水溶性有機物質によって金属粉末の表面を被覆し、金属粉末複合材としている。該金属粉末複合材を磁心などに用いるには、金属粉末表面の非水溶性有機物質を除去した後に絶縁体を被覆することになる。そのため、非水溶性有機物質を除去してから絶縁体を被覆するまでの間の取り扱いなどによって、金属粉末の表面が汚染されることがあった。金属粉末の表面が汚染されると絶縁体を安定的に成膜することが難しくなり、絶縁体被膜の膜質にばらつきが生じて絶縁特性などが不安定になり易かった。すなわち、金属粉末の表面汚染を抑制して、高品質な絶縁体被膜を形成する金属粉末製造方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
金属粉末製造方法は、流下する溶融金属にポリシロキサン化合物を含む噴霧媒体をノズ
ルで噴射して衝突させて前記溶融金属を複数の液滴に分裂させる粉末化工程と、前記複数
の液滴に分裂された溶融金属を、ポリシロキサン化合物を含む液体が貯留された気液界面
が存在する槽に自然落下させて浸漬することにより金属粉末の懸濁液とする金属粉末の被
覆工程と、を含み、前記粉末化工程は、前記溶融金属の複数の液滴への分裂と、前記ポリ
シロキサン化合物による被覆と、が進行され、前記粉末化工程と前記被覆工程とは、同一
装置内にて行われ、前記複数の液滴に分裂された前記溶融金属の熱によって前記ポリシロ
キサン化合物が反応して、前記金属粉末の表面を酸化ケイ素で被覆することを特徴とする
。
【0006】
金属粉末製造装置は、流下する溶融金属にポリシロキサン化合物を含む噴霧媒体をノズ
ルで噴射して衝突させて前記溶融金属を複数の液滴に分裂させて金属粉末とし、該金属粉
末の表面を酸化ケイ素で被覆する金属粉末製造装置であって、前記ノズルで噴射する噴射
部と、気液界面を有してポリシロキサン化合物を含む液体を貯留し、複数の液滴に分裂さ
れた前記溶融金属を自由落下させて前記液体に浸漬させる浸漬槽部と、を備え、前記噴射
部における前記噴霧媒体の噴射によって、前記溶融金属の複数の液滴への分裂と、前記ポ
リシロキサン化合物による被覆と、が進行され、前記浸漬槽部において、前記複数の液滴
に分裂された前記溶融金属の熱によって前記ポリシロキサン化合物が反応して、前記金属
粉末の表面を前記酸化ケイ素で被覆することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態に係る金属粉末製造装置の構成を示す模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.第1実施形態
第1実施形態に係る金属粉末製造装置の構成について
図1を参照して説明する。なお、以下の説明において
図1の上側を上方、下側を下方といい、上方から下方へ重力が作用するものとする。
【0009】
1.1.金属粉末製造装置
図1に示すように、本実施形態に係る金属粉末製造装置1は、流下する溶融金属HMに噴霧媒体Mの噴流を衝突させるアトマイズ法にて溶融金属HMを粉末化し、複数の金属粉末P2とする。金属粉末製造装置1は、供給部11、噴射部13、浸漬槽部15、圧力調整弁17、および液体供給管19を備える。金属粉末製造装置1では、供給部11、噴射部13、および浸漬槽部15が、この順番で上方から下方に向かって配置される。
【0010】
供給部11は、溶融金属HMを一時的に貯留すると共に、溶融金属HMを噴射部13に向かって流下させる。供給部11は、上方が円筒状であり、下方がテーパー状に先細りとされる。供給部11の上方は外界に解放される。図示を省略するが、供給部11には、溶融金属HMの原料である固体金属などを溶融させる装置が付属していてもよく、溶融金属HMが供給される配管が接続されていてもよい。なお、溶融金属HMの原料の溶融には、公知の加熱手段が採用可能である。
【0011】
溶融金属HMは、液状であって流動性を有し、重力によって供給部11から流下して噴射部13に至る。供給部11と噴射部13との間の、溶融金属HMが流動する領域は、供給部11よりも細い筒状である。
【0012】
噴射部13は、溶融金属HMが流下する内壁に設けられた複数のノズルである。噴射部13は、流下してくる溶融金属HMに向けて噴霧媒体Mの噴流を噴射する。噴霧媒体Mは液体または気体である。本実施形態では、噴霧媒体Mとして気体を用いるガスアトマイズ法を採用する。図示を省略するが、噴射部13には、噴霧媒体Mを貯留すると共に、噴霧媒体Mを噴流として高圧で噴射させる圧送装置が接続される。
【0013】
噴霧媒体Mの噴流の衝突によって、溶融金属HMは複数の液滴に分裂して凝固する。凝固した複数の液滴は、複数の粉末P1と成って浸漬槽部15に自然落下する。
【0014】
浸漬槽部15は、上方が円筒状であり、下方がテーパー状に先細りとされる。浸漬槽部15は、非水液Lを含む液体を貯留し、噴射部13から落下する粉末化された溶融金属HMの粉末P1を上記液体に浸漬させる。
【0015】
浸漬槽部15において、例えば、浸漬槽部15の上下方向の中程に上記液体の気液界面が存在する。すなわち、浸漬槽部15の内部は、上方が気相であり、下方が液相である。
【0016】
上記気相は、ヘリウムガス、アルゴンガス、および窒素ガスなどの不活性ガスを含んでいてもよい。上記気相が不活性ガスを含むことにより、粉末P1の表面において酸化膜の生成が抑制される。
【0017】
上記液体に含まれる非水液Lは電気絶縁材料の原料を含む。粉末P1は、噴射部13で凝固したとはいえ、浸漬槽部15の気相を経てもなお高温である。そのため、依然として高温の粉末P1が上記液体に没入すると、粉末P1の熱によって電気絶縁材料の原料が反応して粉末P1の表面に電気絶縁材料の被膜が形成される。すなわち、上記液体中にて粉末P1と非水液Lとから、粉末P1の表面が電気絶縁材料で被覆された金属粉末P2が生成される。
【0018】
非水液Lを含む液体は、粉末P1の表面に電気絶縁材料の被膜を形成して金属粉末P2とする他に、粉末P1を冷却する冷却液としても機能する。複数の金属粉末P2が上記液体中に分散されて、浸漬槽部15の液相は金属粉末P2を含む懸濁液Sとなる。なお、電気絶縁材料およびその原料の反応などについては後述する。
【0019】
浸漬槽部15の上方の気相側には、圧力調整弁17が接続される。圧力調整弁17は、逆止弁であって、溶融金属HMの流下や噴霧媒体Mの噴射によって上昇する浸漬槽部15の内圧を調整する。圧力調整弁17は、上記内圧が所定の値以上となった場合にのみ作動して解放され、非作動時には閉塞される。上記内圧は、例えば、1Pa以上0.2MPa以下に調整される。
【0020】
浸漬槽部15の下方には、非水液Lを含む液体を供給する液体供給管19が接続される。液体供給管19は、図示しない液体貯留部に接続され、金属粉末P2を取り出した後などに上記液体を浸漬槽部15に供給する。
【0021】
図示を省略するが、浸漬槽部15の下方にはバルブが設けられ、該バルブのさらに下方には排出口が設けられる。懸濁液Sを金属粉末製造装置1から取り出す際には、該バルブが開放されて、該排出口から懸濁液Sが排出される。
【0022】
上述した、圧力調整弁17や浸漬槽部15の下方のバルブなどによって、溶融金属HMの粉末化および金属粉末P2の生成時には、金属粉末製造装置1における噴射部13および浸漬槽部15は気密空間とされる。なお、金属粉末製造装置1そのものを気密空間に設置してもよい。
【0023】
1.2.金属粉末製造方法
金属粉末製造装置1を用いた金属粉末製造方法について説明する。本実施形態では、金属粉末P2として電気絶縁材料にて表面が被覆された磁性合金粉末を例示する。該磁性合金粉末は、例えば、磁心などに好適に用いられる。なお、金属粉末P2の形成材料の1つである溶融金属HMは、磁性材料であることに限定されない。
【0024】
本実施形態の金属粉末P2の製造方法は、粉末化工程と被覆工程とを含む。粉末化工程と被覆工程とは、同一装置である金属粉末製造装置1内にて行われる。
【0025】
粉末化工程では、供給部11から流下する溶融金属HMに対して、噴射部13から噴霧媒体Mの噴流を衝突させて溶融金属HMを粉末化して複数の粉末P1とする。
【0026】
溶融金属HMは軟磁性材料を含む。該軟磁性材料としては、例えば、純鉄、ケイ素鋼のようなFe-Si系合金、パーマロイのようなFe-Ni系合金、パーメンジュールのようなFe-Co系合金、センダストのようなFe-Si-Al系合金、Fe-Cr-Si系合金、およびFe-Cr-Al系合金などの各種Fe系合金、各種Ni系合金、各種Co系合金などが挙げられる。これらのうち、透磁率、磁束密度などの磁気特性、およびコストなどの生産性の観点から、各種Fe系合金を用いることが好ましい。
【0027】
軟磁性材料の結晶性は、特に限定されず、結晶質および非晶質が挙げられる。軟磁性材料は、保磁力低減の観点から、非晶質相を含むことが好ましい。
【0028】
非晶質を形成可能な軟磁性材料としては、例えば、Fe-Si-B系、Fe-Si-B-C系、Fe-Si-B-Cr-C系、Fe-Si-Cr系、Fe-B系、Fe-P-C系、Fe-Co-Si-B系、Fe-Si-B-Nb系、Fe-Zr-B系のようなFe系合金、Ni-Si-B系、Ni-P-B系のようなNi系合金、Co-Si-B系のようなCo系合金などが挙げられる。なお、溶融金属HMには、異なる結晶性を有する軟磁性材料を複数種類用いてもよい。
【0029】
軟磁性材料は、金属粉末P2の充填体積に対して、50体積%以上含まれることが好ましく、より好ましくは80体積%以上であり、さらにより好ましくは90体積%以上である。これにより、金属粉末P2の軟磁性が向上する。なお、充填体積とは、金属粉末P2が圧粉されて成る圧粉体において軟磁性粉末が占める実体積のことを指し、液体置換法や気体置換法などにより測定することが可能である。
【0030】
金属粉末P2には、軟磁性材料の他に不純物や添加物が含まれていてもよい。該添加物としては、例えば、各種金属材料、各種非金属材料、各種金属酸化物材料などが挙げられる。
【0031】
上述したように、これら溶融金属HMの成分を溶融して溶融金属HMとし、供給部11に一時的に貯留する。次いで、溶融金属HMを供給部11から噴射部13へ流下させ、噴射部13から溶融金属HMに噴霧媒体Mの噴流を衝突させる。
【0032】
本実施形態ではガスアトマイズ法を採用することから、噴霧媒体Mには気体を用いる。該気体には、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどの不活性ガスが含まれてもよい。噴霧媒体Mが不活性ガスを含むことによって、溶融金属HMと噴霧媒体Mとの接触による急激な反応などを抑制することができる。また、噴霧媒体Mとして空気を用いてもよい。
【0033】
本実施形態では、噴霧媒体Mを窒素ガスとすることに加えて、金属粉末製造装置1内の噴射部13および浸漬槽部15などを窒素ガスで満たす。また、上述した通り、溶融金属HMの粉末化および金属粉末P2の生成時には、噴射部13および浸漬槽部15を気密空間とする。そのため、粉末化工程と後述する被覆工程とを不活性ガス雰囲気かつ気密空間にて実施する。
【0034】
溶融金属HMに噴霧媒体Mの噴流を衝突させて、溶融金属HMを複数の液滴に分裂させる。複数の液滴は凝固して複数の粉末P1と成り、浸漬槽部15の上方の窒素ガスの気相を自然落下して下方の液相に没入する。
【0035】
粉末P1の平均粒子径は、特に限定されないが、例えば0.25μm以上250.00μm以下である。ここで、本明細書における平均粒子径とは、体積基準粒度分布(50%)を指していう。平均粒子径は、JIS Z8825に記載の動的光散乱法やレーザー回折光法で測定される。具体的には、例えば動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計が採用可能である。そして被覆工程に進む。
【0036】
被覆工程では、粉末化された溶融金属HMの粉末P1を、非水液Lを含む液体に浸漬することにより金属粉末P2の懸濁液Sとする。
【0037】
非水液Lは電気絶縁材料の原料を含む。該原料は、例えば、ポリシロキサン化合物を含む。ポリシロキサン化合物としては、例えば、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、変性シリコーンオイルなどのシリコーンオイルが挙げられる。これらのシリコーンオイルの粘度などの物性や重合度は、特に限定されず、溶融金属HMの種類などに応じて適宜変更されてよい。これらのシリコーンオイルには市販品を用いてもよい。
【0038】
非水液Lを含む液体は、非水液Lそのものであってもよく、非水液Lを溶解または分散させて含むものであってもよい。非水液Lを溶解または分散させて含む媒質としては、特に限定されず、公知の液体が採用可能である。本実施形態では、電気絶縁材料の原料としてジメチルシリコーンオイルを採用し、非水液Lであるジメチルシリコーンオイルそのものを上記液体として用いる。本実施形態では、ジメチルシリコーンオイルの市販品として、信越シリコーン社のジメチルシリコーンKF-96を用いる。
【0039】
粉末P1が非水液Lを含む液体に没入されると、粉末P1が有する熱によって、ポリシロキサン化合物中の分子構造におけるSi-C結合などが分断されて側鎖が脱離する。これに対して、ポリシロキサン化合物の主骨格であるシロキサン結合は、比較的に結合エネルギーが大きいために分断されずに残る。そして、側鎖の脱離によって生じた未結合手同士などの反応によって、電気絶縁材料である酸化ケイ素が生成される。
【0040】
上記反応の系中に、酸素が含まれる場合には酸化ケイ素として二酸化ケイ素が生成され易く、酸素が含まれない場合には一酸化ケイ素が生成され易い。そのため、生成される酸化ケイ素の酸化数は、平均的には+4または+2に限定されず、+2から+4の間の値となってもよい。
【0041】
ポリシロキサン化合物から酸化ケイ素が生成する反応は、粉末P1の熱によって進行するため、粉末P1の表面にて進行する。そのため、粉末P1の表面に酸化ケイ素の被膜が形成され、電気絶縁材料で表面が被覆された金属粉末P2が生成される。電気絶縁材料は、金属粉末P2の表面の少なくとも一部を例えば島状に被覆する。電気絶縁材料は、絶縁機能などを増大させる観点から、金属粉末P2の表面の全てを被覆することが好ましい。
【0042】
このように、非水液Lを含む液体に粉末P1が没入されると、逐次金属粉末P2が形成され、非水液Lを含む液体は金属粉末P2が分散された懸濁液Sと成る。そして次工程へ進む。
【0043】
次に、浸漬槽部15の下方の排出口から懸濁液Sを取り出す。その後、取り出した懸濁液Sから、非水液Lを含む液体を除去して金属粉末P2を得る。上記液体の除去方法としては、遠心分離処理、加熱処理、ろ過処理などが挙げられる。また、上記液体から金属粉末P2を取り出してもよい。具体的には、例えば、磁力の入り切りが可能な電磁石などの磁石を用いて、金属粉末P2を引き寄せて上記液体から取り出す。これらの処理を1種類単独または複数種類実施する。以上の工程を経て金属粉末P2が製造される。
【0044】
金属粉末P2における電気絶縁材料の膜厚は、絶縁特性や磁気特性などの観点から、1nm以上20nm以下とすることが好ましく、より好ましくは3nm以上5nm以下である。上記膜厚は、金属粉末P2の断面を透過型電子顕微鏡などで観察して、5箇所以上で測定した膜厚の平均値から知ることが可能である。
【0045】
金属粉末P2を被覆する電気絶縁材料の体積抵抗率は、1×1014Ω・cm以上1×1017Ω・cm以下である。これにより、金属粉末P2における、直流絶縁耐圧と透磁率とが向上する。電気絶縁材料の体積抵抗率は、公知の測定方法にて測定可能である。
【0046】
金属粉末P2は、インダクターやトロイダルコイルなどのコイル部品に備わる磁心、およびモーター、アンテナ、電磁波吸収体などのコイル部品以外の軟磁性部品に好適に用いられる。金属粉末P2はこれらの用途に合わせて所望の形状に圧粉成形される。
【0047】
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0048】
金属粉末P2の表面汚染を防止して、高品質な電気絶縁材料の被膜を形成することができる。詳しくは、溶融金属HMの粉末P1が非水液Lと接触することによって、電気絶縁材料の被膜が金属粉末P2の表面に形成される。すなわち、溶融金属HMの粉末化と、金属粉末P2の表面に対する電気絶縁材料の被膜形成とが、同一の金属粉末製造装置1内で行われる。そのため、粉末化後に別途電気絶縁材料の被膜を形成する場合と比べて、金属粉末P2の表面汚染が抑制される。これにより、金属粉末P2の表面汚染を防止して高品質な電気絶縁材料の被膜を形成する、金属粉末製造装置1および金属粉末製造方法を提供することができる。
【0049】
電気絶縁材料の被膜を形成する前に、金属粉末P2の表面汚染を除去する工程が不要となる。そのため、金属粉末P2の製造工程の短縮や製造コストの低減によって生産性を向上させることができる。
【0050】
粉末化工程および被覆工程が、不活性ガス雰囲気である窒素ガス雰囲気下で実施されるため、高温の溶融金属HMや粉末P1と非水液Lを含む液体との接触による急激な反応や体積膨張などを抑制することができる。粉末化工程および被覆工程が気密空間にて実施されるため、汚染物質の外界からの侵入を抑えて金属粉末P2の表面汚染をより高度に防ぐことができる。
【0051】
非水液Lに含まれるポリシロキサン化合物から、絶縁性が比較的に良好な酸化ケイ素を電気絶縁材料として形成することができる。
【0052】
2.第2実施形態
第2実施形態に係る金属粉末製造方法について説明する。本実施形態の金属粉末製造方法は、第1実施形態と同様にして、金属粉末製造装置1を用いて金属粉末を製造するものである。また、該金属粉末として、電気絶縁材料にて表面が被覆された磁性合金粉末を例示する。
【0053】
本実施形態の金属粉末製造方法は、第1実施形態に対して、金属粉末製造装置1における噴霧媒体Mを、不活性ガスからポリシロキサン化合物を含む液体に代替した点などが異なる。詳しくは、噴霧媒体Mの噴流は非水液Lを含む液体であり、非水液Lは電気絶縁材料の原料であるポリシロキサン化合物を含む。以下の説明では、第1実施形態と同一の構成については重複する説明は省略する。
【0054】
噴霧媒体Mは、非水液Lそのものであってもよく、非水液Lを分散質とするエマルションであってもよく、非水液Lを溶質とする溶液であってもよく、非水液Lそのものあるいは非水液Lが含まれる液体を微細な液滴として含むミストであってもよい。また、噴霧媒体Mにおける非水液L中の電気絶縁材料の原料は、浸漬槽部15の液相に含まれる電気絶縁材料の原料に対して、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0055】
本実施形態では、噴霧媒体Mとして非水液Lであるポリシロキサン化合物そのものを用いるアトマイズ法を採用する。電気絶縁材料の原料としては、第1実施形態と同様なものが採用可能である。本実施形態では、浸漬槽部15の液相と噴霧媒体Mとに同一のジメチルシリコーンオイルを用いる。また、上記液相である非水液Lを含む液体は、第1実施形態と同様に、非水液Lそのものであることに限定されず、非水液Lを溶解または分散させて含むものであってもよい。
【0056】
噴霧媒体Mが非水液Lを含むことから、粉末化工程において、溶融金属HMの粉末化に加えて、生成された粉末の電気絶縁材料による被覆も進行する。つまり、噴霧媒体Mは、衝突により、溶融金属HMを複数の液滴に分裂させて凝固させると共に、生成された粉末P1の表面を酸化ケイ素で被覆する機能を有する。すなわち、粉末化と被覆の形成とを併行して進行させる。粉末P1の表面におけるポリシロキサン化合物の反応は、上述した浸漬槽部15の液相中における反応と同様である。
【0057】
噴射部13および浸漬槽部15の上方の気相は、第1実施形態と同様に不活性ガスを満たしてもよい。あるいは、噴射部13および浸漬槽部15の上方の気相は、水分を含んでいてもよい。水分によって、側鎖が分断されたポリシロキサン化合物から酸化ケイ素が生成される反応が促進される。上記気相に含まれる水分は、反応促進の観点から、200ppm以上であることが好ましく、1000ppm以上であることがより好ましい。上記気相における水分は、例えば、公知のカールフィッシャー水分測定装置などによって測定することが可能である。
【0058】
噴霧媒体Mによって粉末化および被膜が形成された粉末は、自然落下によって浸漬槽部15の下方の液相に没入する。該液相は非水液Lを含むため、粉末P1に対する被覆がさらに進行する。このようにして本実施形態の金属粉末P2を含む懸濁液Sが得られる。
【0059】
本実施形態によれば、第1実施形態の効果に加えて以下の効果を得ることができる。
【0060】
流下する溶融金属HMと、噴霧媒体M中の電気絶縁材料の原料とが接触するため、粉末化工程において、粉末P1表面の電気絶縁材料による被覆も同時に行われる。そのため、金属粉末P2の表面汚染をさらに抑制することができる。また、浸漬槽部15の液相でも被覆が進行するため、金属粉末P2の表面の電気絶縁材料による被覆性をより向上させることができる。さらに、被覆性の向上によって製造効率も向上させることができる。
【0061】
3.第3実施形態
第3実施形態に係る金属粉末製造方法について説明する。本実施形態の金属粉末製造方法は、第1実施形態と同様にして、金属粉末製造装置1を用いて金属粉末P2を製造するものである。また、金属粉末P2として、電気絶縁材料にて表面が被覆された磁性合金粉末を例示する。
【0062】
本実施形態の金属粉末製造方法は、第2実施形態に対して、噴霧媒体Mを非水液Lから非水液Lを分散質として含むエマルションに代替した点が異なる。詳しくは、噴霧媒体Mの噴流は、非水液Lを含むエマルションであり、電気絶縁材料の原料であるポリシロキサン化合物を含む。そのため、第2実施形態と同一の構成については重複する説明は省略する。
【0063】
本実施形態の噴霧媒体Mは、エマルションの分散質として非水液Lであるポリシロキサン化合物を含む。噴霧媒体Mは、非水液Lを分散質として含んでもよく、非水液Lを含む液体を分散質として含んでもよい。
【0064】
本実施形態では、噴霧媒体Mであるエマルションの分散質として非水液Lであるポリシロキサン化合物そのものを用いる。電気絶縁材料の原料としては、第1実施形態と同様なものが採用可能である。本実施形態では、浸漬槽部15の液相と分散質とに同一のジメチルシリコーンオイルを用いる。なお、浸漬槽部15の液相である非水液Lを含む液体を、本実施形態の噴霧媒体Mと同じエマルションとしてもよい。
【0065】
本実施形態の噴霧媒体Mでは、分散質のポリシロキサン化合物は、ミセルを形成せずに比較的に微小な液滴として分散媒中に分散される。すなわち、噴霧媒体Mのエマルションは界面活性剤などの分散剤を含まない。そのため、粉末化された溶融金属HMの表面に界面活性剤などの有機物を付着させず、電気絶縁材料の被膜の品質が向上する。
【0066】
なお、分散媒に対して、親和性の高い置換基を備えるポリシロキサン化合物を用いて、該ポリシロキサン化合物を分散させてもよい。親和性の高い置換基とは、例えば、分散媒が親水性である場合には親水基を、分散媒が疎水性である場合には疎水基を指す。
【0067】
エマルションの分散媒としては、エマルションが形成可能であれば特に限定されないが、例えば、水、およびグリコールやグリセリンなどの多価アルコール系溶剤などが挙げられ、これらの1種類以上を用いる。
【0068】
噴霧媒体Mであるエマルションの形成方法としては、分散質および分散媒を混合して、超音波を印加する方法、機械的な撹拌によるせん断力を印加する方法、噴射部13から噴射する際の圧力を用いる方法などが挙げられる。そのため、金属粉末製造装置1には、これらの方法が可能な構成を具備させてもよい。上記以外の構成は、第2実施形態と同様とする。
【0069】
本実施形態によれば、第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0070】
1…金属粉末製造装置、13…噴射部、15…浸漬槽部、HM…溶融金属、L…非水液、P2…金属粉末、S…懸濁液。