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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】遠心式血液ポンプ
(51)【国際特許分類】
   A61M 60/205 20210101AFI20240910BHJP
   A61M 60/419 20210101ALI20240910BHJP
   F04D 13/06 20060101ALI20240910BHJP
   F04D 29/42 20060101ALI20240910BHJP
   F04D 29/22 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
A61M60/205
A61M60/419
F04D13/06 D
F04D13/06 E
F04D29/42 D
F04D29/22 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020155132
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049096
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000153030
【氏名又は名称】株式会社ジェイ・エム・エス
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】宮村 太基
【審査官】白土 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開平5-212112(JP,A)
【文献】特開2008-183229(JP,A)
【文献】特開2002-85554(JP,A)
【文献】国際公開第2012/115155(WO,A1)
【文献】米国特許第5746575(US,A)
【文献】特開2018-61600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/419
A61M 60/232
A61M 60/81
A61M 60/812
A61M 60/806
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面部と下面部と側面部とを有し血液が収容される血液収容部と、前記血液収容部に連通して形成され上方に向けて開口する入口ポートと、前記血液収容部に連通して形成され側方に向けて開口する出口ポートと、を備えるハウジングと、
前記ハウジングの内部に配置され、ベースと、前記ベースの上方に離間して配置され径方向の中心に形成される血液導入開口を有するトップシュラウドと、前記ベースと前記トップシュラウドとの間に形成され前記血液導入開口から導入された血液を径方向の外側に向けて誘導する複数の誘導部と、下端部が前記ハウジングの前記下面部に軸支され回転軸を中心に回転可能な回転軸部材と、前記ベースの下部に配置される第1磁性体と、を有するインペラと、
前記血液収容部の下方に配置される磁気駆動部であって、前記第1磁性体の下方に配置され前記第1磁性体との磁気結合により結合される第2磁性体を有し、前記第1磁性体と前記第2磁性体とが上下方向に引き合うように作用する磁気カップリング力により磁気結合された状態で前記回転軸を中心に前記インペラを回転駆動させる磁気駆動部と、を備え、
前記トップシュラウドの上面と前記血液収容部の前記上面部の下面とは、前記トップシュラウドの径方向の外側から内側に向かうに従って狭まるように形成され
前記トップシュラウドの上面と前記血液収容部の前記上面部の下面との角度差は、2.5~4.0°である、遠心式血液ポンプ。
【請求項2】
前記トップシュラウドの上面は、径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成され、
前記血液収容部の前記上面部の下面は、径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成される、請求項1に記載の遠心式血液ポンプ。
【請求項3】
前記インペラの下面と前記血液収容部の下面部の上面とは、平行に配置される、請求項1又は2に記載の遠心式血液ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、遠心式血液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、心臓手術において、患者の心肺機能を一時的に代替するために、人工心肺回路などの体外血液循環回路が用いられる。体外血液循環回路は、回路に血液を流すための血液ポンプを備える。血液ポンプとして、ポンプ室(血液収容部)内でインペラ(羽根車)を回転させることにより、血液に遠心力を与えて送液する遠心式血液ポンプが知られている。
【0003】
体外血液循環回路において、長期にわたって遠心式血液ポンプを用いて血液を循環させた場合に、遠心式血液ポンプ内で血栓が形成されることがある。血栓が形成されると、血液の流れが悪くなり、遠心式血液ポンプの性能の低下を招く可能性がある。
【0004】
従来、遠心式血液ポンプにおいて、ハウジング内に、上部軸受け及び下部軸受けに軸支されたインペラが回転可能に配置される構造が開示されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の遠心式血液ポンプのハウジングには、上部に配置される入口ポートと、側部に配置される出口ポートとが設けられている。入口ポートからハウジング内に流入した血液は、インペラの上部軸受けを通り、インペラの回転による遠心力を受けて径方向の外側に押し流される。径方向の外側に押し流された血液は、出口ポートからハウジングの外部に排出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-193658号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の遠心式血液ポンプにおいては、インペラが、上部軸受け及び下部軸受けに軸支されており、入口ポートからハウジング内に流入した血液が、上部軸受け部において滞留することで、血栓が形成される可能性がある。そのため、血栓の形成を抑制できることが望まれている。
【0007】
本発明は、血栓の形成を抑制できる遠心式血液ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上面部と下面部と側面部とを有し血液が収容される血液収容部と、前記血液収容部に連通して形成され上方に向けて開口する入口ポートと、前記血液収容部に連通して形成され側方に向けて開口する出口ポートと、を備えるハウジングと、前記ハウジングの内部に配置され、ベースと、前記ベースの上方に離間して配置され径方向の中心に形成される血液導入開口を有するトップシュラウドと、前記ベースと前記トップシュラウドとの間に形成され前記血液導入開口から導入された血液を径方向の外側に向けて誘導する複数の誘導部と、下端部が前記ハウジングの前記下面部に軸支され回転軸を中心に回転可能な回転軸部材と、前記ベースの下部に配置される第1磁性体と、を有するインペラと、前記血液収容部の下方に配置される磁気駆動部であって、前記第1磁性体の下方に配置され前記第1磁性体との磁気結合により結合される第2磁性体を有し、前記第1磁性体と前記第2磁性体とが上下方向に引き合うように作用する磁気カップリング力により磁気結合された状態で前記回転軸を中心に前記インペラを回転駆動させる磁気駆動部と、を備え、前記トップシュラウドの上面と前記血液収容部の前記上面部の下面とは、前記トップシュラウドの径方向の外側から内側に向かうに従って狭まるように形成される、遠心式血液ポンプに関する。
【0009】
また、前記トップシュラウドの上面は、径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成され、前記血液収容部の前記上面部の下面は、径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成されることが好ましい。
【0010】
また、前記トップシュラウドの上面と前記血液収容部の前記上面部の下面との角度差は、2.5~4.0°であることが好ましい。
【0011】
また、前記インペラの下面と前記血液収容部の下面部の上面とは、平行に配置されることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、血栓の形成を抑制できる遠心式血液ポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態に係る遠心式血液ポンプの斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】遠心式血液ポンプのインペラを上方側から見た斜視図である。
図4】遠心式血液ポンプのインペラを下方側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の遠心式血液ポンプ1の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明の遠心式血液ポンプ1は、例えば、人工心肺回路などの体外血液循環回路に用いられる血液を循環させる血液ポンプである。
【0015】
図1及び図2に示すように、遠心式血液ポンプ1は、ハウジング10と、ハウジング10の内部に収容されたインペラ20(羽根車)と、駆動装置30(磁気駆動部)と、を備える。インペラ20は、駆動装置30の駆動力により、ポンプ室11内において、回転軸Jを中心に回転可能である。
【0016】
ハウジング10は、図1及び図2に示すように、ポンプ室11(血液収容部)と、入口ポート17と、出口ポート18と、を有する。入口ポート17及び出口ポート18は、ポンプ室11の内部に連通する。
【0017】
ポンプ室11には、インペラ20が収容され、入口ポート17から供給された血液が一時的に収容される。ポンプ室11に収容された血液は、インペラ20が回転されることで、遠心力により出口ポート18を介して外部に排出される。ポンプ室11は、図2に示すように、上面部12と、下面部13と、周壁部14(側面部)と、下部軸受け15と、を有する。
【0018】
上面部12は、図2に示すように、ポンプ室11の上方に配置される。上面部12は、円環状の板状に形成され、径方向の内側から外側に向かうに従って下るように傾斜する。上面部12の下面121は、径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成される。
【0019】
上面部12の中央部の上部には、入口ポート17が接続される。入口ポート17は、ポンプ室11の内部に連通して形成され、上方に向けて開口する。入口ポート17は、ポンプ室11の上部から、回転軸部材21の回転軸Jと同方向に上方に延びる。
【0020】
下面部13は、上面部12の下方に離間して配置される。下面部13は、中央に形成され上方に突出する中央凸部131と、中央凸部131の外側に円環状に形成される円環傾斜部132と、を有する。
【0021】
中央凸部131の径方向の中央には、下部軸受け15が配置される。下部軸受け15には、後述するインペラ20の回転軸部材21の下端部211が挿入される。下部軸受け15は、回転軸部材21の下端部211を、回転軸Jを中心に回転可能に軸支する。
【0022】
円環傾斜部132は、径方向の内側から外側に向かうに従って下り傾斜の円環状に形成される。円環傾斜部132の上面132aは、下面部13の径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成される。
【0023】
周壁部14は、図2に示すように、ポンプ室11の周壁を構成し、上面部12の径方向の外側の端部から下方に延びる円筒壁状に形成される。周壁部14は、上部周壁部141と、下部周壁部142と、を有する。
【0024】
上部周壁部141は、上面部12の径方向の端部と下面部13の周方向の端部を接続して上下方向に延びる。上部周壁部141の内面は、縦断面において、上部側において径方向の外側に円弧状に窪んで形成されると共に、下部側において径方向の外側から内側に向かうに従って下るように傾斜して形成される。
【0025】
図1に示すように、上部周壁部141の外側面には、出口ポート18が接続される。出口ポート18は、ポンプ室11の内部に連通して形成され、側方に向けて開口する。出口ポート18は、ポンプ室11の上部周壁部141において、回転軸部材21の回転軸Jを中心とする円の接線に沿って水平方向に延びる。
【0026】
下部周壁部142は、上部周壁部141の下端から下方に延びる。下部周壁部142は、上部周壁部141の厚さよりも厚い円筒状に形成される。下部周壁部142の内部には、後述する駆動装置30のロータ31が配置される。
【0027】
インペラ20は、図2に示すように、ハウジング10のポンプ室11の内部に、回転軸Jを中心に回転可能に配置される。インペラ20は、図2図4に示すように、回転軸Jを中心に回転可能な回転軸部材21と、回転軸部材21に連結されるインペラ本体22と、複数のインペラ側磁石27(第1磁性体)と、を有する。インペラ本体22は、ベース23と、トップシュラウド24と、複数のベーン25(ガイド部材)(第1ベーン251,第2ベーン252)と、軸連結部253と、を有する。
【0028】
ベース23は、インペラ本体22の下部に配置される。ベース23は、水平上面板231と、傾斜面板232と、円環凸部233と、を有する。
【0029】
水平上面板231は、径方向の中央において水平の円環状に形成される。水平上面板231の径方向の中央には、上下方向に貫通する貫通穴231aが形成される。貫通穴231aには、回転軸部材21が貫通して配置されている。
傾斜面板232は、水平上面板231の径方向の外側の端部から、径方向の外側に向かって下り傾斜で傾斜する円環状に形成される。
【0030】
円環凸部233は、傾斜面板232の径方向の外側の端部の下部において、ベース23の周方向に沿って円環状に延びると共に下方に突出する。円環凸部233は、ベース23の径方向の内側から外側に向かうに従って下るように傾斜して形成される。
【0031】
円環凸部233の下面233aは、ベース23の径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成される。図2に示すように、円環凸部233の下面233aは、円環傾斜部132の上面132aに平行に配置されている。
【0032】
円環凸部233の内部には、複数のインペラ側磁石27が配置されている。複数のインペラ側磁石27は、ベース23の径方向の外側の下部において、ベース23の周方向に沿って等間隔に配置されている。複数のインペラ側磁石27は、それぞれ、軸方向の長さが直径よりも短い円柱状に形成され、上面及び下面が、ベース23の径方向の内側から外側に向かうに従って下るように傾斜して配置される。
【0033】
トップシュラウド24は、図2図4に示すように、ベース23の上方に離間した位置において、ベース23に対向して配置される。トップシュラウド24は、板状の円環状に形成される。トップシュラウド24は、径方向の内側から外側に向かうに従って下るように傾斜する。トップシュラウド24の上面242は、径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成される。
【0034】
トップシュラウド24の径方向の中心には、トップシュラウド24を上下方向に貫通する円形の血液導入開口241が形成されている。血液導入開口241には、回転軸部材21の上部が貫通して配置され、入口ポート17からポンプ室11に供給された血液が流通する。
【0035】
トップシュラウド24の外径は、図2に示すように、ベース23の上面の外径とほぼ同じ外径で形成される。トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との間の隙間S1は、トップシュラウド24の径方向の内側から外側に向かうに従って下る下り傾斜で形成され、径方向の内側から外側に向かうに従って広がるように形成される。言い換えると、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との間の隙間S1は、トップシュラウド24の径方向の外側から内側に向かうに従って狭まるように形成される。
【0036】
トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θは、2.5~4.0°であることが好ましく、3.0~3.5°であることがより好ましい。本実施形態においては、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを3.0°に設定した。トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θが、2.5~4.0°であることが好ましい理由については後述する。
【0037】
複数のベーン25は、図2図4に示すように、ベース23とトップシュラウド24との間に配置される。複数のベーン25は、それぞれ、ベース23とトップシュラウド24とを接続するように上下方向に延びると共に、径方向に延びる板状に形成される。複数のベーン25は、トップシュラウド24の血液導入開口241から導入される血液を径方向の外側に向けてガイドする。本実施形態においては、複数のベーン25は、3枚の第1ベーン251と、3枚の第2ベーン252と、である。
【0038】
第1ベーン251及び第2ベーン252は、トップシュラウド24の周方向に等間隔で交互に配置されている。第1ベーン251及び第2ベーン252の下端縁は、ベース23の上面に固定される。第1ベーン251及び第2ベーン252の上端縁はトップシュラウド24の下面に固定される。これにより、ベース23及びトップシュラウド24は、第1ベーン251及び第2ベーン252を介して一体化される。
【0039】
第1ベーン251及び第2ベーン252の径方向の外側の端部は、径方向において、ベース23及びトップシュラウド24の外側の端部と略同じ位置まで延びる。
3つの第1ベーン251それぞれの径方向の内側の端部は、径方向の中央に配置される軸連結部253に接続されている。3つの第1ベーン251それぞれの内側端を接続する軸連結部253には、上下方向に延びる回転軸部材21が貫通した状態で連結される。
3つの第2ベーン252それぞれの径方向の内側の端部は、回転軸部材21には連結されておらず、径方向において、トップシュラウド24の血液導入開口241の外側の端部と略同じ位置まで延びる。
【0040】
上下に対向して配置されるベース23とトップシュラウド24との間の空間は、図3に示すように、周方向に隣り合う第1ベーン251及び第2ベーン252によって、周方向において6分割される。これにより、ベース23とトップシュラウド24との間には、6つの誘導路26(誘導部)が形成される。
【0041】
6つの誘導路26は、インペラ20の中心から径方向に沿って放射状に延びる。誘導路26は、径方向の中央において、上部側が、トップシュラウド24の径方向の中央に形成される血液導入開口241に連通すると共に、下部側が、ベース23の径方向の中央に形成される貫通穴231aに連通する。誘導路26は、インペラ20の径方向の外側の端部において、径方向の外側に向けて開口している。誘導路26は、ベース23とトップシュラウド24との間に血液導入開口241から導入された血液を径方向の外側に誘導する。
【0042】
回転軸部材21は、図2に示すように、トップシュラウド24の径方向の中心部分を上下方向に貫通して配置され、上下方向に延びる。回転軸部材21は、3つの第1ベーン251の内側の端部を接続する軸連結部253に貫通した状態で、軸連結部253に連結される。
【0043】
回転軸部材21の下端部211は、ハウジング10の下面部13に配置される下部軸受け15に軸支されている。下部軸受け15は、ポンプ室11の下面部13の中央に設けられている。
【0044】
回転軸部材21の上端部212は、図2に示すように、軸受けに支持されておらず、自由端である。つまり、本実施形態の遠心式血液ポンプ1は、下部軸受け15の一点のみでインペラ20を支持する、いわゆる、モノピボット構造の軸受け構造を備える。本実施形態においては、回転軸部材21の上端部212が軸受けにより支持されていないため、回転軸部材21の上端部212においては、血液の滞留が起こりにくく、血液のよどみが低減される。よって、上端部212の近傍において、血栓は形成されにくい。
【0045】
駆動装置30は、ハウジング10の下方に配置される。駆動装置30は、ロータ31と、回転軸Jを中心にロータ31を回転させることが可能な駆動軸32と、を有する。駆動軸32は、ロータ31の下面から可能に延びる。駆動軸32は、モータ等の回転駆動源に連結されて回転駆動される。ロータ31は、円錐台311と、円錐台311の上面に配置された複数の駆動側磁石312(第2磁性体)と、を有する。
【0046】
複数の駆動側磁石312は、ハウジング10の下方において、ハウジング10の内部に収容されたインペラ20の複数のインペラ側磁石27と対向して、インペラ側磁石27の下方に配置される。複数の駆動側磁石312は、インペラ側磁石27と同数配置され、円錐台311の周方向に等間隔で配置されている。複数の駆動側磁石312は、それぞれ、軸方向の長さが直径よりも短い円柱状に形成され、上面及び下面が、円錐台311の径方向の内側から外側に向かうに従って下るように傾斜して配置される。
【0047】
回転軸Jを中心にロータ31を回転させると、駆動装置30は、インペラ側磁石27と駆動側磁石312とが上下方向に引き合うように作用する磁気カップリング力により磁気結合された状態で、回転軸Jを中心にインペラ20を回転駆動させる。例えば、インペラ側磁石27と駆動側磁石312との間の磁気カップリング力は、12Nである。
【0048】
以上の遠心式血液ポンプ1の動作について説明する。
駆動装置30のロータ31が回転軸Jを中心に回転されることで、駆動側磁石312とインペラ側磁石27とが上下方向に引き合うように作用する磁気カップリング力により磁気結合された状態で、インペラ20は、ハウジング10の内部において、回転軸Jを中心に回転される。これにより、インペラ側磁石27と駆動側磁石312とが磁気カップリング力により磁気結合された状態で、インペラ20は安定的に回転される。
【0049】
この状態で、ポンプ室11の内部には、入口ポート17から、血液が供給される。入口ポート17から供給された血液は、トップシュラウド24の径方向の中央に形成される血液導入開口241から、インペラ20の6つの誘導路26に導入される。
【0050】
6つの誘導路26内に導入された血液は、インペラ20の回転による遠心力を受けて、誘導路26内を径方向の内側から外側に向かって移動して、誘導路26の径方向の外側の端部からポンプ室11へ流出され、出口ポート18を介して外部に排出される。
【0051】
また、誘導路26の径方向の外側の端部からポンプ室11へ流出された血液は、ベース23の円環凸部233の下面233aとポンプ室11の下面部13の上面132aとの間の隙間S2を通って、ベース23の貫通穴231a側に移動される。ベース23の下方の隙間S2を通って貫通穴231a側に移動された血液は、ベース23の貫通穴231aを介して誘導路26に導入される。そのため、ベース23の下方側を移動してベース23の貫通穴231aに戻る血液の流れ(いわゆる二次流れ)が生じる。これにより、インペラ20を押し上げる力が生じる。
【0052】
また、誘導路26の径方向の外側の端部からポンプ室11へ流出された血液は、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との間の隙間S1を通って、血液導入開口241側に移動される。トップシュラウド24の上方の隙間S1を通って血液導入開口241側に移動された血液は、トップシュラウド24の血液導入開口241を介して誘導路26に導入される。
【0053】
ここで、隙間S1は、トップシュラウド24の径方向の外側から内側に向かうに従って狭まるように形成される。トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121とは角度差θが設けられている。そのため、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との間の隙間S1を通る血液により、トップシュラウド24を上方から下方に押し下げる圧力が生じる。隙間S1を通る血液の圧力により、インペラ20が下方に押し付けられ、インペラ20の浮上が抑制される。
【0054】
トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121と角度差θについて説明する。トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θについて、インペラ20の浮上を抑制するという観点と、耐溶血性の観点とから説明する。
【0055】
インペラ20の回転軸部材21は、上端部212が軸支されずに、下端部211が軸支されている。これにより、回転軸部材21の上端部212においては、血液の滞留が起こりにくく、上端部212の近傍において、血栓は形成されにくい。インペラ20は、インペラ側磁石27と駆動側磁石312とが上下方向に引き合うように作用する磁気カップリング力により磁気結合された状態で、駆動装置30が駆動されることで、回転軸Jを中心に回転する。
【0056】
一方、インペラ20は、回転軸部材21の下端部211が軸支されているのに対して上端部212が軸支されていない。また、ベース23の円環凸部233の下面233aとポンプ室11の下面部13の上面132aとの間の隙間S2を流れる血液は、インペラ20を押し上げている。そのため、インペラ側磁石27と駆動側磁石312とが磁気カップリング力により磁気結合されていても、ベース23の円環凸部233の下面233aとポンプ室11の下面部13の上面132aとの間の隙間S2を流れる血液がインペラ20を押し上げることで、インペラ20が浮上し、下部軸受け15から脱落する可能性がある。
【0057】
これに対して、本発明は、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θが設けられているため、隙間S1のクリアランスは、トップシュラウド24の径方向の外側から内側に向かうに従って小さく形成される。これにより、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との隙間S1を流れる血液の圧力により、インペラ20の上方側からインペラ20を上方から下方に押し下げることで、インペラ20の浮力を抑えることができる。
【0058】
ここで、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを大きくすると、血液に対して作用する剪断力が増大する。血液に対して作用する剪断力が増大すると、血球が破壊(溶血)されて耐溶血性が確保されない可能性がある。そのため、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを、剪断力が大きくなりすぎない程度の角度差に設定することで、耐溶血性を確保することが必要となる。
【0059】
そこで、インペラ20の浮上を抑制するという観点と耐溶血性を確保するという観点とから、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを変化させる実験を行い、実験結果に基づいて、インペラ20の浮上を抑制可能であって耐溶血性を確保できる角度差θを設定する。
【0060】
角度差θを変化させる実験において、インペラ20の浮上を抑制可能な判定基準について次のように設定する。本実施形態において、インペラ20は、駆動装置30のロータ31との間に上下方向に引き合うように作用する磁気カップリング力が12Nで磁気結合された状態で回転されている。この場合に、インペラ20の浮上力を抑制してインペラ20を正常に回転させることができるためには、血液の二次流れにより生じるインペラ20を押し上げる力と、インペラ20と駆動装置30のロータ31とに上下方向に引き合うように作用する磁気カップリング力と、を考慮した上で、安全率を加味した場合に、インペラ20の最大浮上力が8N以下であることが好ましいことが実験により分かっている。そのため、インペラ20の浮上力に関する判定基準としては、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを変化させた場合に、インペラ20の最大浮上力が8N以下である場合にOK判定(「○」判定)とする。
【0061】
角度差θを変化させる実験において、耐溶血性の判定基準について次のように設定する。剪断力が900Pa以下である場合に、耐溶血性が確保されることが実験により分かっている。そのため、耐溶血性に関する判定基準としては、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを変化させた場合に、剪断力が900Pa以下である場合にOK判定(「○」判定)とする。
【0062】
トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを変化させた場合において、インペラ20の最大浮上力と血液の最大剪断力とを求めた実験結果を以下の表1に示した。
【0063】
【表1】
【0064】
判定結果において、インペラ20の浮上力に関して、インペラ20の最大浮上力が8N以下である場合に「○」とし、インペラ20の最大浮上力が8Nよりも大きい場合に「×」とした。耐溶血性に関して、剪断力が900Pa以下である場合に「○」とし、剪断力が900Paよりも大きい場合に「×」とした。インペラ20の浮上力及び耐溶血性についての両方の判定基準を満たした場合(両方とも「○」の場合)に、総合判定において「◎」とした。
【0065】
表1に示す実験結果によると、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θは、2.5~4.0°である場合に、インペラ20の浮上力及び耐溶血性についての判定結果が「○」であり、両方の判定基準を満たしており、総合判定は「◎」である。そのため、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θは、2.5~4.0°であることが好ましい。更に、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θは、2.5~4.0°の範囲の中央側の値である3.0~3.5°であることが更に好ましい。本実施形態においては、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを3.0°に設定した。
【0066】
以上説明した本実施形態の遠心式血液ポンプ1によれば、以下のような効果を奏する。
遠心式血液ポンプ1を、ハウジング10と、ハウジング10の内部に配置され、ベース23と、径方向の中心に形成される血液導入開口241を有するトップシュラウド24と、血液導入開口241から導入された血液を径方向の外側に向けて誘導する複数の誘導路26と、下端部211がハウジング10の下面部13に軸支され回転軸Jを中心に回転可能な回転軸部材21と、ベース23の下部に配置される複数のインペラ側磁石27と、を有するインペラ20と、インペラ側磁石27と駆動側磁石312とが上下方向に引き合うように作用する磁気カップリング力により磁気結合された状態で回転軸Jを中心にインペラ20を回転駆動させる磁気駆動部30と、を備えて構成し、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121とを、トップシュラウド24の径方向の外側から内側に向かうに従って狭まるように形成した。
【0067】
これにより、回転軸部材21の上端部212が軸受けにより支持されていない構成とすることで血栓を形成させにくい構成としつつ、回転軸部材21の上端部212が軸受けにより支持されていなくても、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121とを、トップシュラウド24の径方向の外側から内側に向かうに従って狭まるように形成することで、インペラ20を下方側に押し下げるように、血液の圧力をインペラ20の上方側から下方側に向けて作用させることができる。これにより、血栓の形成を抑制できると共に、インペラ20の浮上を抑制して、インペラ20を安定して回転させることができる。
【0068】
また、トップシュラウド24の上面242を、径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成し、ポンプ室11の上面部12の下面121を、径方向の内側から外側に向かって下り傾斜で傾斜する直線状に形成した。これにより、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との間の隙間S1が徐々に狭くなる構成であるため、インペラ20を下方側に押し下げる血液の圧力を安定的に生じさせて、インペラ20をより安定して回転させることができる。
【0069】
また、トップシュラウド24の上面242とポンプ室11の上面部12の下面121との角度差θを、2.5~4.0°とした。これにより、インペラ20の浮上力を抑制しつつ、耐溶血性を確保できる。
【0070】
また、インペラ20の円環凸部233の下面233aとポンプ室11の下面部13の円環傾斜部132の上面132aとは、平行に配置される。これにより、隙間S2を流通する血液の圧力が一定であるため、インペラ20を安定して回転させることができる。
【0071】
以上、本発明の遠心式血液ポンプの好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
前記実施形態では、回転軸部材21を、トップシュラウド24の径方向の中心部分を上下方向に貫通して配置したが、これに限定されない。回転軸部材21の上端部が軸支されていないため、回転軸部材21の上端部側は、トップシュラウド24を貫通していなくてもよい。
【符号の説明】
【0072】
1 遠心式血液ポンプ
10 ハウジング
11 ポンプ室(血液収容部)
12 上面部
13 下面部
14 周壁部(側面部)
17 入口ポート
18 出口ポート
20 インペラ
21 回転軸部材
23 ベース
24 トップシュラウド
25 ベーン(ガイド部材)
26 誘導路(誘導部)
27 インペラ側磁石(第1磁性体)
30 駆動装置(磁気駆動部)
121 ポンプ室(血液収容部)の上面部の下面
132a 円環傾斜部の上面(下面部の上面)
211 下端部
233a 円環凸部の下面(インペラの下面)
241 血液導入開口
242 トップシュラウドの上面
312 駆動側磁石(第2磁性体)
J 回転軸
θ 角度差
図1
図2
図3
図4