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特許7552068防水シート、防水シート用樹脂組成物および防水シートの製造方法
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  • 特許-防水シート、防水シート用樹脂組成物および防水シートの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】防水シート、防水シート用樹脂組成物および防水シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   E04D 5/06 20060101AFI20240910BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20240910BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
E04D5/06 B
B32B27/28 101
B32B27/30 101
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020082402
(22)【出願日】2020-05-08
(65)【公開番号】P2021177041
(43)【公開日】2021-11-11
【審査請求日】2023-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】加藤 貴通
【審査官】菅原 奈津子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081112(JP,A)
【文献】特開2017-132997(JP,A)
【文献】特開2009-270290(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0216839(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 5/00-12/00
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル樹脂(A)と、
エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)と、
可塑剤(C)と、
を含み、
ポリ塩化ビニル樹脂(A)は、塩化ビニルのホモポリマーであり、
ポリ塩化ビニル樹脂(A)100重量部に対して、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)を10~80重量部含む、防水シート。
【請求項2】
ポリ塩化ビニル樹脂(A)に、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)が相溶している、請求項1に記載の防水シート。
【請求項3】
ポリ塩化ビニル樹脂(A)100重量部に対して、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)を3060重量部含む、請求項1または2に記載の防水シート。
【請求項4】
ポリ塩化ビニル樹脂(A)100重量部に対して、可塑剤(C)を10~100重量部含む、請求項1~3のいずれかに記載の防水シート。
【請求項5】
照射強度90mW/cm、スプレーサイクル120分中2分間、ブラックパネル温度80℃、照射時間2700時間の条件でメタルハライドランプ式耐候性試験を行った場合において、耐候性試験前の伸び率に対する耐候性試験後の伸び率の変化率が、-15%以内である、請求項1~4のいずれかに記載の防水シート。
【請求項6】
可塑剤(C)が、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、およびポリエステル系可塑剤から選択される少なくとも一種である、請求項1~5のいずれかに記載の防水シート。
【請求項7】
エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)の融点は30~80℃である、請求項1~6のいずれかに記載の防水シート。
【請求項8】
裏面層と、補強材層と、表面層とをこの順で備え、
前記裏面層および前記表面層は、ポリ塩化ビニル樹脂(A)と、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)と、可塑剤(C)と、を含む、請求項1~7のいずれかに記載の防水シート。
【請求項9】
ポリ塩化ビニル樹脂(A)と、
エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)と、
可塑剤(C)と、
を含み、
ポリ塩化ビニル樹脂(A)は、塩化ビニルのホモポリマーであり、
ポリ塩化ビニル樹脂(A)100重量部に対して、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)を10~80重量部含む、防水シート用樹脂組成物。
【請求項10】
ポリ塩化ビニル樹脂(A)100重量部に対して、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)を3060重量部含む、請求項9に記載の防水シート用樹脂組成物。
【請求項11】
エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)100重量部に対して、可塑剤(C)を10~100重量部含む、請求項9または10に記載の防水シート用樹脂組成物。
【請求項12】
請求項9~11のいずれかに記載の防水シート用樹脂組成物を温度130~210℃で溶融する工程と、
溶融された前記組成物をシート状に成形する工程と、
を含む、防水シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水シート、防水シート用樹脂組成物および防水シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建造物の屋根やベランダ等には内部に水が浸透しないように防水シートが施設されている。防水シートは屋外で使用されるため、長期間の太陽光や熱などの曝露により劣化して防水性能が低下する。そのため、長期に亘って防水性能を発揮し得る防水シートの開発が行われている。
【0003】
特許文献1には、塩化ビニル系樹脂と、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体と、熱可塑性ウレタンエラストマーとを含む熱可塑性樹脂組成物が開示されている。当該文献には、熱可塑性樹脂組成物を電線被覆材料に用いることができると記載されている。
【0004】
特許文献2~6には、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂と、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体とを含む樹脂組成物および防水シートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭59-33345号公報
【文献】特開2017-132996号公報
【文献】特開2017-132997号公報
【文献】特開2017-132998号公報
【文献】特開2017-132999号公報
【文献】特開2017-133000号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、実際にどのような構造の塩化ビニル系樹脂が用いられたのか明らかでない。
【0007】
特許文献2~6においては、アクリルグラフト塩化ビニル系樹脂と、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体とを含む防水シートが記載されているが、長期に亘る防水性能については改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下に示すことができる。
本発明によれば、
(A)ポリ塩化ビニル樹脂と、
(B)エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体と、
(C)可塑剤と、
を含み、ポリ塩化ビニル樹脂(A)は、塩化ビニルのホモポリマーである、防水シート、
が提供される。
本発明によれば、
(A)ポリ塩化ビニル樹脂と、
(B)エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体と、
(C)可塑剤と、
を含み、ポリ塩化ビニル樹脂(A)は、塩化ビニルのホモポリマーである、防水シート用樹脂組成物、が提供される。
本発明によれば、
前記防水シート用樹脂組成物を温度130~210℃で溶融押出する工程を含む、防水シートの製造方法、が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、長期に亘って防水性能を維持することができる防水シート、防水シート用樹脂組成物および防水シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の防水シートの概略断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。また、「~」は特に断りがなければ「以上」から「以下」を表す。
図1は本実施形態の防水シートの構造を示す断面図である。
【0012】
図1に示すように、本実施形態の防水シート10は、裏面層12と、補強材層14と、表面層16とをこの順で備える。裏面層12に含まれる成分と、表面層16に含まれる成分とは略同一であり、(A)ポリ塩化ビニル樹脂と、(B)エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体と、(C)可塑剤と、を含む。
まずこれらの成分について説明する。
【0013】
[ポリ塩化ビニル樹脂(A)]
本実施形態の防水シートはポリ塩化ビニル樹脂(A)を含む。
ポリ塩化ビニル樹脂(A)は、塩化ビニルのホモポリマーである。
【0014】
本実施形態においては、塩化ビニルのホモポリマーであるポリ塩化ビニル樹脂(A)とエチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)とを組み合わせて用いることにより、防水シートの体積収縮が抑制され、長期に亘って防水性能を維持することができる。
ポリ塩化ビニル樹脂(A)の平均重合度は700以上3000以下、好ましくは1000以上3000以下である。
【0015】
ポリ塩化ビニル樹脂(A)としては、ZEST 1300Z(新第一塩ビ社製)、S1003(カネカ社製)、TK-1300(信越化学工業社製)等を挙げることができる。
【0016】
[エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)]
本実施形態の防水シートはエチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)(以下、共重合体(B)ともいう)を含む。
【0017】
共重合体(B)は、本発明の効果の観点から、エチレン含量が40~80重量%、一酸化炭素含量が5~20重量%、酢酸ビニル含量が15~50重量%のものを好ましく用いることができる。
【0018】
共重合体(B)の融点は30~80℃、好ましくは40~75℃である。融点がこの範囲にあれば、屋外での使用時において軟化剤として作用し、防水シートの体積収縮を効果的に抑制し、より長期に亘って防水性能を維持することができる。
【0019】
共重合体(B)としては、エルバロイ741、742、HP441、HP661、HP662、HP4051、AS、AM(三井デュポンポリケミカル社製)等を挙げることができる。
【0020】
共重合体(B)は、ポリ塩化ビニル樹脂(A)100重量部に対して、10~80重量部、好ましくは30~60重量部含むことができる。
共重合体(B)のこの範囲で含むことにより、可塑剤(C)の添加量を減量することができるので、可塑剤の揮散等による消失の影響を軽減することができる。そのため、本実施形態の防水シートは柔軟性を保持することができ、より長期に亘って防水性能を維持することができる。
【0021】
[可塑剤(C)]
本実施形態の防水シートは可塑剤(C)を含む。
可塑剤(C)は、本発明の効果を奏する範囲において公知の可塑剤を用いることができるが、具体的には、フタル酸系可塑剤、アジピン酸系可塑剤、リン酸系可塑剤、トリメリット酸系可塑剤、およびポリエステル系可塑剤から選択される少なくとも一種である。
可塑剤(C)は、ポリ塩化ビニル樹脂(A)100重量部に対して、10~100重量部、好ましくは20~70重量部含むことができる。
【0022】
本実施形態の防水シートは、共重合体(B)を含むことから可塑剤(C)の添加量を上記の範囲まで低減することができ、可塑剤の揮散等による消失の影響(柔軟性の低下)を軽減することができる。
【0023】
[その他の成分]
本実施形態の防水シートは、上記成分以外の体の成分として、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料、加工助剤、安定剤、充填剤等を含むことができる。
【0024】
本実施形態の防水シート用樹脂組成物は、ポリ塩化ビニル樹脂(A)と、エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B)と、可塑剤(C)と、必要に応じて前記その他の成分とを、従来公知の方法で混合して得ることができる。
ポリ塩化ビニル樹脂(A)に対する共重合体(B)の添加量、および共重合体(B)に対する可塑剤(C)の添加量、さらにその効果は上記のとおりである。
【0025】
<防水シート>
本実施形態の防水シート10は、施工面側に位置する裏面層12と、補強材層14と、表面層16とをこの順で備える。裏面層12は0.1~2mm、表面層は0.05~3mm程度である。防水シートの補強材層14の層厚は、補強材層14を構成する材料や要求される強度によって適宜選択されるが、200~400μm程度である。
【0026】
裏面層12と表面層16とは、本実施形態の防水シート用樹脂組成物から形成することができ、成分の組成は同一でも異なっていてもよい。裏面層12および表面層16は、各々2層以上の積層構造で構成されていてもよい。表面層16は太陽光による劣化を抑制するために紫外線吸収剤を含むことが好ましい。裏面層12は粘着層であっても良く、裏面層12の施工面側に接着層を別途設けてもよい。
【0027】
本実施形態の防水シート用樹脂組成物から形成される裏面層12と表面層16においては、ポリ塩化ビニル樹脂(A)に共重合体(B)が相溶している。このような相溶状態であることにより、防水シートの体積収縮が効果的に抑制され、長期に亘って防水性能を維持することができる。
【0028】
補強材層14は、防水シート10の剛性や強度を効率良く向上させることができ、低収縮化により良好な形態安定性を得ることができ、亀裂や破断等の発生も抑制することができる。この補強材層14としては、ガラス繊維等の無機繊維や、ポリエステル繊維等の有機合成繊維からなる織布または不織布ものを好適に用いることができる。
【0029】
本実施形態の防水シートの体積収縮が効果的に抑制されていることから、以下の耐候性試験における、耐候性試験前の伸び率に対する耐候性試験後の伸び率の変化率が、-15%以内、好ましくは-12%以内である。
メタルハライドランプ式耐候性試験:照射強度90mW/cm、スプレーサイクル120分中2分間、ブラックパネル温度80℃、照射時間2700時間
【0030】
<防水シートの製造方法>
本実施形態の防水シートは、前記防水シート用樹脂組成物を温度130~210℃で溶融する工程と、溶融された前記組成物をシート状に成形する工程と、を含む。
【0031】
本実施形態の防水シート用樹脂組成物を上記温度範囲で加熱溶融することにより、ポリ塩化ビニル樹脂(A)に共重合体(B)が充分に相溶し、防水シートの体積収縮が効果的に抑制され、より長期に亘って防水性能を維持することができる。
【0032】
シート状に成形する方法としては、カレンダー法または押出法などを挙げることができる。本実施形態の複層構造である防水シートは、樹脂組成物をカレンダー法、押出法などによってシート成形し、他の層を構成する樹脂組成物をカレンダー法により積層して一体化してもよいし、それぞれの樹脂組成物を予め個別にカレンダー法または押出法によりシート成形し、その後、ラミネート法などの積層方法で積層一体化してもよい。また、それぞれの樹脂組成物を共押出によって多層化してもよい。
【0033】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の様々な構成を採用することができる。
【0034】
例えば、防水シートとしては、本実施形態の裏面層12と、補強材層14と、表面層16とをこの順で積層された構成以外にも、補強材層14と、表面層16とからなる構成、表面層16のみからなる構成、補強材層14を設けず裏面層12と表面層16とが積層された構成を採用することができる。何れの層構成においても、表面層16の表面に防汚層やハードコート層等の機能性付与層を形成してもよい。
【実施例
【0035】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
(実施例1~10、比較例1~7)
表1に記載された各材料を配合比率で混合して樹脂組成物を調製し、温度170℃で樹脂組成物を溶融し、カレンダー法にてシート状に成形するとともに当該シートをネットに積層して一体化して、表面層と補強材層(ネット)とからなる防水シートを製造した。
各実施例および各比較例の樹脂組成物の組成を表1にまとめて示す。
【0037】
<防水シートについての評価>
[耐候性評価]
メタルハライドランプ式耐候性試験機(ダイプラ・ウィンテス社製、メタルウェザー)を用いて、光源としてメタルハライドランプから照射される光を、各実施例および各比較例の防水シートの表面に法線方向から2700時間連続して照射した後、防水シートの伸び率を測定し、試験前の防水シートの伸び率からの変化量を以下の式に基づいて計算し以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
式:(試験後の防水シートの伸び率/試験前の防水シートの伸び率)×100
(基準)
〇:70%以上、
△:70%未満60%以上
×:60%未満
【0038】
[オルゼン曲げこわさ試験]
JIS K7106(片持ちばり)に従い、オルゼン曲げ剛性率を23℃で測定し、下記の基準に従い評価した。結果を表1に示す。
(基準)
〇:1500N/cm未満、
×:1500N/cm以上
【0039】
【表1】
【0040】
表1中に記載の成分は以下のとおり。
ポリ塩化ビニル樹脂(A):ZEST 1300Z(新第一塩ビ社製)
エチレン・一酸化炭素・酢酸ビニル共重合体(B): エルバロイ724(三井・デュポンポリケミカル社製)
可塑剤(C):フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOP)(三菱化学社製)
【0041】
表1から明らかなように、本発明では、防水シートの耐候性、柔軟性に優れており、長期に亘って防水性能が維持されることが推察された。これに対し、比較例では、満足のいく結果が得られなかった。
【符号の説明】
【0042】
10 防水シート
12 裏面層
14 補強材層
16 表面層
図1