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特許7552244ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20240910BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20240910BHJP
   B05D 1/26 20060101ALI20240910BHJP
   B32B 5/00 20060101ALI20240910BHJP
   B29L 9/00 20060101ALN20240910BHJP
【FI】
B29C70/06
B05D7/00 B
B05D1/26 Z
B32B5/00 A
B29L9:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020174375
(22)【出願日】2020-10-16
(65)【公開番号】P2022065725
(43)【公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】岸本 比呂志
【審査官】家城 雅美
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-049875(JP,A)
【文献】国際公開第2019/073707(WO,A1)
【文献】特表2020-517496(JP,A)
【文献】特開平04-201242(JP,A)
【文献】特開2016-198890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B05D 7/00
B05D 1/26
B32B 1/00-43/00
B29L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
含侵用樹脂の一部をマトリックス樹脂として強化繊維に含侵させて繊維強化樹脂層を形成し、
前記含侵用樹脂の他の一部を介して前記繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する工程を含み、
前記含侵用樹脂のベース樹脂と、前記ハードコート層付き樹脂フィルムの成型基板フィルムのベース樹脂が同一の樹脂である、
ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項2】
ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
含侵用樹脂の一部をマトリックス樹脂として強化繊維に含侵させて繊維強化樹脂層を形成し、
前記含侵用樹脂の他の一部を介して前記繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する工程を含み、
前記含侵用樹脂の一部のマトリックス樹脂としての前記強化繊維への含侵と、
前記含侵用樹脂の他の一部を介した前記強化繊維と前記ハードコート層付き樹脂フィルムとの一体化と、を一連の処理による単一の工程として行う、
ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項3】
前記含侵用樹脂を射出成型金型に射出して、射出された該含侵用樹脂の一部を前記強化繊維に含侵させる、
請求項1又は2に記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項4】
前記含侵用樹脂の他の一部は、前記強化繊維には含侵させずに中間樹脂層を形成させた後に、該中間樹脂層を介して前記強化繊維と前記ハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する、
請求項1又は2に記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項5】
ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
含侵用樹脂の一部をマトリックス樹脂として強化繊維に含侵させて繊維強化樹脂層を形成し、
前記含侵用樹脂の他の一部を介して前記繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する工程を含み、
粉状に成形されている前記含侵用樹脂を前記強化繊維に積層した後、その一部を溶融させて前記強化繊維に含侵させる、
ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、
含侵用樹脂の一部をマトリックス樹脂として強化繊維に含侵させて繊維強化樹脂層を形成し、
前記含侵用樹脂の他の一部を介して前記繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する工程を含み、
フィルム状に成形されている前記含侵用樹脂を前記強化繊維に積層した後、その一部を溶融させて前記強化繊維に含侵させる、
ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
前記含侵用樹脂が、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、若しくは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体の何れかであるか、又は、それらの何れかをベース樹脂とする混合樹脂である、
請求項1からの何れかに記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
前記強化繊維が炭素繊維である、
請求項1からの何れかに記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法及びハードコート層付き繊維強化樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大きな衝撃や変形応力を受けるスポーツ用具、自動車、船舶、航空機等の部材として、炭素繊維強化樹脂(CFRP)やガラス繊維強化樹脂(GFRP)に代表される各種の繊維強化樹脂を用いた成形品が提案されている。
【0003】
繊維強化樹脂は、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維に対して熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂といったマトリックス樹脂を含浸させ、必要に応じて硬化させることで製造され、繊維によって強化されていることにより、物性が著しく向上し、比較的軽量でありながら強靭な部材である。よって、これらを用いた各種成形品が、特に軽量、且つ、高い力学特性が求められる分野において、積極的に採用されている。
【0004】
このような繊維強化樹脂を基材とする成形品において、特には、内部に設ける構造部材でなく、目に付くような最外層に形成される場合に、その耐傷性を向上させるために、繊維強化樹脂からなる基材の表面にハードコート層を設けることも広く行われている。以下、本明細書においては、このように、繊維強化樹脂からなる基材の少なくとも何れか一方の表面にハードコート層が設けられている成形品全般のことを指して「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」と称するものとする。
【0005】
この「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」の製造方法として、炭素繊維にマトリックス樹脂を含浸させて得られるフィルム(所謂「プリプレグ」、例えば、特許文献1に開示されているCFRPシート等)を基材とし、この表面に、ハードコート層と接着剤層とが積層一体化されてなるハードコート層付き樹脂フィルム(特許文献2参照)を熱転写によって貼着する製法が広く行われている。
【0006】
しかしながら、上記の製造方法によって製造される「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」においては、「プリプレグ」等の繊維強化樹脂からなる基材とハードコート層とを接合する接着剤層の耐久性が必ずしも十分ではないことがあった。そして、このことが成形品全体としての耐久性を低下させる要因となる場合が多くあった。「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」の製造現場では、このような接着剤層の耐久性の不足に起因する耐久性低下を回避するための新たな技術的手段が模索されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平10-138354号公報
【文献】特開2014-208493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、接着剤層の耐久性の不足に起因する耐久性低下を回避して、優れた耐久性を有する「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、強化繊維に含侵させる樹脂を、繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとの一体化に寄与させる製造方法によって、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1) ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法であって、含侵用樹脂の一部をマトリックス樹脂として強化繊維に含侵させ、前記含侵用樹脂の他の一部を介して前記繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する工程を含む、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0011】
(1)のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法によれば、成形品全体として極めて優れた耐久性を有する「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」を得ることができる。
【0012】
(2) 前記含侵用樹脂のベース樹脂と、前記ハードコート層付き樹脂フィルムの成型基板フィルムのベース樹脂が同一の樹脂である、(1)に記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0013】
(2)のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法によれば、(1)の製造方法の奏する上記効果を享受しつつ、より、確実にハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の耐久性を高めることができる。
【0014】
(3) 前記含侵用樹脂の一部のマトリックス樹脂としての前記強化繊維への含侵と、前記含侵用樹脂の他の一部を介した前記強化繊維と前記ハードコート層付き樹脂フィルムとの一体化と、を一連の処理による単一の工程として行う、(1)又は(2)に記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0015】
(3)のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法によれば、従来別途の工程であった複数の工程を一体化した単一の工程として行うことができる。これにより、(1)又は(2)の製造方法の奏する上記効果を享受しつつ、更に生産効率を高めることができる。
【0016】
(4) 前記含侵用樹脂を射出成型金型に射出して、射出された該含侵用樹脂の一部を前記強化繊維に含侵させる、(1)から(3)の何れかに記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0017】
(4)の発明によれば、射出成型金型によるハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造において、(1)から(3)の何れかの製造方法の奏する上記効果を享受しつつ、金型成形における成形品の形状選択の自由度の範囲で様々な形状のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
【0018】
(5) 前記含侵用樹脂の他の一部は、前記強化繊維には含侵させずに中間樹脂層を形成させた後に、該中間樹脂層を介して前記強化繊維と前記ハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する、(1)から(4)の何れかに記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0019】
(5)のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法によれば、ハードコート付き樹脂フィルムとの接着に寄与する中間樹脂層を、強化繊維に含侵させる樹脂によって、強化繊維上に一体形成することができる。これにより、(1)から(4)の何れかの製造方法の奏する上記効果を享受しつつ、更に、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の各層間の密着耐久性を高めることができる。又、中間樹脂層の厚さの最適化により、視認性を調整することができ、強化繊維がもたらす意匠の奥行感等によって、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の意匠性を更に向上させることもできる。
【0020】
(6) 粉状に成形されている前記含侵用樹脂を前記強化繊維に積層した後、その一部を溶融させて前記強化繊維に含侵させる、(5)に記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0021】
(6)の発明によれば、含侵用樹脂として粉状に成形されている樹脂を用いることによって添加量の微調整や複数の樹脂の混合割合の最適化等、マトリックス樹脂及び樹脂層を形成する樹脂の厚さや化学的性質の調整の自由度が増す。又、これにより、(5)の製造方法の奏する上記効果を享受しつつ、更に、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の耐久性を高めることができる。更には、比較的高価な射出成型機を用いずに、より簡便な装置である熱プレス機で加熱加圧することによって製造を行なうことができる点、及び、予め含侵用樹脂をフィルム化する工程も不要である点等において、経済性の向上にも寄与しうる。
【0022】
(7) フィルム状に成形されている前記含侵用樹脂を前記強化繊維に積層した後、その一部を溶融させて前記強化繊維に含侵させる、(5)に記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0023】
(7)の発明によれば、含侵用樹脂としてフィルム状に成形されている樹脂を用いることによって、厳密に適量(最適な厚さ)に調整されている含侵用樹脂フィルムを、実施容易な作業によって、強化繊維の上に載置することができる。これにより、(5)の製造方法の奏する上記効果を享受しつつ、その生産性を高め、更に、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の耐久性、強化繊維の視認による意匠性をより確実に意図する通りに向上させることができる。
【0024】
(8) 前記含侵用樹脂が、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、若しくは、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体の何れかであるか、又は、それらの何れかをベース樹脂とする混合樹脂である、(1)から(7)の何れかに記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0025】
(8)の発明によれば、(1)から(7)のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法の奏する上記効果をより確実に享受することができる。
【0026】
(9) 前記強化繊維が炭素繊維である、(1)から(8)の何れかに記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法。
【0027】
(9)の発明によれば、(1)から(8)の何れかの製造方法の奏する上記効果を享受して、軽量でありながら強靭な成形品であるハードコート層付き繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
【0028】
(10) 繊維強化樹脂層と樹脂層とハードコート層とがこの順に積層されてなる積層体であって、前記積層体においてハードコート層を除く部分である樹脂基材部分の厚さ方向において、強化繊維が偏在する領域と、前記強化繊維が存在しない領域が有って、前記樹脂基材部分は、前記強化繊維に含侵されているマトリックス樹脂も含めて、全て同一の樹脂をベース樹脂とする樹脂組成物によって形成されている、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品。
【0029】
(10)の発明によれば、例えば、樹脂基材部分の厚さ方向における中心部近傍の領域のみに強化繊維を偏在させる構成とし、尚且つ、樹脂基材部分を構成する樹脂のベース樹脂を同一の樹脂に統一することによって、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の樹脂基材部分の耐久性及びハードコート層と樹脂層との接合界面の耐久性とを合わせて著しく向上させることができる。その他、樹脂基材部分の厚さ方向の何れかの領域に意図的に強化繊維を偏在させることによって、製品表面における強化繊維の見え方を高い設計自由度で自在に調整することができ、より意匠性に優れるハードコート層付き繊維強化樹脂成形品を製造することができる。
【0030】
(11) 前記強化繊維が炭素繊維である、(10)に記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品。
【0031】
(11)の発明によれば、(10)に記載のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の奏する上記効果を享受して、軽量でありながら強靭な成形品であるハードコート層付き繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、接着剤層の耐久性の不足に起因する耐久性低下を回避して、優れた耐久性を有する「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の層構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の表面の態様を模式的に示す平面図である。
図3】本発明のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法の実施態様(第1の実施態様)を模式的に示す図である。
図4】本発明のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法の他の実施態様(第2の実施態様)を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施形態について説明する。先ず、本発明の製造方法によって製造することができる「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」について、その構成の概略を説明する。その後、当該「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」の好ましい製造方法である、本発明の「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法」について、その詳細を説明する。尚、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0035】
<ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品>
本発明のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10は、図1に示すように、繊維強化樹脂層3の少なくとも一方の面に樹脂層2を介してハードコート層1が形成されている層構成からなる積層体である。
【0036】
又、同図に示す通り、繊維強化樹脂層3の他方の面、即ち、ハードコート層1の積層面とは反対側の面にも樹脂層2が形成されていてもよい。或いは、本発明のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10は、繊維強化樹脂層3の両方の面に樹脂層2を介してハードコート層1が形成されている層構成(図示せず)とすることもできる。
【0037】
尚、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10は、図2に示すように、ハードコート層1が形成されている側の表面に、繊維強化樹脂層3を構成する強化繊維31によって形成されている微細模様が視認可能に存在する構成とすることができる。
【0038】
又、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10の全体形状は、図1に示すようなフラットなフィルム状又は板状の形状の成形品を代表的な形状として例示することができるがこれに限られるものではない。用途に応じて様々な形状の成形品に本発明を適用することができる。例えば、曲面や折り曲げ部分を含む様々な形状のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造にも本発明を適用することができる。
【0039】
そして、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10は、例えば、車両や航空機等の各種機体のボディや、その他の内外装用の部品、一般住居や公共施設の建築構造物の外装材や内装材、家電製品の部材等、強化繊維強化樹脂を基体とする成形品全般に広く用いることができる。
【0040】
[繊維強化樹脂層]
繊維強化樹脂層3は、炭素繊維等の強化繊維に対して熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂といったマトリックス樹脂を含浸させ、必要に応じて硬化させた炭素化繊維強化樹脂(CFRP)等、各種の繊維強化樹脂を、所望の形状に成形したものである。
【0041】
(強化繊維)
繊維強化樹脂層3を構成する強化繊維31は特に限定されない。例えば、ポリアクリロニトリル(PAN)系強化繊維、ピッチ系強化繊維等、或いは、それらの混合物、又は、ガラス繊維等を、繊維強化樹脂層を構成する強化繊維として適宜選択することができる。
【0042】
又、特に、本発明の製造方法によってハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10を製造する場合には、格子状等に編まれた織物状の炭素繊維を上記の繊維強化樹脂として用いることが好ましい。
【0043】
又、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10は、本発明の「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法」によって製造することによって、強化繊維31が、ハードコート層1を除いた樹脂基材部分の厚さ方向における任意の一部の領域のみに偏在する構成とすることができる。例えば、樹脂基材部分の厚さ方向における中心部近傍の領域のみ強化繊維31が偏在していて、樹脂基材部分の厚さ方向における両表面の近傍域には強化繊維31が存在しない領域が有って、尚且つ、樹脂基材部分が強化繊維に含侵されているマトリックス樹脂32も含めて、同一の樹脂をベース樹脂とする樹脂材料によって形成されている構成とすることができる(図4参照)。或いは、樹脂基材部分の厚さ方向の何れかの領域に意図的に強化繊維を偏在させることにより、製品表面における強化繊維の見え方を自在に調整することができ、より意匠性に優れるハードコート層付き繊維強化樹脂成形品を製造することもできる。
【0044】
尚、ハードコート層1の側から視認可能な微細模様を形成することもできる強化繊維31の立体形状は、図2に示すような格子状の形状を代表的な例として挙げることができる。勿論、意匠性向上に寄与する上記の微細模様はこのような格子状の形状からなるものに限られない。強化繊維31の立体形状は、一方向に引き揃えられた長繊維、二方向又は三方向以上からなる織物、不織布、マット、ニット、組み紐等の他、特に限定されず、何れの形状であってもよい。強化繊維31の立体形状は、これらの中でも織物の形状であることが好ましい。換言すれば、繊維強化樹脂基材4において強化繊維31は織物を構成していることが好ましい。尚、このような織物は、炭素繊維からなるカーボン糸を織り込むことによって形成される。織り込み方の違いによって、縦糸と横糸が交互に編み込まれている「平織り」と縦糸と横糸が交互ではなく一度交差したあと一本飛ばしに編み込まれている「綾織り」が用いられている。前者は、光の反射により市松模様の様な見た目になり、軽量、且つ、高強度な特性を有し、後者は、「平織り」と比べて強度はやや劣るものの、独特の立体的な模様が表れることによって意匠性の向上に寄与する等、それぞれの特徴がある。本発明の製造方法は、特に上記の「綾織り」の有する優れた意匠性をより確実に意図した通りに発現させやすい点でも優位性を発揮する。
【0045】
又、上述の「ハードコート層1の側から視認可能な微細模様」は、同一又は略同一形状の単位模様が規則的にくり返されてなるパターニング模様であることがより好ましい。少なくとも、微細模様の一部、好ましくは全部が、このようなパターニング模様であることによって、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10の意匠性を高めることができる。例えば、強化繊維31として格子状に編まれた炭素繊維に未硬化のエポキシ樹脂を含浸させてなるプリプレグを用いる場合であれば、当該炭素繊維によって形成される一つの格子の形状が上記の単位模様に該当し、これが繰り返されてなる格子模様の全体が上記のパターニング模様に該当する。本発明のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10においては、このような強化繊維からなるパターニング模様を、意図的に、ハードコート層1の側から視認可能に露出させることによって、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10の耐傷性と意匠性とを合わせて高めることができる。
【0046】
(マトリックス樹脂)
繊維強化樹脂層3を構成するマトリックス樹脂32としては、従来、「プリプレグ」の材料樹脂として用いられている公知の各種樹脂を特に限定なく用いることができる。マトリックス樹脂32として、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂、或いは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド等の熱可塑性樹脂、及び、各種熱可塑性エラストマーより、選択した一種、又はそれらのうちの二種以上の組合せを、適宜用いることができる。
【0047】
[ハードコート層]
ハードコート層1は、硬化性樹脂を含んでなる樹脂組成物(以下、「硬化性樹脂組成物」とも言う)からなる層である。そして、このハードコート層1は、主として、ハードコート層1が、繊維強化樹脂層3に接合されてなるハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10の表面保護層として、その最表面に良好な耐傷性を備えさせる機能を有する層である。尚、このハードコート層は、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品に、一般的な防汚・防曇的性を付与することもできる。
【0048】
そして、このハードコート層1は、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10において、繊維強化樹脂層特有の意匠性を、保持するために、上記において規定した通りの「可視光を透過する層」でもある。
【0049】
このようなハードコート層1を形成する硬化性樹脂組成物のベース樹脂としては、熱硬化性樹脂、或いは、電離放射線硬化性樹脂を、適宜選択して用いることができる。尚、本明細書において、「ベース樹脂」とは当該樹脂を含んで形成される樹脂層において、樹脂成分中の組成比が最も大きい樹脂であり同組成比で50質量%以上の割合を占める樹脂のことを言うものとする。よってハードコート層1には、上記主たる「材料樹脂」以外の樹脂が、必要に応じて、「ベース樹脂」よりも少ない割合で混合されていてもよい。
【0050】
ハードコート層1を形成するための硬化性樹脂組成物のベース樹脂として熱硬化性樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂、熱硬化性アクリル樹脂、シリコーン樹脂等を用いることができる。
【0051】
ハードコート層1を形成するための硬化性樹脂組成物のベース樹脂として電離放射線硬化性樹脂を用いる場合、従来から電離放射線硬化性を有する樹脂として慣用されている重合性オリゴマーやプレポリマーの中から適宜選択して用いることができる。そのような重合性オリゴマーやプレポリマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマーやプレポリマー、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系やポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートやカプロラクトン系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート系、ポリエーテル(メタ)アクリレート系のオリゴマーやプレポリマー等を好ましく用いることができる。
【0052】
尚、ハードコート層を形成するための硬化性樹脂組成物のベース樹脂として、シリコーン樹脂を用いることも可能であるが、シリコーン樹脂は成型時の樹脂の延伸が僅少であり、成形性において適性を欠く場合が多くある。これに対し、上記のアクリル系樹脂又はウレタン系樹脂は、上記延伸が比較的大きいため、成形性に優れ、特に、曲面成形を伴う場合に、特段の優位性を発揮する。
【0053】
ハードコート層1を形成するための硬化性樹脂として電離放射線硬化性樹脂を用いる場合、これらの樹脂に照射する電離放射線としては、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合或いは架橋し得るエネルギー量子を有するもの、例えば、紫外線(UV)又は電子線(EB)を選択することができる。又、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も選択することができる。
【0054】
[樹脂層]
上述した通り、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10において、繊維強化樹脂層3の少なくとも一方の表面、或いは、繊維強化樹脂層3の両方の表面に配置される樹脂層2は、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10の用途、形態、製造や加工の方法に応じた不都合が生じない限りにおいて、特段の限定なく、従来公知の各種樹脂フィルムを用いて形成することができる。具体例としては、樹脂層2は、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・(メタ)アクリレート共重合体、及び(メタ)アクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体のうちから選ばれる一の樹脂をベース樹脂とする樹脂層であることが好ましい。
【0055】
樹脂層2の厚さは、特に限定されない。但し、繊維強化樹脂層3とハードコート層1との間に位置する樹脂層2(この位置に配置される樹脂層を、本明細書においては「中間樹脂層」と言う)については、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、100μm以上500μm以下であることがより好ましい。繊維強化樹脂層3とハードコート層1との接合界面における耐久性を十分に担保するためには、この層の厚さが上記範囲内であることが好ましい。又、中間樹脂層の厚さを上記範囲内で任意の厚さに調整することで、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10における上述の「ハードコート層1の側から視認可能な微細模様」の見え方が、その奥行き感も含めて、所望の態様となるように調整して意匠性を向上させることもできる。
【0056】
<ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法>
本発明の「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも言う)」は、アクリル樹脂等の「含侵用樹脂」を用いて、この一部を強化繊維に含侵させて繊維強化樹脂層を形成し、尚且つ、当該「含侵用樹脂」の他の一部を、「ハードコート層付き樹脂フィルム」と繊維強化樹脂層との接合に寄与させることを特徴とする製造方法である。
【0057】
ここで、「本発明の製造方法」における上記の「含侵用樹脂」とは、当該製造方法によって製造されるハードコート層付き繊維強化樹脂成形品において、各種の強化繊維に含侵させることによって、繊維強化樹脂層を構成する樹脂のことを言う。
【0058】
そして、この「含侵用樹脂」は、「本発明の製造方法」においては、従来の製造方法による場合のように繊維強化樹脂層のマトリックス樹脂を形成する樹脂として機能させるのみにとどまらず、同樹脂の一部(強化繊維に含侵しない余剰部分)を、「ハードコート層付き樹脂フィルム」と繊維強化樹脂層との接合に寄与する樹脂層を構成する樹脂として機能させる。
【0059】
一例として、本発明の製造方法は、上記の含侵用樹脂のうちの強化繊維に含侵しない余剰部分によって、適切な厚みの中間樹脂層を形成させた後に、この中間樹脂層を介して繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する工程とすることができる。
【0060】
又、本発明の製造方法において用いる「含侵用樹脂」は、例えば、上記において説明したハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10において、各種の強化繊維に含侵させることによって、「繊維強化樹脂層」を構成することができて、尚且つ、樹脂層を構成する樹脂としても好適な樹脂であることが要件として求められる。そして、そのような要件を満たす限りにおいて、実際に、様々な樹脂の選択が可能である。
【0061】
本発明の製造方法において、「含侵用樹脂」として用いることができる樹脂の具体例として、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、及び、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂等の熱可塑性樹脂のうちから選ばれる一の樹脂、又は、それらの熱可塑性樹脂から選ばれる二種以上の樹脂の組合せからなる混合樹脂、或いは、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂のうちから選ばれる一の樹脂、又は、上記熱可塑性樹脂から選ばれる二種以上の樹脂の組合せからなる混合樹脂を、適宜選択して用いることができる。
【0062】
本発明の製造方法においては、「含侵用樹脂」として上記の各種樹脂を適宜選択して用いることができるが、ハードコート層1を形成するための硬化性樹脂組成物のベース樹脂としてハードコート層樹脂がアクリル系樹脂又はウレタン系樹脂である場合には、上記の各樹脂の中でも、アクリル系樹脂、ポリカーボネート、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合合成樹脂、又は、ウレタン系樹脂を用いることが特に好ましい。尚、ポリカーボネートは安価である点においても好ましく、アクリル系樹脂は、ポリカーボネートよりは高価であるが、耐候性や耐擦性等の性能面で優位である。又、ポリカーボネート及びアクリル系樹脂に関しては、フィルム及び射出用のペレットが一般的に入手しやすい点においても、本発明の製造方法用の「含侵用樹脂」として、特に好ましく用いることができる。
【0063】
又、本明細書において「ハードコート層付き樹脂フィルム」とは、例えばポリカーボネート等からなる成型基板フィルムの表面にハードコート層が形成されているフィルム状の部材のことを言う。本発明の製造方法に用いる「ハードコート層付き樹脂フィルム」は、その成型基板フィルムが、上述した「含侵用樹脂」として選択した樹脂と熱圧着等によって、他の接着性樹脂等を介さずに接合可能な樹脂であればよい。
【0064】
又、このハードコート層付き樹脂フィルムの成型基板フィルムは、「含侵用樹脂」のベース樹脂と同一の樹脂をベース樹脂とする樹脂フィルムであることが好ましい。尚、本明細書において、「ある樹脂と同一の樹脂をベース樹脂とする樹脂フィルム」には、当然に「当該樹脂と同一の樹脂からなる樹脂フィルム」も含まれ、又、ここで言う同一の樹脂には、分子量や立体構造が異なる同一種の高分子等も当然に含まれる。
【0065】
具体的に、本発明の製造方法においては、「ハードコート層付き樹脂フィルム」として、その成型基板フィルムが、ポリカーボネート又はアクリル系樹脂、又は、それらの何れかをベース樹脂とする樹脂であって、尚且つ、「含侵用樹脂」とベース樹脂を共通とする樹脂、又は、同一の樹脂からなる樹脂フィルムを成型基板フィルムとする「ハードコート層付き樹脂フィルム」を好ましく用いることができる。尚、「ハードコート層付き樹脂フィルム」として、アクリル系の接着樹脂層にハードコート層が積層されている構成を含んでなる「熱転写フィルム(一例として特許文献2に開示されている熱転写フィルム)」を用いることもできる。
【0066】
「ハードコート層付き樹脂フィルム」のハードコート層を形成する硬化性樹脂については、特に限定されない。本発明の製造によって製造する「ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品」に求められる表面保護性能に応じて、上述した各種の硬化性樹脂の中から適宜選択されたものであればよい。
【0067】
[第1の実施態様]
「本発明の製造方法」における「含侵用樹脂」の一部のマトリックス樹脂としての強化繊維への含侵と、当該「含侵用樹脂」の他の一部を介した繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとの一体化は、これらを一連の処理による単一の工程として行う実施態様とすることが好ましい。この実施態様は、一例として、図3に示す態様で行うことができる。
【0068】
図3に示す実施態様においては、先ず、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10を成型するための射出成型金型20の内底面に、ハードコート層付き樹脂フィルムを、ハードコート層1の側の面を射出成型金型20の内底面側に向けて配置する。
【0069】
そして、次に、上記のハードコート層付き樹脂フィルムの上に強化繊維31を載置する。この強化繊維31は、格子状に編まれた炭素繊維等、予め織物状に成形されている部材であることが好ましい。
【0070】
そして、射出成型金型20の内底面に載置されているハードコート層1を有するハードコート層付き樹脂フィルムの成型基板フィルム上に強化繊維31が載置されてなる積層体に向けて、強化繊維31の側から、含侵用樹脂21を射出する。この場合においても、上述した通り、含侵用樹脂21と、ハードコート層付き樹脂フィルムの成型基板フィルムは、ベース樹脂を共通とする樹脂、又は、同一の樹脂であることが好ましい。
【0071】
このように含侵用樹脂21を射出成型金型20内に射出することによって、含侵用樹脂21をマトリックス樹脂32として強化繊維31に含侵させる処理と、ハードコート層1が最表面に形成されているハードコート層付き樹脂フィルムとの一体化に寄与する樹脂層22を、射出された当該含侵用樹脂21によって形成する処理を、一連の処理による単一の工程として行う。この一連の処理によって、樹脂基体部分の耐久性に優れるハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10を製造することができる。
【0072】
[第2の実施態様]
「本発明の製造方法」の実施態様として、「含侵用樹脂」の一部による強化繊維層の形成と、当該「含侵用樹脂」の他の一部による中間樹脂層の形成までを一連の処理として行い、その後、「含侵用樹脂」の一部によって形成されている中間樹脂層を介して繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化する工程を順次行う実施態様とすることもできる。この実施態様は、一例として、図4に示す態様で行うことができる。
【0073】
図4に示す実施態様においては、先ず、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10を成型するための熱プレス機30の内底面に、強化繊維31を載置し、その上に粉状に形成されている含侵用樹脂21pを更に積層する(図4(1)参照)。尚、この場合においても、強化繊維31は格子状に編まれた炭素繊維等、予め織物状に成形されている部材であることが好ましい。
【0074】
そして、次に、熱プレス機30による加熱で、含侵用樹脂21pを溶融させてその一部をマトリックス樹脂32として強化繊維31に含侵させて繊維強化樹脂層3を形成する。そして、この際に、一連の処理として、含侵用樹脂21pの他の一部によって、繊維強化樹脂層3の少なくとも一方の表面、或いは、両表面に樹脂層2を形成する(図4(2)参照)。
【0075】
上述の一連の処理によって樹脂層2(中間樹脂層)が形成された後に、同層上に、ハードコート層1を含むハードコート層付き樹脂フィルムを、積層し、これらを加熱圧着することによって一体化する(図4(3)参照)。この一体化後において、ハードコート層付き樹脂フィルムの成型基板フィルム23は含侵用樹脂21pで形成された樹脂層と共に樹脂層2(中間樹脂層)を形成することになる。この場合においても、含侵用樹脂21pと、ハードコート層付き樹脂フィルムの成型基板フィルム23は、やはり、ベース樹脂を共通とする樹脂、又は、同一の樹脂であることが好ましい。
【0076】
尚、本発明の製造方法の第2の実施態様は、予め、図4(1)の段階において、ハードコート層1を含むハードコート層付き樹脂フィルムを、強化繊維31に対して粉状に形成されている含侵用樹脂21pの積層面と反対側(図4(1)における強化繊維31の下方側)に予め載置しておき、その後、上記同様の工程を経ることによっても、ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品10を製造することができる。このような工程とすることにより、強化繊維31が、ハードコート層側の外面近傍に偏在する構成のハードコート層付き繊維強化樹脂成形品を得ることができる。
【0077】
又、この実施態様においては、粉状に形成されている含侵用樹脂21pに代えてフィルム状に成形されている含侵用樹脂を用いて、同様の手順でハードコート層付き繊維強化樹脂成形品の製造を行なうこともできる。
【0078】
上記のように加熱処理によって繊維強化樹脂層とハードコート層付き樹脂フィルムとを一体化するための具体的方法としては、プレス成形法、オートクレーブ成形法、バッギング成形法、ラッピングテープ法及び内圧成形法等を適宜採用することができる。
【符号の説明】
【0079】
1 ハードコート層
2、22 樹脂層
21 含侵用樹脂
23 ハードコート層付き樹脂フィルムの成型基板フィルム
3 繊維強化樹脂層
31 強化繊維
32 マトリックス樹脂
10 ハードコート層付き繊維強化樹脂成形品
20 射出成型金型
30 熱プレス機
図1
図2
図3
図4