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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】モータ駆動システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 27/06 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
H02P27/06 ZHV
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020071276
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021168567
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上川 諒
(72)【発明者】
【氏名】山川 隼史
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 亮次
(72)【発明者】
【氏名】花田 秀人
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-093270(JP,A)
【文献】特開2015-046956(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータジェネレータを駆動するためのインバータを備えたモータ駆動システムであって、
前記モータジェネレータに流れる電流を検出する電流センサと、
前記モータジェネレータの回転角を検出する回転角センサと、
前記インバータに入力されるシステム電圧を検出する電圧センサと、
前記モータジェネレータに、電圧位相指令に基づく矩形波電圧を印加する矩形波電圧制御において、電流振幅指令と電流振幅との偏差を用いて前記電圧位相指令を調整するフィードバック制御を実行する制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記回転角を用いて、前記モータジェネレータの回転速度を算出し、
前記モータジェネレータのトルク指令値、前記システム電圧および前記回転速度を用いて前記電流振幅指令を算出し、
前記回転角センサおよび前記電流センサの出力に基づき算出される電流ベクトルの大きさを前記電流振幅として算出し、
前記トルク指令値の大きさが所定値よりも小さい所定領域にある場合、前記電圧位相指令の調整に用いられる前記電流振幅指令および前記電流振幅を補正し、
前記制御装置は、前記電流振幅指令および前記電流振幅の補正を行う場合、前記補正を行わない場合よりも、前記トルク指令値が所定量変化したときの前記電流振幅指令および前記電流振幅の変化量が大きくなるように、前記電流振幅指令および前記電流振幅を補正する、モータ駆動システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記トルク指令値の大きさが前記所定領域にある場合、値の大きさが1よりも小さく、かつ、前記トルク指令値の大きさが小さくなるに従って値の大きさが小さくなる補正係数を、算出された前記電流振幅指令及び前記電流振幅に乗算することにより、前記電圧位相指令の調整に用いられる前記電流振幅指令及び前記電流振幅を補正する、請求項1に記載のモータ駆動システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、モータ駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特開2007-159368号公報(特許文献1)には、制御モードとして矩形波電圧制御を有するモータ駆動システムが開示されている。このモータ駆動システムでは、矩形波電圧制御において、モータの回転角を用いて三相電流(V相電流,W相電流,U相電流)をd軸電流およびq軸電流に変換し、変換したd軸電流およびq軸電流を引数としてトルク算出マップからモータの出力トルクを推定する。そして、推定したモータの出力トルク(トルク推定値)をフィードバックして、トルク推定値とトルク指令との偏差を小さくするように、矩形波電圧の電圧位相が制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-159368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、モータの回転角を検出するための回転角センサがノイズ等の影響を受けると、回転角センサの検出角度と、モータの実際の回転角度とにズレが生じることがある。検出角度にズレが生じると、回転角を用いて変換されるd軸電流およびq軸電流も実際の値から乖離してしまい、これらの値を用いて推定されるトルクの推定精度も低下してしまう。推定精度が低いトルク推定値がフィードバックされると、結果として、出力トルクの出力精度が低下してしまう可能性がある。モータ駆動システムにおける出力トルクの出力精度を向上させるための対策が望まれている。
【0005】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、モータ駆動システムにおける出力トルクの出力精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示に係るモータ駆動システムは、モータジェネレータを駆動するためのインバータを備えたモータ駆動システムであって、モータジェネレータに流れる電流を検出する電流センサと、モータジェネレータの回転角を検出する回転角センサと、インバータに入力されるシステム電圧を検出する電圧センサと、モータジェネレータに、電圧位相指令に基づく矩形波電圧を印加する矩形波電圧制御において、電流振幅指令と電流振幅との偏差を用いて電圧位相指令を調整するフィードバック制御を実行する制御装置とを備える。制御装置は、回転角を用いて、モータジェネレータの回転速度を算出する。制御装置は、トルク指令値、システム電圧および回転速度を用いて電流振幅指令を算出する。制御装置は、回転角および電流を用いて、電流振幅を算出する。そして、制御装置は、トルク指令値、システム電圧および回転速度を用いて補正係数を算出し、補正係数を用いて、電流振幅指令および電流振幅を補正する。
【0007】
上記構成によれば、矩形波電圧制御において、電流振幅指令と電流振幅との偏差を用いて矩形波電圧の位相が調整される。電流振幅は、電流ベクトルの大きさとして計算されるため、回転角センサの検出角度にズレが生じていたとしても、その影響を受けない。電流振幅指令と電流振幅との偏差が小さくなるように矩形波電圧の位相を調整することにより、回転角センサの検出角度にズレが生じたとしても、当該ズレがモータジェネレータの出力トルクの出力精度に影響を与えることを抑制することができる。
【0008】
また、モータジェネレータの出力トルクが小さい領域(たとえば0Nm付近の値)では、トルク変化量に対する電流振幅の変化量が小さい。そのため、トルク指令値が小さい場合には、電流振幅を用いたフィードバック制御を行なうと、電流振幅の僅かな演算誤差等に起因してトルクが大きく変動してしまい、出力トルクの出力精度が低下してしまう可能性がある。上記構成によれば、電流振幅指令および電流振幅は、補正係数を用いて補正される。補正係数を用いて電流振幅指令および電流振幅を補正することにより、トルク変化量に対する電流振幅の変化量を大きくする。これにより、電流振幅の演算誤差等に起因して出力トルクが大きく変動することを抑制することができる。それゆえに、モータジェネレータの出力トルクの出力精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、モータ駆動システムにおける出力トルクの出力精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施の形態に係るモータ駆動システムの全体構成図である。
図2】本実施の形態に係るモータ駆動システムが有する、モータジェネレータの出力制御モードを説明するための図である。
図3】電流振幅とトルクとの関係を説明するための図である。
図4図3の第1象限を拡大した図である。
図5】補正係数を説明するための図(その1)である。
図6】補正係数を説明するための図(その2)である。
図7】補正係数を決定するための補正マップの一例を示す図である。
図8】矩形波電圧制御における制御装置の機能ブロック図である。
図9】矩形波電圧制御における電圧ベクトルおよび電流ベクトルの軌跡を示す図である。
図10】制御装置で実行される処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
<全体構成>
図1は、本実施の形態に係るモータ駆動システム100の全体構成図である。実施の形態1に係るモータ駆動システム100は、たとえば、ハイブリッド自動車、電気自動車または燃料電池自動車(以下、総称して「車両」とも称する)等に適用することができる。図1を参照して、モータ駆動システム100は、モータジェネレータ10と、電力制御装置(PCU:Power Control Unit)20と、バッテリ30と、システムメインリレーSR1,SR2と、制御装置40とを備える。
【0013】
モータジェネレータ10は、たとえば、車両の駆動輪を駆動するためのトルクを発生する駆動用電動機である。モータジェネレータ10は、交流回転電機であり、たとえば、永久磁石が埋設されたロータを備える永久磁石型同期電動機として構成される。また、モータジェネレータ10は、発電機の機能をさらに備えてもよく、電動機および発電機の機能を併せ持つように構成されてもよい。
【0014】
バッテリ30は、ニッケル水素電池あるいはリチウムイオン電池等の二次電池によって構成される。二次電池は、正極と負極との間に液体電解質を有する二次電池であってもよいし、固体電解質を有する二次電池(全固体電池)であってもよい。また、バッテリ30は、電気二重層キャパシタ等によって構成されてもよい。
【0015】
バッテリ30には監視ユニット35が設けられている。監視ユニット35は、バッテリ30の電圧(バッテリ電圧)VB、バッテリ30の入出力電流(バッテリ電流)IB、およびバッテリ30の温度(バッテリ温度)TBを検出し、それらの検出結果を示す信号を制御装置40に出力する。
【0016】
システムメインリレーSR1は、バッテリ30の正極端子および電力線PL1の間に接続される。システムメインリレーSR2は、バッテリ30の負極端子および電力線NLの間に接続される。システムメインリレーSR1,SR2は、制御装置40からの制御信号により開閉状態が切り替わる。
【0017】
PCU20は、バッテリ30から供給される直流電力を昇圧するとともに交流電力に変換してモータジェネレータ10に供給する。また、PCU20は、モータジェネレータ10により発電された交流電力を直流電力に変換してバッテリ30に供給する。すなわち、バッテリ30は、PCU20を経由してモータジェネレータ10との間で電力を授受することができる。
【0018】
PCU20は、コンデンサC1と、昇降圧コンバータ21と、コンデンサC2と、インバータ22と、電圧センサ23とを含む。
【0019】
コンデンサC1は、電力線PL1および電力線NLの間に接続される。コンデンサC1は、バッテリ電圧VBを平滑化して昇降圧コンバータ21に供給する。
【0020】
昇降圧コンバータ21は、制御装置40からの制御信号S1,S2に従って、バッテリ電圧VBを昇圧し、昇圧した電圧を電力線PL2,NLに供給する。また、昇降圧コンバータ21は、制御装置40からの制御信号S1,S2に従って、インバータ22から供給された電力線PL2,NLの間の直流電圧を降圧してバッテリ30を充電する。
【0021】
具体的には、昇降圧コンバータ21は、リアクトルL1と、スイッチング素子Q1,Q2と、ダイオードD1,D2とを含む。リアクトルL1は、スイッチング素子Q1,Q2の接続ノードと電力線PL1との間に接続される。スイッチング素子Q1,Q2および後述するスイッチング素子Q3~Q8の各々は、たとえば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOS(Metal Oxide Semiconductor)トランジスタあるいは、バイポーラトランジスタ等を用いることができる。ダイオードD1,D2は、スイッチング素子Q1,Q2のコレクタ-エミッタ間に逆並列にそれぞれ接続される。
【0022】
コンデンサC2は、電力線PL2と電力線NLとの間に接続されている。コンデンサC2は、昇降圧コンバータ21から供給された直流電圧を平滑化してインバータ22に供給する。電圧センサ23は、コンデンサC2の両端の電圧、すなわち昇降圧コンバータ21とインバータ22とを結ぶ電力線PL2,NL間の電圧(以下「システム電圧」とも称する)VHを検出し、その検出結果を示す信号を制御装置40に出力する。
【0023】
インバータ22は、U相アーム221と、V相アーム222と、W相アーム223とを含む。各相アームは、電力線PL2と電力線NLとの間に互いに並列に接続されている。U相アームは、互いに直列に接続されたスイッチング素子Q3,Q4を有する。V相アーム222は、互いに直列に接続されたスイッチング素子Q5,Q6を有する。W相アーム223は、互いに直列に接続されたスイッチング素子Q7,Q8を有する。各スイッチング素子Q3~Q8のコレクタ-エミッタ間には、ダイオードD3~D8が逆並列にそれぞれ接続されている。
【0024】
各相アームの中間点は、モータジェネレータ10の各相コイルの各相端に接続されている。スイッチング素子Q3,Q4の中間点は、モータジェネレータ10のU相コイルの一方端に接続されている。スイッチング素子Q5,Q6の中間点は、モータジェネレータ10のV相コイルの一方端に接続されている。スイッチング素子Q7,Q8の中間点は、モータジェネレータ10のW相コイルの一方端に接続されている。モータジェネレータ10のU相、V相およびW相の3つのコイルの他方端は、中性点に共通接続されている。
【0025】
インバータ22は、システム電圧VHが供給されると、制御装置40からの制御信号S3~S8に従って、直流電圧を交流電圧に変換してモータジェネレータ10を駆動する。これにより、モータジェネレータ10は、トルク指令値Trqcomに従ったトルクを発生するように、インバータ22により制御される。
【0026】
モータジェネレータ10のトルク指令値が正(Trqcom>0)の場合、インバータ22は、制御装置40からの制御信号S3~S8に従ったスイッチング素子Q3~Q8のスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換して正のトルクを出力するようにモータジェネレータ10を駆動する。これにより、モータジェネレータ10は、正のトルクを発生するように駆動される。
【0027】
モータジェネレータ10のトルク指令値が零(Trqcom=0)の場合、インバータ22は、制御装置40からの制御信号S3~S8に従ったスイッチング素子Q3~Q8のスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換してトルクが零になるようにモータジェネレータ10を駆動する。これにより、モータジェネレータ10は、零のトルクを発生するように駆動される。
【0028】
モータジェネレータ10のトルク指令値が負(Trqcom<0)の場合、インバータ22は、制御装置40からの制御信号S3~S8に従ったスイッチング素子Q3~Q8のスイッチング動作により、直流電圧を交流電圧に変換して負のトルクを出力するようにモータジェネレータ10を駆動する。これにより、モータジェネレータ10は、負のトルクを発生するように駆動される。
【0029】
電流センサ60は、モータジェネレータ10に流れる三相電流(モータ電流)iu,iv,iwを検出し、その検出結果を示す信号を制御装置40に出力する。
【0030】
回転角センサ(レゾルバ)65は、モータジェネレータ10の回転角θを検出し、その検出結果を示す信号を制御装置40に出力する。制御装置40は、回転角センサ65によって検出された回転角θの変化速度から、モータジェネレータ10の回転数(回転速度)Nmを検出することができる。
【0031】
制御装置40は、外部に設けられた電子制御ユニット(上位ECU:図示せず)から入力されたトルク指令値Trqcom、監視ユニット35によって検出されたバッテリ電圧VB、電圧センサ23によって検出されたシステム電圧VH、電流センサ60からのモータ電流iu,iv,iwおよび回転角センサ65からの回転角θに基づいて、後述する方法によりモータジェネレータ10がトルク指令値Trqcomに従ったトルクを出力するように、昇降圧コンバータ21およびインバータ22の動作を制御する。すなわち、制御装置40は、昇降圧コンバータ21およびインバータ22を制御するための制御信号S1~S8を生成して、昇降圧コンバータ21およびインバータ22へ出力する。
【0032】
昇降圧コンバータ21の昇圧動作時には、制御装置40は、コンデンサC2の出力電圧VHをフィードバック制御し、出力電圧VHが電圧指令値となるように制御信号S1,S2を生成する。
【0033】
また、制御装置40は、車両が回生制動モードに入ったことを示す信号RGEを外部ECUから受けると、モータジェネレータ10で発電された交流電圧を直流電圧に変換するように制御信号S3~S8を生成してインバータ22へ出力する。これにより、インバータ22は、モータジェネレータ10で発電された交流電圧を直流電圧に変換して昇降圧コンバータ21へ供給する。制御装置40は、インバータ22から供給された直流電圧を降圧するように制御信号S1,S2を生成し、昇降圧コンバータ21へ出力する。これにより、モータジェネレータ10が発電した交流電圧は、直流電圧に変換され、降圧されてバッテリ30に供給される。
【0034】
さらに、制御装置40は、システムメインリレーSR1,SR2の開閉状態を切り替えるための制御信号を生成してシステムメインリレーSR1,SR2へ出力する。
【0035】
<モータジェネレータ10の出力制御>
図2は、本実施の形態に係るモータ駆動システム100が有する、モータジェネレータ10の出力制御モードを説明するための図である。本実施の形態に係るモータ駆動システム100では、モータジェネレータ10の出力制御モードとして、3つの制御モードを有する。具体的には、図2に示すように、モータ駆動システム100は、正弦波PWM(Pulse Width Modulation)制御、過変調PWM制御および矩形波電圧制御の3つの制御モードを有する。
【0036】
正弦波PWM制御は、一般的なPWM制御方式として用いられるものであり、各相アームにおけるスイッチング素子のオン・オフを、正弦波状の電圧指令値と搬送波(代表的には三角波)との電圧比較に従って制御する。この結果、上アーム素子のオン期間に対応するハイレベル期間と、下アーム素子のオン期間に対応するローレベル期間との集合について、一定期間内でその基本波成分が正弦波となるようにデューティ比が制御される。周知のように、正弦波PWM制御では、この基本波成分振幅をインバータ入力電圧の0.61倍までしか高めることができない。
【0037】
一方、矩形波電圧制御では、上記一定期間内で、PWMデューティを最大値に維持した場合に相当する、ハイレベル期間およびローレベル期間の比が1:1の矩形波1パルス分を交流モータ印加する。これにより、変調率は0.78まで高められる。
【0038】
過変調PWM制御は、搬送波の振幅を縮小するように基本波成分を歪ませた上で上記正弦波PWM制御と同様のPWM制御を行なうものである。基本波成分を歪ませることによって、変調率を0.61~0.78の範囲まで高めることができる。
【0039】
モータジェネレータ10においては、回転数および/または出力トルクが増加すると誘起電圧が高くなり、その必要電圧が高くなる。昇降圧コンバータ21による昇圧電圧すなわち、システム電圧VHは、このモータ必要電圧(誘起電圧)よりも高く設定する必要がある。その一方で、昇降圧コンバータ21による昇圧電圧すなわち、システム電圧には限界値(VH最大電圧)が存在する。
【0040】
したがって、モータ必要電圧(誘起電圧)がシステム電圧の最大値(VH最大電圧)より低い領域では、正弦波PWM制御または過変調PWM制御によるPWM制御方式が適用されて、ベクトル制御に従ったモータ電流制御によって出力トルクがトルク指令値Trqcomに制御される。
【0041】
その一方で、モータ必要電圧(誘起電圧)がシステム電圧の最大値(VH最大電圧)に達すると、システム電圧VHを維持した上で弱め界磁制御の一種としての矩形波電圧制御方式が適用される。
【0042】
<矩形波電圧制御>
ここで、矩形波電圧制御においては、モータジェネレータの出力トルク(トルク推定値)をフィードバックして、トルク指令値Trqcomとトルク推定値との偏差が小さくなるように、矩形波電圧の電圧位相を制御することがある。トルク推定値は、たとえば、特開2007-159368号公報に開示された手法により、モータジェネレータ10の回転角を用いて三相電流iu,iv,iwをd軸電流およびq軸電流に変換し、変換したd軸電流およびq軸電流を用いて推定されることがある。ここで、回転角センサ65がノイズ等の影響を受けると、回転角センサ65の検出角度と、モータジェネレータ10の実際の回転角度とにズレが生じることがある。一例を例示すると、回転角センサ(レゾルバ)65では、ノイズ等の影響により、レゾルバ信号を角度に変換するRDコンバータに応答遅れが生じる可能性がある。RDコンバータに応答遅れが生じると、回転数の増加時には実際の角度に対して位相が遅れ、回転数の減少時には実際の角度に対して位相が進んでしまう。
【0043】
上記のようにズレが生じた回転角を用いると、トルク推定値の推定精度が低下してしまう可能性がある。推定精度が低いトルク推定値がフィードバックされることにより、トルク指令値と実際の出力トルクとに、かえって乖離が生じてしまう可能性がある。
【0044】
ここで、本発明者らは、矩形波電圧制御において、モータジェネレータ10の回転数(以下「モータ回転数」とも称する)Nmおよびシステム電圧VHが同一の状況下では、最大トルクまで電流振幅とトルクとに相関関係が存在することに着目した。電流振幅は、電流ベクトルの大きさとして計算されるため、回転角センサ65の検出角度にズレが生じていたとしても、その影響を受けない。ゆえに、トルク推定値に代えて、電流振幅をフィードバックして矩形波電圧の電圧位相を制御することにより、仮に回転角センサ65の検出角度にズレが生じたとしても、当該ズレがモータジェネレータ10の出力トルクの出力精度に影響を与えることを抑制することができる。しかしながら、トルクが小さい領域(0Nm付近、以下「所定領域」とも称する)では、トルク変化量に対する電流振幅の変化量が小さい。そのため、トルク指令値Trqcomが所定領域にあるような場合には、電流振幅を用いてトルク制御しようとすると、電流振幅の僅かな演算誤差等に起因して出力トルクが大きく変動してしまい、トルク指令値に対する出力トルクの出力精度が低下してしまう可能性がある。
【0045】
そこで、本実施の形態においては、算出した電流振幅に補正係数を乗算することにより、所定領域におけるトルク変化量に対する電流振幅の変化量を補正する。これにより、トルク変化量に対する電流振幅の変化量を大きくし、電流振幅の演算誤差等に起因して出力トルクが大きく変動してしまうことを抑制する。以下、順に具体的に説明する。
【0046】
図3は、電流振幅とトルクとの関係を説明するための図である。図4は、図3の第1象限を拡大した図である。図3および図4の横軸にはトルクが示され、縦軸には電流振幅が示されている。なお、図3図4および後述の図5においては、モータジェネレータ10が正回転していることを前提として説明する。
【0047】
モータジェネレータ10には、以下の式(1)の関係が成立することが知られている。
√3×I×V×COSθ=2π×N×T/60・・・(1)
Iは相電流、Vは線間電圧、COSθは力率、Nはモータ回転数、Tは出力トルクである。
【0048】
電流振幅を|I|、電圧振幅を|V|とすると、上記式(1)を用いて、電流振幅とトルクとの関係を示す以下の式(2)を得ることができる。
【0049】
|I|=2π×N×T/(60×|V|×√3×COSθ)・・・(2)
上記式(2)を図示すると、図3の実線G1で表わすことができる。なお、実線G1において、トルクが0Nmである場合に電流振幅が0Aとならないのは、弱め界磁制御によるものである。
【0050】
図3を参照して、実線G1で表わされるように、電流振幅とトルクとには、トルクの絶対値が大きくなるほど、電流振幅も大きくなるという関係がある。モータ回転数Nmおよびシステム電圧VHが同一の状況下では、上記関係を用いれば、トルク推定値に代えて電流振幅を算出することにより、上述の式(2)に従って、モータジェネレータ10の出力トルクを制御することができる。ただし、電流振幅は、電流ベクトルの大きさとして算出されるため、正の値をとる。モータジェネレータ10の出力トルクは、正のトルクである場合もあれば、負のトルクである場合もある。そこで、本実施の形態においては、電流振幅に適切な制御上の符号を設定する。具体的には、モータ駆動システム100が力行状態である場合には正の符号を設定し、回生状態である場合には負の符号を設定する。
【0051】
モータ駆動システム100が力行状態であるか回生状態であるかは、モータジェネレータ10の回転方向(モータ回転数Nmの符号)およびトルク指令値Trqcomの符号に基づいて判定される。具体的には、制御装置40は、「モータジェネレータ10の回転方向が正方向であり、かつ、トルク指令値Trqcomが正の符号(モータジェネレータ10を正回転させるためのトルク指令値)である場合」にモータ駆動システム100が力行状態であると判定する。また、制御装置40は、「モータジェネレータ10の回転方向が負方向であり、かつ、トルク指令値Trqcomが負の符号(モータジェネレータ10を負回転させるためのトルク指令値)である場合」にモータ駆動システム100が力行状態であると判定する。制御装置40は、「モータジェネレータ10の回転方向が正方向であり、かつ、トルク指令値Trqcomが負の符号である場合」にモータ駆動システム100が回生状態であると判定する。また、制御装置40は、「モータジェネレータ10の回転方向が負方向であり、かつ、トルク指令値Trqcomが正の符号である場合」にモータ駆動システム100が回生状態であると判定する。
【0052】
制御上の符号を設定することにより、トルクに代えて電流振幅を用いたフィードバック制御が可能となる。制御上の符号を設定した電流振幅をフードバック制御することにより、回転角センサ65の検出角度のズレの影響を受けずにモータジェネレータ10の出力トルクを制御することができる。
【0053】
しかしながら、図3から認識し得るように、トルクが小さい所定領域(0Nm付近、たとえば-T1からT2の範囲)では、トルク変化量に対する電流振幅の変化量が小さくなっている。すなわち、所定領域における実線G1の接線の傾きは、所定領域外における実線G1の接線の傾きよりも小さくなっている。上述のとおり、トルク変化量に対する電流振幅の変化量が小さいと、電流振幅の僅かな演算誤差等に起因して出力トルクが大きく変動してしまい、トルク指令値に対する出力トルクの出力精度が低下してしまう可能性がある。図4を用いて一例を説明する。
【0054】
図4を参照して、トルクがT2より大きい領域において変化量ΔTのトルク変化があった場合(Ta1からTa2への変化、T2<Ta1<Ta2)、電流振幅の変化量はΔA1である。この場合には、トルク変化量ΔTに対する電流振幅の変化量ΔA1が十分大きい。それゆえに、電流振幅を算出し、算出した電流振幅をフィードバックして矩形波電圧の電圧位相を制御することにより、トルク指令値Trqcomに従ったトルクを精度よく出力することができる。
【0055】
一方、第1象限において、トルクがT2以下の領域(所定領域)において変化量ΔTのトルク変化があった場合(Tb1からTb2への変化、0<Tb1<Tb2<T2)、電流振幅の変化量はΔA2である。この場合には、トルク変化量ΔTに対する電流振幅の変化量ΔA2が小さい。それゆえに、電流振幅を用いてトルク制御しようとした場合、電流振幅の僅かな演算誤差等に起因して出力トルクが大きく変動してしまい、トルク指令値Trqcomに対する出力トルクの出力精度が低下してしまう可能性がある。
【0056】
そこで、本実施の形態においては、算出した電流振幅に補正係数を乗算することにより、所定領域におけるトルク変化量に対する電流振幅の変化量が大きくなるように補正する。
【0057】
図5は、補正係数を説明するための図である。図5には、モータジェネレータ10が正回転している場合に適用される補正係数が示されている。図5の横軸にはトルクが示され、縦軸には補正係数が示されている。
【0058】
トルクが-T1以下の場合には、-1の補正係数が適用される。すなわち、トルクが所定領域になく、かつ、モータ駆動システム100が回生状態である場合には、電流振幅に-1の補正係数を乗算することにより、電流振幅に負の符号が設定される。
【0059】
トルクが-T1より大きく、かつ、T2より小さい場合、すなわちトルクが所定領域にある場合には、-1より大きく1より小さい補正係数を電流振幅に乗算する。より具体的には、トルクが-T1より大きく、かつ、0より小さい場合には、電流振幅に-1より大きく0より小さい負の補正係数を乗算する。これにより、トルクが所定領域にあり、かつ、モータ駆動システム100が回生状態である場合には、電流振幅に負の符号が設定されるとともに、電流振幅が補正される。トルクが0より大きく、かつ、T2より小さい場合には、電流振幅に0より大きく1より小さい正の補正係数を乗算する。これにより、トルクが所定領域にあり、かつ、モータ駆動システム100が力行状態である場合には、電流振幅に正の符号が設定されるとともに、電流振幅が補正される。
【0060】
トルクがT2以上の場合には、1の補正係数が適用される。すなわち、トルクが所定領域になく、かつ、モータ駆動システム100が力行状態である場合には、電流振幅に1の補正係数を乗算することにより、電流振幅に正の符号が設定される。
【0061】
以上を纏めると、モータ駆動システム100が以下の(1),(2)の処理を実行可能に構成されることにより、電流振幅のフィードバック制御によって出力トルクの出力精度を向上させることができる。
【0062】
(1)モータ駆動システム100が力行状態であるか回生状態であるかによって、電流振幅に制御上の符号を設定する。モータ駆動システム100が力行状態である場合には正の符号を設定し、回生状態である場合には負の符号を設定する。(2)出力トルクが所定領域にある場合の、トルク変化量に対する電流振幅の変化量が大きくなるように、電流振幅を補正する。
【0063】
上記(1),(2)の処理は、算出した電流振幅に図5で説明した補正係数を乗算する演算処理により実現することができる。
【0064】
電流振幅に補正係数を乗算することにより、図3に示すように、トルクに応じて電流振幅を実線G1,G2および破線G3で表わすことができる。具体的には、トルクが-T1以下の領域において電流振幅は実線G2で表わされ、トルクが-T1より大きく、かつ、T2より小さい領域(所定領域)において電流振幅は破線G3で表わされ、トルクがT2以上の領域において電流振幅は実線G1で表わされる。
【0065】
上記により、モータジェネレータ10が正回転しており、かつ、モータ駆動システム100が回生状態である場合には、電流振幅に制御上の負の符号を設定することができるので、電流振幅からモータジェネレータ10が負のトルクを出力していることを示すことが可能となる。また、モータジェネレータ10が正回転しており、かつ、モータ駆動システム100が力行状態である場合には、電流振幅に制御上の正の符号を設定することができるので、電流振幅からモータジェネレータ10が正のトルクを出力していることを示すことが可能となる。
【0066】
そして、所定領域においては、実線G3で電流振幅を表わすことができる。再び図4を参照して、第1象限において、トルクがT2以下の領域(所定領域)において変化量ΔTのトルク変化があった場合(Tb1からTb2への変化、0<Tb1<Tb2<T2)を考えると、このときの電流振幅の変化量はΔA3である。図4から認識し得るように、電流振幅の変化量ΔA3は、補正前の電流振幅の変化量ΔA2よりも大きい。つまり、補正係数を乗算して電流振幅を補正することにより、トルク変化量に対する電流振幅の変化量を大きくすることができる。それゆえに、トルクが所定領域にある場合においても、電流振幅を算出し、算出した電流振幅をフィードバックして矩形波電圧の電圧位相を制御することにより、トルク指令値Trqcomに従ったトルクを精度よく出力することができる。
【0067】
なお、上記では、モータジェネレータ10が正回転している場合について説明したが、モータジェネレータ10が負回転している場合についても同様の考え方を適用することができる。説明は繰り返さないが、モータジェネレータ10が負回転している場合には、図6に示す補正係数を用いることができる。
【0068】
<補正マップ>
図7は、補正係数を決定するための補正マップの一例を示す図である。補正マップは、トルク指令値Trqcom、システム電圧VH、およびモータ回転数Nmを引数として、補正係数を決定するための3次元マップである。補正マップは、実験結果、シミュレーション結果またはモータ駆動システム100の仕様等に基づいて予め定められ、制御装置40の図示しないメモリに記憶される。
【0069】
図8は、矩形波電圧制御における制御装置40の機能ブロック図である。図8を参照して、制御装置40は、回転数演算部401と、電流振幅指令生成部402と、補正部403と、電流振幅演算部404と、補正部405と、減算器406と、フィードバック(FB)項演算部407と、フィードフォワード(FF)項演算部408と、加算器409と、矩形波発生部410と、信号発生部411とを含む。
【0070】
回転数演算部401は、回転角センサ65からの出力に基づいて、モータジェネレータ10の回転数(モータ回転数)Nmを算出する。回転数演算部401が算出したモータ回転数Nmは、電流振幅指令生成部402および補正部405に入力される。
【0071】
電流振幅指令生成部402は、予め定められた第1マップを用いて電流振幅指令を生成し、生成した電流振幅指令を補正部403に出力する。第1マップは、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomから電流振幅指令を算出するための3次元マップである。電流振幅指令生成部402には、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomが入力される。電流振幅指令生成部402は、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomを引数として、第1マップを用いて、電流振幅指令を生成する。なお、第1マップは、実験結果、シミュレーション結果またはモータ駆動システム100の仕様等に基づいて予め定めておくことができる。
【0072】
補正部403は、電流振幅指令生成部402から受けた電流振幅指令に補正係数を乗算して、電流振幅指令を補正する。なお、以下においては、補正された電流振幅指令を「補正電流振幅指令」とも称する。補正部403は、補正電流振幅指令を減算器406に出力する。具体的には、補正部403には、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomが入力される。なお、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomについては、電流振幅指令生成部402から受けてもよいし、電圧センサ23、回転数演算部401および上位ECUからそれぞれ受けてもよい。補正部403は、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomを引数として、補正マップを用いて、補正係数を決定する。補正部403は、電流振幅指令生成部402から受けた電流振幅指令に補正係数を乗算して、補正電流振幅指令を算出する。
【0073】
電流振幅演算部404は、電流センサ60および回転角センサ65の出力に基づいて電流振幅を算出する。そして、電流振幅演算部404は、算出した電流振幅を補正部405に出力する。具体的には、電流振幅演算部404は、回転角センサ65によって検出されたモータジェネレータ10の回転角θを用いた座標変換(3相から2相)により、電流センサ60によって検出されたU相電流iu、V相電流ivおよびW相電流iwを基に、d軸電流Idおよびq軸電流Iqを算出する。電流振幅演算部404は、算出したd軸電流Idおよびq軸電流Iqに基づいて、電流振幅を算出する。電流振幅演算部404は、電流ベクトルの大きさ、すなわち、√{(Id)+(Iq)}を電流振幅として算出する。より具体的に図9を用いて説明する。
【0074】
図9は、矩形波電圧制御における電圧ベクトルおよび電流ベクトルの軌跡を示す図である。矩形波電圧制御においては、電圧ベクトルおよび電流ベクトルの軌跡は、図9に示す軌跡をたどる。
【0075】
電流ベクトルの軌跡は、以下のようにして求めることができる。
dq軸平面での電圧方程式は、以下の式(3)で与えられることが知られている。
【0076】
【数1】
【0077】
Vdはd軸電圧であり、Vqはq軸電圧であり、R,Ld,Lqは、モータジェネレータ10の回路定数パラメータである。具体的には、Rは1相の抵抗値、Ldはd軸インダクタンス、Lqはq軸インダクタンス、Φはロータの永久磁石による磁束である。また、ωはモータジェネレータ10の回転角速度である。
【0078】
ここで、dq軸の電流が一定とみなせる定常状態においては、過渡項である、「Ld(dId/dt)」および「Lq(dIq/dt)」の項はゼロとみなすことができる。また、「RId」および「RIq」の項は、「-ωLqIq」および「ωLdId」の項に対して値が微少である。これらを考慮すると、上記式(3)は、以下の式(4)のように近似することができる。
【0079】
【数2】
【0080】
また、矩形波電圧制御中のVdおよびVqは、以下の式(5)のように表わすことができる。
【0081】
【数3】
【0082】
Vrは変調率であり、θvはq軸基準の電圧位相である。
上記式(5)を上記式(4)に代入して、電圧振幅の2乗(Vd+Vq)を計算して整理すると、以下の式(6)を得ることができる。
【0083】
【数4】
【0084】
式(6)により、図9に示す電流ベクトルの軌跡を求めることができる。矩形波電圧制御においては、電流ベクトルの軌跡は図9に示す軌跡をたどるので、仮に回転角センサ65の検出角度にズレが生じたとしても、電流ベクトルの大きさには影響しない。
【0085】
再び図8を参照して、補正部405は、電流振幅演算部404から受けた電流振幅に補正係数を乗算して、電流振幅を補正する。なお、以下においては、補正された電流振幅を「補正電流振幅」とも称する。補正部405は、補正電流振幅を減算器406に出力する。具体的には、補正部405には、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomが入力される。補正部405は、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomを引数として、上述の補正マップを用いて、補正係数を決定する。補正部405は、電流振幅演算部404から受けた電流振幅に、決定した補正係数を乗算して、補正電流振幅を算出する。なお、補正部405は、上述の補正部403から補正係数を受け、当該補正係数を用いて電流振幅を補正してもよい。
【0086】
減算器406は、補正電流振幅指令から補正電流振幅を減算して、指令値に対する実値の偏差(以下「電流振幅偏差」とも称する)を算出する。減算器406は、電流振幅偏差をFB項演算部407に出力する。
【0087】
FB項演算部407は、減算器406から電流振幅偏差を受ける。FB項演算部407は、電流振幅偏差について所定ゲインによるPI(比例積分)演算を行なって制御偏差を求め、この制御偏差に応じた電圧位相偏差Δθvを生成する。FB項演算部407は、生成した電圧位相偏差Δθvを加算器409に出力する。
【0088】
FF項演算部408は、トルク指令値Trqcomと予め定められた第2マップとを用いて電圧位相指令θv1を生成し、生成した電圧位相指令θv1を加算器409に出力する。第2マップは、トルク指令値Trqcomと電圧位相指令θv1との関係を定めたマップである。FF項演算部408には、トルク指令値Trqcomが入力される。FF項演算部408は、トルク指令値Trqcomを引数として、第2マップを用いて、電圧位相指令θv1を生成する。なお、第2マップは、実験結果、シミュレーション結果またはモータ駆動システム100の仕様等に基づいて予め定めておくことができる。
【0089】
加算器409は、FF項演算部408から入力される電圧位相指令θv1に、FB項演算部407から入力される電圧位相偏差Δθvを加算して電圧位相指令θv(=θv1+Δθv)を生成する。加算器409は、生成した電圧位相指令θvを矩形波発生部410に出力する。
【0090】
矩形波発生部410は、加算器409から受けた電圧位相指令θvに従って、各相電圧指令値(矩形波パルス)Vu,Vv,Vwを発生する。
【0091】
信号発生部411は、各相電圧指令値Vu,Vv,Vwに従ってスイッチング制御信号S3からS8を発生する。インバータ22がスイッチング制御信号S3からS8に従ったスイッチング動作を行なうことにより、電圧位相指令θvに従った矩形波パルスが、モータの各相電圧として印加される。
【0092】
<制御装置において実行される処理>
図10は、制御装置40で実行される処理の手順を示すフローチャートである。図10に示すフローチャートは、所定の制御周期毎に制御装置40によって繰り返し実行される。なお、図10に示すフローチャートの各ステップ(以下ステップを「S」と略す)は、制御装置40によるソフトウェア処理によって実現される場合について説明するが、その一部あるいは全部が制御装置40内に作製されたハードウェア(電気回路)によって実現されてもよい。
【0093】
制御装置40は、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomを引数として、第1マップを用いて、電流振幅指令を算出する(S1)。
【0094】
また、制御装置40は、システム電圧VH、モータ回転数Nmおよびトルク指令値Trqcomを引数として、補正マップを用いて、補正係数を決定する(S3)。
【0095】
制御装置40は、S1で算出した電流振幅指令を補正する(S5)。具体的には、制御装置40は、S1で算出した電流振幅指令に、S3で決定した補正係数を乗算し、補正電流振幅指令を算出する。
【0096】
さらに、制御装置40は、電流センサ60および回転角センサ65の検出値に基づいて、実際の電流振幅を算出する(S7)。
【0097】
制御装置40は、S7で算出した電流振幅を補正する(S9)。具体的には、制御装置40は、S7で算出した電流振幅に、S3で決定した補正係数を乗算し、補正電流振幅を算出する。
【0098】
制御装置40は、S5で算出した補正電流振幅指令からS9で算出した補正電流振幅を減算し、電流振幅偏差を算出する(S11)。
【0099】
制御装置40は、算出した電流振幅偏差について所定ゲインによるPI演算を行なって制御偏差を求め、この制御偏差に応じた電圧位相偏差Δθvを算出する(S13)。
【0100】
制御装置40は、トルク指令値Trqcomを引数として、第2マップを用いて、電圧位相指令θv1を算出する(S15)。
【0101】
制御装置40は、S15で算出した電圧位相指令θv1に、S13で算出した電圧位相偏差Δθvを加算して、電圧位相指令θvを算出する(S17)。そして、制御装置40は、電圧位相指令θvに基づいて、インバータ22を制御する(S19)。
【0102】
以上のように本実施の形態に係るモータ駆動システム100においては、矩形波電圧制御において、電流振幅指令と電流振幅との偏差を用いて矩形波電圧の位相が調整される。電流振幅は、電流ベクトルの大きさとして計算されるため、回転角センサの検出角度にズレが生じていたとしても、その影響を受けない。電流振幅指令と電流振幅との偏差(電流振幅偏差)が小さくなるように矩形波電圧の位相を調整することにより、回転角センサ65の検出角度にズレが生じたとしても、当該ズレがモータジェネレータ10の出力トルクの出力精度に影響を与えることを抑制することができる。
【0103】
また、電流振幅偏差の算出にあたり、電流振幅指令および電流振幅は、補正係数を用いて補正される。モータジェネレータ10の出力トルクが小さい領域(所定領域)では、トルク変化量に対する電流振幅の変化量が小さい。そのため、トルク指令値が小さい場合には、電流振幅を用いたフィードバック制御を行なうと、電流振幅の僅かな演算誤差等でトルクが大きく変動してしまい、出力トルクの出力精度が低下してしまうことが懸念される。本実施の形態に係るモータ駆動システム100においては、補正係数を用いて電流振幅指令および電流振幅を補正することにより、トルク変化量に対する電流振幅の変化量を大きくする。これにより、電流振幅の演算誤差等に起因して出力トルクが大きく変動することを抑制することができる。それゆえに、モータジェネレータ10の出力トルクの出力精度を向上させることができる。
【0104】
(変形例)
実施の形態においては、モータ駆動システム100のPCU20が、コンデンサC1と、昇降圧コンバータ21と、コンデンサC2と、インバータ22と、電圧センサ23とを含む例について説明した。しかしながら、PCU20が昇降圧コンバータ21を備えることは必須ではない。PCU20の昇降圧コンバータ21は、省略してもよい。PCU20の昇降圧コンバータ21を省略したモータ駆動システムにおいても、実施の形態と同様の効果を奏することができる。
【0105】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0106】
10 モータジェネレータ、20 PCU、21 昇降圧コンバータ、22 インバータ、23 電圧センサ、30 バッテリ、35 監視ユニット、40 制御装置、60 電流センサ、65 回転角センサ、100 モータ駆動システム、401 回転数演算部、402 電流振幅指令生成部、403 補正部、404 電流振幅演算部、405 補正部、406 減算器、407 フィードバック(FB)項演算部、408 フィードフォワード(FF)項演算部、409 加算器、410 矩形波発生部、411 信号発生部、C1 コンデンサ、C2 コンデンサ、SR1,SR2 システムメインリレー、NL,PL1,PL2 電力線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10