IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スズキ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-燃料タンク 図1
  • 特許-燃料タンク 図2
  • 特許-燃料タンク 図3
  • 特許-燃料タンク 図4
  • 特許-燃料タンク 図5
  • 特許-燃料タンク 図6
  • 特許-燃料タンク 図7
  • 特許-燃料タンク 図8
  • 特許-燃料タンク 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-09
(45)【発行日】2024-09-18
(54)【発明の名称】燃料タンク
(51)【国際特許分類】
   B62J 35/00 20060101AFI20240910BHJP
【FI】
B62J35/00 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021000164
(22)【出願日】2021-01-04
(65)【公開番号】P2022105399
(43)【公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139365
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 武雄
(74)【代理人】
【識別番号】100150304
【弁理士】
【氏名又は名称】溝口 勉
(72)【発明者】
【氏名】徳永 勝彦
(72)【発明者】
【氏名】▲瀬▼崎 直幸
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 淑慧
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-043529(JP,A)
【文献】特開2015-071316(JP,A)
【文献】特開昭59-026380(JP,A)
【文献】特開平05-305889(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01466823(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料の貯留空間が形成されたタンクパネルと、前記タンクパネルに固定されたタンクインレットと、前記タンクインレットを開閉可能なタンクキャップと、を備えた燃料タンクであって、
前記タンクインレットは、前記タンクキャップが取り付けられる有底筒状のインレットプレートと、前記インレットプレートの底壁から前記貯留空間に突き出したインレットパイプと、前記貯留空間から流入した燃料を液体成分と気体成分に分離するセパレータと、を有し、
前記貯留空間で前記インレットプレートの底壁に前記セパレータが支持され、当該セパレータが前記タンクインレットの下面視にて前記インレットパイプの外側かつ前記インレットプレートの外縁よりも内側に配置され
前記セパレータの底壁には、気液分離室の液体燃料を前記貯留空間に戻す戻し穴が形成され、
前記セパレータの側壁には、当該セパレータの気液分離室と前記貯留空間を連ねる通気穴が形成されていることを特徴とする燃料タンク。
【請求項2】
前記セパレータが、車体を傾けて自立させるサイドスタンドとは、前記インレットパイプを挟んで逆側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の燃料タンク。
【請求項3】
前記通気穴が、前記インレットパイプの半径方向外側に向かって開口することを特徴とする請求項2に記載の燃料タンク。
【請求項4】
燃料の貯留空間が形成されたタンクパネルと、前記タンクパネルに固定されたタンクインレットと、前記タンクインレットを開閉可能なタンクキャップと、を備えた燃料タンクであって、
前記タンクインレットは、前記タンクキャップが取り付けられる有底筒状のインレットプレートと、前記インレットプレートの底壁から前記貯留空間に突き出したインレットパイプと、前記貯留空間から流入した燃料を液体成分と気体成分に分離するセパレータと、を有し、
前記貯留空間で前記インレットプレートの底壁に前記セパレータが支持され、当該セパレータが前記タンクインレットの下面視にて前記インレットパイプの外側かつ前記インレットプレートの外縁よりも内側に配置され
前記タンクキャップは、前記貯留空間から流入した燃料を液体成分と気体成分に気液分離するキャップ内セパレータを有し、
前記キャップ内セパレータの気液分離室が、前記インレットプレートの底壁に形成された連通穴を通じて前記セパレータの気液分離室に連なることを特徴とする燃料タンク。
【請求項5】
前記キャップ内セパレータには、燃料の気体成分を排出するブリーザパイプが連なっていることを特徴とする請求項4に記載の燃料タンク。
【請求項6】
前記ブリーザパイプは、前記セパレータとは離れた位置で前記インレットプレートの底面に接続されていることを特徴とする請求項5に記載の燃料タンク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンクに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料タンクのタンクキャップとして、メカニカルキーを用いてタンクキャップの解錠及び施錠するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のタンクキャップには、ロックカバーにロックバーが入り込んで施錠するロック機構が設けられている。ロック機構のキー穴にメカニカルキーが挿し込まれて、メカニカルキーを回すことでロックカバーからロックバーが抜けて解錠される。近年では、燃料タンクのタンクキャップにも高機能化の要望があり、無線通信を利用したスマートキーによってタンクキャップの解錠及び施錠を実施することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平9-024874号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メカニカルキー仕様のタンクキャップには、燃料タンクからの燃料を気液分離するセパレータが設けられている。同様に、スマートキー仕様のタンクキャップにもセパレータが設けられているが、このタンクキャップには電気部品が追加されているため、メカニカルキー仕様のタンクキャップよりもキャップサイズが大型化する。また、スマートキー仕様のタンクキャップでは、メカニカルキー仕様のタンクキャップを採用した燃料タンクの基本構造が流用できずに製造コストが増加する。このような問題はメカニカルキーとスマートキーの仕様の違い以外でも、キャップ構造の変更によっても生じる場合がある。
【0005】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、キャップサイズの大型化を抑えると共に、既存の基本構造を流用できる燃料タンクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様の燃料タンクは、燃料の貯留空間が形成されたタンクパネルと、前記タンクパネルに固定されたタンクインレットと、前記タンクインレットを開閉可能なタンクキャップと、を備えた燃料タンクであって、前記タンクインレットは、前記タンクキャップが取り付けられる有底筒状のインレットプレートと、前記インレットプレートの底壁から前記貯留空間に突き出したインレットパイプと、前記貯留空間から流入した燃料を液体成分と気体成分に分離するセパレータと、を有し、前記貯留空間で前記インレットプレートの底壁に前記セパレータが支持され、当該セパレータが前記タンクインレットの下面視にて前記インレットパイプの外側かつ前記インレットプレートの外縁よりも内側に配置され、前記セパレータの底壁には、気液分離室の液体燃料を前記貯留空間に戻す戻し穴が形成され、前記セパレータの側壁には、当該セパレータの気液分離室と前記貯留空間を連ねる通気穴が形成されていることで上記課題を解決する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様の燃料タンクによれば、タンクパネルの貯留空間でインレットプレートの底壁にセパレータが支持されており、セパレータがタンクキャップ外に設けられているため、タンクキャップのキャップサイズが大型化することがない。また、下面視にてインレットプレートの投影面の内側にセパレータが位置付けられ、インレットプレートからセパレータがはみ出さない。セパレータの有無によって燃料タンクの基本構造が変わらないため、既存の生産設備等を流用して製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施例の鞍乗型車両の左側面図である。
図2】本実施例の燃料タンクの斜視図である。
図3】本実施例のタンクインレットの斜視図である。
図4】本実施例のタンクキャップの斜視図である。
図5】本実施例のキャップ本体及びタンクインレットの平面図である。
図6】本実施例のセパレータの配置箇所を示す図である。
図7】比較例及びメカニカルキー仕様の燃料タンクの空間容量差を示す図である。
図8】本実施例及びメカニカルキー仕様の燃料タンクの空間容量差を示す図である。
図9】本実施例の駐車状態の燃料タンクの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一態様の燃料タンクは、燃料の貯留空間が形成されたタンクパネルを備えている。タンクパネルにはタンクインレットが固定されており、タンクインレットはタンクキャップによって開閉されている。タンクインレットの有底筒状のインレットプレートにはタンクキャップが取り付けられ、インレットプレートの底壁から貯留空間にインレットパイプが突き出している。タンクパネルの貯留空間でインレットプレートの底壁にはセパレータが支持されており、セパレータによって貯留空間からタンクキャップ側に流入した燃料が液体成分と気体成分に気液分離されている。セパレータがタンクキャップ外に設けられているため、セパレータによってタンクキャップのキャップサイズが大型化することがない。インレットプレートの下面視にてインレットパイプの外側かつインレットプレートの外縁よりも内側、すなわち下面視にてインレットプレートの投影面の内側にセパレータが配置されている。インレットプレートからセパレータがはみ出さず、セパレータの有無によって燃料タンクの基本構造が変わらないため、既存の生産設備等を流用して製造コストを低減することができる。
【実施例
【0010】
以下、添付図面を参照して、本実施例について詳細に説明する。図1は本実施例の鞍乗型車両の左側面図である。また、以下の図では、矢印FRは車両前方、矢印REは車両後方、矢印Lは車両左方、矢印Rは車両右方をそれぞれ示している。
【0011】
図1に示すように、鞍乗型車両1は、アルミ鋳造によって形成されるツインスパー型の車体フレーム10に、エンジン16や電装系等の各種部品を搭載して構成されている。車体フレーム10はヘッドパイプ11(図2参照)から左右に分岐して後方に延びる一対のメインフレーム12と、ヘッドパイプ11から左右に分岐して下方に延びる一対のダウンフレーム(不図示)とを有している。一対のメインフレーム12によってエンジン16の後部が支持され、一対のダウンフレームによってエンジン16の前部が支持されている。エンジン16が車体フレーム10に支持されることで車両全体の剛性が確保されている。
【0012】
メインフレーム12の前側部分はエンジン16の上方に位置するタンクレール13になっており、タンクレール13によって燃料タンク40が支持されている。メインフレーム12の後側部分はエンジン16の後方に位置するボディフレーム14になっており、ボディフレーム14の上下方向の略中間位置にスイングアーム18が揺動可能に支持されている。ボディフレーム14の上部からはシートレール(不図示)とバックステー15が後方に向かって延びている。シートレール上には、燃料タンク40の後方においてライダーシート21及びピリオンシート22が支持されている。
【0013】
ヘッドパイプ11には、ステアリングシャフト(不図示)を介して一対のフロントフォーク23が操舵可能に支持されている。フロントフォーク23の下部には前輪25が回転可能に支持されており、前輪25の上部はフロントフェンダ24に覆われている。スイングアーム18はボディフレーム14から後方に向かって延びている。スイングアーム18の後端には後輪27が回転可能に支持され、後輪27の上方はリアフェンダ26に覆われている。後輪27にはチェーンドライブ式の変速機構を介してエンジン16が連結されており、変速機構を介してエンジン16からの動力が後輪27に伝達されている。
【0014】
鞍乗型車両1の車体フレーム10には、車体外装として各種カバーが装着されている。例えば、車両前部はボディカウル31及びセンターボディカウル32に覆われている。車両側部は燃料タンク40の前方が一対のサイドカバー33によって覆われており、燃料タンク40の後方が一対のフレームカバー34によって覆われている。車両上部はタンクカバー35、ライダーシート21、ピリオンシート22によって覆われている。ライダーシート21及びピリオンシート22の下方は一対のリアカバー36に覆われている。また、鞍乗型車両1の左側面には、車体を傾けて自立させるサイドスタンド19が設けられている。
【0015】
このような鞍乗型車両1の燃料タンク40には、メカニカルキー仕様のタンクキャップの他、スマートキー仕様のタンクキャップを採用することが望まれている。メカニカルキー仕様のタンクキャップでは、タンクキャップのキー穴にメカニカルキーを差し込み、メカニカルキーの回転によってロックバーが動かされて、タンクキャップが機械的に施錠及び解錠される。一方、スマートキー仕様のタンクキャップでは、スマートキーとコントローラが通信して、コントローラによってアクチュエータを介してロックバーが動かされて、タンクキャップが電気的に施錠及び解錠される。
【0016】
メカニカルキー仕様のタンクキャップ及びスマートキー仕様のタンクキャップのいずれにも、タンク内からタンクキャップ側に流入した燃料を気液分離するセパレータが設けられている。スマートキー仕様のタンクキャップには、ソレノイド等の電気部品を内蔵する必要があり、スマートキー仕様のタンクキャップにメカニカルキー仕様のタンクキャップと同じ容積のセパレータを設けるとキャップサイズが大型化する。また、メカニカルキー仕様のタンクキャップ及びスマートキー仕様のタンクキャップの形状等の違いによって燃料タンクの基本構造が異なるという不具合がある。
【0017】
このため、同一機種に対してメカニカルキー仕様及びスマートキー仕様の燃料タンクを生産するためには、タンクパネルの型治具や生産設備を個別に用意しなければならず、燃料タンクの製造コストが増加する。そこで、本実施例の燃料タンク40では、タンクキャップ70内のセパレータを最小限にして、タンクインレット50に外付けのセパレータ61を取り付けてキャップサイズの大型化を抑えている(図3(B)参照)。また、セパレータ61の配置箇所を工夫して、メカニカルキー仕様及びスマートキー仕様のタンクキャップで燃料タンクの基本構造を共通化させている。
【0018】
以下、図2から図5を参照して、燃料タンクについて説明する。図2は本実施例の燃料タンクの斜視図である。図3は本実施例のタンクインレットの斜視図であり、(A)は上方から見たタンクインレット、(B)は下方から見たタンクインレットを示している。図4は本実施例のタンクキャップの斜視図であり、(A)は上方から見たタンクキャップ、(B)は下方から見たタンクキャップを示している。図5は本実施例のキャップ本体及びタンクインレットの平面図である。なお、図2は燃料タンクからタンクカバーが取り外され、図5はキャップ内セパレータからセパレータカバーが取り外されている。
【0019】
図2に示すように、燃料タンク40の前部がブラケット41を介してヘッドパイプ11付近に支持され、燃料タンク40の後部がブラケット42を介してボディフレーム14(図1参照)上部に支持されている。燃料タンク40は一対のメインフレーム12の上方に支持されており、燃料タンク40の前部は一対のメインフレーム12を左右側方から覆うように前面視略U字状に形成されている。燃料タンク40のタンクパネル43は、下面を開放したアウターパネル44の外縁と上面を開放したインナーパネル45の外縁を接合して形成されている。アウターパネル44とインナーパネル45の接合によって燃料の貯留空間S(図8参照)が形成されている。
【0020】
アウターパネル44の上部には円形開口が形成されており、円形開口には給油口が形成されたタンクインレット50が固定されている。タンクインレット50には、給油口を開閉するタンクキャップ70が装着されている。タンクキャップ70が開かれた状態で、タンクインレット50の給油口に給油ノズルが挿し込まれることで、タンクパネル43の貯留空間Sに給油ノズルから燃料が供給される。なお、図2ではタンクキャップ70の周囲でタンクインレット50が露出しているように見えるが、実際にはアウターパネル44上のタンクカバー35(図1参照)によってタンクキャップ70の周囲が覆われている。
【0021】
図3(A)、(B)に示すように、タンクインレット50は、タンクキャップ70(図4参照)が取り付けられる有底筒状のインレットプレート51を有している。インレットプレート51の周壁52は円形に形成されており、この周壁52がアウターパネル44の円形開口の内縁に接合されている。インレットプレート51の底壁53中央には給油口となるインレットパイプ54が取り付けられている。インレットパイプ54の上端はインレットプレート51の底壁53からタンクキャップ70側に僅かに突き出しており、インレットパイプ54の下端はインレットプレート51の底壁53から貯留空間Sに向けて大きく突き出している。
【0022】
インレットプレート51の底壁53のインレットパイプ54付近には、インレットプレート51内の気体成分を燃料タンク40外に導くブリーザパイプ55が接続されている。インレットプレート51の底壁53の周壁52付近が部分的に窪んでおり、窪み56の底面にはインレットプレート51内の液滴を排出するドレインパイプ57が接続されている。ドレインパイプ57の入口が窪み56の底面に露出しているため、インレットプレート51の底壁53上の液滴がドレインパイプ57に集まり易くなっている。また、インレットプレート51の底壁53からは、タンクキャップ70が固定される袋ナット58のネジ穴59が露出されている。
【0023】
インレットプレート51の底壁53の下面は貯留空間Sに露出しており、この底壁53の下面には貯留空間Sから流入した燃料を液体成分と気体成分に気液分離するセパレータ61が支持されている。セパレータ61は、上底を有する筒状ケース62に底板63を接合して形成されている。筒状ケース62と底板63の接合によって燃料を気液分離するための気液分離室64(図8参照)が形成されている。筒状ケース62の上壁がインレットプレート51の底壁53に接合されており、筒状ケース62の上壁及びインレットプレート51の底壁53の接合箇所を貫通する連通穴65が形成されている。
【0024】
セパレータ61の底壁(底板63)には、気液分離室64の液体燃料を貯留空間Sに戻す一対の戻し穴66が形成されている。セパレータ61(筒状ケース62)の側壁には、気液分離室64と貯留空間Sを連ねる通気穴67が形成されている。通気穴67は、セパレータ61の側壁においてインレットプレート51の底壁53に近づけられた位置に形成されている。詳細は後述するが、セパレータ61の気液分離室64とタンクパネル43の貯留空間Sが連なることで、貯留空間Sにおける温度上昇時の燃料の体積膨張分を溜めるための空間容量の減少が抑えられている。
【0025】
図4(A)、(B)に示すように、タンクキャップ70は、円形のキャッププレート72が開閉可能に取り付けられた環状のキャップ本体71を有している。キャップ本体71の表面には、4つのボルト73を介してキャッププレート72の周囲を覆う環状のキャップカバー74が取り付けられている。キャップカバー74の後部が部分的に切り欠かれて、キャップ本体71のヒンジ部75が露出されており、ヒンジ部75にはキャッププレート72が軸支されている。キャップカバー74の前部はキャップ本体71のロック部76(図5参照)を覆っており、ロック部76によってキャッププレート72が閉じた状態でロックされている。
【0026】
また、キャップ本体71には、キャッププレート72に対する施錠及び解錠を実施する電気部品として、例えばアクチュエータ77が取り付けられている。キャップ本体71の前部にアクチュエータ77が取り付けられ、スマートキーからの無線信号を受けることで、アクチュエータ77によってロック部76が駆動されてキャッププレート72に対する施錠及び解錠が切り替えられる。また、キャップ本体71の右部には、後述するキャップ内セパレータ87(図5参照)が形成されている。
【0027】
キャッププレート72の表面には摘み79が形成されており、キャッププレート72の裏面にはキャップシール81がネジ止めされている。キャッププレート72の表面の摘み79が引き上げられることで、ヒンジ部75を支点にしてキャッププレート72が開閉される。キャッププレート72が閉じられると、キャップシール81によってインレットパイプ54(図3(A)参照)の上端が封止される。キャップ本体71の裏面には、ブリーザパイプ55の入口に向かう排出穴82とセパレータ61に向かう流入穴83が形成され、排出穴82及び流入穴83の周囲にOリング84、85が装着されている。
【0028】
図5に示すように、インレットプレート51の内側にキャップ本体71が位置合わせされ、キャップ本体71を貫通した3つのボルト86がインレットプレート51の袋ナット58(図3(B)参照)に固定されている。キャップ本体71の右部には、貯留空間Sから流入した燃料を液体成分と気体成分に気液分離する気液分離室89を内側に有する、キャップ内セパレータ87が形成されている。
【0029】
キャップ内セパレータ87には流入穴83が形成されており、流入穴83がインレットプレート51及びセパレータ61の連通穴65(図3(A)参照)に連なっている。流入穴83及び連通穴65を通じてキャップ内セパレータ87の気液分離室89がセパレータ61の気液分離室64(図8参照)に連なっている。キャップ内セパレータ87とタンクインレット50のセパレータ61によってタンクキャップ70の全体の気液分離室の容量が十分に確保される。インレットプレート51の底壁53を挟んでキャップ内セパレータ87の裏側にセパレータ61が配置され、キャップ内セパレータ87とセパレータ61がコンパクトに配置されている。
【0030】
キャップ内セパレータ87のヒンジ部75付近には排出穴82が形成されており、排出穴82がブリーザパイプ55の入口(図3(A)参照)に連なっている。気液分離室89内の燃料の気体成分が排出穴82からブリーザパイプ55に入り込んで、ブリーザパイプ55を通じて気体成分が燃料タンク40外に排出される。貯留空間S内のセパレータ61ではなく、よりタンク上方に位置するキャップ内セパレータ87にブリーザパイプ55が接続されることで、セパレータ61の形状の自由度が上がり、全体の気液分離室の容量を確保することができる。
【0031】
また、タンクキャップ70は燃料タンク40(図2参照)の車幅方向中央に位置しており、キャッププレート72(図4(A)参照)の開閉軸L1に垂直なプレート中心線L2が車両前後方向に延びる車体中心線に一致している。
【0032】
図6を参照して、セパレータの配置箇所について説明する。図6は本実施例のセパレータの配置箇所を示す図であり、(A)はタンクインレットの下面図を示し、(B)はタンクインレットの側面図を示している。
【0033】
図6(A)、(B)に示すように、インレットプレート51の下面視にて、インレットパイプ54の外側かつインレットプレート51の外縁よりも内側にセパレータ61が配置されている。下面視にてセパレータ61が楕円状に形成されており、インレットプレート51の内縁から外縁までの幅よりもセパレータ61の短軸長さが小さく、インレットパイプ54の直径とセパレータ61の長軸長さが略一致している。このため、下面視にてインレットプレート51の投影面の内側にセパレータ61が収まり、側面視にてインレットパイプ54の投影面にセパレータ61が略重なっている。
【0034】
下面視にてインレットプレート51からセパレータ61がはみ出さず、側面視にてインレットパイプ54からセパレータ61が殆どはみ出さないため、セパレータ61の有無によってタンクインレット50の形状やサイズ等が大きく変更されることがない。本実施例のようなスマートキー仕様のタンクキャップ70と、セパレータ61を有さないメカニカルキー仕様のタンクキャップとで燃料タンク40の基本構造を共通化できる。よって、スマートキー仕様とメカニカルキー仕様でタンクパネル43を形成するための型治具や生産設備を共用して製造コストが低減される。
【0035】
また、インレットプレート51にセパレータ61が支持され、セパレータ61がタンクキャップ70外に設けられているため、タンクキャップ70のキャップサイズが大型化することもない。インレットプレート51の底壁53には、セパレータ61の後方にブリーザパイプ55が接続されており、セパレータ61に対してインレットパイプ54を挟んだ対象位置(反対側)にドレインパイプ57が接続されている。ドレインパイプ57がセパレータ61から十分に離間しているため、ドレインパイプ57の接続箇所にインレットプレート51の底壁53を貯留空間S側に膨出させた窪み56を形成することができる。
【0036】
図7から図9を参照して、燃料タンクの空間容量について説明する。図7は比較例及びメカニカルキー仕様の燃料タンクの空間容量差を示す図である。図8は本実施例及びメカニカルキー仕様の燃料タンクの空間容量差を示す図である。図9は本実施例の駐車状態の燃料タンクの一例を示す図である。なお、図7及び図8において、図示左側がスマートキー仕様の燃料タンク、図示右側がメカニカルキー仕様の燃料タンクを示している。図7の比較例の燃料タンクは、通気穴の形成箇所以外については本実施例の燃料タンクと同様である。
【0037】
図7に示すように、スマートキー仕様(比較例)及びメカニカルキー仕様の燃料タンク90、95のインレットプレート91、96はタンクパネル92、97から貯留空間S内に入り込んでいる。インレットプレート91、96にはロウ付け等によってインレットパイプ93、98が接合されており、インレットパイプ93、98の周壁にはこの接合範囲よりも下方に通気穴94、99が形成されている。メカニカルキー仕様よりもスマートキー仕様のタンクキャップの部品点数が多い。このため、メカニカルキー仕様のインレットプレート96の底面よりもスマートキー仕様のインレットプレート91の底面が低くなって通気穴99よりも通気穴94の形成位置が低くなる。
【0038】
スマートキー仕様及びメカニカルキー仕様の燃料タンク90、95のいずれの貯留空間Sにも、温度上昇による燃料の体積膨張分を溜めるための空間容量Cが必要になる。空間容量Cは燃料満杯時の液面100から通気穴94、99までの容積である。燃料タンク95の通気穴99よりも、燃料タンク90の通気穴94が低いため、燃料タンク95よりも燃料タンク90の空間容量Cの上限高さが低くなっている。よって、燃料タンク90が燃料タンク95と同様な空間容量Cを得るためには、燃料タンク95よりも燃料満杯時の液面100を下げなければならならず、燃料タンク90の燃料の収容量が減少する。
【0039】
図8に示すように、本実施例の燃料タンク40は、セパレータ61に通気穴67が形成されている。セパレータ61にはインレットパイプ54のような給油ノズルの挿抜に対する強度が不要なため、ロウ付け等を行うことなくインレットプレート51にセパレータ61を固定することができる。このため、セパレータ61にはインレットプレート51の底壁53に近づけた位置に通気穴67を形成することができる。よって、スマートキー仕様及びメカニカルキー仕様の燃料タンク40、95の通気穴67、99の高さを揃えることで、燃料タンク40の燃料の収容量を減少させることなく、燃料タンク95と同様な空間容量Cを得ることができる。
【0040】
図9に示すように、鞍乗型車両1(図1参照)の駐車時には、燃料タンク40が左右一方(本実施例では左側)に傾けられて、燃料タンク40の左側よりも右側の空間が広くなる。セパレータ61が、インレットパイプ54を挟んでサイドスタンド19(図1参照)とは逆側(本実施例では右側)に配置されている。さらに、セパレータ61の通気穴67がインレットパイプ54の半径方向外側に向かって開口しており、サイドスタンド19から通気穴67が大きく離れている。車体の傾によって燃料の液面100から通気穴67が上方に離れることで、空間容量Cが確保されて燃料の収容量を増やすことができる。
【0041】
以上、本実施例によれば、インレットプレート51の底壁53にセパレータ61が支持されており、セパレータ61がタンクキャップ70外に設けられているため、タンクキャップ70のキャップサイズが大型化することがない。また、下面視にてインレットプレート51の投影面の内側にセパレータ61が位置付けられ、インレットプレート51からセパレータ61がはみ出さない。よって、セパレータ61の有無によって燃料タンク40の基本構造が変わらないため、既存の生産設備等を流用して製造コストを低減することができる。
【0042】
なお、本実施例の燃料タンクは、バギータイプの自動三輪車等の他の鞍乗型車両にも適宜適用することができる。ここで、鞍乗型車両とは、ライダーがシートに跨った姿勢で乗車する車両全般に限定されず、ライダーがシートに跨らずに乗車するスクータタイプの車両も含んでいる。
【0043】
また、本実施例では、スマートキー仕様の燃料タンクのタンクインレットにセパレータを追加した一例について説明したが、メカニカルキー仕様の燃料タンクのタンクインレットにセパレータが追加されてもよい。例えば、メカニカルキー仕様のタンクキャップに新たな部品を搭載しなければならない場合であっても、タンクインレットにセパレータを追加することによってキャップサイズの大型化を抑えることができる。
【0044】
また、本実施例では、タンクキャップにキャップ内セパレータが設けられ、タンクインレットにセパレータが設けられたが、少なくともタンクインレットにセパレータが設けられていればよい。
【0045】
また、本実施例では、セパレータに通気穴が形成されたが、インレットパイプに通気穴が形成されていてもよい。
【0046】
また、本実施例では、セパレータがインレットパイプを挟んでサイドスタンドとは逆側に設けられたが、セパレータとサイドスタンドの位置関係は特に限定されない。
【0047】
また、本実施例では、セパレータが上底を有する筒状ケースに底板を接合して形成されているが、セパレータの形状及び構造は特に限定されない。筒状ケースの上壁が開放されて、筒状ケースの側壁がインレットプレートの底壁に固定されていてもよい。筒状ケースと底板が一体に形成されていてもよい。
【0048】
また、本実施例では、ブリーザパイプ及びドレインパイプがタンクパネル内を通っているが、ブリーザパイプ及びドレインパイプがタンクパネル外を通っていてもよい。
【0049】
以上の通り、本実施例の燃料タンク(40)は、燃料の貯留空間(S)が形成されたタンクパネル(43)と、タンクパネルに固定されたタンクインレット(50)と、タンクインレットを開閉可能なタンクキャップ(70)と、を備えた燃料タンクであって、タンクインレットは、タンクキャップが取り付けられる有底筒状のインレットプレート(51)と、インレットプレートの底壁(53)から貯留空間に突き出したインレットパイプ(54)と、貯留空間から流入した燃料を液体成分と気体成分に分離するセパレータ(61)と、を有し、貯留空間でインレットプレートの底壁にセパレータが支持され、当該セパレータがタンクインレットの下面視にてインレットパイプの外側かつインレットプレートの外縁よりも内側に配置されている。この構成によれば、タンクパネルの貯留空間でインレットプレートの底壁にセパレータが支持されており、セパレータがタンクキャップ外に設けられているため、タンクキャップのキャップサイズが大型化することがない。また、下面視にてインレットプレートの投影面の内側にセパレータが位置付けられ、インレットプレートからセパレータがはみ出さない。よって、セパレータの有無によって燃料タンクの基本構造が変わらないため、既存の生産設備等を流用して製造コストを低減することができる。
【0050】
本実施例の燃料タンクにおいて、セパレータには、当該セパレータの気液分離室(64)と貯留空間を連ねる通気穴(67)が形成されている。この構成によれば、外力が作用し難いセパレータに通気穴を形成することで、インレットプレートの底壁に通気穴を近づけることができる。空間容量の上限高さを高くすることで、燃料の収容量を増加させることができる。
【0051】
本実施例の燃料タンクにおいて、セパレータが、車体を傾けて自立させるサイドスタンド(19)とは、インレットパイプを挟んで逆側に配置されている。この構成によれば、車体の傾きによって燃料の液面からセパレータの通気穴が上方に離れることで、空間容量が確保されて燃料の収容量を増やすことができる。
【0052】
本実施例の燃料タンクにおいて、通気穴が、インレットパイプの半径方向外側に向かって開口する。この構成によれば、車体の傾きによって燃料の液面からセパレータの通気穴をさらに上方に離すことができる。
【0053】
本実施例の燃料タンクにおいて、タンクキャップは、貯留空間から流入した燃料を液体成分と気体成分に気液分離するキャップ内セパレータ(87)を有し、キャップ内セパレータの気液分離室(89)が、インレットプレートの底壁に形成された連通穴(65)を通じてセパレータの気液分離室に連なる。この構成によれば、セパレータとキャップ内セパレータによって気液分離室の容量を十分に確保しつつ、セパレータとキャップ内セパレータをコンパクトに配置することができる。
【0054】
本実施例の燃料タンクにおいて、キャップ内セパレータには、燃料の気体成分を排出するブリーザパイプ(55)が連なっている。この構成によれば、貯留空間のセパレータに対する通気穴の形成箇所が、ブリーザパイプによって制約されることがない。
【0055】
なお、本実施例を説明したが、他の実施例として、上記実施例及び変形例を全体的又は部分的に組み合わせたものでもよい。
【0056】
また、本発明の技術は上記の実施例に限定されるものではなく、技術的思想の趣旨を逸脱しない範囲において様々に変更、置換、変形されてもよい。さらには、技術の進歩又は派生する別技術によって、技術的思想を別の仕方で実現することができれば、その方法を用いて実施されてもよい。したがって、特許請求の範囲は、技術的思想の範囲内に含まれ得る全ての実施態様をカバーしている。
【符号の説明】
【0057】
19:サイドスタンド
40:燃料タンク
43:タンクパネル
50:タンクインレット
51:インレットプレート
53:インレットプレートの底壁
54:インレットパイプ
55:ブリーザパイプ
61:セパレータ
64:セパレータの気液分離室
65:連通穴
67:通気穴
70:タンクキャップ
71:キャップ本体
72:キャッププレート
87:キャップ内セパレータ
89:キャップ内セパレータの気液分離室
L1:開閉軸
L2:プレート中心線
S :貯留空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9