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特許7552254内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/14 20060101AFI20240910BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240910BHJP
   F02M 25/08 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F02D41/14
F02D43/00 301E
F02D43/00 301M
F02D43/00 310A
F02M25/08 301J
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020180999
(22)【出願日】2020-10-29
(65)【公開番号】P2022071889
(43)【公開日】2022-05-17
【審査請求日】2023-08-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】下条 茂雅
(72)【発明者】
【氏名】大橋 仁
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-279715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/14
F02D 43/00
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクからの蒸発燃料を吸着するキャニスタと、
上記キャニスタに吸着した蒸発燃料を吸気系に導入する蒸発燃料処理システムと、を有する内燃機関の制御方法であって、
上記キャニスタに吸着した蒸発燃料をパージする前に上記キャニスタに吸着した蒸発燃料のパージにより予想される空燃比変動に応じて、内燃機関の目標空燃比が理論空燃比を中心とする所定の振り幅の範囲となる空燃比フィードバック制御における上記振り幅を変更し、
上記キャニスタに吸着した蒸発燃料をパージする前に上記キャニスタに吸着した蒸発燃料量が多くなり上記キャニスタのパージにより予想される空燃比変動が大きくなるほど上記振り幅を大きく設定することを特徴とする内燃機関の制御方法。
【請求項2】
上記キャニスタに吸着した蒸発燃料量が少なくなるほど、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の振り幅を小さく設定することを特徴とする請求項1に記載の内燃機関の制御方法。
【請求項3】
燃料タンクからの蒸発燃料を吸着するキャニスタと、
上記キャニスタに吸着した蒸発燃料を吸気系に導入する蒸発燃料処理システムと、
上記キャニスタに吸着した蒸発燃料をパージする前に上記キャニスタに吸着した蒸発燃料のパージにより予想される空燃比変動に応じて、内燃機関の目標空燃比が理論空燃比を中心とする所定の振り幅の範囲となる空燃比フィードバック制御における上記振り幅を変更する制御部と、を有し、
上記制御部は、上記キャニスタに吸着した蒸発燃料をパージする前に上記キャニスタに吸着した蒸発燃料量が多くなり上記キャニスタのパージにより予想される空燃比変動が大きくなるほど上記振り幅を大きく設定することを特徴とする内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンク内で発生した蒸発燃料は、キャニスタに吸着される。キャニスタに吸着した燃料は、パージ処理により脱離させられて吸気通路に導入される。
【0003】
例えば、特許文献1には、パージ処理中、吸入空気量に対するパージガスの流量の比率に応じて燃料噴射量を補正し、内燃機関の空燃比フィードバック制御における空燃比変動を抑制する技術が開示されている。
【0004】
空燃比フィードバック制御は、排気中の空燃比が理論空燃比を中心として所定の狭い範囲(ウィンドウ)で振れるようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-309119号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1においては、パージ処理中の空燃比フィードバック制御における空燃比の振り幅をどのようにするか考慮されていない。
【0007】
空燃比フィードバック制御のロバスト性を向上させるためには、空燃比フィードバック制御における空燃比の振り幅を大きくすることになる。
【0008】
一方、空燃比フィードバック制御における空燃比の振り幅を大きくすると、空燃比のリッチからリーンあるいはリーンからリッチの切替えが頻繁となり、またリッチ判定時における排気中の燃料量が一層多くなるため、HC、COの排出量が増えて排気エミッションが悪化する虞がある。
【0009】
つまり、空燃比フィードバック制御中にキャニスタのパージ処理を行うにあたっては、空燃比フィードバック制御のロバスト性向上と内燃機関の排気性能向上との両立を図る上で更なる改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の内燃機関は、キャニスタに吸着した蒸発燃料をパージする前に上記キャニスタに吸着した蒸発燃料のパージにより予想される空燃比変動に応じて、内燃機関の目標空燃比が理論空燃比を中心とする所定の振り幅の範囲となる空燃比フィードバック制御における上記振り幅を変更し、上記キャニスタに吸着した蒸発燃料をパージする前に上記キャニスタに吸着した蒸発燃料量が多くなり上記キャニスタのパージにより予想される空燃比変動が大きくなるほど上記振り幅を大きく設定する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャニスタに吸着した蒸発燃料量に応じて空燃比フィードバック制御における目標空燃比の振り幅が変更されるので、空燃比フィードバック制御のロバスト性向上と内燃機関の排気性能向上とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明が適用される内燃機関のシステム構成を模式的に示した説明図。
図2】キャニスタの吸着割合とVapor濃度との相関を模式的に示した特性線図。
図3】キャニスタの吸着割合と、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅との相関を模式的に示した特性線図。
図4】パージ中に内燃機関を空燃比フィードバック制御した際の空燃比変動と排気性能の相関を示すタイミングチャート。
図5】内燃機関の制御の流れを示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1は、本発明が適用される内燃機関10のシステム構成を模式的に示した説明図である。
【0015】
内燃機関10は、ピストン(図示せず)の往復直線運動をクランクシャフト(図示せず)の回転運動に変換して動力として取り出すいわゆるレシプロ式の内燃機関である。内燃機関10は、吸気通路11と排気通路12とを有している。
【0016】
吸気通路11(吸気系)には、コントロールユニット13からの制御信号によって開度が制御される電動のスロットル弁14が設けられている。スロットル弁14は、吸入空気量を制御する。
【0017】
吸気通路11には、燃料タンク15で発生した蒸発燃料を導入する蒸発燃料処理システムが接続されている。
【0018】
蒸発燃料処理システムは、吸気通路11に接続されたパージ通路16と、パージ通路16に設けられたパージコントロール弁17と、燃料タンク15で発生する蒸発燃料を吸着するキャニスタ18と、を有している。パージ通路16は、スロットル弁14の下流側で吸気通路11に接続されている。パージ通路16には、パージコントロール弁17とキャニスタ18が設けられている。パージコントロール弁17は、キャニスタ18の下流側(キャニスタ18と吸気通路11の間)に配置されている。
【0019】
排気通路12(排気系)には、排気触媒装置21が設けられている。排気触媒装置21は、例えば三元触媒からなる排気浄化用の触媒である。
【0020】
三元触媒は、理論空燃比を中心とする所定の狭い範囲(ウィンドウ)に空燃比がある場合に最大の転化効率をもって排気中のNOx、HC、COを同時に浄化できるものである。
【0021】
排気触媒装置21の上流側には、空燃比センサとしてのA/Fセンサ31が配置されている。A/Fセンサ31は、排気空燃比に応じたほぼリニアな出力特性を有するいわゆる広域型空燃比センサである。
【0022】
排気触媒装置21の下流側には、酸素センサ32が配置されている。酸素センサ32は、理論空燃比付近の狭い範囲で出力電圧がON/OFF(リッチ、リーン)的に変化して、空燃比のリッチ、リーンのみを検知するセンサである。
【0023】
また、この内燃機関10は、過給機としてのターボ過給機35を有している。ターボ過給機35は、吸気通路11に設けられたコンプレッサ36と排気通路12に設けられた排気タービン37とを同軸上に備えたものである。
【0024】
コンプレッサ36は、スロットル弁14の上流側に配置されている。コンプレッサ36は、図示せぬエアフローメータよりも下流側に配置されている。排気タービン37は、排気触媒装置21よりも上流側に配置されている。コンプレッサ36は、排気タービン37によって駆動可能となっている。
【0025】
排気通路12には、排気タービン37を迂回して排気タービン37の上流側と下流側とを接続する排気バイパス通路41が接続されている。排気バイパス通路41の下流側端は、排気触媒装置21よりも上流側の位置で排気通路12に接続されている。排気バイパス通路41には、排気バイパス通路41内の排気流量を制御する電動のウエストゲート弁42が配置されている。ウエストゲート弁42は、排気タービン37に導かれる排気ガスの一部を排気タービン37の下流側にバイパスさせることが可能であり、内燃機関10の過給圧を制御可能なものである。
【0026】
コントロールユニット13は、CPU、ROM、RAM及び入出力インターフェースを備えた周知のデジタルコンピュータである。
【0027】
コントロールユニット13には、上述したA/Fセンサ31、酸素センサ32の検出信号のほか、キャニスタ18内の圧力状態を検出するエバポ圧力センサ43、クランクシャフトのクランク角を検出するクランク角センサ44等の各種センサ類の検出信号が入力されている。クランク角センサ44は、内燃機関10の機関回転数を検出可能なものである。
【0028】
コントロールユニット13は、スロットル弁14、パージコントロール弁17及びウエストゲート弁42の開度を制御する。
【0029】
コントロールユニット13は、エバポ圧力センサ43の検出値を用いてキャニスタ18に吸着した蒸発燃料量を推定可能である。換言すれば、コントロールユニット13は、キャニスタ18の吸着割合を推定可能である。つまり、コントロールユニット13は、蒸発燃料吸着量検出部(吸着割合検出部)に相当とする。 なお、キャニスタ18の吸着割合は、キャニスタ18の吸着容量に対するキャニスタ18に吸着した蒸発燃料量の吸着量の比率である。従って、キャニスタ18の吸着割合が高いとは、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量が多いことを意味する。
【0030】
内燃機関10は、内燃機関10の運転中に、パージコントロール弁17を開いてキャニスタ18に吸着した蒸発燃料をパージし、吸気通路11に導入する。
【0031】
コントロールユニット13は、排気触媒装置21の三元触媒が最大の転化効率をもって排気中のNOx、HC、COを同時に浄化できるように、内燃機関10の空燃比が理論空燃比を中心とする所定の狭い範囲(ウィンドウ)となるように、空燃比フィードバック制御を実施する。
【0032】
内燃機関10の空燃比フィードバック制御においては、空燃比が基準空燃比(基準となる空燃比であり、例えば理論空燃比)よりもリッチ側にあると目標空燃比を基準空燃比よりもリーン側の値に設定し、空燃比が基準空燃比よりもリーン側にあると目標空燃比を基準空燃比よりもリッチ側の値に設定する。
【0033】
空燃比フィードバック制御中、パージによりキャニスタ18に吸着した蒸発燃料が吸気通路11(吸気系)に導入されると、吸気通路11に導入される蒸発燃料量を考慮して目標空燃比が設定される。
【0034】
図2は、キャニスタ18の吸着割合(キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量)と、キャニスタ18をパージした際に吸気通路11に導入される蒸発燃料を含んだガス(パージガス)の濃度(Vapor濃度)との相関を模式的に示した特性線図である。
【0035】
図2中に実線で示す特性線Mは、ある特定の大気圧、ある特定の温度、ある一定量のパージガス、という条件下におけるキャニスタ18の吸着割合とVapor濃度の関係を示している。すなわち、特性線Mは、キャニスタ18の吸着割合に対するVapor濃度の変化特性を表す基準線である。Vapor濃度は、キャニスタ18の吸着割合が高いほど(キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量が多くなるほど)高くなる。
【0036】
そのため、基準となる特性線Mに対するずれ量が同じ±X%のずれであっても、キャニスタ18の吸着割合が高いとき(吸着割合がAのとき)と、キャニスタ18の吸着割合が低いとき(吸着割合がBのとき)とでは、推定されるVapor濃度のずれの影響度に違いがでる。ここで、A>Bとする。
【0037】
図2中に破線で示す特性線S1は、例えば、キャニスタ18をパージする際の温度が高く、パージガスの流量が少なく、キャニスタ18をパージする際の気圧が低いことによって、特性線Mに対するずれ量が+X%となっているものである。
【0038】
図2中に破線で示す特性線S2は、例えば、キャニスタ18をパージする際の温度が低く、パージガスの流量が多いことによって、特性線Mに対するずれ量が-X%となっているものである。
【0039】
つまり、吸気通路11に導入される蒸発燃料量の推定値は、図2に示すように、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)に対するばらつきの割合が一定であっても、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)に対するばらつきの量が変化する。詳述すると、キャニスタ18の吸着割合がAのときにおけるVapor濃度の推定値のばらつき幅は、キャニスタ18の吸着割合がBのときにおけるVapor濃度の推定値のばらつき幅よりも大きくなる。
【0040】
例えば、内燃機関10の空燃比を「14.5」を中心に燃料噴射による目標空燃比の振り幅を「±1.2」に設定(リッチ空燃比制御時の目標空燃比を「13.3」、リーン空燃比制御時の目標空燃比を「15.7」)して空燃比フィードバック制御を実施する場合を考える。
【0041】
排気触媒装置21の雰囲気がリッチ(排気触媒装置21の下流側の空燃比がリッチ)のとき、目標空燃比を「+1.2」の「15.7」にして排気触媒装置21の雰囲気をリーンへ戻す。このとき、空燃比をリッチ側へ「-1.0」シフトさせる濃度のパージガスが吸気通路11に導入されても、内燃機関10は、目標空燃比が「15.7」であれば、排気触媒装置21の雰囲気をリーンへ戻すことが可能である。
【0042】
排気触媒装置21の雰囲気がリーン(排気触媒装置21の下流側の空燃比がリーン)のとき、目標空燃比を「-1.2」の「13.3」にして排気触媒装置21の雰囲気をリッチへ戻す。このとき、空燃比をリーン側へ「+1.0」シフトさせる濃度のパージガスが吸気通路11に導入されても、内燃機関10は、目標空燃比が「13.3」であれば、排気触媒装置21の雰囲気をリッチへ戻すことが可能である。
【0043】
つまり、パージガスの導入による空燃比の変動幅が「1.0」であれば、内燃機関10の空燃比を「14.5」を中心に「±1.2」の振り幅で空燃比フィードバック制御(パータベーション制御)することができる。
【0044】
一方、例えば、内燃機関10の空燃比を「14.5」を中心に燃料噴射による目標空燃比の振り幅を「±0.5」に設定(リッチ空燃比制御時の目標空燃比を「14.0」、リーン空燃比制御時の目標空燃比を「15.0」)して空燃比フィードバック制御を実施する場合を考える。
【0045】
排気触媒装置21の雰囲気がリッチ(排気触媒装置21の下流側の空燃比がリッチ)のとき、目標空燃比を「+0.5」の「15.0」にして排気触媒装置21の雰囲気をリーンへ戻す。このとき、空燃比をリッチ側へ「-1.0」シフトさせる濃度のパージガスが吸気通路11に導入されると、内燃機関10は、目標空燃比を「15.0」としても排気触媒装置21の雰囲気をリーンへ戻すことができない。
【0046】
そのため、内燃機関10は、排気触媒装置21の雰囲気が継続してリッチとなり、HC、CO排出量が悪化する(排気性能が悪化する)。
【0047】
つまり、内燃機関10を空燃比フィードバック制御する場合には、基準空燃比に対する目標空燃比の振り幅が大きいほどロバスト性が高くなる。ただし、空燃比フィードバック制御における空燃比の振り幅を大きくすると、上述したように、空燃比の切替えが頻繁となり、またリッチ判定時における排気中の燃料量が一層多くなるため、内燃機関は排気性能が悪化する虞がある。
【0048】
そこで、キャニスタ18のパージによる空燃比変動が、例えば「±0.3」程度と予想される場合は、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を例えば「±0.5」のように小さくする。また、キャニスタ18のパージによる空燃比変動が、例えば「±1.0」程度と予想される場合は、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を例えば「±1.5」のように大きくする。
【0049】
つまり、制御部としてのコントロールユニット13は、図3に示すように、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)、換言すればキャニスタ18の脱離特性に応じて、内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を変更する。
【0050】
すなわち、コントロールユニット13は、キャニスタ18の吸着割合が高いとき、内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅が大きくなるように設定し、キャニスタ18の吸着割合が低いとき、内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅が小さくなるよう設定する。詳述すると、コントロールユニット13は、キャニスタ18の吸着割合が高いほど、内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅が大きくなるように設定する。
【0051】
図3は、キャニスタ18の吸着割合(キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量)と、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅との相関を模式的に示した特性線図である。
【0052】
図3中に実線で示す特性線V1は、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比のリーン側への振り幅をキャニスタ18の吸着割合に応じて変化させたものである。図3中に実線で示す特性線V2は、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比のリッチ側への振り幅をキャニスタ18の吸着割合に応じて変化させたものである。
【0053】
特性線V1は、キャニスタ18の吸着割合が高いほど、基準空燃比(振り幅0)に対するリーン側への振り幅が大きくなっている。特性線V2は、キャニスタ18の吸着割合が高いほど、基準空燃比(振り幅0)に対するリッチ側への振り幅が大きくなっている。
【0054】
内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅は、キャニスタ18の吸着割合が高いとき(例えば吸着割合がAのとき)に大きく、キャニスタ18の吸着割合が低いとき(例えば吸着割合がBのとき)に小さくなっている。
【0055】
特性線V1と特性線V2は、振り幅が「0」となる基準線(基準空燃比)を挟んで線対称となっている。つまり、キャニスタ18の吸着割合が同じとき、振り幅が「0」となる基準線に対する特性線V1のずれ量の絶対値と、振り幅が「0」となる基準線に対する特性線V2のずれ量の絶対値とは、同じ値となっている。
【0056】
図3中に破線で示す特性線V3は、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比のリーン側への振り幅をキャニスタ18の吸着割合に関わらず一定としたものである。図3中に破線で示す特性線V4は、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比のリッチ側への振り幅をキャニスタ18の吸着割合に関わらず一定としたものである。
【0057】
図3における特性線V1、V2は、例えば図2の特性線Mで表される曲線に合わせて設定される。換言すれば、図3における特性線V1、V2の形状は、例えば図2の特性線Mの形状と相似形である。
【0058】
これによって、内燃機関10は、空燃比フィードバック制御中にキャニスタ18に吸着した蒸発燃料が吸気通路11に導入されても、排気性能の悪化を抑制(回避)することができる。
【0059】
つまり、内燃機関10は、空燃比フィードバック制御におけるロバスト性向上と排気性能向上とを両立させることができる。
【0060】
また、キャニスタ18は、吸着した蒸発燃料量の多寡によらず排気性能の悪化を抑制(回避)しつつ吸着した蒸発燃料量のパージを実施可能となり、吸着能力を回復(再生)させて蒸発燃料の大気への漏洩を回避することができる。
【0061】
コントロールユニット13は、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)が多くなるほど空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を大きく設定する。これは、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)が多くなるほど、吸気通路11に導入される蒸発燃料量の推定値のバラツキが大きくなるからである。
【0062】
換言すれば、コントロールユニット13は、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)が少なくなるほど空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を小さく設定する。これは、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)が少なくなるほど、吸気通路11に導入される蒸発燃料量の推定値のバラツキが小さくなるからである。
【0063】
これによって、吸気通路11に導入される蒸発燃料量の推定値のばらつき(誤差)に対する空燃比フィードバック制御のロバスト性を悪化させることなく、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料のパージを実施することができる。
【0064】
また、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)に応じて、内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を適切に変更できるので、パージ中の排気性能の悪化を抑制しつつ、キャニスタ18の蒸発燃料処理性能を回復させることができる。
【0065】
図4は、パージ中に内燃機関10を空燃比フィードバック制御した際の空燃比変動と排気性能の相関を示すタイミングチャートである。
【0066】
キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)は、パージが進行すると(パージ開始からのパージ継続時間が長くなるほど)小さくなる。
【0067】
図4中の特性線P1は、上述した実施例のように、キャニスタ18の吸着割合に応じて内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を変化させた場合の空燃比変動を示している。
【0068】
図4中の特性線P2は、内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅をロバスト性を考慮して広めの値に固定した場合の空燃比変動を示している。
【0069】
そのため、上述した実施例においては、特性線P1で示されるように、パージが進行すると(パージ開始からのパージ継続時間が長くなるほど)目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅が小さくなる。
【0070】
そして、上述した実施例においては、特性線Q1で示されるように、NOx及びCOの排出量を抑制することができる。
【0071】
図4中の特性線Q1は、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を図4中の特性線P1のように制御した場合のNOx及びCOの排出量を示している。また、図4中の特性線Q2は、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を図4中の特性線P2のように制御した場合のNOx及びCOの排出量を示している。
【0072】
図5は、上述した実施例の内燃機関10の制御の流れを示すフローチャートである。
【0073】
ステップS1では、A/Fセンサ31及び酸素センサ32に故障がないか判定する。A/Fセンサ31及び酸素センサ32に故障がない場合は、ステップS2へ進む。A/Fセンサ31及び酸素センサ32のいずれかに故障がある場合は、ステップS12へ進む。ステップS12では、キャニスタ18のパージとパージガスの濃度学習を禁止する。A/Fセンサ31及び酸素センサ32の故障判定は、例えば各センサの検出値が故障判定レベルの値である場合や、各センサの検出値がリーンあるいはリッチに張りついて動かない場合に、故障していると判定する。
【0074】
ステップS2では、パージガスの濃度学習を開始する。パージガスの濃度学習では、内燃機関10の燃料噴射弁(図示せず)から噴射される燃料にパージによる補正を行わない状態(パージ補正率=1)でパージコントロール弁17の開度を所定の開弁速度で開く。
【0075】
ステップS3では、パージガスの濃度判定を行う。すなわち、目標空燃比に対してA/Fセンサ31で検出された実空燃比が所定量以上乖離しているか否かを判定する。目標空燃比に対して実空燃比が所定量以上乖離している場合は、ステップS4へ進む。目標空燃比に対して実空燃比が所定量以上乖離していない場合は、ステップS2へ進む。
【0076】
ステップS4では、パージガス中の蒸発燃料量を算出する。パージガス中の蒸発燃料量(パージ燃料量)は、例えば、目標空燃比と実空燃比との比と、燃料噴射弁からの燃料噴射量から推定可能である。パージガス中の蒸発燃料量は、目標空燃比を実空燃比で除した値から「1」を減じたもの燃料噴射弁からの燃料噴射量を乗じることで算出される。
【0077】
ステップS5では、パージガス中の蒸発燃料の濃度(Vapor濃度)を算出する。Vapor濃度は、パージガス中の蒸発燃料量をパージガス量で除すことで算出される。パージガス量は、例えばパージコントロール弁17の開度から推定可能である。
【0078】
ステップS6では、キャニスタ18の吸着割合(キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量)を算出する。キャニスタ18の吸着割合は、予め実施したキャニスタ単体試験に基づくキャニスタ脱離特性を用いて算出される。キャニスタ脱離特性は、上述した図2の特性線Mに相当するものである。キャニスタ脱離特性は、上述した図2の特性線Mと同様に、Vapor濃度が高いほどキャニスタ18の吸着割合が高くなっている。キャニスタ脱離特性は、吸着割合とVapor濃度の関係を示すものであり、例えば、縦軸をVapor濃度、横軸をキャニスタ18の吸着割合とする二次元の直交座標系上の一本の特性線である。従って、キャニスタ脱離特性を用いることでVapor濃度から吸着割合が一義的に算出される。
【0079】
ステップS7では、内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を算出する。すなわち、ステップS7では、目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅となる振幅増加比を算出する。振幅増加比は、キャニスタ脱離特性に基づく振幅増加比特性を用いて算出される。振幅増加比特性は、キャニスタ18の吸着割合が高いほど振幅増加比が大きくなっている。振幅増加比特性は、吸着割合と振幅増加比の関係を示すものであり、例えば、縦軸を振幅増加比、横軸をキャニスタ18の吸着割合とする二次元の直交座標系上の一本の特性線である。従って、振幅増加比特性を用いることで吸着割合から振幅増加比が一義的に算出される。
【0080】
ステップS8では、排気触媒装置21の下流側における空燃比のリッチ/リーン判定を行う。このリッチ/リーン判定は、例えば酸素センサ32の検出値や、排気触媒装置21の酸素ストレージ量等を用いて判定する。ステップS8で空燃比がリッチであると判定されると、ステップS9へ進む。ステップS8で空燃比がリーン(リッチではない)と判定されるとステップS10へ進む。
【0081】
ステップS9では、リーン側の振幅増加比を算出する。リーン側の振幅増加比は、「1」からステップS7で算出された振幅増加比を減じることで算出される。
【0082】
ステップS10では、リッチ側の振幅増加比を算出する。リッチ側の振幅増加比は、「1」にステップS7で算出され振幅増加比を加算することで算出される。
【0083】
ステップS11では、燃料噴射弁の燃料噴射パルス幅を算出する。燃料噴射パルス幅は、基本噴射パルス幅に、目標燃料過剰比とパージ燃料補正比と振幅増加比とを乗じることで算出される。
【0084】
基本噴射パルス幅は、内燃機関の運転状態(例えば負荷)に応じて算出される。目標燃料過剰比は、予め設定された定数(固定値)である。パージ燃料補正比は、Vapor濃度に応じて設定され、Vapor濃度が高いほど小さくなるよう設定される。
【0085】
内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅は、目標燃料過剰比と振幅増加比とによって決まる。
【0086】
以上、本発明の具体的な実施例を説明してきたが、本発明は、上述した実施例に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0087】
例えば、コントロールユニット13は、キャニスタ18の吸着割合(キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量)に替えてパージガスの積算流量を代用して、空燃比フィードバック制御における目標空燃比の振り幅を変更することも可能である。すなわち、内燃機関10は、パージガスの積算流量が少ないほど空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を大きくしてもよい。
【0088】
また、本発明は、過給機を具備しない内燃機関に対しても適用可能である。
【0089】
なお、キャニスタ18に吸着した蒸発燃料量(キャニスタ18の吸着割合)に応じて、内燃機関10の空燃比フィードバック制御における目標空燃比の基準空燃比に対する振り幅を変更する制御は、排気触媒装置21の下流側に位置する酸素センサ32の検出値があれば、排気触媒装置21の上流側に位置するA/Fセンサ31の検出値を用いることなく実施可能である。
【0090】
上述した実施例は、内燃機関の制御方法及び内燃機関の制御装置に関するものである。
【符号の説明】
【0091】
10…内燃機関
11…吸気通路
12…排気通路
13…コントロールユニット
15…燃料タンク
16…パージ通路
17…パージコントロール弁
18…キャニスタ
21…排気触媒装置
31…A/Fセンサ
32…酸素センサ
43…エバポ圧力センサ
図1
図2
図3
図4
図5