(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/22 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
B60C9/22 C
B60C9/22 B
(21)【出願番号】P 2020120808
(22)【出願日】2020-07-14
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】芝本 昇平
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-139165(JP,A)
【文献】特開2018-167716(JP,A)
【文献】特開2014-000878(JP,A)
【文献】特開2002-144814(JP,A)
【文献】特開平06-219107(JP,A)
【文献】特開平07-052607(JP,A)
【文献】特開平05-004503(JP,A)
【文献】特開2005-001629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有するタイヤであって、
前記トレッド部には、タイヤ周方向にスパイラル状に配列されたバンドコードが埋設され、
前記トレッド部から取り出された後、第1時間経過後の前記バンドコードの長さをLb、前記第1時間よりも大きい第2時間経過後の前記バンドコードの長さをLaとしたとき、少なくとも一部の領域で、Lb≦Laであ
り、
前記バンドコードは、圧縮応力が作用している状態で前記トレッド部に埋設され、タイヤ赤道の両側に亘って配されたバンド層を形成しており、
タイヤ赤道を中心とする前記バンド層の展開幅の10%以内のクラウン領域における前記比(Lb-La)/Lbは、前記クラウン領域以外の領域における前記比(Lb-La)/Lbよりも大きく、
前記バンド層のタイヤ軸方向の両端からタイヤ軸方向内側に、前記バンド層のタイヤ軸方向長さの10%以内の領域をショルダー領域、前記クラウン領域と前記ショルダー領域との間の領域をミドル領域としたとき、
各領域における前記比(Lb-La)/Lbの差の絶対値は、2.0%以下である、
タイヤ。
【請求項2】
前記第2時間は、24時間である、請求項1に記載のタイヤ。
【請求項3】
比(Lb-La)/Lbで表される縮み率が、-5.0~0.0%である、請求項2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記比(Lb-La)/Lbが、-4.5%以上である、請求項3に記載のタイヤ。
【請求項5】
前記比(Lb-La)/Lbが、-4.0%以上である、請求項4に記載のタイヤ。
【請求項6】
前記バンドコードは、前記トレッド部の1/4周以上の長さで取り出される、請求項1ないし5のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項7】
前記バンドコードの圧縮剛性kと、タイヤ軸方向の25mmあたりの前記バンドコードの打ち込み本数を平均した平均エンズNとの積k・Nは、1500~15000N/mmである、請求項1ないし6のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項8】
前記バンドコードの前記平均エンズNは、10~40である、請求項7に記載のタイヤ。
【請求項9】
前記バンドコードは、前記トレッド部に沿って巻回されており、前記バンド層の前記展開幅は、前記トレッド部の展開幅の70~90%である、請求項1ないし8のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項10】
前記バンド層は、複数本の前記バンドコードが引き揃えられ、ゴムにより被覆されて成るバンドストリップが巻回された構造を有する、請求項1ないし9のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項11】
前記バンドコードは、スチールコードを含む、請求項1ないし10のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項12】
前記バンドコードの圧縮剛性kは、10~1000N/mmである、請求項11に記載のタイヤ。
【請求項13】
前記バンドコードは、複数本の素線が撚り合わされた構造を有し、前記素線は、撚り合わせ前の状態にて型付けされたものを含む、請求項1ないし12のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項14】
自動二輪車に装着される、請求項1ないし13のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トレッド部にスパイラルベルトを有するタイヤが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1には、スパイラルベルトに密間隔領域と疎間隔領域とが設けられている。
【0005】
しかしながら、疎間隔領域では、剛性不足により、加速性能及び耐久性能が低下する怖れがあり、さらなる改良が望まれている
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、トレッド部の剛性不足による加速性能の低下を抑制できるタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、トレッド部を有するタイヤであって、前記トレッド部には、タイヤ周方向にスパイラル状に配列されたバンドコードが埋設され、前記トレッド部から取り出された後、第1時間経過後の前記バンドコードの長さをLb、前記第1時間よりも大きい第2時間経過後の前記バンドコードの長さをLaとしたとき、少なくとも一部の領域で、Lb≦Laである。
【0008】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記第2時間は、24時間である、ことが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記タイヤにおいて、比(Lb-La)/Lbで表される縮み率が、-5.0~0.0%である、ことが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記比(Lb-La)/Lbが、-4.5%以上である、ことが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記比(Lb-La)/Lbが、-4.0%以上である、ことが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンドコードは、前記トレッド部の1/4周以上の長さで取り出される、ことが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンドコードは、タイヤ赤道の両側に亘って配されたバンド層を形成しており、タイヤ赤道を中心とする前記バンド層の展開幅の10%以内のクラウン領域における前記比(Lb-La)/Lbは、前記クラウン領域以外の領域における前記比(Lb-La)/Lbよりも大きい、ことが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンド層のタイヤ軸方向の両端からタイヤ軸方向内側に、前記バンド層のタイヤ軸方向長さの10%以内の領域をショルダー領域、前記クラウン領域と前記ショルダー領域との間の領域をミドル領域としたとき、各領域における前記比(Lb-La)/Lbの差の絶対値は、2.0%以下である、ことが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンドコードの圧縮剛性kと、タイヤ軸方向の25mmあたりの前記バンドコードの打ち込み本数を平均した平均エンズNとの積k・Nは、1500~15000N/mmである、ことが望ましい。
【0016】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンドコードの前記平均エンズNは、10~40である、ことが望ましい。
【0017】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンドコードは、前記トレッド部に沿って巻回されており、前記バンド層の前記展開幅は、前記トレッド部の展開幅の70~90%である、ことが望ましい。
【0018】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンド層は、複数本の前記バンドコードが引き揃えられ、ゴムにより被覆されて成るバンドストリップが巻回された構造を有する、ことが望ましい。
【0019】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンドコードは、スチールコードを含む、ことが望ましい。
【0020】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンドコードの圧縮剛性kは、10~1000N/mmである、ことが望ましい。
【0021】
本発明に係る前記タイヤにおいて、前記バンドコードは、複数本の素線が撚り合わされた構造を有し、前記素線は、撚り合わせ前の状態にて型付けされたものを含む、ことが望ましい。
【0022】
本発明に係る前記タイヤにおいて、自動二輪車に装着される、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の前記タイヤでは、少なくとも一部の領域で、前記トレッド部から取り出された後、前記第1時間経過後の前記バンドコードの前記長さLbが、前記第2時間経過後の前記バンドコードの前記長さLaよりも小さい。すなわち、前記バンドコードは圧縮応力が作用している状態で前記トレッド部に埋設されている。従って、走行時(転動時)における接地直後から発生する大きな圧縮剛性による良好な剛性感が得られ、加速性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のタイヤの一実施形態を示す子午断面図である。
【
図2】
図1のタイヤのトレッド部からバンドコードを取り出す要領を示す断面図である。
【
図3】
図2のトレッド部から取り出されたバンドコードの長さの推移を示すグラフである。
【
図4】
図1のタイヤのバンド層を示す子午断面図である。
【
図5】
図3のバンドコードの圧縮剛性を測定するためのサンプルを示す斜視図。
【
図6】バンドコードの荷重-圧縮曲線及び圧縮剛性を示すグラフ。
【
図9】
図8のバンドコードを構成する素線の形状を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ1の正規状態における子午断面である。本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2とサイドウォール部3と、ビード部4とを有している。
【0026】
「正規状態」とは、タイヤを正規リム(図示省略)にリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0027】
「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0028】
「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0029】
レース用のタイヤのように、適用される規格がない場合、正規リム、正規内圧には、メーカにより推奨されるリム、空気圧が適用される。
【0030】
本実施形態のタイヤ1は、トレッド部2のトレッド端Te、Te間のトレッド接地面2Sが、キャンバー角の大きい旋回時においても十分な接地面積が得られるように、タイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲してのびている。トレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向距離が、トレッド幅TWであってタイヤ最大幅となる。このような円弧状に湾曲したトレッド部2有するタイヤ1は、車体を傾けてコーナリング走行する自動二輪車に好適に装着される。
【0031】
本タイヤ1は、一対のビード部4間を延びるカーカス6と、トレッド部2に配されたバンド層7とを含む。
【0032】
それぞれのビード部4には、ビードコア5が埋設されている。ビードコア5は、例えば、スチール製のビードワイヤ(図示省略)を多列多段に巻回した断面多角形状に形成されている。
【0033】
カーカス6は、一対のビードコア5に跨るように配されている。カーカス6は、少なくとも1枚のカーカスプライ6Aを有する。カーカスプライは、例えば、カーカスコードの配列体がトッピングゴムで被覆されて形成されている。カーカスコードには、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、レーヨン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維及びアラミド繊維等の有機繊維やスチールが適用される。
【0034】
カーカスプライ6Aは、トレッド部2からサイドウォール部3を経てビードコア5に至る本体部6aと、本体部6aに連なりかつビードコア5の廻りをタイヤ軸方向内側から外側に巻上げられてタイヤ半径方向の外側に延びる巻上げ部6bとを有する。本実施形態の巻上げ部6bは、サイドウォール部3で終端している。
【0035】
バンド層7は、カーカス6の半径方向外側かつトレッド部2の内部に配される。バンド層7は、タイヤ赤道CLの両側に亘って配され、トレッド部2を補強する。カーカス6とバンド層7との間には、ベルトプライによって構成されるベルト層が配されていてもよい。
【0036】
バンド層7には、バンドコード10が埋設されている。バンドコード10は、タイヤ周方向にスパイラル状に配列されている。バンドコード10の配列により、少なくとも1枚のバンドプライ7Aが形成される。
【0037】
バンド層7の半径方向外側には、トレッドゴム2Gが配される。トレッドゴム2Gには、例えば、耐摩耗性能及びグリップ性能に優れた配合のゴムが適用される。トレッドゴム2Gの外周面によってトレッド接地面2Sが構成される。
【0038】
図2は、タイヤ1のトレッド部2からバンドコード10を取り出す要領を示している。
図2に示されるように、トレッド部2からトレッドゴム2Gを剥離することにより、バンドコード10が露出する。これにより、トレッド部2からバンドコード10を一本ずつ取り出すことが可能となる。
【0039】
図3は、トレッド部2から取り出されたバンドコード10の長さの推移を示している。同図において、従来のタイヤにおけるバンドコードの長さは破線で示され、本実施形態のタイヤ1におけるバンドコード10の長さは実線で示される。
【0040】
従来のタイヤでは、トレッド部に埋設されたバンドコードには、引張応力が作用している。従って、トレッド部から取り出されたバンドコードは、時間の経過とともに収縮し、やがて一定の長さに落ち着く。
【0041】
荷重が負荷されたタイヤの接地部においては、タイヤのたわみに伴いバンドコードに圧縮応力が作用する。この圧縮応力は、接地面の剛性を高め、タイヤの加速性能の向上に寄与する。
【0042】
しかしながら、従来のタイヤでは、バントコードに予め引張応力が作用しているため、圧縮応力の発生が遅れ、その大きさも小さい。従って、接地面の剛性を十分に高めることが困難であった。
【0043】
本実施形態のタイヤ1では、トレッド部2に埋設されたバンドコード10には、圧縮応力が作用している。従って、トレッド部2から取り出されたバンドコード10は、時間の経過とともに伸張し、やがて一定の長さに落ち着く。
【0044】
すなわち、トレッド部2から取り出された後、第1時間経過後のバンドコード10の長さをLb、第1時間よりも大きい第2時間経過後のバンドコード10の長さをLaとしたとき、少なくとも一部の領域で、Lb≦Laである。
【0045】
「第1時間」は、長さLbをトレッド部2に埋設されているバンドコード10の長さに近づける主旨から、できるだけ短かく設定されるのが望ましい。第1時間は、例えば、60分以下が望ましい。
【0046】
「第2時間」は、トレッド部2から取り出されたバンドコード10の伸張が収束するのに十分な時間である。第2時間は、例えば、24時間である。トレッド部2から取り出されてから第2時間が経過する頃には、バンドコード10は、安定した長さLaに落ち着く。
【0047】
本実施形態のタイヤ1では、バンドコード10は圧縮応力が作用している状態でトレッド部2に埋設されている。従って、走行時(転動時)における接地直後から発生する大きな圧縮剛性による良好な剛性感が得られ、加速性能が向上する。
【0048】
また、タイヤ軸方向での単位長さあたりのバンドコード10の打ち込み本数、すなわちバンドコード10の密度が変動しないので、タイヤ1の耐久性能は容易に維持される。
【0049】
本実施形態のタイヤ1は、加硫前の生タイヤを成形する際に、バンドコード10の巻き付け径、張力、タイヤ軸方向のコード間隔を調整することにより製造できる。例えば、バンドコード10の巻き付け径を大きく、張力を小さく、コード間隔を広く調整することによりタイヤ1が製造される。このとき、トレッドゴム2Gの巻き付け張力を通常よりも大きく調整することも有効である。さらには、加硫金型を多分割構造とすることにより、加硫金型の分割位置への噛み込みやバンドコード10の蛇行が抑制される。
【0050】
本実施形態のタイヤ1では、比(Lb-La)/Lbで表される縮み率が、-5.0~0.0%が望ましい。
【0051】
比(Lb-La)/Lbが、-5.0%以上であることにより、十分な接地面積を確保するのが容易となり、グリップ力が向上する。また、加硫前の生タイヤの外径が過度に大きくならないので、加硫金型の分割位置へのトレッドゴム2Gの噛み込みが抑制される。一方、比(Lb-La)/Lbが、0.0%以下であることにより、接地直後から発生する大きな圧縮剛性による良好な剛性感が得られ、加速性能が向上する。
【0052】
上記観点から、比(Lb-La)/Lbの望ましい範囲は、-4.5%以上であり、より望ましい範囲は、-4.0%以上である。
【0053】
図2に示されるように、バンドコード10は、トレッド部2の1/4周以上の長さで取り出される、のが望ましい。すなわち、バンドコード10は、タイヤ軸周りに90゜以上の角度で取り出される、のが望ましい。これにより、バンドコード10の長さLa、Lbが正確に評価されうる。
【0054】
図4は、本タイヤ1のバンド層7の子午断面を示している。バンド層7は、クラウン領域71と、ミドル領域72と、ショルダー領域73とを含んでいる。
【0055】
クラウン領域71は、タイヤ赤道CLを含む領域である。クラウン領域71の展開幅W1は、バンド層7の展開幅BTWの10%である。
【0056】
ショルダー領域73は、バンド層7のタイヤ軸方向の両端部に位置する領域である。ショルダー領域73の展開幅W3は、バンド層7の展開幅BTWの10%である。ミドル領域72は、クラウン領域71と、ショルダー領域73との間の領域である。
【0057】
クラウン領域71における比(Lb-La)/Lbは、クラウン領域71以外の領域(すなわち、ミドル領域72及びショルダー領域73)における比(Lb-La)/Lbよりも大きい、のが望ましい。
【0058】
ところで、自動二輪車の後輪として装着されるタイヤは、直進状態でのブレーキング時に接地するクラウン領域71に相当するトレッド部2は、荷重移動によって低荷重となる傾向にある。本実施形態では、クラウン領域71における比(Lb-La)/Lbが、ミドル領域72及びショルダー領域73における比(Lb-La)/Lbよりも大きく設定されることにより、クラウン領域71でのトレッド部2の圧縮剛性が抑制される。従って、タイヤ1が後輪として装着された場合、直進状態でのブレーキング時での接地面積が容易に確保され、グリップ性能が向上する。
【0059】
一方、車体を傾ける旋回時に接地するミドル領域72及びショルダー領域73に相当するトレッド部2は、旋回Gの発生により、後輪が高荷重となる傾向にある。本実施形態では、ミドル領域72及びショルダー領域73における比(Lb-La)/Lbが、クラウン領域71における比(Lb-La)/Lbよりも小さく設定されることにより、ミドル領域72及びショルダー領域73でのトレッド部2の圧縮剛性が高められる。従って、タイヤ1が後輪として装着された場合、旋回時でのトレッド部2の変形が抑制され、グリップ性能が向上する。
【0060】
また、低速コーナーの出口においては、深いバンク角から車体を起こしながらの加速となるため、後輪のミドル領域72に相当するトレッド部2が高荷重となる傾向にある。本実施形態では、ミドル領域72における比(Lb-La)/Lbが、クラウン領域71における比(Lb-La)/Lbよりも小さく設定されることにより、ミドル領域72でのトレッド部2の圧縮剛性が高められる。従って、タイヤ1が後輪として装着された場合、低速コーナーの出口でのトレッド部2の変形が抑制され、グリップ性能が向上する。
【0061】
さらに、高速コーナーの出口では、深いバンク角を維持しながらの加速となるため、ショルダー領域73に相当するトレッド部2が高荷重となる傾向にある。本実施形態では、ショルダー領域73における比(Lb-La)/Lbが、クラウン領域71における比(Lb-La)/Lbよりも小さく設定されることにより、ショルダー領域73でのトレッド部2の圧縮剛性が高められる。従って、タイヤ1が後輪として装着された場合、高速コーナーの出口でのトレッド部2の変形が抑制され、グリップ性能が向上する。
【0062】
クラウン領域71、ミドル領域72及びショルダー領域73における比(Lb-La)/Lbの差の絶対値は、2.0%以下が望ましい。上記差の絶対値が2.0%以下であることにより、ブレーキングから旋回し加速に至るまでのトレッド部2の圧縮剛性の変動が穏やかとなり、過渡特性が向上する。
【0063】
本実施形態において、バンドコード10の圧縮剛性kと平均エンズNとの積k・Nは、1500~15000N/mmが望ましい。
【0064】
図5は、バンドコード10の圧縮剛性を測定するためのサンプルK1、K2を示している。
図6は、サンプルK1、K2を用いて得られたバンドコード10の荷重-圧縮曲線及び圧縮剛性を示している。
【0065】
「圧縮剛性」は、例えば、以下のように測定される。
図5に示すように、直径25mm、高さ25mmの円柱ゴムgの中央に、長さ25mmの1本のバンドコード10を高さ方向に埋設したコード入りサンプルK1、及びバンドコード10を埋設していない補正用のコード無しサンプルK2(図示省略)をそれぞれ形成する。各サンプルK1、K2は、加硫条件(温度165℃-18分)にて加硫されている。
【0066】
そして、引張試験機を用い、各サンプルK1、K2を、それぞれ高さ方向に、速度2.0mm/minにて圧縮させ、圧縮荷重と圧縮量とを測定する。そして、コード入りサンプルK1における測定データを、コード無しサンプルK2における測定データにて補正することで、
図6に示すように、バンドコード10の荷重-圧縮曲線が得られる。そしてこの曲線の中間の線形領域における傾きを、圧縮剛性(N/mm)として定義する。
【0067】
「平均エンズN」は、タイヤ軸方向の25mmあたりのバンドコード10の打ち込み本数を平均した値である。
【0068】
積k・Nが1500N/mm以上であることにより、トレッド部2の剛性が容易に確保され、加速性能及び耐久性能が向上する。また、サーキット走行において旋回速度が重視される小排気量の車両では、トレッド部2の剛性を高めることにより、撓みが抑制されて、常に良好な反力が得られ、旋回力が容易に高められる。
【0069】
一方、積k・Nが15000N/mm以下であることにより、接地面積が容易に確保され、グリップ性能が向上する。特に、サーキット走行において加速性能が重視される大排気量の車両では、接地面積が増加することにより、グリップ性能が向上し、加速性能が容易に高められる。
【0070】
バンドコード10の平均エンズNは、10~40が望ましい。平均エンズNが10以上であることにより、トレッド部2の剛性が容易に確保され、グリップ性能及び耐久性能が向上する。平均エンズNが40以下であることにより、接地面積が容易に確保され、グリップ性能が向上する。
【0071】
図4に示されるように、バンドコード10は、トレッド部2に沿って巻回されている。これにより、バンド層7の子午断面は、凸状に湾曲した形状となる。バンド層7の展開幅BTWは、トレッド部2の展開幅TTWの70~90%が望ましい。
【0072】
展開幅BTWが展開幅TTWの70%以上であることにより、ショルダー領域73でのトレッド部2の剛性が容易に確保され、コーナリング時の踏ん張り感が向上する。展開幅BTWが展開幅TTWの90%以下であることにより、ショルダー領域73でトレッド部2が撓み易くなり、特に、サーキット走行におけるスライドコントロール性能やエッジグリップ性能が向上する。
【0073】
本実施形態のバンド層7は、帯状のバンドストリップがスパイラル状に巻回された構造を有している。
【0074】
図7は、バンドストリップ11の構成を示している。複数本(本実施形態では、2本)のバンドコード10が引き揃えられ、ゴムGにより被覆されて成る。複数本のバンドコード10によってバンドストリップ11が構成されることにより、バンドストリップ11の巻き付け時のバンドコード10の回転が抑制され、巻き付けが容易となる。
【0075】
図8は、バンドコード10の断面を示している。本実施形態では、バンドコード10として、n本のスチール素線12を撚り合わせたスチールコードが採用される。
図8には、4本のスチール素線12を撚り合わせた1×4構造の単撚りコードが示されるが、1×5構造の単撚りコード、或いは3×3構造の複撚りコードも採用しうる。スチールコードは、アラミド等の有機繊維と比較して、コードの撚り構造に関わらず座屈しにくい特性を有している。
【0076】
バンドコード10は、スチールコードと他の素材から成るコードとの組み合わせによって構成されていてもよい。
【0077】
バンドコード10の圧縮剛性kは、10~1000N/mmが望ましい。
【0078】
バンドコード10の圧縮剛性kが10N/mm以上であることにより、トレッド部2の剛性が容易に確保され、グリップ性能及び耐久性能が向上する。一方、バンドコード10の圧縮剛性kが1000N/mm以下であることにより、接地面積が容易に確保され、グリップ性能が向上する。
【0079】
バンドコード10は、撚り合わせ前の状態にて型付けされた素線を含んで構成されるのが望ましい。
【0080】
図9は、型付けされた素線12Aを示している。型付けされた素線12Aは、例えば、山と谷とを繰り返した波状の二次元型付けされたものが好適に採用しうる。型付けされた素線12Aを用いることにより、バンドコード10の圧縮剛性kの調整が容易となる。
【0081】
以上、本発明のタイヤ1が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【実施例】
【0082】
図1の基本構造を有する下記サイズのタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、下記の条件で加速性能が評価された。
タイヤサイズ 前輪 120/70R17
後輪 200/60R17
内圧 前輪 240kPa(タイヤウォーマー使用)
後輪 160kPa(タイヤウォーマー使用)
車両 1000cc4サイクル自動二輪車
長さLbは、バンドコードがトレッド部から取り出された後、第1時間として30分経過後に測定された。また、長さLaは、バンドコードがトレッド部から取り出された後、第2時間として24時間経過後に測定された。(以下の実施例についても、同様とする)。テスト方法は、以下の通りである。
【0083】
<加速性能>
各仕様のタイヤが装着される上記車両がテストコースに持ち込まれ、テストライダーの官能評価によって、加速性能が評価された。結果は、比較例1を100とする指数であり、数値が大きい程、加速性能に優れていることを示す。
【0084】
【0085】
表1から明らかなように、実施例のタイヤは、比較例に比べて加速性能が有意に向上していることが確認できた。
【0086】
図1の基本構造を有する上記サイズのタイヤが、表2の仕様に基づき試作され、上記の条件でグリップ性能及び加速性能が評価された。
【0087】
<グリップ性能>
各仕様のタイヤが装着される上記車両がテストコースに持ち込まれ、テストライダーの官能評価によって、減速時及び旋回時のグリップ性能が評価された。結果は、実施例6を100とする指数であり、数値が大きい程、グリップ性能に優れていることを示す。
【0088】
<加速性能>
上記と同様に、加速性能が評価された。結果は、実施例6を100とする指数であり、数値が大きい程、加速性能に優れていることを示す。
【0089】
<総合性能>
各性能を示す数値を各実施例ごとに総和することにより、各実施例の総合性能が得られる(以下の実施例でも同様とする)。
【0090】
【0091】
図1の基本構造を有する上記サイズのタイヤが、表3の仕様に基づき、すなわち、クラウン領域、ミドル領域及びショルダー領域の比(Lb-La)/Lbを変更して試作され、上記の条件でグリップ性能及び加速性能が評価された。
【0092】
<グリップ性能>
上記と同様に、減速時及び旋回時のグリップ性能が評価された。結果は、実施例11を100とする指数であり、数値が大きい程、グリップ性能に優れていることを示す。
【0093】
<加速性能>
上記と同様に、加速性能が評価された。結果は、実施例11を100とする指数であり、数値が大きい程、加速性能に優れていることを示す。
【0094】
【0095】
図1の基本構造を有する上記サイズのタイヤが、表4の仕様に基づき試作され、上記の条件で過渡特性が評価された。
【0096】
<過渡特性>
各仕様のタイヤが装着される上記車両がテストコースに持ち込まれ、テストライダーの官能評価によって、減速から旋回を経て加速に至る過渡特性が評価された。結果は、実施例15を100とする指数であり、数値が大きい程、過渡特性に優れていることを示す。
【0097】
【0098】
図1の基本構造を有する上記サイズのタイヤが、表5の仕様に基づき試作され、上記の条件でグリップ性能、加速性能及び耐久性能が評価された。
【0099】
<グリップ性能>
上記と同様に、減速時及び旋回時のグリップ性能が評価された。結果は、実施例19を100とする指数であり、数値が大きい程、グリップ性能に優れていることを示す。
【0100】
<加速性能>
上記と同様に、加速性能が評価された。結果は、実施例19を100とする指数であり、数値が大きい程、加速性能に優れていることを示す。
【0101】
<耐久性能>
ドラム試験機を用いて、荷重2.86kN(前輪)、5.74kN(後輪)にて速度81km/hで走行し、タイヤに損傷が発生するまでの走行距離が測定された。評価は、実施例19を100とする指数で表示し、数値が大きいほど良好である。
【0102】
【0103】
図1の基本構造を有する上記サイズのタイヤが、表6の仕様に基づき試作され、上記の条件でグリップ性能、加速性能及び耐久性能が評価された。
【0104】
<グリップ性能>
上記と同様に、減速時及び旋回時のグリップ性能が評価された。結果は、実施例24を100とする指数であり、数値が大きい程、グリップ性能に優れていることを示す。
【0105】
<加速性能>
上記と同様に、加速性能が評価された。結果は、実施例24を100とする指数であり、数値が大きい程、加速性能に優れていることを示す。
【0106】
<耐久性能>
上記と同様に、加速性能が評価された。結果は、実施例24を100とする指数であり、数値が大きい程、耐久性能に優れていることを示す。
【0107】
【0108】
図1の基本構造を有する上記サイズのタイヤが、表7の仕様に基づき試作され、上記の条件でグリップ性能、加速性能及び耐久性能が評価された。
【0109】
<グリップ性能>
上記と同様に、減速時及び旋回時のグリップ性能が評価された。結果は、実施例29を100とする指数であり、数値が大きい程、グリップ性能に優れていることを示す。
【0110】
<加速性能>
上記と同様に、加速性能が評価された。結果は、実施例29を100とする指数であり、数値が大きい程、加速性能に優れていることを示す。
【0111】
<耐久性能>
上記と同様に、加速性能が評価された。結果は、実施例29を100とする指数であり、数値が大きい程、耐久性能に優れていることを示す。
【0112】
【0113】
図1の基本構造を有する上記サイズのタイヤが、表8の仕様に基づき試作され、上記の条件で踏ん張り感及びスライドコントロール性能が評価された。
【0114】
<踏ん張り感>
各仕様のタイヤが装着される上記車両がテストコースに持ち込まれ、テストライダーの官能評価によって、踏ん張り感が評価された。結果は、実施例34を100とする指数であり、数値が大きい程、踏ん張り感に優れていることを示す。
【0115】
<スライドコントロール性能>
各仕様のタイヤが装着される上記車両がテストコースに持ち込まれ、テストライダーの官能評価によって、スライドコントロール性能が評価された。結果は、実施例34を100とする指数であり、数値が大きい程、スライドコントロール性能に優れていることを示す。
【0116】
【符号の説明】
【0117】
1 タイヤ
2 トレッド部
7 バンド層
10 バンドコード
11 バンドストリップ
12A 素線
71 クラウン領域
72 ミドル領域
73 ショルダー領域
BTW 展開幅
CL タイヤ赤道
G ゴム
N 平均エンズ
TTW 展開幅
W1 展開幅
W3 展開幅
k 圧縮剛性