(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】印刷装置、及び、印刷物生産方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20240910BHJP
B41J 2/21 20060101ALI20240910BHJP
B41J 2/205 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
B41J2/01 213
B41J2/21
B41J2/205
(21)【出願番号】P 2020187668
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096703
【氏名又は名称】横井 俊之
(72)【発明者】
【氏名】岡島 正和
【審査官】岩本 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-175373(JP,A)
【文献】特開2016-010863(JP,A)
【文献】米国特許第06422678(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一ヘッドと、
前記第一ヘッドとは副走査方向において異なる位置に設けられた第二ヘッドと、
前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを主走査方向に相対移動させつつ前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドからインクを吐出させることにより画像の形成を行う制御部と、
を備えた印刷装置であって、
前記画像に対する前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとして、
前記制御部は、
iパス目からkパス目で、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
k+1パス目
から前記画像を形成する最後のパスまで、前記第一ヘッドを用いずに前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドに対する前記第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有する、印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、j-1パス目とjパス目との間における前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの副走査の相対移動量を、j-1パス目までにおける前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの副走査の相対移動量よりも小さくさせる、
請求項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
第一ヘッドと、
前記第一ヘッドとは副走査方向において異なる位置に設けられた第二ヘッドと、
前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを主走査方向に相対移動させつつ前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドからインクを吐出させることにより画像の形成を行う制御部と、
を備えた印刷装置であって、
前記画像に対する前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとして、
前記制御部は、
iパス目からkパス目で、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
k+1パス目以降、前記第一ヘッドを用いずに前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドに対する前記第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有し、
前記第一ヘッドは、前記副走査方向において異なる位置に複数の第一ノズルを有し、
前記第二ヘッドは、前記副走査方向において異なる位置に複数の第二ノズルを有し、
前記主走査方向に沿ったラスターに対する各前記第一ノズル及び各前記第二ノズルの使用割合をノズル別使用割合とし、
jパス目における前記複数の第一ノズルと前記複数の第二ノズルとの間を境界として、
前記制御部は、
iパス目よりも前のhパス目からiパス目で、前記ノズル別使用割合を第一使用割合にして前記画像の一部の形成を行い、
jパス目以降、前記ノズル別使用割合を前記第一使用割合とは異なる第二使用割合にして前記画像の一部の形成を行い、
jパス目以降で前記境界よりも前記副走査方向の上端側にある前記第一ノズルについての前記ノズル別使用割合を、hパス目からiパス目の前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの副走査の相対移動量に合わせた前記第一使用割合の遷移にさせる
、印刷装置。
【請求項4】
前記制御部は、j-1パス目以前で前記境界よりも前記副走査方向の下端側にある前記第二ノズルについての前記ノズル別使用割合を、前記第一使用割合とは異なる使用割合にさせる、
請求項3に記載の印刷装置。
【請求項5】
前記第二ヘッドは、前記第一ヘッドよりも前記副走査方向における下端側に位置する、請求項1~
請求項4のいずれか一項に記載の印刷装置。
【請求項6】
第一ヘッドと、該第一ヘッドとは副走査方向において異なる位置に設けられた第二ヘッドと、を用い、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを主走査方向に相対移動させつつ前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドからインクを吐出させることにより画像を有する印刷物を生産する印刷物生産方法であって、
前記画像に対する前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとして、
iパス目からkパス目で、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う第一工程と、
k+1パス目
から前記画像を形成する最後のパスまで、前記第一ヘッドを用いずに前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う第二工程と、を含み、
前記第一工程では、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドに対する前記第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有するように、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う、印刷物生産方法。
【請求項7】
第一ヘッドと、該第一ヘッドとは副走査方向において異なる位置に設けられた第二ヘッドと、を用い、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを主走査方向に相対移動させつつ前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドからインクを吐出させることにより画像を有する印刷物を生産する印刷物生産方法であって、
前記画像に対する前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとして、
iパス目からkパス目で、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う第一工程と、
k+1パス目以降、前記第一ヘッドを用いずに前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う第二工程と、を含み、
前記第一工程では、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドに対する前記第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有するように、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
前記第一ヘッドは、前記副走査方向において異なる位置に複数の第一ノズルを有し、
前記第二ヘッドは、前記副走査方向において異なる位置に複数の第二ノズルを有し、
前記主走査方向に沿ったラスターに対する各前記第一ノズル及び各前記第二ノズルの使用割合をノズル別使用割合とし、
jパス目における前記複数の第一ノズルと前記複数の第二ノズルとの間を境界として、
前記第一工程では、
iパス目よりも前のhパス目からiパス目で、前記ノズル別使用割合を第一使用割合にして前記画像の一部の形成を行い、
jパス目以降、前記ノズル別使用割合を前記第一使用割合とは異なる第二使用割合にして前記画像の一部の形成を行い、
jパス目以降で前記境界よりも前記副走査方向の上端側にある前記第一ノズルについての前記ノズル別使用割合を、hパス目からiパス目の前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの副走査の相対移動量に合わせた前記第一使用割合の遷移にさせる、印刷物生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、副走査方向において異なる位置に設けられた複数のヘッドを備えた印刷装置、及び、印刷物生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷装置として、インク滴を吐出する印刷ヘッドを主走査方向に移動させる主走査、及び、印刷ヘッドからのインク滴により印刷画像が形成される媒体を紙送り方向へ送る副走査を繰り返すシリアルプリンターが知られている。媒体を基準とした副走査時の印刷ヘッドの相対移動方向である副走査方向は、紙送り方向とは逆の方向である。シリアルプリンターの印刷速度を向上させるため、副走査方向において異なる位置に複数の印刷ヘッドを設けることも行われている。
【0003】
参考として、特許文献1に開示されたシリアルプリンターは、印刷ヘッドの1走査で1バンド分の印刷を行った後、1バンドの副走査方向幅より狭い幅だけ用紙を副走査方向に搬送し、印刷ヘッドの次の1走査で次の1バンド分の印刷を行うという、部分オーバーラップ印刷を行っている。このシリアルプリンターは、複数回の走査により印刷される重複領域において画像データの濃度に応じて補正を行った上側ノズル印刷データ及び下側ノズル印刷データを生成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリアルプリンターが副走査方向において異なる位置に配置された複数の印刷ヘッドを用いて部分オーバーラップ印刷を行う場合、各印刷ヘッドから吐出されるインクのボリューム等にばらつきがあると、使用可能な印刷ヘッドの数が限られる端部の印刷画像の濃度がばらつく。この濃度ばらつきを抑制するため、製造時に各印刷ヘッドのばらつきを把握しておき、このばらつきに基づいて印刷ヘッド毎又はラスター毎にインクドットの発生率を変えることが考えられる。しかし、印刷ヘッド毎又はラスター毎にインクドットの発生率を変えても、環境温度等の外部環境により印刷画像の濃度にむらが生じることがあることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の印刷装置は、
第一ヘッドと、
前記第一ヘッドとは副走査方向において異なる位置に設けられた第二ヘッドと、
前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを主走査方向に相対移動させつつ前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドからインクを吐出させることにより画像の形成を行う制御部と、
を備えた印刷装置であって、
前記画像に対する前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとして、
前記制御部は、
iパス目からkパス目で、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
k+1パス目から前記画像を形成する最後のパスまで、前記第一ヘッドを用いずに前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドに対する前記第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有する、態様を有する。
【0007】
また、本発明の印刷装置は、
第一ヘッドと、
前記第一ヘッドとは副走査方向において異なる位置に設けられた第二ヘッドと、
前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを主走査方向に相対移動させつつ前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドからインクを吐出させることにより画像の形成を行う制御部と、
を備えた印刷装置であって、
前記画像に対する前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとして、
前記制御部は、
iパス目からkパス目で、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
k+1パス目以降、前記第一ヘッドを用いずに前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドに対する前記第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有し、
前記第一ヘッドは、前記副走査方向において異なる位置に複数の第一ノズルを有し、
前記第二ヘッドは、前記副走査方向において異なる位置に複数の第二ノズルを有し、
前記主走査方向に沿ったラスターに対する各前記第一ノズル及び各前記第二ノズルの使用割合をノズル別使用割合とし、
jパス目における前記複数の第一ノズルと前記複数の第二ノズルとの間を境界として、
前記制御部は、
iパス目よりも前のhパス目からiパス目で、前記ノズル別使用割合を第一使用割合にして前記画像の一部の形成を行い、
jパス目以降、前記ノズル別使用割合を前記第一使用割合とは異なる第二使用割合にして前記画像の一部の形成を行い、
jパス目以降で前記境界よりも前記副走査方向の上端側にある前記第一ノズルについての前記ノズル別使用割合を、hパス目からiパス目の前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの副走査の相対移動量に合わせた前記第一使用割合の遷移にさせる、態様を有する。
【0008】
さらに、本発明の印刷物生産方法は、
第一ヘッドと、該第一ヘッドとは副走査方向において異なる位置に設けられた第二ヘッドと、を用い、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを主走査方向に相対移動させつつ前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドからインクを吐出させることにより画像を有する印刷物を生産する印刷物生産方法であって、
前記画像に対する前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとして、
iパス目からkパス目で、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う第一工程と、
k+1パス目から前記画像を形成する最後のパスまで、前記第一ヘッドを用いずに前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う第二工程と、を含み、
前記第一工程では、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドに対する前記第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有するように、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う、態様を有する。
【0009】
さらに、本発明の印刷物生産方法は、
第一ヘッドと、該第一ヘッドとは副走査方向において異なる位置に設けられた第二ヘッドと、を用い、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを主走査方向に相対移動させつつ前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドからインクを吐出させることにより画像を有する印刷物を生産する印刷物生産方法であって、
前記画像に対する前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとして、
iパス目からkパス目で、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う第一工程と、
k+1パス目以降、前記第一ヘッドを用いずに前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行う第二工程と、を含み、
前記第一工程では、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドに対する前記第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有するように、前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドを用いて前記画像の一部の形成を行い、
前記第一ヘッドは、前記副走査方向において異なる位置に複数の第一ノズルを有し、
前記第二ヘッドは、前記副走査方向において異なる位置に複数の第二ノズルを有し、
前記主走査方向に沿ったラスターに対する各前記第一ノズル及び各前記第二ノズルの使用割合をノズル別使用割合とし、
jパス目における前記複数の第一ノズルと前記複数の第二ノズルとの間を境界として、
前記第一工程では、
iパス目よりも前のhパス目からiパス目で、前記ノズル別使用割合を第一使用割合にして前記画像の一部の形成を行い、
jパス目以降、前記ノズル別使用割合を前記第一使用割合とは異なる第二使用割合にして前記画像の一部の形成を行い、
jパス目以降で前記境界よりも前記副走査方向の上端側にある前記第一ノズルについての前記ノズル別使用割合を、hパス目からiパス目の前記第一ヘッド及び前記第二ヘッドの副走査の相対移動量に合わせた前記第一使用割合の遷移にさせる、態様を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】第一ヘッド及び第二ヘッドに設けられた複数のノズルと媒体上の画像を構成する複数のドットとの関係の例を模式的に示す図。
【
図3】上端処理部、通常処理部、及び、下端処理部におけるヘッドと媒体との位置関係の例を模式的に示す図。
【
図4】媒体上に画像を有する印刷物の例を模式的に示す図。
【
図6】画像のドットパターンの例を模式的に示す図。
【
図7】通常処理部における各パスのノズル別使用割合の例を模式的に示す図。
【
図8】通常処理部から下端処理部にかけて使用するディザマスクの例を模式的に示す図。
【
図9】通常処理部から下端処理部における各パスのノズル別使用割合の例を模式的に示す図。
【
図10】通常処理部から下端処理部における各パスのノズル別使用割合の例を模式的に示す図。
【
図11】ラスターの位置に応じた第一ヘッドの使用率の例を模式的に示す図。
【
図12】ラスターの位置に応じた第一ヘッドの使用率の例を模式的に示す図。
【
図13】パスに応じた第一ヘッドの使用割合の例を模式的に示す図。
【
図14】パスに応じた第一ヘッドの使用割合の例を模式的に示す図。
【
図15】比較例において通常処理部から印刷が終了するまでの記録方法を模式的に例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を説明する。むろん、以下の実施形態は本発明を例示するものに過ぎず、実施形態に示す特徴の全てが発明の解決手段に必須になるとは限らない。
【0012】
(1)本発明に含まれる技術の概要:
まず、
図1~15に示される例を参照して本発明に含まれる技術の概要を説明する。尚、本願の図は模式的に例を示す図であり、これらの図に示される各方向の拡大率は異なることがあり、各図は整合していないことがある。むろん、本技術の各要素は、符号で示される具体例に限定されない。「本発明に含まれる技術の概要」において、括弧内は直前の語の補足説明を意味する。
【0013】
[態様1]
本技術の一態様に係る印刷装置1は、第一ヘッドHE1、該第一ヘッドHE1とは副走査方向D2において異なる位置に設けられた第二ヘッドHE2、及び、前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2からインク36を吐出させることにより画像IM0の形成を行う制御部U0を備える。前記制御部U0は、前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2を用いて、第一領域A1、及び、該第一領域A1から前記副走査方向D2の下端側S2にある第二領域A2における前記画像IM0の形成を行う。当該制御部U0は、前記第一ヘッドHE1を用いずに前記第二ヘッドHE2を用いて、前記第二領域A2から前記下端側S2にある第三領域A3における前記画像IM0の形成を行う。
図11,12に例示するように、本印刷装置1は、前記第二領域A2において前記第二ヘッドHE2に対する前記第一ヘッドHE1の使用割合が前記副走査方向D2の上端側S1から前記下端側S2に向けて低下する傾向を有する。尚、両ヘッドHE1,HE2に対する第一ヘッドHE1の使用率をR1とし、両ヘッドHE1,HE2に対する第二ヘッドHE2の使用率をR2とすると、第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合(R0とする。)はR1/R2で表される。従って、上端側S1から下端側S2に向けて第一ヘッドHE1の使用率R1が低下する傾向であると、第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0は低下する傾向であるといえる。
【0014】
例えば、印刷装置が
図2に示すように副走査方向D2において異なる位置に複数のヘッドHE1,HE2を備えているとする。高精度の画像IM0を媒体ME1に形成するためには、副走査方向D2においてヘッドHE1,HE2の両外側でローラー対56,57等により媒体ME1を保持する必要がある。このため、
図3,4に例示するように、媒体ME1の上端ME1a近傍では画像IM0に第一ヘッドHE1しか用いられない上端領域A11が生じ、媒体ME1の下端ME1b近傍では画像IM0に第二ヘッドHE2しか用いられない下端領域A13が生じる。上端領域A11と下端領域A13との間の通常領域A12では、画像IM0の形成に両方のヘッドHE1,HE2が用いられる。
【0015】
ここで、各ヘッドHE1,HE2から吐出されるインクのボリューム等にばらつきがあると、第一ヘッドHE1しか使用されない上端領域A11と通常領域A12とで濃度差が生じ、第二ヘッドHE2しか用いられない下端領域A13と通常領域A12とで濃度差が生じる。これらの濃度差を抑制するため、ラスター毎にインクドットの発生率を調整する試験を行ったが、環境温度等の外部環境により画像IM0の濃度にむらが生じることがあることが分かった。或る環境ではインクドット発生率の調整により濃度差を抑制することができても、異なる環境では下端領域A13と通常領域A12とで濃度差が生じ、濃度の急な変化による主走査方向D1に沿った境界が視認されるのである。
【0016】
本技術の上記態様1では、
図11,12に例示するように、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられる第二領域A2において第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合が副走査方向D2の上端側S1から下端側S2に向けて低下する傾向を有している。これにより、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられる第一領域A1と第一ヘッドHE1が用いられない第三領域A3との濃度差による濃度の急な変化が抑制され、主走査方向D1に沿った境界が目立たない。従って、態様1は、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらを少なくさせることができる。
【0017】
ここで、或る領域が起点から副走査方向の下端側にあるとは、当該領域が起点から副走査時の第一ヘッド及び第二ヘッドの相対移動方向の方にあることを意味する。或る領域が起点から副走査方向の上端側にあるとは、当該領域が起点から副走査時の第一ヘッド及び第二ヘッドの相対移動方向とは反対の方にあることを意味する。
第一ヘッドの使用割合が上端側から下端側に向けて低下する傾向を有することには、ラスター単位で見たときに第一ヘッドの使用割合の変化に凸凹がある場合が含まれる。例えば、あるラスターの次のラスターの方が第一ヘッドの使用割合が大きいとしても、巨視的には第一ヘッドの使用割合が上端側から下端側に向けて低下していれば、第一ヘッドの使用割合が上端側から下端側に向けて低下する傾向を有するといえる。
尚、上述した付言は、以下の態様においても適用される。
【0018】
[態様2]
また、本技術の別の態様に係る印刷装置1は、第一ヘッドHE1、該第一ヘッドHE1とは副走査方向D2において異なる位置に設けられた第二ヘッドHE2、及び、前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2を主走査方向D1に相対移動させつつ前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2からインク36を吐出させることにより画像IM0の形成を行う制御部U0を備える。ここで、前記画像IM0に対する前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2の主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとする。前記制御部U0は、iパス目からkパス目で、前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2を用いて前記画像IM0の一部の形成を行う。当該制御部U0は、k+1パス目以降、前記第一ヘッドHE1を用いずに前記第二ヘッドHE2を用いて前記画像IM0の一部の形成を行う。
図13,14に例示するように、本印刷装置1は、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドHE2に対する前記第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向を有する。
【0019】
上記態様2では、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられるjパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向を有している。これにより、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられるiパス目からj-1パス目において形成される部分の画像IM0と、第一ヘッドHE1が用いられないk+1パス目以降において形成される部分の画像IM0と、の濃度差による濃度の急な変化が抑制され、主走査方向D1に沿った境界が目立たない。従って、態様2も、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらを少なくさせることができる。
【0020】
ここで、パス数が増えるにつれて第一ヘッドの使用割合が低下する傾向を有することには、パス単位で見たときに第一ヘッドの使用割合の変化に凸凹がある場合が含まれる。この付言は、以下の態様においても適用される。
【0021】
[態様3]
図9に例示するように、前記制御部U0は、j-1パス目とjパス目との間における前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2の副走査の相対移動量を、j-1パス目までにおける前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2の副走査の相対移動量よりも小さくさせてもよい。この態様は、形成される画像IM0の下端に副走査を合わせることができるので、下端処理部において形成される画像のむらを少なくさせる好適な例を提供することができる。
【0022】
[態様4]
図2に例示するように、前記第一ヘッドHE1は、前記副走査方向D2において異なる位置に複数の第一ノズルNZ1を有していてもよい。前記第二ヘッドHE2は、前記副走査方向D2において異なる位置に複数の第二ノズルNZ2を有していてもよい。ここで、前記主走査方向D1に沿ったラスターRA0に対する各前記第一ノズルNZ1及び各前記第二ノズルNZ2の使用割合をノズル別使用割合Rnzとする。また、
図9,10に例示するように、jパス目における前記複数の第一ノズルNZ1と前記複数の第二ノズルNZ2との間を境界B0とする。前記制御部U0は、iパス目よりも前のhパス目からiパス目で、前記ノズル別使用割合Rnzを第一使用割合Rnz1にして前記画像IM0の一部の形成を行ってもよい。当該制御部U0は、jパス目以降、前記ノズル別使用割合Rnzを前記第一使用割合Rnz1とは異なる第二使用割合Rnz2にして前記画像IM0の一部の形成を行ってもよい。当該制御部U0は、jパス目以降で前記境界B0よりも前記副走査方向D2の上端側S1にある前記第一ノズルNZ1についての前記ノズル別使用割合Rnzを、hパス目からiパス目の前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2の副走査の相対移動量に合わせた前記第一使用割合Rnz1の遷移にさせてもよい。
以上より、j-1パス目以降の副走査の相対移動量がj-1パス目以前の副走査の相対移動量から変わっても境界B0よりも上端側S1において第一使用割合Rnz1の遷移が維持される。従って、本態様は、第一領域における画像の画質を向上させることができる。
【0023】
[態様5]
さらに、
図9,10に例示するように、前記制御部U0は、j-1パス目以前で前記境界B0よりも前記副走査方向D2の下端側S2にある前記第二ノズルNZ2についての前記ノズル別使用割合Rnzを、前記第一使用割合Rnz1とは異なる使用割合にさせてもよい。これにより、j-1パス目以前でも境界B0よりも下端側S2においてノズル別使用割合Rnzの自由度が高まる。従って、下端処理部において形成される画像のむらを少なくさせるさらに好適な例を提供することができる。
【0024】
[態様6]
図2等に例示するように、第二ヘッドHE2は、第一ヘッドHE1よりも副走査方向D2における下端側S2に位置してもよい。この態様は、形成される画像のむらを少なくさせる好適な例を提供することができる。
【0025】
[態様7]
ところで、本技術の一態様に係る印刷物生産方法は、第一ヘッドHE1と、該第一ヘッドHE1とは副走査方向D2において異なる位置に設けられた第二ヘッドHE2と、を用い、前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2からインク36を吐出させることにより画像IM0を有する印刷物PT0を生産する印刷物生産方法である。本印刷物生産方法は、以下の工程を含む。
(A)前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2を用いて、第一領域A1、及び、該第一領域A1から前記副走査方向D2の下端側S2にある第二領域A2における前記画像IM0の形成を行う第一工程。
(B)前記第一ヘッドHE1を用いずに前記第二ヘッドHE2を用いて、前記第二領域A2から前記下端側S2にある第三領域A3における前記画像IM0の形成を行う第二工程。
前記第一工程では、
図11,12に例示するように、前記第二領域A2において前記第二ヘッドHE2に対する前記第一ヘッドHE1の使用割合が前記副走査方向D2の上端側S1から前記下端側S2に向けて低下する傾向を有するように、前記第二領域A2における前記画像IM0の形成が行われる。
【0026】
上記態様7では、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられる第二領域A2において第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合が副走査方向D2の上端側S1から下端側S2に向けて低下する傾向を有するように、第二領域A2における画像IM0の形成が行われる。これにより、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられる第一領域A1と第一ヘッドHE1が用いられない第三領域A3との濃度差による濃度の急な変化が抑制され、主走査方向D1に沿った境界が目立たない。従って、態様7は、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらが少ない印刷物を生産することができる。なお、上記態様7では、各工程が同時に行われてもよい。
【0027】
[態様8]
また、本技術の別の態様に係る印刷物生産方法は、第一ヘッドHE1と、該第一ヘッドHE1とは副走査方向D2において異なる位置に設けられた第二ヘッドHE2と、を用い、前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2を主走査方向D1に相対移動させつつ前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2からインク36を吐出させることにより画像IM0を有する印刷物PT0を生産する印刷物生産方法である。ここで、前記画像IM0に対する前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2の主走査が何番目であるかを表す数i,j,kがi<j<kであるとする。本印刷物生産方法は、以下の工程を含む。
(A)iパス目からkパス目で、前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2を用いて前記画像IM0の一部の形成を行う第一工程。
(B)k+1パス目以降、前記第一ヘッドHE1を用いずに前記第二ヘッドHE2を用いて前記画像IM0の一部の形成を行う第二工程。
前記第一工程では、
図13,14に例示するように、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて前記第二ヘッドHE2に対する前記第一ヘッドHE1の使用割合が低下する傾向を有するように、前記第一ヘッドHE1及び前記第二ヘッドHE2を用いて前記画像IM0の一部の形成が行われる。
【0028】
上記態様8では、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられるjパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合が低下する傾向を有するように、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2を用いて画像IM0の一部の形成が行われる。これにより、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられるiパス目からj-1パス目において形成される部分の画像IM0と、第一ヘッドHE1が用いられないk+1パス目以降において形成される部分の画像IM0と、の濃度差による濃度の急な変化が抑制され、主走査方向D1に沿った境界が目立たない。従って、態様8も、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらが少ない印刷物を生産することができる。
【0029】
さらに、本技術は、上述した印刷装置の制御方法、上述した印刷装置の制御プログラム、該制御プログラムを記録したコンピューター読み取り可能な記録媒体、等に適用可能である。また、上述した印刷装置は、分散した複数の部分で構成されてもよい。
【0030】
(2)印刷装置の具体例:
図1は、印刷装置1としてのプリンター2の構成を模式的に例示している。
図1に示すプリンター2は、ホスト装置HO1に接続されている。
図1に示す例ではプリンター2がハーフトーン処理部14等を含んでいるが、ハーフトーン処理部14等はホスト装置HO1に含まれてもよい。ハーフトーン処理部14等がホスト装置HO1に含まれる場合、ホスト装置HO1とプリンター2の両方が印刷装置1を構成する。印刷装置1は、
図1に示されていない追加要素を含んでいてもよい。
図1には、プリンター2として、インクジェットプリンターの一種であるシリアルプリンターが示されている。プリンター2は、コントローラー10、バッファーを含むRAM21、通信I/F22、ヘッド30、駆動部50、等を備える。ここで、RAMはRandom Access Memoryの略称であり、I/Fはインターフェイスの略称である。コントローラー10、RAM21、及び、通信I/F22は、バスに接続され、互いに情報を入出力可能とされている。コントローラー10、RAM21、及び、駆動部50を備えるプリンター2は、制御部U0を含んでいる。
【0031】
コントローラー10は、CPU11、解像度変換部12、色変換部13、ハーフトーン処理部14、駆動信号送信部15、等を備える。CPUは、Central Processing Unitの略称である。コントローラー10は、画像IM0に対応する画像データに基づいて、駆動部50による主走査及び副走査、並びに、ヘッド30によるインク滴37の吐出を制御する。主走査は主走査方向におけるヘッド30と媒体ME1との相対移動を意味し、副走査は送り方向D3におけるヘッド30と媒体ME1との相対移動を意味し、ヘッド30によるインク滴37の吐出はヘッド30による媒体ME1への画像IM0の形成を意味する。コントローラー10は、SoC等の他のプロセッサーにより構成することができる。SoCは、System on a Chipの略称である。コントローラー10の各部12~15は、ファームウェアが実行されることにより実現されてもよい。
CPU11は、プリンター2における情報処理や制御を中心的に行う装置である。
【0032】
解像度変換部12は、ホスト装置HO1等からの入力画像の解像度を設定解像度に変換する。入力画像は、例えば、各画素にR、G、及び、Bの多階調の整数値を有する原RGBデータで表現される。ここで、Rは赤を意味し、Gは緑を意味し、Bは青を意味する。解像度変換部12は、原RGBデータを設定解像度の入力色階調データDA1に変換する。入力色階調データDA1は、例えば、各画素にR、G、及び、Bの多階調の整数値を有するRGBデータで表現される。該RGBデータ及び原RGBデータの階調数には、28、216、等がある。
色変換部13は、例えば、R、G、及び、Bの各階調値とC、M、Y、及び、Kの各階調値との対応関係が規定された色変換ルックアップテーブルを参照し、入力色階調データDA1を各画素にC、M、Y、及び、Kの多階調の整数値を有する出力色階調データDA2に変換する。ここで、Cはシアンを意味し、Mはマゼンタを意味し、Yはイエローを意味し、Kはブラックを意味する。出力色階調データDA2の階調数には、28、216、等がある。出力色階調データDA2は、画素毎にインク36の使用量を表している。
【0033】
ハーフトーン処理部14は、出力色階調データDA2から各回の主走査に必要な部分データを特定し、該部分データを構成する各画素の階調値の階調数をディザマスクMA0に基づいて減らし、ノズルデータDA3を生成する。ディザマスクを用いて出力色階調データのハーフトーン処理を行う手法は、ディザ法と呼ばれる。ノズルデータDA3は、ドットの形成状態を表す。ノズルデータDA3は、ドットの形成有無を表す2値データでもよいし、小中大の各ドットといった異なるサイズのドットに対応可能な3階調以上の多値データでもよい。2値データは、例えば、ドット形成に1、及び、ドット無しに0を対応させるデータとすることができる。各画素について2ビットで表現可能な4値データとしては、例えば、大ドット形成に3、中ドット形成に2、小ドット形成に1、及び、ドット無しに0を対応させるデータとすることができる。
【0034】
駆動信号送信部15は、ヘッド30の駆動素子32に印加する電圧信号に対応した駆動信号SGをノズルデータDA3から生成して駆動回路31へ出力する。例えば、ノズルデータDA3が「ドット形成」であれば、駆動信号送信部15はドット形成用の液滴を吐出させる駆動信号を出力する。また、ノズルデータDA3が4値データである場合、駆動信号送信部15は、ノズルデータDA3が「大ドット形成」であれば大ドット用の液滴を吐出させる駆動信号を出力し、ノズルデータDA3が「中ドット形成」であれば中ドット用の液滴を吐出させる駆動信号を出力し、ノズルデータDA3が「小ドット形成」であれば小ドット用の液滴を吐出させる駆動信号を出力する。
【0035】
上記各部11~15は、ASICで構成されてもよく、RAM21から処理対象のデータを直接読み込んだりRAM21に処理後のデータを直接書き込んだりしてもよい。ここで、ASICは、Application Specific Integrated Circuitの略称である。
【0036】
コントローラー10に制御される駆動部50は、キャリッジ駆動部51、キャリッジ52、ローラー駆動部55、搬送ローラー対56、排紙ローラー対57、プラテン58、等を備える。駆動部50は、キャリッジ駆動部51の駆動によりキャリッジ52とヘッド30を往復動作させ、ローラー駆動部55の駆動により媒体ME1を搬送経路59に沿って送り方向D3へ送る。
図1において、送り方向D3は右方向であり、左側を上流側と呼び、右側を下流側と呼ぶことにする。キャリッジ駆動部51は、
図2等に示す主走査方向D1にキャリッジ52とヘッド30を移動させる主走査をコントローラー10の制御に従って行う。ローラー駆動部55は、コントローラー10の制御に従ってローラー対56,57のローラー56a,57aを回転させることにより媒体ME1を送り方向D3へ送る副走査を行う。媒体ME1は、印刷画像を保持する素材のことであり、紙が一般的であるものの、樹脂、金属、等でもよい。媒体ME1の形状は、カット紙のようにカット状である場合、長方形が一般的であるが、楕円形、長方形以外の多角形、立体形状、等でもよい。
【0037】
キャリッジ52には、ヘッド30が搭載されている。キャリッジ52には、インク滴37として吐出されるインク36がヘッド30に供給されるインクカートリッジ35が搭載されてもよい。むろん、キャリッジ52外に設置されたインクカートリッジ35からチューブを介してヘッド30にインク36が供給されてもよい。ヘッド30を搭載しているキャリッジ52は、図示しない無端ベルトに固定され、ガイド53に沿って、
図2等に示す主走査方向D1に移動可能である。
図2に示すように、主走査方向D1は、往方向D11、及び、往方向D11とは逆の復方向D12を総称している。ガイド53は、長手方向を主走査方向D1に向けた長尺な部材である。キャリッジ駆動部51は、エンコーダーを備えるサーボモーター等で構成され、コントローラー10からの指令に従ってキャリッジ52を往方向D11及び復方向D12へ移動させる。
【0038】
ヘッド30から上流側にある搬送ローラー対56は、媒体ME1の一面に接触する駆動搬送ローラー56a、及び、媒体ME1の他面に接触する従動搬送ローラー56bを含んでいる。副走査時、搬送ローラー対56は、ニップしている媒体ME1を駆動搬送ローラー56aの回転によりヘッド30の方へ送る。
ヘッド30から下流側にある排紙ローラー対57は、媒体ME1の一面に接触する駆動排紙ローラー57a、及び、媒体ME1の他面に接触する従動排紙ローラー57bを含んでいる。副走査時、排紙ローラー対57は、ニップしている媒体ME1を駆動排紙ローラー57aの回転により不図示の排紙トレイの方へ搬送する。
【0039】
ローラー駆動部55は、エンコーダーを備えるサーボモーター等で構成され、コントローラー10からの指令に従ってローラー56a,57aを回転させる。ローラー56a,57aは、回転することにより媒体ME1を送り方向D3へ送る。
【0040】
プラテン58は、搬送経路59にある媒体ME1を支持する。コントローラー10に制御されるヘッド30は、プラテン58に支持されている媒体ME1にインク滴37を吐出することにより印刷を行う。ヘッド30は、駆動回路31、駆動素子32、等を備える。駆動回路31は、駆動信号送信部15から入力される駆動信号SGに従って駆動素子32に電圧信号を印加する。駆動素子32には、ノズル34に連通する圧力室内のインク36に圧力を加える圧電素子、熱により圧力室内に気泡を発生させてノズル34からインク滴37を吐出させる駆動素子、等を用いることができる。ノズルは、インク滴といったインク滴37が噴射する小孔のことである。ヘッド30の圧力室には、インクカートリッジといったインクカートリッジ35からインク36が供給される。インクカートリッジ35とヘッド30の組合せは、例えば、C,M,Y,Kのそれぞれに設けられる。圧力室内のインク36は、駆動素子32によってノズル34から媒体ME1に向かってインク滴37として吐出される。これにより、媒体ME1にインク滴37のドットが形成される。ヘッド30が主走査方向D1へ移動する間にノズルデータDA3に従ったドットが形成され、媒体ME1が搬送方向へ副走査1回分、送られることが繰り返されることにより、媒体ME1に画像IM0が形成される。
【0041】
RAM21は、大容量で揮発性の半導体メモリーであり、ホスト装置HO1や不図示のメモリー等から受け入れた入力画像等を格納する。通信I/F22は、ホスト装置HO1に有線又は無線で接続され、ホスト装置HO1に対して情報を入出力する。ホスト装置HO1には、パーソナルコンピューターやタブレット端末といったコンピューター、スマートフォンといった携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、等が含まれる。
【0042】
図2は、ヘッド30に設けられた複数のノズル34と媒体ME1上の画像IM0を構成する複数のドットDT0との関係を模式的に例示している。
図2に示すように、ヘッド30は、第一ヘッドHE1、及び、該第一ヘッドとは副走査方向D2において異なる位置に設けられた第二ヘッドHE2を含んでいる。副走査方向D2は、媒体ME1の送り方向D3とは逆の方向である。
図2に示すヘッド30は、副走査方向D2へ移動する訳ではないが、副走査時に媒体ME1が送り方向D3へ移動する結果、媒体ME1を基準として副走査方向D2へ相対移動する。コントローラー10及び駆動部50は、ヘッド30を主走査方向D1に移動させる主走査、及び、ヘッド30を副走査方向D2へ相対移動させる副走査を繰り返す。
【0043】
第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2は、複数のノズル34がノズル並び方向D4へノズルピッチNpの間隔で並んでいるノズル列33を有している。ノズル並び方向D4は、副走査方向D2に一致していてもよいし、副走査方向D2から90°未満の範囲でずれていてもよい。また、
図2に示すノズル列33に含まれる複数のノズル34は一列に並べられているが、ノズル列に含まれる複数のノズルは千鳥状に並べられてもよい。
図2に示す各ヘッドHE1,HE2は、Cのノズル列33C、Mのノズル列33M、Yのノズル列33Y、及び、Kのノズル列33Kをノズル列33として有している。むろん、ノズル列33Cに含まれるノズル34はCのインク滴37を吐出し、ノズル列33Mに含まれるノズル34はMのインク滴37を吐出し、ノズル列33Yに含まれるノズル34はYのインク滴37を吐出し、ノズル列33Kに含まれるノズル34はKのインク滴37を吐出する。
【0044】
ここで、第一ヘッドHE1に設けられた各ノズル34を第一ノズルNZ1と呼ぶことにし、第二ヘッドHE2に設けられた各ノズル34を第二ノズルNZ2と呼ぶことにする。第一ヘッドHE1は副走査方向D2において異なる位置に複数の第一ノズルNZ1を有し、第二ヘッドHE2は副走査方向D2において異なる位置に複数の第二ノズルNZ2を有している。
【0045】
ヘッド30が主走査方向D1に移動している間にヘッド30がインク滴37を媒体ME1に吐出すると、インク滴37によるドットDT0が媒体ME1に形成される。インク滴37として吐出されるインク36が複数の出力色、例えば、C,M,Y,Kの出力色を含む場合、画像IM0は複数の出力色のドットDT0を含むことになる。ここで、設計上、主走査方向D1に沿って媒体ME1にドットDT0が形成される線状領域をラスターRA0と呼び、該ラスターRA0において各ドットDT0が配置される最小領域を画素PX0と呼ぶ。
図2に示すラスターRA0のピッチRpは、ノズルピッチNpの1/2である。各画素PX0の位置を目標として複数のドットDT0が媒体ME1に形成されることにより、画像IM0が媒体ME1に形成される。
図1に示す制御部U0は、ヘッドHE1,HE2を主走査方向D1に相対移動させつつヘッドHE1,HE2からインク36を吐出させることにより画像IM0の形成を行うことになる。
【0046】
図3は、上端処理部201、通常処理部202、及び、下端処理部203におけるヘッド30と媒体ME1との位置関係を模式的に例示している。
図4は、処理部201,202,203で画像IM0が媒体に形成された印刷物PT0を模式的に例示している。
媒体ME1には、上端ME1aから下端ME1bに向かって順に画像IM0が形成される。副走査方向D2は、上端ME1aから下端ME1bに向かう方向である。そこで、本具体例では、副走査方向D2を基準にして上端側S1及び下端側S2を定義している。
図3において、副走査方向D2は左方向であり、副走査方向D2の上端側S1が右にあり、副走査方向D2の下端側S2が左にある。第二ヘッドHE2は、第一ヘッドHE1よりも下端側S2に位置している。
【0047】
図3の上部は、媒体ME1の上端ME1aが排紙ローラー対57にニップされた直後の上端処理部201を示している。
高精度の画像IM0を媒体ME1に形成するためには、ヘッドHE1,HE2から下端側S2の方にある搬送ローラー対56のみならず、ヘッドHE1,HE2から上端側S1の方にある排紙ローラー対57でも媒体ME1をニップする必要がある。このため、
図3,4に示すように、第一ヘッドHE1しか用いられない上端領域A11が媒体ME1の上端ME1a近傍に生じる。
【0048】
図3の中程には、通常処理部202が示されている。
図3の下部は、媒体ME1の下端部ME1bが搬送ローラー対56を通り抜ける直前の下端処理部203を示している。
高精度の画像IM0を媒体ME1に形成するためには、ヘッドHE1,HE2から上端側S1の方にある排紙ローラー対57のみならず、下端側S2の方にある搬送ローラー対56も媒体ME1をニップしている必要がある。このため、
図3,4に示すように、第二ヘッドHE2しか用いられない下端領域A13が媒体ME1の下端ME1b近傍に生じる。両方のヘッドHE1,HE2が用いられる通常領域A12は、上端領域A11と下端領域A13との間に生じる。
【0049】
ここで、
図4に示す画像IM0のように、副走査方向D2の順に、画像IM0の形成に両方のヘッドHE1,HE2が用いられる第一領域A1、画像IM0の形成に両方のヘッドHE1,HE2が用いられる第二領域A2、及び、画像IM0の形成に第一ヘッドHE1が用いられずに第二ヘッドHE2が用いられる第三領域A3があるとする。
図4に示す第三領域A3は下端領域A13であり、第二領域A2は第三領域A3から上端側S1の方へ連続し、第一領域A1は第二領域A2から上端側S1の方へ連続している。第二領域A2は、第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合が上端側S1から下端側S2に向けて低下する傾向を有する。
【0050】
まず、
図5を参照して、第一ヘッドHE1の各第一ノズルNZ1、及び、第二ヘッドHE2の各第二ノズルNZ2の使用率を実現させるディザマスクMA0の構造例を説明する。
図5は、ディザマスクMA0の構造を模式的に例示している。
図5において、ノズルNZ1,NZ2の列はC,M,Y,Kのいずれかのノズル列を表し、第二ノズルNZ2が第一ノズルNZ1よりも大きく示されている。
図5ではノズルNZ1,NZ2の数がそれぞれ5個であるが、ヘッドHE1,HE2はより多くのノズルを有していてもよい。ディザマスクMA0には、出力色階調データDA2の各画素にインク36の最大使用量を表す階調値、例えば、255が格納されている場合に発生するドットDT0が示されている。便宜上、第二ノズルNZ2から吐出されたインク滴37により形成されるドットが、第一ノズルNZ1から吐出されたインク滴37により形成されるドットよりも大きく示されている。ディザマスクMA0の右に示されているドット数Ndotは、ラスターRA0毎に単位長、例えば、14の画素PX0当たりに形成されるドットDT0の数を示している。むろん、ラスターRA0毎の単位長は、14画素よりも多くてもよい。ドット数Ndotの右に示されているノズル別使用割合Rnzは、ラスターRA0毎に画素数に対するドット数Ndotの百分率を示している。
【0051】
図5に示すディザマスクMA0において、第一ノズルNZ1のノズル別使用割合Rnzは、第二ノズルNZ2に向かって14%、29%、50%、71%、及び、86%と増えている。第二ノズルNZ2のノズル別使用割合Rnzは、第一ノズルNZ1に向かって増えている。各ラスターRA0について発生させるドットDT0の数を変えることにより、ノズル別使用割合Rnzを調整することができる。
【0052】
図6は、
図5に示すディザマスクMA0を適用することにより媒体ME1に形成される画像IM0のドットパターンを模式的に例示している。
図6には、通常処理部202において或るパスの第二ヘッドHE2に次のパスの第一ヘッドHE1が重なるようにヘッドHE1,HE2の副走査が行われる場合に全画素にドットDT0が形成された画像IM0が示されている。
図6でも、第二ノズルNZ2から吐出されたインク滴により形成されるドットが、第一ノズルNZ1から吐出されたインク滴により形成されるドットよりも大きく示されている。画像IM0の右に示されているドット数N1は、第一ヘッドHE1の第一ノズルNZ1により形成されるドットDT0の数を示している。ドット数N1の右に示されているドット数N2は、第二ヘッドHE2の第二ノズルNZ2により形成されるドットDT0の数を示している。
【0053】
図6に示すように、画像IM0のうち上端処理部201において形成される上端領域A11では、N1=14且つN2=0と、第二ヘッドHE2が用いられず第一ヘッドHE1が用いられる。画像IM0のうち下端処理部203において形成される下端領域A13では、N1=0且つN2=14と、第一ヘッドHE1が用いられず第二ヘッドHE2が用いられる。通常領域A12では、副走査時におけるヘッドHE1,HE2の送り量に対応する単位Urでドット数N1,N2がN1=2,4,7,10,12及びN2=12,10,7,4,2と変化する。
【0054】
ところで、ヘッドHE1,HE2が副走査方向D2において異なる位置に設けられていると、1回の主走査で媒体ME1に印刷することができる領域が増えるので、印刷速度が向上する。ただ、第一ヘッドHE1と第二ヘッドHE2とでインク36の吐出ボリュームに違いがあるといった個体差が生じ得る。ヘッドHE1,HE2の個体差は、電気的な素子のばらつき等により発生する。例えば、第一ヘッドHE1から吐出されるインク36の吐出ボリュームが第二ヘッドHE2から吐出されるインク36の吐出ボリュームよりも少ないとする。この場合、
図4に示す画像IM0において、上端領域A11が通常領域A12よりも薄くなり、下端領域A13が通常領域A12よりも濃くなる。その結果、上端領域A11と通常領域A12との濃度の差が色むらとして視認され、下端領域A13と通常領域A12との濃度の差が色むらとして視認される。
【0055】
本具体例では、
図5に示すディザマスクMA0においてラスターRA0単位でドット発生率を変えることにより、領域A11,A12間及び領域A12,A13間の濃度差を抑制することにしている。このため、各ヘッドHE1,HE2の印字濃度を計測し、その計測結果に基づいてディザマスクMA0のドット発生率を変えることにしている。ドット発生率は、例えば、出力色階調データDA2の階調値に対するディザマスクMA0の閾値を変えることにより調整することができる。第一ヘッドHE1が第二ヘッドHE2よりもインク36の吐出ボリュームが少ない場合、ディザマスクMA0において、第一ヘッドHE1に対応するラスターRA0のドット発生率を増やし、第二ヘッドHE2に対応するラスターRA0のドット発生率を減らせばよい。これにより、上端領域A11と通常領域A12との濃度差が抑制され、下端領域A13と通常領域A12との濃度差が抑制される。
【0056】
しかし、ラスターRA0単位でドット発生率を変えても、環境温度等の外部環境により印刷画像IM0の濃度にむらが生じることがあることが分かった。例えば、第一の環境温度ではヘッドHE1,HE2の印字濃度の差が少なくても、第一の環境温度とは異なる第二の環境温度ではヘッドHE1,HE2の印字濃度の差が多くなる場合がある。これは、第一の環境温度ではヘッドHE1,HE2の特性に差が小さいものの、第二の環境温度ではヘッドHE1,HE2の特性の差が大きくなるためと推測される。第二の環境温度において第一ヘッドHE1の印字濃度が第二ヘッドHE2の印字濃度よりも濃くなると、上端領域A11が通常領域A12よりも濃くなり、下端領域A13が通常領域A12よりも薄くなる。その結果、第二の環境温度において、上端領域A11と通常領域A12との濃度の差が色むらとして視認され、下端領域A13と通常領域A12との濃度の差が色むらとして視認される。第二の環境温度では、領域A11,A12間及び領域A12,A13間に濃度差が生じ、濃度の急な変化による主走査方向D1に沿った境界が視認される。
【0057】
上述した領域間の濃度差は、領域間のヘッドHE1,HE2の使用割合を緩やかに変化させることにより視認し難くなると考えられる。しかし、通常領域A12から下端領域A13にかけて第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合を緩やかに低下させることは、容易ではない。その理由を以下に説明する。
【0058】
図15は、比較例において通常処理部202から印刷が終了するまでの記録方法を模式的に例示している。
図15には、nパス目からn+3パス目に到る副走査方向D2におけるヘッドHE1,HE2の相対位置が示されている。各パスのヘッドHE1,HE2の右には、ノズルの位置に応じて変わり得る各ノズルの使用割合を意味するノズル別使用割合Rnzが示されている。ノズル別使用割合Rnzは、ディザマスクMA0により実現される。nパス目とn+1パス目は通常処理部202の画像形成が行われ、n+2パス目は下端移行処理部209の画像形成が行われ、n+3パス目は下端処理部203の画像形成が行われる。
【0059】
比較例の記録方法は、主走査方向D1に沿った或る境界B9から下端側S2における各ラスターRA0のヘッドHE1,HE2の使用割合をページ高さによらず決まった変化にする条件を満たす必要がある。ディザマスクMA0を使用してラスターRA0単位でドット発生率を変えるためには、各ラスターRA0に対応するノズル別使用割合Rnzをページ高さによらず一定にする必要があるためである。
しかし、副走査方向D2における媒体ME1の長さ、及び、余白の大きさに応じてページ長が異なることがある。そこで、
図15に示すように、通常処理部202と下端処理部203とを繋ぐ下端移行処理部209が設けられ、ページ長の変動を吸収するための位置合わせ用の副走査が下端処理部203の最初のパスで実施される。また、前述の位置合わせによってヘッドHE1,HE2の使用割合が変わらないように、下端移行処理部209で第一ヘッドHE1を用いる画像形成が完了し、下端処理部203では第二ヘッドHE2のみ用いる画像形成が行われる。
図15に示すように、印刷終了位置E1で印刷が終了する場合でも印刷終了位置E2で印刷が終了する場合でも、境界B9から下端側S2における各ラスターRA0のヘッドHE1,HE2の使用割合は、ページ高さによらず、同じとなる。印刷終了位置E1,E2の違いは、第二ヘッドHE2のみで吸収される。
【0060】
ここで、通常処理部202で使用されるディザマスクの下側211の相方が下端移行処理部209で使用されるディザマスクの上側212に対して自動的に適用されるとする。この場合、下端移行処理部209で指定可能なディザマスクは、下側のみとなる。また、下端移行処理部209で使用されるディザマスクの下側213の相方が下端処理部203で使用されるディザマスクの上側214に対して自動的に適用されるとする。上側214よりも下端側S2は第二ヘッドHE2しか用いられないので、下端処理部203ではディザマスクを指定することができない。下端処理部203ではディザマスクを自由に設定することができないので、幅広い記録方法を実現することができない。
一方、副走査方向D2における媒体ME1の長さは、上端処理部、通常処理部202、下端移行処理部209、及び、下端処理部203を実施する上で最低限必要な長さに上端の余白、及び、下端の余白を加えた長さ以上、必要である。媒体ME1の最小の仕様に合わせるため、各処理部に必要な長さを無制限に長くすることはできない。
【0061】
以上より、比較例の記録方法は、下端処理部203を実施する上で必要な長さを抑えながらヘッドHE1,HE2の使用割合を緩やかに変えることが困難である。
【0062】
本具体例では、
図9,10に例示するように、主走査方向D1に沿った境界B0よりも上端側S1において通常処理部202のノズル別使用割合Rnzの遷移にし、境界B0よりも下端側S2において下端処理部203のノズル別使用割合Rnzの遷移にしている。副走査方向D2においてヘッドHE1,HE2が境界B0を跨ぐ相対位置にある場合、本具体例では、通常処理部202のノズル別使用割合Rnzの遷移と下端処理部203のノズル別使用割合Rnzの遷移とを結合している。これにより、
図11,12に例示するように、第一ヘッドHE1及び第二ヘッドHE2が用いられる第二領域A2において第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合が副走査方向D2の上端側S1から下端側S2に向けて徐々に低下する傾向となる。以下、
図7~14も参照して、本具体例の記録方法を説明する。
【0063】
(3)ノズル別使用割合の遷移の例:
図7は、通常処理部202における各パスのノズル別使用割合Rnzを模式的に例示している。
図2を参照して説明すると、ノズル別使用割合Rnzは、ノズル34の位置に応じて変わり得る各ノズル34の使用割合を意味し、言い換えると、ラスターRA0に対する各第一ノズルNZ1及び各第二ノズルNZ2の使用割合を意味する。
図7には、hパス目からi+4パス目に到る副走査方向D2におけるヘッドHE1,HE2の相対位置が示されている。各パスのヘッドHE1,HE2の相対位置に、ディザマスクMA0の一つとしての通常処理部用マスクMA1が示されている。通常処理部用マスクMA1には、ノズルの位置に応じたノズル別使用割合Rnzが示されている。ノズル別使用割合Rnzの大きさは、通常処理部用マスクMA1の中にある四角形の数で模式的に表されている。尚、薄い網掛けの四角形の数は第一ヘッドHE1の第一ノズルNZ1の使用割合を意味し、濃い網掛けの四角形の数は第二ヘッドHE2の第二ノズルNZ2の使用割合を意味する。むろん、ノズル別使用割合Rnzは、
図7に示す四角形の単位よりも細かく設定されてもよい。通常処理部用マスクMA1の上半分は第一ヘッドHE1の相対位置に対応し、通常処理部用マスクMA1の下半分は第二ヘッドHE2の相対位置に対応している。
【0064】
図7に示す水平位置は、ラスターRA0の中でドットDT0を形成する位置を示している。具体的には、
図2に示す往方向D11において、水平位置「1」が奇数番目の画素PX0にドットDT0を形成することを意味し、水平位置「2」が偶数番目の画素PX0にドットDT0を形成することを意味する。
便宜上、画像IM0に対するヘッドHE1,HE2の主走査が何番目であるかを表す正の数h,iがh<iであるとして、各パスのヘッドHE1,HE2の上に何パス目であるかが示されている。ここで、数h,iは、通常処理部202に含まれる任意のパスを意味し、
図7に示す例に限定されない。
【0065】
図7には、
図2に示すようにラスターピッチRpがノズルピッチNpの1/2である場合に各ラスターRA0のドットDT0を4回の主走査で形成する例が示されている。例えば、ラスターRA1は、hパス目で第二ノズルNZ2が2/12の使用割合で用いられ、i-3パス目で第二ノズルNZ2が3/12の使用割合で用いられ、iパス目で第一ノズルNZ1が4/12の使用割合で用いられ、i+1パス目で第一ノズルNZ1が3/12の使用割合で用いられる。この場合、ヘッドHE1,HE2全体に対する第一ヘッドHE1の使用率は58%であり、第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合は1.4である。尚、画像IM0の印刷は、往方向D11及び復方向D12においてヘッドHE1,HE2からインク滴37を吐出する双方向印刷でもよいし、往方向D11のみヘッドHE1,HE2からインク滴37を吐出する単方向印刷でもよい。
【0066】
図8は、通常処理部202から下端処理部203にかけて使用するディザマスクMA0としてのディザマスクMA1~MA5を模式的に例示している。通常処理部用マスクMA1は、
図7で示した通りである。下端処理部用マスクMA2~MA5は、通常処理部用マスクMA1とは異なるノズル別使用割合Rnzを有している。
図8では、パス数が増えるにつれて段階的に通常処理部用マスクMA1、下端処理部用マスクMA2、下端処理部用マスクMA3、下端処理部用マスクMA4、及び、下端処理部用マスクMA5に切り替わることが示されている。第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合は、
図8に示すマスクの切り替え順に低下している。本具体例では、通常処理部202から下端処理部203に切り替わる付近で通常処理部用マスクMA1の遷移と下端処理部用マスクMA2~MA5の遷移とを結合することにしている。尚、下端処理部用マスクの数は、4個に限定されず、5個以上でもよいし、3個以下でもよい。
【0067】
図9は、ページ高さの違いを吸収する媒体送り量が最小である場合に通常処理部202から下端処理部203における各パスのノズル別使用割合Rnzを模式的に例示している。
図10は、ページ高さの違いを吸収する媒体送り量が最大である場合に通常処理部202から下端処理部203における各パスのノズル別使用割合Rnzを模式的に例示している。各パスのヘッドHE1,HE2の相対位置にディザマスクが示され、該ディザマスクにノズルの位置に応じたノズル別使用割合Rnzが示されている。薄い網掛けの四角形の数は第一ヘッドHE1の第一ノズルNZ1の使用割合を意味し、濃い網掛けの四角形の数は第二ヘッドHE2の第二ノズルNZ2の使用割合を意味する。
図9,10に示すように、ページ高さの違いを吸収する副走査は、通常処理部202の最後のパスと下端処理部203の最初のパスとの間で行うことにしている。
図9には、媒体送り量が0であることが示されている。
図10には、媒体送り量が2ラスター分であることが示されている。
【0068】
ここで、画像IM0に対するヘッドHE1,HE2の主走査が何番目であるかを表す正の数h,i,j,kがh<i<j<kであるとする。数h,iは、通常処理部202に含まれる任意のパスを意味し、
図9,10に示す例に限定されない。数jは、ページ高さの違いを吸収する副走査の直後のパスを意味し、下端処理部203の2回目以降のパスでもよい。数kは、両ヘッドHE1,HE2を用いる最後のパスを意味する。
以上より、
図1に示す制御部U0は、hパス目からiパス目を経てkパス目でヘッドHE1,HE2を用いて画像IM0の一部の形成を行い、k+1パス目以降で第一ヘッドHE1を用いずに第二ヘッドHE2を用いて画像IM0の一部の形成を行う。
図9に示す例では、制御部U0は、j-1パス目とjパス目との間におけるヘッドHE1,HE2の副走査の相対移動量を、j-1パス目までにおけるヘッドHE1,HE2の副走査の相対移動量よりも小さくさせている。
【0069】
本具体例では、下端処理部203の最初のパスであるjパス目における第一ヘッドHE1と第二ヘッドHE2との間に主走査方向D1に沿った境界B0を設定している。境界B0よりも上端側S1は、
図4に示す第一領域A1に対応している。また、ヘッドHE1,HE2が用いられる最下端と第一ヘッドHE1が用いられる第二ヘッドHE2が用いられる最上端との間を境界B1とすると、境界B0と境界B1との間は、
図4に示す第二領域A2に対応している。境界B1よりも下端側S2は、
図4に示す第三領域A3に対応している。
【0070】
ヘッドHE1,HE2の全ノズルが境界B0よりも上端側S1にあるhパス目からiパス目において、ハーフトーン処理部14は、通常処理部用マスクMA1を使用してノズルデータDA3を生成する。ここで、通常処理部用マスクMA1においてノズルの位置に応じたノズル別使用割合Rnzを第一使用割合Rnz1とすると、ノズルの位置に応じた第一使用割合Rnz1はhパス目からiパス目で変わらない。
ヘッドHE1,HE2の全ノズルが境界B0よりも下端側S2にあるj+4パス目からk+2パス目において、ハーフトーン処理部14は、下端処理部用マスクMA4~MA8を使用してノズルデータDA3を生成する。
【0071】
i+1パス目からj+3パス目において、境界B0よりも上端側S1にノズルの一部があり、境界B0よりも下端側S2にもノズルの一部がある。本具体例では、境界B0よりも上端側S1に通常処理部用マスクMA1の遷移を設定し、境界B0よりも下端側S2に下端処理部用マスクMA2~MA8の遷移を設定し、通常処理部用マスクMA1の遷移と下端処理部用マスクMA2~MA8の遷移とを結合している。以下、
図9,10に示す具体例を説明する。
【0072】
通常処理部202の各パスにおいて、ハーフトーン処理部14は、境界B0よりも上端側S1に通常処理部用マスクMA1のノズル別使用割合Rnzを適用する。
図9に示す例では、i+1パス目からi+4パス目で境界B0よりも上端側S1に通常処理部用マスクMA1のノズル別使用割合Rnzが適用されている。
図10に示す例では、i+1パス目からi+3パス目で境界B0よりも上端側S1に通常処理部用マスクMA1のノズル別使用割合Rnzが適用されている。
【0073】
下端処理部203の各パスにおいて、ハーフトーン処理部14は、境界B0よりも下端側S2に下端処理部用マスクMA3~MA8のノズル別使用割合Rnzを適用する。
図9,10に示す例では、jパス目からk+2パス目で境界B0よりも下端側S2に下端処理部用マスクMA3~MA8のノズル別使用割合Rnzが適用されている。
以上より、jパス目以降のノズル別使用割合Rnzを第二使用割合Rnz2とすると、第二使用割合Rnz2は上述した第一使用割合Rnz1とは異なる。従って、制御部U0は、jパス目以降、ノズル別使用割合Rnzを第二使用割合Rnz2にして画像IM0の一部の形成を行う。
【0074】
下端処理部203の各パスにおいて、ハーフトーン処理部14は、境界B0よりも上端側S1に通常処理部用マスクMA1のノズル別使用割合Rnzの遷移を適用する。ここで、「遷移を適用する」とは、通常処理部用マスクMA1のノズル別使用割合Rnzをそのまま適用するとは限らず、通常処理部202の副走査の相対移動量を維持するように通常処理部用マスクMA1のノズル別使用割合Rnzをずらして適用することを意味する。
図10に示す例では、j-1パス目とjパス目との間の副走査の相対移動量が通常処理部202の副走査の相対移動量と同じである。この場合、下端処理部203の各パスにおいて境界B0よりも上端側S1に通常処理部用マスクMA1のノズル別使用割合Rnzが適用される。
図9に示す例では、j-1パス目とjパス目との間の副走査の相対移動量が通常処理部202の副走査の相対移動量よりも2ラスター分、少ない。この場合、下端処理部203の各パスにおいて境界B0よりも上端側S1に通常処理部用マスクMA1のノズル別使用割合Rnzが2ラスター分、下端側S2にずれて適用される。
【0075】
以上より、制御部U0は、jパス目以降で境界B0よりも副走査方向D2の上端側S1にある第一ノズルNZ1についてのノズル別使用割合Rnzを、hパス目からiパス目のヘッドHE1,HE2の副走査の相対移動量に合わせた第一使用割合Rnz1の遷移にさせる。j-1パス目以降の副走査の相対移動量がj-1パス目以前の副走査の相対移動量から変わっても、境界B0よりも上端側S1において第一使用割合Rnz1の遷移が維持されるので、第一領域A1における画像IM0の画質が向上する。
【0076】
通常処理部202の各パスにおいて、ハーフトーン処理部14は、境界B0よりも下端側S2に下端処理部用マスクMA2のノズル別使用割合Rnzの遷移を適用する。ここで、「遷移を適用する」とは、下端処理部用マスクMA2のノズル別使用割合Rnzをそのまま適用するとは限らず、下端処理部203の副走査の相対移動量を維持するように下端処理部用マスクMA2のノズル別使用割合Rnzをずらして適用することを意味する。
図10に示す例では、j-1パス目とjパス目との間の副走査の相対移動量が下端処理部203の副走査の相対移動量と同じである。この場合、通常処理部202の各パスにおいて境界B0よりも下端側S2に下端処理部用マスクMA2のノズル別使用割合Rnzが適用される。
図9に示す例では、j-1パス目とjパス目との間の副走査の相対移動量が下端処理部203の副走査の相対移動量よりも2ラスター分、少ない。この場合、通常処理部202の各パスにおいて境界B0よりも下端側S2に下端処理部用マスクMA2のノズル別使用割合Rnzが2ラスター分、上端側S1にずれて適用される。いずれの場合も、j-1パス目以前で境界B0よりも副走査方向D2の下端側S2にある第二ノズルNZ2についてのノズル別使用割合Rnzが第一使用割合Rnz1とは異なる使用割合となる。
【0077】
以上より、制御部U0は、j-1パス目以前で境界B0よりも副走査方向D2の下端側S2にある第二ノズルNZ2についてのノズル別使用割合Rnzを、jパス目以降のヘッドHE1,HE2の副走査の相対移動量に合わせた下端処理部用マスクMA2のノズル別使用割合Rnzの遷移にさせる。j-1パス目以降の副走査の相対移動量がj-1パス目以前の副走査の相対移動量から変わっても、境界B0よりも下端側S2において下端処理部用マスクMA2のノズル別使用割合Rnzの遷移が維持されるので、第二領域A2における画像IM0の画質が向上する。
【0078】
ハーフトーン処理部14は、ヘッドHE1,HE2が境界B0を跨ぐ相対位置にある場合、通常処理部202における第一使用割合Rnz1の遷移と下端処理部203における下端処理部用マスクMA2,MA3のノズル別使用割合Rnzの遷移とを結合する。ハーフトーン処理部14は、前述の接合により得られるノズル別使用割合Rnzとなるように、ノズルデータDA3を生成する。従って、制御部U0は、ヘッドHE1,HE2が境界B0を跨ぐ相対位置にある場合、境界B0よりも上端側S1を通常処理部202におけるノズル別使用割合Rnzの遷移にさせ、境界B0よりも下端側S2を下端処理部用マスクMA2,MA3の遷移にさせる。
【0079】
図11は、ページ高さの違いを吸収する媒体送り量が最小である場合にラスターRA0の位置に応じた第一ヘッドHE1の使用率R1を模式的に例示している。
図12は、ページ高さの違いを吸収する媒体送り量が最大である場合にラスターRA0の位置に応じた第一ヘッドHE1の使用率R1を模式的に例示している。第一ヘッドHE1の使用率R1は、両ヘッドHE1,HE2に対する第一ヘッドHE1の使用率を意味する。
図11,12において、横軸は画像IM0の各ラスターRA0に対応するラスター番号を示し、縦軸は第一ヘッドHE1の使用率R1を示している。ラスター番号に対応するラスターRA0は、大きくなるほど下端側S2となる。
図11において、ラスター番号1~13は第一領域A1に対応し、ラスター番号14~33は第二領域A2に対応し、ラスター番号34以降は第三領域A3に対応している。
図12において、ラスター番号1~15は第一領域A1に対応し、ラスター番号16~35は第二領域A2に対応し、ラスター番号36以降は第三領域A3に対応している。
【0080】
図11,12に示すように、第一領域A1の第一ヘッドHE1の使用率R1は、ラスターRA0毎に凸凹があるものの、上端側S1から下端側S2まで50%と一定の傾向を有している。第三領域A3の第一ヘッドHE1の使用率R1は、上端側S1から下端側S2まで0%と一定である。第二領域A2の第一ヘッドHE1の使用率R1は、50%から急激に0%になってはおらず、ラスターRA0毎に凸凹があるものの、上端側S1から下端側S2に向けて徐々に低下する傾向を有する。
【0081】
第二領域A2の第一ヘッドHE1の使用率R1が上端側S1から下端側S2に向けて低下する傾向を有するか否かは、第二領域A2においてラスター番号に対する第一ヘッドHE1の使用率R1の近似直線を最小二乗法により求めることにより判別することができる。求められた近似直線の傾きがマイナス、すなわち、ラスター番号が大きくなるほど第一ヘッドHE1の使用率R1が低下する場合、第二領域A2の第一ヘッドHE1の使用率R1が上端側S1から下端側S2に向けて低下する傾向を有するといえる。第二領域A2に含まれる複数のラスター番号を近似直線に従って第一ヘッドHE1の使用率R1を算出したときにいずれも0%よりも大きく50%よりも小さくなる場合、第二領域A2の第一ヘッドHE1の使用率R1が上端側S1から下端側S2に向けて徐々に低下する傾向を有するといえる。尚、第一領域A1についてラスター番号に対する第一ヘッドHE1の使用率R1の近似直線を最小二乗法により求めると、求められた近似直線の傾きは0となる。
【0082】
尚、両ヘッドHE1,HE2に対する第二ヘッドHE2の使用率をR2とすると、第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0はR1/R2で表される。従って、上端側S1から下端側S2に向けて第一ヘッドHE1の使用率R1が低下する傾向であると、第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0は低下する傾向であるといえる。むろん、第二領域A2においてラスター番号に対する使用割合R0の近似直線を最小二乗法により求めることにより、第二領域A2において第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向であるか否かを判別することができる。求められた近似直線の傾きがマイナスである場合、第二領域A2において第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向であるといえる。第二領域A2に含まれる複数のラスター番号を近似直線に従って第一ヘッドHE1の使用割合R0を算出したときにいずれも0よりも大きく1よりも小さくなる場合、第二領域A2において第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が徐々に低下する傾向であるといえる。
【0083】
本具体例のプリンター2は、
図11,12に示す第一ヘッドHE1の使用率R1となるように主走査及び副走査を繰り返す。プリンター2は、ヘッドHE1,HE2を主走査方向D1に相対移動させつつヘッドHE1,HE2からインク36を吐出させることにより、
図4に示すように画像IM0を有する印刷物PT0を生産する。ここで、ヘッドHE1,HE2を用いて第一領域A1及び第二領域A2における画像IM0の形成を行うこと、及び、第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が上端側S1から下端側S2に向けて低下する傾向を有するように第二領域A2における画像IM0の形成を行うことは、第一工程に対応している。また、第一ヘッドHE1を用いずに第二ヘッドHE2を用いて第三領域A3における画像IM0の形成を行うことは、第二工程に対応している。なお、第二ヘッドHE2が第二領域A2と第三領域A3とに跨って印刷を行うときは、第一工程と第二工程とを同時に実行しているといえる。
【0084】
図11,12で示したように、ヘッドHE1,HE2が用いられる第二領域A2において第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が副走査方向D2の上端側S1から下端側S2に向けて低下する傾向を有している。これにより、ヘッドHE1,HE2が用いられる第一領域A1と第一ヘッドHE1が用いられない第三領域A3との濃度差による濃度の急な変化が抑制され、主走査方向D1に沿った境界が目立たない。従って、本具体例は、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらを少なくさせることができる。
【0085】
図13は、ページ高さの違いを吸収する媒体送り量が最小である場合にパスに応じた第一ヘッドHE1の使用割合R0を模式的に例示している。
図14は、ページ高さの違いを吸収する媒体送り量が最大である場合にパスに応じた第一ヘッドHE1の使用割合R0を模式的に例示している。
図13,14において、第一ヘッドHE1の使用率R1は、各パスにおいてヘッドHE1,HE2全体のノズルの使用量に対する第一ヘッドHE1の第一ノズルNZ1の使用量の比率を意味し、百分率で表されている。各パスのノズルの使用量は、
図9,10に示すマスク中の四角形の数に対応している。例えば、
図9に示すjパス目のマスクは、第一ノズルNZ1に対応する四角形を10個有し、第二ノズルNZ2に対応する四角形を22個有している。この場合、第一ヘッドHE1の使用率R1は、{10/(10+22)}×100=31%である。また、第二ヘッドHE2の使用率R2は、各パスにおいてヘッドHE1,HE2全体のノズルの使用量に対する第二ヘッドHE2の第二ノズルNZ2の使用量の比率を意味し、百分率で表されている。例えば、
図9に示すjパス目のマスクの場合、第二ヘッドHE2の使用率R2は、{22/(10+22)}×100=69%である。第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0は、R1/R2である。
【0086】
図13,14に示すように、hパス目からiパス目における第一ヘッドHE1の使用割合R0は、1.000と一定である。k+1パス目からk+2パス目における第一ヘッドHE1の使用割合R0は、0.000と一定である。jパス目からkパス目の第一ヘッドHE1の使用割合R0は、1.000から急激に0.000になってはおらず、段階的ではあるものの、パス数が増えるにつれて低下する傾向を有する。
【0087】
jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向を有するか否かは、jパス目からkパス目においてパスの通し番号j,j+1,j+2,…に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0の近似直線を最小二乗法により求めることにより判別することができる。求められた近似直線の傾きがマイナス、すなわち、パスの通し番号が大きくなるほど第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する場合、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向を有するといえる。jパス目からkパス目に含まれる複数のパスの通し番号を近似直線に従って第一ヘッドHE1の使用割合R0を算出したときにいずれも0.000よりも大きく1.000よりも小さくなる場合、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて第一ヘッドHE1の使用割合R0が徐々に低下する傾向を有するといえる。
【0088】
本具体例のプリンター2は、
図13,14に示す第一ヘッドHE1の使用割合R0となるように主走査及び副走査を繰り返す。プリンター2は、ヘッドHE1,HE2を主走査方向D1に相対移動させつつヘッドHE1,HE2からインク36を吐出させることにより、
図4に示すように画像IM0を有する印刷物PT0を生産する方法を実施する。ここで、iパス目からkパス目でヘッドHE1,HE2を用いて画像IM0の一部の形成を行うこと、及び、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向を有するようにヘッドHE1,HE2を用いて画像IM0の一部の形成を行うことは、印刷物生産方法における第一工程に対応している。また、k+1パス目以降、第一ヘッドHE1を用いずに第二ヘッドHE2を用いて画像IM0の一部の形成を行うことは、印刷物生産方法における第二工程に対応している。
【0089】
図13,14で示したように、ヘッドHE1,HE2が用いられるjパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向を有している。これにより、ヘッドHE1,HE2が用いられるiパス目からj-1パス目において形成される部分の画像IM0と、第一ヘッドHE1が用いられないk+1パス目以降において形成される部分の画像IM0と、の濃度差による濃度の急な変化が抑制され、主走査方向D1に沿った境界が目立たない。従って、本具体例は、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらを少なくさせることができる。
【0090】
(4)変形例:
本発明は、種々の変形例が考えられる。
例えば、印刷装置で使用されるインクの種類は、C,M,Y,Kに限定されず、C,M,Y,Kに加えて、Cよりも低濃度のライトシアン、Mよりも低濃度のライトマゼンタ、Yよりも高濃度のダークイエロー、オレンジ、グリーン、Kよりも低濃度のライトブラック、画質を改善するためのクリアー、等を含んでもよい。また、C,M,Y,Kの一部の液体を使用しない印刷装置にも、本技術を適用可能である。
ラスターピッチRpは、ノズルピッチNpに一致する等、ノズルピッチNpの1/2であることに限定されない。
【0091】
通常処理部から下端処理部におけるヘッドの副走査の相対移動量は、媒体ME1の下端ME1bを検出するセンサーにより検出される下端ME1bの位置に応じて変更されてもよい。この場合も、副走査の相対移動量に合わせて各パスのノズル別使用割合を設定し直すことにより、本技術が適用される。
【0092】
ノズル別使用割合Rnzの調整は、ディザマスクによる調整に限定されない。例えば、出力色階調データDA2の全体にハーフトーン処理を行うことによりハーフトーンデータを生成し、該ハーフトーンデータから各回の主走査に必要な部分データを特定し、該部分データに適用するデータマスクによりノズル別使用割合Rnzを調整することも可能である。
尚、ノズル別使用割合Rnzの調整が行われなくても、第二領域A2において第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が上端側S1から下端側S2に向けて低下する傾向を有するように第二領域A2における画像IM0の形成を行うことが可能である。この場合も、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらが少なくなる効果が得られる。
また、ノズル別使用割合Rnzの調整が行われなくても、jパス目からkパス目においてパス数が増えるにつれて第二ヘッドHE2に対する第一ヘッドHE1の使用割合R0が低下する傾向を有するようにヘッドHE1,HE2を用いて画像IM0の一部の形成を行うことが可能である。この場合も、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらが少なくなる効果が得られる。
【0093】
(5)結び:
以上説明したように、本発明によると、種々の態様により、副走査方向において異なる位置に複数のヘッドがある場合に形成される画像のむらを少なくさせる技術等を提供することができる。むろん、独立請求項に係る構成要件のみからなる技術でも、上述した基本的な作用、効果が得られる。
また、上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、公知技術及び上述した例の中で開示した各構成を相互に置換したり組み合わせを変更したりした構成、等も実施可能である。本発明は、これらの構成等も含まれる。
【符号の説明】
【0094】
1…印刷装置、2…プリンター、10…コントローラー、11…CPU、12…解像度変換部、13…色変換部、14…ハーフトーン処理部、15…駆動信号送信部、21…RAM、22…通信I/F、30…ヘッド、31…駆動回路、32…駆動素子、33…ノズル列、34…ノズル、35…インクカートリッジ、36…インク、37…インク滴、50…駆動部、51…キャリッジ駆動部、52…キャリッジ、53…ガイド、55…ローラー駆動部、56…搬送ローラー対、56a…駆動搬送ローラー、57…排紙ローラー対、57a…駆動排紙ローラー、58…プラテン、59…搬送経路、201…上端処理部、202…通常処理部、203…下端処理部、A1…第一領域、A2…第二領域、A3…第三領域、A11…上端領域、A12…通常領域、A13…下端領域、B0…境界、D1…主走査方向、D2…副走査方向、D3…送り方向、D4…ノズル並び方向、D11…往方向、D12…復方向、DA1…入力色階調データ、DA2…出力色階調データ、DA3…ノズルデータ、DT0…ドット、HE1…第一ヘッド、HE2…第二ヘッド、HO1…ホスト装置、IM0…画像、MA0…ディザマスク、MA1…通常処理部用マスク、MA2~MA8…下端処理部用マスク、ME1…媒体、ME1a…上端、ME1b…下端、NZ1…第一ノズル、NZ2…第二ノズル、PT0…印刷物、PX0…画素、R0…使用割合、R1…第一ヘッドの使用率、R2…第二ヘッドの使用率、RA0…ラスター、Rnz…ノズル別使用割合、Rnz1…第一使用割合、Rnz2…第二使用割合、S1…上端側、S2…下端側、U0…制御部。