(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】印刷装置、および印刷装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/35 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
B41J2/35 D
(21)【出願番号】P 2020192512
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】石野 仁史
(72)【発明者】
【氏名】小林 岳洋
(72)【発明者】
【氏名】湯本 正則
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-258314(JP,A)
【文献】特開2020-157687(JP,A)
【文献】特開平03-067664(JP,A)
【文献】特開2011-213014(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102501641(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/35 - 2/365
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録紙に印刷する印刷部と、
軸を中心に回転し、前記記録紙を搬送するローラーと、前記軸を回転させるモーターと
、を有する搬送部と、
前記軸の回転を検出する検出部と、
前記印刷部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
前記検出部の検出信号に基づき、
第1印刷周期に対して、前記印刷部に通電する通電時
間と、前記通電時間に続く前記印刷部に通電しない非通電時間とを算出し、
算出した前記非通電時間が
前記第1印刷周期内で所定時間に満たない場合は、前記非通
電時間が前記所定時間以上となるように前記非通電時間を補正し、前記印刷部により印刷
を行わ
せ、
補正された非通電時間は第2印刷周期に掛り、前記第1印刷周期および前記第2印刷周
期のそれぞれは、前記検出信号の所定のパルス数を含む、印刷装置。
【請求項2】
前記制御部は、
前記非通電時間を補正したとき、前記非通電時間に続く前記通電時間も補正する、請求
項1に記載の印刷装置。
【請求項3】
前記印刷部はラインサーマルヘッドであり、
前記モーターはDCモーターであり、
前記検出部は、前記軸の回転を検出するエンコーダーを含む、請求項1又は請求項2に
記載の印刷装置。
【請求項4】
記録紙に印刷する印刷部と、軸を中心に回転し、前記記録紙を搬送するローラーと、前
記軸を回転させるモーターと、を有する搬送部と、前記軸の回転を検出する検出部と、
前記印刷部を制御する制御部と、を備える印刷装置の制御方法であって、
前記検出部の検出信号に基づき、
第1印刷周期に対して、前記印刷部に通電する通電時
間と、前記通電時間に続く前記印刷部に通電しない非通電時間とを算出し、
算出した前記非通電時間が
前記第1印刷周期内で所定時間に満たない場合は、前記非通
電時間が前記所定時間以上となるように前記非通電時間を補正し、前記印刷部により印刷
を行わ
せ、
補正された非通電時間は第2印刷周期に掛り、前記第1印刷周期および前記第2印刷周
期のそれぞれは、前記検出信号の所定のパルス数を含む、印刷装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷装置、および印刷装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、サーマルヘッドなどの印刷部の通電時間と通電しない時間とを比率により決定する印刷装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
所定時間以上の通電しない時間を確保しなければ、印刷部が劣化することがある。しかしながら、特許文献1に記載の印刷装置は、通電時間との比率によっては所定時間以上の通電しない時間を確保することができない場合があり、印刷部が劣化するおそれがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
印刷装置は、記録紙に印刷する印刷部と、軸を中心に回転し、前記記録紙を搬送するローラーと、前記軸を回転させるモーターと、を有する搬送部と、前記軸の回転を検出する検出部と、前記印刷部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記検出部の検出信号に基づき、前記印刷部に通電する通電時間と、前記通電時間に続く前記印刷部に通電しない非通電時間とを算出し、算出した前記非通電時間が所定時間に満たない場合は、前記非通電時間が前記所定時間以上となるように前記非通電時間を補正し、前記印刷部により印刷を行わせる。
【0006】
記録紙に印刷する印刷部と、軸を中心に回転し、前記記録紙を搬送するローラーと、前記軸を回転させるモーターと、を有する搬送部と、前記軸の回転を検出する検出部と、前記印刷部を制御する制御部と、を備える印刷装置の制御方法であって、前記検出部の検出信号に基づき、前記印刷部に通電する通電時間と、前記通電時間に続く前記印刷部に通電しない非通電時間とを算出し、算出した前記非通電時間が所定時間に満たない場合は、前記非通電時間が前記所定時間以上となるように前記非通電時間を補正し、前記印刷部により印刷を行わせる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】実施形態に係る制御部による制御を示すフローチャート。
【
図4】実施形態に係る低速時における制御部による通電制御を示すタイムチャート。
【
図5】実施形態に係る高速時における制御部による通電制御の一例を示すタイムチャート。
【
図6】実施形態に係る高速時における制御部による通電制御の他の例を示すタイムチャート。
【
図7】従来の高速時における制御部による通電制御を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.実施形態
1-1.印刷装置1の構成
図1と
図2に示す印刷装置1は、例えばラインサーマルプリンターである。
図1に示すように、印刷装置1は、制御部10、記憶部20、印刷部30、搬送部40、検出部50を備える。
【0009】
制御部10はCPUを備える。CPUはプロセッサーともいう。制御部10は、記憶部20に記憶されているファームウェアなどのプログラムを読み出して実行し、印刷装置1の各部を制御する。
【0010】
印刷部30は、
図2に示すようにヘッド31を備える。ヘッド31は、例えばラインサーマルヘッドである。また、印刷部30は、ヘッド31をローラー43に向かって押圧する押圧機構を備えている。記録紙Pは感熱紙であり、押圧機構によりヘッド31に接触されながら、ヘッド31の発熱により発色されて印刷が行われる。制御部10は、外部装置から受信した印刷データに基づき、ヘッド31を制御して印刷を行う。ヘッド31により印刷された記録紙Pは、カッターにより切断されて排紙口から排出される。
【0011】
搬送部40は、
図2に示すように、制御部10の制御の下モーター41が回転し、ギア42を介して減速しながら軸44に回転を伝達し、軸44を中心にローラー43が回転して、記録紙Pを搬送するように構成されている。ローラー43は、ゴムなどの可撓性のある樹脂などの材料で円柱形状に形成され、軸44に固定されている。ローラー43は、記録紙Pを介してヘッド31に対向する位置にあり、プラテンともいう。
【0012】
モーター41は、例えばDCモーターである。制御部10は、後述の検出部50の検出信号を入力してモーター41の速度を検出し、所定の速度で回転させるようにモーター41をPWM(Pulse Width Modulation)制御する。
【0013】
記録紙Pはロール状に巻かれたロール紙90として、印刷装置1に収納されている。ローラー43は対向するヘッド31と共に押圧機構の押圧により記録紙Pを挟んでおり、ローラー43の回転により搬送力Fを発生し、ロール紙90から記録紙Pを引き出して搬送する。記録紙Pの搬送時にローラー43が回転する方向は、時計回りの方向であるCW方向である。
制御部10は、搬送部40により記録紙Pを搬送しながら、印刷部30により印刷を行う。
【0014】
検出部50は、軸44の回転位置を検出する、いわゆるロータリーエンコーダーである。検出部50は、
図2に示すように、所定の間隔でスリットが開けられたスケールである円板52と、円板52のスリットを検出する透過型のフォトセンサー51により構成される光学式のエンコーダーである。
【0015】
フォトセンサー51は発光素子と受光素子で構成される。発光素子と受光素子は円板52を挟むように配置されている。円板52は軸44を中心に回転するように取り付けられている。モーター41により軸44が回転すると円板52も回転し、円板52に設けられたスリットの位置が発光素子の光路上の位置になると、光がスリットを通過して受光素子に到達し、受光素子が光を検出する。このとき、受光素子は所定の電流を発生するので、ハイレベルの電圧の検出信号として取り出すことができる。一方、スリットの位置が発光素子の光路上の位置を外れると、光が円板52に遮蔽され、受光素子は光を検出しない。このとき、受光素子は所定の電流を発生しないので、ローレベルの電圧の検出信号として取り出すことができる。
【0016】
1-2.制御部による制御
図3のフローチャートを用いて、検出部50から入力した検出信号に基づき、制御部10が印刷部30に対して行う制御について説明する。
【0017】
制御部10は、制御を開始し(START)、検出部50から検出信号を取得する(S101)。検出信号は、円板52の回転にしたがって、ハイレベルの電圧の信号とローレベルの電圧の信号から構成される所定のpulseとして、検出部50から出力される。以下では、検出信号であるpulseのことを単にpulseと称する。
【0018】
制御部10は、pulseを割込用端子から割込信号として取得する。具体的には、制御部10は、取得したpulseの立上り又は立下りをトリガーとして割込処理を開始する。制御部10は、割込処理において、内蔵するタイマーにより割込みが発生した時刻を取得する。制御部10は、取得した時刻を記憶部20に記憶する。
記憶部20には、pulseの順番とそのpulseが発生した時刻が過去分も含めて記憶されている。制御部10は、取得した時刻と記憶部20から読み出した過去の時刻とを比較することにより、任意のpulseの周期又は任意のpulse間の周期を算出することができる。
【0019】
制御部10は、pulseによる割込みが発生したタイミングに基づき、ヘッド31を通電し、又はヘッド31を通電しない非通電を開始することができる。以下では、制御部10がヘッド31に通電する時間を通電時間、ヘッド31に通電しない時間を非通電時間とする。
【0020】
pulseは、所定の間隔で開けられたスリットを備える円板52の回転に基づき発生している。
したがって、制御部10は、算出した任意のpulseの周期又は任意のpulse間の周期により、軸44の回転速度を算出することができる。軸44を中心にローラー43が回転し記録紙Pを搬送しているので、軸44の回転速度は記録紙Pの搬送速度でもある。制御部10は、検出部50から取得した検出信号に基づき、記録紙Pの搬送速度を算出することができる。
【0021】
また、ヘッド31がラインサーマルヘッドなどのライン型のヘッドである場合、制御部10は、1ドットラインを印刷する周期である印刷周期を、検出信号の所定のpulse数に基づいて設定することができる。
検出部50は、例として検出信号の分解能が1440pulse/inchに設定されている。つまり、搬送部40により記録紙Pが1/1440inchの長さ搬送される毎に、1pulseの検出信号が検出部50から出力されるように設定されている。一方、例としてヘッド31の解像度は180dpi(dot per inch)であり、1ドットライン/180inchとなっている。ヘッド31の解像度と同じ1/180inchの長さの分だけ記録紙Pが搬送部40により搬送されるとき、検出部50から検出信号が8pulse出力されることになる。
したがって、制御部10は、検出部50から入力する検出信号が8pulse分となる期間に1ドットラインの印刷をするような周期で、ヘッド31を制御する。その結果、ヘッド31は記録紙Pに1ドットラインの印刷をする。
なお、検出信号の分解能の値とヘッド31の解像度の値は、記憶部20に記憶されており、制御部10が読み出して処理をする。
【0022】
制御部10は、記録紙Pの搬送速度に対応する1組の通電時間と非通電時間に基づき、ヘッド31を制御し、記録紙Pに1ドットラインの印刷をする。例えば、記憶部20には、記録紙Pの搬送速度に対応するヘッド31の通電時間とヘッド31の非通電時間とを算出する計算式が記憶されている。
具体的には、記憶部20には、基準となる搬送速度のときの基準の通電時間と基準の非通電時間とが記憶されている。また、記憶部20には、算出した搬送速度に対応するもので、基準の通電時間と基準の非通電時間に対する各比率が記憶されている。
【0023】
制御部10は、記憶部20を参照し、算出した記録紙Pの搬送速度に対応する計算式に基づき、ヘッド31の通電時間と非通電時間とを算出する(S102)。具体的には、制御部10は、記憶部20を参照し、算出した記録紙Pの搬送速度に対応する各比率を取得し、さらに基準の通電時間と基準の非通電時間とを取得する。制御部10は、基準の通電時間と基準の非通電時間に、取得したそれぞれの比率を掛けて、通電時間と非通電時間を算出する。
【0024】
なお、記憶部20に、搬送速度に対応するヘッド31の通電時間と非通電時間とをテーブルとして予め記憶しておいてもよい。制御部10は、搬送速度に基づき記憶部20を参照してテーブルから通電時間と非通電時間とを取得することができる。なお、この記憶部20のテーブルから通電時間と非通電時間とを取得することも、制御部10が算出する制御の中に含めるものとする。
【0025】
ところで、ヘッド31は、その特性により所定時間以上の非通電時間を確保しないと劣化することがあり、故障に至ってしまうこともある。上述のように、制御部10は、ヘッド31の通電時間と非通電時間を、搬送速度に基づき算出している。搬送速度が速くなると、制御部10が算出した非通電時間が所定時間未満になることがあり、算出した値そのもので制御するとヘッド31が劣化するおそれがある。
【0026】
そのため、記憶部20には、算出した非通電時間と比較するための閾値が記憶されている。制御部10は、記憶部20から閾値を取得して、算出した非通電時間と比較し、非通電時間が閾値より小さいと判定した場合(S103:NO)、ヘッド31の劣化を抑制するため、非通電時間が所定時間以上となるように補正する(S105)。一方、制御部10は、算出した非通電時間が閾値より大きいと判定した場合(S103:YES)、算出した非通電時間をそのまま使用し、補正はしない。
なお、以下の説明では、便宜上、時間や周期が短いことを小さいと称し、長いことを大きいと称する。
【0027】
制御部10は、pulseが発生したタイミングで、算出した通電時間に基づきヘッド31に通電を行い、算出した非通電時間が閾値より小さい場合は大きくなるように補正し、算出した非通電時間が閾値以上の場合は補正せず、非通電時間に基づきヘッド31に通電しない期間を経て、記録紙Pに1ドットラインの印刷をし(S104)、終了する(END)。
このように、制御部10は、ヘッド31に対して所定時間以上の非通電時間を確保しているので、ヘッド31の劣化を抑制することができる。
【0028】
なお、制御部10は、非通電時間を補正した場合であって、搬送速度が速くなった場合、通電時間も補正することがある。
上述のように、制御部10は、印刷周期を8pulseなど、所定のpulse数に基づいて設定している。搬送速度が速くなり、pulseの周期が小さくなると、8pulse分の期間である印刷周期も小さくなる。
【0029】
印刷周期は、1組の通電時間と非通電時間とから成っている。制御部10が算出した非通電時間が所定時間以上となるように補正した場合、搬送速度が速くなると印刷周期も小さくなるので、算出した通電時間を1印刷周期内で確保できなくなることがある。
制御部10は、算出した非通電時間を所定時間以上となるように補正した場合であって、補正した非通電時間に続く通電時間が印刷周期内で確保できなくなった場合、補正した非通電時間に続く通電時間が小さくなるように補正する。この結果、補正した通電時間と補正した非通電時間が1印刷周期内となる。なお、この場合、通電を開始するタイミングは印刷周期の開始のタイミングからずれることがある。この場合であっても、1組の通電時間と非通電時間を合わせた1印刷周期は変わらない。
【0030】
1-3.制御部による通電制御
次に、
図4から
図7のタイムチャートを用いて、検出部50から入力した検出信号DSに基づき、制御部10が印刷部30に対して行う通電制御について具体的に説明していく。
まず、
図4について説明する。
図4の縦軸は各信号の電圧を示し、横軸は時刻tの経過を示し、任意の時刻t0から所定の時間T毎に、時刻t1,t2,t3等を同一間隔に時系列で示している。上段の信号は、制御部10に入力される検出部50の検出信号DSを示す。下段の信号は、制御部10がヘッド31に印加する通電信号S1を示す。
【0031】
図4の上段の検出信号DSの電圧がハイレベルのときは、検出部50のフォトセンサー51が円板52に設けられたスリットの位置を検出したときであり、検出信号DSの電圧がローレベルのときは、フォトセンサー51がスリットでない円板52の部分の位置を検出したときである。
検出部50の検出信号DSは、所定のpulseとして出力されている。検出部50の検出信号DSの1サイクルのpulseを1pulseとする。このpulseは、搬送部40の軸44の回転に対応しており、ローラー43の回転に対応し、pulse数は軸44やローラー43の回転量を示している。
制御部10は、検出部50から入力する検出信号が8pulse分となる期間を印刷に係る1周期として、1ドットライン分の印刷をする。印刷に係る1周期を印刷周期と称する。
図4で印刷周期は、時刻t0から時刻t5までの期間となる。
【0032】
ヘッド31に搭載されている駆動回路がlow-activeであるため、下段の通電信号S1は、電圧がローレベルのときはヘッド31に通電している通電時間を示し、電圧がハイレベルのときはヘッド31に通電していない非通電時間を示す。
制御部10は、搬送部40の軸44を介してローラー43をCW方向に回転させて記録紙Pを搬送させながら、ヘッド31により記録紙Pに印刷を行う。
【0033】
制御部10は、時刻t0のときの1つ目のpulseの立上りによる割込みが発生し、この割込みのタイミングに基づき、割込処理を開始する。制御部10は、タイマーにより割込みが発生した1つ目のpulseの時刻を取得し、記憶部20に記憶する。次に、制御部10は、通電信号S1の電圧をローレベルにして、ヘッド31への通電を開始する。
【0034】
制御部10は、時刻t1のときの2つ目のpulseの立上りにより割込処理を開始し、タイマーにより割込みが発生した2つ目のpulseの時刻を取得する。制御部10は、取得した2つ目のpulseの時刻と、記憶部20から1つ目のpulseの時刻を読み出して比較し、2つのpulseの時刻の差から、1つ目のpulseの周期を算出することができる。
【0035】
上述のように、検出信号DSの分解能を1440pulse/inchとした場合、1pulseの周期において、搬送部40により記録紙Pは1/1440inchの長さが搬送される。制御部10は、検出信号DSの1pulseの周期で搬送される記録紙Pの長さ1/1440inchを、上述のように算出した1つ目のpulseの周期で除算すると、1つ目のpulseのときの記録紙Pの搬送速度を得ることができる。
なお、検出信号DSの1pulseの周期で搬送される記録紙Pの長さの値は、記憶部20に記憶されており、制御部10が読み出して処理をする。
【0036】
制御部10は、記憶部20を参照し、算出した記録紙Pの搬送速度に対応する通電時間と非通電時間の各比率を取得し、さらに基準の通電時間と基準の非通電時間とを取得する。制御部10は、基準の通電時間と基準の非通電時間に、取得したそれぞれの比率を掛けて、通電時間と非通電時間を算出する。
図4の通電信号S1の例では、通電時間T11と非通電時間T12を算出する。
図4の通電信号S1に示すように、算出した通電時間T11は、時刻t0から時刻t3の間の期間を示し、算出した非通電時間T12は、時刻t3から時刻t5の間の期間を示す。
【0037】
記憶部20には、ヘッド31の劣化を抑制するための最小の非通電時間と同じ値であるT0が閾値として記憶されている。制御部10は、記憶部20から閾値T0を取得して、算出した非通電時間T12と比較する。
図4の例は、記録紙Pの搬送速度が低速の例を示しているので、閾値T0以上の十分な非通電時間を確保可能である。
【0038】
ここで、非通電時間を判定するための閾値T0は、
図4に示す所定の時間Tの1.5倍の値とする。
図4の通電信号S1に示すように、制御部10が算出した非通電時間T12は、時刻t3から時刻t5の間の期間であり、所定の時間Tの2倍の値である。
制御部10は、算出した非通電時間T12が閾値T0より大きいと判定できるので、ヘッド31が劣化するおそれがないと判定でき、算出した非通電時間T12の値をそのまま使用し、補正しない。
【0039】
図4の通電信号S1に示すように、制御部10は、算出した通電時間T11に基づき、通電信号S1の時刻t0から時刻t3の期間においてヘッド31に通電を行い、算出した非通電時間T12に基づき、通電信号S1の時刻t3から時刻t5の期間においてヘッド31に通電しない非通電を行い、記録紙Pにnドットライン目の印刷をする。
制御部10は、時刻t5以降も上述と同様の制御を行い、次の(n+1)ドットライン目の印刷を行う。
【0040】
次に、
図4の場合に比べ、記録紙Pの搬送速度が高速になった場合の制御部10の制御について、
図5の実施形態と、
図7の従来の例とを比較しながら説明する。
【0041】
まず、
図7の従来の例について説明する。搬送速度が速くなると、検出信号DSのpulseの周期が小さくなる。したがって、任意のnドットライン目において、印刷周期は、
図4では通電信号S1の時刻t0から時刻t5までの期間で所定の時間Tの5倍の値であるのに対して、
図7では通電信号S4の時刻t0から時刻t4までの期間で所定の時間Tの4倍の値であり、小さくなっている。
【0042】
制御部10は、
図7の場合も
図4の場合と同様に、任意のnドットライン目において、時刻t0のときの1つ目のpulseの割込処理により、1つ目のpulseの立上り時刻を取得し、通電信号S4の電圧をローレベルにして、ヘッド31の通電を開始する。次に、制御部10は、2つ目のpulseの割込処理により、2つ目のpulseの立上り時刻を取得して、1つ目のpulseのときの時刻と比較し、1つ目のpulseの周期を算出する。
制御部10は、1つ目のpulseの周期と、記憶部20に記憶されている検出信号DSの1pulseの周期で搬送されるときの記録紙Pの長さに基づき、1つ目のpulseのときの搬送速度を算出する。
【0043】
制御部10は、算出した搬送速度に対応する通電時間と非通電時間の各比率と各基準時間を記憶部20から読み出し、通電時間と非通電時間を算出する。
図7の通電信号S4に示すように、任意のnドットライン目において、制御部10が算出した値は通電時間T41であり、この値は
図4の通電信号S1の場合の通電時間T11と同じ値であり、通電信号S4の時刻t0から時刻t3の間の期間を示す。また、制御部10が算出した値は非通電時間T42であり、通電信号S4の時刻t3から時刻t4の間の期間を示す。
このように、従来、制御部10は、1つの印刷周期内で、通電時間を優先して確保し、残りの時間を非通電時間に割り当てていたともいえる。
【0044】
ここで、制御部10が非通電時間の大きさを判定するための閾値T0は、所定の時間Tの1.5倍の値である。
図7の通電信号S4に示すように、制御部10が算出した非通電時間T42は、時刻t3から時刻t4の間の期間であり、所定の時間Tの1倍の値である。したがって、制御部10は、算出した非通電時間T42は閾値T0より小さいと判定する。
従来の制御では、制御部10は、算出した非通電時間T42が閾値T0未満であっても、その値のままでヘッド31を制御してしまうので、十分な非通電時間を確保できず、ヘッド31を劣化させてしまうおそれがある。
【0045】
次に、
図5の実施形態について、
図7の従来の例との違いを中心に説明する。
図5の実施形態は
図7の従来の例と同じ高速の搬送速度とする。
したがって、
図5の場合、搬送速度に対応する通電時間と非通電時間の各比率と各基準時間は、
図7の場合と同じ値であり、制御部10が算出する通電時間と非通電時間も
図7の通電信号S4の場合と同じ値となる。
【0046】
具体的には、
図5の通電信号S2の場合も
図7の通電信号S4の場合と同様に、任意のnドットライン目において、制御部10が算出する通電時間は通電時間T21である。通電時間T21は、通電信号S2の時刻t0から時刻t3の間の期間を示し、
図7の場合の通電時間T41と同じ値である。なお、通電時間T21は、
図4の通電信号S1の場合の通電時間T11とも同じ値である。
また、制御部10が算出した非通電時間は、
図7の場合の非通電時間T42と同じ値である。
【0047】
図5の場合、上述の
図7の場合と同じく、制御部10が一旦算出した非通電時間T42は所定の時間Tの1倍の値である。一方、閾値T0は所定の時間Tの1.5倍の値である。したがって、制御部10は、一旦算出した非通電時間T42は閾値T0より小さいと判定する。
【0048】
制御部10は、
図5の通電信号S2に示すように、一旦算出した非通電時間T42を大きくするように、閾値と同じ値である非通電時間T0に補正する。制御部10は、通電時間T21に基づきヘッド31に通電を行い、非通電時間T0に基づきヘッド31に通電しない期間を経て、記録紙Pにnドットライン目の印刷をする。なお、制御部10は、一旦算出した非通電時間T42を閾値T0より大きい値に補正してもよい。
このように、制御部10は、ヘッド31に対して閾値T0以上となる十分な非通電時間を確保することができるので、ヘッド31の劣化を抑制することができる。
【0049】
ところで、制御部10は、上述のように、nドットライン目において、一旦算出した非通電時間T42を大きくするように非通電時間T0に補正した。このため、
図5の通電信号S2に示すように、非通電時間T0は、次の(n+1)ドットライン目の印刷周期に掛かってしまい、(n+1)ドットライン目では、算出した通電時間T21を確保できなくなることがある。
制御部10が、補正した非通電時間T0に続く通電時間T21を確保できないと判定した場合、(n+1)ドットライン目において、補正した非通電時間T0に続く通電時間T21を小さくするように、通電時間T22に補正する。
【0050】
具体的には、補正した非通電時間T0に続く通電時間T21は、
図5の通電信号S2の時刻t0から時刻t3の間の期間に相当し、所定の時間Tの3倍の値である。補正した非通電時間T0に続く、算出した通電時間T21に対し小さく補正した通電時間T22は、通電信号S2の時刻t4と時刻t5の間のタイミングから時刻t7の間の期間であり、所定の時間Tの2.5倍の値である。
なお、通電時間の補正値は記憶部20に記憶されており、制御部10が読み出して処理をする。
【0051】
この結果、
図5の(n+1)ドットライン目に示すように、通電信号S2の通電を開始するタイミングは、時刻t4と時刻t5の間のタイミングとなり、時刻t4の印刷周期の開始のタイミングからずれるが、補正した通電時間T22と補正した非通電時間T0が1印刷周期内となる。このように、補正しても、1組の通電時間T22と非通電時間T0を合わせた1印刷周期は変わらない。
ヘッド31がラインサーマルヘッドである場合、nドットライン目の通電によりヘッド31に蓄熱が発生しているので、(n+1)ドットライン目の通電時間を小さくしても記録紙Pを発色させる温度は確保できる。したがって、良好な印刷結果を得ることができる。
【0052】
次に、
図6のタイムチャートを用いて、実施形態に係る高速時における制御部10による通電制御の他の例を説明する。特に、
図5の場合との違いを中心に説明する。
図6の実施形態と
図5の実施形態は、同じ搬送速度とする。
したがって、
図6の場合、搬送速度に対応する通電時間と非通電時間の各比率と各基準時間は、
図5の場合と同じ値であり、制御部10が算出する通電時間と非通電時間も
図5の場合と同じ値となる。
【0053】
具体的には、
図6の場合も
図5の場合と同様に、任意のnドットライン目において、制御部10が算出した値は通電時間T31である。通電時間T31は、通電信号S3の時刻t0から時刻t3の間の期間を示し、
図5の通電信号S2の通電時間T21と同じ値である。なお、通電時間T31は、
図4の通電信号S1の通電時間T11とも同じ値である。
また、制御部10が算出した非通電時間は、
図5の場合に一旦算出した通電信号S2の非通電時間T42と同じ値であり、
図7の場合と同じ値である。
【0054】
図6の場合も上述の
図5の場合のように、制御部10が一旦算出した非通電時間T42は所定の時間Tの1倍の値であり、一方、閾値T0は所定の時間Tの1.5倍の値である。したがって、制御部10は、一旦算出した非通電時間T42は閾値T0より小さいと判定する。
【0055】
制御部10は、
図6の通電信号S3に示すように、一旦算出した非通電時間T42を大きくするように、閾値T0と同じ値である非通電時間T0に補正する。制御部10は、通電時間T31に基づきヘッド31に通電を行い、非通電時間T0に基づきヘッド31に通電しない期間を経て、記録紙Pにnドットライン目の印刷をする。
【0056】
上述のように、制御部10は、nドットライン目において、一旦算出した非通電時間T42を大きくするように非通電時間T0に補正した。このため、
図6の通電信号S3に示すように、非通電時間T0は、次の(n+1)ドットライン目の印刷周期に掛かる。
しかし、(n+1)ドットライン目は、空白などの印刷しない部分であり、
図5の通電信号S2の場合と異なり、制御部10は通電しない。このため、制御部10が非通電時間T0に続いて通電しない期間T32は、通電信号S3の時刻t4と時刻t5の間のタイミングから時刻t8の間の期間である。
このように、制御部10は、ヘッド31に対して、通電信号S3に示すように、非通電時間T0に続いて通電しない期間T32を確保することができるので、ヘッド31の劣化を十分に抑制することができる。
【0057】
なお、
図6の通電信号S3の(n+2)ドットライン目において、制御部10が通電を開始するタイミングは、nドットライン目と同様に、通電信号S3の時刻t8の印刷周期の開始のタイミングとなる。制御部10は、通電信号S3の(n+1)ドットライン目では通電時間を確保する必要がないので、
図5の通電信号S2の(n+1)ドットライン目の場合のように、印刷周期の開始のタイミングからずれることはない。
【0058】
また、通電信号S3の(n+2)ドットライン目の通電時間は、制御部10が算出した通電時間T31であり、小さくする補正はしない。この通電時間T31は、nドットライン目と同じである。
制御部10は、ヘッド31がラインサーマルヘッドである場合、(n+1)ドットライン目は通電しないためヘッド31の温度が下がっているので、(n+2)ドットライン目の通電時間は小さくせず、記録紙Pを発色させる温度を確保する。したがって、良好な印刷結果を得ることができる。
【0059】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
一実施形態に係る印刷装置1は、記録紙Pに印刷する印刷部30と、軸44を中心に回転し、記録紙Pを搬送するローラー43と、軸44を回転させるモーター41と、を有する搬送部40と、軸44の回転を検出する検出部50と、印刷部30を制御する制御部10と、を備え、制御部10は、検出部50の検出信号に基づき、印刷部30に通電する通電時間と、通電時間に続く印刷部30に通電しない非通電時間とを算出し、算出した非通電時間が所定時間に満たない場合は、非通電時間が所定時間以上となるように非通電時間を補正し、印刷部30により印刷を行わせる。
上述の態様によれば、所定時間以上の非通電時間を確保することができ、印刷部30の劣化を抑制することができる。
【0060】
以上、これらの実施形態を、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない限り、変更、置換、削除等されてもよい。
【0061】
例えば、印刷装置1は、ヘッド31をラインサーマルヘッドの例で説明したが、ヘッド31の方式は問わない。例えば、発熱型のインクジェットヘッドでもよい。また、キャレッジに搭載されて走査されるシリアル型のヘッドでもよい。
また、モーター41はDCモーターの例で説明したが、ステップモーターなど他の方式のものでもよい。
また、検出部50はエンコーダーの例で説明したが、タコジェネレーター(tachogenerator)など他の検出方式のものでもよい。
また、記録紙Pはロール状に巻かれたロール紙90として説明したが、A4などの単票紙でもよい。
また、検出部50の円板52は軸44に取り付けられる例で説明したが、ギア42の軸またはモーター41の軸に取り付けられてもよく、検出部50は直接的あるいは間接的に軸44の回転位置を検出できればよい。
【符号の説明】
【0062】
1…印刷装置、10…制御部、20…記憶部、30…印刷部、40…搬送部、50…検出部。