(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20240910BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20240910BHJP
F16C 19/06 20060101ALI20240910BHJP
F16C 33/58 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F16H25/24 A
F16H25/22 A
F16H25/24 Z
F16C19/06
F16C33/58
(21)【出願番号】P 2020172365
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂井 幹史
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-285480(JP,A)
【文献】特開2013-249853(JP,A)
【文献】実開平02-006846(JP,U)
【文献】特開2005-074509(JP,A)
【文献】特許第7338810(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
F16C 19/06
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向を指す第1端部と、第2方向を指す第2端部と、前記第1端部と前記第2端部との間に設けられたねじ部と、を有するねじ軸と、
前記ねじ軸に貫通されるナットと、
前記ねじ部と前記ナットとの間に配置された複数のボールと、
前記第1端部を回転自在に支持する第1軸受と、
前記第2端部を回転自在に支持する第2軸受と、
を備え、
前記ナットの本体部には、前記ボールを循環させるための循環路が設けられ、
前記第1端部と前記第2端部と前記ねじ部とは、一体であり、
前記第1端部は、外周面に内周軌道溝が設けられ、前記第1軸受の内輪部を成し、
前記第1端部の外径は、前記ねじ部の谷径よりも小さく、
前記第1軸受は、
外輪と、
前記第1端部と前記外輪との間に配置される複数のボールと、
を備え、
前記外輪の前記第2方向の端面は、前記第1端部の前記第2方向の端面よりも、前記第2方向に突出し、
前記ねじ軸は、
前記第1端部と前記ねじ部との間に配置され、前記第1端部の外径及び前記ねじ部の外径よりも小径な第1逃げ部と、
前記第2端部と前記ねじ部との間に配置され、前記第2端部の外径及び前記ねじ部の外径よりも小径な第2逃げ部と、
を有し、
前記ねじ部は、
完全ねじ部と、
前記第1逃げ部と前記完全ねじ部との間に配置された第1不完全ねじ部と、
を有し、
前記ナットの前記第1方向の端面から、前記ボールの転動路のうち最も前記第1方向寄りの溝面の中心までの第1距離は、前記外輪の前記第2方向の前記端面から、前記第1不完全ねじ部のうち最も前記第2方向寄りの溝面の中心までの第2距離よりも長い
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記第2端部は、外周面に内周軌道溝が設けられ、前記第2軸受の内輪部を成し、
前記第2端部の外径は、前記ねじ部の谷径よりも小さい
請求項1に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸と、ねじ軸に貫通されるナットと、ねじ軸とナットとの間に配置される複数のボールと、を備える。また、特許文献1のボールねじ装置は、ねじ軸の両端に溝が設けられている。そして、特許文献1では、ボールねじ装置の搬送前、溝にクリップを取り付けるように提案している。これによれば、ボールねじ装置の搬送中、ナットがねじ軸の端部の方に移動しても、ナットがクリップに引っ掛かる。したがって、ねじ軸とナットとが分離する(バレる)ことが防止される。以下、ねじ軸とナットとの分離防止をバレ防止と呼ぶことがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の技術によれば、搬送前にクリップを取り付け、搬送後にクリップを外す必要がある。よって、バレ防止のための労力が大きい。また、クリップを用意する必要があり、部品点数が増加する。
【0005】
本開示は、上記に鑑みてなされたものであり、労力の削減と部品点数の増加防止を図りつつ、バレ防止を達成できるボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本開示の一態様に係るボールねじ装置は、第1方向を指す第1端部と、第2方向を指す第2端部と、前記第1端部と前記第2端部との間に設けられたねじ部と、を有するねじ軸と、前記ねじ軸に貫通されるナットと、前記ねじ部と前記ナットとの間に配置された複数のボールと、前記第1端部を回転自在に支持する第1軸受と、前記第2端部を回転自在に支持する第2軸受と、を備える。前記ナットの本体部には、前記ボールを循環させるための循環路が設けられている。前記第1端部と前記第2端部と前記ねじ部とは、一体である。前記第1端部は、外周面に内周軌道溝が設けられ、前記第1軸受の内輪部を成す。前記第1端部の外径は、前記ねじ部の谷径よりも小さい。
【0007】
ボールねじ装置の搬送中、ナットがねじ軸の端部の方に移動すると、ナットが第1軸受又は第2軸受に引っ掛かる。よって、バレ防止が達成される。また、ボールねじ装置の搬送前や搬送後に、例えばクリップの取り付け又は取り外しなど作業を実施する必要がない。よって、労力の削減を図れる。また、第1軸受及び第2軸受は、ねじ軸を回転自在に支持するための必須の部品であり、部品点数が増加しない。また、第1軸受の内輪を別途製造する必要がなく、部品点数が削減する。さらに、第1端部の外径がねじ部の谷径よりも小さい。これにより、仮軸を使用してボールねじ装置を組み立てることができる。従って、組み立て作業の労力が削減する。
【0008】
また、本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記第1軸受は、外輪と、前記第1端部と前記外輪との間に配置される複数のボールと、を備える。前記外輪の前記第2方向の端面は、前記第1端部の前記第2方向の端面よりも、前記第2方向に突出している。
【0009】
ボールねじ装置の駆動時、イニシャライズ(ナットを第1軸受に当接させてナットの位置を初期化すること)を実施することがある。第1軸受の構成部品のうち、外輪は、動力伝達装置などのハウジングに嵌合し、回転しない。一方、第1端部(内輪)は、ねじ軸と一体なため、回転している。仮に、イニシャライズ時、第1端部(内輪)とナットとが当接した場合、ナットに対し第1端部(内輪)が回転方向に食い込み、ナットが動かなくなる可能性がある。一方で、本開示のボールねじ装置は、回転しない第1軸受の外輪と、ナットとが当接する。したがって、ナットへの食い込みが回避され、ナットの安定した駆動が確保される。
【0010】
本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記ねじ軸は、前記第1端部と前記ねじ部との間に配置され、前記第1端部の外径及び前記ねじ部の外径よりも小径な第1逃げ部と、前記第2端部と前記ねじ部との間に配置され、前記第2端部の外径及び前記ねじ部の外径よりも小径な第2逃げ部と、を有する。
【0011】
ねじ軸の素材となる棒状部品の外周面を切削し、第1端部とねじ部と第2端部を形成する前に、第1逃げ部及び第2逃げ部を形成する。これによれば、第1端部、ねじ部、及び第2端部の外周面を切削する工具を第1逃げ部及び第2逃げ部に落とす(逃がす)ことができる。よって、ねじ軸の製造が容易となる。
【0012】
本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記ねじ部は、完全ねじ部と、前記第1逃げ部と前記完全ねじ部との間に配置された第1不完全ねじ部と、を有する。前記ナットの前記第1方向の端面から、前記ボールの転動路のうち最も前記第1方向寄りの溝面の中心までの第1距離は、前記外輪の前記第2方向の前記端面から、前記第1不完全ねじ部のうち最も前記第2方向寄りの溝面の中心までの第2距離よりも長い。
【0013】
イニシャライズ時にボールが不完全ねじ部に配置されて第1逃げ部に脱落する、ということが回避される。
【0014】
本開示の一態様に係るボールねじ装置の望ましい態様として、前記第2端部は、外周面に内周軌道溝が設けられ、前記第2軸受の内輪部を成す。前記第2端部の外径は、前記ねじ部の谷径よりも小さい。
【0015】
第2軸受の内輪を別途製造する必要がなく、部品点数が削減する。また、第1端部及び第2端部の外径がねじ部の谷径よりも小さい。つまり、スルーフィード研削によってねじ部のねじ溝を形成したとしても、ねじ溝を研削する砥石が第1端部及び第2端部に接触しない。したがって、ねじ軸は、スルーフィード研削により加工できる形状であり、量産性に優れる。また、ナットをねじ軸に組み付ける際、ナットの内部に挿入できるねじ軸の端部は、第1端部と第2端部とのどちらでも可能である。よって、組み立て性が向上する。また、第2端部に仮軸を取り付けることができ、組み立て性がさらに向上する。
【発明の効果】
【0016】
本開示のボールねじ装置によれば、労力の削減と部品点数の増加防止を図りつつ、バレ防止を達成できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、実施形態に係るボールねじ装置の全体構成の一例を概略的に示す断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の第1内輪部と第1軸受の近傍を拡大した拡大図である。
【
図4】
図4は、
図2の第2内輪部と第2軸受の近傍を拡大した拡大図である。
【
図5】
図5は、
図2のねじ部とナットとを拡大した拡大図である。
【
図6】
図6は、仮軸を用いてナットにボールを充填した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明を実施するための形態につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の説明で記載した内容により本開示が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
図1は、実施形態に係るボールねじ装置の全体構成の一例を概略的に示す断面図である。
図2は、
図1のII-II線の矢視断面図である。ボールねじ装置100は、図示しない動力伝達装置に組み付けられる。そして、ボールねじ装置100は、回転運動を直線運動に変換したり、又は直線運動を回転運動に変換したりする装置である。
図1、
図2に示すように、実施形態のボールねじ装置100は、ねじ軸1と、ナット2と、複数のボール3(
図2参照)と、第1軸受4と、第2軸受5と、を備える。
【0020】
実施形態のボールねじ装置100は、第1軸受4及び第2軸受5が図示しない動力伝達装置のハウジングに嵌合することで固定される。また、ナット2は、図示しない動力伝達装置の移動対象物に取り付けられる。つまり、実施形態のボールねじ装置100は、回転運動を直線運動に変換し、ナット2を直動させるナット直動式である。言い換えると、第1軸受4及び第2軸受5は、ねじ軸1を回転自在に支持するための必須部品である。
【0021】
図2に示すように、ねじ軸1は、第1端部10と、第1逃げ部11と、ねじ部12と、第2逃げ部13と、第2端部14と、動力伝達部15と、を備える。また、ねじ軸1の一端から他端に向かって、第1端部10、第1逃げ部11、ねじ部12、第2逃げ部13、第2端部14、動力伝達部15の順で設けられている。以下、ねじ部12から視て、第1端部10が配置される方向を第1方向X1と呼ぶ。ねじ部12から視て、第2端部14が配置される方向を第2方向X2と呼ぶ。
【0022】
ねじ軸1は、素材として金属製の棒状部材を準備し、その素材の外周面を切削することで製造される。つまり、ねじ軸1を構成する、第1端部10と、第1逃げ部11と、ねじ部12と、第2逃げ部13と、第2端部14と、動力伝達部15の各構成は、一体となっており、分離不能である。
【0023】
図3は、
図2の第1内輪部と第1軸受の近傍を拡大した拡大図である。第1端部10の外周面は、内周軌道溝10aと、第1肩部10bと、第2肩部10cと、を備える。つまり、第1端部10は、第1軸受4の内輪部を構成している。第1肩部10bは、内周軌道溝10aよりも第1方向X1に配置されている。第2肩部10cは、内周軌道溝10aよりも第2方向X2に配置されている。第1肩部10b及び第2肩部10cの外径は同径であり、R1となっている。
【0024】
図3に示すように、第1軸受4は、第1外輪40と、複数のボール41と、を備える。第1外輪40の内周面は、内周軌道溝10aと対向する外周軌道溝40aを有する。ボール41は、内周軌道溝10aと外周軌道溝40aとの間に複数配置される。第1外輪40は、第2方向X2を向く端面42を有する。端面42は、端面42の外周部から第2方向X2に突出する環状の突起43を有している。
【0025】
図3に示すように、第1逃げ部11は、第1端部10とねじ部12との間に設けられた環状の空間である。第1逃げ部11は、第2肩部10cよりも径方向内側に窪んでいる。第1逃げ部11は、第1端部10とねじ部12を形成する前に形成されている。言い換えると、ねじ軸1の素材の外周面を切削し、第1端部10とねじ部12とを形成する前に、第1逃げ部11が形成される。これによれば、第1端部10の外周面(第1肩部10b及び第2肩部10cの面)を形成している際、切削工具を第1逃げ部11に逃がす(落とす)ことができる。同様に、ねじ部12の外径を切削する際にも工具を逃がすことができる。
【0026】
また、第1逃げ部11には、第1端部10の第2方向X2を向く端面10dが露出している。この端面10dは、第1外輪40の突起43よりも第1方向X1に位置している。言い換えると、第1外輪40(突起43)は、第1端部10よりも第2方向X2に突出している。
【0027】
図4は、
図2の第2内輪部と第2軸受の近傍を拡大した拡大図である。第2端部14の外周面は、内周軌道溝14aと、第1肩部14bと、第2肩部14cと、を備える。つまり、第2端部14は、第2軸受5の内輪部を構成している。第1肩部14bは、内周軌道溝14aよりも第2方向X2に配置されている。第2肩部14cは、内周軌道溝14aよりも第1方向X1に配置されている。第1肩部14b及び第2肩部14cの外径は、同径であり、R2となっている。なお、外径R2は、外径R1(
図3参照)と同径である。
【0028】
図4に示すように、第2軸受5は、第2外輪50と、複数のボール51と、を備える。第2外輪50の内周面は、内周軌道溝14aと対向する外周軌道溝50aを有する。ボール51は、内周軌道溝14aと外周軌道溝50aとの間に複数配置される。第2外輪50は、第1方向X1を向く端面52を有する。端面52は、端面52の外周部から第1方向X1に突出する環状の突起53を有している。
【0029】
図4に示すように、第2逃げ部13は、ねじ部12と第2端部14との間に設けられた環状の空間である。第2逃げ部13は、第2肩部14cよりも径方向内側に窪んでいる。第2逃げ部13は、ねじ部12と第2端部14を形成する前に形成されている。よって、第2端部14の外周面(第1肩部14b及び第2肩部14cの面)を形成している際、切削工具を第2逃げ部13に逃がすことができる。同様に、ねじ部12の外径を切削する際にも工具を逃がすことができる。
【0030】
また、第2逃げ部13には、第2端部14の第1方向X1を向く端面14dが露出している。この端面14dは、第2外輪50の突起53よりも第2方向X2に位置している。言い換えると、第2外輪50(突起53)は、第2端部14よりも第1方向X1に突出している。
【0031】
図4に示すように、動力伝達部15は、円柱状を成している。動力伝達部15は、図示しない動力源からねじ部12にトルクを伝達するための部位である。
【0032】
図3、
図4に示すように、ねじ部12の外周面には、螺旋状のねじ溝12aが設けられている。また、ねじ部12の谷径(ねじ溝12aの底部の径)は、R3となっている。この谷径R3は、第1端部10の外径R1よりも大径となっている(
図3の補助線H1を参照)。同様に、この谷径R3は、第2端部14の外径R2よりも大径となっている(
図3の補助線H2を参照)。
【0033】
図1に示すように、ねじ部12は、溝面が完全な完全ねじ部16と、溝面が不完全な不完全ねじ部(第1不完全ねじ部17、第2不完全ねじ部18)と、を有している。なお、第1不完全ねじ部17は、完全ねじ部16よりも第1方向X1に配置される方を指し、第2不完全ねじ部18は、完全ねじ部16よりも第2方向X2に配置される方を指す。
【0034】
図3に示すように、第1不完全ねじ部17は、第1逃げ部11と隣り合っている。よって、第1不完全ねじ部17にボール3が位置すると、ねじ山を超えて第1逃げ部11にボール3が脱落する可能性がある。
図3の破線17aは、第1不完全ねじ部17の溝面の中心を辿る仮想線である。第1外輪40の突起43から、第1不完全ねじ部17のうち最も第2方向X2寄りの溝面の中心17bまでの距離は、L1となっている。なお、距離L1は、第2距離と呼ばれることがある。
【0035】
図4に示すように、第2不完全ねじ部18は、第2逃げ部13と隣り合っている。よって、第2不完全ねじ部18にボール3が位置すると、ねじ山を超えて第2逃げ部13にボール3が脱落する可能性がある。
図4の破線18aは、第2不完全ねじ部18の溝面の中心を辿る仮想線である。第2外輪50の突起53から、第2不完全ねじ部18のうち最も第1方向X1寄りの溝面の中心18bまでの距離は、L2となっている。
【0036】
図5は、
図2のねじ部とナットとを拡大した拡大図である。
図5に示すように、ナット2は、円筒状の本体部20と、本体部20の内周面に設けられた螺旋状の外周軌道溝21と、本体部20の内周面に設けられた2つの循環路(第1循環路22、第2循環路23)と、を備える。外周軌道溝21は、ねじ部12(完全ねじ部16)のねじ溝12aと対向する。
【0037】
2つの循環路のうち第1方向X1の方に配置された方を第1循環路22と呼び、第2方向X2の方に配置された方を第2循環路23と呼ぶ。第1循環路22と第2循環路23は、本体部20の内周面を切削して成るS字の溝である。第1循環路22又は第2循環路23は、内部にボール3が入ると1リード戻すようになっている。以上から、ナット2とねじ部12との間には、2つの転動路(第1転動路24と第2転動路25)が設けられている。そして、第1転動路24と第2転動路25のそれぞれにボール3が充填されている。
【0038】
本体部20は、第1方向を向く第1端面20aと、第2方向を向く第2端面20bと、を有する。本体部20の第1端面20aから、第1転動路24のうち最も第1方向X1寄りの転動路の中心O1までの距離は、L3となっている。なお、距離L3は、第1距離と呼ばれることがある。この距離L3は、第1外輪40突起43から、第1不完全ねじ部17のうち最も第2方向X2寄りの溝面の中心17bまでの距離L1よりも長い。また、本体部20の第2端面20bから、第2転動路25のうち最も第2方向X2寄りの転動路の中心O2までの距離は、L4となっている。この距離L4は、第2外輪50の突起53から、第2不完全ねじ部18のうち最も第1方向X1寄りの溝面の中心18bまでの距離L2よりも長い。
【0039】
図6は、仮軸を用いてナットにボールを充填した状態を示す断面図である。次に、仮軸60を用いてねじ軸1にナット2及びボール3を組み付け方法について説明する。
図6に示すように、仮軸60は、組立用の治具であり、ナット2の外周面を保持可能なガイド筒61と、ナット2の内周側を貫通する円柱状のボール挿入ノズル62と、を有する。
【0040】
ガイド筒61の内径は、ナット2の外径と同一である。よって、ガイド筒61の内部にナット2を挿入すると、ガイド筒61にナット2が嵌合する。また、ボール挿入ノズル62は、ナット2の内部に挿入される。
【0041】
ボール挿入ノズル62は、2つのボール供給路64を有している。ボール供給路64の入り口は、仮軸60の上面に設けられている。2つのボール供給路64の出口のそれぞれは、第1転動路24と第2転動路25に対応する位置に設けられている。よって、ボール供給路64の入り口に入れたボール3は、自重により落下し、第1転動路24と第2転動路25のそれぞれに充填される。なお、ボール3の供給は、棒状のロッド65で押圧してもよい。
【0042】
なお、特に図示しないが、仮軸60は、ガイド筒61の内部に挿入されたナット2の位相を位置決めするための位置決めピンを有している。よって、ボール供給路64の出口と第1転動路24及び第2転動路25との位相がずれないようになっている。
【0043】
ボール挿入ノズル62の外径は、ねじ軸1のねじ部12の谷径R3(
図3、
図4参照)と等しい。よって、第1転動路24と第2転動路25に充填された各ボール3は、ナット2の外周軌道溝21と、ボール挿入ノズル62の外周面の間で保持される。
【0044】
ボール挿入ノズル62の下面には、凹部63が設けられている。凹部63は、ねじ軸1の第1端部10と第1逃げ部11とを収納する空間である。凹部63の内径R5は、ボール挿入ノズル62の外径R4よりも小さい。よって、仮軸60を使用可能なねじ軸の一端部は、ボール挿入ノズル62の外径R4(ねじ部12の谷径R3)よりも小径に形成されている必要がある。なお、本実施形態のねじ軸1の第1端部10の外径R1は、ねじ部12の谷径R3よりも小径である。よって、仮軸60を使用することができる。また、凹部63の内径R5は、第1端部10の外径R1と同一である。よって、凹部63にボール挿入ノズル62を挿入すると、凹部63に第1端部10が嵌合する。
【0045】
また、凹部63の深さ(上下方向の長さ)は、第1端部10と第1逃げ部11の全てが収容される程度になっている。よって、凹部63に第1端部10と第1逃げ部11を挿入すると、ボール挿入ノズル62の下面がねじ軸1のねじ部12と当接する。そして、ボール挿入ノズル62の外周面とねじ部12のねじ溝12aとが連続する(
図6の仮想線Mを参照)。
【0046】
そして、凹部63に第1端部10と第1逃げ部11を挿入した後、ナット2を固定しつつ、ねじ軸1を回転させながら上昇させる。これによれば、仮軸60は、回転しつつ上昇し、ナット2から離脱する。一方で、仮軸60の上昇時、ボール3は、第1転動路24又は第2転動路25に保持されつつ、内周側の面が、ボール挿入ノズル62の外周面からねじ部12のねじ溝12aに代わる。つまり、ボール3は、ナット2の外周軌道溝21と、ねじ部12のねじ溝12aとの間に保持される。以上により、ねじ軸1とナット2とボール3との組み付けが完了する。そして、この後、第1端部10に第1軸受4を組み付け、さらに、第2端部14に第2軸受5を組み付ける。これにより、ボールねじ装置100が完成する。
【0047】
なお、実施形態で説明した仮軸60の凹部63は、第1端部10の方を嵌合するようになっているが、第2端部14の方を嵌合するものを用いてもよい。
【0048】
次にボールねじ装置100のイニシャライズについて説明する。イニシャライズは、ねじ軸1を回転し、ナット2を第1方向X1に移動させる。そして、ナット2の第1端面20aを、第1軸受4に当接させる。これにより、ナット2は、第1方向X1に移動しなくなり、軸方向の位置が初期化する。
【0049】
また、イニシャライズ時、ナット2の第1端面20aは、第1軸受4の第1外輪40(突起43)に当接する。仮に、ナット2が第1端部10に当接するとした場合、回転する第1端部10の角部(第2肩部10cと端面10dとの角部)が、ナット2に対し、回転方向に食い込み、ナット2が動かなくなる可能性がある。一方、第1外輪40は、図示しないハウジングに固定されて回転していない。よって、第1外輪40とナット2とが回転方向に食い込む可能性がない。以上から、イニシャライズ後、ナット2が安定して駆動する。
【0050】
また、ナット2の第1端面20aから、第1転動路24のうち最も第1方向X1寄りの転動路の中心O1までの距離L3は、第1外輪40突起43から、第1不完全ねじ部17のうち最も第2方向X2寄りの溝面の中心17bまでの距離L1よりも長い。よって、イニシャライズ時、第1転動路24のボール3は、第1不完全ねじ部17のねじ溝12aに配置されない。従って、ボール3が第1逃げ部11に脱落しない。
【0051】
なお、イニシャライズは、ナット2を第2方向X2に移動させてもよい。そして、ナット2を第2方向X2に移動させた場合、ナット2の第2端面20bは、第2外輪50(突起53)に当接する。このため、第2端部14とナット2との回転方向への食い込みが発生しないようになっている。さらに、本体部20の第2端面20bから、第2転動路25のうち最も第2方向X2寄りの転動路の中心O2までの距離L4は、第2外輪50の突起53から、第2不完全ねじ部18のうち最も第1方向X1寄りの溝面の中心18bまでの距離L2よりも長い。よって、第2転動路25のボール3は、第2不完全ねじ部18のねじ溝12aに配置されない。従って、ボール3が第2逃げ部13に脱落しない。
【0052】
以上、実施形態のボールねじ装置100は、第1方向X1を指す第1端部と、第2方向X2を指す第2端部と、第1端部と第2端部との間に設けられたねじ部12と、を有するねじ軸1と、ねじ軸1に貫通されるナット2と、ねじ部12とナット2との間に配置された複数のボール3と、第1端部を回転自在に支持する第1軸受4と、第2端部を回転自在に支持する第2軸受5と、を備える。ナット2の本体部20には、ボール3を循環させるための循環路が設けられている。第1端部と第2端部とねじ部12とは、一体である。第1端部は、外周面に内周軌道溝10aが設けられ、第1軸受4の内輪部を成す。第1端部の外径R1は、ねじ部12の谷径R3よりも小さい。
【0053】
このような構成によれば、ボールねじ装置100の搬送中、ナット2がねじ軸1の端部の方に移動すると、ナット2が第1軸受4又は第2軸受5に当接する。よって、ねじ軸1からナット2が分離せず、バレ防止が達成される。また、搬送前や搬送後に、バレ防止のための作業を実施する必要がなく、労力の削減を図れる。また、第1軸受4及び第2軸受5は、必須の部品であり、部品点数が増加していない。また、第1軸受4の内輪が不要となり、部品点数が削減する。さらに、仮軸60は、第1端部10を挿入する凹部63の内径R5が、仮軸60の外径R4(ねじ部12の谷径R3)よりも小径に形成されている。また、実施形態によれば、第1端部10の外径R1は、ねじ部12の谷径R3よりも小さい。このため、仮軸60を使用してボールねじ装置100を組み立てることができる。組み立て作業の労力が削減する。
【0054】
また、実施形態の第1軸受4は、外輪(第1外輪40)と、第1端部10と外輪(第1外輪40)との間に配置される複数のボール41と、を備える。外輪(第1外輪40)の第2方向の端面42は、第1端部10の第2方向X2の端面10dよりも、第2方向X2に突出している。
【0055】
これによれば、イニシャライズ時、ナットに対し第1端部(内輪)が回転方向に食い込むことが回避される。よって、イニシャライズ後、安定してナットが駆動する。
【0056】
また、実施形態のねじ軸1は、第1端部とねじ部12との間に配置され、第1端部の外径及びねじ部の外径よりも小径な第1逃げ部11と、第2端部とねじ部12との間に配置され、第2端部の外径及びねじ部12の外径よりも小径な第2逃げ部13と、を有する。
【0057】
これによれば、第1端部、ねじ部、及び第2端部の外周面を切削する際、工具を第1逃げ部及び第2逃げ部に逃がすことができる。よって、ねじ軸の製造が容易となる。
【0058】
また、実施形態のねじ部12は、完全ねじ部16と、第1逃げ部11と完全ねじ部16との間に配置された第1不完全ねじ部17と、を有する。ナット2の第1方向X1の第1端面20aから、ボール3の転動路のうち最も第1方向寄りの溝面の中心O1までの第1距離(距離L1)は、外輪の第2方向の端面から、第1不完全ねじ部のうち最も第2方向寄りの溝面の中心までの第2距離(距離L3)よりも長い。
【0059】
これによれば、イニシャライズ時、ボール3が第1不完全ねじ部17に配置されて第1逃げ部11に脱落する、ということが回避される。
【0060】
また、実施形態の第2端部は、外周面に内周軌道溝14aが設けられ、第2軸受5の内輪部を成す。第2端部の外径R2は、ねじ部12の谷径R3よりも小さい。
【0061】
これによれば、第2軸受5の内輪が不要となり、部品点数が削減する。また、第1端部及び第2端部の外径R1、R2がねじ部12の谷径R3よりも小さい。つまり、スルーフィード研削によってねじ部12のねじ溝12aを形成したとした場合、ねじ溝12aを研削する砥石が第1端部及び第2端部に接触しない。したがって、ねじ軸1は、スルーフィード研削を実施できる形状をしており、量産性に優れる。また、ナット2の内部にねじ軸1を挿入してナット2をねじ軸1に組み付ける際、ナット2の内部に挿入できるねじ軸1の端部は、第1端部と第2端部とのどちらでも可能である。よって、組み立て性が向上する。に仮軸を取り付け、ボールねじ装置を組み立てることができ、ボールねじ装置の組み立て性がさらに向上する。
【0062】
以上、実施形態のボールねじ装置について説明したが、本開示のボールねじ装置は上記したものに限定されない。実施形態において、ボール3を循環させる循環路は、本体部20の内周面に加工されたS字溝であるが、内部循環方式であれば、特に限定されない。つまり、内部循環部材(コマ、エンドデフレクタ、エンドキャップ)などを用いてボール3を循環させてもよい。
【0063】
第1軸受4の第1外輪40の端面42は、第1端部10の端面10dよりも第2方向X2に突出しているが、第1軸受4の第1外輪40の端面42と第1端部10の端面10dとが軸方向に同じ位置に配置されてもよい。または、第1端部10の端面10dの方が第1軸受4の第1外輪40の端面42よりも第2方向X2に突出していてもよい。このような変形例であっても、労力の削減と部品点数の増加防止を図りつつ、バレ防止を達成することができるからである。
【0064】
また、ねじ軸1は、第1逃げ部11や第2逃げ部13を備えていなくてもよい。また、ねじ部12は、第1不完全ねじ部17や第2不完全ねじ部18を有しているが、本開示のボールねじ装置は、第1不完全ねじ部17や第2不完全ねじ部18を有していなくてもよい。つまり、ねじ溝12aの加工後、第1逃げ部11や第2逃げ部13を形成するために切削し、不完全ねじ部となっている箇所を取り除いてもよい。
【0065】
また、第1軸受4及び第2軸受5の内輪(第1端部10、第2端部14)が、ねじ軸1と一体に形成されているが、どちらか一方は別体となっていてもよい。つまり、第2軸受5は、第2外輪50と、ボール51と、第2内輪と、を備える。そして、第2軸受5の第2内輪がねじ軸1の他端部に嵌合するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0066】
100 ボールねじ装置
1 ねじ軸
2 ナット
3 ボール
4 第1軸受
5 第2軸受
10 第1端部
10a 内周軌道溝
10d 端面
11 第1逃げ部
12 ねじ部
12a ねじ溝
13 第2逃げ部
14 第2端部
14a 内周軌道溝
14d 端面
15 動力伝達部
16 完全ねじ部
17 第1不完全ねじ部(不完全ねじ部)
18 第2不完全ねじ部(不完全ねじ部)
20 本体部
21 外周軌道溝
22 第1循環路(循環路)
23 第2循環路(循環路)
24 第1転動路
25 第2転動路
40 第1外輪
42 端面
50 第2外輪
52 端面
60 仮軸
61 ガイド筒
62 ボール挿入ノズル
63 凹部