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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】サイドカウル
(51)【国際特許分類】
   B62J 17/10 20200101AFI20240910BHJP
   B62J 23/00 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B62J17/10
B62J23/00 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020149716
(22)【出願日】2020-09-07
(65)【公開番号】P2022044199
(43)【公開日】2022-03-17
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】澤田 富智美
(72)【発明者】
【氏名】望月 優希
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-167272(JP,A)
【文献】国際公開第2019/065485(WO,A1)
【文献】特開2013-071552(JP,A)
【文献】米国特許第04964484(US,A)
【文献】中国実用新案第2897780(CN,Y)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 17/00
B62J 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鞍乗型車両の車両側部を覆うサイドカウルであって、
カウル外面を流れる走行風の下流側に、上下方向に長く、前記カウル外面よりも車幅方向の外側に突き出した凸部が形成され、
前記カウル外面の上縁はハンドルの前方に位置しており、当該カウル外面の上縁に沿って前記凸部全体が形成されていることを特徴とするサイドカウル。
【請求項2】
前記カウル外面には、車両後方に向かって車幅が狭くなる幅狭領域があり、
前記凸部は、前記幅狭領域又は前記幅狭領域の後方に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のサイドカウル。
【請求項3】
前記カウル外面と前記凸部の境界には、車幅方向の内側に窪んだ凹部が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のサイドカウル。
【請求項4】
車両側面視にて、前記凸部が湾曲していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のサイドカウル。
【請求項5】
車両側面視にて、前記凸部の長手方向の途中部分が車両前方に迫り出すように湾曲していることを特徴とする請求項4に記載のサイドカウル。
【請求項6】
前記凸部の断面が、車両前方を向いた前辺と車両後方を向いた後辺によってV字状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のサイドカウル。
【請求項7】
前記前辺が車両後方に向かって車幅を広げるように傾斜し、当該前辺の後端から前記後辺が車幅方向の内側に広がり、
前記前辺の傾斜方向の幅が前記後辺の車幅方向の幅よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項6に記載のサイドカウル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイドカウルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両には、車両前部をフロントカウルで覆い、車両側部をサイドカウルで覆ったものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の鞍乗型車両には流線形のフロントカウルとサイドカウルが一体的に取り付けられ、フロントカウル及びサイドカウルの外面に沿って車両前方から車両後方に走行風が流される。フロントカウル及びサイドカウルの防風効果によって、走行風から車両が受ける空気抵抗が減らされて安定感のある走行が可能になると共に、乗員に対する走行風の当たりが軽減されて鞍乗型車両の快適な運転が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2005-178621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のフロントカウル及びサイドカウルによって乗員への走行風の当たりが弱まるが、鞍乗型車両の運転時に更なる快適性が求められている。特に、サイドカウルからはみ出した乗員の部位に走行風が強く当たって、鞍乗型車両の運転時の快適性が低減されるという不具合があった。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、走行風による空気抵抗を減らしつつ、運転時の快適性を向上することができるサイドカウルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の鞍乗型車両の車両側部を覆うサイドカウルであって、カウル外面を流れる走行風の下流側に、上下方向に長く、前記カウル外面よりも車幅方向の外側に突き出した凸部が形成され、前記カウル外面の上縁はハンドルの前方に位置しており、当該カウル外面の上縁に沿って前記凸部全体が形成されていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様のサイドカウルによれば、カウル外面に沿う走行風の流れが凸部で剥離される。凸部の後方で走行風が車幅方向の外側に拡散されるため、サイドカウルからはみ出した乗員の部位への走行風の当たりが和らげられる。サイドカウルによって空気抵抗が減らされて走行が安定し、乗員への局所的な強い風圧が抑えられて運転時の快適性が損なわれることがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例の鞍乗型車両の左側面図である。
図2】本実施例の車両前部の側面図である。
図3】本実施例の車両前部の上面図である。
図4】本実施例のリヤエッジカバーを表面側から見た斜視図である。
図5】本実施例のリヤエッジカバーを裏面側から見た斜視図である。
図6】本実施例のサイドカウルの後端付近の斜視図である。
図7】本実施例のリヤエッジカバーの後端付近の断面図である。
図8】サイドカウルの外面における走行風の風速分布を示す図である。
図9】変形例のリヤエッジカバーの後端付近の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様のサイドカウルは鞍乗型車両の車両側部を覆っており、カウル外面に沿って走行風が流れる。カウル外面において走行風の下流側には上下方向に長く、カウル外面よりも車幅方向の外側に突き出した凸部が形成されており、カウル外面に沿う走行風の流れが凸部で剥離される。凸部の後方で走行風が車幅方向の外側に拡散されるため、サイドカウルからはみ出した乗員の部位への走行風の当たりが和らげられる。サイドカウルによって空気抵抗が減らされて走行が安定し、乗員への局所的な強い風圧が抑えられて運転時の快適性が損なわれることがない。
【実施例
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。図1は、本実施例の鞍乗型車両の左側面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、鞍乗型車両1は、アルミ鋳造によって形成されるツインスパー型の車体フレーム10に、エンジン16や電装系等の各種部品を搭載して構成されている。車体フレーム10はヘッドパイプ(不図示)から左右に分岐して車両後方に延びる一対のメインフレーム11と、ヘッドパイプから左右に分岐して下方に延びる一対のダウンフレーム(不図示)とを有している。一対のメインフレーム11によってエンジン16の後部が支持され、一対のダウンフレームによってエンジン16の前部が支持されている。エンジン16が車体フレーム10に支持されることで、車両全体の剛性が確保されている。
【0012】
メインフレーム11の前側部分はエンジン16の上方に位置するタンクレール12になっており、タンクレール12によって燃料タンク17が支持されている。メインフレーム11の後側部分はエンジン16の後方に位置するボディフレーム13になっており、ボディフレーム13の上下方向の略中間位置にスイングアーム18が揺動可能に支持されている。ボディフレーム13の上部からは、シートレール(不図示)とバックステー(不図示)が後方に向かって延びている。シートレール上には、燃料タンク17の後方においてライダーシート21及びピリオンシート22が支持されている。
【0013】
ヘッドパイプには、ステアリングシャフト(不図示)を介して一対のフロントフォーク23が操舵可能に支持されている。フロントフォーク23の下部には前輪25が回転可能に支持されており、前輪25の上部はフロントフェンダ26に覆われている。スイングアーム18はボディフレーム13から車両後方に向かって延びている。スイングアーム18の後端には後輪28が回転可能に支持され、後輪28の上方はリヤフェンダ29に覆われている。後輪28にはチェーンドライブ式の変速機構を介してエンジン16が連結されており、変速機構を介してエンジン16からの動力が後輪28に伝達されている。
【0014】
鞍乗型車両1の車体フレーム10には、車体外装として各種カバー部材が装着されている。例えば、車両前部の前面側はフロントカウル31に覆われており、フロントカウル31の上部にはスクリーン33が設けられている。また、車両前部の側面側は一対のサイドカウル32に覆われている。フロントカウル31、スクリーン33、一対のサイドカウル32によって走行風から受ける空気抵抗を減らす流線形が車両前部に形成される。これらカバー部材が乗員の前方を覆って風除けになることで、車両走行中に乗員に対する走行風の当たりが大幅に軽減される。
【0015】
しかしながら、フロントカウル31、スクリーン33、一対のサイドカウル32によって走行風から乗員が完全に保護されるわけではない。例えば、一対のサイドカウル32からはみ出した乗員の肘、膝、太腿、脛等の部位には走行風が当たる。サイドカウル32の外面付近から離れるのに伴って走行風が強くなり、局所的に強い風圧を受けることで乗員が不快に感じ易い。そこで、本実施例では、サイドカウル32にアッパエッジカバー42及びリヤエッジカバー43を設けて、サイドカウル32の外面に沿った走行風の流れを車幅方向の外側に向けて拡散して乗員への走行風の当たりを和らげている。
【0016】
以下、図2から図7を参照して、鞍乗型車両のサイドカウルについて説明する。図2は、本実施例の車両前部の側面図である。図3は、本実施例の車両前部の上面図である。図4は、本実施例のリヤエッジカバーを表面側から見た斜視図である。図5は、本実施例のリヤエッジカバーを裏面側から見た斜視図である。図6は、本実施例のサイドカウルの後端付近の斜視図である。図7は、本実施例のリヤエッジカバーの後端付近の断面図である。
【0017】
図2及び図3に示すように、フロントカウル31の上部にはスクリーン33が設けられ、フロントカウル31の左縁及び右縁にはフロントフォーク23の側方を覆う一対のサイドカウル32が設けられている。フロントカウル31は、スクリーン33の基端側を覆うと共に、中央のヘッドランプ34の周囲を覆うように形成されている。フロントカウル31と一対のサイドカウル32の間にはターンシグナルランプ35が設けられている。ヘッドランプ34の前端からスクリーン33の後端に向かって上り勾配の曲線を描き、かつヘッドランプ34の前端からサイドカウル32の後端に向かって車幅を広げる曲線を描くような流線形が形成されている。
【0018】
サイドカウル32のカウル本体41はフロントカウル31から車両後方に広がっている。カウル本体41の上縁は、ハンドル19の前方に位置しており、車両側面視にて車両後方に向かって下り勾配を描くように傾斜している。カウル本体41の上縁には、この上縁に沿ってアッパエッジカバー42が設けられている。アッパエッジカバー42は、カウル本体41の外面(カウル外面)から突き出して、カウル本体41の外面に沿った走行風の流れを車幅方向の外側に向けている。ハンドル19の前方で走行風が拡散されて、乗員に対する走行風の当たりが和らげられる。
【0019】
サイドカウル32の車両後方にはサイドカバー36が設けられている。カウル本体41の後縁は車両側面視にて弧を描くように切り欠かれて、サイドカウル32とサイドカバー36の間に排風口が形成されている。カウル本体41の後縁は排風口の開口縁になっており、この後縁に沿ってリヤエッジカバー43が設けられている。リヤエッジカバー43は、カウル本体41の外面から突き出して、カウル本体41の外面に沿った走行風の流れを車幅方向の外側に向けている。排風口の前方で走行風が拡散されて、乗員に対する走行風の当たりが和らげられる。
【0020】
走行風がカウル本体41の外面に沿って前方から後方に流れる際に、車幅が最大になる部位で走行風が最も剥離し易い。このため、カウル本体41の上部において車両前後方向で車幅が最大となる上縁にアッパエッジカバー42が設けられ、カウル本体41の下部において車両前後方向で車幅が最大となる後縁にリヤエッジカバー43が設けられている。これら車幅が最大となる部位にアッパエッジカバー42及びリヤエッジカバー43が設けられることで、走行風が効果的に拡散されて乗員に対する走行風の当たりがより和らげられる。
【0021】
また、カウル本体41の上縁はアッパエッジカバー42によって補強され、カウル本体41の後縁はリヤエッジカバー43によって補強されている。特に、排風熱により剛性が低下し易い排風口の開口縁に沿ってリヤエッジカバー43が設けられることで、サイドカウル32の剛性が高められて振動及び撓みが効果的に抑えられている。さらに、排風口には、サイドカウル32の内側を通過した走行風を整流するルーバー部材37が設けられている。サイドカウル32がルーバー部材37を介してサイドカバー36に連結されることで、サイドカウル32の剛性が高められている。
【0022】
図4及び図5に示すように、リヤエッジカバー43は、車両側面視にて弧を描くように湾曲している。リヤエッジカバー43は、カウル本体41(図6参照)の後縁に取り付けられる平板状の取付部51と、車幅方向の外側に向かって膨出させた長尺状の凸部52とを有している。取付部51と凸部52の境界部位には、車幅方向の内側に向けて窪ませた浅溝53が形成されている。リヤエッジカバー43には、この浅溝53に沿って複数の掛け止め穴54と複数の位置決め穴55が形成されている。また、リヤエッジカバー43の両端位置及び屈曲位置の近くに複数の固定穴56が形成されている。
【0023】
凸部52の断面は、車両前方を向いた前辺57と車両後方を向いた後辺58によってV字状に形成されている。凸部52の前辺57は車両後方に向かって車幅を広げるように傾斜し、凸部52の後辺58は前辺57の後端から車幅方向の内側に広がっている(図7参照)。前辺57はリヤエッジカバー43の長手方向の両端位置から屈曲位置に向かって幅広になっており、後辺58はリヤエッジカバー43の長手方向の両端から屈曲位置に向かって幅広になっている。すなわち、リヤエッジカバー43の屈曲位置のV字断面が最も大きくなり、この屈曲位置の剛性が高められている。
【0024】
図6及び図7に示すように、リヤエッジカバー43の取付部51がカウル本体41の後縁の内側に取り付けられて、カウル本体41の後縁に沿ってリヤエッジカバー43の凸部52が露出される。車両側面視にてリヤエッジカバー43の凸部52が湾曲しているため、サイドカウル32の剛性が高められて変形が抑えられる。さらに、凸部52の前辺57の傾斜方向の幅が、凸部52の後辺58の車幅方向の幅よりも大きく形成されている(特に図7参照)。これにより、車両側面視にて凸部52の前後方向の幅が大きくなって、特にサイドカウル32の前後方向の曲げに対する剛性が高められる。
【0025】
凸部52の前辺57の前縁はカウル本体41の外面よりも車幅方向の内側に入り込み、凸部52の前辺57の後縁はカウル本体41の外面よりも車幅方向の外側に突き出している。このため、凸部52とカウル本体41の境界には、車幅方向の内側に窪んだ段差状の凹部59が形成されている。なお、カウル本体41の外面よりも車幅方向の内側とは、カウル本体41の外面を延ばした延長線L1(図7参照)よりも車幅方向の内側を示している。カウル本体41の外面よりも車幅方向の外側とは、カウル本体41の外面を延ばした延長線L1よりも車幅方向の外側を示している。
【0026】
カウル本体41の外面に沿った走行風の流れに対して凹部59及び凸部52が非流線形に形成され、凹部59及び凸部52においてカウル本体41の外面から走行風が剥離し易くなっている。特に、凸部52の傾斜した前辺57の幅が大きいため、走行風が前辺57に当たって車幅方向の外側に弾かれて剥離し易くなる。さらに、凸部52の前辺57に対して後辺58が鋭角に屈曲しているため、この屈曲部分において走行風が剥離し易くなる。車両上面視にて、車両後方に向かって車幅方向の外側に広がるように走行風が剥離されて、乗員への走行風の当たりが和らげられる。
【0027】
カウル本体41と凸部52の境界に凹部59が設けられることで、走行風を剥離させるのに必要な凹部59と凸部52の高低差が確保される。凹部59を設けずに凸部52だけで走行風を剥離させるのに必要な高低差を確保する構成と比較して、カウル本体41の外面からの凸部52の突き出し量が小さくなる。よって、カウル本体41にリヤエッジカバー43を設けても、鞍乗型車両1(図1参照)の車幅方向の寸法増加が最小限に抑えられている。カウル本体41の外面からの凸部52の突き出し量が小さく、凸部52の前辺57が傾斜しているため、凸部52が走行風から受ける空気抵抗が大幅に増加することがない。
【0028】
車両側面視にて、凸部52が車両前方に弧を描くように湾曲して、凸部52の長手方向の途中部分が車両前方に迫り出している。凸部52の上半部は車両後方に向かって上り勾配で傾斜しており、凸部52の下半部は車両後方に向かって下り勾配で傾斜している(図2参照)。凸部52の延在方向に沿って走行風が流れ易くなり、走行風が上下方向に拡散されることで、乗員への走行風の当たりが和らげられる。凸部52に当たった走行風が斜め上方及び斜め下方に逃げることで、凸部52が走行風から受ける空気抵抗が小さくなる。なお、車両側面視にて、凸部52が車両前方に頂部を向けたV字状に湾曲していてもよい。
【0029】
なお、図示はしないが、アッパエッジカバー42についても、リヤエッジカバー43と同様に形成されている。すなわち、リヤエッジカバー43は、平板状の取付部と断面視V字状の凸部を有している。カウル本体41の後縁にアッパエッジカバー42が取り付けられ、カウル本体41とアッパエッジカバー42の凸部の境界に段差状の凹部が形成されている。アッパエッジカバー42の凸部は車両後方に向かって下り勾配に湾曲している。これにより、アッパエッジカバー42によって乗員への走行風の当たりが和らげられ、アッパエッジカバー42の空気抵抗が抑えられている。
【0030】
このように、カウル本体41にリヤエッジカバー43及びアッパエッジカバー42が取り付けられることで、リヤエッジカバー43及びアッパエッジカバー42の凸部52によって走行風が車幅方向及び上下方向に拡散される。カウル本体41、リヤエッジカバー43、アッパエッジカバー42が別体に形成されることで、凸部52の形状や突き出し量の設計自由度が向上され、カウル本体41の形状がシンプルになって成形し易くなる。また、カウル本体41、リヤエッジカバー43、アッパエッジカバー42の色が変わることで、サイドカウル32にアクセントが付いて外観性が向上される。
【0031】
図8を参照して、サイドカウルの外面における走行風の流れについて説明する。図8は、サイドカウルの外面における走行風の風速分布を示す図である。なお、図8A及び図8Bは比較例のサイドカウルにおける走行風の風速分布を示し、図8Cは本実施例のサイドカウルにおける走行風の風速分布を示している。ここでは、リヤエッジカバー付近の走行風の風速分布を示すが、アッパエッジカバー付近の走行風の風速分布も同様である。
【0032】
図8Aに示すように、比較例のサイドカウル61にはリヤエッジカバーが設けられていない。車両走行中には、サイドカウル61の外面に沿って走行風Fが流れ、サイドカウル61の後縁で走行風Fの流れが剥離する。サイドカウル61の後縁から走行風Fが剥離するが、走行風Fの拡がり幅W1が大きくなることがない。サイドカウル61の外面から離れるのに伴って風速が急激に上昇して、サイドカウル61の外面付近と外面から遠い位置とでは風速に大きな差が生じる。この走行風Fが乗員の肘Eに当たると、車幅方向にて肘Eの内側と外側に受ける風圧差が大きくなって乗員が不快に感じ易い。
【0033】
このように、サイドカウル61から剥離した走行風Fが拡散されずに、乗員の肘Eに対してダイレクトに走行風Fが当たっている。特に、図8Bに示すように、走行風Fの境界が肘Eの先端に一致すると、走行風Fが肘Eの先端に集中して肘Eの先端が強い風圧を受ける。このため、肘Eが強い風圧を局所的に受けるため、高速走行時に乗員によるハンドル操作が走行風Fによって阻害される。ここでは、乗員の肘Eに風圧を受ける一例について説明しているが、サイドカウル61からはみ出した膝、太腿、脛等の他の部位についても風圧を強く受ける。
【0034】
これに対して、図8Cに示すように、本実施例のサイドカウル32はカウル本体41にリヤエッジカバー43が設けられている。車両走行中には、カウル本体41の外面に沿って走行風Fが流れ、リヤエッジカバー43で走行風Fの流れが剥離する。リヤエッジカバー43の後方で走行風Fが拡散されて走行風Fの拡がり幅W2が大きくなる。カウル本体41の外面から離れるのに伴って風速が緩やかに上昇するので、カウル本体41の外面付近と外面から遠い位置とでは風速に大きな差が生じない。この走行風Fが乗員の肘Eに当たると、車幅方向にて肘Eの内側と外側に受ける風圧差が小さくなって乗員が不快に感じ難い。すなわち、乗員が局所的に強い風圧を受けることなく、走行風によってハンドル操作が阻害されない。
【0035】
以上、本実施例によれば、サイドカウル32の外面に沿う走行風Fの流れがリヤエッジカバー43及びアッパエッジカバー42で剥離される。リヤエッジカバー43及びアッパエッジカバー42の後方で走行風Fが車幅方向の外側に拡散されるため、サイドカウル32からはみ出した乗員の部位への走行風Fの当たりが和らげられる。サイドカウル32によって空気抵抗が減らされて走行が安定し、乗員への局所的な強い風圧が抑えられて運転時の快適性が損なわれることがない。
【0036】
なお、本実施例では、カウル本体において車両前後方向で車幅が最大となる部位にリヤエッジカバーが設けられる構成にしたが、リヤエッジカバーは別の部位に設けられていてもよい。例えば、図9に示すように、カウル本体71の外面に車両後方に向かって車幅が狭くなる幅狭領域72が形成され、この幅狭領域72にリヤエッジカバー73が設けられていてもよい。なお、幅狭領域72の後方にリヤエッジカバー73が設けられていてもよい。これにより、リヤエッジカバー73の凸部74の突き出し量を大きくしても車幅を抑えることができ、カウル本体71の外面から大きく突き出した凸部74によって走行風の流れがより剥離し易くなる。同様に、アッパエッジカバーについても、幅狭領域又は幅狭領域の後方に設けられてもよい。
【0037】
また、本実施例では、カウル本体にリヤエッジカバー及びアッパエッジカバーが設けられて、リヤエッジカバー及びアッパエッジカバーに凸部が形成される構成にしたが、カウル本体に凸部が形成されてもよい。これにより、部品点数を低減することができる。
【0038】
また、本実施例では、カウル本体にリヤエッジカバー及びアッパエッジカバーの両方が設けられたが、カウル本体にリヤエッジカバー及びアッパエッジカバーのいずれか一方が設けられていてもよい。
【0039】
また、本実施例では、リヤエッジカバー及びアッパエッジカバーの凸部の断面がV字状に形成されたが、凸部の断面形状は特に限定されない。凸部は、カウル本体の外面から車幅方向の外側に突き出すように形成されていればよい。
【0040】
また、本実施例では、カウル本体の後縁のリヤエッジカバーに凸部が形成され、カウル本体の上縁のアッパエッジカバーに凸部が形成されたが、サイドカウルの外面を流れる走行風の下流側に凸部が設けられていればよい。
【0041】
また、本実施例では、車両側面視にてリヤエッジカバー及びアッパエッジカバーの凸部が弧を描くように湾曲しているが、凸部は直線的に形成されていてもよい。
【0042】
また、本実施例では、カウル本体とリヤエッジカバーの境界に凹部が形成されたが、カウル本体とリヤエッジカバーの境界に凹部が形成されていなくてもよい。同様に、カウル本体とアッパエッジカバーの境界に凹部が形成されていなくてもよい。このような構成でも、サイドカウルからはみ出した乗員の部位への走行風の当たりを和らげることができる。
【0043】
また、本実施例の鞍乗型車両のサイドカウルは、ツアラータイプの自動二輪車に限らず、他のタイプの自動二輪車に採用されてもよい。また、鞍乗型車両とは、乗員がシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、乗員がシートに跨らずに乗車するスクータタイプの車両も含んでいる。
【0044】
以上の通り、本実施例のサイドカウル(32)は、鞍乗型車両(1)の車両側部を覆うサイドカウルであって、カウル外面を流れる走行風の下流側に、上下方向に長く、カウル外面よりも車幅方向の外側に突き出した凸部(52)が形成されている。この構成によれば、カウル外面に沿う走行風の流れが凸部で剥離される。凸部の後方で走行風が拡散されるため、サイドカウルからはみ出した乗員の部位への走行風の当たりが和らげられる。サイドカウルによって空気抵抗が減らされて走行が安定し、乗員への局所的な強い風圧が抑えられて運転時の快適性が損なわれることがない。
【0045】
本実施例のサイドカウルにおいて、凸部は、カウル外面において車両前後方向で車幅が最大となる部位に形成されている。この構成によれば、カウル外面の最も剥離し易い部位で凸部によって走行風の流れを剥離することができる。
【0046】
本実施例のサイドカウルにおいて、カウル外面には、車両後方に向かって車幅が狭くなる幅狭領域(72)があり、凸部は、幅狭領域又は幅狭領域の後方に形成されている。この構成によれば、凸部の突き出し量を大きくしても車幅を抑えることができ、カウル外面から大きく突き出した凸部によってカウル外面に沿った走行風の流れがより剥離し易くなる。
【0047】
本実施例のサイドカウルにおいて、カウル外面と凸部の境界には、車幅方向の内側に窪んだ凹部(59)が形成されている。この構成によれば、凹部と凸部によってカウル外面に沿った走行風の流れがより剥離し易くなる。
【0048】
本実施例のサイドカウルにおいて、車両側面視にて、凸部が湾曲している。この構成によれば、湾曲した凸部によってサイドカウルの剛性が高められ、サイドカウルの変形が抑えられる。
【0049】
本実施例のサイドカウルにおいて、車両側面視にて、凸部の長手方向の途中部分が車両前方に迫り出すように湾曲している。この構成によれば、凸部に沿って走行風が上下方向に拡散されて、乗員への走行風の当たりが和らげられる。
【0050】
本実施例のサイドカウルにおいて、カウル外面の後縁は排風口の開口縁になっており、当該カウル外面の後縁に沿って凸部が形成されている。この構成によれば、排風口の前方で走行風が拡散されて、乗員に対する走行風の当たりが和らげられる。比較的振動し易い排風口の開口縁に沿って凸部が設けられることで、サイドカウルの剛性が高められて撓みが抑えられる。
【0051】
本実施例のサイドカウルにおいて、カウル外面の上縁はハンドル(19)の前方に位置しており、当該カウル外面の上縁に沿って凸部が形成されている。この構成によれば、ハンドルの前方で走行風が拡散されて、乗員に対する走行風の当たりが和らげられる。
【0052】
本実施例のサイドカウルにおいて、凸部の断面が、車両前方を向いた前辺(57)と車両後方を向いた後辺(58)によってV字状に形成されている。この構成によれば、凸部のV字状の断面によってサイドカウルの剛性が高められ、サイドカウルの変形が抑えられる。
【0053】
本実施例のサイドカウルにおいて、前辺が車両後方に向かって車幅を広げるように傾斜し、当該前辺の後端から後辺が車幅方向の内側に広がり、前辺の傾斜方向の幅が後辺の車幅方向の幅よりも大きく形成されている。この構成によれば、凸部の前辺の幅が広く形成されることで、車両側面視にて凸部の前後方向の幅が大きくなって、特にサイドカウルの前後方向の変形に対する剛性が高められる。
【0054】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0055】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0056】
1 :鞍乗型車両
19 :ハンドル
32 :サイドカウル
41、71:カウル本体
42 :アッパエッジカバー
43、73:リヤエッジカバー
52、74:凸部
57 :前辺
58 :後辺
59 :凹部
72 :幅狭領域
F :走行風
図1
図2
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図5
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図9