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特許7552125成形用組成物及び三次元造形物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】成形用組成物及び三次元造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 91/06 20060101AFI20240910BHJP
   B22F 3/02 20060101ALI20240910BHJP
   B22F 10/16 20210101ALI20240910BHJP
   B29C 64/165 20170101ALI20240910BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240910BHJP
   B33Y 70/10 20200101ALI20240910BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240910BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
C08L91/06
B22F3/02 M
B22F10/16
B29C64/165
B33Y10/00
B33Y70/10
C08K3/08
C08L101/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020130205
(22)【出願日】2020-07-31
(65)【公開番号】P2022026641
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【弁理士】
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【弁理士】
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(74)【代理人】
【識別番号】100148323
【弁理士】
【氏名又は名称】川▲崎▼ 通
(74)【代理人】
【識別番号】100168860
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 充史
(72)【発明者】
【氏名】下神 耕造
(72)【発明者】
【氏名】岡本 英司
(72)【発明者】
【氏名】▲角▼谷 彰彦
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/003901(WO,A1)
【文献】特開2020-015848(JP,A)
【文献】特開2019-188744(JP,A)
【文献】特開平03-013502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 91/06
C08L 101/00
C08K 3/013
C08K 3/08
B29C 64/165
B33Y 10/00
B33Y 70/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末と、ワックスと、接着成分と、前記接着成分以外の成形成分と、可塑剤と、を含み、
前記接着成分は、エチレン系、アクリル系及びビニル系モノマーから選ばれる二種以上のモノマーの共重合体であり、
190℃における前記接着成分のメルトフローレートが200g/10min以上であり、
前記可塑剤の密度が、0.97g/cm以下である、成形用組成物。
【請求項2】
請求項1において、
前記粉末の体積基準の充填率が、64.8%以上である、成形用組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれか一項において、
前記成形成分は、高分子化合物を含み、
前記高分子化合物の重量平均分子量は、4000以下である、成形用組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記粉末は、金属粉末である、成形用組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の成形用組成物を吐出する層形成工程を有し、前記層形成工程を複数回行う三次元造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形用組成物及び三次元造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
機械加工や鋳造によらずに三次元形状の物体を成形することが行われている。例えば、特許文献1には、無機粉末を含むコンパウンドを原料として、熱溶融積層方式(FDM方式)の3次元プリンターを用いて造形物を形成し、これを脱脂、焼結することによって金属或いはセラミックス製品を製造する製造方法が開示されている。同文献には、当該製造方法によれば、機械加工や鋳造では不可能な形状の金属或いはセラミックス製品を迅速に成形できる旨、製品の少量生産に適する旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-144205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のMIM(Metal Injection Molding)と同様のコンパウンドを、三次元造形装置に適用する場合、コンパウンドの粘度が高く流動性が不足するので、三次元造形装置から射出されるコンパウンドの射出量が不安定になり、造形物の形状の精度が低下する恐れがあった。したがってコンパウンドの粘度を低くして造形物の良好な形状精度を得ることが要求される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る成形用組成物の一態様は、
粉末と、ワックスと、接着成分と、成形成分と、可塑剤と、を含み、
190℃における前記接着成分のメルトフローレートが200g/10min以上であり、前記可塑剤の密度が、1.0g/cm以下である。
【0006】
本発明に係る三次元造形物の製造方法の一態様は、
上記態様の成形用組成物を吐出する層形成工程を有し、前記層形成工程を複数回行う。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0008】
1.成形用組成物
本実施形態に係る成形用組成物は、粉末と、ワックスと、接着成分と、成形成分と、可塑剤と、を含む。そして、190℃における接着成分のメルトフローレートが200g/10min以上であり、前記可塑剤の密度が、1.0g/cm以下である。以下各成分について説明する。なお、本明細書では、成形用組成物に含まれる粉末以外の成分をまとめて「バインダー」と称することがある。
【0009】
1.1.粉末
本実施形態の成形用組成物は、粉末を含有する。粉末は、成形用組成物を脱脂、焼成し
た後の造形物に、その一部又は全部が残る成分である。すなわち、本実施形態の成形用組成物で用いる粉末としては、バインダーが脱脂、焼結で失われても残存できるものであればよく、例えば、無機粉末、有機粉末が挙げられる。
【0010】
無機粉末としては、金属粉末、セラミックス粉末、サーメット粉末、金属酸化物粉末、金属間化合物粉末等が挙げられ、これらの粉末の2種以上を混合した粉末でもよい。
【0011】
具体的には、金属粉末としては、例えば純鉄、鉄-ニッケル、鉄-コバルト、鉄-シリコン、ステンレススチールなどの鉄系合金、タングステン、炭化タングステン(WC)、超硬合金(WC-Co系合金など)、アルミニウム合金、銅、銅合金などの粉末が挙げられる。
【0012】
また、セラミックス粉末、金属酸化物粉末としては、Al、BeO、TiO、ZrOなどの酸化物、TiC、ZrC、BCなどの炭化物、CrB、ZrBなどのホウ化物、TiN、ZrNなどの窒化物などが挙げられる。また、サーメット粉末としては、Al-Fe系、TiC-Ni系、TiC-Co系、BC-Fe系などが挙げられる。
【0013】
有機粉末としては、例えば、シリコーンエラストマー粉末、シリコーン粉末、シリコーンレジン被覆シリコーンエラストマー粉末、ポリアミド樹脂粉末(ナイロン粉末)、ポリエチレン粉末、ポリスチレン粉末、スチレンとアクリル酸の共重合体樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、ポリ四弗化エチレン粉末、セルロース粉末等を挙げることができる。
【0014】
本実施形態の成形用組成物で用いる粉末は、バインダーよりも燃焼温度、分解温度、蒸発温度等が十分に高い点で、無機粉末が好ましい。また、無機粉末のなかでも、金属粉末は、焼結時に表面を溶融させやすく、焼結体である造形物の形状を精度良く形成できる点でより好ましい。
【0015】
成形用組成物における粉末の配合量は、成形用組成物の全体積に対して、64.8体積%以上であることが好ましい。換言すると、成形用組成物における粉末の体積基準の充填率は、64.8%以上であることが好ましい。粉末の配合量がこの範囲であると、粉末以外の成分が少なくなり、加熱、冷却したした際の体積変化がより小さく抑制される。また、粉末の配合量がこの範囲であると、脱脂、焼結の際に失われる成分がより少なくなり、より密度の高い造形物を得ることができる。
【0016】
1.2.ワックス
成形用組成物は、ワックスを含有する。ワックスは、成形用組成物を三次元造形装置等から押し出す或いは射出する際の流動性を向上させる機能を有する。ワックスは、バインダーを構成し、成形用組成物を脱脂、焼結した場合には、消失する成分である。
【0017】
ワックスとしては、例えば、天然ワックス、合成ワックス等が挙げられる。このうち、天然ワックスとしては、例えば、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ろう、ホホバ油のような植物系ワックス、みつろう、ラノリン、鯨ろうのような動物系ワックス、モンタンワックス、オゾケライト、セレシンのような鉱物系ワックスが挙げられる。また、合成ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ペトロラタムのような石油系ワックス等を挙げることもできる。ワックスは、上記例示した1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
成形用組成物におけるワックスの配合量は、成形用組成物のうち粉末を除いた成分、すなわちバインダーを100質量%とした場合に、25質量%以上35質量%以下、好まし
くは26質量%以上33質量%以下、より好ましくは27質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは27質量%以上29質量%以下である。ワックスの配合量がこの範囲であれば、成形用組成物は優れた流動性を有する。
【0019】
1.3.接着成分
成形用組成物は、接着成分を含有する。接着成分は、バインダーを構成する。接着成分は、成形用組成物中で、粉末の粒子間を接着する機能を有する。また、接着成分は脱脂された後の成形用組成物に少量残存する。これにより、粉末の粒子間を接着し、焼結前の脱脂された状態の造形物の形状を維持する機能を有する。接着成分は、他のバインダーと同様に成形用組成物が焼結されることにより消失する成分である。
【0020】
190℃における接着成分のメルトフローレート(MFR)は200g/10min以上である。接着成分のMFRが200g/10min以上であることにより、成形用組成物は高い流動性を有することができる。
【0021】
接着成分としては、例えば、エチレン系、アクリル系及びビニル系モノマーから選ばれる二種以上のモノマーの共重合体を挙げることができる。より具体的には、接着成分としては、エチレン-グリシジル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、等を例示できる。
【0022】
接着成分のMFRは、例えば接着成分を構成する高分子化合物の分子量を変化させることで調節することができる。
【0023】
接着成分のメルトフローレートは、JIS K 7210に基づき、190℃、21.2N加重(2160g荷重)の条件、及びASTM D1238、ISO1133に基づき190℃、21.2N加重(2160g荷重)の条件で測定することができる。
【0024】
成形用組成物における接着成分の配合量は、成形用組成物のうち粉末を除いた成分すなわちバインダーを100質量%とした場合に、20質量%以上35質量%以下、好ましくは22質量%以上33質量%以下、より好ましくは23質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは25質量%以上27質量%以下である。接着成分の配合量がこの範囲であれば、成形用組成物を用いて造形される造形物はより優れた形状安定性を有することができる。
【0025】
1.4.成形成分
成形用組成物は、成形成分を含有する。成形成分は、バインダーを構成する。成形成分は、脱脂された後の成形用組成物に少量残存する。これにより、粉末の粒子間で両者を固定し、焼結前の脱脂された状態の造形物の形状を維持する機能を有する。成形成分は、他のバインダーと同様に成形用組成物が焼結されることにより消失する成分である。
【0026】
成形成分は、高分子化合物で構成されることが好ましい。高分子化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリオキシメチレン、ポリオキシエチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、アクリロニトリルスチレン共重合体、アルキル(メタ)アクリレート重合体、及び、これらを構成するモノマーの共重合体、並びに、これらの高分子化合物の変性又は未変性体が挙げられる。さらに成形成分は、上記例示した高分子化合物の2種以上のブレンドであってもよい。
【0027】
成形用組成物が成形成分として、高分子化合物を含む場合、高分子化合物の重量平均分
子量は、4000以下であることが好ましい。成形成分の高分子化合物の分子量が4000以下であれば、成形用組成物の流動性をさらに良好にすることができる。これにより、さらに迅速かつ安定して形状精度の良好な造形物を形成することができる。また、重量平均分子量が、この範囲であれば、軟化点も低下させることができるので、この点からも成形用組成物の流動性をさらに高めることができる。
【0028】
成形用組成物における成形成分の配合量は、成形用組成物のうち粉末を除いた成分、即ちバインダーを100質量%とした場合に、25質量%以上35質量%以下、好ましくは27質量%以上33質量%以下、より好ましくは28質量%以上32質量%以下、さらに好ましくは29質量%以上31質量%以下である。成形成分の配合量がこの範囲であれば、成形用組成物を用いて造形される造形物はより優れた形状安定性を有することができる。
【0029】
1.5.可塑剤
本実施形態の成形用組成物は、可塑剤を含有してもよい。可塑剤は、バインダー成分の混合及び成形用組成物の混合を促進させる機能を有し、これにより、成形用組成物を均一な混合物とすることができる。
【0030】
可塑剤としては、例えば、テレフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(比重0.984(密度0.981)、沸点416℃)、フタル酸ジイソノニル(比重0.976(密度0.981)、沸点403℃)、フタル酸ジウンデシル(比重0.955(密度0.952)、沸点523℃)、フタル酸ジイソデシル(密度0.970、沸点420℃)、アジピン酸ビス(2-エチルヘキシル)(比重0.927(密度0.924)、沸点335℃)、アジピン酸ジイソノニル(比重0.924(密度0.921)、沸点250℃以上)、アジピン酸ジ-n-アルキル(比重0.926(密度0.923)、沸点198~244℃(665Pa))、アジピン酸ジイソデシル(比重0.92(密度0.917)、沸点244℃(0.667kPa))、アジピン酸ビス(2-ブトキシエチル)(比重1.00(密度0.997)、沸点(217℃/1.5kPa))、等が挙げられる。なおここで例示した可塑剤は、環境適合性も良好である。
【0031】
成形用化合物が可塑剤を含む場合、可塑剤の密度は、1.0g/cm以下であることが好ましく、0.990g/cm以下であることがより好ましく、0.985g/cm以下であることがさらに好ましい。このような可塑剤を含有する場合には、可塑剤により組成物中に分子レベルの空隙を発生させることができるので、組成物の流動性をさらに良好とすることができる。
【0032】
成形用組成物に可塑剤を含有させる場合、可塑剤の配合量は、成形用組成物のうち粉末を除いた成分、即ちバインダーを100質量%とした場合に、5質量%以上25質量%以下、好ましくは10質量%以上20質量%以下、より好ましくは13質量%以上19質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上17質量%以下である。可塑剤の配合量がこの範囲であれば、成形用組成物はより優れた流動性を有することができる。
【0033】
1.6.バインダーの割合等
成形用組成物の粘度を低下させることを考える場合、成形用組成物におけるバインダーの割合を増加させることにより粘度は低下すると考えられる。しかし、このように単にバインダーの量を増すだけでは、バインダーが焼結により失われるので、造形物の熱収縮が生じやすくなり、造形物の反りや、割れ、歪みが発生しやすくなる。
【0034】
これに対して、本実施形態の成形用組成物では、粉末の体積基準の充填率が高く、例えば、64.8%以上である場合、造形物の熱収縮を抑制することができる。また、バイン
ダーの配合量が35.2体積%程度より低い場合、脱脂、焼結の際に失われる成分が少ない。これにより密度の高い造形物を得ることができる。
【0035】
一般にバインダーの量を低く抑えると、成形用組成物の粘度は増加し、造形装置からの射出量が低下する場合がある。しかし、本実施形態の成形用組成物は、特定のバインダーの組成を見出したことで、バインダーの量を低く抑えた上で、より多くバインダーを配合した場合と同等か、それ以上の粘度特性及び射出量特性が得られる。
【0036】
三次元造形は、数~数10時間のスケールで高温造形プロセスを安定に行うため、用いる成形用組成物には、高沸点材料を配合することが多い。本実施形態の成形用組成物におけるバインダーの組成中で比較的低沸点な材料は、流動性機能を有するワックス及び必要に応じて配合される可塑剤である。一般に、高沸点材料を用いると粘度が増大する傾向を示し、高温プロセスへの適性と低粘度化を両立することは難しかった。しかし、本実施形態の成形用組成物によれば、高沸点材料を用いながら、成形用組成物の粘度を低く抑え、良好な流動性を得ることができる。
【0037】
1.7.他の作用効果等
射出成形機においては、一般には、特許5970895号、特許5970794号、特許5857688号などに記載のように、射出圧力として、5~500MPaが必要である。しかし、本実施形態の成形用組成物を用いる場合には、射出圧力は、シェアレート0.1s-1において5MPa以下とすることができる。これにより、粉末の充填率を向上させつつ、射出量の低下も抑制することができる。
【0038】
本実施形態の成形用組成物は、上記のようなバインダーを含むが、バインダーは複数種の成分から構成される。これにより、脱脂、焼結の過程で成分が融解、分解、蒸発するタイミングが互いに異なるようになっている。例えば、成形用組成物を500℃程度まで昇温して脱脂する場合、200~300℃付近の温度で流動成分、可塑剤の分解が生じ、300~500℃付近の温度で接着成分、成形成分の分解が生じる。このようにすることで、脱脂の際の形状安定性をさらに高めることができる。
【0039】
2.実施例及び比較例
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、その趣旨を逸脱しない限り種々の変更は可能であり、下記の実施例によって何ら限定されるものではない。なお成分量に関して%、部と記載しているものは特に断らない限り質量基準である。
【0040】
2.1.成形用組成物の調製
各例の成形用組成物は、以下のように調製した。
加圧式ニーダー混錬機(株式会社トーシン製TD0.3-3M)を用いて、温度:110℃、回転数:30rpm、加圧力:0MPaにて混錬した後((1)金属粉末約900gを投入し5分混錬、(2)ワックス、接着成分、成形成分を投入した後、金属粉末の残りを投入し3分混錬、(3)可塑剤を投入し2分混錬)温度:110℃、回転数:30rpm、加圧力:0.5MPaにて混錬した。各例の成分組成を表1に示した。
【0041】
【表1】
【0042】
表中、材料、化合物は、以下の通りである。
・PW130:Paraffin Wax 130(日本精蝋株式会社製、融点56℃)
・PW115:Paraffin Wax 115(日本精蝋株式会社製、融点48℃)・CG-5001:ボンドファースト(登録商標)CG-5001(住友化学株式会社製、MFR=380g/10min)
・LOTADER 8210:LOTADER(登録商標)8210(ARKEMACorporation、MFR=200g/10min)
・BF-7M:ボンドファースト(登録商標)BF-7M(住友化学株式会社製、MFR=7g/10min)
・ST-95:ハイマー(登録商標)ST-95(三洋化成工業株式会社製、ポリスチレン、重量平均分子量=4000)
・DIDP:フタル酸ジイソデシル(関東化学株式会社製(密度0.970、沸点420℃))
・DBP:フタル酸ジブチル(関東化学株式会社製(密度1.048))
・金属粉末:(SUS630、PF-5K D50~4μm)エプソンアトミックス株式会社製
【0043】
上記のように混錬された成形用組成物は、ハンドトゥルーダー(株式会社東洋精機製作所製、PM-1)を用いて50~100℃の条件下でペレット状態とした。
【0044】
2.2.成形用組成物の評価
2.2.1.粘度
各例の成形用組成物について、レオメーター(株式会社UBC製、Rheosol G3000NT-HR)を用いて粘度を測定した。直径18mmのコーンプレートを用いて、100℃にて、シアレート100s-1付近まで測定し、シアレート0.1s-1のときの粘度を読み取って、実施例1の粘度で規格化した値を表1に記載した。
【0045】
2.2.2.射出量の評価
各例の成形用組成物を三次元造形装置に導入し、125℃、2MPaの条件で30秒射出した。射出された組成物の重量を測定して、各例の射出量を算出した。そして実施例1の射出量に対して射出量が80%以上の射出量を「A」と判定し、80%未満の射出量を「B」と判定した。
【0046】
2.2.3.反りの評価
三次元造形装置を用いて、短軸幅5mm×長軸幅65mm×厚み2mmの造形物を、各例の成形用組成物を用いて造形した。その後、各試験片を水平な台の上に載置し、カメラを用いて短軸に沿う方向から撮像した。撮像した画像から、長軸幅の端部と台との厚み方向の距離Δxを両端部で測定した。その後、下記式(1)に基づいて反りの角度θを算出した。
tanθ = 2×Δx/65 ・・・(1)
【0047】
2.2.4.評価結果
粉末と、ワックスと、接着成分と、成形成分と、可塑剤と、を含み、190℃における接着成分のメルトフローレートが200g/10min以上であり、可塑剤の密度が、1.0g/cm以下である、実施例の成形用組成物は、他の比較例の組成物よりも粘度が顕著に低く、射出量も非常に良好であった。
【0048】
また、金属充填率55%程度では造形物に反りが見られた。表1記載の実施例及び比較例すべての水準で充填率が64.8%を超え高充填率のため、反りは殆どゼロ度だった。以上の結果、バインダー部数低減の効果が見られた。
【0049】
本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成、例えば、機能、方法及び
結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【0050】
上述した実施形態及び変形例から以下の内容が導き出される。
【0051】
成形用組成物の一態様は、
粉末と、ワックスと、接着成分と、成形成分と、可塑剤と、を含み、
190℃における前記接着成分のメルトフローレートが200g/10min以上であり、前記可塑剤の密度が、1.0g/cm以下である。
【0052】
この成形用組成物によれば、粘度が低いので、流動性が良好である。これにより、三次元造形装置に適用した場合に、迅速かつ安定して形状精度の良好な造形物を形成することができる。
【0053】
上記成形用組成物の態様において、
前記粉末の体積基準の充填率が、64.8%以上であってもよい。
【0054】
この成形用組成物は、粉末以外の成分が少ない。そのためこの成形用組成物によれば、粉末以外の成分が多い場合に比べて熱収縮が生じにくい。また、この成形用組成物によれば、脱脂、焼結の際に失われる成分が少ない。これにより密度の高い造形物を得ることができる。
【0055】
上記成形用組成物の態様において、
前記成形成分は、高分子化合物を含み、
前記高分子化合物の重量平均分子量は、4000以下であってもよい。
【0056】
この成形用組成物によれば、分子量の低い成形成分を含有するので流動性がさらに良好である。これにより、さらに迅速かつ安定して形状精度の良好な造形物を形成することができる。
【0057】
上記成形用組成物の態様において、
前記粉末は、金属粉末であってもよい。
【0058】
この成形用組成物によれば、金属粉末の焼結体を迅速かつ安定して形状精度よく形成することができる。
【0059】
三次元造形物の製造方法の一態様は、上記成形用組成物を吐出する層形成工程を有し、前記層形成工程を複数回行う。
【0060】
この三次元造形物の製造方法によれば、射出量を安定して保つことができるため、精度の高い三次元造形物を造形することができる。