(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
G03G15/20 535
(21)【出願番号】P 2020059390
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 泰造
【審査官】牧島 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-184518(JP,A)
【文献】特開2010-128299(JP,A)
【文献】特開2014-182286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されるシート上に担持されたトナー像を加熱及び加圧により定着させる定着装置
を備える画像形成装置であって、
前記定着装置は、
無端状の定着ベルトと、
前記定着ベルトの周回経路の内側に配され、前記定着ベルトの内周面に摺接する摺接面を有する被加圧部材と、
前記定着ベルトを挟んで、前記被加圧部材を押圧して、定着ニップを形成する加圧部材とを備え、
前記摺接面において、前記定着ニップ内のシート搬送方向始端と終端の間の一部が突出し、突出端と前記始端との間に平坦な第一面、前記突出端と前記終端との間に平坦な第二面が形成され、
前記第一面を延長した仮想平面と、前記第二面を延長した仮想平面とは、前記摺接面が前記加圧部材に向かって突出するように、角度をもって、交差しており、
前記加圧部材の押圧により、前記摺接面の前記第一面のうち、前記定着ニップに属する部分において、シート搬送方向に、徐々に増加し、最大圧力に至り、最大圧力に至った後、徐々に減少する圧力分布が生じ、
前記定着ベルトを加熱するヒーターが前記定着ニップよりも前記定着ベルトの周回方向上流側に設けられており、
前記摺接面の前記第一面のうち、前記定着ニップに属する部分のシート搬送方向上流端を第1位置、下流端を第2位置としたとき、前記被加圧部材の厚みが前記第1位置からシート搬送方向下流に前記第2位置に移るに連れて厚くなっており、
前記被加圧部材の前記第一面は、前記定着ニップ内のシート搬送方向の始端からさらにシート搬送方向上流側に、前記突出端と前記始端との間の平坦面と同一平面の平坦面が延長されており、
前記定着ニップに向かって搬送されて来るシートが、前記延長された平坦面上を摺動する前記定着ベルトにより前記定着ニップに案内される
ことを特徴とする
画像形成装置。
【請求項2】
前記突出端は、外側に凸な曲面である
ことを特徴とする請求項1に記載の
画像形成装置。
【請求項3】
前記第一面及び前記第二面は、それぞれ、前記突出端の曲面に対して、接平面となっている
ことを特徴とする請求項2に記載の
画像形成装置。
【請求項4】
前記第一面のシート搬送方向の長さは、前記第二面のシート搬送方向の長さより、長い
ことを特徴とする請求項1に記載の
画像形成装置。
【請求項5】
前記加圧部材は、外側に凸な曲面により、前記被加圧部材を押圧し、
前記定着ニップにおいて、前記圧力分布のうち、最大圧力が生じる位置よりも、前記突出端が、シート搬送方向下流側に位置している
ことを特徴とする請求項1に記載の
画像形成装置。
【請求項6】
前記被加圧部材は、前記第二面を下流側に延長した仮想平面よりも、シート搬送路から遠ざかる方向に、前記第二面の下流端から延伸する第四面を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の
画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電子写真方式の画像形成装置において、シート上に担持されたトナー像を定着させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式の複写機、プリンター等の画像形成装置において、シートに担持されたトナー像を定着するため、ベルト加熱型の定着装置が知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
ベルト加熱型の定着装置は、例えば、無端状の定着ベルト、加熱ローラー、加圧ローラー、パッド部材等を備えており、定着ベルトは、その周回経路の内側に設けられた加熱ローラー、パッド部材等により張架されている。加圧ローラーは、定着ベルトを介して、パッド部材を押圧し、定着ベルトと加圧ローラーとの間には、定着ニップが形成される。トナー像を担持するシートが定着ニップを通過すると、加熱及び加圧により、トナー像がシート上に融着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-134152号公報
【文献】特開2018-084744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の研究者は、定着装置を通過した後のシート上の一部分において、わずかにトナーの濃度の低下が発生するという現象を発見した。
【0006】
定着前後のシートを拡大して観察したところ、シートは、複数の長い繊維が絡み合って構成されており、絡み合う繊維と繊維の間には、凹型の空隙(凹部)が形成される場合がある。この凹部にトナー粒子が存在するとき、凹部に存在するトナー粒子の溶融が不足することがあり、定着ニップを通過中に、シート表面と定着ベルト表面との間にわずかに生じる摺動力により、シート表面から、溶融が不充分なトナー粒子が引き剥がされて、わずかに本来の位置からずれた位置に移動することが分かった。このトナー粒子の移動により、トナー粒子が存在した元の位置において、トナーの濃度の低下が発生し、この結果、画質が劣化する場合がある。
【0007】
本開示による態様は、上記の問題を解決して、画質の劣化を防止できる定着装置及び画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本開示の一態様は、搬送されるシート上に担持されたトナー像を加熱及び加圧により定着させる定着装置を備える画像形成装置であって、前記定着装置は、無端状の定着ベルトと、前記定着ベルトの周回経路の内側に配され、前記定着ベルトの内周面に摺接する摺接面を有する被加圧部材と、前記定着ベルトを挟んで、前記被加圧部材を押圧して、定着ニップを形成する加圧部材とを備え、前記摺接面において、前記定着ニップ内のシート搬送方向始端と終端の間の一部が突出し、突出端と前記始端との間に平坦な第一面、前記突出端と前記終端との間に平坦な第二面が形成され、前記第一面を延長した仮想平面と、前記第二面を延長した仮想平面とは、前記摺接面が前記加圧部材に向かって突出するように、角度をもって、交差しており、前記加圧部材の押圧により、前記摺接面の前記第一面のうち、前記定着ニップに属する部分において、シート搬送方向に、徐々に増加し、最大圧力に至り、最大圧力に至った後、徐々に減少する圧力分布が生じ、前記定着ベルトを加熱するヒーターが前記定着ニップよりも前記定着ベルトの周回方向上流側に設けられており、前記摺接面の前記第一面のうち、前記定着ニップに属する部分のシート搬送方向上流端を第1位置、下流端を第2位置としたとき、前記被加圧部材の厚みが前記第1位置からシート搬送方向下流に前記第2位置に移るに連れて厚くなっており、前記被加圧部材の前記第一面は、前記定着ニップ内のシート搬送方向の始端からさらにシート搬送方向上流側に、前記突出端と前記始端との間の平坦面と同一平面の平坦面が延長されており、前記定着ニップに向かって搬送されて来るシートが、前記延長された平坦面上を摺動する前記定着ベルトにより前記定着ニップに案内されることを特徴とする。
【0009】
ここで、前記突出端は、外側に凸な曲面である、としてもよい。
【0010】
ここで、前記第一面及び前記第二面は、それぞれ、前記突出端の曲面に対して、接平面となっている、としてもよい。
【0011】
ここで、前記第一面のシート搬送方向の長さは、前記第二面のシート搬送方向の長さより、長い、としてもよい。
【0012】
ここで、前記加圧部材は、外側に凸な曲面により、前記被加圧部材を押圧し、前記定着ニップにおいて、前記圧力分布のうち、最大圧力が生じる位置よりも、前記突出端が、シート搬送方向下流側に位置してもよい。
【0014】
ここで、前記被加圧部材は、前記第二面を下流側に延長した仮想平面よりも、シート搬送路から遠ざかる方向に、前記第二面の下流端から延伸する第四面を有してもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記の構成によると、画質の劣化を防止できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図2】定着装置50の概略断面を示す概略断面図である。
【
図3】(a)定着パッド56の外観を示す外観斜視図である。(b)定着パッド56の断面形状を示す断面図である。
【
図4】定着ニップにおけるシート搬送方向の圧力分布を示すグラフである。
【
図5】(a)変形例(1-1)の定着パッド56aの断面形状を示す断面図である。(b)変形例(1-2)の定着パッド56bの断面形状を示す断面図である。
【
図6】(a)変形例(2-1)の定着パッド56cの断面形状を示す断面図である。(b)変形例(2-2)の定着パッド56dの断面形状を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
1 実施の形態
本開示に係る一の実施の形態としての画像形成装置5について図面を参照しながら説明する。
【0019】
1.1 画像形成装置5
画像形成装置5は、
図1に示すように、スキャナー、プリンター及びコピー機の機能を有するタンデム型のカラー複合機(MFP:MultiFunction Peripheral)である。
【0020】
画像形成装置5は、この図に示すように、筐体底部に、記録シートを収容し、給送する給紙部13が設けられてなる。給紙部13の上方には、電子写真方式により画像を形成するプリンター12が設けられている。プリンター12のさらに上方に、原稿を読み取って画像データを生成するイメージリーダー11、及び、操作画面を表示し、利用者から入力操作を受け付ける操作パネル19が設けられている。
【0021】
イメージリーダー11は、自動原稿搬送装置を有している。自動原稿搬送装置は、原稿トレイにセットされた原稿を、搬送路を介して、1枚ずつ原稿ガラス板へ搬送する。イメージリーダー11は、自動原稿搬送装置によって原稿ガラス板の所定位置に搬送された原稿、又は、利用者により原稿ガラス板の上に載置された画像をスキャナーの移動によって読み取り、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の多値デジタル信号からなる画像データを得る。
【0022】
イメージリーダー11で得られた各色成分の画像データは、制御回路100において各種のデータ処理を受け、更にイエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各再現色の画像データに変換される。
【0023】
プリンター12は、駆動ローラーと従動ローラーとバックアップローラーとにより張架される中間転写ベルト21、二次転写ローラー22、中間転写ベルト21に対向して中間転写ベルト21の走行方向Xに沿って所定間隔で配置された作像部20Y、20M、20C、20K、定着装置50、制御回路100等からなる。
【0024】
作像部20Y、20M、20C、20Kは、それぞれ、Y、M、C、K色のトナー像を作像する。各作像部は、像担持体である感光体ドラム、感光体ドラム表面を露光走査するためのLEDアレイ、帯電チャージャー、現像器、クリーナー及び一次転写ローラーなどからなる。
【0025】
給紙部13は、サイズの異なる記録シートを収容する給紙カセット60、61、62と、この記録シートを各給紙カセットから搬送路に繰り出すためのピックアップローラー63、64、65とから構成されている。
【0026】
作像部20Y~20Kのそれぞれにおいて、各感光体ドラムは、帯電チャージャーにより一様に帯電され、LEDアレイにより露光され、感光体ドラムの表面に静電潜像が形成される。各静電潜像は、対応する色の現像器により現像され、各感光体ドラムの表面にY~K色のトナー像が形成される。形成されたトナー像は、中間転写ベルト21の裏面側に配設された各一次転写ローラーの静電作用により、中間転写ベルト21の表面上に順次転写される。
【0027】
中間転写ベルト21上で、Y~K色のトナー像が多重転写されるように、各色の作像タイミングがずらされている。
【0028】
一方、給紙部13のいずれかの給紙カセットから、作像部20Y~20Kによる作像動作に合わせて、記録シートが給送される。
【0029】
記録シートは、二次転写ローラー22とバックアップローラーとが中間転写ベルト21を挟んで対向する二次転写位置へ搬送路上を搬送され、二次転写位置で、二次転写ローラー22の静電的作用により、中間転写ベルト21上に多重転写されたY~K色のトナー像が記録シートへ二次転写される。Y~K色のトナー像が二次転写された記録シートは、さらに定着装置50まで搬送される。
【0030】
記録シートの表面のトナー像は、定着装置50を通過する際に、加熱及び加圧により、記録シートの表面に溶融して定着し、記録シートは、定着装置50を通過した後、排出トレイ15へ送出される。
【0031】
操作パネル19には、液晶表示板などで構成される表示部が設けられ、利用者によって設定された内容や各種のメッセージを表示する。操作パネル19は、利用者から、コピー開始の指示、コピー枚数の設定、コピー条件の設定、データの出力先の設定などを受け付け、受け付けた内容を制御回路100に通知する。
【0032】
1.2 定着装置50
定着装置50においては、
図2に示すように、定着パッド56(被加圧部材)と加熱ローラー53との間に、無端状の定着ベルト52が巻回され、加圧ローラー51(加圧部材)が、定着ベルト52を介して、定着パッド56を押圧して、定着ベルト52との間に定着ニップ57を形成する。
【0033】
記録シートSが、定着ニップ57を通過する際に、記録シートS上に転写されたトナー像が、加熱及び加圧により、記録シートSに定着する。
【0034】
(加圧ローラー51)
加圧ローラー51は、金属、例えば、アルミニウムを材料とする長尺の筒状の芯金の周面に、ゴム等により形成された弾性層が被覆され、さらにその周面に耐熱離型層を被覆して、形成されている。加圧ローラー51の長尺方向の長さは、使用可能な最大サイズのシートの幅(シートの搬送方向に直交する幅方向の長さ)よりも長い。これは、定着パッド56、加熱ローラー53、定着ベルト52についても、同様である。加圧ローラー51は、図示していない付勢部材の付勢力により、定着ベルト52を介して、定着パッド56を押圧する。これにより、加圧ローラー51が定着パッド56の形状にならうように、圧縮変形することで、定着ベルト52と加圧ローラー51との接触領域である定着ニップ57が形成される。
【0035】
加圧ローラー51は、制御回路100の制御の元で、駆動モーター69の回転駆動力により回転する。定着ベルト52は、加圧ローラー51の回転に従動して周回し、加熱ローラー53は、定着ベルト52の周回運動に従動して、回転する。
【0036】
(加熱ローラー53)
加熱ローラー53は、金属、例えば、アルミニウムを材料とする長尺の筒状の芯金の周面に、耐熱離型層を被覆して、形成されている。芯金の内部に、熱源としての定着ヒーター54を内蔵する。定着ヒーター54は、一例として、ハロゲンヒーターである。
【0037】
定着ヒーター54により発生する熱は、加熱ローラー53を介して、定着ベルト52に伝達される。
【0038】
(定着パッド56及び支持部材55)
定着パッド56は、例えば、剛体である耐熱樹脂を材料として、形成されている。
【0039】
図3(a)及び(b)に示すように、定着パッド56には、定着ベルト52の内周面に摺接する摺接面80、支持部材55に当接する当接面81等が形成されている。
【0040】
摺接面80は、シートの搬送方向、上流側から下流側に向かって、凸曲面状の第三面74、平面状の第一面71、凸曲面72、平面状の第二面73、凸曲面状の第四面75がこの順に連続してなる。摺接面80が全体として加圧ローラー51に向かって突出するように、形成されている。特に、定着パッド56の定着ニップ57の上流側の始端と下流側の終端の間の一部として、凸曲面72が最大に突出した突出端となっている。第一面71は、突出端と始端との間の平坦な面を含み、第二面73は、突出端と終端との間の平坦な面を含む。このように、平面状の第一面71、凸曲面72及び平面状の第二面73は、加圧ローラー51に向かって突出するように、形成されている。
【0041】
第一面71を延長した仮想平面95と、第二面73を延長した仮想平面96とは、摺接面80が加圧ローラー51に向かって突出するように、角度をもって交差している。
【0042】
第一面71と第二面73とは、加圧ローラー51に向かって突出する凸曲面72を介して、接している。第一面71及び第二面73は、それぞれ、凸曲面72に対して、接平面となっている。
【0043】
第一面71は、定着ニップ57において、凸曲面72より、シート搬送方向上流側に位置し、第二面73は、定着ニップ57において、凸曲面72より、シート搬送方向下流側に位置している。
【0044】
第一面71のシート搬送方向の長さは、第二面73のシート搬送方向の長さより、長い。
【0045】
ここで、凸曲面72の断面形状は、円弧状であり、加圧ローラー51の断面形状は、円形であり、凸曲面72の断面の円弧の半径は、加圧ローラー51の断面の円の半径の6倍以上であるとしてもよい。
【0046】
図4に、定着ニップ57において、加圧ローラー51の押圧により、定着パッド56の摺接面80に生じるシート搬送方向の圧力分布141(実施例)を示す。この図において、横軸は、定着パッド56の摺接面80におけるシート搬送方向の位置を示し、縦軸は、加圧ローラー51の押圧により、生じた圧力を示す。この図において、位置144は、定着ニップ57の上流側にあって、圧力の付与が生じ始める開始端である。また、位置145は、定着ニップ57の下流側にあって、圧力の付与が終了する終了端である。
【0047】
圧力分布141は、加圧ローラー51の押圧により、定着パッド56の定着ニップにおいて、シート搬送方向に、徐々に増加し、最大圧力143に至り、最大圧力143に至った後、徐々に減少する分布である。
【0048】
この図に示す圧力分布141のうち、最大圧力143が生じる位置142よりも、凸曲面72が、シート搬送方向下流側に位置するように、摺接面80が形成されている。
【0049】
図3(b)に示すように、第三面74は、平面状の第一面71を上流側に延長した仮想平面95よりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第一面71の上流端97から延伸した曲面である。
【0050】
また、摺接面80において、第四面75は、平面状の第二面73を下流側に延長した仮想平面96よりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第二面73の下流端98から延伸した曲面である。
【0051】
図2に戻って、定着パッド56は、当接面81において、支持部材55により支持されている。
【0052】
支持部材55は、金属、例えば、アルミニウムを材料とし、その断面形状は、例えば、コの字状である。
【0053】
(定着ベルト52)
定着ベルト52は、無端状に形成され、
図2に示すように、その周回経路の内側に設けられた加熱ローラー53、定着パッド56及びベルトガイド部材58によって張架されている。
【0054】
定着ベルト52は、例えば、ポリイミドにより形成された基層の上層に、ゴムにより形成された弾性層が被覆され、さらにその上層面を被覆するように、PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)又はPTFE(4フッ化エチレン樹脂)で形成された離型層である表層部が被覆されている。
【0055】
定着ヒーター54により発生した熱は、加熱ローラー53を介して、定着ベルト52に伝達され、さらに、定着ベルト52を介して、定着ニップ57を通過する記録シートSに伝達される。
【0056】
1.3 比較例との対比
比較例として、
図2に示す定着装置50の定着パッド56の摺接面80の形状に代えて、加圧ローラー51の周面形状(凸曲面状)とは逆の、凹曲面状の摺接面を有する定着パッドを用いた場合に生じるシート搬送方向の圧力分布151を
図4に示す。
【0057】
この図において、横軸は、比較例の定着パッドの摺接面におけるシート搬送方向の位置を示し、縦軸は、比較例の加圧ローラーの押圧により、生じた圧力を示す。この図において、位置146は、比較例の定着ニップの上流側にあって、圧力の付与が生じ始める開始端である。また、位置145は、比較例の定着ニップの下流側にあって、圧力の付与が終了する終了端である。
【0058】
実施例(
図4の圧力分布141)と、比較例(
図4の圧力分布151)とを比較すると、圧力分布141において、位置144から一定の圧力値152に到達するまでの距離155は、圧力分布151において、位置146から一定の圧力値152に到達するまでの距離156よりも、短い。これは、圧力分布141において、位置144から一定の圧力値152に到達するまでの時間が、圧力分布151において、位置146から一定の圧力値152に到達するまでの時間よりも、短いことを示している。つまり、実施例では、比較例に比べて、早く、一定の圧力値152に到達している。
【0059】
また、圧力分布141における一定の圧力値152を保持する距離153(言い換えると、一定の圧力値152を保持する時間)は、圧力分布151における一定の圧力値152を保持する距離154(言い換えると、一定の圧力値152を保持する時間)よりも、長い。
【0060】
このように、実施例によると、比較例と比較して、より短時間で、一定の圧力に到達し、かつ、一定の圧力を維持する時間が長い。
【0061】
このため、シート上で、絡み合う繊維と繊維の間に形成された凹型の空隙(凹部)にトナー粒子が存在する場合であっても、トナー粒子が溶融するために十分な圧力と熱量をトナー粒子に付与することができる。この結果、トナー粒子は、十分に溶融し、トナー粒子が移動することがなく、画質の劣化を防止することができる。
【0062】
1.4 まとめ
(a)上述したように、定着パッド56の摺接面80は、摺接面80が加圧ローラー51に向かって突出するように、平面状の第一面71と平面状の第二面73とを有する。この構成によると、
図4に示すように、上記比較例と比べて、一定の保持圧に到達するまでの時間を短縮するとともに、一定の保持圧の保持時間をより長くできる。この結果、シート上で、絡み合う繊維と繊維の間に形成された凹型の空隙(凹部)にトナー粒子が存在する場合であっても、トナー粒子が溶融するために十分な圧力と熱量をトナー粒子に付与することができる。この結果、トナー粒子は、十分に溶融し、トナー粒子が移動することがなく、画質の劣化を防止することができる。
【0063】
また、定着ニップ57のシートの搬送方向上流側及び下流側において、平面状の第一面71と平面状の第二面73とにより、シートを押圧することにより、例えば、平面ではなく、湾曲した面に沿って、封筒が搬送される場合、搬送経路の外側と内側とで、搬送距離に差が生じるために、封筒の片面ともう一方の面との間に搬送の速度差が生じることを防ぎ、封筒の片面ともう一方の面との間にずれが生じることなく、しわの発生を防止している。
【0064】
(b)上述したように、第一面71のシート搬送方向の長さは、第二面73のシート搬送方向の長さより、長い。
【0065】
この結果、定着ニップ57において、凸曲面72は、シート搬送方向下流側に位置するようになる。第二面73より長い、第一面71により、加圧及び加熱されるので、トナー粒子がシート上に十分に融着し、凸曲面72において、シート表面から、融着したトナー粒子が引き剥がされて、本来の位置からずれた位置に移動することを抑制できる。
【0066】
(c)上述したように、加圧ローラー51は、外側に凸な曲面により、定着パッド56を押圧する。加圧ローラー51の押圧により、定着パッド56の定着ニップ57において、シート搬送方向に、徐々に増加し、最大圧力に至り、最大圧力に至った後、徐々に減少する圧力分布が生じる。凸曲面72は、定着ニップ57において、この圧力分布のうち、最大圧力が生じる位置よりも、シート搬送方向下流側に位置している。
【0067】
このように、凸曲面72が、圧力分布のうち、最大圧力が生じる位置よりも、シート搬送方向下流側に位置していることにより、最大圧力が生じる位置を含む第一面71により、加圧及び加熱される。この結果、トナー粒子がシート上に十分に融着し、凸曲面72又は第二面73において、シート表面から、融着したトナー粒子が引き剥がされて、本来の位置からずれた位置に移動することを抑制できる。
【0068】
また、凸曲面72が、圧力分布のうち、最大圧力が生じる位置よりも、シート搬送方向下流側に位置していることにより、例えば、封筒が搬送される場合、最大圧力が生じる第一面71により、封筒を高圧力で抑えることができ、封筒の片面ともう一方の面との間にずれが生じることなく、しわの発生を防止している。
【0069】
2 その他の変形例
本開示について、上記の実施の形態に基づいて説明しているが、上記の実施の形態に限定されない。以下に示すようにしてもよい。
【0070】
(1)変形例(1)
上記の実施の形態の変形例(1)として、以下の2つの変形例(1-1)及び(1-2)について説明する。なお、ここでは、実施の形態との差異を中心として説明する。
【0071】
(a)変形例(1-1)
変形例(1-1)について説明する。
【0072】
図5(a)に、変形例(1-1)としての定着パッド56aの断面図を示す。この図に示すように、定着パッド56aには、定着ベルト52の内周面に摺接する摺接面80aが形成されている。
【0073】
摺接面80aは、シートの搬送方向、上流側から下流側に向かって、凸曲面状の第三面74a、平面状の第一面71a、凸曲面72、平面状の第二面73、凸曲面状の第四面75がこの順に連続してなる。ここで、凸曲面72、第二面73及び第四面75は、それぞれ、実施の形態の凸曲面72、第二面73及び第四面75と同一である。
【0074】
摺接面80aは、全体として加圧ローラー51に向かって突出するように、形成され、特に、平面状の第一面71a、凸曲面72及び平面状の第二面73は、加圧ローラー51に向かって突出するように、形成されている。
【0075】
ここで、第一面71aを延長した仮想平面95aと、第二面73を延長した仮想平面96とは、摺接面80aが加圧ローラー51に向かって突出するように、角度をもって交差している。
【0076】
また、第一面71aは、定着ニップ57内において、凸曲面72より、シート搬送方向上流側に位置しており、第一面71aの上流側の始端(上流端)97aは、定着ニップ57の上流側の始端(上流端)97aに一致している。
【0077】
また、第三面74aは、加圧ローラー51の方向に、突出する凸曲面である。また、第三面74aは、平面状の第一面71aを上流側に延長した仮想平面95aよりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第一面71aの上流端97aから延伸している。
【0078】
(b)変形例(1-2)
変形例(1-2)について説明する。
【0079】
図5(b)に、変形例(1-2)としての定着パッド56bの断面図を示す。この図に示すように、定着パッド56bには、定着ベルト52の内周面に摺接する摺接面80bが形成されている。
【0080】
摺接面80bは、シートの搬送方向、上流側から下流側に向かって、凸曲面状の第五面76b、平面状の第三面74b、平面状の第一面71b、凸曲面72、平面状の第二面73、凸曲面状の第四面75がこの順に連続してなる。ここで、凸曲面72、第二面73及び第四面75は、それぞれ、実施の形態の凸曲面72、第二面73及び第四面75と同一である。
【0081】
摺接面80bは、全体として加圧ローラー51に向かって突出するように、形成され、特に、平面状の第一面71b、凸曲面72及び平面状の第二面73は、加圧ローラー51に向かって突出するように、形成されている。
【0082】
ここで、第一面71bを延長した仮想平面95bと、第二面73を延長した仮想平面96とは、摺接面80bが加圧ローラー51に向かって突出するように、角度をもって、交差している。
【0083】
また、第一面71bは、定着ニップ57内において、凸曲面72より、シート搬送方向上流側に位置しており、第一面71bの上流側の始端(上流端)97bは、定着ニップ57の上流側の始端(上流端)97bに一致している。
【0084】
また、第三面74bは、平面状の第一面71bを上流側に延長した仮想平面95bよりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第一面71bの上流端97bから延伸した平面である。
【0085】
また、第五面76bは、加圧ローラー51の方向に、突出する凸曲面である。第五面76bは、仮想平面95bよりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第三面74bの上流端99bから延伸している。
【0086】
(c)まとめ
上記の変形例(1-1)(又は、変形例(1-2))において説明したように、定着パッド56a(又は、56b)の平面状の第一面71a(又は、71b)は、定着ニップ57内にあって、シート搬送方向上流側に位置している。
【0087】
また、定着パッド56a(又は、56b)の定着ベルト52の内周面に摺接する摺接面80a(又は、80b)は、第一面71a(又は、71b)を上流側に延長した仮想平面95a(又は、95b)よりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第一面71a(又は71b)の上流端から延伸する凸曲面状の第三面74a(又は、平面状の第三面74b)を有している。
【0088】
この構成により、定着ニップよりシート搬送方向上流側において、未定着のトナー粒子を担持する記録シートと、定着ベルトとの間の距離を広げることができる。この結果、定着ニップの上流端の近傍において、未定着のトナー粒子が記録シート上で移動することを防ぐことができ、画質の劣化を抑制できる。
【0089】
また、上記の変形例(1-1)に示すように、第三面74aを加圧ローラー51に向かって突出する凸曲面状とすることにより、定着ベルトと定着パッドとの間の摺動によるそれぞれの面の磨耗を低減でき、結果、加圧ローラー51のトルクの上昇を抑制し、さらに、定着ベルトの回転駆動を安定させることができる。
【0090】
(2)変形例(2)
上記の実施の形態の変形例(2)として、以下の2つの変形例(2-1)及び(2-2)について説明する。なお、ここでは、実施の形態との差異を中心として説明する。
【0091】
(a)変形例(2-1)
変形例(2-1)について説明する。
【0092】
図6(a)に、変形例(2-1)としての定着パッド56cの断面図を示す。この図に示すように、定着パッド56cには、定着ベルト52の内周面に摺接する摺接面80cが形成されている。
【0093】
摺接面80cは、シートの搬送方向、上流側から下流側に向かって、凸曲面状の第三面74、平面状の第一面71、凸曲面72、平面状の第二面73c、凸曲面状の第四面75cがこの順に連続してなる。ここで、第三面74、第一面71及び凸曲面72は、それぞれ、実施の形態の第三面74、第一面71及び凸曲面72と同一である。
【0094】
摺接面80cは、全体として加圧ローラー51に向かって突出するように、形成され、特に、平面状の第一面71、凸曲面72及び平面状の第二面73cは、加圧ローラー51に向かって突出するように、形成されている。
【0095】
また、第一面71を延長した仮想平面95と、第二面73cを延長した仮想平面96cとは、摺接面80cが加圧ローラー51に向かって突出するように、角度をもって、交差している。
【0096】
また、第二面73cは、定着ニップ57内において、凸曲面72より、シート搬送方向下流側に位置しており、第二面73cの下流側の末端(下流端)98cは、定着ニップ57の下流側の末端(下流端)98cに一致している。
【0097】
また、第四面75cは、加圧ローラー51の方向に、突出する凸曲面である。第四面75cは、平面状の第二面73cを下流側に延長した仮想平面96cよりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第二面73cの下流端98cから延伸している。
【0098】
(b)変形例(2-2)
変形例(2-2)について説明する。
【0099】
図6(b)に、変形例(2-2)としての定着パッド56dの断面図を示す。この図に示すように、定着パッド56dには、定着ベルト52の内周面に摺接する摺接面80dが形成されている。
【0100】
摺接面80dは、シートの搬送方向、上流側から下流側に向かって、凸曲面状の第三面74、平面状の第一面71、凸曲面72、平面状の第二面73d、平面状の第四面75d、凸曲面状の第六面77dがこの順に連続してなる。ここで、第三面74、第一面71及び凸曲面72は、それぞれ、実施の形態の第三面74、第一面71及び凸曲面72と同一である。
【0101】
摺接面80dは、全体として加圧ローラー51に向かって突出するように、形成され、特に、平面状の第一面71、凸曲面72及び平面状の第二面73dは、加圧ローラー51に向かって突出するように、形成されている。
【0102】
また、第一面71を延長した仮想平面95と、第二面73dを延長した仮想平面96dとは、摺接面80dが加圧ローラー51に向かって突出するように、角度をもって、交差している。
【0103】
また、第二面73dは、定着ニップ57内において、凸曲面72より、シート搬送方向下流側に位置しており、第二面73dの下流側の末端(下流端)98dは、定着ニップ57の下流側の末端(下流端)98dに一致している。
【0104】
また、第四面75dは、平面状の第二面73dを下流側に延長した仮想平面96dよりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第二面73dの下流端98dから延伸した平面である。
【0105】
また、第六面77dは、加圧ローラー51の方向に、突出する凸曲面である。第六面77dは、仮想平面96dよりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第四面75dの下流端100dから延伸している。
【0106】
(c)まとめ
上記の変形例(2-1)(又は、変形例(2-2))において説明したように、定着パッド56c(又は、56d)の平面状の第二面73c(又は、73d)は、定着ニップ57内にあって、シート搬送方向下流側に位置している。
【0107】
また、定着パッド56c(又は、56d)の定着ベルト52の内周面に摺接する摺接面80c(又は、80d)は、第二面73c(又は、73d)を下流側に延長した仮想平面96c(又は、96d)よりも、シートの搬送路から遠ざかる方向に、第二面73c(又は73d)の下流端から延伸する凸曲面状の第四面75c(又は平面状の第四面75d)を有している。
【0108】
この構成により、定着ニップよりシート搬送方向下流側において、定着済のトナー粒子を担持する記録シートと、定着ベルトとの間の距離を広げることができる。この結果、定着ニップの下流端の近傍において、記録シート上のトナーが過溶融となることを防いで、画質の劣化(トナー表面の平滑化の悪化)を抑制できる。
【0109】
また、上記の変形例(2-1)に示すように、第四面75cを加圧ローラー51に向かって突出する凸曲面状とすることにより、定着ベルトと定着パッドとの間の摺動によるそれぞれの面の磨耗を低減でき、結果、加圧ローラー51のトルクの上昇を抑制し、さらに、定着ベルトの回転駆動を安定させることができる。
【0110】
(3)上記の実施の形態において、定着装置50は、定着パッド56と加熱ローラー53との間に、無端状の定着ベルト52が巻回され、加圧ローラー51が、定着ベルト52を介して、定着パッド56を押圧するように、構成されている。また、加熱ローラー53は、筒状の芯金の内部に、熱源としての定着ヒーター54を内蔵する。
【0111】
しかし、この形態には、限定されない。
【0112】
(a)定着装置は、
図2に示す加熱ローラー53及び定着ヒーター54を備えず、支持部材55を加熱するヒーターを備えるとしてもよい。ヒーターにより発生する熱は、支持部材55及び定着パッド56を介して、定着ニップに伝達される。
【0113】
(b)定着装置は、
図2に示す加熱ローラー53及び定着ヒーター54を備えず、定着パッド56を加熱するヒーターを備える、としてもよい。ヒーターにより発生する熱は、定着パッド56を介して、定着ニップに伝達される。
【0114】
(c)定着装置は、
図2に示す加熱ローラー53及び定着ヒーター54を備えず、定着ベルトは、電磁誘導加熱方式により、自身が発熱してもよい。定着ベルト52により発生する熱は、定着ニップに伝達される。
【0115】
(4)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本開示に係る定着装置は、画質の劣化を防止できるという効果を奏し、電子写真方式の画像形成装置において、シート上に担持されたトナー像を定着させる技術として有用である。
【符号の説明】
【0117】
5 画像形成装置
11 イメージリーダー
12 プリンター
13 給紙部
20Y~20K 作像部
21 中間転写ベルト
22 二次転写ローラー
50 定着装置
51 加圧ローラー
52 定着ベルト
53 加熱ローラー
54 定着ヒーター
55 支持部材
56、56a~56d 定着パッド
57 定着ニップ
69 駆動モーター
100 制御回路