(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】動力伝達装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240910BHJP
F16H 63/34 20060101ALI20240910BHJP
【FI】
F16H57/04 F
F16H63/34
(21)【出願番号】P 2020199591
(22)【出願日】2020-12-01
【審査請求日】2023-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 里志
(72)【発明者】
【氏名】岩井 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】荒川 嵩史
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-103318(JP,A)
【文献】特開2015-55323(JP,A)
【文献】特開2000-337485(JP,A)
【文献】特開2020-20444(JP,A)
【文献】特開2019-138381(JP,A)
【文献】特開2016-38008(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 63/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端部に後壁を有し、底部にオイルが貯留されるケース部材と、
前後方向に互いに平行に延びるようにして前記ケース部材に収容され、複数のギヤ対を介して接続される駆動軸および被駆動軸と、
前記ケース部材の前記後壁に設けられ、前記ケース部材の底部に貯留されるオイルを吸入するオイルポンプと、
前記ケース部材の前記後壁に設けられ、前記オイルポンプが駆動されると、前記ケース部材の底部に貯留されたオイルを吸込み、吸い込んだオイルを濾過するオイルストレーナと、
前記ケース部材の前記後壁に設けられ、前記オイルポンプに吸引されたオイルが流れるオイル通路部と、
前記ケース部材に収容され、前記オイル通路部から前方に向かって延びるオイルパイプとを備
え、
前記ケース部材は、前側ケース部材と、前記前側ケース部材の後部に連結され、前記後壁を有する後側ケース部材と、前記前側ケース部材に設けられ、前記前側ケース部材と前記後側ケース部材との内部の空間を仕切る隔壁とを含んで構成されており、
前記被駆動軸は、前記隔壁よりも前側で、かつ前記駆動軸の下方に設置されており、
前記複数のギヤ対は、前記駆動軸に設けられた複数の一方のギヤと、前記被駆動軸に設けられ、前記複数の一方のギヤにそれぞれ噛み合う複数の他方のギヤとを有し、
前記隔壁には前記前側ケース部材から前記後側ケース部材にオイルが排出される貫通孔が形成されており、
前記複数の他方のギヤのうち、前記貫通孔よりも前側に位置し、かつ、前記被駆動軸の軸方向で前記貫通孔に最も近い位置に設置されるギヤを所定のギヤとした場合に、前記貫通孔は、車両幅方向で前記所定のギヤと重ならない位置に形成されており、
前記隔壁は、前記前側ケース部材の車両幅方向の一方側の側壁から車両幅方向の他方側の側壁に向かって車両幅方向に延びる後側隔壁部と、前記後側隔壁部の車幅方向の一端部からパーキングポールを横切るように前方に延び、前記パーキングポールが車両幅方向で揺動自在な開口部を有する前後隔壁部と、前記前後隔壁部の前端部から前記他方側の側壁に向かって車幅方向に延び、前記他方側の側壁に連結される前側隔壁部とを含んで構成され、
パーキングロック機構を設け、
前記パーキングロック機構は、前記所定のギヤの後方で、かつ前記後側隔壁部の前方に位置するように前記被駆動軸に設けられたパーキングギヤと、前記被駆動軸の軸方向で前記前側隔壁部と前記後側隔壁部の間に位置し、前記パーキングギヤに噛み合う噛み合い位置と前記パーキングギヤから離隔する離隔位置との間で揺動自在な前記パーキングポールと、前後方向に移動自在に設けられ、前記パーキングポールを前記噛み合い位置と前記離隔位置に揺動させるパーキングロッドとを有し、
前記貫通孔は、前記前側隔壁部に形成されており、
前記パーキングロッドは、前後方向に移動自在となるように前記貫通孔に挿通されていることを特徴とする動力伝達装置。
【請求項2】
前記前側隔壁部の外周縁は、湾曲外周縁部と水平外周縁部とを有し、
前記被駆動軸の軸方向から見た場合に、前記湾曲外周縁部は、前記パーキングギヤと車両幅方向で近接し、前記パーキングギヤの外周縁に沿って下方から上方に延びており、
前記水平外周縁部は、前記パーキングギヤから車両幅方向に離れるように前記湾曲外周縁部の上端部から前記他方側の側壁に向かって延びており、
前記水平外周縁部は、前記前側隔壁部の外周縁のうち、前記湾曲外周縁部を除いて最も低い位置に位置しており、
前記貫通孔の下端は、前記水平外周縁部よりも下方に位置していることを特徴とする請求項1に記載の動力伝達装置。
【請求項3】
前記パーキングロック機構は、シフト操作に応じて前記パーキングロッドを前後方向に移動させるセレクトシャフトを有し、
前記前側隔壁部は、前記セレクトシャフトを保持するセレクトシャフト保持部を有し、
前記セレクトシャフト保持部と前記他方側の側壁とによって囲まれる空間は、前記貫通孔に連通するオイル溜まりを形成していることを特徴とする請求項
1または請求項2に記載の動力伝達装置。
【請求項4】
前記ケース部材に、オイルを貯留するキャッチタンクが収容されており、
前記オイルパイプは、前記キャッチタンクにオイルを排出するオイル吐出孔と、前記オイルパイプの前端部に設けられ、被潤滑部に向かってオイルを供給するオイル排出口とを有することを特徴とする
請求項1から請求項3
のいずれか1項に記載の動力伝達装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動力伝達装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される動力伝達装置として、変速機が知られている。従来の変速機としては、変速機ケースに貯留されるオイルを、オイルポンプによって必要潤滑部に供給するものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載される変速機は、変速機ケースの前後方向の中央部にオイルストレーナが設けられており、オイルストレーナは変速機ケースに貯留されるオイルに浸かっている。変速機ケースに貯留されるオイルは、オイルポンプによって吸引されるようになっており、オイルポンプに吸引されるオイルはオイルストレーナによって濾過される。
【0004】
オイルポンプから吐出されるオイルは、オイル供給路を通った後、オイルギャラリによって二股に分岐され、一部のオイルはオイルキャッチタンクに流れ、残りのオイルは、オイルギャラリに開口されている各オイル吐出口を経て各必要潤滑部に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の変速機にあっては、変速機ケースが後側に行くに従って下方となるよう傾斜しているので、車両の走行状態によっては変速機ケースに貯留されるオイルが変速機ケースの後方に偏る。
【0007】
このため、変速機ケースの前後方向の中央部に貯留されるオイルレベルが低くなり、オイルポンプが変速機ケースの前後方向の中央部に設けられたオイルストレーナを通して空気を吸い込む、所謂、エア吸いが発生するおそれがある。したがって、必要潤滑部の潤滑に必要な量のオイルを必要潤滑部に供給できないおそれがある。
【0008】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、変速機ケースが前方から後方に向かって下方に傾斜して設置される場合に、オイルポンプのエア吸いが発生することを抑制でき、被潤滑部の潤滑に必要な量のオイルを供給できる動力伝達装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、後端部に後壁を有し、底部にオイルが貯留されるケース部材と、前後方向に互いに平行に延びるようにして前記ケース部材に収容され、複数のギヤ対を介して接続される駆動軸および被駆動軸と、前記ケース部材の前記後壁に設けられ、前記ケース部材の底部に貯留されるオイルを吸入するオイルポンプと、前記ケース部材の前記後壁に設けられ、前記オイルポンプが駆動されると、前記ケース部材の底部に貯留されたオイルを吸込み、吸い込んだオイルを濾過するオイルストレーナと、前記ケース部材の前記後壁に設けられ、前記オイルポンプに吸引されたオイルが流れるオイル通路部と、前記ケース部材に収容され、前記オイル通路部から前方に向かって延びるオイルパイプとを備え、前記ケース部材は、前側ケース部材と、前記前側ケース部材の後部に連結され、前記後壁を有する後側ケース部材と、前記前側ケース部材に設けられ、前記前側ケース部材と前記後側ケース部材との内部の空間を仕切る隔壁とを含んで構成されており、前記被駆動軸は、前記隔壁よりも前側で、かつ前記駆動軸の下方に設置されており、前記複数のギヤ対は、前記駆動軸に設けられた複数の一方のギヤと、前記被駆動軸に設けられ、前記複数の一方のギヤにそれぞれ噛み合う複数の他方のギヤとを有し、前記隔壁には前記前側ケース部材から前記後側ケース部材にオイルが排出される貫通孔が形成されており、前記複数の他方のギヤのうち、前記貫通孔よりも前側に位置し、かつ、前記被駆動軸の軸方向で前記貫通孔に最も近い位置に設置されるギヤを所定のギヤとした場合に、前記貫通孔は、車両幅方向で前記所定のギヤと重ならない位置に形成されており、前記隔壁は、前記前側ケース部材の車両幅方向の一方側の側壁から車両幅方向の他方側の側壁に向かって車両幅方向に延びる後側隔壁部と、前記後側隔壁部の車幅方向の一端部からパーキングポールを横切るように前方に延び、前記パーキングポールが車両幅方向で揺動自在な開口部を有する前後隔壁部と、前記前後隔壁部の前端部から前記他方側の側壁に向かって車幅方向に延び、前記他方側の側壁に連結される前側隔壁部とを含んで構成され、パーキングロック機構を設け、前記パーキングロック機構は、前記所定のギヤの後方で、かつ前記後側隔壁部の前方に位置するように前記被駆動軸に設けられたパーキングギヤと、前記被駆動軸の軸方向で前記前側隔壁部と前記後側隔壁部の間に位置し、前記パーキングギヤに噛み合う噛み合い位置と前記パーキングギヤから離隔する離隔位置との間で揺動自在な前記パーキングポールと、前後方向に移動自在に設けられ、前記パーキングポールを前記噛み合い位置と前記離隔位置に揺動させるパーキングロッドとを有し、前記貫通孔は、前記前側隔壁部に形成されており、前記パーキングロッドは、前後方向に移動自在となるように前記貫通孔に挿通されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
このように上記の本発明によれば、変速機ケースが前方から後方に向かって下方に傾斜して設置される場合に、オイルポンプのエア吸いが発生することを抑制でき、被潤滑部の潤滑に必要な量のオイルを供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置の左側面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置を入力軸に沿って縦方向に切断した縦断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置であり、
図1をIII-III方向で切断した動力伝達装置を右後斜め上方から見た図である。
【
図8】
図8は、
図1のVIII-VIII方向矢視断面図である。
【
図10】
図10は、
図3に示す動力伝達装置をオイルパイプに沿って縦方向に切断したオイルパンプの周辺の縦断面図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置のリヤケースを右斜め前方から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施の形態に係る動力伝達装置は、後端部に後壁を有し、底部にオイルが貯留されるケース部材と、前後方向に平行に延びるようにしてケース部材に収容され、複数のギヤ対を介して接続される駆動軸および被駆動軸と、ケース部材の後壁に設けられ、ケース部材の底部に貯留されるオイルを吸入するオイルポンプと、ケース部材の後壁に設けられ、オイルポンプが駆動されると、ケース部材の底部に貯留されたオイルを吸込み、吸い込んだオイルを濾過するオイルストレーナと、ケース部材の後壁に設けられ、オイルポンプに吸引されたオイルが流れるオイル通路部と、ケース部材に収容され、オイル通路部から前方に向かって延びるオイルパイプとを備えている。
【0013】
これにより、本発明の一実施の形態に係る動力伝達装置は、変速機ケースが前方から後方に向かって下方に傾斜して設置される場合に、オイルポンプのエア吸いが発生することを抑制でき、被潤滑部の潤滑に必要な量のオイルを供給できる。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の一実施例に係る動力伝達装置について、図面を用いて説明する。
図1から
図11は、本発明の一実施例に係る動力伝達装置を示す図である。
図1から
図11において、上下前後左右方向は、車両に設置された状態の動力伝達装置を基準とし、車両の前後方向を前後方向、車両の左右方向(車幅方向)を左右方向、車両の上下方向(車両の高さ方向)を上下方向とする。
【0015】
まず、構成を説明する。
図1、
図2において、車両1には変速機2が搭載されており、変速機2にはエンジン3が接続されている。変速機2とエンジン3は、車両1のフロアパネル1Aの下方に縦置きに設置されている。すなわち、本実施例の車両1は、後輪駆動車両である。エンジン3は、燃料の燃焼を行い、熱エネルギーを機械的エネルギーに変換する。
【0016】
変速機2は変速機ケース4を備えており、変速機ケース4は、フロントケース6と、センタケース7と、リヤケース8と、エクステンションケース9とを備えている。変速機ケース4は、前方から後方に向かって下方に傾斜して設置されている。
【0017】
本実施例の変速機2は、動力伝達装置を構成し、変速機ケース4は、ケース部材を構成している。フロントケース6、センタケース7およびリヤケース8は、前側ケース部材を構成し、エクステンションケース9は、後側ケース部材を構成する。
【0018】
図2に示すように、フロントケース6にはトルクコンバータ10が収容されており、トルクコンバータ10は、フロントカバー11と、フロントカバー11に連結されるポンプシェル12とを有する。
【0019】
フロントカバー11は、ドライブプレート13を介してエンジン3のクランク軸3Sに連結されており、フロントカバー11およびポンプシェル12は、クランク軸3Sと一体で回転する。
【0020】
トルクコンバータ10は、ポンプシェル12に固定されるポンプインペラ14と、ポンプインペラ14に対向するタービンランナ15とを備えている。タービンランナ15は、図示しないタービンハブを介してタービン軸16に連結されている。
【0021】
トルクコンバータ10には作動油が供給されており、エンジン3からポンプシェル12に動力が伝達されると、ポンプインペラ14の回転による遠心力によって、トルクコンバータ10の内部の作動油にポンプインペラ14からタービンランナ15に向かう流れが生じる。
【0022】
この作動油の流れによりタービンランナ15が回転され、エンジン3の動力がタービンランナ15からタービン軸16に伝達される。
【0023】
ポンプインペラ14とタービンランナ15との間にはステータ15Sが設置されている。ステータ15Sは、タービンランナ15からポンプインペラ14に向かう作動の流れをポンプインペラ14の回転方向に沿うように変換することにより、エンジン3の動力を増幅させる。
【0024】
フロントケース6には隔壁21Aが形成されている。隔壁21Aは、フロントケース6の内部の空間を、トルクコンバータ10を収容するトルクコンバータ室22と、摩擦クラッチ31を収容するクラッチ室23とに仕切っている。
【0025】
タービン軸16は、隔壁21Aに回転自在に支持されている。フロントケース6のトルクコンバータ室22にはオイルポンプ26が収容されており、オイルポンプ26は、例えば、トロコイド式のオイルポンプから構成されている。
【0026】
フロントケース6のクラッチ室23には乾式の摩擦クラッチ31が収容されており、摩擦クラッチ31は、入力軸41の前端部に設置されている。入力軸41は、フロントケース6、センタケース7およびリヤケース8に収容されており、車両1の前後方向に延びている。
【0027】
入力軸41の前端部は、タービン軸16の後端部に相対回転自在に支持されており、入力軸41の後端部は、出力軸42に相対回転自在に支持されている。
【0028】
センタケース7には隔壁21Bが設けられている。入力軸41は、貫通孔を有する軸受支持部21bを通して隔壁21Bを貫通しており、軸受35Aを介して軸受支持部21bに回転自在に支持されている。本実施例の軸受35Aは、被潤滑部を構成する。
【0029】
リヤケース8には隔壁24が設けられており、隔壁24は、リヤケース8の内部の空間とエクステンションケース9の内部の空間とを仕切っている。
【0030】
変速機ケース4の後端部であるエクステンションケース9の後端部には後壁25が設けられており、後壁25は、入力軸41の軸方向(前後方向)で隔壁24に対向している。
【0031】
出力軸42は、貫通孔を有する隔壁24の軸受支持部24aを通して隔壁24を貫通しており、軸受35Bを介して軸受支持部24aに回転自在に支持されている。
【0032】
出力軸42は、貫通孔を有する後壁25の軸受支持部25aを通して後壁25を貫通しており、軸受35Cを介して軸受支持部25aに回転自在に支持されている。
【0033】
摩擦クラッチ31は、タービン軸16に結合され、タービン軸16と一体で回転するクラッチホイールディスク32と、入力軸41に一体回転自在、かつ入力軸41の軸方向に移動自在に設けられたクラッチディスク33とを有する。
【0034】
摩擦クラッチ31は、クラッチホイールディスク32にクラッチディスク33が結合されると、エンジン3の動力を、トルクコンバータ10を介して入力軸41に伝達し、クラッチホイールディスク32がクラッチディスク33から離隔されると、エンジン3から入力軸41に伝達される動力を遮断する。
【0035】
センタケース7およびリヤケース8にはカウンタ軸46が収容されており、カウンタ軸46は、入力軸41と平行に前後方向に延びている。カウンタ軸46は、隔壁24よりも前側において入力軸41の下方に設置されている。
【0036】
本実施例の入力軸41は、エンジン3の動力が伝達される駆動軸を構成し、カウンタ軸46は、入力軸41から動力が伝達される被駆動軸を構成する。
【0037】
入力軸41には、摩擦クラッチ31側から出力軸42に向かって、変速用のギヤを構成する4速入力ギヤ41A、3速入力ギヤ41B、2速入力ギヤ41C、1速入力ギヤ41Dおよびリバース入力ギヤ41Eが設置されている。
【0038】
入力ギヤ41Aから入力ギヤ41Dの直径は、4速入力ギヤ41Aが最も大きく、3速入力ギヤ41B、2速入力ギヤ41Cおよび1速入力ギヤ41Dの順に小さく形成されている。すなわち、1速入力ギヤ41Dの直径が最も小さく形成されている。
【0039】
出力軸42の前端部には5速クラッチギヤ42Aが設けられており、5速クラッチギヤ42Aは、出力軸42と一体で回転するドグから構成される。
【0040】
カウンタ軸46には、摩擦クラッチ31側から出力軸42に向かって4速カウンタギヤ46A、3速カウンタギヤ46B、2速カウンタギヤ46C、1速カウンタギヤ46Dおよびカウンタドライブギヤ46Eが設けられている。
【0041】
カウンタギヤ46Aから1速カウンタギヤ46Dは、それぞれ同じ変速段を構成する4速入力ギヤ41Aから1速入力ギヤ41Dに噛み合っている。カウンタドライブギヤ46Eは、出力軸42に設けられたカウンタドリブンギヤ42Bに噛み合っている。
【0042】
カウンタギヤ46Aからカウンタギヤ46Dの直径は、4速カウンタギヤ46Aが最も小さく、3速カウンタギヤ46B、2速カウンタギヤ46Cおよび1速カウンタギヤ46Dの順に大きく形成されている。すなわち、1速カウンタギヤ46Dの直径が最も大きく形成されている。カウンタドライブギヤ46Eは、4速カウンタギヤ46Aと同程度の大きさに形成されている。
【0043】
本実施例の4速入力ギヤ41Aおよび4速カウンタギヤ46Aと、3速入力ギヤ41Bおよび3速カウンタギヤ46Bと、2速入力ギヤ41Cおよび2速カウンタギヤ46Cと、1速入力ギヤ41Dおよび1速カウンタギヤ46Dの組み合わせは、それぞれギヤ対を構成する。
【0044】
また、4速入力ギヤ41A、3速入力ギヤ41B、2速入力ギヤ41Cおよび1速入力ギヤ41Dは、一方のギヤを構成し、4速カウンタギヤ46A、3速カウンタギヤ46B、2速カウンタギヤ46Cおよび1速カウンタギヤ46Dは、他方のギヤを構成する。さらに、1速カウンタギヤ46Dは、所定のギヤを構成する。
【0045】
エンジン3のクランク軸3Sの動力は、トルクコンバータ10のタービン軸16から入力軸41に伝達された後、同一の変速段を構成する入力ギヤ41A、41B、41C、41Dからカウンタギヤ46A、46B、46C、46Dを介してカウンタ軸46に伝達される。
【0046】
カウンタ軸46に伝達されたエンジン3の動力は、カウンタ軸46のカウンタドライブギヤ46Eからカウンタドリブンギヤ42Bを介して出力軸42に伝達される。出力軸42にはいずれも図示しないプロペラ軸を介してディファレンシャル装置、ドライブ軸および駆動後輪が接続されている。
【0047】
これにより、出力軸42に伝達された動力は、プロペラ軸を介してディファレンシャル装置に伝達され、ディファレンシャル装置によって左右のドライブ軸に分配された後に、駆動後輪に伝達される。
【0048】
リバース入力ギヤ41Eは、リバース軸43(
図6参照)に設けられた図示しないリバースアイドラギヤを介してカウンタ軸46に設けられた図示しないリバースドリブンギヤに接続されている。
【0049】
変速機ケース4のうち、リヤケース8とエクステンションケース9の底部には潤滑用のオイルOが貯留されている。変速機ケース4のうち、リヤケース8に貯留されるオイルOを
図6に示す。
【0050】
図6、
図7に示すように、リヤケース8にはキャッチタンク51が設置されており、キャッチタンク51は、1速カウンタギヤ46Dに対して車両1の幅方向(車両幅方向、以下、単に車幅方向という)の左斜め上方に位置している。
【0051】
カウンタギヤの中で最も大径の1速カウンタギヤ46Dは、変速機ケース4のリヤケース8に貯留されるオイルOに最も深く浸かっており、キャッチタンク51には1速カウンタギヤ46Dの回転によって掻き上げられたオイルが貯留される。
【0052】
キャッチタンク51の底壁51Aにはオイル落とし穴51aが形成されており、キャッチタンク51に貯留されるオイルは、オイル落とし穴51aから排出される。
【0053】
図2、
図4に示すように、後壁25にはオイルポンプ52が設けられており、オイルポンプ52は、ポンプ駆動軸52Aによってカウンタ軸46に連結されている。
オイルポンプ52は、例えば、トロコイド式のオイルポンプから構成されており、カウンタ軸46の動力がポンプ駆動軸52Aを介して伝達されることにより、回転駆動される。
【0054】
図4に示すように、後壁25には連通孔25bが形成されている。
図1に示すようにリヤケース8にはオイルストレーナ53が設置されている。オイルストレーナ53は、オイルOに浸かるストレーナ部53Aと、ストレーナ部53Aと一体に設けられた支持部53Bとを有する。
【0055】
支持部53Bは、後壁25の連通孔25bに嵌合されており、オイルストレーナ53は、支持部53Bによって後壁25に支持されている。
【0056】
後壁25には下側オイル通路部25Aと上側オイル通路部25Bが設けられており、下側オイル通路部25Aと上側オイル通路部25Bの間にはオイルポンプ52が設けられている。
【0057】
下側オイル通路部25Aは、後壁25の下部から右斜め上方に直線状に延びており、延びる方向の途中に連通孔25bが形成されている。
【0058】
すなわち、連通孔25bは、オイルストレーナ53を保持するとともに、エクステンションケース9の内部と下側オイル通路部25Aとを連通している。
【0059】
オイルポンプ52は、エクステンションケース9の底部に貯留されるオイルOを、下側オイル通路部25Aを通して吸入する。
【0060】
オイルストレーナ53は、オイルポンプ52が駆動されると、ストレーナ部53Aによってエクステンションケース9の底部に貯留されたオイルOを吸込み、吸い込んだオイルを濾過して支持部53Bを通して下側オイル通路部25Aに流す。
【0061】
上側オイル通路部25Bは、オイルポンプ52から上方に向かって直線状に延びており、オイルポンプ52に吸引されたオイルは上側オイル通路部25Bを流れる。
【0062】
すなわち、オイルポンプ52が駆動されると、ストレーナ部53Aによって濾過されたオイルが下側オイル通路部25Aから上側オイル通路部25Bに流れる。本実施例の上側オイル通路部25Bは、オイル通路部を構成する。
【0063】
図3に示すように、変速機ケース4にはオイルパイプ54が設置されている。
図4に示すように、上側オイル通路部25Bの上部には連通孔25cが形成されており、連通孔25cは、エクステンションケース9の内部と上側オイル通路部25Bとを連通している。
【0064】
連通孔25cにはオイルパイプ54の後端部54rが嵌合されており、上側オイル通路部25Bを流れるオイルは、連通孔25cを通してオイルパイプ54に導入される。オイルパイプ54は、入力軸41とカウンタ軸46よりも高い位置に設置されており、上側オイル通路部25Bから前方に向かって延びている。
【0065】
図3、
図10に示すように、リヤケース8の上部にはキャッチタンク55が設置されている。キャッチタンク55は、入力軸41とカウンタ軸46よりも高い位置に設置されており、車幅方向よりも前後方向の長さが長くなるように縦長に形成されている。
【0066】
オイルパイプ54は、キャッチタンク55の後壁55Rを貫通してキャッチタンク55の内部に挿入されている。
【0067】
キャッチタンク55の前壁55Fには筒状部55Bが設けられており、オイルパイプ54の前端部54f側は、筒状部55Bに嵌合されている。これにより、オイルパイプ54は、キャッチタンク55に固定されている。
【0068】
図10に示すように、筒状部55Bの前端部には開口部55hが形成されている。オイルパイプ54の前端部54fは、開口部55hを通してキャッチタンク55から前方に突出している。
【0069】
オイルパイプ54の前端部54fにはオイル排出口54aが形成されている。オイルパイプ54の前端部54fは、隔壁21Bのパイプ保持部21dに支持されている。
【0070】
オイル排出口54aから排出されるオイルは、隔壁21Bに設けられたオイル通路25dを通して軸受35Aに供給される。これにより、軸受35Aがオイルによって潤滑される。
【0071】
オイルパイプ54にはオイル吐出孔54bが設けられている。オイル吐出孔54bは、キャッチタンク55の設置領域内、すなわち、キャッチタンク55の底壁55Cの上方に位置している。
【0072】
オイルパイプ54を流れるオイルの一部はオイル吐出孔54bからキャッチタンク55に排出されることにより、キャッチタンク55にオイルが貯留される。
【0073】
すなわち、本実施例の変速機2は、エンジン3の駆動時において、リヤケース8とエクステンションケース9の底部に貯留されるオイルを2つのキャッチタンク51、55に貯留することにより、オイルOの油面を低下できる。
【0074】
これにより、オイルOに浸かる1速カウンタギヤ46Dの攪拌抵抗を低減でき、変速機2の動力伝達効率を向上できるとともに、エンジン3の燃費を低減できる。
【0075】
3速カウンタギヤ46Bと2速カウンタギヤ46Cの下方にはオイルセパレータ38が設置されており(
図7参照)、3速カウンタギヤ46Bと2速カウンタギヤ46CはオイルOと分離されている。これにより、3速カウンタギヤ46Bと2速カウンタギヤ46Cの攪拌抵抗を低減できる。
【0076】
図7に示すように、キャッチタンク55の底壁55Cには図示しないオイル落とし穴が形成されており、キャッチタンク55に貯留されるオイルは、オイル落とし穴から排出される。
【0077】
図7、
図11に示すように、隔壁24は、後側隔壁部24A、前後隔壁部24Bおよび前側隔壁部24Cを含んで構成されている。
【0078】
後側隔壁部24Aは、リヤケース8の右側壁8Rからリヤケース8の左側壁8Lに向かって車両幅方向に延びている。
【0079】
前後隔壁部24Bは、後側隔壁部24Aの車幅方向の左端部(一端部)から前方に延びている。前側隔壁部24Cは、前後隔壁部24Bの前端部からフロントケース6の左側壁8Lに向かって車幅方向に延び、左側壁8Lに連結されている。
【0080】
また、前側隔壁部24Cは、リヤケース8の底部において、前後隔壁部24Bの前端部からフロントケース6の左側壁8Lに向かって車幅方向に延び、左側壁8Lに連結されている。
【0081】
本実施例のリヤケース8の右側壁8Rは、前側ケース部材の車両幅方向の一方側の側壁を構成し、左側壁8Lは、前側ケース部材の車両幅方向の他方側の側壁を構成する。
【0082】
カウンタ軸46の前端部は、軸受35Dを介して隔壁21Bに回転自在に支持されており(
図8参照)、カウンタ軸46の後端部は、軸受35Eを介して後側隔壁部24Aに回転自在に支持されている(
図5、
図8参照)。
【0083】
図8、
図9に示すように、変速機2にはパーキングロック機構61が設置されている。
図8に示すように、パーキングロック機構61は、パーキングギヤ62、パーキングポール63、パーキングロッド64、セレクトシャフト65およびディテントプレート66を備えている。
【0084】
図7に示すように、パーキングギヤ62は、カウンタ軸46と一体で回転するようにカウンタ軸46に取付けられており、1速カウンタギヤ46Dの後方で、かつ後側隔壁部24Aの前方に位置している。
【0085】
パーキングポール63は、カウンタ軸46の軸方向(前後方向)において前側隔壁部24Cと後側隔壁部24Aの間に位置している。
【0086】
図5に示すように、パーキングポール63は、パーキングポールシャフト63aを中心にパーキングギヤ62に噛み合う噛み合い位置と、パーキングギヤ62から離隔する離隔位置との間で揺動自在となっている。
【0087】
パーキングポールシャフト63aは、リテーナ67に固定されており、リテーナ67は、前側隔壁部24Cに固定されている。
【0088】
パーキングポール63がパーキングギヤ62に噛み合うとパーキングギヤ62の回転が規制される。これにより、カウンタ軸46の回転が規制され、車両1の停車状態が維持される。
【0089】
図8に示すように、パーキングロッド64は、軸方向が前後方向に向くようにリヤケース8に設置されており、前後方向に移動自在となっている。
【0090】
セレクトシャフト65は、パーキングロッド64の延びる方向と直交する車幅方向に延びており、レバー65Aを介して図示しない変速操作装置に連絡されている。セレクトシャフト65は、変速操作装置がレバー65Aを揺動させると、回転駆動される。
【0091】
ディテントプレート66は、セレクトシャフト65に連結されている。ディテントプレート66にはパーキングロッド64の前端部が連結されており、ディテントプレート66は、シフト操作に応じてセレクトシャフト65が回転されると揺動され、パーキングロッド64を前後方向に移動させる。
【0092】
図5に示すように、前側隔壁部24Cにはサポート部材68が設けられている。パーキングロッド64は、後方に移動すると、パーキングロッド64の後端部に設けられたカム64aがサポート部材68に乗り上げる。
【0093】
カム64aがサポート部材68に乗り上げると、パーキングポール63が押し上げられてパーキングポール63が噛み合い位置に移動する。これにより、パーキングポール63がパーキングギヤ62に噛み合わされる。
【0094】
パーキングロッド64は、前方に移動すると、カム64aがサポート部材68から前方に移動し、パーキングポール63を下げる。
【0095】
このとき、パーキングポール63がパーキングギヤ62から離隔する離隔位置に移動し、パーキングギヤ62が回転可能となり、車両1の走行が可能となる。
【0096】
図7に示すように、前後隔壁部24Bは、後側隔壁部24Aの車幅方向の左端部からパーキングポール63を横切るように前方に延びている。
図11に示すように、前後隔壁部24Bには開口部24bが形成されており、開口部24bは、車幅方向に開口している。
【0097】
開口部24bは、パーキングポール63が車幅方向に揺動可能な大きさの開口面積を有する。このため、パーキングポール63は、前後隔壁部24Bに妨げられることなく、噛み合いと離隔位置とに移動できる。
【0098】
図6に示すように、前側隔壁部24Cの下部には排出孔24cが形成されている。変速機ケース4は、前方から後方に向かって下方に傾斜して設置されているので、リヤケース8の底部に貯留されるオイルOは、排出孔24cを通してエクステンションケース9に排出される。
【0099】
図6、
図8に示すように、前側隔壁部24Cには貫通孔24dが形成されている。
図8に示すように、カウンタ軸46に設けられたカウンタギヤのうち、貫通孔24dよりも前側に位置し、かつ、カウンタ軸46の軸方向で貫通孔24dに最も近い位置に1速カウンタギヤ46Dが設置されている。
【0100】
図6、
図8に示すように、貫通孔24dは、車幅方向で1速カウンタギヤ46Dと重ならない位置に形成されている。すなわち、貫通孔24dは、1速カウンタギヤ46Dに対して車幅方向に離隔するようにして前側隔壁部24Cに形成されている。
【0101】
図8に示すように、パーキングロッド64は、前後方向に移動自在となるように貫通孔24dに挿通されている。
【0102】
図6、
図11に示すように、カウンタ軸46の軸方向から見た場合に、前側隔壁部の24Cの外周縁は、湾曲外周縁部24mと水平外周縁部24nとを有する。
【0103】
カウンタ軸46の軸方向から見た場合に、湾曲外周縁部24mは、パーキングギヤ62と車幅方向で近接し、パーキングギヤ62の外周縁に沿って下方から上方に延びている。
【0104】
水平外周縁部24nは、パーキングギヤ62から車幅方向に離れるように湾曲外周縁部24mの上端部からリヤケース8の左側壁8Lに向かって延びている。前側隔壁部24Cは、パーキングギヤ62から前方に離れているので、湾曲外周縁部24mと水平外周縁部24nは、パーキングギヤ62から前方に離れている。
【0105】
水平外周縁部24nは、前側隔壁部24Cの外周縁のうち、湾曲外周縁部24mを除いて最も低い位置に位置しており、貫通孔24dの下端24uは、水平外周縁部24nよりも下方に位置している。
【0106】
カウンタ軸46の軸方向から見た場合に、湾曲外周縁部24mと水平外周縁部24nの一部は、1速カウンタギヤ46Dと車幅方向で重なっている。換言すれば、湾曲外周縁部24mと水平外周縁部24nの一部は、1速カウンタギヤ46Dと前後方向に対向している。
【0107】
図9、
図11に示すように、前側隔壁部24Cにはセレクトシャフト保持部24eが設けられている。セレクトシャフト保持部24eは、前側隔壁部24Cから前方に突出しており、突出方向の前端部によってセレクトシャフト65を回転自在に保持している。
図6に示すように、セレクトシャフト保持部24eの上端は、貫通孔24dの上下方向の中央部まで延びている。
【0108】
図6、
図9に示すように、セレクトシャフト保持部24eとリヤケース8の右側壁8Rとによって囲まれる空間は、オイル溜まり69を構成しており、オイル溜まり69は、貫通孔24dに連通している。
【0109】
図6に示すように、カウンタ軸46を軸方向の前方から見た場合に、カウンタ軸46は、反時計周りRに回転し、4速カウンタギ46Dによって掻き上げられたオイルは、カウンタ軸46の右方に位置するオイル溜まり69に送られる。
【0110】
次に、本実施例の変速機2の効果について説明する。
本実施例の変速機2は、端部に後壁25を有し、底部にオイルOが貯留される変速機ケース4と、前後方向に平行に延びるようにして変速機ケース4に収容され、入力ギヤ41A、41B、41C、41Dとカウンタギヤ46A、46B、46C、46Dからなる複数のギヤ対を介して接続される入力軸41およびカウンタ軸46とを備えている。
【0111】
また、変速機2は、エクステンションケース9の後壁25に設けられ、エクステンションケース9の底部に貯留されるオイルOを吸入するオイルポンプ52と、エクステンションケース9の後壁25に取付けられ、オイルポンプ52が駆動されると、エクステンションケース9の底部に貯留されたオイルOを吸込み、吸い込んだオイルを濾過するオイルストレーナ53とを備えている。
【0112】
さらに、変速機2は、エクステンションケース9の後壁25に設けられ、オイルポンプ52に吸引されたオイルが流れる上側オイル通路部25Bと、変速機ケース4に収容され、上側オイル通路部25Bの上部から前方に向かって延びるオイルパイプ54とを備えている。
【0113】
これにより、変速機ケース4が前方から後方に向かって下方に傾斜して設置される場合に、オイルを変速機ケース4の後部に位置するエクステンションケース9に流し、エクステンションケース9に集めることができる。
【0114】
このため、エクステンションケース9のオイルOの油面を高くして、オイルストレーナ53をオイルOに深く浸けることができる。したがって、オイルポンプ52のエア吸いが発生することを抑制でき、オイルパイプ54によって軸受35Aの潤滑に必要な量のオイルを供給できる。
【0115】
なお、オイルパイプ54の設置位置を適宜設定することにより、入力ギヤ41A、41B、41C、41Dとカウンタギヤ46A、46B、46C、46Dの噛み合い部等の被潤滑部を潤滑してもよい。
【0116】
また、本実施例の変速機2によれば、変速機ケース4は、前側ケース部材を構成するフロントケース6、センタケース7およびリヤケース8と、リヤケース8の後部に連結され、後壁25を有して後側ケース部材を構成するエクステンションケース9と、リヤケース8に設けられ、リヤケース8とエクステンションケース9との内部の空間を仕切る隔壁24とを含んで構成されている。
【0117】
カウンタ軸46は、隔壁24よりも前側で、かつ入力軸41の下方に設置されており、隔壁24にはリヤケース8からエクステンションケース9にオイルが排出される貫通孔24dが形成されている。
【0118】
カウンタ軸46は、複数のカウンタギヤ46Aからカウンタギヤ46Dのうち、貫通孔24dよりも前側に位置し、かつ、カウンタ軸46の軸方向で貫通孔24dに最も近い1速カウンタギヤ46Dを有し、貫通孔24dは、車幅方向で1速カウンタギヤ46Dと重ならない位置に形成されている。
【0119】
これにより、リヤケース8から貫通孔24dを通してエクステンションケース9に排出されるオイルが、1速カウンタギヤ46Dの回転に阻害されることを防止でき、リヤケース8からエクステンションケース9にオイルを確実に排出できる。
【0120】
このため、エクステンションケース9のオイルOの油面を確実に高くでき、オイルストレーナ53をオイルOに深く浸けることができる。したがって、オイルポンプ52のエア吸いが発生することをより効果的に抑制でき、オイルパイプ54によって軸受35Aの潤滑に必要な量のオイルをより効果的に供給できる。
【0121】
また、リヤケース8の油面を確実に低減できるので、オイルOに浸かる1速カウンタギヤ46Dの攪拌抵抗を低減でき、変速機2の動力伝達効率を向上できるとともに、エンジン3の燃費を低減できる。
【0122】
また、本実施例の変速機2によれば、隔壁24は、リヤケース8の右側壁8Rから左側壁8Lに向かって車幅方向に延びる後側隔壁部24Aと、後側隔壁部24Aの車幅方向の左端部からパーキングポール63を横切るように前方に延び、パーキングポール63が車幅方向で揺動可能な開口部24bを有する前後隔壁部24Bと、前後隔壁部24Bの前端部から左側壁8Lに向かって車幅方向に延び、左側壁8Lに連結される前側隔壁部24Cとを有する。
【0123】
また、変速機2は、パーキングロック機構61を有し、パーキングロック機構61は、1速カウンタギヤ46Dの後方で、かつ後側隔壁部24Aの前方に位置するようにカウンタ軸46に設けられたパーキングギヤ62を有する。
【0124】
また、パーキング機構61は、カウンタ軸46の軸方向で前側隔壁部24Cと後側隔壁部24Aの間に位置し、パーキングギヤ62に噛み合う噛み合い位置とパーキングギヤ62から離隔する離隔位置との間で揺動自在なパーキングポール63と、前後方向に移動自在に設けられ、パーキングポール63を噛み合い位置と離隔位置に揺動させるパーキングロッド64とを有する。
【0125】
貫通孔24dは、前側隔壁部24Cに形成されており、パーキングロッド64は、前後方向に移動自在となるように貫通孔24dに挿通されている。
【0126】
これにより、リヤケース8に入力軸41、カウンタ軸46、パーキングロッド64を組付けた状態で、リヤケース8にパーキングポール63を組付けた後に、エクステンションケース9をリヤケース8に組付けることができる。
【0127】
具体的には、リヤケース8に入力軸41、カウンタ軸46およびパーキングロッド64を組付け、エクステンションケース9をリヤケース8に組付ける前の状態において、パーキングポール63を前後隔壁部24Bの開口部24bを通してリヤケース8に組付けることができる。
【0128】
このため、リヤケース8にパーキングロック機構61を容易に組付けることができる。
【0129】
そして、パーキングロッド64が前後方向に移動自在となるように貫通孔24dに挿通されているので、前側隔壁部24Cを隔ててパーキングロッド64とパーキングポール63が前後方向に対向している場合でも、パーキングロッド64によってパーキングポール63を確実に操作できる。
【0130】
また、リヤケース8からエクステンションケース9を取り外した状態で、パーキングポール63のメンテナンスを行うことができ、パーキングロック機構61のメンテナンス作業の作業性を向上できる。
【0131】
さらに、パーキングロッド64が挿入される貫通孔24dを、リヤケース8からエクステンションケース9にオイル排出するための排出孔として利用できるので、変速機ケース4の構造を簡素化できる。
【0132】
また、本実施例の変速機2によれば、前側隔壁部24Cの外周縁は、湾曲外周縁部24mと水平外周縁部24nとを有する。
【0133】
カウンタ軸46の軸方向から見た場合に、湾曲外周縁部24mは、パーキングギヤ62と車幅方向で近接し、パーキングギヤ62の外周縁に沿って下方から上方に延びており、水平外周縁部24nは、パーキングギヤ62から車幅方向に離れるように湾曲外周縁部24mの上端部からリヤケース8の右側壁8Rに向かって延びている。
【0134】
水平外周縁部24nは、前側隔壁部24Cの外周縁のうち、湾曲外周縁部24mを除いて最も低い位置に位置しており、貫通孔24dの下端は、水平外周縁部24nよりも下方に位置している。
【0135】
これにより、リヤケース8から貫通孔24dを通してエクステンションケース9に排出されるオイルが、1速カウンタギヤ46Dの回転に阻害されることを防止でき、リヤケース8から貫通孔24dを通してエクステンションケース9にオイルを確実に排出できる。
【0136】
これに加えて、貫通孔24dの下端が水平外周縁部24nよりも下方に位置していることにより、オイルOの油面が水平外周縁部24nの高さよりも高くならない場合でも、リヤケース8から貫通孔24dを通してエクステンションケース9にオイルをより確実に排出できる。
【0137】
一方、前側隔壁部24Cは、水平外周縁部24nが形成されることにより、水平外周縁部24nの上方が切り欠きとなる。このため、水平外周縁部24nの高さを低くすると、切り欠きの開口面積が大きくなり、前側隔壁部24Cの強度が低下する。
【0138】
したがって、貫通孔24dの下端を水平外周縁部24nよりも下方に位置させることにより、水平外周縁部24nの高さを低くすることを防止できる。このため、前側隔壁部24Cの強度が低下することを抑制しつつ、リヤケース8から貫通孔24dを通してエクステンションケース9にオイルをより確実に排出できる。
【0139】
また、本実施例の変速機2によれば、パーキングロック機構61は、シフト操作に応じてパーキングロッド64を前後方向に移動させるセレクトシャフト65を有し、 前側隔壁部24Cは、セレクトシャフト65を保持するセレクトシャフト保持部24eを有する。
【0140】
これに加えて、セレクトシャフト保持部24eと他方側の側壁とによって囲まれる空間は、貫通孔24dに連通するオイル溜まり69を形成している。
【0141】
これにより、1速カウンタギヤ46Dによって掻き上げられたオイルをオイル溜まり69に集め、オイル溜まり69から貫通孔24dを通してリヤケース8に送ることができる。
【0142】
これにより、より多くのオイルをリヤケース8からエクステンションケース9に戻すことができ、オイルポンプ52のエア吸いが発生することをより効果的に抑制できる。このため、オイルパイプ54によって軸受35Aの潤滑に必要な量のオイルをより効果的に供給できる。
【0143】
また、本実施例の変速機2によれば、リヤケース8に、オイルを貯留するキャッチタンク55が収容されている。
【0144】
また、オイルパイプ54は、キャッチタンク55にオイルを排出するオイル吐出孔54bと、オイルパイプ54の前端部54fに設けられ、軸受35Aに向かってオイルを供給するオイル排出口54aとを有する。
【0145】
これにより、オイルポンプ52によってオイルパイプ54に吐出されたオイルの一部をオイル吐出孔54bからキャッチタンク55に排出し、キャッチタンク55に貯留できる。
【0146】
このため、リヤケース8に貯留されるオイルOの油面を確実に低下させて、オイルOに浸かる1速カウンタギヤ46Dの攪拌抵抗をより効果的に低減でき、変速機2の動力伝達効率をより効果的に向上できるとともに、エンジン3の燃費をより効果的に低減できる。
【0147】
また、オイルポンプ52によってオイルパイプ54に吐出されたオイルの一部をオイル排出口54aから軸受35Aに供給でき、軸受35Aをオイルによって潤滑できる。
【0148】
なお、本実施例は、動力伝達装置を変速機に適用しているが、変速機に限定されるものではない。
【0149】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0150】
2...変速機(動力伝達装置)、4...変速機ケース(ケース部材)、6...フロントケース(前側ケース部材)、7...センタケース(前側ケース部材)、8...リヤケース(前側ケース部材)、9...エクステンションケース(後側ケース部材)、24...隔壁、24A...後側隔壁部、24B...前後隔壁部、24b...開口部、24C...前側隔壁部、24d...貫通孔、24e...セレクトシャフト保持部、24m...湾曲外周縁部、24n...水平外周縁部、25...後壁、25B...上側オイル通路部(オイル通路部)、35A...軸受(被潤滑部)、41...入力軸(駆動軸)、41A...4速入力ギヤ(ギヤ対、一方のギヤ)、41B...3速入力ギヤ(ギヤ対、一方のギヤ)、41C...2速入力ギヤ(ギヤ対、一方のギヤ)、41D...1速入力ギヤ(ギヤ対、一方のギヤ)、46...カウンタ軸(被駆動軸)、46A...4速カウンタギヤ(ギヤ対、他方のギヤ)、46B...3速カウンタギヤ(ギヤ対、他方のギヤ)、46C...2速カウンタギヤ(ギヤ対、他方のギヤ)、46D...1速カウンタギヤ(ギヤ対、他方のギヤ、所定のギヤ)、52...オイルポンプ、53...オイルストレーナ、54...オイルパイプ、54a...オイル排出口、54b...オイル吐出孔、54f...前端部(オイルパイプの前端部)、61...パーキングロック機構、62...パーキングギヤ、63...パーキングポール、64...パーキングロッド、65...セレクトシャフト、69...オイル溜まり、O...オイル